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特開2023-85264皮膚への外的ダメージに対する防御効果の評価方法
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  • 特開-皮膚への外的ダメージに対する防御効果の評価方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085264
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】皮膚への外的ダメージに対する防御効果の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/33 20060101AFI20230613BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20230613BHJP
   G01N 21/59 20060101ALI20230613BHJP
   A61K 8/00 20060101ALI20230613BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20230613BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
G01N21/33
G01N33/15 Z
G01N21/59 Z
A61K8/00
A61K8/02
A61Q17/04
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033308
(22)【出願日】2023-03-06
(62)【分割の表示】P 2019569210の分割
【原出願日】2019-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2018018269
(32)【優先日】2018-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018151682
(32)【優先日】2018-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100149294
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 直人
(74)【代理人】
【識別番号】100137512
【弁理士】
【氏名又は名称】奥原 康司
(72)【発明者】
【氏名】長井 宏一
(72)【発明者】
【氏名】氏本 慧
(72)【発明者】
【氏名】水谷 彩香
(72)【発明者】
【氏名】永禮 由布子
(72)【発明者】
【氏名】八巻 悟史
(57)【要約】      (修正有)
【課題】日やけ止め化粧料等の皮膚外用剤の防御効果、特に紫外線防御効果に熱が与える影響を適切に評価できる方法を新たに提供する。
【解決手段】本発明の評価方法は、(1)基体上に皮膚外用剤の塗膜を形成する工程、(2)前記皮膚外用剤の塗膜を加熱処理する工程、及び(3)前記の加熱処理された皮膚外用剤の塗膜の紫外線防御効果を測定する工程を含むことを特徴とする。そして、前記加熱処理は、30℃~70℃の温度で、1分間以上実施するのが好ましい。また、前記紫外線防御効果を測定する工程は、SPF測定、UVAPF又はPFA測定、臨界波長測定、吸光度測定および透過率測定、及び何らかの紫外線防御効果を比較する試験法から選択される少なくとも1つを含むのが好ましい。また、本発明の評価方法は、インビボ又はインビトロで実施することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載された発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚外用剤の皮膚への外的ダメージに対する防御効果、特に日やけ止め化粧料等の紫外線防御効果の評価方法に関する。より詳細には、従来の紫外線防御効果の評価では考慮されていなかった加熱処理工程を意図的に組み込むことで、熱による紫外線防御効果の変化を適切に特定することを可能にした評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線、ブルーライト、可視光線、赤外線などの光線は、皮膚に影響があることが分かっており、それらによる皮膚への影響を低減する効果を示す皮膚外用剤(スキンケア化粧料等含む)が多く知られている。
とりわけ、日やけ止め化粧料は、化粧料に配合された紫外線吸収剤や紫外線散乱剤の作用によって、当該化粧料を塗布した皮膚に到達する紫外線量を低下させることにより、皮膚への悪影響を抑制する効果がある。
【0003】
日やけ止め化粧料の紫外線防御効果の指標としては、サンプロテクション・ファクター(Sun Protection Factor: SPF)が最も広く知られており、紫外線防御効果がSPF値(例えば、「SPF30」等)として表示される。我が国においては、UVA領域の紫外線に関してPFA(Protection Factor of UVA)又はUVAPF(UVA Protection factor of product)が用いられ、製品のUVA防御効果の程度が、PFA又はUVAPFの値に基づくPA(Protection grade of UVA)分類(「PA++」等)で表示されている。米国では、UVAとUVBの防御効果のバランスを示す臨界波長(Critical Wavelength: CW)が用いられている。
【0004】
日やけ止め化粧料の紫外線防御効果の測定法は、国際標準化機構(International Organization for Standardization: ISO)によって、インビボSPF測定法(2010年)及びインビボUVA防止効果測定法(2011年)が相次いで国際規格(International Standard: IS)として制定された。我が国においては、ISOに先駆けて、日本化粧品工業連合会(粧工連)が自主基準を設けていたが、現在では上記の国際規格を取り入れて国際ハーモナイゼーションされた測定法が確立されている(非特許文献1)。
【0005】
一方、上記のようなインビボ測定には、特定の肌タイプの被験者の協力が不可欠であり、手間とコストがかかるため、日やけ止め製品の紫外線防御効果をインビトロで簡便に測定する方法も種々提案されている。例えば、特許文献1では、インビトロ測定した値と相関性の高いSPF値が得られるインビトロ測定方法及び測定装置が記載されている。また、インビトロでのSPF予測値から紫外線防御効果を評価する方法及び装置も開発されている(特許文献2)
【0006】
近年、紫外線の皮膚への悪影響を抑制するため、UVAからUVBに渡る広い波長領域で高い紫外線防御効果を発揮する化粧料が求められるようになっており、例えば、SPF50以上(50+)及びPA++++を訴求した日やけ止め製品が上市されるに至っている。
【0007】
日やけ止め製品による紫外線防御効果は、配合されている紫外線吸収剤や紫外線散乱剤(酸化チタン、酸化亜鉛等)によって発揮されるが、紫外線吸収剤の中には光照射によって紫外線吸収能が低下するものがあり(例えば、特許文献3参照)、水分と接触することによって紫外線散乱剤が流出して防御能が低下することもある。従って、ISOにおいても紫外線防御効果の光安定性や耐水性の試験方法について検討されている(非特許文献1)。
【0008】
紫外線防御効果の光劣化を抑制するための工夫は多数提案されており(特許文献3)、耐水性に関しては、水分に接触しても紫外線防御効果が低下せず、逆に防御効果が向上するという革新的な性能を有する日やけ止め化粧料が開発されている(特許文献4)。
【0009】
しかしながら、熱に関しては、例えば、日やけ止め化粧料を含む乳化化粧料の乳化安定性に対する熱の影響を検討した例は存在するが(特許文献5)、加熱による紫外線防御効果の変化は今日まで検討対象とされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3337832号公報
【特許文献2】特許第4365452号公報
【特許文献3】特開2010-150172号公報
【特許文献4】WO2016/068300号公報
【特許文献5】特許第4397286号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】日本化粧品技術者会誌、第47巻、第4号、271~277頁、2013年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
よって本発明における課題は、皮膚外用剤の皮膚に影響を与える光線に対する防御効果に熱が与える影響、特に日やけ止め皮膚外用剤の紫外線防御効果に熱が与える影響を適切に評価できる方法を新たに提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、日やけ止め化粧料等の皮膚外用剤の評価方法であって、
(1)基体上に皮膚外用剤の塗膜を形成する工程、
(2)前記皮膚外用剤の塗膜を加熱処理する工程、及び
(3)前記の加熱処理された皮膚外用剤の塗膜の皮膚に影響を与える光線に対する防御効果、好ましくは紫外線防御効果を測定する工程、 を含むことを特徴とする評価方法を提供する。
【0014】
前記工程(1)と工程(2)は同時に実施してもよい。
前記紫外線防御効果を測定する工程は、SPF測定、UVAPF又はPFA測定、臨界波長測定、吸光度測定、透過率測定、及び何らかの紫外線防御効果を比較する試験法からなる群から選択される少なくとも1つを含むのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の評価方法によれば、日やけ止め等の皮膚外用剤の光線(紫外線等)防御効果に対する熱の影響を適切に評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の評価方法の概略を示す説明図である。
図2】インビボで実施するのに適した本発明の評価方法の一例を示す説明図である。
図3】本発明の方法に従って評価した日やけ止め化粧料の紫外線防御効果の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の日やけ止め化粧料等の皮膚外用剤の評価方法は、
(1)基体上に皮膚外用剤の塗膜を形成する工程、
(2)前記皮膚外用剤の塗膜を加熱処理する工程、及び
(3)前記の加熱処理された皮膚外用剤の塗膜の防御効果を測定する工程を含む。
なお、本発明の「皮膚外用剤」は、日やけ止め化粧料だけでなく、メークアップ化粧料、ヘアケア製品等を含んでもよく、また、本発明の「防御効果」は、紫外線からだけでなく、ブルーライトや可視光、赤外線等の光線からの防御効果を含んでもよい。
【0018】
図1は、本発明の評価方法の概略を説明する図である。
工程(1)においては、日やけ止め皮膚外用剤のサンプル(被験資料)1の所定量を基体2に塗布し、任意に乾燥させて、基体2上にサンプル1の塗膜を形成する。なお、形成されたサンプル塗膜の加熱前の紫外線防御効果(吸光度等)を測定する工程(1’)を任意に含んでいてもよい。
【0019】
次の工程(2)において、工程(1)で形成されたサンプル塗膜に熱を付与する。この加熱工程(2)は、基体上にサンプル塗布を形成した後に熱を付与してもよいし、工程(1)における基体を所定温度に加熱しておき、サンプルを塗布することによって加熱する(即ち、工程(1)と工程(2)を同時に実施する)ようにしてもよい。
【0020】
最後に、工程(3)において加熱処理されたサンプル塗膜の紫外線防御効果(吸光度等)を測定する。
【0021】
本発明の評価方法においては、上記サンプルと同一の日やけ止め皮膚外用剤の別のサンプル(第2サンプル)を準備し、前記工程(1)において基体の別の箇所に第2サンプルを塗布して任意に乾燥させて第2サンプル塗膜を形成し(工程1A)、当該第2サンプル塗膜には加熱処理(工程(2))を施さず好ましくは常温に保持し(工程2A)、工程(3)において非加熱の第2サンプル塗膜の紫外線防御効果を測定する工程(工程3A)を含んでいてもよい。さらに、加熱されたサンプル塗膜の紫外線防御効果と、非加熱の第2サンプル塗膜の紫外線防御効果とを比較する工程(4)を含んでいてもよい。
【0022】
一方、前記工程(1)において、加熱前のサンプル塗膜の紫外線防御効果の測定(工程(1’)を実施した場合には、当該加熱前の紫外線防御効果と工程(3)において測定した加熱後の紫外線防御効果とを比較する工程(4’)を含んでいてもよい。
【0023】
本発明の評価方法は、インビボ又はインビトロで実施することができる。
以下に詳述する。
【0024】
(A)インビボでの評価方法
図2は、インビボで実施される本発明の評価方法の一例を説明する図である。
以下は、紫外線防御効果測定としてSPF測定を採用した場合の例である。SPF測定方法の詳細に関しては、「日本化粧品連合会SPF測定法基準(2011年改訂)」及び「ISO24444 Cosmetics - Sun protection test methods - In vivo determination of the sun protection factor (SPF)」を参照されたい。
【0025】
まず、基体(被験者の皮膚)の所定部位に日やけ止め皮膚外用剤のサンプルを塗布し、任意に乾燥させてサンプル塗膜を形成する(図2(A))。その際、同一のサンプルを、基体の少なくとも2箇所に塗布して塗膜形成させるのが好ましい。図2においては、2種類のサンプル(1)及びサンプル(2)を、各々2箇所に塗布している。
【0026】
前記の所定部位としては、特に限定されないが、被験者の背中の肩胛骨から腰の間の領域とするのが好ましい。
【0027】
次いで、図2(B)に示すように、基体の少なくとも2箇所に形成されたサンプル塗膜の少なくとも1つに熱を付与する加熱処理を実施する。
【0028】
加熱処理に先立って、加熱する部位(「加熱部位」:図2(B)における右側)を加熱したときの熱が加熱処理しない部位(「非加熱部位」:図2(B)における左側)の温度を上昇させないような措置を講じておくのが好ましい。例えば、非加熱部位をタオルやアルミホイルといった断熱性又は遮熱性の部材で被覆しておく、あるいは、加熱部位と非加熱部位との中間に遮蔽材10を設けておくのが好ましい。前記の所定部位として、被験者の背中の肩胛骨から腰の間の領域を用いる場合には、遮蔽材10を被験者の背骨に沿って配設するのが好ましいが、それに限られるものではない。
【0029】
遮蔽材10は、例えば図2(B)における赤外線ランプ20から照射される熱(赤外線)を遮蔽して、熱が非加熱部位に到達することを防止するものである。遮蔽材10は、熱伝導率の低い材料、例えば、ウレタンフォーム等の発泡系断熱材、コルク、セルロースファイバー等の繊維系断熱材などからなる板状の部材を用いるのが好ましい。
【0030】
加熱の方法は特に限られず、例えば、赤外線ランプ20での赤外光照射等が好ましく用いられる。
また、加熱処理中は、加熱部位の温度が所定温度に保持されていることを確認するため、サーモグラフィーや温度計等で確認するのが好ましい。同時に、非加熱部位が温度変化していないこともサーモグラフィーや温度計等で確認するのが好ましい。
【0031】
加熱処理は、体表面温度より高く、かつ約45℃以下の温度で実施するのが好ましい。体表面温度は環境温度や被験者の状態(発熱の有無や運動前後など)によって変動し得る。好ましくは、被験者として健常者(発熱のない者)を選択し、適温(例えば25℃)に温度調節された環境で所定時間(例えば、10分間、30分間、あるいは1時間など)安静にした被験者の体表面温度を採用するのが好ましい。通常は30℃以上程度、場合によっては、32℃以上、35℃以上、あるいは37℃以上になることもある。加熱処理は、当該体表面温度より少なくとも1℃以上、好ましくは2℃以上、より好ましくは3℃以上高い温度以上で実施するのが好ましい。加熱処理温度の上限は、日やけ止め化粧料の実使用温度(例えば、夏季の太陽光照射下での体表面温度は40℃程度、場合によっては41℃~45℃になることもある)及び被験者の安全等を考慮して、約45℃以下とするのが好ましい。
加熱時間は、熱による影響を的確に評価するために、1分以上とするのが好ましく、より好ましくは10分以上である。加熱時間の上限としては、特に限定されないが、通常は60分以下、好ましくは30分以下である。
【0032】
加熱処理が終了した後、加熱部位の温度が低下して通常の皮膚温に戻るまで放置する。好ましくは、加熱部位と非加熱部位の温度が同等になったことをサーモグラフィーや温度計等で確認する。
【0033】
最後に、任意に遮蔽材10等を除去した後、各サンプル塗膜のSPFを測定する(図2(C))。
具体的には、被験部位のサンプル塗布部分及びサンプル塗布部分に近接した未塗布部分に紫外線を照射し、所定時間(通常は16~24時間)経過後、被照射部分の2/3以上の面積に境界明瞭な、僅かな紅斑を最初に惹起する最小の紫外線量(MED)を決定する。なお、サンプル塗布部分のMEDをMEDp、未塗布部分のMEDをMEDuと称する。
当該被験者について決定したMEDpi及びMEDuiとを用い、以下の式に従って、当該サンプルの当該被験者におけるSPF(SPFiともいう)を算出する。
【0034】
【数1】
【0035】
以上の工程を複数の被験者について実施し、各被験者において得られたSPFiの算術平均(小数点以下切り捨て)の値を当該サンプルのSPFとする。
【0036】
インビボで実施される本発明の評価方法において、紫外線防御効果の測定方法として、PA測定を採用する場合には、工程(1)及び(2)は上記と同様に実施し、工程(3)におけるSPF測定に代えて、好ましくは日本化粧品工業連合会UVA防止効果測定法基準(2012年改訂)又はISO24442に準じて測定したUVAPF又はPFAを算出し、以下の分類に従ってPAとして表示することができる。
【0037】
【表1】
【0038】
なお、被験者の皮膚に紫外線を照射してSPF、UVAPFを算出するインビボ測定においては、被験者に対して事前に説明文書を提示して測定の目的や内容を十分に説明し、文書による同意を得ておくのが好ましい。
また、医学的及び倫理的な配慮から、被験者はSPF測定を受ける前の最低4週間は被検部(背部)を太陽光に曝さないことが推奨されていることに鑑み、加熱処理前の紫外線防御効果の測定(工程(1’))は実施しないのが好ましい。
【0039】
(B)インビトロでの評価方法
本発明に係るインビトロの評価方法では、基体としてPMMA、ナイロン、又はアクリル板等の樹脂基板、ガラスや石英等の無機物板を用いることができる。さらには紙などの有機物でも良い。好ましくは、表面にV字形状の溝を設けたPMMA板からなる皮膚代替膜(「Sプレート」ともいう:特許第4453995号参照)等を用いる。
【0040】
図1に示した工程(1)において、基体表面に所定量の日やけ止め皮膚外用剤のサンプル(被験資料)を塗布し、任意に乾燥させてサンプル塗膜を形成する。
次いで、工程(2)においてサンプル塗膜を形成した基体を加熱する。加熱方法としては、上記した赤外線照射でもよいが、サンプル塗膜を形成した基体を所定温度に調整した恒温槽内に静置することによって実施してもよい。あるいは、予め所定温度に加熱した基体にサンプル塗膜を形成することにより、工程(1)と工程(2)を同時に実施することもできる。
【0041】
加熱温度は30℃~70℃の範囲とするのが好ましい。加熱温度が70℃を超えると樹脂製の基板が溶解する等の問題を生じることがある。前記範囲内の温度であれば特に限定されず、例えば32℃以上、35℃以上、37℃以上、あるいは40℃以上とすることができ、65℃以下、60℃以下、55℃以下、あるいは50℃以下の温度で加熱処理してもよい。
加熱時間は、熱による影響を的確に評価するために、1分以上とするのが好ましく、より好ましくは10分以上である。加熱時間の上限としては、特に限定されないが、通常は60分以下、好ましくは30分以下である。
【0042】
前記工程(1)においては、複数の基体の各々に同量の同一サンプルで塗膜を形成し、その内の少なくとも1つを工程(2)における加熱処理に供し(加熱サンプル)、残り(非加熱サンプル)は常温に保持しておくのが好ましい。
【0043】
工程(2)の終了後、好ましくは基体の温度が常温に戻るまで放置し、各基体のサンプル塗膜の所定波長(UVA又はUVB領域)における吸光度を測定する(工程(3))。
本発明における「吸光度測定」には、単一波長(紫外線領域)での吸光度測定と、所定の波長領域に渡る吸光度測定とが含まれる(臨界波長測定も含む)。
【0044】
工程(3)で測定した吸光度に基づいてSPF又はUVAPF(又はPFA)を算出して、それらを紫外線防御効果の指標としてもよい。
【0045】
また、工程(3)において、前記「加熱サンプル」の紫外線防御効果と「非加熱サンプル」の紫外線防御効果とを比較することにより、熱による紫外線防御効果の変化が検出できる。
【0046】
さらに、工程(1)で形成された各サンプル塗膜の吸光度を測定する工程(1’)を設けることにより、「加熱サンプル」及び「非加熱サンプル」の工程(1)と工程(3)における吸光度の変化が明らかになるので、それらの値を参照することにより、例えば経時的な変動といった熱に起因しない紫外線防御効果の変化を補償して、熱による変化を正確に把握することができる。
【0047】
インビボ及びインビトロの測定において、熱以外の要因の影響を排除する観点から、加熱処理(工程(2))を、紫外線を遮断した環境で実施するのが好ましい。
【0048】
以上詳述したように、本発明の評価方法は、インビトロ又はインビボでの実施によらず、同一の日やけ止め皮膚外用剤(化粧料)サンプルについて、加熱サンプルの紫外線防御効果と非加熱サンプルの紫外線防御効果とを直接比較することが可能である。紫外線防御効果を比較する試験法とは、感光紙によるものや、紫外線照射により色が変化する物質を利用する試験法を含む。
従って本発明の評価方法は、熱によって紫外線防御効果が変化する、好ましくは熱によって紫外線防御効果が向上する日やけ止め皮膚外用剤(化粧料)をスクリーニングする方法として利用できる。さらに本発明は、当該スクリーニング方法によって同定された、熱によって紫外線防御効果が向上する日やけ止め皮膚外用剤(化粧料)も提供する。
【実施例0049】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳述するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0050】
組成の異なる2種類の日やけ止め化粧料((a)及び(b))を調整した。各外用剤のサンプル(2mg/cm)を、複数の皮膚代替膜(Sプレート)に塗布して乾燥させた。
【0051】
(a)及び(b)の各サンプル塗膜を形成した皮膚代替膜の一部を恒温槽(36.4℃)に所定時間静置した。加熱処理後に各サンプルの紫外線防御効果(吸光度)を測定した。
【0052】
(a)及び(b)の各サンプルについて、非加熱サンプルの紫外線防御効果を「100」としたとき、加熱後の紫外線防御効果(吸光度)の変化を以下の式に従って算出した。
【数2】
なお、紫外線防御効果は280~400nmの波長領域の吸光度を積算した値を用いて算出した。結果を図3のグラフに示す。
【0053】
図3に示すように、サンプル(a)は、加熱による紫外線防御効果の変化は殆ど観察されなかったが、サンプル(b)は加熱時間が増加するのに伴い紫外線防御効果が著しく向上した。
即ち、本発明の評価方法を利用することにより、熱によって紫外線防御効果が向上するという従来には知られていない新規な特性を有する日やけ止め化粧料を的確に見出すことが可能となった。即ち、本発明の評価方法は、熱によって紫外線防御効果が変化するという特性を有する日やけ止め化粧料をスクリーニングする方法として用いることができる。
【0054】
本発明は以下の提要を包含する。
[第1項]皮膚外用剤の評価方法であって、
(1)基体上に皮膚外用剤の塗膜を形成する工程、
(2)前記皮膚外用剤の塗膜を加熱処理する工程、及び
(3)前記の加熱処理された皮膚外用剤の塗膜の皮膚に影響を与える光線に対する防御効果を測定する工程、
を含むことを特徴とする評価方法。
[第2項]前記(3)の皮膚に影響を与える光線が紫外線である、第1項に記載の評価方法。
[第3項]前記紫外線防御効果を測定する工程が、SPF測定、UVAPF又はPFA測定、臨界波長測定、吸光度測定、透過率測定、及び何らかの紫外線防御効果を比較する試験法から選択される少なくとも1つを含む、第2項に記載の評価方法。
[第4項]前記加熱処理が、紫外線を遮断した環境で実施される、第2項又は第3項に記載の評価方法。
[第5項]インビボで実施される、第2項から第4項のいずれか一項に記載の評価方法。
[第6項]前記加熱処理が、体表面温度より高く、かつ45℃以下の温度で、1分間以上実施される、第5項に記載の評価方法。
[第7項](1A)前記工程(1)と略同時に、前記基体の(1)における塗膜が形成されていない領域に、前記皮膚外用剤の別のサンプルの塗膜を形成する工程、
(2A)前記工程(2)が実施されるのと同じ時間、前記別のサンプル塗膜を常温に保持する工程、
(3A)前記工程(3)と略同時に、前記別のサンプル塗膜の紫外線防御効果を測定する工程を更に含む、第5項又は第6項に記載の評価方法。
[第8項]前記基体が動物の皮膚の所定部位であり、前記加熱処理が赤外線を照射することにより実施される、第5項から第7項のいずれか一項に記載の評価方法。
[第9項]前記動物がヒトであり、前記所定部位が背中の肩胛骨から腰の間の領域であり、工程(1)における皮膚外用剤塗膜が、背中の肩胛骨から腰の間を2分割した一方の部位(加熱)部位に形成され、工程(1A)における別のサンプル塗膜が前記2分割した他方の部位(非加熱部位)に形成される、第8項に記載の評価方法。
[第10項]前記工程(2)及び(2A)の前に、背中の肩胛骨と腰の間を2分割した一方の部位(加熱部位)と他方の部位(非加熱部位)との間を遮蔽材で仕切ることを含む、第9項に記載の評価方法。
[第11項]インビトロで実施される、第2項から第4項のいずれか一項に記載の評価方法。
[第12項]前記加熱処理が、30℃~70℃の温度で、1分間以上実施される、第11項に記載の評価方法。
[第13項]前記基体が樹脂製の皮膚代替膜である、第11項又は第12項に記載の評価方法。
[第14項]前記加熱処理が、
(A)皮膚外用剤を塗布したサンプルを恒温槽内に静置すること、又は
(B)赤外線を照射すること、により実施される、第11項から第13項のいずれか一項に記載の評価方法。
[第15項]工程(1)の後に、基体上の塗膜の紫外線防御効果を測定することを更に含む、第11項から第14項のいずれか一項に記載の評価方法。
[第16項]第2項から第15項のいずれか一項に記載の評価方法を実施し、
次いで、加熱したサンプル塗膜の紫外線防御効果と非加熱のサンプル塗膜の紫外線防御効果とを比較することにより、熱によって紫外線防御効果が向上する日やけ止め化粧料を同定する工程を含む、日やけ止め化粧料のスクリーニング方法。
[第17項]第16項に記載のスクリーニング方法で同定される、熱によって紫外線防御効果が向上する日やけ止め化粧料。
【符号の説明】
【0055】
1:サンプル、2:基体、10:遮蔽材、20:赤外線ランプ
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2023-04-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚外用剤の評価方法であって、
(1)基体上に皮膚外用剤の塗膜を形成する工程、
(2)前記皮膚外用剤の塗膜を加熱処理する工程、
(3)前記の加熱処理された皮膚外用剤の塗膜の紫外線に対する防御効果を測定する工程、
を含むことを特徴とする評価方法。