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特開2023-8532回転摩擦溶接による金属の接合方法および接合構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008532
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】回転摩擦溶接による金属の接合方法および接合構造
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20230112BHJP
【FI】
B23K20/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112173
(22)【出願日】2021-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】518283506
【氏名又は名称】エードス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】上谷 宏二
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA02
4E167AA06
4E167BF02
4E167DC02
(57)【要約】
【課題】回転摩擦溶接による金属の接合の方法および構造に関する技術であり、特に、新規の鋼構造物の接合および既存の鋼構造物の補修に用いる接合の方法および構造を提供する。
【解決手段】第1の金属10の裏面12と第2の金属20の表面21を対向させて配置し、第1の金属10に第1の金属10の裏面12と第2の金属20の表面21とを貫く直線を回転軸71とする回転対称形状の貫通孔14を空所50として加工し、接合金属40を空所50に挿入し、接合金属40の先端部47と空所50の底部51における第2の金属20の表面21との接触部60に押圧力pを加えた状態で接合金属40を回転軸71周りに回転させて摩擦を生ぜしめ、接触部60近傍を溶融させて溶融金属80を生成させ隙間65に充填させることにより、第1の金属10を第2の金属20に接合する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転摩擦によって接合金属を介して第1の金属を第2の金属に接合する接合方法であって、前記第1の金属と前記第2の金属とを重ねた位置に配置すると共に前記第1の金属の裏面と前記第2の金属の表面を対向させて配置し、前記第1の金属に前記第1の金属の前記裏面と前記第2の金属の前記表面とを貫く直線を回転軸とし前記第2の金属の前記表面に達する回転対称形状の貫通孔を前記貫通孔の内周面を側周面とし前記第2の金属の前記表面を底部とする空所として加工し、前記接合金属は、容易に前記空所に挿入されうる形状の回転対称体であって、前記接合金属を前記空所に挿入し、前記接合金属の先端部と前記空所の前記底部における前記第2の金属の前記表面との接触部に押圧力を加えた状態で前記接合金属を前記回転軸周りに回転させて摩擦を生ぜしめ、前記摩擦による摩擦熱を利用して前記接触部近傍の材料組織を溶融させて溶融金属を生成し、前記溶融金属を前記接合金属の先端部に生じる押圧力と回転運動を利用して前記接合金属の前記側周面と前記空所の前記側周面との隙間に充填させ、ついで回転運動を停止し前記溶融金属を凝固させて前記第2の金属の前記表面近傍の組織と一体化させると共に前記第1の金属の前記隙間近傍の組織と一体化させることにより前記接合金属を介して前記第1の金属を前記第2の金属に接合することを特徴とする回転摩擦による金属の接合方法。
【請求項2】
前記接合金属を介しての前記第1の金属の前記第2の金属への接合は、接合面に主としてせん断力が作用するせん断接合であることを特徴とする請求項1に記載の回転摩擦による金属の接合方法。
【請求項3】
前記接合金属を介しての前記第1の金属の前記第2の金属への接合は、接合面に主として引張力が作用する引張接合であることを特徴とする請求項1に記載の回転摩擦による金属の接合方法。
【請求項4】
前記接合金属の前記先端部の側に縮径部が形成されることを特徴とする請求項1乃至3に記載の回転摩擦による金属の接合方法。
【請求項5】
前記第1の金属の前記貫通孔の前記裏面の側に拡径部が形成されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の回転摩擦による金属の接合方法。
【請求項6】
前記第2の金属の前記表面に前記回転軸に対する回転対称形状を持ち前記第1の金属の前記貫通孔の前記裏面における径よりも大きい径を有する凹部が形成されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の回転摩擦による金属の接合方法。
【請求項7】
前記第2の金属の前記表面に前記回転軸に対する回転対称形状を持ち前記第1の金属の前記貫通孔の前記裏面における径と同じ径を有する凹部が形成されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の回転摩擦による金属の接合方法。
【請求項8】
前記凹部の母線が前記貫通孔の母線に滑らかに連続するように形成されることを特徴とする請求項7に記載の回転摩擦による金属の接合方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の方法により、前記接合金属を介して前記第1の金属を前記第2の金属に接合することを特徴とする回転摩擦による金属の接合構造。





【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転摩擦溶接による金属の接合の方法および構造に関する技術である。特に、金属は鋼材であって、新規の鋼構造物の接合および既存の鋼構造物の補修に用いられる接合に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
図16に従来の摩擦圧接法による鋼材の接合例を示す。図16(a)に示すように、第1の鋼材210と第2の鋼材220とを押圧(摩擦圧力)しつつ第1の鋼材210と第2の鋼材220との接触部260に生ずる摩擦により接触部260近傍の材料組織を溶融または軟化させた後、さらに大きな押圧(アプセット圧力)を付加して一体化させる第1の鋼材210と第2の鋼材220との接合方法および接合構造である。摩擦圧接法の場合、図16(b)に示すように、溶融により液状化した接触部260近傍の組織は摩擦圧力およびアプセット圧力により摩擦面から排出されてバリ281の大部分を形成し、通常は接合に有効利用されることはない。一方、軟化した固体組織は摩擦面近傍に残存し鋼材同士の固体接合に寄与する。
【0003】
特許文献1には、ステンレス鋼の丸棒と黄銅の丸棒との先端を接するように接触部を加工して、接触部同士を押圧しつつ相互に相対回転させて生じる摩擦により接触部近傍の材料組織を溶融または軟化させて一体化させる摩擦圧接法および接合構造が提示されている。特許文献2には、2本のパイプの間に同径のリング部材を挟むように接触させて配置し、リング部材とパイプとに接触部を形成して、両側のパイプをリング部材に押圧しつつリング部材を回転させることにより生じる摩擦により接触部近傍の材料組織を溶融または軟化させて、最終的に両側のパイプとリング部材とを一体化させて接合する、いわゆるインサート法と称されている摩擦圧接法および接合構造が提示されている。特許文献3には、2本の鉄筋の間に鉄筋と同断面形状短尺の接合補助材を挟むように接触させて配置し、接合補助材とそれぞれ鉄筋の先端に接触部を形成し、両側の鉄筋を接合補助材に押圧しつつ接合補助材を回転させることにより生じる摩擦により接触部近傍の材料組織を溶融または軟化させて一体化させる摩擦圧接法および接合構造が提示されている。特許文献4には、空所に該空所より若干大径の棒状の挿入物を挿入させるに際し、挿入物に回転運動と挿入方向に大きな力を加え、空所入口近傍さらには空所内部を摩擦発熱によって軟化または溶融させ徐々に挿入物を挿入させる方法が提示されている。
【0004】
出願人らによる特許文献5および6では、図17に示す回転摩擦溶接による接合技術を提供している。第1の鋼材310の端面311と第2の鋼材320の端面312とに跨り回転対称形状で側周面352と底部351を有する空所350を加工し、接合金属340の先端部347と空所350の底部351との接触部360に押圧力pを加えた状態で接合金属340を回転軸371周りに回転させて摩擦を生ぜしめ、摩擦による摩擦熱を利用して回転摩擦面362近傍の材料組織を溶融させて溶融金属380を生成し、液体化した溶融金属380を接合金属340の側周面342と空所350の側周面352との隙間365に充填させ、隙間365近傍の組織と一体化させることにより接合金属340を介して第1の鋼材310と第2の鋼材320とを接合する。この際、底部351と接合金属340とにも接合が生ずるが、底部351と接合金属340との接合には、主たる接合耐力としては期待していない。
一方、建築鋼構造の柱や梁などの鋼構造骨組を構成する鋼材の接合は、溶接または高力ボルト摩擦接合のいずれかによる場合がほとんどである。建築鋼構造物において、図18(a)に示すように水平力Sが載荷される一方の鋼板410を他方の鋼板420にせん断接合するには、従来技術では、図18(b)のように溶接w(特に、隅肉溶接)によるか、図18(c)のようにボルトb(特に、高力ボルト摩擦接合)による。ところが、溶接wの場合には施工現場の環境や技術者の技量によって欠陥が生じ得る欠点があり、また、ボルトb(高力ボルト摩擦接合)の場合にはボルト孔による被接合鋼材の断面欠損やボルト孔の片側だけからの締め付けが困難といった欠点があり、これらの課題を解決できる新しい接合方法の提供が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-301264号公報
【特許文献2】特開2000-094157号公報
【特許文献3】特開2011-152563号公報
【特許文献4】特開昭52-075641号公報
【特許文献5】国際公開第2019/044862号
【特許文献6】特開2018-111128号公報
【特許文献7】特願2020-184151号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の摩擦圧接法は、鉄筋のように比較的小規模な鋼材の接合に実用化されている。ただし、特許文献3の長尺の鉄筋の場合は、回転するのに大規模な設備が必要である。特許文献4の方法では、空所入口近傍で接合に寄与しないバリが多く発生し、挿入を妨害するのでそれに打ち勝つような多大な力が必要である。さらにこれらの方法を建築鋼構造の柱や梁のように大規模な鋼材の接合に適用しようとすると、押圧および摩擦を加えるために要する加圧機構や動力機構の性能が巨大化して、建築鋼構造の工事現場での現場接合に適用することは困難である。一方、出願人による特許文献5、特許文献6では、大規模な鋼材の接合に適用できる回転摩擦溶接による接合方法および接合構造を提供した。また、出願人による特許文献7では、比較的小さな機構で、好ましくは携帯可能なサイズの装置を提示している。しかし、これら回転摩擦溶接による金属の接合の方法および構造については具体的な方法および構造を提示していない。
本発明は、回転摩擦溶接による金属の接合の方法および構造に関するものである。特に、金属は鋼材であって、新規の鋼構造物の接合および既存の鋼構造物の補修に用いられる接合の方法および構造を提案することを目的とする。

【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明では、
回転摩擦によって接合金属を介して第1の金属を第2の金属に接合する接合方法であって、前記第1の金属と前記第2の金属とを重ねた位置に配置すると共に前記第1の金属の裏面と前記第2の金属の表面を対向させて配置し、前記第1の金属に前記第1の金属の前記裏面と前記第2の金属の前記表面とを貫く直線を回転軸とし前記第2の金属の前記表面に達する回転対称形状の貫通孔を前記貫通孔の内周面を側周面とし前記第2の金属の前記表面を底部とする空所として加工し、前記接合金属は、容易に前記空所に挿入されうる形状の回転対称体であって、前記接合金属を前記空所に挿入し、前記接合金属の先端部と前記空所の前記底部における前記第2の金属の前記表面との接触部に押圧力を加えた状態で前記接合金属を前記回転軸周りに回転させて摩擦を生ぜしめ、前記摩擦による摩擦熱を利用して前記接触部近傍の材料組織を溶融させて溶融金属を生成し、前記溶融金属を前記接合金属の先端部に生じる押圧力と回転運動を利用して前記接合金属の前記側周面と前記空所の前記側周面との隙間に充填させ、ついで回転運動を停止し前記溶融金属を凝固させて前記第2の金属の前記表面近傍の組織と一体化させると共に前記第1の金属の前記隙間近傍の組織と一体化させることにより前記接合金属を介して前記第1の金属を前記第2の金属に接合する。
ここで、第1の金属および第2の金属の材質は、任意の構造用金属であって、接合金属の材質は、摩擦により溶融して、第1の金属と接合金属および第2の金属と接合金属とを一体化することが可能な金属である限り任意である。例えば、鋼材、合金鋼材、アルミニウム材、アルミニウム合金材などが挙げられる。空所の形状および接合金属の形状は、接合金属を空所に押し付けつつ回転することが容易な、任意の単調変化する曲線を母線とする回転対称形状である。また、「側周面」とは、回転対称形状における母線の生成する面を意味する。接合金属は回転対称形状の側周面を有する回転対称体であって、「容易に空所に挿入されうる」とは、接合金属の側周面と空所の側周面との間に適度の隙間を有して挿入が容易なことを意味する。なお、上記の回転対称形状には、概略回転対称である例えば正八角柱形状や正八角錐形状などの形状をも含む。
本発明による接合方法による接合金属を介する第1の金属と第2の金属との「接合」には、任意の荷重が作用可能である。すなわち、第1の金属の裏面と前記第2の金属の表面を対向させて配置した面を接合面と定義し、接合面に主としてせん断力が作用するせん断接合(段落25および図4参照)、接合面に主として引張力が作用する引張接合((段落26および図5参照)、接合面に主として曲げモーメントが作用する曲げモーメント接合、接合面に主として捩りモーメントが作用する捩りモーメント接合と称するとき、本発明の「接合」には、せん断接合、引張接合、曲げモーメント接合、捩りモーメント接合およびこれらの複合的な接合を含む。
【0008】
請求項2の発明では、
前記接合金属を介しての前記第1の金属の前記第2の金属への接合は、接合面に主としてせん断力が作用するせん断接合である。
ここで、第1の金属の裏面と前記第2の金属の表面を対向させて配置した面を接合面と定義し、接合面に主としてせん断力が作用するせん断接合(段落25および図4参照)とする。
【0009】
請求項3の発明では、
前記接合金属を介しての前記第1の金属の前記第2の金属への接合は、接合面に主として引張力が作用する引張接合である。
ここで、第1の金属の裏面と前記第2の金属の表面を対向させて配置した面を接合面と定義し、接合面に主として引張力が作用する引張接合((段落26および図5参照)とする。

【0010】
請求項4の発明では、
前記接合金属の前記先端部の側に縮径部が形成される。
このような縮径部を設けることにより接触部に作用する押圧力を大きくすることができる。
【0011】
請求項5の発明では、
前記第1の金属の前記貫通孔の前記裏面の側に拡径部が形成される。
このようにすると、溶融金属の侵入する空隙の外径が大きくなり、せん断応力が生ずる接合部面積を大きくすることができて接合強度が増大する。
【0012】
請求項6の発明では、
前記第2の金属の前記表面に前記回転軸に対する回転対称形状を持ち前記第1の金属の前記貫通孔の前記裏面における径よりも大きい径を有する凹部が形成される。
このようにしても、溶融金属の侵入する空隙の外径が大きくなり、せん断応力が生ずる接合部面積を大きくすることができて接合強度が増大する。さらには、接合金属本体の棒状部分が第1の金属と第2の金属との接合面を貫入して閂効果が発現し、一層安定性の高いせん断力伝達機構が形成される。
【0013】
請求項7の発明では、
前記第2の金属の前記表面に前記回転軸に対する回転対称形状を持ち前記第1の金属の前記貫通孔の前記裏面における径と同じ径を有する凹部が形成される。
このようにしても、接合金属本体の棒状部分が第1の金属と第2の金属との接合面を貫入して閂効果が発現し、一層安定性の高いせん断力伝達機構が形成される。
【0014】
請求項8の発明では、
前記凹部の母線が前記貫通孔の母線に滑らかに連続するように形成される。
このようにすると面と面とが有限の角度を持って交わる隅角部で生じやすい空隙(ポア
)の発生を防止できる。
【0015】
請求項9の発明では、
請求項1乃至8のいずれかに記載の方法により、前記接合金属を介して前記第1の金属を前記第2の金属に接合することを特徴とする回転摩擦による金属の接合構造である。


【発明の効果】
【0016】
本発明により、回転摩擦溶接により金属の接合の方法および構造が提示された。特に、金属は鋼材の場合であって、本発明の回転摩擦溶接を用いて、新規の鋼構造物の接合および既存の鋼構造物の補修の接合が可能になる。

【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態の施工前の状態を説明する図である。図1(a)は、平面図、図1(b)は、断面図である。
図2】第1実施形態の施工後の接合部の詳細を示す図である。
図3】第1実施形態の実施手順を説明する図である。
図4】第1実施形態における水平力を伝達するせん断接合を説明する図である。
図5】第1実施形態における垂直力を伝達する引張接合を説明する図である。
図6】接合金属40の先端部に形成された縮径部を示す図である。
図7】第1の金属の貫通孔に形成された拡径部を示す図である。
図8】第2の金属の表面に形成された凹部を示す図である。
図9】第2の金属の表面に形成された凹部を示す図である。
図10】第2の金属の表面に形成された凹部を示す図である。
図11】第1実施形態の変形例を説明する図である。
図12】第2実施形態を説明する図である。
図13】第3実施形態を説明する図である。
図14】試験体および載荷試験を説明する図である。
図15】載荷試験により得られた荷重変形F‐δ曲線である。
図16】従来技術を説明する図である。
図17】出願人らによる従前の出願の技術を説明する図である。
図18】従来のせん断接合を説明する図である。
図19】載荷試験結果。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。なお、同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略もしくは簡略化する。
【0019】
本発明の第1実施形態を、図1および図2を参照して説明する。第1の金属10は、表面11と裏面12とを持つ金属である。一方、第2の金属20は、少なくとも表面21を持つ金属である。第2の金属20は、第1の金属と同様の表面21と裏面22とを持つ金属であってよいが、金属塊のように表面21のみを持つ金属であってよい。本実施形態は、第1の金属10を第2の金属20に接合金属40を介して接合する接合の方法を示している。
本実施形態では、第1の金属10および第2の金属20は、それぞれ鋼材SN400厚さ22mmの鋼板であり、第1の金属10と第2の金属20とを重ねた位置に配置すると共に第1の金属10の裏面12と第2の金属20の表面21を対向させて配置し第1の金属10と第2の金属20とを貫く直線を回転軸71とし、直径21.0mmの円筒形状の貫通孔14をその内周面を側周面52とし、第2の金属20の表面21を底部51とする空所50を加工する。第1の金属10の裏面12と第2の金属20の表面21を対向させて配置した面を接合面30と定義する。このとき、第1の金属10の裏面12と第2の金属20の表面21とは、面接触(メタルタッチ)状に配置されることが望ましいが、表面の凹凸や不可避の建方誤差等に伴う微小のスキ・ズレは許容される。一方、接合金属40は、SN400金属であり接合金属本体41が直径20.0mmの円柱体である。接合金属40を空所50に挿入し、接合金属40の先端部47と空所50の底部51における第2の金属20の表面21との接触部60に押圧力pを加えた状態で接合金属40に回転対称軸71回りに回転を与えて、回転摩擦面62に回転摩擦を生ぜしめる。ここで回転速度ωは3000rpmで押し付け力Pは18840Nである。(接合完了時における接合金属の先端部と空所の底部との間の回転摩擦面を62aとする。)摩擦熱によって接触部60近傍に生ずる接合部の溶融金属83を形成すると共に、溶融金属80を先端部47に生じる押圧力pと回転運動を利用して接合金属40の側周面42と空所50の側周面52との隙間65に充填部の溶融金属85として充填せしめ、隙間65の全域が充填されたときに回転運動を停止させ。その後の一定時間、アプセット圧力として押圧力pを保持し、温度低下に伴って溶融金属80は凝固して、第2金属20の表面21近傍の組織と一体化させると共に第1の金属10の隙間65近傍の組織と一体化させることにより、接合金属40を介して第1の金属10と第2の金属20とを接合する。ところで、本実施形態では、空所50および接合金属40をそれぞれ円筒形状、円柱体としたが、単調変化する曲線を母線とする回転対称形状の側周面42を有するものとしてもよい。
【0020】
図3は、第1実施形態における金属の接合方法の実施手順を段階的に示す。
【0021】
(手順1)図3(a)は、第1の金属10に加工された貫通孔14と第2の金属20の表面21による空所50に、回転押圧装置70に装着した円柱形状の接合金属40を挿入し、接合金属40の先端部47と空所50の底部51との間に接触部60が生じた状態を示す。
【0022】
(手順2)図3(b)は、接合中の状態を示す。接合金属40に押し付け力Pを作用させ、押し付け力Pを一定に保持しながら接合金属40を回転軸71回りに回転速度ωで回転を与えることにより接合金属40の先端部47と空所50の底部51との間の回転摩擦面62にて摩擦を生ぜしめる。摩擦熱によって液体化した溶融金属80は押し付け力Pによる押圧力pの作用で押し出され、接合金属40の側周面42と空所50の側周面52との隙間65に侵入していく。
【0023】
(手順3)図3(c)は、接合後の状態を示す。接合金属40の先端部47と空所50の底部51との間の回転摩擦面62(図3(b)参照)における摩擦によって生成された溶融金属80(図3(b)参照)が、接合金属40の側周面42と空所50の側周面52との隙間65の全域に充填されたときに接合金属40の回転運動を停止させ、その後の一定時間、アプセット圧力として押圧力pを保持し、温度低下に伴って凝固した溶融金属83が第1の金属10の隙間65近傍の組織と一体化すると共に凝固した溶融金属85が第2金属20の表面21近傍の組織と一体化することにより接合が完了する。なお、図3(c)中の62aは、接合完了時における接合金属の先端部47と空所の底部51との間の回転摩擦面を表す。
【0024】
なお、回転軸71方向の押し付け力Pを加える方法、回転軸71回りの回転を加える方法は任意である。
【0025】
図4は第1実施形態により接合金属40を介して第1の金属10を第2の金属20に接合した接合面30に、主としてせん断力Qが作用して「せん断接合」を構成する場合の外力の伝達を説明する図である。図4に示すように、接合面30に対して水平な外力である水平力S1が、第1の金属の板厚中心位置に載荷され、溶融金属85を介して接合金属40の側周面42に支圧応力σbとして伝達され接合金属40のせん断応力τ1となり、せん断応力τ1は接合面30に伝達されてせん断力Qとして作用し、せん断力Qは溶融金属83にせん断応力τ2として伝達され、第2の金属20に水平力S1の反力としての水平力S2(=S1)として伝達される。このとき、接合面30には、水平力S1の載荷位置と水平力S2の載荷位置との間にずれhによって(図示しない)偏心モーメントが生じ、接合面には垂直応力が生じる。
【0026】
図5は第1実施形態により接合金属40を介して第1の金属10を第2の金属20に接合した接合面30に、主として引張力Tが作用して「引張接合」を構成する場合の外力の伝達を説明する図である。図5に示すように、接合面30に対して垂直な外力である垂直力V1lおよびV1rが、第1の金属の接合金属40の回転軸71から距離llおよび距離lrの位置にそれぞれ載荷される。このとき、垂直力V1lおよびV1rは、V1l*ll=V1r*lrを満たして、回転軸71の位置で曲げモーメントは生じないものとする。垂直力V1lおよびV1rは、溶融金属85を介して接合金属40の側周面42にせん断応力τとして伝達され接合金属40の引張応力σt1となり、引張応力σt1は接合面30に伝達されて引張力Tとして作用し、引張力Tは溶融金属83に引張応力σt2として伝達され、第2の金属20に垂直力V1lおよびV1rの反力としての垂直力V2(=V1l+V1r)として伝達される。
【0027】
図6に示すように、接合金属40の先端部47にテーパ形状の縮径部46を設ける。このような縮径部を設けることにより、接触部60の面積が空所50の面積より小さくなり、同じ大きさの押し付け力Pに対して接触部60に作用する押圧力pを大きくすることができ、回転摩擦の初期段階における属の溶融が促進される。
【0028】
図7に示すように、第1の金属10の貫通孔14の前記裏面12の側に拡径部17が形成されてもよい。このようにすると、溶融金属80の侵入する空隙の外径が大きくなり、せん断応力τが伝達される接合部面積を大きくすることができて接合強度が増大する。
【0029】
図8に示すように、第2の金属20の表面21に回転軸71に回転対称形状前記第1の金属10の貫通孔14の裏面12における径よりも大きい径を有する凹部25が形成されてもよい。このようにしても、溶融金属83の侵入する空隙の外径が大きくなり、せん断応力τが伝達される接合部面積を大きくすることができて接合強度が増大する。さらには、接合金属本体41の棒状部分が第1の金属10と第2の金属20との接合面30を貫入して閂効果が発現し、一層安定性の高いせん断力伝達機構が形成される。

【0030】
図9及び図10に示すように、第2の金属20の表面21に回転軸71に回転対称形状前記第1の金属10の貫通孔14の裏面12における径と同じ径を有する凹部25が形成されてもよい。このようにすると、接合金属本体41の棒状部分が第1の金属10と第2の金属20との接合面30を貫入して閂効果が発現し、一層安定性の高いせん断力伝達機構が形成される。さらには、図10に示すように、凹部25の母線25aが貫通孔14の母線14aに滑らかに連続するように形成されるのが望ましい。このようにすると、面と面とが有限の角度を持って交わる隅角部で生じやすい空隙(ポア)の発生を防止できる。
【0031】
第1実施形態の方法を応用すると、図11に示すように2以上の第1の金属10(10a、10b、10c)を重ね合わせ第2の金属20に接合することができる。すなわち、2以上の第1の金属10の裏面と表面をそれぞれ重ね合わせ、第2の金属20にもっとも近い第1の金属10の裏面と第2の金属20の表面を重ね合わせて配置し、重ね合わせられた2以上の第1の金属10を貫通する貫通孔14を空所50として加工し、この空所に挿入される接合金属40を介して接合することができる。
【0032】
本発明の第2実施形態を、図12を参照して説明する。一方および他方のフランジプレート120a、120bを同一面上に並べて配置し、一方および他方のフランジプレート120a、120bの表面121a、121b上に跨るように表面側のスプライスプレート110cを配置する。このとき、第1の金属110cの裏面112cと第2の金属120aの表面121aおよび120bの表面121bを対向させて配置した面を接合面130と定義する。フランジプレート120a、120bの中心面に対称に一方および他方のフランジプレート120a、120bの裏面122a、122b上にも跨るように裏面側のスプライスプレート110dを配置する。このとき、第1の金属110dの裏面112dと第2の金属120aの裏面122aおよび120bの裏面122bを対向させて配置した面を接合面130と定義する。本発明の第1の金属を表面側のスプライスプレート110cとし、第2の金属を一方のフランジプレート120aとして、表面側のスプライスプレート110cに貫通孔114として空所50を加工して、接合金属40を空所50に挿入して底部に回転摩擦させて溶融金属80を生じさせることにより接合する。同様に表面側のスプライスプレート110cを他方のフランジプレート120bに接合する。その結果、一方のフランジプレート120aを、表面側のスプライスプレート110cを介して、他方のフランジプレート120bと接合できる。さらに、同様にして、一方のフランジプレート120aを、裏面側のスプライスプレート110dを介しても、他方のフランジプレート120bと接合できる。
図12に示すように一方のフランジプレート120aおよび他方のフランジプレート120bにそれぞれ水平力2Sが載荷されると接合面130に主としてせん断力Q(=S)が作用するせん断接合を構成する。なお、第2実施形態では接合金属40は接合箇所ごとに表裏それぞれ一個としているが、接合金属40の個数は、伝達すべき水平力Sに応じて適宜設計されてよい。
【0033】
本発明の第3実施形態を、図13を参照して説明する。図13(b)は、図13(a)のA-A断面図である。図13(a)に示すように既存の第2金属20の表面21に亀裂25が生じており、図13(b)に示すようにその補修として亀裂27の両側の健全な部分を架け渡すように第1の金属10を配置する。第1の金属10のそれぞれに貫通孔14を加工して接合金属40を挿入し、本発明の方法により第1の金属10を第2の金属20に接合金属40を介して接合することにより、既存の第2金属20に生じた亀裂を補修する。なお、亀裂27の進展を止めるために亀裂の先端にストップホール29を設けてもよい。
【0034】
本発明の実施可能性と有効性を検証するために、図12に示した第2実施形態と同じ形状の試験体を本発明の方法にて作成して載荷試験を行った。試験体のスプライスプレート(第1の金属)110、フランジプレート(第2の金属)120、および接合金属40は、いずれも鋼材であり材質はSS400である。試験体の主要寸法は図14に示した通りである。スプライスプレート110は厚さ12.0mm、フランジプレート120は厚さ19.0mm、接合金属40は直径14.0mmの円柱体であり、スプライスプレート110に直径15.0mmの貫通孔114を加工して、試験体ごとに4箇所の接合箇所を有する。
【0035】
本試験に供された試験体は、下記のように試験体の作成における接合方法の条件を試験パラメータとするNo.1~No.4の4体である。本発明の接合方法における接合金属40に与える回転速度ωは3000rpmであり、押圧力pの大きさとその継続時間が、No.1およびNo.2では、60MPa、20秒であり(No.1とNo.2は同一条件の試験体)、No.3では、30MPa、30秒、No.4では、30MPa、40秒である。なお、いずれの試験体でも継続時間にて回転を停止した後、押圧力pの大きさをアプセット圧力として60秒間維持した。
【0036】
載荷試験は、図14に示したように、一方および他方のフランジプレート120の両端から一定歪速度で引張荷重F(図12における水平力2Sに相当)を単調増加し、接合箇所を介した一方および他方のフランジプレート110の間に設けた変位計で計測された変位δによる変位制御にて、接合箇所のいずれかにて破壊するまで載荷した。荷重変形F‐δ曲線を図15に掲げる。荷重変形F‐δ曲線より得られる初期剛性Ko、降伏荷重Fy、最大荷重Fmaxおよび最大荷重時の接合箇所におけるせん断応力(最大せん断耐力)を、図19に掲げる。
【0037】
No.1~No.4のいずれの試験体にても、図19の表に掲げる初期剛性Koにて降伏荷重Fyに達し、さらに最大荷重Fmaxを記録し接合箇所に有限の変形を生じ、接合箇所の一つにおける金属組織が中間的な耐力を保持したまま延びた荷重棚を呈した後、破断に至った。試験パラメータにより押圧力の大きさと継続時間の長さにより最大荷力Fmaxの増大の傾向が見られものの、すべての試験体にて最大荷重Fmaxを接合箇所の有効面積(=貫通孔114の面積)で除して得られる最大せん断耐力τmaxは、SS400である母材のせん断耐力τu(=σu/√3)と同等の値が得られており、本発明の接合方法が有効であり請求項1に提示する「前記接合金属を介して前記第1の金属と前記第2の金属とを接合する」ことが確認された。また、載荷直後からすべり現象が見られず、初期剛性Koを維持して降伏荷重Fyに至っており、請求項1に提示する「前記第2の金属の前記表面近傍の組織と一体化させると共に前記第1の金属の前記隙間近傍の組織と一体化させる」が実施可能なことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0038】
回転摩擦溶接による金属の接合の方法および構造を提供した。特に、金属は鋼材であって、新規の鋼構造物の接合または既存の鋼構造物の補修における柱や梁などの鋼構造骨組を構成する鋼材の接合のための、溶接または高力ボルト摩擦接合に代わるまたは併用できる新しい接合方法および構造を提供した。
【符号の説明】
【0039】
10(10a、10b、10c):第1の金属(被接合金属)
11:第1の金属の表面
12:第1の金属の裏面
14:第1の金属に加工された貫通孔
14a:第1の金属に加工された貫通孔の母線
15:第1の金属の貫通孔の裏面の側に形成された拡径部
20:第2の金属(被接合金属)
21:第2の金属の表面
22:第2の金属の裏面
25:第2の金属の表面に形成された凹部
25a:第2の金属の表面に形成された凹部の母線
27:第2の金属の表面に生じた亀裂
29:亀裂の進展を止めるためのストップホール
30:第1の金属と第2の金属との接合面
40:接合金属
41:接合金属本体
42:接合金属の側周面
46:接合金属の先端部に形成された縮径部(テーパ部)
47:接合金属の先端部
47a:接合金属の先端面
48:接合金属の基端部
50:空所
51:空所の底部
52:空所の側周面
60:接合金属の先端部と空所の底部との接触部
62:接合金属の先端部と空所の底部との間の回転摩擦面
62a:接合完了時における接合金属の先端部と空所の底部との間の回転摩擦面
65:接合金属の側周面と空所の側周面との隙間
70:回転押圧装置
71:回転対称体の回転軸
80:溶融金属
83:第2の金属の表面近傍の組織と一体化される溶融金属
85:第1の金属の隙間近傍の組織と一体化される溶融金属

110:スプライスプレート(第1の金属)
110c:表面側のスプライスプレート(第1の金属)
111c:表面側のスプライスプレートの表面
112c:表面側のスプライスプレートの裏面
110d:裏面側のスプライスプレート(第1の金属)
111d:裏面側のスプライスプレートの表面
112d:裏面側のスプライスプレートの裏面
114:スプライスプレートに加工された貫通孔
120:フランジプレート(第2の金属)
120a:一方のフランジプレート(第2の金属)
121a:一方のフランジプレートの表面
122a:一方のフランジプレートの裏面
120b:他方のフランジプレート(第2の金属)
121b:他方のフランジプレートの表面
122b:他方のフランジプレートの裏面
130:第1の金属と第2の金属との接合面

210:従来技術における第1の鋼材
220:従来技術における第2の鋼材
260:従来技術における接触部
281:従来技術におけるバリ

310:従前出願における第1の鋼材
311:従前出願における第1の鋼材の端面
320:従前出願における第2の鋼材
321:従前出願における第2の鋼材の端面
340:従前出願における接合金属
342:従前出願における接合金属の側周面
347:従前出願における接合金属340の先端部
348:従前出願における接合金属340の基端部
350:従前出願における空所
351:従前出願における空所の底部
352:従前出願における空所の側周面
360:従前出願における接合金属の先端部347と空所350の底部351との接触部
362:従前出願における回転摩擦面
365:従前出願における接合金属の側周面と空所の側周面との隙間
371:従前出願における回転対称体の回転軸
380:従前出願における溶融金属

410:従来技術における一方の鋼材
420:従来技術における他方の鋼材

P:押し付け力
p:押圧力
ω:回転速度
S:一方の鋼材またはスプライスプレートに載荷される水平力
w:溶接
b:ボルト
S1:水平力
S2:水平力S1の反力としての水平力
h:水平力S1の載荷位置と水平力S2の載荷位置との間にずれ
σb:支圧応力
τ1、τ2:せん断応力
Q:せん断力
V1l、V1r:垂直力
V2:垂直力V1l、V1rの反力としての垂直力
ll、lr:垂直力V1l、V1rの回転軸71から距離ll、lr
τ:せん断応力
σt1、σt2:引張応力
T:引張力
F:試験体の載荷荷重
δ:試験体に装備された変位計で計測される変位
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
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図19