(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085259
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】作業車両、および作業車両の制御方法
(51)【国際特許分類】
E02F 9/24 20060101AFI20230613BHJP
E02F 9/20 20060101ALI20230613BHJP
E02F 9/26 20060101ALI20230613BHJP
B60W 30/08 20120101ALI20230613BHJP
【FI】
E02F9/24 B
E02F9/20 N
E02F9/26 A
B60W30/08
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031816
(22)【出願日】2023-03-02
(62)【分割の表示】P 2019051294の分割
【原出願日】2019-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】岡田 吏司
(72)【発明者】
【氏名】鳥巣 弘徳
(72)【発明者】
【氏名】山口 英治
(57)【要約】
【課題】制動を確実に行うことが可能な作業車両を提供すること。
【解決手段】ホイールローダ1は、走行輪4と、エンジン31と、動力伝達部41と、カメラ8と、コントローラ7と、を備える。動力伝達部41は、エンジン31からの駆動力を、前進クラッチ51および後進クラッチ52をクラッチ制御弁61、62により制御することで、前進駆動させるための前進用出力または後進駆動させるための後進用出力として走行輪4に伝達可能である。カメラ8は、走行輪4が設けられた車体の後方の物体を検出する。コントローラ7は、後進時にカメラ8によって物体が検出された場合、走行輪4への出力を後進用出力から前進用出力に切り換えるよう動力伝達部41を制御する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行輪と、
エンジンと、
前記エンジンからの駆動力を、前進クラッチおよび後進クラッチを電子制御式比例電磁弁により制御することで、前進するための前進駆動力または後進するための後進駆動力として前記走行輪に出力可能な動力伝達部と、
前記走行輪が設けられた車体の後方の物体を検出する物体検出部と、
後進時に前記物体検出部によって物体が検出された場合、前記走行輪への出力を前記後進駆動力から前記前進駆動力に切り換えるよう前記動力伝達部を制御する制御部と、を備えた、
作業車両。
【請求項2】
前記制御部は、前記走行輪への出力を前記後進駆動力から前記前進駆動力に切り換えた後、前記エンジンの回転数を上げるように制御を行う、
請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
車速に関する値を検出する速度検出部を更に備え、
前記動力伝達部は、パーキングブレーキを有し、
前記制御部は、前記速度検出部によって検出された値に基づいた車速が所定速度以下になったとき、前記エンジンから前記走行輪への駆動力の出力を停止するよう前記パーキングブレーキを制御する、
請求項1または2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記作業車両は、ホイールローダである、
請求項1~3のいずれか1項に記載の作業車両。
【請求項5】
前記制御部は、
前記車体が所定速度以下になると、前記前進クラッチを解放する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の作業車両。
【請求項6】
作業車両の制御方法であって、
エンジンからの駆動力を、前進クラッチおよび後進クラッチを電子制御式比例電磁弁により制御することで、後進するための後進駆動力として走行輪に伝達し後進させる後進ステップと、
後進時に車体後方の物体を検出する物体検出ステップと、
物体が検出された場合、前記エンジンから前記走行輪への出力を前記後進駆動力から前進するための前進駆動力に切り換える切換ステップと、を備えた、
作業車両の制御方法。
【請求項7】
前記切換ステップの後に、前記車体が所定速度以下になると、前記前進クラッチを解放する、
請求項6に記載の作業車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両および作業車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
掘削の現場では、作業車両としてホイールローダがよく用いられる。ホイールローダでは、土砂等を掘削する掘削作業と、掘削した土砂等をダンプトラックに積み込む作業が繰り返し行われる。このようなVシェイプ運転では、掘削後に後進し、さらに積み込み後に後進するため、後進作業が多くなる。
【0003】
このため、後進時の安全性を確保するためセンサ(例えば、特許文献1参照)などがホイールローダにも用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、センサによって後方の物体を検出したときの制動を確実に行うことは難しかった。
【0006】
本発明の目的は、制動を確実に行うことが可能な作業車両および作業車両の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
作業車両は、走行輪と、エンジンと、動力伝達部と、物体検出部と、制御部と、を備える。動力伝達部は、エンジンからの駆動力を、前進するための前進駆動力または後進するための後進駆動力として走行輪に伝達可能である。物体検出部は、走行輪が設けられた車体の後方の物体を検出する。制御部は、後進時に物体検出部によって物体が検出された場合、走行輪への出力を後進駆動力から前進駆動力に切り換えるよう動力伝達部を制御する。
【0008】
作業車両の制御方法は、後進ステップと、物体検出ステップと、切換ステップと、を備える。後進ステップは、エンジンからの駆動力を、後進するための後進駆動力として走行輪に伝達し後進させる。物体検出ステップは、後進時に車体後方の物体を検出する。切換ステップは、物体が検出された場合、エンジンから走行輪への出力を後進駆動力から前進するための前進駆動力に切り換える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、制動を確実に行うことが可能な作業車両および作業車両の制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明にかかる実施の形態のホイールローダの構成を示す側面図。
【
図2】
図1のホイールローダの動力伝達装置の構成を示す側面図。
【
図3】
図1のホイールローダの動力伝達装置の構成および制御部を示すブロック図。
【
図5】
図1のホイールローダの制御方法を示すフロー図。
【
図6】(a)~(c)ホイールローダ1の制御方法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明にかかる実施の形態のホイールローダ1およびホイールローダ1の制御方法について図面を参照しながら以下に説明する。
【0012】
<1.構成>
(ホイールローダ)
図1は、本実施の形態のホイールローダ1の構成を示す側面図である。
図2は、ホイールローダ1の駆動系6の構成を示す模式図である。
図3は、駆動系6の構成およびコントローラ7の構成を示す構成図である。
【0013】
ホイールローダ1は、車体フレーム2と、作業機3と、複数の走行輪4と、キャブ5と、駆動系6(
図2参照)と、コントローラ7(制御部の一例)と、カメラ8(物体検出部の一例)と、を備えている。
【0014】
車体フレーム2は、アーティキュレート式であり、フロントフレーム11と、リアフレーム12と、を有している。フロントフレーム11は、リアフレーム12の前方に配置されている。
【0015】
作業機3は、フロントフレーム11の前部に装着されている。作業機3は、ブーム21と、バケット22と、リフトシリンダ23と、バケットシリンダ24とを有する。ブーム21は、車体フレーム2に回転可能に取り付けられている。ブーム21は、リフトシリンダ23によって駆動される。バケット22は、ブーム21の先端に回転可能に取り付けられている。バケット22は、バケットシリンダ24によってダンプおよびチルトされる。
【0016】
フロントフレーム11の左右に一対の走行輪4が取り付けられている。また、リアフレーム12の左右に一対の走行輪4が取り付けられている。
【0017】
キャブ5は、リアフレーム12上に載置されており、内部には、運転席、前進または後進するための前後進切換操作部材71、アクセル操作部材72、ブレーキペダル、作業機3を操作するためのレバー、各種の表示装置等が配置されている。
【0018】
前後進切換操作部材71(
図3参照)は、オペレータによって操作され、前進位置と後進位置と中立位置に切り換えられる。前後進切換操作部材71は、前進、後進または停止を指示する前後進信号s1と、シフトレンジを指示するシフトレンジ信号s2をコントローラ7に送信する。オペレータは、前後進切換操作部材71を操作することによって、ホイールローダ1の前進と後進を切り換えることができる。
【0019】
アクセル操作部材72(
図3参照)は、オペレータがスロットル開度を設定するための部材である。アクセル操作部材72は、例えばアクセルペダルであり、オペレータによって操作される。アクセル操作部材72には、操作量を検出するためのセンサ(例えば、ポテンショメータ)が設けられており、アクセル操作量を示すアクセル信号s3を作成してコントローラ7へ送信する。
【0020】
駆動系6は、走行輪4を回転させる。コントローラ7は、駆動系6の制御を行う。
【0021】
(駆動系)
駆動系6は、主に、エンジン31と、伝達装置32と、パーキングブレーキ36と、を有する。エンジン31が収納されているエンジンルーム13(
図2参照)は、キャブ5の後側であってリアフレーム12上に配置されている。
【0022】
エンジン31は、ディーゼル式のエンジンであり、エンジン31で発生した駆動力が走行輪4に伝達される。駆動系6には、
図3に示すようにエンジン31の回転数を検出するエンジン回転数検出センサ33が設けられており、検出した回転数r1は、後述するコントローラ7に送信される。
【0023】
伝達装置32は、エンジン31から走行輪4まで動力を伝達する。伝達装置32は、
図2に示すように、動力伝達部41と、センタプロペラシャフト44と、リヤープロペラシャフト45と、センタサポート46と、フロントプロペラシャフト47と、フロントアクスル48と、リヤーアクスル49と、を備える。
【0024】
動力伝達部41は、エンジン31の動力をセンタプロペラシャフト44とリヤープロペラシャフト45に伝達する。動力伝達部41は、トルクコンバータ40と、トランスミッション42と、パーキングブレーキ36と、を有する。
トルクコンバータ40は、エンジン31の前側に配置されている。エンジン31からの動力が、エンジン31のフライホイールを通ってトルクコンバータ40に伝達される。
【0025】
トルクコンバータ40のタービンは、トランスミッション42の入力軸に接続されている。
【0026】
トランスミッション42は、トルクコンバータ40を介して伝達されるエンジン31の回転駆動力を変速してセンタプロペラシャフト44とリヤープロペラシャフト45に出力する。トランスミッション42については後段にて詳述する。
【0027】
パーキングブレーキ36は、トランスミッション42の出力軸に設けられている。パーキングブレーキ36は、ホイールローダ1を駐車させるために用いられる。パーキングブレーキ36については後段にて詳述する。
【0028】
センタプロペラシャフト44は、トランスミッション42から前方に向かって伸びており、トランスミッション42から伝達される駆動力をセンタサポート46に伝達する。
【0029】
リヤープロペラシャフト45は、トランスミッション42から後方に向かって伸びており、トランスミッション42から伝達される駆動力をリヤーアクスル49に伝達する。
【0030】
センタサポート46は、センタプロペラシャフト44の前端と接続されており、センタプロペラシャフト44を介して伝達されてきた駆動力をフロントプロペラシャフト47に伝達する。
【0031】
フロントプロペラシャフト47は、センタサポート46の前端に接続されており、センタサポート46から伝達されてきた駆動力をフロントアクスル48に伝達する。
【0032】
フロントアクスル48の左右両端には、前側の一対の走行輪4が接続されている。フロントプロペラシャフト47から伝達された駆動力はフロントアクスル48を介して前側の走行輪4に伝達され、走行輪4が回転する。
【0033】
リヤーアクスル49の左右両端には、後側の一対の走行輪4が接続されている。リヤープロペラシャフト45から伝達された駆動力はリヤーアクスル49を介して後側の走行輪4に伝達され、走行輪4が回転する。なお、
図3のブロック図では、伝達装置32について適宜簡略化し、フロントアクスル48もリヤーアクスル49に兼ねて記載されている。
また、アクスルと走行輪4の間には、オペレータのペダル操作などにより駆動するサービスブレーキが設けられている。
【0034】
(トランスミッション)
トランスミッション42は、
図3に示すように、前進クラッチ51と、後進クラッチ52と、1速クラッチ53と、2速クラッチ54と、3速クラッチ55と、4速クラッチ56と、を有する。
【0035】
前進クラッチ51は、前進走行段に対応する。前進クラッチ51は、その係合時に走行輪4を前進回転させるようにエンジン31からの駆動力を前進駆動力として走行輪4に出力する。後進クラッチ52は、後進走行段に対応する。後進クラッチ52は、その係合時に走行輪4を後進回転させるようにエンジン31からの駆動力を後進駆動力として走行輪4に出力する。前進クラッチ51と後進クラッチ52は、方向切換クラッチである。
【0036】
1速クラッチ53は、1速の速度段に対応する。2速クラッチ54は、2速の速度段に対応する。3速クラッチ55は、3速の速度段に対応する。4速クラッチ56は、4速の速度段に対応する。1速クラッチ53、2速クラッチ54、3速クラッチ55、および4速クラッチ56は、速度切換クラッチである。
【0037】
トランスミッション42は、ホイールローダ1の進行方向、所望駆動力、および所望走行速度に応じてクラッチ51~56を選択的に係合および開放する。
【0038】
トランスミッション42の各クラッチ51~56の入力側と出力側の係合圧力は、各クラッチ51~56に供給される作動油の油圧によって制御される。本実施の形態では、各クラッチ51~56は、供給される作動油の油圧が大きくなるに従って、開放状態から半係合状態を経て完全な係合状態となる。
【0039】
駆動系6には、クラッチ制御弁61~66が設けられている。各クラッチ51~56の係合圧力は、コントローラ7から各クラッチ制御弁61~66に送信されたクラッチ油圧指令信号に応じて各クラッチ制御弁61~66が各クラッチ51~56に供給するクラッチ油圧を調整することによって制御される。各クラッチ制御弁61~66は、電子制御式比例電磁弁である。
【0040】
駆動系6には、トランスミッション入力軸回転数センサ34と、トランスミッション出力軸回転数センサ35(速度検出部の一例)が設けられている。トランスミッション入力軸回転数センサ34は、トランスミッション42の入力軸に設けられており、入力軸の回転数r2を検出する。トランスミッション出力軸回転数センサ35は、トランスミッション42の出力軸に設けられており、出力軸の回転数r3を検出する。なお、回転数r2および回転数r3は、コントローラ7に出力される。
【0041】
(パーキングブレーキ)
パーキングブレーキ36は、トランスミッション42と走行輪4の間に配置されている。パーキングブレーキ36は、制動状態と非制動状態に切換可能な湿式多段式のブレーキである。
【0042】
駆動系6には、パーキングブレーキ36を操作するためのソレノイド弁67が設けられている。ソレノイド弁67のオン・オフによってパーキングブレーキ36を作動する作動油が供給・停止される。パーキングブレーキ36は、ネガティブブレーキであり、作動油の供給が停止されると制動状態となる。
【0043】
(カメラ)
カメラ8は、エンジンルーム13の上部カバーの後方部分に配置されている。カメラ8は、車両後方を撮影し、人や物を含む物体を検知する。カメラ8は、少なくともホイールローダ1が後進している際に車両方向における物体を検知すればよい。カメラ8は、物体を検知した場合には、物体検知信号s4がコントローラ7へと送信される。なお、カメラ8自体に、撮影画像を解析して物体の検出を行う機能が備わっていても良いし、撮影した画像をコントローラ7に送信し、コントローラ7において画像を解析して物体の検知を行ってもよい。
【0044】
(コントローラ)
コントローラ7は、CPU(Central Processing Unit)等の演算装置や各種のメモリなどを有する電子制御部である。コントローラ7は、オペレータの操作による前後進信号s1、シフトレンジ信号s2およびアクセル信号s3を受信する。コントローラ7は、エンジン回転数検出センサ33によって検出された回転数r1、トランスミッション入力軸回転数センサ34によって検出された回転数r2およびトランスミッション出力軸回転数センサ35によって検出された回転数r3を用いて、前後進信号s1、シフトレンジ信号s2およびアクセル信号s3に基づいた駆動となるように駆動系6の制御を行う。
【0045】
また、コントローラ7は、前後進信号s1に基づいて、若しくは回転数r3による後進方向回転に基づいて後進状態であることを検知する。コントローラ7は、後進状態の時にカメラ8からの物体検知信号s4を受信すると、次のような制御を行う。コントローラ7は、後進クラッチ52を開放し、前進クラッチ51を係合状態にするように切り換える。またコントローラ7は、前進クラッチ51を係合すると、回転数が最大となるようにエンジン31を制御する。その後、コントローラ7は、出力軸の回転数r3から車速を算出し、算出された車速が所定速度以下に達すると、前進クラッチ51を開放状態にした後、ソレノイド弁67を制御してパーキングブレーキ36を制動状態にする。
<2.動作>
次に、本発明にかかる実施の形態のホイールローダ1の動作について説明する。
【0046】
(Vシェイプ作業)
はじめにホイールローダ1におけるVシェイプ作業について説明する。
図4は、Vシェイプ動作を説明するための平面図である。
図4には、積み込み対象物である土砂Xが示されている。ホイールローダ1は、土砂Xを掘削位置P1において掘削した後、土砂Xに正対しながら後退位置P2まで旋回しながら後進する。
【0047】
そして、ホイールローダ1は、後退位置P2からダンプトラック100等の積込対象車両に向かって旋回しながら前進する。そして、積込位置P3においてダンプトラック100のベッセルに土砂Xを積み込む。
【0048】
その後、新たに土砂Xを掘削するために、ホイールローダ1は積込位置P3から後退位置P2まで旋回しながら後退し、後退位置P2から掘削位置P1まで旋回しながら前進する。
【0049】
このように平面視においてV形状となるVシェイプ作業を行う際には、後進が多く行われる。
【0050】
(後進時の制御方法)
次に、本発明にかかる実施の形態のホイールローダ1の制御方法について説明する。
図5は、本実施の形態のホイールローダ1の制御方法を示すフロー図である。
図6(a)、
図6(b)及び
図6(c)は、ホイールローダ1の制御方法を説明するための図である。
図6(a)、
図6(b)、および
図6(c)の各々の図では、左側の上段のグラフは、ホイールローダ1の後進時の車速の時間変化を示し、左側の下段のグラフは、後進クラッチ52(実線)および前進クラッチ51(点線)へのクラッチ油圧の時間変化を示す。また、
図6(a)、
図6(b)および
図6(c)のそれぞれの時刻における左側上段グラフ上の位置がG1、G2、G3として示されている。
【0051】
コントローラ7は、ステップS10において前後進信号s1に基づいて、若しくは回転数r3による後進方向回転に基づいて後進状態であることを検知すると、ステップS11においてカメラ8を用いて車両後方の物体の検知を開始する。ステップS10が、後進ステップの一例に相当する。
【0052】
ステップS12において、
図6(a)に示すようにカメラ8によって物体101(例えば、岩)が検知されると、コントローラ7に物体検知信号s4が送信される。ステップS11、S12が、物体検出ステップの一例に相当する。
【0053】
すると、ステップS13において、コントローラ7はクラッチ制御弁62に指示を送信し、クラッチ制御弁62によってクラッチ油圧が調整され、後進クラッチ52が開放される(
図6(a)の時刻t1参照)。
【0054】
次に、ステップS14において、コントローラ7はクラッチ制御弁61に指示を送信し、クラッチ制御弁61によってクラッチ油圧が調整され、前進クラッチ51が係合される。この前進クラッチ51の係合によって前進駆動力が制動力として作用し、ホイールローダ1の車速が減少する(
図6(b)のG2参照)。減速が開始した時刻t2が
図6(b)に示されている。ステップS13、S14が、切換ステップの一例に相当する。
【0055】
次に、ステップS15において、コントローラ7はエンジン31に指示を送信し、エンジン31の回転数を増加させるように制御する。これによって、制動力を最大に上げることができる。なお、最高回転数に限らなくても良いが、回転数を出来るだけ上げるほうが制動力を上げることができるため好ましい。なお、エンジン31の回転数は、最高回転数まで増加させるほうが望ましい。
【0056】
次に、ステップS16において、コントローラ7は、トランスミッション出力軸回転数センサ35によって検出された回転数r3から車速を計算し、その車速がメモリに記憶されている所定速度以下に達したか否かを判定する。ここで、所定速度は、パーキングブレーキ36によって制動をかけた場合にパーキングブレーキ36の耐久性に影響がない速度に設定することができる。ステップS16において、車速が所定速度よりも大きいと判定された場合には、再びステップS16において判定が行われ、車速が所定速度以下に達するまでステップS16における判定が繰り返される。
【0057】
そして、車速が所定速度以下に達すると、制御はステップS17に進み、ステップS17において、コントローラ7はクラッチ制御弁61に指示を送信し、クラッチ制御弁61によってクラッチ油圧が調整され、前進クラッチ51の係合が開放される。
【0058】
次に、ステップS18において、コントローラ7は、ソレノイド弁67に指示を送信し、パーキングブレーキ36を制動状態にする。
図6(c)にパーキングブレーキ36を作動させた時刻t3が示されている。このパーキングブレーキ36の制動によってホイールローダ1が停車(
図6(c)のG3参照)し、制御が終了する。
【0059】
なお、ステップS12において物体が検出されない場合には、制御はステップS19に進み、コントローラ7は、前後進信号s1または回転数r3に基づいて後進が終了したか否かを判定する。ステップS19において後進が終了していないと判定された場合には、制御はステップS12へ戻り、ステップS12において物体の検知が行われる。すなわち、ステップS12における物体の検出動作は、ステップS19においてコントローラ7が後進の停止を検知するまで行われる。後進の停止は、前後進信号s1、シフトレンジ信号s2およびアクセル信号s3、並びに回転数r1~r3に基づいて検知される。ステップS19において、後進の停止が検知されると、制御が終了する。
【0060】
このように、後進時に物体を検出した場合、前進クラッチ51を係合状態にすることによって、駆動力を制動力として使用できるため、短い制動距離で効果的にホイールローダ1を停車することができる。一例として、車速12.5km/hで後進した際に、制動距離を6m以下に抑えることができる。
【0061】
<3.特徴など>
(3-1)
本実施の形態のホイールローダ1(作業車両の一例)は、走行輪4と、エンジン31と、動力伝達部41と、カメラ8(物体検出部の一例)と、コントローラ7(制御部の一例)と、を備える。動力伝達部41は、エンジン31からの駆動力を、前進するための前進駆動力または後進するための後進駆動力として走行輪4に出力可能である。カメラ8は、走行輪4が設けられた車体の後方の物体を検出する。コントローラ7は、後進時にカメラ8によって物体が検出された場合、走行輪4への出力を後進駆動力から前進駆動力に切り換えるよう動力伝達部41を制御する。
【0062】
このように後進時に物体を検知した場合、前進駆動力に切り換えることにより、前進への駆動力を後進に対する制動力として使用し、車体を減速することができる。
【0063】
このため、オペレータ次第でなく確実に制動を行うことができる。
【0064】
(3-2)
本実施の形態のホイールローダ1(作業車両の一例)では、動力伝達部41は、前進クラッチ51および後進クラッチ52を有する。コントローラ7は、後進クラッチ52を開放状態にし、前進クラッチ51を係合状態にすることによって、走行輪4への出力を後進駆動力から前進駆動力に切り換える。
【0065】
このように、後進時に後進クラッチ52を開放状態にし、且つ前進クラッチ51を係合状態にすることによって、前進への駆動力を後進に対する制動力として使用することができる。
【0066】
(3-3)
本実施の形態のホイールローダ1(作業車両の一例)では、コントローラ7は、走行輪4への出力を後進駆動力から前進駆動力に切り換えた後、エンジン31の回転数を上げるように制御を行う。
【0067】
これにより、前進への駆動力を大きくできるため、後進に対する制動力も大きくでき、制動距離を短くすることができる。
【0068】
(3-4)
本実施の形態のホイールローダ1(作業車両の一例)は、車速に関する値を検出するトランスミッション出力軸回転数センサ35(速度検出部の一例)を更に備える。動力伝達部41は、パーキングブレーキ36を有する。コントローラ7は、トランスミッション出力軸回転数センサ35によって検出された値に基づいた車速が所定速度以下になったとき、エンジン31から走行輪4への駆動力の出力を停止するようパーキングブレーキ36を制御する。
【0069】
これにより、減速してからパーキングブレーキ36を使用するため、パーキングブレーキ36に過度な負荷をかけずに停車することができる。
【0070】
(3-5)
本実施の形態では、作業車両の一例は、ホイールローダ1である。
【0071】
これにより、後進作業が多いホイールローダ1において、より確実に制動を行うことができる。
【0072】
(3-6)
本実施の形態のホイールローダ1(作業車両の一例)の制御方法は、ステップS10(後進ステップの一例)と、ステップS11、S12(物体検出ステップの一例)と、ステップS13、S14(切換ステップの一例)と、を備える。ステップS10は、エンジン31からの駆動力を、後進するための後進駆動力として走行輪4に伝達し後進させる。ステップS11、S12は、後進時に車体後方の物体を検出する。ステップS13、S14は、物体が検出された場合、エンジンから走行輪4への出力を後進駆動力から前進するための前進駆動力に切り換える。
【0073】
このように後進時に物体を検知した場合、前進用出力に切り換えることにより、前進への駆動力を後進に対する制動力として使用し、車体を減速することができる。
【0074】
このため、オペレータ次第でなく確実に制動を行うことができる。
【0075】
<4.他の実施形態>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0076】
(A)
上記実施の形態では、動力伝達部41にトランスミッション42が用いられているが、これに限られるものではない。動力伝達部の一例として、本実施の形態のトルクコンバータ40とトランスミッション42の代わりにHST(Hydro Static Transmission)におけるモータ回転を制御して後進駆動力から前進駆動力に切り替えても良い。
【0077】
(B)
上記実施の形態では、物体検出部の一例としてカメラ8が用いられているが、これに限らなくても良く、レーザ等が併用されてもよいし、レーザ単独で用いられても良い。
【0078】
(C)
カメラ8から物体検知信号s4を受信した際に、コントローラ7は、運転席に設けられたランプなどによってオペレータに報知してもよい。
【0079】
(D)
後進時におけるカメラ8による物体検知後、後進クラッチ52を開放して前進クラッチ51を係合しているが、そのとき速度切換クラッチ(クラッチ53~56)も所定のクラッチ(例えば1速クラッチ54)を係合するように制御してもよい。
【0080】
(E)
上記実施の形態では、作業車両の一例としてホイールローダ1が挙げられているが、ホイールローダに限らなくても良く、フォークリフトなどであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の作業車両および作業車両の制御方法は、制動を確実に行うことが可能な効果を有し、例えばホイールローダなどとして有用である。
【符号の説明】
【0082】
1 :ホイールローダ
4 :走行輪
7 :コントローラ
8 :カメラ
31 :エンジン
41 :動力伝達部
42 :トランスミッション