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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085786
(43)【公開日】2023-06-21
(54)【発明の名称】二酸化炭素の固定材及び固定方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/20 20060101AFI20230614BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20230614BHJP
   C07C 271/02 20060101ALI20230614BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20230614BHJP
【FI】
B01J20/20 A
B01J20/26 A
C07C271/02
C01B32/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200011
(22)【出願日】2021-12-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)ウェブサイト(ChemRxiv)への掲載 ▲1▼掲載日:2020年12月11日 ▲2▼アドレス:https://chemrxiv.org/engage/chemrxiv/article-details/60c752e0bdbb897f1ca3a389 (2)ウェブサイト(第71回錯体化学討論会講演要旨集)への掲載 ▲1▼掲載日:2021年9月7日 ▲2▼アドレス:https://jsccc71.com/top/program.html (3)学会(第71回錯体化学討論会)での発表 ▲1▼開催日:2021年9月17日 ▲2▼集会名:第71回錯体化学討論会 開催場所:オンライン開催(開催校:大阪市立大学・大阪府立大学) (4)雑誌(Journal of the American Chemical Society)への論文発表 ▲1▼発行日:2021年10月4日 ▲2▼刊行物:J.Am.Chem.Soc.2021,143,16750-16757 (5)セミナー(セラミックス協会関西支部若手勉強会)での発表 ▲1▼開催日:2021年10月11日 ▲2▼集会名:セラミックス協会関西支部若手勉強会 開催場所:Zoomによるオンライン開催 (6)セミナー(大阪市立大学での招待講演)での発表 ▲1▼開催日:2021年10月29日 ▲2▼集会名:招待講演 開催場所:大阪市立大学 (7)セミナー(関西学院大学での招待講演)での発表 ▲1▼開催日:2021年11月6日 ▲2▼集会名:招待講演 開催場所:関西学院大学 (8)ウェブサイト(Chem-Station)への掲載 ▲1▼掲載日:2021年11月22日 ▲2▼アドレス:https://www.chem-station.com/blog/2021/11/pmof.html
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100163991
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 慎司
(72)【発明者】
【氏名】堀毛 悟史
(72)【発明者】
【氏名】門田 健太郎
【テーマコード(参考)】
4G066
4G146
4H006
【Fターム(参考)】
4G066AA15A
4G066AA16A
4G066AA18A
4G066AA20A
4G066AA23A
4G066AA25A
4G066AA26A
4G066AA27A
4G066AB09A
4G066AB10A
4G066AB11A
4G066AB24B
4G066AC11B
4G066BA26
4G066BA36
4G066CA35
4G066DA01
4G066DA03
4G146JA02
4G146JB10
4G146JC21
4G146JC28
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB90
4H006AC56
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素を穏やかな条件下で且つ高い効率で固定するための新たな手法を提供する。
【解決手段】本発明に係る二酸化炭素固定材は、金属イオン供与体と、架橋配位子前駆体としてのアミンとを含んでいる。上記アミンは、気体状態の二酸化炭素と反応して、少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を有する架橋配位子を形成するように構成されている。上記架橋配位子は、上記金属イオン供与体と反応して、複数の上記金属イオンが上記架橋配位子によって連結された配位高分子を形成するように構成されている。
【選択図】図9A

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオン供与体と、
架橋配位子前駆体としてのアミンと
を含み、
前記アミンは、気体状態の二酸化炭素と反応して、少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を有する架橋配位子を形成するように構成されており、
前記架橋配位子は、前記金属イオン供与体と反応して、複数の前記金属イオンが前記架橋配位子によって連結された配位高分子を形成するように構成されている、
二酸化炭素固定材。
【請求項2】
前記アミンは2つ以上の第1級アミン基又は第2級アミン基を有しており、気体状態の二酸化炭素と反応して2つ以上のカルバメートアニオン部位を有する架橋配位子を形成するように構成されている、請求項1に記載の二酸化炭素固定材。
【請求項3】
前記アミンは、下記の一般式(1A)で表され、
【化1】
式中、
は、水素原子であるか、アルキル基であるか、又は、RとAとの間の窒素原子及びAと共に複素環を形成しており、
Aは、単結合であるか、又は、少なくとも1つの炭素原子を含んだ連結基であり、
Qは、前記金属イオンに配位可能なアニオン部位を形成するように構成された基である、
請求項1又は2に記載の二酸化炭素固定材。
【請求項4】
は、水素原子であるか、又は、RとAとの間の窒素原子及びAと共にQ以外の置換基の数が2以下である複素環を形成している、請求項3に記載の二酸化炭素固定材。
【請求項5】
前記アミンは、下記の一般式(2A)で表され、
【化2】
式中、
は、水素原子であるか、アルキル基であるか、又は、RとAとの間の窒素原子及びAと共に複素環を形成しており、
Aは、単結合であるか、又は、少なくとも1つの炭素原子を含んだ連結基であり、
は、水素原子であるか、アルキル基であるか、又は、RとAとの間の窒素原子及びAと共に、若しくは、RとAとの間の窒素原子、A、RとAとの間の窒素原子、及びRと共に複素環を形成している、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の二酸化炭素固定材。
【請求項6】
は、水素原子であるか、又は、RとAとの間の窒素原子及びAと共にNHRを含む基以外の置換基の数が2以下である複素環を形成しているか、若しくは、RとAとの間の窒素原子、A、RとAとの間の窒素原子、及びRと共に置換基の数が2以下である複素環を形成している、請求項5に記載の二酸化炭素固定材。
【請求項7】
前記金属イオン供与体は、亜鉛イオン、銅イオン、ジルコニウムイオン、マグネシウムイオン、鉄イオン、コバルトイオン、クロムイオン、及びアルミニウムイオンからなる群より選択される少なくとも1つの金属イオンを供与するように構成されている、請求項1乃至6の何れか1項に記載の二酸化炭素固定材。
【請求項8】
前記配位高分子中の二酸化炭素含有量は20質量%以上である、請求項1乃至7の何れか1項に記載の二酸化炭素固定材。
【請求項9】
前記配位高分子は、77Kにおける窒素吸着等温線から計算されるBET比表面積が10m/g以上であるか、又は、195K及び1atmにおける二酸化炭素吸着量が15cm(STP)/g以上の多孔性配位高分子である、請求項1乃至8の何れか1項に記載の二酸化炭素固定材。
【請求項10】
前記配位高分子の形成が、大気圧及び常温条件、又は、それより穏やかな条件の下で行われるように構成されている、請求項1乃至9の何れか1項に記載の二酸化炭素固定材。
【請求項11】
金属イオン供与体と、気体状態の二酸化炭素と反応して少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を有する架橋配位子を形成するように構成されたアミンと、を含んだ配合物を準備する工程と、
前記配合物に二酸化炭素を含んだガスを供給することにより、複数の前記金属イオンが前記架橋配位子によって連結された配位高分子を製造する工程と、
を含んだ二酸化炭素の固定方法。
【請求項12】
アミンに二酸化炭素を含んだガスを供給して少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を有する架橋配位子を形成する工程と、
前記架橋配位子を金属イオン供与体と反応させることにより、複数の前記金属イオンが前記架橋配位子によって連結された配位高分子を製造する工程と、
を含んだ二酸化炭素の固定方法。
【請求項13】
前記配位高分子の製造は、大気圧及び常温条件、又は、それより穏やかな条件の下で行われる、請求項11又は12に記載の二酸化炭素の固定方法。
【請求項14】
前記二酸化炭素を含んだガスは、空気である、請求項11乃至13の何れか1項に記載の二酸化炭素の固定方法。
【請求項15】
複数の金属イオンと、
各々が少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を有する複数の架橋配位子と、
を含み、
前記複数の金属イオンの少なくとも一部は前記カルバメートアニオン部位によって配位され、それにより、前記複数の金属イオンと前記複数の架橋配位子とが互いに連結されて多孔性骨格を形成しており、
77Kにおける窒素吸着等温線から計算されるBET比表面積が10m/g以上であるか、又は、195K及び1atmにおける二酸化炭素吸着量が15cm(STP)/g以上である、
多孔性配位高分子。
【請求項16】
前記架橋配位子は、2つ以上のカルバメートアニオン部位を有している、請求項15に記載の多孔性配位高分子。
【請求項17】
前記架橋配位子は、下記の一般式(1B)で表され、
【化3】
式中、
は、水素原子であるか、アルキル基であるか、又は、RとAとの間の窒素原子及びAと共に複素環を形成しており、
Aは、単結合であるか、又は、少なくとも1つの炭素原子を含んだ連結基であり、
は、前記金属イオンに配位可能なアニオン部位である、
請求項15又は16に記載の多孔性配位高分子。
【請求項18】
前記架橋配位子は、下記の一般式(2B)で表され、
【化4】
式中、
は、水素原子であるか、アルキル基であるか、又は、RとAとの間の窒素原子及びAと共に複素環を形成しており、
Aは、単結合であるか、又は、少なくとも1つの炭素原子を含んだ連結基であり、
は、水素原子であるか、アルキル基であるか、又は、RとAとの間の窒素原子及びAと共に、若しくは、RとAとの間の窒素原子、A、RとAとの間の窒素原子、及びRと共に複素環を形成している、
請求項15乃至17の何れか1項に記載の多孔性配位高分子。
【請求項19】
金属イオン供与体と、気体状態の二酸化炭素と反応して少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を有する架橋配位子を形成するように構成されたアミンと、を含んだ配合物を準備する工程と、
前記配合物に二酸化炭素を含んだガスを供給する工程と、
を含んだ多孔性配位高分子の製造方法。
【請求項20】
アミンに二酸化炭素を含んだガスを供給して少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を有する架橋配位子を形成する工程と、
前記架橋配位子を金属イオン供与体と反応させる工程と、
を含んだ多孔性配位高分子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二酸化炭素を固定するための材料及び方法に関する。また、本開示は、多孔性配位高分子(Porous Coordination Polymer; PCP)及びその製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境における温室効果ガスの低減が求められている。それを実現するための1つのアプローチとして、空気などの気体から二酸化炭素を固定するための方法が広く研究されている。
【0003】
二酸化炭素を気体から回収する方法としては、アミン水溶液を用いた手法が既に実用化されている。また、固体に担持されたアミンを用いる手法についても、研究が進められている(非特許文献1)。
【0004】
他方、ガス貯蔵及びガス分離などの分野で、金属有機構造体(Metal-Organic Frameworks; MOF)と呼ばれる物質群が注目を集めている。金属有機構造体の多くは、多孔性を有しており、その細孔中に、二酸化炭素を吸着することができる。そのため、そのような金属有機構造体を二酸化炭素の固定及び貯蔵に用いることも検討されている。
【0005】
更に、近年では、金属有機構造体にジアミンを結合させた化合物(diamine-appended metal-organic frameworks)も報告されている(非特許文献2)。この化合物に二酸化炭素を導入すると、金属原子とアミンとの間に二酸化炭素が化学的に挿入される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Christopher W. Jones et al. “Direct Capture of CO2 from Ambient Air” Chem. Rev. 2016, 116, 19, 11840-11876
【非特許文献2】Thomas M. McDonald et al. “Cooperative insertion of CO2 in diamine-appended metal-organic frameworks” Nature, 2015, vol. 519, 303-308
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これに対し、本発明者らは、新たなコンセプトによる二酸化炭素の固定を実現すべく、鋭意検討を行った。本発明の目的は、二酸化炭素を穏やかな条件下で且つ高い効率で固定するための新たな手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様は、例えば、以下の通りである。
[1]金属イオン供与体と、架橋配位子前駆体としてのアミンとを含み、前記アミンは、気体状態の二酸化炭素と反応して、少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を有する架橋配位子を形成するように構成されており、前記架橋配位子は、前記金属イオン供与体と反応して、複数の前記金属イオンが前記架橋配位子によって連結された配位高分子を形成するように構成されている、二酸化炭素固定材。
[2]前記アミンは2つ以上の第1級アミン基又は第2級アミン基を有しており、気体状態の二酸化炭素と反応して2つ以上のカルバメートアニオン部位を有する架橋配位子を形成するように構成されている、[1]に記載の二酸化炭素固定材。
[3]前記アミンは、下記の一般式(1A)で表され、
【化1】
式中、Rは、水素原子であるか、アルキル基であるか、又は、RとAとの間の窒素原子及びAと共に複素環を形成しており、Aは、単結合であるか、又は、少なくとも1つの炭素原子を含んだ連結基であり、Qは、前記金属イオンに配位可能なアニオン部位を形成するように構成された基である、[1]又は[2]に記載の二酸化炭素固定材。
[4]Rは、水素原子であるか、又は、RとAとの間の窒素原子及びAと共にQ以外の置換基の数が2以下である複素環を形成している、[3]に記載の二酸化炭素固定材。
[5]前記アミンは、下記の一般式(2A)で表され、
【化2】
式中、Rは、水素原子であるか、アルキル基であるか、又は、RとAとの間の窒素原子及びAと共に複素環を形成しており、Aは、単結合であるか、又は、少なくとも1つの炭素原子を含んだ連結基であり、Rは、水素原子であるか、アルキル基であるか、又は、RとAとの間の窒素原子及びAと共に、若しくは、RとAとの間の窒素原子、A、RとAとの間の窒素原子、及びRと共に複素環を形成している、[1]~[4]の何れかに記載の二酸化炭素固定材。
[6]Rは、水素原子であるか、又は、RとAとの間の窒素原子及びAと共にNHRを含む基以外の置換基の数が2以下である複素環を形成しているか、若しくは、RとAとの間の窒素原子、A、RとAとの間の窒素原子、及びRと共に置換基の数が2以下である複素環を形成している、[5]に記載の二酸化炭素固定材。
[7]前記金属イオン供与体は、亜鉛イオン、銅イオン、ジルコニウムイオン、マグネシウムイオン、鉄イオン、コバルトイオン、クロムイオン、及びアルミニウムイオンからなる群より選択される少なくとも1つの金属イオンを供与するように構成されている、[1]~[6]の何れかに記載の二酸化炭素固定材。
[8]前記配位高分子中の二酸化炭素含有量は20質量%以上である、[1]~[7]の何れかに記載の二酸化炭素固定材。
[9]前記配位高分子は、77Kにおける窒素吸着等温線から計算されるBET比表面積が10m/g以上であるか、又は、195K及び1atmにおける二酸化炭素吸着量が15cm(STP)/g以上の多孔性配位高分子である、[1]~[8]の何れかに記載の二酸化炭素固定材。
[10]前記配位高分子の形成が、大気圧及び常温条件、又は、それより穏やかな条件の下で行われるように構成されている、[1]~[9]の何れかに記載の二酸化炭素固定材。
[11]金属イオン供与体と、気体状態の二酸化炭素と反応して少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を有する架橋配位子を形成するように構成されたアミンと、を含んだ配合物を準備する工程と、前記配合物に二酸化炭素を含んだガスを供給することにより、複数の前記金属イオンが前記架橋配位子によって連結された配位高分子を製造する工程と、を含んだ二酸化炭素の固定方法。
[12]アミンに二酸化炭素を含んだガスを供給して少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を有する架橋配位子を形成する工程と、前記架橋配位子を金属イオン供与体と反応させることにより、複数の前記金属イオンが前記架橋配位子によって連結された配位高分子を製造する工程と、を含んだ二酸化炭素の固定方法。
[13]前記配位高分子の製造は、大気圧及び常温条件、又は、それより穏やかな条件の下で行われる、[11]又は[12]に記載の二酸化炭素の固定方法。
[14]前記二酸化炭素を含んだガスは、空気である、[11]~[13]の何れかに記載の二酸化炭素の固定方法。
[15]複数の金属イオンと、各々が少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を有する複数の架橋配位子と、を含み、前記複数の金属イオンの少なくとも一部は前記カルバメートアニオン部位によって配位され、それにより、前記複数の金属イオンと前記複数の架橋配位子とが互いに連結されて多孔性骨格を形成しており、77Kにおける窒素吸着等温線から計算されるBET比表面積が10m/g以上であるか、又は、195K及び1atmにおける二酸化炭素吸着量が15cm(STP)/g以上である、多孔性配位高分子。
[16]前記架橋配位子は、2つ以上のカルバメートアニオン部位を有している、[15]に記載の多孔性配位高分子。
[17]前記架橋配位子は、下記の一般式(1B)で表され、
【化3】
式中、Rは、水素原子であるか、アルキル基であるか、又は、RとAとの間の窒素原子及びAと共に複素環を形成しており、Aは、単結合であるか、又は、少なくとも1つの炭素原子を含んだ連結基であり、Qは、前記金属イオンに配位可能なアニオン部位である、[15]又は[16]に記載の多孔性配位高分子。
[18]前記架橋配位子は、下記の一般式(2B)で表され、
【化4】
式中、Rは、水素原子であるか、アルキル基であるか、又は、RとAとの間の窒素原子及びAと共に複素環を形成しており、Aは、単結合であるか、又は、少なくとも1つの炭素原子を含んだ連結基であり、Rは、水素原子であるか、アルキル基であるか、又は、RとAとの間の窒素原子及びAと共に、若しくは、RとAとの間の窒素原子、A、RとAとの間の窒素原子、及びRと共に複素環を形成している、[15]~[17]の何れかに記載の多孔性配位高分子。
[19]金属イオン供与体と、気体状態の二酸化炭素と反応して少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を有する架橋配位子を形成するように構成されたアミンと、を含んだ配合物を準備する工程と、前記配合物に二酸化炭素を含んだガスを供給する工程と、を含んだ多孔性配位高分子の製造方法。
[20]アミンに二酸化炭素を含んだガスを供給して少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を有する架橋配位子を形成する工程と、前記架橋配位子を金属イオン供与体と反応させる工程と、を含んだ多孔性配位高分子の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、二酸化炭素を穏やかな条件下で且つ高い効率で固定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、化合物1乃至4及びMOF-5のPXRDパターンを示している。
図2図2は、化合物1、1A、1B及び1CのPXRDパターンを示している。
図3図3は、化合物1の1D 13C CP-MAS SSNMRスペクトルを示している。
図4図4は、化合物1の2D H-13C HETCOR SSNMRスペクトルを示している。
図5図5は、化合物1及びZn-SBUのZn K-edge XANESスペクトルを示している。
図6図6は、化合物1のZn K-edge EXAFSスペクトルを示している。
図7図7は、化合物1乃至4のFT-IRスペクトルを示している。
図8図8は、化合物1のRietveld解析の結果を示している。
図9A図9Aは、化合物1の充填構造を示している。
図9B図9Bは、化合物2の充填構造を示している。
図9C図9Cは、化合物3の充填構造を示している。
図9D図9Dは、化合物4の充填構造を示している。
図10図10は、化合物1乃至4の最初のBraggピークの解析結果を示している。
図11図11は、化合物1及び2の空気中におけるPXRDパターンの変化を示している。
図12A図12Aは、化合物1のSEM画像を示している。
図12B図12Bは、化合物2のSEM画像を示している。
図12C図12Cは、化合物3のSEM画像を示している。
図12D図12Dは、化合物4のSEM画像を示している。
図13図13は、化合物2LのPXRDパターンを示している。
図14図14は、化合物1DのPXRDパターンを示している。
図15図15は、Ar雰囲気下における、化合物1乃至4のTGAプロファイルを示している。
図16図16は、化合物1乃至4の77Kにおける窒素吸着等温線を示している。
図17図17は、化合物1乃至4の細孔サイズ分布を示している。
図18図18は、化合物1乃至4の77Kにおける水素吸着等温線及び水素吸着量に対する等量吸着熱曲線を示している。
図19図19は、化合物1乃至4の195Kにおける二酸化炭素吸着等温線を示している。
図20図20は、化合物3の298Kにおける高圧二酸化炭素吸着等温線を示している。
図21図21は、化合物1、1A、1B、及び1Cの77Kにおける窒素吸着等温線を示している。
図22図22は、化合物2Lの77Kにおける窒素吸着等温線を示している。
図23図23は、化合物5のPXRDパターンを示している。
図24図24は、化合物5の77Kにおける窒素吸着等温線及び195Kにおける二酸化炭素吸着等温線を示している。
図25図25は、化合物5のTGA-DTAプロファイルを示している。
図26図26は、化合物5の溶液NMRスペクトルを示している。
図27図27は、化合物6及び6′及びUiO-66のPXRDパターンを示している。
図28図28は、化合物6及び6′の77Kにおける窒素吸着等温線を示している。
図29図29は、化合物6及び6′、化合物1、及びZr-SBUのFT-IRスペクトルを示している。
図30図30は、化合物6及び6′のTGAプロファイルを示している。
図31図31は、化合物6′及びZr-SBUのZr K-edge EXAFSスペクトルを示している。
図32図32は、化合物7M、7E、及び7iP、並びにCu-JAST-1のPXRDパターンを示している。
図33図33は、化合物7Eの195Kにおける二酸化炭素吸着等温線を示している。
図34図34は、化合物8のPXRDパターンを示している。
図35図35は、化合物8の195Kにおける二酸化炭素吸着等温線を示している。
図36図36は、化合物8のTGAプロファイルを示している。
図37図37は、化合物9のガス吸着前後のPXRDパターンを示している。
図38図38は、化合物9の77Kにおける窒素吸着等温線を示している。
図39図39は、化合物9の195Kにおける二酸化炭素吸着等温線を示している。
図40図40は、化合物9及びZn-SBUのFT-IRスペクトルを示している。
図41図41は、化合物9のTGA-DTAプロファイルを示している。
図42図42は、化合物10のPXRDパターンを示している。
図43図43は、化合物10、類似構造の配位高分子、及び化合物10PのPXRDパターンを示している。
図44図44は、化合物10及び化合物10PのFT-IRスペクトルを示している。
図45図45は、化合物10の77Kにおける窒素吸着等温線及び195Kにおける二酸化炭素吸着等温線を示している。
図46図46は、化合物11のPXRDパターンを示している。
図47図47は、化合物11の77Kにおける窒素吸着等温線を示している。
図48図48は、化合物11の195Kにおける二酸化炭素吸着等温線を示している。
図49図49は、化合物11のTGA-DTAプロファイルを示している。
図50図50は、化合物12及びMOF-177のPXRDパターンを示している。
図51図51は、化合物12及び化合物1のFT-IRスペクトルを示している。
図52図52は、化合物12のTGA-DTAプロファイルを示している。
図53図53は、化合物13のPXRDパターンを示している。
図54図54は、化合物14のPXRDパターンを示している。
図55図55は、化合物14の195Kにおける二酸化炭素吸着等温線を示している。
図56図56は、化合物14のFT-IRスペクトルを示している。
図57図57は、化合物14のTGA-DTAプロファイルを示している。
図58図58は、化合物15のPXRDパターンを示している。
図59図59は、化合物15の195Kにおける二酸化炭素吸着等温線を示している。
図60図60は、化合物15のTGA-DTAプロファイルを示している。
図61図61は、化合物16のPXRDパターンを示している。
図62図62は、化合物16の195Kにおける二酸化炭素吸着等温線を示している。
図63図63は、化合物16のTGA-DTAプロファイルを示している。
図64図64は、空気中及びAr雰囲気下における、化合物2及びPZ-COのTGAプロファイルを示している。
図65図65は、Ar雰囲気下における、化合物2及びPZ-COのTGA及びTPDプロファイルを示している。
図66図66は、化合物1及びMOF-5のモデル構造におけるZn-Oの距離に応じたポテンシャルエネルギーを示している。
図67図67は、ポテンシャルエネルギーの最大値及び最小値に対応する化合物1のモデル構造を示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一態様に係る二酸化炭素の固定材及び固定方法について説明する。また、併せて、本発明の一態様に係る多孔性配位高分子及びその製造方法についても説明する。なお、図面又は化学式を参照する場合、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号又は記号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
まず、本発明の一態様に係る二酸化炭素固定材について説明する。この二酸化炭素固定材は、金属イオン供与体と、架橋配位子前駆体としてのアミンとを含んでいる。
【0013】
このアミンは、気体状態の二酸化炭素と反応して、少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を有する架橋配位子を形成するように構成されている。そして、この架橋配位子は、金属イオン供与体と反応して、複数の金属イオンが架橋配位子によって連結された配位高分子を形成するように構成されている。
【0014】
即ち、本態様では、合成された配位高分子(又は金属有機構造体)を二酸化炭素固定材として用いるのではなく、以下で詳しく説明するように、特定の構造を有する配位高分子を合成するプロセス自体を二酸化炭素の固定に利用する。
【0015】
二酸化炭素固定材を構成する金属イオン供与体の種類は、上記の架橋配位子によって配位高分子を形成できるものであれば、特に制限はない。例えば、後述する配位高分子の設計原理に基づいて、適切な金属イオン供与体を選択することができる。
【0016】
金属イオン供与体を構成する金属元素としては、例えば、アルカリ金属(第1族)、アルカリ土類金属(第2族)、及び遷移金属(第3族~第12族)に属する任意の元素が挙げられる。金属元素は、例えば、亜鉛、銅、ジルコニウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、マンガン、及びアルミニウムからなる群より選択され、好ましくは、亜鉛、銅、ジルコニウム、マグネシウム、鉄、コバルト、クロム、及びアルミニウムからなる群より選択される。即ち、金属イオン供与体は、例えば、亜鉛イオン、銅イオン、ジルコニウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、鉄イオン、ニッケルイオン、コバルトイオン、クロムイオン、マンガンイオン、及びアルミニウムイオンからなる群より選択される金属イオンを供与するように構成されており、好ましくは、亜鉛イオン、銅イオン、ジルコニウムイオン、マグネシウムイオン、鉄イオン、コバルトイオン、クロムイオン、及びアルミニウムイオンからなる群より選択される金属イオンを供与するように構成されている。金属イオン供与体は、複数の金属元素を含んでいてもよい。或いは、互いに異なった金属元素を含んだ複数の金属イオン供与体を併用してもよい。
【0017】
金属イオン供与体としては、典型的には、金属塩が用いられる。金属イオン供与体は、有機塩であっても無機塩であってもよい。金属イオン供与体は、典型的には、水酸化塩、炭酸塩、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩及び塩化物塩からなる群より選択される。互いに同一の金属元素を含んだ複数の金属イオン供与体を併用してもよい。
【0018】
金属イオン供与体は、いわゆる二次構造単位(SBU: Secondary Building Unit)の形態であってもよい。このような二次構造単位としては、既知の金属有機構造体の合成に用いられる任意のものを選択することができる。代表的な二次構造単位の例としては、MILの合成に用いられる鉄3量体クラスタ、UiO-66の合成に用いられるジルコニウム6量体クラスタ、及び、MOF-5の合成に用いられる亜鉛4量体クラスタ又はコバルト4量体クラスタなどが挙げられる。
【0019】
二酸化炭素固定材を構成するアミンは、上述した通り、気体状態の二酸化炭素と反応して、少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を有する架橋配位子を形成するように構成されている。そして、この架橋配位子は、上述した金属イオン供与体と反応して、複数の金属イオンが架橋配位子によって連結された配位高分子を形成するように構成されている。なお、上記の反応によるカルバメートアニオン部位の形成は、任意の反応条件下で起こり得る必要はなく、対応する配位高分子を合成する際の特定の反応条件下で生じれば足りる。架橋配位子及び/又は配位高分子が熱力学的に安定であるほど、二酸化炭素の固定も熱力学的に生じやすい。
【0020】
上記アミンは、少なくとも1つの第1級アミン基(アミノ基)又は第2級アミン基を備えており、少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を有する架橋配位子を形成するように構成されている。いる。
【0021】
上記アミンは、好ましくは、2つ以上の第1級アミン基又は第2級アミン基を有しており、気体状態の二酸化炭素と反応して2つ以上のカルバメートアニオン部位を有する架橋配位子を形成するように構成されている。この場合、例えば、複数の金属イオンがこれら2つ以上のカルバメートアニオン部位を介して連結された配位高分子が得られる。
【0022】
上記アミンが1つの第1級アミン基又は第2級アミン基のみを有している場合、このアミンは、架橋配位子前駆体として機能するために、他に少なくとも1つの配位可能部位を有している必要がある。このような第1級アミン基又は第2級アミン基以外の配位可能部位としては、例えば、カルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホ基、リン酸基、及び、複素環部位などが挙げられる。これらのうち、カルボキシル基が特に好ましい。即ち、上記アミンが1つの第1級アミン基又は第2級アミン基のみを有している場合、このアミンは、アミノ酸であることが好ましい。
【0023】
上記アミンは、例えば、下記一般式(1A)によって表される化合物である。
【化5】
【0024】
この化合物(1A)は、下記のスキームに示すように、特定の条件下、気体状態の二酸化炭素と反応して、下記一般式(1B)によって表される化合物を形成するように構成されている。
【化6】
【0025】
式(1A)及び(1B)中、
は、水素原子であるか、アルキル基であるか、又は、RとAとの間の窒素原子及びAと共に複素環を形成しており、
Aは、単結合であるか、又は、少なくとも1つの炭素原子を含んだ連結基であり、
Qは、金属イオンに配位可能なアニオン部位を形成するように構成された基であり、
は、金属イオンに配位可能なアニオン部位である。
【0026】
この化合物(1B)は、少なくとも、図示されているカルバメートアニオン部位と、Qから形成されるアニオン部位とを介して、複数の金属イオンを架橋する架橋配位子として機能することができる。即ち、この化合物(1B)は、特定の反応条件下において金属イオン供与体と反応し、複数の金属イオンが化合物(1B)によって連結された配位高分子を形成するように構成されている。この架橋配位子及び/又は配位高分子が熱力学的に安定であるほど、二酸化炭素の固定も熱力学的に生じやすい。
【0027】
化合物(1A)及び(1B)において、Rがアルキル基である場合、当該アルキル基は、炭素数が4以下であることが好ましく、炭素数が3以下であることがより好ましい。このようなアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、及びt-ブチル基が挙げられる。このように、Rが炭素数の比較的少ないアルキル基である場合、化合物(1A)の窒素原子の周囲の立体障害が比較的少なくなるため、化合物(1A)の窒素原子による二酸化炭素への求核反応が阻害されにくい。即ち、このような場合、化合物(1B)が比較的形成されやすい。
【0028】
化合物(1A)及び(1B)において、Rが、RとAとの間の窒素原子及びAと共に複素環を形成している場合、この複素環は、例えば5員環又は6員環であり、好ましくは6員環である。このような複素環の好ましい例としては、ピペリジン構造及びピロリジン構造が挙げられる。この複素環は、RとAとの間の窒素原子以外のヘテロ原子を更に含んでいてもよい。また、この複素環は、Q以外の置換基を備えていてもよい。但し、この場合、Q以外の置換基の数が2以下であることが好ましい。このような場合、化合物(1A)の窒素原子の周囲の立体障害が比較的少なくなるため、化合物(1A)の窒素原子による二酸化炭素への求核反応が阻害されにくい。即ち、このような場合、化合物(1B)が比較的形成されやすい。また、このような場合、架橋配位子としての化合物(1B)が嵩高くなりにくいため、形成される配位高分子が多孔性である場合において、配位高分子へのゲスト分子の吸着が阻害されにくい。
【0029】
上記の複素環がQ以外の置換基を備えている場合、その置換基は、特に限定されないが、電子供与性基であることが好ましい。この場合、電子供与性基の存在により、化合物(1A)の窒素原子の求核性が向上し、化合物(1A)の二酸化炭素との反応が促進され得る。即ち、このような場合、化合物(1B)が比較的形成されやすくなる。このような電子供与性基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、第1級アミン基(アミノ基)、第2級又は第3級アミン基、エステル基、及びアミド基などが挙げられる。置換基がアルキル基、アルコキシ基、第2級又は第3級アミン基、エステル基、又はアミド基である場合、その置換基の炭素数は、3以下であることが好ましい。このような場合、化合物(1A)の窒素原子の周囲の立体障害が比較的少なくなるため、化合物(1A)の窒素原子による二酸化炭素への求核反応が阻害されにくい。即ち、このような場合、化合物(1B)が比較的形成されやすい。また、このような場合、架橋配位子としての化合物(1B)が嵩高くなりにくいため、形成される配位高分子が多孔性である場合において、配位高分子へのゲスト分子の吸着が阻害されにくい。
【0030】
また、上記の複素環がQ以外の置換基を備えている場合、その置換基は、疎水性基であることが好ましい。この場合、疎水性基の存在により、得られる配位高分子の水又は湿気に対する安定性を向上させることができる。即ち、この場合、二酸化炭素固定材を湿度が高い条件で使用しやすくなる。このような疎水性基としては、例えば、アルキル基が挙げられる。
【0031】
更に、上記の複素環がQ以外の置換基を備えている場合、その置換基は、二酸化炭素の固定によって得られる配位高分子へのガス吸着を促進するような置換基であってもよい。このような置換基としては、例えば、第1級アミン基(アミノ基)、第2級又は第3級アミン基、及びパーフルオロ基が挙げられる。
【0032】
化合物(1A)及び(1B)において、Rは、好ましくは、水素原子であるか、炭素数3以下のアルキル基であるか、又は、RとAとの間の窒素原子及びAと共にQ以外の置換基の数が2以下である複素環を形成しており、より好ましくは、水素原子であるか、又は、RとAとの間の窒素原子及びAと共にQ以外の置換基の数が2以下である複素環を形成している。このような場合、先に説明した通り、化合物(1A)の窒素原子の周囲の立体障害が比較的少なくなるため、化合物(1A)の二酸化炭素への求核反応が阻害されにくい。即ち、このような場合、化合物(1B)が比較的形成されやすい。また、このような場合、架橋配位子としての化合物(1B)が嵩高くなりにくいため、形成される配位高分子が多孔性である場合において、ゲスト分子の吸着が阻害されにくい。
【0033】
化合物(1A)及び(1B)において、Aが少なくとも1つの炭素原子を含んだ連結基である場合、当該連結基は、例えば2価又は3価の連結基であり、好ましくは2価の連結基である。上記連結基としては、例えば、アルキレン基、アルケニレン基、及び芳香族基などが挙げられる。これらの連結基は、分子鎖中に、エーテル結合、エステル結合、及びアミド結合などを含んでいてもよい。また、これらの連結基は、側鎖としての置換基を有していてもよい。上記連結基は、金属イオン供与体と架橋配位子との反応性、得られる配位高分子の物性などの観点から、適宜選択することができる。
【0034】
連結基としてのAが側鎖としての置換基を有している場合、そのような置換基の例としては、先に複素環が備えていてもよい置換基について説明したのと同様のものが挙げられる。なお、Aが少なくとも1つの炭素原子を含んだ連結基である場合において、この連結基が側鎖としての置換基を有している場合、この置換基は、RとAとの間の窒素原子に隣接していない原子に結合していることが好ましい。この場合、化合物(1A)の窒素原子の周囲の立体障害が比較的少なくなるため、化合物(1A)の二酸化炭素への求核反応が阻害されにくい。即ち、このような場合、化合物(1B)が比較的形成されやすい。
【0035】
また、上記の置換基の少なくとも1つは、Qと同様の性質を有していてもよい。即ち、これらの置換基の少なくとも1つは、金属イオンに配位可能なアニオン部位を形成するように構成された基であってもよい。このアニオン部位は、カルバメートアニオン部位であってもよく、Qが形成するのと同じアニオン部位であってもよく、Qが形成するのとは異なったアニオン部位であってもよい。
【0036】
連結基としてのAは、隣接する窒素原子と共役しないことが好ましく、アルキレン基であることがより好ましい。連結基としてのAがアルキレン基である場合、この連結基は、C1~C4のアルキレン基であることが好ましい。即ち、Aは、上述した置換基を有していてもよいメチレン基、エチレン基、プロピレン基、又はブチレン基であることが好ましい。このような場合、架橋配位子の形成及び金属イオン供与体と架橋配位子との反応が比較的起こりやすく、得られる配位高分子の安定性も比較的高い。連結基としてのAがアルキレン基である例については、後で更に詳しく説明する。
【0037】
化合物(1A)及び(1B)において、Aは、RとAとの間の窒素原子及びRと共に複素環を形成しているか、又は、アルキレン基であることが特に好ましい。好ましい複素環及びアルキレン基の例は、先に述べた通りである。
【0038】
化合物(1A)において、Qは、金属イオンに配位可能なアニオン部位を形成するように構成された基であり、化学式(1B)において、Qは、金属イオンに配位可能なアニオン部位である。Qとしては、例えば、第1級アミン基(アミノ基)、第2級又は第3級アミン基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホ基、リン酸基、及び、複素環部位が挙げられる。Qは、第1級アミン基若しくは第2級アミン基であるか、又は、カルボキシル基であることが特に好ましい。Qが第1級アミン基又は第2級アミンである場合、Qは、気体状態の二酸化炭素と反応して、少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を形成するように構成されていてもよい。
【0039】
上記アミンは、好ましくは、下記一般式(2A)によって表される化合物である。
【化7】
【0040】
この化合物(2A)は、下記のスキームに示すように、特定の条件下、気体状態の二酸化炭素と反応して、下記一般式(2B)によって表される化合物を形成するように構成されている。
【化8】
【0041】
式(2A)及び(2B)中、
は、水素原子であるか、アルキル基であるか、又は、RとAとの間の窒素原子及びAと共に複素環を形成しており、
Aは、単結合であるか、又は、少なくとも1つの炭素原子を含んだ連結基であり、
は、水素原子であるか、アルキル基であるか、又は、RとAとの間の窒素原子及びAと共に、若しくは、RとAとの間の窒素原子、A、RとAとの間の窒素原子、及びRと共に複素環を形成している。
【0042】
化合物(2A)及び(2B)は、それぞれ、化合物(1A)及び(1B)において、Qが-NHRである場合に相当している。化合物(2B)は、少なくとも図示されている2つのカルバメートアニオン部位を介して、複数の金属イオンを架橋する架橋配位子として機能することができる。即ち、この化合物(2B)は、特定の反応条件下において金属イオン供与体と反応し、複数の金属イオンが化合物(2B)によって連結された配位高分子を形成するように構成されている。この架橋配位子及び/又は配位高分子が熱力学的に安定であるほど、二酸化炭素の固定も熱力学的に生じやすい。
【0043】
式(2A)及び(2B)中、R及びAについては、式(1A)及び(1B)に関して説明したのと同様である。なお、Aが少なくとも1つの炭素原子を含んだ連結基である場合において、この連結基が側鎖としての置換基を有している場合、この置換基は、RとAとの間の窒素原子に隣接していない原子に結合していることが好ましい。この場合、化合物(2A)の窒素原子の周囲の立体障害が比較的少なくなるため、化合物(2A)の二酸化炭素への求核反応が阻害されにくい。即ち、このような場合、化合物(2B)が比較的形成されやすい。
【0044】
式(2A)及び(2B)中、Rは、典型的には、Rと同一の構造を有している。この場合、化合物(2B)の対称性が向上するため、得られる配位高分子の結晶性が高くなりやすい。
【0045】
式(2A)及び(2B)中、Rが、アルキル基であるか、又は、RとAとの間の窒素原子及びAと共に複素環を形成している場合、これらのアルキル基及び複素環の例としては、先にRについて説明したのと同様のものが挙げられる。
【0046】
式(2A)及び(2B)中、Rが、RとAとの間の窒素原子、A、RとAとの間の窒素原子、及びRと共に複素環を形成している場合、この複素環は、例えば5員環又は6員環であり、好ましくは6員環である。このような複素環の特に好ましい例としては、ピペラジン構造が挙げられる。この複素環は、上記の2つの窒素原子以外のヘテロ原子を更に含んでいてもよい。また、この複素環は、置換基を備えていてもよい。但し、この場合、置換基の数は、2以下であることが好ましい。このような場合、化合物(2A)の窒素原子の周囲の立体障害が比較的少なくなるため、化合物(2A)の窒素原子による二酸化炭素への求核反応が阻害されにくい。即ち、このような場合、化合物(2B)が比較的形成されやすい。また、このような場合、架橋配位子としての化合物(2B)が嵩高くなりにくいため、形成される配位高分子が多孔性である場合において、配位高分子へのゲスト分子の吸着が阻害されにくい。
【0047】
化合物(2A)及び(2B)において、Rは、好ましくは、水素原子であるか、炭素数3以下のアルキル基であるか、RとAとの間の窒素原子及びAと共にNHRを含む基以外の置換基の数が2以下である複素環を形成しているか、又は、RとAとの間の窒素原子、A、RとAとの間の窒素原子、及びRと共に置換基の数が2以下である複素環を形成している。Rは、より好ましくは、水素原子であるか、又は、RとAとの間の窒素原子及びAと共にNHRを含む基以外の置換基の数が2以下である複素環を形成しているか、若しくは、RとAとの間の窒素原子、A、RとAとの間の窒素原子、及びRと共に置換基の数が2以下である複素環を形成している。このような場合、先に説明した通り、化合物(2A)の窒素原子の周囲の立体障害が比較的少なくなるため、化合物(2A)の窒素原子による二酸化炭素への求核反応が阻害されにくい。即ち、このような場合、化合物(2B)が比較的形成されやすい。また、このような場合、架橋配位子としての化合物(2B)が嵩高くなりにくいため、形成される配位高分子が多孔性である場合において、配位高分子へのゲスト分子の吸着が阻害されにくい。
【0048】
上述した通り、上記アミンの好ましい態様として、ピペリジン又はピペラジン構造を有するものが挙げられる。即ち、上記アミンの好ましい例として、ピペリジン誘導体、又は、ピペラジン若しくはその誘導体を挙げることができる。
【0049】
上記アミンは、例えば、下記一般式(3A)によって表される化合物である。
【化9】
【0050】
この化合物(3A)は、下記のスキームに示すように、特定の条件下、気体状態の二酸化炭素と反応して、下記一般式(3B)によって表される化合物を形成するように構成されている。
【化10】
【0051】
式(3A)及び(3B)中、
Xは、炭素原子又は窒素原子であり、
Aは、単結合であるか、又は、少なくとも1つの炭素原子を含んだ連結基であり、
Qは、金属イオンに配位可能なアニオン部位を形成するように構成された基であり、
は、金属イオンに配位可能なアニオン部位であり、
乃至Rは、各々独立に、水素原子であるか、又は、任意の置換基であり、RとRとは互いに結合して環を形成していてもよく、RとRとは互いに結合して環を形成していてもよい。
【0052】
化合物(3A)及び(3B)において、Xは、炭素原子又は窒素原子である。即ち、化合物(3A)及び(3B)は、少なくとも1つの窒素を含んだ6員環を備えている。より具体的には、化合物(3A)及び(3B)は、少なくとも1つのピペリジン又はピペラジン構造を有している。このような構成を採用すると、比較的安定な配位高分子を得ることができる。即ち、このような構成を採用すると、配位高分子の合成による二酸化炭素の固定が熱力学的に生じやすくなる。
【0053】
化合物(3A)及び(3B)において、A及びQの例については、先に化合物(1A)及び(1B)について説明したものと同様である。先に説明した通り、Qは、気体状態の二酸化炭素と反応して、少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を形成するように構成されていてもよい。特に、Qは、式(3A)及び(3B)中に示されているのと同様のピペリジン又はピペラジン構造を有していてもよい。
【0054】
化合物(3A)及び(3B)において、R乃至Rは、各々独立に、水素原子であるか、又は、任意の置換基である。このような置換基としては、電子供与性基を用いることが好ましい。この場合、電子供与性基の存在により、化合物(3A)の窒素原子の求核性が向上し、化合物(3A)の二酸化炭素との反応が促進され得る。即ち、このような場合、化合物(3B)が比較的形成されやすくなる。このような電子供与性基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、第1級アミン基(アミノ基)、第2級又は第3級アミン基、エステル基、及びアミド基などが挙げられる。置換基がアルキル基、アルコキシ基、第2級又は第3級アミン基、エステル基、又はアミド基である場合、その置換基の炭素数は、3以下であることが好ましい。このような場合、化合物(3A)の窒素原子の周囲の立体障害が比較的少なくなるため、化合物(3A)の窒素原子による二酸化炭素への求核反応が阻害されにくい。即ち、このような場合、化合物(3B)が比較的形成されやすい。また、このような場合、架橋配位子としての化合物(3B)が嵩高くなりにくいため、形成される配位高分子が多孔性である場合において、配位高分子へのゲスト分子の吸着が阻害されにくい。
【0055】
化合物(3A)及び(3B)において、R乃至Rは、それらのうち2つ以上が水素原子であることが好ましい。即ち、R乃至Rは、全てが水素原子であるか、又は、R乃至Rのうちの1つ又は2つのみが置換基であることが好ましい。特に、窒素原子に隣接する炭素原子に結合しているR及びRのうち少なくとも一方は、水素原子であることが好ましい。このような場合、化合物(3A)の窒素原子の周囲の立体障害が比較的少なくなるため、化合物(3A)の窒素原子による二酸化炭素への求核反応が阻害されにくい。即ち、このような場合、化合物(3B)が比較的形成されやすい。
【0056】
とRとが互いに結合して環を形成しているか、及び/又は、RとRとが互いに結合して環を形成している場合、これらの環は、例えば5又は6員環であり、好ましくは6員環である。なお、このような環が形成されている場合、R乃至Rのうちの置換基の数は、1つの環につき2つと数えるものとする。
【0057】
上記アミンは、例えば、下記一般式(4A)によって表される化合物である。
【化11】
【0058】
この化合物(4A)は、下記のスキームに示すように、特定の条件下、気体状態の二酸化炭素と反応して、下記一般式(4B)によって表される化合物を形成するように構成されている。
【化12】
【0059】
式(4A)及び(4B)中、
乃至Rは、各々独立に、水素原子であるか、又は、任意の置換基であり、RとRとは互いに結合して環を形成していてもよく、RとRとは互いに結合して環を形成していてもよい。
【0060】
化学式から明らかなように、化合物(4A)及び(4B)は、少なくとも1つのピペラジン構造を有している。即ち、化合物(4A)は、ピペラジン又はその誘導体である。このような構成を採用すると、特に安定な配位高分子を得ることができる。即ち、このような構成を採用すると、配位高分子の合成による二酸化炭素の固定が熱力学的に生じやすくなる。
【0061】
化合物(4A)及び(4B)において、R乃至Rの例としては、先に化合物(3A)及び(3B)について説明したのと同様のものが挙げられる。上述したのと同様の理由により、窒素原子に隣接する炭素原子に結合しているR及びRのうち少なくとも一方は、水素原子であることが好ましい。
【0062】
先に化合物(1A)及び(2A)について説明した通り、上記アミンにおいては、連結基としてのAがアルキレン基である構成も好ましい。この場合、アミンの化学的特性のみならず、アミンが比較的安価に入手可能である点も有利である。
【0063】
上記アミンは、例えば、下記一般式(5A)によって表される化合物である。
【化13】
【0064】
この化合物(5A)は、下記のスキームに示すように、特定の条件下、気体状態の二酸化炭素と反応して、下記一般式(5B)によって表される化合物を形成するように構成されている。
【化14】
【0065】
式(5A)及び(5B)中、
は、水素原子であるか、又は、アルキル基であり
は、水素原子であるか、又は、アルキル基であり、
nは、0又は自然数である。
【0066】
化合物(5A)及び(5B)において、R及びRの例としては、先に化合物(2A)及び(2B)について説明したのと同様のものが挙げられる。R及びRは、共に水素原子であることが好ましい。
【0067】
化合物(5A)及び(5B)において、nは、0又は自然数であり、好ましくは自然数であり、より好ましくは1~4の自然数である。即ち、化合物(5A)は、アルキレン基を備えていることが好ましく、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、又はブチレン基を備えていることがより好ましい。
【0068】
上記アミンの具体例としては、以下の化合物が挙げられる。これらはあくまで例示であり、これら以外の化合物の使用を排除するものではない。
【0069】
【化15】
【0070】
【化16】
【0071】
【化17】
【0072】
なお、二酸化炭素固定材は、複数の種類のアミンを含んでいてもよい。その場合、複数のアミンの少なくとも1つが、気体状態の二酸化炭素と反応して少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を有する架橋配位子を形成するように構成されていればよい。即ち、二酸化炭素固定材は、2種類以上の架橋配位子前駆体としてのアミンを含んでいてもよく、架橋配位子前駆体として機能しないアミンを更に含んでいてもよい。
【0073】
ここで、本発明の一態様に係る二酸化炭素固定材においては、上述した通り、カルバメートアニオンを用いた配位高分子の合成プロセスを利用している。上述した金属イオン供与体及び架橋配位子前駆体としてのアミンの組合せは、以下の条件が満たされている限りにおいて、任意である。
【0074】
(条件1)アミンが、気体状態の二酸化炭素と反応して、少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を有する架橋配位子(以下、カルバメート配位子ともいう)を形成するように構成されていること。
(条件2)上記カルバメート配位子が、金属イオン供与体と反応して、複数の金属イオンが架橋配位子によって連結された配位高分子を形成するように構成されていること。
【0075】
このような条件を満たす金属イオン供与体及びアミンとしては、様々な組合せが考えられ、その全てが本発明の思想の範囲内である。具体的な組合せの選定にあたっては、例えば、以下のような設計原理を採用することができる。
【0076】
この例示的な設計原理では、まず、モチーフとなる既存の金属有機構造体を選定する。次に、その金属有機構造体の合成に用いられる配位子と構造が類似したアミンを設計する。そして、同様の合成をアミン及び二酸化炭素の存在下で行うことにより、類似の構造を有する配位高分子を合成する。具体的な例としては、以下の表1に示すような組合せが挙げられる。
【0077】
【表1】
【0078】
なお、上記の表1に示したものはあくまで例であり、これら以外の既存の金属有機構造体をモチーフとしてもよい。また、上記の設計原理における類似構造のアミン又はカルバメート配位子において、反応性の制御等の観点から、置換基による修飾を適宜行うこともできる。更に、上記の設計原理はあくまで一例であり、既存の金属有機構造体をモチーフとしない金属イオン供与体及びアミンの組合せももちろん可能である。
【0079】
上述した通り、本態様に係る二酸化炭素固定材は、金属イオン供与体とカルバメート配位子との反応による配位高分子の合成を利用している。以下、このような配位高分子の合成を利用した二酸化炭素の固定において、カルバメート配位子を用いる利点について説明する。
【0080】
まず、二酸化炭素自体を配位高分子の架橋配位子として利用することは、反応性や分子サイズの観点から、極めて困難である。そのため、配位高分子の合成を利用した二酸化炭素の固定を行う場合、二酸化炭素を架橋配位子中に導入するという戦略が考えられる。
【0081】
上記の表1からも示唆されるように、従来、配位高分子の架橋配位子として、ジカルボキシレート又はトリカルボキシレート配位子が多く利用されている。しかしながら、このようなカルボキシレート配位子を二酸化炭素から合成するためには、高エネルギー反応剤、触媒、及び/又は、多段階反応における厳しい反応条件が必要である。そのため、配位高分子の合成による二酸化炭素の固定において、二酸化炭素からのカルボキシレート配位子の形成を利用することは、エネルギー効率等の観点から現実的ではない。
【0082】
また、二酸化炭素から、炭酸イオン(CO 2-)やギ酸イオン(HCO )を形成して、配位高分子を形成する手法も考えられるが、得られる配位高分子の安定性や多様性の観点から制限が多い。また、炭酸イオン及びギ酸イオンの小さな分子サイズに起因して、後述するような多孔性の配位高分子を得ることも困難である。
【0083】
これらに対し、配位高分子の合成を利用した二酸化炭素の固定において、カルバメート配位子を利用する場合には、幾つかの有利な点がある。
【0084】
通常、カルバメートアニオンは、熱力学的に不安定であり、二酸化炭素の分離によってアミンに戻る反応が起きやすい。しかしながら、本発明者らは、カルバメートアニオンを金属イオンに配位させることにより、カルバメート構造を安定的に配位高分子に取り込むことができることを見出した(詳細については実施例を参照)。このような機構により、本態様に係る二酸化炭素固定材においては、アミンと二酸化炭素との反応による架橋配位子の形成、及び、金属イオン供与体と架橋配位子との反応による配位高分子の形成を、熱力学的に促進することができる。したがって、これらの反応を利用することにより、二酸化炭素の固定を、より穏やかな条件で且つ高い効率で行うことが可能となる。
【0085】
また、カルバメート配位子及びその前駆体としてのアミンは、多種多様な構造を有し得る。そのため、必要な用途に応じて、金属イオン供与体とアミンとの組合せを適宜調整して、最適な組み合わせを設計することができる。また、同様に、上記の組合せを変更することにより、得られる配位高分子の物性をコントロールすることも可能となる。
【0086】
本態様に係る二酸化炭素固定材は、金属イオン供与体及びアミン以外に、その他の成分を更に含んでいてもよい。
【0087】
例えば、二酸化炭素固定材は、アミン及びそれから得られるカルバメート配位子以外の配位子又はその前駆体を更に含んでいてもよい。このような補助配位子は、架橋配位子であってもよく、単座配位子であってもよい。
【0088】
二酸化炭素固定材は、必要に応じて、溶媒を更に含んでいてもよい。このような溶媒としては、例えば、金属イオン供与体を溶解するための第1溶媒と、アミンを溶解するための第2溶媒と、を併用することができる。第1溶媒と第2溶媒とは、互いに同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。なお、これらの溶媒としては、気体状態の二酸化炭素を溶解しやすい液体を用いることが好ましい。
【0089】
利用可能な溶媒の例に特に制限はない。溶媒としては、例えば、アルコール、非プロトン性溶媒、又は水を用いることができる。溶媒としては、アルコール又は非プロトン性溶媒を用いることが好ましい。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、及びイソプロパノールが挙げられる。非プロトン性溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)などのアミド、アセトニトリルなどのニトリル、並びにテトラヒドロフラン(THF)などのエーテルが挙げられる。これらの溶媒としては、脱水処理を行ったものを用いてもよい。複数の溶媒の混合物を使用してもよい。
【0090】
二酸化炭素固定材は、反応促進剤などの追加物質を更に含んでいてもよい。反応促進剤は、例えば、塩基性物質である。このような塩基性物質としては、二酸化炭素への求核反応が起こりにくいものを用いることが好ましい。即ち、塩基性物質としては、非求核性の塩基を用いることが好ましい。このような非求核性の塩基としては、例えば、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、1,1,3,3-テトラメチルグアニジン(TMG)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、2,6-ルチジン、ピリジン、及びイミダゾールが挙げられる。追加物質として、反応制御剤を添加してもよい。反応制御剤としては、錯化の制御の観点から、例えば、酢酸アンモニウム又は酢酸ナトリウムを用いることができる。また、必要に応じて、触媒を添加してもよい。
【0091】
先に説明した通り、本態様に係る二酸化炭素固定材を用いると、二酸化炭素の固定を穏やかな条件で且つ高い効率で行うことが可能となる。例えば、本態様における二酸化炭素の固定を伴う配位高分子の形成は、大気圧及び常温条件、又は、それより穏やかな条件で行われ得る。即ち、本態様における二酸化炭素の固定を伴う配位高分子の形成は、周囲条件又は周囲条件より穏やかな条件の下で行われ得る。このような場合、二酸化炭素の固定を、より環境に優しい条件で行うことが可能となる。なお、ここで「周囲条件」とは、付加的な加熱や加圧が行われない状態を意味しており、具体的には、二酸化炭素固定材が使用される環境における常温(周囲温度)及び常圧(大気圧)の状態を意味している。「大気圧及び常温より穏やかな条件」及び「周囲条件より穏やかな条件」とは、常温及び常圧よりも低い温度及び圧力の状態を意味している。
【0092】
上述した通り、本態様に係る二酸化炭素固定材を用いると、配位高分子が生成される。即ち、使用後の二酸化炭素固定材は、配位高分子をもたらす。この配位高分子は、例えば、以下のような性質を有し得る。
【0093】
二酸化炭素が固定された上記の配位高分子は、その構造中における二酸化炭素の含有量が、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは25質量%以上であり、特に好ましくは30質量%以上である。配位高分子中の二酸化炭素含有量が多いほど、二酸化炭素固定材による二酸化炭素の固定が効率的に行われ得ることを意味している。なお、ここで「二酸化炭素の含有量」は、配位高分子の組成式から計算される理論値である。
【0094】
上記配位高分子は、結晶質であってもよく、非晶質であってもよい。上記配位高分子は、結晶質であることが好ましい。上記配位高分子が結晶質である場合、カルバメート配位子が配位高分子の骨格中に規則的に組み込まれていることが示唆される。このような構造は熱力学的に有利であるため、得られる配位高分子が結晶質であることは、本態様に係る二酸化炭素固定材を用いた二酸化炭素の固定が生じやすいことを意味している。なお、ここで、配位高分子が「結晶質」であるとは、CuKαアノードを用いた粉末X線回折(PXRD)測定において、2θ=10°付近に鋭い又はブロードなピークが見られることを意味しており、配位高分子が「非晶質」であるとは、そのようなピークが見られないことを意味している。
【0095】
上記配位高分子が結晶質である場合、この配位高分子は、高い結晶性を有していることが好ましい。ここで、配位高分子が「高い結晶性」を有しているとは、CuKαアノードを用いた粉末X線回折(PXRD)測定において、2θ=10°付近における最大強度のピークの半値幅が3°以下であることを意味している。
【0096】
上記配位高分子は、上述した通り、多孔性であってもよい。なお、ここで配位高分子が「多孔性」であるとは、77Kにおける窒素吸着等温線から計算されるBET比表面積が10m/g以上であるか、又は、195K及び1atmにおける二酸化炭素吸着量が15cm(STP)/g以上であることを意味している。配位高分子が多孔性である場合、得られた配位高分子自体を、ガス貯蔵等に更に利用することができる。特には、得られた配位高分子自体を、更なる二酸化炭素固定材として利用することも可能である。このような多孔性配位高分子の性質については、後で更に詳しく説明する。
【0097】
なお、得られた配位高分子自体が、更なる二酸化炭素固定材として利用可能である場合、その配位高分子による二酸化炭素の最大吸着量は、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは25質量%以上であり、特に好ましくは30質量%以上である。また、この場合、二酸化炭素の含有量と最大吸着量との合計は、好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、特に好ましくは60質量%以上である。このような場合、二酸化炭素の固定によって得られた生成物を、更に二酸化炭素の固定に利用することが可能となり、二酸化炭素の実効的な固定効率を更に向上させることができる。なお、ここで「二酸化炭素の最大吸着量」は、298Kにおいて高圧での二酸化炭素吸着実験を行って得られる値であり、多孔性の配位高分子の細孔中に二酸化炭素がほぼ完全に充填された状態での二酸化炭素の吸着量に相当する。
【0098】
上述した通り、本態様に係る二酸化炭素固定材において、アミンは、気体状態の二酸化炭素と反応して、少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を有する架橋配位子を形成するように構成されている。そして、この架橋配位子は、金属イオン供与体と反応して、複数の金属イオンが架橋配位子によって連結された配位高分子を形成するように構成されている。しかしながら、架橋配位子の形成と、配位高分子の形成とは、必ずしも別段階で起こる必要はない。例えば、カルバメートアニオン部位の形成とその金属イオンへの配位とは、同時に生じてもよい。また、金属イオンによって活性化された二酸化炭素がアミンと反応してカルバメートアニオン部位を生じるような反応メカニズムを利用するものであってもよい。
【0099】
また、本態様に係る二酸化炭素固定材においては、金属イオン供与体とアミンとが反応して、上記配位高分子の前駆体を形成していてもよい。この場合、例えば、金属イオンとアミンとが金属錯体を事前に形成していてもよい。そして、この金属錯体が、気体状態の二酸化炭素と反応して、金属イオンが少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を有する架橋配位子によって架橋された上記配位高分子を形成するように構成されていてもよい。なお、上記の配位高分子の前駆体としての金属錯体は、それ自体が別の配位高分子であってもよいが、予め大部分が連結された構造を有しておらず、二酸化炭素の導入によってカルバメートアニオン部位ができて初めて大部分が連結された配位高分子となるような構成の方がより好ましい。即ち、金属イオンとアミンとが金属錯体を事前に形成する構成において、上記の配位高分子の前駆体としての金属錯体は、配位高分子でないことがより好ましい。
【0100】
次に、本発明の一態様に係る二酸化炭素の固定方法について説明する。この二酸化炭素の固定方法では、典型的には上述した二酸化炭素固定材が用いられるが、二酸化炭素固定材を構成する金属イオン供与体及びアミンは、必ずしも同時に存在していなくてもよい。例えば、この二酸化炭素の固定方法においては、金属イオン供与体とアミンとは、逐次的に導入されてもよい。
【0101】
本態様に係る二酸化炭素の固定方法の第1の例は、金属イオン供与体と、気体状態の二酸化炭素と反応して少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を有する架橋配位子を形成するように構成されたアミンと、を含んだ配合物を準備する工程と、上記配合物に二酸化炭素を含んだガスを供給することにより、複数の金属イオンが上記架橋配位子によって連結された配位高分子を製造する工程と、を含んでいる。
【0102】
即ち、この第1の例は、上述した二酸化炭素固定材に二酸化炭素を含んだガスを供給することを含んでいる。これにより、先に説明した通り、配位高分子の合成プロセスを利用した二酸化炭素の固定が実現される。なお、上述した通り、この場合、上記の配合物は、配位高分子の前駆体としての金属錯体を事前に形成していてもよい。
【0103】
本態様に係る二酸化炭素の固定方法の第2の例は、アミンに二酸化炭素を含んだガスを供給して少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を有する架橋配位子を形成する工程と、上記架橋配位子を金属イオン供与体と反応させることにより、複数の金属イオンが上記架橋配位子によって連結された配位高分子を製造する工程と、を含んでいる。
【0104】
即ち、この第2の例では、アミンと二酸化炭素との反応によって架橋配位子を形成する工程と、得られた架橋配位子を金属イオン供与体と反応させて配位高分子を製造する工程とが、段階的に構成されている。このような方法によっても、先に説明したような配位高分子の合成プロセスを利用した二酸化炭素の固定を実現することができる。
【0105】
上記の各例において用いられる金属イオン供与体及びアミンの例としては、先に二酸化炭素固定材について説明したのと同様のものを用いることができる。
【0106】
上記の各例において用いられる二酸化炭素を含んだガスは、例えば空気であり、好ましくは乾燥空気である。或いは、このガスは、特定の点源由来の二酸化炭素含有ガスであってもよい。なお、上記のガスは、実質的に二酸化炭素のみからなるガスであってもよい。
【0107】
上述した通り、上記の手法による二酸化炭素の固定方法を用いると、二酸化炭素を穏やかな条件下で且つ高い効率で固定することが可能となる。特に、この二酸化炭素の固定方法は、周囲条件又は周囲条件より穏やかな条件の下で行われることが好ましい。
【0108】
上記の方法による二酸化炭素の固定は、典型的には、溶媒中で行われる。また、上記の方法の各工程において、反応促進剤などの追加物質を更に用いることもできる。これらの溶媒及び追加物質の例としては、先に二酸化炭素固定材に関連して説明したのと同様のものを用いることができる。
【0109】
続いて、本発明の一態様に係る多孔性配位高分子について説明する。この多孔性配位高分子は、典型的には、上記の方法による二酸化炭素の固定によって得られる。このようにして得られる多孔性配位高分子は、それ自体が独立して、優れた特性を有し得る。なお、この多孔性配位高分子は、二酸化炭素の固定を伴わない方法により合成されるものであってもよい。
【0110】
本発明の一態様に係る多孔性配位高分子は、複数の金属イオンと、各々が少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を有する複数の架橋配位子と、を含んでいる。そして、複数の金属イオンの少なくとも一部がカルバメートアニオン部位によって配位され、それにより、複数の金属イオンと複数の架橋配位子とが互いに連結されて多孔性骨格を形成している。更に、この多孔性配位高分子は、後で詳しく説明するように、77Kにおける窒素吸着等温線から計算されるBET比表面積が10m/g以上であるか、又は、195K及び1atmにおける二酸化炭素吸着量が15cm(STP)/g以上である。
【0111】
上記多孔性配位高分子を構成している金属イオンとしては、例えば、先に金属イオン供与体が供与し得る金属イオンとして説明したのと同様のものが挙げられる。
【0112】
少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を有する複数の架橋配位子についても、先に説明したのと同様のものを用いることができる。この架橋配位子は、2つ以上のカルバメートアニオン部位を有していることが好ましい。
【0113】
上述した通り、カルバメート構造は本来熱力学的に不安定であるが、カルバメートアニオンを金属イオンに配位させることにより、カルバメート構造を安定的に配位高分子に取り込むことが可能となる。この安定化は、金属イオンと架橋配位子とが互いに連結されて多孔性骨格を形成する場合に特に顕著である。
【0114】
上記架橋配位子は、例えば、下記一般式(1B)によって表される化合物である。
【化18】
【0115】
式(1B)中、
は、水素原子であるか、アルキル基であるか、又は、RとAとの間の窒素原子及びAと共に複素環を形成しており、
Aは、単結合であるか、又は、少なくとも1つの炭素原子を含んだ連結基であり、
は、前記金属イオンに配位可能なアニオン部位である。
【0116】
化合物(1B)におけるR、A、及びQの好ましい例は、先に説明したものと同様である。先に説明した二酸化炭素の固定が熱力学的に生じやすいほど、架橋配位子としての化合物(1B)を含んだ多孔性配位高分子は熱力学的に安定になりやすい。
【0117】
上記架橋配位子は、下記一般式(2B)によって表される化合物であってもよい。
【化19】
【0118】
式(2B)中、
は、水素原子であるか、アルキル基であるか、又は、RとAとの間の窒素原子及びAと共に複素環を形成しており、
Aは、単結合であるか、又は、少なくとも1つの炭素原子を含んだ連結基であり、
は、水素原子であるか、アルキル基であるか、又は、RとAとの間の窒素原子及びAと共に、若しくは、RとAとの間の窒素原子、A、RとAとの間の窒素原子、及びRと共に複素環を形成している。
【0119】
化合物(2B)におけるR、A、及びRの好ましい例は、先に説明したものと同様である。先に説明した二酸化炭素の固定が熱力学的に生じやすいほど、架橋配位子としての化合物(2B)を含んだ多孔性配位高分子は熱力学的に安定になりやすい。
【0120】
上記架橋配位子は、下記一般式(3B)によって表される化合物であってもよい。
【化20】
【0121】
式(3B)中、
Xは、炭素原子又は窒素原子であり、
Aは、単結合であるか、又は、少なくとも1つの炭素原子を含んだ連結基であり、
は、金属イオンに配位可能なアニオン部位であり、
乃至Rは、各々独立に、水素原子であるか、又は、任意の置換基であり、RとRとは互いに結合して環を形成していてもよく、RとRとは互いに結合して環を形成していてもよい。
【0122】
化合物(3B)におけるX、A、及びQ、並びにR乃至Rの好ましい例は、先に説明したものと同様である。先に説明した二酸化炭素の固定が熱力学的に生じやすいほど、架橋配位子としての化合物(3B)を含んだ多孔性配位高分子は熱力学的に安定になりやすい。
【0123】
上記架橋配位子は、下記一般式(4B)によって表される化合物であってもよい。
【化21】
【0124】
式(4B)中、
乃至Rは、各々独立に、水素原子であるか、又は、任意の置換基であり、RとRとは互いに結合して環を形成していてもよく、RとRとは互いに結合して環を形成していてもよい。
【0125】
化合物(4B)におけるR乃至Rの好ましい例は、先に説明したものと同様である。先に説明した二酸化炭素の固定が熱力学的に生じやすいほど、架橋配位子としての化合物(4B)を含んだ多孔性配位高分子は熱力学的に安定になりやすい。
【0126】
上記架橋配位子は、下記一般式(5B)によって表される化合物であってもよい。
【化22】
【0127】
式(5B)中、
は、水素原子であるか、又は、アルキル基であり
は、水素原子であるか、又は、アルキル基であり、
nは、0又は自然数である。
【0128】
化合物(5B)におけるR、R及びnの好ましい例は、先に説明したものと同様である。先に説明した二酸化炭素の固定が熱力学的に生じやすいほど、架橋配位子としての化合物(5B)を含んだ多孔性配位高分子は熱力学的に安定になりやすい。
【0129】
上述した通り、本態様に係る多孔性配位高分子においては、金属イオンと少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を備えた架橋配位子とが互いに連結されて、多孔性骨格を形成している。カルバメートアニオン部位を多孔性骨格中に導入することにより、カルバメートアニオン部位の熱力学的な安定性を向上させることができる。
【0130】
本態様に係る多孔性配位高分子は、77Kにおける窒素吸着等温線から計算されるBET比表面積が10m/g以上であることが好ましく、15m/g以上であることが好ましく、50m/g以上であることがより好ましく、100m/g以上であることが更に好ましく、500m/g以上であることが特に好ましい。このBET比表面積が大きいほど、配位高分子が優れた多孔性を有していることが示唆される。
【0131】
本態様に係る多孔性配位高分子は、195K及び1atmにおける二酸化炭素吸着量が15cm(STP)/g以上であることが好ましく、20cm(STP)/g以上であることがより好ましく、40cm(STP)/g以上であることが更に好ましく、100cm(STP)/g以上であることが特に好ましい。この二酸化炭素吸着量が大きいほど、配位高分子が優れた多孔性を有していることが示唆される。
【0132】
本態様に係る多孔性配位高分子は、例えば、ガスの吸着及び貯蔵に利用することができる。また、この多孔性配位高分子は、その骨格中の金属イオン及び/又はカルバメート構造を利用して、触媒などの機能性材料としても応用できる可能性がある。なお、上述した通り、この多孔性配位高分子は、それ自体を二酸化炭素の固定材として使用することも可能である。
【0133】
以下、本発明の一態様に係る多孔性配位高分子の製造方法について説明する。本態様に係る多孔性配位高分子の製造方法は、先に説明した二酸化炭素の固定プロセスを利用するものである。
【0134】
本態様に係る多孔性配位高分子の製造方法の第1の例は、金属イオン供与体と、気体状態の二酸化炭素と反応して少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を有する架橋配位子を形成するように構成されたアミンと、を含んだ配合物を準備する工程と、上記配合物に二酸化炭素を含んだガスを供給する工程と、を含んでいる。
【0135】
本態様に係る多孔性配位高分子の製造方法の第2の例は、アミンに二酸化炭素を含んだガスを供給して少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を有する架橋配位子を形成する工程と、上記架橋配位子を金属イオン供与体と反応させる工程と、を含んでいる。
【0136】
これらの製造方法に金属イオン供与体、アミン、架橋配位子、及び二酸化炭素を含んだガスとしては、例えば、先に二酸化炭素の固定方法について説明したのと同様のものを用いることができる。また、これらの製造方法は、典型的には、溶媒中で行われる。また、上記の製造方法の各工程において、反応促進剤などの追加物質を更に用いることもできる。これらの溶媒及び追加物質としては、例えば、先に二酸化炭素の固定材及び固定方法に関連して説明したのと同様のものを用いることができる。
【実施例0137】
以下、上記の二酸化炭素の固定材及び固定方法、並びに、多孔性配位高分子及びその製造方法について、実施例を参照しながら更に説明する。
【0138】
配位高分子の合成による二酸化炭素の固定
初めに、配位高分子の合成を伴った二酸化炭素の固定の具体的な方法について説明する。なお、用いた試薬は、シグマアルドリッチ(メルク株式会社)、東京化成工業株式会社、和光純薬工業株式会社、又はナカライテスク株式会社から適宜購入した。また、以下で用いられている略称は、下記の表2に示す通りである。
【0139】
【表2-1】
【0140】
【表2-2】
【0141】
【表2-3】
【0142】
例1
[方法1]
Arを充填させたグローブボックスの内部で、25℃及び大気圧において、Zn(OAc)・2HO(878.0mg,4.00mmol)のDMF溶液100mLを、HPZ(258.4mg,3.00mmol)及びDBU(1.795mL,12.0mmol)のイソプロパノール溶液100mLと、300mLの丸底フラスコ中で混合させた。得られた透明溶液を3分間撹拌した。フラスコをゴム栓でシールし、グローブボックスの外部に取り出した。このようにして、例1に係る二酸化炭素固定材を得た。
【0143】
次に、25℃及び大気圧において、COガス(>99.99%)をフラスコ中に導入した。その結果、白色沈殿がただちに(<10秒)得られた。反応混合物を、COガスを導入しながら1晩撹拌し、反応を完了させた。なお、目視による観察においては、この反応は、数時間程度でほぼ完了していた。このようにして、例1に係る二酸化炭素固定材を用いた二酸化炭素の固定を行った。
【0144】
フラスコをArでパージして、グローブボックスの内部に戻した。得られた沈殿物を濾
別し、Ar下において、DMF及びイソプロパノールによって洗浄し、25℃で真空乾燥した。このようにして、配位高分子[ZnO(PDC)]を得た(収率80%;C182413Znの計算値:C,27.23;H,3.05;N,10.59。測定値:C,27.20;H,4.17;N,10.19)。以下、この配位高分子を「化合物1」と呼ぶ。
【0145】
[方法1A]
まず、金属イオン供与体として、Zn-SBUを合成した。この合成は、以下の文献に従って行った。
文献1:Dell’Amico, D.B. et al. Inorg. Chem. Acta 2003, 350, 661-664
文献2:Dell’Amico, D.B. et al. Inorg. Chem. Acta 2006, 359 (10), 3371-3374
【0146】
Zn-SBUの合成スキームを以下に示す。なお、下記スキームにおいて、Zn-SBUに含まれているNCO部位は、原料のジメチルカルバミン酸ジメチルアンモニウム(シグマアルドリッチ;メルク株式会社)に由来するものであり、気体状態のCOに由来するものではない。
【化23】
【0147】
次に、架橋配位子源として、PZ-CO-DBUを合成した。Arを充填させたグローブボックスの内部で、25℃及び大気圧において、50mL丸底フラスコ中のHPZ(344.6mg,4.00mmol)のMeCN溶液20mLに、DBU(1.196mL,8.00mmol)を滴下した。フラスコをゴム栓でシールし、グローブボックスの外部に取り出した。25℃及び大気圧において、COガス(>99.99%)をフラスコ中に導入した。この段階で、すぐに無色の結晶が析出した。12時間後、反応を完了させた。なお、目視による観察においては、この反応は、30分~1時間程度でほぼ完了していた。フラスコをArでパージして、グローブボックスの内部に戻した。結晶を濾別し、Ar下で、無水MeCNにより洗浄し、25℃で真空乾燥した(収率82%)。PZ-CO-DBUの合成スキームを以下に示す。
【化24】
【0148】
Ar下、25℃及び大気圧において、PZ-CO-DBU(168.2mg,0.30mmol)のイソプロパノール溶液10mLを、Zn-SBU(90.4mg,0.10mmol)のTHF溶液10mLに加えた。白色沈殿がただちに形成し、これを25℃で1晩放置した。なお、目視による観察においては、この反応は、30分~1時間程度でほぼ完了していた。得られた沈殿を濾別し、Ar下において、イソプロパノール及びTHFによって洗浄し、25℃で真空乾燥した。このようにして、配位高分子[ZnO(PDC)]を得た(収率94%)。以下、この配位高分子を「化合物1A」と呼ぶ。
【0149】
[方法1B]
Ar下、25℃及び大気圧において、PZ-CO-DBU(336.4mg,0.60mmol)のイソプロパノール溶液10mLを、Zn(OAc)・2HO(65.9mg,0.30mmol)のDMF溶液10mLに加えた。白色沈殿がただちに形成し、これを25℃で1晩放置した。なお、目視による観察においては、この反応は、30分~1時間程度でほぼ完了していた。得られた沈殿を濾別し、Ar下において、DMF及びイソプロパノールによって洗浄し、25℃で真空乾燥した。このようにして、配位高分子[ZnO(PDC)]を得た(収率85%)。以下、この配位高分子を「化合物1B」と呼ぶ。
【0150】
[方法1C]
DBUを使用しなかったことを除いては、方法1と同様にして、二酸化炭素の固定を行った。なお、目視観察による反応時間についても、方法1とほぼ同様であった。このようにして、配位高分子[ZnO(PDC)]を得た(収率80%)。以下、この配位高分子を「化合物1C」と呼ぶ。
【0151】
[方法1D]
COガス(>99.99%)の代わりに、400ppmのCOを含んだ圧縮空気ガス(>99.99%)を用いて、反応時間を1晩から6日間に延長したことを除いては、方法1と同様にして、二酸化炭素の固定を行った。なお、目視による観察においては、この反応は、24時間程度でほぼ完了していた。このようにして、配位高分子[ZnO(PDC)]を得た(収率61%)。以下、この配位高分子を「化合物1D」と呼ぶ。
【0152】
例2
[方法2]
Arを充填させたグローブボックスの内部で、25℃及び大気圧において、Zn(OAc)・2HO(263.4mg,1.20mmol)のDMF溶液30mLを、H[SmPZ](90.2mg,0.90mmol)及びDBU(540μL,3.6mmol)のイソプロパノール溶液30mLと、100mLの丸底フラスコ中で混合させた。得られた透明溶液を3分間撹拌した。フラスコをゴム栓でシールし、グローブボックスの外部に取り出した。このようにして、例2に係る二酸化炭素固定材を得た。
【0153】
次に、25℃及び大気圧において、COガス(>99.99%)をフラスコ中に導入した。その結果、白色沈殿がただちに(<10秒)得られた。反応混合物を、COガスを導入しながら1晩撹拌し、反応を完了させた。なお、目視による観察においては、この反応は、30分~1時間程度でほぼ完了していた。このようにして、例2に係る二酸化炭素固定材を用いた二酸化炭素の固定を行った。
【0154】
フラスコをArでパージして、グローブボックスの内部に戻した。得られた沈殿物を濾別し、Ar下において、DMF及びイソプロパノールによって洗浄し、25℃で真空乾燥した。このようにして、配位高分子[ZnO(S-mPDC)]を得た(収率80%;C213013Znの計算値:C,30.17;H,3.62;N,10.05。測定値:C,29.28;H,4.45;N,9.89)。以下、この配位高分子を「化合物2」と呼ぶ。
【0155】
[方法2L]
二酸化炭素の固定反応をスケールアップさせることを試みた。この例では、グローブボックスを用いないで、空気中で反応を行った。また、この例では、DBUも使用しなかった。
【0156】
具体的には、まず、空気中、25℃及び大気圧において、Zn(OAc)・2HO(52.7g,2.4mol)のDMF溶液1.5Lを、H[SmPZ](18.0g,1.8mol)のイソプロパノール溶液1.5Lと、5Lの中型ボトル中で混合させた。ボトルをゴム栓でシールした。このようにして、例2Lに係る二酸化炭素固定材を得た。
【0157】
次に、25℃及び大気圧において、COガス(>99.99%)をボトル中に導入した。その結果、白色沈殿が得られた(~15分)。反応混合物を、COガスを導入しながら3日間撹拌し、反応を完了させた。なお、目視による観察においては、この反応は、2時間~3時間程度でほぼ完了していた。このようにして、例2Lに係る二酸化炭素固定材を用いた二酸化炭素の固定を行った。
【0158】
得られた沈殿物を濾別し、空気中において、DMF及びイソプロパノールによって洗浄し、80℃で真空乾燥した。このようにして、配位高分子[ZnO(S-mPDC)]を得た(約50g;収率83%)。以下、この配位高分子を「化合物2L」と呼ぶ。
【0159】
例3
[方法3]
SmPZの代わりにRmPZを用いたことを除いては、方法2と同様にして、二酸化炭素の固定を行った。なお、目視観察による反応時間についても、方法2とほぼ同様であった。このようにして、配位高分子[ZnO(R-mPDC)]を得た(収率84%;C213013Znの計算値:C,30.17;H,3.62;N,10.05。測定値:C,29.26;H,4.08;N,9.87)。以下、この配位高分子を「化合物3」と呼ぶ。
【0160】
例4
[方法4]
SmPZの代わりにdmPZを用いたことを除いては、方法2と同様にして、二酸化炭素の固定を行った。なお、目視観察による反応時間についても、方法2とほぼ同様であった。このようにして、配位高分子[ZnO(dmPDC)]を得た(収率59%;C243613Znの計算値:C,32.83;H,4.13;N,9.57。測定値:C,32.46;H,4.66;N,9.49)。以下、この配位高分子を「化合物4」と呼ぶ。
【0161】
例5
[方法5]
まず、25℃及び大気圧において、Cu(NO・3HOのメタノール溶液(250mM)に、bpy(250mM)及びHPZ(500mM)のメタノール溶液を撹拌しながら加えた。このようにして、例5に係る二酸化炭素固定材を得た。
【0162】
次に、得られた反応混合物に、25℃及び大気圧において、COガス(>99.99%)を撹拌しながら導入した。COガスの導入後、数分以内に沈殿が生じた。反応を完了させるため、12時間に亘ってバブリングを継続し、沈殿を得た。なお、目視による観察においては、この反応は、30分~1時間程度でほぼ完了していた。このようにして、例5に係る二酸化炭素固定材を用いた二酸化炭素の固定を行った。
【0163】
得られた沈殿を濾別し、メタノールで洗浄した後、大気中で乾燥させた。このようにして、配位高分子を得た。以下、この配位高分子を「化合物5」と呼ぶ。
【0164】
例6
まず、金属イオン供与体として、Zr-SBUを合成した。この合成は、以下の文献に従って行った。
文献3:G. Kickelbick et al., Chem. Ber., 1997, 130, 473
【0165】
Zr-SBUの合成スキームを以下に示す。
【化25】
【0166】
Ar雰囲気下、25℃及び大気圧において、Zr-SBUのDMF/エタノール溶液(5mM)に、HPZ(30mM)、DBU(60mM)、及び酢酸アンモニウム(150mM)を混合した。このようにして、例6に係る二酸化炭素固定材を得た。
【0167】
次に、得られた反応混合物に、25℃及び大気圧において、COガス(>99.99%)を導入した。COガスの導入後、数分以内に沈殿が生じた。反応を完了させるため、8時間に亘ってバブリングを継続し、沈殿を得た。なお、目視による観察においては、この反応は、30分~1時間程度でほぼ完了していた。このようにして、例6に係る二酸化炭素固定材を用いた二酸化炭素の固定を行った。この段階の白色固体(配位高分子)を「化合物6」と呼ぶ。
【0168】
上記の白色固体を濾別し、エタノールで洗浄した後、大気中で乾燥させた。このようにして得られた配位高分子を「化合物6′」と呼ぶ。
【0169】
例7
[方法7M]
25℃及び大気圧において、Cu(OAc)・HOのDMF溶液(40mM)に、PZ-CO-DBU(40mM)及びdabco(20mM)のメタノール溶液を混合した。混合後、数分以内に沈殿が生じた。得られた粉末を濾別し、メタノールで洗浄し、乾燥させた。このようにして、二酸化炭素が固定された配位高分子を得た。以下、この配位高分子を「化合物7M」と呼ぶ。
【0170】
[方法7E]
メタノール溶液の代わりにエタノール溶液を用いたことを除いては、方法7Mと同様にして、二酸化炭素の固定を行った。沈殿形成の速さについても、方法7Mとほぼ同様であった。以下、このようにして得られた配位高分子を「化合物7E」と呼ぶ。
【0171】
[方法7iP]
メタノール溶液の代わりにイソプロパノール溶液を用いたことを除いては、方法7Mと同様にして、二酸化炭素の固定を行った。沈殿形成の速さについても、方法7Mとほぼ同様であった。以下、このようにして得られた配位高分子を「化合物7iP」と呼ぶ。
【0172】
例8
[方法8]
Ar雰囲気下、25℃及び大気圧において、Zn(OAc)・2HOのDMF溶液(40mM)に、DP(30mM)及びDBU(120mM)のイソプロパノール溶液を混合した。このようにして、例8に係る二酸化炭素固定材を得た。
【0173】
次に、得られた反応混合物に、25℃及び大気圧において、COガス(>99.99%)を導入した。COガスの導入後、数分以内に沈殿が生じた。反応を完了させるため、12時間に亘ってバブリングを継続し、沈殿を得た。なお、目視による観察においては、この反応は、30分~1時間程度でほぼ完了していた。このようにして、例8に係る二酸化炭素固定材を用いた二酸化炭素の固定を行った。
【0174】
得られた白色固体を濾別し、イソプロパノールで洗浄した後、大気中で乾燥させた。このようにして得られた配位高分子を「化合物8」と呼ぶ。
【0175】
例9(参考例)
[方法9]
Ar雰囲気下において、Zn-SBUのMeCN溶液(10mM)に、pXDAのMeCN溶液(100mM)を撹拌しながら加えた。得られた反応混合物を70℃で24時間に亘って加熱した。得られた白色固体を遠心分離によって単離し、MeCNで洗浄した後、乾燥させた。このようにして得られた配位高分子を「化合物9」と呼ぶ。なお、この方法9では、COを含んだガスを使用しておらず、COの固定は行われていない。
【0176】
例10
[方法10]
まず、25℃及び大気圧において、Cu(NO・3HOのメタノール溶液(250mM)に、HPZのメタノール溶液(500mM)を撹拌しながら加えた。このようにして、例10に係る二酸化炭素固定材を得た。なお、この反応混合物は、紫色の沈殿物を含んでいた。この沈殿物の一部を単離し、後の分析に供した。以下、この沈殿物を「化合物10P」と呼ぶ。
【0177】
次に、上記の反応混合物に、25℃及び大気圧において、COガス(>99.99%)を撹拌しながら3時間バブリングした。これにより、紫色の沈殿物が、青色の沈殿物に次第に変化した。なお、目視による観察においては、この反応は、30分~1時間程度でほぼ完了していた。このようにして、例10に係る二酸化炭素固定材を用いた二酸化炭素の固定を行った。
【0178】
得られた青色粉末を濾別し、メタノールで洗浄した後、乾燥させた。このようにして、配位高分子を得た。以下、この配位高分子を「化合物10」と呼ぶ。
【0179】
例11
[方法11]
まず、25℃及び大気圧において、MgNO・6HOのメタノール溶液(250mM)に、HPZのメタノール溶液(500mM)を撹拌しながら加えた。このようにして、例11に係る二酸化炭素固定材を得た。
【0180】
次に、得られた反応混合物に、25℃及び大気圧において、COガス(>99.99%)を導入した。COガスの導入後、数分以内に沈殿が生じた。反応を完了させるため、12時間に亘ってバブリングを継続し、沈殿を得た。なお、目視による観察においては、この反応は、30分~1時間程度でほぼ完了していた。このようにして、例11に係る二酸化炭素固定材を用いた二酸化炭素の固定を行った。
【0181】
得られた粉末を濾別し、メタノールで洗浄した後、大気中で乾燥させた。このようにして、配位高分子を得た。以下、この配位高分子を「化合物11」と呼ぶ。
【0182】
例12
[方法12]
空気中、又は、Ar雰囲気下、25℃及び大気圧において、Zn(OAc)・2HOのメタノール/DMF溶液(30mM)に、tpt(20mM)及びDBU(120mM)を撹拌しながら加えた。このようにして、例12に係る二酸化炭素固定材を得た。
【0183】
次に、得られた反応混合物に、25℃及び大気圧において、COガス(>99.99%)を導入した。COガスの導入後、数分以内に沈殿が生じた。反応を完了させるため、12時間に亘ってバブリングを継続し、沈殿を得た。なお、目視による観察においては、この反応は、30分~1時間程度でほぼ完了していた。このようにして、例12に係る二酸化炭素固定材を用いた二酸化炭素の固定を行った。
【0184】
得られた粉末を濾別し、メタノールで洗浄した後、乾燥させた。このようにして、配位高分子を得た。以下、この配位高分子を「化合物12」と呼ぶ。
【0185】
例13
[方法13]
空気中、又は、Ar雰囲気下、25℃及び大気圧において、Cu(NO・3HOのメタノール/DMF溶液(30mM)に、tpt(20mM)及びDBU(120mM)を撹拌しながら加えた。このようにして、例13に係る二酸化炭素固定材を得た。
【0186】
次に、得られた反応混合物に、25℃及び大気圧において、COガス(>99.99%)を導入した。COガスの導入後、数分以内に沈殿が生じた。反応を完了させるため、6時間に亘ってバブリングを継続し、沈殿を得た。なお、目視による観察においては、この反応は、30分~1時間程度でほぼ完了していた。このようにして、例13に係る二酸化炭素固定材を用いた二酸化炭素の固定を行った。
【0187】
得られた粉末を濾別し、メタノールで洗浄した後、乾燥させた。このようにして、配位高分子を得た。以下、この配位高分子を「化合物13」と呼ぶ。
【0188】
例14
[方法14]
Ar雰囲気下、25℃及び大気圧において、Zn(OAc)・2HOのDMF溶液(40mM)に、pda(30mM)及びDBU(120mM)のイソプロパノール溶液を混合させた。このようにして、例14に係る二酸化炭素固定材を得た。
【0189】
次に、得られた反応混合物に、25℃及び大気圧において、COガス(>99.99%)を導入した。COガスの導入後、数分以内に沈殿が生じた。反応を完了させるため、24時間に亘ってバブリングを継続し、沈殿を得た。なお、目視による観察においては、この反応は、30分~1時間程度でほぼ完了していた。このようにして、例14に係る二酸化炭素固定材を用いた二酸化炭素の固定を行った。
【0190】
得られた白色粉末を濾別し、イソプロパノールで洗浄した後、乾燥させた。このようにして、配位高分子を得た。以下、この配位高分子を「化合物14」と呼ぶ。
【0191】
例15
[方法15]
Ar雰囲気下、25℃及び大気圧において、Zn(OAc)・2HOのDMF溶液(50mM)に、eda(100mM)及びDBU(400mM)のエタノール溶液を混合させた。このようにして、例15に係る二酸化炭素固定材を得た。
【0192】
次に、得られた反応混合物に、25℃及び大気圧において、COガス(>99.99%)を導入した。COガスの導入後、数分以内に沈殿が生じた。反応を完了させるため、12時間に亘ってバブリングを継続し、沈殿を得た。なお、目視による観察においては、この反応は、30分~1時間程度でほぼ完了していた。このようにして、例15に係る二酸化炭素固定材を用いた二酸化炭素の固定を行った。
【0193】
得られた白色粉末を濾別し、エタノールで洗浄した後、乾燥させた。このようにして、配位高分子を得た。以下、この配位高分子を「化合物15」と呼ぶ。
【0194】
例16
[方法16]
25℃及び大気圧において、MnCl・4HOの水溶液(50mM)に、HZ35%水溶液を混合させた。このようにして、例16に係る二酸化炭素固定材を得た。
【0195】
得られた薄橙懸濁液に、25℃及び大気圧において、COガス(>99.99%)を撹拌しながら1時間バブリングし、無色透明の水溶液を得た。エバポレータによって水を取り除いて、白色粉末を得た。このようにして、例16に係る二酸化炭素固定材を用いた二酸化炭素の固定を行った。以下、このようにして得られた配位高分子を「化合物16」と呼ぶ。
【0196】
以上の通り、方法1、1C、1D、2、2L、3乃至6、8、11乃至16では、金属イオン供与体及びアミンを含んだ均一な溶液に、二酸化炭素を含んだガスを導入することにより、固体の生成が観察された。また、方法10では、金属イオン供与体とアミンとの反応により得られた固体に、二酸化炭素を含んだガスを導入することにより、色の異なる新たな固体の生成が観察された。更に、方法1A、1B、7M、7E、及び7iPでは、二酸化炭素を含んだガスを導入したアミン溶液と、金属イオン供与体の溶液とを混合させることにより、固体の生成が観察された。これらの観察事実は、二酸化炭素を含んだガスの導入によって、直接的又は間接的に、金属イオンとカルバメート配位子との架橋が生じて、高分子構造が形成されたことを示している。
【0197】
即ち、上記の例1乃至8及び10乃至16から分かるように、金属イオン供与体と、気体状態の二酸化炭素と反応して少なくとも1つのカルバメートアニオン部位を有する架橋配位子を形成するように構成されたアミンと、を適宜組み合せることにより、穏やかな条件で且つ高い効率で、配位高分子の合成を伴った二酸化炭素の固定を行うことができた。特に、上述した通り、例1乃至8及び10乃至16に係る二酸化炭素の固定は、常温及び大気圧下で行うことができた。
【0198】
また、例1乃至8及び11乃至15に係る二酸化炭素の固定においては、二酸化炭素を含んだガスの導入によって、又は、二酸化炭素を含んだガスを導入したアミン溶液との混合によって、直ちに又は極めて短時間のうちに沈殿が生じた。これらの観察事実は、上記の各例において、配位高分子の形成による二酸化炭素の固定が非常に高い速度で実現できたことを示唆している。
【0199】
更に、特に例1Dでは、空気からの二酸化炭素の固定を行うことができた。また、例2Lでは、大きなスケールで且つ空気中で、短時間のうちに二酸化炭素の固定を行うことができた。これらの例は、本発明に係る二酸化炭素の固定材及び固定方法の高い汎用性を示唆している。
【0200】
構造及び物性評価
得られた化合物1乃至16について、構造及び物性の評価を行った。
【0201】
例1乃至例4
化合物1乃至4について、粉末X線回折(PXRD)測定を行った。このPXRD測定は、Rigaku MiniFlexにより、CuKαアノードを用いて行った。また、この測定は、Ar雰囲気下で行った。その結果を、MOF-5のシミュレーションパターンと共に、図1に示す。
【0202】
図1は、化合物1乃至4及びMOF-5のPXRDパターンを示している。図1から分かるように、化合物1乃至4は、MOF-5と同様の周期構造を有していた。なお、化合物1乃至4の詳細な結晶構造解析については、後で更に詳しく検討する。
【0203】
化合物1、1A、1B及び1Cについて、PXRD測定を行った。その結果を、図2に示す。
【0204】
図2は、化合物1、1A、1B及び1CのPXRDパターンを示している。図2から分かるように、化合物1、1A、1B及び1Cは、互いに類似する周期構造を有していた。この結果から、様々な方法による二酸化炭素の固定が有効であることが示唆された。
【0205】
PZとCOとからPDCが形成されていることを確かめるために、固体核磁気共鳴(SSNMR)測定を行った。このSSNMR測定は、JNM-ECZ600Rを用いて行った。具体的には、化合物1に対して、1D 13C CP-MAS(Cross-Polarization Magic Angle Spinning)SSNMR測定と、2D H-13C HETCOR(Heteronuclear Correlation) SSNMR測定とを行った。なお、これらの測定は、Ar雰囲気下で行った。その結果を図3及び図4に示す。
【0206】
図3は、化合物1の1D 13C CP-MAS SSNMRスペクトルを示している。図3に示すように、このSSNMRスペクトルは、43.6ppm及び161.4ppmにピークを有していた。この161.4ppmの13Cピークは、カルバメートアニオン(NCO )の炭素原子のピーク(文献値)とよく適合していた。
【0207】
図4は、化合物1の2D H-13C HETCOR SSNMRスペクトルを示している。図4から明らかなように、ピペラジンの脂肪族プロトン(-CH-)は、共有結合炭素(43.6ppm)のみならず、カルバメートアニオンの炭素原子(161.4ppm)とも相関していた。この結果は、化合物1において、PDCが形成されていることを示唆している。
【0208】
化合物1におけるZn2+の配位形態を調べるために、シンクロトロンX線吸収スペクトル(XAS)測定を行った。XAS測定は、タイ国のSynchrotron Light Research InstituteのBL1.1Wで行った。具体的には、Si(111)ダブルクリスタルモノクロメータを用いて、蛍光モードで、ZnのK-edge(9659eV)のスペクトルを測定した。なお、この測定は、Ar雰囲気下で行った。このようにして、Zn K-edge XANES(X線吸収端近傍構造)スペクトルを得た。その結果を図5に示す。
【0209】
図5は、化合物1及びZn-SBUのZn K-edge XANESスペクトルを示している。図5に示す通り、化合物1は、Zn-SBUとほぼ同じスペクトルを有していた。即ち、化合物1において、Zn-SBUと同様のクラスタ構造が存在していることが示唆された。
【0210】
Znの第1の配位シェルに関する更なる情報を得るために、広域X線吸収微細構造 (Extended X-ray Absorption Fine Structure;EXAFS)による定量的な分析を行った。その結果を図6に示す。
【0211】
図6は、化合物1のZn K-edge EXAFSスペクトルを示している。図6中、丸で示したデータ点は実験値であり、実線はカーブフィッティングであり、破線はフィッティング範囲(1.0乃至2.0Å)を意味している。図6に示す結果から、Znの配位数は、3.7±0.2と決定された。この結果は、化合物1における四面体Zn-4O構造の存在を示唆している。
【0212】
化合物1乃至4について、FT-IR(フーリエ変換赤外分光)測定を行った。IR測定は、Bruker Optics ALPHAを用いて行った。これらの測定は、Ar雰囲気下で行った。その結果を図7に示す。
【0213】
図7は、化合物1乃至4のFT-IRスペクトルを示している。図7から分かるように、化合物1乃至4は、521~525cm-1の範囲に特徴的なピークを有していた。このピークは、[ZnO(CO]クラスタのμ-O-Znの伸縮振動のピークによく適合している。
【0214】
以上の通り、EXAFS及びFT-IR測定の結果は、化合物1乃至4における[ZnO(CO]クラスタの存在を示している。
【0215】
化合物1乃至4の結晶構造を確定するために、シンクロトロンPXRD測定を行った。この測定は、Super Photon Ring(Spring-8)のBL02B2ビームラインを用いて行った。サンプルとしては、Ar雰囲気のグローブボックス内においてガラス管中に封入した粉末を用いた。上記のSSNMR、XAS、及びFT-IRの測定結果から、化合物1における[ZnO(CO]及びPDCの存在が示されているため、結晶モデルとして、MOF-5のBDCをPDCで置き換えた構造を仮定し、Rietveld解析を行った。その結果を、図8乃至図10及び表3に示す。
【0216】
図8は、化合物1のRietveld解析の結果を示している。図8には、化合物1のPXRDパターン及びMOF-5のシミュレーションパターンも示している。表3は、化合物1乃至4の結晶データ及び精密化の詳細を示している。図8及び表3に示すように、化合物1は、MOF-5と同形(isostructural)であることが分かった。また、表3に示すように、化合物2乃至4も、MOF-5と同形であることが分かった。なお、決定された化合物1のセル長(24.7739Å)は、MOF-5のセル長(25.6690Å)より短く、PDCの長さ(5.5Å)とBDCの長さ(5.7Å)との差によく適合していた。
【0217】
【表3】
【0218】
図9A乃至9Dは、それぞれ、化合物1乃至4の充填構造を示している。各図において、架橋配位子は、静的乱れ(static disorder)を示している。図9A乃至9Dからも、化合物1乃至4が、MOF-5と同様の多孔性構造を有していることが分かる。
【0219】
図10は、化合物1乃至4の最初のBraggピークの解析結果を示している。図10におけるFWHM(Full-Width-Half-Maximum)の計算結果は、
化合物1:0.205°
化合物2:0.0406°
化合物3:0.0617°
化合物4:0.0540°
であり、化合物2が最も高い結晶性を示すことが分かった。
【0220】
以上のようにして決定された結晶構造及び組成式から、化合物1乃至4中に導入されたCOの量は、
化合物1:33.3質量%
化合物2:31.6質量%
化合物3:31.6質量%
化合物4:30.1質量%
であり、化合物1乃至4の合成により、高い効率でCOの固定が行われていることが示された。
【0221】
化合物1及び2の空気中での安定性を評価するため、時間依存PXRD測定を行った。この測定は、25℃及び50RH%で行った。その結果を図11に示す。
【0222】
図11は、化合物1及び2の空気中におけるPXRDパターンの変化を示している。図11中、「1-30min」は、化合物1をAr雰囲気下から空気中に取り出して30分経過後のPXRDパターンを示しており、「1-60min」は、化合物1をAr雰囲気下から空気中に取り出して60分経過後のPXRDパターンを示しており、「2-60min」は、化合物1をAr雰囲気下から空気中に取り出して60分経過後のPXRDパターンを示している。図11から分かるように、化合物2は、化合物1と比較して、空気又は湿気に対する安定性が優れていた。これは、化合物2の架橋配位子における疎水性メチル基の導入によって、細孔中へのHO分子の拡散が生じ難いことに起因していると考えられる。
【0223】
化合物1乃至4の形態(morphology)を調べるため、走査電子顕微鏡(SEM)による観察を行った。このSEM観察は、Hitachi SU5000を用いて行った。測定は、活性化後のサンプルを空気中で素早く観察することによって行った。その結果を図12に示す。
【0224】
図12A乃至12Dは、それぞれ、化合物1乃至4のSEM画像を示している。図12A乃至12Dから分かるように、化合物1では小さな粒子(~60nm)の凝集が見られるものの、化合物2(200-500nm)、化合物3(200-500nm)、及び化合物4(200-300nm)では、凝集の少ない立方体形状の粒子が得られた。この結果は、架橋配位子中のメチル基による立体障害がカルバメート形成の反応速度論を制御し、優れた粒子形態及び高い結晶性をもたらしていることに起因していると考えられる。なお、化合物2乃至4の粒子形態は、水熱合成によって得られるMOF-5の粒子形態(>500μm)にも類似していた。
【0225】
上述した二酸化炭素の固定方法のスケーラビリティを評価すべく、化合物2Lと化合物2との比較を行った。具体的には、両化合物のPXRD測定を行った。その結果を図13に示す。なお、上述した通り、化合物2Lは、大きなスケールで、空気中、脱水されていない溶媒を用いた反応により得られた配位高分子である。
【0226】
図13は、化合物2LのPXRDパターンを示している。図13図1との比較から分かるように、化合物2LのPXRDパターンは、化合物2のPXRDパターンとよく適合していた。この結果から、上述した二酸化炭素の固定は、厳しい脱水条件を必要としないことが分かった。
【0227】
上述した二酸化炭素の固定が、二酸化炭素の含有量が少ないガスを用いても実現できることを確認するために、化合物1Dと化合物1との比較を行った。具体的には、両化合物のPXRD測定を行った。その結果を図14に示す。なお、上述した通り、化合物1Dは、空気(CO濃度:400ppm)を用いた二酸化炭素の固定によって得られた配位高分子である。
【0228】
図14は、化合物1DのPXRDパターンを示している。図14図1との比較から分かるように、化合物1DのPXRDパターンは、やや結晶性が下がるものの、化合物1のPXRDパターンとよく適合していた。この結果から、上述した二酸化炭素の固定は、空気などの二酸化炭素の含有量が少ないガスを用いても実現できることが分かった。
【0229】
化合物1乃至4の熱安定性を評価した。即ち、化合物1乃至4に対して、TGA(Thermogravimetric Analysis)測定を行った。このTGA測定は、Rigaku Thermo plus TG 8121を用いて行った。温度範囲は40℃~500℃とし、加熱速度は10℃/minとした。なお、この測定は、Ar雰囲気下で行った。その結果を図15に示す。
【0230】
図15は、Ar雰囲気下における、化合物1乃至4のTGAプロファイルを示している。図15に示す通り、化合物1乃至4は、優れた熱安定性を有している。なお、金属イオンへの配位によるカルバメート構造の安定化については、後で更に詳しく検討する。
【0231】
化合物1乃至4の多孔性を評価した。即ち、化合物1乃至4に対して、ガス吸着測定を行った。このガス吸着測定は、BELSORP-maxを用いて行った。なお、ガス吸着測定に先立って、サンプルを真空中80℃で活性化した。
【0232】
図16は、化合物1乃至4の77Kにおける窒素吸着等温線を示している。なお、これ以降に示す吸着等温線において、塗りつぶしたデータ点は昇圧時の吸着量を示しており、白抜きのデータ点は降圧時の吸着量を示している。図16から分かるように、化合物1乃至4は、低圧において鋭い窒素吸着量の上昇を示した。これにより、化合物1乃至4におけるマイクロ孔の存在が示唆された。
【0233】
77Kにおける窒素吸着等温線から得られるBET比表面積は、
化合物1:1525m/g
化合物2:2366m/g
化合物3:1943m/g
化合物4:1270m/g
と計算された。なお、これらの値は、MOF-5のBET比表面積の報告値(570~3800m/g)の中間程度である。化合物1乃至4とMOF-5とのBET比表面積の差は、架橋配位子としてのPDCがBDCよりやや嵩高いことに起因していると考えられる。また、化合物2のBET比表面積が特に大きいのは、その高い結晶性に起因していると考えられる。
【0234】
図17は、化合物1乃至4の細孔サイズ分布を示している。この細孔サイズ分布は、窒素吸着等温線に基づいてNLDFT(Non-Localized Density Functional Theory)モデルによって計算したものである。図17から分かるように、化合物1乃至4は、何れも主に1.2nmの細孔サイズを有していた。この値は、MOF-5の細孔サイズ(1.4nm)によく適合している。
【0235】
図18は、化合物1乃至4の77Kにおける水素吸着等温線及び水素吸着量に対する等量吸着熱曲線を示している。図18に示す通り、化合物1乃至4は、中程度の水素吸着量(0.9乃至1.4質量%)を示した。
【0236】
77Kにおける水素吸着等温線(図18)及び88Kにおける水素吸着等温線(図示せず)から、化合物1乃至4のゼロカバレッジ吸着エンタルピーQstをVirialフィッティングにより求めた。その結果、水素吸着に対するQstは、
化合物1:6.9kJ/mol
化合物2:6.3kJ/mol
化合物3:6.7kJ/mol
化合物4:7.4kJ/mol
と計算された。これらの値は、MOF-5のQstの値(3.8~4.8kJ/mol)より高かった。最も細孔サイズが小さい化合物4のQstが最も高かったことから、化合物1乃至4のQstがMOF-5のQstより高い理由は、より小さな細孔における隣接するH分子の相互作用に起因するものと推測される。
【0237】
図19は、化合物1乃至4の195Kにおける二酸化炭素吸着等温線を示している。図19に示すように、化合物1乃至4の二酸化炭素吸着量は、
化合物1:353cm/g
化合物2:187cm/g
化合物3:429cm/g
化合物4:296cm/g
であり、何れも優れた二酸化炭素吸着量を有していた。なお、化合物1乃至4の中では、化合物3が最も高い二酸化炭素吸着量を示した。
【0238】
図20は、化合物3の298Kにおける高圧二酸化炭素吸着等温線を示している。この吸着等温線は、2.6MPaで飽和しており、COの最大吸着量は37.2質量%であった。即ち、完全にCO2で充填された化合物3の合計CO含有量は、68.8質量%(カルバメート部位として31.6質量%、吸着材として37.2質量%)であった。このCO含有量は、固体二酸化炭素(ドライアイス)の密度(195K及び0.1MPaにおいて1.562g/cm)の3分の1にも相当する高水準である。
【0239】
化合物1乃至4の吸着特性及びCO含有量を表4にまとめる。
【0240】
【表4】
【0241】
合成方法の違いがガス吸着性能に与える影響を調べるため、化合物1、1A、1B、及び1Cについて、ガス吸着測定を行った。その結果を図21に示す。
【0242】
図21は、化合物1、1A、1B、及び1Cの77Kにおける窒素吸着等温線を示している。図21から分かるように、BET比表面積は、化合物1C<1B<1A<1の順で大きかった。
【0243】
同様に、合成方法の違いがガス吸着性能に与える影響を調べるため、化合物2Lについて、ガス吸着測定を行った。その結果を図22に示す。
【0244】
図22は、化合物2Lの77Kにおける窒素吸着等温線を示している。図22図16との比較により、BET比表面積は、化合物2L<2の順で大きいことが分かった。
【0245】
例5
化合物5について、粉末X線回折(PXRD)測定を行った。その結果を図23に示す。
【0246】
図23は、化合物5のPXRDパターンを示している。図23から分かるように、化合物5は、高い結晶性を有していた。また、低角におけるピークの存在から、配位高分子ネットワークの形成が示唆された。特に、化合物5のPXRDパターンは、Cu-JASTのPXRDパターン(図示せず)と類似しており、化合物5は、Cu-JASTと同形の構造を有していることが示唆された。
【0247】
化合物5について、ガス吸着測定を行った。その結果を図24に示す。
【0248】
図24は、化合物5の77Kにおける窒素吸着等温線及び195Kにおける二酸化炭素吸着等温線を示している。前者から計算されるBET比表面積は18.5m/gであり、化合物5が多孔性を有していることが分かった。
【0249】
化合物5について、TGA測定を行った。その結果を図25に示す。
【0250】
図25は、化合物5のTGA-DTAプロファイルを示している。図25に示す通り、化合物5は、150℃付近まで安定であり、優れた熱安定性を有していることが分かった。
【0251】
化合物5中にカルバメート配位子及び補助配位子が含まれていることを確認するために、溶液NMR測定を行った。この溶液NMR測定は、Bruker Avance IIIを用いて、25℃で行った。具体的には、化合物5をDCl/DO(35%)中で分解させて、得られた溶液に対して、DMSO-d中でのNMR測定を行った。
【0252】
図26は、化合物5の溶液NMRスペクトルを示している。図26から分かるように、化合物5を分解させると、PZ及びbpyの存在が確認された。また、PZとbpyとのモル比は、1:2であった。これらの観察から、化合物5が確かに2種類の配位子から形成されており、Cu-JASTと類似の組成を有していることが示唆された。
【0253】
例6
化合物6及び6′について、空気中での粉末X線回折(PXRD)測定を行った。その結果を、UiO-66のシミュレーションパターンと共に、図27に示す。
【0254】
図27は、化合物6及び6′及びUiO-66のPXRDパターンを示している。図27から分かるように、化合物6及び6′の結晶性は高くないものの、低角におけるブロードなピークがUiO-66のピークと類似しており、UiO-66と同様のネットワーク構造の存在が示唆された。
【0255】
化合物6及び6′について、ガス吸着測定を行った。それらの結果を図28に示す。
【0256】
図28は、化合物6及び6′の77Kにおける窒素吸着等温線を示している。後者から計算されるBET比表面積は18.6m/gであり、化合物6′が多孔性を有していることが分かった。特に、化合物6′は、吸着-脱着においてヒステリシスを示しており、マイクロ孔の存在が示唆された。
【0257】
化合物6及び6′について、FT-IR測定を行った。その結果を、化合物1及びZr-SBUの測定結果と共に、図29に示す。
【0258】
図29は、化合物6及び6′、化合物1、及びZr-SBUのFT-IRスペクトルを示している。図29に示す通り、化合物6及び6′は、化合物1と類似するFT-IRスペクトルを示した。この結果から、化合物6及び6′は、化合物1と同様に、カルバメート配位子であるPDCを含んでいることが示唆された。また、化合物6及び6′は、Zr-SBUとも類似するFT-IRスペクトルを示した。この結果から、化合物6及び6′は、Zrクラスタ構造を保持していることが示唆された。
【0259】
化合物6及び6′について、TGA測定を行った。その結果を図30に示す。
【0260】
図30は、化合物6及び6′のTGAプロファイルを示している。図30に示す通り、化合物6及び6′では、130℃付近で内部溶媒が除去されており、中程度の熱安定性を有していることが分かった。
【0261】
化合物6′について、EXAFS測定を行った。その結果を、Zr-SBUに対する測定結果と共に、図31に示す。
【0262】
図31は、化合物6′及びZr-SBUのZr K-edge EXAFSスペクトルを示している。図31に示すように、化合物6′は、Zr-SBUと同様のEXAFSスペクトルを有していた。この結果から、化合物6′は、Zr-SBUと同様のクラスタ構造を保持していることが分かった。
【0263】
例7
化合物7M、7E、及び7iPについて、Ar雰囲気下での粉末X線回折(PXRD)測定を行った。その結果を、Cu-JAST-1のシミュレーションパターンと共に、図32に示す。
【0264】
図32は、化合物7M、7E、及び7iP、並びにCu-JAST-1のPXRDパターンを示している。図32から分かるように、化合物7E及び7iPは高い結晶性を有しており、Cu-JAST-1と類似するPXRDパターンを有していた。化合物7Mは、結晶性は高くないものの、低角におけるブロードなピークがCu-JAST-1のピークと類似しており、Cu-JAST-1と同様のネットワーク構造の存在が示唆された。
【0265】
化合物7Eについて、ガス吸着測定を行った。それらの結果を図33に示す。
【0266】
図33は、化合物7Eの195Kにおける二酸化炭素吸着等温線を示している。図33に示す通り、1atmにおける二酸化炭素吸着量は29cm/gであり、化合物7Eが多孔性を有していることが分かった。また、吸着等温線のプロファイルから、化合物7Eは、マイクロ孔を有するものの、細孔の均一性はそれほど高くないことが示唆された。
【0267】
例8
化合物8について、Ar雰囲気下での粉末X線回折(PXRD)測定を行った。その結果を、図34に示す。
【0268】
図34は、化合物8のPXRDパターンを示している。図34から分かるように、化合物8の結晶性は高くないものの、低角において大きなピークを示しており、配位高分子構造による長距離秩序の存在が示唆された。
【0269】
化合物8について、ガス吸着測定を行った。その結果を図35に示す。
【0270】
図35は、化合物8の195Kにおける二酸化炭素吸着等温線を示している。図35に示す通り、1atmにおける二酸化炭素吸着量は52cm/gであり、化合物8が多孔性を有していることが分かった。また、吸着等温線のプロファイルは、低圧から大きく立ち上がっており、化合物8は、典型的なマイクロ孔の構造を有していることが示唆された。
【0271】
化合物8について、TGA測定を行った。その結果を図36に示す。
【0272】
図36は、化合物8のTGAプロファイルを示している。図36に示す通り、化合物8では、120℃付近で内部溶媒が除去されており、中程度の熱安定性を有していることが分かった。
【0273】
例9
化合物9について、粉末X線回折(PXRD)測定を行った。この測定は、ガス吸着前後の双方について行った。なお、ガス吸着後の測定には、77Kにおける窒素吸着測定及び195Kにおける二酸化炭素吸着測定を行った後のサンプルを用いた。その結果を図37に示す。
【0274】
図37は、化合物9のガス吸着前後のPXRDパターンを示している。図37に示す通り、化合物9は、高い結晶性を有しており、その結晶構造は、ガスを吸着した後も変化しないことが分かった。また、低角におけるピークの存在から、配位高分子ネットワークの形成が示唆された。
【0275】
化合物9について、ガス吸着測定を行った。その結果を図38及び図39に示す。
【0276】
図38は、化合物9の77Kにおける窒素吸着等温線を示している。図39は、化合物9の195Kにおける二酸化炭素吸着等温線を示している。前者から計算されるBET比表面積は140m/gであり、後者から示されるCO吸着量は48cm/gであった。即ち、図38及び図39に示す結果から、化合物9が多孔性を有していることが分かった。また、図38及び図39に示す吸着プロファイルから、化合物9がマイクロ孔及びメゾ孔の双方を有していることが示唆された。
【0277】
化合物9について、Ar雰囲気下で、FT-IR測定を行った。その結果を、原料としても用いたZn-SBUについての測定結果と共に、図40に示す。
【0278】
図40は、化合物9及びZn-SBUのFT-IRスペクトルを示している。図40に示す通り、化合物9においては、ZnOクラスタに相当するピークは検出されなかった。この結果は、化合物9が、化合物1などとは異なった構造を有していることを示唆している。
【0279】
化合物9について、TGA測定を行った。その結果を図41に示す。
【0280】
図41は、化合物9のTGA-DTAプロファイルを示している。図41に示す通り、化合物9は、200℃付近まで安定であり、優れた熱安定性を有していることが分かった。
【0281】
例10
化合物10及びその前駆体である化合物10Pについて、粉末X線回折(PXRD)測定を行った。その結果を図42及び図43に示す。
【0282】
図42は、化合物10のPXRDパターンを示している。図42から分かるように、化合物10は、高い結晶性を有していた。また、低角におけるピークの存在から、配位高分子ネットワークの形成が示唆された。
【0283】
図43は、化合物10、類似構造の配位高分子、及び化合物10PのPXRDパターンを示している。この類似構造の配位高分子は、下記文献4に記載されている化合物であり、Cu2+のパドルホイールユニットと1,4-シクロヘキサンジカルボン酸とを含んだ配位高分子である。図43に示すように、化合物10は、この配位高分子と類似した一次元鎖状構造を有していると推測される。また、化合物10及び化合物10PのPXRDパターンの比較から、両者が全く異なった構造を有していることが分かった。
文献4:H. Kumagai et al. Inorg. Chem. 2007, 46, 5949
【0284】
化合物10Pから化合物10への変化を追跡するため、両化合物のFT-IR測定を行った。その結果を図44に示す。
【0285】
図44は、化合物10及び化合物10PのFT-IRスペクトルを示している。図44から分かるように、化合物10Pから化合物10への変化に伴って、N-Hに相当するピーク(3600cm-1付近)が消失し、C=Oに相当するピーク(1528cmー1付近)が新たに形成されていた。
【0286】
化合物10及び化合物10PのPXRDパターン及びFT-IRスペクトルの差異、及び、合成時の観察事実から、以下のような機構が推定される。
【0287】
まず、第1の工程において、Cu塩とHPZとが反応し、単核又は高分子錯体が生成されて、紫色の沈殿物(化合物10P)が生成した。この沈殿物は、上述したN-Hの存在から、例えば、[Cu(HPZ)(NO]などの組成を有していると考えられる。
【0288】
次に、第2の工程において、COを含んだガスの導入により、Cu-N結合が切断され、カルバメートアニオン部位が形成されて、Cu-O結合が生成されて、青色の沈殿物(化合物10)が生成した。この沈殿物は、上述したC=Oの存在から、例えば、[Cu(PDC)]などの組成を有していると考えられる。
【0289】
なお、化合物10Pから化合物10への変換に伴う色の変化は、配位子の変化によるCu2+の電子構造の変換を示唆している。
【0290】
化合物10について、ガス吸着測定を行った。その結果を図45に示す。
【0291】
図45は、化合物10の77Kにおける窒素吸着等温線及び195Kにおける二酸化炭素吸着等温線を示している。図45中、窒素の吸着量は丸で示し、二酸化炭素の吸着量は四角で示している。前者から計算されるBET比表面積は4.78m/gであり、後者から示されるCO吸着量は1.6cm/gであった。即ち、化合物10は、多孔性を有していなかった。
【0292】
例11
化合物11について、粉末X線回折(PXRD)測定を行った。その結果を図46に示す。
【0293】
図46は、化合物11のPXRDパターンを示している。図46から分かるように、化合物11は、高い結晶性を有していた。また、低角におけるピークの存在から、配位高分子ネットワークの形成が示唆された。
【0294】
化合物11について、ガス吸着測定を行った。その結果を図47及び図48に示す。
【0295】
図47は、化合物11の77Kにおける窒素吸着等温線を示している。図48は、化合物11の195Kにおける二酸化炭素吸着等温線を示している。前者から計算されるBET比表面積は3.57m/gであり、後者から示されるCO吸着量は8cm/gであった。即ち、図47及び図48に示す結果から、化合物11が多孔性を有していないことが分かった。
【0296】
化合物11について、TGA測定を行った。その結果を図49に示す。
【0297】
図49は、化合物11のTGA-DTAプロファイルを示している。図49に示す通り、化合物11では、90℃付近で内部溶媒が除去された後、300℃付近まで重量減少が見られず、優れた熱安定性を有していることが分かった。
【0298】
例12
化合物12について、Ar雰囲気下及び空気中の双方において、粉末X線回折(PXRD)測定を行った。それらの結果を、MOF-177のシミュレーションパターンと共に、図50に示す。
【0299】
図50は、化合物12及びMOF-177のPXRDパターンを示している。図50から分かるように、化合物12の結晶性は高くないものの、低角におけるブロードなピークがMOF-177のピークと類似しており、MOF-177と同様のネットワーク構造の存在が示唆された。また、化合物12は、空気中でもその構造を保持していることが分かった。
【0300】
化合物12について、FT-IR測定を行った。その結果を、化合物1についての測定結果と共に、図51に示す。
【0301】
図51は、化合物12及び化合物1のFT-IRスペクトルを示している。図51から分かるように、化合物12は、化合物1と類似のFT-IRスペクトルを有していた。即ち、化合物12は、ZnOクラスタを保持していると共に、カルバメート配位子を有していることが示唆された。
【0302】
化合物12について、TGA測定を行った。その結果を図52に示す。
【0303】
図52は、化合物12のTGA-DTAプロファイルを示している。図52に示す通り、化合物12では、140℃付近で内部溶媒が除去された後、250℃付近まで重量減少が見られず、優れた熱安定性を有していることが分かった。
【0304】
例13
化合物13について、Ar雰囲気下及び空気中の双方において、粉末X線回折(PXRD)測定を行った。それらの結果を、図53に示す。
【0305】
図53は、化合物13のPXRDパターンを示している。図53から分かるように、化合物13は、高い結晶性を有していた。また、低角におけるピークの存在から、配位高分子ネットワークの形成が示唆された。また、化合物13は、空気中でもその構造を保持していることが分かった。
【0306】
例14
化合物14について、粉末X線回折(PXRD)測定を行った。それらの結果を、図54に示す。
【0307】
図54は、化合物14のPXRDパターンを示している。図54から分かるように、化合物14は、非晶質であった。
【0308】
化合物14について、ガス吸着測定を行った。その結果を図55に示す。
【0309】
図55は、化合物14の195Kにおける二酸化炭素吸着等温線を示している。図55に示す結果から示されるCO吸着量は20.5cm/gであった。即ち、図55に示す結果から、化合物14が多孔性を有していることが分かった。
【0310】
化合物14について、FT-IR測定を行った。その結果を、図56に示す。
【0311】
図56は、化合物14のFT-IRスペクトルを示している。図56に示す通り、化合物14は、N-H及びC=Oに相当するピークを示した。この結果から、化合物14は、NH(CO)CHCHCHNH(CO)によって表される構造を有していることが示唆された。
【0312】
化合物14について、TGA測定を行った。その結果を図57に示す。
【0313】
図57は、化合物14のTGA-DTAプロファイルを示している。図57に示す通り、化合物14では、120℃付近まで大きな重量減少が見られず、中程度の熱安定性を有していることが分かった。
【0314】
例15
化合物15について、粉末X線回折(PXRD)測定を行った。それらの結果を、図58に示す。
【0315】
図58は、化合物15のPXRDパターンを示している。図58から分かるように、化合物15は、高い結晶性を有していた。また、低角におけるピークの存在から、配位高分子ネットワークの形成が示唆された。
【0316】
化合物15について、ガス吸着測定を行った。その結果を図59に示す。
【0317】
図59は、化合物15の195Kにおける二酸化炭素吸着等温線を示している。図59に示す結果から示されるCO吸着量は9.4cm/gであった。
【0318】
化合物15について、TGA測定を行った。その結果を図60に示す。
【0319】
図60は、化合物15のTGA-DTAプロファイルを示している。図60に示す通り、化合物15は、中程度の熱安定性を有していることが分かった。
【0320】
例16
化合物16について、粉末X線回折(PXRD)測定を行った。それらの結果を、図61に示す。
【0321】
図61は、化合物16のPXRDパターンを示している。図61から分かるように、化合物16は、高い結晶性を有していた。また、低角におけるピークの存在から、配位高分子ネットワークの形成が示唆された。
【0322】
化合物16について、ガス吸着測定を行った。その結果を図62に示す。
【0323】
図62は、化合物16の195Kにおける二酸化炭素吸着等温線を示している。図62に示す結果から示されるCO吸着量は1.3cm/gであった。
【0324】
化合物16について、TGA測定を行った。その結果を図63に示す。
【0325】
図63は、化合物16のTGA-DTAプロファイルを示している。図63に示す通り、化合物16では、段階的な重量減少が見られ、中程度の熱安定性を有していることが分かった。
【0326】
以上の各例について、代表的な情報を以下の表5にまとめる。下記表5に示す通り、例1乃至8及び10乃至16では、二酸化炭素の固定を行うことができた。例1乃至13並びに15及び16では、結晶性の配位高分子が得られた。特に、例1乃至5、7、9乃至11、13、並びに15及び16では、高い結晶性を有する配位高分子が得られた。また、例1乃至9及び14では、多孔性の配位高分子が得られた。
【0327】
【表5】
【0328】
金属イオンへの配位によるカルバメート構造の安定化
最後に、架橋配位子中のカルバメートアニオン部位が金属イオンへの配位によって安定化していることを、実験及びシミュレーションによって調べた。
【0329】
対照化合物として、PZ-COの合成を行った。この合成は、以下の文献5に従って行った。
文献5:Sim, J. et al. Bull. Korean Chem. Soc. 2016, 37 (11), 1854-1857.
【0330】
PZ-COの合成スキームを以下に示す。
【化26】
【0331】
金属イオンへの配位によるカルバメート構造の安定化を示すため、化合物2と、PZ-COとに対して、TGA測定を行った。なお、この測定は、空気中、及び、Ar雰囲気下中の双方において行った。その結果を図64に示す。
【0332】
図64は、空気中及びAr雰囲気下における、化合物2及びPZ-COのTGAプロファイルを示している。図64に示す通り、化合物2は、PZ-COと比較して、優れた熱安定性を有していた。
【0333】
化合物2と、PZ-COとに対して、COのTPD(Temperature Programmed Desorption)測定を行った。このTPD測定は、MicrotracBEL BELCATを用いて行った。温度範囲は30℃~500℃とし、加熱速度は10℃/minとした。なお、この測定は、10mgの各サンプルを用いて、Arガスフロー(30mL/min)下で行った。その結果を、TGA測定の結果と共に、図65に示す。
【0334】
図65は、Ar雰囲気下における、化合物2及びPZ-COのTGA及びTPDプロファイルを示している。図65に示す通り、化合物2は、PZ-COと比較して、CO放出温度が高く、優れた熱安定性を有していることが分かった。
【0335】
次に、理論計算によって、金属イオンとカルバメートアニオン部位との結合エネルギーを評価した。具体的には、Zn2+とPDCとの間の結合エネルギーを、DFT(Density Functional Theory)計算によって検討した。このDFT計算は、Fritz Haber Institute ab initio molecular simulations(FHI-aims)package version 171221_1を用いて行った。
【0336】
化合物1に対応する計算用のモデルとして、酢酸アニオンでキャップされた2つの[ZnO(CO]クラスタが単一のPDCで繋がれている、[ZnO(OAc)]-PDC-[ZnO(OAc)]構造を用いた。そして、Zn2+とPDCの酸素原子との間の距離を1.51Å乃至4.43Åの範囲で変化させて、当該モデルの全エネルギーを計算した。その結果を図66及び図67に示す。
【0337】
図66は、化合物1及びMOF-5のモデル構造におけるZn-Oの距離に応じたポテンシャルエネルギーを示している。図67は、ポテンシャルエネルギーの最大値及び最小値に対応する化合物1のモデル構造を示している。図66及び図67から分かるように、ポテンシャルエネルギーは、Zn-Oの距離が1.96Åのときに最小となり、4.45Åのときに最大となった。この結果は、PDCのカルバメートアニオン部位がZnに配位することにより、ポテンシャルエネルギーが減少することを示している。
【0338】
上記のTGA及びTPDプロファイル並びにDFT計算から、本発明に係る二酸化炭素の固定材及び固定方法、並びに、本発明に係る多孔性配位高分子及びその製造方法において、架橋配位子中のカルバメートアニオン部位は、金属イオンに配位することによって熱力学的に安定化されていることが示唆された。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図12D
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40
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図45
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図49
図50
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図52
図53
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図67