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特開2023-85794光加熱方法、ワイドバンドギャップ半導体用の光加熱装置
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  • 特開-光加熱方法、ワイドバンドギャップ半導体用の光加熱装置 図1
  • 特開-光加熱方法、ワイドバンドギャップ半導体用の光加熱装置 図2A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085794
(43)【公開日】2023-06-21
(54)【発明の名称】光加熱方法、ワイドバンドギャップ半導体用の光加熱装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/26 20060101AFI20230614BHJP
   H01L 21/42 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
H01L21/26 J
H01L21/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200026
(22)【出願日】2021-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 隆博
(57)【要約】
【課題】ワイドバンドギャップ半導体を含む被処理体を効率よく加熱することのできる光加熱方法を提供する。
【解決手段】前記光加熱方法は、ワイドバンドギャップ半導体を含む被処理体に対し、UV-LED光源から出射されたピーク波長が175nm~370nmの範囲内の紫外線を、窓部材を介して照射して前記被処理体を加熱する工程(a)を有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイドバンドギャップ半導体を含む被処理体に対し、UV-LED光源から出射されたピーク波長が175nm~370nmの範囲内の紫外線を、窓部材を介して照射して前記被処理体を加熱する工程(a)を有することを特徴とする、光加熱方法。
【請求項2】
前記工程(a)の実行中に、0.5μm~5μmの範囲内に属する所定の波長域を感度波長域とする放射温度計が、前記被処理体から放射される光を受光することで、前記被処理体の温度を計測する工程(b)を有することを特徴とする、請求項1に記載の光加熱方法。
【請求項3】
前記紫外線は、ピーク波長が190nm~370nmの範囲内であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の光加熱方法。
【請求項4】
前記ワイドバンドギャップ半導体はGa23であり、
前記紫外線は、ピーク波長が300nm以下であることを特徴とする、請求項3に記載の光加熱方法。
【請求項5】
前記ワイドバンドギャップ半導体はGaN又はSiCであり、
前記紫外線は、ピーク波長が360nm以下であることを特徴とする、請求項3に記載の光加熱方法。
【請求項6】
ワイドバンドギャップ半導体用の光加熱装置であって、
ワイドバンドギャップ半導体を含む被処理体を収容するチャンバと、
前記チャンバ内で前記被処理体を支持する支持部材と、
ピーク波長が175nm~370nmの範囲内の紫外線を発するUV-LED光源と、
前記UV-LED光源から出射された前記紫外線を通過させて前記被処理体に導く窓部材とを備えたことを特徴とする、ワイドバンドギャップ半導体用の光加熱装置。
【請求項7】
前記UV-LED光源は、複数のLED素子が搭載されたLED基板を複数枚備え、
複数の前記LED基板は、前記LED基板の面に対する法線方向に見たときに、線対称、点対称又は回転対称に配置されていることを特徴とする、請求項6に記載のワイドバンドギャップ半導体用の光加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光加熱方法に関し、特に「ワイドバンドギャップ半導体」と称される種類の半導体を含む被処理体に対する光加熱方法に関する。また、本発明は、ワイドバンドギャップ半導体用の光加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造プロセスでは、半導体ウェハを初めとする被処理体に対して、成膜処理、酸化拡散処理、改質処理、又はアニール処理等の種々の熱処理が行われる。これらの熱処理の実行の際には、光が用いられることが多い。このように、光を用いて被処理体を加熱することを「光加熱」と称する。
【0003】
光加熱を利用した半導体加熱装置としては、例えば下記特許文献1の技術が知られている。特許文献1の装置では、810nm~980nmの波長の光を発するLEDランプが光源として利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-009927号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Brinkmann, R. T., et.al., "Atomic and Molecular Species", The Middle Ultraviolet: Its Science and Technology. Part of the Wiley Series in Pure and Applied Optics. Edited by A. E. S. Green. Published by John Wiley & Sons, Inc., New York, 1966, p.40
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、従来のデバイスよりも高電圧・大電流に対応した、パワー半導体デバイスの開発が進められている。従来のデバイスではSiが一般的に利用されていたが、小型で高耐圧特性を示すデバイスを実現するために、Siよりもバリガ利得係数の大きい材料を用いた半導体デバイスの開発が予想される。このような半導体の材料としては、GaN、Ga23、及びSiC等が挙げられる。これらの半導体は、いずれもバンドギャップが広く(ワイドバンドギャップ)、薄い空乏層で高い絶縁破壊電界強度が得られるため、小型で高耐圧な素子が実現できる。
【0007】
ワイドバンドギャップ半導体とは、Siよりもバンドギャップが大きい半導体を指し、より具体的には2eV以上の禁制帯幅をもつ半導体を指す。この種の半導体としては、典型的にはGaN、Ga23、及びSiCが挙げられるが、その他にZnO、ZnSe、ダイヤモンド等も含まれる。
【0008】
Siよりもバリガ利得指数の大きい、GaN、Ga23、及びSiCは、ワイドバンドギャップ半導体に分類されるため、特許文献1の装置が利用するような、810nm~980nmの波長域の光を透過してしまう。つまり、この波長域の光を用いてワイドバンドギャップ半導体を加熱することができない。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑み、ワイドバンドギャップ半導体を含む被処理体を効率よく加熱することのできる光加熱方法を提供することを目的とする。また、本発明は、ワイドバンドギャップ半導体を含む被処理体の加熱に適した光加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る光加熱方法は、ワイドバンドギャップ半導体を含む被処理体に対し、UV-LED光源から出射されたピーク波長が175nm~370nmの範囲内の紫外線を、窓部材を介して照射して前記被処理体を加熱する工程(a)を有することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る光加熱方法では、ピーク波長が175nm~370nmの範囲内である、従来よりもかなり短い波長域の紫外線が利用される。この波長域の紫外線が利用されることで、被処理体がワイドバンドギャップ半導体を含む場合であっても、加熱作用を奏することのできる程度に被処理体において紫外線が吸収され得る。これにより、被処理体を非接触で加熱できる。
【0012】
窓部材は、前記紫外線に対する透過率の高い材料で構成される。この透過率は、50%以上であるのが好ましく、70%以上であるのがより好ましく、80%以上であるのが特に好ましい。前記紫外線のピーク波長が175nm~200nmである場合には、窓部材の材料としては合成石英、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化カルシウム(CaF2)、又はフッ化バリウム(BaF2)が好適に採用される。一方、前記紫外線のピーク波長が200nm~370nmである場合には、合成石英の他、溶融石英、サファイアが好適に採用される。このような材料で窓部材を構成することにより、窓部材において紫外線が大幅に吸収されることがなく、UV-LED光源からの紫外線を効率的に被処理体の加熱に利用できる。
【0013】
前記工程(a)の実行中に、0.5μm~5μmの範囲内に属する所定の波長域を感度波長域とする放射温度計が、前記被処理体から放射される光を受光することで、前記被処理体の温度を計測する工程(b)を有するものとしても構わない。
【0014】
LED素子に代表される半導体発光素子からは、ピーク波長を含み発光強度が相対的に高い波長域(主発光波長域)の光に加えて、主発光波長域よりも長波長側において、発光強度が相対的に低い波長域の光が発せられることが知られている。この長波長側の光は、発光強度自体は主発光波長域の強度と比較して非常に低いながらも、ガウシアン分布で近似した場合における裾の強度よりは少し高い強度を示す。この長波長側の光は、半導体発光素子の製造時に不可避的に発生した活性層中の欠陥又は不純物準位由来の光であり、「ディープ光」と称される。
【0015】
例えば、加熱用光源としてピーク波長が400nm~1000nmの範囲内に位置する光源を用いた場合、この光源から出射されるディープ光のうちの強度が比較的高い波長域が、放射温度計の感度波長域に重なりを有してしまう。この結果、加熱用光源からの光の一部が放射温度計に受光されることで、被処理体の温度を誤検知するおそれがある。
【0016】
感度波長域が0.5μm~5μmであるような放射温度計によれば、被処理体の温度を200℃~500℃といった比較的低温の範囲から測定することができるため、より精密な温度調整が可能となる。被処理体に対する加熱が開始されてからの初期段階から、精度良く温度を検出する観点からは、放射温度計の感度波長域は、0.7μm~4μmとするのがより好ましく、1μm~3μmとするのが特に好ましい。
【0017】
なお、放射温度計の感度波長域の上限は、被処理体に含まれるワイドバンドギャップ半導体の材料の融点に応じて適宜設定されてもよい。ただし、このことは、前記融点より高い温度範囲が計測可能な放射温度計を用いて被処理体の温度を計測することを排除するものではない。
【0018】
前記紫外線は、ピーク波長が190nm~370nmの範囲内であるものとしても構わない。
【0019】
紫外線の波長が190nm未満になると、酸素(O2)に対する吸収率が高まることが知られている(上記非特許文献1参照)。図1は、この非特許文献1に開示されている、O2を含むいくつかの物質に関する、波長と吸収係数の関係を示すグラフである。
【0020】
図1によれば、波長が190nmを下回る領域から、酸素(O2)に対する紫外線の吸収係数が飛躍的に増加傾向を示し始めることが理解される。例えば、低圧水銀ランプから発せられた紫外線に含まれる185nm近傍の波長成分が酸素に吸収されると、以下の(1)式に従って、基底状態の原子状酸素 O(3P) が生成される。
2 + hν (185nm) → O(3P) + O(3P) ‥‥(1)
【0021】
この原子状酸素O(3P)は、酸素(O2)と反応し、以下の(2)式に従ってオゾン(O3)を生成する。
O(3P) + O2 → O3 ‥‥(2)
【0022】
光加熱処理を行う場合、光源は一般的には大気中に設置される。この点に鑑み、本発明に係る方法においてUV-LED光源が大気中に設置される場合、UV-LED光源から照射された紫外線は、光透過用の窓を通じて、典型的には真空環境下に設置された被処理体に対して照射される。よって、仮に紫外線に190nm未満の波長成分が含まれる場合には、この波長成分の紫外線が大気中の酸素に吸収される結果、上記(1)~(2)式によりオゾンを生成する原因となり得る。
【0023】
上記のように、UV-LED光源から出射される紫外線のピーク波長を190nm~370nmとすることで、UV-LED光源を大気中に設置した場合であっても、オゾン生成量を抑制する効果が得られる。なお、オゾン生成量をより低下させる観点からは、UV-LED光源から出射される紫外線のピーク波長を200nm以上とするのがより好適である。
【0024】
前記ワイドバンドギャップ半導体はGa23であり、
前記紫外線は、ピーク波長が300nm以下であるものとしても構わない。
【0025】
図2Aは、Ga23における波長と吸収率の関係を示すグラフである。図2Aによれば、Ga23においては、波長が300nm以下の範囲内で吸収率が増加傾向を示すことが理解される。つまり、被処理体がGa23を含む場合、UV-LED光源からピーク波長が300nm以下の紫外線を照射して被処理体を加熱することで、高い加熱効率が実現される。このピーク波長は280nm以下とするのが好ましく、260nm以下とするのがより好ましい。
【0026】
特に、図2Aによれば、波長が260nm以下の範囲内において、Ga23の吸収率が50%以上を示している。このため、被処理体が、Ga23を含む場合には、UV-LED光源から出射される紫外線のピーク波長を260nm以下とすることで、より高い加熱効率が実現される。
【0027】
図2Bは、Ga23に対して光を照射したときの、波長と侵入深さの関係を示すグラフである。なお、縦軸は対数表記となっている。図2Bによれば、波長280nmの紫外線が照射された場合に、紫外線の侵入深さが290nm程度である。そして、紫外線の波長が短波長になるほど、侵入深さが浅くなることが理解される。なお、図2Bでは、280nmを超える波長域の紫外線が照射された場合の侵入深さについてのデータが開示されていないが、波長が長波長側になるほど、侵入深さは深くなることはグラフの傾向からも明らかである。
【0028】
つまり、照射する紫外線を短波長にするほど、Ga23を含む被処理体の表面近傍(例えば深さ100nm以下の範囲内)に対して選択的に処理を行うことができる。これにより、被処理体の表面よりも下層に存在するデバイスに対する熱履歴の影響や熱ダメージを抑制しながらも、被処理体の表面に対する加熱処理を行うことができる。
【0029】
前記ワイドバンドギャップ半導体はGaN又はSiCであり、
前記紫外線は、ピーク波長が360nm以下であるものとしても構わない。
【0030】
図3Aは、GaNにおける波長と吸収率の関係を示すグラフである。図3Aによれば、GaNにおいては、波長が360nmの紫外線が照射された際の吸収率は約80%であり、波長が360nmを超えた範囲から、より厳密には波長が369nmを超えた範囲から、吸収率が急激に低下傾向を示すこと、及び波長が360nm以下の範囲内においては、比較的高い吸収率を示すことが理解される。つまり、被処理体がGaNを含む場合には、UV-LED光源からピーク波長が360nm以下の紫外線を照射して加熱することで、高い加熱効率が実現される。
【0031】
図3Bは、GaNに対して光を照射したときの波長と侵入深さの関係を、図2Bにならって表示したグラフである。図3Bによれば、波長360nmの紫外線が照射された場合の紫外線の侵入深さは、100nm程度である。そして、紫外線の波長が短波長になるほど、侵入深さが浅くなることが理解される。
【0032】
よって、照射する紫外線を短波長にするほど、GaNを含む被処理体の表面近傍(例えば深さ100nm以下の範囲内)に対して選択的に処理を行うことができる。これにより、被処理体の表面よりも下層に存在するデバイスに対する熱履歴の影響や熱ダメージを抑制しながらも、被処理体の表面に対する加熱処理を行うことができる。なお、より表面近傍を選択的に処理することを狙う場合には、紫外線のピーク波長は360nm以下とするのが好ましく、300nm以下とするのがより好ましい。
【0033】
図4Aは、SiCにおける波長と吸収率の関係を示すグラフである。図4Aによれば、波長360nmの紫外線に対するSiCの吸収率は50%程度であることが分かる。また、図4Aによれば、波長360nm以下の範囲内において吸収率が40%以上を示し、波長300nm以下の範囲内において吸収率が50%以上を示すことが分かる。つまり、被処理体が、SiNを含む場合においても、UV-LED光源からピーク波長が360nm以下の紫外線を照射して加熱することで、高い加熱効率が実現される。
【0034】
図4Bは、SiCに対して光を照射したときの、波長と侵入深さの関係を、図2Bにならって表示したグラフである。図4Bによれば、波長360nmの紫外線が照射された場合の紫外線の侵入深さは、100nmを下回っており、30nm程度である。そして、紫外線の波長が短波長になるほど、侵入深さが浅くなることが理解される。
【0035】
よって、照射する紫外線を短波長にするほど、SiCを含む被処理体の表面近傍(例えば深さ100nm以下の範囲内)に対して選択的に処理を行うことができる。これにより、被処理体の表面よりも下層に存在するデバイスに対する熱履歴の影響や熱ダメージを抑制しながらも、被処理体の表面に対する加熱処理を行うことができる。なお、より表面近傍を選択的に処理することを狙う場合には、紫外線のピーク波長は360nm以下とするのが好ましく、300nm以下とするのがより好ましい。
【0036】
本発明に係る光加熱装置は、ワイドバンドギャップ半導体用の光加熱装置であって、
ワイドバンドギャップ半導体を含む被処理体を収容するチャンバと、
前記チャンバ内で前記被処理体を支持する支持部材と、
ピーク波長が175nm~370nmの範囲内の紫外線を発するUV-LED光源と、
前記UV-LED光源から出射された前記紫外線を通過させて前記被処理体に導く窓部材とを備えたことを特徴とする。
【0037】
上記光加熱装置によれば、パワー半導体デバイスに利用されるワイドバンドギャップ半導体の処理の際に、非接触でありながらも効率的に加熱を行うことができる。
【0038】
上記構成において、前記UV-LED光源は、複数のLED素子が搭載されたLED基板を複数枚備え、
複数の前記LED基板は、前記LED基板の面に対する法線方向に見たときに、線対称、点対称又は回転対称に配置されているものとしても構わない。
【0039】
上記構成によれば、被処理体に対する光強度分布が均質化されるため、被処理体に対する均質な加熱が可能となる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、ワイドバンドギャップ半導体を含む被処理体を効率よく加熱することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】酸素(O2)を含むいくつかの物質に関する、波長と吸収係数の関係を示すグラフである。
図2A】Ga23における波長と吸収率の関係を示すグラフである。
図2B】Ga23に対して光を照射したときの、波長と侵入深さの関係を示すグラフである。
図3A】GaNにおける波長と吸収率の関係を示すグラフである。
図3B】GaNに対して光を照射したときの、波長と侵入深さの関係を示すグラフである。
図4A】SiCにおける波長と吸収率の関係を示すグラフである。
図4B】SiCに対して光を照射したときの、波長と侵入深さの関係を示すグラフである。
図5】光加熱装置の一実施形態の構成を模式的に示す断面図である。
図6】UV-LED光源から出射される紫外線のスペクトルの一例である。
図7】UV-LED光源を+Z側から見たときの模式的な平面図である。
図8】LED基板の構成を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明に係る光加熱方法は、ワイドバンドギャップ半導体を含む被処理体に対し、UV-LED光源から出射されたピーク波長が175nm~370nmの範囲内の紫外線を、窓部材を介して照射して前記被処理体を加熱する工程(a)を有する。以下では、この光加熱方法に関し、同方法を実施する一形態である光加熱装置の図面を参照しながら説明する。
【0043】
なお、以下の各図面は、いずれも模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比や個数は、実際の寸法比や個数と必ずしも一致していない。
【0044】
図5は、光加熱装置の一実施形態の構成を模式的に示す断面図である。図5に示す光加熱装置1は、ワイドバンドギャップ半導体を含む被処理体W1が収容されるチャンバ10と、UV-LED光源2と、放射温度計14とを備える。UV-LED光源2は、複数のLED素子11と、LED素子11が載置された支持基板12とを備える。なお、より詳細には、この実施形態におけるUV-LED光源2は、複数のLED素子11が搭載されたLED基板20を複数備えており、これらの複数のLED基板20が、支持基板12上に載置されている。
【0045】
以下の説明においては、図5に示すように、被処理体W1の主面をX-Y平面とし、このX-Y平面の法線方向をZ方向とする、X-Y-Z座標系が適宜参照される。図5に示すように、UV-LED光源2と被処理体W1とは、Z方向に対向している。この表記法を用いて記載すると、図5は、光加熱装置1をX-Z平面で切断したときの模式的な断面図に対応する。
【0046】
なお、以下では、方向を表現する際に正負の向きを区別する場合には、「+Z方向」、「-Z方向」のように、正負の符号を付して記載され、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「Z方向」と記載される。
【0047】
UV-LED光源2は、ピーク波長が175nm~370nmの範囲内の紫外線L1を発する。なお、本明細書において、UV-LED光源2が発する紫外線L1のピーク波長とは、発光スペクトル上において最も高い光強度(光出力)を示す波長を指す。
【0048】
図6は、UV-LED光源2がピーク波長が325nmの紫外線L1を発する光源である場合の、同紫外線L1のスペクトルである。なお、図6において、縦軸は対数表記されている。
【0049】
図6に示すスペクトルによれば、ピーク波長よりも長波長側の500nm近傍において、ピーク波長の光強度に対して0.1%~0.3%程度の光強度が示されている(図6内の領域A1)。これは、光源がLEDである場合に、不可避的に発生する、不純物準位又は欠陥準位由来の光であり、上述した「ディープ光」に対応する。
【0050】
光加熱装置1が備えるUV-LED光源2は、上述した特許文献1の装置が備えるLEDランプと比較して、発光波長域がかなり短い。
【0051】
図5に示すように、チャンバ10は、内側に支持部材13を備える。支持部材13は、被処理体W1の主面W1a及び主面W1bがX-Y平面上に配置されるように、被処理体W1を支持する。なお、図5では、被処理体W1の主面W1bが、UV-LED光源2に対面するように配置される。すなわち、主面W1a又は主面W1bには、回路素子や配線等が形成されており、主面W1bはUV-LED光源2から出射される紫外線L1が照射される面である。ただし、本発明は、配線等が形成されていないベア状態の基板を被処理体W1とする場合を排除するものではない。
【0052】
支持部材13による被処理体W1の支持態様は、その主面W1aがX-Y平面上に配置される限りにおいて任意である。例えば、支持部材13がピン状の突起を複数備え、その突起により被処理体W1を点で支持するものであっても構わない。
【0053】
図5に示すように、チャンバ10は、支持部材13で支持された状態の被処理体W1の主面W1aに対向する、第一窓10aと、主面W1bに対向する第二窓10bとを備える。
【0054】
第一窓10aは、放射温度計14が被処理体W1の主面W1aの温度を計測するために利用される窓である。放射温度計14は、測定対象物から放射される光を受光することで、当該測定対象物の表面温度を計測する温度計である。本実施形態において、放射温度計14の感度波長域は、0.5μm~5μmの範囲内に属する所定の波長域である。つまり、第一窓10aは、この放射温度計14の感度波長域に属する光を透過する部材で構成されている。一例として、第一窓10aは、一般的な石英ガラス、又はフッ化カルシウム等で構成される。
【0055】
光加熱装置1が備える放射温度計14の感度波長域は、UV-LED光源2から出射される紫外線L1の主発光波長域よりも、長波長側に位置する。より好ましくは、放射温度計14の感度波長域の下限値は、紫外線L1に含まれるディープ光の強度の最大値を示す波長よりも長波長側であるのが好ましい。上述したように、ディープ光の強度は、紫外線L1のピーク強度に対して0.1%~0.3%程度ではあるが、このディープ光の波長が放射温度計14の感度波長域に含まれている場合には、被処理体W1の温度を誤検知する可能性があるためである。
【0056】
なお、UV-LED光源2から出射される紫外線L1のピーク波長が短波長になるほど、ディープ光の最大強度を示す波長も短波長側にシフトする。このため、ディープ光の波長域と放射温度計14の感度波長域との重なりを可能な限りなくすためには、UV-LED光源2の発光波長を短波長にするか、放射温度計14の感度波長域の下限値を長波長にする方法が挙げられる。ただし、放射温度計14の感度波長域を長波長側にシフトさせると、放射温度計14に含まれる検出素子の比検出能力が低下するために、高精度な温度計測が困難になる。このため、低温領域の範囲内で高精度に温度を計測しながら被処理体W1の加熱を行う場合には、UV-LED光源2の発光波長を短波長にするのが好ましい。
【0057】
第二窓10bは、UV-LED光源2から出射された紫外線L1を、被処理体W1の主面W1bに導くための窓部材である。上述したように、紫外線L1のピーク波長は、175nm~370nmの範囲内である。第二窓10bは、この紫外線L1に対する透過率が50%以上である材料で構成される。一例として、第二窓10bは合成石英で構成される。この場合、第二窓10bは、紫外線L1のピーク波長が200nm未満であるような場合であっても、紫外線L1に対して高い透過率が示される。ただし、第二窓10bの材料は、紫外線L1のピーク波長に応じて適宜選択されてもよい。
【0058】
図7は、UV-LED光源2を+Z側から見たときの模式的な平面図である。図7に示すように、UV-LED光源2は、支持基板12の主面上に、複数のLED素子11を含む複数の光源領域12aが配列されて構成されている。より詳細には、光源領域12aはLED基板20上に形成されている。そして、複数のLED基板20が支持基板12の主面上に載置されている。
【0059】
図7に示すUV-LED光源2では、光源領域12aを形成するLED基板20が、複数枚、規則的に配列されている。本発明において、LED基板20の配列パターンは限定されないが、Z方向に見たときに、各LED基板20が対称性を有して配列されるのが好ましい。典型的には、Z方向に見たときに、各LED基板20は線対称、点対称、又は回転対称に配列されるのが好ましい。これにより、被処理体W1の主面W1bに対して紫外線L1が均質に照射される。
【0060】
図8は、LED基板20の構成を模式的に示す平面図である。図8に示すように、LED基板20は、複数のLED素子11と、アノード電極30a及びカソード電極30bとを備える。複数のLED素子11は、アノード電極30a及びカソード電極30bに対して電気的に接続されている。なお、図8に示す例では、LED基板20上にはツェナーダイオード30cが搭載されている。このツェナーダイオード30cは、アノード電極30aとカソード電極30bとの間において、複数のLED素子11と並列に接続されている。ツェナーダイオード30cは、静電気やサージ電流によってLED素子11が劣化することを防ぐために配置されている。
【0061】
図8に示す例では、LED基板20に搭載された複数のLED素子11は、直並列に接続されている。すなわち、複数のLED素子11の一部は、相互に直列に接続されることでLED素子群11sを構成し、このLED素子群11s同士が並列に接続されている。
【0062】
複数のLED素子11は、いずれもピーク波長が175nm~370nmの範囲内の紫外線L1を発する素子である。これらの複数のLED素子11から発せられる紫外線L1のピーク波長は、実質的に同一であるのが好ましい。ここでいう「実質的に同一」とは、製造過程における素子ばらつきに起因した波長のズレを許容する趣旨である。典型的には、波長のズレが±5nm以内であるものとしても構わない。
【0063】
一例として、LED基板20には、ピーク波長が325nmの紫外線L1を出射するLED素子11のみが搭載される。
別の一例として、LED基板20には、ピーク波長が260nmの紫外線L1を出射するLED素子11のみが搭載される。
更に、別の一例として、LED基板20には、ピーク波長が310nmの紫外線L1を出射するLED素子11のみが搭載される。
更に、別の一例として、LED基板20には、ピーク波長が365nmの紫外線L1を出射するLED素子11のみが搭載される。
【0064】
光加熱装置1によれば、UV-LED光源2から出射される紫外線L1のピーク波長が175nm~370nmの範囲内であるため、被処理体W1がワイドバンドギャップ半導体を含む場合であっても、この紫外線L1が被処理体W1において吸収される。これにより、被処理体W1に対して非接触による加熱を行うことができる。
【0065】
更に、この光照射工程の実行時に、放射温度計14によって被処理体W1から放射される光を受光することで、被処理体W1の温度を検知できる。上述したように、放射温度計14の感度波長域を、紫外線L1に含まれるディープ光の最大強度を示す波長よりも長波長側とすることで、ディープ光由来の光を受光することによる被処理体W1の温度の誤検知を防止できる。すなわち、放射温度計14による検知結果を、UV-LED光源2の光出力を制御する制御器(不図示)に対してフィードバックすることで、ワイドバンドギャップ半導体を含む被処理体W1に対して、高精度な加熱が可能となる。なお、紫外線L1のピーク波長を含む主発光波長域は、明らかに放射温度計14の感度波長域から外れている。
【0066】
更に、図2B図3B、及び図4Cを参照して上述したように、UV-LED光源2から出射される紫外線L1のピーク波長が短波長であることにより、被処理体W1に対する紫外線L1の侵入深さが表面近傍に留められる。このため、被処理体W1の表面よりも下層に存在するデバイスに対する熱履歴の影響や熱ダメージを抑制しながら、被処理体W1の表面に対する加熱処理を行うことができる。
【0067】
なお、紫外線L1のピーク波長は、190nm~370nmの範囲内とするのがより好適である。この場合、UV-LED光源2を大気中に設置した場合であっても、オゾン生成量を抑制する効果が得られる。
【0068】
一方、紫外線L1のピーク波長が190nm未満である場合において、オゾン生成量を低下又は抑制するためには、UV-LED光源2自体を真空中又は窒素(N2)ガスが充填された閉塞空間に収容した上で、第二窓10bと同様の部材からなる光取り出し窓を閉塞空間の一部の壁面に設けるものとしても構わない。
【0069】
なお、UV-LED光源2から出射される紫外線L1のピーク波長は、被処理体W1に含まれるワイドバンドギャップ半導体の種類に応じて適宜選択されるものとしても構わない。言い換えれば、光加熱装置1で加熱処理が予定されている被処理体W1に含まれるワイドバンドギャップ半導体の種類に応じて、光加熱装置1に搭載されるUV-LED光源2(LED素子11)の種類が選択されるものとしても構わない。
【0070】
典型的には、被処理体W1に含まれるワイドバンドギャップ半導体がGa23である場合には、UV-LED光源2は、ピーク波長が300nm以下の紫外線L1を発する光源とするのがより好ましい。また、被処理体W1に含まれるワイドバンドギャップ半導体がGaN又はSiCである場合には、UV-LED光源2は、ピーク波長が360nm以下の紫外線L1を発する光源とするのがより好ましい。
【0071】
[別実施形態]
以下において、別実施形態について説明する。
【0072】
〈1〉図7では、光源領域12aが正方形状である場合が例示されているが、この形状はあくまで一例である。同様に、図8では、LED基板20が長方形状である場合が例示されているが、この形状はあくまで一例である。
【0073】
図7では、支持基板12上に、複数のLED基板20が千鳥格子状に配列されているが、複数のLED基板20の配列パターンは任意である。他の例として、複数のLED基板20が、支持基板12の中心12cの周囲に環状に配列されても構わない。
【0074】
図8では、LED基板20に搭載されている複数のLED素子群11sは、全て同じ数のLED素子11で構成されているが、アノード電極30aやカソード電極30bからそれぞれの距離に応じて生じる電圧降下の差等を考慮して、LED素子群11sに含まれるLED素子11の数を異ならせても構わない。
【0075】
〈2〉図5に示す光加熱装置1では、放射温度計14によって温度計測をするための第一窓10aが、被処理体W1に対して紫外線L1が照射される主面W1bとは反対側の主面W1aに対向する位置に設けられていた。しかし、本発明において、第一窓10aの位置は任意である。例えば、第一窓10aはチャンバ10の側壁に設けられていても構わないし、主面W1b側に設けられていても構わない。
【0076】
後者の場合、上述したように、放射温度計14による感度波長域は、紫外線L1の主発光波長域からは大きく外れていると共に、ディープ光が最大強度を示す波長域とも重なりが生じないように調整される。これにより、被処理体W1の主面W1bで、仮に紫外線L1が反射された場合であっても、この反射光の波長域が放射温度計14による感度波長域から外れているため、反射光を放射温度計14が受光しても、被処理体W1の温度を誤認識するリスクが小さい。
【符号の説明】
【0077】
1 :光加熱装置
2 :UV-LED光源
10 :チャンバ
10a :第一窓
10b :第二窓
11 :LED素子
11s :LED素子群
12 :支持基板
12a :光源領域
12c :支持基板の中心
13 :支持部材
14 :放射温度計
20 :LED基板
30a :アノード電極
30b :カソード電極
30c :ツェナーダイオード
L1 :紫外線
W1 :被処理体
W1a,W1b :被処理体の主面
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8