(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085635
(43)【公開日】2023-06-21
(54)【発明の名称】風況推定装置及び風況推定方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/04 20230101AFI20230614BHJP
【FI】
G06Q10/04
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021199760
(22)【出願日】2021-12-09
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000233044
【氏名又は名称】株式会社日立パワーソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】紺谷 怜央
(72)【発明者】
【氏名】田中 和英
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049AA04
(57)【要約】
【課題】非観測期間における風況を不確かさも含めて推定する風況推定装置を提供する。
【解決手段】風況推定装置100は、風力発電設備の設置場所付近で測定した風況を示す校正用データ21、均質な測定方法又は解析方法で得られた風況を示す参照用データ22が格納された記憶部20と、校正用データ21に含まれる期間を第1の期間、参照用データ22に含まれる期間を第2の期間、第2の期間から第1の期間を除いた期間を第3の期間とするとき、校正用データ21と参照用データ22に基づいて回帰モデルを学習する回帰モデル学習部12と、第3の期間における参照用データ22と回帰モデルに基づいて、推定結果の不確かさも含めて風況を推定する風況推定部を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
風力発電設備の設置場所付近で測定した風況を示す校正用データ、均質な測定方法又は解析方法で得られた風況を示す参照用データが格納された記憶部と、
前記校正用データに含まれる期間を第1の期間、前記参照用データに含まれる期間を第2の期間、前記第2の期間から前記第1の期間を除いた期間を第3の期間とするとき、前記校正用データと前記参照用データに基づいて回帰モデルを学習する回帰モデル学習部と、
前記第3の期間における前記参照用データと前記回帰モデルに基づいて、推定結果の不確かさも含めて風況を推定する風況推定部を備える
ことを特徴とする風況推定装置。
【請求項2】
前記推定結果の不確かさは、前記推定結果の出現確率として表現される
ことを特徴とする請求項1に記載の風況推定装置。
【請求項3】
前記校正用データは、風況観測塔、ドップラライダ、ドップラソーダによる観測値であることを特徴とする請求項1に記載の風況推定装置。
【請求項4】
前記回帰モデル学習部は、入力された風速と風向を、風速の南北成分と東西成分に変換した上で、前記回帰モデルを学習する
ことを特徴とする請求項1に記載の風況推定装置。
【請求項5】
前記回帰モデル学習部は、前記校正用データと前記参照用データの時間粒度を変更した上で学習する機能を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の風況推定装置。
【請求項6】
前記回帰モデルは、入力層、中間層、出力層を有するニューラル・ネットワークであって、
前記入力層は、前記参照用データを入力し、前記出力層の出力と、前記校正用データとの誤差を小さくするように、パラメータを調整する
ことを特徴とする請求項1に記載の風況推定装置。
【請求項7】
前記風況推定部は、前記回帰モデルのパラメータを無作為に変化させる機能を備え、推定結果を複数算出して集計することで、推定結果の不確かさを算出する
ことを特徴とする請求項6に記載の風況推定装置。
【請求項8】
前記風況推定部は、推定結果を複数算出する際、推定結果の平均または標準偏差が所定の値よりも小さいとき、繰り返し計算を打ち切る機能を備える
ことを特徴とする請求項7に記載の風況推定装置。
【請求項9】
風力発電設備の設置場所付近で測定した風況を示す校正用データと、均質な測定方法又は解析方法で得られた風況を示す参照用データに基づいて回帰モデルを学習する第1の工程と、
前記校正用データに含まれる期間を第1の期間、前記参照用データに含まれる期間を第2の期間、前記第2の期間から前記第1の期間を除いた期間を第3の期間とするとき、前記第3の期間における前記参照用データと前記回帰モデルに基づいて、推定結果の不確かさも含めて風況を推定する第2の工程を備える
ことを特徴とする風況推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風況推定装置及び風況推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンニュートラルが注目されている。カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの二酸化炭素の排出量を削減することで、地球環境を保全しようとする国際的な取り組みである。日本政府も2020年10月に、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「2050年カーボンニュートラル」を目標として掲げた。温暖効果ガスの排出量削減に向け、新事業に取り組む企業や、経営方針を転換する企業も現れつつある。とくに発電分野には、低炭素化のため、再生可能エネルギー発電設備の更なる導入が期待されている。
【0003】
再生可能エネルギー発電設備の導入に際して、事業者は事業計画段階で事業性評価を実施する。事業性評価では、発電設備のキャッシュ・フローを予測し、予測したキャッシュ・フローを、収益性や、融資返済の確実性の観点で評価する。再生可能エネルギー発電設備の場合、キャッシュ・フローの収入は売電収入であり、キャッシュ・フローの支出は建設費用や保守点検費用を含む。
【0004】
再生可能エネルギー発電設備の事業期間は20年程度であり、気象は年変動する性質があるため、売電収入の予測期間は、10-20年程度とすることが多い。10-20年後の気象を精度よく予測することは難しいため、気象予報ではなく、過去の気象が繰り返されると想定して、売電収入を予測する。しかし、一つの発電設備のために、10-20年間の気象観測をすることは現実的ではない。そこで、発電事業地で1年程度の気象観測を実施し、10-20年間の気象を表現する適当な参照用データを用意し、気象観測結果と参照用データの相関関係を算出し、相関関係と参照用データに基づいて、10-20年間の気象データを生成することが一般的である。生成された気象データに基づいて発電電力量を計算し、売電収入を予測する。
【0005】
ここで、気象観測結果と参照用データの相関関係を算出し、相関関係と参照用データに基づいて、非観測期間における風況を推定する方法は、例えば特許文献1で開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
事業性評価では、予測値だけではなく、予測値の取り得る範囲や分布も考慮する必要がある。例えば、売電収入が予測値より下振れした場合であっても融資返済に支障がないことを確認することがある。予測値の不確かさも算出できれば、売電収入が下振れしても融資返済に支障がない発電設備のみ事業化する、あるいは積立金を準備する、といった対応を検討でき、有用である。
【0008】
特許文献1には、各時刻における一つの予測値を算出する方法が開示されている。しかし、予測値が取り得る範囲や分布といった不確かさを算出する方法は開示されていない。
【0009】
本発明は、前記した課題を解決するためになされたものであり、非観測期間における風況を、不確かさも含めて推定する風況推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明の風況推定装置は、風力発電設備の設置場所付近で測定した風況を示す校正用データ、均質な測定方法又は解析方法で得られた風況を示す参照用データが格納された記憶部と、前記校正用データに含まれる期間を第1の期間、前記参照用データに含まれる期間を第2の期間、前記第2の期間から前記第1の期間を除いた期間を第3の期間とするとき、前記校正用データと前記参照用データに基づいて回帰モデルを学習する回帰モデル学習部と、前記第3の期間における前記参照用データと前記回帰モデルに基づいて、推定結果の不確かさも含めて風況を推定する風況推定部を備えることを特徴とする。本発明のその他の態様については、後記する実施形態において説明する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、非観測期間における風況を、不確かさも含めて推定する風況推定装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る風況推定装置の概略構成を示す図である。
【
図2】風況推定装置による処理フローを示す図である。
【
図4】回帰モデルをニューラル・ネットワークとし、モンテカルロ・ドロップアウトによって不確かさを推定する不確かさ推定処理を示すフロー図である。
【
図5】風速の推定時にモンテカルロ・ドロップアウトを適用した例であり、風速推定結果の不確かさの表示例を示す図である。
【
図6】風況推定装置の表示部の表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。風況推定装置の特徴的な構成や処理を説明するが、風況推定装置には以下で省略した構成や処理が存在しうる。
(全体構成)
図1は、実施形態に係る風況推定装置100の概略構成を示す図である。風況推定装置100は、処理部10、記憶部20、入力部30、表示部40、通信部50を有する。記憶部20は、校正用データ21、参照用データ22、学習済み回帰モデル23、風況推定結果24などを格納する、処理部10は、データ入力部11、回帰モデル学習部12、風況推定部13、画面表示処理部14などを備える。
【0014】
(動作環境)
風況推定装置100は、通信機能を有する電子計算機である。処理部10は、中央演算処理装置(CPU)であり、メモリに格納される各種プログラムを実行する。メモリは、風況推定装置100が処理を実行する各種プログラムおよび一時的なデータを保持する。表示部40は、ディスプレイなどであり、風況推定装置100による処理の実行状況や実行結果などを表示する。入力部30は、キーボードやマウスなどのコンピュータに指示を入力するための装置であり、プログラム起動などの指示を入力する。通信部50は、他の装置と各種データやコマンドを交換する。記憶部20は、風況推定装置100が処理を実行するための各種データを保存する。回帰モデルに行列計算が含まれる場合、計算高速化の観点でGPUを備えていると好ましい。インターフェースとして、入出力部としてのタッチパネル、音声入力を備えてもよい。
【0015】
(校正用データ)
校正用データ21は、風力発電事業地の付近で測定した風況の時系列データである。データ入力部11は校正用データ21を記憶部20に保存する。
【0016】
即時性を重視して風況推定する場合、データ入力部11は校正用データ21を取得するデータ取得機能を有し、測定器とデータ入力部11が通信できるようにすると好ましい。風況には、少なくとも風速が含まれる。
【0017】
測定器には、風況観測塔、ドップラライダ(Doppler Lidar)、ドップラソーダ(Doppler Sodar)が含まれる。風況観測塔とは、60m程度の鉄塔からアームを張り出して風向風速計を備えた測定器である。ドップラライダとは、レーザ光を発射し、エアロゾルの散乱光を受信して風速や風向を計測する測定器である。なお、ドップラライダは地面に設置して上空にレーザ光を発射する方式、風力発電設備のナセルの上に設置して前方に発射する方式、無人航空機(ドローン)に設置する方式であってよい。ドップラソーダは、音波を発射して、風速や風向を計測する測定器である。
【0018】
風速のほかに、風向が含まれると好ましい。日本は国土の7割が山岳地形であり、山岳地形に建設される風力発電設備も増えつつある。山岳地形における風力発電の発電計算では、風速だけではなく風向の考慮も必要である。平地や沿岸をはじめとする平坦地形と比較すると、周辺の起伏や粗度の影響を受けやすい。また、山岳地形における風力発電事業は、一台ではなく複数台で設置されることが多く、ウェイクの影響を受けやすい。ウェイクとは、風上側の風力発電設備によって、風下側の風力発電設備が受ける風が、自由気流と比較して減少する現象である。風下側の風力発電設備の発電電力量が減少するため、同じ風速であっても風向が異なれば、複数台の風力発電設備から得られる発電電力量の合計は異なる。さらに、温度、湿度、降水量、日射量を含んでもよい。
【0019】
風況は、地上からの高さごとに値があると好ましい。風速は、地上から高くなるほど、大きくなる傾向が知られている。また、風力発電設備のナセルは地上から100m程度に設置されるが、ブレードは50m程度の長さがあるため、ブレードの先端が通過する軌跡の最下端は地上から50m程度にあり、最上端は地上から150m程度にある。したがって、地上からの高さが50mから150mまでの値があると、より好ましい。
【0020】
データ入力部11は、校正用データ21を記憶部20に保存する前に、校正用データ21を検証する機能を有していると好ましい。例えば、校正用データ21が風速を表す場合、風速は0以上の数値であるため、0未満の数値がある場合にエラーを返す機能を有してもよい。
【0021】
(参照用データ)
参照用データ22は、均質な測定方法や解析方法(測定方法又は解析方法)で得られた風況の時系列データである。データ入力部11は参照用データ22を記憶部20に保存する。
【0022】
校正用データ21に含まれる期間を第1の期間、参照用データ22に含まれる期間を第2の期間、第2の期間から第1の期間を除いた期間を第3の期間とし、校正用データ21と参照用データ22に基づいて回帰モデルを学習し、第3の期間において参照用データ22と回帰モデルに基づいて推定することを考える。
【0023】
参照用データ22は、第2の期間において、測定方法や解析方法は同一、あるいは無視できるほど変化が小さいことが望ましい。仮に測定方法や解析方法が異なるデータが含まれる場合、第1の期間で学習した回帰モデルを、第3の期間で適用できない懸念がある。測定方法が異なる要因としては、例えば、観測場所や観測機器が異なることが挙げられる。風況の場合、観測場所の周囲の影響を受けるため、観測場所が異なれば値が変わってしまう。解析方法が異なる要因として、例えば、空間解像度やデータ同化手法が異なることが挙げられる。
【0024】
(各用途と相性がよい参照用データ)
用途によって好適な参照用データ22は異なる。本発明の用途は主として3種類ある。バックキャスト、フォアキャスト、補間、の3種類である。
【0025】
(バックキャストに好適な参照用データ)
再生可能エネルギー発電設備の導入に際して実施される事業性評価では、今後の10-20年間の風況予測の代わりに、過去10-20年間の気象が繰り返されると想定して、過去10-20年間の風況を算出することがある。
【0026】
バックキャストは、風力発電の事業性評価のため、過去の風況を推定する。校正用データ21に含まれる期間を第1の期間、参照用データ22に含まれる期間を第2の期間とするとき、第1の期間と第2の期間は重複があり、第2の期間の開始日は第1の期間の開始日よりも前となる。
【0027】
バックキャストでは、参照用データ22の期間が長いほどよく、10年以上あると好ましい。また、事業性評価は、事業者と金融機関との融資協議の一環で実施される都合、データ改竄防止の観点で、第3者機関が発行しているデータが望ましい。
【0028】
これらを満足し、バックキャストに好適な参照用データ22として、例えば、気象庁や気象会社の観測結果や、長期再解析データが挙げられる。気象庁は、地域気象観測システム(アメダス)で観測した気象データをホームページで公開している。長期再解析データとは、主として気候変動の長期的な傾向を把握するため、同一の空間解像度やデータ同化手法で生成された気象データである。例えば、米国国家航空宇宙局のMERRA-2、欧州中期予報センターのERA5、気象庁のJRA-55が挙げられる。
【0029】
(フォアキャストに好適な参照用データ)
2022年4月に施行されるフィード・イン・プレミアム制度(以下、FIP)を利用する発電事業の場合、発電事業者が発電電力量を予測して入札する。
【0030】
フォアキャストは、風力発電設備の発電量予測や制御のため、将来の風況を推定する。校正用データ21に含まれる期間を第1の期間、参照用データ22に含まれる期間を第2の期間とするとき、第1の期間と第2の期間は重複があり、第2の期間の終了日は第1の期間の終了日よりも後となる。
【0031】
フォアキャストでは、参照用データ22は将来の予報値である。参照用データ22の期間はバックキャストと比較して短く、1日から数日であってもよい。
【0032】
フォアキャストに好適な参照用データ22として、気象庁が公開している、日本を含む領域を三次元格子で予測する数値予報モデルであるGPV(Grid Point Value)やMSM(Meso scale model)が挙げられる。
【0033】
(補間に好適な参照用データ)
発電事業地における気象観測値は、落雷や凍結、動植物の干渉により、欠損することがある。補間は、風況データの欠損を補間する。校正用データ21に含まれる期間を第1の期間、参照用データ22に含まれる期間を第2の期間とするとき、補間しようとしている期間が、双方の期間に含まれればよい。参照用データ22の期間はバックキャストと比較して短くてよい。
【0034】
補間に好適な参照用データとして、バックキャストに好適な参照用データとして挙げた気象庁や気象会社の観測結果や長期再解析データのほかに、客観解析データであってもよい。例えば、米国国立環境予測センターのFNLが挙げられる。
【0035】
(参照用データに関する補足1)
参照用データ22が、大気の状態を格子点の値として表現する解析方法の場合、参照用データ22は、風力発電事業地ではなく格子点の緯度経度を表現した値となることがある。格子点を選ぶ方法として、風力発電事業地に近接する格子点を選ぶ方法、近接する格子点群のうち地形的な条件が類似している格子点を選ぶ方法が挙げられる。参照用データ22として採用する格子点は、一つであってもよく、複数であってもよい。
【0036】
(参照用データに関する補足2)
データ入力部11は、参照用データ22を記憶部20に保存する前に、参照用データ22を検証する機能を有していると好ましい。例えば、参照用データ22が解析値の場合、参照用データ22と校正用データ21のタイムゾーンが揃っているか確認する機能を有していると好ましい。参照用データ22のタイムゾーンは、日本国内であっても世界標準時で登録されていることがあるためである。
【0037】
(処理フロー)
図2は、風況推定装置100による処理フローを示す図である。以下、処理フローに沿って説明する。なお、
図2は一連の処理フローとして表記しているが、処理フローの途中から開始する、または、処理フローの途中で終了することも可能である。
【0038】
(回帰モデル学習処理)
回帰モデル学習処理S1は、回帰モデル学習部12で実行される。回帰モデル学習部12は、記憶部20から校正用データ21と参照用データ22を取得し、回帰モデルを学習し、学習済み回帰モデル23を記憶部20に保存する。
【0039】
回帰モデルは、参照用データ22を入力として所望の項目を出力できるモデルであって、校正用データ21によってパラメータを算出できるモデルであれば、様々な方式を適用できる。ここでは、ある2ヶ所で測定された1年間の風況データに対し、線形回帰やニューラル・ネットワークを適用した数値解析で例示する。
【0040】
風況は、風速(m/s)と風向(度)の10分値である。風速は0以上の値で与えられている。風向は北を0度とする、0度以上360度未満の度数で与えられている。風況データのうち、片方を参照用データ22とする。もう片方のうち、最後から連続した四分の三の期間を校正用データ21とし、残りの期間を評価用データとする。
【0041】
校正用データ21に含まれる期間を第1の期間、参照用データ22に含まれる期間を第2の期間、第2の期間から第1の期間を除いた期間を第3の期間とする。このとき、評価用データに含まれる期間が第3の期間となる。また、参照用データ22(第2の期間)の開始日が校正用データ21(第1の期間)の開始日よりも前なのでバックキャストとなる。
【0042】
風況推定結果24と評価用データを比較して、各回帰モデルの精度を検証する。精度指標には種々あるが、二乗平均平方根誤差(以下、Root Mean Square Errorの頭文字であるRMSE)で検証する。RMSEは、各時刻の誤差の二乗の平均の平方根を取って算出できる。風速と風向でそれぞれRMSEを算出する。なお、風向の誤差を算出する際は、誤差が180度未満になるように処理する。例えば、風況推定結果24が359度、評価用データが0度の場合、359度と0度の差分である359度を誤差とするのではなく、反対周りに比較して1度を誤差とする。
【0043】
図3は、回帰モデルの精度比較を示す図である。
図3に、回帰モデルを変えながら精度検証した結果(点aから点g)を示す。RMSEは小さいほど精度が良く、0が最も精度が良いことを意味する。したがって、
図3では左下ほど高精度である。
【0044】
(点aについて)
図3の点aは、参照用データ22を風況推定結果とする場合、すなわち補正しない場合である。風向RMSEは65(度)、風速RMSEは4.1(m/s)である。以降の数値解析では、この精度を基準として、どれだけ小さくできるか考察する。
【0045】
(点bについて)
図3の点bは、風速は、第1の期間において、参照用データ22を入力、校正用データ21を出力とする線形回帰式を学習し、第3の期間において、参照用データ22を入力して得られた値を推定結果とする。風向は参照用データ22を推定結果とする。風向の風況推定結果は
図3の点aと同じであるため、風向RMSE(度)は
図3の点aと変わらない。風速RMSE(m/s)は3.5(m/s)であり、
図3の点aよりも風速の推定精度が高い。
【0046】
(点cについて)
風向の推定精度を改善するためにはどうすればいいか。
図3の点cにおいて、風向は、第1の期間において、参照用データ22を入力、校正用データ21を出力とする線形回帰式を学習し、第3の期間において、参照用データ22を入力して得られた値を推定結果とし、風速は参照用データ22を推定結果とする。風速の推定結果は
図3の点aと同じであるため、風速RMSE(m/s)は
図3の点aと変わらない。一方、風向RMSE(度)は94(度)であり、
図3の点aよりも風向の推定精度が低い。風向は、0度から360度で不連続であるため、北風をうまく表現できず、推定精度が低くなるものと考えられる。
【0047】
(点dについて)
そこで、風速Vと風向θを、風速の南北成分Vnsと東西成分Vewに分解して扱う手法を考える。まず、風速の南北成分と東西成分に変換する手法を示す。風速をV(m/s)とする。北を0(度)、東を90(度)とする時計回りの度数法による風向をθ(度)とする。東西方向をX軸、南北方向をY軸に見立て、北東を第1象限とする直交座標における、反時計回りの弧度法による風向φ(rad)は、円周率πを用いて数式(1)で算出できる。
φ=(90-θ)×π/180 …(1)
【0048】
風速の南北成分Vns(m/s)は数式(2)、風速の東西成分Vew(m/s)は数式(3)で算出できる。
Vns=V×sin(φ) …(2)
Vew=V×cos(φ) …(3)
【0049】
次に、風速の南北成分Vnsと東西成分Vewを、風速Vと風向θに変換する手法を示す。反時計回りの弧度法による風向φ(rad)は、終域を-π/2からπ/2とするarctan関数を用いて数式(4)で算出できる。
Vew>0ならばφ=arctan(Vns/Vew)、
Vew<0ならばφ=arctan(Vns/Vew)-π、
Vew=0かつVns>0ならばφ=π/2、
Vew=0かつVns<0ならばφ=-π/2 …(4)
【0050】
反時計回りの弧度法による風向φ(rad)が与えられているとき、時計回りの度数法による風向θ(度)は、数式(5)で算出できる。
θ=90-φ×180/π …(5)
【0051】
数式(4)においてφ(rad)の取り得る範囲は-3π/2からπ/2のため、数式(5)においてθ(度)の取り得る範囲は0(度)から360(度)となる。
風速Vは数式(6)で算出できる。
V=√(Vns2+Vew2) …(6)
【0052】
図3の点dは以下の手順で求める。
まず、参照用データ22と校正用データ21の風速と風向を、数式(1)~(3)に基づいて、風速の南北成分と東西成分に変換する。
【0053】
次に、第1の期間において、参照用データ22の風速の南北成分を入力、校正用データ21の風速の南北成分を出力とする線形回帰式を学習し、第3の期間において参照用データ22の風速の南北成分を入力することで、風速の南北成分を推定する。また、第1の期間において、参照用データ22の風速の東西成分を入力、校正用データ21の風速の東西成分を出力とする線形回帰式を学習し、第3の期間において参照用データ22の風速の東西成分を入力することで、風速の東西成分を推定する。
【0054】
さらに、推定した風速の南北成分と東西成分から、数式(4)~(6)に基づいて、第3の期間における風速と風向の推定結果を得る。風向RMSE(度)は76(度)であり、風向の推定精度は
図3の点cより高いが、
図3の点aより低い。風速RMSE(m/s)は4.2(m/s)であり、風速の推定精度は
図3の点aより低い。風速の南北成分や東西成分は、線形では表現しづらい可能性が示唆される。
【0055】
(点eについて)
図3の点eは、
図3の点dの線形回帰式をニューラル・ネットワークとしたものである。ニューラル・ネットワークは、脳のニューロンに着想を得た数理モデルである。任意の連続関数を精度よく近似できる性質が知られており、様々な分野で使用されている。ニューラル・ネットワークは、ニューラル・ネットワークのパラメータを調整することで、回帰問題や分類問題を解く。ニューラル・ネットワークのパラメータは、ニューロンの、個数、結合方法、実装方法、使用不使用を含む。
【0056】
ニューロン同士の結合は、主として、連続する層構造で表現される。層は、ニューロンまたはニューロン群によって構成される。入力層、中間層、出力層がある。中間層は複数あってもよい。入力層側のニューロンが出す信号を、出力層側のニューロンが受け取る。入力層のニューロンは情報(データや引数)を受け取り、出力層のニューロンはその情報に対する回帰問題や分類問題の答えを出力する。
【0057】
ニューロン同士の結合強度は、アフィン変換で表現される。アフィン変換は、隣接する二つの層において、入力層側のニューロンが出す信号をx、出力層側のニューロンが受け取る信号をy、とすると、y=Wx+bの形式で表現される。アフィン変換のパラメータのうち、線形変換を表す部分(W)を重み、定数項を表す部分(b)をバイアスという。ニューロンは、活性化関数で表現される。活性化関数は、例えば恒等関数、ソフトマックス関数、シグモイド関数、双曲線正接関数(tanh関数)、正規化線形関数(ReLU関数)がある。
【0058】
風向RMSE(度)は63(度)であり、風向の推定精度は
図3の点aよりも高い。風速の南北成分や東西成分の非線形な性質をニューラル・ネットワークでうまく学習できる可能性が示唆される。
【0059】
(点fについて)
図3の点fは、
図3の点eのニューラル・ネットワークの入力層と出力層を変形させたものである。
図3の点eでは、風速の南北成分と東西成分をそれぞれ学習と推定している。ここで、ニューラル・ネットワークは、複数入力と複数出力できる回帰モデルであることに注目すると、風速の南北成分と東西成分を同じニューラル・ネットワークに入力し、風速の南北成分と東西成分を出力させてもよい。
【0060】
風向RMSE(度)は62(度)であり、風向の推定精度は
図3aよりも高い。今回の数値解析例では、風向の推定精度が最も高い。風速RMSE(m/s)は4.0(m/s)であり、風速の推定精度は
図3の点eよりも高い。
【0061】
なお、
図3の点fは、入力層と最初の中間層、最後の中間層と出力層の間のパラメータ数は増えるものの、パラメータ数の多い中間層は同じニューラル・ネットワークを使えるため、
図3の点eよりも計算量が少なくなることが期待される。
【0062】
実務的には、参照用データ22と校正用データ21の時間粒度が異なることが考えられる。粗いほうの時間粒度に合わせる場合、細かい時間粒度にしか現れない特徴を放棄することになる。
図3の点gは、
図3の点fにおいて、風速の南北成分と東西成分の時間粒度を、10分値から1分値に変えたものである。
【0063】
参照用データ22と校正用データ21が風速と風向の場合を考える。風速は適当な補間手法によって任意に時間粒度を変えることができる。補間手法には、例えば、線形補間、スプライン補間、多項式補間が挙げられる。一方、不連続値である風向は補間が困難である。例えば、風速が同値であり、風向が1度と359度を補間することを考える。風向を線形補間すると180度となるが、1度と359度は北風であり、180度は南風であるため、うまく補間できているとは言い難い。一方、参照用データ22と校正用データ21を風速の南北成分と東西成分に変換、風速の南北成分と東西成分をそれぞれ線形補間、線形補間した南北成分と東西成分から風速と風向を算出すれば、補間された風向は0度となり、うまく補間できる。
【0064】
風力発電設備の発電電力を計算するソフトウェアで、風況データを入力して、対応する発電電力(kW)を算出する機能を備えるソフトウェアがある。風況データの10分値を入力すると発電電力の10分値、風況データの1時間値を入力すると発電電力の1時間値が出力される。例えば、ウィンドファームコントローラ(複数台の風力発電設備の定格出力の合計が連系容量を超える発電所のとき、連系容量を超えないように風力発電設備の出力を抑制する機能)を模擬して発電電力の後処理をする際、時間粒度が細かいほうが、精度が高い処理となる。
【0065】
図3の点gの風向RMSE(度)は62(度)、風速RMSE(m/s)は3.9(m/s)であり、風向と風速の推定精度はともに
図3の点aよりも高い。時間粒度を細かくする処理が、データ拡張(ニューラル・ネットワークの学習に使用するデータ数を増やす手法)の効果がある可能性が示唆される。風速の推定精度が改善すると、発電電力量の推定精度も改善する。風力エネルギーは風速の3乗に比例するため、発電電力量の推定精度は、風速の推定精度よりも大きく改善する。
【0066】
(回帰モデル学習処理の入力における工夫)
今回は風速と風向を入力したが、高精度化の観点で、その他のデータを入力してもよい。例えば、温度、湿度、降水量、日射量といった気象条件を含んでもよい。風況は年変動や季節変動する性質があり、暦を含んでもよい。沿岸部の風況では、海陸風が知られており、時刻や、日没前と日没後を表すバイナリ変数を含んでもよい。さらに、ある時刻における値だけではなく、前の時刻との差分、前の時刻の値、前の時刻までの移動平均を含んでもよい。
【0067】
値は、そのまま入力するのではなく、適当な手法で正規化したものを入力してもよい。正規化の手法には、例えば、各時刻の値から第1の期間における最小値を引いて、第1の期間における最大値と最小値の差で除する手法(Min-Max Normalization)、第1の期間の平均を引いて第1の期間の標準偏差で除する手法(Z-Score Normalization)が挙げられる。
【0068】
(回帰モデル学習処理の出力における工夫)
回帰モデルは推定よりも学習に時間がかかるので、回帰モデルを保存できるようにすることは、計算高速化の観点で好ましい。回帰モデルが線形回帰の場合、例えば、各変数に対する一次係数(傾き)や切片を保存する。回帰モデルがニューラル・ネットワークの場合、例えば、ニューロン同士の結合強度を保存する。
【0069】
(風況推定処理)
風況推定処理S2は、風況推定部13で実行される。風況推定部13は、記憶部20から学習済み回帰モデル23と参照用データ22を取得する。校正用データ21に含まれる期間を第1の期間、参照用データ22に含まれる期間を第2の期間とするとき、第2の期間から第1の期間を除いた第3の期間の風況を推定する。そして、推定結果を、風況推定結果24として記憶部20に保存する。
【0070】
例えば、学習済み回帰モデル23が、参照用データ22の風速を入力して、風速を出力する方式の場合、風況推定部13は第3の期間における各時刻の風速を推定する。
【0071】
風況推定結果24は、各時刻の値だけではなく、範囲を含んでもよい。回帰モデルが線形回帰の場合、t分布を利用して予測区間を算出できる。回帰モデルがニューラル・ネットワークの場合、範囲を算出する手法として、モンテカルロ・ドロップアウトが挙げられる。ニューラル・ネットワークにおけるドロップアウトは過学習を防ぐ手法である。訓練時に無作為にニューロンを無視し、毎回異なるニューラル・ネットワークを学習させる手法である。モンテカルロ・ドロップアウトは、訓練時だけではなく、推定時にも無作為にニューロンを消失させることが特徴である。ドロップアウトの場合、推定時には全てのニューロンを使うため、学習済みモデルに同じ入力を入れると同じ結果が得られる。一方、モンテカルロ・ドロップアウトの場合、推定時にも無作為にニューロンを消失させるため、同じ入力を入れると異なる結果が得られる。複数の結果を出力させることで、ニューラル・ネットワークの不確かさを表現することができる。ニューロンだけではなく、層を消失させる実装としてもよい。
【0072】
図4は、回帰モデルをニューラル・ネットワークとし、モンテカルロ・ドロップアウトによって不確かさを推定する不確かさ推定処理S40を示すフロー図である。
【0073】
まず、風況推定部13は、学習済み回帰モデルfを記憶部20から読み込む(処理S41)。次に、風況推定部13は、予測対象期間の参照用データXを記憶部20から読み込む(処理S42)。Xは配列であり、0から始まり連続する番号iを添え字、Xのi番目の要素をX[i]、Xの要素数をlength(X)とする。また、fは関数であり、fの引数はある時刻における参照用データの値、fの戻り値yは風況推定結果である。なお、fは同じ引数を入力しても異なるyを返す。0から始まり連続する番号jをカウンタ変数とする。
【0074】
風況推定部13は、iを0に設定し(処理S43)、jを0に設定し(処理S44)、iとjを添え字とする二次元配列Yにyを格納する(処理S45)。そして、風況推定部13は、jが1000未満か否かを判定し(処理S46)、jが1000未満の場合(処理S46,YES)、処理S45に戻り、jが1000以上の場合(処理S46,NO)、処理S47に進む。なお、処理S46は1000を閾値として例示しているが、閾値は任意に設定してよい。
【0075】
そして、風況推定部13は、得られたYを集計関数gで集計しzを得る(処理S47)。ここで、gは関数であり、gの引数はYとiである。また、gの戻り値zは、Yのうち、iが同じで、全てのjに対する風況推定結果(
図4では1,000件)の統計量を格納した構造体である。統計量は、平均、最大、最小、標準偏差、出現確率を表すヒストグラムを含む。尖度や歪度を含んでもよい。カーネル密度推定をはじめとするノンパラメトリック手法によって推定した確率密度関数を含んでもよい。
【0076】
そして、風況推定部13は、iがlength(X)未満か否かを判定し(処理S48)、iがlength(X)未満の場合(処理S48,YES)、処理S44に戻り、iがlength(X)以上の場合(処理S48,NO)、一連の処理を終了する。すなわち、処理S44~S47で、異なるiに対しても実施して、Xに対する、不確かさを含む風況推定結果Zを得る。Zは、iを添え字とする配列であり、配列の長さはXと同じとなる。
【0077】
図5は、風速の推定時にモンテカルロ・ドロップアウトを適用した例であり、風速推定結果の不確かさの表示例を示す図である。各時刻で1,000回出力させ、平均を実線、最大と最小の範囲を灰塗りで示す。
【0078】
例えば、5時の出現確率は、平均4.8(m/s)、最大5.4(m/s)、最小4.2(m/s)の分布であった。10時の出現確率は、平均9.4(m/s)、最大10.4(m/s)、最小7.9(m/s)の分布であった。18時の出現確率は、平均4.0(m/s)、最大4.5(m/s)、最小3.1(m/s)の分布であった。分布が広がっていれば、不確かさが大きいと解釈する。
図5の5時、10時、18時、では、10時は5時や18時よりも不確かさが大きい、と解釈する。
【0079】
なお、最大の代わりとして平均に標準偏差を足した値、最小の代わりとして平均から標準偏差を引いた値を表示してもよい。推定結果に外れ値が含まれる場合、分布の広がりと比較して最大/最小と平均の差が大きくなり、不確かさを不必要に大きく見積もってしまう。
【0080】
今回は1日の1時間値を例示しており、計算負荷が小さかったため、各時刻で1,000サンプルを採取して平均、最大、最小を算出している。20年間を推定する場合や、1分値を推定する場合といった、計算負荷が大きい場合、全ての時刻で等しいサンプル数を採取する必要はない。はじめの一部のサンプルで風速が低い場合、あるいは標準偏差が小さい場合は、計算を打ち切ってもよい。すなわち、風況推定部13は、風況推定結果を複数算出する際、推定結果の平均または標準偏差が所定の値よりも小さいとき、繰り返し計算を打ち切る機能を備える。例えば、はじめの100サンプルで平均が1(m/s)、標準偏差が0.1(m/s)である場合、計算を打ち切ってもよい。風力発電設備における風速(m/s)と出力(kW)の関係をパワーカーブと呼ぶ。パワーカーブ上、風速0(m/s)から2(m/s)は、出力0(kW)となっていることがあり、風速1(m/s)前後の場合、出力(kW)は全て0(kW)となって、風速の推定誤差の影響を受けないためである。
【0081】
例えば、10分値を20年分推定する場合、推定対象の時刻は約100万点(=20×365×24×60/10)である。各時刻で一律1,000サンプル採取する場合、約10億サンプル(=約100万×1,000)の推定が必要となり、計算負荷が大きい。パワーカーブの性質に注意し、計算精度を下げずに計算負荷を削減できる本処理は、計算時間を短縮する観点で好ましい。
【0082】
(画面表示処理)
図6は、風況推定装置100の表示部40の表示例を示す図である。画面表示処理S3は、画面表示処理部14で実行される。画面表示処理部14は、記憶部20から風況推定結果24を取得して、表示部40に表示する。表示部40は、参照用データ登録ボタン61、校正用データ登録ボタン62、回帰モデル設定フォーム63、風況推定結果の出力ボタン64を備える。登録された参照用データ22、登録された校正用データ21、推定結果24を表示する機能を備えてもよい。
【0083】
この
図6は、風速(m/s)をバックキャストしている状況である。右側のグラフ65,66,67は上から順に参照用データ22、校正用データ21、風況推定結果24を示す。校正用データ21に含まれる期間を第1の期間、参照用データ22に含まれる期間を第2の期間とするとき、第1の期間と第2の期間に重複があり、第2の期間の開始日が第1の期間の開始日よりも前であることを確認できる。また、第2の期間から第1の期間を除いた期間を第3の期間とするとき、風況推定結果24に第3の期間が含まれることも確認できる。風況推定結果24は、予測値を実線で表現し、予測値の取り得る範囲を灰塗りで表現している。
【0084】
なお、フォアキャストする場合は、参照用データ22の終端は校正用データ21の終端よりも後となり、
図6では、校正用データ21の右側(グラフ66の右側)が第3の期間となる。
【0085】
再生可能エネルギー発電設備の事業者は、発電設備の建設前の事業計画段階ではバックキャスト、建設後の事業運用段階ではフォアキャストを使うことが想定される。
【0086】
図6のように、不確かさを含む風況を予測できれば、バックキャストとフォアキャストのいずれでも、発電量計算や売電収入の不確かさを考慮できる。バックキャストでは、収益性や、融資返済の確実性を評価する際に、下振れリスクを評価でき、下振れしても融資返済に支障がない発電設備のみ事業化する、あるいは積立金を準備する、といった活用ができる。
【0087】
また、フォアキャストでは、フィード・イン・プレミアム制度(FIP)を利用する再生可能エネルギー発電設備において、入札量の計画に活用できる。FIPを利用する発電事業の場合、発電事業者は発電電力量を予測して入札する必要があるが、落札した量と、実際の発電電力量が異なる場合、その差分を清算する必要がある。上振れ誤差と下振れ誤差とでは、清算するための単価が異なることがあるため、予測値が取り得る範囲や分布を把握できると、予測値を入札量とせず、経済的になるよう修正した値を入札量にできる。
【0088】
本装置は、バックキャスト、フォアキャスト、補間のいずれの用途であっても、必要な期間の参照用データ22と校正用データ21を用意すれば、風況推定結果24を得ることができる。事業者の習得容易性の観点で、事業計画段階から事業運用段階まで同一の装置で、風況推定結果を得ることができることは好ましい。
【0089】
回帰モデルフォームによって、本装置に実装された回帰モデルを設定する。使用する回帰式のほか、回帰式の変数を設定できるようにしてもよい。風況推定結果24の出力ボタンによって、風況推定結果24を出力する。
図6の場合、風況推定結果24として、第3の期間における風速の時系列を、コンマ区切り文字列(CSV)ファイルによって出力する方式が挙げられる。
【符号の説明】
【0090】
10 処理部
11 データ入力部
12 回帰モデル学習部
13 風況推定部
14 画面表示処理部
20 記憶部
21 校正用データ
22 参照用データ
23 学習済み回帰モデル
24 風況推定結果(推定結果)
30 入力部
40 表示部
50 通信部
61 参照用データ登録ボタン
62 校正用データ登録ボタン
63 回帰モデル設定フォーム
64 風況推定結果の出力ボタン
100 風況推定装置
S1 回帰モデル学習処理
S2 風況推定処理
S3 画面表示処理
S40 不確かさ推定処理
【手続補正書】
【提出日】2022-04-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
風力発電設備の設置場所付近で測定した風況を示す校正用データ、均質な、かつ、観測場所が観測期間内で不変の測定方法、又は解析方法で得られた風況を示す参照用データが格納された記憶部と、
前記校正用データに含まれる期間を第1の期間、前記参照用データに含まれる期間を第2の期間、前記第2の期間から前記第1の期間を除いた期間を第3の期間とするとき、前記校正用データと前記参照用データに基づいて回帰モデルを学習する回帰モデル学習部と、
前記第3の期間における前記参照用データと前記回帰モデルに基づいて、推定結果の不確かさも含めて風況を推定する風況推定部を備える
ことを特徴とする風況推定装置。
【請求項2】
前記推定結果の不確かさは、前記推定結果の出現確率として表現される
ことを特徴とする請求項1に記載の風況推定装置。
【請求項3】
前記校正用データは、風況観測塔、ドップラライダ、ドップラソーダによる観測値であることを特徴とする請求項1に記載の風況推定装置。
【請求項4】
前記回帰モデル学習部は、入力された風速と風向を、風速の南北成分と東西成分に変換した上で、前記回帰モデルを学習する
ことを特徴とする請求項1に記載の風況推定装置。
【請求項5】
前記回帰モデル学習部は、前記校正用データと前記参照用データの時間粒度を変更した上で学習する機能を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の風況推定装置。
【請求項6】
前記回帰モデルは、入力層、中間層、出力層を有するニューラル・ネットワークであって、
前記入力層は、前記参照用データを入力し、前記出力層の出力と、前記校正用データとの誤差を小さくするように、パラメータを調整する
ことを特徴とする請求項1に記載の風況推定装置。
【請求項7】
前記風況推定部は、前記回帰モデルのパラメータを無作為に変化させる機能を備え、推定結果を複数算出して集計することで、推定結果の不確かさを算出する
ことを特徴とする請求項6に記載の風況推定装置。
【請求項8】
前記風況推定部は、推定結果を複数算出する際、推定結果の平均または標準偏差が所定の値よりも小さいとき、繰り返し計算を打ち切る機能を備える
ことを特徴とする請求項7に記載の風況推定装置。
【請求項9】
風力発電設備の設置場所付近で測定した風況を示す校正用データと、均質な、かつ、観測場所が観測期間内で不変の測定方法、又は解析方法で得られた風況を示す参照用データに基づいて回帰モデルを学習する第1の工程と、
前記校正用データに含まれる期間を第1の期間、前記参照用データに含まれる期間を第2の期間、前記第2の期間から前記第1の期間を除いた期間を第3の期間とするとき、前記第3の期間における前記参照用データと前記回帰モデルに基づいて、推定結果の不確かさも含めて風況を推定する第2の工程を備える
ことを特徴とする風況推定方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明の風況推定装置は、風力発電設備の設置場所付近で測定した風況を示す校正用データ、均質な、かつ、観測場所が観測期間内で不変の測定方法、又は解析方法で得られた風況を示す参照用データが格納された記憶部と、前記校正用データに含まれる期間を第1の期間、前記参照用データに含まれる期間を第2の期間、前記第2の期間から前記第1の期間を除いた期間を第3の期間とするとき、前記校正用データと前記参照用データに基づいて回帰モデルを学習する回帰モデル学習部と、前記第3の期間における前記参照用データと前記回帰モデルに基づいて、推定結果の不確かさも含めて風況を推定する風況推定部を備えることを特徴とする。本発明のその他の態様については、後記する実施形態において説明する。