(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085734
(43)【公開日】2023-06-21
(54)【発明の名称】ソフトクリーム保形用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 29/30 20160101AFI20230614BHJP
A23G 9/34 20060101ALI20230614BHJP
A23G 9/04 20060101ALI20230614BHJP
A23G 9/00 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
A23L29/30
A23G9/34
A23G9/04
A23G9/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021199932
(22)【出願日】2021-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】泉 美菜
(72)【発明者】
【氏名】天田 克己
【テーマコード(参考)】
4B014
4B041
【Fターム(参考)】
4B014GB22
4B014GG14
4B014GG15
4B014GL11
4B014GP02
4B014GP13
4B014GP14
4B014GP23
4B014GP27
4B014GQ10
4B041LC03
4B041LC06
4B041LH02
4B041LH03
4B041LH04
4B041LK01
4B041LK45
4B041LP01
4B041LP08
4B041LP22
4B041LP25
(57)【要約】
【課題】 本発明の目的は、口どけがよく、室温以上の空気にさらされても溶け落ちにくいソフトクリームを提供することである。また、同時に、溶け落ちにくいソフトクリームのための保形用組成物及び溶け落ちにくいソフトクリームの製造方法を提供することである。
【解決手段】 特定の澱粉分解物、具体的には、馬鈴薯澱粉を酸及びプルラナーゼで処理して得られる特異な糖組成分布を有する澱粉分解物、より具体的には、(A)糖組成中のDP1~7の合計が5%以下、(B)糖組成中のDP8~19の合計が10%以上、かつ、(C)10
3<N(分子量)≦10
4が30~72%である澱粉分解物により、上記課題は達成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)~(C)を満たす澱粉分解物:
(A)糖組成中のDP1~7の合計が5%以下、
(B)糖組成中のDP8~19の合計が10%以上、かつ
(C)103<N(分子量)≦104が30~72%。
【請求項2】
以下の(D)をさらに満たす請求項1記載の澱粉分解物:
(D)104<N(分子量)≦105が50~20%。
【請求項3】
原料となる澱粉が馬鈴薯澱粉である、請求項1又は2記載の澱粉分解物。
【請求項4】
原料澱粉の加水分解が、酸及び分枝酵素により行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載の澱粉分解物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の澱粉分解物を含む、ソフトクリームミックス。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の澱粉分解物を含む、ソフトクリーム。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載の澱粉分解物を含む、ソフトクリーム保形用組成物。
【請求項8】
保形が、溶け落ちの抑制である、請求項7記載のソフトクリーム保形用組成物。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか一項に記載の澱粉分解物を原料中に2%以上となるよう添加する工程と、65℃以上の予備加熱工程を含む、ソフトクリームの製造方法。
【請求項10】
ソフトクリームの溶け落ち抑制方法であって、請求項1~4のいずれか一項に記載の澱粉分解物を、ソフトクリーム原料100質量部中において少なくとも2質量部となるよう添加する、ソフトクリームの溶け落ち抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温以上の空気にさらされたときにもソフトクリームの形状を比較的長い時間保持できる、ソフトクリーム保形用組成物、及びその組成物を用いたソフトクリーム並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本における「アイスクリーム類」の分類は、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」(以下、「乳等省令」という。)に定められ、(1)アイスクリーム(乳固形分15%以上、うち乳脂肪分8%以上)、(2)アイスミルク(乳固形分10%以上、うち乳脂肪分3%以上)、(3)ラクトアイス(乳固形分3%以上)の3つに分類されている。この「アイスクリーム類」は、通常、原材料を攪拌しながら-2~-9℃で急速に冷却凍結し、容器充填後に-25℃以下で保管されるものである。
【0003】
一方、日本でいうところの「ソフトクリーム」とは、「Soft Serve Ice Cream」を語源とする和製英語であり、一般に、原材料を攪拌しながら-5~-7℃程度で急速に冷却凍結したものをそのまま食す点において、上の「アイスクリーム類」とは異なる。しかし、乳等省令による乳固形分・脂肪分に基づく分類上は、アイスクリーム類とソフトクリームは同一のものである。このソフトクリームは、路面店舗などにおいて、客の注文を受けてコーンカップなどの容器に盛り付けて提供する形態をとることから、高い外気温度に影響されて溶けやすく、客の衣服や店舗の床を汚すことが多いため、これを改善する手段が強く望まれていた。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1には、ソフトクリームの溶け落ち遅延効果を維持する手段として、植物由来の微小繊維状セルロースが開示され、特許文献2には、ソフトクリーム用保形剤として、カルボキシメチルセルロースが開示されている。また、特許文献3には、アイスクリーム類の保存流通時に生じる組織劣化の抑制方法(保形性の改善方法)として、50%以上のマルトトリオ―スを含む糖組成物を用いる方法が開示されている。
【0005】
しかし、セルロース系の素材は、その結晶物がアイスクリーム類の口どけに少なからず違和感を残してしまう。そこで、特許文献1や2に開示されるような置換型や微小繊維状化されたセルロース素材を用いた場合、口どけは改善されるものの、食品としての安全性はいまだ不明であって実用化には至っていない。また、特許文献3のような三糖を主成分とする糖組成物にあっては、アイスクリーム類の口どけに違和感を与えないものの、ソフトクリームとして提供したときに、外気に影響されて表面が溶け落ちやすいという状況を改善できるほどの保形性改善効果はみられなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-132912号公報
【特許文献2】特開2018-164443号公報
【特許文献3】特開2013-31458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、口どけがよく、室温以上の空気に曝されても溶け落ちにくいソフトクリームを提供することにあり、同時に、そのソフトクリームの保形用組成物及びそのソフトクリームの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、種々検討したところ、特定の澱粉分解物、具体的には、馬鈴薯澱粉を酸及びプルラナーゼで処理して得られる特異な糖組成分布を有する澱粉分解物が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、主に6つの発明(澱粉分解物、ソフトクリームミックス、ソフトクリーム、ソフトクリーム保形用組成物、ソフトクリームの製造方法、ソフトクリームの溶け落ち抑制方法)からなり、具体的には以下[1]~[10]である。
[1]以下の(A)~(C)を満たす澱粉分解物:
(A)糖組成中のDP1~7の合計が5%以下、
(B)糖組成中のDP8~19の合計が10%以上、かつ
(C)103<N(分子量)≦104が30~72%。
[2]以下の(D)をさらに満たす上記[1]記載の澱粉分解物:
(D)104<N(分子量)≦105が50~20%。
[3]原料となる澱粉が馬鈴薯澱粉である、上記[1]又は[2]記載の澱粉分解物。
[4]原料澱粉の加水分解が、酸及び分枝酵素により行われる、上記[1]~[3]のいずれかに記載の澱粉分解物。
[5]上記[1]~[4]のいずれかに記載の澱粉分解物を含む、ソフトクリームミックス。
[6]上記[1]~[4]のいずれかに記載の澱粉分解物を含む、ソフトクリーム。
[7]上記[1]~[4]のいずれかに記載の澱粉分解物を含む、ソフトクリーム保形用組成物。
[8]保形が、溶け落ちの抑制である、上記[7]記載のソフトクリーム保形用組成物。
[9]上記[1]~[4]のいずれかに記載の澱粉分解物を原料中に2%以上となるよう添加する工程と、65℃以上の予備加熱工程を含む、ソフトクリームの製造方法。
[10] ソフトクリームの溶け落ち抑制方法であって、上記[1]~[4]のいずれかに記載の澱粉分解物を、ソフトクリーム原料100質量部中において少なくとも2質量部となるよう添加する、ソフトクリームの溶け落ち抑制方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、口どけがよく、室温以上の空気に曝されても溶け落ちにくいソフトクリームを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】各ソフトクリームの「溶け落ちにくさ」の評価方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のソフトクリーム保形用組成物は、(A)糖組成中のDP1~7の合計が5%以下であり、(B)糖組成中のDP8~19の合計が10%以上であり、(C)103<N(分子量)≦104が30~72%である澱粉分解物を含むことを必須とする。また、当該澱粉分解物は、(A)糖組成中のDP1~7の合計が3%以下若しくは2.5%以下、(B)糖組成中のDP8~19の合計が10~30%若しくは12~25%、(C)103<N(分子量)≦104が30~71%若しくは30~50%であることが好ましく、さらには、付加的に(D)104<N(分子量)≦105が50~20%若しくは50~35%であることがより好ましい。
【0013】
ここで、DPはグルコースの重合度を指し、例えば「DP5」は、5つのグルコースが重合した5糖を指す。このDPは、例えば、次の表1に示す条件の高速液体クロマトグラフィ(HPLC)により確認することができる。また、分子量については、表2に示す条件のHPLCを用いたゲルろ過クロマトグラフィにより確認することができる。また、「DE」とは、澱粉の分解度(還元末端の割合)を指し、「DE100」であれば、澱粉がすべてグルコースまで分解されていることを意味する。このDEは、定法(ウィルシュテッターシューデル法)により測定することができる。
【0014】
【0015】
【0016】
上記澱粉分解物を得る方法としては、例えば、原料澱粉を酸分解又は酸処理後に中和し、水洗後に酵素(少なくとも枝切り酵素)を作用させ、DE0.2~5となったときに当該酵素反応を終了させる方法が挙げられる。詳細には、酸処理を選択する場合、まず、15~45%(w/w)の澱粉懸濁液を塩酸や硫酸などの酸溶液でpH0.5~2となるよう調整し、30~60℃の温度で5~24時間程度反応させ、水酸化ナトリウムなどのアルカリ溶液で中和してから水洗する(この時点で得られる酸処理澱粉の無水4%懸濁液のアミログラフ最高粘度は100BU以下である)。次に、この酸処理澱粉の10~40%(w/w)懸濁液をオートクレーブで完全に糊化した後、40~60℃まで冷却し、塩酸や硫酸などの酸溶液でpHを4~6に調整する。この糊液に市販の枝切り酵素(例えば、プルラナーゼであるノボザイムズ ジャパン社製「プロモザイムD6」)を0.1~5.0%(v/w澱粉)となるよう添加し、DE0.2~5となったときに、85℃以上・10分程度の熱酵素失活操作で反応を終了する。このようにして得られた澱粉分解物溶液はそのまま液状で用いることもできるが、通常、スプレードライなどにより乾燥・粉末化して使用する。
【0017】
なお、上記澱粉分解物の30%水懸濁液は、以下の物性を有する:(1)水(5~20℃)に懸濁したときには完全溶解せず、(2)70℃以上に保温すると溶解し、(3)65℃まで冷却すると白濁固化する。
【0018】
本発明のソフトクリーム保形用組成物の必須成分である上記澱粉分解物は、澱粉を原料として製造されるところ、その澱粉種は特に限定されるものでなく、コーン、ワキシーコーン、サツマイモ、小麦、もち麦、粳米、糯米、馬鈴薯、ワキシーポテト、タピオカ、ワキシータピオカ、サゴ、エンドウ豆などの植物から抽出したもののいずれであっても利用できるが、本発明の効果を効率よく得る観点から、タピオカ澱粉又は馬鈴薯を選択することが好ましく、馬鈴薯澱粉であることがさらに好ましい。
【0019】
本発明のソフトクリーム保形用組成物中の当該澱粉分解物の含量は、特に限定されず、使用される際、すなわち、ソフトクリームミックス又はソフトクリームにおいて、0.5~10質量%(w/w)、好ましくは1~5質量%(w/w)が含まれるよう十分量を含ませることができればよいので、例えば1~100質量部としておくことで足りる。当該澱粉分解物以外は、アイスクリーム類一般に用いられる原材料を配合することができ、例えば、乳製品、甘味料、油脂類、安定剤、乳化剤、食塩、香料、果汁、果肉、木の実、抹茶、ココアなどの一以上を混合しておくこともできる。
【0020】
本発明のソフトクリームミックスは、上記の本発明のソフトクリーム保形用組成物を用いて調製されたものであり、水、乳、乳製品、甘味料、油脂類、安定剤、乳化剤、香料等の原材料とともにタンク等の容器内で均一に攪拌混合して得られるところ、本発明のソフトクリーム保形用組成物が本発明の効果を十分発揮するためには、予備加熱しておくことが好ましい。その温度は50~80℃程度でよいが、65℃~80℃の範囲にあることがより好ましい。
【0021】
本発明のソフトクリームミックスは、上記の予備加熱工程の後、殺菌、均質化、冷却、エージングなどソフトクリームミックスの一般的な製造工程を経て調製される。このソフトクリームミックスを各箇所へ流通させる場合は、さらに紙パックなどに充填する工程を経て、常温又は冷蔵で輸送等されることになる。このソフトクリームミックスは、各店舗で冷菓製造装置に投入され、空気を抱き込んだクリーム状に冷却されたものがソフトクリームであり、コーンカップなどの容器に盛り付けて客に提供される。
【0022】
以下、本発明について具体的に詳述するが、本発明はこれに限定されるものでない。
【実施例0023】
<各種澱粉分解物の調製>
(試作品A)
馬鈴薯澱粉43%(w/w)懸濁液を97%硫酸でpH0.6に調整し、50℃・17時間反応後に10%水酸化ナトリウムで中和し、水洗して試作品Aを得た。
【0024】
(試作品B)
馬鈴薯澱粉43%(w/w)懸濁液を97%硫酸でpH0.5に調整し、50℃・24時間反応後に10%水酸化ナトリウムで中和し、水洗して試作品Bを得た。
【0025】
(試作品C)
試作品Aの15%(w/w)懸濁液をオートクレーブで完全糊化し、10%硫酸でpH4.4に調整後、プロモザイムD6(ノボザイムズ ジャパン社製)を0.2%(v/w澱粉)となるよう添加して60℃で45分反応させた。85℃以上で10分間加熱して酵素失活させ、スプレードライヤーで粉末化して試作品Cを得た。
【0026】
(試作品D)
試作品Bの15%(w/w)懸濁液をオートクレーブで完全糊化し、10%硫酸でpH4.4に調整後、プロモザイムD6(ノボザイムズ ジャパン社製)を0.2%(v/w澱粉)となるよう添加して60℃で45分反応させた。85℃以上で10分間加熱して酵素失活させ、スプレードライヤーで粉末化したものを試作品Dとした。
【0027】
(試作品E)
試作品Bの15%(w/w)懸濁液をオートクレーブで完全糊化し、10%硫酸でpH4.4に調整後、プロモザイムD6(ノボザイムズ ジャパン社製)を0.2%(v/w澱粉)となるよう添加して60℃で150分反応させた。85℃以上で10分間加熱して酵素失活させ、スプレードライヤーで粉末化したものを試作品Eとした。
【0028】
(試作品F)
試作品Bの15%(w/w)懸濁液をオートクレーブで完全糊化し、10%硫酸でpH4.4に調整後、プロモザイムD6(ノボザイムズ ジャパン社製)を0.4%(v/w澱粉)となるよう添加して60℃で135分反応させた。85℃以上で10分間加熱して酵素失活させ、スプレードライヤーで粉末化したものを試作品Fとした。
【0029】
以上の試作品A~Fと市販澱粉分解物(5品)の分析値を表3に示す。
【0030】
【0031】
<ソフトクリームミックスの調整>
以下の[表4]の配合及び[表5]の工程に従ってソフトクリームミックスを調製し、ソフトクリームの溶け落ちの状態を観察した。
【0032】
【0033】
【0034】
上記[表4]の配合及び[表5]の手順で調製したソフトクリームを金網付きビーカーの上に載せて35℃の恒温室に静置し、10分後まで1分毎にその溶け落ち状態を観察し、
図1の評価基準に従って評価した。また、10分後の、ビーカー中に溶け落ちたソフトクリームの重量をはかり、溶け率(溶け落ちたソフトクリームの重量÷ソフトクリーム全重量×100(%))を算出した。その結果を[表6]に示す。
【0035】
【0036】
試料No.1~4の澱粉分解物と試料No.6~7の酸処理澱粉は、ソフトクリーム中に4%となるよう添加しても溶け落ち抑制効果はほとんどみられなかった。一方、試料No.5及び8~10の澱粉分解物は、ソフトクリーム中に3~4%となるよう添加すると溶け落ち抑制効果がみられ、2%添加のときも溶け落ちを抑制する傾向にあった。しかし、5%以上添加すると溶け落ち抑制の効果はみられたものの、食感がやや重たくなる傾向にあり、6%以上添加するとソフトクリームの口溶けに好ましくない影響が現れた。よって、試料No.5及び8~10に相当する澱粉分解物を、ソフトクリームに2%以上5%未満となるよう添加しておくことにより、ソフトクリームの食感に極力影響を与えることなく溶け落ち抑制の効果を付与できることとなる。