(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085641
(43)【公開日】2023-06-21
(54)【発明の名称】情報伝送システム、情報伝送方法及び情報送信装置
(51)【国際特許分類】
H04B 10/25 20130101AFI20230614BHJP
H04B 10/50 20130101ALI20230614BHJP
H04B 10/60 20130101ALI20230614BHJP
【FI】
H04B10/25
H04B10/50
H04B10/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021199781
(22)【出願日】2021-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】中村 篤志
(72)【発明者】
【氏名】古敷谷 優介
(72)【発明者】
【氏名】本田 奈月
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 哲也
【テーマコード(参考)】
5K102
【Fターム(参考)】
5K102AA15
5K102AD13
5K102AH27
5K102PA01
5K102PB01
5K102PH31
5K102PH49
5K102PH50
5K102RD01
5K102RD05
5K102RD12
5K102RD15
(57)【要約】
【課題】本開示は、既設の光ファイバケーブル中の未使用光ファイバを利用して、遠隔地に設置したセンサ装置が取得したセンサ情報を簡易な施工により伝送可能にすることを目的とする。
【解決手段】本開示は、情報送信装置と情報受信装置が光ファイバケーブルで接続されている情報伝送システムであって、前記情報送信装置は、センサ装置が取得したセンサ情報を変調する変調装置と、変調した変調信号で、前記光ファイバケーブル中の光伝送路に振動を与える振動発生器と、を備え、前記情報受信装置は、前記光ファイバケーブル中の光伝送路の振動を検知する光ファイバ振動センサと、前記光伝送路への振動から変調されたセンサ情報を復調する復調装置と、を備える、情報伝送システムである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報送信装置と情報受信装置が光ファイバケーブルで接続されている情報伝送システムであって、
前記情報送信装置は、
センサ装置が取得したセンサ情報を変調する変調装置と、
変調した変調信号で、前記光ファイバケーブル中の光伝送路に振動を与える振動発生器と、を備え、
前記情報受信装置は、
前記光ファイバケーブル中の光伝送路の振動を検知する光ファイバ振動センサと、
前記光伝送路への振動から変調されたセンサ情報を復調する復調装置と、を備える、
情報伝送システム。
【請求項2】
前記光ファイバ振動センサが、
前記光ファイバケーブル中の光伝送路に光信号を入射する光源と、
前記振動発生器で振動を与えられた後の前記光伝送路において前記光信号を干渉させるマッハツェンダ干渉計と、
前記マッハツェンダ干渉計で干渉された前記光信号を受光する受光器と、
を備えることを特徴とした請求項1記載の情報伝送システム。
【請求項3】
前記変調装置及び前記復調装置における変復調方式が位相変復調であることを特徴とした請求項1又は2記載の情報伝送システム。
【請求項4】
前記変調装置および前記復調装置における多重化方式が、符号分割多重であることを特徴とした請求項1から3のいずれかに記載の情報伝送システム。
【請求項5】
情報送信装置と情報受信装置が光ファイバケーブルで接続されている情報伝送システムが実行する情報伝送方法であって、
前記情報送信装置は、
センサ装置が取得したセンサ情報を変調し、
変調した変調信号を増幅し、
前記光ファイバケーブル中の光伝送路に振動を与え、
前記情報受信装置は、
前記光ファイバケーブル中の光伝送路への振動を検知し、
前記光伝送路への振動から変調されたセンサ情報を復調する、
情報伝送方法。
【請求項6】
情報受信装置と光ファイバケーブルで接続されている情報送信装置であって、
センサ装置が取得したセンサ情報を変調する変調装置と、
変調した変調信号で、前記光ファイバケーブル中の光伝送路に振動を与える振動発生器と、
を備える情報送信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、センサ装置からの情報収集を簡易に実現するためのセンサネットネットワークに関する技術である。
【背景技術】
【0002】
従来のセンサ情報伝送技術の1つは無線機能が搭載された無線センサである。無線センサを用いることで、任意の場所に必要なセンサを設置し、情報を伝送することが可能となる。無線伝送方式としてはWiFi、5Gなど複数の通信規格が存在する。その中でIoT機器向けとしてはLPWA(Low Power Wide Area)が用いられることが多い。LPWAとは低速度の代わりに長距離伝送を可能とした通信規格である。(非特許文献1)2つめは光ファイバ通信によるセンサ情報伝送技術である。例えばメディアコンバータによりセンサ情報を遠隔へ伝送する方法がある。(非特許文献2)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Madhumitha M., Nikhil, Bhupendra Pratap Singh,”A survey on LPWAN technologies in content to IoT applications,ldeas and innovations in technology”,International journal of advance research , 2019
【非特許文献2】大電株式会社,“環境対応100BASE-TX/FX メディアコンバータ”,https://www.dyden.jp/network/download/specifications/DN2800E-2C-SIYO.pdf, (Accessed Online 2021.6.10)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1で実用化されている装置では、無線の性質上山間部や地下空間など障害物がある空間では、安定した通信ができないという課題がある。特に海中におけるセンサ情報の伝送では海水による電波吸収により実用的な距離の情報伝送は不可能であるという課題がある。
【0005】
非特許文献2のように光ファイバネットワークをセンサ情報伝送路として用いる場合には、センサ装置を設置したい位置の光ケーブル外皮を引き裂き、光ファイバを露出した上でセンサ装置に接続するために多くの稼働が必要となる。また、特に水中での使用では接続部分での光ファイバの信頼性低下を招く可能性があるという課題がある。
【0006】
本開示は、既設の光ファイバケーブル中の未使用光ファイバを利用して、遠隔地に設置したセンサ装置が取得したセンサ情報を簡易な施工により伝送可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、センサ装置が取得したセンサ情報を光ファイバケーブルにより伝送する情報伝送システムにおいて、センサ装置から入力されたセンサ情報で変調した変調信号により光ファイバケーブルに振動を与える情報送信装置と、光ファイバケーブル中の光ファイバの振動を検知し、検知した信号からセンサ情報を復調する情報受信装置とを備える。このように、本開示では、センサ装置からのセンサ情報を光ファイバケーブル外皮から振動として与え、光ファイバケーブル中の光ファイバ振動センサにより振動を受信することでセンサ情報を伝送する。これにより、本開示は、既設の光ファイバケーブル中の未使用光ファイバを利用して、簡易な施工により伝送可能にすることができる。
【0008】
本開示の情報伝送システムは、情報送信装置と情報受信装置が光ファイバケーブルで接続されている情報伝送システムである。
前記情報送信装置は、
センサ装置が取得したセンサ情報を変調する変調装置と、
変調した変調信号で、前記光ファイバケーブル中の光伝送路に振動を与える振動発生器と、を備える。
前記情報受信装置は、
前記光ファイバケーブル中の光伝送路の振動を検知する光ファイバ振動センサと、
前記光伝送路への振動から変調されたセンサ情報を復調する復調装置と、を備える。
【0009】
本開示の情報送信方法は、
情報送信装置と情報受信装置が光ファイバケーブルで接続されている情報伝送システムが実行する情報伝送方法であって、
前記情報送信装置は、
センサ装置が取得したセンサ情報を変調し、
変調した変調信号を増幅し、
前記光ファイバケーブル中の光伝送路に振動を与え、
前記情報受信装置は、
前記光ファイバケーブル中の光伝送路への振動を検知し、
前記光伝送路への振動から変調されたセンサ情報を復調する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、既設の光ファイバケーブル中の未使用光ファイバを利用して、遠隔地に設置したセンサ装置が取得したセンサ情報を簡易な施工により伝送可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】光ファイバ振動センサがマッハツェンダ干渉計である場合のセンサ情報伝送システムの実施の形態を示す。
【
図2】センサ情報の変調方式が2相位相変調(BPSK:Binary Phase Shift Keying)であり、多重化方式が符号分割多重である変調装置の実施の形態を示す。
【
図3】光ファイバ振動センサがマッハツェンダ干渉計である場合の変調波と受光器で観測される受信信号との関係の一例を示す。
【
図4】センサ情報の復調方式が2相位相変調(BPSK:Binary Phase Shift Keying)であり、多重化方式が符号分割多重である復調装置の実施の形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0013】
本開示の情報伝送システムは、情報送信装置と情報受信装置が光ファイバケーブルで接続されている。
情報送信装置は、
遠隔地に設置したセンサ装置が取得したセンサ情報を変調する変調装置と、
変調した変調信号を増幅する振動発生器駆動アンプと、
変調した変調信号で、前記光ファイバケーブル中の光伝送路に振動を与える振動発生器とからなる情報伝送ノードと、
を備える。
情報受信装置は、
光ファイバケーブル中の光伝送路への振動を検知する光ファイバ振動センサと、
光伝送路への振動から変調されたセンサ情報を復調する復調装置と、
を備える。
【0014】
これにより、本開示は、情報送信装置により光ファイバケーブル外皮から振動として与えられたセンサ情報を光ファイバ振動センサにより計測することで、遠隔にある情報受信装置へのセンサ情報伝送を可能とする。
【0015】
以下、図面を参照して、本開示の実施形態例について説明する。
図1は本開示の光ファイバ振動センサがマッハツェンダ干渉計である場合のセンサ情報伝送装置の実施の形態を示している。センサ装置3により計測された、温度、湿度、照度、傾斜等のセンサ情報は情報送信装置2に送られる。情報送信装置2においてセンサ情報から変調装置230において変調信号を作成する。変調信号は、振動発生器駆動アンプ220により増幅され、振動発生器210を駆動する。振動発生器210は、光ファイバケーブル120の外皮に振動を与える。
【0016】
図1の例における光ファイバ振動センサ110は光源111と2つの光合分岐カプラ113、光ファイバケーブル120中の3本の光伝送路114および受光器112を備える。光源111から発せられた光信号は光合分岐カプラ113で2本の光伝送路114に分岐され伝送され、反対側の光合分岐カプラ113により生じた干渉波形を受光器112にて計測する。情報送信装置2の振動発生器210より変調信号に応じた振動があたえられると、この振動に応じて干渉波形が変化し、受光器112により受信信号を得ることができる。受信信号は復調器130で復調され、センサ装置3からのセンサ情報が復調器130から出力される。
【0017】
図2はセンサ情報の変調方式が位相0およびπ/2を用いる2相位相変調(BPSK:Binary Phase Shift Keying)であり、多重化方式が符号分割多重である場合の変調装置230における信号処理機能を示している。センサ装置3からのセンサ情報s(t)をレベル変換器231によりB(t)に変換する。ただし、
B(t)=2s(t)-1 (1)
である。
【0018】
±1にレベル変換されたB(t)に乗算器232により拡散符号sc(t)を乗算し、拡散後の-1および1の符号列S(t)を求める。拡散符号sc(t)としては、M-系列、Gold系列など自己相関が小さい擬似ランダム雑音パターンを利用可能である。
【0019】
求めたS(t)に応じて位相変調器234により搬送波c(t)の位相を0もしくはπ/2シフトし、変調波u(t)を求める。搬送波c(t)を
c(t)=Asinωct (2)
とする。ただし、ωcは搬送波の角周波数である。変調波u(t)は位相0およびπ/2を用いるので、
u(t)=Asin(ωct+π/4(S(t)+1)) (3)
となる。この変調波u(t)により振動発生器210を駆動する。
【0020】
図3は光ファイバ振動センサ110がマッハツェンダ干渉計である場合の変調波u(t)と受光器112で観測される受信信号y(t)との関係を説明するためのものである。
【0021】
Pinの位置にある光源111より光を入射し2つの経路を経由した後に合波されPoutにて受光器112により光強度変化Iを観測するとする。Poutにおける電界Eの複素振幅は、2つの経路における光の電界の振幅をE1,E2とすると、
E=E1exp(i(ωt+Φ1(t)))+E2exp(i(ωt+Φ2(t))) (4)
で表される。ただし、Φ1(t)及びΦ2(t)はそれぞれ地点Poutにおける時刻tの位相である。
【0022】
ここで受光器112のある地点Poutにおける光の強度Iは振幅の2乗に比例することから、
I=|E|2=E1
2+E2
2+2E1E2cos(Φ1(t)-Φ2(t)) (5)
となる。
【0023】
地点Pinにある光源111からPoutまでの2つの光伝送路114の長さをL1及びL2、光の波長をλとする。外部から振動u(t)を与えた場合、2つの光伝送路114に到着する振動には物理的な距離に応じた時間差が生じる。この時間差を2Δtとし、与えた振動により光伝送路114が伸縮する場合は、
L1=L+ΔL・u(t-Δt) (6)
L2=L+ΔL・u(t+Δt) (7)
と表すことができる。ただし、Lは元の等しい光伝送路114の長さ、ΔLは振動u(t)による最大変化量を表す。
【0024】
よって、式(5)中の位相差は、
Φ1(t)-Φ2(t)=2πL1/λ-2πL2/λ
=2πΔL/λ(u(t-Δt)-u(t+Δt))
【0025】
ここで式(3)より
Φ
1(t)-Φ
2(t)
=A′sin(ω
cΔt)・cos(ω
ct+π/4(S(t)+1)) (8)
となる。ただし、
A′=-4πΔL/λ (9)
である。Poutにある受光器112で計測される受信信号y(t)は、
【数10】
となる。ただし、n(t)は雑音である。
【0026】
図4は受信信号の復調方式が位相0およびπを用いるBPSK変調波の同期検波であり、多重化方式が符号分割多重である場合の復調装置130における信号処理機能を示している。ただし、再生搬送波は、以下に示す通り、角周波数が受信信号の2倍の2ω
cとなるため、位相シフトも受信信号の2倍の0およびπとなる。
【0027】
式(10)に示した光ファイバ振動センサ110により計測した受信信号y(t)は、ベッセル関数を用いて次のように変形できる。
【数11】
となる。ただし、J
nはベッセル関数である。
【0028】
帯域通過フィルタ131により、受信信号y(t)の直流成分および角周波数4ω
cより高周波の成分を除去した信号をz(t)とすると、
【数12】
を得る。ただし、α=4E
1E
2J
2(2A’sin(ω
cΔt))である。また、n′(t)は帯域通過フィルタ131通過後の雑音である。
【0029】
次に、搬送波再生器132により、帯域通過フィルタ131通過後の受信信号z(t)より再生した再生搬送波
c′(t)=cos(2ωct) (13)
を得る。
【0030】
受信信号z(t)と再生搬送波c′(t)を乗算器232により乗算することで、次のp(t)を得る。
【数14】
【0031】
p(t)は低域通過フィルタ133により式(14)の第2項および第3項の成分を除去することができるので、
S′(t)=α/2cos(π/2(S(t)+1)) (15)
を得る。
【0032】
得られたS′(t)を拡散符号sc(t)により乗算器232で逆拡散することで、センサ情報に応じた正または負の値を持つB′(t)が得られる。識別器134では以下のようにB′(t)の正負によりs′(t)を決定する。
B′(t)>0のとき、s′(t)=1 (16)
B′(t)<0のとき、s′(t)=0 (17)
これにより、センサ情報の推定値s′(t)を得ることができる。
【0033】
符号分割多重により複数の情報送信装置2によりセンサ情報を伝送するためには、情報送信装置2ごとに違った拡散符号sc(t)を用いることで多重化が可能となる。
【0034】
本実施形態例では光ファイバ振動センサ110がマッハツェンダ干渉計、変調装置230の変調方式がBPSK(Binary Phase Shift Keying)、復調装置130の復調方式がBPSK変調波の同期検波方式、多重化方式がスペクトル拡散方式である場合について説明した。その他の光ファイバ振動センサ110や変復調方式および多重化方式においてもセンサ情報に応じた変調信号を振動として光ファイバケーブル120の外皮から振動として与えることで実現可能であることは言うまでもない。また、本実施形態例では情報送信装置2が1台の場合について説明したが、多重化方式を用いることで複数の情報送信装置2が利用可能であることは言うまでもない。
【0035】
(本開示の効果)
以上説明したように、本開示によればFTTH実現のために全国に敷設された光ファイバケーブル中の未使用光ファイバを活用し、温度、湿度、照度、傾斜等あらゆる既存のセンサ装置を、地上、地下、水中を問わず、従来よりも簡易な施工により設置し、各種インフラをモニタリングすることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本開示は情報通信産業に適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1.情報受信装置
2.情報送信装置
3.センサ装置
110.光ファイバ振動センサ
111.光源
112.受光器
113.光合分岐カプラ
114.光伝送路
120.光ファイバケーブル
130.復調装置
131.帯域通過フィルタ
132.搬送波再生器
133.低域通過フィルタ
134.識別器
210.振動発生器
220.振動発生器駆動アンプ
230.変調装置
231.レベル変換器
232.乗算器
233.搬送波発生器
234.位相変調器