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特開2023-85514オルガノイドを入手するための組成物および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085514
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】オルガノイドを入手するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20230613BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20230613BHJP
   A61K 35/36 20150101ALI20230613BHJP
   A61K 35/38 20150101ALI20230613BHJP
   A61K 35/39 20150101ALI20230613BHJP
   A61K 35/407 20150101ALI20230613BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20230613BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20230613BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20230613BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20230613BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230613BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230613BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
C12N5/071
C12Q1/02
A61K35/36
A61K35/38
A61K35/39
A61K35/407
A61L27/36 100
A61L27/36 300
A61L27/38 100
A61L27/38 300
A61L27/40
A61L27/58
A61P1/04
A61P1/16
A61P1/18
【審査請求】有
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063118
(22)【出願日】2023-04-10
(62)【分割の表示】P 2019565846の分割
【原出願日】2018-05-29
(31)【優先権主張番号】62/512,138
(32)【優先日】2017-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518393115
【氏名又は名称】ステムセル テクノロジーズ カナダ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】セゲリッツ ハーリス-パトリシア
(72)【発明者】
【氏名】コンドル ライアン
(72)【発明者】
【氏名】リーデル マイケル
(57)【要約】      (修正有)
【課題】上皮オルガノイドを入手するための方法、入手されるオルガノイドおよびその使用を提供する。
【解決手段】1つまたは複数の上皮管、上皮管断片、および/またはそれから単離された上皮幹細胞を、基本培地の存在下で細胞外マトリックスと接触させて培養する工程であって、前記培地がFGFおよび/またはニコチンアミドを含まない工程を含む。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、上皮オルガノイドを入手するための方法:
1つまたは複数の上皮管、上皮管断片、および/またはそれから単離された上皮幹細胞もしくは上皮前駆細胞を基本培地の存在下で培養する工程であって、該培地がFGFおよび/またはニコチンアミドを含まない、工程。
【請求項2】
培地がWntアゴニストを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
WntアゴニストがCHIR99021である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
Wntアゴニストが、Wnt、Wnt3a、ノリン、R-スポンジン1、R-スポンジン2、R-スポンジン3、R-スポンジン4、およびGSK阻害剤のうちの1つまたは複数より選択される、請求項2記載の方法。
【請求項5】
培地がEGFを含む、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
培地が、B27成分および/またはN2成分および/またはN-アセチルシステインを含む、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
前記上皮細胞または前駆幹細胞がヒト細胞である、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
上皮幹細胞または上皮前駆細胞がマウス細胞である、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
上皮幹細胞または上皮前駆細胞がラット細胞である、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
上皮幹細胞または上皮前駆細胞が肝臓上皮幹細胞である、請求項1~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
上皮幹細胞または上皮前駆細胞が膵臓上皮幹細胞である、請求項1~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
上皮幹細胞または上皮前駆細胞が腸上皮幹細胞である、請求項1~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
培地が、上皮オルガノイドを長期培養するのに有効であり、該長期培養が約50回以上の継代である、請求項1~12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
1つまたは複数の上皮管、上皮管断片、および/または上皮幹細胞もしくは上皮前駆細胞を細胞外マトリックスと接触させて培養する工程をさらに含む、請求項1~13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
1つまたは複数の上皮管、上皮管断片、および/または上皮幹細胞もしくは上皮前駆細胞を、細胞外マトリックスに由来する低濃度の支持体と接触させて培養する工程をさらに含む、請求項1~14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
細胞外マトリックス濃度が0.1~50%(v/v)である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
上皮管および/または上皮管断片に由来する上皮幹細胞または上皮前駆細胞を懸濁状態で培養する工程をさらに含む、請求項1~13のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
細胞外マトリックス濃度が約0.1%(v/v)以下である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
細胞外マトリックスがマトリゲル(商標)を含む、請求項1~18のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
上皮管、上皮管断片、および/またはそれから単離された上皮幹細胞もしくは上皮前駆細胞が無傷の組織から入手される、請求項1~19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
上皮オルガノイドを成熟条件および/または分化条件に供する工程をさらに含む、請求項1~20のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
請求項10記載の方法に従って入手される、肝臓オルガノイド。
【請求項23】
請求項11記載の方法に従って入手される、膵臓オルガノイド。
【請求項24】
請求項12記載の方法に従って入手される、腸オルガノイド。
【請求項25】
創薬スクリーニングを行う;毒性をアッセイする;発生学、細胞系譜、および分化経路を調査する;組換え遺伝子発現を含む遺伝子発現を研究する;損傷および修復に関与する機構を調査する;炎症性疾患および感染症を調査する;細胞形質転換の発症メカニズムおよびがんの原因を研究する方法であって、請求項1~21のいずれか一項記載の上皮オルガノイドを入手する工程を含む、方法。
【請求項26】
対象における肝臓の障害、状態、もしくは疾患を処置する方法または再生医療のための方法であって、請求項22記載の肝臓オルガノイドを、それを必要とする対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項27】
対象における膵臓の障害、状態、もしくは疾患を処置する方法または再生医療のための方法であって、請求項23記載の膵臓オルガノイドを、それを必要とする対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項28】
対象における腸の障害、状態、もしくは疾患を処置する方法または再生医療のための方法であって、請求項24記載の腸オルガノイドを、それを必要とする対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項29】
上皮オルガノイドを入手するための方法であって、以下の工程を含む、方法:
上皮組織を含む臓器またはその一部を単離する工程;
単離された臓器またはその一部を切断および機械的破砕して、上皮組織の1つまたは複数の断片を得る工程;
上皮組織の1つまたは複数の断片を酵素消化して、上皮管および/または管断片を得る工程;
消化された上皮管および/または管断片をセルストレーナーで収集する工程;
収集された上皮管および/または管断片をプレートする工程;ならびに
プレートされた上皮管および/または管断片を基本培地の存在下で培養する工程であって、該培地がFGFおよび/またはニコチンアミドを含まない、工程。
【請求項30】
培地がWntアゴニストを含む、請求項29記載の方法。
【請求項31】
WntアゴニストがCHIR99021である、請求項30記載の方法。
【請求項32】
Wntアゴニストが、Wnt、Wnt3a、ノリン、R-スポンジン1、R-スポンジン2、R-スポンジン3、R-スポンジン4、およびGSK阻害剤のうちの1つまたは複数より選択される、請求項30記載の方法。
【請求項33】
培地がEGFを含む、請求項29~32のいずれか一項記載の方法。
【請求項34】
培地がB27成分、N2成分、および/またはN-アセチルシステインを含む、請求項29~33のいずれか一項記載の方法。
【請求項35】
消化中に管構造のインタクトネスを維持する工程をさらに含む、請求項29~34のいずれか一項記載の方法。
【請求項36】
表面または器具を界面活性剤で処理した後に、上皮組織の1つまたは複数の断片と接触させる工程をさらに含む、請求項29~35のいずれか一項記載の方法。
【請求項37】
収集された上皮管および/または上皮管断片を細胞外マトリックスと接触させてプレートする工程をさらに含む、請求項29~36のいずれか一項記載の方法。
【請求項38】
収集された上皮管および/または上皮管断片を、細胞外マトリックスに由来する低濃度の支持体と接触させてプレートする工程をさらに含む、請求項29~37のいずれか一項記載の方法。
【請求項39】
細胞外マトリックス濃度が0.1~50%(v/v)である、請求項38記載の方法。
【請求項40】
収集された上皮管および/または上皮管断片を懸濁状態でプレートする工程をさらに含む、請求項29~36のいずれか一項記載の方法。
【請求項41】
細胞外マトリックス濃度が約0.1%(v/v)以下である、請求項40記載の方法。
【請求項42】
細胞外マトリックスがマトリゲル(商標)を含む、請求項29~41のいずれか一項記載の方法。
【請求項43】
上皮オルガノイドを成熟条件および/または分化条件に供する工程をさらに含む、請求項29~42のいずれか一項記載の方法。
【請求項44】
FGFおよび/またはニコチンアミドが無い基本培地を含む、上皮オルガノイドを入手するための培地。
【請求項45】
Wntアゴニストをさらに含む、請求項44記載の培地。
【請求項46】
WntアゴニストがCHIR99021である、請求項45記載の培地。
【請求項47】
Wntアゴニストが、Wnt、Wnt3a、ノリン、R-スポンジン1、R-スポンジン2、R-スポンジン3、R-スポンジン4、およびGSK阻害剤のうちの1つまたは複数より選択される、請求項45記載の培地。
【請求項48】
EGFをさらに含む、請求項44~47のいずれか一項記載の培地。
【請求項49】
B27成分および/またはN2成分および/またはN-アセチルシステインをさらに含む、請求項44~48のいずれか一項記載の培地。
【請求項50】
細胞外マトリックスをさらに含む、請求項44~49のいずれか一項記載の培地。
【請求項51】
細胞外マトリックスの濃度が0.1~50%(v/v)である、請求項50記載の培地。
【請求項52】
細胞外マトリックスの濃度が約0.1%(v/v)以下である、請求項50記載の培地。
【請求項53】
細胞外マトリックスがマトリゲル(商標)を含む、請求項50~52のいずれか一項記載の培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本開示は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる、2017年5月29日に出願された米国仮出願番号62/512,138の恩典を主張する。
【0002】
分野
本開示は、細胞培養方法と、前記細胞培養方法において使用するための細胞培養培地製剤に関する。さらに詳細には、本開示は、一次組織またはその細胞を培養するための細胞培養方法および細胞培養培地と、一次組織またはその細胞から上皮三次元(3D)構造への維持、拡大、分化、および自己組織化に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
成人幹細胞および前駆細胞の発見から、科学界は、このような細胞の増殖および分化をエクスビボで支持するのに必要な分子的な手がかりを明らかにすることに焦点を当ててきた。成人幹細胞を導き出すことによって、胚性幹細胞の利用に関連する倫理的な問題が回避される。幹細胞の培養および分化は一般的に2D培養系下で行われる。残念なことに、幹細胞のこれらの2D培養物には、内因性組織のインビトロ類似物として利用された時に多くの欠点がある。例えば、2D培養物は、細胞極性化を生じる能力、細胞機能性を獲得する能力、およびインビトロでヒト生理機能を再現する能力が限られている。このため、薬学的薬物スクリーニング用および治療開発用の細胞モデルとしての精度が低い。従って、関心対象のインビボ組織をもっと正確に再現する、幹細胞およびその誘導細胞タイプについての改善された培養系が必要とされる。
【0004】
コラーゲン、ラミニン、エンタクチン、フィブロネクチン、およびビトロネクチンなどの天然接着タンパク質に基づく人工細胞外マトリックスの設計が、3D環境での培養系に向けた研究方向を支えてきた。このような天然および人工の細胞外マトリックスは細胞インビボニッチを模倣しようと努めている。
【0005】
オルガノイドはインビボでの生物学的材料およびプロセスの3Dインビトロモデルであり、胚発生、組織再生および組織機能性、薬物毒性および薬物感受性、疾患モデル化、ならびに成人幹細胞生物学に関係する多種多様な研究問題に対処するための新規のプラットフォームとして役立つ。上皮オルガノイドは、臓器の幹細胞ニッチから幹細胞および前駆細胞を単離および拡大することによって得られ、幹細胞/前駆細胞および分化細胞の起源となった臓器の重要な生理学的特徴を保っている、幹細胞/前駆細胞および分化細胞の上皮単層または多層で構成される。上皮オルガノイドは、インビボ環境をそっくりまねたインビトロ系に頼っている。上皮オルガノイドが樹立されたら、科学者らは、その特定の研究問題を生理学的に関連する状況で調査することが可能になる。
【0006】
ある特定の組織を代表するオルガノイドを導き出すための細胞培養方法を開発することに関心がある。上皮臓器の中には老化組織と静止状態の組織を含むものもあるが、他の上皮組織は、ホメオスタシス下では連続した代謝回転速度を特徴とし、損傷刺激に曝露された時には、さらに速い速度を特徴とする上皮を含む。従って、このような組織はオルガノイドを導き出すのに特に適している。
【0007】
腸上皮は、樹立された最初のオルガノイド系の1つであった。しかしながら、他の組織からオルガノイドを導き出すための細胞培養法を開発する関心もますます高まってきている。これらの組織の例には肝臓および膵臓が含まれる。腸上皮と同様に、肝臓は、特に、急性または慢性の損傷の条件下で高い再生能力を有する。ホメオスタシス中および損傷中の肝臓組織の再生および代謝回転により、卵形細胞、肝臓前駆体、および成熟肝細胞を含む様々な細胞タイプが生じると考えられてきた。ヘリング管および胆管に局在する条件的幹細胞 (facultative stem cell)はまた、これらの機能の点で自己再生細胞タイプの供給源としても意味づけられてきた。このような細胞をエクスビボで培養および増殖することは、肝臓から単離されたら増殖能および機能性の点で有限でありかつ限界がある初代肝細胞よりも都合が良い。
【0008】
最近、成人幹細胞マーカーLgr5またはEpcamを発現する単一細胞が、損傷を受けたマウス肝臓組織と、損傷を受けていないマウス肝臓組織から単離されており、拡大培地(Expansion Medium)中で培養された時に、内因性インビボ肝臓上皮構造を模倣する肝臓オルガノイドをインビトロで生じる能力があることが示された(Huch et al., 2013, Nature, 494(7436):247-50(非特許文献1); Huch et al. 2015, Cell, 160(1-2): 299-312(非特許文献2))。関連特許出願(US20130189327(特許文献1))において概説された方法が多くのやり方で改善される可能性がある。第1に、US20130189327(特許文献1)に記載のような、毒素を介した実験的肝臓損傷は動物福祉の基準によって異議が唱えられる可能性がある。第2に、損傷を受けた肝臓組織が入手できる可能性があったとしても、手作業でつつくことで肝管を単離する厄介な、かつ技術的に困難な作業を回避することが望ましい場合がある。第3に、US20130189327(特許文献1)に開示される拡大培地は複雑かつ高価であり、従って、様々な増殖因子、低分子、ビタミン、および化学物質を含む非常に多くの成分の量を決める、および/またはこれらの成分を除去することが望ましい場合がある。第4に、US20130189327(特許文献1)は、調製するのに技術的に困難な、規定されていないコンディションドメディウムを必要とするので、非コンディションドメディウムの使用は、ある特定の利益をもたらす可能性がある。
【0009】
従って、上皮オルガノイドを作製するための簡単な細胞培養培地および方法が必要とされる。さらに、もっと速い上皮オルガノイド拡大速度を支持する可能性がある細胞培養培地が必要とされる。最も重要なことには、上記の利益をもたらす細胞培養培地中でのオルガノイドの形成を可能にする、上皮によって裏打ちされた臓器からの上皮管および上皮管断片の収量を改善するための方法が必要とされる。さらに、臓器特異的オルガノイドの樹立に向けて、様々な上皮臓器全体にわたって用いられる可能性がある培地およびプロトコールを確立することが必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】US20130189327
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Huch et al., 2013, Nature, 494(7436):247-50
【非特許文献2】Huch et al. 2015, Cell, 160(1-2): 299-312
【発明の概要】
【0012】
概要
本発明者らは、最小培養条件下で拡大および長期培養される可能性があり、成熟細胞タイプへの下流分化に適している可能性がある、無傷の上皮組織に由来する多量の細胞を単離することができる方法を開発した。
【0013】
本開示は、上皮組織から単離された1つまたは複数の細胞に由来するオルガノイドを入手するための方法であって、1つまたは複数の細胞を本開示の培養培地中で培養する工程を含む、方法、を含む。
【0014】
一態様では、拡大可能な細胞の高収量を得るための方法は、上皮組織を上皮管および/または上皮管断片に酵素消化すること、任意で、消化組織を頻繁に機械的破砕すること、任意で、その後で、単一細胞を除くために、(顕微鏡下で、手作業で管をつつくのではなく)消化された組織をセルストレーナーで濾過することを含む。この高収量の上皮管および/または上皮管断片は本開示の培地中で培養されてもよい。
【0015】
別の態様では、拡大可能な細胞の高収量を得るための方法は、上皮組織を単一の上皮幹細胞および/または前駆細胞に酵素消化すること、任意で、消化組織を頻繁に機械的破砕すること、任意で、その後で、単一の上皮幹細胞および/または前駆細胞から大きな破片を分離するために、消化された組織をセルストレーナーで濾過することを含む。この高収量の細胞は本開示の培地中で培養されてもよい。
【0016】
任意で、上皮管および/または上皮管断片および/または上皮幹細胞および/または前駆細胞はまた、本開示の培養培地と細胞外マトリックスの混合物によって支持されてもよい。
【0017】
一態様では、上皮管および/もしくは上皮管断片ならびに/または上皮幹細胞および/もしくは前駆細胞は基本培地に播種されてもよい。このような基本培地は、EGF、R-スポンジン、線維芽細胞増殖因子、およびニコチンアミドのうちの1つ、一部、または全てが無いことを特徴としてもよい。
【0018】
別の態様では、拡大用基礎培地はWnt-βカテニン経路のアクチベーターを含む。
【0019】
別の態様では、拡大培地は上皮細胞増殖因子(EGF)とWnt-βカテニン経路のアクチベーターを含む。
【0020】
別の態様では、拡大培地は、ノギンタンパク質または異なる骨形成タンパク質(BMP)アンタゴニスト、BMPの下流にあるシグナル伝達の阻害剤、例えば、LDN193189、EGF、およびWnt-βカテニン経路のアクチベーターを含む。
【0021】
従って、本開示は、上皮オルガノイドを入手するための方法であって、1つまたは複数の上皮管、上皮管断片、および/またはそれから単離された上皮幹細胞もしくは上皮前駆細胞を基本培地の存在下で培養する工程であって、前記培地がFGFおよび/またはニコチンアミドを含まない工程を含む、方法、を提供する。
【0022】
一態様では、前記培地は、Wntアゴニスト、任意で、CHIR99021ならびに/またはWnt、Wnt3a、ノリン(Norrin)、R-スポンジン1、R-スポンジン2、R-スポンジン3、R-スポンジン4、およびGSK阻害剤のうちの1つまたは複数より選択されるWntアゴニストを含む。
【0023】
一態様では、前記培地はEGFを含む。別の態様では、前記培地はB27成分および/またはN2成分、および/またはN-アセチルシステインを含む。
【0024】
別の態様では、上皮幹細胞または上皮前駆細胞は、ヒト細胞、マウス細胞、ラット細胞、肝臓上皮幹細胞、膵臓上皮幹細胞、または腸上皮幹細胞である。
【0025】
別の態様では、前記培地は上皮オルガノイドを長期培養するのに有効であり、長期培養は約50回以上の継代である。
【0026】
別の態様では、前記方法は、1つまたは複数の上皮管、上皮管断片、および/または上皮幹細胞もしくは上皮前駆細胞を細胞外マトリックスと接触させて培養する工程をさらに含む。
【0027】
別の態様では、前記方法は、1つまたは複数の上皮管、上皮管断片、および/または上皮幹細胞もしくは上皮前駆細胞を、細胞外マトリックスに由来する低濃度の支持体(reduced support)と接触させて培養する工程をさらに含む。
【0028】
一態様では、細胞外マトリックス濃度は0.1~50%(v/v)である。
【0029】
別の態様では、前記方法は、上皮管および/または上皮管断片に由来する上皮幹細胞または上皮前駆細胞を懸濁状態で培養する工程をさらに含む。一態様では、細胞外マトリックス濃度は約0.1%(v/v)以下である。
【0030】
別の態様では、細胞外マトリックスはマトリゲル(商標)を含む。
【0031】
別の態様では、上皮管、上皮管断片、および/またはそれから単離された上皮幹細胞もしくは上皮前駆細胞は無傷の組織から入手される。
【0032】
別の態様では、前記方法は、上皮オルガノイドを成熟条件および/または分化条件に供する工程をさらに含む。
【0033】
本開示はまた、本明細書において開示される方法に従って入手された肝臓オルガノイドも提供する。
【0034】
本開示はまた、本明細書において開示される方法に従って入手された膵臓オルガノイドも提供する。
【0035】
本開示はまた、本明細書において開示される方法に従って入手された腸オルガノイドも提供する。
【0036】
本開示はまた、創薬スクリーニングを行う;毒性をアッセイする;発生学、細胞系譜、および分化経路を調査する;組換え遺伝子発現を含む遺伝子発現を研究する;損傷および修復に関与する機構を調査する;炎症性疾患および感染症を調査する;細胞形質転換の発症メカニズムおよびがんの原因を研究する方法であって、本明細書において開示される方法に従って上皮オルガノイドを入手する工程を含む、方法、も提供する。
【0037】
さらに、本開示は、対象における肝臓の障害、状態、もしくは疾患を処置する方法または再生医療のための方法であって、本明細書において開示される肝臓オルガノイドを、本明細書において開示される肝臓オルガノイドを必要とする対象に投与する工程を含む、方法、を提供する。
【0038】
さらに、本開示は、対象における膵臓の障害、状態、もしくは疾患を処置する方法または再生医療のための方法であって、本明細書において開示される膵臓オルガノイドを、本明細書において開示される膵臓オルガノイドを必要とする対象に投与する工程を含む、方法、を提供する。
【0039】
さらに、本開示は、対象における腸の障害、状態、もしくは疾患を処置する方法または再生医療のための方法であって、本明細書において開示される腸オルガノイドを、本明細書において開示される腸オルガノイドを必要とする対象に投与する工程を含む、方法、を提供する。
【0040】
本開示はまた、上皮オルガノイドを入手するための方法であって、
上皮組織を含む臓器またはその一部を単離する工程;
単離された臓器またはその一部を切断および機械的破砕して、上皮組織の1つまたは複数の断片を得る工程;
上皮組織の1つまたは複数の断片を酵素消化して、上皮管および/または管断片を得る工程;
消化された上皮管および/または管断片をセルストレーナーで収集する工程;
収集された上皮管および/または管断片をプレートする工程;ならびに
プレートされた上皮管および/または管断片を基本培地の存在下で培養する工程であって、前記培地がFGFおよび/またはニコチンアミドを含まない工程
を含む、方法、も提供する。
【0041】
一態様では、前記培地は、Wntアゴニスト、任意で、CHIR99021を含むか、またはWntアゴニストは、Wnt、Wnt3a、ノリン、R-スポンジン1、R-スポンジン2、R-スポンジン3、R-スポンジン4、およびGSK阻害剤のうちの1つまたは複数より選択される。
【0042】
一態様では、前記培地はEGFを含む。
【0043】
別の態様では、前記培地はB27成分および/またはN2成分および/またはN-アセチルシステインを含む。
【0044】
別の態様では、前記方法は、消化中に管構造のインタクトネス(intactness)を維持する工程をさらに含む。
【0045】
別の態様では、前記方法は、表面または器具を界面活性剤で処理した後に、上皮組織の1つまたは複数の断片と接触させる工程をさらに含む。
【0046】
別の態様では、前記方法は、収集された上皮管および/または上皮管断片を細胞外マトリックスと接触させてプレートする工程をさらに含む。
【0047】
別の態様では、前記方法は、収集された上皮管および/または上皮管断片を、細胞外マトリックスに由来する低濃度の支持体と接触させてプレートする工程をさらに含む。
【0048】
別の態様では、細胞外マトリックス濃度は0.1~50%(v/v)である。
【0049】
別の態様では、前記方法は、収集された上皮管および/または上皮管断片を懸濁状態でプレートする工程をさらに含む。
【0050】
別の態様では、細胞外マトリックス濃度は約0.1%(v/v)以下である。
【0051】
別の態様では、細胞外マトリックスはマトリゲル(商標)を含む。
【0052】
別の態様では、前記方法は、上皮オルガノイドを成熟条件および/または分化条件に供する工程をさらに含む。
【0053】
本開示はまた、FGFおよび/またはニコチンアミドが無い基本培地を含む、上皮オルガノイドを入手するための培地も提供する。
【0054】
一態様では、前記培地はWntアゴニスト、任意で、CHIR99021をさらに含む。
【0055】
別の態様では、Wntアゴニストは、Wnt、Wnt3a、ノリン、R-スポンジン1、R-スポンジン2、R-スポンジン3、R-スポンジン4、およびGSK阻害剤のうちの1つまたは複数より選択される。
【0056】
別の態様では、前記培地はEGFをさらに含む。
【0057】
別の態様では、前記培地はB27成分および/またはN2成分および/またはN-アセチルシステインをさらに含む。
【0058】
別の態様では、前記培地は細胞外マトリックスをさらに含む。
【0059】
一態様では、細胞外マトリックスの濃度は0.1~50%(v/v)である。
【0060】
別の態様では、細胞外マトリックスの濃度は約0.1%(v/v)以下である。
【0061】
別の態様では、細胞外マトリックスはマトリゲル(商標)を含む。
【0062】
本開示はまた、基本培地、HEPES、重炭酸ナトリウム、Rhインシュリン、プロゲステロン、プトレシン、亜セレン酸ナトリウム、ヒトアポトランスフェリン、コルチコステロン、D-(+)-ガラクトース、およびBSAを含む培養培地も提供する。
【0063】
一態様では、前記培地はR-スポンジン-1および/またはCHIR99021をさらに含む。
【0064】
別の態様では、前記培地はEGFをさらに含む。
【0065】
別の態様では、前記培地はBMPアンタゴニストをさらに含む。
【0066】
[本発明1001]
以下の工程を含む、上皮オルガノイドを入手するための方法:
1つまたは複数の上皮管、上皮管断片、および/またはそれから単離された上皮幹細胞もしくは上皮前駆細胞を基本培地の存在下で培養する工程であって、該培地がFGFおよび/またはニコチンアミドを含まない、工程。
[本発明1002]
培地がWntアゴニストを含む、本発明1001の方法。
[本発明1003]
WntアゴニストがCHIR99021である、本発明1002の方法。
[本発明1004]
Wntアゴニストが、Wnt、Wnt3a、ノリン、R-スポンジン1、R-スポンジン2、R-スポンジン3、R-スポンジン4、およびGSK阻害剤のうちの1つまたは複数より選択される、本発明1002の方法。
[本発明1005]
培地がEGFを含む、本発明1001~1004のいずれかの方法。
[本発明1006]
培地が、B27成分および/またはN2成分および/またはN-アセチルシステインを含む、本発明1001~1005のいずれかの方法。
[本発明1007]
前記上皮細胞または前駆幹細胞がヒト細胞である、本発明1001~1006のいずれかの方法。
[本発明1008]
上皮幹細胞または上皮前駆細胞がマウス細胞である、本発明1001~1006のいずれかの方法。
[本発明1009]
上皮幹細胞または上皮前駆細胞がラット細胞である、本発明1001~1006のいずれかの方法。
[本発明1010]
上皮幹細胞または上皮前駆細胞が肝臓上皮幹細胞である、本発明1001~1009のいずれかの方法。
[本発明1011]
上皮幹細胞または上皮前駆細胞が膵臓上皮幹細胞である、本発明1001~1009のいずれかの方法。
[本発明1012]
上皮幹細胞または上皮前駆細胞が腸上皮幹細胞である、本発明1001~1009のいずれかの方法。
[本発明1013]
培地が、上皮オルガノイドを長期培養するのに有効であり、該長期培養が約50回以上の継代である、本発明1001~1012のいずれかの方法。
[本発明1014]
1つまたは複数の上皮管、上皮管断片、および/または上皮幹細胞もしくは上皮前駆細胞を細胞外マトリックスと接触させて培養する工程をさらに含む、本発明1001~1013のいずれかの方法。
[本発明1015]
1つまたは複数の上皮管、上皮管断片、および/または上皮幹細胞もしくは上皮前駆細胞を、細胞外マトリックスに由来する低濃度の支持体と接触させて培養する工程をさらに含む、本発明1001~1014のいずれかの方法。
[本発明1016]
細胞外マトリックス濃度が0.1~50%(v/v)である、本発明1015の方法。
[本発明1017]
上皮管および/または上皮管断片に由来する上皮幹細胞または上皮前駆細胞を懸濁状態で培養する工程をさらに含む、本発明1001~1013のいずれかの方法。
[本発明1018]
細胞外マトリックス濃度が約0.1%(v/v)以下である、本発明1017の方法。
[本発明1019]
細胞外マトリックスがマトリゲル(商標)を含む、本発明1001~1018のいずれかの方法。
[本発明1020]
上皮管、上皮管断片、および/またはそれから単離された上皮幹細胞もしくは上皮前駆細胞が無傷の組織から入手される、本発明1001~1019のいずれかの方法。
[本発明1021]
上皮オルガノイドを成熟条件および/または分化条件に供する工程をさらに含む、本発明1001~1020のいずれかの方法。
[本発明1022]
本発明1010の方法に従って入手される、肝臓オルガノイド。
[本発明1023]
本発明1011の方法に従って入手される、膵臓オルガノイド。
[本発明1024]
本発明1012の方法に従って入手される、腸オルガノイド。
[本発明1025]
創薬スクリーニングを行う;毒性をアッセイする;発生学、細胞系譜、および分化経路を調査する;組換え遺伝子発現を含む遺伝子発現を研究する;損傷および修復に関与する機構を調査する;炎症性疾患および感染症を調査する;細胞形質転換の発症メカニズムおよびがんの原因を研究する方法であって、本発明1001~1021のいずれかの上皮オルガノイドを入手する工程を含む、方法。
[本発明1026]
対象における肝臓の障害、状態、もしくは疾患を処置する方法または再生医療のための方法であって、本発明1022の肝臓オルガノイドを、それを必要とする対象に投与する工程を含む、方法。
[本発明1027]
対象における膵臓の障害、状態、もしくは疾患を処置する方法または再生医療のための方法であって、本発明1023の膵臓オルガノイドを、それを必要とする対象に投与する工程を含む、方法。
[本発明1028]
対象における腸の障害、状態、もしくは疾患を処置する方法または再生医療のための方法であって、本発明1024の腸オルガノイドを、それを必要とする対象に投与する工程を含む、方法。
[本発明1029]
上皮オルガノイドを入手するための方法であって、以下の工程を含む、方法:
上皮組織を含む臓器またはその一部を単離する工程;
単離された臓器またはその一部を切断および機械的破砕して、上皮組織の1つまたは複数の断片を得る工程;
上皮組織の1つまたは複数の断片を酵素消化して、上皮管および/または管断片を得る工程;
消化された上皮管および/または管断片をセルストレーナーで収集する工程;
収集された上皮管および/または管断片をプレートする工程;ならびに
プレートされた上皮管および/または管断片を基本培地の存在下で培養する工程であって、該培地がFGFおよび/またはニコチンアミドを含まない、工程。
[本発明1030]
培地がWntアゴニストを含む、本発明1029の方法。
[本発明1031]
WntアゴニストがCHIR99021である、本発明1030の方法。
[本発明1032]
Wntアゴニストが、Wnt、Wnt3a、ノリン、R-スポンジン1、R-スポンジン2、R-スポンジン3、R-スポンジン4、およびGSK阻害剤のうちの1つまたは複数より選択される、本発明1030の方法。
[本発明1033]
培地がEGFを含む、本発明1029~1032のいずれかの方法。
[本発明1034]
培地がB27成分、N2成分、および/またはN-アセチルシステインを含む、本発明1029~1033のいずれかの方法。
[本発明1035]
消化中に管構造のインタクトネスを維持する工程をさらに含む、本発明1029~1034のいずれかの方法。
[本発明1036]
表面または器具を界面活性剤で処理した後に、上皮組織の1つまたは複数の断片と接触させる工程をさらに含む、本発明1029~1035のいずれかの方法。
[本発明1037]
収集された上皮管および/または上皮管断片を細胞外マトリックスと接触させてプレートする工程をさらに含む、本発明1029~1036のいずれかの方法。
[本発明1038]
収集された上皮管および/または上皮管断片を、細胞外マトリックスに由来する低濃度の支持体と接触させてプレートする工程をさらに含む、本発明1029~1037のいずれかの方法。
[本発明1039]
細胞外マトリックス濃度が0.1~50%(v/v)である、本発明1038の方法。
[本発明1040]
収集された上皮管および/または上皮管断片を懸濁状態でプレートする工程をさらに含む、本発明1029~1036のいずれかの方法。
[本発明1041]
細胞外マトリックス濃度が約0.1%(v/v)以下である、本発明1040の方法。
[本発明1042]
細胞外マトリックスがマトリゲル(商標)を含む、本発明1029~1041のいずれかの方法。
[本発明1043]
上皮オルガノイドを成熟条件および/または分化条件に供する工程をさらに含む、本発明1029~1042のいずれかの方法。
[本発明1044]
FGFおよび/またはニコチンアミドが無い基本培地を含む、上皮オルガノイドを入手するための培地。
[本発明1045]
Wntアゴニストをさらに含む、本発明1044の培地。
[本発明1046]
WntアゴニストがCHIR99021である、本発明1045の培地。
[本発明1047]
Wntアゴニストが、Wnt、Wnt3a、ノリン、R-スポンジン1、R-スポンジン2、R-スポンジン3、R-スポンジン4、およびGSK阻害剤のうちの1つまたは複数より選択される、本発明1045の培地。
[本発明1048]
EGFをさらに含む、本発明1044~1047のいずれかの培地。
[本発明1049]
B27成分および/またはN2成分および/またはN-アセチルシステインをさらに含む、本発明1044~1048のいずれかの培地。
[本発明1050]
細胞外マトリックスをさらに含む、本発明1044~1049のいずれかの培地。
[本発明1051]
細胞外マトリックスの濃度が0.1~50%(v/v)である、本発明1050の培地。
[本発明1052]
細胞外マトリックスの濃度が約0.1%(v/v)以下である、本発明1050の培地。
[本発明1053]
細胞外マトリックスがマトリゲル(商標)を含む、本発明1050~1052のいずれかの培地。
本開示の他の特徴および利点は以下の詳細な説明から明らかになる。しかしながら、詳細な説明および具体的な実施例は本開示の好ましい態様を示すと同時に、この詳細な説明から本開示の精神および範囲の中での様々な修正および変更が当業者に明らかになるので例示にすぎないと理解されるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
以下に、本開示を以下の図面に関連して説明する。
【0068】
図1】(a)マウス肝臓から単離された上皮組織から肝臓オルガノイドへの拡大、(b)マウス膵臓から単離された上皮組織から膵臓オルガノイドへの拡大、および(c)マウス腸から単離された上皮組織から腸オルガノイドへの拡大を示す。
図2】1枚の上皮、中空の管腔を示し、かつ特徴的な細胞間接合部および形態を示した上皮オルガノイドを示す。
図3】上皮臓器の処理を示す。(a)上皮を含む臓器を処理して、上皮管、上皮管断片、ならびに/または上皮管および/もしくは上皮管断片に含まれる上皮幹細胞を得るための一般化されたプロトコール。EDC=酵素消化カクテル(enzymatic digestion cocktail)。(b)連続して消化された試料中で消化酵素を含む緩衝液の濁度が徐々に小さくなることを示した分単位での時間経過。
図4】大きな破片を濾過して取り除くための任意の第1のプレクリアリング工程を示した、上皮管および/または上皮管断片の濾過を示す。
図5】サブコンフルエントにプレートされた上皮管および/または上皮管断片を示す。
図6】進行性の上皮オルガノイド変性を示す。(a)4日目、継代15回の健康なオルガノイド、(b)だんだん暗くなっていく管腔の徴候を示すオルガノイド。(c)暗く、かつ崩壊した管腔の徴候を示すオルガノイド。
図7】消化酵素を含む緩衝液を用いた反復消化を示す。(a)上皮組織は、消化酵素を含む緩衝液の存在下で消化され得る。消化が不完全であれば、上清は回収および保存され、ペレットはさらに1回または複数回消化されてもよい。(b)消化酵素を含む緩衝液中で上皮組織を消化した後の上皮管および/または上皮管断片の外観の例示的な写真。
図8】プレートされた材料が、肝管および/もしくは肝管断片、機械的破砕および/もしくは酵素消化された肝臓オルガノイド、または肝管および/もしくは肝管断片の中に含まれる単一の上皮幹細胞および/もしくは前駆細胞であるかどうかに関係なく、肝臓オルガノイドが維持および拡大され得ることを示す。
図9】肝臓オルガノイドが長期間、継代および拡大され得ることを示す。
図10】RT-PCRによる肝臓オルガノイド、肝管および/または管断片、ならびに初代マウス肝細胞の遺伝子発現プロファイリングを示す。(a)Wnt標的遺伝子発現の評価、(b)肝臓前駆体遺伝子発現の評価、(c)胆管遺伝子発現の評価、(d)肝臓遺伝子発現の評価。
図11】免疫細胞化学を用いた肝臓オルガノイドのタンパク質合成を示す。
図12】プレートされた材料が、膵管および/または膵管断片、機械的破砕および/もしくは酵素消化された膵臓オルガノイド、または膵管および/もしくは膵管断片の中に含まれる単一の上皮幹細胞および/もしくは前駆細胞であるかどうかに関係なく、膵臓オルガノイドが維持および拡大され得ることを示す。
図13】膵臓オルガノイドが長期間、継代および拡大され得ることを示す。
図14】RT-PCRによる膵臓オルガノイド、マウス線維芽細胞、および肝臓オルガノイドの遺伝子発現プロファイリングを示す。(a)Wnt標的遺伝子発現の評価、(b)膵臓前駆体遺伝子発現の評価、(c)管(ductal)遺伝子発現の評価、(d)増殖および非管遺伝子発現の評価。
図15】免疫細胞化学を用いた膵臓オルガノイドのタンパク質合成を示す。
図16】腸オルガノイドが腸陰窩から維持および拡大され得ることを示す。
図17】腸オルガノイドが陰窩または単一細胞から拡大できることを示す。
図18】腸オルガノイドおよび結腸オルガノイドの遺伝子発現を示す。
図19】小腸オルガノイドにおける腸マーカーのタンパク質合成を示す。(a)Lgr5-幹細胞マーカー、R-スポンジン受容体、(b)リゾチーム-パネート細胞、(c)ビレン(Villen)-腸細胞、(d)クロモグラニンA-腸内分泌細胞。
図20】結腸オルガノイドにおける結腸マーカーのタンパク質合成を示す。リゾチーム-パネート細胞;ビリン-腸細胞;クロモグラニンA-腸内分泌細胞。
【発明を実施するための形態】
【0069】
詳細な説明
本開示は、上皮オルガノイドを培養するための培地および方法を説明する。本開示はまた、上皮オルガノイドを形成するための培地および方法も説明する。本開示の上皮オルガノイドは、本明細書において開示される方法に従って、本明細書において開示される培地の存在下で、1つまたは複数の上皮臓器、もしくはその一部、上皮組織、上皮管、上皮管断片、および/または上皮幹細胞/前駆細胞から導き出されてもよい。
【0070】
開示された培地および方法は、肝臓組織、膵臓組織、肺組織、および腸組織に由来するオルガノイドを含むが、これに限定されない上皮オルガノイドの開始および維持を可能にする。上皮オルガノイドはヒト組織または動物組織から導き出されてもよい。
【0071】
細胞培養培地
一局面において、本開示は、上皮オルガノイドを導き出す、および/または入手するための培養培地を提供する。上皮オルガノイドは、下記の本明細書に記載の方法に従って導き出されてもよい、および/または入手されてもよい。
【0072】
一態様では、上皮オルガノイドは、下記の培養培地の存在下で1つまたは複数の上皮管、上皮管断片、および/またはそれから単離された上皮幹細胞を培養することによって入手される。
【0073】
一態様では、上皮オルガノイドを形成および/または培養するための培養培地(本明細書では「培地」または「拡大培地」とも呼ぶ)は基本培地である。本明細書で使用する「基本培地」という用語は、動物細胞またはヒト細胞の増殖に必要な要素、すなわち、炭素源、水、塩、ならびにアミノ酸源および窒素源(例えば、ウシまたは酵母のエキス)を含有する培地を指す。例示的な基本培地には、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、DMEM/栄養混合物F-12(DMEM/F-12)、Advanced DMEM/F-12、RPMI1640、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、最少必須培地(MEM)、および/または基本培地イーグル(BME)が含まれるが、これに限定されない。一態様では、基本培地は、様々な比の上記の例示的な基本培地の組み合わせを含む。
【0074】
本発明者らは、FGFおよび/またはニコチンアミドを欠く培地中で1つまたは複数の上皮管、上皮管断片、および/またはそれから単離された上皮幹細胞もしくは上皮前駆細胞を培養することによって上皮オルガノイドを入手できることを示した。本開示の培地中で培養された、1つまたは複数の上皮管、上皮管断片、および/または上皮幹細胞もしくは上皮前駆細胞は、初期拡大を受ける可能性があるオルガノイドを生じることが示されている(図1)。このようなオルガノイドは上皮細胞層、中空の管腔、ならびに典型的な細胞間接合部および形態を示すことがある(図2)。
【0075】
従って、一態様では、前記培地はFGFおよび/またはその誘導体もしくはアゴニストを含まないか、あるいは欠いている。本明細書で使用する、「FGF」または「線維芽細胞増殖因子」という用語は、シグナル伝達分子の線維芽細胞増殖因子ファミリーのメンバーを指す。FGFは天然FGFでもよく合成FGFでもよい。一態様では、FGFは組換えFGFである。例えば、22種類のFGFがヒトにおいて知られている。別の態様では、前記培地はニコチンアミドおよび/またはその誘導体もしくはアゴニストを含まないか、あるいは欠いている。別の態様では、前記培地は、FGF(および/またはその誘導体もしくはアゴニスト)ならびに/あるいはニコチンアミド(および/またはその誘導体もしくはアゴニスト)を含まない。別の態様では、前記培地はFGFおよびニコチンアミド、ならびに/またはその誘導体もしくはアゴニストを含まないか、あるいは欠いている。さらに別の態様では、前記培地は検出不能な量のFGFおよび/もしくはニコチンアミドを有するか、または外因的に添加されたFGFおよび/もしくはニコチンアミドを有さない。
【0076】
一態様では、前記培地は、何も加えられていない培地である。別の態様では、前記培地は、アミノ酸、ビタミン、有機塩/無機塩、糖、および/または抗酸化物質が加えられた培地である。
【0077】
別の態様では、前記培地にはL-グルタミンが加えられる。L-グルタミンは、液体培地中で生理学的pHで不安定な必須アミノ酸である。細胞培養培地に加えるためのL-グルタミンは市販されている。一態様では、前記培地には、0.5mM~10mMグルタミン、または1mM~5mMグルタミン、または2mM~4mMグルタミンが加えられる。ある特定の態様では、L-グルタミンはL-グルタミンの安定化型である。L-グルタミンの安定化型の一例はL-アラニル-L-グルタミンである。
【0078】
前記培地はまた、前記培地の適切なpHを維持するための緩衝剤も含んでよい。一態様では、緩衝剤はHEPESである。任意で、前記培地は、最大25mMのHEPES、約20mM HEPES、約15mM HEPES、約10mM HEPES、約5mM HEPES、約1mM HEPES、またはそれより少ないものを含む。別の態様では、緩衝剤は重炭酸ナトリウムである。ガイドラインとして、重炭酸ナトリウムは、細胞培養条件で4~10%CO2につき約1.0g/L~5.0g/Lで培地中に提供されてもよい。一態様では、前記培地には、5%CO2中で増殖されている細胞には約1.5g/L、または5%CO2中で増殖されている細胞には約2g/L、または5%CO2中で増殖されている細胞には約3g/L、または5%CO2中で増殖されている細胞には約4g/Lの重炭酸ナトリウムが加えられる。別の態様では、基本培地には複数種の緩衝剤、例えば、HEPESと重炭酸ナトリウムが加えられる。特定のこのような態様では、基本培地は約25mM未満のHEPESと約5g/L未満の重炭酸ナトリウムを含む。
【0079】
別の態様では、前記培地は少なくとも1種類のB-27および/またはN2サプリメントを含む。このようなサプリメントおよびその成分は哺乳動物細胞培養の分野において周知である。B-27およびN2は様々な供給業者から市販されている。別の態様では、前記培地は、B-27および/またはN2のうちの1つまたは複数の小成分を含む。特定の態様では、前記培地は、以下のB-27および/またはN2小成分:Rhインシュリン;プロゲステロン;プトレシン;亜セレン酸ナトリウム;ヒトアポトランスフェリン;コルチコステロン;D-(+)-ガラクトース;およびBSAの1つまたは複数を含む。さらに、前記培地がB-27および/またはN2小成分のうちのいくつかを含む場合、完全なB-27およびN2の作用濃度から逸脱することが望ましい場合がある。例えば、特定の態様では、前記培地は、さらに低い濃度のB-27および/またはN2小成分を含む。前記培地の一態様では、B-27および/またはN2小成分は、以下の最終濃度範囲:0.01~100μg/mL Rhインシュリン;2nM~400μMプロゲステロン;0.1~10mMプトレシン;1ng/mL~100μg/mL亜セレン酸ナトリウム;0.2~200μg/mLヒトアポトランスフェリン;1~500ng/mLコルチコステロン;30μM~30mM D-(+)-ガラクトース;および0.5μg/mL~5mg/mL BSAの中で用いられることがある。
【0080】
一態様では、前記培地は、DMEM/F-12またはAdvanced DMEM/F-12と、10~20mM HEPES、0.5~1.5g/L重炭酸ナトリウム、55~75μg/mL Rhインシュリン、35~45nMプロゲステロン、0.1~0.8mMプトレシン、5~15ng/mL亜セレン酸ナトリウム、60~100μg/mLヒトアポトランスフェリン、10~30ng/mLコルチコステロン、10~20μg/mL D-(+)-ガラクトース、および1~4mg/mL BSAを含む。別の態様では、前記培地は、DMEM/F-12もしくはAdvanced DMEM/F-12と、約15mM HEPES、1.2g/L重炭酸ナトリウム、62μg/mL Rhインシュリン、38nMプロゲステロン、0.4mMプトレシン、10ng/mL亜セレン酸ナトリウム、80μg/mLヒトアポトランスフェリン、20ng/mLコルチコステロン、15μg/mL D-(+)-ガラクトース、および2.6mg/mL BSAを含むか、これらからなるか、またはこれらから本質的になる。この培地を本明細書中では「培地A」と呼ぶ。
【0081】
一態様では、培地Aの存在下で形成された上皮オルガノイドは約5回以上の継代にわたって培養される。例えば、本明細書に記載の方法に従って、かつ培地Aの存在下で形成された肝臓オルガノイドはオルガノイドへの初期拡大を受ける可能性がある。
【0082】
他の態様では、上皮オルガノイドを入手するための培養培地は、培地Aなどの前記の基本培地を含み、Wnt-βカテニン経路の少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、または少なくとも4つのアクチベーターをさらに含む。本明細書で使用する「Wnt-βカテニン経路のアクチベーター」という用語は、あらゆるβカテニン誘導性および/またはYAP/TAZ誘導性の転写変化につながる任意の分子、抗体、化合物、または遺伝子修飾因子(例えば、siRNA)を指す。例えば、Wnt-βカテニン経路の少なくとも1つまたは複数のアクチベーターは、Frizzledファミリー受容体のシグナル伝達を正に調節する任意の分子または化合物でよい。Frizzledファミリー受容体のシグナル伝達を正に調節する分子または化合物の非限定的な例には、Wntタンパク質もしくはアゴニスト;ならびに/またはノリンタンパク質もしくはアゴニスト;ならびに/またはLgr4/5およびRNF43/ZNRF3に結合する、R-スポンジンタンパク質もしくはR-スポンジンアゴニストが含まれる。
【0083】
一態様では、Wnt-βカテニン経路の少なくとも1つの、少なくとも2つの、少なくとも3つの、または少なくとも4つのアクチベーターは、Wnt-βカテニン経路の負の制御因子を隔離する分子もしくは化合物であるか、またはこれを含む。Wnt-βカテニン経路の負の制御因子を隔離する分子または化合物の非限定的な例には、SB-216763、CHIR99021、およびCAS853220-52-7が含まれるが、これに限定されない。
【0084】
別の態様では、Wnt-βカテニン経路の負の制御因子を隔離する分子または化合物は低分子阻害剤である。特定の態様では、低分子阻害剤はGSK-3阻害剤である。例えば、GSK-3阻害剤はCHIR99021でもよい。特定の態様では、CHIR99021は1μM~10μMの濃度で存在するか、または3uM~8uM、もしくは4um~7uM、または5uM~6uMの濃度で存在する。
【0085】
一態様では、Wntタンパク質は、Wnt1、Wnt2、Wnt2B、Wnt3、Wnt3A、Wnt4、Wnt5A、Wnt5B、Wnt6、Wnt7A、Wnt7B、Wnt8A、Wnt8B、Wnt9A、Wnt9B、Wnt10A、Wnt10B、Wnt11、またはWnt16である。別の態様では、Wntタンパク質はWnt3aである。Wnt3aは組換えタンパク質でもよく、コンディションドメディウムとして添加されてもよい。別の態様では、Wnt3aは、前記タンパク質、例えば、その翻訳後修飾配置を安定化して、そのシグナル伝達能力を強化する分子および化合物と一緒に前記培地に加えられてもよい。
【0086】
別の態様では、R-スポンジンタンパク質またはアゴニストは、R-スポンジン-1、R-スポンジン-2、R-スポンジン-3、またはR-スポンジン-4である。特定の態様では、R-スポンジンタンパク質またはアゴニストは組換え体である。培養培地のR-スポンジンタンパク質またはアゴニストは、約0.1ng/mL~1mg/mL、または約1ng/mL~1μg/mL、または約3ng/mL~150ng/mLまたは約5ng/mL~100ng/mLまたは約10ng/mL~50ng/mLの濃度で存在してもよい。特定の態様では、R-スポンジンはR-スポンジン-1である。
【0087】
一態様では、前記培地はWnt-βカテニン経路の複数のアクチベーターを含む。別の態様では、前記培地はR-スポンジン1およびCHIR99021を含む。
【0088】
別の態様では、ノリンタンパク質またはアゴニストは、無脊椎動物bursおよびpburs遺伝子のオルソログである。別の態様では、ノリンタンパク質またはアゴニストは、LGR4、Fzl4、LGR5、およびLGR6のコグネイトリガンドとして作用する。別の態様では、ノリンタンパク質またはアゴニストはBMPを介してシグナル伝達を阻害する。特定の態様では、ノリンタンパク質またはアゴニストは組換えである。別の態様では、培養培地のノリンタンパク質またはアゴニストは、約0.1ng/mL~1mg/mL、または約1ng/mL~1μg/mL、または約3ng/mL~150ng/mLまたは約5ng/mL~100ng/mL、または約10ng/mL~50ng/mLの濃度で存在する。
【0089】
一態様では、前記培地は、Advanced DMEM/F-12またはDMEM/F-12と、10~20mM HEPES、0.5~1.5g/L重炭酸ナトリウム、0.005~0.025μg/mL R-スポンジン-1および/または2.5~4.5μM CHIR99021、55~75μg/mL Rhインシュリン、35~45nMプロゲステロン、0.1~0.8 mMプトレシン、5~15ng/mL亜セレン酸ナトリウム、60~100μg/mLヒトアポトランスフェリン、10~30ng/mLコルチコステロン、10~20μg/mL D-(+)-ガラクトース、ならびに1~4mg/mL BSAを含む。別の態様では、前記培地は、Advanced DMEM/F-12またはDMEM/F-12と、約15mM HEPES、1.2g/L重炭酸ナトリウム、0.015μg/mL R-スポンジン-1および/または3.75μM CHIR99021、62μg/mL Rhインシュリン、38nMプロゲステロン、0.4mMプトレシン、10ng/mL亜セレン酸ナトリウム、80μg/mLヒトアポトランスフェリン、20ng/mLコルチコステロン、15μg/mL D-(+)-ガラクトース、および2.6mg/mL BSAを含むか、これらからなるか、またはこれらから本質的になる。この培地を本明細書中では「培地B」と呼ぶ。
【0090】
一態様では、培地Bの存在下で形成された上皮オルガノイドは約10回以上の継代にわたって培養される。例えば、本明細書に記載の方法に従って、培地Bの存在下で形成された肝臓オルガノイドは初期拡大を受ける可能性があり、その培養物は少なくとも10回の継代にわたって支持される可能性がある。全体的に見て、培地Bは上皮オルガノイドの形成および培養に用いられる可能性がある。
【0091】
他の態様では、上皮オルガノイドを形成および/または培養するための培養培地は、前記の基本培地(例えば、培地A)を含む。別の態様では、前記培地は、前記のWnt-βカテニン経路の少なくとも1つのアクチベーター(例えば、培地B)をさらに含む。別の態様では、前記培地は、上皮細胞増殖因子(EGF)ファミリー、例えば、EGF、TGF-α、アンフィレギュリン、ベータセルリン、エピレギュリン、ヘパリン結合EGF様増殖因子、エピジェン、ならびにニューレグリン-1、-2、-3、および-4のうちの1つまたは複数のメンバーをさらに含む。
【0092】
特定の態様では、EGFファミリーメンバーは、約0.1ng/mL~1mg/mL、または約1ng/mL~1μg/mL、または約3ng/mL~150ng/mL、または約5ng/mL~100ng/mL、または約10ng/mL~50ng/mLの濃度で存在する。
【0093】
一態様では、前記培地は、Advanced DMEM/F-12またはDMEM/F-12と、10~20mM HEPES、0.5~1.5g/L重炭酸ナトリウム、0.005~0.025μg/mL R-スポンジン-1および/または2.5~4.5μM CHIR99021、0.01~1.0μg/mL EGF、55~75μg/mL Rhインシュリン、35~45nMプロゲステロン、0.1~0.8mMプトレシン、5~15ng/mL亜セレン酸ナトリウム、60~100μg/mLヒトアポトランスフェリン、10~30ng/mLコルチコステロン、10~20μg/mL D-(+)-ガラクトース、および1~4mg/mL BSAを含む。別の態様では、前記培地は、Advanced DMEM/F-12またはDMEM/F-12と、約15mM HEPES、1.2g/L重炭酸ナトリウム、0.015μg/mL R-スポンジン-1および/または3.75μM CHIR99021、0.05μg/mL EGF、62μg/mL Rhインシュリン、38nMプロゲステロン、0.4mMプトレシン、10ng/mL亜セレン酸ナトリウム、80μg/mLヒトアポトランスフェリン、20ng/mLコルチコステロン、15μg/mL D-(+)-ガラクトース、および2.6mg/mL BSAを含むか、これらからなるか、またはこれらから本質的になる。この培地を本明細書中では「培地C」と呼ぶ。
【0094】
一態様では、培地Cの存在下で形成された上皮オルガノイドは約40回以上の継代にわたって培養される。例えば、本明細書に記載の方法に従って、培地Cの存在下で形成された肝臓オルガノイドは初期拡大を受ける可能性があり、その培養物は約40回以上の継代にわたって支持される可能性がある。全体的に見て、培地Cは上皮オルガノイドの形成および培養ならびに上皮オルガノイドの長期培養に用いられる可能性がある。
【0095】
他の態様では、上皮オルガノイドを入手するための培養培地は前記の基本培地(例えば、培地A)を含む。前記培地はまた、前記のWnt-βカテニン経路のうちの少なくとも1つまたは複数のアクチベーター(例えば、培地B)と、前記のEGFファミリーのうちの1つまたは複数のメンバー(例えば、培地C)も含んでよい。別の態様では、前記培地は、BMPまたはBMPシグナル伝達の1種または複数種の阻害剤またはアンタゴニストをさらに含む。
【0096】
一態様では、BMPの1種または複数種の阻害剤またはアンタゴニストは、タンパク質、例えば、非限定的な例として、ノギン、コーディン、フォリスタチン、スクレロスチン、CTGF/CCN2、グレムリン(gremlin)、ケルベロス、DAN、PRDC、デコリン、α-2マクログロブリンタンパク質、およびその誘導体である。
【0097】
特定の態様では、BMP、例えば、ノギンを阻害するためのタンパク質の濃度は、約0.1ng/mL~1mg/mL、または約1ng/mL~1μg/mL、または約3ng/mL~150ng/mL、または約5ng/mL~100ng/mL、または約10ng/mL~50ng/mLの濃度で存在する。
【0098】
別の態様では、BMPシグナル伝達の1種または複数種の阻害剤またはアンタゴニストは、前記で示されたタンパク質、および/またはBMPの下流にあるシグナル伝達を阻害し得る低分子阻害剤、例えば、非限定的な例として、LDN193189またはドルソモルフィンである。
【0099】
培養培地に加えるために、BMPまたはBMPシグナル伝達の1種または複数種の阻害剤またはアンタゴニストが用いられ得る態様では、このような阻害剤は、0.001nM~10mM、任意で、0.0001μM~0.2μMの濃度で存在してもよい。培養培地にLDN193189が加えられる特定の態様では、LDN193189は0.001nM~10mM、任意で、0.001μM~1μMの濃度で存在してもよい。
【0100】
一態様では、前記培地は、Advanced DMEM/F-12またはDMEM/F-12と、10~20mM HEPES、0.5~1.5g/L重炭酸ナトリウム、0.005~0.025μg/mL R-スポンジン-1および/または2.5~10μM CHIR99021、0.01~1.0μg/mL EGF、0.0.05~0.30μg/mLノギン、0.05~0.15μM LDN、55~75μg/mL Rhインシュリン、35~45nMプロゲステロン、0.1~0.8mMプトレシン、5~15ng/mL亜セレン酸ナトリウム、60~100μg/mLヒトアポトランスフェリン、10~30ng/mLコルチコステロン、10~20μg/mL D-(+)-ガラクトース、ならびに1~4mg/mL BSAを含む。
【0101】
別の態様では、前記培地は、Advanced DMEM/F-12もしくはDMEM/F-12と、約15mM HEPES、1.2g/L重炭酸ナトリウム、0.015μg/mL R-スポンジン-1および/もしくは7.5μM CHIR99021、0.05μg/mL EGF、0.015μg/mLノギン、0.1μM LDN、62μg/mL Rhインシュリン、38nMプロゲステロン、0.4mMプトレシン、10ng/mL亜セレン酸ナトリウム、80μg/mLヒトアポトランスフェリン、20ng/mLコルチコステロン、15μg/mL D-(+)-ガラクトース、ならびに2.6mg/mL BSAを含むか、これらからなるか、またはこれらから本質的になる。この培地を本明細書では「培地D」と呼ぶ。
【0102】
一態様では、培地Dの存在下で形成された上皮オルガノイドは約50回以上の継代にわたって培養され、約1:30の分割比を支持する。例えば、本明細書に記載の方法に従って、かつ培地Dの存在下で形成された肝臓オルガノイドは初期拡大を受ける可能性があり、その培養物は約50回以上の継代にわたって支持される可能性がある。全体的に見て、培地Dは、上皮オルガノイドを形成および培養するために、ならびに上皮オルガノイドをさらに長期わたって培養するために用いられる可能性がある。
【0103】
さらに他の態様では、本明細書に記載の培地(培地A、培地B、培地C、および/または培地Dを含むが、これに限定されない)には、ヒト細胞または動物細胞の培養物を支持する他の化合物または分子がさらに加えられる。例えば、一態様では、前記培地にはN-アセチル-L-システインが加えられる。特定の態様では、N-アセチル-L-システインは750μM~1500μMの濃度で存在する。
【0104】
さらなる態様では、前記培地には肝細胞増殖因子(HGF)が加えられる。特定の態様では、HGFは、約0.1ng/mL~1mg/mL、または約1ng/mL~1μg/mL、または約5ng/mL~150ng/mL、または約10ng/mL~100ng/mLの濃度で存在する。異なる態様では、前記培地はHGFを欠く。
【0105】
なおさらなる態様では、前記培地にはガストリンが加えられる。特定の態様では、ガストリンは0.001μM~0.2μMの濃度で存在する。異なる態様では、前記培地はガストリンを欠く。
【0106】
オルガノイドをプレートする前に、本明細書に記載の培地(例えば、培地A、培地B、培地C、および培地Dがあるが、これに限定されない)はまた、0.1~100%(v/v)マトリゲル(商標)、または他の細胞外マトリックスもしくは細胞外マトリックス成分の組み合わせ(すなわち、ラミニン、コラーゲン、プロテオグリカン、非プロテオグリカン多糖類、フィブロネクチン、ビトロネクチン、エラスチン)と組み合わされてもよい。
【0107】
培地A、培地B、培地C、および培地Dがあるが、これに限定されない本開示の培地には、特定の用途に適した濃度の前述のさらなるサプリメントの一部が加えられてもよいか、特定の用途に適した濃度の前述のさらなるサプリメントのどれも加えられないか、または特定の用途に適した濃度の前述のさらなるサプリメントの全てが加えられてもよい。さらに、低分子類似体について特に説明していないとしても、本明細書に記載のどのサプリメントも、特定の用途に適した濃度の対応するタンパク質の低分子類似体で代用することができる。
【0108】
本明細書に記載の培地に添加された前述のサプリメントはどれも2~1000倍濃度の原液として調製され、-20℃で保管することができる。凍結原液は解凍され、適宜、開示された培養培地に添加されることがある。完全培地は4℃で約1~3ヶ月間、保管されることがある。
【0109】
方法
本開示は、上皮オルガノイドを入手するための方法を提供する。前記方法は、1つまたは複数の上皮管、上皮管断片、および/またはそれから単離された上皮幹細胞を細胞外マトリックスと接触させて、かつ培地の存在下で培養する工程を含む。一態様では、前記培地は、前記のように、FGFおよび/もしくはニコチンアミドを含まないか、または検出不能なレベルのFGFおよび/もしくはニコチンアミドを含むか、または外因的に添加されたFGFおよび/もしくはニコチンアミドを含まない基本培地である。
【0110】
動物の臓器、腺、および血管の表面、空洞、および管には上皮組織が裏打ちされている。上皮は、おおむね、相対する頂端膜と基底膜に極性化している、密に詰め込まれた細胞シートを含む。上皮の機能の1つは、2つの異なる環境間にある境界面を守ることである。上皮組織は、通常の組織維持の間に、および損傷応答中には速い速度で、分化した体細胞タイプを補充する幹細胞ニッチを含むことがある。
【0111】
特に、上皮の管組織構造は一般的に臓器の幹細胞ニッチに本拠を持ち、コロニー形成能を有することが知られている幹細胞/前駆細胞を含む(Sato et al., 2009, Nature; Huch et al., 2013 Nature)。従って、上皮幹細胞/前駆細胞(本明細書中では「上皮幹細胞」とも呼ぶ)は、適切な培養条件下で上皮オルガノイドを作製するための優れた支持層である。
【0112】
本明細書において使用する「オルガノイド」という用語は臓器の三次元インビトロモデルを指す。オルガノイドは、オルガノイドが導き出された臓器の本物のような組織構造を提供することができる。従って、「上皮オルガノイド」という用語は、1つまたは複数の上皮幹細胞/前駆細胞から得られたオルガノイドを指す。上皮幹細胞/前駆細胞は、肝臓、肺、膵臓、または腸を含むが、これに限定されない任意の臓器に由来してもよい。1つまたは複数の肝臓上皮幹細胞/前駆細胞から得られたオルガノイドは本明細書中では「肝臓オルガノイド」とも呼ばれ、1つまたは複数の膵臓上皮幹細胞/前駆細胞から得られたオルガノイドは本明細書中では「膵臓オルガノイド」とも呼ばれ、1つまたは複数の腸上皮幹細胞/前駆細胞から得られたオルガノイドは本明細書中では「腸オルガノイド」とも呼ばれる。
【0113】
一態様では、上皮オルガノイドは単一の上皮幹細胞/前駆細胞から樹立される。任意で、単一の上皮幹細胞/前駆細胞は、消化された上皮組織の蛍光標識細胞分取によって単離されてもよい。しかしながら、上皮幹細胞/前駆細胞が上皮断片としてプレートされた場合に、オルガノイドを樹立する効率が高まることがある。本明細書で使用する「上皮断片」という用語は上皮組織の断片または一部を指す。上皮断片は上皮組織の部分的な酵素的破壊または機械的破壊によって入手されてもよい。理論に拘束されるものではないが、上皮断片の中に組み込まれた上皮幹細胞/前駆細胞は、インビボ幹細胞ニッチに埋め込まれる可能性が依然として高く、オルガノイド培養を開始する間にパラクラインシグナル伝達から利益を得る可能性がある。
【0114】
一態様では、上皮断片は上皮管またはその断片である。本明細書で使用する「上皮管」という用語は、上皮細胞に裏打ちされ、分泌または他の物質を運ぶ体の通路または管を指す。上記のように上皮管は幹細胞/前駆細胞を含む(Sato et al., 2009, Nature; Huch et al., 2013 Nature)。
【0115】
上皮を含む臓器またはその一部は、組織解剖の当業者に公知の任意の方法を用いて対象から単離することができる。例えば、臓器は、従来の解剖を用いて、死亡したばかりの対象から取り出されてもよい。または、臓器の一部は、生検によって対象から入手されてもよい。臓器またはその一部を単離するのに用いられる方法にもかかわらず、その後の、臓器またはその一部の処理はタイミング良く開始されてもよい。対象はヒトまたは動物、例えば、げっ歯類でもよい。
【0116】
単離された臓器またはその一部、およびその誘導体、例えば、上皮組織、上皮管、上皮管断片、もしくは上皮細胞、または樹立されたオルガノイドそのものは付着性がある場合があり、上皮臓器またはその一部を処理するのに用いられる表面または器具、例えば、プラスチック製品および/またはピペットもしくはピペットチップに付着する傾向がある場合がある。開示された方法のどの段階でも、単離された上皮もしくはその誘導体または樹立されたオルガノイドと接触している表面または器具を界面活性剤でリンスすることが望ましい場合がある。界面活性剤、例えば、AggreWell(商標)Rinsing Solutionの使用は、前述のものが表面または器具に付着しないようにするのを助ける。表面または器具を界面活性剤でリンスした後に、リンスされた表面または器具を、基本培地、例えば、Advanced DMEM/F-12またはDMEM/F-12で洗浄することがさらに望ましい場合がある。
【0117】
下記のように一般化されたプロトコールを図3に図示した。一次組織またはその細胞を培養するための方法のさらなる詳細、ならびに前述の一次組織またはその細胞の維持、拡大、分化、および上皮3D構造への自己組織化は本明細書中の関連部分に記載されてもよく、当業者に公知でもよい。
【0118】
上皮組織から断片を入手するために、新鮮な臓器またはその一部を小さな組織断片に切断してもよい。1丁のピンセットなどと組み合わされていても、いなくても、刃(blade)または刃(edge)などの任意の適切な器具を用いて、新鮮な臓器またはその一部を切断することができる。臓器またはその一部の組織は、ダウンストリームプロセッシングに適したサイズに切断されてもよい。例えば、適切なサイズの組織は約1~5mm3または約2~4mm3または約3mm3の体積に相当することがある。
【0119】
臓器またはその一部を処理して上皮組織にすると同時に、臓器またはその一部と上皮組織を両方とも氷冷溶液に浸すことがある。氷冷溶液は、緩衝液、例えば、リン酸緩衝食塩水でもよく、標準的な組織培養培地、例えば、Advanced DMEM/F-12もしくはDMEM/F-12でもよい。氷冷溶液は、臓器またはその一部および上皮組織を冷たくし、ダウンストリームプロセッシングを実現可能にする任意の溶液でよい。
【0120】
上皮組織を含有する氷冷溶液は入れ物に移されることがあり、そこで上皮断片は入れ物の底に沈むことがある。組織の大部分または実質的に全てが入れ物の底に沈んだら、氷冷溶液は除去されることがある。上皮組織のペレットが、消化酵素を含む、適切な体積の緩衝液に迅速に浸漬されてもよい。一態様では、消化酵素を含む緩衝液は酵素消化カクテルでもよい。特定の態様では、酵素消化カクテルはディスパーゼおよび/またはコラゲナーゼを含んでもよい。酵素消化カクテルがコラゲナーゼを含む場合、コラゲナーゼは、コラゲナーゼタイプXI、またはコラゲナーゼタイプIV、または上皮組織を消化し得る他の任意のコラゲナーゼでもよい。さらなる態様では、酵素消化カクテルには1%胎仔ウシ血清が加えられてもよい。別の態様では、酵素消化カクテルには、約0.1μg/mL~100μg/mL、または約1μg/mL~約50μg/mL、または約5μg/mL~20μg/mLの濃度のDNアーゼIが加えられてもよい。消化酵素の濃度は、使用した酵素のタイプに応じて変化してもよい。例えば、濃度は0.0001~10%(w/v)でもよい。
【0121】
上皮組織と、消化酵素を含む緩衝液を含有するチューブは、消化酵素が機能し得る条件で、十分な期間にわたって配置されてもよい。例えば、ある特定の消化酵素は、約37℃、例えば、20℃~40℃の温度で最適に働く。消化酵素が機能する温度を維持し得る、あらゆる環境が望ましい場合がある。例えば、上皮組織が十分に消化されるまで、上皮組織と、消化酵素を含む緩衝液を含むチューブが、加熱したウォーターバスまたは加熱したオーブンに入れられることがある。消化は静止条件で行われてもよく、例えば、組織を回転または震盪することによって動いている状態で行われてもよい。インキュベーション時間は、上皮組織の複雑さおよび体積、ならびに消化酵素緩衝液の体積などがあるが、これに限定されない要因に左右されることがある。例えば、約3mm3上皮組織の収集物は、5~60分、10~50分、20~40分、または約10分、20分、30分、40分、もしくは50分の初期インキュベーション時間を必要とすることがある。
【0122】
上皮組織を消化するのに十分な時間にわたって上皮組織をインキュベートした後に、消化された上皮組織を含む溶液が激しく攪拌されることがある。消化された上皮組織が回復不能に損傷されず、下流用途に無効とならなければ、激しく攪拌する任意の方法を使用することができる。例えば、消化された上皮組織を含む溶液は十分な回数で上下にピペッティングされてもよい。別の例として、消化された上皮組織を含む溶液は、例えば、ボルテックスによって激しく混合されてもよい。
【0123】
消化酵素を含む緩衝液の中に含まれる消化された上皮組織を十分に激しく攪拌した後、撹拌されている未消化の上皮組織は入れ物の底に沈むことがある。消化酵素を含む緩衝液は、下記でさらに説明するように、撹拌されている消化されかかった上皮組織から取り出されることがある。
【0124】
取り出された、消化酵素を含む溶液は、消化酵素を含む緩衝液の中で目に見えてもよく、目に見えなくてもよい、懸濁され、消化された上皮管、上皮管断片、および単一細胞をさらに含んでいることがある。上皮管を生じるように上皮組織の全てまたは実質的に全てが消化および破壊されるまで、前述の消化サイクルを複数回繰り返すことが必要な場合がある。従って、粒子状物質が懸濁されている取り出された溶液が氷上でプールおよび保管されることがある。それに対して、残存している上皮組織ペレットは、消化された組織および上清収集物の断続的な機械的破砕により、さらなる消化サイクルに供されてもよい。消化酵素上清を収集およびプールし続けながら、未消化組織の痕跡が残らなくなるまで、消化サイクルが繰り返されてもよい。
【0125】
上皮組織の複雑さおよび体積、消化酵素を含む緩衝液の体積、消化酵素の濃度および組成物、消化酵素を含む緩衝液中でのインキュベーションの期間、または消化酵素を含む緩衝液中でのインキュベーション温度などがあるが、これに限定されない要因に応じて、消化サイクルの反復が必要な場合がある。ある特定の態様では、上皮組織を上皮管および/または上皮管断片まで十分に消化するために、最大5回以上の、約10分、20分、30分、40分、または50分の消化サイクルを要することがある。別の態様では、数回の消化サイクルの代わりに、1回の長い消化も選択されることがある。図3bは、連続した消化サイクル後に、消化酵素を含む緩衝液と、消化された材料の上清の外観が、徐々に明るくなったことを図示する。
【0126】
上清中に上皮管および/もしくは上皮管断片しか含まない溶液、または実質的に上皮管および/もしくは上皮管断片しか含まない上清を入手することが望ましい場合がある。上皮管および/または上皮管断片の外観は上皮組織を処理する当業者に公知である。例えば、上皮管および/または上皮管断片のいくつかの特徴には、白っぽい色のものが含まれることがある。この白っぽい色のものは、水溶液中で重力によってすぐ落ちず、従って、前述の消化サイクル中に使用済みの酵素上清の中に捕獲およびプールされないことがある。これより小さな上皮管断片は裸眼で見えないことが多い。
【0127】
消化酵素を含む緩衝液から上皮管および/または上皮管断片を単離および濃縮するために、この溶液は、十分なメッシュサイズを有するフィルターに通されることがある(図4)。インタクトな上皮管のサイズは、典型的には、おおよそ70μm以上になることがある。上皮管断片のサイズは、典型的には、おおよそ37~70μmになることがある。従って、ある特定の態様では、単一細胞だけを除去し、全ての上皮管および/または上皮管断片を捕獲するためには、メッシュサイズが約30μm~80μmのフィルターを提供することで十分な場合がある。別の態様では、消化酵素を含む緩衝液の中にある上皮管および/または上皮管断片を40μmフィルターに通すことが望ましい場合がある。さらなる態様では、消化酵素を含む緩衝液を、メッシュサイズが比較的大きなフィルターに通すことによって、この溶液から、もっと大きな破片をプレクリアリングすることが望ましい場合がある。例えば、この目的のために、メッシュサイズが約70~80μmのフィルターが用いられることがある。それにもかかわらず、プレクリアリング工程に使用するフィルターのメッシュサイズは、未消化の上皮組織などの大きな破片を保持しながら全ての上皮管および/または上皮管断片が通り抜けるのに適したサイズのものでなければならない。この特定の態様では、その後で、前記で示されたように濾液中の管断片を捕獲するために、大きな破片が無いフロースルーは、さらに小さな第2のメッシュサイズフィルター(すなわち、約40μm)に通されることがある。
【0128】
濾液またはプレクリアリングされた濾液がフィルター面から収集されることがある。濾液またはプレクリアリングされた濾液をフィルター面から取り出す任意の方法が本開示によって意図される。濾液またはプレクリアリングされた濾液をフィルター面から取り出す例示的な方法では、フィルター面は反対または上下逆さにされることがあり、反対または上下逆さにされたフィルター面を入れ物の上に置き、フィルター面の他方の面を適切な溶液でリンスすることによって、フィルター面にある内容物が適切な入れ物に収集されることがある。適切な溶液には、緩衝液、例えば、リン酸緩衝食塩水、または別の溶液、例えば、基本培地もしくは細胞培養培地が含まれ得る。収集された濾液またはプレクリアリングされた濾液は入れ物の底に沈むはずであり、溶液は、濾液またはプレクリアリングされた濾液を含むペレットから取り出されるはずである。濾液またはプレクリアリングされた濾液をペレット化するのに十分であるが、濾液またはプレクリアリングされた濾液を他の点では傷つけて下流用途に無効にすることがないような遠心力に、入れ物とその内容物を供することが必要な場合がある。一態様では、濾液およびプレクリアリングされた濾液は約300xgで約5分間、遠心分離されることがある。
【0129】
上皮管および/または上皮管断片のペレットが入れ物の底に沈み、上清から分離されたら、上皮管および/もしくは上皮管断片のペレットまたはその一部が培養容器にプレートされることがある。培養容器は、細胞を培養するための任意の培養容器でよい。例えば、培養容器は、ペトリ皿、培養フラスコ、または6ウェル、12ウェル、24ウェル、48ウェル、もしくは96ウェル形式の培養プレートでもよい。培養容器にプレートされた上皮管および/または上皮管断片の数/密度は、使用された特定のタイプの培養容器に左右されることがある。上皮管および/または上皮管断片が24ウェルプレートにプレートされた態様では、あるマウス上皮臓器の上皮管および管断片を、例えば、3~10個のウェルに分割することが望ましい場合がある。臓器1個あたりに収集される上皮管および/または上皮管断片の数が異なることがあるが、ある特定の態様では、後の培養中に上皮管および/または上皮断片が合体しないような密度で上皮管および/または上皮管断片がプレートされ得ることを、当業者は理解する。図5は、プレートされた断片または単一細胞の例示的なサブコンフルエント密度を図示する。
【0130】
上皮管および/または上皮管断片を細胞外マトリックス中で懸濁させた後にプレートすることが望ましい場合がある。本明細書で使用する「細胞外マトリックス」という用語は、周囲の細胞に対して構造的および生化学的な支持体を提供する、細胞外分子の収集物を指す。天然細胞外マトリックスおよび合成細胞外マトリックスが両方とも本開示の中に意図される。一態様では、マトリックスは細胞外マトリックスタンパク質を含む。細胞外マトリックスタンパク質の例には、ラミニン、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、およびエンタクチンが含まれるが、これに限定されない。マトリゲル(商標)などの細胞外マトリックスタンパク質を含む様々なマトリックスが市販されている。
【0131】
一態様では、あるマウス肝臓に由来する上皮管および/または上皮管断片のペレットは、約100μLの細胞外マトリックス(例えば、マトリゲル(商標))と、5~100μL、または10~90μL、または20~80μL、または30~70μL、または40~60μLの懸濁液と組み合わされてもよく、24ウェル培養プレートのウェルの中心にプレートされてもよい。別の態様では、(上記のように調製された)上皮管および上皮管断片を含む複数の細胞外マトリックスドームが1個のウェルにプレートされてもよい。当業者は、それぞれの細胞外マトリックスドームが別個であるか、または実質的に別個であれば、任意の体積の細胞外マトリックスからなる任意の数の細胞外マトリックスドームが培養容器にプレートされ得ることを理解し得る。
【0132】
別の態様では、上皮管および/または上皮断片は、約1:2の比の、本明細書において開示されるような培養培地と細胞外マトリックスの混合物と接触されることがある。しかしながら、細胞外マトリックス(例えば、マトリゲル(商標))の最終濃度は10~99.9%(v/v)でもよい。次いで、結果として生じた懸濁液は前記のようにプレートされてもよい。
【0133】
さらに別の態様では、上皮管および/または上皮管断片は、0.1~50%(v/v)細胞外マトリックス、任意で、1~20%(v/v)または5~10%(v/v)細胞外マトリックス、例えば、マトリゲル(商標)を含む、本明細書において開示される培養培地に添加されることがある。特に、上皮管および/または上皮管断片と、0.1~50%(v/v)の細胞外マトリックス、任意で、1~20%(v/v)または5~10%(v/v)細胞外マトリックスを含む培養培地の混合物を適切な培養容器にプレートすると、細胞外マトリックスの低濃度の支持体(すなわち、懸濁状態または懸濁に似た状態)を用いてオルガノイドを培養できる可能性がある。細胞外マトリックスの低濃度の支持体は、培養培地が適切な比で細胞外マトリックスと組み合わされるオルガノイド半固体環境を提供する。このような態様では、培養容器は、低付着性培養容器、例えば、低付着性の6ウェルプレート、12ウェルプレート、24ウェルプレートか、またはそうでないものでもよい。一態様では、最初に、培養培地が、それぞれの冷ウェルに冷たい状態で添加された後に、解凍された細胞外マトリックスが添加および混合されることがある。次の工程として、臓器(例えば、上皮管および/または上皮管断片)から単離された幹細胞含有材料がウェルに添加されることがある。上皮管および/または上皮管断片と、0.1~50%(v/v)細胞外マトリックスを含む培養培地のプレートされた混合物を含有する6ウェルプレートは、例えば、約70rpmで、1.9cm直径オービタルシェーカー上に置かれ、37℃で培養されることがある。上皮管および/または上皮管断片と、0.1~50%(v/v)細胞外マトリックスを含む培養培地のプレートされた混合物を含有する12ウェルプレートは、例えば、約80rpmで、1.9cm直径オービタルシェーカー上に置かれることがある。一般的に、細胞外マトリックスの低濃度の支持体と一緒に培養されたオルガノイドは、静的な細胞外マトリックスドームの中で培養されたオルガノイドより速い拡大速度と、静的な細胞外マトリックスドームの中で培養されたオルガノイドより短い時間でのオルガノイド収量を支持する。
【0134】
さらに別の態様では、上皮管および/または上皮管断片は、約0.1%(v/v)以下の細胞外マトリックス、例えば、マトリゲル(商標)を含む、本明細書において開示される培養培地に添加されることがある。特に、上皮管および/または上皮管断片と、約0.1%(v/v)以下の細胞外マトリックスを含む培養培地の混合物を適切な培養容器にプレートすると、オルガノイドを懸濁培養できる可能性がある。
【0135】
≧10%(v/v)細胞外マトリックスが用いられる態様では、上皮管、上皮管断片、および/またはそれから単離された上皮幹細胞/前駆細胞を含む1つまたは複数の細胞外マトリックスドームが重合したら、十分な量の培養培地がウェルに添加されることがある。上皮管、上皮管断片、もしくはそれから単離された上皮幹細胞/前駆細胞、またはその中にある新生物(nascent)を含むドームを培養するための培養培地は、本明細書に記載の任意の培地、例えば、培地A、培地B、培地C、または培地Dでよい。ドームをカバーし、上皮管、上皮管断片、および/または上皮幹細胞/前駆細胞に十分に栄養が与えられることを確かなものとするために、十分な体積の培養培地が培養容器に添加されてもよい。
【0136】
オルガノイド断片の播種効率は一般的に50%に近くなることがある。低密度のオルガノイド断片は本開示の培養培地中で効率的に拡大し得るが、200個の断片を播種すると、一般的に、マトリゲル(商標)ドームの中に100個の断片が組み込まれる。このような断片密度は、例えば、30μLマトリゲル(商標)ドームによって提供される体積の中で、5~7日にわたって断片を拡大するのに適していることがある。しかしながら、体積が異なるマトリゲル(商標)ドームも特定の用途に適している場合がある。非限定的な例として、所望に応じて、10μL~1mLの体積に対応するマトリゲル(商標)ドームが用いられることがある。
【0137】
単一の上皮幹細胞および/または前駆細胞から上皮オルガノイドを形成および拡大することが望ましい態様では、上皮管および/または上皮管断片を含む濾過された上記画分が、単一細胞解離酵素、例えば、Accutase(商標)、トリプシン、Gentle Cell Dissociation Reagent、またはTrypLE(商標)に曝露されることがある。酵素は基本培地に溶解して送達されてもよく、濃度および期間は、酵素に曝露される材料の量に合わせてもよい。単一細胞解離酵素にはまたDNアーゼIも加えられることがある。消化が完了したら、FBSを含有する基本培地を添加することで、および/または酵素を希釈することで、酵素活性が除かれてもよい。1個の単位に完全に解離されていない全ての細胞を除去するために、単一細胞消化懸濁液がさらにシングルセルストレーナーに通されてもよい。一態様では、上皮断片が、あるマウス臓器から回収され、40μmフィルター上に濾液として捕獲され、ペレット化され、約1~10mLのTrypLE(商標)と、約0.1μg/mL~100μg/mL、または約1μg/mL~50μg/mL、または約5μg/mL~20μg/mLのDNアーゼIを用いて37℃で約3~45分間、消化されることがある。酵素消化反応は、10%FBSを加えたDMEM/F-12を添加することによって止められることがある。次いで、細胞懸濁液は40μmフィルターで濾過され、ペレット化され、細胞-マトリゲル(商標)混合物としてプレートされることがある。
【0138】
このように調製された単一の上皮幹細胞/前駆細胞は、前記のように、>10%(v/v)細胞外マトリックスのドームの中で;0.1~50%(v/v)の細胞外マトリックスの低濃度の支持体と懸濁して;または約0.1%(v/v)以下の細胞外マトリックスと懸濁してプレートされることがある。例えば、5,000~50,000個の細胞が、100%(v/v)細胞外マトリックスで構成されるドームに播種されてもよく、10%(v/v)細胞外マトリックスを含有する懸濁液ウェルに播種されてもよい。
【0139】
上皮管および/もしくは上皮管断片または単一の上皮幹細胞/前駆細胞からのオルガノイドの拡大は、これらの成長を追跡するために毎日モニタリングされることがある。一般的に、オルガノイドが黒色の高密度の細胞クラスターを形成しないように、1週間以内に、および管腔が暗くなり崩壊する前にオルガノイドは継代培養されることがある(図6)。初期の継代中では、約4日目~6日目でオルガノイド管腔は暗くなり、崩壊することがある。もっと後の継代中では、約6日目~7日目でオルガノイド管腔は暗くなり崩壊することがある。樹立されたオルガノイドは機械的にオルガノイド断片に継代培養されてもよく、酵素的にオルガノイド断片もしくは単一細胞に継代培養されてもよい。樹立されたオルガノイドが機械的に継代培養され、オルガノイド断片として播種されれば、オルガノイド収量は高くなることがある。
【0140】
ドーム培養物を機械的に分割するために、細胞外マトリックスドームのインタクトネスが光学顕微鏡を用いて検証されることがある。上皮オルガノイドを含む細胞外マトリックスドームが実質的にインタクトであれば、前記培地は、例えば、吸引によって培養容器から除去されることがある。p1000ピペットを用いて、約1000μLの冷培養培地、例えば、基本培養培地(すなわち、Advanced DMEM/F-12)が、それぞれの細胞外マトリックスドームのほぼ中心に向かって強制的に向けられることがある。細胞外マトリックスドームとオルガノイドを破壊して断片にするがオルガノイドを単一細胞まで完全に破壊しないようにするために、ある体積の冷培養培地が、培養容器の中で、約5回、10回、15回、20回、または30回、上下に激しくピペッティングされることがある。結果として生じた懸濁液の一部分が計数のために空の培養容器に移されることがある。
【0141】
例示的な態様では、10μL体積の細胞懸濁液が3つ、1つ1つの体積ドームとして6ウェルプレートの空のウェルにプレートされることがある。光学顕微鏡を用いて、それぞれの10μL体積ドームの中にあるオルガノイド凝集塊の数が計数してもよく、細胞懸濁液中にあるオルガノイド凝集塊の数が求められることがある。細胞懸濁液中のオルガノイド凝集塊の密度が求められたら、約200個の凝集塊を含む体積が、1mLの本明細書において開示される培養培地、例えば、基本培地を保持するチューブに添加されることがあり、300xgで5分間、遠心分離されることがある。ペレットを破壊することなく、上清は注意深く吸引されることがあり、ペレットは少なくとも10μL~約100μLの細胞外マトリックスに再懸濁されることがある。オルガノイド凝集塊を含む細胞外マトリックスの懸濁液が、予め温めた24ウェルプレートの1つのウェルにプレートされ、重合させられることがある。オルガノイド凝集塊を含む細胞外マトリックスドームが重合したら、約750μLの、本明細書において開示されるような予め温めた培養培地が各ドーム(すなわち、ウェル)に添加されることがある。細胞外マトリックスドームを破壊しないようにするためには、予め温めた培養培地をウェルの側面に沿わせて添加することが望ましい場合がある。十分に樹立されたオルガノイド培養物については、オルガノイドを適切かつ一定の分割比、例えば、1:30で継代培養することによって、ウェル内のオルガノイド断片密度の定量が省かれることがある。
【0142】
酵素分割のために、細胞外マトリックスドームのインタクトネスは光学顕微鏡を用いて検証されることがある。上皮オルガノイドを含む細胞外マトリックスドームが実質的にインタクトであれば、前記培地は、例えば、吸引によって培養容器から除去されてもよい。p1000ピペットを用いて、約500μLの冷培養培地、例えば、基本培養培地(すなわち、Advanced DMEM/F-12)が、それぞれの細胞外マトリックスドームのほぼ中心に向かって強制的に向けられ、約1分間放置されることがある。p1000ピペットチップを用いて、例えば、上下にピペッティングする、および/または圧縮することによって細胞外マトリックスドームが溶液に引き込まれ、前記体積が新鮮なチューブに移されてもよい。細胞外マトリックスドームが破壊されたウェルは、さらなる体積の培養培地を用いてリンスされ、新鮮なチューブの内容物と共にプールされてもよい。
【0143】
新鮮なチューブの内容物が、約5回、10回、15回、または20回、上下に激しくピペッティングされることがある。激しくピペッティングされた溶液は約300xgで5分間、遠心分離されることがあり、上清が注意深く除去され、捨てられることがある。その後に、ペレットは、オルガノイドまたはその一部を実質的に単一細胞に解離するために適切な酵素溶液と接触され、十分な期間にわたって、消化酵素が機能し得る状態に置かれることがある。例えば、ある特定の消化酵素は、約37℃、例えば、20℃~40℃の温度で最適に働く。消化酵素が機能する温度を維持し得る、あらゆる環境が望ましい場合がある。また、消化は静止条件で行われてもよく、例えば、組織を回転または震盪することによって動いている状態で行われてもよい。例えば、オルガノイドまたはその一部が十分に解離するまで、チューブは、加熱したウォーターバスまたは加熱したオーブンに入れられることがある。一態様では、オルガノイドまたはその一部を単一細胞に解離するには、オルガノイドまたはその一部を37℃ウォーターバスの中で単一細胞解離緩衝液(Single Cell Dissociation Buffer)に入れて約10分間または20分間インキュベートすることで十分なことがある。
【0144】
オルガノイドまたはその一部が酵素溶液に十分に曝露されたら、この溶液は、約3mLの培養培地、例えば、本明細書に記載の基本培地と組み合わされてもよく、その中にある細胞の数が血球計を用いて求められてもよい。生細胞の望ましい数は、培養培地、例えば、本明細書に記載の基本培地を含有するチューブに移され、約300xgで5分間、遠心分離されることがある。単一細胞を含むペレットは任意の適切な体積の細胞外マトリックスに再懸濁され、単一または複数のドームとして、予め温めた24ウェルプレートの1つのウェルにプレートされ、重合させられることがある。解離した単一細胞を含む細胞外マトリックスドームが重合したら、本明細書において開示されるような、約750μLの予め温めた培養培地が各ドーム(すなわち、ウェル)に添加されてもよい。マトリゲル(商標)ドームを破壊しないようにするためには、予め温めた培養培地をウェルの側面に沿わせて添加することが望ましい場合がある。
【0145】
懸濁培養物を機械的に分割するために、オルガノイドおよびマトリゲル(商標)を遊離し、新しい容器に移すためにセルスクレーパーが用いられてもよい。一態様では、容器は15mL Falconチューブでもよい。p1000ピペットを用いて、約1000μLの冷培養培地、例えば、基本培養培地(すなわち、Advanced DMEM/F-12)が、沈んだオルガノイドを含有するチューブの底に強制的に向けられることがある。細胞外マトリックスドームおよびオルガノイドを破壊して断片にするが、オルガノイドを単一細胞まで完全に破壊しないようにするために、ある体積の冷培養培地が培養容器の中で、約5回、10回、15回、20回、または30回、上下に激しくピペッティングされることがある。結果として生じた懸濁液の一部分が計数のために空の培養容器に移されてもよい。次いで、望ましい数のオルガノイド断片が、冷培養培地と細胞外マトリックスを既に含んでいる新しい培養プレートに移されることがある。次いで、培養培地は37℃のオービタルシェーカーに戻されることがある。
【0146】
オルガノイド管腔の崩壊を回避するために、本開示の培養培地中に、本明細書に記載の方法に従ってプレートされた継代培養オルガノイドは、約2~7日ごとに、または適宜、培地交換されてもよい。しかしながら、オルガノイドが細胞外マトリックスに埋め込まれていれば、崩壊したオルガノイドの管腔を、膨らんだ状態に回復させることが可能な場合がある。特に、継代培養も培地交換もなく1ヶ月以上培養されていた崩壊したオルガノイドでさえ、開示された培養培地を用いて回復することがある。
【0147】
ある特定の態様では、異なる培地を異なる培養段階で使用することが望ましい場合がある。例えば、あるタイプの培地中で、例えば、培地A、培地B、培地C、または培地Dのうちの1つの中で培養を開始することが望ましい場合がある。ある特定の継代数の後に、またはある一定時間の間に継代の後に、異なるタイプの培地、例えば、培地A、培地B、培地C、または培地Dのうちの異なる培地を使用することが望ましい場合がある。別の態様では、異なる培養段階の間に、あるタイプの培地、例えば、培地A、培地B、培地C、または培地Dと、異なるタイプの培地、例えば、培地A、培地B、培地C、または培地Dのうちの異なる培地を繰り返すことが望ましい場合がある。
【0148】
特に肝臓オルガノイドに関して、肝臓オルガノイドの開始は、Lgr5+細胞および/または幹細胞/前駆細胞に相当する他の陽性マーカー発現に依存することがある。しかしながら、上皮幹細胞マーカーLgr5は一般的にホメオスタシスの条件下では活性でない場合がある。もっと正確に言うと、組織が閉塞による損傷、機械的損傷、および/または毒による損傷を受けると、典型的には、上皮幹細胞マーカーLgr5は活性化される場合がある。従って、上皮オルガノイドは、損傷を受けた肝臓組織から得られることが多い。本開示の一態様では、上皮管、上皮管断片、および/またはそれから単離された上皮幹細胞は無傷の組織から得られる。本明細書で使用する「無傷の組織」という用語は、閉塞による損傷、機械的損傷、および/または毒による損傷に供されたことがない組織を指す。
【0149】
本開示の一態様では、上皮オルガノイドは、以前に傷つけられたことがない、約1年齢以上の雄マウスまたは雌マウスから入手されたマウス組織に由来する上皮幹細胞/前駆細胞を含む、1つまたは複数の新鮮に単離された上皮管、上皮管断片、および/または上皮幹細胞/前駆細胞もしくは上皮断片に由来する。
【0150】
一態様では、本明細書に記載の方法によって入手された上皮オルガノイドは、さらに、成熟条件および/または分化条件に供される。本明細書で使用する「成熟条件および/または分化条件」という用語は、成熟細胞タイプへの上皮オルガノイドの成熟および分化を促進する培養条件を指す。様々な成熟条件および分化条件は当技術分野において公知であり、関心対象の成熟細胞タイプに応じて特異的に選択することができる。一態様では、本明細書に記載の方法によって入手された肝臓および/または膵臓オルガノイドは、さらに、成熟条件および/または分化条件に供される。
【0151】
オルガノイドおよびその使用
本開示は、本明細書に記載の方法によって入手された上皮オルガノイドを提供する。一態様では、オルガノイドは肝臓オルガノイド、膵臓オルガノイド、または腸オルガノイドである。
【0152】
本明細書に記載の方法によって入手されたオルガノイドは任意でヒトオルガノイドである。非ヒト動物オルガノイドも本明細書において意図される。
【0153】
本明細書に記載の方法を用いて形成された上皮オルガノイドは、オルガノイドの起源となった上皮組織を特徴とする1種または複数種の遺伝子またはタンパク質マーカーを発現することがある。例えば、肝臓オルガノイドは、以下の遺伝子:Lgr5、Axin2、Hnf4a、Epcam、ZO1、Krt19、およびSox9の1つまたは複数を発現することがある。別の例として、膵臓オルガノイドは、以下の遺伝子:Lgr5、Sox9、Pdx1、Krt7、Muc1、およびCar2のうち1つまたは複数を発現することがある。別の例として、腸オルガノイドは、以下の遺伝子:Lgr5、Lyz、Vil1、ChgA、およびMuc2のうち1つまたは複数を発現することがある。
【0154】
本明細書に記載の方法および培地を用いて形成された肝臓オルガノイドの自己再生は、主として、Lgr5ではなくAxin2によって引き起こされてもよく、そのため、肝臓ホメオスタシスにとってもっと生理学的に関連する培養系を提供する(Wang et al., 2015 Nature)。
【0155】
本開示はまた、本明細書に記載のオルガノイドと、薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物も提供する。
【0156】
本明細書で使用する「薬学的に許容される担体」という用語は、薬学的投与と適合する、任意の、および全ての溶媒、分散媒、コーティング、等張剤、および吸収遅延剤などを含むことが意図される。適切な担体は、参照により本明細書に組み入れられる、この分野において標準的な教科書であるRemington’s Pharmaceutical Sciencesの最新版に記載されている。このような担体または希釈剤の任意の例には、水、食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、および5%ヒト血清アルブミンが含まれるが、これに限定されない。
【0157】
薬学的組成物は、その意図された投与経路と適合するように処方される。投与経路の例には、非経口投与、例えば、静脈内投与、皮内投与、皮下投与、経口投与(例えば、吸入)、経皮投与(すなわち、局部投与)、経粘膜投与、および直腸投与が含まれる。
【0158】
上皮オルガノイドの様々な使用が当技術分野において公知である。
【0159】
特に、本開示のオルガノイドおよび/または薬学的組成物は、対象において障害、状態、もしくは疾患を処置するのに、または再生医療に有用である。
【0160】
一態様では、本開示のオルガノイドは、障害、状態、もしくは疾患を処置するための方法または再生医療のための方法であって、前記オルガノイドを、前記オルガノイドを必要とする対象に投与する工程を含む、方法、において用いられる。
【0161】
別の態様では、対象における肝臓の障害、状態、もしくは疾患を処置するための方法または再生医療のための方法であって、本明細書に記載の方法によって入手された肝臓オルガノイドを対象に投与する工程を含む、方法、が提供される。一態様では、肝臓の障害、状態、または疾患は、アラジール症候群、ウィルソン病、1型糖原貯蔵症、α1アンチトリプシン欠損症、線維症、硬変、新生児/ウイルス性(A、B、C)/自己免疫性/中毒性肝炎、脂肪性肝疾患、チロシン血症、類肉腫症、リソソーム酸リパーゼ欠損症、肝臓腫瘍、嚢胞性肝疾患、胆道閉鎖症、ガラクトース血症、原発性胆汁性胆管炎、ポルフィリン症、ライ症候群、ヘモクロマトーシス、ジルベール症候群、脂肪肝、および胆石である。
【0162】
さらなる態様では、対象における膵臓の障害、状態、もしくは疾患を処置するための方法または再生医療のための方法であって、本明細書に記載の方法によって入手された膵臓オルガノイドを対象に投与する工程を含む、方法、が提供される。一態様では、膵臓の障害、状態、もしくは疾患は、急性/慢性/遺伝性の膵炎、膵臓腫瘍、糖尿病、嚢胞性線維症、膵外分泌不全、先天性奇形(膵管癒合不全、輪状膵)、ゾリンジャー・エリソン症候群、および膵臓嚢胞/偽嚢胞である。
【0163】
さらなる態様では、対象における腸の障害、状態、もしくは疾患を処置する方法または再生医療のための方法であって、本明細書に記載の方法によって入手された腸オルガノイドを対象に投与する工程を含む、方法、が提供される。一態様では、腸の障害、状態、もしくは疾患は、嚢胞性線維症、潰瘍性大腸炎、クローン病、結腸直腸がん、結腸ポリープ、過敏性腸症候群、セリアック病、便失禁、ラクトース不耐症、憩室症/憩室炎、呑酸、下痢、消化管潰瘍、短腸症候群、カーリング潰瘍、盲係蹄症候群、ミルロイ病、ウィップル病、カルチノイド症候群、ヒルシュスプルング病、および肛門がんである。
【0164】
別の態様では、本明細書において開示される有効量のオルガノイドは、障害、状態、もしくは疾患を処置するための、または再生医療のための医用薬剤の調製において用いられる。本開示の有効量のオルガノイドは、概して、治療目的を実現するのに必要な量に関する。
【0165】
本明細書で使用する「対象」という用語は動物界の全てのメンバーを含む。一態様では、対象は哺乳動物である。さらなる態様では、対象はヒトである。
【0166】
本明細書で使用する「障害、状態、もしくは疾患を処置する」とは、障害、状態、もしくは疾患の進行、または障害、状態、もしくは疾患に関連する症状もしくは状態を逆転させる、軽減する、または阻害することを含むが、これに限定されない。
【0167】
本明細書に記載のオルガノイドはまた、創薬スクリーニングを行う;毒性をアッセイする;発生学、細胞系譜、および分化経路を調査する;組換え遺伝子発現を含む遺伝子発現を研究する;損傷および修復に関与する機構を調査する;炎症性疾患および感染症を調査する;ならびに細胞形質転換の発症メカニズムおよびがんの原因を研究する方法において有用な場合がある。
【実施例0168】
以下の非限定的な実施例は本開示を例示する。
【0169】
実施例1-臓器またはその一部の消化
雄マウスおよび雌マウス(すなわち、C57BL/6)に由来する、上皮を含む臓器全体を、解剖して約1~3mm3の組織断片に切断した。約1~3mm3の上皮組織断片を約25mLの氷冷DMEM/F-12に浸した。上皮断片を含有する、前記体積の氷冷DMEM/F-12を、25mLセロロジカルピペットを用いて50mL Falconチューブに移した。上皮組織断片を重力の力で約2分間、沈ませ、上清を捨てた。その後に、上皮組織断片のペレットを、ディスパーゼ(0.0125%(w/v))およびコラゲナーゼ(0.0125%(w/v))を含むEnzyme Digestion Cocktail 5mLと接触させた。上皮組織断片を37℃ウォーターバスの中でEnzyme Digestion Cocktailに入れて20分間インキュベートした。20分間インキュベートした後、この溶液を、10mLセロロジカルピペットを用いて約7回、激しくピペッティングし、撹拌し、消化済の上皮組織断片を重力の力で約1分間、沈ませた。最初の上清を捨てた。
【0170】
上皮組織断片から上皮管および/または上皮管断片を得るために、前記のように消化サイクルを繰り返した(図7a)。第2の消化サイクル後の早い時期に、上皮管および/または上皮管断片が上清に存在する場合がある(図7b)。上皮管および/または上皮管断片が上清に存在するようになったら、上清を取り出し、適切なチューブに入れた。残存している上皮組織断片の連続した消化サイクルから得られた上清をプールした。
【0171】
5~7回、各20分の消化サイクルによって、上皮組織断片の実質的に全てが上皮管および/または上皮管断片に消化された。
【0172】
実施例2-臓器またはその一部を消化した後の産物
単一細胞、例えば、高度に分化した細胞および破片から上皮管および/または上皮管断片を単離するために、(図4に示したように)取っておいたプールした上清を濾過に供した。プールした上清を40μmフィルターに通し、フロースルーを捨てた。フィルター面を注意深く裏返し、50mL Falconチューブの上部に置くことによって、フィルター面にある濾液を収集した。約10mLの氷冷Advanced DMEM/F-12をフィルター面の下面の上から通し、それによって、濾液がフィルター面から洗い流され、チューブ内に集まるようにした。全ての、または実質的に全ての濾液がフィルターから洗い流されるまで、洗浄を繰り返した。フィルターからこそげ落とすことで収集の助けになることがある。チューブを300xgで5分間、遠心分離して、上皮管および/または上皮管断片をペレット化し、上清を捨てた。任意で、上皮管および/または上皮管断片を含む濾液の懸濁液10mLを3~10個のチューブに等分した後に遠心分離した。
【0173】
実施例3-臓器またはその一部を消化した後の産物のプレクリアリング
単一細胞、例えば、高度に分化した細胞および破片から上皮管および/または上皮管断片を単離するために、(図4に示したように)取っておいたプールした上清を濾過に供した。最初に、プールした上清を70μmフィルターに通し、フロースルーを保持した。破片、例えば、未消化の組織および管を含む濾液を捨てた(または、代わりに、実施例4または5に概説したように、さらなる消化に曝露してもよい、および/または細胞外マトリックスの埋め込んでもよい)。次いで、70μmフィルターに通した、プールした上清の一部を、実施例2に記載のように40μmフィルターに通した。フィルター面を注意深く裏返し、50mL Falconチューブの上部に置くことによって、フィルター面にある濾液を収集した。約10mLの氷冷Advanced DMEM/F-12をフィルター面の下面の上から通し、それによって、濾液がフィルター面から洗い流され、チューブ内に集まるようにした。全ての、または実質的に全ての濾液がフィルターから洗い流されるまで、洗浄を繰り返した。フィルターからこそげ落とすことで収集の助けになることがある。チューブを300xgで5分間、遠心分離して、上皮管および/または上皮管断片をペレット化し、上清を捨てた。任意で、上皮管および/または上皮管断片を含む濾液の懸濁液10mLを3~10個のチューブに等しく等分した後に遠心分離した。
【0174】
実施例4-マトリゲル(商標)ドーム内への上皮管および/または上皮管断片のプレーティング
ペレット化した上皮管および/または上皮管断片を、適切な体積の解凍したマトリゲル(商標)に再懸濁した。あるマウス臓器から得た上皮管および/または上皮管断片が3~10個のチューブに等しく等分されていなければ、約30μL~300μLのマトリゲル(商標)を用いて、これらを再懸濁した。そうでなければ、約10μL~30μLの体積のマトリゲル(商標)を用いて、3~10個のチューブのそれぞれに等分されている上皮管および/または上皮管断片を再懸濁した。
【0175】
後でプレートされたマトリゲル(商標)ドームの安定性を損なうことなく、最大90%(v/v)の細胞培養培地を含有するようにマトリゲル(商標)と上皮材料の混合物を希釈することも可能であった。
【0176】
上皮管および/または管断片の懸濁液を、予め温めた24ウェルプレートの底面に25~60μLの液滴として付着させ、37℃で10分間、重合させてドームにした。24ウェルプレートの中央にある8個のウェルが最も傾斜していないので、マトリゲル(商標)液滴を付着させるのに最も適している。
【0177】
上皮管および/または上皮管断片の懸濁液を分注しながら、上皮管および/または上皮管断片がピペットチップの外面に付着しないようにするために、ならびに上皮管および/または上皮管断片をドーム内に均等に分配するために、ピペットチップを少しずつ上方向に動かした。
【0178】
実施例5-細胞外マトリックスの低濃度の支持体と懸濁した、上皮管および/または上皮管断片のプレーティング
上皮管および/または上皮管断片を、細胞外マトリックスからの低濃度の支持体と懸濁して成長させた。実施例2または実施例3に概説したように入手した上皮管および/または上皮管断片を培養培地と混合した。この混合物を、低濃度の細胞外マトリックス(例えば、0.1%~50%(v/v)のマトリゲル(商標))と組み合わせた場合は4℃まで冷却した。低付着性プレート(例えば、12ウェルプレート)を用いて、細胞培養培地(と低いマトリゲル(商標)濃度)に懸濁した上皮材料を各ウェルに添加し、70~80rpmの回転下で37℃で維持した。
【0179】
実施例6-培養培地中での上皮管および/または上皮断片の培養
重合したマトリゲル(商標)ドームを破壊することなく、約750μLの培養培地を、1つまたは複数のマトリゲル(商標)ドームを含有するウェルの側壁に沿わせて添加した。マトリゲル(商標)ドームを含有しないウェルには、750μLの無菌の液体、例えば、PBS、培養培地などを入れた。
【0180】
0日目に、その後は定期的に、各マトリゲル(商標)ドームの画像を撮影した(図1)。各ウェルから前記培地を注意深く除去することによって、前記培地を1週間まで2~7日ごとに交換した。750μL体積の予め温めた(すなわち、20~37℃)培養培地を各ウェルに添加した。
【0181】
実施例7-培地A中での上皮管または上皮断片の培養
実施例6に記載の方法を、DMEM/F-12と、約15mM HEPES、1.2g/L重炭酸ナトリウム、0.5mM L-アラニル-L-グルタミン、61.5μg/mL Rhインシュリン、0.012μg/mLプロゲステロン、64μg/mLプトレシン、0.0104μg/mL亜セレン酸ナトリウム、80μg/mLヒトアポトランスフェリン、0.02μg/mLコルチコステロン、15μg/mL D-(+)-ガラクトース、および2600μg/mL BSAを含む培地を用いて、肝臓オルガノイドを形成および拡大するのに使用した。
【0182】
このような培地は、約5回の継代について、肝臓オルガノイドの形成および拡大を支持した。
【0183】
実施例8-培地B中での上皮管または上皮断片の培養
実施例6に記載の方法を、0.016μg/mL R-スポンジン-1および/または3.75μM CHIR99021を添加した実施例7の培養培地Aを用いて、上皮オルガノイドを形成および拡大するのに使用した。
【0184】
R-スポンジン-1およびCHIR99021の存在下で、上皮オルガノイドの形成および拡大を約20回以上の継代にわたって支持した。R-スポンジン-1またはCHIR99021のうちの1つしかない状態で、上皮オルガノイドの形成および拡大は約10回以上の継代にわたって支持された。
【0185】
実施例9-培地C中での上皮管または上皮断片の培養
実施例6に記載の方法を、0.05μg/mL EGFを添加した実施例8の培養培地を用いて上皮オルガノイドを形成および拡大するのに使用した。
【0186】
このような培地は、約40回以上の継代について、上皮オルガノイドの形成および拡大を支持した。
【0187】
実施例10-培地D中での上皮管または上皮断片の培養
実施例6に記載の方法を、0.016μg/mLノギンおよび0.1μM LDN193189を添加した実施例9の培養培地Cを用いて上皮オルガノイドを形成および拡大するのに使用した。
【0188】
このような培地は、約50回以上の継代について、上皮オルガノイドの形成および拡大を支持した。
【0189】
実施例11-肝臓オルガノイドの形成とそのマーカーの発現
肝臓を実施例1および2に従って、任意で、実施例3に従って処理し、実施例4または5に従ってプレートし、実施例7~10に記載の培地の存在下で培養した時に、肝臓オルガノイドの形成および拡大が発生した。一例では、肝臓を実施例1、4、および7に従って処理した。
【0190】
肝管、肝管断片、単一の上皮幹細胞および/もしくは前駆細胞、または機械的破砕もしくは酵素消化された肝臓オルガノイドをプレートすることに関係なく、肝臓オルガノイドの形成および拡大が発生した(図8)。ひとたび肝臓オルガノイドが形成されたら、複数回の継代にわたって長期間維持および拡大された(図9)。
【0191】
形成および拡大された肝臓オルガノイドは、図10に示したように肝胆道遺伝子発現を示した。さらに、前記方法に従って肝臓オルガノイドの形成および拡大が発生した。本明細書において開示される培地は、肝臓および管のタンパク質を合成する(図11)。
【0192】
実施例12-膵臓オルガノイドの形成とそのマーカーの発現
膵臓を実施例1および2に従って、任意で、実施例3に従って処理し、実施例4または5に従ってプレートし、実施例7~10に記載の培地の存在下で培養した時に、膵臓オルガノイドの形成および拡大が発生した。一例では、膵臓を実施例1、4および7に従って処理した。
【0193】
膵管、膵管断片、単一の上皮幹細胞および/もしくは前駆細胞、または機械的破砕もしくは酵素消化された膵臓オルガノイドをプレートすることに関係なく、膵臓オルガノイドの形成および拡大が発生した(図12)。ひとたび膵臓オルガノイドが形成されたら、複数回の継代にわたって長期間維持および拡大された(図13)。
【0194】
形成および拡大された膵臓オルガノイドは、図14に示したように膵管遺伝子の発現を示す。さらに、本明細書において開示される方法および培地に従って形成および拡大された膵臓オルガノイドは、膵管タンパク質を合成する(図15)。
【0195】
実施例13-小腸オルガノイドおよび結腸オルガノイドの形成と、そのマーカーの発現
小腸または結腸を実施例1および2に従って、任意で、実施例3に従って処理し、実施例4または5に従ってプレートし、実施例7または8に記載の培地の存在下で培養した時に、小腸オルガノイドおよび結腸オルガノイドの形成および拡大が発生した(図16)。一例では、腸を実施例1、4、および7に従って処理した。
【0196】
腸陰窩、腸陰窩断片、単一の上皮幹細胞および/もしくは前駆細胞、または機械的破砕もしくは酵素消化された腸オルガノイドをプレートすることに関係なく、腸オルガノイドの形成および拡大が発生した(図17)。
【0197】
形成および拡大された腸オルガノイドおよび結腸オルガノイドは、図18~20に示したように腸マーカーおよび結腸マーカーを発現する。
【0198】
実施例14-機械的破砕を用いたオルガノイドの継代培養
実施例4または5に従ってプレートしたオルガノイドの拡大を、その成長を追跡するために、特に、オルガノイドの管腔が暗くなっておらず崩壊していないことを追跡するために、光学顕微鏡を用いて毎日モニタリングした。
【0199】
マトリゲル(商標)ドーム内で培養した場合、マトリゲル(商標)ドームの上を覆っている培養培地を吸引した。約1000μLのAdvanced DMEM/F-12を、それぞれのマトリゲル(商標)ドームの中心に強制的に向けた。前記体積のAdvanced DMEM/F-12で15回、上下に激しくピペッティングした。
【0200】
懸濁状態で(すなわち、細胞外マトリックス無しで、または細胞外マトリックスの低濃度の支持体を用いて)培養した場合、オルガノイド懸濁液を、15回、上下に激しくピペッティングした。
【0201】
計数のために、10μL体積の細胞懸濁液を3つ、1つ1つの体積ドームとして6ウェルプレートの空のウェルにプレートした。ある体積の、約200個の凝集塊を含有する細胞懸濁液を、1mLのAdvanced DMEM/F-12を含有するチューブに移し、300xgで5分間、遠心分離した。ペレットを破壊することなく上清を注意深く吸引した。ペレットを再懸濁し、実施例4または5に従ってプレートした。培養培地を、実施例6に記載のように、具体的には、実施例7~10のいずれか1つに記載のように製剤を有する培養培地を用いて、マトリゲル(商標)ドームを含有する各ウェルに添加した。
【0202】
実施例15-酵素消化を用いたオルガノイドの継代培養
実施例4または5に従ってプレートしたオルガノイドの拡大を、その成長を追跡するために、特に、オルガノイドの管腔が暗くなっておらず崩壊していないことを追跡するために、光学顕微鏡を用いて毎日モニタリングした。
【0203】
マトリゲル(商標)ドーム内で培養した場合、マトリゲル(商標)ドームの上を覆っている培養培地を吸引した。約500μLの冷Advanced DMEM/F-12を、それぞれのマトリゲル(商標)ドームの中心に強制的に添加し、約1分間放置させた。p1000ピペットチップを用いて上下にピペッティングし、圧縮することによってマトリゲル(商標)ドームを溶液に引き込み、前記体積を新鮮なチューブに移した。ウェルを500μLのAdvanced DMEM/F-12でリンスし、この体積を新鮮なチューブの内容物と一緒にプールした。
【0204】
懸濁状態で(すなわち、細胞外マトリックス無しで、または細胞外マトリックスの低濃度の支持体を用いて)培養した場合、オルガノイド懸濁液を新鮮なチューブに移した。ウェルを500μLのAdvanced DMEM/F-12でリンスし、この体積を新鮮なチューブの内容物と一緒にプールした。
【0205】
新鮮なチューブの内容物を15回、激しくピペッティングし、300xgで5分間、遠心分離し、上清を注意深く除去し、捨てた。ペレットを3mLの単一細胞解離緩衝液と接触させ、37℃ウォーターバスに入れて10~20分間インキュベートした。インキュベーション期間後、3mLのAdvanced DMEM/F-12をチューブに添加し、血球計を用いて懸濁液中の細胞の数を求めた。約1000~8000個の生細胞を含有する体積を15mL Falconチューブに移し、300xgで5分間、遠心分離した。ペレットを再懸濁し、実施例4または5に従ってプレートした。実施例6に記載のように、具体的には、実施例7~10のいずれか1つに記載のように製剤を有する培養培地を用いて、マトリゲル(商標)ドームを含む各ウェルに培養培地を添加した。
【0206】
実施例16-上皮オルガノイドの凍結保存および回収
上皮オルガノイドを液体窒素中で少なくとも1年間、凍結保存した。オルガノイドを実施例14または15に概説したように回収し、最大10%のDMSOを含有する凍結保存培地に再懸濁した。凍結保存培地の非DMSO画分は、実施例7~10に記載の培地のいずれか1つ、市販の基本培地、またはPBSを含んだ。最初に、制御された凍結方法を用いて、上皮オルガノイドまたはオルガノイド断片を含有する凍結保存培地のバイアルを-80℃まで凍結し、次いで、長期保管のために液体窒素に移した。解凍するために、バイアルを液体窒素から取り出し、37℃ウォーターバスに入れた。内容物を実施例7~10の培地に滴下し、300xgで5分間、遠心分離した。回収培地にBSAを加えると、回収されるオルガノイドまたはオルガノイド断片の数が増加した。上清を除去し、ペレット化した上皮材料を、実施例4または5に記載のように再懸濁およびプレートした。
【0207】
(表1)上皮オルガノイドを形成および拡大するための、FGFおよび/またはニコチンアミドを含まない培養培地の選択された成分
「x」は、該当する因子が存在することを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
【手続補正書】
【提出日】2023-05-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、上皮オルガノイドを入手するための方法:
1つまたは複数の上皮管、上皮管断片、および/またはそれから単離された上皮幹細胞もしくは上皮前駆細胞を、アミノ酸、ビタミン、有機塩および/もしくは無機塩、糖、ならびに/または抗酸化物質を含む培地の存在下で培養する工程であって、
該培地が、B27成分および/またはN2成分および/またはN-アセチルシステインをさらに含み、
該培地が、(a)FGFおよび/またはニコチンアミドを含まず、かつ(b):
i)Wnt-βカテニン経路の1つまたは複数のアクチベーター、EGFファミリーの1つまたは複数のメンバー、およびBMP阻害剤またはBMPシグナル伝達の阻害剤の全てが加えられていないか、または
ii)Wnt-βカテニン経路の1つまたは複数のアクチベーターは加えられているが、EGFファミリーの1つまたは複数のメンバー、およびBMP阻害剤またはBMPシグナル伝達の阻害剤は加えられていないか、または
iii)Wnt-βカテニン経路の1つまたは複数のアクチベーターおよびEGFファミリーの1つまたは複数のメンバーは加えられているが、BMP阻害剤またはBMPシグナル伝達の阻害剤は加えられておらず、かつ
培地が、5回以上の継代にわたってオルガノイドを支持する、
工程。
【請求項2】
Wnt-βカテニン経路の1つまたは複数のアクチベーターが、CHIR99021、Wnt、Wnt3a、ノリン、R-スポンジン1、R-スポンジン2、R-スポンジン3、R-スポンジン4、およびGSK阻害剤のうちの1つまたは複数より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
培地が、以下のB27小成分および/またはN2小成分:
Rhインシュリン;プロゲステロン;プトレシン;亜セレン酸ナトリウム;ヒトアポトランスフェリン;コルチコステロン;D-(+)-ガラクトース;およびBSA
の1つまたは複数を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記上皮幹細胞または上皮前駆細胞がヒト細胞、マウス細胞、またはラット細胞である、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
上皮幹細胞または上皮前駆細胞が肝臓上皮幹細胞、膵臓上皮細胞、または腸上皮細胞である、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
培地が、上皮オルガノイドを長期培養するのに有効であり、該長期培養が約50回以上の継代である、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
1つまたは複数の上皮管、上皮管断片、および/または上皮幹細胞もしくは上皮前駆細胞を細胞外マトリックスと接触させて培養する工程をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
1つまたは複数の上皮管、上皮管断片、および/または上皮幹細胞もしくは上皮前駆細胞を、細胞外マトリックスに由来する低濃度の支持体と接触させて培養する工程をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
細胞外マトリックス濃度が0.1~50%(v/v)である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
上皮管および/または上皮管断片に由来する上皮幹細胞または上皮前駆細胞を懸濁液中で培養する工程をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
懸濁液が、約0.1%(v/v)以下の濃度を有する細胞外マトリックスを含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
細胞外マトリックスがマトリゲル(商標)を含む、請求項7~9および11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
上皮管、上皮管断片、および/またはそれから単離された上皮幹細胞もしくは上皮前駆細胞が無傷の組織から入手される、請求項1~12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
上皮オルガノイドを成熟条件および/または分化条件に供する工程をさらに含む、請求項1~13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
オルガノイドが、肝臓オルガノイド、膵臓オルガノイド、または腸オルガノイドである、請求項5記載の方法に従って入手される、オルガノイド。
【請求項16】
創薬スクリーニングを行う;毒性をアッセイする;発生学、細胞系譜、および分化経路を調査する;組換え遺伝子発現を含む遺伝子発現を研究する;損傷および修復に関与する機構を調査する;炎症性疾患および感染症を調査する;細胞形質転換の発症メカニズムおよびがんの原因を研究する方法であって、請求項1~14のいずれか一項記載の上皮オルガノイドを入手する工程を含む、方法。
【請求項17】
それを必要とする対象における肝臓の障害、状態、もしくは疾患の処置または再生医療において使用するための、請求項15記載の肝臓オルガノイド。
【請求項18】
それを必要とする対象における膵臓の障害、状態、もしくは疾患の処置または再生医療において使用するための、請求項15記載の膵臓オルガノイド。
【請求項19】
それを必要とする対象における腸の障害、状態、もしくは疾患の処置または再生医療において使用するための、請求項15記載の腸オルガノイド。
【請求項20】
アミノ酸、ビタミン、有機塩および/もしくは無機塩、糖、ならびに/または抗酸化物質を含む、上皮オルガノイドを入手するための培地であって、
該培地が、B27成分および/またはN2成分および/またはN-アセチルシステインをさらに含み
該培地が、(a)FGFおよび/またはニコチンアミドを含まず、かつ(b) :
i)Wnt-βカテニン経路の1つまたは複数のアクチベーター、EGFファミリーの1つまたは複数のメンバー、およびBMP阻害剤またはBMPシグナル伝達の阻害剤の全てが加えられていないか、または
ii)Wnt-βカテニン経路の1つまたは複数のアクチベーターは加えられているが、EGFファミリーの1つまたは複数のメンバー、およびBMP阻害剤またはBMPシグナル伝達の阻害剤は加えられていないか、または
iii)Wnt-βカテニン経路の1つまたは複数のアクチベーターおよびEGFファミリーの1つまたは複数のメンバーは加えられているが、BMP阻害剤またはBMPシグナル伝達の阻害剤は加えられておらず、かつ
該培地が、5回以上の継代にわたってオルガノイドを支持することができる、
培地。
【請求項21】
Wnt-βカテニン経路の1つまたは複数のアクチベーターが、CHIR99021、Wnt、Wnt3a、ノリン、R-スポンジン1、R-スポンジン2、R-スポンジン3、R-スポンジン4、およびGSK阻害剤のうちの1つまたは複数より選択される、請求項20記載の培地。
【請求項22】
以下のB27小成分および/またはN2小成分:
Rhインシュリン;プロゲステロン;プトレシン;亜セレン酸ナトリウム;ヒトアポトランスフェリン;コルチコステロン;D-(+)-ガラクトース;およびBSA
の1つまたは複数をさらに含む、請求項20または21記載の培地。
【請求項23】
細胞外マトリックスをさらに含む、請求項20~22のいずれか一項記載の培地。
【請求項24】
細胞外マトリックスの濃度が0.1~50%(v/v)である、請求項23記載の培地。
【請求項25】
細胞外マトリックスの濃度が約0.1%(v/v)以下である、請求項23記載の培地。
【請求項26】
細胞外マトリックスがマトリゲル(商標)を含む、請求項23~25のいずれか一項記載の培地。