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2023-85157ベンゾホスホール誘導体、有機EL用発光材料および有機EL素子
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  • -ベンゾホスホール誘導体、有機EL用発光材料および有機EL素子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085157
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】ベンゾホスホール誘導体、有機EL用発光材料および有機EL素子
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/6568 20060101AFI20230613BHJP
   H10K 50/00 20230101ALI20230613BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
C07F9/6568 CSP
H05B33/14 B
C09K11/06 660
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021203971
(22)【出願日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2021199049
(32)【優先日】2021-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2021年光化学討論会、講演予稿集(poster0914.pdf)、ウェブサイト掲載日2021年9月12日、発行者 光化学協会 2021年光化学討論会、オンライン開催、開催日2021年9月14日 2021年光化学討論会、講演予稿集(poster0915.pdf)、ウェブサイト掲載日2021年9月12日、発行者 光化学協会 2021年光化学討論会、オンライン開催、開催日2021年9月15日 日本化学会年会第101春季年会、講演予稿集、ウェブサイト掲載日2021年3月4日、発行者 公益社団法人日本化学会 日本化学会年会第101春季年会、オンライン開催、開催日2021年3月19日 第48回有機典型元素化学討論会、講演予稿集、ウェブサイト掲載日2021年11月24日、発行者 公益社団法人日本化学会、公益社団法人日本薬学会 第48回有機典型元素化学討論会、オンライン開催、開催日2021年12月1日
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(71)【出願人】
【識別番号】518053747
【氏名又は名称】株式会社フラスク
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】俣野 善博
(72)【発明者】
【氏名】村山 仁愛
(72)【発明者】
【氏名】工藤 裕太
(72)【発明者】
【氏名】中込 寛章
(72)【発明者】
【氏名】川村 久幸
【テーマコード(参考)】
3K107
4H050
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC07
3K107CC22
3K107CC24
3K107DD53
3K107DD59
3K107DD69
3K107FF14
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB92
(57)【要約】      (修正有)
【課題】新規化合物であるベンゾホスホール誘導体及びこれを含有する発光材料及び有機EL素子の提供。
【解決手段】式(1)で示されるベンゾホスホール誘導体。

(式中、R~Rは各々独立に水素、重水素、ハロゲン、シアノ基、(無)置換の核炭素数6~30のアリール基、(無)置換の核炭素数2~30のヘテロアリール基、(無)置換のアミノ基又は(無)置換のシリル基であり、RとR、RとR、又はRとRは連結して(不)飽和の5~7員環を形成してもよい。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるベンゾホスホール誘導体。
【化1】
(一般式(1)中、R1~R7は、それぞれ独立に、水素、重水素、ハロゲン、シアノ基、置換もしくは無置換の核炭素数6~30のアリール基、置換もしくは無置換の核炭素数2~30のヘテロアリール基、置換もしくは無置換のアミノ基、または、置換もしくは無置換のシリル基であり、
4とR5、R5とR6、または、R6とR7は連結して飽和または不飽和の5~7員環を形成してもよく、
1~R7は(i)~(iii)のいずれかを満たす。
(i)R2とR3のいずれか一方又は両方が、置換または無置換の核炭素数6~30のアリール基であり、かつ、前記核炭素数6~30のアリール基を構成するベンゼン環の数が4以上である。
(ii)R2とR3のいずれか一方又は両方が、置換または無置換の核炭素数6~30のアリール基であり、かつ、R4とR5、R5とR6、および、R6とR7のいずれか1つが連結してベンゼン環を形成する。
(iii)R2とR3のいずれか一方又は両方が、置換または無置換の核炭素数2~30のヘテロアリール基である。)
【請求項2】
請求項1に記載のベンゾホスホール誘導体からなる有機EL用発光材料。
【請求項3】
一対の電極と、該一対の電極間に挟持された少なくとも一層の有機発光層とを含み、
前記有機発光層が請求項1に記載のベンゾホスホール誘導体を含有することを特徴とする有機EL素子。
【請求項4】
前記有機発光層が、請求項1に記載のベンゾホスホール誘導体を0.1~10wt%含有することを特徴とする請求項3に記載の有機EL素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンゾホスホール誘導体からなる発光材料および該発光材料からなる発光層を有する有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子では、一対の電極間に電圧を印加することにより、陽極から正孔が、陰極から電子が、発光材料として有機化合物を含む発光層にそれぞれ注入され、注入された正孔および電子が再結合することによって、発光性の有機化合物中に励起子が形成され、励起された有機化合物から発光(蛍光・りん光)を得ることができる。つまり、自己発光性素子であるため、有機EL素子は、液晶素子に比べて明るく視認性に優れ、鮮明な表示が可能である。そのため、有機EL素子は、自己発光性素子としての利点を活かし、高発光効率、高画質、低消費電力、長寿命さらには薄型のデザイン性に優れた発光素子として期待されている。
【0003】
有機EL素子の性能向上を果たすべく、有機発光層を、ホストにドーパントとして発光材料をドープしたホスト/ドーパントからなる発光層にすることが行われている。このような有機発光層を用いて、例えば、正孔輸送層、発光層および電子輸送層からなる三層構造において、ホストのHOMO準位を正孔輸送層材料のHOMO準位に一致させ、正孔輸送層-LUMOを十分高くして、正孔が発光層に確実に移動できるようにするとともに、ホストと電子輸送層との界面でもLUMO準位を一致させ、電子輸送層-HOMOが十分に深くなるようにして電荷を閉じ込め、さらに、正孔輸送材料および電子輸送材料の三重項励起子のエネルギー準位を発光材料の三重項準位より十分に高くすることで、発光励起子の消光を防ぐことができる。
【0004】
有機発光層では、ホストに注入された電荷から効率よく励起子が生成され、該励起子のエネルギーをドーパントに移動させて、ドーパントから高効率の発光を得ている。
【0005】
素子性能の向上のため、新規発光材料の開発が期待されている。特に、青色発光を利用するにあたっては、青色発光ドーパント自身が高い三重項励起子状態(T1)のエネルギーを持つために、ホストなどの周辺材料もドーパントよりも十分に高いT1エネルギーを持っている必要がある。このため、有機EL素子に適用可能な、ホストと組み合わせて使用できる発光ドーパントの探索が行われている。
【0006】
ところで、活性層と陰極との間に特定のベンゾホスホール化合物からなるバッファ層を設けた、有機太陽電池などの光電変換素子が知られている。このベンゾホスホール化合物からなる陰極バッファ層は、熱的安定性および電気化学的安定性に優れており、活性層で生成した光キャリアである電子を再結合により失活させることなく陰極に輸送し、また、活性層内で生成したエキシトンを閉じ込める機能も想定されることが報告されている(特許文献1および2)。また、カルバゾリル基やアクリジニル基のような環状アミノ基で置換されたベンゾホスホール誘導体を熱活性遅延蛍光材料として有機EL素子に用いた例も知られている。(特許文献3)
【0007】
しかしながら、これらのベンゾホスホール化合物を用いた発光材料は、発光効率や輝度などの素子性能の向上に向けて、さらに改良を加える必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010-129919号公報
【特許文献2】特開2009-280512号公報
【特許文献3】中国特許出願公開第109836460号明細書(A)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、新規なベンゾホスホール誘導体と、それを有機発光層に用いた有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のベンゾホスホール誘導体は、下記一般式(1)で示されることを特徴とする。
【化1】
【0011】
一般式(1)中、R1~R7は、それぞれ独立に、水素、重水素、ハロゲン、シアノ基、置換もしくは無置換の核炭素数6~30のアリール基、置換もしくは無置換の核炭素数2~30のヘテロアリール基、置換もしくは無置換のアミノ基、または、置換もしくは無置換のシリル基であり、R4とR5、R5とR6、または、R6とR7は連結して飽和または不飽和の5~7員環を形成してもよく、R1~R7は(i)~(iii)のいずれかを満たす。
【0012】
(i)R2とR3のいずれか一方又は両方が、置換または無置換の核炭素数6~30のアリール基であり、かつ、前記核炭素数6~30のアリール基を構成するベンゼン環の数が4以上である。
(ii)R2とR3のいずれか一方又は両方が、置換または無置換の核炭素数6~30のアリール基であり、かつ、R4とR5、R5とR6、および、R6とR7のいずれか1つが連結してベンゼン環を形成する。
(iii)R2とR3のいずれか一方又は両方が、置換または無置換の核炭素数2~30のヘテロアリール基である。
【0013】
本発明の有機EL用発光材料は、前記ベンゾホスホール誘導体からなることを特徴とする。
【0014】
本発明の有機EL素子は、一対の電極と、該一対の電極間に挟持された少なくとも一層の有機発光層とを含み、前記有機発光層が前記ベンゾホスホール誘導体を含有することを特徴とする。
前記有機発光層は、前記ベンゾホスホール誘導体を0.1~10wt%含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のベンゾホスホール誘導体は、熱的および電気化学的に安定である。また、フルカラーTVに必要とされる純青色の発光を発現するため、有機EL素子(OLED)用の発光材料に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の有機EL素子の実施例の形態を表す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のベンゾホスホール誘導体およびそれを用いた有機EL素子について詳細に説明する。
[ベンゾホスホール誘導体]
本発明のベンゾホスホール誘導体は、下記一般式(1)で示される。
ベンゾホスホール誘導体は、リンを含む5員環を構成する有機化合物であり、より具体的には、リンを含む5員環共役ジエンであるホスホール環をP-オキシド化した有機化合物である。
【0018】
【化2】
【0019】
一般式(1)中、R1~R7は、それぞれ独立に、水素、重水素、ハロゲン、シアノ基、置換もしくは無置換の核炭素数6~30のアリール基、置換もしくは無置換の核炭素数2~30のヘテロアリール基、置換もしくは無置換のアミノ基、または、置換もしくは無置換のシリル基であり、R4とR5、R5とR6、または、R6とR7は連結して飽和もしくは不飽和の5~7員環を形成してもよい。
【0020】
ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられる。これらのうち、フッ素が好ましい。
【0021】
核炭素数6~30のアリール基としては、フェニル基、重水素化フェニル基、ビフェニル基、フルオレニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナンスレニル基、アセナフチル基、ピレニル基、クリセニル基、トリフェニレニル基、ペリレニル基、スチリル基およびアズレニル基等が挙げられる。これらのうち、フェニル基、重水素化フェニル基、ビフェニル基、フルオレニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ピレニル基およびトリフェニレニルが好ましい。
【0022】
核炭素数2~30のヘテロアリール基としては、ピリジル基、ピリミジニル基、トリアジニル基、キノリル基、キノキサリニル基、ピロリル基、インドリル基、9H-カルバゾール-3-イル基、アクリジニル基、9,10-ジヒドロ-9,9-ジメチルアクリジン-3-イル基、フェノキサジニル基、フェノチアジニル基、フェナチル基、フェナザシリニル基、フェナザボリニル基、フリル基、ベンゾフリル基、ジベンゾフリル基、ナフトベンゾフリル基、チオフェニル基、ベンゾチオフェニル基、ジベンゾチオフェニル基、シローリル基、ベンゾシローリル基、ジベンゾシローリル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基、イミダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ジオキシニル基、ベンゾチオキシニル基、ジベンゾチオキシニル基、ベンゾジチアニル基およびチアンスレニル基等が挙げられる。これらのうち、ピロリル基、インドリル基、9H-カルバゾール-3-イル基、アクリジニル基、9,10-ジヒドロ-9,9-ジメチルアクリジン-3-イル基、フリル基、ベンゾフリル基、ジベンゾフリル基、ナフトベンゾフリル基、チオフェニル基、ベンゾチオフェニル基およびジベンゾチオフェニル基が好ましい。
なお、核炭素数2~30のヘテロアリール基は、ヘテロアリール環がR1~R7に直接結合している基を表すものとする。R1~R7にヘテロアリール環が直接結合せず、ヘテロアリール環を一部に有するアリール基やアルキル基などがR1~R7に結合する形態は含まないものとする。
【0023】
アミノ基としては、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、プロピルアミノ基、ジプロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、t-ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基、ヘキシルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、ヘプチルアミノ基、オクチルアミノ基、2-エチルヘキシルアミノ基、ノニルアミノ基、デシルアミノ基、3,7-ジメチルオクチルアミノ基、ラウリルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、ジシクロペンチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、ジシクロヘキシルアミノ基、ピロリジル基、ピペリジル基、ジトリフルオロメチルアミノ基、フェニル-C1~C12アルキルアミノ基、C1~C12アルコキシフェニル-C1~C12アルキルアミノ基、C1~C12アルキルフェニル-C1~C12アルキルアミノ基、ジ(C1~C12アルコキシフェニル-C1~C12アルキル)アミノ基、ジ(C1~C12アルキルフェニル-C1~C12アルキル)アミノ基、1-ナフチル-C1~C12アルキルアミノ基および2-ナフチル-C1~C12アルキルアミノ基等が挙げられる。
【0024】
シリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリ(n-プロピル)シリル基、トリイソプロピルシリル基、t-ブチルシリルジメチルシリル基、トリフェニルシリル基、トリ(p-キシリル)シリル基、トリベンジルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基およびジメチルフェニルシリル基等が挙げられる。
【0025】
さらに、R1~R7は(i)~(iii)のいずれかを満たす。
(i)R2とR3のいずれか一方又は両方が、置換または無置換の核炭素数6~30のアリール基であり、かつ、前記核炭素数6~30のアリール基を構成するベンゼン環の数が4以上である。
(ii)R2とR3のいずれか一方又は両方が、置換または無置換の核炭素数6~30のアリール基であり、かつ、R4とR5、R5とR6、および、R6とR7のいずれか1つが連結してベンゼン環を形成する。
(iii)R2とR3のいずれか一方又は両方が、置換または無置換の核炭素数2~30のヘテロアリール基である。
【0026】
一般式(1)の具体例としては、以下の化合物BP1~BP10が挙げられる。ただし、一般式(1)で示される化合物であれば、これらの化合物に限定されるものではない。
【化3】
【0027】
本発明のベンゾホスホール誘導体は、種々の公知の方法で合成することができる。一例として、BP1の合成方法を示す。
【化4】
化合物1および10-フェニルアントラセン-9-ボロン酸を、テトラヒドロフラン(THF)、トルエンおよび水の混合溶媒中、触媒としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(Pd(PPh34)、塩基として炭酸カリウム(K2CO3)を用いて、鈴木-宮浦クロスカップリング反応を行うことにより、良好な収率でBP1が得られる。
【0028】
本発明のベンゾホスホール誘導体は、前記した構造、とりわけ前記(i)~(iii)を満たすことにより、熱的安定性および化学的安定性に優れる。また、フルカラーTVに必要とされる純青色の発光を発現する。よって、前記ベンゾホスホール誘導体は、有機EL素子用の発光材料に好適である。
【0029】
[有機EL素子]
本発明の有機EL素子(OLED)は、陽極2および陰極8からなる一対の電極と、該一対の電極間に有機発光層5を含む少なくとも一層の有機層とを有し、前記有機発光層5が一般式(1)で示されるベンゾホスホール誘導体とを含有する。
【0030】
前記有機EL素子は、典型的には、基板1の上に、酸化インジウムスズ(ITO)等を陽極2として成膜し、正孔注入層3、正孔輸送層4、電子障壁層、有機発光層5、正孔障壁層6、電子輸送層7、電子注入層および陰極8がこの順に積層した構造を有する。前記多層構造において、いくつかの層を省略してもよいし、例えば、電子注入層を電子輸送層7の機能も併せ持つ電子注入・輸送層としてもよい。図1は、本発明の実施例の形態であり、ITO透明電極2上に、正孔注入層3として、ヘキサアザトリフェニレンカルボニトリル(HAT-CN)を5nm、正孔輸送層4として、4,4’-ビス[フェニル(1-ナフチル)アミノ]ビフェニル(NPB)を60nm、有機発光層5として9-(ジベンゾフラン-2-イル)-10-フェニルアントラセン(BH1)と本発明のベンゾホスホール誘導体(3wt%)とを30nm、正孔障壁層6としてFLE602を10nm、電子輸送層7として、2,9-ジ(2-ナフチル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(ET1)を20nm、陰極8としてアルミニウムを100nm積層した有機EL素子を表している。
【0031】
基板1には、透明かつ平滑であって、少なくとも70%以上の全光線透過率を有するものが用いられ、具体的には、フレキシブルな透明基板である、数μm厚のガラス基板や特殊な透明プラスチック等が用いられる。
【0032】
陽極2は、正孔を、正孔注入層3、正孔輸送層4、および有機発光層5に注入する機能を有する電極である。陽極2の材料には、一般的に、仕事関数が4.5eV以上の金属酸化物、金属、合金および導電性材料等が用いられるが、発光した光を透過させる観点から、全光線透過率は通常80%以上であるものが好ましい。具体的には、ITOやZnO(酸化亜鉛)等の透明導電性セラミックスや、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4-スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)、ポリアニリンおよびその他の透明導電性材料が用いられる。陽極2の膜厚は、通常5~500nm、好ましくは10~200nmである。
陽極2は、蒸着法、電子線ビーム法、スパッタリング法、化学反応法、および塗布法等により形成される。
【0033】
陰極8は、電子を、電子輸送層6および有機発光層5に注入する機能を有する電極である。陰極8の材料としては、一般的に、仕事関数がおおよそ4eV以下の金属や合金が適している。陰極8に使用される金属には、例えば、アルミニウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウムおよびマグネシウム等が用いられる。合金を使用した陰極としては、これらの低仕事関数の金属とアルミニウムもしくは銀等の金属との合金からなる電極、または、これら低仕事関数の金属とアルミニウムもしくは銀等の金属とを積層した構造の電極等が挙げられる。陰極8の膜厚は、通常10~200nmである。
陰極8は、蒸着法、電子線ビーム法、スパッタリング法、化学反応法、および塗布法等により形成される。
【0034】
正孔注入層3は発光効率の向上のために導入される層である。正孔注入層3は低電圧で電流を流すため、膜厚を1~20nm、すなわち、ピンホール等が発生しない程度に薄く、かつ、均一にすることが好ましい。このような正孔注入材料には、例えば、トリフェニルアミン含有ポリマー:(4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(KLHIP:PPBI)、トリフェニルアミン含有ポリエーテルケトン(TPAPEK)、ヘキサアザトリフェニレンカルボニトリル(HAT-CN)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT:PSS)、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、ポリ(エーテルケトン)(PEK)、およびポリアニリン等が挙げられる。
【0035】
電子障壁層は、正孔輸送層4と有機発光層5の間に設けられ、電子が正孔輸送層4に向かって有機発光層5を通過することを阻止する役割を有する。電子障壁層および後述する正孔障壁層6は、それぞれ励起子阻止層としての機能も兼ね備える。
【0036】
正孔輸送層4は、陽極2と有機発光層5との間に設けられ、陽極2から正孔を効率良く有機発光層5に輸送するための層である。正孔輸送材料には、イオン化ポテンシャルが小さいもの、すなわち、HOMOから電子が励起されやすく、正孔が生成されやすいものが用いられる。具体的には、4,4’-ビス[フェニル(1-ナフチル)アミノ]ビフェニル(NPB)、ヘキサフェニルベンゼン誘導体(4DBTHPB)、ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン-アルト-N-(4-ブチルフェニル)ジフェニルアミン)(TFB)、4,4’-シクロヘキシリデンビス[N,N-ビス(4-メチルフェニル)ベンゼンアミン](TAPC)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(m-トリル)ベンジジン(TPD)、4,4’,4’’-トリ-9-カルバゾリルトリフェニルアミン(TCTA)および4,4’,4’’-トリス[フェニル(m-トリル)アミノ]トリフェニルアミン)等が挙げられる。
【0037】
有機発光層5は、ドーパントとホストとを含み、ホストとしては一般にアントラセン誘導体を用いる。それ以外に併せて用いることができるホスト材料としては、正孔輸送層4や電子輸送層7からの電荷注入障壁を最小限にし、電荷を有機発光層5に閉じ込め、かつ、発光励起子の消光を防ぐものであれば、特に制限はなく、例えば、9-(ジベンゾフラン-2-イル)-10-フェニルアントラセン(BH1)、トリアジン-ジベンゾフラン誘導体(FLE602)、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、9,9’-ジフェニル-9H,9’H-3,3’-ジカルバゾール(BCzPh)、ビス[2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテルオキシド(DPEPO)、3,6-ビス(ジフェニルホルホリル)-9-フェニルカルバゾール(PO9)、4,4’-ビス(N-カルバゾリル)-1,1’-ビフェニル(CBP)、3,3’-ビス(N-カルバゾリル)-1,1’-ビフェニル(mCBP)、トリス(4-カルバゾイル-9-イルフェニル)アミン(TCTA)、2,8-ビス(ジフェニルホスホリル)ジベンゾチオフェン(PPT)、アダマンタン・アントラセン(Ad-Ant)、ルブレン、および2,2’-ビ(9,10-ジフェニルアントラセン)(TPBA)、および1,4-ジ(1,10-フェナントロリン-2-イル)ベンゼン(DPB)等が挙げられる。
【0038】
ドーパントには、一般式(1)で表されるベンゾホスホール誘導体を用いるが、それ以外に併せて用いることができるドーパントして、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレンおよびフェノキサゾン等が挙げられる。 ドーパントの添加量は、ホストおよびドーパントの合計に対して、0.1~10wt%が好ましく、0.5~5wt%がより好ましい。
【0039】
正孔障壁層6は、有機発光層5と電子輸送層7の間に設けられ、電子を輸送しつつ、正孔が電子輸送層7に到達することを阻止することで、有機発光層5中で電子および正孔が再結合する確率を向上させる役割を有する。正孔障壁材料には、例えば、FLE602、2-(3’-(ジベンゾ[b,d]チオフェン-4-イル)-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン(DBT-TRZ)、バソクプロイン(BCP)等のフェナントロリン誘導体、およびアルミニウム(III)ビス(2-メチル-8-キノリナート)-4-フェニルフェノレート(BAlq)等のキノリノール誘導体の金属錯体、各種の希土類錯体、オキサゾール誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、ピリミジン誘導体、オキサジアゾール誘導体、およびベンゾアゾール誘導体等が用いられる。これらの材料は電子輸送層6の材料を兼ねてもよい。
【0040】
電子輸送層7は、陰極8と有機発光層5との間に設けられ、陰極7から電子を効率良く有機発光層5に輸送するための層である。陰極8と有機発光層5との間に正孔障壁層6を介してもよい。電子輸送材料には、電子親和力が大きいもの、すなわち、LUMOのエネルギーが小さく、励起電子が存在しやすくする材料が挙げられる。例えば、2,9-ジ(2-ナフチル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(ET1)、3,3”,5,5’-テトラ(3-ピリジル)-1,1’;3’,1”-ターフェニル(B3PyPB)、4,6-ビス(3,5-ジ(ピリジン-3-イル)フェニル)-2-メチルピリミジン(B3PyMPM)、2-(4-ビフェニリル)-5-(p-t-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(tBu-PBD)、1,3-ビス[5-(4-t-ブチルフェニル)-2-[1,3,4]オキサジアゾリル]ベンゼン(OXD-7)、3-(ビフェニル-4-イル)-5-(4-t-ブチルフェニル)-4-フェニル-4H-1,2,4-トリアゾール(TAZ)、バソクプロイン(BCP)、1,3,5-トリス(1-フェニル-1H-ベンズイミダゾール-2-イル)ベンゼン(TPBi)等がある。
【0041】
電子注入層は陰極8に接し、電子を輸送する役割を有する層である。電子注入材料には、例えば、フッ化リチウム(LiF)、8-ヒドロキシキノリノラト-リチウム(Liq)およびリチウム2-(2’,2’’-ビピリジン-6’-イル)フェノラート(Libpp)等が挙げられる。
【0042】
基板1上に形成される、正孔注入層3、正孔輸送層4、有機発光層5、正孔障壁層6、電子輸送層7、および電子注入層等の薄膜は、真空蒸着法又は塗布法で積層される。
真空蒸着法には、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、および分子積層法等が挙げられる。真空蒸着法を用いる場合、通常10-3Pa以下に減圧した雰囲気で、蒸着物を300~400℃に加熱して行う。
【0043】
塗布法を用いる場合、各層の構成材料を例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートおよび水等に溶解させて公知の塗布法により各層を形成する。塗布法には、例えば、バーコート法、キャピラリーコート法、スリットコート法、インクジェット法、スプレーコート法、ノズルコート法、および印刷法が挙げられる。各層の形成にすべて同じ塗布法を用いてもよいし、インクの種類に応じて適宜最適な塗布法を個別に用いてもよい。
【0044】
陽極2および陰極8の間の各有機層の膜厚は、構成材料の抵抗値や電荷移動度によって異なるが、通常1~100nm、好ましくは1~50nmである。
なお、本発明の有機EL素子は、枚葉方式によって各層を形成する以外に、例えば、ロール・ツー・ロール法によって形成してもよい。
【実施例0045】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
実施例1~4のように有機EL用発光材料を調製した。
[実施例1]BP1の合成
【化5】
化合物1(0.114g,0.299mmol)、10-フェニルアントラセン-9-ボロン酸(0.177g,0.593mmol)、Pd(PPh34(0.067g,0.058mmol)、K2CO3(0.124g,0.900mmol)を50mL二口ナスフラスコに入れ、アルゴン雰囲気下でトルエン(5mL)、THF(5mL)、水(1mL)を加えた。アルゴン雰囲気下、90℃で20時間加熱した。薄層クロマトグラフィー(TLC)(塩化メチレン/アセトン=20:1)で化合物1の消費を確認した後、飽和食塩水を加えて分液し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥して濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン/アセトン=40:1)にかけ、黄色蛍光のフラクション(Rf=0.56)を集めて濃縮し、塩化メチレンとヘキサンで再沈殿した。この時点でのBP1のNMR収率は83%であったが、微量の不純物が混入していたため、フラッシュカラムと再沈殿を繰り返し、最終的に純粋なBP1を0.040g得た。
【0046】
1H NMR(400MHz,CDCl3):δ=6.71(dd,1H,J=8.7,6.4Hz),7.00(dd,2H,J=8.8,6.4Hz),7.03-7.10(m,3H),7.18-7.24(m,5H),7.30-7.34(m,2H),7.37-7.60(m,12H),7.63-7.68(m,1H),7.97(dd,1H,J=7.6,8.8Hz),8.55(d, 1H,J=8.8Hz);31P{1H} NMR(162MHz,CDCl3):δ=40.2.
【0047】
[実施例2]BP2の合成
【化6】
化合物3(244mg,0.800mmol)、1-ピレンボロン酸(236mg,0.959mmol)、酢酸パラジウム(II)(Pd(OAc)2)(18.4mg,0.082mmol,10mol%)、2-ジシクロヘキシル-2’,6’-ジメトキシビフェニル(SPhos)(67.4mg,0.164mmol,20mol%)およびK2CO3(336mg,2.43mmol)をトルエン(8mL)、THF(4mL)およびH2O(2mL)に溶かした溶液を70℃で3時間加熱した。室温まで戻した後、水で希釈し、酢酸エチルで抽出した。有機層をまとめて食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン/アセトン=30:1)にかけて黄色蛍光のフラクション(Rf=0.19)を集めて濃縮し、ヘキサンで再沈殿すると、BP2が黄色固体(340mg,0.80mmol,quant)として得られた。
【0048】
1H NMR(400MHz,CDCl3):δ=7.27-7.33(m,2H),7.36-7.43(m,1H),7.45(ddd,JH-H=7.4,7.4,4.0Hz,1H),7.51(dd,JH-H=7.4,3.4Hz,1H),7.58(d,JP-H=36.0Hz,1H),7.57-7.64(m,1H),7.67-7.75(m,2H),7.78(dd,JH-H=8.8,7.6Hz,1H),7.97-8.13(m,5H),8.16(d,JH-H=4.8Hz,1H),8.18(d,JH-H=4.8Hz,1H),8.23(dd,JH-H=8.0,1.2Hz,1H),8.43(d,JH-H=9.2Hz,1H);31P{1H} NMR(162MHz,CDCl3):δ=39.9.
【0049】
[実施例3]BP6の合成
【化7】
【0050】
<1段階目>
化合物4(128mg,0.321mmol)をアセトニトリル(15mL)およびTHF(5mL)に溶かした溶液にN-ブロモスクシンイミド(NBS)(1.2g,6.6mmol)を加えた。混合物をアルゴン雰囲気下で2時間還流した。室温に戻した後、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液(30mL)を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層をまとめて食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧濃縮した。得られた残渣をヘキサンで再沈殿すると、化合物5が黄色固体(160mg,0.284mmol)として得られた。
【0051】
1H NMR(400MHz,CDCl3):δ=7.49-7.55(m,2H),7.60-7.66(m,2H),7.69-7.77(m,1H),7.77-7.84(m,2H),7.81(d,JHP=28Hz,1H),8.45(d,J=3.6Hz,1H),8.56-8.63(m,2H),8.92(d,JHP=12.8Hz,1H);31P{1H} NMR(162MHz,CDCl3):δ=32.7.
【0052】
<2段階目>
化合物5(63.6mg,0.113mmol)、フェニルボロン酸(58.2mg,0.480mmol)、Pd(OAc)2(5.2mg,0.023mmol,20mol%)、2-(ジシクロヘキシルホスフィノ)ビフェニル(CyJohnPhos)(18.2mg,0.052mmol,46mol%)およびK2CO3(81mg,0.59mmol)をトルエン(4mL)、THF(3mL)およびH2O(2mL)に溶かした溶液を70℃で4時間加熱した。室温まで戻した後、水で希釈し、酢酸エチルで抽出した。有機層をまとめて食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン/アセトン=20:1)にかけて青緑色蛍光のフラクション(Rf=0.66)を集めて濃縮し、ヘキサンで再沈殿すると、BP6が黄色固体(36mg,0.065mmol,57%)として得られた。
【0053】
1H NMR(400MHz,CDCl3):δ=7.22-7.56(m,14H),7.57-7.74(m,12H),8.04(d,JHP=12.4Hz,1H);31P{1H} NMR(162MHz,CDCl3):δ=37.7.
【0054】
[実施例4]BP10の合成
【化8】
化合物6(170mg,0.52mmol)およびp-アニシルアジド(89mg,0.6mmol)のTHF溶液(3mL)に、硫酸銅(II)五水和物(35mg,0.14mmol)とアスコルビン酸ナトリウム(260mg,1.3mmol)の水溶液(1.5mL)を加え、室温で2時間攪拌した。その後、酢酸エチルを用いて抽出し、有機層を水で洗浄した後、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン/アセトン=10:1~5:1)にかけて酢酸エチルで再沈殿を行うことで、BP10を黄色個体(127mg,0.265mmol,51%)として得た。
【0055】
1H NMR(400MHz,CDCl3):δ=7.93(dd,2H,JP-H=13Hz,JH-H=7.6Hz),7.77(dd,1H,J=8.4,8.4Hz),7.60-7.38(m,12H),7.30(s,1H),7.13(dd,1H,JP-H=2.8Hz,JH-H=7.6Hz),6.92(d,2H,JH-H=9.2Hz),3.82(s,1H);31P NMR(162MHz,CDCl3):δ=38.8.
【0056】
[実施例5]有機EL素子の作製および素子評価
スパッタリングにより180nmの厚さに製膜したITOを150nmまで研磨して得られる26mm×28mm×0.7mmのガラス基板((株)オプトサイエンス製)を透明支持基板とした。この透明支持基板を市販の蒸着装置((株)昭和真空製)の基板ホルダーに固定し、ヘキサアザトリフェニレンカルボニトリル(HAT-CN)を入れたモリブデン製蒸着用ボート、4,4’-ビス[フェニル(1-ナフチル)アミノ]ビフェニル(NPB)を入れたモリブデン製蒸着用ボート、BH1を入れたモリブデン製蒸着用ボート、実施例2で合成したBP2を入れたモリブデン製蒸着用ボート、FLE602を入れたモリブデン製蒸着用ボート、2,9-ジ(2-ナフチル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(ET1)を入れたモリブデン製蒸着用ボート、およびアルミニウムを入れたタングステン製蒸着用ボートを装着した。
【0057】
透明支持基板のITO膜の上に順次、下記各層を形成した。真空槽を5×10-4Paまで減圧し、まずHAT-CNが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚5nmになるように蒸着して正孔注入層3を形成した。次にNPBが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚60nmになるように蒸着して正孔輸送層4を形成した。
さらにBH1が入った蒸着用ボートとBP2が入った蒸着用ボートを加熱して共蒸着し膜厚30nmになるように蒸着して有機発光層5を形成した。このときBP2は有機発光層中に3wt%含有するように蒸着速度を調整した。
次にFLE602が入った蒸着用ボートを加熱して膜厚10nmになるように蒸着して正孔障壁層6を形成した。
次にET1が入った蒸着用ボートを加熱して膜厚20nmになるように蒸着して電子輸送層7を形成した。
【0058】
各層の蒸着速度は1~2nm/秒であった。
最後にアルミニウムが入った蒸着用ボートを加熱して100nmになるように0.01~2nm/秒の蒸着速度で蒸着することにより陰極を形成し、有機EL素子を得た。
ITO電極を陽極、アルミニウム電極を陰極として直流電圧を印加すると青色発光が得られた。
【0059】
【化9】
【0060】
【化10】
【0061】
[比較例1]有機EL素子の作製および素子評価
実施例5において、BP2をBD1に置き換えた以外は、実施例5と同様にして素子を作製した。
【0062】
【化11】
【0063】
実施例5および比較例1で作製した素子を10mA/cm2での定電流下で駆動させて、素子が安定したところで、電圧(V)、輝度(cd/m2)および発光効率(cd/A)を測定した。また、色度輝度計でxy色度座標(CIE 1931)を得た。結果を表1に示す。
表2では、初期輝度1000cd/m2で測定した場合に、輝度が初期輝度の90%になるまでの時間(LT90)を示す。
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
L/J/yは発光色度の違いを勘案した発光効率であるが、本発明のベンゾホスホール誘導体を用いた有機EL素子は、従来知られている芳香族アミン系の青色ドーパントと比較して発光効率も発光寿命も同等だった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のベンゾホスホール誘導体を有機EL素子の発光材料として用いれば、フルカラーTVに必要とされる高効率かつ長寿命な発光を得ることができる。
【符号の説明】
【0067】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 有機発光層
6 正孔障壁層
7 電子輸送層
8 陰極
図1