(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085160
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】メナキノンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/66 20060101AFI20230613BHJP
【FI】
C12P7/66 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021211588
(22)【出願日】2021-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】佐野 優一
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AD93
4B064CA02
4B064CC12
4B064CE03
4B064CE16
4B064DA01
4B064DA10
(57)【要約】
【課題】 培養中に溶存酸素濃度を調整することで、変異処理した微生物によるメナキノン-4の生産量を増大させる方法が知られていたが、培養中に微生物の増殖に応じて溶存酸素濃度を制御する必要があり、煩雑な点から、より簡便で生産性に優れたメナキノンの製造方法が求められていた。
【解決手段】 メナキノン生産菌の培養において、酸素濃度が25~95容量%の気体を通気させることによって、メナキノンの生産性が向上することを見出し、本発明を完成した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体培地に酸素濃度が25~95容量%の気体を通気させ、メナキノン生産菌を培養することで、培養物中にメナキノンを生成させることを特徴とする、メナキノンの製造方法。
【請求項2】
酸素100容量%を通気する場合に比べて、メナキノンの生産性が少なくとも1.3倍である、請求項1記載のメナキノンの製造方法。
【請求項3】
酸素濃縮器により調製した気体を使用する、請求項1又は2記載のメナキノンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メナキノンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンKは、脂溶性ビタミンの一つであり、血液凝固や骨形成等に関与している。天然起源形態のビタミンKには、植物に由来するフィロキノン(ビタミンK1)と微生物等に由来するメナキノン(ビタミンK2)の2つの分子ファミリーが知られている。
【0003】
メナキノン生産菌としては、スタフィロコッカス属、バチルス属、アノキシバチルス属、ロドシュードモナス属等に属する微生物が知られており(非特許文献1及び特許文献1~3)、特許文献4には、変異処理により得られた、メナキノン-4を生産する能力を有するフラボバクテリウム属に属する微生物を培養してメナキノン-4を生産するに際し、微生物の増殖を実質的に制限することなく、かつ、培養液中の溶存酸素濃度が該微生物の対数増殖期において実質的に0~0.5ppmとしたのちに上昇するように該溶存酸素濃度を制御して該微生物を培養して該微生物の菌体内のメナキノン-4の含有率を増大させることを特徴とするメナキノン-4の製造法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3431574号公報
【特許文献2】特許第6477710号公報
【特許文献3】特開昭57-202295号公報
【特許文献4】特公平07-52070号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Somboon Tanasupawat、他4名、“IDENTIFICATION OF STAPHYLOCOCCUS CARNOSUS STRAINS FROM FERMENTED FISH AND SOY SAUCE MASH”、The Journal of General and Applied Microbiology、(日本)、1991年、第37巻、第6号、p.479-494
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
培養中に溶存酸素濃度を調整することで、変異処理した微生物によるメナキノン-4の生産量を増大させる方法が知られていたが、培養中に微生物の増殖に応じて溶存酸素濃度を制御する必要があり、煩雑な点から、より簡便で生産性に優れたメナキノンの製造方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、メナキノン生産菌の培養において、酸素濃度が25~95容量%の気体を通気させることによって、メナキノンの生産性が向上することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[3]の態様に関する。
[1]液体培地に酸素濃度が25~95容量%の気体を通気させ、メナキノン生産菌を培養することで、培養物中にメナキノンを生成させることを特徴とする、メナキノンの製造方法。
[2]酸素100容量%を通気する場合に比べて、メナキノンの生産性が少なくとも1.3倍である、[1]記載のメナキノンの製造方法。
[3]酸素濃縮器により調製した気体を使用する、[1]又は[2]記載のメナキノンの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、メナキノン生産菌の培養において、通気中の酸素濃度を適切な濃度範囲内に設定することで、メナキノンの生産性が向上し、簡便で生産性に優れたメナキノンの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】各酸素濃度における、スタフィロコッカス・カルノサス培養液1g当たりのメナキノン濃度(ppm)及び菌体数(×10
9個)を示す。
【
図2】酸素80容量%/二酸化炭素酸素20容量%、酸素80容量%/窒素20%又は酸素100%における、スタフィロコッカス・カルノサス培養液1g当たりのメナキノン濃度(ppm)及び菌体数(×10
9個)を示す。
【
図2】酸素80容量%/二酸化炭素酸素20容量%又は酸素100%における、バチルス・サブチリス培養液1g当たりのメナキノン濃度(ppm)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のメナキノンの製造方法は、液体培地に酸素濃度が25~95容量%の気体を通気させ、メナキノン生産菌を培養することで、培養物中に効率的にメナキノンを生成させることができる。生成されるメナキノンは、メナキノン-4、6~10等が例示でき、生産菌により主に生成されるメナキノンは異なるが、メナキノン-6又はメナキノン-7の生産菌が好ましく、変異等によりメナキノン-4を生成できるメナキノン生産菌も利用できる。メナキノン生産菌であれば特に限定されず、グラム陽性菌でもグラム陰性菌でもよく、好気性菌でも通性嫌気性菌でもよいが、スタフィロコッカス属、バチルス属、アノキシバチルス属、ロドシュードモナス属、フラボバクテリウム属等に属する菌が例示でき、詳細には、スタフィロコッカス・カルノサス、バチルス・サブチルス、バチルス・コアギュランス、バチルス・リケニフォルミス、アノキシバチルス・フラビサーマス、アノキバチルス・コンタミナンス、ロドシュードモナス・カブスラタ、フラボバクテリウム・アクアタイル等が例示でき、1種又は2種以上を使用することができる。
【0012】
メナキノン生産菌の培養には、メナキノン生産菌が増殖可能な成分であれば特に限定されず、通常の細菌培養用培地が使用でき、炭素源、窒素源、無機物、その他菌が必要とする微量栄養素等を含有するものであれば、合成培地、天然培地の何れでも使用可能である。炭素源としては、グルコース、シュクロース、デキストリン、澱粉、グリセリン、ソルビトール、クエン酸、糖蜜等が使用できる。窒素源としては、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機塩類、DL-アラニン、L-グルタミン酸等のアミノ酸類、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、麦芽エキス、コーンスティープリカー等の窒素含有天然物が使用できる。無機塩としては、カルシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、マンガン塩、鉄塩、リン酸塩、亜鉛塩等が使用できる。
【0013】
培養条件は、適宜設定できるが、通気、振盪、攪拌等により好気的に液体培養するのが好ましく、培養温度は例えば10~50℃が例示でき、20~40℃が好ましく、培養時間は例えば2~72時間が例示でき、4~48時間が好ましく、6~36時間がより好ましく、培地のpHは例えば4.0~9.0が例示でき、5.0~8.0が好ましい。培養中に例えば前記範囲でpH調整をしてもよく、6.5~7.5の範囲に調整するのが好ましい。pH調整は、水酸化ナトリウム、アンモニア等を用いることができる。
【0014】
通気には、酸素濃度が25~95容量%の気体を使用し、30~93容量%が好ましく、酸素以外の気体は、メナキノン生産菌が生育可能であれば特に限定されず、窒素、二酸化炭素等が例示できる。前記濃度の酸素は、酸素とその他の気体を混合してもよく、空気を濃縮してもよく、酸素濃縮器により前記酸素濃度に調製した気体を通気に使用するのが好ましい。同じメナキノン生産菌の培養において、酸素濃度が25~95容量%の気体を通気に使用することで、酸素100容量%を通気する場合に比べて、メナキノンの生産性を高めることができ、好ましくは少なくとも1.3倍、より好ましくは少なくとも1.5倍、さらに好ましくは少なくとも1.7倍に生産性を向上でき、上限は特に限定されないが例えば2.5倍、3倍、3.5倍程度である。培養物中のメナキノン含有量は、特に限定されないが、培養液1gあたり10ppm以上が好ましく、12ppm以上がより好ましく、15ppm以上がさらに好ましい。
【0015】
培養後に殺菌してもよく、殺菌条件は一般的な方法であれば特に限定されないが、例えば加熱温度は、70~150℃であり、加熱時間は、温度に応じて決定すればよいが、通常1~60分である。
【0016】
前記培養により生成されたメナキノンは、培養物中に含まれており、培養物をそのまま利用してもよいが、菌体を集菌することで回収するのが好ましく、遠心分離機等で培地を除去した後、緩衝液、生理食塩水、滅菌水等で菌体を洗浄し、さらに、エアードライ、スプレードライ、真空及び/又は凍結乾燥等を行って粉末化してもよい。
【0017】
本発明の培養物を、各種飲食品等に添加することにより、メナキノン含有飲食品等を製造できる。これにより、メナキノンが有する各種機能性成分を容易に各種飲食品等に付加することができる。添加する飲食品等は特に限定されないが、飲料、食品、調味料、機能性食品、サプリメント等の各種飲食品の他、医薬品、医薬部外品、化粧品、飼料等にも利用できる。
【実施例0018】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、%は別記がない限り全て容量%である。
【0019】
[試験例1]
液体培地(グリセリン:5重量%、酵母エキス:5重量%、水:90重量%、pH7.0)に前培養したスタフィロコッカス・カルノサスNBRC109622を1%接種し、酸素:窒素=9:1(酸素濃度:90%)(実施例1-1)、酸素:窒素=8:2(酸素濃度:80%)(実施例1-2)、酸素:窒素=5:5(酸素濃度:50%)(実施例1-3)もしくは酸素:窒素=3:7(酸素濃度:30%)(実施例1-4)の混合気体、空気(酸素濃度:約21%)(比較例1-1)、酸素(酸素濃度:100%)(比較例1-2)又は窒素(酸素濃度:0%)(比較例1-3)を0.5L/minで通気、攪拌し、20重量%水酸化ナトリウムでpH7.0に調整しながら、37℃で20時間培養した。
【0020】
実施例1-1~1-4、比較例1-1及び1-2で得られた培養液について、バクテリア計算盤を用いて培養液1g当たりの菌体数を測定すると共に、集菌後、菌体をジメチルスルホキシドで抽出し、メナキノン-7の濃度を下記HPLC測定条件にて測定し、培養液1g当たりのメナキノン-7含有量(ppm)として
図1に示し、比較例1-2の酸素100%通気時のメナキノン濃度を1とした場合の、各実施例におけるメナキノン生産性(倍)を表1に示した。また、比較例1-1及び1-3のOD600を測定し、表2に示した。
【0021】
<HPLC測定条件>
・検出器:UV検出器(270nm)
・カラム:InertSustain C18(内径4.6mm、長さ250mm)
・移動相:メタノール
・流速:1.0ml/分
・カラム温度:40℃
・標品:メナキノン-7標準品(純度:98重量%、富士フィルム和光純薬株式会社製)をエタノールに溶解して、検量線を作成した。
・検体:各試料をエタノールに溶解した後、適宜希釈したもの。
【0022】
【0023】
【0024】
図1及び表1より、通気に空気(酸素濃度:約21%)又は酸素(酸素濃度:100%)を使用した場合に比べて、酸素濃度が30~90%の気体を使用した方が、培養液1gあたりの菌体数が多く、特に酸素100%の通気に比べて、メナキノンの生産性が1.8~2.0倍に向上することが分かった。
【0025】
また、表2より、通気に窒素を使用した場合に比べて、空気(酸素濃度:約21%)を使用した方が、7倍以上の濁度となり、スタフィロコッカス・カルノサスは、酸素存在下の方が菌体の生育がよいことが分かった。
比較例1-2の酸素100%通気時のメナキノン濃度を1とした場合の、実施例2のメナキノン生産性(倍)を算出したところ、2.0倍だった。酸素濃度80%の気体を用いることで、混合する気体が二酸化炭素又は窒素の何れの場合でも、酸素濃度100%の培養に比べて、培養液1gあたりの菌体数が多く、メナキノン-7の生産性が高いことが分かった。
比較例2の酸素100%通気時のメナキノン濃度を1とした場合の、実施例3のメナキノン生産性(倍)を算出したところ、2.0倍だった。酸素濃度80%の気体を用いることで、バチルス・サブチリスによるメナキノン生産においても、酸素濃度100%の培養に比べて、メナキノン-7の生産性が高いことが分かった。