(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085836
(43)【公開日】2023-06-21
(54)【発明の名称】化学プラント管理装置、化学プラント管理システム及び化学プラント管理方法
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20230614BHJP
G05B 19/418 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
G05B23/02 X
G05B19/418 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200112
(22)【出願日】2021-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沖津 潤
(72)【発明者】
【氏名】福永 康治
(72)【発明者】
【氏名】中西 雅教
(72)【発明者】
【氏名】青山 直哉
【テーマコード(参考)】
3C100
3C223
【Fターム(参考)】
3C100AA29
3C100AA57
3C100AA58
3C100BB05
3C100BB13
3C100BB15
3C100BB27
3C100BB33
3C100EE11
3C223AA05
3C223BA01
3C223BA03
3C223EB01
3C223FF03
3C223FF04
3C223FF05
3C223FF17
3C223FF22
3C223FF26
3C223FF43
3C223GG01
3C223HH02
3C223HH03
3C223HH08
(57)【要約】
【課題】化学プラントでの生産に際し、原料や運転条件と生産の結果との関係を特定すること。
【解決手段】化学プラントにおいて、第一の反応器に第一の原料を投入し第一の運転条件を用いて生成される第一の生成物に関する情報とが記憶された記憶部と、第二の反応器で生成する第二の生成物を入力する入力部と、第一の生成物に関する情報に基づいて、所定範囲の特性を有する複数の第一の生成物がそれぞれ含まれるように複数の特性グループを生成する制御部と、を備え、前記第二の生成物の特性と前記複数の特性グループの特性の範囲とに基づいて、複数の特性グループのうち第二の生成物が含まれる所定の特性グループを特定し、入力された第二の反応器において第二の生成物を生成するための第二の原料と第二の運転条件とを特定することを特徴とする化学プラント管理装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学プラントにおいて、第一の反応器へ投入される第一の原料の情報と、第一の運転条件の情報と、前記第一の反応器に前記第一の原料を投入し前記第一の運転条件を用いて生成される第一の生成物に関する情報とが記憶された記憶部と、
第二の反応器で生成する第二の生成物を入力する入力部と、
前記第一の生成物に関する情報に基づいて、所定範囲の特性を有する複数の前記第一の生成物がそれぞれ含まれるように複数の特性グループを生成する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記第二の生成物の特性と前記複数の特性グループの特性の範囲とに基づいて、前記複数の特性グループのうち前記第二の生成物が含まれる所定の特性グループを特定し、
特定された前記所定の特性グループに含まれる複数の前記第一の生成物に関する情報に基づいて、入力された前記第二の反応器において前記第二の生成物を生成するための第二の原料と第二の運転条件とを特定すること
を特徴とする化学プラント管理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のプラント管理装置において、
前記制御部は、
前記第一の生成物に関する情報に基づいて、所定範囲の特性を有する複数の前記第一の生成物が含まれる複数の特性グループを前記特性の種別ごとに生成し、
前記第二の生成物に関する情報に、前記第二の生成物が含まれる前記特性グループの情報を付与し、
前記第二の生成物を生成する前記第二の原料と前記第二の運転条件を、付与された前記特性グループに含まれる複数の前記第一の生成物の情報に基づいて特定すること
を特徴とする化学プラント管理装置。
【請求項3】
請求項1に記載の化学プラント管理装置において、
前記第一の生成物の特性の範囲は、前記第一の生成物を示す製品の品番の情報に基づいて決定される
を特徴とする化学プラント管理装置。
【請求項4】
請求項1に記載の化学プラント管理装置において、
前記記憶部には、計算機上で前記第二の反応器を模擬した第二の反応器モデルが記憶されており、
前記制御部は、前記第二の原料の情報と前記第二の運転条件の情報とを前記第二の反応器モデルに入力し演算することによって、前記第二の反応器モデルが生成する物質を特定すること
を特徴とする化学プラント管理装置。
【請求項5】
請求項4に記載の化学プラント管理装置において、
前記記憶部には、計算機上で前記第一の反応器を模擬した第一の反応器モデルが記憶されており、
前記制御部は、
前記第一の原料の情報と前記第一の運転条件の情報とを前記第一の反応器モデルに入力し演算することによって、前記第一の反応器モデルが生成する物質を特定し、
前記第一の原料の情報と前記第一の運転条件の情報と前記第一の反応器モデルが生成する物質の情報とに基づいて、前記第二の生成物を生成する第二の原料と第二の運転条件を特定すること
を特徴とする化学プラント管理装置。
【請求項6】
請求項1に記載の化学プラント管理装置において、
前記第一の生成物と前記第二の生成物は、同一の製品の種類であること
を特徴とする化学プラント管理装置。
【請求項7】
請求項1に記載の化学プラント管理装置において、
前記第一の反応器と前記第二の反応器は、同一の反応器であること
を特徴とする化学プラント管理装置。
【請求項8】
請求項1に記載の化学プラント管理装置において、
前記第一の反応器内部の発光を分光し第一の発光スペクトルを取得する第一の分光入力部を有しており、
前記制御部は、
取得された前記第一の発光スペクトルの情報を記憶部に記憶し、
前記第二の原料と前記第二の運転条件とを特定する際に、複数の前記第一の生成物に関する情報に加えて前記第一の発光スペクトルに基づいて特定すること
を特徴とする化学プラント管理装置。
【請求項9】
請求項1に記載の化学プラント管理装置において、
前記第二の反応器内部の発光を分光し第二の発光スペクトルを取得する第二の分光入力部を有しており、
前記制御部は、
取得された前記第二の発光スペクトルの情報を記憶部に格納し、
前記第二の反応器の運転前又は運転中に、前記第二の発光スペクトルに基づいて前記第二の運転条件又は前記第二の運転条件の変更に関する情報を表示部に表示すること
を特徴とする化学プラント管理装置。
【請求項10】
請求項4に記載の化学プラント管理装置において、
さらに管理者へ情報を表示する表示部を備え、
前記記憶部は、さらに生成物の生成に関連する指標に関する情報であって、当該生成物の生成における異常の発生を示す所定の条件に関する情報である判断情報を記憶しており、
前記制御部は、前記第二の原料の情報と前記第二の運転条件の情報とを前記第二の反応器モデルに入力して演算した結果と前記判断情報とに基づいて、前記第二の運転条件の下で運転した際に異常が発生するかを判定し、
前記第二の運転条件の下で運転した際に異常が発生すると判定した場合、当該異常の情報及び前記第二の運転条件に基づいて第三の運転条件を特定し、前記第三の運転条件を前記表示部に表示すること
を特徴とする化学プラント制御装置。
【請求項11】
請求項1に記載の化学プラント管理装置において、
前記第二の反応器において生成された前記第二の生成物に関する情報と、前記第二の反応器の制御に関連する機器のコントローラから当該機器の制御実績データを取得する取得部を有しており、
前記制御部は、
特定された前記第二の原料と前記第二の運転条件とに基づいて前記第二の反応器の制御に関連する機器の制御指示に関する情報を生成し、当該情報を前記コントローラへ送信し、
取得された前記第二の反応器において生成された前記第二の生成物に関する情報と前記制御実績データを記憶部に格納し、
前記第二の反応器の運転中又は運転前に、前記第二の反応器において生成された前記第二の生成物に関する情報と前記制御実績データに基づいて前記第二の運転条件を変更すること
を特徴とする化学プラント管理装置。
【請求項12】
請求項1に記載の化学プラント管理装置において、
前記第一の生成物に関する情報は、第一の反応器において第一の生成物を生成する反応に関する予測反応モデルの情報を含み、
前記制御部は、
前記第一の生成物に関する情報を前記第一の生成物の特性の範囲に基づいた複数のグループのいずれかに分ける処理を行う際、前記予測反応モデルの類似度を少なくとも前記第一の生成物の特性の範囲に基づいて判定し、当該類似度に基づいて前記第一の生成物に関する情報をそれぞれ前記複数のグループのいずれかに分類し、
前記第二の生成物の特性が前記グループの特性の範囲に含まれる所定のグループを特定し、特定された前記所定のグループに含まれる前記第一の原料と前記第一の運転条件とに基づいて、前記第二の原料と前記第二の運転条件とを特定する際、特定された前記所定のグループに含まれる前記第一の生成物に関する予測反応モデルとに基づいて、前記第二の反応器で前記第二の生成物を生成する反応に関する予測反応モデルを作成し、当該予測反応モデルに基づいて、前記第二の原料と前記第二の運転条件とを特定すること
を特徴とする化学プラント管理装置。
【請求項13】
請求項12に記載の化学プラント管理装置において、
前記制御部は、
前記第二の反応器で前記第二の生成物を生成する反応に関する予測反応モデルにおける説明変数ごとに、当該予測反応モデルの目的変数との相関を評価し、
前記説明変数の情報と、前記説明変数の目的変数との相関を示す指標の情報とを、前記目的変数との相関の高い順に表示部へ表示すること
を特徴とする化学プラント管理装置。
【請求項14】
化学プラントにおいて、第一の反応器へ投入される第一の原料の情報と、第一の運転条件の情報と、前記第一の反応器に前記第一の原料を投入し前記第一の運転条件を用いて生成される第一の生成物に関する情報とが記憶された記憶部と、
第二の反応器で生成する第二の生成物を入力する入力部と、
前記第一の生成物に関する情報に基づいて、所定範囲の特性を有する複数の前記第一の生成物がそれぞれ含まれるように複数の特性グループを生成する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記第二の生成物の特性と前記複数の特性グループの特性の範囲とに基づいて、前記複数の特性グループのうち前記第二の生成物が含まれる所定の特性グループを特定し、
特定された前記所定の特性グループに含まれる複数の前記第一の生成物に関する情報に基づいて、入力された前記第二の反応器において前記第二の生成物を生成するための第二の原料と第二の運転条件とを特定すること
を特徴とする化学プラント管理装置。
【請求項15】
化学プラントにおいて、第一の反応器へ投入される第一の原料の情報と、第一の運転条件の情報と、前記第一の反応器に前記第一の原料を投入し前記第一の運転条件を用いて生成される第一の生成物に関する情報とを記憶部に格納して記憶させるステップと、
第二の反応器で生成する第二の生成物の入力を受け付けるステップと、
前記第一の生成物に関する情報に基づいて、所定範囲の特性を有する複数の前記第一の生成物がそれぞれ含まれるように複数の特性グループを生成するステップと、
前記第二の生成物の特性と前記複数の特性グループの特性の範囲とに基づいて、前記複数の特性グループのうち前記第二の生成物が含まれる所定の特性グループを特定するステップと、
特定された前記所定の特性グループに含まれる複数の前記第一の生成物に関する情報に基づいて、入力された前記第二の反応器において前記第二の生成物を生成するための第二の原料と第二の運転条件とを特定するステップと、を含むこと
を特徴とする化学プラント管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学プラント管理装置、化学プラント管理システム及び化学プラント管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラントを管理するため、特開2020-187616号公報(特許文献1)に記載の技術がある。この公報には、「本願のプラント監視モデル作成装置は、複数の学習済モデルに対する重み係数を算出する重み係数算出部と、重み係数算出部で算出された重み係数を用いて平均特徴モデルを算出する平均特徴モデル算出部と、平均特徴モデル算出部で算出された平均特徴モデルと監視対象プラントのプラントデータとの差分学習を用いて監視対象プラントに対する学習済モデルを生成する学習済モデル生成部とを備えているので、プラント監視モデルを短時間に作成することができる。」という記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術は、化学プラントを想定したものではなく、多品種の生産に対応することができなかった。化学プラントにおける多品種の生産では、原料や運転条件などが異なる多種多様な物品を生産することになり、各々の生産量が従来のような生産に比べて少なくなる。特定の生産物について、原料や運転条件と生産の結果の関係を特定することは、生産管理の上で重要であるが、従来の技術では生産の開始前や生産量が少ない時点でこのような関係を特定することは困難であった。
【0005】
そこで、本発明では、化学プラントでの生産に際し、原料や運転条件と生産の結果との関係を特定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、代表的な本発明の化学プラント管理装置及び化学プラント管理システムの一つは、化学プラントにおいて、第一の反応器へ投入される第一の原料の情報と、第一の運転条件の情報と、前記第一の反応器に前記第一の原料を投入し前記第一の運転条件を用いて生成される第一の生成物に関する情報とが記憶された記憶部と、第二の反応器で生成する第二の生成物を入力する入力部と、入力された前記第二の生成物を生成する第二の原料と第二の運転条件とを、前記第一の原料と前記第一の運転条件と前記第一の生成物に関する情報とに基づいて特定する制御部と、を有することを特徴とする。
また、代表的な本発明の化学プラント管理方法の一つは、化学プラントにおいて、第一の反応器へ投入される第一の原料の情報と、第一の運転条件の情報と、前記第一の反応器に前記第一の原料を投入し前記第一の運転条件を用いて生成される第一の生成物に関する情報とを記憶部に格納して記憶させるステップと、第二の反応器で生成する第二の生成物の入力を受け付けるステップと、入力された前記第二の生成物を生成する第二の原料と第二の運転条件とを、前記第一の原料と前記第一の運転条件と前記第一の生成物に関する情報とに基づいて特定するステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、化学プラントでの生産に際し、原料や運転条件と生産の結果との関係を特定することができる。ひいては、新規の条件で生産物を生成する際に、原料、運転条件の情報に基づいて、新規の製造条件を効率良く決定することを可能とする。上記した以外の課題、構成及び効果は以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態における化学プラントの管理についての説明図
【
図2】実施形態に係る化学プラント管理システムの構成図
【
図10】機械学習を用いたモデルの作成についての説明図
【
図11】予測反応モデルの利用についての説明図(その1)
【
図12】予測反応モデルの利用についての説明図(その2)
【
図13】化学プラント管理装置の処理手順を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、適宜図面を参照しながら本発明を実施するための代表的な形態を説明する。
図1は、実施形態における化学プラントの管理についての説明図である。
本実施形態では、多品種の生産を行う化学プラントを管理対象とする。そのため、化学プラントからは、複数種類の生成物についてデータが得られる。複数種類の生成物とは、例えば、品番、反応器、原料、運転条件などが異なる生成物である。
【0010】
品番は、後段の加工や製品としての供給にあたり同一と見做せる範囲で識別を行うための識別情報である。品番が同一であれば基本的な組成等は特定されるが、原料や運転条件の詳細、品質については同一とは限らない。換言するならば、同一の品番の物質を生成する場合であっても、原料、運転条件、反応器、環境要因などの違いによって品質は変動する。そのため、所望の品質の物質を効率よく生成するためには、原料や運転条件などを微調整する必要がある。
【0011】
本実施形態で開示する化学プラント管理システムは、複数種類の生成物について、既存の生成物のデータから予測反応モデルを生成する。既存の生成物のデータには、品番、反応器、原料、運転条件などが含まれる。これらのデータと生成の結果とを用いて予測反応モデルを生成すれば、その生成物の生成に好適な原料や運転条件を求めることができる。
【0012】
予測反応モデルは、一般的には、理論などから導かれるモデルをベースとして、生成結果をフィードバックすることで徐々に精度が向上する。しかし、新規の生成物を生成する場合、既存の生成結果がないため、そのままでは十分な精度が期待できない。そして、必要な生産量が少なければ、精度が十分に向上する前に生産が終わることになる。
【0013】
そこで、開示の化学プラント管理システムは、新規の生成物について予測反応モデルを作成するにあたり、既存の他の生成物の予測反応モデルを利用する。
具体的には、開示の化学プラント管理システムは、既存の生成物のデータから得られた既存の予測反応モデルを複数記憶し、複数の予測反応モデルを類似度に応じてグループ化している。
ここで、複数の予測反応モデルのグループ化に関して説明する。グループ化は、品番等の生成物の種類や、生成物に関する化学特性、物理特性、原料、反応器又は運転条件に含まれる特定の工程の処理等に基づいて行っても良い。さらに、それらの基準によってグループ化を行うことのできないものについては、予測反応モデルの重要な説明因子に基づいてグループ化を行ってもいい。それにより、特徴量に基づくクラスタリングと先に示した基準等とを組み合わせて利用することで、確実に且つ効率良くグループ化を行うことができ、多品種製品を扱う化学プラントの管理に貢献する。
開示のシステムは、新規の生成物のデータについて入力を受けたならば、新規の生成物に類似する既存の生成物を探索し、その生成物が属するグループを類似のグループとして特定する(1)。そして、類似のグループに含まれる複数の予測反応モデルのアンサンブル学習により、新規の生成物の予測反応モデルを作成する(2)。
新規の生成物のデータとしては、品番や反応器を含めることができる。新規の生成物と類似する既存の生成物は、品番の一致や反応器の一致により判定してもよい。例えば、グループGr1とグループGr2を使用する反応器で分類している場合、新規の生成物のデータが指定する反応器によって類似のグループが特定され、同一の反応器について作成された複数の予測反応モデルから新規の生成物の予測反応モデルが作成されることになる。
また、グループ化について、生成物の多次元的なパラメータを一通りのグループを作成する場合について説明を行ったが、生成物に関する複数の特性の種別それぞれについて、その特性の種別ごとにグループを作成しても良い。即ち、一例として、ある2つの特性の種別A、Bに注目する場合、特性の種別Aにおけるグループ分け(パターン1)と、特性の種別Bにおけるグループ分け(パターン2)とがそれぞれ別々に行われる。この場合、新規の生成物のデータについて入力を受けたならば、種別ごとに類似のグループが特定され、それら特定された複数の類似のグループに含まれる複数の予測反応モデルのアンサンブル学習により、新規の生成物の予測反応モデルを作成する。
【0014】
このように生成した新規の生成物の予測反応モデルと、類似のグループの原料及び運転条件とを用いることで、新規の生成物の生成に適用すべき原料及び運転条件を特定することができる。
また、生成に用いた原料及び運転条件等と予測反応モデルとを利用することで、生成の結果を予測することができる。
【0015】
図2は、実施形態に係る化学プラント管理システムの構成図である。
図2に示すように、化学プラント管理システムは、化学プラント管理装置10、データ統合基盤20を含む。データ統合基盤20は、化学プラントに設置された各種装置からデータを収集し、化学プラント管理装置10に出力する。
【0016】
具体的には、化学プラントからは、原料データ31、制御実績データ32、品質データ33などが得られる。
原料データ31は、反応器に投入された原料を示すデータである。
制御実績データ32は、反応器の制御に関連する機器のコントローラから取得した反応器の制御の実績を示すデータである。
品質データ33は、生成物の品質を示すデータである。生成物の品質の評価は、任意の指標を用いることができるが、本実施形態では、分光分析を用いる場合を例示する。その他の例として、品質データ33は、化学プラント管理装置10が、運転の途中で生成の結果を予測した予測結果であっても良い。品質データ33は、化学プラントにおける生成物の品質管理データを統合管理するシステムと通信し、取得されても良い。
【0017】
化学プラント管理装置10は、原料データ31、制御実績データ32、品質データ33などを用いて、化学プラントの管理を行う装置である。化学プラント管理装置10は、各種の生成物について、反応予測モデルを作成し、記憶し、反応予測モデルを用いた予測の結果を管理者に出力することができる。管理者は、化学プラント管理装置10の出力に基づいて、原料や運転条件などを決定し、化学プラントを稼働させることができる。
【0018】
また、化学プラント管理装置10は、新規の生成物のデータを受け付けて、類似のグループを特定し、類似のグループの予測反応モデルから新規の生成物の予測反応モデルを作成することができる。
【0019】
また、化学プラント管理装置10が反応予測モデルを用いて原料や運転条件を決定し、反応器の制御に関連する機器の制御指示に関する情報を生成し、当該情報を機器のコントローラへ送信して、化学プラントを自動制御するよう構成してもよい。
化学プラント管理装置10は、運転の前又は運転の途中で、新規に生成する生成物の品質データ33(例えば、当該生成物を生成する反応器内部の発光スペクトルに関する情報)に基づいて、現在の生成実績及び運転条件の評価、並びに、将来的な生成結果の予測と評価を行うことで、自動で現在の運転条件の妥当性の検証を行うように構成しても良い。
さらに、化学プラント管理装置10は、運転の前又は運転の途中で、制御実績データ32や、品質データ33に基づいて、現在の生成実績及び運転条件の評価、並びに、将来的な生成結果の予測と評価を行うことで、自動で現在の運転条件の妥当性の検証を行うように構成しても良い。その際、現状の運転条件の変更の要否の判定と、変更後の新たな運転条件を特定し、当該運転条件へ変更されるように反応器の制御に関連する機器の制御指示に関する情報を生成し、当該情報を機器のコントローラへ自動送信してよい。本構成により、化学プラントの自動運転に貢献することができる。
【0020】
図3は、化学プラント管理装置10の構成を示す構成図である。
図3に示したように、化学プラント管理装置10は、演算装置11、主記憶装置12、入力部13、表示部14、通信インターフェース15、補助記憶装置16を有する。
【0021】
演算装置11は、例えばCPU(Central Processing Unit)であり、特許請求の範囲に記載した制御部として動作する。
主記憶装置12は、例えばRAM(Random Access Memory)である。演算装置11は、各種のプログラムやデータを主記憶装置12に展開し、プログラムを順次実行することで、化学プラント管理装置10の動作を制御する。
【0022】
入力部13は、例えばキーボードなどであり、管理者からの操作入力を受け付ける。具体的には、入力部13は、新規の生成物のデータの入力に用いられる。
表示部14は、例えば液晶ディスプレイであり、管理者に対する各種情報の表示出力に用いられる。
【0023】
通信インターフェース15は、データ統合基盤20を介して化学プラントから各種データ(原料データ31、制御実績データ32、品質データ33など)を取得する。
通信インターフェース15は、制御実績データ32を取得することで特許請求の範囲に記載した取得部として機能する。
また、通信インターフェース15は、品質データ33として既存の生成物の分光分析結果(第一の発光スペクトル)を取得することで、特許請求の範囲に記載した第一の分光入力部として機能する。
また、通信インターフェース15は、品質データ33として新規の生成物の分光分析結果(第二の発光スペクトル)を取得することで、特許請求の範囲に記載した第二の分光入力部として機能する。
【0024】
補助記憶装置16は、各種データを記憶する記憶部である。補助記憶装置16は、生成物テーブル41、原料テーブル42、運転条件テーブル43、予測反応モデル44などを記憶する。
【0025】
生成物テーブル41は、既存の生成物に関する情報のテーブルである。既存の生成物の生成に用いる反応器を第一の反応器、第一の反応器へ投入される原料を第一の原料、既存の生成物の運転条件を第一の運転条件とするならば、既存の生成物に関する情報は、「第一の反応器に第一の原料を投入し第一の運転条件を用いて生成される第一の生成物に関する情報」である。
原料テーブル42は、第一の反応器へ投入される第一の原料の情報のテーブルである。
運転条件テーブル43は、既存の生成物の運転条件の情報のテーブルである。
予測反応モデル44は、第一の反応器において第一の生成物を生成する反応に関する予測反応モデルの情報である。予測反応モデルは、第一の生成物に関する情報の一種であるため、生成物テーブル41に格納してもよいが、便宜上、別データとしている。
【0026】
図4は、生成物テーブルの具体例である。
図4に示した生成物テーブル41は、生成物、品番、品質管理値1及び品質管理値2の項目を有する。
生成物の項目は、「ポリマーA」や「ポリマーB」のように、生成物の一般名称を示す。
品番の項目は、「A-0001」や「B-0002」のように、後段の加工や製品としての供給にあたり同一と見做せる範囲で識別を行うための識別情報を示す。
品質管理値1及び品質管理値2は、生成物の品質を示す評価値の範囲を示す。
【0027】
図5は、原料テーブルの具体例である。
図5に示した原料テーブル42は、生成物、品番、原料1~原料5の項目を有する。
生成物と品番の項目は、生成物テーブル41と同様である。原料1~原料5は、その生成物の生成に使用する原料(第一の原料)を示す。原料には、溶媒、開始剤、モノマー、触媒などが含まれ得る。また、原料テーブルは、
図5に挙げられた例以外にも原料に関する任意のデータを含んでも良い。一例として、原料に関する任意の各原料の分量に関するデータ等を含んでも良い。
【0028】
図6は、運転条件テーブルの具体例である。
図6に示した運転条件テーブル43は、生成物、品番、反応器、昇温時間、反応温度1、反応温度2、ホールド時間などの項目を運転条件(第二の運転条件)として有する。
生成物と品番の項目は、生成物テーブル41と同様である。
反応器は、その生成物の生成に使用した反応器(第一の反応器)を特定する情報である。
昇温時間、反応温度1、反応温度2、ホールド時間などは、反応器の温度に関する条件である。
また、運転条件テーブルは、
図6に挙げられた例以外にも任意の運転条件を含んでも良い。一例として、各原料ごとの投入タイミング等を含んでも良い。
【0029】
図7は、分光分析についての説明図である。
図7に示すように、反応器の内部から生成部を送液し、分光分析を行う。光度計により生成物のスペクトルデータを取得し、回帰式を構築することで、スペクトルデータから品質値を求める回帰式を作成することができる。
既存の生成物から取得したスペクトルデータは、第一の発光スペクトルとして取得される。第一の発光スペクトル、または第一の発光スペクトルから求めた品質値は、生成物テーブル41に格納することで記憶部に記憶される。
新規の生成物から取得したスペクトルデータは、第二の発光スペクトルとして取得される。第二の発光スペクトル、または第二の発光スペクトルから求めた品質値は、管理者への出力や化学プラントの運転制御に用いられる。
なお、
図7では、反応器から送液した生成物を分光分析に用いているが、反応器内部の発光を分光し発光スペクトルを取得する構成としてもよい。
【0030】
図8は、予測反応モデルの説明図である。予測反応モデルは、計算機上で反応器を模擬する反応器モデルであり、説明変数として入力すると、目的変数を出力する。
【0031】
予測反応モデルの目的変数は、品質値などである。
説明変数は、原料、原料の量、運転条件、反応器、理論式、室温、生産量などである。
説明変数のうち、原料や運転条件は、生成に際して操作が可能な操作可能因子となる。
説明変数のうち、室温などは環境変数となる。使用する反応器が指定されているならば、反応器も環境変数に含めることができる。
説明変数のうち、原料の量や生産量は、負荷変数となる。
【0032】
予測反応モデルは、理論から作成することも、機械学習により作成することもでき、またパラメータごとに理論からの作成と機械学習による作成を組み合わせることも可能である。ここで、予測反応モデルを理論から作成する場合の一例として、反応系を考慮して化学理論に基づいて基本予測モデル式を用意・分析した後、データ解析によって係数を補正するようにすることができる。
理論から作成する理論モデルは既存のデータが不要で、実験データから未知の反応を予測できるという利点があるが、全てを理論モデルにすると実運転の結果から乖離する部分が生じることがある。このような部分は、機械学習モデルで補うことができる。
どちらのモデルを使用するか、また、各モデルをどう組み合わせるかに関しては、機械学習によって自動で判断することができる。
【0033】
図9は、理論からのモデルの作成についての説明図である。
最初のステップ(STEP1)では、以下のように物理モデル化する。
例えば、原料i(i=1~n)の濃度[Ai]、触媒濃度[Cat]、とアレニウス式から生成物[C]の生成速度を次のように評価する。
d[C]/dt = -(1/ai)・d[Ai]/dt = k・[Cat]**a・ exp(-E/RT)・Πi [Ai]**ai
そして、原料に係る物質収支式に組み込むことで物理モデル化する。
【0034】
次のステップ(STEP2)では、重回帰分析により、活性化エネルギーE、作用次数α及びai(i=1~n)を決定する。
次のステップ(STEP3)で、作成モデルをベースに実運転データから分析値の予測を実施し、実データとのズレをデータ解析により補正を実施、精度向上をしていく。
例えば、装置のデータを用いて原料蒸発項を作成し、原料追添項を原料添加量や原料分析値などから作成する。
【0035】
図10は、機械学習を用いたモデルの作成についての説明図である。
最初のステップ(STEP1)では、予測反応の理論モデルを機械学習ベースを基本として作成する。
次のステップ(STEP2)では、理論モデルを構築した中で、反応に係る項を個別の説明変数として作成する。例えば、原料蒸発の項や原料還流の項を作成することができる。
次のステップ(STEP3)では、STEP2で作成したデータを予測式に説明変数として追加することで、予測精度が向上する。
【0036】
図11及び
図12は、予測反応モデルの利用についての説明図である。
図11では、第一工程から第三工程までを含むプロセスのうち、第二の工程までのデータを予測反応モデルの説明変数として用い、第二の工程以後の事象を予測している。
また、第二の工程中に1以上の経過分析点を設定し、第三の工程後に最終分析点を設定して、経過分析点と最終分析点で生成物の品質を確認している。
予測反応モデルに対して、第二の工程前までのデータを説明変数として与えれば、経過分析点と最終分析点の品質値を目的変数として得ることができる。第一工程から第三工程は、温度変化や一定温度に留める等の反応の促進や状態の変化あるいは安定化等の化学的な変化等を順に行う工程の組み合わせである。
【0037】
図12では、現在の情報をもとに将来を予測するモデルにより、大きな制御を伴う工程でも予測可能となっている。
例えば、現時点が第一の経過分析点と第二の経過分析点の間である場合には、予測反応モデルに対して、第一の経過分析点での品質を含むデータを説明変数として与えることで、第二の経過分析点と1つの最終分析点の品質値を目的変数として得ることができる。
【0038】
図13は、化学プラント管理装置10の処理手順を示すフローチャートである。化学プラント管理装置10は、まず、既存の生成物のデータを蓄積する(ステップS101)。既存の生成物のデータは、当該生成物を生成する原料、反応器、運転条件の条件の情報を含む。化学プラント管理装置10は、既存の生成物のデータから予測反応モデルを作成し、記憶部としての補助記憶装置16に格納する(ステップS102)。
ここで、既存の生成物のデータから予測反応モデルを作成する際に、各生成物の品質データ33を利用しても良い。一例として、生成物の分光分析に関する情報を、説明変数の特徴量の一つとして利用しても良いし、目的変数として利用しても良い。特に、多品種を扱う化学プラントでは、目的変数となる情報が不足する場合が多く、目的変数として利用することで目的変数のサンプル数を増加させることができる。
化学プラント管理装置10は、作成した予測反応モデルについて類似度を求め、類似する予測反応モデルが同じグループに属するようにグループ化する(ステップS103)。
グループ化は、品番等の生成物の種類や、生成物に関する化学特性、物理特性、反応器又は運転条件に含まれる特定の工程の処理等に基づいて行っても良い。さらに、それらの基準によってグループ化を行うことのできないものについては、予測反応モデルの重要な説明因子に基づいてグループ化を行ってもいい。
【0039】
化学プラント管理装置10は、新規の生成物のデータの入力を受け付けると(ステップS104)、新規の生成物のデータに類似するグループを特定する(ステップS105)。ここで、新規の生成物のデータは、当該生成物を生成する反応器の情報を含む。そして、類似するグループの予測反応モデルから新規の生成物の予測反応モデルを作成し、記憶部としての補助記憶装置16に格納する(ステップS106)。
【0040】
化学プラント管理装置10は、類似するグループの原料及び運転条件等と新規の生成物の予測反応モデルから新規の生成物の原料及び運転条件を特定する(ステップS107)。そして、特定した原料及び運転条件を出力して(ステップS108)、処理を終了する。
出力は、一例として管理者に対する情報提供である。また、出力を化学プラントの運転の制御に用いることで、化学プラントの自動運転を行ってもよい。さらに、出力と、実際の生成結果に基づいて、予測反応モデルを修正することも可能である。
ここで、ステップS103のグループ化について、生成物の多次元的なパラメータを一通りのグループを作成する場合について説明を行ったが、生成物に関する複数の特性の種別それぞれについて、その特性の種別ごとにグループを作成しても良い。この場合、新規の生成物のデータについて入力を受けたならば、ステップS105にて、種別ごとに類似のグループが特定され、ステップS107にて、それら特定された複数の類似のグループに含まれる複数の予測反応モデルから新規の生成物の原料及び運転条件を特定する。これにより、複数の特性の種別ごとの影響をそれぞれ加味した特定が可能となる。ここで、化学プラント管理装置10は、特性の種別ごとに特定された類似グループについて、新規の生成物の原料及び運転条件の特定においてより重要な特性の種別に基づいた類似グループを判定し、新規の生成物の原料及び運転条件の特定に利用しても良い。それにより、特性の種別ごとの影響度も加味した特定が可能となり精度向上が期待できる。
ここで、ある反応器で新規の生成物を生成する場合に、新規の生成物の予測反応モデルを作成に用いられる類似のグループに含まれる既存の予測反応モデルにおける生成物は、新規の生成物と同一のものであるように構成しても良い。即ち、ある反応器において新規の生成物を作成する際の材料と運転条件とを特定する際に、過去に異なる反応器において生成された新規の生成物と同一の生成物に関する材料と運転条件とを利用するように構成されても良い。
また、新規の生成物を生成する反応器と、新規の生成物の予測反応モデルを作成に用いられる類似のグループに含まれる既存の予測反応モデルにおける反応器は、同一の反応器であるように構成しても良い。即ち、ある反応器において新規の生成物を作成する際の材料と運転条件とを特定する際に、過去に同一の反応器において生成された新規の生成物とは異なる生成物に関する材料と運転条件とを利用するように構成されても良い。
【0041】
予測反応モデルによる原料や運転条件の出力は、生成前に実行してもよいし、生成中に実行してもよい。
例えば、新規の生成物の生成における異常検知に利用する場合が考えられる。一例として、生成物の生成における異常の発生を示す所定の条件に関する情報である判断情報を補助記憶装置16等に記憶しておき、生成中にリアルタイムで予測反応モデルによる予測を行い、予測結果と判断情報を比較して異常が発生するかを判定するようにしてもよい。ここで、異常の発生を示す所定の条件とは、プラント設備や生成物ごとに決められる種々の条件である。一例として、生成物の特性が所望の条件を満たさないことや、圧力が所定の閾値より大きくなること等の条件が挙げられる。そして、異常が発生すると判定した場合に、当該異常の情報とそれまでの運転条件、過去の運転実績データに基づいて、どのように運転条件を変更すべきかを特定し、特定した運転条件を第三の運転条件として出力することができる。
また、特定した運転条件を第三の運転条件として出力する代わりに、生成中にリアルタイムで予測反応モデルによる予測を行い、運転条件等を自動で変更するように、プラント設備の制御を行うコントローラへ指示を行う構成としてもよい。
【0042】
図14は、表示部による表示出力の具体例である。
図14の表示出力は、品質予測カーブ、製品情報、運転パラメータ、品質予測値が表示されている。
品質予測カーブは、予測反応モデルによる予測結果をグラフ表示したものであり、様々な運転条件における品質の予測を示すことができる。また、グラフ内に品質値の目標範囲としての品質管理値が示されており、品質値が品質管理値に到達するか否かを確認できる。
【0043】
製品情報には、製造日、生成物、品番、ロット、反応器、品質管理値の範囲が示される。
運転パラメータには、現在の温度及び圧力と、推奨運転の温度、圧力の内容が示される。
品質予測値には、現在の反応終了時間及び品質予測値と、推奨運転の反応終了時間及び品質予測値が示される。
運転パラメータ及び品質予測値における推奨運転は、品質予測カーブのガイダンスの指示に対応している。
【0044】
この他、表示出力には、生成に関する任意の情報を用いることができる。
例えば、新規の生成物の予測反応モデルにおける説明変数ごとに、当該予測反応モデルの目的変数との相関を機械学習を用いて評価し、説明変数の情報と、説明変数の目的変数との相関を示す指標の情報とを、目的変数との相関の高い順に表示してもよい。
このような表示により、どのような要因が生成物の品質等に影響しているかを簡明に示すことができる。
また、化学プラント管理装置10は、補助記憶装置16に、計算機上で反応器を模擬した反応器モデルが記憶されていてもよい。この場合、化学プラント管理装置10は、新規の生成物を生成する際の原料及び運転条件として特定された情報とを反応器モデルに入力し演算することによって、当該反応器モデルが生成する物質を特定することができる。このように、第二の反応器を模擬することで、第二の生成物として得られる物質を予測することができる。
また、任意の原料及び運転条件の情報とを反応器モデルに入力し演算することによって、当該反応器モデルが生成する物質を特定することで、入力した原料及び運転条件の情報と仮想的に得られた反応器モデルが生成する物質の情報とから、新たな予測反応モデルを得ることができる。これにより、新規に生成する際に利用する既存の予測反応モデルのサンプル数を増やすことができる。
【0045】
上述してきたように、開示の化学プラント管理装置10は、化学プラントにおいて、第一の反応器へ投入される第一の原料の情報と、第一の運転条件の情報と、前記第一の反応器に前記第一の原料を投入し前記第一の運転条件を用いて生成される第一の生成物に関する情報とが記憶された記憶部と、第二の反応器で生成する第二の生成物を入力する入力部と、前記第一の生成物に関する情報に基づいて、所定範囲の特性を有する複数の前記第一の生成物がそれぞれ含まれるように複数の特性グループを生成する制御部と、を備え、前記制御部は、前記第二の生成物の特性と前記複数の特性グループの特性の範囲とに基づいて、前記複数の特性グループのうち前記第二の生成物が含まれる所定の特性グループを特定し、特定された前記所定の特性グループに含まれる複数の前記第一の生成物に関する情報に基づいて、入力された前記第二の反応器において前記第二の生成物を生成するための第二の原料と第二の運転条件とを特定することを特徴とする。
【0046】
かかる構成では、既知の生成物(第一の生成物)に関する実績を利用して、第一の生成物を複数の特性グループのいずれかに分類し、対象の生成物(第二の生成物)の原料や運転条件を特定することができ、対象の生成物(第二の生成物)の特性に基づいて分類すべき特性グループを特定することで、第二の生成物の原料や運転条件を特定することができ、特性が類似する生成物に関する情報から対象の生成物の原料や運転条件を特定できる。
【0047】
また、前記制御部は、前記第一の生成物に関する情報に基づいて、所定範囲の特性を有する複数の前記第一の生成物が含まれる複数の特性グループを前記特性の種別ごとに生成し、前記第二の生成物に関する情報に、前記第二の生成物が含まれる前記特性グループの情報を付与し、前記第二の生成物を生成する前記第二の原料と前記第二の運転条件を、付与された前記特性グループに含まれる前記第一の原料と前記第一の運転条件に基づいて特定する構成としてもよい。
かかる構成では、第一の生成物について特性ごとにグループ分けを行い、第二の生成物について特性ごとに分類すべきグループを特定し、第二の生成物の各特性のグループに基づいて第一の生成物を抽出し、抽出した第一の生成物を類似する生成物として用いて第二の生成物の原料や運転条件を特定できる。
【0048】
また、前記第一の生成物の特性の範囲は、前記第一の生成物を示す製品の品番の情報に基づいて決定される。
品番は、生成物の組成などに対応して付与されているため、品番を特性として利用することで、簡易に類似する生成物を特定することが可能である。
【0049】
また、前記記憶部には、計算機上で前記第二の反応器を模擬した第二の反応器モデルが記憶されており、前記制御部は、前記第二の原料の情報と前記第二の運転条件の情報とを前記第二の反応器モデルに入力し演算することによって、前記第二の反応器モデルが生成する物質を特定する。
このように、第二の反応器を模擬することで、第二の生成物として得られる物質を予測することができる。
【0050】
また、前記記憶部には、計算機上で前記第一の反応器を模擬した第一の反応器モデルが記憶されており、前記制御部は、前記第一の原料の情報と前記第一の運転条件の情報とを前記第一の反応器モデルに入力し演算することによって、前記第一の反応器モデルが生成する物質を特定し、前記第一の原料の情報と前記第一の運転条件の情報と前記第一の反応器モデルが生成する物質の情報とに基づいて、前記第二の生成物を生成する第二の原料と第二の運転条件を特定する構成としてもよい。
かかる構成では、第一の反応器を模擬し、仮想的に得られた第一の生成物の情報に基づいて第二の生成物の原料や運転条件を特定できる。
【0051】
第一の生成物と第二の生成物は、同一の製品の種類であってもよい。
また、第一の反応器と前記第二の反応器は、同一の反応器であってもよい。
このように、製品や反応器が一致する第一の生成物に関する情報を用いることで、第二の生成物の情報を高精度に求めることができる。
【0052】
また、第一の反応器内部の発光を分光し第一の発光スペクトルを取得する第一の分光入力部を有しており、前記制御部は、取得された前記第一の発光スペクトルの情報を記憶部に記憶し、前記第二の原料と前記第二の運転条件とを特定する際に、前記第一の運転条件と前記第一の運転条件に加えて前記第一の発光スペクトルに基づいて特定する構成としてもよい。
また、第二の反応器内部の発光を分光し第二の発光スペクトルを取得する第二の分光入力部を有しており、前記制御部は、取得された前記第二の発光スペクトルの情報を記憶部に格納し、前記第二の反応器の運転前又は運転中に、前記第二の発光スペクトルに基づいて前記第二の運転条件又は前記第二の運転条件の変更に関する情報を表示部に表示する構成としてもよい。
このように、分光分析を利用して第一の生成物や第二の生成物の品質を評価することで、第二の生成物の品質の予測や、品質の要求を満たすための原料及び運転条件の特定を行うことができる。
【0053】
また、さらに管理者へ情報を表示する表示部を備え、前記記憶部は、さらに生成物の生成に関連する指標に関する情報であって、当該生成物の生成における異常の発生を示す所定の条件に関する情報である判断情報を記憶しており、前記制御部は、前記第二の原料の情報と前記第二の運転条件の情報とを前記第二の反応器モデルに入力して演算した結果と前記判断情報とに基づいて、前記第二の運転条件の下で運転した際に異常が発生するかを判定し、前記第二の運転条件の下で運転した際に異常が発生すると判定した場合、当該異常の情報及び前記第二の運転条件に基づいて第三の運転条件を特定し、前記第三の運転条件を前記表示部に表示する構成としてもよい。
かかる構成によれば、第二の生成物の生成結果をリアルタイムで予測し、異常を回避する運転条件を表示することができる。
【0054】
また、第二の反応器において生成された前記第二の生成物に関する情報と、前記第二の反応器の制御に関連する機器のコントローラから当該機器の制御実績データを取得する取得部を有しており、前記制御部は、特定された前記第二の原料と前記第二の運転条件とに基づいて前記第二の反応器の制御に関連する機器の制御指示に関する情報を生成し、当該情報を前記コントローラへ送信し、取得された前記第二の反応器において生成された前記第二の生成物に関する情報と前記制御実績データを記憶部に格納し、前記第二の反応器の運転中又は運転前に、前記第二の反応器において生成された前記第二の生成物に関する情報と前記制御実績データに基づいて前記第二の運転条件を変更する構成としてもよい。
かかる構成によれば、第二の生成物の生成結果をリアルタイムで予測し、化学プラントを自動で運転することができる。
【0055】
また、第一の生成物に関する情報は、第一の反応器において第一の生成物を生成する反応に関する予測反応モデルの情報を含み、前記制御部は、前記第一の生成物に関する情報を前記第一の生成物の特性の範囲に基づいた複数のグループのいずれかに分ける処理を行う際、前記予測反応モデルの類似度を少なくとも前記第一の生成物の特性の範囲に基づいて判定し、当該類似度に基づいて前記第一の生成物に関する情報をそれぞれ前記複数のグループのいずれかに分類し、前記第二の生成物の特性が前記グループの特性の範囲に含まれる所定のグループを特定し、特定された前記所定のグループに含まれる前記第一の原料と前記第一の運転条件とに基づいて、前記第二の原料と前記第二の運転条件とを特定する際、特定された前記所定のグループに含まれる前記第一の生成物に関する予測反応モデルとに基づいて、前記第二の反応器で前記第二の生成物を生成する反応に関する予測反応モデルを作成し、当該予測反応モデルに基づいて、前記第二の原料と前記第二の運転条件とを特定する構成としてもよい。
かかる構成では、第二の生成物に類似する第一の生成物の予測反応モデルを用いて、第二の生成物の予測反応モデルを生成し、第二の生成物の原料や運転条件を求めることができる。
【0056】
また、制御部は、前記第二の反応器で前記第二の生成物を生成する反応に関する予測反応モデルにおける説明変数ごとに、当該予測反応モデルの目的変数との相関を評価し、前記説明変数の情報と、前記説明変数の目的変数との相関を示す指標の情報とを、前記目的変数との相関の高い順に表示部へ表示する構成としてもよい。
かかる構成では、どのような要因が第二の生成物の品質等に影響しているかを簡明に示すことができる。
【0057】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、かかる構成の削除に限らず、構成の置き換えや追加も可能である。
【0058】
例えば、上記の実施形態では、説明を簡明にするために、それまでに生成していない新規の生成物を「第二の生成物」の例として説明を行ったが、第一の反応器で作成した生成物を、第二の反応器で作成する際に「第二の生成物」として利用しても良い。
また、少量多品種の生成について例示したのは、対象の生成物に関する実績の有無に関わらず予測が可能であることを示すためであり、大量に生成する予定の生成物について本発明を適用することを妨げるものではない。
また、予測反応モデルのグループ分けを実行するタイミングについても、事前に実行して記憶部に格納しておいてもよいし、第二の生成物のデータを受け付けたときに必要に応じて実行してもよい。
【符号の説明】
【0059】
10:化学プラント管理装置、11:演算装置、12:主記憶装置、13:入力部、14:表示部、15:通信インターフェース、16:補助記憶装置、20:データ統合基盤、31:原料データ、32:制御実績データ、33:品質データ、41:生成物テーブル、42:原料テーブル、43:運転条件テーブル、44:予測反応モデル