(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085616
(43)【公開日】2023-06-21
(54)【発明の名称】筆記板用水性インク組成物およびマーキングペン
(51)【国際特許分類】
C09D 11/16 20140101AFI20230614BHJP
B43K 8/02 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
C09D11/16
B43K8/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021199738
(22)【出願日】2021-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 陽子
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA04
4J039AE07
4J039BC13
4J039BC35
4J039BC56
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE19
4J039BE30
4J039CA07
4J039EA29
4J039EA48
4J039FA02
4J039GA26
(57)【要約】
【課題】ホワイトボードなどの筆記板に筆記した筆跡や描線が反射し難く、視認し易い描線を筆記でき、また、簡単に描線を消去できるとともに、キャップを外して放置しても、ペン先のインク組成物が蒸発または乾燥しにくい筆記板用水性インク組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも、顔料とポリオキシプロピレン(n)ジグリセリルエーテルとを含み、水性インク組成物全量における前記顔料(A)と前記ポリオキシプロピレン(n)ジグリセリルエーテル(B)の固形分の比(A)/(B)が、0.15~300であることを特徴とする、筆記板用水性インク組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、顔料とポリオキシプロピレン(n)ジグリセリルエーテルとを含み、
水性インク組成物全量における前記顔料(A)と前記ポリオキシプロピレン(n)ジグリセリルエーテル(B)の固形分の比(A)/(B)が、0.15~300であることを特徴とする、筆記板用水性インク組成物。
【請求項2】
前記顔料の平均粒子径が0.5~10μmであることを特徴とする、請求項1に記載の筆記板用水性インク組成物。
【請求項3】
前記顔料が、着色樹脂粒子であることを特徴とする、請求項1または2に記載の筆記板用水性インク組成物。
【請求項4】
前記の着色樹脂粒子の樹脂成分が、ポリウレタン、ポリウレア、ポリウレアウレタン、またはポリ(メタ)アクリル酸であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の筆記板用水性インク組成物。
【請求項5】
さらにリン酸エステルを含むことを特徴とする、請求項1に記載の筆記板用水性インク組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の筆記板用水性インク組成物を搭載したマーキングペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホワイトボードなどの筆記板に好適な筆記板用水性インク組成物に関し、詳しくは、筆記描線が反射し難く、かつ、キャップオフ性や消去性に優れた筆記板用水性インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ホワイトボードなどの筆記板には、描線を筆記した後、容易に拭き消すことができるインクが用いられる。このようなインクとしては、従来から、染料または顔料などの着色剤、バインダー、常温で非揮発性の有機溶剤、および常温で揮発性の有機溶剤からなるものが用いられてきた。このようなインクで筆記すると、筆記板表面から揮発性溶剤が蒸発した後も、着色剤が未乾燥の状態で筆記面に残り、布などで拭くと、筆記物を拭き消すことができる。
【0003】
一方、ホワイトボードは、主にスチール製やホーロー製であり、表面平滑性が高く、光沢があるのが特徴である。まぶしさを抑えて低反射にするため、表面にラミネート加工が施されているものの、ホワイトボードは、光沢があり艶々しているため、室内の照明などの光が反射して、筆記した文字や描線が見づらいことがある。
【0004】
これまでに、筆記した文字や描線の反射による見づらさを改善し、かつ、筆記物の拭き取り性や、キャップを外したまま放置しても乾燥しにくい、といったインク性能を備えた筆記板用のインク組成物が開発されている。例えば、特許文献1に記載の筆記板用水性インクは、顔料と、体質顔料と、アクリル樹脂と、ポリビニルアルコールまたは水溶性セルロース誘導体と、常温でペーストまたは固体の分子量600~6000のポリエチレングリコールと、脂肪酸カルボン酸エステルと、水とを含む。前記水性インクにおいては、ポリエチレングリコールを含まない場合も、塗膜は形成されるが、ポリエチレングリコールを含むことで塗膜が脆くなり、水で濡れたもので拭いたとき、筆跡を消去することができる。また、水性インクに不溶の脂肪酸カルボン酸エステルを含むことで、塗膜の疎水性を高め、水を弾きやすくする。
【0005】
また、筆跡定着用樹脂としてポリビニルブチラール樹脂を使用しても、筆跡形成後に長期間経過した後に、軽い力で筆跡を消去できる筆記板用油性インク組成物として、顔料と、有機溶剤と、ポリビニルブチラール樹脂と、ポリオキシアルキレングリセリルエーテルおよびポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルから選ばれる一種以上の剥離剤とを含有する油性マーキングインク組成物が記載されている(特許文献2)。前記油性マーキングインク組成物は、化学構造上、ポリビニルブチラール樹脂と相溶性の高い剥離剤を用いることにより、経時後においても被膜内に剥離剤が均一に存在することができ、長期的に剥離効果を発現することができる。
【0006】
特許文献3では、マイクロカプセル顔料の経時的な凝集や変色を抑え、筆跡を良好に変色させるため、主溶剤として、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールおよびポリオキシプロピレンジグリセリルエーテルから選ばれる少なくとも一つを用いた筆記具用油性インク組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-313484号公報
【特許文献2】特開2017-214519号公報
【特許文献3】特開2012-246431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これまでに報告されている水性または油性のインク組成物は、筆跡の拭き取り性や、顔料の経時的な沈降を抑える効果は改善されているが、ホワイトボードに筆記した時に、文字や描線からの光反射を抑えて見づらさを改善するという効果はまだ充分に得られていない。
【0009】
本発明では、ホワイトボードなどの筆記板に筆記した筆跡や描線が反射し難く、視認し易い描線を筆記でき、また、簡単に描線を消去できるとともに、キャップを外して放置しても、ペン先のインク組成物が蒸発または乾燥しにくい筆記板用水性インク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の筆記板用水性インク組成物は、少なくとも、顔料とポリオキシプロピレン(n)ジグリセリルエーテルとを含み、前記水性インク組成物全量中における前記顔料(A)と前記ポリオキシプロピレン(n)ジグリセリルエーテル(B)の固形分の比(A)/(B)が、0.15~300であることを特徴とする。
前記顔料の平均粒子径は、0.5~10μmであることが好ましい。
前記顔料は、着色樹脂粒子であることが好ましい。
前記の着色樹脂粒子の樹脂成分は、ポリウレタン、ポリウレア、ポリウレアウレタン、またはポリ(メタ)アクリル酸であることが好ましい。
さらにリン酸エステルを含むことが好ましい。
本発明のマーキングペンは、前記筆記板用水性インク組成物を搭載したものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、顔料として、粒径0.5~10μmのウレタン系の着色樹脂粒子、具体的には、ポリウレタン、ポリウレア、ポリウレアウレタン、またはポリ(メタ)アクリル酸を樹脂成分とする着色樹脂粒子を用いることで、ホワイトボードなどの筆記板に筆記した描線が反射しにくく、描線を視認しやすい水性インク組成物を提供することができる。また、ウレタン系の着色樹脂粒子を用いることで、描線が適度な柔軟性を持つこととなり、描線の消去が容易となる。さらに、水性インク組成物にリン酸エステルを配合すれば、描線の消去がいっそう容易となる。
【0012】
本発明の水性インク組成物では、セルロース誘導体が顔料の沈降を防止し、ポリオキシプロピレン(n)ジグリセリルエーテルが、筆記板に筆記したときの描線の伸びを良くするとともに、キャップオフ時のペン先となるペン芯の乾燥を防止する効果を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の筆記板用水性インク組成物(以下単に「水性インク組成物」ともいう。)について、詳細に説明する。
本発明の水性インク組成物は、少なくとも、顔料とポリオキシプロピレン(n)ジグリセリルエーテルとを含む。
【0014】
顔料は、水や油などの溶剤に溶けない粉末状の色材である。顔料が溶剤の中で沈降せず、均一に分散された状態になると、筆記できるインクとなる。
顔料は、ホワイトボードなどの筆記板に筆記したときに、描線が反射しにくく、視認しやすいものであればよく、また、顔料の構造・形状も、例えば、中空構造であっても、中空構造なし(密実)でもよく、球状、扁平状および多角形状など、特に限定されるものではない。顔料には、例えば、アゾ系顔料、縮合ポリアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、インジゴ系顔料およびチオインジゴ系顔料などの有機顔料;カーボンブラック、紺青、ベンガラおよび酸化チタンなどの無機顔料;アルミニウム粉末および真鍮粉末などの金属粉顔料;ならびにこれらの顔料を樹脂などで被覆した加工顔料、あるいは、パール顔料のような、天然雲母を基材とし、表面に酸化チタンの微細結晶を被覆した顔料でもよい。
【0015】
また、筆記板が例えばホワイトボードのように白、あるいは黄色など薄めの色の場合、隠蔽性に優れるという点で、カーボンブラックも好適である。具体的には、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラックおよびサーマルブラックなどである。カーボンブラックは、通常、平均粒子径0.05~1μm、好ましくは0.05~0.5μmのものが用いられる。
【0016】
本発明において、前記顔料は、平均粒子径0.5~10μmの着色樹脂粒子として用いることが好ましい。前記着色樹脂粒子を用いることで、描線が適度な柔軟性を持つこととなり、ホワイトボードなどの筆記板に筆記した描線が反射しにくく、また、描線の消去が容易となる。前記着色樹脂粒子は、ポリマー微粒子の内部に顔料が均質に分散された着色樹脂微粒子、ポリマー微粒子の表面に顔料が均質に分散された着色樹脂微粒子、およびポリマー微粒子の内部および表面に顔料が化学的に結合した着色樹脂微粒子のいずれであってもよいが、概ね、樹脂成分からなるシェル層と、顔料成分からなるコア層とで構成される。本発明における「平均粒子径」とは、レーザー回折法または動的光散乱法を用いて測定された値である。レーザー回折法においては、体積基準により算出されたD50の値であり、例えば日機装株式会社の粒子径分布解析装置HRA9320-X100によって測定される。動的光散乱法を用いた平均粒子径とは、濃厚系粒径アナライザーFPAR-1000(大塚電子(株))を用いて算出された、散乱強度分布におけるキュムラント法解析の平均粒子径の値である。
【0017】
前記樹脂成分には、ポリウレタン、ポリウレア、ポリウレアウレタンおよびポリ(メタ)アクリル酸などの熱硬化性樹脂が好ましく、顔料を多く内包でき、かつ、内包できる顔料の種類に制限が少なく、水性インク組成物中で分散性に優れるという理由から、ポリウレタン、ポリウレアおよびポリウレアウレタンなどのウレタン系の熱硬化性樹脂がより好ましい。
【0018】
前記顔料から、水性インク組成物中に微粒子として安定に分散しうるものを適宜選択して、前記樹脂と組み合わせて着色樹脂粒子を形成する。前記着色樹脂粒子の製造方法は、ウレタン系の熱硬化性樹脂を用いた場合の一例では、(1)有機溶剤と、イソシアネートモノマーまたはイソシアネートプレポリマーと、顔料とを含有する油相を調製する工程と、(2)水と分散剤とを混合して水相を調製する工程と、(3)前記油相と水相とを混合させて油相の成分を乳化した後に重合させる工程とからなる。
【0019】
前記着色樹脂微粒子は市販品を使用してもよい。市販品には、例えば、FUJI RED2510(富士色素工業(株))、ラブコロール220(大日精化工業(株))およびART PEARLGR-004BK(根上工業(株))などがある。
【0020】
本発明に係る顔料の含有量は、水性インク組成物全量に対して、通常は3~30質量%、好ましくは5~27質量%、特に好ましくは10~25質量%である。顔料の含有量が3質量%未満であると、描線濃度が不充分である。一方、顔料の含有量が30質量%を超えると、筆記性や消去性が低下することがある。
【0021】
ポリオキシプロピレン(n)ジグリセリルエーテルは、親水性のジグリセリンに酸化プロピレンを付加重合して得られるポリマーであり、親油性を併せ持つ。このため、ポリオキシプロピレン(n)ジグリセリルエーテルを添加することで、描線の伸びが良くなるとともに、水性インク組成物にキャップオフ性、すなわち、キャップを外している時、経時的にペン先となるペン芯が乾燥するのを防止する効果を付与することができる。
【0022】
ポリオキシプロピレン(n)ジグリセリルエーテルには、酸化プロピレンの付加モル数(n)が4~20のものが用いられ、例えば、SC-P400(n≒4)、SC-P750(n≒9)、SC-P1000(n≒14)、SC-P1200(n≒18)などのSC-Pシリーズ(阪本薬品工業(株)製)の市販品を用いることができる。
【0023】
前記ポリオキシプロピレン(n)ジグリセリルエーテルの含有量は、水性インク組成物全量に対して、通常は0.1~20質量%、好ましくは1~10質量%である。ポリオキシプロピレン(n)ジグリセリルエーテルの含有量が0.1質量%未満であると、ペン先が乾燥し筆記不良が発生する、または、描線乾燥後の消去性が悪くなる。一方、ポリオキシプロピレン(n)ジグリセリルエーテルの含有量が20質量%を超えると、水性インク組成物の粘度が高くなりすぎ、筆記時にかすれが生じる原因となる。
【0024】
本発明の水性インク組成物全量中、前記顔料(A)と前記ポリオキシプロピレン(n)ジグリセリルエーテル(B)の固形分の比(A)/(B)は、0.15~300であり、0.5~27であることが好ましい。(A)/(B)が0.15~300の範囲であるとき、描線の消去性かつペン先のドライアップが良好となり、好ましい。
【0025】
前記水性インク組成物は、顔料およびポリオキシプロピレン(n)ジグリセリルエーテルに加えて、さらにセルロース誘導体およびリン酸エステルを含有することが好ましい。
【0026】
セルロース誘導体は、セルロースを部分的に変性した水溶性高分子であり、水性インク組成物中に添加することにより、水性インク組成物を着色させることなく、粘性を高め、インク収容管に充填したときに、顔料などの成分が沈降するのを防ぐ役割を有する。
セルロース誘導体としては、カルボキシメチルセルロースもしくはその塩、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはヒドロキシプロピルエチルセルロースが好ましい。これらのうち、入手や取り扱いが容易である点でヒドロキシエチルセルロースがより好ましい。
【0027】
前記セルロース誘導体の含有量は、水性インク組成物全量に対して、通常は0.001~3質量%、好ましくは0.005~1質量%である。セルロース誘導体の含有量が0.001質量%未満であると、水性インク組成物中で顔料が沈降しやすくなる。一方、セルロース誘導体の含有量が3質量%を超えると、水性インク組成物の粘度が高くなりすぎ、筆記時に描線にかすれが生じる原因となる。
【0028】
リン酸エステルは、描線の消去性をより一層向上させる効果を有する。リン酸エステルは、インクに対して良好に溶解できるもの、具体的には、HLB値が6~20のリン酸エステルが好適である。HLB値は界面活性剤の水および油への親和性の程度を表す値である。具体的には、脂肪族アルコールとリン酸とのエステルであるアルキルリン酸エステル、脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物とリン酸とのエステルであるアルキルエーテルリン酸エステル、芳香族アルコールのアルキレンオキサイド付加物とリン酸とのエステルであるアルキルフェニルエーテルリン酸エステル、あるいはその誘導体が挙げられる。これらのうち、ポリオキシエチレンアルキルエーテルもしくはポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、リン酸ジエステルまたはリン酸トリエステルなどが好ましい。リン酸エステルの市販品には、例えば、フォスファノールML-200、ML-220、同RB-410、同RD-510Y、同RD-720N、同RL-210、同RL-310、同RS-410、同RS-610、および同RS-710(いずれも東邦化学工業(株)製)などがある。
【0029】
前記リン酸エステルの含有量は、水性インク組成物全量に対して、通常は0.05~3質量%、好ましくは0.1~1質量%である。リン酸エステルの含有量が0.05質量%未満であると、水性インク組成物に充分な消去性を付与できない。一方、リン酸エステルの含有量が3質量%を超えると、描線のブリードや滲みが起こりやすくなる。
【0030】
前記水性インク組成物は、前記各成分の他、残部として水(水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水および純水など)で調製され、上記各成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、分散媒、顔料分散剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤および防菌剤などを添加することができる。
【0031】
分散媒には、例えば、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3-ブタンジオール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、およびプロピレングリコールモノエチルエーテルなどの水溶性有機溶剤が挙げられる。
分散媒の含有量は、水性インク組成物全量中、通常は0.1~20質量%、好ましくは、1~10質量%である。
【0032】
顔料分散剤には、ノニオン、アニオン界面活性剤や水溶性樹脂などが用いられるが、例えば、スチレン-アクリル酸共重合体エマルションおよびスチレン-マレイン酸共重合体エマルションが好適に用いられる。スチレン-アクリル酸共重合体エマルションとしては、例えば、ジョンクリル52J、ジョンクリル57J、ジョンクリル60J、ジョンクリル63J(以上、BASFジャパン(株)製)、およびRS-1191、VS-1047、YS-1274(以上、星光PMC(株)製)が挙げられる。スチレン-マレイン酸共重合体エマルションとしては、例えば、アラスター700、アラスター703S(以上、荒川化学工業(株)製)、SMA-1440、SMA-2625、およびSMA-17352(以上、川原油化(株)製)などが挙げられる。これらのうち水性インク組成物の経時安定性や描線の発色性に優れている点で、スチレン-アクリル酸共重合体エマルションが好ましい。
顔料分散剤の含有量は、水性インク組成物全量に対して、固形分濃度で0.2~10質量%程度、好ましくは0.3~4質量%である。
【0033】
界面活性剤としては、特に限定はしないが、フッ素系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤およびシリコーン系界面活性剤などのほか、例えば、アルキル硫酸エステル塩およびアルキルエーテル硫酸エステル塩などの陰イオン界面活性剤が好適である。アルキル硫酸エステル塩は、例えば、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウムであり、ペレックスOT-P(花王(株)製)などの市販品がある。アルキルエーテル硫酸エステル塩は、例えば、ポリ(オキシエチレン)=ドデシルエーテル硫酸エステルナトリウムなどである。
【0034】
pH調整剤には、例えば、アンモニア、アミノメチルプロパノールおよびトリエタノールアミンが用いられる。顔料の分散安定性の観点から、pH調整剤を用いて、水性インク組成物のpHを6.5~10.5に調節する。
【0035】
防腐剤または防菌剤としては、例えば、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウム、ベンゾイソチアゾリン、およびベンズイミダゾール系化合物などが用いられる。
【0036】
本発明の水性インク組成物は、前記した各成分を混合し、ディスパー、ホモミキサー、ラボミキサー等の高速撹拌機やビーズミルなどの分散機を用いて混合・分散することにより製造することができる。
【0037】
本発明の水性インク組成物は、前記のとおり、少なくとも顔料およびポリオキシプロピレン(n)ジグリセリルエーテルを含有し、好ましくは、さらにセルロース誘導体を含有することにより、ホワイトボードなどの筆記板に筆記したときに、描線から反射する光が抑制され、描線が視認しやすくなる。また、ウレタン系の着色樹脂粒子を用いることで、描線が適度な柔軟性を持つこととなり、描線の消去が容易となる。よって、本発明の水性インク組成物は、筆記板用のマーキングペンに好適である。
【実施例0038】
[水性インキ組成物の調製]
実施例1~7および比較例1~2に記載した方法で水性インク組成物を調製した。
【0039】
[水性インク組成物の評価]
(1)視認性
水性マーカー(PM-150TR;三菱鉛筆(株)製)のペン先に、水性インク組成物を充填し、気温25℃、相対湿度65%の環境下で、ホワイトボード(プラス(株)製、サイズ 45cm×30cm)に、連続5回、手書きで直径約30mmの螺旋を描いた後、蛍光灯を点灯した室内にて描線の様子を目視にて観察し、下記基準で評価した。
評価基準: A:描線の反射がなく、筆記した描線がはっきりと視認できる
B:描線の反射はあるものの、筆記した描線がわずかに視認できる
C:描線が反射し、描線を視認できない
【0040】
(2)発色性
前記のように、ホワイトボードに、連続5回、手書きで直径約30mmの螺旋を描き、下記基準で評価した。
評価基準: A:発色性がよく、描線に色むらが生じていない
B:若干くすみが生じており、描線にも色むらがわずかに認められる
C:くすみが生じており、描線に色むらが認められる
【0041】
(3)キャップオフ性
前記のように、水性マーカーのペン先に水性インク組成物を充填した後、気温25℃、相対湿度65%の環境下で、ペン体のキャップをはずし、そのまま1時間放置した。その後、ホワイトボードに連続5回、手書きで直径約30mmの螺旋を描き、下記基準により、描線のかすれの有無を目視で確認して、ペン先の乾燥具合(キャップオフ性)を評価した。
評価基準: A:かすれがなく、良好に筆記できる
B:初めの1~2回はかすれがあるが、3回目以降は良好に筆記できる
C:5回に至ってもかすれの状態であった
【0042】
(4)描線の経時消去性
前記のように、ホワイトボードに連続5回、手書きで直径約30mmの螺旋を描いた後、気温25℃、相対湿度65%の環境下に描線を2週間保管した。キムタオル(実験用ペーパータオル、日本製紙クレシア(株)製)に100gのおもりを載せて、ホワイトボードを水平に保った状態で擦過した。完全に擦過されるまでの回数から、下記基準で消去性を評価した。
評価基準: A:1~3回で消去された
B:4~5回で消去された
C:6~10回で消去された
D:11回以上で消去された
【0043】
[実施例1]
着色ウレタン樹脂粒子(平均粒子径1μm)15質量%、ポリオキシプロピレン(n)ジグリセリルエーテル(SC-P400;阪本薬品工業(株)製)2.5質量%、リン酸エステル(RB-410;東邦化学工業(株)製)0.5質量%、カルボキシメチルセルロース0.05質量%、トリエタノールアミン0.5質量%、ベンゾイソチアゾリン(バイオデン421;大和化学工業(株)製)0.2質量%、プロピレングリコールモノメチルエーテル10質量%、および蒸留水をディスパーを用いて攪拌・混合して、各成分の合計が100質量%となるように、水性インク組成物を調製した。
水性マーカー(PM-150TR;三菱鉛筆(株)製)のペン先に水性インク組成物を充填して、描線の視認性および発色性、キャップオフ性、ならびに描線の経時消去性を評価したところ、いずれも良好であった。
各成分の配合量および水性インク組成物の評価結果を表1に示す。
【0044】
[実施例2]
実施例1において、着色ウレタン樹脂粒子の量を15質量%から10質量%に変更したことと、SC-P400の添加量を2.5質量%から1質量%に変更したことと、カルボキシメチルセルロースを使用しなかったことと、各成分の合計が100質量%となるように蒸留水の量を調節したこと以外は、実施例1と同様にして、水性インク組成物を調製し、評価した。
【0045】
[実施例3]
着色ウレタン樹脂粒子 20質量%、ポリオキシプロピレン(n)ジグリセリルエーテル(SC-P750;阪本薬品工業(株)製)1質量%、リン酸エステル(RS-610;東邦化学工業(株)製)0.5質量%、ヒドロキシエチルセルロース0.01質量%、トリエタノールアミン0.5質量%、ベンゾイソチアゾリン(バイオデン421)0.2質量%、エタノール10質量%、および蒸留水をディスパーを用いて攪拌・混合して、各成分の合計が100質量%となるように、水性インク組成物を調製した。
【0046】
[実施例4]
ラブコロール220(M)ブラック(大日精化工業(株)製、平均粒子径8.5μm)10質量%、ポリオキシプロピレン(n)ジグリセリルエーテル(SC-P750;阪本薬品工業(株)製)2.5質量%、リン酸エステル(RS-610)0.5質量%、ヒドロキシプロピルセルロース0.03質量%、トリエタノールアミン0.5質量%、ベンゾイソチアゾン(バイオデン421)0.2質量%、プロピレングリコールモノメチルエーテル5質量%、エタノール5質量%、および蒸留水をディスパーを用いて攪拌・混合して、各成分の合計が100質量%となるように、水性インク組成物を調製した。
実施例1と同様にして、水性インク組成物を評価した。
【0047】
[実施例5]
ラブコロール220(M)ブラック 10質量%、ポリオキシプロピレン(n)ジグリセリルエーテル(SC-P1200;阪本薬品工業(株)製)2.5質量%、リン酸エステル(ML-200;東邦化学工業(株)製)0.5質量%、トリエタノールアミン0.5質量%、ベンゾイソチアゾン(バイオデン421)0.2質量%、プロピレングリコールモノメチルエーテル10質量%、および蒸留水をディスパーを用いて攪拌・混合して、各成分の合計が100質量%となるように、水性インク組成物を調製した。
実施例1と同様にして、水性インク組成物を評価した。
【0048】
[実施例6]
熱変色性マイクロカプセル顔料(黒色、平均粒子径0.7μm)15質量%、ポリオキシプロピレン(n)ジグリセリルエーテル(SC-P1200)5質量%、リン酸エステル(ML-200)0.5質量%、トリエタノールアミン0.5質量%、ベンゾイソチアゾン(バイオデン421)0.2質量%、プロピレングリコールモノメチルエーテル5質量%、エタノール5質量%、および蒸留水をディスパーを用いて攪拌・混合して、各成分の合計が100質量%となるように、水性インク組成物を調製した。
実施例1と同様にして、水性インク組成物を評価した。
【0049】
[実施例7]
FUJI-RED 2510(富士色素工業(株)製、黒色、平均粒子径0.2μm)5質量%、ジョンクリル63J(BASFジャパン(株)製)1.5質量%、ポリオキシプロピレン(n)ジグリセリルエーテル(SC-P400)2.5質量%、リン酸エステル(RB-410)0.5質量%、ヒドロキシエチルセルロース2質量%、トリエタノールアミン0.5質量%、ベンゾイソチアゾン(バイオデン421)0.2質量%、プロピレングリコールモノメチルエーテル10質量%、および蒸留水をディスパーを用いて攪拌・混合して、各成分の合計が100質量%となるように、水性インク組成物を調製した。
実施例1と同様にして、水性インク組成物を評価した。
【0050】
実施例2~7の各成分の配合量および水性インク組成物の評価結果を表1に示す。
実施例1~6の水性インク組成物では、視認性、発色性、キャップオフ性および消去性のいずれもAで良好であった。実施例1~6に比べて、セルロース誘導体の含有量が多い実施例7では、水性インク組成物の粘度がやや高く、描線に若干の色むらが認められ、ペン先が固まりやすく、いずれもBであった。
【0051】
[比較例1]
着色ウレタン樹脂粒子 30質量%、ポリオキシプロピレン(n)ジグリセリルエーテル(SC-P750;阪本薬品工業(株)製)0.05質量%、リン酸エステル(ML-200)0.5質量%、トリエタノールアミン0.5質量%、ベンゾイソチアゾリン(バイオデン421)0.2質量%、プロピレングリコールモノメチルエーテル5質量%、エタノール5質量%および蒸留水をディスパーを用いて攪拌・混合して、各成分の合計が100質量%となるように、水性インク組成物を調製した。
実施例1と同様にして、水性インク組成物を評価した。
比較例1の水性インク組成物は、セルロース誘導体を含まないため、顔料である着色ウレタン樹脂粒子が経時的に沈降しやすく、筆記時にかすれが生じ、キャップオフ性も劣る結果となった。また、顔料の分散安定性が保ちにくく、インク性能が、視認性、発色性、消去性のいずれも、実施例の水性インク組成物に比べて劣っていた。
【0052】
[比較例2]
FUJI-RED 2510 3質量%、ジョンクリル63J1質量%、ポリオキシプロピレン(n)ジグリセリルエーテル(SC-P400)55質量%、リン酸エステル(ML-200)0.5質量%、トリエタノールアミン0.5質量%、ベンゾイソチアゾン(バイオデン421)0.2質量%、エタノール10質量%、および蒸留水をディスパーを用いて攪拌・混合して、各成分の合計が100質量%となるように、水性インク組成物を調製した。
実施例1と同様にして、水性インク組成物を評価した。
セルロース誘導体を含まず、ポリオキシプロピレン(n)ジグリセリルエーテルの割合の多い比較例2の水性インク組成物は、比較例1の水性インク組成物に比べて、キャップオフ性は優れるものの、ホワイトボード上の描線が反射しやすく消去性に劣り、また、消去しにくかった。
【0053】
比較例1~2の水性インク組成物の各成分の含有比および評価結果を表1に示す。
【表1】