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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085507
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】筋由来細胞を取得する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20230613BHJP
   A61K 35/34 20150101ALI20230613BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230613BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20230613BHJP
   A61P 13/02 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
C12N5/077
A61K35/34
A61P21/00
A61P1/00
A61P13/02
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023062671
(22)【出願日】2023-04-07
(62)【分割の表示】P 2020533052の分割
【原出願日】2018-12-14
(31)【優先権主張番号】17207417.1
(32)【優先日】2017-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】521244282
【氏名又は名称】インノヴァセル アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サーナー,マルコ
(72)【発明者】
【氏名】マーグライター,エヴァ
(72)【発明者】
【氏名】シュバイガー,ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】アシム,ファヒーム ムハンマド
(72)【発明者】
【氏名】マークシュタイナー,ライナー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】骨格筋由来細胞(SMDC)、該細胞を得るための方法、並びに、神経筋障害及び/又は筋障害が失禁、特に尿の及び/又は肛門の若しくは糞便の失禁、である、神経筋障害及び/又は筋障害を予防及び/又は治療する方法におけるSMDCの使用を提供する。
【解決手段】少なくとも90%以上のCD56及びA2B5陽性細胞、並びに少なくとも90%のCD105陽性細胞を含むことを特徴とする、SMDCsの細胞集団を提供する。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも90%以上のCD56及びA2B5陽性細胞、並びに少なくとも90%のCD105陽性細胞を含むことを特徴とする、SMDCsの細胞集団。
【請求項2】
前記細胞集団が、少なくとも90%のデスミン陽性細胞を含むことを特徴とする、請求項1に記載の細胞集団。
【請求項3】
前記細胞集団の多くとも10%が、CD34及び/又はMyoDを発現することを特徴とする、請求項1又は2に記載の細胞集団。
【請求項4】
前記細胞集団が、少なくとも90%以上のCD56及びA2B5陽性細胞、少なくとも90%のCD105及びデスミン陽性細胞を含み、並びに、前記細胞集団の10%未満がCD34、Sca-1及びMyoDを発現することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項5】
前記SMDCsが、Pax7及び/又はMyf5陽性であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項6】
前記細胞集団が、少なくとも95%のCD56及びA2B5陽性細胞を含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項7】
前記細胞集団が、少なくとも95%のCD105及び/又はデスミン陽性細胞を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項8】
前記細胞集団が、多くとも5%がCD34及び/又はMyoDを発現することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項9】
前記細胞集団が、少なくとも95%のCD56、A2B5、CD105及びデスミン陽性細胞を含み、前記細胞集団の5%未満がCD34、Sca-1及びMyoDを発現することを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項10】
医薬組成物としての使用のための請求項1~9のいずれか一項に記載のSMDCsの細胞集団。
【請求項11】
神経‐筋結合を改善する方法での使用のための請求項1~9のいずれか一項に記載のSMDCsの細胞集団。
【請求項12】
神経筋障害及び/又は筋障害を予防及び/又は治療する方法での使用のための、請求項1~9のいずれか一項に記載のSMDCsの細胞集団。
【請求項13】
前記神経筋障害及び/又は筋障害が便失禁及び/又は尿失禁であることを特徴とする、請求項12に記載の使用のための請求項1~9のいずれか一項に記載のSMDCsの細胞集団。
【請求項14】
筋機能障害を治療する方法での使用のためのSMDCsの細胞集団であって、前記筋機能障害が失禁であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載のSMDCsの細胞集団。
【請求項15】
前記失禁が尿及び/又は肛門若しくは便失禁であることを特徴とする、請求項14に記載のSMDCsの細胞集団。
【請求項16】
前記SMDCsの細胞集団が、尿失禁を治療する方法での使用のためのものであって、前記SMDCsの細胞集団が100μl当たり1x105~6x106個の細胞の濃度の尿道括約筋に注射するための注射液であり、50~200μlの細胞懸濁注射液で提供されることを特徴とする、請求項13~15に記載の使用のための請求項1~9のいずれか一項に記載のSMDCsの細胞集団。
【請求項17】
前記SMDCsの細胞集団が、肛門失禁を治療する方法における使用のためのものであって、前記SMDCsの細胞集団が100μl当たり1x105~6x106個の細胞の濃度の外肛門括約筋に注射するための注射液であり、50μl~1mlの細胞懸濁注射液で提供されることを特徴とする、請求項13~15に記載の使用のための請求項1~9のいずれか一項に記載のSMDCsの細胞集団。
【請求項18】
肛門失禁を治療するための方法が骨格筋由来細胞懸濁液の20~40回の注射を含み、各注射において50~500μlの骨格筋由来細胞懸濁液が注射され、各注射が肛門括約筋の異なる領域に適用されることを特徴とする、請求項17に記載の使用のための請求項1~9のいずれか一項に記載のSMDCsの細胞集団。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨格筋由来細胞(SMDC)を得るための方法、並びに、神経筋結合を改善する方法における、及び筋機能障害が失禁、特に尿失禁及び/又は肛門失禁である筋機能障害の治療における使用のためのSMDCの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
排泄抑制能力を維持する能力は、社会的存在としての我々の満足できる生活状態のための基本である。肛門の排泄抑制能力の喪失は、身体的、生理学的、社会的な障害をもたらす。一般に、主に高齢者や障害者が肛門失禁に罹患していると考えられているが、これらの症状はすべての年齢の人々に発生し得る。肛門失禁のスペクトル、すなわち腸の内容物の制御の喪失は、下着の小さな糞便の跡から、腸内ガスの喪失まで、最大、軟便又は固形便の制御されない排便の大量のエピソードまでの範囲に及ぶ。この理由は、多層的で複雑な場合があり得る。影響を受ける個人の生活の質が極端に損なわれていることとは関係なく、肛門の排泄抑制能力の障害は、公衆衛生システムのコスト要因を過小評価してはならないという結果をもたらす。さらに、肛門失禁は老人ホームでの2番目に頻度の高い(認知症よりも頻繁な)入院の理由である。老人ホームや病院の高齢者の3分の1は、糞便に対して自制できない。
【0003】
排泄抑制能力器官の随意制御には2つの骨格筋が重要である:それは、外肛門括約筋と、肛門挙筋の一部としての恥骨直腸筋である。残りの骨盤隔膜(恥骨尾骨筋、尾骨筋、腸骨尾骨筋)が多かれ少なかれサポート的な役割を果たす可能性がある。外肛門括約筋は陰部神経によってサポートされている。外肛門括約筋と恥骨直腸筋の両方の筋肉は、直腸の中身の体積/量に正比例する一定の筋組織の緊張(トーヌス)を維持できる。このトーヌスは、排便プロセスの開始とともに減少する。恥骨直腸筋の一定の基線トーヌスは、肛門管と直腸の間に90°の角度を形成する結合に対する肛門直腸移行部の「ねじれ」をもたらす。この肛門直腸の角度はまた、肛門の排泄抑制能力の維持にも寄与する。恥骨直腸筋のさらなる機能は、外肛門括約筋が損傷している場合に、少なくとも部分的に形成された糞便を保持することである。
【0004】
恥骨直腸筋では、腸内ガス又は液体の糞便を制御することはできない。これらの便の種類の肛門の排泄抑制能力は、内部と外部の肛門括約筋の相互作用によって提供される。痔疾部クッションは気密閉塞を提供する。安静状態では、肛門管は外肛門括約筋の一定の緊張性活動と内肛門括約筋の基線安静圧によって閉塞される。結腸の円形平滑筋層の継続及び拡張である内肛門括約筋は、閉鎖された肛門管の基準値圧力の約75~85%を提供する。この平滑筋成分の活動は、直腸の膨張、いわゆる直腸肛門抑制反射によって完全に抑制される。この弛緩は、排便を防ぐための外肛門括約筋及び恥骨直腸筋の反射収縮を伴う。
【0005】
上記のように、現在の治療方法は、主に括約筋の断裂の外科的矯正を目的としている。これは、上記の症状の短期的な改善につながる。
【0006】
軽度の形態の肛門失禁は、保守的な治療方法で治療でき、症状の改善をもたらす。しかしながら、より深刻なケースでは、それぞれの外科的介入の結果、成功する可能性が小さい短期的な改善をしばしばもたらす。
【0007】
保守的な治療方法は、繊維の摂取量の増加に加えて食物摂取の変化や、肛門の感度が低下している場合に肛門タンポンや直腸浣腸の使用などを含む。ロペラミドの摂取は、必要に応じて、胆汁酸結合物質と組み合わせて、腸の運動性を低下させ、肛門括約筋の圧力を増加させる。新しい形態の治療では、閉経後の女性に対して局所的に適用される局所エストロゲンが利用されるが、ランダム化された研究が欠けている。
【0008】
しかしながら、外科的介入が必要な患者の数が異なる:ほとんどの場合、出産後の外傷性損傷の急性治療に対して、(隣接した又は重複した)括約筋の修復が適用される。短期的な見込みは良好であり、長期的な結果は不十分である。
【0009】
緊張性尿失禁については、筋肉由来細胞を損傷部位に注入して、緊張性尿失禁を改善することが提案されている。しかしながら、2つの異なる疾患の原因は完全に異なるため、緊張性尿失禁は肛門失禁と比較できない。さらに、2つのシステム(尿道 vs 肛門)はまた類似の機能を有さない。尿道は、液体のみを十分に制御する必要がある。直腸は、固体、液体及び気体の内容物を制御することができる。これは完全に異なる感覚的要件を必要とする。したがって、尿生殖路と直腸では解剖学が大きく異なる。例えば、直腸を取り囲む外肛門括約筋があるが、尿道を完全に取り囲む同等のものはない。さらに、尿道の背側は、成人男性ではほとんど横紋筋を見つけることができないが、一方、直腸の外肛門括約筋は完全に円形の横紋筋である。
【0010】
筋線維の前駆体である筋芽細胞は、他の種類の細胞とは多くの点で異なる単核筋細胞である。筋芽細胞は自然に融合して、生理活性タンパク質の長期的な発現と送達をもたらす有糸分裂後の多核筋管を形成する。筋芽細胞は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーなどの筋肉関連疾患の筋肉への遺伝子送達のほか、例えば、アデノシンデアミナーゼ欠乏症候群に対するヒトアデノシンデアミナーゼの遺伝子送達;糖尿病に対するヒトプロインスリンの遺伝子導入;パーキンソン病のチロシンヒドロキシラーゼの発現のための遺伝子導入;血友病Bに対する第IX因子の移行と発現;成長遅滞のためのヒト成長ホルモンの送達;などの非筋肉関連疾患の遺伝子送達に使用されている。
【0011】
筋肉変性を治療するため、組織の損傷を修復するため、又は疾患を治療するための筋芽細胞の使用が、米国特許第5,130,141号及び第5,538,722号に開示されている。また、筋芽細胞移植は、心筋機能障害の修復に採用されてきた(Robinsonet al., 1995; Murry et al., 1996; Gojo et al., 1996; Zibaitis et al., 1994)。
【0012】
筋芽細胞はまた、特に尿失禁及び/又は肛門失禁の排泄抑制能力の維持に関与する筋肉損傷を修復するために使用することができる。筋芽細胞を含む骨格筋由来細胞は、成体の筋肉損傷を修復するために分化することができる骨格筋の前駆細胞として知られている。
【0013】
骨格筋由来細胞を単離するためのいくつかの方法が先行技術に記載されている。骨格筋由来細胞の分離のための明確な方法は、プレプレーティング技術を適用する。それにより、細胞が筋組織から得られ、その単一細胞懸濁液が、プレプレートとしても知られる異なる細胞培養容器に連続的に移され、線維芽細胞などの非筋原性細胞を排除し、筋芽細胞などの筋原性細胞を濃縮する。例えば、Rando and Blau, 1994は、細胞培養における筋芽細胞のそのような精製について記載する(T. A. Rando and H. M. Blau, "Primary mouse myoblast purification, characterization, and transplantation for cell-mediated gene therapy.," J. Cell Biol., vol. 125, no. 6, pp. 1275-1287, Jun. 1994))。単一のプレプレーティングと比較して複数のプレプレーティングステップを使用すると、筋芽細胞の純度と生存率が向上するが、これは、筋芽細胞移植療法の治療効果に必要である(Z. Qu, L. Balkir, J. C. T. van Deutekom, P. D. Robbins, R. Pruchnic, and J. Huard, "Development of Approaches to Improve Cell Survival in Myoblast Transfer Therapy," J. Cell Biol., vol. 142, no. 5, pp. 1257-1267, Sep. 1998)。
【0014】
プレプレーティング技術に基づく方法の欠点は、いくつかのプレプレーティングステップの実施に時間がかかることである。細胞はプレプレーティングによって複数回継代されるが、有効な純度で目的の量の細胞に到達するには、さらに再プレーティングする必要がある(B. Gharaibeh et al., "Isolation of a slowly adhering cell fraction containing stem cells from murine skeletal muscle by the preplate technique," Nat. Protoc., vol. 3, no. 9, p. 1501, Aug. 2008; A. Lu et al., "Isolation of myogenic progenitor populations from Pax7-deficient skeletal muscle based on adhesion characteristics," Gene Ther., vol. 15, no. 15, pp. 1116-1125, May 2008)。したがって、培養期間の延長と、プレ及び再プレーティング中の筋芽細胞の倍増細胞数の増加は、成長停止を伴う老化をもたらす可能性があり、筋芽細胞移植に必要な量の細胞に到達できないことさえある(W. E. Wright and J. W. Shay, "Historical claims and current interpretations of replicative aging," Nat. Biotechnol., vol. 20, no. 7, pp. 682-688, Jul. 2002)。さらに、プレプレーティングの感度の欠如が、純度の向上が達成されたとしても、筋芽細胞の数の全体的な減少をもたらす可能性がある(B. C. Syverud, J. D. Lee, K. W. VanDusen, and L. M. Larkin, "Isolation and Purification of Satellite Cells for Skeletal Muscle Tissue Engineering," J. Regen. Med., vol. 3, no. 2, 2014)。
【0015】
蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)や磁気活性化細胞ソーティング(MACS)などの筋芽細胞を分離する他の方法は有望に思われたが、FACSに高電圧レーザー強度を適用することによる細胞の損傷の可能性と、MACSが使用する磁気抗体の保持についての懸念により、これらの方法は、筋芽細胞の単離には優れた選択ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
先行技術の方法のこれらの欠点を考慮して、骨格筋由来細胞(SMDC)を提供するための新しい方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的は、特許請求の範囲で規定された主題によって解決される。
【0018】
以下の図は、本明細書の一部を形成し、本発明の特定の態様をさらに表すために含まれている。本発明は、本明細書に提示される特定の実施形態の詳細な説明と組み合わせてこれらの図面の1つ又は複数を参照することにより、よりよく理解される場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、標準的な細胞培養フラスコに付着したSMDCの位相差顕微鏡写真(倍率100倍)を示す。
図2図2は、SMDCの純度と生存率を示すFACS分析である。ヒストグラムAはCD56分析であり、99.3%の細胞がCD56陽性であることを示している。ヒストグラムBは7AAD生存率分析を示し、98.77%の細胞が生存可能であることを示している。
図3図3は、筋原性マーカーであるデスミンの免疫染色によって示された、SMDCの純度を100倍に拡大した顕微鏡写真を示している。陽性細胞はより暗い染色で表示されるが、陰性細胞は染色されない。
図4図4は、多核筋管に分化するように誘導されたSMDCの顕微鏡写真を示す。筋管は、暗い染色で示されるように、筋原性デスミンタンパク質を発現する。
図5図5は、SMDCのA2B5染色のFACS分析を示している。ヒストグラムBに示されているA2B5抗体染色と比較して、アイソタイプ対照染色がヒストグラムAに示されている。ヒストグラムBは、細胞の96%がA2B5に陽性であることを示している。
図6図6は、A2B5反応性抗原合成酵素の遺伝子発現を示している。ST3GAL1、ST3GAL2及びST3GAL3の遺伝子アノテーション当たりの平均リード数は、商業的に利用可能なSMDC(ST3GAL1:5.97;ST3GAL2:9.59;ST3GAL3:97.81)と比較して、本発明によって得られたSMDCのこれらのmRNAのより高い発現を示唆している。
図7図7は、冷却ステップありを意味する実施例1、又は冷却ステップなしを意味する実施例9のいずれかによって得られた細胞における%CD56陽性細胞の比較を示す。実施例1で得られた細胞は、実施例9で得られた細胞(平均±SD:77.11±8.37)と比較して有意に高い(スチューデントのt検定でp<0.05;*)CD56陽性細胞(平均±SD:93.28±8.37)を含むことが示されている。データは、同じドナーからの細胞に対して実施例1及び9による手順を実施するために半分に分割された3人の個々のヒトドナーの筋バイオプシーに由来する細胞の平均±SDとして提示された。
図8図8は、SMDC上の間葉マーカーCD105の発現を示すFACS分析を示している。ヒストグラムBはCD105分析であり、SMDCの98.69%がCD105に陽性であることを示している。ヒストグラムAは、SMDCのわずか0.31%でアイソタイプ対照陽性を示すことにより、陽性閾値の正確な設定を示す。
図9図9は、CD56+のSMDC(約100%のCD56発現細胞を含む)とCD56-のSMDC(約30%のCD56陽性細胞を含む)の間のAChE活性(タンパク質1g当たりのmUrel)を比較することによる、本発明によるSMDCの神経筋再生能力を示す。AChE活性測定は、実施例11に記載されているように実施された。CD56+のSMDCは、CD56-のSMDCと比較して有意に高い(スチューデントのt検定でp<0.05;*)AChE活性を示す。データは、3人の個人ドナーの筋バイオプシーに由来する細胞の平均±SEMとして表示した。
図10図10は、CD56+のSMDC(約100%のCD56発現細胞を含む)とCD56-のSMDC(約30%のCD56陽性細胞を含む)の融合能力(%融合指数)を比較することによる、本発明によるSMDCの神経筋再生能力を示す。融合能力の定量化は、実施例12に記載されたように実施された。CD56+のSMDCは、CD56-のSMDCと比較して有意に高い(スチューデントのt検定でp<0.05;*)融合率を示している。データは、3人の個人ドナーの筋バイオプシーに由来する細胞の平均±SEMとして提示した。
【発明を実施するための形態】
【0020】
「a」又は「an」という単語の使用は、特許請求の範囲及び/又は明細書において、「含む」という用語と共に使用される場合、「1」を意味し得るが、「1又はそれ以上」、「少なくとも1」及び「1又は1を上回る」の意味とも一致する。
【0021】
「約」という用語は、記述された値、記述された値の5%のプラス若しくはマイナス又は所与の値の測定に対する標準誤差が企図されることを意味する。
【0022】
本明細書で使用される「肛門失禁」という用語は、腸内ガス、液体又は固形便などの、肛門を介した腸内容物の望ましくない喪失を指す。この用語には、3つの重症度グレード;グレード1=気体のみ、グレード2=液体及び軟便、グレード3=固形の形成された糞便がすべて含まれる。
【0023】
本明細書において使用される「肛門括約筋」又は「肛門括約筋組織」という用語は、具体的には、肛門挙筋の一部としての外肛門括約筋及び恥骨直腸筋を指す。しかしながら、それは、恥骨尾骨筋、尾骨筋、腸骨尾骨筋、及び陰部神経も含む。
【0024】
「骨格筋由来細胞」又は「SMDC」という用語は、初代細胞及び/又はインビトロ培養細胞であってもよい、多核融合形質転換受容性細胞、例えば筋芽細胞、あるいは、筋原性能力を有するその他の細胞(例えば、脂肪吸引組織、又は骨髄などの組織を保持しているその他の幹細胞に由来)を指す。その用語は、骨格筋細胞の培養のために単離され使用され得る脂肪に由来する細胞も含む。「骨格筋由来細胞」又は「SMDC」という用語は、筋組織から単離された細胞集団も指す。一般に、そのような細胞集団は、筋組織を形成する能力を有しないさらなる細胞を含む。そのような細胞は、本明細書において「非筋原細胞」又は「骨格筋由来非筋原細胞」と呼ばれ、好ましくは、CD56陰性及び/又はデスミン陰性である。従って、本明細書において使用される「骨格筋由来細胞」又は「SMDC」という用語は、好ましくは、多核融合形質転換受容性細胞を少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、又は100%含む細胞集団を指す。
【0025】
本明細書において使用される「穿通」という用語は、注射過程に影響を与えることなく、注射デバイス、例えば、針を身体組織へ導入する過程を指す。
【0026】
本明細書において使用される「注射」という用語は、注射デバイスからの、上記細胞を含む注射液の、ヒト体内の特定の部位、具体的には、肛門排泄抑制能力を提供する筋組織中への又はその近傍への排出を指す。注射過程は、静的、即ち、注射デバイスが到達した位置に留まるものであり得るが、これに限定されない。代替的に、注射過程は動的である。例えば、本発明のいくつかの態様において、注射は、注射の部位からの注射デバイスの引き戻しと同時に行われる。
【0027】
本明細書において使用される「注射部位」という用語は、注射過程が開始される、肛門の排泄抑制能力を提供する筋組織又はその近隣のような、ヒト体内の部位を指す。注射部位は、注射過程が終了する部位と同一である必要はない。
【0028】
本明細書において使用される「注射デバイス」という用語は、関心対象の注射部位に到達するためにヒト組織を穿通するために適当であって、溶液、具体的には、筋由来細胞を含む溶液を、関心対象の注射部位へ送達することができるデバイスを指す。
【0029】
本明細書において使用される「便失禁」という用語は、肛門を介した液体又は形成された便の望ましくない喪失のみを指す。
【0030】
本明細書において使用される「受動的失禁」という用語は、糞便の喪失の感覚的認識の欠如を指す。これは、肛門の基線の圧力値が低く、肛門及び直腸粘膜の感覚能力が不足していることを含む。
【0031】
本明細書において使用される「強制的排便」又は「強制的切迫」とは、ヒトが5分間より長く排便を遅らせる能力が欠如していることを指す。そのような患者は、直ちにトイレに行かなければならない。
【0032】
本明細書において使用される「CD56+」又は「CD56陽性」という用語は、細胞マーカーCD56を発現する細胞を指す。「CD56+」又は「CD56陽性」という用語は、好ましくは細胞集団の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%又は99%が細胞マーカーCD56を発現する場合は、異なる細胞タイプを含む細胞集団についても使用できる。
【0033】
本明細書において使用される「CD56-」又は「CD56陰性」という用語は、細胞マーカーCD56を発現していない細胞を指す。「CD56-」又は「CD56陰性」という用語は、好ましくは細胞集団に対して多くとも49%、40%、30%、20%、10%、5%、4%、3%、2%、1%又は0%が細胞マーカーCD56を発現する場合に、異なる細胞タイプを含む細胞集団についても使用できる。
【0034】
本明細書において使用される「A2B5+」又は「A2B5陽性」という用語は、細胞マーカーA2B5を発現している細胞を指す。「A2B5+」又は「A2B5陽性」という用語は、好ましくは、細胞集団の少なくとも50、60、70、80、90、95、98又は99パーセントが細胞マーカーA2B5を発現する場合に、異なる細胞タイプを含む細胞集団にも使用できる。
【0035】
本明細書において使用される「A2B5-」又は「A2B5陰性」という用語は、細胞マーカーA2B5を発現していない細胞を指す。「A2B5-」又は「A2B5陰性」という用語は、最大で49、40、30、20、10、5、4、3、2、1又は0パーセントが細胞集団の細胞マーカーA2B5を発現する場合、異なる細胞タイプを含む細胞集団にも使用できる。
【0036】
本明細書において使用される「デスミン陽性」という用語は、細胞マーカーデスミンを発現している細胞を指す。「デスミン陽性」という用語は、好ましくは細胞集団の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%又は99%が細胞マーカーデスミンを発現する場合に、異なる細胞タイプを含む細胞集団についても使用できる。
【0037】
本明細書において使用される「デスミン陰性」という用語は、細胞マーカーデスミンを発現していない細胞を指す。「デスミン陰性」という用語は、好ましくは細胞集団の多くとも49%、40%、30%、20%、10%、5%、4%、3%、2%、1%又は0%が細胞マーカーデスミンを発現する場合に、異なる細胞タイプを含む細胞集団についても使用できる。
【0038】
本明細書で使用される「CD105+」又は「CD105陽性」という用語は、細胞マーカーCD105を発現している細胞を指す。「CD105+」又は「CD105陽性」という用語は、好ましくは、細胞集団の少なくとも50、60、70、80、90、95、98又は99パーセントが細胞マーカーCD105を発現する場合に、異なる細胞タイプを含む細胞集団にも使用できる。
【0039】
本明細書で使用される「CD105-」又は「CD105陰性」という用語は、細胞マーカーCD105を発現していない細胞を指す。「CD105-」又は「CD105陰性」という用語は、細胞集団の最大で49、40、30、20、10、5、4、3、2、1又は0パーセントが、細胞マーカーCD105を発現する場合、異なる細胞タイプを含む細胞集団にも使用できる。
【0040】
本明細書において使用される「分化培地」という用語は、例えば筋芽細胞として、多核融合形質転換受容性細胞又は筋原細胞において融合を誘導する細胞培養培地を指す。しかしながら、前記用語は、多核融合形質転換受容性細胞又は筋原細胞がそれぞれの誘導なしに融合することができる場合、融合の誘導のために必要な、いかなる物質を含まない細胞培養培地も指す。
【0041】
本明細書で使用する「細胞増殖培地」という用語は、SMDCなどの哺乳動物細胞の培養に適したいかなる培地を指し、これにより、培養容器の表面上に前記哺乳動物細胞が付着することを可能にする。
【0042】
本発明によれば、骨格筋由来細胞(SMDC)を取得するための方法が提供される。
【0043】
本発明の第1の主題は、骨格筋由来細胞(SMDC)を得るための方法に関し、この方法は、以下のステップを含む:(a)緩衝液中で骨格筋組織から得られた試料を冷却するステップ;(b)試料を処理し冷却するステップ;(c)ステップ(b)の試料を、少なくとも1つの酵素を含む血清を含む培地中で再懸濁し、38℃まで1~20時間加熱するステップ;試料をペレット化し、及び、(d)ステップ(c)の試料のペレットを再懸濁して、ステップ(c)の試料から単一の細胞懸濁を提供し、それによりSMDCを得るステップ。
【0044】
本発明者らは、本発明の方法を実施することにより、プレプレーティングステップを実施する必要なしに、高い筋形成能力を示すSMDCの獲得及び濃縮が有利に可能になることを見出した。これらの濃縮されたSMDCは、CD56やデスミンなどの筋原性マーカーに対して非常に純粋であり、例えば適切な力価アッセイによってアッセイされたときに、増加した筋原性能力を示す。さらに、最初のプレーティングの前にSMDCを濃縮することは、細胞が継代培養を受ける必要がより少ないため有利であり、したがって、本発明により、老化細胞の量が少なくなり、生存率が高くなる。さらに、本発明は、CD56及びデスミンなどの筋原性マーカーだけでなく、A2B5などの神経前駆細胞のマーカーも発現する細胞を生成し、神経筋サポートの可能性も示唆する。実際に、本発明によって得られるSMDCは、A2B5反応性抗原の神経筋サポートに必要なA2B5反応性抗原合成酵素ST3GAL1、ST3GAL2及びST3GAL3の遺伝子発現において、最新の細胞とは異なる。要約すると、本発明によって得られる濃縮されたSMDCは、高純度及び生存能力を示し、したがって、特に尿失禁及び/又は便失禁の状態における神経筋結合のサポート並びに筋力低下の再生において高い臨床効果を有することが示唆される。
【0045】
本発明の好ましい実施形態において、ステップ(a)は、筋バイオプシーを実施することを含む。
【0046】
筋肉由来細胞の供給源として機能するそのような筋肉バイオプシーは、損傷部位の筋肉から、又は臨床外科医がより容易にアクセスできる別の領域から得ることができる。バイオプシーの部位は、明確な骨格筋に限定されず、上腕などからであってもよい。バイオプシーのサイズは、約1cmx1cmx1cm以上を含む場合がある。
【0047】
例えば失禁の治療のための筋傷害の治療において筋芽細胞を使用するために、前記筋芽細胞は、好ましくは、治療される対象の骨格筋バイオプシーから単離される。
【0048】
さらに好ましい実施形態において、ステップ(a)は、16℃より低い温度、好ましくは1~16℃の範囲、好ましくは4~10℃の範囲、特に好ましくは7℃の温度で、最大96時間の範囲の時間行われる。
【0049】
したがって、本発明の方法は、ステップ(a)において、1~16℃の温度範囲又はこの範囲の間のいかなる温度、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15℃、又はこの範囲内のいかなる中間温度などで行われることが好ましい。本発明のさらに好ましい実施形態では、温度範囲は6~8℃である。さらに好ましい実施形態では、温度範囲は4℃未満、好ましくは1~3℃の範囲である。
【0050】
さらに、ステップ(a)における本発明の方法は、最大96時間までの範囲の時間、又はこの範囲内のいかなる時間、例えば12~96時間、12~72時間、12~48時間、24~96時間、24~72時間、24~48時間、又はいかなるその他の中間範囲で実施されることが好ましい。
【0051】
好ましくは、ステップ(b)は、はさみ、メス、ピンセット、フィルター又はボールミル及び遠心分離機の使用を含む。しかしながら、骨格筋組織の細切り又は細断を可能にするいかなる他の手段が本発明に包含され一致していることは、当業者に明らかである。
【0052】
さらに好ましい実施形態において、ステップ(b)は、1~16℃の範囲の温度、又はこの範囲の間の任意の温度、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15℃、又はこの範囲内の任意の中間温度で行われる。本発明のさらに好ましい実施形態では、ステップ(b)は、4~8℃の範囲、特に好ましくは4℃の温度で行われる。さらに好ましい実施形態では、温度範囲は4℃未満、好ましくは1~3℃の範囲である。
【0053】
さらに好ましくは、本発明のステップ(b)は、2~48時間又はこの範囲内のいかなる時間などの明確な時間範囲、例えば、2~36時間、2~24時間又は任意の他の中間範囲で行われる。
【0054】
したがって、本発明の方法のステップ(b)は、骨格筋組織を処理し、及び処理された骨格筋組織の明確な時間の冷却により行われることが予見される。本発明の好ましい実施形態において、試料の冷却は、処理ステップの後に行われることが予見される。本発明者らは、処理された試料の冷却は、線維芽細胞などの非筋原細胞が休止状態の筋原細胞よりも高い代謝活性に起因して温度感受性であるために達成される線維芽細胞などの非筋原細胞の決定的な減少につながるため、有益であることを見出した。この特性により、線維芽細胞などの非筋原性細胞は低温状態で死ぬ。この結果として、本発明の方法のステップ(b)における冷却は、筋原細胞の濃縮を提供する。この濃縮は、プレプレーティングのステップを実行する必要なしに達成される。したがって、本発明の方法は、時間及び費用がかかるステップを実施する必要なしに、筋原細胞の良好な濃縮及び精製を提供する。
【0055】
冷却ステップの重要性は、特に、以下の実施例に示す比較データの形で示されている。そこでは、CD56陽性細胞の量が著しく上昇していることが示されている。CD56陽性細胞は、得られたSMDCの純度を示すマーカーを意味する。したがって、本発明の方法は、本発明の方法で予見されるような冷却ステップを行わない従来技術の方法と比較して、より多くの量及びより高い品質でSMDCを得ることができる方法を意味する。
【0056】
神経細胞接着分子(NCAM)としても知られるCD56は、インビトロでの骨格筋筋芽細胞(Belles-Isles et al., 1993)及びインビボでの平滑筋組織(Romanska et al., 1996)に発現する筋原性コミットメントマーカーである。CD56は、融合能力のあるデスミン+SMDCに存在する。特にCD56は、多核筋管を形成し、CD56陰性SMDCよりも高い酵素的アセチルコリンエステラーゼ(AChE)活性を発現できるSMDC集団を示すことが示されている(Thurner et al., 2018)。便失禁患者の治療に使用されるSMDCの高いAChE活性は、実際、便失禁の症状の軽減という点で治療の成功に結びついている(Thurner et al., 2018)。したがって、CD56に対して高純度であり、したがって、AChE活性が高いSMDCが、便失禁などの神経筋障害及び/又は筋障害を有する患者の治療を成功させるために望まれる。本発明は、CD56に対して高純度であり、かつ高いAChE活性を有するSMDCを単離する方法を提供する。
【0057】
好ましくは、ステップ(c)は、トリプシン、パパイン、エラスターゼ、ヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、及びDNAseからなる群から選択される1つ又は2つ以上を含む溶液で酵素的処理を行うことを含むことが予見される。好ましい実施形態では、ステップ(c)はコラゲナーゼの使用を予見する。
【0058】
本発明によれば、ステップ(c)での再懸濁は、ステップ(b)の試料の遠心分離、上清の廃棄、及び少なくとも1つの酵素を含む血清を含む培地での細胞ペレットの再懸濁を含むことが好ましくは予見される。さらに、本発明の好ましい実施形態では、緩衝液などの適切な溶液中での細胞のボルテックスを含む、ステップ(c)の細胞で1つ又は複数の洗浄ステップを行うことも好ましい。本発明によれば、少なくとも1つの酵素を含む血清を含む培地中でステップ(b)の再懸濁された試料は、インキュベーション時間後に遠心分離され、試料の細胞をペレット化し、酵素含有上清を廃棄する。
【0059】
本発明の特に好ましい実施形態では、ステップ(c)の酵素はトリプシンである。
【0060】
本発明のさらに好ましい実施形態において、ステップ(c)は、25~38℃、好ましくは36~38℃の範囲、特に好ましくは37℃の温度で行われる。
【0061】
好ましくは、ステップ(d)は、FACSソーティング、遠心分離、動電学的ソーティング、音響フォレーシスソーティング、ビーズベースの細胞ソーティング、及び光学的ソーティングのうちの少なくとも1つから選択される方法を好ましくは含む。
【0062】
単一細胞懸濁液を得る方法は、当技術分野でよく知られている。適切な濃縮方法の一例は、磁気活性化細胞ソーティング(MACS(登録商標))である。MACS法では、特定の表面抗原に対する抗体でコーティングされた粒子と細胞をインキュベートすることにより、細胞を分離できる(http://en.wikipedia.org/wiki/Magnetic_nanoparticles)。続いて、培養した細胞を磁場中に置いたカラムに移す。このステップでは、抗原を発現し、したがってナノ粒子に付着している細胞がカラムに留まり、抗原を発現していない他の細胞がカラムを流れる。この方法により、細胞は特定の抗原に関して陽性及び/又は陰性に分離することができる。適切な濃縮方法の別の例は、例えば、Webster et al. (Exp Cell Res. 1988 Jan; 174(1):252-65)に記載のとおり、蛍光活性化細胞ソーティング(FACS(登録商標))である。
【0063】
本発明のさらに好ましい実施形態において、ステップ(d)の後に、さらに、ステップ(d)で得られた単一細胞懸濁液のインキュベーションを含む、任意のステップ(e)が実施され、ステップ(e)でのインキュベーションは、25~38℃、好ましくは36~38℃の範囲、特に好ましくは37℃の温度により、付着性SMDCが得られる。
【0064】
この追加の任意のインキュベーションステップにより、細胞を培養してより大量のSMDCを達成できる。当業者は、培地及び温度などの培養条件を調整して、したがってSMDCの最大量を得る。
【0065】
さらに好ましくは、ステップ(e)の後、任意に、ステップ(e)の非付着細胞の廃棄を含むさらなるステップ(f)が行われ、ステップ(f)は好ましくは少なくとも6時間~4日後に行われることが予見される。
【0066】
本発明によれば、この任意のステップにより、好ましくは、非筋形成細胞又は死細胞などの培養容器中に浮遊している細胞を廃棄することができる。それにより、所望の付着細胞がさらに濃縮される。当業者は、任意のステップ(f)を、そのようなステップを実施する実際の必要性に応じて、6時間~3日の好ましい範囲内の適切な時間で実施する。そのような任意のステップ(f)が本当に必要かどうかは、例えば、顕微鏡下での細胞の観察によって規定され、細胞培養中の非付着細胞の量を決定することができる。
【0067】
本発明のさらに好ましい実施形態では、ステップ(f)の後、任意に、ステップ(e)の付着細胞を増殖させるさらなるステップ(g)が実施され、ステップ(h)での増殖は、1~5継代で70~80%の集密度へ付着細胞を培養することを含む。
【0068】
本発明によれば、当業者は、70~80%の所望の集密度を達成するために必要な持続時間及び継代の量を決定することができる。
【0069】
本発明の第2の主題はSMDCに関し、SMDCは、少なくとも60%のCD56陽性及び60%のA2B5陽性細胞を含む。
【0070】
本発明のさらに好ましい態様において、SMDCはCD105陽性であり、これは、SMDCがそれらの細胞表面にCD105を発現することを意味する。
【0071】
本発明の好ましい実施形態において、少なくとも60%、70%、80%、90%、95%若しくは98%又はSMDCの上記の値の間の任意の中間範囲がCD105陽性であり、これは、SMDCが細胞表面にCD105を発現することを意味する。
【0072】
CD105は、エンドグリンとしても知られている。それは、血管内皮細胞と胎盤の合胞体栄養芽細胞で見られる90kDのサブユニットを持つタイプI内在性膜ホモ二量体タンパク質である。CD105は間質性線維芽細胞に弱く発現している。また、活性化された単球や組織マクロファージにも発現している。CD105の発現は、腫瘍などの血管新生を受けている組織や、創傷治癒や皮膚炎症の場合に、活性化内皮細胞で増加する。CD105は、ヒト臍帯静脈内皮細胞のTGF-β受容体システムのコンポーネントであり、TGF-β1及びβ3に高い親和性で結合するが、TGF-β2には結合しない。TGF-β受容体が骨格筋の分化に必要であることが示されている。実際に、TGF-β受容体は、ミオゲニンの増加、骨格筋分化因子、及び筋芽細胞の融合能力に必要であることが示された。したがって、CD105陽性細胞は、SMDC、及び本発明に開示される方法により得られるSMDCに好ましい場合がある。
【0073】
本発明のさらに好ましい態様において、SMDCはデスミン陽性であり、これはSMDCが細胞表面にデスミンを発現することを意味する。
【0074】
本発明の好ましい実施形態において、少なくとも60%、70%、80%、90%、95%若しくは98%又はSMDCの上記の値の間の任意の中間範囲がデスミン陽性であり、これは、SMDCがデスミンを細胞表面に発現することを意味する。
【0075】
本発明のさらに好ましい態様において、SMDCはPax7陽性であり、これは、SMDCが細胞表面にPax7を発現することを意味する。
【0076】
本発明のさらに好ましい実施形態において、SMDCはMyf5陽性であり、これは、SMDCが細胞表面でMyf5を発現することを意味する。
【0077】
A2B5反応性抗原は、細胞系の接着や認識、シグナル伝達などの機能を発揮する神経系で最も豊富な糖脂質のファミリーであるcシリーズガングリオシドのファミリーに属する。ガングリオシドの喪失は、cシリーズガングリオシド欠損マウスにおいて、運動神経の再生欠損などの神経学的欠陥をもたらす(R. K. Yu, Y.-T. Tsai, T. Ariga, and M. Yanagisawa, "Structures, biosynthesis, and functions of gangliosides - An overview," J. Oleo Sci., vol. 60, no. 10, pp. 537-544, 2011)。また、神経筋接合部(NMJ)では、大量のガングリオシドが検出された。抗ガングリオシド抗体でNMJを処置するとNMJに重篤な欠陥が生じ、したがって、NMJでガングリオシドが必要であるという考えを支持している(J. J. Plomp and H. J. Willison, "Pathophysiological actions of neuropathy-related anti-ganglioside antibodies at the neuromuscular junction," J. Physiol., vol. 587, no. Pt 16, pp. 3979-3999, Aug. 2009)。さらに、ガングリオシドは特に再生能を有すると考えられる幹細胞を特徴付ける(R. K. Yu, Y.-T. Tsai, T. Ariga, and M. Yanagisawa, "Structures, biosynthesis, and functions of gangliosides-An overview," J. Oleo Sci., vol. 60, no. 10, pp. 537-544, 2011)。A2B5反応性ガングリオシドはシアリルトランスフェラーゼによって合成される。それらの中で、脳で高度に発現されるインビトロでのスフィンゴ糖脂質受容体活性が最も高いのは、ST3GAL1及びST3GAL2である(E. R. Sturgill et al., "Biosynthesis of the major brain gangliosides GD1a and GT1b," Glycobiology, vol. 22, no. 10, pp. 1289-1301, Oct. 2012)。ST3GAL1及びST3GAL2の両方のmRNAは、本発明により得られるSMDCで発現され、商業的に利用可能なSMDCと比較して大量に発現される。SMDCと筋原性再生能力を組み合わせて、A2B5反応性抗原も発現すると、骨格筋のみが再生されるだけでなく、特に、筋肉再生中に新たに形成される神経筋接合部で、神経筋サポートが提供される可能性がある。
【0078】
筋機能障害の治療、特に尿失禁及び/又は肛門失禁などの失禁の治療に使用できるSMDCは、好ましくは特徴的な発現パターンを示す。好ましくは、前記SMDCの約60%、70%、80%、90%、95%又は98%以上がCD56及びA2B5を発現する。好ましくは、該SMDCはCD34、Sca-1及びMyoDを発現しない。したがって、「発現しない」という用語は、好ましくはSMDCの40%、30%、20%、10%、5%又は2%未満が前記マーカーを発現することを意味する。上記のSMDCの発現パターンは、分化を必要とせずに細胞培養の筋原性指数を決定するために使用することができる。したがって、SMDCの前記発現パターンは、骨格筋由来細胞が筋機能障害の治療、特に尿失禁及び/又は肛門失禁などの失禁の治療に使用できるかどうかを検証することができる。
【0079】
本発明のさらなる主題は、本発明の方法に従って得られるSMDCに関する。
【0080】
本発明によれば、本発明の方法で得られるSMDCは、A2B5マーカー及び/又はA2B5マーカー反応性抗原合成酵素の明確な発現の観点から、先行技術の細胞と明確に区別することができる。A2B5反応性ガングリオシドはシアリルトランスフェラーゼによって合成されるので、これらのシアリルトランスフェラーゼはA2B5の発現のための間接的なマーカーとして役立つ可能性がある。3つの重要なシアリルトランスフェラーゼST3GAL1、ST3GAL2及びST3GAL3のうち、脳で高発現しているインビトロのスフィンゴ糖脂質受容体活性が最も高いのは、ST3GAL1とST3GAL2である(E. R. Sturgill et al., "Biosynthesis of the major brain gangliosides GD1a and GT1b," Glycobiology, vol. 22, no. 10, pp. 1289-1301, Oct. 2012)。ST3GAL1及びST3GAL2の発現の検出により、A2B5の発現の間接的な証明が可能になる。したがって、本発明の新しい方法は、当技術分野で知られている方法で得られるSMDCと比較して異なるSMDCを得ることを可能にする。
【0081】
本発明のさらに好ましい態様において、SMDC及び本発明の方法により得られるSMDCは、明確なマーカーの発現により特徴付けられる。本発明によれば、SMDCは、マーカーCD56、A2B5、CD105、デスミン、Myf5及びPax7の1、2、3、4又は5つの陽性発現によって特徴付けられることが予見される。さらに好ましくは、本発明の方法によって得られるSMDC及びSMDCは、CD56、A2B5、CD105、Myf5及びPax7から選択される少なくとも1つ以上のマーカーの陽性発現、並びに、CD34とMyoDから選択される少なくとも1つ以上のマーカーの陰性発現から選択される異なるマーカーの明確な組み合わせの発現によって特徴付けられることが予測される。好ましくは、少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、98%又は前述のSMDCの値の間の任意の中間の範囲が、CD56、A2B5、CD105、Myf5及びPax7のいずれか1つ以上で陽性であり、これは、SMDCが細胞表面でCD56、A2B5、CD105、Myf5及び/又はPax7を発現することを意味する。さらに好ましくは、細胞集団の最大59%、50%、40%、30%、20%、10%、5%、4%、3%、2%、1%又は0%が、CD34及び/又はMyoDのいずれかを発現する。
【0082】
本発明の特に好ましい実施形態では、SMDC及び本発明による方法によって得られるSMDCは、CD56、A2B5、CD105、Myf5、Pax7の陽性発現、及びCD34及びMyoDの陰性発現によって特徴付けられる。
【0083】
本発明のさらなる主題は、医薬組成物として使用するための、本発明の方法によって得られるSMDCに関する。
【0084】
本発明によれば、本発明の方法によって得られるSMDCは、医薬組成物内の活性成分として使用することができる。
【0085】
本発明のさらなる主題は、神経筋結合を改善する方法において使用するための、本発明の方法に従って得られるSMDCに関する。
【0086】
好ましくは、本発明によるSMDCは、神経筋障害及び/又は筋障害の予防及び/又は治療を改善する方法で使用するためである。好ましくは、SMDCは、便失禁及び/又は尿失禁などの神経筋障害及び/又は筋障害を予防及び/又は治療する方法で使用するためである。
【0087】
本発明によれば、SMDCは、好ましくは、SMDCが失禁に罹患している対象に注射されることを予見する方法で使用される場合がある。一般に、所与の組織又は損傷部位にSMDCを注入することは、溶液又は懸濁液中の治療的に有効な量の細胞、好ましくは100μlの注入溶液当たり約1x105~約6x106個の細胞を含む。注射液は、自家血清の有る又は無い、生理学的に許容される媒体である。生理学的に許容される媒体は、非限定的な例として、生理食塩水又はリン酸緩衝溶液であることができる。
【0088】
最後に、本発明のさらなる主題は、筋機能障害を治療する方法において使用するための、本発明の方法によって得られるSMDCに関し、該筋機能障害は失禁、特に尿及び/又は肛門失禁である。
【0089】
原則として、肛門の筋肉システムを強化は直腸充填物をよりよい制御を提供するため、いかなるタイプの肛門失禁が治療できる。しかし、特に肛門括約筋系及び/又は恥骨直腸筋が損傷及び傷害している場合に、会陰破裂に起因する肛門失禁が治療される。このような会陰破裂は、上記で概説したように、さまざまな原因から生じ得る。しかしながら、そのような会陰破裂の原因は、本発明の方法及びSMDCの適用を制限するものではない。患者は、第3又は第4グレードの会陰破裂を罹患している場合、本発明の方法及びSMDCで治療することができる。これは特に、鉗子分娩後にそのような会陰破裂に罹患する、初めて出産する、4kgを超える体重の子供を出産する、又は、出産前の子供の体位異常による結果を患う女性に適用される。本発明の方法及びSMDCはまた、外科的手術による肛門括約筋系及び/又は恥骨直腸筋の損傷後に適用できる。さらに、本発明の方法及びSMDCは、一時的な失禁のみがある場合にも適用することができる。このような治療は、完全な肛門失禁の発症を防止する。本発明の方法及びSMDCで治療されるさらなる肛門失禁疾患状態は、受動性失禁、便失禁及び避けられない排便である。
【0090】
本発明による方法及びSMDCは、すでに肛門失禁に罹患している、すなわち肛門失禁の症状を示している患者を治療するために使用できるだけでなく、肛門失禁にまだ罹患していないが、例えば、直腸の筋肉組織が手術、出産、事故などにより損傷を受けた場合において、罹患するリスクが増加した場合に使用できると理解すべきである。別の事例としては、直腸の筋肉組織が健康人よりも薄くなった場合や、他の理由で変性した場合がある。本発明の方法は、肛門失禁の発症を抑制するための適切な予防を提供できる。
【0091】
失禁の治療又は予防に使用するSMDCは、好ましくは移植者と相同(homologous)である。
【0092】
より好ましい実施形態において、前記SMDCは、移植者に対して自家又は異種性である。前記SMDCは、例えば、移植者の上腕二頭筋のバイオプシーによって得られる。自家SMDCは、SMDCが移植者に注入された後、アレルギー反応のリスクを軽減又は最小限に抑える。好ましくは、SMDCは、多核融合形質転換受容性細胞又は筋芽細胞などの筋原細胞である。より好ましくは、前記SMDCはヒト細胞である。
【0093】
したがって、本発明はまた、尿道括約筋及び/又は肛門括約筋を強化するために自家骨格筋由来細胞を使用することによって、尿失禁及び/又は肛門失禁を有するか、尿失禁及び/又は肛門失禁を発症するリスクがある女性及び男性のためのシンプルな予防アプローチまたは治療方法を提供する。そのような筋肉由来細胞療法は、損傷した尿道及び肛門括約筋の修復及び改善を可能にする。本発明によれば、治療は、例えば、筋肉由来細胞を得るための針吸引、並びに、培養及び調製された細胞を患者に注入するための簡単なフォローアップ処置を含む。また、本発明によれば、特定の尿失禁及び/又は肛門失禁患者から採取され、培養された自家骨格筋由来細胞(SMDC)を非アレルギー性薬剤として使用して、尿道及び/又は直腸壁を増大することができ、それにより、接合を強化し、尿道及び/又は肛門括約筋を改善する。本発明のこの態様において、上述のように、シンプルな自家筋細胞移植が実施される。
【0094】
本発明によれば、尿道括約筋及び/又は肛門括約筋に直接投与された自家骨格筋由来細胞は、長期生存を示す。したがって、自家筋芽細胞注射は、尿道及び/又は肛門括約筋における筋線維の安全かつ非免疫原性の長期生存をもたらす。
【0095】
本発明による特定の実施形態では、(100μlの注射液当たり約1×105~約6×106個の細胞の濃度で)約50~約200μlの骨格筋由来細胞懸濁液が尿道括約筋中に注射される。注射デバイスは、注射される細胞懸濁液を含む容器に接続することができる。肛門失禁の治療のために、(100μl当たり約1x105~約6x106個の細胞の濃度で)好ましくは約50μl~約1ml、より好ましくは約0.5mlの骨格筋由来細胞懸濁液を外肛門括約筋中に注射する。注射デバイスは、注射される細胞懸濁液を含む容器に接続することができる。
【0096】
別の実施形態では、注射ステップは、骨格筋由来細胞懸濁液の約20~約40回の注射などのいくつかの個別の注射を含む場合があり、各注射では、約50~約500μlの骨格筋由来細胞懸濁液が注射され、ここで、各注射は、肛門括約筋の別の領域に適用される。しかしながら、これらのパラメータは単に例示的なものであると考えるべきであり、当業者はこれらの手順を各個々の患者の治療要件に容易に適合させることができる。
【0097】
本発明の別の実施形態では、尿道及び/又は肛門括約筋に対する注射デバイスの動作は、超音波検査及び/又はEMG(筋電図)手段によってモニターされる。特定の実施形態では、経直腸プローブが導入され、経直腸プローブの位置は、本発明による方法を用いる尿道及び/又は肛門括約筋の治療のために最適に調整される。別の特定の実施形態では、骨格筋由来細胞は、尿道及び/又は肛門括約筋欠損の周囲の領域、及び/又は特に尿道及び/又は肛門括約筋欠損の領域に移植される。患者は、本発明による尿失禁及び/又は肛門失禁のさらなる治療のために、細胞の注入の翌日に身体運動から開始することができる。
【0098】
別の実施形態では、治療が繰り返される。処置は、例えば、最後の治療後1年以内、最後の治療後10、9、8、7、6、5、4、3、2若しくは1ヶ月後、又は1~8週間、好ましくは2~3週間、又は、最後の治療から10~20日に繰り返すことができる。特に、前の治療に使用したのと全く同じ細胞培養からの細胞で、最後の治療後2~3週間以内に、治療を繰り返すことができる。このアプローチにより、1回の注入当たりの注入量を減らすことができ、細胞が適応して統合し筋肉を構築するための時間が長くなる。さらにより具体的な実施形態において、注入は、尿道及び/又は肛門の排泄抑制能力の改善が達成されるまで、2~3週間の時間間隔で繰り返される。
【0099】
上述のように、特定の穿通経路は、直腸の方向と並行して患者の皮膚を通る。しかしながら、穿通は、損傷した筋肉の近くの直腸から直接起こり得ることも考えられる。特に、穿通及び注入プロセスは、超音波画像化手段を介してモニターされる。さらに、女性に対して代替的な穿通経路、すなわち経膣注射が考えられる。このシナリオでは、注射デバイスは膣の壁を穿通し、目的の注入部位に到達するまで前方に移動される。特に、穿通及び注入プロセスは、このシナリオでも、超音波検査及び/又はEMG(筋電図)イメージング手段によってモニターされる。
【0100】
別の実施形態では、注射は、「注入帯」の形態で骨格筋由来細胞を注入することを含む。本明細書で使用される「注入帯」は、注入トラックの長さに沿った、又は長さの一部に沿った、すなわち、筋肉組織への針の挿入によって作られた管に沿った細胞の配置を指す。換言すれば、注入に続いて、針が引き抜かれると同時に、細胞は、注射針が動かされ、特に注射トラックに沿って引っ込められると、連続的又は断続的な仕方でシリンジから排出される。細胞のそのような安定した分配は、注射デバイス/針が標的筋組織に入るときに形成される注入管(injection canal)に沿って、細胞を含む注射溶液の連続的な送達を提供する。特定の実施形態において、注入帯又は管は、約0.8mm以下の直径を有するべきである。そうでなければ、これは、注入管の中心にある骨格筋由来細胞の壊死につながり、その結果、有害な炎症及びその他の作用をもたらすからである。
【0101】
本発明の方法で使用するための注射デバイスは、対象の組織、特にヒト組織を穿通することができ、溶液、特に骨格筋由来細胞を含む溶液を、特に患者の組織内の所望の位置に送達することができるいかなるデバイスであってもよい。注射デバイスは、例えば、中空針を含むことができる。注射デバイスはまた、骨格筋由来細胞を注入するのに適したいかなるタイプのシリンジであってもよい。より洗練された実施形態では、注射デバイスは、例えば、空気圧を加えることにより細胞懸濁液を注入する注入ガンであることができる。特に、注射デバイスは、それぞれキーホールアプリケーションとキーホール手術に適している。
【0102】
特定の直径の注射針を選択することにより、1mm3あたりの注射量を正確に事前に決定できる。注射針の直径は筋肉構造の損傷につながる可能性があるため、通常5mmを超えない。
【0103】
注射デバイスの位置及び動作をモニターするための超音波画像化手段は、当技術分野で知られるいかなる標準的な超音波画像化装置によって達成することができる。モノプラナー又はバイプラナーの標準的な超音波プローブに加えて、例えば、3Dソノグラフィーやカラードップラーソノグラフィーなどの新しい超音波技術を使用することもできる。特定の実施形態では、上記のように、注射デバイスはソノグラフィーイメージング手段を含む。
【0104】
本明細書に記載されるいかなる方法又は組成物は、本明細書に記載されるいかなる他の方法又は組成物に関して実施され得ることが企図される。
【0105】
以下の実施例は本発明を説明するが、限定するものと見なされない。
【実施例0106】
実施例1-SMDCの取得
SMDCを取得するため、失禁患者の大胸筋または上腕二頭筋から、骨格筋バイオプシー検体を採取した。バイオプシーを行うため、まず大胸筋筋膜に達するまで、筋肉の上から約1cm長の切開により皮膚を開いた。筋膜を切開し、1cm3の筋肉組織(バイオプシー検体)を採集した。約4°Cまで予冷され、ゲンタマイシン(1~5μg/mlの最終濃度)を含有するハムF-10基礎培地からなるバイオプシー検体輸送培地の中に、バイオプシー検体を直接移した。バイオプシー検体を、バイオプシー検体輸送培地内に約26時間、1~11℃で保存した。次に、バイオプシー検体を1×PBSで満たされたペトリ皿に移した。無菌の鉗子とメスを使って筋肉組織を結合組織から分離した。その後、筋肉組織を1×PBSで満たされた別のペトリ皿に移し、メスを使って2~3mm2のサイズの小片に切り分けた。上記のような追加の移動ステップを経たのち、組織小片をさらに1mmの小片に切り分けた。組織片を最終的に1×PBSで満たされた遠心分離管の中に移し、1300rpmで10分間、遠心分離を行った。遠心分離後、上清を取り除き、8μg/mlのゲンタマイシンを含有する1×PBS中に筋肉組織を再懸濁した筋肉組織懸濁液を、その後2~8℃まで48時間、冷却した。冷却後、筋肉組織懸濁液を10分間1300rpmで遠心分離し、上清を取り除き、2.5mlの消化液は、ハムF-10中に、1~5mg/mlのコラゲナーゼと、2~4%v/vのHEPES緩衝液と、0.1~10%v/vのウシ胎児血清と、5~10μg/mlのゲンタマイシンとを含有した。その後、筋肉組織懸濁液に、5%のCO2、37℃で6~20時間インキュベーションを行った。次に、懸濁液を1300rpmで10分間遠心分離し、上清を取り除き、ハムF-10中に、10~20%v/vのFCSと、1~3ng/mlのbFGFと、3~10μg/mlのゲンタマイシンと、を含有する培地中に、ペレットを再懸濁し、細胞培養フラスコに播種した。培養フラスコの底に付着したSMDCは、培地を3~4日毎に交換し、コンフルエントに達した後での剥離後の継代培養により、さらに維持された。1×107~5×107のSMDCに到達するまで継代培養を行った。
【0107】
細胞の計測はケモメテック(商標)の細胞計数装置のマニュアルに沿って行った。この方法は、細胞核のヨウ化プロピジウム染色を利用して、0.2ml中の細胞数を算出するものである。自動計測の前に、(細胞膜を透過処理するために)100μlの細胞懸濁液を200μlの試薬A(溶解バッファー)と混合し、常温で5分間インキュベーションを行った。200μlの試薬B(安定化バッファー)を添加した。懸濁液を混合し、ヌクレオカセット(商標)を用いて採集し、最後に測定した。
【0108】
図1は、本発明により得られ位相差顕微法により可視化された、標準的な細胞培養フラスコ上のSMDCの形態を示している。
【0109】
実施例2-フローサイトメトリー
フローサイトメトリー分析を、Guava easyCyte6HT-2Lフローサイトメーター(メルクミリポア、ダルムシュタット、ドイツ)で行った。簡潔に言えば、37℃、5分間でトリプシンを用いて細胞を採取し、400rcfで遠心分離し、1%のFCSを含有する1×PBS中に再懸濁した。40000/反応物の濃度の細胞を、5μlの抗CD56-PE(ベックマン・コールター社、フランス)、イソ型IgG1-PE(ベックマン・コールター社)、イソ型Alexa488(シグマ)、抗CD105-PE(ベックマン・コールター社、フランス)またはA2B5-Alexa488抗体(ミリポア)と共に、15分間、1.5mlのエッペンドルフ(登録商標)チューブ中で、4℃の暗所でインキュベーションを行った。96ウェル丸底型プレート中でFACS測定を行うために、細胞を1mlのPBSで洗浄し、400rcfで遠心分離し、200μlの1×PBSの中に再懸濁した。洗浄と懸濁の後、各反応物に、5μlの生存判別色素である7-アミノアクチノマイシンD(ベックマン・コールター社、フランス)を加え、プレートを4℃で10分間インキュベーションした。Guava InCyte(商標)v.2.3ソフトウェアを用いて細胞イベントを取得した。1.8μl/mlのサンプル供給量、最小の3000イベントで、ヒストグラムとドットプロットが生成された。陽性染色は、少なくとも99%陰性として設定されたアイソタイプ対照との比較により得られた。
【0110】
実施例3-免疫細胞染色
まず、細胞培養皿の上清を廃棄し、細胞をPBSで3回洗浄した。常温で20分間、4%のホルムアルデヒド溶液で細胞を覆うことにより、透過化と固定化を行った。次いで、各々にインキュベーションステップを行った後に、PBSで細胞を3回洗浄した。その後、細胞を500μlのハイドロゲンパーオキサイド-ブロック(サーモフィッシャーサイエンティフィック)で覆い、常温で5分間インキュベーションを行った。終濃度が40μg/ml(w/v)の一次抗体(デスミン)をピペットで細胞に加え、少なくとも90分間インキュベーションを行った(37℃、5%CO2)。細胞をその後、500μlのビオチンコンジュゲート二次抗体(ヤギ抗ウサギ、ポリクローナル、サーモフィッシャーサイエンティフィック)で覆い、一次抗体と同じ条件下であるが少なくとも60分間インキュベーションを行った。抗体結合の可視化のため、500μlの西洋ワサビストレプトアビジンペルオキシダーゼ(ベクターラブズ社)を、(PBSで希釈された)2~5μg/mlの終濃度で添加し、37℃、5%のCO2で20分間インキュベーションを行った後、500μlのクロモゲン単一溶液によって細胞を覆い、5~15分後にそれを除去した。PBSによる最終洗浄ステップを実施した後、結果を観察した。免疫細胞染色によってデスミン陽性に染色された細胞は、暗赤色に視覚化される。
【0111】
実施例4-SMDCの純度
実施例1に記載の手順で取得したSMDCを、筋原性マーカーであるCD56(NCAM)とデスミンの純度に対して試験した。CD56で陽性である細胞の百分率を実施例2に記載のフローサイトメトリーを用いて測定した。本発明により得られた実施例1に記載のSMDCは、99.3%のCD56陽性細胞(図2A)と、98.77%の生存細胞(図2B)を含んでいた。さらに、実施例1に記載の方法を用いて得られた1つの代表的なSMDCバッチのデスミン発現について、実施例3に記載されている免疫細胞染色により分析した。図4は実施例1により得られた高純度のSMDCを示しており、細胞のほとんどがデスミン染色に対して陽性であった(図3)。
【0112】
実施例5-細胞分化
ヒト筋芽細胞の合胞体筋管への分化は、増殖培地を無血清分化培地に交換した場合に起こる。骨格筋細胞分化培地(プロモセル社)に、骨格筋細胞分化培地補充パックおよび250μlのゲンタマイシンを(培地を入手した会社のプロトコルに記載されているように)補足した。分化の開始のため、実施例1で説明したようにして事前計測された(60000~480000細胞の)4ウェルまたは24ウェルのディッシュの中に、(増殖培地中の)細胞を播種した。細胞をディッシュに付着させた後(一晩)、増殖培地を廃棄し、細胞を分化培地で1回洗浄し、500μlの分化培地で覆った。
【0113】
実施例6-SMDCの筋原性能力
筋原性系譜からなるSMDCは、インビボで骨格筋繊維を表している合胞体筋管を、インビトロで融合して形成することができる。したがってSMDCの筋原性能力がインビトロの分化により試験された。実施例1に記載され取得された細胞を、実施例5に記載されている通りに分化誘導することにより筋原性能力を試験した。SMDCは、図4でのSMDCの代表的なバッチに図示されている通り、デスミン陽性(実施例3に記載の染色)の巨大な筋管を形成した。これらの結果から、骨格筋組織を機能的に再生するために必要なSMDCの筋原性能力が確認された。
【0114】
実施例7-遺伝子発現解析
実施例1により得られたSMDCを、実施例1にも記載されている細胞計測に従って、70パーセントの密集度まで6ウェルのプレートで1ウェル当たり500000細胞の密度で播種し、次いで全RNAをNeasy RNA 単離キット(キアゲン社)を用いてメーカの使用説明書に従って分離した。RNA濃度と精製度を、変性剤ゲル電気泳動法およびアジレント社の2100バイオアナライザを用いたマイクロ流体分析によって評価した。マイクロアレイハイブリダイゼーションのサンプル調整を、ニュージェン社のOvation Pico SLWTAシステムV2およびニュージェン社のEncore Biotin Moduleマニュアル(ニュージェンテクノロジー社、サンカルロス市、米国)に記載の通りに行った。簡潔には、7.5ngの全RNAを2ステッププロセスで二本鎖cDNAに逆転写し、SPIAタグ配列を導入した。ビーズ精製したcDNAを、SPIA増幅反応を用いて増幅した後、追加でビーズ精製を行った。4.5μgのSPIA cDNAを細分化し、末端ビオチン標識し、アフィメトリクスのPrimeViewヒト遺伝子発現アレイに対し、Gene Chip Hybridization Oven 640の中で45℃で16時間、ハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーション済みのアレイを洗浄し、アフィメトリクスのFluidics Station FS450の中で染色し、アフィメトリクスのGene Chip Scanner3000 7Gを用いて蛍光シグナルを計測した。アフィメトリクスのGene Chip Command Console v4.1.3ソフトウェアにより流体性とスキャン機能を制御した。データ処理はアフィメトリクスのサービスプロバイダーおよびコア施設である「KFB-Center of Excellence for Fluorescent Bioanalytics」(レーゲンスブルク、ドイツ;www.kfb-regensburg.de)で行った。log2スケールの合計プローブセットシグナルを、アフィメトリクス社のGene Chip Expression Console v1.4ソフトウェアのRMA(1)アルゴリズムを用いて計算した。実施例1で得られたSMDCの遺伝子発現の結果を既存の方法で得られたSMDCと比較するため、2014年のAbujarourら(R. Abujarour et al., “Myogenic differentiation of muscular dystrophy-specific induced pluripotent stem cells for use in drug discovery,” Stem Cells Transl. Med., vol. 3, no. 2, pp. 149-160, Feb. 2014)により発行された、商業的に入手可能なSMDC(Lonza)の遺伝子発現データを、出版物に付属のデータベース「ftp://ftp.ncbi.nlm.nih.gov/pub/geo/DATA/supplementary/series/GSE46633/GSE46633_RAW.tar;最終追加;2017年7月21日)」からダウンロードした。実施例1で得られたSMDCの遺伝子発現と、Abujarourら(2014年)により分析されたSMDCの比較は、Partek-Flow-ソフトウェアを提供会社(Partek社)に従って適用し、異なる遺伝子のアノテーション当たりの平均リード数を比較することにより行った。したがって、アノテーション当たりの平均リード数が多いほど、より高い遺伝子発現を表すアノテーション付きmRNAの存在量が多くなる。
【0115】
実施例8-SMDCの神経筋サポート機能
実施例1を実施して得られたSMDCの神経筋サポート機能を、フローサイトメトリー(実施例2に記載)により行われたSMDCの細胞表面へのA2B5抗体の陽結合により判断した。図5に図示の通り、実施例1で得られた96.16%のSMDCは、A2B5反応性抗体に対して陽性であり、筋原性決定の他に、SMDCは神経細胞的な特性を呈していることが示された。本発明により得られたSMDCの神経筋サポート機能を、先行技術により単離された筋芽細胞と比較するために、SMDCのインビトロST3GAL1およびST3GAL2で最も高いスフィンゴ糖脂質受容体活性を呈するA2B5反応性ガングリオシドの形成に不可欠な酵素の遺伝子発現を、実施例7に記載した通りに解析した。図5に図示の通り、ST3GAL1とST3GAL2の何れのmRNA発現も、本発明により得られたSMDCの方が、市販のSMDCと比較して高かった。さらに、ST3GAL3発現は、実施例1で得られたSMDCの方が高かった。
【0116】
実施例9-組織切り分け後に冷却しない細胞の取得
比較例として、冷却ステップを省略して本発明による方法を実施した。SMDCを取得するため、失禁患者の大胸筋または上腕二頭筋から、骨格筋バイオプシー検体を採取した。バイオプシーを行うため、まず大胸筋の筋膜に達するまで、筋肉の上から約1cm長の切開により皮膚を開いた。筋膜を切開して、1cm3の筋肉組織(バイオプシー検体)を採取した。約4℃まで事前に冷却され、ゲンタマイシン(1~5μg/mlの最終濃度)を含有するハムF-10基礎培地からなる、バイオプシー検体輸送培地の中に、バイオプシー検体を直接移した。バイオプシー検体を、バイオプシー検体輸送培地内に約26時間、1~11℃で保存した。次に、バイオプシー検体を1×PBSで満たされているペトリ皿に移した。無菌の鉗子とメスを使って筋肉組織を結合組織から分離した。その後、筋肉組織を1×PBSで満たされた別のペトリ皿に移し、メスを使って2~3mm2サイズの小片に切り分けた。上記のような追加の移動ステップを経たのち、組織小片をさらに1mmの小片に切り分けた。組織片を最終的に1×PBSで満たされた遠心分離管の中に移し、1300rpmで10分間遠心分離した。遠心分離後、上清を取り除いて、8μg/mlのゲンタマイシンを含有する1×PBSの中に筋肉組織を再懸濁させた。筋肉組織懸濁液を10分間1300rpmで遠心分離してから、上清を取り除き、2.5mlの消化液は、ハムF-10中に、1~5mg/mlのコラゲナーゼと、2~4%v/vのHEPES緩衝液と、0.1~10%v/vのウシ胎児血清と、5~10μg/mlのゲンタマイシンとを含有した。その後、筋肉組織懸濁液に、5%のCO2、37℃で6~20時間、インキュベーションを行った。次に、懸濁液を1300rpmで10分間遠心分離し、上清を取り除き、ハムF-10中の3~10μg/mlのゲンタマイシンと、10~20%v/vのFCSと、1~3ng/mlのbFGFと、を含有する培地中に、ペレットを再懸濁し、細胞培養フラスコに播種した。培養フラスコの底に付着したSMDCは、培地を3~4日おきに交換し、コンフルエントに達した後での剥離後の継代培養により、さらに維持された。1×107~5×107のSMDCに到達するまで継代培養を行った。
【0117】
実施例10-SMDCの間葉細胞マーカー発現
実施例1を実施して得られたSMDCの間葉系マーカー発現を、抗CD105抗体、抗CD105-PE(ベックマン・コールター社)の、フローサイトメトリー(図2に記載)により測定されたSMDCの細胞表面への結合により、決定した。図8に図示されている通り、陽性の閾値をアイソタイプ対照(0.31%陽性)に従って設定したとき、実施例1で得られた98.69%のSMDCが、CD105反応性抗体に対して陽性と判定され、SMDCが間葉系細胞および/または間葉に由来するものであることが示唆された。
【0118】
実施例11-SMDCのアセチルコリンエステラーゼ活性測定
アセチルコリンエステラーゼ(AChE)活性を測定するため、200000のSMDCを24ウェルプレートのゼラチンコートウェル中に播種し、実施例5に説明されるように分化誘導した。分化の開始から6日で、300μlの0.5mMの5,5’-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)溶液(pH7.2、0.1%トリトンX-100を含むリン酸緩衝液で調整)を直ちに添加して、分化培地を24ウェルプレートから丁寧に取り除いた。常温で暗所にて2分間のインキュベーションを行った後、(蒸留水で調製された)50μlの5.76mMのヨウ化アセチルチオコリン(ATI)を添加した。反応内容物は、30℃で60分間のインキュベーションが行われ、Anthos Zenyth 340rtのマイクロプレートリーダー(バイオクロム社、ケンブリッジ、英国)で、412nm(OD412nm)で光学密度(OD)測定を行った。細胞以外の全ての試薬から構成されたブランク反応もまた含まれた。較正OD412nm値は、平均OD412nmからブランクの平均測定値を差し引くことにより取得された。標準曲線の直線方程式を参照して、相対mU(AChEmrel)のAChE活性を計算した。すぐに使用できる50U/mlのAChE原液(Electrophorus electricus由来、AATバイオクエスト(登録商標)社、サニーベール、カリフォルニア州、米国)の4~500mU/ml希釈液を測定することにより、標準曲線を取得した。標準希釈液をリン酸緩衝液(pH7.2、0.1%のトリトンX-100を含む)で調整して、直ちに使用した。AChE標準酵素分析については、200μlの各希釈液を、それぞれ300μlの0.5mMのDTNBおよび50μlの5.76mMのATIと混合し、60分後に24ウェルプレートの中でOD412nmを測定した。細胞タイプ特定のタンパク質の濃度に対して正規化するため、測定量の細胞のAChE活性を、これら細胞の総タンパク質含有量で割ることにより、単位gタンパク質あたりのmUrelAChE活性が得られた(AChEmUrel/gタンパク質)。細胞集団内の総タンパク質量を分析するため、実施例5に従って分化した付着細胞の分取分をまずPBSで2回洗浄し、次いでPBST(0.1%のトリトンX-100)で覆ってから、常温で10分間のインキュベーションを行った。次に、溶解物(lysate)を再懸濁し、エッペンドルフ(登録商標)チューブに移し、すぐにボルテックスにかけた後に、1200×gで4分間、遠心分離した。最後に、上澄み液を新たなエッペンドルフチューブに移し、Anthos Zenyth 340rtのマイクロプレートリーダー(バイオクロム社、ケンブリッジ、英国)を用いて540nmでODを測定して、Pierce BCA タンパク質定量キット(サーモサイエンティフィック、マサチューセッツ州、米国)を、メーカの説明書に従って使用することにより、タンパク質濃度を測定した。
【0119】
実施例12-SMDC融合能力の定量化
SMDCの融合能力は、多核筋管を形成する能力に基づいており、筋原潜在力を表すものである。融合能力は融合率として定量化されるが、これは多核筋管内に存在する核数を表しており、少なくとも3つの核を含む細胞を、観察された顕微鏡視野内の総核数で割ったものとして定められる。SMDCの融合率を測定するために、2×105個の細胞を、ゼラチンでコーティングした24ウェルプレート上に播種し、播種から24時間後に、増殖培地から骨格筋分化培地に切り替えることで、分化誘導を行った。分化から6日後、PBSで細胞を2回洗浄し、4%のPFAで10分間、固定化を行った。次に、PBSで細胞を3回洗浄し、2μg/mlのヘキスト33342溶液により20分間、染色を行った。各サンプルについて、免疫蛍光イメージングの際に少なくとも3つの視野が捉えられ、核と細胞境界を簡単に検出できるように位相差画像を重ね合わせた。融合率は、分析した全ての視野に対する平均値を算出した後に、捉えた各視野に対して、管内の核数を視野あたりの総核数で割ることにより算出した。少なくとも3つの核を有する細胞のみを筋管とみなした。統計分析のため、異なる患者に由来する少なくとも3つの集団を、各集団細胞に対して分析した。
図1
図2
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図10