(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085268
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】老化細胞によって引き起こされるかまたは媒介される状態の臨床管理における使用のためおよびがんを治療するための、Bclファミリーアンタゴニストであるアシルスルホンアミド
(51)【国際特許分類】
C07D 207/34 20060101AFI20230613BHJP
A61K 31/496 20060101ALI20230613BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230613BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20230613BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230613BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230613BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230613BHJP
C07D 401/12 20060101ALI20230613BHJP
C07F 9/59 20060101ALI20230613BHJP
A61K 31/661 20060101ALN20230613BHJP
【FI】
C07D207/34 CSP
A61K31/496
A61P11/00
A61P19/02
A61P27/02
A61P35/00
A61P43/00 105
C07D401/12
C07F9/59
A61K31/661
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034166
(22)【出願日】2023-03-07
(62)【分割の表示】P 2020569185の分割
【原出願日】2019-06-13
(31)【優先権主張番号】62/684,681
(32)【優先日】2018-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】517274752
【氏名又は名称】ユニティ バイオテクノロジー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ビューソレイユ アン-マリー
(72)【発明者】
【氏名】ハドソン ライアン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】変形性関節症、眼疾患、肺疾患等の、老化細胞によって引き起こされるかまたは媒介される状態を治療するための、Bclファミリーアンタゴニストを提供する。
【解決手段】例えば、下式のスルホンアミド化合物が示される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載された発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先出願
本願は、すべて2018年6月13日に出願の米国仮特許出願第62/684,681号の優先権を主張する。当該優先出願は、あらゆる目的でそれらの全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
下に開示されかつ権利請求される技術は概して、老化細胞、および加齢関連状態におけるそれらの役割、の分野に関する。特に、本開示は、Bclタンパク質活性を阻害する新規小分子化合物を提供する。
【背景技術】
【0003】
背景
老化細胞は、もはや複製能力を有さないが、起源の組織に残存しており、細胞老化関連分泌現象(SASP)を誘発する細胞として特徴付けられる。本開示は、多くの加齢関連状態が老化細胞によって媒介されること、および該状態にあるかまたはその状態に近い場合に、組織からの該細胞の選択的除去をそのような状態の治療のために臨床的に用いることができること、を前提としている。
【0004】
米国特許第10,130,628号(特許文献1)(Laberge et al.)は、MDM2阻害剤、Bcl阻害剤、およびAkt阻害剤を用いた、老化細胞によって少なくとも部分的に媒介されると考えられる特定の加齢関連状態の治療を記載している。US 20170266211 A1(特許文献2)(David et al.)は、加齢関連状態の治療のための具体的なBcl阻害剤の使用を記載している。米国特許第8,691,184号(特許文献3)、米国特許第9,096,625号(特許文献4)、および米国特許第9,403,856号(特許文献5)(Wang et al.)は、小分子ライブラリにおけるBcl阻害剤を記載している。
【0005】
ヒト疾患における老化細胞の役割に関連する他の開示は、付与前の公報であるUS 2017/0056421 A1(特許文献6)(Zhou et al.)、WO 2016/185481(特許文献7)(Yeda Inst.)、US 2017/0216286 A1(特許文献8)(Kirkland et al.)、およびUS 2017/0281649 A1(特許文献9)(David);ならびにFurhmann-Stroissnigg et al. (Nat Commun. 2017 (Sep 4); 8(1):422)(非特許文献1)、Blagosklonny (Cancer Biol Ther. 2013 Dec; 14(12):1092-7)(非特許文献2)、およびZhu et al. (Aging Cell. 2015 Aug;14(4):644-58)(非特許文献3)による論文を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第10,130,628号
【特許文献2】US 20170266211 A1
【特許文献3】米国特許第8,691,184号
【特許文献4】米国特許第9,096,625号
【特許文献5】米国特許第9,403,856号
【特許文献6】US 2017/0056421 A1
【特許文献7】WO 2016/185481
【特許文献8】US 2017/0216286 A1
【特許文献9】US 2017/0281649 A1
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Furhmann-Stroissnigg et al. (Nat Commun. 2017 (Sep 4); 8(1):422)
【非特許文献2】Blagosklonny (Cancer Biol Ther. 2013 Dec; 14(12):1092-7)
【非特許文献3】Zhu et al. (Aging Cell. 2015 Aug;14(4):644-58)
【発明の概要】
【0008】
概要
以下の開示は、老化細胞を選択的に排除するための戦略を概説し、有効な化合物、薬学的組成物、開発戦略、および治療プロトコルを提供し、それに続く多くの利点を記載している。
【0009】
Bcl阻害剤の新規なファミリーが開発された。このファミリーにおけるBcl阻害剤のいくつかは、特に効果的な老化細胞死滅剤である。本開示の化合物および組成物と、インビトロまたはインビボで老化細胞を接触させることは、そのような細胞を選択的に調節するかまたは排除する。該阻害剤は加齢関連状態を有する対象における標的組織への投与のために用いることができ、これにより組織内またはその周囲の老化細胞を選択的に排除し、状態の1つまたは複数の症状または徴候を緩和する。あるいはまたはさらに、該ファミリーからの選択された化合物は、化学療法剤として製剤化し、販売することができる。
【0010】
[本発明1001]
式(I)の化合物:
であって、式中、
X
1が、-Clであり;
X
2が、-COOHであり;
X
3が、-SO
2CF
3、-SO
2CH
3、または-NO
2であり、
X
5が、-Fまたは-Hであり;
R
1が、-CH(CH
3)
2あり;
R
2が、-CH
3であり;
R
3およびR
4がいずれも、-Hであり;
n
1が、2であり;かつ
R
6が、-OH、
より選択され;
ここで、R
6における水酸基はリン酸化されていてもよいが、但しX
3が-SO
2CF
3である場合、R
6における水酸基はリン酸化されていなければならない、
化合物。
[本発明1002]
R
6が、-OR
7、
であり、かつ
R
7が、-H、-P(O)(OH)
2、または-(C
nH
2n)P(O)(OH)
2(ここでnは1~4である)であるが;
但しX
3が-SO
2CF
3である場合、R
7は-P(O)(OH)
2または-(C
nH
2n)P(O)(OH)
2である、
本発明1001の化合物。
[本発明1003]
X
3が、-SO
2CF
3である、本発明1001または本発明1002の化合物。
[本発明1004]
X
3が、-SO
2CH
3である、本発明1001または本発明1002の化合物。
[本発明1005]
X
3が、-NO
2である、本発明1001または本発明1002の化合物。
[本発明1006]
X
5が、-Fである、本発明1001~1005のいずれかの化合物。
[本発明1007]
X
5が、-Hである、本発明1001~1005のいずれかの化合物。
[本発明1008]
R
6が、-OHである、本発明1001~1007のいずれかの化合物。
[本発明1009]
R
6が、
である、本発明1001~1007のいずれかの化合物。
[本発明1010]
R
6が、
である、本発明1001~1007のいずれかの化合物。
[本発明1011]
R
6における水酸基がリン酸化されている、本発明1001~1010のいずれかの化合物。
[本発明1012]
R
6における水酸基が-PO
3H
2でリン酸化されている、本発明1010の化合物。
[本発明1013]
X
3が-SO
2CF
3ではなく、R
6における水酸基がリン酸化されていない、本発明1001~1010のいずれかの化合物。
[本発明1014]
X
2におけるカルボキシル基がリン酸化されている、本発明1001~1012のいずれかの化合物。
[本発明1015]
表1Aに列挙された化合物より選択される、本発明1001または本発明1002の化合物。
[本発明1016]
以下:
より選択される、本発明1001または本発明1002の化合物。
[本発明1017]
アポトーシス促進活性を有する、先行する本発明のいずれかの化合物。
[本発明1018]
p16を発現する非がん性細胞として規定される老化細胞を、非老化細胞と比較して特異的に死滅させる、先行する本発明のいずれかの化合物。
[本発明1019]
同じ組織型の非がん細胞と比較して、がん細胞を特異的に死滅させる、先行する本発明のいずれかの化合物。
[本発明1020]
Bcl-xLに対するIC
50が1nM未満である、および/またはBcl-2に対するIC
50が10nM未満である、先行する本発明のいずれかの化合物。
[本発明1021]
放射線照射されたIMR90細胞またはHRMEC細胞に対するLD
50が1μM未満である、先行する本発明のいずれかの化合物。
[本発明1022]
放射線照射されたIMR90細胞に対するLD
50が、コンフルエントなIMR90細胞に対するLD
50または増殖性IRM90細胞に対するLD
50の、3分の1以下である、先行する本発明のいずれかの化合物。
[本発明1023]
薬学的に適合性のある賦形剤中に、先行する本発明のいずれかの化合物を含む、薬学的組成物。
[本発明1024]
細胞、細胞集団または組織を、本発明1001~1023のいずれかの化合物または組成物と接触させる工程
を含む、混合細胞集団または組織から老化細胞および/またはがん細胞を選択的に除去する方法。
[本発明1025]
対象における組織中の老化関連状態(ここで、老化関連状態は、老化細胞によって少なくとも部分的に引き起こされるかもしくは媒介されることを特徴とするか、または影響を受けていない組織と比較して組織内もしくはその周囲に老化細胞を過剰に有することを特徴とする)を治療する方法であって、以下の工程を含む、方法:
それを必要とする対象の組織に、組織から老化細胞を選択的に除去するのに有効な量の本発明1001~1023のいずれかの化合物または組成物を投与する工程であって、これにより、対象における老化関連状態の1つまたは複数の症状を、軽減させるまたは寛解させる、工程。
[本発明1026]
老化細胞によって少なくとも部分的に引き起こされるかまたは媒介される老化関連状態の治療における使用向けに構成された、Bcl機能を阻害する量の化合物
を含む、薬学的組成物の単位用量であって、
化合物は、本発明1001~1022のいずれかの化合物であり、
組成物は、老化関連状態を呈する対象における標的組織への投与向けに構成された化合物の製剤を含み、
単位用量中の化合物の製剤および量は、対象における組織内またはその周囲の老化細胞を選択的に除去するのに効果的になるよう単位用量を構成し、これにより単回用量として組織に投与された場合に、対象において有害作用を引き起こすことなく状態の1つまたは複数の徴候または症状の重篤さを低減する、
薬学的組成物の単位用量。
[本発明1027]
老化細胞関連状態を治療する際の薬剤の使用および付随する利点を記載した情報の添付文書と共に包装されている、本発明1026の単位用量。
[本発明1028]
組織または混合細胞集団から老化細胞を選択的に排除する際の使用のためまたは老化関連状態を治療する際の使用のための、本発明1001~1022のいずれかの化合物または本発明1023の薬学的組成物。
[本発明1029]
老化関連状態を治療するための薬の製造における、本発明1001~1022のいずれかの化合物の使用。
[本発明1030]
状態が、変形性関節症である、本発明1025~1029のいずれかの方法、製品、または使用。
[本発明1031]
状態が、眼の状態である、本発明1025~1029のいずれかの方法、製品、または使用。
[本発明1032]
状態が、肺の状態である、本発明1025~1029のいずれかの方法、製品、または使用。
[本発明1033]
がんを治療する方法であって、以下の工程を含む、方法:
それを必要とする対象の組織に、組織からがん細胞を選択的に除去するのに有効な量の本発明1001~1023のいずれかの化合物または組成物を投与する工程。
[本発明1034]
組織または混合細胞集団からがん細胞を選択的に排除する際の使用のためまたはがんを治療する際の使用のための、本発明1001~1022のいずれかの化合物または本発明1023の薬学的組成物。
本発明は、以下の説明において、図面において、および添付の特許請求の範囲において、記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る例示的化合物を化学的に合成するための、一般的な合成スキームを示す。
【
図2】
図2A、2B、および2Cは、変形性関節症動物モデルにおける老化細胞マーカーp16、IL-6、およびMMP13の発現を、それぞれ示す。老化の表現型は、MDM2を阻害する老化細胞死滅剤であるヌトリン3Aによって、寛解させることができる。本発明に係るBcl阻害剤は、同じ目的のための老化細胞死滅剤として選択することができる。
【
図3】
図3Aは、効果的な老化細胞死滅剤が変形性関節症モデルにおいて治療マウスと同等な体重負荷を回復させることを示す。
図3B、3C、および3Dは、これらのマウスにおける関節の組織病理を示す画像である。該薬剤による治療は、プロテオグリカン層の破壊を防止するかまたは反転させるのに役立つ。
【
図4】
図4Aおよび4Bは、老化細胞死滅剤を硝子体内投与した場合の、マウス酸素誘導性網膜症(OIR)モデルにおける血管新生および血管閉塞の両方の反転を示す。
図4Cおよび4Dは、糖尿病性網膜症のストレプトゾトシン(STZ)モデルから得られる。STZ誘導血管漏出は、老化細胞死滅剤の硝子体内投与によって軽減される。
【
図5】老化細胞を除去することが、紙巻きタバコの煙(CS)によって誘導されるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)のマウスモデルにおいて、酸素飽和度(SPO
2)を回復させるのに役立つことを示す。
【
図6】LDL受容体が欠損した近交系マウスに高脂肪食を与えたアテローム性動脈硬化症のマウスモデルから取得したデータを示す。右のパネルは、大動脈におけるプラークの染色を示す。中央のパネルは、プラークで覆われた大動脈の表面積が、老化細胞死滅剤での処理によって減少したことを定量的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
老化細胞は、もはや複製能力を有さないが、起源の組織に残存しており、細胞老化関連分泌現象(SASP)を誘発する細胞として特徴付けられる。本開示は、多くの加齢関連状態が老化細胞によって媒介されること、および、該状態にあるかまたはその状態に近い場合に、組織からの該細胞の選択的除去をそのような状態の治療のために臨床的に用いることができること、を前提としている。
【0013】
下に記載されかつ権利請求される技術は、加齢関連状態の治療の目的で、標的組織から老化細胞を選択的に排除するために用いることができる新規なクラスのBcl阻害剤の初めての説明を示している。
【0014】
Bclタンパク質活性の阻害
Bclタンパク質ファミリー(TC# 1.A.21)は、Bcl-2相同(BH)ドメインを共有する、進化の過程で保存されたタンパク質を含む。Bclタンパク質は、ミトコンドリアでの、プログラム細胞死の一形態であるアポトーシスを、上方または下方制御するそれらの能力が最もよく知られている。以下の説明は、本開示の化合物の科学的根拠のいくつかをユーザーが理解するのを助けるために提供される。これらの概念は発明を実施するためには必要ではないし、明示的に記載されているかまたは要求されていることを超えて本明細書において記載の化合物および方法の使用を何ら限定するものではない。
【0015】
本開示の文脈において、特に関心のあるBclタンパク質は、アポトーシスを下方制御するものである。抗アポトーシスBclタンパク質はBH1およびBH2ドメインを含み、それらのいくつかは追加のN末端BH4ドメインを含み(Bcl-2、Bcl-x(L)およびBcl-w(Bcl-2L2))、これらのタンパク質を阻害することは、アポトーシスに対する細胞の速度または感受性を増加させる。よって、そのようなタンパク質の阻害剤を、該タンパク質が発現される細胞を排除するのに役立つように用いることができる。
【0016】
2000年代半ば、アボットラボラトリーズ社(Abbott Laboratories)はABT-737(Navitoclax)として公知であるBcl-2、Bcl-xLおよびBcl-wの新規阻害剤を開発した。この化合物は、これらのBcl-2ファミリータンパク質を標的とするがA1またはMcl-1は標的としない、BH3模倣小分子阻害剤(SMI)群の一部である。ABT-737は、Bcl-2、Bcl-xLおよびBcl-wに対する親和性がより高いため、それまでのBCL-2阻害剤よりも優れている。インビトロ研究は、B細胞悪性腫瘍の患者からの初代細胞がABT-737に感受性があることを示した。ヒト患者では、ABT-737はいくつかのタイプのがん細胞に対して効果があるものの、用量を制限する血小板減少症がおこりやすい。
【0017】
ここに記載する新規化合物は、Bclタンパク質の活性部位に適合して、強力なBcl阻害を提供しかつ/または標的細胞のアポトーシスを促進することが、今回発見された。これらの化合物は、次のセクションで説明するように、老化細胞およびがん細胞を標的とする非常に強力かつ特異的な薬物として開発することができる。
【0018】
モデル化合物
本発明の化合物の多くは、下に示す式の範囲内に入る構造を有し、
式中、
X
1は、ハロゲン化物、好ましくは-Clであり;
X
2は、-COOHであり;
X
3は、-SO
2CF
3、-SO
2CH
3、または-NO
2であり;
X
5は、-Fまたは-Hであり;
R
1は、-CH(CH
3)
2であり;
R
2は、-Hまたは-CH
3のいずれか、好ましくは-CH
3であり;
R
3およびR
4は独立して、-Hまたは-CH
3のいずれか、好ましくはいずれも-Hであり;
n
1は、1~3、好ましくは2であり;かつ
R
6は、-OH、
より選択され;
ここで、R
6における水酸基はリン酸化されていてもよい。
【0019】
式中の可能な構成要素のいずれも、X3が-SO2CF3である場合には、R6における水酸基はリン酸化されていなければならないという条件を伴っている。どの前述の選択肢との組み合わせにおいても、X2の-COOH基は、ユーザーの任意選択で、該水酸基と共に、またはそれ代わってリン酸化されていてもよい。
【0020】
化合物の「リン酸化」形態は、リン酸基がインビボで(例えば、酵素分解によって)除去され得るように、1つまたは複数の-OHまたはCOOH基が、-OPO3H2または-CnPO3H2(ここでnは1~4である)のいずれかである、リン酸基で置換された化合物である。非リン酸化または脱リン酸化形態は、そのような基を有していない。
【0021】
明示的に記載されていないかまたは別段の必要がない場合、立体化学を用いずに示された化合物はすべての立体異性体のラセミ混合物、および代替的にはいずれかの鏡像異性体による鏡像異性的に純粋な調製物を含む。式Iの化合物のいずれも、必ずしもというわけではないが、通常は下の式I:
に示される立体化学を有しており、これは、以下:
のように示すこともでき、式中、各R
3は独立して、-Hまたは-CH
3のいずれかである。
【0022】
本発明の化合物の多くは、下に示す式IIの範囲内に入る構造を有しており、
これは、以下:
のように示すこともでき、式中、
X
1は、-Clであり;
X
2は、-COOHであり;
X
3は、-SO
2CF
3、-SO
2CH
3、または-NO
2であり;
X
5は、-Fまたは-Hであり;
R
1は、-CH(CH
3)
2であり;
R
2は、-CH
3であり;
R
3およびR
4はいずれも、-Hであり;
n
1は、2であり;かつ
R
6は、-OR
7、
であり、かつ
R
7は、-H、-P(O)(OH)
2、または-(C
nH
2n)P(O)(OH)
2(ここでnは1~4であるかまたは1~8である)であるが;
但しX
3が-SO
2CF
3である場合、R
7は、-P(O)(OH)
2または-(C
nH
2n)P(O)(OH)
2である。これは、示されているR
7の酸形態および、R
7が-P(O)(ONa)
2または-(C
nH
2n)P(O)(ONa)
2である場合などの塩形態の両方を別々および共に含む。
【0023】
特定の文脈における組成物としてまたは使用のために、本開示において列挙される各化学種、および/または各構造式は、U.S. Patents 8,691,184、9,096,625、および9,403,856(Wang et al.)のいずれにも明示的かつ厳密には図示されていないかまたは記載されていないという条件で、任意で使用されるかまたは権利請求され得る。本開示において列挙される各化学種、および/または各構造式は、US 20170266211 A1 (David et al.)に明示的かつ厳密には図示されていないかまたは記載されていないという条件で、任意で使用されるかまたは権利請求され得る。
【0024】
本開示に係る調製および/または使用に適し得る例示的化合物を表1Aに示す。
【0025】
【0026】
老化細胞死滅剤としてまたは本開示に係る老化関連疾患の治療のために試験および開発することができる他の化合物は表1Bに示す化合物を含む。
【0027】
【0028】
老化細胞分解活性および化学療法的活性について化合物を評価
本開示に記載のこれらおよび他の化合物は、それらが医薬の調整およびヒト治療における使用のための活性作用物質として使用するための候補薬剤であることを示す様式でそれらが作用する能力について分子レベルで評価することができる。
【0029】
例えば、療法が、Bcl-2、Bcl-xL、Bcl-w、または他のBclファミリータンパク質を介して老化細胞のアポトーシスを誘発する工程を含む場合、化合物は、1つまたは複数のBclタンパク質と、それらの個々の同族リガンドとの間の結合を阻害する能力について、試験することができる。実施例1は、Bclアイソフォームへの結合を決定する目的のための均一アッセイ(分離工程を必要としないアッセイ)の説明を提供する。化合物は、標的アイソフォームと相互作用して、これにより老化細胞の死滅を引き起こすそれらの能力について分子レベルでスクリーニングすることができる。実施例2および3は、この目的のために設計されたアッセイの説明を提供する。
【0030】
あるいはまたはさらに、化合物は、特異的に老化細胞を死滅させる能力について評価することができる。培養細胞を化合物と接触させ、細胞毒性または細胞の阻害の程度を決定する。化合物が老化細胞を死滅させるかまたは阻害する能力は、低密度で自由に分裂する正常細胞、および高密度で静止状態にある正常細胞に対する化合物の効果と比較することができる。実施例2および3は、ヒト標的組織線維芽細胞IMR90細胞株およびHUVEC細胞を用いた、老化細胞死滅化の説明を提供する。同様のプロトコルが公知であり、また他の老化細胞および他の細胞種、例えばがん細胞を死滅させるかまたは阻害する細胞の能力を試験するために、開発するかまたは最適化することができる。
【0031】
インビトロで老化細胞を選択的に死滅させるのに有効な候補Bcl阻害剤は、特定の疾患について動物モデルにおいてさらにスクリーニングすることができる。以下の実施例部分の実施例4、5、6、および7はそれぞれ、変形性関節症、眼疾患、肺疾患、およびアテローム性動脈硬化症についての説明を提供する。
【0032】
あるいは、またはさらに、化合物は、特異的にがんまたは腫瘍細胞を死滅させる能力について評価することができる。培養細胞を化合物と接触させ、該細胞に対する細胞毒性の程度および/または細胞増殖を阻害する能力を決定する。がん細胞に対する効果は、培養下の、同じ元の組織型の正常細胞に対する化合物の効果と比較することができる。化合物はまた、樹立動物モデルにおける腫瘍を除去する、がん細胞の成長を阻害する、ならびにがんの症状および徴候を治療するそれらの能力について、試験することができる。実施例8は、化学療法剤としての本開示における化合物の可能性を評価するための、インビトロおよびインビボアッセイの説明を提供する。
【0033】
薬の製剤化
本開示に係る使用のための医薬品の調製および製剤化は、例えば、現行版のRemington: The Science and Practice of Pharmacyに記載されているような標準的な技術を組み込むことができる。製剤化は、典型的には、標的老化細胞への活性剤のアクセスを向上し、かつ、治療されている状態に関与していない組織に対する副作用または曝露を最小限に抑えながら効果の至適期間を提供する様式で、例えば局所投与による、標的組織への投与向けに、最適化される。
【0034】
老化関連状態および他の疾患を治療する際の使用のための薬学的製剤は、Bcl阻害剤を薬学的に許容される基剤または担体、および必要に応じて1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤と混合することによって調製することができる。標的組織に応じて、持続性または持効性の放出のための薬学的組成物を製剤化することが適切な場合がある。経口持効性製剤は、異性体バリアント、結合剤、またはコーティング剤の混合物を含み得る。注射可能な持効性製剤は、結合剤、カプセル化剤、または微粒子と組み合わせた活性剤を含み得る。変形性関節症などの関節疾患の治療のためには、薬学的組成物は、典型的には関節内投与向けに製剤化される。緑内障、糖尿病性網膜症または加齢性黄斑変性症(AMD)などの眼疾患の治療のためには、組成物は硝子体内または前房内投与向けに製剤化され得る。肺疾患の治療のためには、組成物はエアロゾルとして、または気管内投与向けに製剤化され得る。
【0035】
本開示は、本開示において記載の1つまたは複数の薬剤または組成物の単位用量を同梱したキットである市販品を提供する。そのようなキットは、典型的には1つまたは複数の容器に薬学的製剤を含む。製剤は、1つまたは複数の単位用量(組み合わせまたは別々のいずれか)として提供し得る。キットは、その必要がある対象の標的組織内またはその周囲への薬剤または組成物の投与のための注射器などの装置を含み得る。製品はまた、老化細胞関連状態を治療する際の薬剤の使用および付随する利点を記載した情報の添付文書と、任意で組成物の治療的送達のための器具または装置とを含むかまたは伴い得る。
【0036】
治療設計
老化細胞は年齢とともに蓄積され、これが、老化細胞によって媒介される状態が、高齢者でより頻繁に起こる理由である。さらに、肺組織に対する様々な種類のストレスが老化細胞の出現およびそれらが現れる表現型を促進し得る。細胞ストレッサーは、酸化ストレス、代謝ストレス、DNA損傷(例えば、環境紫外光曝露または遺伝的障害の結果として)、がん遺伝子の活性化、およびテロメア短縮(例えば、過剰増殖から生じる)を含む。そのようなストレッサーに晒される組織は、老化細胞の保有率がより高い可能性があり、これは翻って、より若い年齢でまたはより重症の形態で、特定の状態の発症につながり得る。特定の状態に対する遺伝的感受性は、疾患を媒介する老化細胞の蓄積が、直接的または間接的に遺伝的要素によって影響され得、これがより早期の発症につながる場合があることを示唆している。
【0037】
老化細胞パラダイムの利点のうちの1つは、老化細胞がうまく除去されると対象に長期的な治療効果を提供し得ることである。老化細胞は本質的には非増殖性であり、これは、単なる増殖よりも遥かに時間がかかるプロセスである、組織内の非老化細胞の老化細胞への変換によってのみ、組織がより多くの老化細胞で満たされ得ることを意味する。一般的原理として、標的組織から老化細胞を除去するのに十分な老化細胞死滅剤による治療期間(単回用量または、例えば、数日間、1週間、もしくは数ヶ月間の期間にわたって毎日、週2回、もしくは週1回与えられる複数回用量)は、老化細胞死滅剤が投与されない有効期間(例えば、2週間、1ヶ月間、2ヶ月間、またはそれ以上)を対象に提供し得、対象は、治療されている状態の1つまたは複数の有害な徴候または症状の緩和、軽減、または回復を経験する。
【0038】
本開示に係る老化細胞死滅剤で特定の老化関連状態を治療するためには、治療レジメンは、老化細胞の場所および疾患の病態生理に応じて異なるであろう。
【0039】
治療に適する老化関連状態
本開示のBcl阻害剤は、様々な老化関連状態の予防または治療のために用いることができる。そのような状態は、典型的には(必ずというわけではないが)、状態の部位内またはその周辺の老化細胞(p16および他の老化マーカーを発現する細胞など)またはp16および他の老化マーカーの発現が、そのような細胞の頻度または影響を受けていない組織におけるそのような発現のレベルと比較して過剰であることによって特徴付けられる。現状で着目する非限定例は、以下のセクションで説明するように変形性関節症、眼疾患、および肺疾患の治療を含む。
【0040】
変形性関節症の治療
本開示に列挙するBcl阻害剤のいずれも、本開示に従って変形性関節症を治療するために開発することができる。同様に、本開示に列挙するBcl阻害剤は、変形性関節症に侵された関節を非限定的に含む、それを必要とする対象における関節内またはその周辺の老化細胞を選択的に排除するために開発することができる。
【0041】
変形性関節症の変形性関節疾患は、高い機械的ストレス、骨硬化症、ならびに滑膜および関節包の肥厚の部位での軟骨の細線維化を特徴とする。細線維化は、軟骨の表層の分離を伴う、局所的な表面の崩壊である。初期の分離は、多くあるコラーゲン束の軸線に沿って軟骨表面と接線方向に起きる。軟骨内のコラーゲンが崩壊し、軟骨表面からプロテオグリカンが失われる。関節にプロテオグリカンの保護および潤滑効果がない場合、コラーゲン繊維は分解を受けやすくなり、機械的破壊が起こる。変形性関節症を発症する要因となる危険因子は、加齢、肥満、過去の関節損傷、関節の使いすぎ、大腿筋の弱さ、および遺伝を含む。変形性関節症の症状は、無活動状態または過度の使用後の、関節、特に股関節、膝、腰の痛みまたはこわばり;運動すると解消する、休止後のこわばり;および活動後または一日の終わりに向けて悪化する痛み、を含む。
【0042】
本開示に係る化合物は、関節におけるプロテオグリカン層の喪失または侵食を、減少するかまたは阻害するために用いることができ、影響を受けた関節における炎症を減少させ、かつコラーゲン、例えば、2型コラーゲンの産生を促進するか、刺激するか、向上するか、または誘導する。化合物は、関節で産生されるIL-6などの炎症性サイトカインの量つまりレベルの減少を引き起こし得、炎症が減少する。化合物は、変形性関節症を治療するためおよび/または対象の関節におけるコラーゲン、例えば、2型コラーゲンの産生を誘導するために用いることができる。化合物はまた、関節におけるコラーゲンを分解するメタロプロテイナーゼ13(MMP-13)の産生を低下させるか、阻害するか、または減少させるために、およびプロテオグリカン層を修復するかまたはプロテオグリカン層の喪失および/もしくは分解を阻害するために用いることができる。これにより、化合物による治療はまた、骨の侵食の可能性を減少させるか、侵食を阻害するか、または侵食を低下させるか、または侵食を遅延し得る。化合物は、変形性関節症の関節に直接、例えば、関節内、局所、経皮、皮内、または皮下的に投与し得る。化合物はまた、関節の強度の低下を回復させるか、改善するか、または阻害し、関節痛を軽減し得る。
【0043】
眼の状態の治療
本開示に列挙されているBcl阻害剤のいずれも、対象の眼内またはその周囲の老化細胞を除去することによって、それを必要とする対象における眼の状態を予防するかまたは治療するために用いることができ、これにより疾患の少なくとも1つの兆候または症状の重症度が低下する。そのような状態は眼底疾患および前眼疾患の両方を含む。同様に、本開示に列挙するBcl阻害剤は、それを必要とする対象における眼組織内またはその周辺の老化細胞を選択的に排除するために開発することができる。
【0044】
本開示に従って治療することができる眼の疾患は、老眼、黄斑変性症(滲出型または萎縮型AMDを含む)、糖尿病性網膜症、および緑内障を含む。
【0045】
黄斑変性症は、眼底疾患として特徴付けることができる神経変性状態であり、黄斑と呼ばれる網膜中央部における視細胞の喪失を引き起こす。黄斑変性症は、萎縮型または滲出型であってもよい。萎縮型は滲出型よりも一般的であり、加齢性黄斑変性症(AMD)患者の約90%が萎縮型と診断される。萎縮型AMDは網膜色素上皮(RPE)層の萎縮に伴い、これは視細胞の喪失を引き起こす。滲出型AMDでは、新しい血管が網膜の下に成長して血液および体液が漏出し得る。異常に漏出性の脈絡膜血管新生は、網膜細胞が死滅する原因となることがあり、中心視に盲点を作り出す。黄斑のブルッフ膜下の滲出液つまり「ドルーゼン」の形成が、黄斑変性症が現れていることの身体的な兆候となることがある。黄斑変性症の症状は、例えば、歪み、および色覚異常を含む。
【0046】
別の眼底疾患は、糖尿病性網膜症(DR)である。ウィキペディアによると、DRの最初の段階は非増殖性であり、典型的には、実質的な症状または兆候はない。NPDRは眼底撮影によって検出可能であり、眼底撮影では、微小動脈瘤(動脈壁における微細な血液の充満した膨らみ)を見ることができる。視力の低下がある場合、フルオレセイン血管造影を行って眼底を見ることができる。網膜血管の狭窄または閉塞をはっきりと見ることができ、これは網膜虚血(血流の不足)と呼ばれる。血管の内容物が黄斑領域に漏出する黄斑浮腫は、NPDRのどの段階でも起きることがある。黄斑浮腫の症状は、目のかすみおよび両眼で異なる暗く歪んだ像である。光コヒーレンストモグラフィーは、黄斑浮腫の網膜肥厚(体液の蓄積による)の領域を示すことができる。DRの第2段階では、増殖性糖尿病性網膜症(PDR)の一部として異常な新しい血管が眼底に形成され(血管新生)、これは破裂して出血(硝子体出血)して視界がぼやけることがある。眼底検査では、臨床医は、綿花状白斑、火炎状出血(同様の病変は、クロストリジウム・ノービイ(Clostridium novyi)のアルファ毒素によっても引き起こされる)、およびドットブロット出血を調べるであろう。
【0047】
本開示の老化細胞死滅剤による眼底疾患の治療の利点は、異常な血管新生、病原性血管新生、血管閉塞、眼内出血、網膜損傷、および視力喪失などの状態の有害な特徴の阻害または遅延を含み得る。老化細胞死滅剤は、例えば、眼内、硝子体内、または球後注射によって、眼内またはその周囲に投与し得る。至適には、視力の部分的な改善を伴う、機能的脈管構造の回復、機能的血管新生、網膜の再成長または回復などの病態生理のいくつかの反転があるであろう。
【0048】
老眼は加齢関連状態であり、年齢とともに正常な眼の順応の速度および振幅が低下するにつれて、眼が、近くの物体に焦点を合わせる能力の漸進的な低下を示す。水晶体の弾力性の喪失および毛様体筋の収縮性の喪失が老眼を引き起こすことがある。前部水晶体嚢および後部水晶体嚢の機械的特性の加齢に関連する変化は、組織の組成変化の結果として、後部水晶体嚢の機械的強度が年齢とともに著しく低下することを示唆している。水晶体嚢の主要な構造要素は、三次元分子ネットワーク状に組織化された基底膜IV型コラーゲンである。IV型コラーゲン、フィブロネクチン、ラミナを眼内レンズに付着させることで細胞の移動を阻害することができ、PCOのリスクを低減することができる。
【0049】
本開示によって提供される老化細胞死滅剤は、IV型コラーゲンネットワークの崩壊を遅らせ、上皮細胞の移動を減少させるかまたは阻害し得、また老眼の発症を遅延させるまたは状態の重症度の進行を減少させるかもしくは遅らせることができる。それらはPCOの発生の可能性を低減するための白内障後の手術にも有用となることがある。
【0050】
緑内障および他の前眼疾患も本開示において提供される老化細胞死滅剤による治療に適し得る。通常、透明な液体が前房として公知である目の前部に出入りする。広角緑内障の人では、透明な液体の排出が遅すぎ、眼内の圧力上昇につながる。治療せずにいた場合、眼内の高い圧力が視神経を損傷することがあり、完全な失明につながることがある。周辺視野の喪失は、網膜における神経節細胞の死滅によって引き起こされる。
【0051】
治療の考えられる利点は、眼圧の低下、線維柱帯網を介した眼液の排出の改善、および結果として生じる視力喪失の阻害または遅延を含む。老化細胞死滅剤は、例えば、眼内もしくは前房内注射によって、または局所製剤において、眼内またはその周囲に投与し得る。治療の効果は、角膜中央部の厚さを測定する自動視野検査、角膜鏡検査、画像技術、走査型レーザー断層撮影、HRT3、レーザー偏光測定、GDX、眼球コヒーレンストモグラフィー、検眼鏡検査、およびパキメータ測定によってモニタリングできる。
【0052】
肺の状態の治療
本開示に列挙するBcl阻害剤のいずれも、本開示に従って肺疾患を治療するために開発することができる。同様に、本開示に列挙するBcl阻害剤は、それを必要とする対象の肺内またはその周辺の老化細胞を選択的に排除するために開発することができる。治療できる肺の状態は、特発性肺線維症(IPF)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、嚢胞性線維症、気管支拡張症、および肺気腫を含む。
【0053】
COPDは、肺組織の破壊、気腫、および小気道の機能不全である閉塞性細気管支炎に起因する持続的な気流の悪化によって規定される肺疾患である。COPDの主な症状は、息切れ、喘鳴、胸部圧迫感、慢性の咳、および過剰な痰の生成を含む。紙巻きタバコの煙で活性化された好中球およびマクロファージからのエラスターゼは、肺胞構造の細胞外マトリクスを崩壊させ得、気腔の拡大および肺活量の喪失を招く。COPDは、例えば、タバコの煙、紙巻きタバコの煙、葉巻の煙、受動喫煙、パイプの煙、職業曝露、ほこり、煙、煙霧、および汚染への曝露を原因とし得、何十年もかかって起き、これによって加齢がCOPDを発症する危険因子であると関連付けられる。
【0054】
肺の損傷を引き起こすプロセスは、例えば、タバコの煙における高濃度のフリーラジカルによって生成される酸化ストレス、気道内の刺激物に対する炎症反応によるサイトカイン放出、ならびにプロテアーゼに肺を損傷させるタバコの煙およびフリーラジカルによる抗プロテアーゼ酵素の機能障害を含む。遺伝的感受性も疾患に寄与し得る。COPD患者の約1%では、疾患は、肝臓におけるアルファ-1-抗トリプシンの産生が低レベルになる遺伝的障害に起因する。アルファ-1-抗トリプシンは、通常、血流に分泌されて肺の防護を助ける。
【0055】
肺線維症は、呼吸不全、肺がん、および心不全につながることがある肺の硬化および瘢痕化を特徴とする慢性進行性肺疾患である。線維症は上皮の修復に関連する。線維芽細胞が活性化され、細胞外マトリクスタンパク質の産生が増加し、収縮性筋線維芽細胞への分化転換が創傷収縮に寄与する。予備的なマトリクスが、損傷した上皮を塞ぎ、上皮間葉移行(EMT)を伴う上皮細胞移動のためのスキャフォールドを提供する。上皮傷害と関連する血液損失は、血小板活性化、成長因子の産生、および急性炎症応答を誘導する。通常、上皮バリアが治癒し、炎症応答が解消される。しかしながら、線維性疾患では線維芽細胞応答が継続し、創傷治癒が未解決になる。線維芽細胞巣の形成は疾患の特徴であり、進行中の線維形成の位置を反映する。
【0056】
肺線維症を発症するリスクのある対象は、例えば、石綿肺および珪肺症などの、環境的または職業的汚染物質に曝露された対象;紙巻きタバコを吸う対象;RA、SLE、強皮症、サルコイドーシス、またはウェゲナー肉芽腫症などの結合組織疾患を有する対象;感染症を有する対象;例えば、アミオダロン、ブレオマイシン、ブスルファン、メトトレキサート、およびニトロフラントインを含む特定の薬を服用する対象;胸部への放射線療法を受けている対象;ならびに家族が肺線維症を有する対象を含む。
【0057】
この状態に係る化合物を用いることによって治療し得る他の肺状態は、肺気腫、喘息、気管支拡張症、および嚢胞性線維症を含む。肺疾患は、タバコの煙;粉塵、煙、もしくは噴煙に対する職業的曝露;感染症;または炎症に寄与する汚染物質によって悪化し得る。
【0058】
肺疾患の症状は、息切れ、喘鳴、胸の圧迫感、肺の過剰な粘液のために朝一番に咳払いをしなければならないこと、透明、白色、黄色または緑がかった色である場合がある痰が産生される慢性咳嗽、チアノーゼ、頻繁な呼吸器感染症、活力の欠如、意図しない体重減少を含むことがある。肺線維症の症状は、特に運動中の、息切れ;空咳;速く浅い呼吸;漸進的で意図しない体重減少;疲れ;関節痛および筋肉痛;ならびに指またはつま先のばち指を含み得る。
【0059】
治療前、治療中、治療後の肺機能は、例えば、予備呼気量(ERV)、努力肺活量(FVC)、努力呼気量(FEV)、総肺気量(TLC)、肺活量(VC)、残気量(RV)、および機能的残気量(FRC)を測定することによって決定することができる。肺胞毛細管膜を通じたガス交換は、一酸化炭素の拡散能力(DLCO)を用いて測定することができる。運動能力を代用として測定することができる。末梢毛細血管酸素飽和度(SpO2)も測定することができ、通常の酸素レベルは、典型的には95%~100%である。90%未満のSpO2レベルは、対象が低酸素血症を有することを示唆する。80%未満の値は危険であると考えられ、脳および心臓の機能を維持し、心臓または呼吸の停止を回避するための介入を必要とする。
【0060】
治療の利点は、これらのうちの任意の影響の、進行を阻害することまたは反転させることも含み得る。老化細胞死滅剤の投与は、全身的、または肺の内部またはその周囲の部位で局所的であってもよく、例えば、エアロゾルもしくは粉末としての吸入によるか、または挿管による。至適には、薬剤はSpO2レベルおよび運動能力を改善するであろう。
【0061】
アテローム性動脈硬化症の治療
老化細胞死滅化合物は、アテローム性動脈硬化症の治療に用いることができ、例えば、対象におけるアテローム性動脈硬化プラークの形成、拡大、または進行を阻害することによる。老化細胞死滅化合物はまた、対象の1つまたは複数の血管に存在するアテローム性動脈硬化プラークの安定性を向上するために用いることができ、これにより、それらが血管を破裂させることおよび閉塞させることを阻害する。
【0062】
アテローム性動脈硬化症は、中型および大きい動脈の内腔を侵す斑状の内膜プラークであるアテロームを特徴とし、プラークは、脂質、炎症細胞、平滑筋細胞、および結合組織を含む。アテローム性動脈硬化症は、冠状動脈、頸動脈、および大脳動脈を含む大型および中型の動脈、大動脈およびその分岐血管、ならびに手足の主幹動脈に影響を及ぼすことがある。
【0063】
アテローム性動脈硬化症は、動脈壁の肥厚の増加につながり得る。プラークの成長または破裂が血流を減少させるかまたは妨げる場合に症状が現れ、症状は、どの動脈が影響されるかで異なることがある。アテローム性動脈硬化プラークは安定または不安定なことがある。安定したプラークは退行するか、静止したままであるか、あるいは狭窄または閉塞の原因となり得るまで、場合によっては数十年にわたって、ゆっくりと成長する。不安定なプラークは、自発的な侵食、亀裂、または破裂を起こしやすく、血行力学的に有意な狭窄の原因となるはるか前に、急性血栓症、閉塞、および梗塞の原因となる。臨床的事象は、血管造影では重篤には見えない不安定なプラークに起因することがあるので、プラークの安定化は、罹患率および死亡率を減少する手法となることがある。プラークの破裂または侵食は、急性冠動脈症候群および卒中などの重大な心血管事象につながることがある。破壊されたプラークはより多くの脂質、マクロファージ含有量を有し、無傷のプラークよりも薄い線維性被膜を有することがある。
【0064】
アテローム性動脈硬化症および他の心血管疾患の診断は、患者の症状、例えば、狭心症、胸部圧迫、腕または脚のしびれ感または脱力感、声の出にくさまたは不明瞭な発語、顔面の筋肉の垂れ、下肢痛、高血圧、腎不全および/または勃起不全、病歴、および/または身体検査を根拠とすることができる。診断は、血管造影、超音波検査、または他の画像化試験によって確認することができる。心血管疾患を発症するリスクのある対象は、心血管疾患の家族歴などの素因のいずれか1つまたは複数を有するもの、他の危険因子、例えば、高血圧、異常脂質血症、高コレステロール、糖尿病、肥満および喫煙、座ってばかりの生活習慣、ならびに高血圧症を含む素因を有するものを含む。状態は、例えば、血管造影、心電図検査、またはストレステストによって評価することができる。
【0065】
老化細胞死滅剤による治療の潜在的な利点は、プラークの形成頻度、プラークで覆われた血管の表面積、狭心症、および運動耐容能の低下などの、状態の1つまたは複数の兆候または症状の進行を緩和するかまたは停止させることを含む。
【0066】
定義
「老化細胞」は、典型的には複製する細胞型に由来すると一般的に考えられているが、老化または細胞状態に変化を引き起こす他の事象の結果としてもはや複製することができない。文脈に応じて、老化細胞は、p16、またはp16、老化関連β-ガラクトシダーゼ、およびリポフスチンより選択される少なくとも1つのマーカー;場合によってはこれらのマーカーのうちの2つ以上、ならびに非限定的にはインターロイキン6ならびに炎症性、血管新生および細胞外マトリクス修飾タンパク質などの細胞老化関連分泌現象(SASP)の他のマーカーを発現しているとして特定することができる。特に明記しない限り、特許請求の範囲で言及される老化細胞は、がん細胞を含まない。
【0067】
「老化関連(senescence associated)」、「老化関連(senescence related)」または「加齢関連(age related)」疾患、障害、または状態は、対象に有害な1つまたは複数の症状または徴候を呈する生理学的状態である。状態は、それが「老化細胞によって少なくとも部分的に引き起こされるかまたは媒介される」場合には「老化関連」である。これは、影響を受けた組織における少なくともいくつかの老化細胞の排除が、有害な症状または徴候の実質的な軽減または低減をもたらして患者の利益になるように、影響を受けた組織内またはその周辺のSASPの少なくとも1つのコンポーネントが状態の病態生理において役割を果たすことを意味する。本開示に係る方法および生成物を用いて治療するかまたは管理することができる可能性のある老化関連障害は、本開示において言及されかつ、考察において言及された過去の開示における障害を含む。特に明記されていない限り、該用語はがんを含まない。
【0068】
タンパク質機能またはBcl機能の阻害剤は、標的細胞において既に発現されている標的タンパク質が、該タンパク質またはBclファミリーメンバーが標的細胞において通常は行う酵素的、結合的、または調節的機能を行うことを、実質的に防止する化合物である。これは、標的細胞の排除、または、該細胞が別の化合物または事象の毒性に対してさらに感受性になることをもたらす。化合物は、以下の実施例1に係るアッセイで試験した場合に1,000nM(1.0μM)未満のIC50を有するのであれば、本開示において「Bcl阻害剤」または「Bcl活性を阻害する」化合物として適格である。状況に応じて100nMまたは10nM未満、または100nMと1nMの間の活性が好ましいことが多い。
【0069】
「Bcl」または「Bclタンパク質」という用語は、Bcl-2、Bcl-xL、およびBcl-wによって例示されるBclタンパク質のファミリーを指す。本開示のBcl阻害剤は、Bcl-2、Bcl-xL、およびBcl-wのうちの少なくとも1つを阻害することができるであろう。必ずしもそうではないが典型的には、これらのBclタンパク質のうちの1つの阻害剤は、他の2つをある程度阻害する。本開示において提供される化合物は、阻害活性を有し、かつBcl-2、Bcl-xL、またはBcl-wに特異的である可能性がある化合物を同定するために、任意のBclファミリーメンバーの活性について試験することができる。そのような阻害剤は、このリストからの標的BclについてのIC50が、リストの他の2つのBclファミリーメンバーについてのIC50よりも、少なくとも10倍優れている。
【0070】
化合物、組成物または薬剤は、老化細胞、優先的には同じ組織タイプの複製細胞、またはSASPマーカーが欠損した静止細胞を排除する場合には、典型的には「老化細胞死滅的」と呼ばれる。あるいはまたはさらに、化合物または組み合わせは、状態の初期症状または進行中の病状において役割を果たすかまたはその消散を阻害する老化関連分泌表現型の一部として病的可溶性因子またはメディエーターの放出を減少させる場合、効果的に用い得る。この点で、「老化細胞死滅的」という用語は、老化細胞を排除するのではなくむしろ阻害することによって主に作用する化合物(老化細胞阻害剤)を、結果として生じる利点を有する同様の様式で用いることができるような、機能的阻害を指す。本開示におけるモデル老化細胞死滅組成物および薬剤は、下の実施例2に係るアッセイで試験した場合、1μM未満のEC50を有する。0.1μM未満、または1μMと0.1μMの間の活性が好ましい場合がある。選択指数(SI)(同じ組織タイプの非老化細胞と比較した老化細胞のEC50)は、状況に応じて1、2、5、または10よりも優れている場合がある。
【0071】
混合細胞集団または組織からの老化細胞の選択的除去または「排除」は、老化表現型を有するすべての細胞が除去されることを必要とせず、単に組織中に当初あった治療後に残る老化細胞の割合が、組織中に当初あった治療後に残る非老化細胞の割合よりも実質的に高いということである。
【0072】
本開示に係る状態の成功した「治療」とは、治療されている対象に有益な任意の効果を有することであり得る。これは、状態の重症度、期間、もしくは進行、またはそれに起因するあらゆる有害な兆候もしくは症状を減少させることを含む。治療が成功せず、その結果、状態の典型的な兆候および症状の改善がない場合もある。療法に伴う目的は、治療される対象における標的組織または他の箇所への悪影響を最小限に抑えることである。場合によっては、例えば、遺伝的感受性によるかまたは病歴によって、対象が感受性になる状態の症状を予防するかまたは阻害するために老化細胞死滅剤を用いることもできる。
【0073】
「治療有効量」とは、(i)特定の疾患、状態、または障害を治療する、(ii)特定の疾患、状態、または障害の1つまたは複数の症状を軽減するか、寛解するか、または排除する、(iii)本明細書において記載の特定の疾患、状態、または障害の1つまたは複数の症状の発症を予防するかまたは遅延する、(iv)特定の疾患、状態または障害の進行を予防するかまたは遅延する、または(v)治療前の状態によって引き起こされる損傷を少なくとも部分的に反転させる、本開示の化合物の量である。
【0074】
化合物の「リン酸化」形態は、これは必ずしもそうではないが典型的にはリン酸化前に分子上に存在した酸素原子を介してコア構造に共有結合した1つまたは複数のリン酸基を有する化合物である。例えば、1つまたは複数の-OHまたは-COOH基が、水素の代わりに-OPO3H2または-CnPO3H2(ここでnは1~4)のいずれかであるリン酸基で置換されてもよい。いくつかのリン酸化形態では、リン酸基はインビボで(例えば、酵素分解によって)除去されてもよく、この場合リン酸化形態は、非リン酸化形態のプロドラッグであってもよい。非リン酸化形態は、そのようなリン酸基を有していない。脱リン酸化形態は、少なくとも1つのリン酸基が除去された後のリン酸化分子の誘導体である。
【0075】
本開示に係る「小分子」Bcl阻害剤は20,000ダルトン未満の分子量を有し、10,000、5,000、または2,000ダルトン未満であることが多い。小分子阻害剤は、抗体分子またはオリゴヌクレオチドではなく、典型的には、5個より多くの水素結合ドナー(窒素-水素および酸素-水素結合の総数)、および10個より多くの水素結合アクセプター(すべての窒素または酸素原子)を有さない。
【0076】
「プロドラッグ」とは、活性剤を放出するために体内で変換を必要とする活性剤の誘導体を指す。変換は、酵素的変換であってもよい。場合によっては、変換は、環化変換、または酵素変換と環化変換との組み合わせである。プロドラッグは、必ずしもそうではないが、活性剤に変換されるまで薬理学的に不活性であることが多い。
【0077】
特に記載されるかまたは必要がない限り、本開示において言及される化合物構造のそれぞれは、同じ構造を有する共役酸および塩基、それら化合物の結晶およびアモルファス形態、薬学的に許容される塩、ならびにプロドラッグを含む。これは、例えば、本化合物の、多形体、溶媒和物、水和物、非溶媒和多形体(無水物を含む)、ならびにリン酸化体および非リン酸化体を含む。
【0078】
参照による組み入れ
米国においておよび有効である他の法域におけるすべての目的で、本開示で引用されるあらゆる刊行物および特許文書は、そのような各刊行物または文書が参照により本明細書に組み入れられることが具体的かつ個別に示された場合と同程度に、あらゆる目的でその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0079】
米国特許第10,130,628号(Laberge et al.)およびUS 20170266211 A1 (David et al.)は、老化細胞によって少なくとも一部媒介されると考えられている様々な状態を治療するための、老化細胞分解作用物質の同定、製剤化、および使用を非限定的に含むあらゆる目的で本明細書に組み入れられる。米国特許第8,691,184号、第9,096,625号、および第9,403,856号(Wang et al.)は、Bclライブラリにおける化合物の特徴、その調製および使用を含むあらゆる目的でその全体が参照により本明細書に組み入れられる。米国特許出願第15/675,171号(2017年8月11日に出願)および第62/579/793号(2017年10月31日に出願)は、老化細胞の活性を排除するかまたは低減しかつ様々な眼の状態を治療することができる化合物の同定、製剤化、および使用を非限定的に含むあらゆる目的で本明細書に組み入れられる。
【実施例0080】
実施例1:Bcl阻害を測定
候補化合物がBcl-2およびBcl-xL活性を阻害する能力は、直接結合によって分子レベルで測定できる。このアッセイは、PerkinElmer Inc., Waltham, Massachusettsによって市販されている酸素チャネリングに基づく均質アッセイ技術を用いる;Eglin et al., Current Chemical Genomics, 2008, 1, 2-10を参照されたい。試験化合物は、標的Bclタンパク質、および、ビオチンで標識された対応する同族リガンドであるペプチドと組み合わされる。混合物を次いでストレプトアビジン含有発光ドナービーズおよび発光アクセプタービーズと組み合わせ、これは、化合物がペプチドのBclタンパク質への結合を阻害した場合に発光を比例的に減少させる。Bcl-2、Bcl-xL、およびBcl-wは、Sigma-Aldrich Co., St. Louis, Missouriから入手可能である。ビオチン化BIMペプチド(Bcl-2のためのリガンド)およびBADペプチド(Bcl-xLのためのリガンド)は、US2016/0038503 A1に記載されている。AlphaScreen(登録商標)ストレプトアビジンドナービーズおよびAnti-6XHis AlphaLISA(登録商標)アクセプタービーズは、PerkinElmerから入手可能である。
【0081】
アッセイを実施するために、化合物の1:4希釈系列をDMSOで調製し、次いでアッセイ緩衝液で1:100に希釈する。96ウェルPCRプレートにおいて、次のものを順に組み合わせる:10μLのペプチド(120nM BIMまたは60nM BIM)、10μLの試験化合物、および10μLのBclタンパク質(0.8nM Bcl-2/Wまたは0.4nM Bcl-XL)。アッセイプレートを暗所にて24時間室温でインキュベートする。翌日ドナービーズおよびアクセプタービーズを合わせ、各ウェルに5μL加える。暗所で30分間インキュベートした後、プレートリーダーを用いて発光を測定し、各試験化合物による親和性または阻害の程度を決定する。
【0082】
実施例2:線維芽細胞における老化細胞死滅活性を測定
ヒト線維芽細胞IMR90細胞は、American Type Culture Collection (ATCC(登録商標))からCCL-186という名称で入手可能である。細胞は、3%O2、10%CO2、および約95%湿度の雰囲気中で、FBSおよびPen/Strepを含むDMEM中で、75%未満のコンフルエンシーに維持される。細胞を、放射線照射細胞(使用前に、放射線照射後14日間培養)、および静止細胞(使用前に、4日間高密度で培養)に群分けする。
【0083】
0日目に以下のようにして放射線照射細胞を調製する。IMR90細胞を洗浄し、1mLあたり細胞50,000個の密度でT175フラスコに入れ、10~15Gyで放射線照射する。放射線照射後、細胞を96ウェルプレートに100μL播種する。1、3、6、10、および13日目に各ウェル内の培地を吸引し、新鮮な培地と交換する。
【0084】
10日目に、静止状態の正常細胞を以下のように調製する。IMR90細胞を洗浄し、3mLのTrypLEトリプシン含有試薬(Thermofisher Scientific, Waltham, Massachusetts)と組み合わせ、細胞が丸まりプレートから離れ始めるまで5分間培養する。細胞を分散させ、カウントし、1mLあたり細胞50,000個の濃度で、培地中で調製する。100μLの細胞を96ウェルプレートの各ウェルに播種する。培地を13日目に交換する。14日目に、試験阻害剤化合物を以下のように細胞と組み合わせる。各試験化合物のDMSO希釈系列を、96ウェルPCRプレートにおいて、最終目的濃度の200倍で調製する。使用直前に、予熱した完全培地で、DMSO溶液を1:200に希釈する。各ウェルにおける細胞から培地を吸引し、化合物含有培地を100μL/ウェル加える。
【0085】
試験用の候補老化細胞死滅剤を細胞と6日間培養し、17日目に同じ化合物濃度で培地を新鮮培地と交換する。Bcl2阻害剤を細胞と3日間培養する。アッセイシステムは、熱安定性ルシフェラーゼの特性を利用して、細胞溶解液中に放出される内因性ATPaseを阻害しつつ安定した発光シグナルを生成する反応条件を可能にする。培養期間の終わりに、100μLのCellTiter-Glo(登録商標)試薬(Promega Corp., Madison, Wisconsin)を各ウェルに加える。細胞プレートをオービタルシェーカーに30秒間置き、発光を測定する。
【0086】
実施例3:HUVEC細胞および他の老化細胞における老化細胞死滅活性を測定
単一ロットからのヒト臍帯静脈(HUVEC)細胞を、ATCCからの内皮細胞増殖キット(商標)-VEGFを補充した血管細胞基本培地で約8倍まで集団を倍加させ、次いで凍結保存した。アッセイ開始の9日前に老化集団用の細胞を解凍し、約27,000個/cm2で播種した。すべての細胞を5%CO2および3%O2の加湿インキュベータで培養し、培地を48時間毎に交換した。播種の2日後、細胞にX線源から12Gyの放射線を送り放射線照射した。アッセイ開始の3日前に非老化集団用の細胞を解凍し、老化集団と同様に播種する。アッセイの1日前に、すべての細胞をトリプシン処理し、55μL/ウェルの最終容量で、5,000個/ウェルの老化細胞と10,000個/ウェルの非老化細胞とを、別々の384ウェルプレートに播種した。各プレートでは、中央の308ウェルが細胞を含み、外周のウェルを70μL/ウェルの脱イオン水で満たした。
【0087】
アッセイの日に、化合物を10mM溶液から培地に希釈して最高濃度の作業溶液を提供し、次いでその一定分量を培地でさらに希釈して残りの2つの作業溶液を提供した。アッセイを開始するために、5μLの作業溶液を細胞プレートに加えた。最終試験濃度は、20、2、および0.2μMであった。各プレートにおいて、100種の試験化合物について、3ウェルの陽性対照および5つの未処理(DMSO)対照とともに、単一の濃度でアッセイを3回繰り返した。化合物の添加後、プレートを3日間インキュベータに戻す。
【0088】
CellTiter-Glo(商標)試薬(Promega)を用いて総ATP濃度を測定することによって、細胞生存を間接的に評価した。得られた発光をEnSpire(商標)プレートリーダー(PerkinElmer)で定量した。各濃度の化合物についての相対的細胞生存率は、同じプレートの未処理対照に対するパーセンテージとして計算した。
【0089】
潜在的なリード化合物の追跡用量反応のために、384ウェルプレートの老化細胞および非老化細胞を、上に記載のように調製した。化合物は、DMSO中で10ポイントの1:3希釈系列として調製し、次いで培地中で12倍まで希釈した。次いで、5マイクロリットルのこの作業溶液を細胞プレートに加えた。3日間の培養後、DMSO対照と比較した細胞生存を、上に記載のように計算した。すべての測定は4回実施した。
【0090】
インビボで意図する標的組織と合致する、IMR90線維芽細胞またはHUVEC細胞の代替として、他の細胞株および初代細胞培養物を用いてもよい。一例としては、眼疾患の治療を意図とした化合物をスクリーニングするための、培養ヒト網膜微小血管内皮細胞(HRMEC)の使用である。細胞は、選択した細胞株のための公知のプロトコルに従って培養され、同様の様式で放射線照射されて老化させる。
【0091】
実施例4:変形性関節症モデルにおける老化細胞死滅剤の有効性
この実施例は、変形性関節症の治療のためのマウスモデルにおける、MDM2阻害剤の試験を説明する。臨床治療における使用のためのBcl阻害剤を試験しかつ開発するために必要な変更を加えて適合させることができる。
【0092】
モデルは以下のように作製した。C57BL/6Jマウスは、片方の後肢の前十字靭帯を切断して、当該肢の関節に変形性関節症を誘発する手術を受けた。術後3週および4週中に、2週間、一日おきに関節内注射により、手術した膝毎に5.8μgのヌトリン-3A(n=7)でマウスを処理した。手術後4週間の終わりに、マウスの関節を老化細胞の存在についてモニタリングし、機能について評価し、炎症のマーカーについてモニタリングし、組織学的評価を行った。
【0093】
実施した研究は、2つの対照群のマウスを含んでいた:偽手術(すなわち、ACLの切断を除いて行われた外科的処置)およびGCV(ガンシクロビル)治療群と並行したビヒクルの関節内注射を受けたC57BL/6Jまたは3MRマウスを含む一群(n=3);ならびにACL手術を受け、GCV処理群と並行してビヒクルの関節内注射を受けたC57BL/6Jまたは3MRマウスを含む一群(n=5)。ヌトリン-3A処理マウスからのマウスの手術関節からのRNAを、SASP因子(mmp3、IL-6)および老化マーカー(p16)の発現について分析した。qRT-PCRを実施してmRNAレベルを検出した。
【0094】
図2A、2B、および2Cは、組織におけるp16、IL-6、およびMMP13の発現をそれぞれ示す。OA誘導手術は、これらのマーカーの発現の増加と関連していた。ヌトリン-3Aによる処理は、対照のレベル未満まで発現を減少させた。ヌトリン-3Aによる処理は、関節から老化細胞を取り除いた。
【0095】
マウスがどちらの脚を好むかを決定する体重負荷試験によって、手術の4週間後に四肢の機能を評価した。測定を行う前に、マウスを少なくとも3回、部屋に順応させた。マウスを部屋内で動かして、各体重計に1本の後足を載せて立たせた。各後肢にかけられた体重を、3秒間にわたって測定した。各時点で、各動物について少なくとも3回の別々の測定を行った。結果は、反対側の手術していない肢に対する、手術した肢にかけられた体重のパーセンテージとして表した。
【0096】
図3Aは、機能試験の結果を示す。変形性関節症誘導手術を受けた未処理マウスは、手術した後肢よりも手術していない後肢を好んだ(Δ)。しかしながら、ヌトリン-3Aで老化細胞を除去すると、手術を受けたマウスではこの影響が無くなった(▽)。
【0097】
図3B、3C、および3Dは、これらの実験からの関節組織の組織病理を示す。ACL手術によって誘導された変形性関節症は、プロテオグリカン層の破壊を引き起こした。ヌトリン-3Aを用いた老化細胞の除去は、この影響を完全に無効にした。
【0098】
実施例5:糖尿病性網膜症モデルにおける老化細胞死滅剤の有効性
この実施例は、眼底疾患、特に糖尿病性網膜症の治療のためのマウスモデルにおけるBcl阻害剤の試験を説明する。臨床治療における使用のために老化細胞死滅剤を試験すべく必要な変更を加えて適合させることができる。
【0099】
モデル化合物UBX1967(Bcl-xL阻害剤)の有効性は、マウス酸素誘発性網膜症(OIR)モデルで試験した(Scott and Fruttiger, Eye (2010) 24, 416-421, Oubaha et al, 2016)。C57Bl/6子マウスおよびそれらのCD1養母を、生後7日目(P7)からP12まで高酸素環境(75%O2)に曝露した。P12では、1%DMSO、10%Tween-80、20%PEG-400中で調製した1μlの試験化合物(200、20、または2uM)を動物に硝子体内注射し、P17まで室内空気に戻した。P17で眼球を取り出し、網膜を血管染色またはqRT-PCRのいずれかのために解剖した。無血管領域または新生血管領域を決定するために、網膜を平たく置き、1mM CaCl2で1:100に希釈したイソレクチンB4(IB4)で染色した。老化マーカー(例えば、Cdkn2a、Cdkn1a、Il6、Vegfa)の定量的測定のためにqPCRを実施した。RNAを単離し、逆転写によってcDNAを生成し、これを、選択した転写産物のqRT-PCRに用いた。
【0100】
図4Aおよび4Bは、硝子体内ITT)投与UBX1967が、すべての用量レベルで、血管新生および血管閉塞の程度に統計的に有意な改善をもたらしたことを示す。
【0101】
UBX1967の有効性は、ストレプトゾトシン(STZ)モデルでも試験した。6~7週のC57BL/6Jマウスの重さを計り、それらのベースライン血糖値を測定した(Accu-Chek(商標)、Roche)。マウスにSTZ(Sigma-Alderich, St. Louis, MO)を55mg/kgで5日間連続して腹腔内注射した。週齢を一致させた対照には、緩衝液のみを注射した。最後のSTZ注射の1週間後に血糖値を再度測定し、空腹時以外の血糖値が17mM(300mg/L)より高い場合に、マウスを糖尿病と見なした。STZで処理した糖尿病C57BL/6Jマウスに、1μlのUBX1967(2μMまたは20μM、0.015%ポリソルベート-80、0.2%リン酸ナトリウム、0.75%塩化ナトリウム、pH7.2の懸濁液として調製)を、STZ投与後8および9週で硝子体内注射した。網膜エバンスブルー透過アッセイは、STZ処理の10週間後に実施した。
【0102】
図4Cおよび4Dは、このプロトコルの結果を示す。硝子体内(IVT)投与UBX1967後の網膜および脈絡膜の血管漏出は、両方の用量レベルで血管透過性が改善した。
【0103】
眼圧(IOP)の上昇が網膜神経節細胞の喪失および視神経の損傷を引き起こすと考えられている緑内障に関連する、網膜神経節細胞損傷の他のモデルを試験に用いることができる。前臨床種においては、磁気マイクロビーズ閉塞(Ito et al., Vis Exp. 2016 (109): 53731)および他の緑内障モデル(Almasieh and Levin, Annu Rev Vis Sci. 2017)を含むいくつかの確立されたモデルで報告されているように、前房圧の上昇は網膜神経の喪失をもたらすことがある。さらに、虚血再灌流は細胞老化をもたらし得る網膜損傷を引き起こすことが実証されている。そのようなモデルにおける網膜老化の存在は、試験化合物の硝子体内注射後の老化細胞死滅の影響をモニタリングするために用いることができる。
【0104】
実施例6:肺疾患モデルにおける老化細胞死滅剤の有効性
この実施例は、肺疾患の治療のためのマウスモデル、具体的には特発性肺線維症(IPF)向けのモデルにおける阻害剤の試験を説明する。臨床治療における使用のためのBcl阻害剤を試験しかつ開発するために必要な変更を加えて適合させることができる。慢性閉塞性肺疾患(COPD)のモデルとして、マウスを紙巻きタバコの煙に曝露した。
【0105】
煙に曝露されたマウスに対する老化細胞死滅剤の効果は、老化細胞のクリアランス、肺機能、および組織病理によって評価される。
【0106】
この試験で用いたマウスは、US 2017/0027139 A1およびDemaria et al., Dev Cell. 2014 December 22; 31(6): 722-733に記載の3MR系統を含む。3MRマウスは、プロドラッグであるガンシクロビル(GCV)を細胞にとって致命的な化合物に変換する、チミジンキナーゼをコードする導入遺伝子を有する。導入遺伝子における酵素は、それを老化細胞において特異的に発現させるp16プロモーターの制御下に置かれる。GCVによるマウスの処理により老化細胞が排除される。
【0107】
この研究で用いる他のマウスは、US 2015/0296755 A1およびBaker et al., Nature 2011 Nov 2;479(7372):232-236に記載の、INK-ATTAC系統を含む。INK-ATTACマウスは、p16プロモーターの制御下にあるスイッチ可能なカスパーゼ8をコードする導入遺伝子を有する。カスパーゼ8は、マウスをスイッチ化合物AP20187で処理することによって活性化でき、そうするとカスパーゼ8は、老化細胞にアポトーシスを直接的に誘導して、マウスからそれらを排除する。
【0108】
実験を行うために、6週齢の3MR(n=35)またはINK-ATTAC(n=35)マウスを、Teague TE-10システムから発生させた紙巻きタバコの煙に長期的に曝露させた。このシステムは、チャンバー内で紙巻きタバコの副流煙と主流煙とを合わせたもの生成し、採取および混合チャンバーに移されて、そこで様々な量の空気が煙の混合物と混合される、自動制御紙巻きタバコ煙発生器である。COPDプロトコルは、Johns Hopkins UniversityのCOPDコア施設から採用した(Rangasamy et al., 2004, J. Clin. Invest. 114:1248-1259; Yao et al., 2012, J. Clin. Invest. 122:2032-2045)。
【0109】
マウスは、1日に合計6時間、1週間に5日、6ヶ月間、紙巻きタバコの煙に曝露された。火を付けた紙巻きタバコ(紙巻きタバコ1本あたり、10.9mgの総粒子状物質(TPM)、9.4mgのタール、0.726mgのニコチン、および11.9mgの一酸化炭素を含む、3R4F研究用紙巻きタバコ[University of Kentucky, Lexington, KY])は、それぞれ2秒間、毎分1回、合計で8回、1.05L/分の流速で吹かして、標準的な一吹かしを35cm3にした。紙巻きタバコ煙発生器は、一度に2本の紙巻きタバコを燻ることによって、副流煙(89%)と主流煙(11%)の混合物を生成するように調節した。煙チャンバーの雰囲気を、総浮遊粒子(80~120mg/m3)および一酸化炭素(350ppm)についてモニタリングした。
【0110】
7日目から開始して、(10)INK-ATTACおよび(10)3MRマウスを、AP20187(週3回)またはガンシクロビル(5日間の連続した処理に続いて16日間の休薬を実験の終了まで繰り返す)で、それぞれ処理した。対応するビヒクルを同数のマウスに与えた。残りの30匹のマウス(15匹のINK-ATTACおよび15匹の3MR)を均等に分割し、各遺伝子組み換え系統の5匹を、3つの異なる処理群に分けた。1つの群(n=10)は、ヌトリン-3A(10%DMSO/3%Tween-20(商標)を含むPBSに25mg/kgで溶解し、14日間連続して処理し、その後14日間休薬し、実験が終了するまで繰り返した)を与えた。1つのグループ(n=10)は、ABT-263(ナビトクラックス)(15%DMSO/5%Tween-20に100mg/kgで溶解し、7日間連続して処理し、その後14日間休薬し、実験が終了するまで繰り返した)を与えた。最後のグループ(n=10)は、ABT-263と同じ治療レジメンに従ってABT-263の代わりに用いたビヒクル(15%DMSO/5%Tween-20)のみ与えた。紙巻きタバコの煙に曝露されなかった追加の70匹の動物を、実験の対照として用いた。
【0111】
2ヶ月間の紙巻きタバコの煙(CS)への曝露後、MouseSTAT PhysioSuite(商標)パルスオキシメータ(Kent Scientific)を用いて酸素飽和度をモニタリングすることによって、肺機能を評価した。動物をイソフルラン(1.5%)で麻酔し、トウクリップを付けた。マウスを30秒間モニタリングし、この期間にわたる平均末梢毛細血管酸素飽和度(SpO2)測定値を算出した。
【0112】
図5に結果を示す。AP2018、ガンシクロビル、ABT-263(ナビトクラックス)、またはヌトリン-3Aを介した老化細胞のクリアランスは、未処理対照と比較して、2か月間の紙巻きタバコの煙への曝露後のマウスにおけるSpO
2レベルの統計的に有意な増加をもたらした。
【0113】
実施例7:全身投与した場合のアテローム性動脈硬化症における老化細胞死滅剤の有効性
この実施例は、アテローム性動脈硬化症の治療のためのマウスモデルにおけるMDM2阻害剤の試験を説明する。試験化合物は、局所的よりもむしろ全身的に投与される。モデルは、低密度リポタンパク質の受容体が不足したLDLR-/-系統のマウスにおいて行われる。ここに記載の実験は、臨床治療における使用のための他のタイプの阻害剤を試験しかつ開発するために必要な変更を加えて適合させることができる。
【0114】
LDLR-/-マウス(10週)の2つの群に、0週目から開始して研究全体を通して、脂肪からの42%カロリーを有する高脂肪食(HFD)(Harlan Teklad TD.88137)を与える。LDLR-/-マウス(10週)の2つの群に通常の餌(-HFD)を与える。0~2週目から、HFDマウスおよび-HFDマウスの1つの群を、ヌトリン-3A(25mg/kg、腹腔内)で処理する。1つの治療サイクルは、14日間の処理、14日間の休薬である。ビヒクルは、1つの群のHFDマウスおよび1つの群の-HFDマウスに投与される。4週目(時点1)で、1つの群のマウスを屠殺し、プラーク内の老化細胞の存在を評価する。残りのマウスのいくつかについては、ヌトリン-3Aおよびビヒクルの投与を4~6週目から繰り返す。8週目(時点2)で、マウスを屠殺し、プラーク内の老化細胞の存在を評価する。残りのマウスは、8~10週目からヌトリン-3Aまたはビヒクルで処理される。12週目(時点3)で、マウスを屠殺し、プラークのレベルおよびプラーク内の老化細胞の数を評価する。
【0115】
血漿脂質レベルは、-HFDを与えたマウスと比較して、HFDを与えヌトリン-3Aまたはビヒクルで処理したLDLR-/-マウスにおいて、時点1で測定した(1群あたりn=3)。午後の中頃に血漿を採取し、循環する脂質およびリポタンパク質を分析した。
【0116】
時点1の終わりに、HFDを与えヌトリン-3Aまたはビヒクルで処理したLDLR-/-マウスを屠殺し(n=3、すべての群)、SASP因子および老化細胞マーカーのRT-PCR分析のために大動脈弓を解剖した。値はGAPDHに対して正規化され、週齢を一致させビヒクル処理した通常の餌のLDLR-/-マウスに対する、何倍の変化であるかで表した。データは、HFDを与えられたLDLR-/-マウスにおける、ヌトリン-3Aによる老化細胞のクリアランスは、1回の処理サイクル後に、いくつかのSASP因子および老化細胞マーカーであるMMP3、MMP13、PAI1、p21、IGFBP2、IL-1A、およびIL-1Bの発現を減少させた。
【0117】
時点2の終わりに、HFDを与えヌトリン-3Aまたはビヒクルで処理したLDLR-/-マウス(すべての群でn=3)を屠殺し、SASP因子および老化細胞マーカーのRT-PCR分析のために大動脈弓を解剖した。値はGAPDHに対して正規化され、週齢を一致させビヒクル処理した通常の餌のLDLR-/-マウスに対する、何倍の変化であるかで表した。データは、HFDマウス内の大動脈弓におけるいくつかのSASP因子および老化細胞マーカーの発現を示す。HFDを与えられたLDLR-/-マウスにおけるヌトリン-3Aの複数の処理サイクルによる老化細胞のクリアランスは、ほとんどのマーカーの発現を減少させた。
【0118】
時点3の終わりに、HFDを与えヌトリン-3Aまたはビヒクルで処理されたLDLR-/-マウス(すべての群でn=3)で処理されたマウスを屠殺し、大動脈を解剖してSudan IVで染色し脂質の存在を検出した。マウスの体組成をMRIで分析し、循環する血球をHemavet(商標)によってカウントした。
【0119】
図6に結果を示す。ヌトリン-3Aによる治療は、下行大動脈におけるプラークで覆われた表面積を約45%減少させた。血小板およびリンパ球の数はヌトリン-3Aおよびビヒクルで処理したマウス間では同等であった。ヌトリン-3Aによる治療は、高脂肪食を与えたマウスの体重および体脂肪組成も減少させた。
【0120】
実施例8:インビトロおよびインビボでのがん細胞に対する細胞毒性を測定
化合物の細胞活性は、インターロイキン-3(IL-3)依存性前リンパ球性FL5.12マウス細胞株において評価できる。IL-3がなくなると、アポトーシス促進因子BimおよびPumaの上方制御により、FL5.12アポトーシスを誘導する。Bcl-2(FL5.12-Bcl-2)またはBcl-xL(FL5.12-Bcl-xL)の過剰発現は、BimおよびPumaを隔離することによって、IL-3がない影響から保護する。化合物は、Bcl-2またはBcl-xLの過剰発現によってもたらされる防護を反転させる。化合物は、FL5.12細胞がアポトーシス促進刺激を受けないIL-3の存在下では、細胞死の誘発に効果がない。IL-3がない場合にFL5.12-Bcl-2またはFL5.12-Bcl-xL細胞を死滅させる化合物の能力は、カスパーゼ阻害剤ZVADの存在下で弱めることができ、細胞死滅がカスパーゼ依存性であることを示す。
【0121】
免疫共沈降試験を行って、BH3模倣物によって誘導される細胞毒性が、細胞内Bcl-2ファミリータンパク質間相互作用の破壊に起因し得るかどうかを判断することができる。化合物は、FL5.12-Bcl-xL細胞におけるBim:Bcl-xL相互作用の用量依存的な減少を誘導する。FL5.12-Bcl-2細胞におけるBim:Bcl-2複合体の破壊についても同様の結果が観察され、Bimなどのアポトーシス促進因子を隔離するBcl-xLおよびBcl-2の能力を弱めることによって、化合物がIL-3依存性細胞死を回復させることを示す。
【0122】
本開示に列挙した化合物が、がん細胞を特異的に死滅させる能力の試験は、他の樹立細胞株を用いた同様のアッセイで試験することができる。これらは、HeLa細胞、OVCAR-3、LNCaP、およびMillipore Sigma, Burlington MA, U.S.A.から入手可能な任意のAuthenticated Cancer Cell Linesを含む。化合物は、同じ組織タイプの非がん細胞よりも、少なくとも5分の1、好ましくは25分の1または100分の1の濃度で細胞に致死的であれば、がん細胞を特異的に死滅させる。対照細胞は、試験するがん細胞株と同様の形態学的特徴および細胞表面マーカーを有するが、がんの兆候を有さない。
【0123】
インビボでは、化合物は、ユーザーにとって特に関心のあるがんの種類に応じて、感受性SCLC(H889)および血液(RS4;11)細胞株からまたは他の腫瘍形成がん細胞株を用いて樹立された側腹部異種移植モデルにおいて評価される。経口または静脈内投与されると、化合物は、H889(SCLC)またはRS4;11(ALL)腫瘍を有するすべての動物において、治療終了後数週間持続する迅速かつ完全な腫瘍反応(CR)を誘導する。H146 SCLC腫瘍を有するマウスの同様の処理は動物に急速な退縮を誘導することができる。
【0124】
実施例9:合成
本発明の化合物は、
図1に示す合成スキームを用いてまたは適合させて、調製することができる。
【0125】
実施例10:モデル化合物の生化学的活性および細胞活性
インビトロアッセイにおける、Bcl-2に対するリガンド結合の阻害について、化合物を評価した。実施例1に記載の方法に従って、Bclアイソフォームへのペプチドリガンドの結合の阻害を決定するための均一アッセイである直接結合アッセイにおけるBcl-xL活性の阻害について評価した。選択された化合物について得られたEC50値を表2Aおよび表2Bに示す。
【0126】
【0127】
【0128】
実施例2および3に記載の方法に従って、ヒト細胞における老化細胞死滅活性について化合物を評価した。細胞株は、ヒト気管支上皮(HBE)細胞、小気道上皮(SAE)細胞、およびヒト網膜微小血管内皮(HRMEC)細胞であった。そのような細胞型はそれぞれ、CRL-2741、PCS-301-010、およびPCS-1101-010という受託番号で、アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(ATCC)から入手可能である。
【0129】
3つの異なる細胞株における選択された化合物について得られたLD50値を表3Aおよび表3Bに示す。
【0130】
【0131】
【0132】
本開示において提示されたいくつかの仮説は読者が本発明の様々な局面を理解するための前提を提供している。この前提は読者の知識を深めるために提供されている。発明の実施は仮説の詳細な理解または応用を必要としない。特に記載しない限り、本開示で提示される仮説の特徴は権利請求した発明の適用または実施を限定しない。
【0133】
例えば、老化細胞の排除が明示的に必要とされる場合を除いて、化合物は、老化細胞に対するそれらの効果に関わらず記載の状態を治療するために用い得る。本開示で言及される老化関連状態の多くは主に高齢の患者で発生するが、老化細胞の発生およびそれらが媒介する病態生理は、放射線、他の種類の組織損傷、他の種類の疾患、遺伝的異常などの他の事象から生じることがある。本発明は、特に明示的に示されるかまたは必要とされない限り、示された状態を有するあらゆる年齢の患者に対して実施し得る。
【0134】
開示の化合物の作用機序についての考察も読者の知識を深めるために提供されており、いかなる限定も暗示していない。特に記載しない限り、化合物は、それらが標的細胞内部または治療対象においてどのように作用するかに関係なく、以下に権利請求するように老化もしくはがん細胞を除去するためまたは病状の治療のために用い得る。
【0135】
本開示において言及される化合物および組成物は老化細胞を排除し、老化関連状態およびがんを治療するという文脈で説明されているが、本明細書において記載の新規な化合物およびそれらの誘導体は、実験室での使用、老化関連状態の治療、毒物取扱を非限定的に含む任意の目的のため、および診断目的のために調製することができる。
【0136】
特定の実施例および図面を参照して本発明を記載したが、通常の開発および最適化の事柄としておよび当業者の範囲内で、特定の状況または意図する使用に適合させるために変更を加えることができかつ均等物で置き換えることができ、これにより、権利請求したものおよびそれらの均等物の範囲から逸脱することなく発明の利益が達成される。
【0137】
明細書に記載の発明の他の技術的局面を特許請求の範囲に組み込んで、さらなる顕著な特徴を提供することができる。