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特開2023-85342置換(4’-ヒドロキシフェニル)シクロアルカンおよび(4’-ヒドロキシフェニル)シクロアルケン化合物ならびに記憶固定を向上させるためのエストロゲン受容体βアイソフォームの選択的アゴニストとしてのそれらの使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085342
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】置換(4’-ヒドロキシフェニル)シクロアルカンおよび(4’-ヒドロキシフェニル)シクロアルケン化合物ならびに記憶固定を向上させるためのエストロゲン受容体βアイソフォームの選択的アゴニストとしてのそれらの使用方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 39/17 20060101AFI20230613BHJP
   A61K 31/05 20060101ALI20230613BHJP
   C07D 493/08 20060101ALI20230613BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20230613BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230613BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230613BHJP
   A61P 5/30 20060101ALI20230613BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230613BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20230613BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20230613BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
C07C39/17 CSP
A61K31/05 ZNA
C07D493/08
A61K31/352
A61P25/00
A61P35/00
A61P5/30
A61P25/28
A61P15/00
A61P19/10
A61P43/00 111
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041799
(22)【出願日】2023-03-16
(62)【分割の表示】P 2019553963の分割
【原出願日】2018-03-30
(31)【優先権主張番号】62/572,932
(32)【優先日】2017-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/478,758
(32)【優先日】2017-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】511293629
【氏名又は名称】マーケット ユニバーシティー
(71)【出願人】
【識別番号】316015822
【氏名又は名称】コンコーディア ユニバーシティー インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】515076769
【氏名又は名称】ユーダブリューエム・リサーチ・ファウンデーション,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ドナルドソン ウィリアム エー.
(72)【発明者】
【氏名】セム ダニエル エス.
(72)【発明者】
【氏名】フリック キャリン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】エストロゲン受容体活性に関連する疾患を処置するための化合物、および処置方法を提供する。
【解決手段】置換(4'-ヒドロキシフェニル)シクロアルカン化合物および置換(4'-ヒドロキシフェニル)シクロアルケン化合物、ならびにエストロゲン受容体βアイソフォーム(ERβ)の選択的アゴニストとしてのそれらの使用方法が開示される。開示される化合物は、薬学的組成物として処方されてもよく、ER活性に関連する疾患、例えば、神経学的疾患および神経学的障害、精神医学的疾患および精神医学的障害ならびに/または細胞増殖性疾患および細胞増殖性障害を処置するために、ならびに記憶固定を向上させるために、必要とする対象において投与されてもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
の式および立体化学を有する、化合物。
【請求項2】
有効量の請求項1記載の化合物またはその薬学的に許容される塩を、薬学的な賦形剤、担体、または希釈剤と共に含む、薬学的組成物。
【請求項3】
エストロゲン受容体β(ERβ)活性に関連する疾患または障害の処置を必要とする対象において、エストロゲン受容体β(ERβ)活性に関連する疾患または障害を処置するための方法であって、請求項2記載の薬学的組成物を該対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項4】
疾患または障害が神経学的疾患または神経学的障害である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
疾患または障害が精神医学的疾患または精神医学的障害である、請求項3記載の方法。
【請求項6】
疾患または障害が癌である、請求項3記載の方法。
【請求項7】
疾患または障害が記憶消失または記憶機能障害に関連する、請求項3記載の方法。
【請求項8】
記憶固定の向上を必要とする対象において記憶固定を向上させるための方法であって、請求項2記載の薬学的組成物を該対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項9】
対象が閉経後女性である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
低エストロゲンレベルを示す対象を処置するための方法であって、請求項2記載の薬学的組成物を該対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項11】
対象が閉経後女性である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
より選択される式を有する、化合物。
【請求項13】
有効量の請求項12記載の化合物またはその薬学的に許容される塩を、薬学的な賦形剤、担体、または希釈剤と共に含む、薬学的組成物。
【請求項14】
エストロゲン受容体β(ERβ)活性に関連する疾患または障害の処置を必要とする対象において、エストロゲン受容体β(ERβ)活性に関連する疾患または障害を処置するための方法であって、請求項13記載の薬学的組成物を該対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項15】
疾患または障害が、神経学的疾患および神経学的障害、精神医学的疾患および精神医学的障害、ならびに細胞増殖性疾患および細胞増殖性障害より選択される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
疾患または障害が記憶消失または記憶機能障害に関連する、請求項14記載の方法。
【請求項17】
記憶固定の向上を必要とする対象において記憶固定を向上させるための方法であって、請求項13記載の薬学的組成物を該対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項18】
対象が閉経後女性である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
低エストロゲンレベルを示す対象を処置するための方法であって、請求項13記載の薬学的組成物を該対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項20】
対象が閉経後女性である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
記憶固定の向上を必要とする対象において記憶固定を向上させるための方法であって、該方法が、式:
を有する化合物または該化合物を含む薬学的組成物を対象に投与する工程を含み;
式中、
(a)Zが炭素原子であり;
(b)Xが、水素、ヒドロキシル、アルキル、ヒドロキシアルキル、アミノ、およびアミノアルキルからなる群より選択され;かつ
(c)Yが、水素、ヒドロキシル、アルキル、およびヒドロキシアルキルからなる群より選択されるか;またはYが-CH2CH2-もしくは-OCH2-であり、かつYおよびZが架橋を形成するか;またはXおよびYが共に、アルキリデニル、カルボキシアルキリデニル、エステルアルキリデニル、ヒドロキシアルキリデニル、ヒドロキシアルキルアルキリデニル、アミノアルキリデニル、オキソ、もしくはオキシムを形成する、
前記方法。
【請求項22】
化合物が、式Ia:
を有する、請求項21記載の方法。
【請求項23】
化合物において、Xが、水素、ヒドロキシル、アルキルイル、およびヒドロキシアルキルより選択され、かつYが、水素、ヒドロキシル、アルキル、およびヒドロキシアルキルより選択されるか、またはYが-OCH2-であり、かつYおよびZが架橋を形成する、請求項21記載の方法。
【請求項24】
化合物が、式Ia(i):
を有する、請求項21記載の方法。
【請求項25】
化合物において、Xが、水素、ヒドロキシル、アルキル、ヒドロキシルアルキルより選択され、かつYが水素である、請求項24記載の方法。
【請求項26】
化合物において、Xが水素またはメチルであり、かつYがヒドロキシメチル(-CH2OH)またはヒドロキシエチル(-CH2CH2OH)である、請求項21記載の方法。
【請求項27】
化合物において、Xがメチルであり、かつYがヒドロキシメチル(-CH2OH)である、請求項21記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載
本発明は、米国立総合医科学研究所(National Institute of General Medical Sciences)によって付与されたR15GM118304および米国立薬物乱用研究所(National Institute on Drug Abuse)によって付与されたR01DA038042に基づいて政府の支援を受けてなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0002】
関連特許出願の相互参照
本願は、35U.S.C.119条(e)に基づいて、2017年10月16日に出願された米国仮出願第62/572,932号、および2017年3月30日に出願された米国仮出願第62/478,758号に係る優先権の恩典を主張する。これらの出願の内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0003】
発明の分野
本発明の分野は、エストロゲン受容体(ER)のリガンドとして機能する化合物に関する。特に、本発明の分野は、エストロゲン受容体β(ERβ)に特異的なアゴニストである置換(4'-ヒドロキシフェニル)シクロアルカン化合物および(4'-ヒドロキシフェニル)シクロアルケン化合物ならびに記憶固定向上においてER活性に関連する疾患および障害を処置するための薬学的組成物における、このような化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
エストロゲンは、生殖、認知、心血管死、および骨代謝を含む多くの生理学的プロセスの重要な制御因子である66。多数の生理学的プロセスにおける広範な役割に基づいて、エストロゲンは、いくつかの例を挙げてみると細胞増殖性疾患および細胞増殖性障害(例えば、乳癌、卵巣癌、子宮内膜癌、結腸直腸癌、および前立腺癌)、神経変性疾患および神経変性障害、心血管疾患、ならびに骨粗鬆症を含む、多数の疾患および障害に結び付けられてきた66。これらの疾患および障害の多くにおいて、エストロゲンはエストロゲン受容体(ER)を通して、その作用を媒介する。
【0005】
ERは、組織発現パターンが異なる2種類の主な形態、ERαおよびERβで存在する67。ERαおよびERβは、それぞれ、異なる染色体位置に見出される別々の遺伝子、ESR1およびESR2によってコードされ、ERαおよびERβの両方で非常に多くのmRNAスプライスバリアントが存在する68。ERαおよびERβにはエストロゲン関連疾患における役割があるために、ERαおよびERβの活性を調節する特異的リガンドを開発するための標的とされてきた。ERαおよびERβのリガンド特異性は異なり、ERαに結合し、ERαのアゴニストまたはアンタゴニストとして機能するリガンドはERβに結合し、ERβのアゴニストまたはアンタゴニストとして機能することもあれば、ERβに結合せず、ERβのアゴニストまたはアンタゴニストとして機能しないこともある。
【0006】
ERαおよびERβのアゴニストには、癌および中枢神経系(CNS)障害などの疾患が関与する広範な生物学的作用がある。17β-エストラジオール(E2)は、雄および雌のげっ歯類における海馬シナプス可塑性および海馬依存性記憶形成の重要なモジュレーターである 6 。年をとるにつれて両性ともE2レベルが減少するが、閉経期の女性ではもっと急激に低下する。ERβは海馬において最も優勢なERアイソフォームであり、加齢中に、およびアルツハイマー病(AD)において重要な場合がある、神経可塑性および神経保護に対するエストラジオール作用の媒介において重要な役割を果たしている。例えば、ラットADモデルにおいてERβを過剰発現させると海馬AD病変が著しく低減し、学習および記憶が改善した 7 。さらに、ERα遺伝子ではなくERβ遺伝子(Esr2)の特定の対立遺伝子が男女におけるADリスク低下と関連付けられている 8 。このことはERβがADの推定上の薬物標的であることを裏付けている。
【0007】
特に、ERβアゴニストには多数の有望な臨床応用例がある1。現行のERβアゴニスト薬物リード分子はフェノール環を有し、この分子の残り半分には、典型的には別のフェノール環構造またはインドール様環構造を含む様々な置換芳香環構造がある(図1a)。これらの1つであるWAY-200070(ベンゾキサゾール)は抗不安薬/抗うつ薬としての効力を示しており、ERαよりもERβに対して68倍の選択性を有する 1-3 。ERβアゴニストの中には、統合失調症(Eli Lilly; NCT01874756)から脆弱X症候群(Parc de Salut Mar; NCT01855971)、記憶消失と、のぼせ(National Institutes on Aging; NCT01723917)にまで及ぶ様々な疾患適応症に対するヒト臨床試験に進んだものもある 4 。本明細書において示される研究は、ジアリールプロピオニトリル(DPN)を用いた動物モデル試験において例示されるように、閉経中のエストロゲン欠乏によって引き起こされるニューロン症状を処置するためのERβアゴニストのもっと有望な新たな臨床応用例の1つに焦点を合わせた5
【0008】
APOE4は、最も確立したアルツハイマー病(AD)の遺伝的危険因子である。APOE4遺伝子型をもつ女性は、APOE4遺伝子型をもたない女性または他のあらゆるAPOE遺伝子型の男性よりもADを発症する可能性が2~4倍高い 9-11 。APOE4保因者はまた、不安や、うつ病の症状を示す可能性もかなり高い 12 。女性における、これらのリスクの大きな要因は閉経期のエストロゲン低下である。なぜなら、エストロゲンは、認知機能を媒介し、ADにおいて悪化する海馬および皮質のような脳領域を神経保護するからである 13 。従って、本明細書において開発された選択的ERβアゴニスト(SERBA)のような、認知に対するエストロゲンを介した効果を促進する薬物は、年老いつつある女性における記憶消失を逆転させ、不安や、うつ病を軽減する可能性がある。しかし、エストロゲンに基づくホルモン補充療法は、乳癌(特に、小葉癌)ならびに脳卒中、胆嚢疾患、および静脈血栓塞栓症を含む様々な疾患(ERαアゴニスト活性に関連すると考えられる)の高いリスクと関連する14-18。従って、どのERβアゴニスト治療薬もERαアゴニスト活性よりもERβに対して選択的でなければならない。
【0009】
従って、新たなエストロゲン受容体リガンドが望まれる。特に、ERαと比べてERβに選択的なアゴニスト活性またはアンタゴニスト活性を示す新たなリガンドが望まれる。これらの新たなリガンドは、ER活性に関連する疾患および障害、例えば、細胞増殖性疾患および細胞増殖性障害または精神医学的疾患および精神医学的障害を処置するのに適しているはずである。最近、本発明者らは、以前に報告された臨床候補よりも、ERα活性化に対してERβに選択的な新規のERβアゴニストを報告した 19 。このERβアゴニストは、4-ヒドロキシメチル-シクロヘプタン環構造に繋ぎ止められたフェノール環で構成されるユニークな構造クラスの中にある。しかしながら、4-置換シクロヘプタン環の存在は合成および立体化学上の難題であり、そのため薬物リードとして望ましくない。
【0010】
フェノール環に繋ぎ止められた4-ヒドロキシメチル-シクロヘキサン環で構成され、そのため、天然エストロゲン分子によく似ているが、B環およびD環が無いA-Cエストロゲンとなっている関連する分子クラスの最適化および特徴付けが本明細書において報告される(図1b~d)。A-CDエストロゲンが広く研究されており、ERβに対して15倍までの選択性を有すると報告されている 16-23 。これに対して、本明細書において報告される、もっと簡単なA-CエストロゲンはERαよりもERβに対してかなり高い選択性を示す。これらのA-Cエストロゲンは、閉経後女性における加齢性記憶低下を処置する可能性をもつ、驚くほど簡単であるが新規のクラスのアイソフォーム選択的ERβアゴニストである。
【発明の概要】
【0011】
概要
置換(4'-ヒドロキシフェニル)シクロアルカン化合物および(4'-ヒドロキシフェニル)シクロアルケン化合物ならびにエストロゲン受容体β(ERβ)の選択的アゴニストとしての、その使用が開示される。開示される化合物は薬学的組成物として処方され、ER活性に関連する疾患を処置するために投与されてもよい。
【0012】
一部の態様において、開示される化合物は、式I:
またはそのヒドロキシ保護型を有し;
式中、
(a)Zは炭素原子であり;
(b)Xは、水素、ヒドロキシル、アルキル、ヒドロキシアルキル、アミノ、およびアミノアルキルからなる群より選択され;かつ
(c)Yは、水素、ヒドロキシル、アルキル、およびヒドロキシアルキルからなる群より選択されるか;またはYは-CH2CH2-または-OCH2-であり、かつYおよびZは架橋を形成するか;またはXおよびYは共に、アルキリデニル、カルボキシアルキリデニル、エステルアルキリデニル(esteralkylidenyl)、ヒドロキシアルキリデニル、ヒドロキシアルキルアルキリデニル、アミノアルキリデニル、オキソ、もしくはオキシムを形成する。
【0013】
開示される化合物は4-置換-(4'-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン化合物を含む場合がある。例えば、開示される化合物は、式Ia:
を有してもよく、式中、X、Y、およびZは式Iについて定義された通りである。
【0014】
開示される化合物は化合物4-ヒドロキシメチル-(4'ヒドロキシフェニル)-シクロヘキサンを含み、特に、本明細書中で別名「ISP358-2」とも呼ばれる鏡像異性体:
を含む。
【0015】
開示される化合物は4-置換-(4'-ヒドロキシフェニル)シクロヘキセン化合物を含む場合がある。例えば、開示される化合物は、式Ia(i):
を有してもよく、式中、X、Y、およびZは式Iについて定義された通りである。
【0016】
開示される化合物は薬学的組成物を調製および処方するのに用いられる場合がある。従って、有効量の本明細書において開示される任意の化合物、または本明細書において開示される任意の化合物の薬学的に許容される塩を、薬学的に許容される賦形剤、担体、または希釈剤と共に含む薬学的組成物も本明細書において開示される。
【0017】
開示される化合物は、エストロゲン受容体β(ERβ)活性に関連する疾患または障害、特に、ERβアゴニストを用いて処置され得る疾患または障害を処置するための医用薬剤を調製するのに用いられる場合がある。従って、開示される化合物はERβアゴニスト活性を示す場合があり、好ましくは、この化合物は、ERβアンタゴニストとしての活性と比べて、および/またはエストロゲン受容体α(ERα)アゴニストとしての活性もしくはERαアンタゴニストとしての活性と比べてERβアゴニストとしての特異性を示す。開示される化合物は、精神医学的疾患もしくは精神医学的障害または神経学的疾患もしくは神経学的障害の処置において使用するために処方される場合がある。特に、開示される化合物は、記憶固定の向上、例えば、閉経後女性において観察される低エストロゲン条件下での記憶固定の向上を必要とする対象の処置において使用するために処方される場合がある。
[本発明1001]
の式および立体化学を有する、化合物。
[本発明1002]
有効量の本発明1001の化合物またはその薬学的に許容される塩を、薬学的な賦形剤、担体、または希釈剤と共に含む、薬学的組成物。
[本発明1003]
エストロゲン受容体β(ERβ)活性に関連する疾患または障害の処置を必要とする対象において、エストロゲン受容体β(ERβ)活性に関連する疾患または障害を処置するための方法であって、本発明1002の薬学的組成物を該対象に投与する工程を含む、方法。
[本発明1004]
疾患または障害が神経学的疾患または神経学的障害である、本発明1003の方法。
[本発明1005]
疾患または障害が精神医学的疾患または精神医学的障害である、本発明1003の方法。
[本発明1006]
疾患または障害が癌である、本発明1003の方法。
[本発明1007]
疾患または障害が記憶消失または記憶機能障害に関連する、本発明1003の方法。
[本発明1008]
記憶固定の向上を必要とする対象において記憶固定を向上させるための方法であって、本発明1002の薬学的組成物を該対象に投与する工程を含む、方法。
[本発明1009]
対象が閉経後女性である、本発明1008の方法。
[本発明1010]
低エストロゲンレベルを示す対象を処置するための方法であって、本発明1002の薬学的組成物を該対象に投与する工程を含む、方法。
[本発明1011]
対象が閉経後女性である、本発明1010の方法。
[本発明1012]
より選択される式を有する、化合物。
[本発明1013]
有効量の本発明1012の化合物またはその薬学的に許容される塩を、薬学的な賦形剤、担体、または希釈剤と共に含む、薬学的組成物。
[本発明1014]
エストロゲン受容体β(ERβ)活性に関連する疾患または障害の処置を必要とする対象において、エストロゲン受容体β(ERβ)活性に関連する疾患または障害を処置するための方法であって、本発明1013の薬学的組成物を該対象に投与する工程を含む、方法。
[本発明1015]
疾患または障害が、神経学的疾患および神経学的障害、精神医学的疾患および精神医学的障害、ならびに細胞増殖性疾患および細胞増殖性障害より選択される、本発明1014の方法。
[本発明1016]
疾患または障害が記憶消失または記憶機能障害に関連する、本発明1014の方法。
[本発明1017]
記憶固定の向上を必要とする対象において記憶固定を向上させるための方法であって、本発明1013の薬学的組成物を該対象に投与する工程を含む、方法。
[本発明1018]
対象が閉経後女性である、本発明1017の方法。
[本発明1019]
低エストロゲンレベルを示す対象を処置するための方法であって、本発明1013の薬学的組成物を該対象に投与する工程を含む、方法。
[本発明1020]
対象が閉経後女性である、本発明1019の方法。
[本発明1021]
記憶固定の向上を必要とする対象において記憶固定を向上させるための方法であって、該方法が、式:
を有する化合物または該化合物を含む薬学的組成物を対象に投与する工程を含み;
式中、
(a)Zが炭素原子であり;
(b)Xが、水素、ヒドロキシル、アルキル、ヒドロキシアルキル、アミノ、およびアミノアルキルからなる群より選択され;かつ
(c)Yが、水素、ヒドロキシル、アルキル、およびヒドロキシアルキルからなる群より選択されるか;またはYが-CH2CH2-もしくは-OCH2-であり、かつYおよびZが架橋を形成するか;またはXおよびYが共に、アルキリデニル、カルボキシアルキリデニル、エステルアルキリデニル、ヒドロキシアルキリデニル、ヒドロキシアルキルアルキリデニル、アミノアルキリデニル、オキソ、もしくはオキシムを形成する、
前記方法。
[本発明1022]
化合物が、式Ia:
を有する、本発明1021の方法。
[本発明1023]
化合物において、Xが、水素、ヒドロキシル、アルキルイル、およびヒドロキシアルキルより選択され、かつYが、水素、ヒドロキシル、アルキル、およびヒドロキシアルキルより選択されるか、またはYが-OCH2-であり、かつYおよびZが架橋を形成する、本発明1021の方法。
[本発明1024]
化合物が、式Ia(i):
を有する、本発明1021の方法。
[本発明1025]
化合物において、Xが、水素、ヒドロキシル、アルキル、ヒドロキシルアルキルより選択され、かつYが水素である、本発明1024の方法。
[本発明1026]
化合物において、Xが水素またはメチルであり、かつYがヒドロキシメチル(-CH2OH)またはヒドロキシエチル(-CH2CH2OH)である、本発明1021の方法。
[本発明1027]
化合物において、Xがメチルであり、かつYがヒドロキシメチル(-CH2OH)である、本発明1021の方法。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】エストロゲン受容体アゴニスト構造。(a)以前に報告されたERβアゴニスト。[35]から改作した図。(b)ISP358-2の構造、(c)エストラジオール(E2)、および(d)天然エストロゲンとの類似性を示すためにE2の上にISP538-2を重ね合わせた。
図2】エストロゲン受容体結合アッセイ。(a)ERβのリガンド結合ドメイン(LBD)との結合を調べたTR-FRET結合アッセイ。(b)ISP358-2とERβおよびERαのLBDとの結合。ISP-358-2は、このアッセイではERα(IC50=289±92nM)と比べてERβに対して中程度の12倍の選択性(IC50=24±5nM)を有する。
図3】ISP358-2を対象にした核ホルモン受容体特異性アッセイ。(a)関連するNRリガンド結合ドメイン(LBD)と、GAL4に由来するDNA結合ドメイン(DBD)で構成されるキメラ核ホルモン受容体(NR)を用いたGeneBLAzer(商標)細胞転写活性化アッセイにおいてアゴニスト活性を3種類の濃度のISP358-2で測定した。アッセイでは、9つの異なるNR:アンドロゲン受容体(AR)、グルココルチコイド受容体(GR)、ミネラルコルチコイド受容体(MR)、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体(PPARδ)、プロゲステロン受容体(PR)、甲状腺ホルモン受容体(TRβ)、およびビタミンD受容体(VDR)を用いた。ISP358-2は他の核受容体(NR)と比べてERへの結合に対して高い選択性を有する。(b)ERβおよびERαに対するGeneBLAzer(商標)アッセイにおけるアゴニスト活性用量反応曲線(白抜きの記号)。ERα(IC50=930±69nM)よりもERβに対して中程度の2.6倍の選択性(IC50=357±26nM)が示された。比較のためにパネル(a)からのデータを含めた(塗りつぶした記号)。
図4】コアクチベーターアッセイにおけるISP-358-2結合を対象にした特異性アッセイ。(a)このアッセイは、ERアゴニスト(この場合、ISP358-2)の結合によって誘導された、ERαLBDまたはERβ LBDへの標識コアクチベーターペプチドの動員を測定する。コアクチベーターペプチドはPPARγコアクチベータータンパク質1aに由来する。図はThermoFisherマニュアルから改作した。(b)ISP358-2の化学構造。(c)コアクチベーターアッセイにおけるISP358-2用量反応曲線。この曲線からERβのIC50は161±15nM、ERαのIC50は2,940±390nMになり、ERβの選択性は15倍となる。
図5】細胞アッセイにおけるISP358-2を対象にした特異性アッセイ。完全長エストロゲン受容体による転写活性化に基づく(a)ERβアゴニスト活性および(b)ERαアゴニスト活性。アンタゴニスト化合物によるエストラジオール誘導性転写阻害に基づく(c)ERβアンタゴニスト活性および(d)ERαアンタゴニスト活性。平均ERβアゴニスト効能はパネル(a)では27±4nMであり(ここでのデータのIC50は31±7である)、ERαアゴニスト効能は20,400±860nMである。これによりERβの選択性は約750倍となる。パネル(c)および(d)では、10μMまでのISP358-2濃度で、ERβまたはERαに対して測定可能なアンタゴニスト活性は観察されなかった。
図6】ISP358-2によるチトクロムP450阻害。CYP2D6、CYP3A4(IC50=89±18μM)、(c)CYP1A2、および(d)CYP2C9(IC50=34±4.7μM)を対象にしたISP358-2によるCYP450活性阻害(Promega P450-Glo(商標)アッセイ)。
図7a】ISP358-2の構造分析。(a)シクロヘキサン環のトランス立体化学を示したISP358-2結晶構造(Ortepレンダリング)。(b)Arg394、Glu353、およびHis524との水素結合を含む活性部位残基との相互作用を示した、ERα結合ポケット内でのISP358-2のドッキングされた構造。(c)パネルbと同じであるが、ISP358-2はERβと結合している。ERβの中で疎水性相互作用が、ISP358-2のフェノール環とPhe356、Phe355、およびMet340との間で、ならびにシクロヘキサン環とLeu476、Ala302、Ile373、およびLeu298との間で観察された。ドッキングエネルギーはERαでは-7.6kcal/molであり、ERβでは-8.0kcal/molである。
図7b図7aの説明を参照のこと。
図7c図7aの説明を参照のこと。
図8a】行動アッセイ。(a)ORおよびOP試験手順の概略。DPNならびに100pg/半球用量および1ng/半球用量のISP358-2をDHに注入した時に、移動した物体(b)または新規の物体(c)に費やす時間は偶然(chance)(15s; *p<0.05; **p<0.01)およびビヒクル(#p<0.05;##p<0.01)と比べて有意に増えた。このことから、ISP358-2は正の対照DPNと類似する程度に記憶固定を向上させたことが示唆される。IP注射した時にはDPNおよび0.5mg/kg ISP358-2はOP(d)およびOR(e)試験において記憶固定を向上させた(###p<0.001)。5mg/kg ISP358-2もOP記憶固定を向上させた。同様に、0.5mg/kgおよび5mg/kg ISP358-2の強制経口投与処置もOP(f)およびOR(g)試験において記憶固定を向上させた。パネル(a)は[38]から改作した。
図8b図8aの説明を参照のこと。
図8c図8aの説明を参照のこと。
図8d図8aの説明を参照のこと。
図8e図8aの説明を参照のこと。
図8f図8aの説明を参照のこと。
図8g図8aの説明を参照のこと。
図9】ERβ結合アッセイ。対照としてE2およびERβアゴニストDPNを含む、ERβのリガンド結合ドメイン(LBD)との結合を調べたTR-FRET結合アッセイ。
図10】ISP358-2を既知の化合物と比較した細胞アッセイ。完全長エストロゲン受容体による転写に基づくエストロゲン受容体アゴニスト活性。(a)ERα IC50値はE2については0.31±0.03nMであり、DPNについては2,300±86nMであり、WAY200070については2,103±414nMであり、ISP358-2については18,615±939である。(b)ERβ IC50値はE2については0.022±0.005nMであり、DPNについては1.1±0.12nMであり、WAY200070については1.5±0.57nMであり、ISP358-2については23±8nMである。
図11】インビトロドラッガビリティ(druggability)パラメータの評価。(a)比濁分析は15:16の良好な溶解度を示す。注:50μMより大きな比濁分析屈曲点のある化合物は全て可溶性だとみなされる1。(b)ISP358-2のhERGアッセイは100μMで13%阻害しか示さず、このことは有意なhERG活性が無いことを示唆している。
図12】行動効果とERβレベルのインビボ相関。図8に示したように、OP試験の1ヶ月以内に卵巣切除したマウスでは、強制経口投与を介したDPNまたはISP358-2の投与によって空間記憶固定が向上した。しかしながら、卵巣切除(ovx)の4ヶ月後まで処置が遅れたら、DPNもISP358-2も記憶に影響を及ぼさなかった(パネルa)。これらのマウスに由来する背側海馬組織におけるERαレベルおよびERβレベルのウエスタンブロット分析から、ovxの2ヶ月と比べてovxの5ヶ月後に(ERαではなく)ERβレベルが少ないことが分かる(パネルb,c)。このことから、長期ovxマウスにおいて記憶に対するDPNおよびISP358-2の効果が無いことはERβレベルの低下に起因することが示唆される。これらのデータからまた、ERβに対する前記化合物の特異的な効果も示唆される。というのも、ovxの4~5ヶ月後にERαレベルが減少していなかったことを考えると、この時に、どちらの化合物もERαを介して作用したのであれば記憶を向上することができたはずだからである。どちらの化合物もovxの4ヶ月後に記憶に影響を及ぼさなかったという事実は、DPNに似たISP358-2がインビボではERαよりもERβに対して選択的であるという本発明者らの仮説と一致する。
図13a】ISP358-2を対象にした組織病理分析。(a)分析した組織試料は4つの群にあり、各群には5匹のマウスがいた。ラベルを、V-D-L-H:ビヒクル(V)、DPN(D)、0.5mg/kg ISP358-2(L)、および5mg/kg ISP358-2(H)と指示した。
図13b】ISP358-2を対象にした組織病理分析。(b)ビヒクル対照動物(A~C)、DPN処置動物(D~F)、低用量ISP358-2 0.5mg/kg処置動物(G~I)、および高用量ISP358-2 5.0mg/kg処置動物(J~L)から収集したヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色組織の代表的な画像。門脈および肝管(A、D、G、J)、糸球体および尿細管(B、E、H、K)、ならびに心室中隔に由来する筋細胞(C、F、I、L)の例を示した。組織学的異常は対照動物でも、どの処置群でも検出されなかった。
図14】ISP358-2を対象にした組織病理分析用のBloodworkパネル。Bloodwork血液学的分析は、ユタ州ソルトレークシティーにあるAnimal Reference Pathology, LLC(animalreferencepathology.com)が行った。参照範囲は、Charles River LaboratoriesのCrL:Wi(Han)雌8~16週齢ラットのものであった。血液試料は心臓穿刺によって図13と同じ時点および処置条件で採取した。卵巣切除した9週齢(n-8)マウスにビヒクル、DPN、0.5mg/kg ISP358-2、または5mg/kg ISP358-2をi.p.注射した。場合によっては、採血手順に起因する可能性が高い溶血が起こった。溶血により、これらの試料の分析が除外され、従って、この分析の試料サイズは6~8であった。各群の平均および平均の標準誤差を、一方向ANOVA統計解析からの結果と共に表に列挙した。有意なANOVAの全ての場合で、フィッシャー事後検定から、ビヒクル群は全ての薬物群と有意差があることが分かった(p<0.05)。血液試料を獣医学ソフトウェア(veterinary software)とラット種設定を用いてSysmexXT-2000iVによって分析した3。個々のアッセイの試薬はSeimens、RandOx、またはSekisuiから調達した。
図15a】MCF-7細胞の増殖を対象にしたMTTアッセイ。細胞を96ウェルプレートに播種し、処理を適用する前に24時間インキュベートした。全てのウェルが、増殖に有意に影響を及ぼさない0.1%DMSOを含有した2。試験化合物を培地に溶解し、細胞に適用し、細胞をさらに24時間インキュベートした時点で、、MTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)アッセイを行った。標準的な増殖曲線を用いて吸光度値を細胞数に変換した。処理は(a)E2、(b)ISP358-2、および(c)DPNであった。*未処理対照と比較して有意差のある細胞数を示す(スチューデントt検定, p値<0.05)。
図15b図15aの説明を参照のこと。
図15c図15aの説明を参照のこと。
図16a】ISP358-2(16)の純度分析。(a)16/15の混合物(約2:1比)および(b)燃焼分析用に送られた材料(16:15>98:2)の1H NMR(400MHz)スペクトル。16(ISP358-2としても知られる)の立体化学的立体配置はX線結晶学によって確かめられた。CH2OHのシグナル(3.31ppmでの、参照として使用した溶媒ピークも含有する)と比較して分かりやすくするために、スペクトルは4.0~3.0ppmの範囲しか示さない。
図16b図16aの説明を参照のこと。
【発明を実施するための形態】
【0019】
詳細な説明
本発明は、下記で示されるように、および本願全体を通して、本明細書中では、いくつかの定義を用いて説明される。
【0020】
他で特定しない限り、または文脈によって示されない限り「1つの(a)」「1つの(an)」、および「その(the)」という用語は「1つまたは複数の」を意味する。例えば「1つの置換(a substitution)」は「1つまたは複数の置換(one or more substitutions)」を意味すると解釈しなければならない。同様に、「1つの置換基(a substituent group)」は「1つまたは複数の置換基(one or more substituent groups)」を意味すると解釈しなければならない。
【0021】
本明細書で使用する「約(about)」、「約(approximately)」、「実質的に」、および「有意に」は当業者によって理解され、ある程度、これらの用語が用いられている内容によって変化する。当業者にはっきり分からない、これらの用語の使用がある場合、これらの用語が用いられている内容を考えれば、「約(about)」および「約(approximately)」は特定の用語のプラスまたはマイナス≦10%を意味し、「実質的に」および「有意に」は特定の用語のプラスまたはマイナス>10%を意味する。
【0022】
本明細書で使用する「含む(include)」および「含む(including)」という用語は、「含む(comprise)」および「含む(comprising)」という用語と同じ意味を有する。「含む(comprise)」および「含む(comprising)」という用語は、追加要素を、特許請求の範囲に列挙された要素にさらに含めることができる「オープンな(open)」移行用語だと解釈しなければならない。「なる(consist)」および「からなる(consisting of)」という用語は、特許請求の範囲に列挙された要素以外の追加要素を含めることができない「クローズド(closed)な」移行用語だと解釈しなければならない。「から本質的になる」という用語は、部分的にクローズドであり、本発明の内容を根本的に変更しない追加要素しか含めることができないと解釈しなければならない。
【0023】
本明細書で使用する「必要とする対象」はヒトまたは非ヒト動物を含む場合がある。「対象」という用語は「個体」または「患者」という用語と同義に用いられる場合がある。
【0024】
本明細書で使用する「必要とする対象」は、エストロゲン受容体βアイソフォーム(ERβ)のアゴニストを用いた処置を必要とする対象を含む場合がある。ERβアゴニストを用いた処置を必要とする対象は、ERβ活性に関連する疾患または障害を有する対象を有する対象を含む場合がある。ERβ活性に関連する疾患または障害には、細胞増殖性疾患および細胞増殖性障害(例えば、癌、例えば、乳癌、卵巣癌、および子宮内膜癌)、精神医学的疾患および精神医学的障害(例えば、うつ病、不安、および統合失調症)、神経変性疾患または神経変性障害(例えば、APOE4関連アルツハイマー病を含むアルツハイマー病)、記憶低下(例えば、閉経後女性で観察されるような、低エストロゲン条件下で観察される記憶低下)、骨代謝疾患または骨代謝障害(例えば、骨粗鬆症)、代謝疾患または代謝障害(例えば、肥満またはインスリン抵抗性)、ならびに心血管疾患または心血管障害が含まれ得るが、これに限定されない。
【0025】
必要とする対象は、低エストロゲン(すなわち、エストラジオール)血清レベルを示す対象を含む場合がある。低エストロゲン血清レベルを示す対象は、閉経に関連する(例えば、閉経後女性で観察されるような)低エストロゲン血清レベルを示してもよい。低エストロゲン血清レベルを示す対象は、約60pg/ml、55pg/ml、50pg/ml、45pg/ml、40pg/ml、35pg/ml、30pg/ml、25pg/ml、20pg/ml、15pg/ml、10pg/ml、5pg/ml未満の、もしくはそれより少ないエストロゲン血清レベルを示す対象、またはこれらの任意の値で囲まれた範囲内にある(例えば、15~60pg/mlの範囲内にある)エストロゲン血清レベルを示す対象を含む場合がある。
【0026】
必要とする対象は、対象におけるエストロゲン血清レベルおよび/またはエストロゲン活性を低減する療法および/または処置が投与されたことがある対象に関連する低エストロゲン血清レベルを示す対象を含む場合がある。必要とする対象は、癌処置のための療法または癌処置後の療法(例えば、乳癌処置のための療法および/または乳癌処置後の療法)を受けている対象を含む場合がある。必要とする対象は、ホルモン療法(例えば、癌、例えば、乳癌に対するホルモン療法)を受けている対象、および/またはホルモン補充療法(例えば、癌、例えば、乳癌に対する処置後のホルモン補充療法)を受けている対象を含む場合がある。必要とする対象は、タモキシフェン、トレミフェン(Fareston)、フルベストラント(Faslodex)、アロマターゼ阻害剤(例えば、レトロゾール(Femara)、アナストロゾール(Arimidex)、ならびにエキセメスタン(Aromasin))、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)類似体(例えば、ゴセレリン(Zoladex)およびリュープロリド(Lupron))を含み得るが、これに限定されない薬物を用いた処置を受けている対象を含む場合がある。必要とする対象は、卵巣摘出および/または子宮摘出を受けたことがある対象を含む場合がある。
【0027】
置換(4'-ヒドロキシフェニル)シクロアルカン化合物および(4'-ヒドロキシフェニル)シクロアルケン化合物ならびにエストロゲン受容体βアイソフォーム(ERβ)の選択的アゴニストとしての、その使用が開示される。この化合物クラスのうち、いくつかの化合物が、Donaldsonらへの米国特許出願公開第2016/0340279号において以前に説明されている。米国特許出願公開第2016/0340279号の内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。または、開示される化合物は、シクロアルキル置換基に1つまたは複数の置換を含む、置換4-シクロアルキルフェノール化合物またはp-シクロアルキル置換フェノール化合物と呼ばれることがあり、シクロアルキル置換は好ましくはシクロヘキシル置換基である。
【0028】
一部の態様において、開示される化合物は、シクロアルキル置換基の4-炭素上に1つまたは複数の置換を含み、式I:
を有し、
式中、
(a)Zは炭素原子であり;
(b)Xは、水素、ヒドロキシル、アルキル、ヒドロキシアルキル、アミノ、およびアミノアルキルからなる群より選択され;かつ
(c)Yは、水素、ヒドロキシル、アルキル、およびヒドロキシアルキルからなる群より選択されるか;またはYは-CH2CH2-もしくは-OCH2-であり、かつYおよびZは架橋を形成するか;またはXおよびYは共に、アルキリデニル、カルボキシアルキリデニル、エステルアルキリデニル、ヒドロキシアルキリデニル、ヒドロキシアルキルアルキリデニル、アミノアルキリデニル、オキソ、もしくはオキシムを形成する。
【0029】
X置換基またはY置換基のアルキル部分はC(1-6)アルキルでもよい。ある特定の態様において、アルキル部分はC(1-3)アルキルでもよい。X置換基またはY置換基のヒドロキシアルキル部分はヒドロキシル-C(1-6)アルキルでもよい。ある特定の態様において、ヒドロキシアルキル部分はヒドロキシル-C(1-3)アルキルでもよい。X置換基またはY置換基のアミノアルキル部分はアミノ-C(1-6)アルキルでもよい。ある特定の態様において、アミノアルキル部分はアミノ-C(1-3)アルキルでもよい。
【0030】
カルボキシアルキリデニル、エステルアルキリデニル、ヒドロキシアルキリデニル、またはアミノアルキリデニル部分のアルキル部分はC(1-6)アルキルでもよい。ある特定の態様において、カルボキシアルキリデニル、エステルアルキリデニル、ヒドロキシアルキリデニル、またはアミノアルキリデニルのアルキル部分はC(1-3)アルキルでもよい。例えば、カルボキシアルキリデニルはカルボキシ-C(1-6)アルキリデニルまたはカルボキシ-C(1-3)アルキリデニルでもよく、エステルアルキリデニルはC(1-6)アルキル-エステル-C(1-6)アルキリデニルまたはC(1-3)アルキル-エステル-C(1-3)アルキリデニルでもよく、ヒドロキシアルキリデニルはヒドロキシ-C(1-6)アルキリデニルまたはヒドロキシ-C(1-3)アルキリデニルでもよく、または、アミノアルキリデニルはアミノ-C(1-6)アルキリデニルでもアミノ-C(1-3)アルキリデニルでもよい。
【0031】
開示される化合物は4-置換-(4'-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン化合物を含む場合がある。例えば、式Iを有する開示される化合物において、A-Bは-CH2CH2-でもよく、A'-B'は-CH2CH2-でもよく、前記化合物は、式Ia
を有してもよい。
【0032】
式中、XおよびYは式Iについて定義された通りである。式Iaを有する化合物の一部の態様において、置換基Xは水素、ヒドロキシル、およびヒドロキシアルキルより選択され、Yは水素、ヒドロキシル、アルキル、および-OCH2より選択され、YおよびZは架橋を形成する。
【0033】
式Iaを有する開示される化合物は特定の立体化学を示してもよい。例えば、XおよびYが式Iについて定義された通りである場合、前記化合物は互いのシス異性体およびトランス異性体を含む場合がある。例えば、前記化合物は、式:
を有するシス異性体およびトランス異性体を含む場合がある。
【0034】
特定の態様において、前記化合物は、式
を有する異性体でもよい。
【0035】
式Iaを有する化合物の一部の態様において、Xはヒドロキシアルキルでもよく、Yは水素でもよい。例示的な化合物は、式:
を有してもよい。
【0036】
式Iaを有する化合物の一部の態様において、Xはヒドロキシでもよく、Yは水素でもよい。例示的な化合物は、式:
を有してもよい。
【0037】
式Iaを有する化合物の一部の態様において、Xはヒドロキシアルキルでもよく、Yはヒドロキシルでもよい。例示的な化合物は、式:
を有してもよい。
【0038】
式Iaを有する化合物の一部の態様において、Xは水素でもよく、Yは-OCH3-でもよく、Zと架橋を形成する。例示的な化合物は、式:
を有してもよい。
【0039】
開示される化合物は4-置換-(4'-ヒドロキシフェニル)シクロヘキセン化合物を含む場合がある。例えば、式Iを有する開示される化合物において、A-Bは-CH2CH2-でもよく、A'-B'は=CHCH2-でもよく、前記化合物は、式Ia(i)
を有してもよい。
【0040】
式中、XおよびYは、式Iについて定義された通りである。式Ia(i)を有する化合物の一部の態様において、置換基Xは水素、ヒドロキシル、およびヒドロキシアルキルより選択され、Yは水素、ヒドロキシル、アルキルより選択される。
【0041】
式Ia(i)を有する化合物の一部の態様において、Xはヒドロキシアルキルでもよく、Yは水素でもよい。例示的な化合物は、式:
を有してもよい。
【0042】
本明細書において開示される化合物(例えば、式I、Ia、およびIa(i)のいずれかを有する化合物)は、いくつかのキラル中心を有してもよく、開示される化合物の立体異性体、エピマー、および鏡像異性体が意図される。前記化合物は、1つまたは複数のキラル中心について光学的に純粋でもよい(例えば、キラル中心の一部もしくは全てが完全にS立体配置にあってもよい;および/またはキラル中心の一部もしくは全てが完全にR立体配置にあってもよいなど)。さらにまたは代わりに、キラル中心の1つまたは複数は立体配置の混合物(例えば、R立体配置およびS立体配置のラセミ混合物または別の混合物)として存在してもよい。式I、Ia、およびIa(i)のいずれかを有する化合物の実質的に精製された立体異性体、エピマー、または鏡像異性体を含む組成物(例えば、少なくとも約90%、95%、または99%純粋な立体異性体、エピマー、または鏡像異性体を含む組成物)が本明細書において意図される
【0043】
本明細書において意図される組成物は、前記化合物:
を含む組成物であって、前記化合物の異性体
が、前記組成物中の前記化合物の異性体の大半(例えば、前記組成物中の前記化合物の異性体の少なくとも約90%、95%、または99%)を占める組成物を含む場合がある。
【0044】
実質的に純粋な立体異性体、エピマー、または鏡像異性体である化合物、例えば、少なくとも約90%、95%、または99%純粋な立体異性体、エピマー、または鏡像異性体である化合物が本明細書において意図される。前記化合物の実質的に純粋な(例えば、少なくとも約90%、95%、または99%)立体異性体、エピマー、または鏡像異性体である化合物:
が本明細書において意図される。
【0045】
本明細書において開示される化合物のヒドロキシ保護誘導体も本明細書において開示される。例えば、本明細書において開示される化合物(例えば、式I、Ia、およびIa(i)のいずれかを有する化合物)は、任意のヒドロキシ基にあるヒドロキシ保護基を含む場合がある。本明細書において意図される「保護ヒドロキシ」基は、一時的または恒久的なヒドロキシ機能保護に一般的に用いられる任意の基(例えば、アルコキシカルボニル、アシル、シリル、またはアルコキシアルキル基)によって誘導体化または保護されたヒドロキシ基である。「ヒドロキシ保護基」は、例えば、アルコキシカルボニル、アシル、アルキルシリルまたはアルキルアリールシリル基(以下、単に「シリル」基と呼ぶ)、およびアルコキシアルキル基などの一時的なヒドロキシ機能保護に一般的に用いられる任意の基を表す。アルコキシカルボニル保護基は、アルキル-O-CO-グループ、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、tert-ブトキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニル、またはアリルオキシカルボニルである。本明細書において意図されるように、説明または特許請求の範囲おいて用いられる「アルキル」という言葉は、全ての異性体型の1~6個の炭素の直鎖アルキルラジカルまたは分枝アルキルラジカルを示す。「アルコキシ」とは、酸素によって取り付けられた任意のアルキルラジカル(すなわち、「アルキル-O-」で表される基)を指す。アルコキシアルキル保護基は、メトキシメチル、エトキシメチル、メトキシエトキシメチル、またはテトラヒドロフラニルおよびテトラヒドロピラニルなどのグループである。好ましいシリル保護基は、トリメチルシリル、トリエチルシリル、t-ブチルジメチルシリル、ジブチルメチルシリル、ジフェニルメチルシリル、フェニルジメチルシリル、ジフェニル-t-ブチルシリル、および類似のアルキル化シリルラジカルである。「アリール」という用語は、フェニル基、またはアルキル置換フェニル基、ニトロ置換フェニル基もしくはハロ置換フェニル基を表す。「ヒドロキシアルキル」、「ジュウテロアルキル(deuteroalkyl)」、および「フルオロアルキル」という用語は、それぞれ、1つまたは複数のヒドロキシ基、ジュウテリウム基、またはフルオロ基によって置換されたアルキルラジカルを指す。「アルキリデン」は一般式CkH2k-を有するラジカルを指し、式中、Kは整数(例えば、1~6)である。「アシル」という用語は、その異性体型の全てにある1~6個の炭素のアルカノイル基、あるいは1~6個の炭素のカルボキシアルカノイル基、例えば、オキサリル基、マロニル基、スクシニル基、グルタリル基、あるいは芳香族アシル基、例えば、ベンゾイル、またはハロ置換ベンゾイル基、ニトロ置換ベンゾイル基もしくはアルキル置換ベンゾイル基を表す。
【0046】
本明細書において開示される化合物は、エストロゲン受容体に対する結合ならびにエストロゲン受容体に対するアゴニスト活性および/またはアンタゴニスト活性を示し得る。本明細書で使用する「ERα」はエストロゲン受容体-α、特に、ヒトエストロゲン受容体-αを指す。本明細書で使用する「ERβ」はエストロゲン受容体-β、特に、ヒトエストロゲン受容体-βを指す。ERαおよびERβのアゴニストおよびアンタゴニストは当技術分野において公知であり、同様に、ERαおよびERβに対する化合物の結合親和性を確かめるためのアッセイならびに結合した化合物がERαおよびERβのアゴニストまたはアンタゴニストかどうか確かめるためのアッセイも当技術分野において公知である(例えば、McCullough et al.,「Probing the human estrogen receptor-α binding requirements for phenolic mono- and di-hydroxyl compounds: a combined synthesis, binding and docking study」, Biorg. & Med. Chem. (2014) Jan 1;22(1):303-10. doi: 10.1016/j.bmc.2013.11.024. Epub (2013) Nov 21と、対応するSupplementary Information参照されたい。これらの内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。ERαおよびERβに対する化合物の結合親和性を確かめるのに適したアッセイならびに結合した化合物がERαおよびERβのアゴニストまたはアンタゴニストかどうか確かめるのに適したアッセイには、蛍光偏光置換アッセイ(polarization displacement assay)ならびに細胞に基づくERαルミネセンス活性アッセイおよびERβルミネセンス活性アッセイが含まれ得る。
【0047】
本明細書で使用する「選択的アゴニスト」という用語は、別のエストロゲン受容体、特に、ERαと比べて、エストロゲン受容体、特に、ERβに選択的に結合し、これを刺激する(agonize)化合物を指すのに用いられる場合がある。例えば、ERβの選択的アゴニストである化合物は、ERβ受容体アゴニスト活性を調べるアッセイにおいて、100nM未満、好ましくは10nM未満、さらにより好ましくは1nM未満のIC50(nM)を有してもよく、ERβの選択的アゴニストである化合物は、ERα受容体アゴニスト活性を調べるアッセイにおいて、100nM超、好ましくは500nM超、さらにより好ましくは1000nM超のIC50(nM)を有してもよい。
【0048】
本明細書で使用する「選択的アゴニスト」という用語は、別のエストロゲン受容体、特に、ERαと比べてエストロゲン受容体、特に、ERβに選択的に結合する化合物を指すのに用いられる場合がある。例えば、ERβの選択的アゴニストである化合物は、(例えば、Kd(nM)で測定された時に)ERαに対する結合親和性よりも少なくとも3倍(または少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、または少なくとも1000倍)のERβ受容体に対する結合親和性を有してもよい。好ましくは、ERβの選択的アゴニストは、100nM未満、より好ましくは10nM未満、またはさらにより好ましくは1nM未満のERβに対するKd(nM)を有する。好ましくは、ERβの選択的アゴニストは、500nM超、より好ましくは1000nM超、またはさらにより好ましくは2000nM超のERαに対するKd(nM)を有する。
【0049】
本明細書で使用する「選択的アゴニスト」という用語は、エストロゲン受容体、特に、ERβに拮抗するのではなく、エストロゲン受容体、特に、ERβに選択的に結合し、これを刺激する化合物を指すのに用いられる場合がある。例えば、ERβの選択的アゴニストである化合物は、ERβ受容体アゴニスト活性アッセイにおいて、100nM未満、好ましくは10nM未満、さらにより好ましくは1nM未満のIC50 (nM)を有してもよい。ERβの選択的アゴニストである化合物は、ERβ受容体アゴニスト活性アッセイにおいて、100nM超、好ましくは500nM超、さらにより好ましくは1000nM超のIC50(nM)を有してもよい。
【0050】
開示される化合物の薬学的に許容される塩も本明細書において意図され、開示される処置方法において利用されてもよい。例えば、開示される化合物の置換基はプロトン化または脱プロトン化されてもよく、前記化合物の薬学的に許容される塩として、それぞれ、アニオンまたはカチオンと一緒に存在してもよい。本明細書で使用する「薬学的に許容される塩」という用語は、生物にとって実質的に無毒の化合物の塩を指す。代表的な薬学的に許容される塩は、本明細書において開示される化合物を薬学的に許容される鉱酸もしくは有機酸または有機塩基もしくは無機塩基と反応させることによって調製された塩を含む。このような塩は酸添加塩および塩基添加塩として知られる。本明細書において開示される化合物のほとんど、または全てが塩を形成することができ、この薬の塩形態が一般的に用いられることが技術のある読者に理解される。なぜなら、多くの場合、この塩形態は、遊離酸または遊離塩基よりも容易に結晶化および精製されるからである。
【0051】
酸添加塩を形成するのに一般的に用いられる酸は、無機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、リン酸などと有機酸、例えば、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p-ブロモフェニルスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、酢酸などを含む場合がある。適切な薬学的に許容される塩の例には、硫酸塩、ピロ硫酸塩、重硫酸塩、亜硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩、メタリン酸塩、ピロリン酸、臭化物、ヨウ化物、酢酸塩、プロピオン酸塩、デカン酸塩、カプリル酸塩、アクリル酸塩、ギ酸、塩酸塩、二塩酸塩、イソ酪酸塩、カプロン酸塩、ヘプタン酸塩、プロピオン酸塩(propiolate)、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、スベリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩(maleat-)、ブチン-1,4二酸塩(butyne-.1,4-dioate)、ヘキシン-l,6-二酸塩(hexyne-l,6-dioate)、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、メトキシ安息香酸塩、フタル酸塩、キシレンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、フェニルプロピオン酸塩、フェニル酪酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、α-ヒドロキシ酪酸塩、グリコール酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、プロパンスルホン酸塩、ナフタレン-1-スルホン酸塩、ナフタレン-2-スルホン酸塩、マンデル酸塩などが含まれ得る。
【0052】
塩基添加塩には、無機塩基に由来する塩基添加塩、例えば、アンモニウムまたはアルカリまたはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩などが含まれる。このような塩の調製において有用な塩基には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムなどが含まれる。
【0053】
通常、本明細書において開示される化合物の任意の塩の一部を形成する特定の対イオンは、通常、この塩全体が薬理学的に許容可能である限り、そして、対イオンが望ましくない品質を、この塩全体に与えない限り、絶対に欠かせない性質のものではないと認識されるはずである。望ましくない品質には、望ましくない溶解度または毒性が含まれ得る。
【0054】
開示される化合物は様々な分子内塩と平衡状態にあり得るとさらに理解される。例えば、分子内塩には、前記化合物が脱プロトン化置換基およびプロトン化置換基を含む塩が含まれる。
【0055】
開示される化合物は薬学的組成物を調製および処方するのに用いられる場合がある。従って、本明細書において、有効量の本明細書において開示される任意の化合物または本明細書において開示される任意の化合物の薬学的に許容される塩を薬学的賦形剤と共に含む、薬学的組成物も開示される。一部の態様において、開示される化合物は、エストロゲン受容体β(ERβ)活性に関連する疾患または障害、特に、特定のERβアゴニストを用いて処置され得る疾患または障害を処置するための医用薬剤を調製するのに用いられる場合がある。従って、開示される化合物はERβアゴニスト活性を示してもよく、好ましくは、前記化合物は、ERβアンタゴニスト、ERαアゴニスト、および/またはERαアンタゴニストに対してERβアゴニストとしての特異性を示す。
【0056】
開示される化合物は、エストロゲンERβ活性に関連する疾患を処置するための薬学的組成物を調製および処方するのに用いられる場合がある。ERβ活性に関連する疾患または障害には、細胞増殖性疾患および細胞増殖性障害(例えば、癌、例えば、乳癌、卵巣癌、および子宮内膜癌)、精神医学的疾患および精神医学的障害(例えば、うつ病、不安、および/または統合失調症)、神経変性疾患または神経変性障害(例えば、APOE4関連アルツハイマー病を含むアルツハイマー病)、記憶低下(例えば、閉経後女性で観察されるような、低エストロゲン条件下で観察される記憶低下)、骨代謝疾患または骨代謝障害(例えば、骨粗鬆症)、代謝疾患または代謝障害(例えば、肥満またはインスリン抵抗性)、ならびに心血管疾患または心血管障害が含まれ得るが、これに限定されない。開示される薬学的組成物は、ERβ活性に関連する疾患および障害を処置するための方法において、必要とする対象に投与されてもよい。
【0057】
本明細書において開示される化合物および薬学的組成物は、疾患または障害を処置するために、必要とする対象に投与されてもよい。一部の態様において、ERβ活性に関連する疾患または障害を処置するために、本明細書において開示される化合物は、この化合物がERβアゴニストとして機能するような有効濃度で投与されてもよい。一部の態様において、前記化合物がERβアゴニストとして機能するのに有効な開示される化合物の量は約0.05~50μM(または約0.05~10μMもしくは約0.05~1μM)である。
【0058】
本明細書で使用する「対象」は「患者」または「個体」と交換可能な場合があり、処置を必要とする、ヒトまたは非ヒト動物でもよい動物を意味する。開示される方法に適した対象には、例えば、哺乳動物、例えば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウマ、ラット、およびマウスが含まれ得る。適切なヒト対象には、例えば、ERβ活性に関連する疾患もしくは障害があるヒト対象またはERβ活性に関連する疾患もしくは障害を発症するリスクがあると確かめられているヒト対象が含まれる。処置を必要とする対象には閉経後女性(例えば、低エストロゲンを示す閉経後女性)が含まれ得る。
【0059】
本明細書で使用する「処置を必要とする対象」は、ERβアゴニストを用いた療法に応答する疾患、障害、または状態を有する対象を含む場合がある。例えば「処置を必要とする対象」は細胞増殖性の疾患、障害、または状態、例えば、癌(例えば、癌、例えば、乳癌)を有する対象を含む場合がある。さらに、「処置を必要とする対象」は精神医学的疾患および精神医学的障害(例えば、うつ病、不安、および/または統合失調症)を含む神経学的疾患または神経学的障害を有する対象を含む場合がある。「必要とする対象」は神経変性疾患または神経変性障害(例えば、APOE4関連アルツハイマー病を含むアルツハイマー病)を有する対象を含む場合がある。特に、必要とする対象は、記憶消失を示すか、または記憶固定向上の必要を示す対象(例えば、低エストロゲン条件下での記憶固定向上の必要を特徴とする疾患または障害を有する対象)を含む場合がある。必要とする対象は、記憶固定向上を必要とする閉経後女性(例えば、低エストロゲン条件下での記憶固定向上を必要とする閉経後女性)を含む場合がある。
【0060】
本明細書で使用する「処置する」または「処置するために」という用語はそれぞれ、症状を軽減する、結果として生じた症状の原因を一時的もしくは恒久的に無くす、および/あるいは言及された障害の結果として生じた症状の出現を阻止するか、もしくは遅らせるか、またはその進行もしくは重篤度を逆転させることを意味する。従って、本明細書において開示される方法は治療的投与および予防的投与を含む。
【0061】
本明細書で使用する「有効量」という用語は、診断中または治療中の対象において望ましい効果をもたらす、対象への単一用量投与時または複数用量投与時の前記化合物の量または用量を指す。開示される方法は、対象におけるERβ活性に関連する疾患または障害を処置するために、(例えば、薬学的組成物に存在するような)有効量の開示される化合物を投与する工程を含んでもよく、それによって、有効量は対象におけるERβアゴニスト活性を誘導するか、促進するか、または引き起こす。
【0062】
有効量は、当業者である担当診断医によって、既知の技法を用いることによって、および類似の状況で得られた結果を観察することによって容易に決定することができる。投与される化合物の有効な量または用量を決定する際に、担当診断医によって多くの要因、例えば、対象の種;その大きさ、年齢、および身体全体の健康;関与する疾患または障害の関与または重篤度の程度;個々の対象の応答;投与される特定の化合物;投与方法;投与される調製物のバイオアベイラビリティ特徴;選択された投与計画;併用薬の使用;ならびに他の関連する状況が考慮されることがある。
【0063】
一部の態様において、開示される化合物の一日量は、約0.01mg/kg~約100mg/kg(例えば、約0.05mg/kg~約50mg/kgおよび/または約0.1mg/kg~約25mg/kg)の本発明の処置方法において用いられる各化合物を含有してもよい。この用量は任意の適切なレジメン(例えば、毎週、毎日、1日2回)の下で投与することができる。
【0064】
本明細書において開示される方法に従う使用のための薬学的組成物は活性成分として1種類の化合物を含んでもよく、活性成分として化合物の組み合わせを含んでもよい。例えば、本明細書において開示される方法は、ERβアゴニストである1種類の化合物を含有する組成物を用いて実施されてもよい。または、開示される方法は、ERβアゴニストである2種類以上の化合物を含有する組成物、またはERβアゴニストである1種類の化合物を、ERαアンタゴニストである化合物と共に含有する組成物を用いて実施されてもよい。
【0065】
ERαアンタゴニストである化合物と共に、ERβアゴニストである化合物を含む薬学的組成物を投与する代わりに、開示される方法は、第1の薬学的組成物(例えば、ERβアゴニストを含む薬学的組成物)を投与し、第2の薬学的組成物(例えば、ERαアンタゴニストを含む薬学的組成物)を投与することによって実施されてもよく、ここで、第1の薬学的組成物は第2の組成物の前に、第2の組成物と同時に、または第2の組成物の後に投与されてもよい。従って、第1の薬学的組成物および第2の薬学的組成物は、これらの名前に関係なく同時に投与されてもよく、任意の順番で投与されてもよい。
【0066】
当業者も理解するように、開示される薬学的組成物は、製剤をヒトへの投与に適したものにする特性(例えば、純度)を有する材料(例えば、活性のある賦形剤、担体、および希釈剤など)を用いて調製することができる。または、製剤は、純度および/または製剤を非ヒト対象への投与に適したものにするが、ヒトへの投与に適したものにしない他の特性を有する材料を用いて調製することができる。
【0067】
本明細書において開示される方法において利用される化合物は、固体剤形の薬学的組成物として処方されてもよいが、任意の薬学的に許容される剤形を利用することができる。例示的な固体剤形には、錠剤、カプセル、サシェ、ロゼンジ、散剤、丸剤、または顆粒剤が含まれるが、これに限定されず、固体剤形は、例えば、速溶性剤形、制御放出剤形、凍結乾燥剤形、遅延放出剤形、長期放出剤形、パルス放出剤形、混合即時放出および制御放出剤形、またはその組み合わせでもよい。または、本明細書において開示される方法において利用される化合物は液体型の薬学的組成物(例えば、注射液またはゲル)として処方されてもよい。
【0068】
本明細書において開示される方法において利用される化合物は、賦形剤、担体、または希釈剤を含む薬学的組成物として処方されてもよい。例えば、賦形剤、担体、または希釈剤は、タンパク質、炭水化物、糖、タルク、ステアリン酸マグネシウム、セルロース、炭酸カルシウム、およびデンプン-ゼラチンペーストからなる群より選択されてもよい。
【0069】
本明細書において開示される方法において利用される化合物はまた、1種類または複数種の結合剤、充填剤、潤滑剤、懸濁剤、甘味料、着香剤、防腐剤、緩衝液、湿潤剤、崩壊剤、および発泡剤を含む薬学的組成物としても処方されてよい。充填剤はラクトース一水和物、無水ラクトース、および様々なデンプンを含む場合がある。結合剤の例は、様々なセルロースおよび架橋ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、例えば、Avicel(登録商標)PH101およびAvicel(登録商標)PH102、結晶セルロース、ならびにケイ化結晶セルロース(ProSolv SMCC(商標))である。圧縮しようとする粉末の流動性に作用する薬剤を含む適切な潤滑剤には、コロイド状二酸化ケイ素、例えば、Aerosil(登録商標)200、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、およびシリカゲルが含まれ得る。甘味料の例には、任意の天然甘味料または人工甘味料、例えば、スクロース、キシリトール、サッカリンナトリウム、シクラメート、アスパルテーム、およびアクセルファム(acsulfame)が含まれ得る。着香剤の例は、Magnasweet(登録商標)(MAFCOの登録商標)、風船ガム着香剤、および果実着香剤などである。防腐剤の例には、ソルビン酸カリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸およびその塩、他のパラヒドロキシ安息香酸エステル、例えば、ブチルパラベン、アルコール、例えば、エチルアルコールもしくはベンジルアルコール、フェノール化合物、例えば、フェノール、または四級化合物、例えば、塩化ベンザルコニウムが含まれ得る。
【0070】
薬学的組成物に適した希釈剤には、薬学的に許容される不活性な増量剤、例えば、結晶セルロース、ラクトース、リン酸水素カルシウム、糖類、および前述のいずれかの混合物が含まれ得る。希釈剤の例には、結晶セルロース、例えば、Avicel(登録商標)PH101およびAvicel(登録商標)PH102;ラクトース、例えば、ラクトース一水和物、無水ラクトース、およびPharmatose(登録商標)DCL21;リン酸水素カルシウム、例えば、Emcompress(登録商標);マンニトール;デンプン;ソルビトール;スクロース;ならびにグルコースが含まれる。
【0071】
開示される薬学的組成物はまた崩壊剤も含んでよい。適切な崩壊剤には、わずかに架橋したポリビニルピロリドン、コーンスターチ、バレイショデンプン、トウモロコシデンプン、および加工デンプン、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、デンプングリコール酸ナトリウム、ならびにその混合物が含まれる。
【0072】
開示される薬学的組成物はまた発泡剤も含んでよい。発泡剤の例は、発泡性カップル(effervescent couple)、例えば、有機酸および炭酸塩または重炭酸塩である。適切な有機酸には、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、アジピン酸、コハク酸、およびアルギン酸、ならびに無水物および酸塩が含まれる。適切な炭酸塩および重炭酸塩には、例えば、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、グリシン炭酸ナトリウム、炭酸L-リジン、および炭酸アルギニンが含まれる。または、発泡性カップルの重炭酸ナトリウム成分しか存在しなくてもよい。
【0073】
前記化合物を含む薬学的組成物は、任意の適切な経路による、例えば、経口(頬もしくは舌下を含む)経路、直腸経路、鼻経路、局部経路(頬、舌下、もしくは経皮を含む)、腟経路または非経口経路(皮下、筋肉内、静脈内、もしくは皮内を含む)による投与に適合されてもよい。このような製剤は、薬学の技術分野において公知の任意の方法によって、例えば、活性成分を担体または賦形剤と会合させることによって調製することができる。
【0074】
経口投与に適合された薬学的組成物は、別々の単位、例えば、カプセルもしくは錠剤;散剤もしくは顆粒剤;水性液体もしくは非水性液体に溶解した溶液もしくは懸濁液;食用の発泡体もしくはホイップ;または水中油型液体エマルジョンもしくは油中水型液体エマルジョンとして提示されてもよい。
【0075】
経皮投与に適合された薬学的組成物は、レシピエントの表皮と長期間、密着したままになることを目的とした別々のパッチとして提示されてもよい。例えば、前記活性成分はイオン導入によってパッチから送達されてもよい。
【0076】
局部投与に適合された薬学的組成物は軟膏、クリーム、懸濁液、ローション剤、粉末、溶液、ペースト、ゲル、含浸包帯(impregnated dressing)、スプレー、エアロゾル、または油として処方されてもよく、適切な従来の添加物、例えば、防腐剤、薬物浸透を助ける溶媒、ならびに軟膏およびクリームの中にある軟化薬を含有してもよい。
【0077】
眼または他の外側組織、例えば、口および皮膚に適用する場合、薬学的組成物は好ましくは局部軟膏またはクリームとして適用される。軟膏に処方された時に、前記化合物はパラフィン性または水混和性の軟膏基剤と共に用いられる場合がある。または、前記化合物は、水中油型クリーム基剤または油中水型基剤を含むクリームの中に入れて処方されてもよい。眼への局部投与に適合された薬学的組成物には、活性成分が適切な担体、特に、水性溶媒に溶解または懸濁されている点眼薬が含まれる。
【0078】
口内の局部投与に適合された薬学的組成物にはロゼンジ、香錠、および口腔洗浄薬が含まれる。
【0079】
直腸投与に適合された薬学的組成物は坐剤または浣腸として提示されてもよい。
【0080】
担体が固体であり、嗅ぎタバコを吸うように(すなわち、鼻の近くに保たれた粉末容器から鼻腔を通って迅速に吸入することによって)投与される粒径(例えば、20~500ミクロンの範囲)を有する粗い粉末を含む、鼻腔投与に適合された薬学的組成物。鼻噴霧または点鼻液として投与する場合、担体が液体である適切な製剤は活性成分の水性溶液または油性溶液を含む。
【0081】
吸入による投与に適合された薬学的組成物には、様々なタイプの定量加圧エアロゾル、ネブライザ、または注入器によって生成され得る微粒子粉末または噴霧が含まれる。
【0082】
腟投与に適合された薬学的組成物は、ペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、発泡体、またはスプレー製剤として提示されてもよい。
【0083】
非経口投与に適合された薬学的組成物には、酸化防止剤、緩衝液、静菌剤、および製剤を、意図されたレシピエントの血液と等張にする溶質を含有し得る水性および非水性の滅菌注射溶液、ならびに懸濁剤および増粘剤を含み得る水性および非水性の滅菌懸濁液を含む。前記製剤は、ユニットドーズ容器またはマルチドーズ容器、例えば、密封したアンプルおよびバイアルに入れて提示されてもよく、使用直前に滅菌液体担体、例えば、注射用水を添加することしか必要としないフリーズドライ(凍結乾燥)の状態で保管されてもよい。即時注射溶液および即時注射懸濁液は、滅菌した散剤、顆粒剤、および錠剤から調製されてもよい。
【0084】
例示的な態様
以下の態様は例示であり、本発明の範囲を限定すると解釈してはならない。
【0085】
態様1.
の式および立体化学を有する、化合物。
【0086】
態様2.実質的に純粋な形をとる、態様1の化合物。
【0087】
態様3.薬学的な賦形剤、担体、または希釈剤と共に、有効量の態様1の化合物、好ましくは、実質的に純粋な形をとる態様1の化合物またはその薬学的に許容される塩を含む、薬学的組成物(例えば、立体異性体は、組成物中の化合物の少なくとも約90%、95%、または99%に相当する)。
【0088】
態様4.エストロゲン受容体β(ERβ)活性に関連する疾患または障害の処置を必要とする対象において、エストロゲン受容体β(ERβ)活性に関連する疾患または障害を処置するための方法であって、態様1もしくは2の化合物または態様3の薬学的組成物を対象に投与する工程を含む、方法。
【0089】
態様5.疾患または障害が、神経学的疾患および神経学的障害、精神医学的疾患および精神医学的障害、ならびに細胞増殖性疾患および細胞増殖性障害より選択される、態様4の方法。
【0090】
態様6.疾患または障害が記憶消失または記憶機能障害に関連する、態様4の方法。
【0091】
態様7.記憶固定の向上を必要とする対象において記憶固定を向上させるための方法であって、態様1もしくは2の化合物または態様3の薬学的組成物を対象に投与する工程を含む、方法。
【0092】
態様8.低エストロゲンレベルを示す対象を処置するための方法であって、態様1もしくは2の化合物または態様3の薬学的組成物を対象に投与する工程を含む、方法。
【0093】
態様9.対象が閉経後女性である、態様7または態様8の方法。
【0094】
態様10.
より選択される式を有する、化合物。
【0095】
態様11.薬学的な賦形剤、担体、または希釈剤と共に、有効量の態様10の化合物またはその薬学的に許容される塩を含む、薬学的組成物。
【0096】
態様12.エストロゲン受容体β(ERβ)活性に関連する疾患または障害の処置を必要とする対象において、エストロゲン受容体β(ERβ)活性に関連する疾患または障害を処置するための方法であって、態様10の化合物または態様11の薬学的組成物を対象に投与する工程を含む、方法。
【0097】
態様13.疾患または障害が、神経学的疾患および神経学的障害、精神医学的疾患および精神医学的障害、ならびに細胞増殖性疾患および細胞増殖性障害(例えば、癌、例えば、乳癌、卵巣癌、子宮内膜癌など)より選択される、態様12の方法。
【0098】
態様14.疾患または障害が記憶消失または記憶機能障害に関連する、態様12の方法。
【0099】
態様15.記憶固定の向上を必要とする対象において記憶固定を向上させるための方法であって、態様10の化合物または態様11の薬学的組成物を対象に投与する工程を含む、方法。
【0100】
態様16.低エストロゲンレベルを示す対象を処置するための方法であって、態様10の化合物または態様11の薬学的組成物を対象に投与する工程を含む、方法。
【0101】
態様17.対象が閉経後女性である、態様15または態様16の方法。
【0102】
態様18.記憶固定の向上を必要とする対象において記憶固定を向上させるための方法であって、該方法が、式:
を有する化合物またはその化合物を含む薬学的組成物を該対象に投与する工程を含み;
式中、
(a)Zが炭素原子であり;
(b)Xが、水素、ヒドロキシル、アルキル、ヒドロキシアルキル、アミノ、およびアミノアルキルからなる群より選択され;かつ
(c)Yが、水素、ヒドロキシル、アルキル、およびヒドロキシアルキルからなる群より選択されるか;またはYが-CH2CH2-または-OCH2-であり、かつYおよびZが架橋を形成するか;またはXおよびYが共に、アルキリデニル、カルボキシアルキリデニル、エステルアルキリデニル、ヒドロキシアルキリデニル、ヒドロキシアルキルアルキリデニル、アミノアルキリデニル、オキソ、もしくはオキシムを形成する、
前記方法。
【0103】
態様19.化合物が式Ia:
を有する、態様18の方法。
【0104】
態様20.化合物において、Xが水素、ヒドロキシル、アルキルイル(alklyl)、およびヒドロキシアルキルより選択され、かつYが水素、ヒドロキシル、アルキル、およびヒドロキシアルキルより選択されるか、またはYが-OCH2-であり、かつYおよびZが架橋を形成する、態様18または19の方法。
【0105】
態様21.化合物が、式Ia(i):
を有する、態様18の方法。
【0106】
態様22.化合物において、Xが水素、ヒドロキシル、アルキル、ヒドロキシルアルキルより選択され、かつYが水素である、態様21の方法。
【0107】
態様23.化合物において、Xが水素またはメチルであり、かつYがヒドロキシメチル(-CH2OH)またはヒドロキシエチル(-CH2CH2OH)である、態様18の方法。
【0108】
態様24.化合物において、Xがメチルであり、かつYがヒドロキシメチル(-CH2OH)である、態様18の方法。
【実施例0109】
以下の実施例は例示であり、本発明の範囲を限定すると解釈してはならない。
【0110】
実施例1.低エストロゲン条件下で記憶固定を向上させるための、強力かつ選択的なエストロゲン受容体-βアゴニスト(SERBA)としてのA-Cエストロゲン
概要
エストロゲン受容体-β(ERβ)は閉経後女性における記憶固定の薬物標的である。インビボ効力を有し、A-Cエストロゲンであり、BおよびDエストロゲン環を欠く一連の強力かつ選択的なERβアゴニスト(SERBA)が本明細書において報告される。最も強力かつ選択的なA-Cエストロゲンは他の7種類の核ホルモン受容体と比べてER活性化に選択的であり、驚いたことに、βアイソフォームに対する選択性はαアイソフォームの750倍であり、IC50は細胞アッセイおよび直接結合アッセイにおいて20~30nMである。様々なアッセイにおける効能の比較により、ERアイソフォーム選択性は、前記化合物が、転写活性化に必要な生産的(productive)コンホメーション変化を動かす能力に関連することが示唆されている。本明細書において開示される化合物はまた、インビボ効力を背側海馬へのマイクロインフュージョン(microinfusion)後にも、腹腔内注射(0.5mg/kg) 後にも、または強制経口投与送達(5mg/kg)後にも示す。この簡単であるが新規のA-Cエストロゲンは選択的であり、脳浸透剤であり、かつ記憶固定を促進する。
【0111】
結果
化合物合成
市販されている4-(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサノン1を、NaBH4と反応させることで2oアルコール2に変換し、または過剰なメチルリチウムと反応させることで3oアルコール3に変換し、またはヒドロキシルアミンとの縮合によってオキシム4に変換した(スキーム1)。
【0112】
【0113】
スキーム1.試薬:(a)NaBH4/MeOH(90%);(b)MeLi/Et2O(37%);(c)H2NOH-HCl、Amberlyst、エタノール(70%);(d)TBSCl、イミダゾール(83%);(e)Ph3PCH3 +Br-、n-BuLi(84%);(f)TBAF/THF(73~78%);(g)H2、Pd/C、(h)パラホルムアルデヒド、MgCl2、NEt3(40%);(i)H2NOH-HCl、NaHCO3、エタノール(69%);(j)cat.OsO4、NMO(1.4当量)(86%);(k)BH3-THF、次に、30%H2O2/1N NaOH;(l)9-BBN、次に、30%H2O2/1N NaOH;(m)DDQ(0.5当量)/CH2Cl2(16, 47%;17, 37%);(n)MgCl2、NEt3 (78%)。
【0114】
2および3の立体化学はNMRスペクトルデータに基づいて割り当てられた。特に、2oアルコール2の場合、アルコールメタンプロトンはδ2.38(J=11.8,3.4Hz)でトリプレットオブトリプレッツ(triplet of triplets)として現れる。大きなカップリングが、このプロトンのアキシャル-アキシャル置換(axial-axial disposition)と一致し、従って、ヒドロキシル基はエクアトリアルである。3oアルコールおよびメチル炭素に割り当てられた、3の13C NMRスペクトルにあるδ69.5および31.1ppmのシグナルは、このタイプのシス-1,4-アルコールとよく一致している24。t-ブチルジメチルシリルエーテル5を、メチルトリフェニルホスホニウムブロミドから生成したイリドを用いてオレフィン化して、6を得た。TBAFを用いてシリルエーテルを切断することで7を得た。7の接触水素化(catalytic hydrogenation)によって立体異性体の混合物として8を得た。7を過剰なパラホルムアルデヒド、MgCl2、およびNEt3と反応させることで置換サリクアルデヒド(salicaldehyde)9を入手し、これをヒドロキシルアミンと反応させるとオキシム10を得た。6をジヒドロキシル化した後にシリルエーテルを切断することで、クロマトグラフィー精製後に1種類の立体異性体として12を得た。4-t-ブチルメチレンシクロヘキサンのオスミウム触媒ジヒドロキシル化の既知の立体化学に基づいて、示したように12の立体化学を割り当てた25。BH3-THFを用いた6のヒドロホウ素化-酸化によって、立体異性体である第一級アルコールシス-13とトランス-14の分離不可能な混合物が、それぞれのヒドロキシメチレンプロトンの1H NMRシグナルの積分によって確かめた時に(それぞれ、δ3.60および3.39ppm)2:1比で生じた。異性体の立体化学を、これらの2つのシグナルの相対的化学シフトに基づいて暫定的に割り当てた。アキシャルヒドロキシメチレン(すなわち、シス異性体)のシグナルは、エクアトリアルなヒドロキシメチレンのシグナルと比べて低磁場で現れる24。または、9-BBNを用いたヒドロホウ素化-酸化によって、トランス-14がシス-13と比較して大きな比率で存在する混合物を得た(2:3、シス:トランス)。4-置換メチレンシクロヘキサンのシス:トランスアウトカムを調整するために、これらの2種類のボラン試薬の使用が以前に報告されている26、27。TBAFを用いてシリルエーテルを切断することで、立体異性体である4-(4-ヒドロキシメチルシクロヘキシル)フェノールシス-15/トランス-16の混合物を得た。立体異性体15/16の混合物(2:3,シス:トランス)をDDQ(0.5当量)で処理することで、二環式エーテル17およびトランス-16の分離可能な混合物を得た。トランス-16の暫定的な構造割り付けは1回の結晶X線回折分析によって確認された(図7a)28。未反応のトランス-16の単離を、シス-15の酸化速度の方が速いことに基づいて合理化した。シス-またはトランス-4-(4-ヒドロキシメチルシクロヘキシル)フェノールの酸化は同じベンジリックカルボカチオン中間体(すなわち、18、スキーム2)を介して進むので、この中間体が形成するための活性化エネルギーは、トランス-16と比較して、安定していないシス-15の方が低く、従って、シス-異性体の酸化的環化の方が速い。17をMgCl2およびトリメチルアミンと反応させると分子内脱離反応が起こり、これによってシクロヘキセン(±)-19を得た(スキーム1)。
【0115】
【0116】
スキーム2.同じベンジリックカルボカチオン中間体を介したシス-またはトランス-4-(4-ヒドロキシメチルシクロヘキシル)フェノールの酸化
【0117】
19の構造は、そのNMRスペクトルデータに基づいて割り当てられた。特に、オレフィンプロトンのシグナルが約δ5.95ppmで狭いマルチプレットとして現れる。このシグナルは他の1-(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキセンに特有である29
【0118】
ホスホノ酢酸トリエチルを用いてシリルエーテル20(1から調製した)をホーナー・エモンズ(Horner-Emmons)オレフィン化して、不飽和エステル(±)-21を得た。TBAFを用いた脱シリル化によってフェノール(±)-22を得た(スキーム3)。
【0119】
【0120】
スキーム3.試薬:(a)TBDPSCl,イミダゾール(93%);(b)EtO2CCH2P(O)(OEt)2, NaH(95%);(c)DIBAL, CH2Cl2, -40℃(quant.);(d)TBAF(80%);(e)H2(30psi), 20%Pd/C(25, 14%;26, 60%)。
【0121】
21をDIBALで還元した後に、シリルエーテルを脱保護してアリルアルコール(±)-24を得た。24の接触水素化によって、アルコール25と、過剰に少ないエチルシクロヘキサン誘導体26の分離可能な混合物を得た。
【0122】
TR-FRETおよび細胞転写アッセイ
化合物の初回スクリーニングをTR-FRET置換アッセイにおいて行った。TR-FRET置換アッセイではERβLBDとの結合を検出する(選択された化合物の用量反応曲線については図2、全化合物の用量反応曲線については図9を参照されたい)。このアッセイでは、合成した全ての化合物についてIC50を測定した。IC50値を表1にまとめた。
【0123】
(表1)エストロゲン受容体アッセイデータ。報告された値はIC50であり、値はnMを単位とする
*IC50が31±7nM(図5a)および23±8nM(図10)である2つのデータセットの平均。そのため選択性は658~886であり、平均は750である。
【0124】
最も強力な化合物は、16(以下、ISP358-2と呼ぶ)(ヒドロキシメチル置換)、25(ヒドロキシエチル置換)、および8(メチル置換)であった。これらの全化合物のERβに対するIC50は<30nMであった。ISP358-2は純粋なトランス異性体であり、シス立体異性体とトランス立体異性体(15/16)の混合物よりも高い、ERβに対する親和性で結合することが見出された。ヒドロキシル基へのメチレン(ISP358-2)またはエチレン(25)リンカーがあっても効能が得られるが、シクロヘキサン環上のヒドロキシルを直接置換すると親和性が有意に減少する(2のIC50は7,250nM)。アルキルリンカーに不飽和(24)を導入することでも親和性が減少したが(676nM)、シクロヘキサン環に不飽和(18)を導入しても親和性は中程度にしか減少しなかった(49nM)。ISP358-2とERαとの結合も試験し、単離されたLBDとの直接結合を測定するこのTR-FRETアッセイにおいて、ISP358-2は、12倍高いERβに対する親和性で結合した(IC5024nM;図2b)。
【0125】
さらに、ISP358-2を核ホルモン受容体機能アッセイにおいてスクリーニングした(図3)。このアッセイでは、GAL4のDNA結合ドメイン(DBD)に繋ぎ止められた、関心対象のホルモン受容体(例えば、ERβ)のLBDで構成されるキメラ受容体が結合し、活性化されたことによる転写活性化を測定した。このアッセイは、他の核ホルモン受容体と比べたエストロゲン受容体活性化の選択性を評価するために行った。0.25~25μMの濃度で試験した、あらゆる核ホルモン受容体(エストロゲン受容体を除く)に対して化合物ISP358-2の有意なアゴニスト活性は観察されなかった(図3a)。従って、ISP358-2は、以下の受容体:アンドロゲン受容体(AR)、グルココルチコイド受容体(GR)、ミネラルコルチコイド受容体(MR)、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体(PPARδ)、プロゲステロン受容体(PR)、甲状腺ホルモン受容体(TRβ)、およびビタミンD受容体(VDR)のアゴニストでない(試験した各核ホルモンに対する対照化合物のIC50については表2を照されたい)。この同じアッセイにおける追跡10ポイント滴定において、ISP358-2の完全長キメラERβ(357±26nM)への結合および活性化は、完全長キメラERα(930±69nM)と比べて2.6倍選択的であることが見出された。このアッセイ(図3)は、(図2と同様に)アゴニストとER LBDとの結合をただ単に結合するのではなく転写活性化を測定する。しかし、このアッセイでは、自然条件で起こる、実際のアゴニストによって誘導された活性化を正確に反映しない可能性がある非天然キメラタンパク質(GAL4 DBDと融合したER LBD)を使用する。
【0126】
コアクチベーター型のTR-FRET LBD結合アッセイを行った時に(図4a)、ISP358-2化合物(図4b)は、ERとの結合と、ERβへのPPARγコアクチベーターペプチドの動員(161±15nM)についてERα(2,940±390nM)と比べて15倍選択的であることが見出された(図4c)。このアッセイは、アゴニストと受容体の結合をただ単に測定するのではなく、結合と、アゴニストによって誘導されるコアクチベーターペプチド動員を測定する点でER LBDの活性化を測定する。
【0127】
最後に、天然完全長ER(ER LBDとER DBDで構成される)を用いる細胞転写活性化アッセイを行った。以前のアッセイとは異なり、このアッセイは細胞に基づいており、そのためインビボ状況を最も良く模倣している。このアッセイにおいて試験された最も強力かつ選択的な化合物はISP358-2であり、31±7nMのERβアゴニスト効能(図5aおよび図10a;このアッセイを2回繰り返して行い、得られた値は31nMおよび23nMであり、平均は27nMであった)と、20,419±859nMのERαアゴニスト効能(図5b)を有する。これにより、このさらに生理学的に関連するアッセイでのERβ/ERα選択性の比は約750となる。ISP358-2は、10μMまでの濃度ではERβのアンタゴニスト活性(図5c)もERαのアンタゴニスト活性(図5d)も示さなかった。
【0128】
インビトロドラッガビリティ-CYP450結合、hERG、および比濁分析
ISP358-2はCYP1A2およびCYP2D6の阻害を示さず、CYP2C9(IC50=34±4.7μM)およびCYP3A4(IC50=89±18μM)の弱い阻害しか示さなかった(図6)。ISP358-2はhERGに結合せず、100μMでは14%の活性しか示さなかった。比濁分析(ISP171、15/16、異性体の混合物に対して行った)は有意な凝集を示さなかった。このことは、300μMまでの濃度では溶解度は良好なことが分かる(図11)。
【0129】
ドッキング研究
ISP358-2(図7a)を、類似したドッキングエネルギーをもつ2種類のコンホメーションでアゴニスト-コンホメーションERαの結合部位にドッキングさせた。ある結合形式(図6dおよび6e)ではフェノールヒドロキシルがArg394/Glu353と相互作用し(エネルギー=-7.6kcal/mol)、別の形式ではISP358-2分子は180度反転し(エネルギー=-7.8kcal/mol)、脂肪族ヒドロキシルがArg394/Glu353と相互作用する。ISP358-2はアゴニスト-コンホメーションERβポケットの中で結合し(図7cおよびデータは示さない)、フェノールヒドロキシルがArg394/Glu353と最小エネルギードッキングポーズ(エネルギー=-8.0kcal/mol)で相互作用する。両方の場合とも、結合部位残基と結合したISP358-2との間に有意な疎水性相互作用があるが、ERβポケットの方が小さく、より密接した適合を生み出す。両方の場合とも、ヒドロキシメチル基が、ERアゴニストについて典型的に認められる水素結合相互作用に関与するほど十分にHis524に近接しているが(3.0Å)、ERβでは、脂肪族アルコールに結合した水素がGly472のバックボーンカルボニルと共にあることがある。天然エストロゲン分子と同様に、ERβでは、強制的にヒドロキシメチル-シクロヘキシル環(環C)がフェノール環(環A)とほぼ平面になるようにする大きな疎水性相互作用がある(データは示さない)。これは、ERαにおいて、2つの環がほぼ直交している結合ポーズ(binding pose)とは対照的である(データは示さない)。ERβ疎水性相互作用は、フェノール環の近くにあるPhe356、Met340、Phe355、Leu298、ヒドロキシメチル基の近くにあるLeu476、Ile373、シクロヘキサン環の近くにあるAla302、Leu298との疎水性相互作用である(図7cおよびデータは示さない)。E2の対照ドッキング研究は、結晶構造に基づいて、予想された結合方向を再現した(データは示さない)。
【0130】
記憶固定の評価 背側海馬注入
最初に、本発明者らは、卵巣切除マウスにおける物体認識および空間記憶固定に対するISP358-2の直接海馬内注入の効果を調べた(図8a)。5つのマウス群:ビヒクル(負の対照)、DPN(正の対照)、ならびに3種類の用量のISP358-2(10pg/半球、100pg/半球、および1ng/半球)を試験した(図8b,c)。物体配置(object placement)(図8b)については、一標本t検定から、ビヒクルまたは10pg ISP358-2を与えたマウスは、移動した物体に偶然よりも有意に多くの時間を費やさないことが分かった(それぞれ、ts(7)=0.44および1.19、p>0.05;n=8)。このことから、これらの群は訓練用物体場所の記憶を示さなかったことが分かる。対照的に、DPN、100pg ISP358-2、または1ng ISP358-2を与えたマウスは、移動した物体に偶然よりも有意に多くの時間を費やした(それぞれ、ts(6)=4.5、10.3、および3.4、p<0.05;n=7)。このことは訓練用物体場所の堅固な記憶を示している。さらに、移動した物体に費やした時間に対して行った一方向ANOVAは処置の有意な主効果を示した(F(4,32)=2.97、p=0.034)。フィッシャーLSD事後検定から、DPN、100pg、および1ng群は、移動した物体にビヒクル群よりも有意に多くの時間を費やしたに対して、ビヒクルおよび10pg群は互いに差がないことが分かった。まとめると、これらのデータから、100pgまたは1ng ISP358-2の背側海馬注入は物体配置の記憶固定を向上させたことが示唆される。
【0131】
物体認識の結果(図8c)はほぼ同一であった。ビヒクル群も10pg ISP358-2群も新規の物体を好まなかった(それぞれ、ts(9-10)=1.08および0.88、p>0.05;n=10~11)。しかしながら、DPN、100pg ISP358-2、および1ng ISP358-2群は全て、新規の物体に偶然よりも有意に多くの時間を費やした(それぞれ、ts(9-10)=2.35、3.16、および1.08、p<0.05;n=10~11)。さらに、処置の主効果は有意であり(F(4,48)=3.69、p=0.011)、事後検定によって、DPN、100pg ISP358-2、および1ng ISP358-2群はビヒクルと有意差があるが、10pg ISP358-2群は有意差がないと確かめられた。物体配置と同様に、これらのデータから、100pgまたは1ng ISP358-2の背側海馬注入は物体認識の記憶固定を向上させたが、10pg ISP358-2は向上させなかったことが分かる。
【0132】
腹腔内注射
次に、本発明者らは、ISP358-2の全身投与も海馬内注入と同様の記憶向上効果をもたらすかどうか調べるために新たな一組のマウスを使用した(図8d,e)。腹腔内(IP)注射は、注射された薬物が腹膜を通って血管に吸収される、一般的で信頼性が高く、かつ便利な全身処置である30。海馬内注入用の薬物用量は血液脳関門を横断するのに必要な用量よりかなり少ないので、本発明者らは、上記の細胞アッセイおよびDH注入結果と、0.05mg/kgDPNのIP注射が物体認識記憶を向上させたことを示した以前の研究に基づいて、ある範囲のIP用量を調べた31。本発明者らの細胞アッセイではISP358-2のIC50はDPNのIC50の約10倍であった。さらに、本発明者らの行動試験から、ISP358-2はDPNの10倍の濃度で海馬記憶を向上させることが分かった。従って、本発明者らのISP358-2のIP用量はDPNの少なくとも10倍であった(0.5mg/kgおよび5mg/kg)。従って、本発明者らは、以下のように4つのマウス群:ビヒクル(負の対照)、DPN(正の対照)、ならびに2種類の用量のISP358-2(0.5mg/kgおよび5mg/kg)を試験した。
【0133】
物体配置(図8d)については、一標本t検定から、ビヒクルを与えたマウスは、移動した物体を好まないことが分かった(t(8)=0.68、p>0.05;n=9)。しかしながら、DPN群、0.5mg/kg ISP358-2群、および5mg/kg ISP358-2群は全て、移動した物体に偶然よりも有意に多くの時間を費やした(それぞれ、ts(9-11)=3.20、3.93、および2.78, p<0.05;n=10~12)。このことから、ISP358-2の全身投与は物体配置の記憶固定を向上させたことが示唆される。さらに、処置の主効果は有意であり(F(3,38)=3.63, p=0.021)、事後検定によって、0.5mg/kg ISP358-2群はビヒクルと有意差があることが分かった。これらのデータから、ISP358-2のIP注射は背側海馬注入と同様に空間記憶固定を向上させることが証明される。
【0134】
物体認識について同様の結果が観察された(図8e)。一標本t検定結果から、ビヒクルを与えたマウスは、新規の物体に、偶然よりも有意に多くの時間を費やさないことが分かった(t(9)=1.40, p>0.05;n=10)。対照的に、DPN群および0.5mg/kg ISP358-2群は偶然と比べて新規の物体を有意に好んだ(それぞれ、ts(8および11)=3.52および4.17, p<0.01;n=12および9)。多少、5mg/kg ISP358-2が新規の物体を好む傾向もある(t(12)=1.65, p=0.125;n=13)。さらに、処置の主効果は有意であり(F(3,40)=5.05, p=0.005)、事後検定によって、DPN群、0.5mg/kg ISP358-2群、および5mg/kg ISP358-2群はビヒクル群と有意差があることが検証された。まとめると、物体配置および物体認識のデータから、ISP358-2、特に、0.5mg/kg用量のIP投与が背側海馬注入と同様に物体認識および空間記憶固定を向上させることが示唆される。重要なことに、これらのデータはまた卵巣切除マウスにおける脳浸透度および行動効力も証明する。
【0135】
強制経口投与
IP注射の記憶力増進有効性を考えて、次に、本発明者らは、ISP358-2経口投与が記憶固定を向上できるかどうかを評価した(図8f,g)。強制経口投与は、注射器によって薬物を胃に直接送達する科学実験における一般的な手順である32。強制経口投与は、食物および/または水の中に入れた送達による投与などの他の経口投与方法よりも極めて有効であり、かつ正確であるが、侵襲的であり、かつストレスが多い33。本発明者らは、ISP358-2のIP注射が海馬記憶固定を向上させたことを観察したので、強制経口投与にIP注射と同じ用量を使用した(ビヒクル、0.5mg/kgまたは5mg/kg ISP358-2、および0.05mg/kg DPN)。
【0136】
ISP358-2のIP注射について観察されたように経口投与について同様の結果が観察された。物体配置(図8f)については、一標本t検定結果から、ビヒクルを与えたマウスは、移動した物体に偶然よりも有意に多くの時間を費やさないことが分かった(t(8)=0.54, p>0.05;n=9)。しかしながら、DPN群、0.5mg/kg ISP358-2群、および5mg/kg ISP358-2群は全て、偶然と比べて、移動した物体を有意に好んだ(それぞれ、ts(8-9)=2.76、3.65、5.06、p<0.05;n=9~10)。このことから、ISP358-2の経口投与は空間記憶固定を向上させたことが示唆される。また、一方向ANOVAによって処置の主効果は有意だったことも分かり(F(3,33)=5.04, p=0.006)、事後検定によって、DPN群、0.5mg/kg ISP358-2群、および5mg/kg ISP358-2群はビヒクル群と有意差があることが検証された。同様に、物体認識(図8g)については、一標本t検定から、ビヒクルを与えたマウスは新規の物体を好まないことが分かった(t(8)=0.25, p>0.05;n=9)。対照的に、DPN群、0.5mg/kg ISP358-2群、および5mg/kg ISP358-2群は全て偶然と比べて新規の物体に有意に多くの時間を費やした(それぞれ、ts(7-9)=3.89、5.37、2.36、p<0.05;n=8~10)。さらに、処置の主効果は有意であり(F(3,32)=3.02, p=0.044)、事後検定によって、DPN群、0.5mg/kg ISP358-2群、および5mg/kg ISP358-2群はビヒクルはと有意差があることが分かった。まとめると、物体配置および物体認識行動の結果から、ISP358-2の経口投与は背側海馬注入またはIP注射と同様に物体認識および空間記憶固定を向上させることが証明される。これらのデータからまた、卵巣切除マウスにおけるISP358-2の経口バイオアベイラビリティも示唆される。
【0137】
最後に、本発明者らは、長期エストロゲン欠乏を経験したマウスにおける空間記憶固定に対する、強制経口投与されたISP358-2の有効性を評価するために予備データを収集した。上記のビヒクル、DPN、またはISP358-2をi.p.注射したマウスは卵巣切除後4ヶ月にわたって本発明者らのコロニーに居続けた。次いで、マウスを(新たな物体を用いる)物体配置タスクにおいて訓練し、次いですぐに強制経口投与を介して、上記と同じ用量のビヒクル、DPN、またはISP358-2を与えた(n=9~12/群)。卵巣切除して1ヶ月以内に強制投与したマウスとは異なり(図8f)、DPNまたはISP358-2は、卵巣切除して4ヶ月以内に処置したマウスでは空間記憶固定を向上させなかった(図12a)。次いで、本発明者らは、本発明者らの以前の研究34(ERα, 1:200, Santa Cruz Biotechnology; ERβ, 1:200, Santa Cruz Biotechnology)に従ってウェスタンブロッティングを用いてDHにおけるERαレベルおよびERβレベルを測定した。卵巣切除の約2ヶ月後および5ヶ月後に組織を収集した。卵巣切除して5ヶ月後のERβレベルは、卵巣切除して2ヶ月後と比べて有意に低下した(図12b;t9=2.46, p<0.05)。対照的にERαレベルは変化しなかった(図12c)。これらのデータから、DPNもISP358-2も長期卵巣切除後にERβレベル低下のために記憶を向上しなかったことが示唆される。拡大解釈してみれば、これらのデータはERβに対するISP358-2のインビボ選択性も裏付けている。というのも、ISP358-2がERαに結合することで記憶を向上させるのであれば、ERαレベルは低下しなかったので長期卵巣切除後に記憶固定を向上できたはずだからである。しかしながら、ISP358-2が記憶を向上しなかった時にERβレベルが低かったという事実は、ISP358-2がERαではなくERβを介して記憶を調節するという本発明者らの仮説を裏付けている。
【0138】
ISP358-2処置による末梢病理または細胞増殖の評価
一般的に、20の異なる標本からの組織は全て似ているように見えた。心臓:心臓組織は全て人の注意をひかなかった。心室壁は無傷であり、正常な厚みがあった。心房壁は無傷であり、正常な厚みがあった。筋線維の錯綜配列または虚血性心疾患もしくは虚血傷害などの先天性欠損の証拠はなかった。炎症または心筋炎の証拠はなかった。腎臓:腎臓は全て人の注意をひかなかった。糸球体は無傷であった。尿細管は正常に見えた。腎臓のあらゆる構造に関与する炎症の証拠はなかった。肝臓:肝臓の全体構造は無傷で、正常に見え、大きな門脈(portal)型の静脈が肝管および肝臓動脈と一緒に走っていた。中心静脈が存在し、正常に見えた。低悪性度/軽度虚血傷害の全身出現が全試料に存在した。これは非特異的であるように見え、全ての標本において認められ、初期虚血性損傷または死後に起こる自己分解に続発したものであるかもしれない。数匹の動物では細胞壊死の小さな病巣が観察され、虚血に続発した可能性が高い。2匹の動物が、小さく、かつ限局的な軽度低悪性度の炎症のある領域を示した。ある動物(R15-IP-24V)には、主として単核リンパ球で構成される組織化された炎症浸潤物の多巣領域があった。全体として、好中球で構成される急性炎症の証拠も、肝管などの肝臓内の構造への損傷の証拠もなかった。処置動物のBloodworkの化学・血液学データ(図14)からは、噴門穿刺を介した試料収集による可能性が高い溶血に起因する中程度の作用を除いて、ビヒクルと比べて、予想された参照範囲からの有意な逸脱は示されない。最後に、10μM、100μM、および1,000μMの用量のE2が統計的に有意なMCF-7乳癌細胞増殖を引き起こしたが、ISP358-2もDPNも未処理対照細胞と比べて有意な増殖を全く示さなかった。
【0139】
考察
ERβは、不安、うつ病、統合失調症、およびアルツハイマー病を含む広範な状態に対する薬物標的として以前に探求されたことがあり、代表的なERβ薬物リードアゴニスト化合物を図1aに示した35。本明細書において示された化合物(表1)は、ERαよりもERβに対して選択的であるという点で(約750倍)、かつ天然の17β-エストラジオール分子に似ており、B環およびD環しか欠いていないA-Cエストロゲンであるという点で、これらの以前に報告された化合物と異なる。
【0140】
A-Cエストロゲンの構造活性関係
4-(4-置換シクロヘキシル)フェノールの結合親和性をTR-FRET ERβ結合アッセイで評価した(表1および図2)。特に、シクロヘキシルコアに取り付けられたヒドロキシメチル官能基を有する化合物は20~200nMの範囲の高い親和性を示した。シス立体異性体とトランス立体異性体の2:1混合物の中にある2つの成分15/16のうち(IC50=184nM)、トランス異性体は混合物よりも強力なことが見出された(ISP358-2, IC50=24nM)。六員環の中に不飽和(18, IC50=49nM)を導入しても、ISP358-2と比較して結合親和性は大きく減らなかった。しかしながら、環外アリルアルコールに存在するもののようにコンホメーション制約によって親和性が低下した(24, IC50=676nM)。第3のヒドロキシル基が存在すると結合親和性は大きく低下した(12, IC50=2,700nM)。最後に、フェノールOHと脂肪族アルコール基との間の距離を変えると、もっと大きな範囲の結合親和性が得られた(2, IC50=7250nM、25, IC50=11nM)。さらに、ERβ選択性を結合親和性および転写活性化の効力の点で生物学的に関連する系において評価するために、IC50値<200nMの類似体を細胞転写活性化アッセイにおいて試験した。トランス立体異性体ISP358-2、8、18、および25はTR-FRETアッセイにおいて同様のERβアゴニスト効能(EC50約30~75nM)を示したが、ISP358-2は、このもっと生物学的に関連する細胞機能アッセイにおいて最も強力かつ選択的であるとして優れている。興味深いことに、ヒドロキシエチル類似体は細胞機能アッセイにおいて強力ではなかった(25, EC50=75nM対11nM)。
【0141】
このアッセイにおいて観察された効能の違いは、このアッセイが測定するものがどういったものかに起因するかもしれない。図2のTR-FRETアッセイは、蛍光プローブを競合的に置換するリガンドに対する結合親和性を反映する、リガンド結合ドメイン(LBD)からの蛍光標識エストラジオールリガンドの置換しか測定しない。対照的に、細胞アッセイはもっと複雑であり、転写活性化につながる一連の分子事象全体を測定する。この一連の事象は、初期のホルモン結合によって誘発される一連のコンホメーション変化(例えば、リガンド結合ドメインのヘリックス-12の回転)を伴う36。アゴニスト結合によって誘導されるエストロゲン受容体のタンパク質コンホメーション変化によってコアクチベータータンパク質が動員され、タンパク質二量体化も誘発され、最終的にはDNA結合と転写活性化が起こる。脂肪族ヒドロキシル基とERβのHis475残基との間のさらなる相互作用が、近くのヘリックス-12が関与するコンホメーション変化において役割を果たす。このコンホメーション変化は細胞機能アッセイでのIC50値に反映されるが(図5)、TR-FRET結合アッセイでは反映されないだろう(図2)。
【0142】
試験した化合物は全て、有意なERβアンタゴニスト活性もERαアンタゴニスト活性も示さず(EC50>10,000nM)、従って、アゴニスト活性対アンタゴニスト活性としての選択性も示さなかった(表1および図5c,d)。ERβアゴニストのうちISP358-2は最も選択性が高く、細胞機能アッセイにおいてERβに対するアゴニスト選択性はERαの約750倍であった。しかし、TR-FRET結合アッセイでは中程度の選択性しかなかった(図2b)。
【0143】
アッセイ間の違いはアイソフォーム選択性の機構を示唆する
上述したように、ISP358-2を対象にした細胞アッセイから、ISP358-2のERβアゴニスト活性の選択性はERαアゴニスト活性の約750倍であることが分かる(図5a,b)。これに対して、TR-FRET結合アッセイはERβについては中程度の12倍の選択性を示す(図2b)。これは、TR-FRET結合アッセイが(単離されたLBDに対する)結合親和性をただ単に測定するのに対して、細胞アッセイが、(コアクチベーターの動員、二量体化、DNA結合をもたらし、次いで、転写を活性化させる)ヘリックス-12の回転を含むERβの生産的コンホメーション変化を引き起こす、アゴニストと完全長天然ERβとの結合によって誘導される転写を測定することが理由かもしれない。アッセイ間の違いが、これらの下流活性化事象によるものだという仮説を試験するために、他の2種類のアッセイを行った。第1のアッセイでは、異なる細胞アッセイにおいて、この場合では、非天然キメラ受容体(GLA4 DBDと融合したER LBD)を用いて転写活性化を測定した。このアッセイでは(図3b)、ERβに対して中程度の2.6倍の選択性があった。第2のアッセイでは、アゴニスト結合がコアクチベーターペプチドとER LBDとの結合を動員する能力を測定した(図4a)。このアッセイでは、ERβに対して15倍の選択性が観察された(図4c)。従って、ISP358-2のERβ対ERα選択性は、アッセイが、ホルモン誘導性コンホメーション変化の結果としてERβ結合ポケットに結合した後に起こる天然下流活性化事象をどれくらい良く組み込んでいるかに基づいて大きく変化する。従って、ISP358-2によって示された大きなERβ対ERα選択性は、単に、(図2bにおいてTR-FRETアッセイで測定されるような)ERβ受容体の結合親和性の関数ではなく、むしろ、転写の下流活性化をもたらす生産的コンホメーション変化を誘導する能力の関数だと思われる(図5a)。
【0144】
ISP358-2の効能および選択性が生産的コンホメーション変化を動かす能力と関連するという上記の仮説と一致して、ドッキング研究から、ISP358-2は、ERα結合部位のコンホメーションとは大きく異なるコンホメーションのERβ活性部位にドッキングすることが分かる。エストロゲンC環が通常配置されている場所で重要な違いが生じ(図7cおよびデータは示さない)、それによって、コアクチベーター結合を可能にするヘリックス-12コンホメーション変化を動かすのに重要なことが知られている領域におけるHis524および/またはGly472(バックボーンカルボニル)残基と相互作用する脂肪族ヒドロキシル基の位置決めが影響を受ける(図7cおよびデータは示さない)。ERβ疎水性相互作用は、「C環」領域にあるシクロヘキシル環と、それに取り付けられているヒドロキシメチルメチル基を制約するAla302、Leu298、Leu476、およびIle373と共に、Phe356とISP358-2フェノール環との間のπ-πスタッキングを含む(図1d)。ERβ活性部位における、これらのユニークな疎水性相互作用は、ERαポケットと比べてERβポケットでは、フェノール環に対してISP358-2のC(シクロヘキサン)環を90°回転させるものである可能性があり(図7cおよびデータは示さない)、このようなやり方で、隣接するコアクチベーターポケットに影響を及ぼす可能性がある。この17β-エストラジオール結合ポケット領域はコアクチベーター結合ポケットの接近しやすさと、その構造に影響を及ぼすことが知られており、そのため、ISP358-2について観察されたアゴニスト活性の大きな違いの理由になる可能性がある。この問題に取り組むために、将来の構造特徴付け研究が計画されている。
【0145】
ドラッガビリティおよび予備安全性毒性
ISP358-2はERに結合し、転写を活性化するが、他の7種類の核ホルモン受容体との有意なオフターゲット活性を示さない(図3a)。ISP358-2はまた心臓カリウムイオンチャンネルhERGに対して有意な活性も示さず(図11b)、主要な薬物代謝チトクロムP450酵素、CYP2D6、CYP3A4、CYP2C9、およびCYP1A2の有意な阻害も示さなかった(図6)。ISP358-2はまたかなりの溶解度もあり、比濁分析アッセイでは凝集を示さなかった(図11a)。
【0146】
ISP358-2が乳癌細胞増殖を刺激する可能性を評価するために、MCF-7ヒト乳癌細胞を用いたMTTアッセイを行った(図15)。未処理対照と比較して、ERβアゴニストISP358-2またはDPNのどんな濃度でも処理後にMCF-7細胞増殖の有意な変化は観察されなかった(図15b,c)。しかしながら、未処理対照と比較して、1μM、0.1μM、または0.01μM E2で処理したMCF-7細胞の増殖は有意に増加した(n=3;それぞれ、p<0.02、0.05、0.00)(図15a)。さらに、細胞増殖は、0.01μM E2で処理した正の対照MCF-7細胞と比較して有意に少なかった(n=3;両化合物ともp≦0.04)。
【0147】
ISP358-2処置による潜在的な末梢病理を評価するために、処置動物の組織スライスの組織学的分析を行った(図13)。全体的に見て、処置による組織変化は人の注意をひかなかった。軽度の広範な虚血性変化が全動物の肝臓において認められた。この知見に、特定のパターンまたは意義を割り当てることは難しい。これらの変化は死後期間中の低灌流と、その後の軽度虚血性変化を表してる可能性が高い。ある動物は肝臓において、組織化されたリンパ過形成を示した。どの動物も、心臓または腎臓において有意な病理学的変化を示さなかった。
【0148】
インビボ効力
インビボ行動アッセイは物体配置または物体認識(図8a)を測定し、3種類全ての投与経路:背側海馬へのマイクロインフュージョン、腹腔内注射、または強制経口投与について効力を示した(図8)。従って、ISP358-2は、卵巣切除した雌マウスにおいて物体認識と空間記憶固定を向上することができる。100pgおよび1ngのISP358-2を海馬内注入すると、物体認識タスクおよび物体配置タスクにおいて記憶固定がERβアゴニストDPNと同じくらい効果的に向上した(図8b,c)。全身投与実験では、腹腔内送達された時に0.5mg/kg ISP358-2が両タスクにおいて固定を最も効果的に向上させたのに対して(図8d,e)、強制経口投与では5mg/kg ISP358-2が最も効果的であった(図8f,g)。これらのデータは、卵巣切除したラットおよびマウスでの物体認識、物体配置、および放射状迷路を含むタスクにおいてERβアゴニストDPNまたはWAY200070の海馬内投与または全身投与が海馬依存性記憶を向上させることを示した以前の知見と一致する3,34,39-42。従って、ISP358-2は、化学構造が異なる他のERβアゴニストの記憶向上効果を模倣し、AD、うつ病、および統合失調症を含む、女性においてリスクが高い非常に多くの精神神経学的状態において記憶機能障害を低減するのに潜在的に使用できるかもしれない43。さらに、女性は男性よりも不安障害のリスクが高く43、DPNは、オープンフィールドおよび高架式十字迷路タスクにおいて試験した、げっ歯類の中で不安関連行動を減らす44,45。従って、ISP358-2は、記憶固定を容易にするだけでなく、不安を減らす可能性を有する。ISP358-2の有益な効果が男性、高齢の対象、ADおよび他の障害のげっ歯類モデル、ならびに他の形の記憶に一般化される程度を含む、見込みがあるが非常に多くの課題がこれから将来の研究で対処されなければならない。
【0149】
最後に、ISP358-2は、生物学的に関連する細胞アッセイにおいてERαよりもERβに対して著しく選択的なことが観察されたが、インビボでERβに対して、この同じ選択性を有するかどうかは分かっていない。しかしながら、本発明者らの予備研究から、効果がERβアゴニスト活性に関連することと一致して、行動結果と脳のERβレベルとの間には相関関係があることが分かっている(図12)。将来の研究は、アイソフォーム選択性、シグナル伝達カスケードに対する作用、および脳の神経形態変化、ならびに薬物動態および薬物動力学の研究を含む、インビボでのISP358-2の薬理学的機構を確かめることに向けられるだろう。
【0150】
結論
本研究の結果から、本発明者らのリード化合物であるISP358-2はERβに対して選択的であり、末梢毒性の明らかな徴候を示さないことが証明される。重要なことに、ISP358-2はまた、AD、うつ病、および統合失調症を含む非常に多くの障害に関与する脳領域である海馬に依存する複数のタイプの記憶も向上させる43,46。ISP358-2は、ERαよりもERβに対して高い選択性をもつ点で、そして、A-Cエストロゲンとして天然17β-エストラジオール分子(図1d)によく似ている点で以前に報告されたERβアゴニストと異なる。本発明者らの研究から、3種類の投与経路:直接的背側海馬注入、腹腔内注射、および強制経口投与を介して行われた行動アッセイにおいて生物学的効力も証明された。直接的背側海馬注入、腹腔内注射、および強制経口投与のうちの最後の2つは有効な用量の脳浸透度を例示している(図8)。全体的に見て、これらの知見から、新規のERβアゴニストであるISP358-2は、閉経などの低エストロゲン条件下で発生する記憶機能障害を特徴とする様々な障害において記憶を向上させるための有望な薬物候補になり得ることが示唆される。
【0151】
実験セクション
化合物合成
化学物質は全てSigma-Aldrich、Matrix ScientificまたはAlfa Aesarから購入し、受け入れたままの状態で使用した。水分または空気に弱い試薬との反応は不活性窒素雰囲気下で、無水溶媒が入っている、オーブン乾燥させたガラス製品の中で行った。反応後に、前もってコーティングしたシリカプレート(60Å, F254, EMD Chemicals Inc)上でTLCを行い、UVランプ(UVGL-25,254/365nm)によって視覚化した。フラッシュカラムクロマトグラフィーをフラッシュシリカゲル(32~63μ)を用いて行った。NMRスペクトルをVarian UnityInova 400 MHz機器で記録した。CDCl3、d6-アセトン、およびCD3ODはCambridge Isotope Laboratoriesから購入した。1H NMRスペクトルを、残留しているCHCl3についてはδ=7.26ppmに較正し、d5-アセトンについてはδ=2.05ppmに較正し、残留しているd3-CD3ODについてはδ=3.30ppmに較正した。13C NMRスペクトルを、CDCl3についてはδ=77.23ppm、d6-アセトンについてはδ=29.92ppm、CD3ODについてはδ=49.00ppmの中央ピークから較正した。全化合物の純度は>95%であり、クロマトグラフィーおよびNMRによって求めた。
【0152】
トランス-4-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)フェノール(2)
室温で無水メタノール(15mL)に溶解した1(0.200g, 5.30mmol)の溶液に固体NaBH4(0.400g,10.6mmol)を添加した。混合物を3時間攪拌し、次いで、酢酸エチルで数回抽出した。組み合わせた抽出物を濃縮して、無色の固体として2(0.181g, 90%)を得た。mp196~208℃.
【0153】
4-(4-ヒドロキシ-4-メチルシクロヘキシル)フェノール(3)
-78℃、N2下で、乾燥エーテル(20mL)に溶解した1(0.100g, 0.526mmol)の溶液に、メチルリチウム-臭化リチウム複合体の溶液(エーテルに溶解して1.5M、0.78mL、1.2mmol)をゆっくりと添加した。混合物を-78℃で30分間攪拌し、室温まで温め、さらに1時間攪拌した。混合物を冷却して0℃にし、水でクエンチした。混合物をエーテルで数回抽出し、組み合わせた抽出物を乾燥させ(Na2SO4)、濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2, ヘキサン-酢酸エチル=4:1)によって精製して、無色の固体として3(0.040g, 37%)を得た。mp126~131℃;
【0154】
4-(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサノンオキシム(4)
エタノール(10mL)に溶解した1(0.050g,0.26mmol)の溶液にAmberlyst(0.060g)および塩酸ヒドロキシルアミン(0.039g,0.560mmol)を添加した。混合物を室温で2時間攪拌し、次いで、濾過した。濾液を濃縮し、酢酸エチルで数回抽出した。組み合わせた有機抽出物を水で洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、濃縮して、無色の固体として4(0.037g, 70%)を得た。mp171~174℃;
【0155】
4-(4-t-ブチルジメチルシリルオキシフェニル)シクロヘキサン-1-オン(5)
0℃、N2下で、無水CH2Cl2(30mL)に溶解した1(0.500g, 2.62mmol)の溶液にイミダゾール(0.357g, 5.24mmol)を添加した。30分間後、塩化t-ブチルジメチルシリル(0.594g, 3.94mmol)を添加し、混合物を段々と室温まで一晩温めた。結果として生じた混合物をブライン(25mL)で希釈し、CH2Cl2で数回抽出した。組み合わせた有機抽出物を乾燥させ(Na2SO4)、濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2, ヘキサン-酢酸エチル=9:1)によって精製して、5(0.664, 83%)を無色の固体として得た。mp39~42℃。
【0156】
t-ブチルジメチル(4-(4-メチレンシクロヘキシル)フェノキシ)シラン(6)
-10℃、N2下で、乾燥THF(20mL)に溶解したメチルトリフェニルホスホニウムブロミド(0.836g, 2.34mmol)の溶液に、n-ブチルリチウム溶液(ヘキサンに溶解して1.6M, 1.50mL, 2.4mmol)をゆっくりと添加した。30分後、乾燥THF(8mL)に溶解した5(0.502g, 1.17mmol)の溶液を滴下した。反応混合物をゆっくりと温めて室温にし、一晩攪拌した。この時間の後に、混合物を水(20mL)で希釈し、酢酸エチルで数回抽出し、組み合わせた抽出物を乾燥させ(Na2SO4)、濃縮した。カラムクロマトグラフィー(SiO2, ヘキサン-酢酸エチル=9:1)による粗残渣の精製によって6(1.678g, 84%)を無色の油として得た。
【0157】
4-(4-ヒドロキシフェニル)メチレンシクロヘキサン(7)
無水THF(20mL)に溶解した6(0.739g、0.244mmol)の溶液にTBAF溶液(THFに溶解して1M, 9.8mL, 9.8mmol)を添加した。混合物を還流して5時間加熱した。冷却後、溶液を酢酸エチルと水の間で分配し、水層を酢酸エチルで数回抽出した。組み合わせた有機層をブラインで洗浄し、乾燥させ(Na2SO4)、濃縮した。カラムクロマトグラフィー(SiO2, ヘキサン-酢酸エチル=4:1)による残渣の精製によって7(0.379g, 83%)を無色の固体として得た。mp82~84℃;
【0158】
4-(4-メチルシクロヘキシル)フェノール(8)
メタノール(10mL)に溶解した7(0.150g, 0.797mmol)の溶液に10%Pd/C(85mg, 10mol%)を添加した。H2で満たしたバルーンの下で混合物を室温で12時間攪拌した。反応混合物を一枚のセライトで濾過し、乾燥させ(Na2SO4)、濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2, ヘキサン-酢酸エチル=4:1)によって精製して、8(0.121g、80%)を無色の固体として得た。これは1H NMR分光法によってシス立体異性体とトランス立体異性体の混合物だと確かめられた。mp93~99℃;
【0159】
2-ヒドロキシ-5-(4-メチレンシクロヘキシル)ベンズアルデヒド(9)
乾燥CH3CN(20mL)に溶解した7(0.100g, 0.531mmol)の溶液に、MgCl2(0.076g, 0.797)、トリエチルアミン(0.28mL, 2.0mmol)、その後にパラホルムアルデヒド(0.108g, 3.59mmol)を連続して添加した。混合物を還流して6時間加熱した。混合物を冷却して室温にし、10%HCl(10mL)でクエンチし、酢酸エチルで数回抽出した。組み合わせた抽出物をブラインで洗浄し、乾燥させ(Na2SO4)、濃縮した。カラムクロマトグラフィー(SiO2, ヘキサン-ジエチルエーテル=4:1)による残渣の精製によって9(0.046g、40%)を無色の油として得た。
【0160】
2-ヒドロキシ-5-(4-メチレンシクロヘキシル)ベンズアルデヒドオキシム(10)
純エタノール(10mL)に溶解した9(0.050g, 0.232mmol)の溶液に重炭酸ナトリウム(0.024g, 0.278mmol)および塩酸ヒドロキシルアミン(0.025g, 0.348mmol)を添加した。反応物を80℃で5時間加熱し、混合物を酢酸エチルで数回抽出した。組み合わせた有機抽出物を乾燥させ(MgSO4)、濃縮した。カラムクロマトグラフィー(SiO2, ヘキサン-酢酸エチル=13:7)による残渣の精製によって10(0.037g, 69%)を無色の固体として得た。mp120~125℃;
【0161】
4-(4-((t-ブチルジメチルシリル)オキシ)フェニル)-1-(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン-1-オール(11)
アセトン(6mL)および蒸留水(0.3mL)に溶解した6(0.280g, 0.926mmol)およびN-メチルモルホリン-N-オキシド(0.13mL, 1.3mmol)の溶液に、tert-ブタノール(2.5%, 90μL)に溶解したOsO4の溶液を添加した。混合物を一晩攪拌し、反応物をクエンチするためにNaHSO3飽和水溶液(10mL)を添加した。混合物をエーテルで希釈し、水で数回洗浄した。有機層を乾燥させ(MgSO4)、濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2, ヘキサン-酢酸エチル=1:4)によって精製して、11(0.267g, 86%)を無色の固体として得た。mp80~86℃;
【0162】
4-(4-ヒドロキシ-4-(ヒドロキシメチル)シクロヘキシル)フェノール(12)
無水THF(10mL)に溶解した11(0.230g、0.683mmol)の溶液に、TBAF溶液(THFに溶解して1M, 2.8mL, 2.8mmol)を添加した。混合物を還流して6時間加熱し、冷却して室温にした。溶液を酢酸エチルと水の間で分配した。組み合わせた有機層をブラインで洗浄し、乾燥させ(Na2SO4)、濃縮した。カラムクロマトグラフィー(SiO2, 酢酸エチル-メタノール=9:1)による残渣の精製によって12(0.118g, 78%)を無色の固体として得た。mp182~188℃;
【0163】
4-(4-t-ブチルジメチルシリルオキシフェニル)シクロヘキシル)メタノール(13/14)
0℃、N2下で、THF(24mL)に溶解した6(0.821g, 2.71mmol)の溶液にボラン-THF複合体溶液(THFに溶解して1M, 5.4mL, 5.4mmol)を添加した。反応混合物をゆっくりと温めて室温にし、20時間攪拌した。次いで、混合物を冷却して0℃にした後に、エタノール(50mL)、過酸化水素溶液(水に溶解して30%, 4.0mL)、および1N NaOH溶液(20mL)を連続して添加した。混合物を室温まで温め、90分間攪拌した。反応混合物を重炭酸ナトリウム飽和溶液(10mL)でクエンチし、水(20mL)で希釈し、酢酸エチルで数回抽出した。組み合わせた有機抽出物をブラインで洗浄し、乾燥させ(Na2SO4)、濃縮した。カラムクロマトグラフィー(SiO2, ヘキサン-酢酸エチル=7:3)による残渣の精製によって無色の油(0.572g, 66%)を得た。これは、δ3.69および3.50ppmにあるCH2OH基のシグナルの1H NMR積分によって、シス-13およびトランス-14の2:1混合物だと確かめられた。
BH3-THFの代わりに9-BBNを用いて、シス-13:トランス-14の2:3混合物を得た(74%)。
【0164】
4-(4-(ヒドロキシメチル)シクロヘキシル)フェノール(15/16)
乾燥THF(10mL)に溶解した13/14(0.594g, 1.85mmol, 2:1混合物c:t)の溶液にTBAF溶液(THFに溶解して1M, 7.5mL, 7.5mmol)を添加した。反応混合物を還流して70℃で一晩加熱し、冷却して室温にした。溶液を酢酸エチルと水の間で分配した。有機層をブラインで洗浄し、乾燥させ(Na2SO4)、濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2, ヘキサン-酢酸エチル=3:2)によって精製して無色の固体(0.280g, 73%)を得た。これは、δ3.60および3.39ppmにあるCH2OH基のシグナルの1H NMR積分によってシス-13およびトランス-14立体異性体の2:1混合物だと確かめられた。mp118~122℃。
【0165】
1-(4-ヒドロキシフェニル)-2-オキサビシクロ[2.2.2]オクタン(17)およびトランス-(ヒドロキシメチル)シクロヘキシル)フェノール(16)
-10℃で、無水CH2Cl2(20mL)に溶解した15/16(0.080g, 0.388mmol, シス-15:トランス-16の2:3混合物)の溶液に、CH2Cl2(4mL)に溶解した2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノン(0.044g, 0.194mmol)の懸濁液を30分間にわたってゆっくりと添加した。緑色の溶液を0℃で2時間攪拌し、段々と温めて室温にし、さらに3時間攪拌した。0℃で重炭酸ナトリウム飽和溶液をゆっくりと添加することによって混合物をクエンチした。10分後に層を分離し、水層をCH2Cl2で数回抽出した。組み合わせた有機抽出物をブラインで洗浄し、乾燥させ(Na2SO4)、濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2, ヘキサン-酢酸エチル=3:2)によって精製して、17(0.029g, 37%)の後に16(0.038g, 47%)を両方とも無色の固体として得た。16の純度を1H NMRによって確かめた(図16)。
【0166】
4'-(ヒドロキシメチル)-2',3',4',5'-テトラヒドロ-[1,1'-ビフェニル]-4-オール(±)-19
乾燥CH3CN(25mL)に溶解した17(0.103g, 0.504mmol)の溶液にMgCl2 (0.072g,0.756mmol)を添加し、その後にトリエチルアミン(0.26mL, 1.89mmol)を添加した。混合物を還流して8時間加熱し、次いで、冷却し、10%HCl(15mL)でクエンチした。混合物を酢酸エチルで数回抽出し、組み合わせた抽出物をブラインで洗浄し、乾燥させ(Na2SO4)、濃縮した。カラムクロマトグラフィー(SiO2, ヘキサン-酢酸エチル=13:7)による残渣の精製によって19(0.080g, 78%)を無色の固体として得た。mp177~184℃;
【0167】
4-(4-((t-ブチルジフェニルシリル)オキシ)フェニル)シクロヘキサン-1-オン(21)
0℃で、乾燥CH2Cl2(30mL)に溶解した1(0.815g,4.28mmol)の溶液にイミダゾール(0.583g, 8.57mmol)を添加した後に、CH2Cl2(9mL)に溶解した塩化t-ブチルジフェニルシリルの溶液(1.60mL, 5.57mmol)を滴下した。反応混合物をゆっくりと温めて室温にし、12時間攪拌した。混合物を水で希釈し、CH2Cl2で数回抽出した。組み合わせた抽出物をブラインで洗浄し、乾燥させ(Na2SO4)、濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2, ヘキサン-酢酸エチル=4:1)によって精製して21(1.70g, 93%)を無色の固体として得た。mp83~84℃;
【0168】
酢酸メチル2-(4-(4-t-ブチルジフェニルシリルオキシフェニル)シクロヘキシリデン)(±)-22
0℃で、乾燥THF(5mL)に溶解したホスホノ酢酸トリメチル(0.160mL, 0.980mmol)の溶液にNaH(40mg,鉱油に溶解して55%, 0.980mmol)を添加した。45分間攪拌した後に、乾燥THF(5mL)に溶解した21(0.350g, 0.816mmol)の溶液を添加し、混合物を室温まで温め、8時間攪拌した。混合物を水で希釈し、エーテルで数回抽出した。組み合わせた抽出物を乾燥させ(MgSO4)、濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2, ヘキサン-酢酸エチル=9:1)によって精製して22(0.376g, 95%)を無色のゴムとして得た。
【0169】
4-[(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキシリデン]酢酸エチルエステル(±)-23
乾燥THF(1mL)に溶解した22(60mg,0.12mmol)の攪拌溶液に、フッ化テトラブチルアンモニウム溶液(0.247mL。THFに溶解して1.0M。0.247mmol)を添加した。1時間後に溶液を室温で攪拌し、次いで、混合物を水で希釈し、酢酸エチルで抽出した。組み合わせた抽出物をブラインで洗浄し、乾燥させ、濃縮した。残渣を調製用TLC(SiO2, ヘキサン-酢酸エチル=9:1)によって精製して23(20mg,64%)を無色の固体として得た。mp92~94℃;
【0170】
4-(4'-ヒドロキシフェニル)(2-ヒドロキシエチリデン)シクロヘキサン(±)-25
-40℃、N2下で、乾燥CH2Cl2(2mL)に溶解した22(275mg,0.551mmol)の溶液に水素化ジイソブチルアルミニウム溶液(CH2Cl2に溶解して1.0M, 1.41mL, 1.41mmol)を添加した。90分後に酒石酸カリウムナトリウム飽和水溶液を添加し、反応混合物を室温まで温めた。2時間後に層を分離し、水層をCH2Cl2で数回抽出した。組み合わせた有機層を乾燥させ、一枚のセライトで濾過し、濃縮して、4-(4'-t-ブチルジフェニルシリルオキシフェニル)(2-ヒドロキシエチリデン)シクロヘキサン(254mg、定量)を無色のゴムとして得た。この化合物をこれ以上精製することなく使用した。窒素下で乾燥THF(1mL)に溶解した粗アリルアルコール(235mg,0.514mmol)の溶液に、フッ化テトラブチルアンモニウム溶液(THFに溶解して1.0M, 1.03mL, 1.03mmol)を添加した。溶液を3時間攪拌し、次いで、水で希釈し、結果として得られた混合物を酢酸エチルで数回抽出した。組み合わせた抽出物をブラインで洗浄し、乾燥させ、濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2, ヘキサン-酢酸エチル=4:1)によって精製して25(90mg,80%)を無色の固体として得た。mp165~166℃;
【0171】
4-[4-(2-ヒドロキシエチル)シクロヘキシル]フェノール(26)および4-(4-エチルシクロヘキシル)フェノール(27)
少量20%Pd/Cを含むメタノール(15mL)に溶解した25(50mg,0.23mmol)の溶液をH2(30psi)下で12時間攪拌した。反応混合物を一枚のセライトで濾過し、濃縮し、残渣を調製用TLC(SiO2, ヘキサン-酢酸エチル=13:7)によって精製して、27(28mg,60%)、その後に26(7mg,14%)を両方とも無色の固体として得た。
【0172】
TR-FRETアッセイ
Thermo Fisher ScientificのLanthaScreen(登録商標)TR-FRET ER Alpha and Beta Competitive Binding Assayキットを用いてTR-FRETアッセイを行った。これらは、均一なミックスアンドリード(mix-and-read)アッセイ形式で、テルビウム標識抗GST抗体、「トレーサー」である蛍光低分子ERαリガンドまたはERβリガンド、およびグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)でタグ化されたヒトERαまたはERβリガンド結合ドメイン(LBD)を備えた。
【0173】
TR-FRETアッセイでは、GSTタグに結合するTb-抗GST抗体を使用する。蛍光標識エストロゲン(トレーサー)は活性部位ポケットの中で結合する。得られたTR-FRETシグナルは、競合化合物が蛍光標識トレーサーを置換した時に減少する。アッセイをキットの説明書に従って行った。簡単に述べると、化合物の1:5希釈シリーズをDMSOを用いて作製し、次いで、アッセイにおいて試験される最高濃度がERβについては50μM、ERαについては50μMになり、DMSOが1%になるようにアッセイ緩衝液で希釈した。アッセイを384ウェル白色少量プレート(384-well white, small volume plate)(Corning(登録商標)4512)において組み立てた。アッセイを室温で1時間、暗所でインキュベートし、この後にプレートを、スィングアウトローター(swing-out rotor)(Eppendorf 5810,ローターA-4-64)を備える卓上遠心機に入れて1000rpmで回転させた。TR-FRETシグナルを、Thermo Fisher Scientific機械設定(励起332nm、発光518nmおよび488nmと420nmカットオフ、50μsインテグレーションディレイ(integration delay)、400μsインテグレーションタイム(integration time)、ならびに100フラッシュ/読み取り)に従って設定したSpectraMax M5(Molecular Devices)で読み取った。TR-FRET比を、SoftmaxProソフトウェアを用いて、518nm(フルオレセイン)での発光を488nm(テルビウム)での発光で割ることによって計算した。データをE2に対して正規化した。IC50は、このアッセイでは0.25±0.06nMであった。データ分析を、Prism(GraphPad Software, Inc., La Jolla, CA)と、典型的に、高濃度の競合リガンドでは0になるように制約されているフィット(fit)を用いて行った。標準偏差は、データの非線形最小二乗フィットの標準偏差である。反復アッセイおよびフィットを行った時の曲線を示した(図2および図9)。IC50値の中央値が得られた曲線について、フィットされたIC50を表1)にまとめた。
【0174】
核ホルモン受容体特異性アッセイ
選択性を、ThermoFisherのSelectScreen(商標)細胞に基づく核受容体プロファイリングサービス(cell-based nuclear receptor profiling service)を用いて測定した(図3)。これは、GeneBLAzer(商標)技術を用いる、FRETに基づくアッセイである。これは、リガンドと、活性化されるとβラクタマーゼ発現を誘導するGAL4 DNA結合ドメイン(DBD)と融合した関心対象の核ホルモン受容体(リガンド結合ドメイン;LBD)との結合と、その活性化を検出する。このアッセイはアゴニストモードではZ'≧0.5を有する。化合物ストックはDMSOに溶解したものであり、0.25μM、2.5μM、および25μMのアッセイ濃度を得るために希釈した。エストロゲン受容体のデータをE2に対して正規化した。IC50はERαについては0.107nM、ERβについては0.579nMであった。他の受容体のデータを適切な対照に対して正規化し、表2にIC50値と共に列挙した。
【0175】
(表2)核ホルモン特異性アッセイの対照化合物およびIC50
【0176】
10ポイント曲線におけるERαアゴニストアッセイおよびERβアゴニストアッセイの反復アッセイも完了した(図3b)。再度、データをE2に対して正規化した。IC50は、ERαについては0.151nM、ERβについては0.568nMであった。
【0177】
コアクチベーターアッセイ
ThermoFisherのLanthaScreen(登録商標)TR-FRETアッセイを使用した(図4a)。このアッセイは、LanthaScreen(登録商標)アッセイに蛍光標識コアクチベーターペプチドがあることを除けば前記のアッセイ(図3)と似ている。このアッセイでは、アッセイされているERアゴニストの結合によって誘導される、ERα LBDまたはERβ LBDへの標識コアクチベーターペプチドの動員を測定する。コアクチベーターペプチドは、PPARγコアクチベータータンパク質1aに由来し、LXXLLモチーフ(配列:
)を含有するPGC1aである。データをE2に対して正規化した。ERαおよびERβに対するIC50は、それぞれ、2.58nMおよび2.79nMであった。
【0178】
細胞アッセイ
アゴニスト活性およびアンタゴニスト活性を測定するためのERα細胞アッセイおよびERβ細胞アッセイを、Indigo Biosciencesが提供するキットを用いて行った(図5)。アッセイは、ERα応答プロモーターもしくはERβ応答プロモーターの下流にあり、添加されたアゴニストによって活性化されるルシフェラーゼレポーター遺伝子に頼ったか、またはアゴニスト活性が、添加されたアンタゴニストによってブロックされた。ER誘導性ルシフェラーゼ発現を、SpectraMax M5プレートリーダーを用いて測定される化学ルミネセンスを用いて定量した。リガンドの原液をDMSOに溶解して調製し、アッセイのDMSO濃度が0.4%のアッセイ限界より低く保たれるように、キットの中に入れて提供されたCompound Screening Mediumを用いて最終濃度(典型的に低nM~μM)まで希釈した。アゴニストアッセイおよびアンタゴニストアッセイの両方にビヒクル対照を含めた。アッセイをキット説明書に従って行った。簡単に述べると、冷凍庫から直接出した細胞をCell Recovery Media(提供された)で希釈し、37℃で5分間温めた。細胞懸濁液を半分に分けた。エストラジオール、E2をアンタゴニストアッセイ用の細胞の半分に添加したのに対して、アゴニストアッセイにはE2を含まない残りの細胞を使用した。細胞をプレートし、スクリーニングしようとする化合物を添加した。プレートをインキュベーターに入れて37℃、5%CO2で22時間インキュベートした。アッセイは典型的には二回繰り返して行った。培地を除去し、検出基質を添加した後に、ルミネセンスをSpectraMax M5プレートリーダーを用いて測定した。データをE2に対して正規化した。アゴニスト活性IC50は、ERαについては0.31±0.03nM、ERβについては0.022±0.005nMであった。データを、GraphPad Prismを用いて、下記の式にフィットさせた。
【0179】
TR-FRETアッセイフィッティングについて説明したように、IC50値および標準偏差はデータの非線形最小二乗フィットからのものである。反復アッセイおよびフィットを行った時には、中央値を表1に報告した。
【0180】
インビトロドラッガビリティアッセイ-CYP450結合、hERG、および比濁分析
Promega Corporation (Madison, WI)のP450-Glo(商標)Screening Systemを用いて、キット説明書に記載のようにCYP450(チトクロムP450)阻害を測定した。アッセイを96ウェル白色プレート(Corning(登録商標)3912)の中で測定し、ルミネセンスをSpectraMax M5機器で測定した(図6)。ルミネセンスシグナルは、CYP反応によって形成されたルシフェリン産物の量に比例する。化合物をDMSOに溶解して調製し、次いで、8段階1:2希釈シリーズをDMSOに溶解して作製した。アッセイのDMSOが0.25%を超えず、化合物の最も高い最終濃度が62.6μMになるように、これを水で希釈した。該当するチトクロムP450酵素を添加した後に、プレートを37℃で10分間インキュベートして成分を温度と同じにした。次に、ルミノゲニック(luminogenic)P450-Glo(商標)基質に対する反応を活性化するためにNADPH再生系を添加し、各CYP酵素についてキット説明書に従って37℃で、10~30分間インキュベートした。ルシフェリン検出試薬を添加することで酵素反応を止め、室温で20分間インキュベートした後にプレートのルミネセンスをSpectramax M5(Molecular Devices)で読み取った。データを正の対照(CYP1A2についてはα-ナフトフラボン、CYP2C9についてはスルファフェナゾール、CYP2D6についてはキニジン、CYP3A4についてはケトコナゾール)に対して正規化した。データ分析は、前記のようにPrismソフトウェアを用いた。
【0181】
化合物が溶液中で凝集する相対的傾向を確かめるために、分子凝集物の光散乱特性に基づいて比濁分析を行った(図11a)。凝集は一般的な人為活動の源であるので、溶液中での化合物凝集はスクリーニングキャンペーンでの測定にとって重要である。そして、凝集は化合物溶解度の尺度となる。化合物を、透明な96ウェルプレート(Greiner BioOne)の中で凝集するかどうか試験した。プロゲステロンを化合物凝集の正の対照として使用した。データを、635nmレーザーを備えるBMG NEPHELOStar Plusを用いて収集した。
【0182】
hERGアッセイを、ThermoFisherからのSelectScreenサービスを用いて行った(図11b)。このアッセイは、説明されたように47、蛍光タグ化Predictor(商標)の置換を測定する蛍光偏光アッセイである。
【0183】
MTTアッセイ
ヒト乳癌細胞(MCF-7)はManish Patankar博士(Department of Obstetrics and Gynecology, University of Wisconsin-Madison)により提供された。細胞を、10%胎仔ウシ血清および0.01mg/mLヒト組換えインシュリンを加えたイーグル最小必須培地(EMEM)中で5%CO2、37℃で、培養した。1ウェルにつき7,000個の細胞の播種密度を選択し、96ウェルプレートに適用した。24時間後に、0.1%ジメチルスルホキシド(DMSO)を含有する培地に溶解したISP358-2、DPN、またはエストラジオールの処理を様々な濃度(10μM、1μM、0.1μM、0.01μM、および0.001μM)で細胞に適用した。負の対照細胞、正の対照細胞、および未処理対照細胞には、それぞれ、100%DMSO、EMEMに溶解した0.01μMエストラジオール、または0.1%DMSO内容物のあるEMEMを与えた。処理された細胞を24時間インキュベートし、この後に、MTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)アッセイを、EMEM溶液に溶解した20%MTTを各ウェルに添加し、4時間インキュベートすることによって行った。ホルマザン結晶代謝産物を100%DMSOを用いて溶解し、吸光度を、Softmax Proバージョン6.1を実行するVMaxキネティックマイクロプレートリーダー(Molecular Devices, CA)を用いてOD570nmならびに参照650nmで読み取った。標準的な増殖曲線を用いて吸光度を細胞数に変換した。細胞増殖が未処理対照または0.1μM E2で処理した細胞と有意差があるかどうか確かめるために、Microsoft Excelを用いて二標本等分散t検定(two sample equal variance t-test)を行った。
【0184】
ドッキング
ドッキング前に、全てのリガンドについて三次元(3D)コンホメーションを用意した(図7)。AutoDock Tools(ADT)バージョン1.5.6を用いて、後のAutoDock計算のためのリガンドファイルを用意し、Gasteigerチャージ(charge)を割り当てた。ドッキング計算のために、アゴニスト(pdbコード1ere)48およびアンタゴニスト(pdbコード1err)49コンホメーションに対するERα受容体を用意した。ドッキング計算のために、アゴニスト(pdbコード2jj3)50およびアンタゴニスト(pdbコード1l2j)51コンホメーションに対するERβ受容体も用意した。ADTを用いて、タンパク質の各原子に水素原子および部分電荷を付加した。グリッドボックス(grid box)を共結晶化したリガンドの中央に置き、活性部位アミノ酸(ERαについてはArg394、Glu353、およびHis524、ERβについてはArg346、Glu305、およびHis475)を組み込むように引っ張ってボックスにし、エストラジオールリガンドを除去した52。ドッキング計算にはAutoDock Vina53を、エネルギー範囲4およびエキゾースティブネス(exhaustiveness)8を使用した以外はデフォルトのパラメータと共に使用した47, 54-57。対照実験として、17β-エストラジオールを除去した後のERα構造(pdbコード1ERE)に17β-エストラジオールをドッキングさせた。この17β-エストラジオールは、最初に結合していた17β-エストラジオールと同じ結合形式をとることが見出された(データは示さない)。
【0185】
記憶固定の評価
対象。C57BL/6雌マウス(8~10週齢)はTaconic Biosciencesから購入した。マウスを12時間明/暗周期の部屋の中で一匹ずつ収容し、飼料と水を自由に与えた。生きているマウスを用いた全手順を、9:00amから6:00pmの間に、ディマー(dimmer)の光強度を100ルクス超にして室内で行った。全手順が、University of Wisconsin-Milwaukee Institutional Animal Care and Use Committeeによる承認を受け、National Institutes of Health Guide for the Care and Use of Laboratory Animalsの方針に従った。
【0186】
大まかな実験設計
循環エストロゲンの主な供給源を除去するために両側の卵巣を切除したマウスにおいて一連の3つの実験を行った。各実験では、負の対照(ジメチルスルホキシド、DMSO)、正の対照(2,3-bis(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオニトリル、DPN)、および複数用量のISP358-2を3つの投与経路:直接両側背側海馬注入、腹腔内注射、または強制経口投与の1つを介して別々のマウス群に投与した。全薬物を、下記で説明するように海馬依存性物体認識を試験するように設計された物体認識タスクと、空間記憶固定を試験するように設計された物体場所タスクにおける訓練の直後、短時間で投与した(図8)。
【0187】
外科手術
研究所に到着して4日後に、以前に説明されたように34,58,59、マウスの両側の卵巣を切除した。ISP358-2の背側海馬注入を受ける予定になっているマウスにも、以前に説明されたように 30-32 、ガイドカニューレを背側海馬(DH)に移植した。マウスをイソフルランガス(100%酸素中に2%イソフルラン)で麻酔し、脳定位固定装置(stereotaxic apparatus)(Kopf Instruments)に置いた。卵巣切除の直後に、マウスの背側海馬に狙いを定めて(-1.7mm AP、±1.5mm ML、-2.3mm DV)、2つのガイドカニューレ(22ゲージ; C232G, Plastics One)を移植した。ガイドカニューレの開存性を保つためにダミーカニューレ(C232DC, Plastics One)をガイドカニューレの中に入れた。ガイドカニューレを頭蓋に固定するために歯科用セメント(Darby Dental)が適用され、これは創傷を閉じるのにも役立った。マウスを行動試験前に6日間回復させた。
【0188】
薬物および注入
背側海馬(DH)注入または腹腔内(IP)注射を、以前に説明されたように34,58,59、訓練の直後に行った。注入中にマウスを軽く拘束し、薬物を、注入用カニューレ(C3131, 28ゲージ, 1.5mmガイドを越えて0.8mm伸びる)を用いて送達した。注入用カニューレを、PE20ポリエチレンチューブを用いて10μlハミルトン(Hamilton)注射器に接続した。注入をマイクロインフュージョンポンプ(KDS Legato 180, KD Scientific)によって0.5μl/分の速度で制御した。各注入の後に、カニューレが通る跡を戻って拡散し、薬物が組織を通って拡散しないようにするために1分間待った。負の対照(「ビヒクル」)は、0.9%食塩水に溶かした1%DMSOであった。正の対照として、ERβアゴニストDPN(2,3-bis(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオニトリル, Tocris Bioscience)を、生理食塩水に溶かした1%DMSOに溶解し、10pg/半球の用量で注入した 30 。ERβに対するDPNの親和性はERαの70倍であり60、以前に、卵巣切除した若い成獣マウスにおける背側海馬への10pg/半球の両側注入が物体認識タスクおよび物体配置タスクにおける記憶固定を向上させた34。ISP358-2を1%DMSOに溶解して2ng/μlの濃度にし、次いで、1ng/半球、100pg/半球、および10pg/半球の用量を投与するために希釈した。
【0189】
腹腔内注射の場合、ISP358-2を、生理食塩水に溶かした10%DMSOに溶解し、10ml/kgの体積で0.5mg/kgまたは5mg/kgの用量で注射した。DPNを、食塩水に溶かした10%DMSOに溶解し、10ml/kgの体積で0.05mg/kgの用量で注射した。以前に、この用量は、卵巣切除した若い成獣マウスにおいて物体認識の記憶固定を向上させた31。ビヒクル対照には、食塩水に溶かした10ml/kgの10%DMSOを与えた。強制経口投与のために、全ての薬物を10ml/kgの体積で腹腔内注射と同じ用量;0.5mg/kgまたは5mg/kg ISP358-2および0.05mg/kg DPNで投与した。ビヒクル対照には、食塩水に溶かした10%DMSOを与えた。この手順では、球が先端に付いている(bulb tipped)胃管栄養(gastric gavage)針(24GA, 25mm)を用いて、薬物を胃に直接送達した。
【0190】
記憶試験
以前に説明されたように34,58,59、物体認識および物体配置を行った。物体認識および物体配置はそれぞれ物体認識記憶および空間記憶を評価し、完全な背側海馬機能を必要とする39,61-63。最初に、実験に慣れるようにマウスを3日間、世話した(30sec/d)。世話をして2日目に物体にマウスを慣らすために、小さなレゴをホームケージに入れた。このレゴを訓練直前にケージから取り出した。世話をして3日後にマウスを空の白色活動領域(幅60cm;長さ、60cm;高さ47cm)に、2日間にわたって毎日5分間自由に探索させることで慣らした。訓練日にマウスを活動領域で2分間慣らし、次いで、取り出してホームケージに入れた。次いで、2つの同一物体を活動領域の北西および北東の隅の近くに置いた。マウスを活動領域に戻し、物体の探索に合計30秒間を積み上げるまで(または合計20分間が経過するまで)探索させた。この訓練の直後にマウスを活動領域から取り出し、注入し、次いで、ホームケージに戻した。訓練して24時間後に訓練用物体の1つを箱の南東または南西の隅に移動させることによって物体配置記憶を試験した。マウスは先天的に新しいものが好きなので、訓練用物体の場所を覚えているマウスは、移動していない物体よりも、移動した物体に多くの時間を費やす。偶然に動作しているマウスは、それぞれの物体に同じ量の時間(15s)を費やし、記憶固定を示さない。従って、マウスが、移動した物体に偶然よりも有意に多くの時間を費やせば、訓練用物体の記憶の固定が証明される。物体配置の2週間後に物体認識訓練を行った。物体認識タスクは、物体配置と同じ装置および大まかな手順を使用したが、物体の場所を変える代わりに、試験中に、見慣れた物体を新しい物体と交換した。物体認識試験は訓練の48時間後に行った。物体配置と同様に、マウスは新規の物体と見慣れた物体の探索に30秒間を積み上げる。マウスは先天的に新しいものに引き寄せられるので、新規の物体の探索に費やす時間が偶然よりも多ければ、見慣れた訓練用物体の記憶があることが示された。新しいものを維持するために、物体配置タスクおよび物体認識タスクにおいて様々な物体を使用した。ビヒクルを注入した雌マウスは、訓練して24時間後に、訓練用物体の場所を覚えていないが34、物体配置における薬物の記憶向上効果を試験するために24時間の遅延を使用した。同様に、ビヒクルを注入した雌マウスは、訓練して48時間後に、見慣れた物体を覚えていないので34、物体認識における薬物の記憶向上効果を試験するために48時間の遅延を使用した。両タスクについて、それぞれの物体の探索に費やした時間と、探索に30sを積み上げるための経過時間を、ANYmazeトラッキングソフトウェア(Stoelting)を用いて記録した。
【0191】
行動データ分析
一標本t検定および一方向分散分析(ANOVA)を、GraphPad Prism 6(La Jolla, CA)を用いて行った。一標本t検定を用いて、マウスが新規の物体または移動した物体の調査に偶然(15s)よりも有意に多くの時間を費やしたかどうか確かめた。これにより、各マウス群が訓練用物体の識別情報(identity)および場所の記憶を首尾良く形成したことが分かる。DPN処置またはISP358-2処置がビヒクルと比べて記憶固定に影響を及ぼした程度を確かめるために、一方向ANOVAの後にフィッシャーLSD事後検定を用いて、それぞれの行動タスクについて群間比較を行った。有意性はp>0.05で確かめられた。
【0192】
潜在的な末梢病理の評価
末梢臓器に対するISP358-2処置の可能性のある毒性を評価するために、卵巣切除マウスにビヒクルまたはISP358-2を1回、腹腔内注射し、24時間後に肝臓、腎臓、および心臓組織を収集した。行動試験と同様にISP358-2を10ml/kgの体積で0.5mg/kgまたは5mg/kgの用量で注射し、DPNを10ml/kgの体積で0.05mg/kgの用量で注射した。ビヒクル対照には、食塩水に溶かした10ml/kgの10%DMSOを与えた(図13a)。組織を10%ホルマリン緩衝溶液中で24時間固定した。20個の標本を処理し、分析した。各標本は3つの組織断片を含んだ。各動物からの組織を、ラベルを貼ったカセットに移し、標準的な手順に従って自動組織処理装置で処理した。次いで、組織をパラフィンワックスに包埋した。組織の特定の方向付けは行わなかった。4ミクロン切片を各パラフィンブロックから切り出し、スライド上に置いた。次いで、スライドをヘマトキシリン・エオシン(H&E)を用いて自動染色機(stainer)によって染色した(図13b)。次いで、米国病理学委員会(American Board of Pathology)によって解剖病理学の委員会認定された病理学者(ACM)がスライドを調べた。全ての標本が、肝臓、腎臓、および心臓に対応する3つの組織試料を含んだ。場合によっては、隣接組織の一部も存在した。例えば、いくつかの標本には胆嚢があった。ある標本には脾臓の一部があった。各臓器を特定の病理学的変化について調べた。変化の3つの主なカテゴリーを調べた。(1)臓器の構造変化。肝臓については中心静脈、門脈三管、および肝細胞を調べた。腎臓については糸球体および尿細管を調べた。心臓については、筋細胞および冠血管を調べた。(2)肝炎、糸球体腎炎、間質性腎炎、および心筋炎を含む炎症の証拠を評価した。(3)虚血性変化の証拠を調べた。この発見の概要については添付の表を参照されたい。
【0193】
参考文献
【0194】
前述の説明において、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、本明細書において開示される発明に様々な置換および変更が加えられ得ることは当業者に容易に明らかである。本明細書において例示的に説明された発明は、適宜、本明細書において具体的に開示されない要素が無くても、制限が無くても実施され得る。使用されてきた用語および表現は説明の用語として用いられ、限定の用語として用いられず、このような用語および表現を使用する際に、示された、および説明された特徴またはその一部の、あらゆる均等物を除外することは意図されないが、様々な変更が本発明の範囲内で可能であると認識される。従って、本発明は特定の態様および任意の特徴によって例示されたが、本明細書において開示される概念の変更および/または変化は当業者によって用いられてもよく、このような変更および変化は本発明の範囲内であるとみなされると理解されるはずである。
【0195】
多数の特許および非特許参考文献が本明細書において引用された。引用された参考文献はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。万一引用された参考文献中の用語の定義と比較して、本明細書中の用語の定義に矛盾がある場合には、この用語は本明細書中の定義に基づいて解釈されるべきである。
【0196】
配列情報
SEQUENCE LISTING
<110> Marquette University
Concordia University, Inc.
UWM Research Foundation, Inc.
<120> SUBSTITUTED (4'-HYDROXYPHENYL)CYCLOALKANE AND
(4'-HYDROXYPHENYL)CYCLOALKENE COMPOUNDS AND USES THEREOF AS
SELECTIVE AGONISTS OF THE ESTROGEN RECEPTOR BETA ISOFORM FOR
ENHANCED MEMORY CONSOLIDATION
<150> US 62/572,932
<151> 2017-10-16
<150> US 62/478,758
<151> 2017-03-30
<160> 1
<170> PatentIn version 3.5

<210> 1
<211> 19
<212> PRT
<213> Homo sapiens
<400> 1
Glu Ala Glu Glu Pro Ser Leu Leu Lys Lys Leu Leu Leu Ala Pro Ala
1 5 10 15
Asn Thr Gln
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7a
図7b
図7c
図8a
図8b
図8c
図8d
図8e
図8f
図8g
図9
図10
図11
図12
図13a
図13b
図14
図15a
図15b
図15c
図16a
図16b
【配列表】
2023085342000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-04-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
の式および立体化学を有する、化合物。
【請求項2】
有効量の請求項1記載の化合物またはその薬学的に許容される塩を、薬学的な賦形剤、担体、または希釈剤と共に含む、薬学的組成物。
【請求項3】
象におけるエストロゲン受容体β(ERβ)活性に関連する疾患または障害を処置するための請求項2記載の薬学的組成物
【請求項4】
疾患または障害が神経学的疾患または神経学的障害である、請求項3記載の薬学的組成物
【請求項5】
疾患または障害が精神医学的疾患または精神医学的障害である、請求項3記載の薬学的組成物
【請求項6】
疾患または障害が癌である、請求項3記載の薬学的組成物
【請求項7】
疾患または障害が記憶消失または記憶機能障害に関連する、請求項3記載の薬学的組成物
【請求項8】
象における記憶固定を向上させるための請求項2記載の薬学的組成物
【請求項9】
対象が閉経後女性である、請求項8記載の薬学的組成物
【請求項10】
低エストロゲンレベルを示す対象を処置するための請求項2記載の薬学的組成物
【請求項11】
対象が閉経後女性である、請求項10記載の薬学的組成物
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0123
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0123】
(表1)エストロゲン受容体アッセイデータ。報告された値はIC5 0であり、値はnMを単位とする
* IC50が31±7nM(図5a)および23±8nM(図10)である2つのデータセットの平均。そのため選択性は658~886であり、平均は750である。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】
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