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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085728
(43)【公開日】2023-06-21
(54)【発明の名称】照明装置、車両用灯具システム
(51)【国際特許分類】
   F21S 41/20 20180101AFI20230614BHJP
   F21S 41/147 20180101ALI20230614BHJP
   F21S 41/125 20180101ALI20230614BHJP
   F21V 9/14 20060101ALI20230614BHJP
   F21S 41/64 20180101ALI20230614BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20230614BHJP
   F21Y 101/00 20160101ALN20230614BHJP
   F21W 102/20 20180101ALN20230614BHJP
【FI】
F21S41/20
F21S41/147
F21S41/125
F21V9/14
F21S41/64
F21Y115:10
F21Y101:00 100
F21Y101:00 300
F21W102:20
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021199921
(22)【出願日】2021-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】亀井 松雄
(72)【発明者】
【氏名】井戸 博章
(72)【発明者】
【氏名】岩本 宜久
(57)【要約】      (修正有)
【課題】照明装置における配光パターン中の暗領域の発生を抑える。
【解決手段】光源10と、前記光源から出射する光が所定位置で焦点を結ぶように集光する集光部と、前記焦点を含む位置に配置される液晶素子15と、前記液晶素子の光入射面側に配置される第1偏光素子12と、前記液晶素子の光出射面側に配置される第2偏光素子17と、前記液晶素子、前記第1偏光素子及び前記第2偏光素子によって生じる像を拡大して投影する投影レンズ18と、前記光源から前記液晶素子へ至る光経路上に配置される光学フィルタ19とを含み、前記光源は、450nm以下に発光ピークを有しており、前記光学フィルタは、435nm以下における相対的な透過率が0.1%以下であって450nm以下における相対的な透過率が17%以下のローパスフィルタである、照明装置である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源から出射する光が所定位置で焦点を結ぶように集光する集光部と、
前記焦点を含む位置に配置される液晶素子と、
前記液晶素子の光入射面側に配置される第1偏光素子と、
前記液晶素子の光出射面側に配置される第2偏光素子と、
前記液晶素子、前記第1偏光素子及び前記第2偏光素子によって生じる像を拡大して投影する投影レンズと、
前記光源から前記液晶素子へ至る光経路上に配置される光学フィルタと、
を含み、
前記光源は、450nm以下に発光ピークを有しており、
前記光学フィルタは、435nm以下における相対的な透過率が0.1%以下であって450nm以下における相対的な透過率が17%以下のローパスフィルタである、
照明装置。
【請求項2】
前記光源は、白色LEDを用いて構成されている、
請求項1に記載の照明装置。
【請求項3】
前記焦点の位置における放射照度が0.023W/mm以上である、
請求項1又は2に記載の照明装置。
【請求項4】
前記液晶素子は、脂環式ポリイミド及び/又は脂環式ポリアミック酸による配向膜を用いて構成されている、
請求項1~3の何れか1項に記載の照明装置。
【請求項5】
前記第1偏光素子が透過反射型偏光板であり、
前記光源から入射して前記第1偏光素子で反射される光を反射及び集光して前記第1偏光素子へ入射させる反射板を更に含む、
請求項1~4の何れか1項に記載の照明装置。
【請求項6】
前記光学フィルタは、正面観察時と斜め観察時において等しい透過分光スペクトルを有する、
請求項1~5の何れか1項に記載の照明装置。
【請求項7】
前記光学フィルタは、正面観察時と斜め観察時において異なる透過分光スペクトルを有し、斜め観察時のほうがカットオフ波長が長い、
請求項1~5の何れか1項に記載の照明装置。
【請求項8】
前記光学フィルタは、光学多層膜を用いて構成されている、
請求項1~7の何れか1項に記載の照明装置。
【請求項9】
光源と、
前記光源から出射する光が所定位置で焦点を結ぶように集光する集光部と、
前記焦点を含む位置に配置される液晶素子と、
前記液晶素子の光入射面側に配置される第1偏光素子と、
前記液晶素子の光出射面側に配置される第2偏光素子と、
前記液晶素子、前記第1偏光素子及び前記第2偏光素子によって生じる像を拡大して投影する投影レンズと、
を含み、
前記光源は、450nm以上の波長域に短波長側の発光強度ピークを有し、450nm以上の波長域での発光強度ピークに比した435nm以下の波長域での発光強度が0.1%以下であり、かつ450nm以上の波長域での発光強度ピークに比した450nmでの発光強度が17%以下である、
照明装置。
【請求項10】
請求項1~9の何れか1項に記載の照明装置と、当該照明装置に接続されて動作制御を行うコントローラとを含む、車両用灯具システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、照明装置、車両用灯具システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2019-128449号公報(特許文献1)には、液晶素子を用いて配光パターンを可変に制御する車両用前照灯(照明装置)が記載されている。この車両用前照灯では、光源から出射する光を集光して液晶素子へ入射させ、液晶素子において明暗の像を形成し、その像をレンズによって拡大投影することで車両前方に照射される光の配光パターンを可変に設定している。この車両用前照灯では、光源として出射光が広角に広がるLED素子を用いるため、レンズやリフレクタなどの集光手段で集光した光を液晶素子へ入射させている。しかし、累積使用時間が長くなると、光の照度が相対的に高くなる焦点付近に対応して、配光パターン中の一部で暗領域(相対的に明るさの低い領域)を生じる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-128449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示に係る具体的態様は、照明装置における配光パターン中の暗領域の発生を抑えることが可能な技術を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]本開示に係る一態様の照明装置は、(a)光源と、(b)前記光源から出射する光が所定位置で焦点を結ぶように集光する集光部と、(c)前記焦点を含む位置に配置される液晶素子と、(d)前記液晶素子の光入射面側に配置される第1偏光素子と、(e)前記液晶素子の光出射面側に配置される第2偏光素子と、(f)前記液晶素子、前記第1偏光素子及び前記第2偏光素子によって生じる像を拡大して投影する投影レンズと、(g)前記光源から前記液晶素子へ至る光経路上に配置される光学フィルタと、を含み、(h)前記光源は、450nm以下に発光ピークを有しており、(i)前記光学フィルタは、435nm以下における相対的な透過率が0.1%以下であって450nm以下における相対的な透過率が17%以下のローパスフィルタである、照明装置である。
[2]本開示に係る一態様の照明装置は、(a)光源と、(b)前記光源から出射する光が所定位置で焦点を結ぶように集光する集光部と、(c)前記焦点を含む位置に配置される液晶素子と、(d)前記液晶素子の光入射面側に配置される第1偏光素子と、(e)前記液晶素子の光出射面側に配置される第2偏光素子と、(f)前記液晶素子、前記第1偏光素子及び前記第2偏光素子によって生じる像を拡大して投影する投影レンズと、を含み、(g)前記光源は、450nm以上の波長域に短波長側の発光強度ピークを有し、450nm以上の波長域での発光強度ピークに比した435nm以下の波長域での発光強度が0.1%以下であり、かつ450nm以上の波長域での発光強度ピークに比した450nmでの発光強度が17%以下である、照明装置である。
[3]本開示に係る一態様の車両用灯具システムは、前記[1]又は[2]に記載の照明装置と、当該照明装置に接続されて動作制御を行うコントローラとを含む、車両用灯具システムである。
【0006】
上記構成によれば、照明装置ないしこれを用いる車両用灯具システムにおける配光パターン中の暗領域の発生を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1(A)は、一実施形態の車両用灯具システムの構成を示す図である。図1(B)は、変形実施例の車両用灯具システムの構成を示す図である。
図2図2は、液晶素子の構成例を示す模式的な断面図である。
図3図3は、光源から出射される光の発光スペクトル(分光放射強度)を示す図である。
図4図4は、液晶素子の電気光学特性の経時変化の様子を示す図である。
図5図5(A)~図5(C)は、種々の光学フィルタを用いた照明装置の分光スペクトルを示す図である。
図6図6(A)~図6(B)は、種々の光学フィルタの分光スペクトルを示す図である。
図7図7は、液晶素子に入射する光の放射照度面内分布を計算により求めた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1(A)は、一実施形態の車両用灯具システムの構成を示す図である。図1(A)に示す車両用灯具システムは、車両用灯具(ランプユニット)1と、コントローラ2と、カメラ3を含んで構成されている。この車両用前照灯システムは、カメラ3によって撮影される画像に基づいて自車両の周囲に存在する前方車両や歩行者の顔等の位置を検出し、前方車両等の位置を含む一定範囲を減光範囲(ないし非照射範囲)に設定し、それ以外の範囲を光照射範囲に設定して選択的な光照射を行うとともに、路面上へ種々形状の光照射を行うものである。
【0009】
車両用灯具1は、車両前部の所定位置に配置されており、車両前方を照明するための照射光を形成する。なお、車両用灯具1は車両の左右それぞれに1つずつ設けられるがここでは1つのみ図示する。
【0010】
コントローラ2は、車両用灯具1の光源10や液晶素子15の動作制御を行うものである。このコントローラ2は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を有するコンピュータシステムを用い、このコンピュータシステムにおいて所定の動作プログラムを実行させることによって実現される。本実施形態のコントローラ2は、運転席に設置されたライトスイッチ(図示せず)の操作状態に応じて光源10を点灯させるとともに、カメラ3によって検出される前方車両(対向車両、先行車両)、歩行者、道路標識、路上白線などの対象体に応じた配光パターンを設定し、この配光パターンに対応する像を形成するための制御信号を液晶素子15へ供給する。
【0011】
カメラ3は、自車両の前方空間を撮影して画像を生成し、この画像に対して所定の画像認識処理を行って上記した前方車両等の対象体の位置、範囲、大きさ、種別などを検出する。画像認識処理による検出結果は、カメラ3と接続されているコントローラ2へ供給される。カメラ3は、自車両の車室内の所定位置(例えば、フロントガラス上部)に設置されるか、または自車両の車室外の所定位置(例えば、フロントバンパー内)に設置される。車両に他の用途(例えば、自動ブレーキシステム等)のためのカメラが備わっている場合にはそのカメラを共用してもよい。
【0012】
なお、カメラ3における画像認識処理の機能をコントローラ2にて代替してもよい。その場合には、カメラ3は、生成した画像をコントローラ2へ出力、この画像に基づいてコントローラ2側で画像認識処理が行われる。あるいは、カメラ3から画像とそれに基づく画像認処理の結果の双方がコントローラ2へ供給されてもよい。その場合に、コントローラ2は、カメラ3から得た画像を用いてさらに独自の画像認識処理を行ってもよい。
【0013】
図1(A)に示す車両用灯具1は、光源10、リフレクタ(反射部材)11、13、偏光ビームスプリッタ(第1偏光素子)12、1/4波長板14、液晶素子15、光学補償板16、偏光板(第2偏光素子)17、投影レンズ18、光学フィルタ19を含んで構成されている。これらの各要素は、例えば1つのハウジング(筐体)に収容されて一体化されている。また、光源10と液晶素子15は、それぞれコントローラ2と接続されている。
【0014】
光源10は、コントローラ2による制御を受けて光を放出する。この光源10は、例えばいくつかの白色LED(Light Emitting Diode)などの発光素子と駆動回路を含んで構成される。なお、光源10の構成はこれに限定されない。例えば、光源10としては、レーザ素子、さらには電球や放電灯など車両用灯具に一般的に使用されている光源が使用可能である。
【0015】
リフレクタ11は、光源10に対応づけて配置されており、光源10から放出される光が液晶素子15の位置(一例として液晶素子15の厚さ方向の略中央)で焦点を結ぶように反射および集光して偏光ビームスプリッタ12の方向へ導き、液晶素子15へ入射させる。リフレクタ11は、例えば楕円面状の反射面を有する反射鏡である。この場合、光源10は、リフレクタ11の反射面の焦点付近に配置することができる。なお、リフレクタ11に代えて集光部としてレンズを用いてもよい。
【0016】
偏光ビームスプリッタ12は、入射光のうち特定方向の偏光を透過し、これと直交方向の偏光を反射させる透過反射型偏光素子であり、液晶素子15の光入射面側においてこの光入射面に対して斜めに配置されている。このような偏光ビームスプリッタ12としては、例えばワイヤーグリッド型偏光素子や多層膜偏光素子などを用いることができる。
【0017】
リフレクタ13は、偏光ビームスプリッタ12によって反射される光が入射し得る位置に設けられており、入射した光が液晶素子15の位置で焦点を結ぶように反射および集光して偏光ビームスプリッタ12へ入射させる。
【0018】
1/4波長板14は、偏光ビームスプリッタ12とリフレクタ13の間の光経路上に配置されており、入射する光に位相差を与える。本実施形態では、偏光ビームスプリッタ12によって反射された光は、1/4波長板14を透過し、リフレクタ13で反射されて再度1/4波長板14を透過することで偏光方向が90°回転して偏光ビームスプリッタ12へ再入射する。それにより、再入射した光は偏光ビームスプリッタ12をより透過しやすい状態となるので光の利用効率が向上する。
【0019】
なお、図1(B)に示す変形実施例の車両用灯具1aのように、1/4波長板14に代えて、1/2波長板14aを用いることもできる。この場合には、1/2波長板14aは、偏光ビームスプリッタ12によって反射された光は入射せず、この光がリフレクタ13で反射された光が入射する位置に配置される。
【0020】
液晶素子15は、リフレクタ11、13のそれぞれにより反射および集光された光の焦点を含む位置に配置され、当該光が入射するように配置されている。液晶素子15は、互いに独立に制御可能な複数の画素部(光変調部)を備えている。本実施形態では、液晶素子15は、各画素部に駆動電圧を与えるためのドライバ(図示せず)を有している。ドライバは、コントローラ2から供給される制御信号に基づいて、液晶素子15に対して、各画素部を個別に駆動するための駆動電圧を与える。図示のように液晶素子15に入射する光は、液晶素子15の光入射面に対して広角に入射する。具体的には、光入射面の法線方向に対して40°~60°くらいの広角に光が入射する。
【0021】
光学補償板16は、液晶素子15を透過した光の位相差を補償し、偏光度を高めるためのものであり、液晶素子15の光出射面側に配置されている。具体的には、光学補償板16は、液晶層15の位相差と合算した位相差が0またはそれに近い値となるようにその位相差が設定される。なお、光学補償板16は省略されてもよい。
【0022】
偏光板17は、液晶素子15の光出射面側に配置されている。偏光ビームスプリッタ12、偏光板17とこれらの間に配置された液晶素子15によって、自車両の前方へ照射する光の配光パターンに対応した像が形成される。
【0023】
投影レンズ18は、リフレクタ11、13により反射および集光され、液晶素子15を透過した光が入射し得る位置に配置されており、この入射した光を自車両の前方へ投影する。投影レンズ18は、その焦点が液晶素子15の液晶層に結ばれるように配置されている。投影レンズ18の光軸は図中において一点鎖線で示されるように、図中の左右方向に沿っている。
【0024】
光学フィルタ19は、偏光ビームスプリッタ12と液晶素子15との間に配置されている。この光学フィルタ19は、液晶素子15に入射する光のうち特定の波長域の成分を減衰させ、あるいは特定の波長域の成分を通過させるフィルタである。なお、原理的には光源10から液晶素子15へ至る光経路上のいずれかの位置に光学フィルタ19を配置することができる。例えば、光源10とリフレクタ11の間、リフレクタ11と偏光ビームスプリッタ12の間などに配置することができる。光学フィルタ19は、光学多層膜からなるフィルタであってもよい。また、光学フィルタ19は、正面観察時と斜め観察時で略等しい透過分光スペクトルを有するものであってもよい。また、光学フィルタ19は、正面観察時と斜め観察時で異なる透過分光スペクトルを有し、斜め観察時のほうがカットオフ波長の長いものであってもよい。さらに、光学フィルタ19は、光吸収物質を含有するものであることも好ましい。光学フィルタ19をリフレクタ11などの集光部と液晶素子15との間に配置する場合には、透過分光スペクトルの入射角依存性の小さい光学フィルタ、例えば光吸収物質を含有するガラスフィルタなどを用いることが好ましい。これにより、液晶素子15に入射する光の発光スペクトルが入射角により異なるのを抑制することができる。
【0025】
図2は、液晶素子の構成例を示す模式的な断面図である。ここではセグメント表示型の液晶素子を例示する。具体的には、例示の液晶素子15は、対向配置された第1基板51および第2基板52、複数の配線53、共通電極(対向電極)54、絶縁層(絶縁膜)55、複数の画素電極56、配向膜57、58及び液晶層59を含んで構成されている。
【0026】
第1基板51および第2基板52は、それぞれ、例えば平面視において矩形状の基板であり、互いに対向して配置されている。各基板としては、例えばガラス基板、プラスチック基板等の透光性基板を用いることができる。第1基板51と第2基板52の間には、例えば樹脂膜などからなる球状スペーサー(図示省略)が分散配置されており、それら球状スペーサーによって基板間隙が所望の大きさ(例えば数μm程度)に保たれている。なお、球状スペーサーに代えて、樹脂等からなる柱状体を第1基板51側若しくは第2基板52側に設け、それらをスペーサーとして用いてもよい。本実施形態では、第1基板51が偏光板17と対向し、第2基板52が偏光ビームスプリッタ12と対向するように各基板が配置されているものとする。すなわち、第1基板51側が液晶素子15としての光出射側となり、第2基板52が液晶素子15としての光入射側となるように各基板が配置されているものとする。
【0027】
複数の配線部53は、第2基板52の一面側において絶縁層55の下層側に設けられている。これらの配線部53は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。各配線部53は、ドライバから各画素電極56に対して電圧を与えるためのものである。
【0028】
共通電極54は、第1基板51の一面側に設けられている。この共通電極54は、第2基板52の各画素電極56と対向するようにして一体に設けられている。共通電極54は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。
【0029】
絶縁層55は、第2基板52の一面側において各配線53の上側にこれらを覆うようにして設けられている。本実施形態では、絶縁層55は、第2基板52の一面側において略全体を覆うように設けられている。この絶縁層55は、例えばSiO膜、SiON膜であり、スパッタ法などの気相プロセスあるいは溶液プロセスにより形成することができる。なお、この絶縁層55としては有機絶縁膜を用いてもよい。絶縁層55の層厚は、例えば1μm程度である。
【0030】
複数の画素電極56は、第2基板52の一面側において絶縁層55の上側に設けられている。これらの画素電極56は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。本実施形態では、各画素電極56と共通電極54とが向かい合う部分において画素部が構成される。
【0031】
各画素電極56は、絶縁層55に設けられるスルーホールを介していずれかの配線部53と物理的および電気的に接続されている。このように、各画素電極56と各配線部53を異なる層に設けることで、画素電極56の相互間に配線を設ける必要がないことから画素電極56の相互間の隙間を少なくして開口率を向上し、透過光量を増加させることができる。また、各配線部53についてもレイアウトの自由度が高まる。
【0032】
配向膜57は、第1基板51の一面側において各画素電極56を覆うようにしてそれらの上側に配置されている。配向膜58は、第2基板52の一面側において共通電極54を覆うようにしてその上側に配置されている。これらの配向膜57、58は、液晶層59の配向状態を規制するためのものである。各配向膜57、58は、例えばラビング処理等の一軸配向処理が施されており、その方向に沿って液晶層59の液晶分子の配向を規定する一軸配向規制力を有している。各配向膜57、58への配向処理の方向は、例えば互い違い(アンチパラレル)となるように設定される。各配向膜57、58と液晶層59との界面近傍におけるプレティルト角は例えば89°程度である。本実施形態では、脂環式ポリイミド又は脂環式ポリアミック酸による配向膜を用いる。
【0033】
液晶層59は、第1基板51と第2基板52の間に設けられている。液晶層59は、例えば、流動性を有するネマティック液晶材料を用いて構成される。液晶層59は、例えば、負の誘電率異方性を有し、屈折率異方性が約0.13の液晶材料を用いて構成される。液晶層59の層厚は、例えば4μm程度とすることができる。
【0034】
なお、液晶素子15としては、透過光を自在に変調して所望の像を形成し得る限りにおいて内部構造や駆動方法について特に限定がない。例えば上記した構成例では配線部と画素電極が別の層に形成される例を示したがこれに限定されず、同層に形成されてもよい。また、液晶素子15として、各画素に対して薄膜トランジスタを対応づけて構成されるアクティブマトリクス型の液晶素子が用いられてもよいし、複数のストライプ状の透明電極を対向配置してそれら透明電極同士の重なる各領域を画素部として用いる単純マトリクス型の液晶素子が用いられてもよい。さらに、液晶素子15としては、一方基板に設けられた任意形状の複数の画素電極と、他方基板に設けられた1つ(または複数)の対向電極を有するセグメント表示型の液晶素子を用いてもよく、その場合の駆動方法についてはマルチプレックス駆動を採用してもよいし、スタティック駆動を採用してもよい。
【0035】
図3は、光源から出射される光の発光スペクトル(分光放射強度)を示す図である。本実施形態の光源10に用いられる白色LEDは、青色LEDと青色LEDの発光が入射する位置に配置された黄色蛍光体とを備えており、青色LEDにて黄色蛍光体を励起し、青色と黄色の混色によって白色を得るものである。図示のように、光源10の出射光は、最大強度を示す波長ピークのピーク波長が440nmである。第2の発光ピークのピーク波長は545nm付近である。
【0036】
図4は、液晶素子の電気光学特性の経時変化の様子を示す図である。ここでは、図1(A)に示した車両用灯具1において光源10に一定の電力を供給して発光させるとともに液晶素子15は光透過状態となるようにし、特定時間が経過する毎に液晶素子15を取り出してクロスニコル配置の偏光板間に配置し、その際、各偏光板の透過軸と液晶素子15の配向処理方向とが45°をなすように配置して、液晶素子15の基板法線方向での電気光学特性を測定した。なお、液晶素子15の配向膜としては可溶性ポリイミドタイプの垂直配向膜を用いた。測定点は液晶素子15に対して最も高い照度で光照射される位置を中心に3mm径の領域とした。
【0037】
時間経過により、電気光学特性に変化が生じており、印加電圧12V時における透過率が低下する傾向が観察される。60時間(60H)の経過時には、到達可能な最大透過率は初期状態(0H)と同等であるが、150時間(150H)、320時間(320H)、500時間(500H)と時間が経過するほど最大透過率が低下していることが分かる。60時間以上経過した液晶素子15では偏光板を通さず液晶素子15を直接的に観察しても測定点では視認可能な程度に透過率が低下し、150時間以上経過した液晶素子15では、測定点付近が外観上黄色に変化していた。更に、2.5V付近での閾値電圧にも変化が生じていた。なお、同様の構成の液晶素子でポリアミック酸タイプの垂直配向膜を用いた場合においても、透過率の低下度合いが若干少なくなったものの時間経過により透過率が低下する傾向は同様であった。
【0038】
このような光劣化は、例えば本実施形態の車両用灯具1のように、液晶素子15に対して広角に光が入射して液晶素子15の位置で焦点を結ぶように集光される構成を用いる場合において特有の現象であるといえる。従前の液晶プロジェクタ等の用途など、液晶素子に対して平行光や拡散光を入射させることを前提とした構成では見られない現象である。従前の用途では液晶素子の特定位置での照度がそれほど大きくならないからである
【0039】
初期状態の液晶素子15と光照射時間が500時間を経過後の液晶素子15のそれぞれについて、測定点付近の配向膜の成分分析を行った。本実施形態では、配向膜として、低分子材料であるカルボン酸二無水物とジアミンを重合することによりポリイミドの前駆体であるポリアミック酸とした後、ポリイミドを得るものを想定している。成分分析の結果、低質量すなわち低分子材料であるカルボン酸等が大きく増加し、ポリイミドに起因する高質量(高分子)成分が減少していることが分かった。
【0040】
すなわち、液晶層の液晶分子の配向を制御するためのポリイミド配向膜が光照射によって分解したことで配向規制力が消失し、さらには黄変化したと考えられる。なお、本実施形態の配向膜では可溶性ポリイミドを想定しているためイミド化率は約100%であり、不純物としてのカルボン酸二無水物やジアミンは存在しないと考えられることからも、上記の劣化現象は光照射によるポリイミドの分解が主要因であることが裏付けられると考えられる。
【0041】
図5(A)~図5(C)及び図6(A)~図6(B)は、本実施形態において検討した種々の光学フィルタを用いた照明装置の分光スペクトルを示す図である。なお、ここでは上記の図3に示した発光分光スペクトルを有する光源10からの出射光を各光学フィルタに通した後の分光スペクトルを示している。
【0042】
図5(A)に示す特性の光学フィルタは、400nm以下の光をカットする紫外線カットのローパスフィルタである。400nm以下の波長域での透過率は0.1%以下であり、440nm以上の波長域での透過率は90%であるので、400nm以上の波長域では元々の光源10の発光分光スペクトルの光強度を若干低下された程度の分光スペクトルが得られている。
【0043】
図5(B)に示す特性の光学フィルタは、465nm以下の光をカットするローパスフィルタである。465nm以下の波長域での透過率は0.1%以下であり、530nm以上の波長域での透過率は90%である。
【0044】
図5(C)に示す特性の光学フィルタは、485nm以上の光をカットするハイパスフィルタである。485nm以上の波長域での透過率は0.1%以下であり、380nm以下の波長域での透過率は90%である。
【0045】
図6(A)に示す特性の光学フィルタは、575nm以上の光をカットするハイパスフィルタである。575nm以上の波長域での透過率は0.1%以下であり、430nm~450nmの波長域での透過率は50%である。
【0046】
図6(B)に示す特性の光学フィルタは、435nm以下の光をカットするハイパスフィルタである。435nm以上の波長域での透過率は0.1%以下であり、470nm以上の波長域での透過率は90%である。
【0047】
上記の各光学フィルタによる液晶素子15の劣化現象の抑制効果について確認した。光学フィルタ未使用時であれば必ず劣化現象(透過率低下)を生じる時間をかけ、各光学フィルタを介して光源10からの出射光を液晶素子15へ連続照射し、その後液晶素子15の外観観察を行った。なお、光学フィルタを配置した場合にはその分透過光の液晶素子15に照射される照度が低下するので、その低下分を照射時間で補うことにより、全ての光学フィルタにおいて同じ積算光量となるように調整した。光学フィルタを配置しない場合の液晶素子15の測定点における照射照度は0.181W/mmで、照射時間は500時間、積算光量は325800J/mmである。
【0048】
外観観察の結果、高照度の測定点において透過率低下が認められたのは図5(A)、図5(C)及び図6(A)に示す特性の各光学フィルタを用いた場合であった。他方で、図5(B)及び図6(B)に示す特性の各光学フィルタを用いた場合には透過率低下が認められなかった。透過率低下が認められない各光学フィルタに共通することは、435nm以下の波長域での透過率が0.1%以下であることである。また、図6(B)に示す特性の光学フィルタにおいては450nm以下の透過率が17%以下である。従って、これら2つの条件を満足する光学フィルタを車両用灯具1における光学フィルタ19として用いることで、液晶素子15における入射光が焦点を結ぶ領域である高照度領域における光劣化に伴う透過率低下を抑制できることが分かった。
【0049】
なお、光源10として、450nm以上の波長域に短波長側の発光ピークのピーク波長を有する光源を用いても、少なくとも435nm以下の発光強度が短波長側ピーク波長の発光強度に比べて0.1%以下かつ450nmにおける発光強度が17%以下であるものを用いることで、光学フィルタ19を省略しても、同様の作用機序により透過率低下を抑制することが可能であると考えられる。
【0050】
図7は、液晶素子に入射する光の放射照度面内分布を計算により求めた結果を示す図である。図中、縦軸Y、横軸Xは液晶素子15の面内位置を示している。放射強度の最も高い位置が原点(中心)である。この放射照度パターンは、光学フィルタ19を用いない場合に生じる液晶素子15の光劣化による暗領域と同様の形状であった。この透過率低下が認識される領域は、X軸原点に対して±6mmであり、この領域の端部における放射照度は原点の放射照度0.18W/mmに対して0.023W/mmであった。積算光量では41400J/mmが光劣化を生じるか否かの閾値であると推測される。
【0051】
以上のような実施形態によれば、車両用灯具(照明装置)における液晶素子の部分的な光劣化を抑制し、それによって照射光の配光パターン中の暗領域の発生を抑えることが可能となる。特に、本実施形態のように偏光ビームスプリッタからの反射光を再利用する光学系を用いる場合には液晶素子への入射光の強度がより高くなり配向膜の光劣化を生じやすいが、上記構成を用いることで液晶素子の部分的な光劣化を抑制することが可能となる。
【0052】
なお、本開示は上記した実施形態の内容に限定されるものではなく、本開示の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、車両用灯具の構成は上記実施形態の構成に限定されない。液晶素子の構成も上記実施形態の構成に限定されない。
【0053】
また、上記した実施形態では照明装置の一例として車両用灯具を挙げていたが本開示の適用範囲はこれに限定されない。例えば街路灯、踏切照明装置、方向案内照明装置など種々の照明装置に本開示に係る構成を適用することができる。また、車両用灯具の光学系についても上記した実施形態の構成に限定されない。
【符号の説明】
【0054】
1:車両用灯具、2:コントローラ、3:カメラ、10:光源、11、13:リフレクタ、12:偏光ビームスプリッタ、14:1/2波長板、15:液晶素子、16:光学補償板、17:偏光板、18:投影レンズ、19:光学フィルタ、51:第1基板51、52:第2基板、53:配線部、54:共通電極(対向電極)、55:絶縁層(絶縁膜)、56:画素電極、57、58:配向膜、59:液晶層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7