(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085291
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】防曇膜付きガラス物品及び防曇膜形成用塗布液
(51)【国際特許分類】
C03C 17/32 20060101AFI20230613BHJP
B32B 17/06 20060101ALI20230613BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20230613BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20230613BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20230613BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20230613BHJP
【FI】
C03C17/32 A
B32B17/06
C09K3/18 104
C09D5/00
C09D183/04
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036737
(22)【出願日】2023-03-09
(62)【分割の表示】P 2022568664の分割
【原出願日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2021098342
(32)【優先日】2021-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100222302
【弁理士】
【氏名又は名称】南原 克行
(72)【発明者】
【氏名】大家 和晃
(72)【発明者】
【氏名】林 清美
(57)【要約】 (修正有)
【課題】新規の防曇膜付きガラス物品を提供する。
【解決手段】ガラス基材と、その表面上の防曇膜と、を備え、防曇膜は、シランカップリング剤及びシランカップリング剤に由来する架橋構造からなる群より選択される少なくとも1つと、吸水性ポリマーと、ポリエーテル変性シロキサンと、炭素数2~8のジオールと、を含む、防曇膜付きガラス物品とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基材と、前記ガラス基材の表面上の防曇膜と、を備え、
25℃の水に24時間浸漬させて前記水から取り出し、前記防曇膜から鉛直方向下方に60mm離間させて配置した90℃~100℃の水から発生する水蒸気に前記防曇膜を30秒間曝し、前記防曇膜から前記方向下方に110mm離れて配置したQRコードの情報を前記防曇膜が形成された側とは反対側からカメラを使用して読み取ることができるかを判定する試験において、40mm四方のサイズを有するQRコードの情報を読み取ることができる、
防曇膜付きガラス物品。
ここで、前記QRコードは、日本産業規格(JIS)X 0510:2018に従って、21×21モジュールのシンボルサイズ及びレベルHの誤り訂正の仕様により、前記情報として文字列「Rank:B」を符号化した二次元コードである。
【請求項2】
ガラス基材と、前記ガラス基材の表面上の防曇膜と、を備え、
前記防曇膜は、吸水性ポリマーを含み、
25℃の水に24時間浸漬させて前記水から取り出し、前記防曇膜から鉛直方向下方に60mm離間させて配置した90℃~100℃の水から発生する水蒸気に前記防曇膜を30秒間曝す試験を実施したときに、前記水蒸気に曝された前記防曇膜の前記表面に透明な連続膜が形成される、
防曇膜付きガラス物品。
【請求項3】
前記防曇膜は、シランカップリング剤及びシランカップリング剤に由来する架橋構造からなる群より選択される少なくとも1つと、吸水性ポリマーと、ポリエーテル変性シロキサンと、炭素数2~8のジオールと、を含む、請求項1又は2に記載の防曇膜付きガラス物品。
【請求項4】
ガラス基材と、前記ガラス基材の表面上の防曇膜と、を備え、
前記防曇膜は、シランカップリング剤及びシランカップリング剤に由来する架橋構造からなる群より選択される少なくとも1つと、吸水性ポリマーと、ポリエーテル変性シロキサンと、炭素数2~8のジオールと、を含む、
防曇膜付きガラス物品。
【請求項5】
前記ジオールは、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、及びヘキサンジオールからなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項3又は4に記載の防曇膜付きガラス物品。
【請求項6】
前記ジオールは、ブタンジオール、プロピレングリコール、及びジプロピレングリコールからなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項5に記載の防曇膜付きガラス物品。
【請求項7】
前記吸水性ポリマーは、ポリビニルアセタール樹脂を含む、請求項3~6のいずれか1項に記載の防曇膜付きガラス物品。
【請求項8】
前記ガラス基材は、フロートガラスであり、前記防曇膜は、前記フロートガラスのボトム面に形成されている、請求項1~7のいずれか1項に記載の防曇膜付きガラス物品。
【請求項9】
シランカップリング剤と、吸水性ポリマーと、ポリエーテル変性シロキサンと、炭素数2~8のジオールと、を含む、
防曇膜形成用塗布液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇膜付きガラス物品及び防曇膜形成用塗布液に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基材には、様々な特性を有することが求められる。ガラス基材に求められる特性として、例えば、防曇性がある。防曇性を有するガラス基材を得るために、ガラス基材の表面に防曇膜を形成する技術が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、光路空間内における水蒸気の凝結の防止に適した吸水性材料を配置したウインドシールドが記載されている。このウインドシールドでは、例えば、ガラスに配置された吸水性膜が高湿度域における吸水特性に優れていることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガラス基材が使用される場所、環境等の条件によって、ガラス基材に求められる防曇性は大きく異なる。そこで、本発明は、新規の防曇膜付きガラス物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、本明細書では、QRコードが登録商標であることの記載は省略する。
【0007】
本発明は、
ガラス基材と、前記ガラス基材の表面上の防曇膜と、を備え、
25℃の水に24時間浸漬させて前記水から取り出し、前記防曇膜から鉛直方向下方に60mm離間させて配置した90℃~100℃の水から発生する水蒸気に前記防曇膜を30秒間曝し、前記防曇膜から前記方向下方に110mm離れて配置したQRコードの情報を前記防曇膜が形成された側とは反対側からカメラを使用して読み取ることができるかを判定する試験において、40mm四方のサイズを有するQRコードの情報を読み取ることができる、
防曇膜付きガラス物品、を提供する。
ここで、前記QRコードは、日本産業規格(JIS)X 0510:2018に従って、21×21モジュールのシンボルサイズ及びレベルHの誤り訂正の仕様により、前記情報として文字列「Rank:B」を符号化した二次元コードである。
【0008】
別の側面から、本発明は、
ガラス基材と、前記ガラス基材の表面上の防曇膜と、を備え、
前記防曇膜は、吸水性ポリマーを含み、
25℃の水に24時間浸漬させて前記水から取り出し、前記防曇膜から鉛直方向下方に60mm離間させて配置した90℃~100℃の水から発生する水蒸気に前記防曇膜を30秒間曝す試験を実施したときに、前記水蒸気に曝された前記防曇膜の前記表面に透明な連続膜が形成される、
防曇膜付きガラス物品、を提供する。
【0009】
また別の側面から、本発明は、
ガラス基材と、前記ガラス基材の表面上の防曇膜と、を備え、
前記防曇膜は、シランカップリング剤及びシランカップリング剤に由来する架橋構造からなる群より選択される少なくとも1つと、吸水性ポリマーと、ポリエーテル変性シロキサンと、炭素数2~8のジオールと、を含む、
防曇膜付きガラス物品、を提供する。
【0010】
さらに別の側面から、本発明は、
シランカップリング剤と、吸水性ポリマーと、ポリエーテル変性シロキサンと、炭素数2~8のジオールと、を含む、
防曇膜形成用塗布液、を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、新規の防曇膜付きガラス物品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係る防曇膜付きガラス物品の一例を示す断面図である。
【
図2】本実施形態に係る防曇膜付きガラス物品の別の一例を示す断面図である。
【
図3A】高温水蒸気評価の概要を説明するための模式図である。
【
図3B】高温水蒸気評価の概要を説明するための別の模式図である。
【
図4A】高温水蒸気評価に用いたQRコードの一例(サイズ10mm×10mm、記録情報「Rank:SSS」)である。
【
図4B】高温水蒸気評価に用いたQRコードの一例(サイズ15mm×15mm、記録情報「Rank:SS」)である。
【
図4C】高温水蒸気評価に用いたQRコードの一例(サイズ20mm×20mm、記録情報「Rank:S」)である。
【
図4D】高温水蒸気評価に用いたQRコードの一例(サイズ30mm×30mm、記録情報「Rank:A」)である。
【
図4E】高温水蒸気評価に用いたQRコードの一例(サイズ40mm×40mm、記録情報「Rank:B」)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら説明するが、本発明は、以下の実施形態に限定されない。本明細書において、「主成分」とは、含有率が最も高い成分を意味する。また、板状の物品について「主面」とは、厚みと呼ばれる所定の間隔を隔てて互いに反対側を向く2つの面を意味する。
【0014】
特許文献1に開示されているように、防曇膜には吸水性ポリマーが配合されることが多い。吸水性ポリマーの含有量が多くなるにつれて、膜の防曇性はその向上が期待できる。一方、吸水性ポリマーの含有量が多くなるにつれて、膜の耐摩耗性は通常低下する。このため、特許文献1に開示されているように、防曇膜には、耐摩耗性の低下を補う無機成分、典型的にはコロイダルシリカ等のシリカ成分、が添加されることが多い。これに対し、防曇膜には、高いレベルの耐摩耗性が要求されないものの、別の特性を有していることが要求されることもある。例えば、防曇膜が長期間厳しい環境に曝された場合であっても、防曇性を維持できることが要求されることがある。本実施形態による防曇膜付きガラス物品は、かかる観点からさらに検討を進めて得られたものであって、例えば、防曇膜が厳しい環境に曝されても、高いレベルで光を散乱させずに透過させる機能を発揮しうる。
【0015】
図1は、本実施形態に係る防曇膜付きガラス物品を示す断面図である。防曇膜付きガラス物品1は、板状のガラス基材10、すなわちガラス基板と、ガラス基材10の表面に形成された防曇膜11とを備えている。防曇膜11は、ガラス基材10の表面の少なくとも一部、例えばガラス基材10の主面に形成されている。防曇膜11は、板状のガラス基材10の両方の主面10a、10bに形成されていてもよいが、
図1に示されているように、一方の主面10aのみに形成されていてもよい。
【0016】
[ガラス基材]
ガラス基材10は、その形状及び材料に特段の制限はない。ガラス基材10は、例えば、ガラス板である。
【0017】
ガラス板を構成するガラス組成物は、特に制限されず、ソーダ石灰ガラス、アルミノ珪酸ガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、さらにはCガラス、Eガラス等と呼ばれる多成分ガラスであってもよい。多成分ガラスは、SiO2を主成分として含み、SiO2以外の成分、例えば、B2O3、Al2O3、MgO、CaO、Li2O、Na2O、及びK2Oからなる群より選択される少なくとも1種の酸化物をさらに含む。ただし、ガラス板は、シリカガラスにより構成されていてもよい。
【0018】
ガラス板は、フロートガラスであってもよい。フロートガラスは、いわゆるフロート法により成形される。フロートガラスは、フロート槽内において、一方の主面が溶融錫に接して成形されるため、その主面へと錫が拡散する。このため、フロートガラスは、ボトム面と呼ばれる一方の主面に錫が拡散した表面層を有し、この表面層はトップ面と呼ばれる他方の主面には存在しない。別の観点から述べると、フロートガラスでは、一方の主面における錫の濃度が他方の主面における錫の濃度よりも高くなっている。ただし、ガラス板は、フロート法以外の製法、例えばオーバーフローダウンドロー法により成形されたものであってもよい。
【0019】
フロートガラスをガラス基材とする場合、防曇膜は、フロートガラスのボトム面に形成することが望ましい。したがって、
図1において、ガラス基材10がフロートガラスである場合、主面10aは、トップ面であってもよいが、好ましくはボトム面である。ボトム面は、トップ面よりも水酸基が多いため、耐水性に優れた防曇膜を形成する面として適している。
【0020】
ガラス板の厚さは、例えば0.5~7.0mmであり、0.5~5.0mmであってもよい。耐衝撃性を重視するべき場合、非強化ガラスであるガラス板の厚さは、好ましくは3.5mm以上である。ただし、強化ガラスの場合は、厚さが1.8mm以上であれば、ガラス板は十分な耐衝撃性を有しうる。強化ガラスは、風冷強化ガラスであっても化学強化ガラスであってもよい。
【0021】
図1に示すとおり、ガラス基材10は、その主面が平面である平板状であってもよい。ただし、ガラス基材の主面は曲面であってもよい。例えば、ガラス基材は、平板状のガラス基板を曲げ加工したものであってもよい。ガラス基材は、平板状のガラス基板を経由せず、溶融された材料から直接成形された曲面を有する成形体であってもよい。このような成形体の例を
図2に示す。
【0022】
図2に示されたガラス基材20の主面は共に曲面であり、一方の主面20aは凹面、他方の主面20bは凸面である。凹面である主面20aの表面には、防曇膜21が形成されている。凸面である主面20bの表面に防曇膜が形成されていてもよい。
【0023】
ガラス基材の主面には下地膜が形成されていてもよい。この場合、ガラス基材の表面と防曇膜との間には下地膜が介在することになる。下地膜は、特に限定されないが、例えば、ガラスからのアルカリ金属の溶出を防ぐバリア膜であってもよい。バリア膜は、例えば、シリカ膜により構成される。
【0024】
ガラス基材の一方の主面のみに防曇膜が形成される場合、他方の主面には、防曇膜以外の膜が形成されていてもよい。このような膜としては、反射防止膜、撥水膜、親水膜、着色膜等を例示できる。
【0025】
[防曇膜]
防曇膜11及び21の膜厚は、特定の値に限定されず、0.1~10μm、好ましくは0.5~5.0μm、特に好ましくは0.8~2.0μm、である。
【0026】
防曇膜11及び21は、例えば、シランカップリング剤及び/又はシランカップリング剤に由来する架橋構造と、吸水性ポリマーと、ポリエーテル変性シロキサンと、炭素数2~8のジオールと、を含む。以下、各成分について説明する。
【0027】
(吸水性ポリマー)
吸水性ポリマーとしては、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、及びポリビニルアルコール樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を例示できる。ウレタン樹脂としては、ポリイソシアネートとポリオールとで構成されるポリウレタン樹脂が挙げられる。ポリオールとしては、アクリルポリオール及びポリオキシアルキレン系ポリオールが挙げられる。エポキシ系樹脂としては、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂、グリシジルアミン系エポキシ樹脂、環式脂肪族エポキシ樹脂が挙げられる。好ましいエポキシ樹脂は、環式脂肪族エポキシ樹脂である。以下、好ましい吸水性ポリマーであるポリビニルアセタール樹脂(以下、単に「ポリビニルアセタール」)について説明する。
【0028】
ポリビニルアセタールは、ポリビニルアルコールにアルデヒドを縮合反応させてアセタール化することにより得ることができる。ポリビニルアルコールのアセタール化は、酸触媒の存在下で水媒体を用いる沈澱法、アルコール等の溶媒を用いる溶解法等公知の方法を用いて実施すればよい。アセタール化は、ポリ酢酸ビニルのケン化と並行して実施することもできる。アセタール化度は、2~40モル%、さらには3~30モル%、特に5~20モル%、場合によっては5~15モル%が好ましい。アセタール化度は、例えば13C核磁気共鳴スペクトル法に基づいて測定することができる。アセタール化度が上記範囲にあるポリビニルアセタールは、吸水性及び耐水性が良好である防曇膜の形成に適している。
【0029】
ポリビニルアルコールの平均重合度は、200~4500、さらに500~4500が好ましい。高い平均重合度は、吸水性及び耐水性が良好である防曇膜の形成に有利であるが、平均重合度が高すぎると溶液の粘度が高くなり過ぎて膜の形成に支障をきたすことがある。ポリビニルアルコールのケン化度は、75~99.8モル%が好適である。
【0030】
ポリビニルアルコールに縮合反応させるアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、ヘキシルカルバルデヒド、オクチルカルバルデヒド、デシルカルバルデヒド等の脂肪族アルデヒドを挙げることができる。また、ベンズアルデヒド;2-メチルベンズアルデヒド、3-メチルベンズアルデヒド、4-メチルベンズアルデヒド、その他のアルキル基置換ベンズアルデヒド;クロロベンズアルデヒド、その他のハロゲン原子置換ベンズアルデヒド;ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、シアノ基等のアルキル基を除く官能基により水素原子が置換された置換ベンズアルデヒド;ナフトアルデヒド、アントラアルデヒド等の縮合芳香環アルデヒド等の芳香族アルデヒドを挙げることができる。疎水性が強い芳香族アルデヒドは、低アセタール化度で耐水性に優れた吸水性膜を形成する上で有利である。芳香族アルデヒドの使用は、水酸基を多く残存させながら吸水性が高い膜を形成する上でも有利である。ポリビニルアセタールは、芳香族アルデヒド、特にベンズアルデヒドに由来するアセタール構造を含むことが好ましい。
【0031】
防曇膜における吸水性ポリマーの含有率は、例えば45~95質量%であり、好ましくは55~85質量%、さらに好ましくは、65~80質量%である。吸水性ポリマーは、防曇膜の主成分であってもよい。
【0032】
(ポリエーテル変性シロキサン)
ポリエーテル変性シロキサンは、シロキサンの主鎖の末端に結合した分子鎖、及びシロキサンの主鎖の側鎖として結合した分子鎖から選択される少なくとも1つとしてポリエーテル鎖を有する化合物である。シロキサンは、シロキサン結合(Si-O-Si)を骨格とする化合物である。ポリエーテル鎖の構成単位は、特に限定されないが、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドである。ポリエーテル鎖は、構成単位として、1種のみを含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。
【0033】
ポリエーテル変性シロキサンは、ポリエーテル変性シリコーンであってもよい。シリコーンは、シロキサン結合(Si-O-Si)を骨格とするポリマーである。ポリエーテル変性シリコーンの例は、ビックケミー社製のBYK-345、BYK-347、BYK-349、及びモメンティブ社製のTSF-4440である。
【0034】
防曇膜におけるポリエーテル変性シロキサンの含有率は、例えば2~30質量%であり、好ましくは5~25質量%、さらに好ましくは8~20質量%である。
【0035】
(ジオール)
炭素数2~8のジオール、言い換えると2~8個の炭素原子を有するジオールは、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、及びヘキサンジオールからなる群より選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。ジオールは、炭素数2~6のジオールであってもよい。好ましいジオールとしては、ブタンジオール、プロピレングリコール、及びジプロピレングリコールからなる群より選択される少なくとも1つを例示できる。防曇膜は、特に好ましいジオールとして、プロピレングリコール及び/又はジプロピレングリコールを含んでいてもよい。
【0036】
防曇膜における炭素数2~8のジオールの含有率は、例えば0.01~30質量%であり、好ましくは0.05~20質量%、さらに好ましくは0.1~10質量%である。
【0037】
(シランカップリング剤及びこれに由来する架橋構造)
シランカップリング剤は、以下の式(I)で表される加水分解性基を有するシリコン化合物を例示できる。式(I)で表される加水分解性基を有するシリコン化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
R-L-SiY3-nXn (I)
【0039】
式(I)において、nは、1~3の整数を表す。
【0040】
Xは、加水分解性基又はハロゲン原子である。加水分解性基としては、例えば、アルコキシル基、アセトキシ基、アルケニルオキシ基及びアミノ基から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。好ましいアルコキシル基としては、炭素数1~4のアルコキシル基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基)を例示できる。好ましいハロゲン原子としては、塩素を例示できる。
【0041】
Yは、炭素数1~3のアルキル基である。好ましいアルキル基は、メチル基及びエチル基である。
【0042】
Lは、炭化水素基である。炭化水素基は、好ましくはアルキレン基である。炭化水素基の炭素数は、例えば1~10であり、好ましくは1~6であり、より好ましくは1~3である。炭化水素基の好ましい例は、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、ビニレン基、及びプロペニレン基である。
【0043】
Rは、置換基、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。この炭化水素基の炭素数は、特に制限されず、例えば4~12であるが、3以下であってもよい。置換基は、反応性官能基であってもよい。反応性官能基は、例えばエポキシ基、アミノ基、メルカプト基、イソシアネート基、アクリル基、及びメタクリル基からなる群より選択される少なくとも1種であり、好ましくはエポキシ基及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種である。エポキシ基は、グリシジルエーテル基の一部として含まれていてもよい。エポキシ基を有するシランカップリング剤を「エポキシシラン」と記載することがある。アミノ基は、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基のいずれであってもよいが、好ましくは第一級アミノ基及び第二級アミノ基である。アミノ基を有するシランカップリング剤を「アミノシラン」と記載することがある。
【0044】
式(I)におけるXがアルコキシル基である化合物は、シリコンアルコキシドと呼ばれる。式(I)において、好ましくは、nは、2又は3である。すなわち、シランカップリング剤は、好ましくは、式(I)において、R-L-SiY1X2で表される反応性官能基を有する2官能シリコンアルコキシド又は式(I)において、R-L-SiX3で表される反応性官能基を有する3官能シリコンアルコキシドである。
【0045】
反応性官能基を有する2官能シリコンアルコキシドの好ましい具体例は、グリシドキシアルキルアルキルジアルコキシシラン及びアミノアルキルアルキルジアルコキシシランである。グリシドキシアルキルアルキルジアルコキシシランの例は、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン及び3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランである。アミノアルキルアルキルジアルコキシシランの例は、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン及びN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルエチルジエトキシシランである。
【0046】
反応性官能基を有する3官能シリコンアルコキシドの好ましい具体例は、グリシドキシアルキルトリアルコキシシラン及びアミノアルキルトリアルコキシシランである。グリシドキシアルキルトリアルコキシシランの例は、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)、及び3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランである。アミノアルキルトリアルコキシシランの例は、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、3-(N-フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及びN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシランである。
【0047】
本実施形態では、シランカップリング剤として、反応性官能基を有する2官能シリコンアルコキシド及び反応性官能基を有する3官能シリコンアルコキシドからなる群より選択される少なくとも1つのみを使用してもよく、複数種類使用してもよい。シランカップリング剤として、好ましくは、反応性官能基を有する3官能シリコンアルコキシドが使用できる。反応性官能基を有する3官能シリコンアルコキシドとして、グリシドキシアルキルトリアルコキシシラン及びアミノアルキルトリアルコキシシランからなる群より選択される少なくとも1つのみを使用してもよく、複数種類を使用してもよい。反応性官能基を有する3官能シリコンアルコキシドとして、好ましくは3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)及び3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)が使用できる。
【0048】
シランカップリング剤は、防曇膜において、少なくともその一部が他の成分と反応し、架橋構造を形成する。他の成分としては、吸水性ポリマー等の有機成分、基材表面の水酸基が挙げられる。
【0049】
特に好ましいシランカップリング剤の組み合わせは、エポキシ基含有シランカップリング剤(エポキシシラン)と、アミノ基含有シランカップリング剤(アミノシラン)との併用である。エポキシシラン及びアミノシランは、質量比で、例えば1:3~3:1、特に1:2~2:1の範囲となるように添加するとよい。
【0050】
防曇膜におけるシランカップリング剤の含有率は、例えば2~35質量%であり、好ましくは5~30質量%、さらに好ましくは8~25質量%である。
【0051】
(その他の成分)
防曇膜は、上述の成分以外にも、適宜、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、レベリング剤(表面調整剤)、光安定化剤等を含んでいてもよい。ただし、これらの成分は、防曇膜の20質量%以下、さらに10質量%以下、特に5質量%以下の範囲で添加することが望ましい。防曇膜において、コロイダルシリカその他のシリカ微粒子は、含まれていてもよく、含まれていなくてもよい。防曇膜におけるシリカ微粒子の含有率は、例えば10~60質量%であってもよいが、5質量%未満、さらに3質量%未満、特に1質量%未満に制限されていてもよい。シリカ微粒子を含む酸化物微粒子の含有率も、シリカ微粒子について上述した程度であってもよい。防曇膜は、シリカ微粒子に代表される酸化物微粒子を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。ただし、シリカ微粒子を含まない場合であっても、防曇膜は、ポリエーテル変性シロキサン、シランカップリング剤等に含まれるシロキサン成分を含みうる。
【0052】
[防曇膜付きガラス物品の特性]
本実施形態による防曇膜は、防曇膜にとって厳しい環境、例えば水と接触した状態で長い期間置かれた後であっても、高いレベルで透過光を散乱させずに透過させる機能を発揮しうる。この機能を発揮するために、防曇膜は、透明性及び吸水性と共に、耐水性を有し、さらに親水性を有することが望ましい。耐水性が十分でない防曇膜は、水分に長時間接するとその成分が溶出することがある。また、防曇膜は、自身による吸水が飽和状態に達したときに、その表面に余剰の水が連続した膜として保持される程度に親水性であれば、透過光は過度に散乱することなく透過しうる。
【0053】
(透明性/透過光の非拡散性)
本実施形態による防曇膜付きガラス物品は、透過光を過度に散乱することなく透過させうる。具体的に、防曇膜付きガラス物品は、例えば、5%以下、さらに3%以下、特に1%以下、場合によっては0.4%以下、のヘイズ率を有しうる。ヘイズ率は、JIS K 7136:2018に規定されている。
【0054】
(耐水性/親水性)
本実施形態による防曇膜付きガラス物品によれば、耐水性と親水性とが両立しうる。これらの特性は、実施例の欄で詳細を記述する高温水蒸気評価と呼ぶ方法により評価できる。この方法では、防曇膜を鉛直方向下方に向けた状態で防曇膜に高温かつ過剰の水蒸気が供給される。この水蒸気に接した際、親水性かつ耐水性に優れた防曇膜の表面には、水蒸気に直接曝された部分において水の透明な連続膜が形成される。「透明な連続膜」であるかは、水滴ではなく膜としての連続性が確保され、かつその膜が白濁していないことを目視により確認することにより判断できる。膜の白濁は、耐水性の不足による膜の白化により、又は防曇性の不足による膜表面の結露により、生じうる。親水性が不足している膜の表面では、水は、連続膜として保持されず、水滴として分散して付着する。耐水性が不足している膜には、高温水蒸気との接触により膜の白化が観察され、膜の成分の溶出や膜の欠損が生じることもある。表面の親水性は、一般に、水の接触角により評価される。しかし、この評価法では、ごく少量の水滴が膜に滴下されるのみであるから、厳しい環境を十分に再現したことにはならない。なお、透明な連続膜は、水蒸気に曝された防曇膜の表面の80%以上、さらに90%以上を被覆していてもよい。
【0055】
より詳細に、或いはより段階的に膜を評価するためには、QRコードを用いた情報読み取り評価を実施することができる。この評価法の詳細も実施例の欄で後述する。この評価法において、本実施形態による防曇膜付きガラス物品は、室温の水に24時間浸漬した後においても、好ましくは30mm四方のサイズを有するQRコード「A」を、より好ましくは20mm四方のサイズを有するQRコード「S」を、さらに好ましくは15mm四方のサイズを有するQRコード「SS」を、特に好ましくは10mm四方のサイズを有するQRコード「SSS」の読み取りが可能な程度に、良好な親水性を発揮しうる。
【0056】
本実施形態による防曇膜形成用塗布液は、シランカップリング剤と、吸水性ポリマーと、ポリエーテル変性シロキサンと、炭素数2~8のジオールと、を含む。各成分には、例えば、上述した化合物が使用できる。防曇膜形成用塗布液における各成分の含有率は、防曇膜における各成分の含有率が上述した範囲になるように適宜調節すればよい。また、防曇膜形成用塗布液には、その他の成分が含まれていてもよい。その他の成分の例は、水及びアルコールである。
【0057】
[防曇膜の成膜]
防曇膜は、防曇膜を形成するための塗布液(防曇膜形成用塗布液)をガラス基材の表面に塗布し、塗布液により塗膜を形成したガラス基材を加熱することにより、成膜できる。塗布液の調製に用いる溶媒、塗布液の塗布方法は、従来から公知の材料及び方法を用いればよい。塗布方法の例は、スピンコート法、ロールコート法、スプレーコート法、ディップコート法、フローコート法、スクリーン印刷法、及び刷毛塗法である。塗膜は、加熱の前に適宜乾燥させてもよい。
【0058】
塗膜を形成したガラス基材の加熱温度は、特に限定されないが、例えば100~180℃であり、加熱時間は、例えば5.0分~1.0時間である。
【実施例0059】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。まず、各実施例又は比較例から得た防曇膜付きガラス物品の評価方法を説明する。
【0060】
(水浸漬試験)
室温(約25℃)の純水を保持したプラスチック製容器に防曇膜付きガラス物品を浸漬させ、この状態で24時間保持した。その後、防曇膜付きガラス物品を取り出し、ホルダーに立てかけて乾燥させた。乾燥後のサンプルについて、以下の外観評価及び高温水蒸気評価を実施した。
【0061】
・外観評価
膜面の状態が下記のいずれに該当するかを肉眼で評価した。
G :試験前と比較して変化なし。
F :若干の白化が観察される。
NG:白化が観察される。
Y :膜の溶出が観察される。
【0062】
・高温水蒸気を用いた防曇性評価(高温水蒸気評価)
図3Aに示すように、沸騰させた水70を内部に保持したステンレス製保温カップ80の上方に、防曇膜11が形成された面が保温カップ80側を向くように防曇膜付きガラス物品1を水平に保持した。水蒸気を供給する間、水70の温度は90~100℃に維持されていた。防曇膜11と水面との間の距離D
1は60mmとした。なお、保温カップ80の内部空間は開口部の直径が64mmの円柱状であり、水70の体積は約130ccとした。保温カップ80上で防曇膜付きガラス物品1を30秒間保持して防曇膜11に高温の水蒸気を供給した。その後、
図3Bに示すように、保温カップ80を撤去し、これに代えて所定のQRコード90を印刷した台紙95を配置した。防曇膜11と台紙95との間の距離D
2は110mmとした。この状態で、防曇膜付きガラス物品1を介してその上方からカメラ100によりQRコード90を撮影し、QRコード90が有する情報を読み取れるかを確認した。ガラス基材10とカメラ100のレンズ101との間の距離D
3は80mmとした。保温カップ80の撤去、すなわち高温水蒸気の供給の停止からQRコードの撮影までは30秒以内に実施した。
【0063】
QRコードとしては、
図4Aから
図4Eに示した5種類を用い、情報を読み取ることができる最小のQRコードを特定し、そのQRコードを評価結果とした。用いたQRコードの大きさとそれが有する情報は、以下のとおりである。例えば、QRコードSSSを読み取ることができた場合は、文字情報「Rank:SSS」が表示されることになる。
QRコード「SSS」:10mm×10mm、情報「Rank:SSS」(
図4A)
QRコード「SS」 :15mm×15mm、情報「Rank:SS」(
図4B)
QRコード「S」 :20mm×20mm、情報「Rank:S」(
図4C)
QRコード「A」 :30mm×30mm、情報「Rank:A」(
図4D)
QRコード「B」 :40mm×40mm、情報「Rank:B」(
図4E)
【0064】
いずれのQRコードも読み取ることができなかった場合は「X」、高温水蒸気との接触により膜が溶出又は剥離した場合は「Y」と評価した。
【0065】
図4Aに記載されたQRコード「SSS」は、JIS X 0510:2018に従い、25×25モジュールのシンボルサイズ及びレベルHの誤り訂正の仕様により、情報として上記文字列を符号化した。
図4B~4Eに記載されたQRコード「SS」~QRコード「B」は、JIS X 0510:2018に従い、21×21モジュールのシンボルサイズ及びレベルHの誤り訂正の仕様により、情報として上記各文字列を符号化した。なお、各文字列は、全角文字ではなく半角文字(1バイトコード)により構成されている。
【0066】
カメラは、ソニー社製のスマートフォン「Xperia XZ2」(機種名:SO-03K、OS:Android(登録商標)(ver.10))を用いた。QRコードの読み取りにはLINE(登録商標)アプリ(ver.11.7.2)のQRコード読み取り機能を用いた。
【0067】
(実施例1)
(塗布液の調製)
ポリビニルアセタール樹脂含有溶液(積水化学工業社製「エスレックKX-5」、固形分8質量%、アセタール化度9モル%、ベンズアルデヒドに由来するアセタール構造を含む)48.2質量%、ポリエーテル変性シロキサン(ビックケミー社製「BYK-345」)0.5質量%、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES、信越シリコーン社製「KBE-903」)1.0質量%、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS、信越シリコーン社製「KBM-403」)0.7質量%、プロピレングリコール20.0質量%、精製水18.5質量%、アルコール溶媒(大伸化学社製「ネオエタノールP-7」)11.0質量%、塩酸0.1質量%、レベリング剤(信越シリコーン社製「KP-341」)0.01質量%をガラス製容器に投入して攪拌し、塗布液を調製した。
【0068】
(防曇膜の形成)
アルカリ洗浄によって予め洗浄したフロートガラス(サイズ:50mm×50mm、厚み:1.1mm)のボトム面に、スピンコート法(1500rpm、10秒)により塗布液を塗布して塗膜を形成した。次に、100℃、30分間の条件で塗膜を形成したフロートガラスを加熱し、防曇膜付きガラス物品を得た。
【0069】
(実施例2~8)
塗布液の調製において、表1に記載した原料及び量を用いたことを除き、実施例1と同様にして防曇膜付きガラス物品を得た。なお、実施例2では、エポキシシランの減量分だけアルコール溶媒を増量した。実施例3では、ポリエーテル変性シロキサンの増量分だけアルコール溶媒を減量した。BYK-347、349、3455はビックケミー社製の、TSF-4440はモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製のポリエーテル変性シリコーンである。
【0070】
(比較例1~10)
塗布液の調製において、表2に記載した原料及び量を用いたことを除き、実施例1と同様にして防曇膜付きガラス物品を得た。なお、比較例10で使用した「A-80」(ラピゾールA-80)は日油社製の製品名である。また、比較例1~6では、添加しないこととした成分の量だけアルコール溶媒を増量した。
【0071】
水浸漬試験の結果を表1及び2に示す。
【0072】
【0073】
【0074】
各実施例による防曇膜付きガラス物品は、水浸漬試験後の高温水蒸気評価が「SSS」~「S」となった。各実施例によるガラス物品の防曇膜は、いずれも、高温の水蒸気の供給を停止した時点において、その表面に均一な厚みの水の連続膜が形成され、かつ膜自体の白化及び結露による曇りのいずれも観察されずに防曇膜付きガラス物品の透明性が確保されていた。なお、各実施例において評価「SSS」~「S」を得た透明な連続膜は、水蒸気に曝された防曇膜の表面の90%以上、より具体的には上記表面の実質的にすべて、を被覆していた。これに対し、比較例7~9では、水浸漬試験後に、防曇膜が溶出していた。比較例1~6及び10では、高温の水蒸気の供給を停止した時点において、結露による曇りが観察され、又は防曇膜の表面に大きな水滴が分散して付着している状態であった。そのため、これらの比較例では、最も大きなQRコードさえ読み取ることができなかった。
【0075】
さらに、ジオールが防曇膜に与える影響を確認するために、実施例1、7、及び8について、以下の評価を実施した。結果を表3に示す。
【0076】
【0077】
(初期状態)
防曇膜を形成した初期状態で、上記と同様にして、外観評価を実施し、さらにヘイズ率を測定した。
【0078】
(繰り返し防曇試験)
防曇膜を形成した初期状態において、高温水蒸気評価と同様にして、高温の水蒸気を防曇膜に供給した。その後、防曇膜付きガラス物品を取り出し、ホルダーに立てかけて乾燥させた。乾燥後のサンプルに、再度、高温の水蒸気を防曇膜に供給し、乾燥させることを繰り返し、高温の水蒸気を防曇膜に10回供給した。その後、上記と同様にして、外観評価及び高温水蒸気評価を実施した。なお、高温水蒸気評価において、QRコードの撮影は、11回目の水蒸気の供給を省いて(10回目の水蒸気供給を終えた後直ちに)実施した。
【0079】
(アルコール摩耗試験)
エタノールを主成分とするアルコール溶媒(双葉化学薬品社製「ファインエターA-10」)0.5ccを25mm幅にカットした不織布ウエス(旭化成社製「ベンコットM-3II」)に滴下して染み込ませた後、防曇膜付きガラス物品と共に往復摩耗試験にセットした。ウエスに400gの荷重を加えた状態で、長さ30mmを20往復させた。その後、上記と同様にして、外観評価及び高温水蒸気評価を実施した。
本発明による防曇膜付きガラス物品は、車両及び建築物の窓ガラス;建築物のファサード用ガラス;住宅、住宅設備、車両及び携帯用の鏡;レンズ、光学フィルタ等の光学部材;画像表示装置のカバーガラス;車両のヘッドライト;電子黒板等のタッチパネル付き液晶ディスプレイ;VR(仮想現実)ゴーグル等に用いられるヘッドマウントディスプレイ等に利用することができる。