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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008519
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】維持管理システム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20230112BHJP
【FI】
G05B23/02 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112148
(22)【出願日】2021-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】三宮 豊
(72)【発明者】
【氏名】山野井 一郎
(72)【発明者】
【氏名】横井 浩人
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA02
3C223AA05
3C223AA06
3C223BA01
3C223CC01
3C223DD01
3C223FF02
3C223FF08
3C223FF10
3C223FF13
3C223FF16
3C223FF22
3C223FF24
3C223FF26
(57)【要約】      (修正有)
【課題】各運転員の暗黙知であった臭気に関する知識を形式知化することによって、プラント設備の運転状態を判別するプラント設備の維持管理システムを提供する。
【解決手段】維持管理システムは、プラント設備に設置される五感センサが計測する五感センサ情報を取得する五感センサ情報取得手段100と、運転員が現場で確認した感覚情報を取得する感覚情報取得手段200と、五感センサ情報取得手段が取得した五感センサ情報と、感覚情報取得手段が取得した感覚情報と、を統合する感覚情報・センサ情報統合手段300と、プラント設備の運転状態であるプラント情報を取得するプラント情報取得手段400と、プラント情報に基づいて、プラント設備の運転状態が正常か異常かを判別するプラント正常/異常判別手段500と、統合された五感センサ情報と感覚情報とを、判別結果を有するプラント情報と統合する感覚情報・プラント情報統合手段600と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラント設備に設置される五感センサが計測する五感センサ情報を取得する五感センサ情報取得手段と、
運転員が現場で確認した感覚情報を取得する感覚情報取得手段と、
前記五感センサ情報取得手段が取得した五感センサ情報と、前記感覚情報取得手段が取得した感覚情報と、を統合する感覚情報・センサ情報統合手段と、
前記プラント設備の運転状態であるプラント情報を取得するプラント情報取得手段と、
前記プラント情報に基づいて、前記プラント設備の運転状態が正常か異常かを判別するプラント正常/異常判別手段と、
統合された五感センサ情報と感覚情報とを、判別結果を有するプラント情報と統合する感覚情報・プラント情報統合手段と、
を有することを特徴とする維持管理システム。
【請求項2】
請求項1に記載する維持管理システムであって、
前記五感センサが、臭気を計測する臭気センサであり、前記五感センサ情報が、前記臭気センサの計測情報である臭気センサ情報であることを特徴とする維持管理システム。
【請求項3】
請求項2に記載する維持管理システムであって、
前記プラント設備が、下水処理場における反応タンクであることを特徴とする維持管理システム。
【請求項4】
請求項2に記載する維持管理システムであって、
前記感覚情報が、嗅覚の場合、臭気の強さ、臭気の快適性、臭気の容認性、臭気の印象の臭気情報があることを特徴とする維持管理システム。
【請求項5】
請求項2に記載する維持管理システムであって、
前記感覚情報取得手段が、運転員が現場で評価した臭気情報を、臭気情報を評価する項目である評価項目及び評価項目を評価するレベルである評価段階として、取得することを特徴とする維持管理システム。
【請求項6】
請求項1に記載する維持管理システムであって、
同時刻における前記五感センサ情報及び前記感覚情報を格納するデータベースを有することを特徴とする維持管理システム。
【請求項7】
請求項6に記載する維持管理システムであって、
前記データベースが、更に、前記同時刻における前記プラント情報及び前記判別結果を格納することを特徴とする維持管理システム。
【請求項8】
請求項1に記載する維持管理システムであって、
前記五感センサ情報に影響する環境情報を取得する環境情報取得手段と、前記五感センサで取得した五感センサ情報に対する環境情報の影響を評価する環境影響評価手段と、を有することを特徴とする維持管理システム。
【請求項9】
請求項1に記載する維持管理システムであって、
運転員の官能試験の条件を取得する官能試験条件取得手段を有することを特徴とする維持管理システム。
【請求項10】
請求項9に記載する維持管理システムであって、
前記官能試験条件取得手段が、各運転員の感覚情報と五感センサ情報との関係を求めることを特徴とする維持管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学プラント、電力プラント、上下水プラントやゴミ処理場などのプラント設備を維持管理するプラント設備の維持管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
化学プラント、電力プラント、上下水プラントやゴミ処理場などのプラント設備を維持管理する維持管理業務では、例えば、通常は存在しない異音を運転員が聞いた場合には、プラント設備を停止するなど、運転員の五感や経験を頼りに、プラント設備を維持管理する場合がある。
【0003】
そして、プラント設備が24時間連続操業している場合には、そのプラント設備に運転員を常時滞在させ、維持管理業務に対応させる場合がある。しかし、日本の生産年齢人口(15~64歳)は減少傾向にあり、将来、人手不足が発生した場合には、このような対応が困難になる恐れがある。
【0004】
人手不足が発生した場合であっても、このような維持管理業務を継続するため、運転員の五感や経験を、IoT(Internet of Things)技術やAI(artificial intelligence)技術で代替する。例えば、運転員の視覚の代わりに、プラント設備にカメラを設置し、カメラが撮影した画像データや映像データを処理し、プラント設備の外観の変化を検知する。また、運転員の聴覚の代わりに、プラント設備にマイクを設置し、マイクが集音した音声データを処理し、プラント設備の異音を検知する。
【0005】
また、運転員の視覚や運転員の聴覚と共に、運転員の嗅覚も、プラント設備で発生する異臭(焦げ臭や悪臭など)を検知するため、重要である。しかし、嗅覚は、ヒトによって異臭と感じる閾値が相違し、個人差があるため、各運転員の暗黙知となり、知識の継承が困難である。
【0006】
そこで、運転員の嗅覚を代わりに、プラント設備に臭気センサや臭気物質の濃度を取得可能な濃度センサを設置し、プラントで発生する異臭を検知し、維持管理業務に使用している。
【0007】
こうした技術分野の背景技術として、特開2014-209307号公報(以下、特許文献1)がある。
【0008】
特許文献1には、プラント設備で発生した事象を抽出する事象情報形成手段と、一定の能力を有する熟練の運転員が、事象に対して実行した対応を抽出する対応情報形成手段と、事象情報形成手段によって抽出された事象と対応情報形成手段によって抽出された対応とを関連付けて記憶する記憶手段と、現在のプラント設備で発生している事象を抽出する現事象情報形成手段と、現事象情報形成手段によって抽出された事象と一致する事象を記憶手段から選択する対応情報選択手段と、を有するプラント設備の運転システムが記載されている。
【0009】
また、特許文献1には、熟練の運転員が発した「臭い」の音声を取得することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2014-209307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載される運転システム(プラント設備の維持管理システム)は、熟練の運転員が発した「臭い」の音声を、プラント設備で発生した事象と関連付けている。
【0012】
しかし、「臭い」の音声のみでは、臭気の強さを表現しているのか、快/不快のような臭気の快適性を表現しているのか、などが曖昧であり、熟練の運転員は理解することができるものの、別の運転員は理解することができない恐れがある。
【0013】
そこで、本発明は、これまで各運転員の暗黙知であった臭気に関する知識を形式知化することによって、別の運転員にノウハウがなくとも、プラント設備の運転状態を判別する、プラント設備の維持管理システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記した課題を解決するため、本発明の維持管理システムは、プラント設備に設置される五感センサが計測する五感センサ情報を取得する五感センサ情報取得手段と、運転員が現場で確認した感覚情報を取得する感覚情報取得手段と、五感センサ情報取得手段が取得した五感センサ情報と、感覚情報取得手段が取得した感覚情報と、を統合する感覚情報・センサ情報統合手段と、プラント設備の運転状態であるプラント情報を取得するプラント情報取得手段と、プラント情報に基づいて、プラント設備の運転状態が正常か異常かを判別するプラント正常/異常判別手段と、統合された五感センサ情報と感覚情報とを、判別結果を有するプラント情報と統合する感覚情報・プラント情報統合手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、これまで各運転員の暗黙知であった臭気に関する知識を形式知化することによって、別の運転員にノウハウがなくとも、プラント設備の運転状態を判別する、プラント設備の維持管理システムを提供することができる。
【0016】
なお、上記した以外の課題、構成及び効果については、下記する実施例の説明によって、明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1における維持管理システムを説明する説明図である。
図2】実施例1における臭気の評価項目を説明する説明図である。
図3】実施例1における感覚情報とプラント情報とを統合したデータベースを説明する説明図である。
図4】実施例1における臭気を使用した維持管理を説明する説明図である。
図5】実施例2における維持管理システムを説明する説明図である。
図6】実施例3における維持管理システムを説明する説明図である。
図7】実施例3における各運転員の臭気の強さと臭気レベルとの関係を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を使用し、本発明の実施例を説明する。なお、実質的に同一又は類似の構成には、各図面において、同一の符号を使用し、説明が重複する場合には、重複する説明を省略する場合がある。
【実施例0019】
先ず、実施例1における維持管理システムを説明する。
【0020】
図1は、実施例1における維持管理システムを説明する説明図である。
【0021】
実施例1に記載するプラント設備の維持管理システムは、以下の構成を有する。
(1)プラント設備に設置される五感センサが計測する五感センサ情報を取得する五感センサ情報取得手段100。
(2)運転員が現場で確認した感覚情報(運転員の感覚情報)を取得する感覚情報取得手段200。
(3)五感センサ情報取得手段100が取得した五感センサ情報と、感覚情報取得手段200が取得した感覚情報と、を統合(結合)する感覚情報・センサ情報統合手段300。
(4)プラント設備の運転状態であるプラント情報を取得するプラント情報取得手段400。
(5)プラント情報に基づいて、プラント設備の運転状態が正常か異常かを判別するプラント正常/異常判別手段500。
(6)統合された五感センサ情報と感覚情報とを、判別結果を有するプラント情報と統合(結合)する(五感センサ情報、感覚情報、判別結果、及びプラント情報を統合する)感覚情報・プラント情報統合手段600。
【0022】
なお、各手段を接続する通信手段は、特に限定されず、無線LAN(Local Area Network)や有線LANなどである。
【0023】
また、維持管理システムは、図示しないCPU(Central Processing Unit)などの演算手段と、メモリやハードディスクなどの記憶手段と、インターフェースなどの入出力手段と、を有するコンピュータに格納され、好ましくは、ソフトウェアとして格納される。
【0024】
なお、実施例1では、維持管理システムは、演算手段と、記憶手段と、入出力手段と、を有するコンピュータに、ソフトウェアとして、格納されるが、維持管理システムは、必ずしもプラント設備に設置される必要はなく、プラント設備から離れた場所に設置されてもよい。
【0025】
また、感覚情報・センサ情報統合手段300と感覚情報・プラント情報統合手段600とを一体化し、五感センサ情報、感覚情報、判別結果及びプラント情報をまとめて統合してもよい。
【0026】
五感センサ情報取得手段100は、化学プラント、発電プラント、上下水プラントやゴミ処理場などのプラント設備に設置される五感センサであり、プラント設備の五感センサ情報を取得する。
【0027】
ここで、五感センサとは、画像データや映像データを取得するカメラ(熱を可視化する赤外線カメラなども含む)、音声データを取得するマイク、臭気を計測する臭気センサや臭気物質の濃度を取得可能な濃度センサなど、ヒトの感覚を代替するセンサである。
【0028】
なお、五感センサは、固定式センサであっても、移動式(ハンディ式)センサであってもよい。移動式センサを使用する場合には、五感センサ情報を取得する箇所が複数であっても、1台の移動式センサで対応することができる。移動式センサを使用する場合には、移動式センサにGPS(Global Positioning System)機能も付加し、五感センサ情報の取得場所も五感センサ情報と共に取得する。
【0029】
また、ここで、五感センサ情報とは、カメラが取得する画像データや映像データ、マイクが取得する音声データ、臭気センサが取得する臭気レベルや臭気物質の濃度を取得可能な濃度センサが取得する臭気物質の濃度などである。
【0030】
なお、画像データや映像データ、音声データについては、これらデータに前処理を施してもよい。具体的には、画像データや映像データについては、画像処理や映像処理を施し、特定箇所の輝度情報、色合い情報、パターン情報を抽出し、五感センサ情報としてもよく、また、音声データについては、FFT(fast Fourier transform)処理を施し、周波数ごとのパワースペクトル値を抽出し、周波数全体のオーバーオール値を抽出し、五感センサ情報としてもよい。つまり、様々な情報からプラント設備の維持管理業務に必要な情報を取得すればよい。
【0031】
実施例1では、一例として、上下水プラントにおける下水処理場の臭気について、説明する。
【0032】
下水処理場は、下水道の汚水を浄化し、処理水を河川、湖沼又は海へ放流するプラント設備であり、複数のプラント設備で構成される。例えば、下水処理場は、沈砂池、最初沈殿池、反応タンク、最終沈殿池、汚泥濃縮タンク及び汚泥脱水設備などの、複数のプラント設備を有する。
【0033】
これら複数のプラント設備で、汚水が処理され、そして、汚水が処理される工程で、汚水や処理水から臭いの原因物質が拡散され、大気中に放出される。
【0034】
臭いの原因物質(臭気の成分)は、主に、硫化水素、メチルメルカプタン、硫化メチル、二硫化メチル、塩素及びアンモニアなどである。下水処理場では、これら臭いの原因物質(悪臭)は、まとめて臭気として取り扱われる。
【0035】
なお、浄水場の場合、ウイルスや細菌などへの対策として、処理水を消毒する場合には、消毒に使用する塩素(臭いの原因物質)も、塩素臭やカルキ臭などの臭いの原因となり、また、処理水のカビ臭(ジェオスミン、2-МIB)、土臭、藻臭なども臭いとなる。
【0036】
実施例1では、五感センサに臭気センサを使用し、五感センサ情報として、臭いの原因物質の情報である臭気センサ情報を取得する。
【0037】
臭気センサは、臭いの原因物質の濃度、指数、強度などをまとめて計測し、数値として表示する。臭気センサ情報は、臭気センサの計測情報であり、具体的には、臭気濃度、臭気指数、臭気強度、及び、臭気センサが示す臭気レベルであり、実施例1では、五感センサ情報として臭気センサ情報(例えば、臭気レベル)を使用する。なお、臭気レベルは、臭気センサが示す値であり、臭気センサが取得する電流値を臭いの原因物質の濃度に換算したものである。実施例1では、特に、下水処理場における反応タンク(五感センサ情報の取得場所)の臭気レベルを取得する。
【0038】
なお、臭気センサには、半導体の表面に臭いの原因物質を付着させ、酸化還元反応を使用する半導体式、臭いの原因物質が吸着する吸着膜を使用する化学式、臭いの原因物質に特定波長の光を照射し、振動を計測する光音響分光式、又は、ヒト、動物、昆虫の嗅細胞を使用するバイオ式など、様々な臭気センサが実用化され、又は、研究開発されている。
【0039】
実施例1で使用する臭気センサは、下水処理場の主な臭いの原因物質である硫化水素、メチルメルカプタン、硫化メチル、二硫化メチル、塩素及びアンモニアを、臭気として、計測することができればよく、特に、限定されることはない。
【0040】
また、下水処理場以外のプラント設備についても、各プラント設備で発生する臭気を計測することができる臭気センサであればよい。
【0041】
感覚情報取得手段200は、運転員が現場で確認した感覚情報を取得する。
【0042】
ここで、感覚情報とは、運転員の視覚、聴覚、嗅覚などの五感から取得される情報である。ここで、現場とは、プラント設備が設置されるプラント設備の設置場所であり、例えば、下水処理場における反応タンクが設置される反応タンクの設置場所である。
【0043】
例えば、下水処理場における反応タンク(感覚情報の取得場所)では、感覚情報として、視覚の場合、処理水の液面の高さ、汚泥の色、ばっ気による泡の出方などがあり、聴覚の場合、処理水を攪拌する攪拌装置の稼働音などがあり、嗅覚の場合、臭気の強さ、快/不快のような臭気の快適性、臭気の容認性、臭気の印象(種類)などの臭気情報がある。
【0044】
実施例1では、感覚情報取得手段200は、例えば、下水処理場における反応タンクの臭気について、運転員が、画面にタッチして操作することができるタブレット(携帯情報端末)などの記録装置を使用し、現場で確認した感覚情報(臭気情報)を記録し、この記録された感覚情報(臭気情報)を取得する。
【0045】
なお、携帯情報端末などの記録装置を使用し、感覚情報を記録した場合には、運転員が感覚情報を記録した時刻(日時)を、感覚情報と共に記録し、記録した感覚情報と時刻とを、感覚情報・センサ情報統合手段300へ送信する。
【0046】
また、例えば、手書きの記録表などを使用し、感覚情報を記録した場合には、手書きの記録表などに記録される感覚情報を、感覚情報を記録した時刻と共に、キーボードなどのインターフェースから入力し、入力した感覚情報と時刻とを、感覚情報・センサ情報統合手段300へ送信する。
【0047】
感覚情報・センサ情報統合手段300は、五感センサ情報取得手段100が取得した五感センサ情報と、感覚情報取得手段200が取得した感覚情報と、を統合する。そして、同時刻に取得した五感センサ情報と感覚情報とを、その時刻に基づいて(キーとして)統合する。そして、統合された情報を記憶手段に存在し、感覚情報・センサ情報統合手段300や感覚情報・プラント情報統合手段600に付随するデータベースに格納する。なお、統合された情報は、モニターなどのインターフェースを使用し、出力(可視化)してもよい。
【0048】
プラント情報手段400は、同時刻のプラント設備の運転状態であるプラント情報を取得する。つまり、プラント情報手段400は、プラント設備に設置された多数のセンサから、プラントデータやプラント操作信号などのプラント情報を、取得する。
【0049】
ここで、プラントデータは、反応タンクの水温、pH、酸化還元電位、全有機炭素(TOC)、溶存酸素濃度、汚泥濃度、流量、ばっ気風量などであり、プラント操作信号は、反応タンクにおける薬剤投入量、バルブ開度などの制御信号の設定値又は制御値である。
【0050】
また、プラント情報には、プラント設備に異常が発生した場合に発報される警報ログ(例えば、汚泥ポンプ軽故障、ばっ気ブロワ重故障など)も含まれる。
【0051】
なお、実施例1では、特に、下水処理場における反応タンク(プラント情報の取得場所)のプラント情報を取得する。
【0052】
プラント正常/異常判別手段500は、プラント情報に基づいて、プラント設備の運転状態が正常か異常かを判別する。つまり、プラント正常/異常判別手段500は、例えば、事前に設定されるプラントデータ(プラント情報)に対する閾値を、取得されたプラントデータ(プラント情報)が超過するか否かを判別し、プラント設備の運転状態が正常か異常かを判別する。
【0053】
そして、プラント設備の運転状態の判別結果(正常又は異常)を、取得されたプラントデータ(プラント情報)と共に、データベースに格納する。特に、異常の場合であって、警報ログが発報されている場合には、警報ログの内容(例えば、ばっ気ブロワ重故障)と共に、異常の内容(例えば、ばっ気ブロワ異常)も合わせてデータベースに格納する。つまり、プラント情報と判別結果とをデータベースに格納する。
【0054】
感覚情報・プラント情報統合手段600は、同時刻の統合された五感センサ情報と感覚情報とを、同時刻の判別結果を有するプラント情報と統合する。つまり、感覚情報・プラント情報統合手段600は、同時刻の、感覚情報・センサ情報統合手段300で統合された五感センサ情報及び感覚情報と、同時刻の、プラント正常/異常判別手段500におけるプラント情報及び判別結果とを、その時刻に基づいて(キーとして)統合する。このように、感覚情報・プラント情報統合手段600は、同時刻の五感センサ情報、感覚情報、判別結果、及びプラント情報を統合する。そして、データベースに格納する。
【0055】
つまり、データベースは、同時刻における、感覚情報・センサ情報統合手段300によって統合された五感センサ情報及び感覚情報、並びに、感覚情報・プラント情報統合手段600によって統合されたプラント情報及び判別結果を格納する。
【0056】
次に、実施例1における臭気の評価項目を説明する。
【0057】
図2は、実施例1における臭気の評価項目を説明する説明図である。
【0058】
実施例1では、運転員が現場で臭気情報を確認した場合には、運転員は、携帯情報端末などの記録装置を使用し、臭気情報として、臭気の強さ、快/不快のような臭気の快適性、臭気の容認性、臭気の印象(種類)を、評価する。
【0059】
ここで、実施例1では、これら4つの評価項目について、6段階(0~5)で評価する。例えば、臭気の強さについては、「無臭」「弱い」「楽に感知」「若干強い」「強い」「強烈」の6段階であり、臭気の快適性については、「快適」「やや快適」「普通」「やや不快」「不快」「非常に不快」の6段階であり、臭気の容認性については、「受け入れ可」「少し抵抗があるが受け入れ可」「我慢すれば受け入れ可」「受け入れ不可」「非常に受け入れ不可」「-」の6段階であり、臭気の印象(種類)については、「腐った卵の臭い(硫化水素)」「腐った玉ねぎの臭い(メチルメルカプタン)」「刺激臭(アンモニア)」「消毒臭(塩素)」「焦げた臭い」「その他」の6段階である。
【0060】
なお、臭気情報(感覚情報)を評価する項目である評価項目(4つ)や評価項目を評価するレベルである評価段階(6段階)については、各プラント設備で発生する臭気情報に基づいて、評価項目と評価段階とを設定すればよい。
【0061】
このように、実施例1では、感覚情報取得手段200は、運転員が現場で評価した臭気情報を、臭気情報を評価する項目である評価項目及び評価項目を評価するレベルである評価段階として、取得する。
【0062】
実施例1では、こうした評価項目と評価段階との関係が、携帯情報端末などの記録装置に表示され、運転員は現場で確認した臭気情報を記録することができる。これにより、臭気情報を評価項目に対する評価段階で定量化することができる。そして、感覚情報取得手段200は、定量化された臭気情報を取得することができる。
【0063】
実施例1では、臭気情報を評価項目(臭気の強さ、臭気の快適性、臭気の容認性、臭気印象(種類))によって定義することによって、つまり、嗅覚を定義することによって、嗅覚の曖昧さを回避することができる。
【0064】
このように、実施例1では、臭気情報を評価項目と評価段階とで評価することによって、情報価値が高くなり、各運転員の暗黙知であった臭気に関する知識を形式知化することができ、また、熟練の運転員の暗黙知であった臭気に関する知識を形式知化することができ、別の運転員にノウハウがなくとも、プラント設備の運転状態を判別することができる。
【0065】
次に、実施例1における感覚情報とプラント情報とを統合したデータベースを説明する。
【0066】
図3は、実施例1における感覚情報とプラント情報とを統合したデータベースを説明する説明図である。
【0067】
データベースには、時刻(日時)に基づいて、五感センサ情報、感覚情報、判別結果、プラント情報が格納され、これら情報が時系列のトレンドデータとして格納される。
【0068】
実施例1では、五感センサ情報には、臭気レベルが、感覚情報には、臭気の強さ、臭気の快適性、臭気の容認性、臭気の印象(種類)が、プラント情報には、プラント情報の取得場所(反応タンク)のプラント情報(流量、溶存酸素濃度、水温)及び警報ログが含まれる。
【0069】
なお、これら情報には、これら情報以外の五感センサ情報、感覚情報、プラント情報が含まれてもよい。また、反応タンク以外におけるこれら情報が含まれてもよい。
【0070】
また、実施例1では、説明の都合上、反応タンクのみに臭気センサを設置し、これら情報を取得したが、反応タンク以外の複数箇所に臭気センサを設置する場合もある。この場合には、感覚情報を取得する場合には、臭気センサの設置場所(例えば、反応タンク)も同時に取得する必要がある。
【0071】
つまり、五感センサ情報の取得場所、感覚情報の取得場所、プラント情報の取得場所を統一し、同時刻の五感センサ情報、感覚情報、プラント情報を取得することが好ましい。
【0072】
ここで、Nо.1は、日時がAA月BB日cc時dd分の情報であり、臭気レベルは「200」、臭気の強さは「3」、臭気の快適性は「3」、臭気の容認性は「2」、臭気の印象(種類)は「1」、流量は「2000m/h」、溶存酸素濃度は「3.5mg/L」、水温は「25℃」、警報は「-」であり、判別結果は正常である。
【0073】
一方、Nо.2は、日時がEE月FF日gg時hh分の情報であり、臭気レベルは「15」、臭気の強さは「1」、臭気の快適性は「0」、臭気の容認性は「1」、臭気の印象(種類)は「1」、流量は「1800m/h」、溶存酸素濃度は「0.5mg/L」、水温は「25℃」、警報は「ばっ気ブロア重故障」であり、判別結果は異常である。
【0074】
実施例1では、プラント正常/異常判別手段500が、例えば、プラントデータである溶存酸素濃度(プラント情報)に基づいて、プラント設備の運転状態が正常か異常かを判別する。つまり、プラント正常/異常判別手段500は、例えば、事前に設定される溶存酸素濃度(所定の閾値)に対して、取得された溶存酸素濃度がこの所定の閾値を下回るか否かを判別し、プラント設備の運転状態が正常か異常かを判別する。
【0075】
なお、臭気の強さ、臭気の快適性、臭気の容認性、臭気の印象(種類)の数字は、運転員が評価した評価段階である。
【0076】
このように、臭気が少ない場合であっても、必ずしも正常ではない。熟練の運転員は、こうした臭気が少ないであっても、ばっ気量が少ないために、溶存酸素濃度が低下し、その原因がばっ気ブロアの不具合にあり、臭気が少ない恐れがあることを、暗黙知である臭気に関する知識として、把握する。
【0077】
そこで、実施例1によれば、五感センサ情報、感覚情報、プラント情報を統合し、感覚情報が低い場合には、ばっ気量が少ないために、溶存酸素濃度が低下し、その原因がばっ気ブロアの不具合にあり、感覚情報が低い恐れがあることを、ノウハウがない別の運転員にも、把握させることができる。このように、実施例1によれば、暗黙知である臭気に関する知識を形式知化することによって、別の運転員にも、プラント設備の運転状態を判別することができる。
【0078】
このように、こうした情報を蓄積することによって、つまり、こうしたデータベースを構築することによって、臭気をプラント設備の維持管理業務に使用することができる。
【0079】
また、取得される情報を使用し、統計解析の一つである相関分析を実行し、プラント情報と五感センサ情報又は/及び感覚情報との相関分析を実行し、モデルを作成してもよい。また、ニューラルネットワーク技術やデータクラスタリング技術を使用し、機械学習し、異常の予兆を検知するモデルを作成してもよい。取得される情報の使用方法は、特に、限定されない。
【0080】
次に、実施例1における臭気を使用した維持管理を説明する。
【0081】
図4は、実施例1における臭気を使用した維持管理を説明する説明図である。
【0082】
なお、図4上図は、時刻に対する臭気レベルの変化を示し、図4下図は、時刻に対する臭気に強さの変化を示す。
【0083】
図4では、下水処理場における反応タンクにおいて、臭気レベル及び臭気の強さが、事前に設定される管理値を下回った場合に、ばっ気ブロワに不具合が発生した旨を、警報として、出力する。つまり、臭気レベルが管理値を下回ったと共に、運転員の臭気の強さ(評価項目)の評価が、評価段階「3」(管理値)から評価段階「2」に下回った場合に、警報を出力する。
【0084】
これにより、運転員は、臭気レベル及び臭気の強さに基づいて、反応タンクを確認することができる。また、臭気レベルの動きと臭気の強さの動きとが不一致の場合には、臭気センサを確認することができる。このように、臭気をプラント設備の維持管理業務に使用することができる。
【0085】
特に、嗅覚には個人差があり、つまり、運転員の五感に頼ることが多い嗅覚は感じ方に個人差があり、各運転員の暗黙知となり、知識の継承が困難である。このように、実施例1によれば、或る運転員の嗅覚と別の運転員の嗅覚とに、個人差がある場合であっても、臭気レベル及び臭気の強さに基づいて、暗黙知である臭気に関する知識を形式知化するため、プラント設備の運転状態を判別することができる。
【0086】
また、実施例1では、臭気センサによる臭気センサ情報(例えば、臭気レベル)と運転員による感覚情報(例えば、臭気の強さ)と統合することによって、感覚情報(ヒトの個人差があり、曖昧である判断)を定量化し、更に、プラント情報と定量化された感覚情報とを統合することによって、各運転員の暗黙知である感覚情報を、プラント設備の運転状態の判別(プラント設備に対する正常/異常の判断)に使用することができる。
【0087】
また、臭気は、常時監視が困難であったため、臭気を発生するプラント設備では、臭気について、安全側で運転していたが、実施例1では、臭気センサ情報と感覚情報とを取得することによって、プラント設備を最適に運転することでき、プラント設備の省エネ運転を実現することができる。
【実施例0088】
次に、実施例2における維持管理システムを説明する。
【0089】
図5は、実施例2における維持管理システムを説明する説明図である。
【0090】
実施例2に記載する維持管理システムは、実施例1に記載する維持管理システムと比較し、五感センサ情報に影響する環境情報を取得する環境情報取得手段700と、五感センサで取得した五感センサ情報に対する環境情報の影響を評価する環境影響評価手段800と、を有する。つまり、実施例2に記載する維持管理システムは、五感センサが取得した五感センサ情報の妥当性を判断する機能を有する。
【0091】
環境情報取得手段700は、例えば、臭気センサ情報に影響する風速や風向などの環境情報を計測するセンサ情報を取得する。風速や風向の環境情報は、臭いの原因物質の拡散に影響する因子であり、風向の観測手段が内蔵される風速計を使用する。また、風速計と風向計とを併設して使用してもよい。
【0092】
風速や風向以外の環境情報としては、湿度や気温がある。例えば、湿度が高い場合には、空気中に臭いの原因物質が滞留しやすくなる。このため、湿度や気温の環境情報を計測するため、湿度計や気温計などを設置することが好ましい。
【0093】
また、脱臭用の送風機などがプラント設備に設置される場合には、送風機の稼働状況も影響する場合がある。
【0094】
このように、臭気センサが臭気センサ情報を取得する空間で、臭気に影響する環境情報は、全て環境情報と定義し、少なくとも1つの環境情報を取得することが好ましい。
【0095】
環境影響評価手段800は、環境情報取得手段700で取得された環境情報を使用し、五感センサで取得された五感センサ情報の妥当性を判断する、つまり、五感センサで取得した五感センサ情報に対する環境情報の影響を評価する。
【0096】
例えば、風速に閾値を設置し、風速が閾値以上のときは環境の影響が大きく、五感センサ情報が不正確な可能性があると判断される場合には、環境影響ラベルを付与し、環境影響ラベルも感覚情報・センサ情報統合手段300に付随するデータベースに合わせて格納する。なお、他の環境情報も同様である。
【0097】
このように、五感センサが取得した五感センサ情報の妥当性を判断することによって、統計解析を実行する場合には、不正確な五感センサ情報を排除することができ、モデルの精度を向上させることができる。
【0098】
実施例2によれば、環境情報取得手段700と環境影響評価手段800とを有することによって、五感センサ情報の価値が高くなり、更に精度よく、プラント設備の運転状態を判別することができる。
【実施例0099】
次に、実施例3における維持管理システムを説明する。
【0100】
図6は、実施例3における維持管理システムを説明する説明図である。
【0101】
実施例3に記載する維持管理システムは、実施例1に記載する維持管理システムと比較し、運転員の官能試験の条件を取得する官能試験条件取得手段900を有する。
【0102】
官能試験条件取得手段900は、現場で感覚情報(例えば、臭気情報)を確認した運転員に関する識別番号(例えば、氏名や社員番号)、つまり、運転員の官能試験の条件を取得する。識別番号も感覚情報・センサ情報統合手段300に付随するデータベースに合わせて格納する。これにより、各運転員の嗅覚の差異も可視化することができる。
【0103】
次に、実施例3における各運転員の臭気の強さと臭気レベルとの関係を説明する。
【0104】
図7は、実施例3における各運転員の臭気の強さと臭気レベルとの関係を説明する説明図である。
【0105】
例えば、管理値相当の臭気レベルの臭気が発生している場合、運転員A、運転員B、運転員Cが、それぞれ現場でその臭気を確認すると、臭気の強さの感じ方には個人差があり、それぞれ運転員Aは評価段階が「2」、運転員Bは評価段階が「3」、運転員Cは評価段階が「4」である場合がある。
【0106】
例えば、臭気レベルを取得していない場合であって、運転員の臭気の強さ(評価項目)の評価が、評価段階「3」(管理値)から評価段階「2」に下回った場合に、所定の行動を実行するような場合には、運転員Bや運転員Cは、所定の行動を実行することができない場合がある。
【0107】
また、例えば、臭気レベルを取得していない場合であって、運転員Bが熟練の運転員であって、評価段階が「3」と判断し、所定の行動を実行することができたとしても、運転員Aは管理値よりも臭気レベルが高い場合に、運転員Cは臭気レベルが低い場合に、所定の行動を実行してしまい、最適な維持管理業務ができない場合がある。
【0108】
そこで、各運転員に、臭気レベルに基づいて、定量的なフィードバックをすることによって、運転員の維持管理能力を向上させ、各運転員の維持管理能力の均質化することができる。
【0109】
例えば、運転員Aには、個人の嗅覚として、評価段階「2」の場合に所定の行動を実行するように指示し、運転員Bには、個人の嗅覚として、評価段階「3」の場合に所定の行動を実行するように指示し、運転員Cには、個人の嗅覚として、評価段階「4」の場合に所定の行動を実行するように指示する。
【0110】
つまり、実施例3では、官能試験条件取得手段900は、各運転員の感覚情報(例えば、臭気の強さ)と五感センサ情報(例えば、臭気レベル)との関係も求め、データベースに格納する。
【0111】
このように、各運転員の管理者は、各運転員の個人の嗅覚に基づいて、適切に指示することができ、最適な維持管理業務ができる。
【0112】
実施例3によれば、官能試験条件取得手段900を有することによって、感覚情報の価値が高くなり、更に精度よく、プラント設備の運転状態を判別することができる。
【0113】
官能試験条件としては、運転員の体調などの情報(風邪など)も合わせて格納することによって、各運転員の個人の状況に応づいて、各運転員の嗅覚の差異も可視化することができる。
【0114】
また、実施例3に記載する維持管理システムは、環境情報取得手段700及び環境影響評価手段800を有することが好ましい。これにより、五感センサ情報の価値及び感覚情報の価値を高くすることができ、更に精度よく、プラント設備の運転状態を判別することができる。
【0115】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために、具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を有するものに限定されるものではない。
【0116】
また、ある実施例の構成の一部を、他の実施例の構成の一部に置換することもできる。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を追加することもできる。また、各実施例の構成の一部について、それを削除し、他の構成の一部を追加し、他の構成の一部と置換することもできる。
【符号の説明】
【0117】
100・・・五感センサ情報取得手段
200・・・感覚情報取得手段
300・・・感覚情報・センサ情報統合手段
400・・・プラント情報取得手段
500・・・プラント正常/異常判別手段
600・・・感覚情報・プラント情報統合手段
700・・・環境情報取得手段
800・・・環境影響評価手段
900・・・官能試験条件取得手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7