(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085712
(43)【公開日】2023-06-21
(54)【発明の名称】信号生成方法、信号生成システム、電子楽器およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G10H 1/08 20060101AFI20230614BHJP
G10H 1/18 20060101ALI20230614BHJP
G10H 1/053 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
G10H1/08
G10H1/18 Z
G10H1/053 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021199900
(22)【出願日】2021-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 雅彦
【テーマコード(参考)】
5D478
【Fターム(参考)】
5D478AA23
5D478AA24
5D478DC02
5D478DC17
(57)【要約】
【課題】利用者による操作に応じた多様な音響特性の音響信号を、簡便な処理により生成する。
【解決手段】信号生成システム30は、第1鍵と第2鍵とを含む複数の鍵に対する操作に応じた音響信号Vを生成する信号生成部72と、第1鍵の操作中に第2鍵が操作された場合に、第2鍵に対する操作の時点における第1鍵の位置である参照位置に応じて、音響信号Vの生成を制御する動作制御部73とを具備する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1鍵と第2鍵とを含む複数の鍵に対する操作に応じた音響信号を生成し、
前記第1鍵の操作中に前記第2鍵が操作された場合に、前記第2鍵に対する操作の時点における前記第1鍵の位置である参照位置に応じて、前記音響信号の生成を制御する
コンピュータシステムにより実現される信号生成方法。
【請求項2】
前記音響信号は、
前記第1鍵に対応する第1音を表す第1区間と、
前記第2鍵に対応する第2音を表す第2区間と、
前記第1区間と前記第2区間との間において音響特性が前記第1音の音響特性から前記第2音の音響特性に遷移する遷移区間とを含み、
前記音響信号の生成の制御においては、前記参照位置に応じて、前記遷移区間の時間長を制御する
請求項1の信号生成方法。
【請求項3】
前記音響信号は、
前記第1鍵に対応する第1音を表す第1区間と、
前記第2鍵に対応する第2音を表す第2区間と、
前記第1区間と前記第2区間との間において、前記第1音を表す第1波形信号と前記第2音を表す第2波形信号とのクロスフェードにより生成される遷移区間とを含み、
前記音響信号の生成の制御においては、前記参照位置に応じて、前記遷移区間の時間長を制御する
請求項1の信号生成方法。
【請求項4】
前記音響信号の生成においては、
前記第2鍵が単独で操作された場合に、前記第2音の開始の直後に位置する発音部分と前記発音部分の後方の定常部分とを含む第2波形信号を利用して前記音響信号を生成し、
前記クロスフェードにおいては、前記第2波形信号のうちの前記定常部分を利用する
請求項3の信号生成方法。
【請求項5】
前記複数の鍵の各々は、非操作状態における第1端位置と、前記第1端位置から離間した第2端位置との間で移動可能であり、
前記音響信号の生成の制御においては、
前記参照位置が第1位置である場合に、前記遷移区間を第1時間長に設定し、
前記参照位置が前記第1位置よりも前記第2端位置に近い第2位置である場合に、前記遷移区間を、前記第1時間長よりも長い第2時間長に設定する
請求項2から請求項4の何れかの信号生成方法。
【請求項6】
前記音響信号は、
前記第1操作子に対応する第1音を表す第1区間と、
前記第2操作子に対応する第2音を表す第2区間と、
前記第1区間と前記第2区間との間において付加音を表す付加区間とを含み、
前記音響信号の生成の制御においては、前記参照位置に応じて、前記付加音の音響特性を制御する
請求項1の信号生成方法。
【請求項7】
前記第1鍵の操作期間と前記第2鍵の操作期間とは、時間軸上において相互に重複する
請求項1から請求項6の何れかの信号生成方法。
【請求項8】
第1鍵と第2鍵とを含む複数の鍵に対する操作に応じた音響信号を生成する信号生成部と、
前記第1鍵の操作中に前記第2鍵が操作された場合に、前記第2鍵に対する操作の時点における前記第1鍵の位置である参照位置に応じて、前記音響信号の生成を制御する動作制御部と
を具備する信号生成システム。
【請求項9】
前記音響信号は、
前記第1鍵に対応する第1音を表す第1区間と、
前記第2鍵に対応する第2音を表す第2区間と、
前記第1区間と前記第2区間との間において音響特性が前記第1音の音響特性から前記第2音の音響特性に遷移する遷移区間とを含み、
前記音響信号の生成の制御においては、前記参照位置に応じて、前記遷移区間の時間長を制御する
請求項8の信号生成システム。
【請求項10】
前記音響信号は、
前記第1鍵に対応する第1音を表す第1区間と、
前記第2鍵に対応する第2音を表す第2区間と、
前記第1区間と前記第2区間との間において、前記第1音を表す第1波形信号と前記第2音を表す第2波形信号とのクロスフェードにより生成される遷移区間とを含み、
前記動作制御部は、前記参照位置に応じて、前記遷移区間の時間長を制御する
請求項8の信号生成システム。
【請求項11】
前記信号生成部は、
前記第2鍵が単独で操作された場合に、前記第2音の開始の直後に位置する発音部分と前記発音部分の後方の定常部分とを含む第2波形信号を利用して前記音響信号を生成し、
前記クロスフェードにおいては、前記第2波形信号のうちの前記定常部分を利用する
請求項10の信号生成システム。
【請求項12】
前記複数の鍵の各々は、非操作状態における第1端位置と、前記第1端位置から離間した第2端位置との間で移動可能であり、
前記動作制御部は、
前記参照位置が第1位置である場合に、前記遷移区間を第1時間長に設定し、
前記参照位置が前記第1位置よりも前記第2端位置に近い第2位置である場合に、前記遷移区間を、前記第1時間長よりも長い第2時間長に設定する
請求項9から請求項11の何れかの信号生成システム。
【請求項13】
前記音響信号は、
前記第1操作子に対応する第1音を表す第1区間と、
前記第2操作子に対応する第2音を表す第2区間と、
前記第1区間と前記第2区間との間において付加音を表す付加区間とを含み、
前記動作制御部は、前記参照位置に応じて、前記付加音の音響特性を制御する
請求項8の信号生成システム。
【請求項14】
前記第1鍵の操作期間と前記第2鍵の操作期間とは、時間軸上において相互に重複する
請求項8から請求項13の何れかの信号生成システム。
【請求項15】
第1鍵と第2鍵とを含む複数の鍵と、
前記複数の鍵の各々に対する操作を検出する検出システムと、
信号生成システムとを具備し、
前記信号生成システムは、
前記複数の鍵に対する操作に応じた前記音響信号を生成する信号生成部と、
前記第1鍵の操作中に前記第2鍵が操作された場合に、前記第2鍵に対する操作の時点における前記第1鍵の位置である参照位置に応じて、前記音響信号の生成を制御する動作制御部とを含む
電子楽器。
【請求項16】
第1鍵と第2鍵とを含む複数の鍵に対する操作に応じた音響信号を生成する信号生成部、および、
前記第1鍵の操作中に前記第2鍵が操作された場合に、前記第2鍵に対する操作の時点における前記第1鍵の位置である参照位置に応じて、前記音響信号の生成を制御する動作制御部、
としてコンピュータシステムを機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、利用者による操作に応じて音響信号を生成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば鍵盤楽器の鍵等の操作量を検出するための各種の技術が従来から提案されている。例えば特許文献1には、押鍵動作により変形する歪センサを押鍵の検出に利用する技術が開示されている。また、特許文献2には、押鍵/離鍵に応じた磁界の変化を利用して鍵の位置を検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-56315号公報
【特許文献2】特開2021-81615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば鍵等の操作子に対する操作に応じた多様な音響特性の音響信号を生成する技術の開発が従来から要求されている。以上の事情を考慮して、本開示のひとつの態様は、利用者による操作に応じた多様な音響特性の音響信号を、簡便な処理により生成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本開示のひとつの態様に係る信号生成方法は、第1鍵と第2鍵とを含む複数の鍵に対する操作に応じた音響信号を生成し、前記第1鍵の操作中に前記第2鍵が操作された場合に、前記第2鍵に対する操作の時点における前記第1鍵の位置である参照位置に応じて、前記音響信号の生成を制御する。
【0006】
本開示のひとつの態様に係る信号生成システムは、第1鍵と第2鍵とを含む複数の鍵に対する操作に応じた音響信号を生成する信号生成部と、前記第1鍵の操作中に前記第2鍵が操作された場合に、前記第2鍵に対する操作の時点における前記第1鍵の位置である参照位置に応じて、前記音響信号の生成を制御する動作制御部とを具備する。
【0007】
本開示のひとつの態様に係る電子楽器は、第1鍵と第2鍵とを含む複数の鍵と、前記複数の鍵の各々に対する操作を検出する検出システムと、信号生成システムとを具備し、前記信号生成システムは、前記複数の鍵に対する操作に応じた前記音響信号を生成する信号生成部と、前記第1鍵の操作中に前記第2鍵が操作された場合に、前記第2鍵に対する操作の時点における前記第1鍵の位置である参照位置に応じて、前記音響信号の生成を制御する動作制御部とを含む。
【0008】
本開示のひとつの態様に係るプログラムは、第1鍵と第2鍵とを含む複数の鍵に対する操作に応じた音響信号を生成する信号生成部、および、前記第1鍵の操作中に前記第2鍵が操作された場合に、前記第2鍵に対する操作の時点における前記第1鍵の位置である参照位置に応じて、前記音響信号の生成を制御する動作制御部、としてコンピュータシステムを機能させる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態における鍵盤楽器の構成を例示するブロック図である。
【
図2】検出システムおよび信号生成システムの構成を例示するブロック図である。
【
図4】信号生成システムの機能的な構成を例示するブロック図である。
【
図6】連続操作時における信号生成部の動作の説明図である。
【
図7】参照位置と遷移区間の時間長との関係に関する説明図である。
【
図8】制御処理の詳細な手順を例示するフローチャートである。
【
図10】第2実施形態における信号生成部の動作の説明図である。
【
図11】第3実施形態における信号生成部の動作の説明図である。
【
図12】第3実施形態における制御処理の詳細な手順を例示するフローチャートである。
【
図13】変形例における信号生成部の動作の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
A:第1実施形態
図1は、第1実施形態に係る電子楽器100の構成を例示するブロック図である。電子楽器100は、利用者による演奏に応じて音を出力する楽器であり、鍵盤10と検出システム20と信号生成システム30と放音装置40とを具備する。なお、電子楽器100は、単体の装置として実現されるほか、相互に別体で構成された複数の装置としても実現される。
【0011】
鍵盤10は、相異なる音高P[n](n=1~N)に対応するN個の鍵K[1]~K[N]で構成される(Nは2以上の自然数)。N個の鍵K[1]~K[N]は、複数の白鍵と複数の黒鍵とを含み、所定の方向に配列される。各鍵K[n]は、利用者による操作に応じて鉛直方向に変位する操作子である。利用者による操作は、押鍵および離鍵を含む演奏操作である。
【0012】
検出システム20は、各鍵K[n]に対する利用者からの操作を検出する。信号生成システム30は、利用者による各鍵K[n]の操作に応じて音響信号Vを生成する。音響信号Vは、利用者が操作した鍵K[n]に対応する音高P[n]の音を表す時間信号である。
【0013】
放音装置40は、音響信号Vが表す音を再生する。放音装置40は、例えばスピーカまたはヘッドホンである。電子楽器100とは別体の放音装置40が電子楽器100に有線または無線により接続されてもよい。なお、音響信号Vをデジタルからアナログに変換するD/A変換器、および音響信号Vを増幅する増幅器の図示は、便宜的に省略されている。
【0014】
図2は、検出システム20および信号生成システム30の構成を例示するブロック図である。検出システム20は、相異なる鍵K[n]に対応するN個の磁気センサ21と、複数の磁気センサ21の各々を制御する駆動回路22とを具備する。任意の1個の鍵K[n]に対応する磁気センサ21は、鉛直方向における当該鍵K[n]の位置Z[n]を検出するセンサである。N個の磁気センサ21の各々は、検出回路50と被検出部60とを具備する。すなわち、検出回路50と被検出部60との組が鍵K[n]毎に設置される。
【0015】
各鍵K[n]に対応する被検出部60は、当該鍵K[n]に設置される。したがって、被検出部60は、利用者による鍵K[n]の操作に連動して鉛直方向に移動する。他方、検出回路50は、電子楽器100の筐体に設置される。すなわち、検出回路50の位置は利用者による鍵K[n]の操作に連動しない。したがって、検出回路50と被検出部60との距離は、利用者による鍵K[n]の操作に連動して変化する。
【0016】
図3は、検出回路50および被検出部60の構成を例示する回路図である。検出回路50は、入力端子51と出力端子52と抵抗素子53とコイル54と容量素子55と容量素子56とを含む共振回路である。抵抗素子53の一端が入力端子51に接続され、抵抗素子53の他端は、容量素子55の一端とコイル54の一端とに接続される。コイル54の他端は、出力端子52と容量素子56の一端とに接続される。容量素子55の他端と容量素子56の他端とは接地される。
【0017】
被検出部60は、コイル61と容量素子62とを含む共振回路である。具体的には、容量素子62の両端とコイル61の両端とが相互に接続される。検出回路50の共振周波数と被検出部60の共振周波数とは同等の周波数である。ただし、検出回路50の共振周波数と被検出部60の共振周波数とは相違してもよい。
【0018】
任意の1個の鍵K[n]に対応するコイル54およびコイル61は、鉛直方向に相互に間隔をあけて対向する。したがって、コイル54とコイル61との距離は、利用者による各鍵K[n]の操作に応じて変化する。具体的には、コイル54とコイル61との距離は、利用者による押鍵により減少し、利用者による離鍵により増加する。
【0019】
図2の駆動回路22は、複数の検出回路50の各々に基準信号Rを供給する。具体的には、駆動回路22は、各検出回路50に対して基準信号Rを時分割で供給する。基準信号Rは、所定の周波数でレベルが変動する周期信号である。各検出回路50の入力端子51に基準信号Rが供給される。基準信号Rの周波数は、例えば検出回路50または被検出部60の共振周波数に設定される。
【0020】
図3から理解される通り、基準信号Rは、入力端子51と抵抗素子53とを経由してコイル54に供給される。基準信号Rの供給によりコイル54には磁界が発生する。コイル54に発生した磁界による電磁誘導で被検出部60のコイル61には誘導電流が発生する。コイル61に発生する磁界は、コイル54とコイル61との距離に応じて変化する。したがって、コイル54とコイル61との距離に応じた振幅δの検出信号dが、検出回路50の出力端子52から出力される。すなわち、検出信号dの振幅δは、鉛直方向における各鍵K[n]の位置Z[n]に応じて変化する。
【0021】
図2の駆動回路22は、各検出回路50が出力する検出信号dから検出信号Dを生成する。検出信号Dは、各検出信号dの振幅δに応じたレベルに順次に設定される信号である。前述の通り、振幅δは各鍵K[n]の位置Z[n]に応じて変化する。したがって、検出信号Dは、N個の鍵K[1]~K[N]の各々に関する鉛直方向の位置Z[n]を表す信号である。位置Z[n]は、例えば各鍵K[n]のうち利用者の手指が接触する上面の位置である。
【0022】
図2に例示される通り、信号生成システム30は、制御装置31と記憶装置32とA/D変換器33とを具備する。なお、信号生成システム30は、単体の装置で構成されるほか、相互に別体で構成された複数の装置で構成されてもよい。A/D変換器33は、検出信号Dをアナログからデジタルに変換する。
【0023】
制御装置31は、電子楽器100の各要素を制御する単数または複数のプロセッサで構成される。具体的には、例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、SPU(Sound Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の1種類以上のプロセッサにより、制御装置31が構成される。制御装置31は、A/D変換器33による変換後の検出信号Dに応じて音響信号Vを生成する。
【0024】
記憶装置32は、制御装置31が実行するプログラムと制御装置31が使用するデータとを記憶する単数または複数のメモリである。例えば、半導体記録媒体および磁気記録媒体等の公知の記録媒体、または複数種の記録媒体の組合せが、記憶装置32として利用される。なお、例えば、電子楽器100に対して着脱される可搬型の記録媒体、または、制御装置31が通信網を介して書込または読出を実行可能な記録媒体(例えばクラウドストレージ)が、記憶装置32として利用されてもよい。
【0025】
第1実施形態の記憶装置32は、相異なる鍵K[n]に対応する複数の波形信号W[n]を記憶する。任意の1個の鍵K[n]に対応する波形信号W[n]は、当該鍵K[n]に対応する音高P[n]の音を表す信号である。すなわち、波形信号W[n]が音響信号Vとして放音装置40に供給されることで、当該音高P[n]の音が再生される。なお、波形信号W[n]のデータ形式は任意である。
【0026】
図4は、制御装置31の機能的な構成を例示するブロック図である。制御装置31は、記憶装置32に記憶されたプログラムを実行することで、検出信号Dから音響信号Vを生成する複数の機能(位置特定部71、信号生成部72および動作制御部73)を実現する。
【0027】
位置特定部71は、検出信号Dを解析することでN個の鍵K[1]~K[N]の各々の位置Z[n]を特定する。具体的には、位置特定部71は、検出信号Dのうち当該鍵K[n]に対応する部分のレベルに応じて位置Z[n]を特定する。
【0028】
図5は、各鍵K[n]の位置Z[n]に関する説明図である。
図5に例示される通り、各鍵K[n]は、上端位置ZHと下端位置ZLとの間の範囲(以下「移動範囲」という)Q内において、利用者による操作に応じて鉛直方向に移動する。上端位置ZHは、利用者が鍵K[n]を操作していない状態における当該鍵K[n]の位置である。すなわち、上端位置ZHは、移動範囲Qの上端の位置である。他方、下端位置ZLは、利用者が充分に鍵K[n]を押下した状態における当該鍵K[n]の位置である。すなわち、下端位置ZLは、移動範囲Qの下端の位置である。下端位置ZLは、鍵K[n]の変位が最大である状態における当該鍵K[n]の位置とも表現される。第1実施形態の検出システム20は、移動範囲Qの全域にわたり各鍵K[n]の位置を検出可能である。すなわち、検出信号Dが鍵K[n]毎に表す位置Z[n]は、移動範囲Qの全体のなかの任意の1個の地点である。なお、上端位置ZHは「第1端位置」の一例であり、下端位置ZLは「第2端位置」の一例である。
【0029】
移動範囲Q内には操作位置Zonと解放位置Zoffとが設定される。操作位置Zonは、利用者により鍵K[n]が操作されたと判定される位置である。すなわち、押鍵による鍵K[n]の降下により位置Z[n]が操作位置Zonに到達したときに、当該鍵K[n]が操作されたと判定される。他方、解放位置Zoffは、鍵K[n]に対する操作が解除されたと判定される位置である。すなわち、押鍵後の離鍵による鍵K[n]の上昇により位置Z[n]が解放位置Zoffに到達したときに、当該鍵K[n]が離鍵されたと判定される。操作位置Zonは、解放位置Zoffと下端位置ZLとの間に位置する。なお、操作位置Zonは、上端位置ZHまたは下端位置ZLに一致してもよい。同様に、解放位置Zoffは、上端位置ZHまたは下端位置ZLに一致してもよい。また、解放位置Zoffが操作位置Zonと下端位置ZLとの間に位置してもよい。
【0030】
鍵K[n]は、利用者により操作されることで上端位置ZHから降下する。鍵K[n]は、降下の過程において操作位置Zonを通過し、最終的には下端位置ZLに到達する。また、鍵K[n]は、利用者が操作を解除することで下端位置ZLから上昇する。鍵K[n]は、上昇の過程において解放位置Zoffを通過し、最終的には上端位置ZHに到達する。
【0031】
図4の信号生成部72は、複数の鍵K[n]の各々に対する利用者からの操作に応じた音響信号Vを生成する。具体的には、信号生成部72は、各鍵K[n]の位置Z[n]に応じた音響信号Vを生成する。
【0032】
まず、鍵盤10における任意の1個の鍵K[n]が単独で操作された場合を想定する。鍵K[n]が単独で操作された場合、信号生成部72は、記憶装置32に記憶されたN個の波形信号W[1]~W[N]のうち当該鍵K[n]に対応する波形信号W[n]を利用して音響信号Vを生成する。具体的には、信号生成部72は、押鍵による鍵K[n]の降下により位置Z[n]が操作位置Zonに到達した場合に、波形信号W[n]を音響信号Vとして放音装置40に出力する。したがって、音高P[n]の音が放音装置40から再生される。なお、波形信号W[n]に対して各種の音響処理を実行することで音響信号Vを生成してもよい。以上の説明から理解される通り、信号生成部72は、PCM(Pulse Code Modulation)音源に相当する。
【0033】
次に、鍵K[n1]の操作中に鍵K[n2]が操作された場合(以下「連続操作時」という)を想定する。鍵K[n1](n1=1~N)は、N個の鍵K[1]~K[N]のうち任意の1個の鍵K[n]である。他方、鍵K[n2](n2=1~N、n2≠n1)は、N個の鍵K[1]~K[N]のうち鍵K[n1]以外の1個の鍵K[n]である。鍵K[n1]と鍵K[n2]とは、相互に隣合う2個の鍵K[n]でもよいし、1個以上の鍵K[n]を挟んで相互に離間した2個の鍵K[n]でもよい。鍵K[n2]は、音高P[n1]とは相違する音高P[n2]に対応する。
【0034】
図5に例示される通り、鍵K[n1]の操作中とは、鍵K[n1]が、降下の過程において操作位置Zonを通過してから、当該降下に連続する上昇の過程において解放位置Zoffを通過するまでの期間(以下「操作期間」という)内を意味する。連続操作時とは、鍵K[n1]の操作期間と鍵K[n2]の操作期間とが時間軸上で相互に重複することを意味する。具体的には、連続操作時においては、鍵K[n1]の操作期間のうち終点を含む後方の部分と、鍵K[n2]の操作期間のうち始点を含む前方の部分とが相互に重複する。
【0035】
鍵K[n1]の操作中に鍵K[n2]が操作された連続操作時において、信号生成部72は、鍵K[n1]に対応する波形信号W[n1]と、鍵K[n2]に対応する波形信号W[n2]とを利用して、音響信号Vを生成する。鍵K[n1]は「第1鍵」の一例であり、鍵K[n2]は「第2鍵」の一例である。また、波形信号W[n1]は「第1波形信号」の一例であり、波形信号W[n2]は「第2波形信号」の一例である。
【0036】
図6は、連続操作時における信号生成部72の動作の説明図である。
図6に例示される通り、利用者が操作していた鍵K[n1]が離鍵により上昇する過程において、当該利用者が鍵K[n2]を操作した場合(すなわち連続操作時)を想定する。
【0037】
以上の状況においては、信号生成部72は、第1区間X1と第2区間X2と遷移区間Xtとを含む音響信号Vを生成する。第1区間X1は、鍵K[n1]の操作に対応する区間である。第2区間X2は、鍵K[n2]の操作に対応する区間である。第2区間X2は、時間軸上において第1区間X1の後方に位置する。遷移区間Xtは、第1区間X1と第2区間X2との間に位置する区間である。
【0038】
遷移区間Xtの始点tSは、鍵K[n2]に対する操作の時点tonである。具体的には、始点tSは、押鍵による鍵K[n2]の降下により位置Z[n2]が操作位置Zonに到達した時点tonである。他方、遷移区間Xtの終点tEは、当該遷移区間Xtの始点tSから時間長Tだけ後方の時点である。なお、時間長Tについては後述する。始点tSは、第1区間X1の終点とも表現され、終点tEは、第2区間X2の始点とも表現される。
【0039】
信号生成部72は、鍵K[n1]に対応する波形信号W[n1]を、音響信号Vの第1区間X1として放音装置40に供給する。したがって、音高P[n1]の音(以下「第1音」という)が放音装置40により再生される。すなわち、音響信号Vの第1区間X1は、鍵K[n1]に対応する音高P[n1]の第1音を表す。
【0040】
信号生成部72は、鍵K[n2]に対応する波形信号W[n2]を、音響信号Vの第2区間X2として放音装置40に供給する。したがって、音高P[n2]の音(以下「第2音」という)が放音装置40により再生される。すなわち、音響信号Vの第2区間X2は、鍵K[n2]に対応する音高P[n2]の第2音を表す。第1区間X1における第1音の音高P[n1]と、第2区間X2における第2音の音高P[n2]とは相違する。なお、
図6においては音高P[n2]が音高P[n1]を上回る場合を便宜的に例示したが、音高P[n2]が音高P[n1]を下回る場合も想定される。
【0041】
また、信号生成部72は、波形信号W[n1]と波形信号W[n2]とを利用して、音響信号Vの遷移区間Xtを生成する。具体的には、信号生成部72は、波形信号W[n1]および波形信号W[n2]のクロスフェードと、音高P[n]の制御とにより、音響信号Vの遷移区間Xtを生成する。遷移区間Xtの生成について以下に詳述する。
【0042】
信号生成部72は、遷移区間Xtの始点tSから終点tEにかけて、波形信号W[n1]の音量を経時的に減少させる。波形信号W[n1]の音量は、遷移区間Xt内において連続的に減少する。具体的には、信号生成部72は、始点tSから終点tEにかけて最大値1から最小値0まで経時的に減少する係数(ゲイン)を、波形信号W[n1]に対して乗算する。また、信号生成部72は、遷移区間Xtの始点tSから終点tEにかけて、波形信号W[n2]の音量を経時的に増加させる。波形信号W[n2]の音量は、遷移区間Xt内において連続的に増加する。具体的には、信号生成部72は、始点tSから終点tEにかけて最小値0から最大値1まで経時的に増加する係数(ゲイン)を、波形信号W[n2]に対して乗算する。
【0043】
また、信号生成部72は、遷移区間Xtの始点tSから終点tEにかけて、波形信号W[n1]の音高を経時的に変化させる。具体的には、信号生成部72は、波形信号W[n1]の音高を、始点tSから終点tEにかけて音高P[n1]から音高P[n2]まで経時的に変化させる。すなわち、波形信号W[n1]の音高は、始点tSにおける音高P[n1]から上昇または低下し、終点tEにおいて音高P[n2]に到達する。また、信号生成部72は、遷移区間Xtの始点tSから終点tEにかけて、波形信号W[n2]の音高を経時的に変化させる。具体的には、信号生成部72は、波形信号W[n2]の音高を、始点tSから終点tEにかけて音高P[n1]から音高P[n2]まで経時的に変化させる。すなわち、波形信号W[n2]の音高は、前述の波形信号W[n1]と同様に、始点tSにおける音高P[n1]から上昇または低下し、終点tEにおいて音高P[n2]に到達する。
【0044】
信号生成部72は、以上に例示した処理後の波形信号W[n1]と波形信号W[n2]とを加算することで音響信号Vの遷移区間Xtを生成する。すなわち、前述の通り、波形信号W[n1]と波形信号W[n2]とのクロスフェードにより遷移区間Xtが生成される。遷移区間Xtの音高は、第1音の音高P[n1]から第2音の音高P[n2]に遷移する。以上の説明から理解される通り、遷移区間Xtは、音響信号Vが表す音が第1音から第2音に経時的に遷移する区間である。すなわち、利用者は、鍵K[n1]の操作中に鍵K[n2]を操作することで、放音装置40が放音する音に対し、レガートまたはポルタメントに相当する音楽的な効果を付与できる。
【0045】
図4の動作制御部73は、信号生成部72による音響信号Vの生成を制御する。第1実施形態の動作制御部73は、遷移区間Xtの時間長Tを制御する。具体的には、鍵K[n1]と鍵K[n2]との連続操作時において、動作制御部73は、鍵K[n2]に対する操作の時点tonにおける鍵K[n1]の位置Z[n1](以下「参照位置Zref」という)に応じて、遷移区間Xtの時間長Tを制御する。
図6に例示される通り、参照位置Zrefは、鍵K[n2]の位置Z[n2]が押鍵により操作位置Zonに到達する時点tonにおける鍵K[n1]の位置Z[n1]である。上端位置ZHと参照位置Zrefとの距離Lに着目すると、動作制御部73は、遷移区間Xtの時間長Tを距離Lに応じて制御する、とも換言される。距離Lは、利用者による鍵K[n]の操作量とも表現される。
【0046】
図7は、参照位置Zrefと時間長Tの関係に関する説明図である。
図7には、移動範囲Q内の位置Z1および位置Z2が、参照位置Zrefの具体例として想定されている。位置Z2は、位置Z1と比較して下端位置ZLに近い位置である。すなわち、位置Z2と上端位置ZHとの距離L2は、位置Z1と上端位置ZHとの距離L1を上回る(L2>L1)。なお、位置Z1は「第1位置」の一例であり、位置Z2は「第2位置」の一例である。
【0047】
動作制御部73は、参照位置Zrefが位置Z1である場合に、遷移区間Xtを時間長T1に設定する。他方、動作制御部73は、参照位置Zrefが位置Z2である場合に、遷移区間Xtを時間長T2に設定する。時間長T2は時間長T1よりも長い(T2>T1)。以上の説明から理解される通り、動作制御部73は、参照位置Zrefが下端位置ZLに近いほど遷移区間Xtの時間長Tが増加するように、当該時間長Tを制御する。すなわち、上端位置ZHと参照位置Zrefとの距離Lが長いほど遷移区間Xtの時間長Tは増加する。
【0048】
図8は、制御装置31が実行する処理(以下「制御処理」という)の詳細な手順を例示するフローチャートである。例えば所定の周期で
図8の処理が反復される。
【0049】
制御処理が開始されると、制御装置31(位置特定部71)は、検出信号Dの解析により各鍵K[n]の位置Z[n]を特定する(Sa1)。制御装置31(信号生成部72)は、各鍵K[n]の位置Z[n]を参照することで、N個の鍵K[1]~K[N]の何れか(鍵K[n2])が操作されたか否かを判定する(Sa2)。具体的には、制御装置31は、何れかの鍵K[n2]の降下により位置Z[n2]が操作位置Zonに到達したか否かを判定する。
【0050】
鍵K[n2]が操作されたと判定した場合(Sa2:YES)、制御装置31(信号生成部72)は、他の鍵K[n1]が操作中であるか否かを判定する(Sa3)。他の鍵K[n1]が操作中でない場合(Sa3:NO)には、鍵K[n2]が単独で操作されたことを意味する。したがって、制御装置31は、波形信号W[n2]を音響信号Vとして放音装置40に出力することで、音高P[n2]の第2音を放音装置40に再生させる(Sa4)。
【0051】
他方、鍵K[n1]の操作中に鍵K[n2]が操作された場合(Sa3:YES)、すなわち、連続操作時において、制御装置31(信号生成部72)は、鍵K[n1]に対応する波形信号W[n1]と鍵K[n2]に対応する波形信号W[n2]とを利用して音響信号Vを生成する(Sa5-Sa7)。
【0052】
まず、制御装置31(動作制御部73)は、鍵K[n2]に対する操作の時点tonにおける鍵K[n1]の位置Z[n1]である参照位置Zrefを特定する(Sa5)。また、制御装置31(動作制御部73)は、参照位置Zrefに応じて遷移区間Xtの時間長Tを設定する(Sa6)。具体的には、前述の通り、制御装置31は、参照位置Zrefが下端位置ZLに近いほど時間長Tが増加するように、遷移区間Xtの時間長Tを設定する。制御装置31(信号生成部72)は、当該時間長Tの遷移区間Xt内において波形信号W[n1]と波形信号W[n2]とをクロスフェードすることで音響信号Vを生成する(Sa7)。制御装置31(信号生成部72)は、以上の処理により生成した音響信号Vを放音装置40に出力する(Sa8)。以上に例示した制御処理が、周期的に反復される。
【0053】
以上に説明した通り、第1実施形態においては、鍵K[n1]の操作中に鍵K[n2]が操作された場合に、鍵K[n2]に対する操作の時点tonにおける鍵K[n1]の位置である参照位置Zrefに応じて、音響信号Vの生成が制御される。したがって、鍵K[n2]の操作の時点tonにおける鍵K[n1]の位置Z[n1](=Zref)を特定する簡便な処理により、利用者による操作に応じた多様な音響特性の音響信号Vを生成できる。具体的には、第1実施形態においては、音響信号Vが表す音が第1音(音高P[n1])から第2音(音高P[n2])に遷移する遷移区間Xtの時間長Tが参照位置Zrefに応じて制御される。したがって、鍵K[n1]および鍵K[n2]に対する利用者の操作に応じて遷移区間Xtの時間長Tが変化する多様な音響信号Vを生成できる。
【0054】
ところで、第1音を第2音に迅速に遷移させることを意図する場合には、利用者は、鍵K[n1]の操作期間と鍵K[n2]の操作期間とが重複する時間長を短縮し、相応の時間をかけて第1音を徐々に第2音に遷移させることを意図する場合には、利用者は、鍵K[n1]の操作期間と鍵K[n2]の操作期間とが重複する時間長を充分に確保する、という傾向が想定される。第1実施形態においては、参照位置Zrefが位置Z1よりも下端位置ZLに近い位置Z2である場合に、遷移区間Xtが時間長T1よりも長い時間長T2に設定される。したがって、利用者は、直観的な操作により、遷移区間Xtを意図に沿った時間長Tに設定し易いという利点がある。
【0055】
B:第2実施形態
第2実施形態を説明する。なお、以下に例示する各態様において機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明と同様の符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0056】
図9は、各波形信号W[n]の模式図である。波形信号W[n]は、発音部分Waと定常部分Wbとを含む。発音部分Waは、波形信号W[n]が表す音の発音が開始された直後の期間である。例えば、発音部分Waは、波形信号W[n]が表す音の音量が立上がるアタック期間と、当該アタック期間の直後に音量が低下するディケイ期間とを含む。他方、定常部分Wbは、発音部分Waの後方に位置する期間である。具体的には、定常部分Wbは発音部分Waに後続する。例えば、定常部分Wbは、波形信号W[n]が表す音の音量が定常的に維持されるサステイン期間に相当する。
【0057】
鍵K[n]が単独で操作された場合、信号生成部72は、波形信号W[n]の全体を利用して音響信号Vを生成する。すなわち、信号生成部72は、発音部分Waと定常部分Wbとを含む波形信号W[n]の全体を音響信号Vとして放音装置40に供給する。したがって、発音部分Waと定常部分Wbとの双方を含む音が放音装置40から再生される。
【0058】
他方、鍵K[n1]の操作中に鍵K[n2]が操作される連続操作時において、信号生成部72は、波形信号W[n2]のうちの定常部分Wbを選択的に利用することで音響信号Vを生成する。具体的には、
図10に例示される通り、遷移区間Xtにおいては、波形信号W[n2]のうち発音部分Wa以外の定常部分Wbを、先行する波形信号W[n1]に対してクロスフェードすることで、音響信号Vを生成する。すなわち、波形信号W[n2]の発音部分Waは音響信号Vの生成に利用されない。なお、連続操作時に波形信号W[n2]の発音部分Waが使用されない点以外の構成および動作は、第1実施形態と同様である。したがって、第2実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。
【0059】
ところで、連続操作時に波形信号W[n2]の発音部分Waが音響信号Vの生成に利用される構成(第1実施形態)においては、遷移区間Xt内において第2音の発音部分Waが聴感的に顕著に知覚される。すなわち、第1音に後続して別個の第2音の発音が開始されたことが利用者により顕著に知覚される。したがって、第1音と第2音とが連続的に遷移する印象が充分に知覚されない可能性がある。第2実施形態においては、第1音に後続する第2音について発音部分Waが使用されない。したがって、第1音と第2音とが聴感的に自然な印象で円滑に連結された音響信号Vを生成できる。
【0060】
他方、第1実施形態においては波形信号W[n2]の発音部分Waが音響信号Vに使用されるが、遷移区間Xt内のクロスフェードにおいては波形信号W[n2]の音量が抑制されるから、発音部分Wa内の波形信号W[n2]の波形によっては、第2音の発音部分Waが聴感的に知覚され難い可能性がある。他方、第1実施形態によれば、波形信号W[n2]の発音部分Waを音響信号Vの生成にあたり除外する必要がないから、第2実施形態と比較して制御装置31の処理負荷が低減されるという利点がある。
【0061】
C:第3実施形態
図11は、第3実施形態の信号生成部72が連続操作時に実行する動作の説明図である。連続操作時は、第1実施形態と同様に、鍵K[n1]の操作中に鍵K[n2]が操作された場合である。連続操作時において、信号生成部72は、第1区間X1と第2区間X2と付加区間Xaとを含む音響信号Vを生成する。なお、鍵K[n]が単独で操作された場合に、波形信号W[n]が音響信号Vとして出力される点は、第1実施形態と同様である。
【0062】
第1実施形態と同様に、第1区間X1において、信号生成部72は、鍵K[n1]に対応する波形信号W[n1]を音響信号Vとして放音装置40に供給する。また、第2区間X2において、信号生成部72は、鍵K[n2]に対応する波形信号W[n2]を、音響信号Vとして放音装置40に供給する。第3実施形態においては、発音部分Waおよび定常部分Wbの双方を含む波形信号W[n2]が、第2区間X2の始点から音響信号Vとして放音装置40に供給される。すなわち、波形信号W[n2]における発音部分Waの先頭は、第2区間X2の始点から再生される。ただし、第2実施形態と同様に、波形信号W[n2]のうち発音部分Waの再生は省略されてもよい。
【0063】
信号生成部72は、付加信号Eを音響信号Vの付加区間Xaとして放音装置40に供給する。付加信号Eは、付加音を表す信号である。付加音は、第1音または第2音とは別個の付加的な効果音である。具体的には、楽器の演奏に付随して発生する音(例えば本来的な楽器音以外の音)が「付加音」として例示される。例えば、弦楽器の演奏時に手指と弦との摩擦により発生するフィンガーノイズ(フレットノイズ)、または管楽器の演奏時または歌唱時に発生するブレス(息継ぎ)音が、付加音として例示される。以上の説明から理解される通り、第1音と第2音との間に付加音が放音装置40により再生される。
【0064】
第3実施形態の動作制御部73は、付加区間Xa内の付加音の音響特性を参照位置Zrefに応じて制御する。具体的には、動作制御部73は、参照位置Zrefに応じて付加音の音量を制御する。例えば、動作制御部73は、参照位置Zrefが下端位置ZLに近いほど付加音の音量を増加させる。具体的には、第1実施形態と同様に位置Z1と位置Z2とを参照位置Zrefとして想定すると、参照位置Zrefが位置Z2である場合の付加音の音量は、参照位置Zrefが位置Z1である場合の付加音の音量を上回る。すなわち、上端位置ZHと参照位置Zrefとの距離Lが長いほど、付加音の音量は増加する。なお、以上の例示とは反対に、上端位置ZHと参照位置Zrefとの距離Lが長いほど、付加音の音量が減少する形態も想定される。
【0065】
図12は、第3実施形態における制御処理の詳細な手順を例示するフローチャートである。第3実施形態においては、第1実施形態における制御処理のステップSa6およびステップSa7が、以下に例示する
図12のステップSb6およびステップSb7に置換される。ステップSb6およびステップSb7以外の処理は、第1実施形態と同様である。
【0066】
参照位置Zrefを特定すると(Sa5)、制御装置31(動作制御部73)は、付加信号Eを記憶装置32から取得し、当該付加信号Eの音量を参照位置Zrefに応じて設定する(Sb6)。そして、制御装置31(信号生成部72)は、付加信号Eを当該音量に調整し、調整後の付加信号Eを付加区間Xaとして音響信号Vを生成する(Sb7)。制御装置31(信号生成部72)は、第1実施形態と同様に、音響信号Vを放音装置40に出力する(Sa8)。以上に例示した制御処理が、周期的に反復される。
【0067】
以上に説明した通り、第3実施形態においては、鍵K[n1]の操作中に鍵K[n2]が操作された場合に、鍵K[n2]に対する操作の時点tonにおける鍵K[n1]の位置である参照位置Zrefに応じて、音響信号Vの生成が制御される。したがって、第1実施形態と同様に、鍵K[n2]の操作の時点tonにおける鍵K[n1]の位置Z[n1](=Zref)を特定する簡便な処理により、利用者による操作に応じた多様な音響特性の音響信号Vを生成できる。また、第3実施形態においては、参照位置Zrefに応じた音響特性の付加音が第1音と第2音との間に発音される多様な音響信号Vを生成できる。
【0068】
第1実施形態および第2実施形態においては、遷移区間Xtの時間長Tを参照位置Zrefに応じて制御する形態を例示した。第3実施形態においては、付加区間Xaにおける付加音の音響特性を参照位置Zrefに応じて制御する形態を例示した。第1実施形態から第3実施形態は、動作制御部73が参照位置Zrefに応じて音響信号Vの生成を制御する形態、として包括的に表現される。
【0069】
D:変形例
以上に例示した各態様に付加される具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された複数の態様を、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合してもよい。
【0070】
(1)第1実施形態および第2実施形態においては、遷移区間Xtにおいて音響信号Vの音高が変化する形態を例示したが、遷移区間Xtにおいて変化する音響特性は音高に限定されない。例えば、音響信号Vの音量が、遷移区間Xtにおいて第1音の音量から第2音の音量に遷移する形態も想定される。第1音の音量は、鍵K[n1]の移動速度(すなわち位置Z[n1]の変化率)に応じて設定される。第2音の音量は、鍵K[n2]の移動速度に応じて設定される。また、音響信号Vの音色が、遷移区間Xtにおいて第1音の音色から第2音の音色に遷移する形態も想定される。第1音と第2音とは相異なる音色の音である。第1音と第2音との間で周波数特性が相違すると表現してもよい。以上の例示のように第1区間X1と第2区間X2との間に遷移区間Xtが設定される形態においては、前述の第1実施形態または第2実施形態の例示の通り、当該遷移区間Xtの時間長Tを参照位置Zrefに応じて制御する形態が想定される。遷移区間Xtは、音響信号Vが表す音が第1音から第2音に遷移する区間として表現される。また、第1音と第2音とは、音響特性が相違する音として包括的に表現される。
【0071】
(2)第3実施形態においては、付加区間Xaにおける付加音の音量を参照位置Zrefに応じて制御したが、参照位置Zrefに応じて制御される付加音の音響特性は、音量に限定されない。例えば、付加音の音高または音色(周波数特性)が、参照位置Zrefに応じて制御されてもよい。付加音の2以上の音響特性が参照位置Zrefに応じて制御されてもよい。
【0072】
また、信号生成部72が、相異なる付加音を表す複数の付加信号Eの何れかを音響信号Vの付加区間Xaとして選択的に利用する形態が想定される。複数の付加信号Eは、例えば記憶装置32に記憶される。複数の付加信号Eの各々は、相異なる種類の付加音を表す。以上の形態において、信号生成部72は、複数の付加信号Eのうち参照位置Zrefに応じた付加信号Eを選択してもよい。すなわち、音響信号Vの付加区間Xaとして利用される付加信号Eが、参照位置Zrefに応じて変更される。
【0073】
(3)第1実施形態および第2実施形態においては、遷移区間Xtの時間長Tを参照位置Zrefに応じて制御する形態を例示した。第3実施形態においては、付加区間Xaにおける付加音の音響特性を参照位置Zrefに応じて制御する形態を例示した。信号生成部72による音響信号Vの生成に参照位置Zrefを反映させる形態は以上の例示に限定されない。例えば、各種の音響効果が付与された音響信号Vを信号生成部72が生成する形態において、動作制御部73は、音響効果に関する変数を参照位置Zrefに応じて制御してもよい。音響信号Vに付与される音響効果としては、例えばリバーブ、オーバードライブ、ディストーション、コンプレッサ、イコライザまたはディレイ等の各種の効果が例示される。以上に説明した形態も、動作制御部73が参照位置Zrefに応じて音響信号Vの生成を制御する形態の一例である。
【0074】
(4)前述の各形態においては、相異なる鍵K[n]に対応するN個の波形信号W[1]~W[N]を選択的に利用して音響信号Vを生成したが、音響信号Vを生成するための構成および方法は、以上の例示に限定されない。例えば、信号生成部72が、記憶装置32に記憶された基礎信号を変調する変調処理により音響信号Vを生成する形態も想定される。基礎信号は、所定の周波数でレベルが変動する周期信号である。変調処理によれば、基礎信号の変調により音響信号Vの第1区間X1と第2区間X2とが連続的に生成されるから、第1実施形態および第2実施形態において例示したクロスフェードは不要である。変調処理を利用する形態において、信号生成部72は、基礎信号に対する変調処理の条件を制御することで、遷移区間Xtにおいて音響信号Vの音響特性(例えば音量、音高または音色)を変化させる。
【0075】
(5)前述の各形態においては、遷移区間Xtの始点tSから終点tEにかけて波形信号W[n1]および波形信号W[n2]の音量を経時的に変化させたが、波形信号W[n1]および波形信号W[n2]の音量を制御させる区間は遷移区間Xtの一部でもよい。例えば、
図13に例示される通り、信号生成部72は、遷移区間Xtの始点tSから、終点tEの前方の時点tE'にかけて、波形信号W[n1]の音量を経時的に減少させる。また、信号生成部72は、遷移区間Xtの始点tSの後方の時点tS'から、終点tEにかけて、波形信号W[n2]の音量を経時的に増加させる。すなわち、波形信号W[n1]と波形信号W[n2]とが実際に混合されるのは、時点tS'から時点tE'までの区間である。
【0076】
また、前述の各形態においては、遷移区間Xt内において音響信号Vの音高を直線的に変化させたが、音響信号Vの音響特性を変化させる条件は以上の例示に限定されない。例えば、
図13に例示される通り、信号生成部72は、遷移区間Xt内において、音響信号Vの音高を、音高P[n1]から音高P[n2]まで曲線的に変化させてもよい。また、遷移区間Xt内において音響信号Vの音響特性が段階的に変化する形態も想定される。
【0077】
(6)前述の各形態においては、各鍵K[n]の位置Z[n]を磁気センサ21により検出したが、各鍵K[n]の位置Z[n]を検出するための構成および方法は以上の例示に限定されない。例えば、各鍵K[n]からの反射光量に応じて位置Z[n]を検出する光学センサ、または、各鍵K[n]による押圧力の変化に応じて位置Z[n]を検出する圧力センサが、各鍵K[n]の位置Z[n]の検出に利用されてもよい。
【0078】
(7)前述の各形態においては、鍵盤10を構成する鍵K[n]を例示したが、利用者が操作する操作子は鍵K[n]に限定されない。例えば、利用者が踏込により操作するペダル、金管楽器(例えばトランペットまたはトロンボーン)におけるバルブ、または木管楽器(例えばクラリネットまたはサクソフォン)におけるキー等、利用者により操作される任意の要素が「操作子」として例示される。以上の例示の通り、本開示における操作子は、利用者により操作される任意の要素である。例えばタッチパネルに表示されて利用者が操作する仮想的な操作子も、本開示における「操作子」の概念には包含される。操作子は、利用者による操作に連動して所定の移動範囲内で移動する。なお、操作子の移動は直線的な移動に限定されない。例えば、利用者による操作に応じて回転する回転型の操作子(例えば操作ツマミ)も「操作子」の一例として想定される。回転型の操作子に関する「位置」は、標準的な状態に対する回転の角度を意味する。
【0079】
(8)信号生成システム30の機能は、前述の通り、制御装置31を構成する単数または複数のプロセッサと、記憶装置32に記憶されたプログラムとの協働により実現される。以上のプログラムは、コンピュータが読取可能な記録媒体に格納された形態で提供されてコンピュータにインストールされ得る。記録媒体は、例えば非一過性(non-transitory)の記録媒体であり、CD-ROM等の光学式記録媒体(光ディスク)が好例であるが、半導体記録媒体または磁気記録媒体等の公知の任意の形式の記録媒体も包含される。なお、非一過性の記録媒体とは、一過性の伝搬信号(transitory, propagating signal)を除く任意の記録媒体を含み、揮発性の記録媒体も除外されない。また、配信装置が通信網を介してプログラムを配信する構成では、当該配信装置においてプログラムを記憶する記録媒体が、前述の非一過性の記録媒体に相当する。
【0080】
E:付記
以上に例示した形態から、例えば以下の構成が把握される。
【0081】
本開示のひとつの態様(態様1)に係る信号生成方法は、第1操作子と第2操作子とを含む複数の操作子に対する操作に応じた音響信号を生成し、前記第1操作子の操作中に前記第2操作子が操作された場合に、前記第2操作子に対する操作の時点における前記第1操作子の位置である参照位置に応じて、前記音響信号の生成を制御する。以上の態様においては、第2操作子に対する操作の時点における第1操作子の位置(参照位置)に応じて音響信号の生成が制御される。したがって、第2操作子の操作の時点における第1操作子の位置を特定する簡便な処理により、利用者による操作に応じた多様な音響特性の音響信号を生成できる。
【0082】
「音響信号」は、音を表す信号であり、操作子に対する操作に応じて生成される。操作子に対する操作と音響信号との関係は任意である。例えば、操作子に対する操作に連動して音響信号が表す音が発音/消音される形態、または、操作子に対する操作に連動して音響信号の音響特性が変化する形態が想定される。音響信号の音響特性は、例えば音量、音高、または音色(すなわち周波数特性)等、音響的な任意の特性である。
【0083】
「第1操作子の操作中に第2操作子が操作された場合」は、例えば、第1操作子の操作期間と第2操作子の操作期間とが、時間軸上において相互に重複する場合である。具体的には、第1操作子の操作期間のうち終点を含む後方の期間と、第2操作子の操作期間のうち始点を含む前方の期間とが相互に重複する。各操作子の「操作期間」とは、当該操作子が操作された状態にある期間である。例えば、操作子が操作されたと判定される時点から、当該操作子に対する操作が解除されたと判定される時点までが「操作期間」に相当する。例えば、操作子の移動範囲内に操作位置と解放位置とを想定する。操作位置は、操作子が操作されたと判定される位置であり、解放位置は、操作子に対する操作が解除されたと判定される位置である。操作期間は、操作子が操作位置に到達してから解放位置に到達するまでの期間である。なお、移動範囲内における操作位置と解放位置との関係は任意である。例えば、操作位置と解放位置とは、移動範囲内の相異なる位置でもよいし共通の位置でもよい。
【0084】
第2操作子に対する操作の時点は、第2操作子が操作されたと判定される時点である。例えば非操作状態にある第2操作子の位置から利用者による操作で当該第2操作子が移動し始める時点のほか、利用者による操作で第2操作子が移動範囲内の特定の地点に到達した時点も、「第2操作子に対する操作の時点」に包含される。
【0085】
「操作子の位置」は、利用者による操作に連動して操作子が移動する形態において、当該操作子が存在する場所を意味する。また、利用者による操作に連動して操作子が回転する形態において、当該操作子が回転した角度も、本開示における「操作子の位置」には包含される。「操作子の位置」は、例えば当該操作子に対する「操作量」とも表現されてよい。操作量は、例えば、利用者による操作の結果として操作子が基準位置から移動した距離または回転した角度である。
【0086】
態様1の具体例(態様2)において、前記音響信号は、前記第1操作子に対応する第1音を表す第1区間と、前記第2操作子に対応する第2音を表す第2区間と、前記第1区間と前記第2区間との間において音響特性が前記第1音の音響特性から前記第2音の音響特性に遷移する遷移区間とを含み、前記音響信号の生成の制御においては、前記参照位置に応じて、前記遷移区間の時間長を制御する。以上の態様においては、第2操作子に対する操作の時点における第1操作子の位置に応じて、音響信号が表す音が第1音から第2音に遷移する遷移区間の時間長が制御される。したがって、第1操作子および第2操作子に対する利用者の操作に応じて遷移区間の時間長が変化する多様な音響信号を生成できる。
【0087】
「第1音」は、第1操作子に対する操作を契機として発音される音である。同様に、「第2音」は、第2操作子に対する操作を契機として発音される音である。第1音と第2音とは、例えば音響特性が相違する。音響特性は、前述の通り、例えば音量、音高、または音色(すなわち周波数特性)等、音響的な任意の特性である。
【0088】
態様1の具体例(態様2)において、前記音響信号は、前記第1操作子に対応する第1音を表す第1区間と、前記第2操作子に対応する第2音を表す第2区間と、前記第1区間と前記第2区間との間において、前記第1音を表す第1波形信号と前記第2音を表す第2波形信号とのクロスフェードにより生成される遷移区間とを含み、前記音響信号の生成の制御においては、前記参照位置に応じて、前記遷移区間の時間長を制御する。以上の態様においては、第2操作子に対する操作の時点における第1操作子の位置に応じて、第1音の第1波形信号と第2音の第2波形信号とがクロスフェードされる遷移区間の時間長が制御される。したがって、第1操作子および第2操作子に対する利用者の操作に応じて遷移区間の時間長が変化する多様な音響信号を生成できる。
【0089】
「第1波形信号と第2波形信号とのクロスフェード」とは、第1波形信号(第1音)の音量を経時的に減少させ、かつ、第2波形信号(第2音)の音量を経時的に増加させながら、第1波形信号と第2波形信号とを混合する処理である。第1波形信号と第2波形信号とのクロスフェードは、「第1音と第2音とのクロスフェード」とも換言される。
【0090】
態様3の具体例(態様4)において、前記音響信号の生成においては、前記第2操作子が単独で操作された場合に、前記第2音の開始の直後に位置する発音部分と前記発音部分の後方の定常部分とを含む第2波形信号を利用して前記音響信号を生成し、前記クロスフェードにおいては、前記第2波形信号のうちの前記定常部分を利用する。以上の態様においては、第2波形信号のうちの定常部分がクロスフェードに利用される。したがって、第1音と第2音とが聴感的に自然な印象で円滑に連結された音響信号を生成できる。
【0091】
態様2から態様4の具体例(態様5)において、前記複数の操作子の各々は、非操作状態における第1端位置と、前記第1端位置から離間した第2端位置との間で移動可能であり、前記音響信号の生成の制御においては、前記参照位置が第1位置である場合に、前記遷移区間を第1時間長に設定し、前記参照位置が前記第1位置よりも前記第2端位置に近い第2位置である場合に、前記遷移区間を、前記第1時間長よりも長い第2時間長に設定する。第1音を第2音に迅速に遷移させることを意図する場合、利用者は、第1操作子の操作期間と第2操作子の操作期間とが重複する時間長を短縮する傾向がある。また、相応の時間をかけて第1音を第2音に徐々に遷移させることを意図する場合、利用者は、第1操作子の操作期間と第2操作子の操作期間とが重複する時間長を充分に確保する傾向がある。前述の態様においては、参照位置が第1位置よりも第2端位置に近い第2位置である場合に、遷移区間が、第1時間長よりも長い第2時間長に設定される。例えば、参照位置が第2端位置に近いほど遷移区間の時間長は増加する。したがって、利用者は、直観的な操作により、遷移区間を意図に沿った時間に設定し易いという利点がある。
【0092】
「非操作状態」とは、操作子が利用者により操作されていない状態であり、「第1端位置」は、非操作状態における操作子の位置である。「第2端位置」は、利用者により操作された状態にある操作子の位置である。具体的には、第2端位置は、利用者が操作子を最大限に操作した場合における当該操作子の位置である。「第1端位置」は、操作子の移動範囲における一端の位置であり、「第2端位置」は、当該移動範囲における他端の位置である。
【0093】
態様1の具体例(態様6)において、前記音響信号は、前記第1操作子に対応する第1音を表す第1区間と、前記第2操作子に対応する第2音を表す第2区間と、前記第1区間と前記第2区間との間において付加音を表す付加区間とを含み、前記音響信号の生成の制御においては、前記参照位置に応じて、前記付加音の音響特性を制御する。以上の態様によれば、参照位置に応じた音響特性の付加音が第1音と第2音との間に発音される多様な音響信号を生成できる。
【0094】
「付加音」は、第1音または第2音とは別個の付加的な効果音である。例えば、楽器の演奏に付随して発生する音(例えば楽音以外の音)が「付加音」として例示される。例えば、弦楽器の演奏時に手指と弦との摩擦により発生するフィンガーノイズ(フレットノイズ)、または管楽器の演奏時または歌唱時に発生するブレス(息継ぎ)音が、「付加音」として例示される。
【0095】
態様1から態様6の何れかの具体例(態様7)において、前記複数の操作子は、鍵盤を構成する複数の鍵である。以上の態様によれば、鍵盤楽器の演奏において、利用者による操作(すなわち押鍵)に応じた多様な音響特性の音響信号を簡便な処理により生成できる。
【0096】
本開示のひとつの態様(態様7)に係る信号生成システムは、第1操作子と第2操作子とを含む複数の操作子に対する操作に応じた音響信号を生成する信号生成部と、前記第1操作子の操作中に前記第2操作子が操作された場合に、前記第2操作子に対する操作の時点における前記第1操作子の位置である参照位置に応じて、前記音響信号の生成を制御する動作制御部とを具備する。なお、前述の態様2から態様6の各々は、態様7に係る信号生成システムにも同様に適用される。
【0097】
本開示のひとつの態様(態様8)に係る電子楽器は、第1操作子と第2操作子とを含む複数の操作子と、前記複数の操作子の各々に対する操作を検出する検出システムと、信号生成システムとを具備し、前記信号生成システムは、前記複数の操作子に対する操作に応じた音響信号を生成する信号生成部と、前記第1操作子の操作中に前記第2操作子が操作された場合に、前記第2操作子に対する操作の時点における前記第1操作子の位置である参照位置に応じて、前記音響信号の生成を制御する動作制御部とを含む。
【0098】
本開示のひとつの態様(態様9)に係るプログラムは、第1操作子と第2操作子とを含む複数の操作子に対する操作に応じた音響信号を生成する信号生成部、および、前記第1操作子の操作中に前記第2操作子が操作された場合に、前記第2操作子に対する操作の時点における前記第1操作子の位置である参照位置に応じて、前記音響信号の生成を制御する動作制御部、としてコンピュータシステムを機能させる。
【符号の説明】
【0099】
100…電子楽器、10…鍵盤、20…検出システム、21…磁気センサ、22…駆動回路、30…信号生成システム、31…制御装置、32…記憶装置、33…A/D変換器、40…放音装置、50…検出回路、60…被検出部、71…位置特定部、72…信号生成部、73…動作制御部。