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特開2023-85837リグノセルロースファイバーの製造方法、リグノセルロースファイバーおよび複合材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085837
(43)【公開日】2023-06-21
(54)【発明の名称】リグノセルロースファイバーの製造方法、リグノセルロースファイバーおよび複合材
(51)【国際特許分類】
   B27L 11/06 20060101AFI20230614BHJP
【FI】
B27L11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200114
(22)【出願日】2021-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】508329416
【氏名又は名称】稲畑ファインテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521540025
【氏名又は名称】見勢 信猛
(71)【出願人】
【識別番号】518462798
【氏名又は名称】野本 英朗
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】見勢 信猛
(72)【発明者】
【氏名】野本 英朗
(72)【発明者】
【氏名】田村 光昭
【テーマコード(参考)】
2B241
【Fターム(参考)】
2B241DA01
2B241DB25
(57)【要約】
【課題】樹脂と複合化することで高い機械強度を発揮でき、臭気を抑制でき、かつ着色を抑制できるリグノセルロースファイバーを製造する方法を提供すること。
【解決手段】平均繊維長が5mm以下のバイオマス微粉に対し、水熱処理を施して、第一リグノセルロースケーキを得る工程と、前記第一リグノセルロースケーキに対し、分散処理を施して、平均繊維径が5μm以上500μm以下であり、平均繊維長が50μm以上3000μm以下である第一リグノセルロースファイバーを得る工程と、を備える、リグノセルロースファイバーの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維長が5mm以下のバイオマス微粉に対し、水熱処理を施して、第一リグノセルロースケーキを得る工程と、
前記第一リグノセルロースケーキに対し、分散処理を施して、平均繊維径が5μm以上500μm以下であり、平均繊維長が50μm以上3000μm以下である第一リグノセルロースファイバーを得る工程と、を備える、
リグノセルロースファイバーの製造方法。
【請求項2】
平均繊維長が5mm以下のバイオマス微粉に対し、水熱処理を施して、第一リグノセルロースケーキを得る工程と、
前記第一リグノセルロースケーキに対し、アルカリ化合物と、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩および過酸化水素のうちの少なくとも1つとを用いた部分解繊処理および酸化処理を施して、第二リグノセルロースケーキを得る工程と、
前記第二リグノセルロースケーキに対し、分散処理を施して、平均繊維径が0.1μm以上200μm以下であり、平均繊維長が10μm以上2000μm以下である第二リグノセルロースファイバーを得る工程と、を備える、
リグノセルロースファイバーの製造方法。
【請求項3】
バイオマス由来のリグノセルロースファイバーであって、
平均繊維径が5μm以上500μm以下であり、
平均繊維長が50μm以上3000μm以下であり、
前記平均繊維径が5μm以上200μm未満の場合には、水抽出率が1質量以上5質量%以下であり、ヘキサン抽出率が0.5質量以上4質量%以下であり、
前記平均繊維径が200μm以上500μm以下の場合には、水抽出率が0質量以上2質量%以下、ヘキサン抽出率が0.5質量以上1.5質量%以下である、
リグノセルロースファイバー。
【請求項4】
バイオマス由来のリグノセルロースファイバーであって、
平均繊維径が0.1μm以上200μm以下であり、
平均繊維長が10μm以上2000μm以下であり、
TGAの重量減少曲線の微分曲線であるDTG曲線において、240℃から340℃にショルダーがある、
リグノセルロースファイバー。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のリグノセルロースファイバーの製造方法で得られるリグノセルロースファイバー、或いは、請求項3または請求項4に記載のリグノセルロースファイバーを含有する、
複合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロースファイバーの製造方法、リグノセルロースファイバーおよび複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石資源から再生可能な資源への転換が注目されており、特にバイオマス資源への注目度は高く、広く利用されてきている。
【0003】
現在、日本は一次資源のほとんどを輸入に頼っているが、身近なところにも一次資源はあり、その代表的なものとして、間伐材、竹、稲わら、および麦わら等が挙げられる。
日本は世界でも有数の森林面積比率を有しているが、価格の安い海外のバイオマスに取って代わられたことに伴う国内生産の激減により、手入れが不十分な森林または竹林が増加した。特に、竹に関しては「放置竹林」、或いは、農地または住宅地への「侵入竹林」が拡大の一途をたどっている。しかしながら、竹を工業資源という観点からみると、竹は西日本を中心に広く分布しており、その賦存量は膨大であり、しかも成長が早いという特徴を持っている。また、海外に目を転じると東アジアから東南アジアに至るまで広く分布し、その形態も国内のいわゆる竹のような中空構造だけではなく、ほとんど空洞が観察されないような種類まで広くバンブーとして存在している。また、竹は、材料の観点からも非常に優れており、プラスチックとの複合材料の研究が盛んに行われ、コンポジット特性の向上も多数報告されている。つまり、竹の工業資源としての利用は、竹林の問題に対する有効な解決策となると同時に石油、石炭および天然ガス等の化石資源の代替資源としても非常に有効である。
【0004】
また、CO固定化の目的でバイオマス由来の繊維素材を基に高強度材料の開発が活発に行われている。その中でセルロース系ナノコンポジットの開発が急速に進んできている。その基本要素として、高強度、高弾性、および低熱膨張のナノ構造繊維に注目が集まっている。このナノ構造繊維の利用においては、いかにしてナノ構造を維持したまま、簡便にプラスチックと複合化し、その機能を十分に発揮させるかという点に技術開発が求められている。
【0005】
従来の複合化技術では、バイオマスを予め化学処理を行ってセルロース成分を分離した後、(i)さらにバイオマスを化学薬品によって処理し、セルロース内の結合を弱めて解繊しやすくすること、(ii)グラインダー、ホモジナイザー、高圧剪断型分散装置等を用いて繊維をナノサイズまで機械的応力解繊をすること、(iii)ナノサイズの繊維径を維持しながら、表面改質を行い、ポリプロピレン(PP)およびポリエチレン(PE)等の汎用樹脂との親和性の向上を図るとともに、溶融成形時に繊維の再凝集を防ぎ、樹脂との結合力を高めるため分散剤や相溶化剤等を添加して、機械的せん断応力を加えること、という3段階の工程を必要とする。例えば、上記(i)のバイオマスを化学薬品によって処理する方法としては、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)および次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤を複数組み合わせて用いることで、ナノ繊維の表面にカルボキシル基を導入し、その電荷反発を利用して、分散性の高い繊維を得る技術が開発されている(非特許文献1参照)。
【0006】
バイオマスの組織は、セルロース繊維のみではなく、ヘミセルロースおよびリグニン成分が複雑に交錯しあって、頑丈な組織構造を構築している。上記のナノサイズの繊維化技術は、バイオマスの組織構造をより簡便に崩壊させるために開発されてきた技術である。
【0007】
また、先に、竹またはアブラヤシ由来の原料を過熱水蒸気で処理して、ヘミセルロースを優先的に分解し、組織外に排除する方法が開示されている(特許文献1参照)。ヘミセルロースを分解除去することで、バイオマスの組織構造は一気に弱体化し、リグノセルロース成分の解繊が容易になることが記載されている。
【0008】
さらに、過熱水蒸気処理で得られたヘミセルロースを優先分解除去したバイオマスのリグノセルロース粉末に、熱可塑性樹脂等のプレポリマーを配合して、工業的製造に有利な一段階での溶融成形によってバイオマスリグノセルロース複合成形体を得る技術が開示されている(特許文献2参照)。
加えて、過熱水蒸気処理で得られたリグノセルロース粉末(以下、「竹ウィスカー」という)をアルカリ金属化合物と、次亜塩素酸塩および亜塩素酸塩のうちの少なくとも1つとを用いた部分解繊処理および酸化処理を施して、より精製度が高く、またアスペクト比の高いリグノセルロースファイバーを得る方法が開示されている(特許文献3参照)。
【0009】
また、古紙を原料とする連続式固体状態せん断粉砕技術も開発され、バイオマスのナノ解繊前のセルロースから直接プラスチックと複合化する技術を開示している(非特許文献2参照)。但し、この方法はポリマーを混練時にセルロースの解繊をおこなうため、まず低温で解繊を行い、その後、昇温して溶融成形するという2段階プロセスであり、工業的生産のためには、さらなるプロセス改善が望まれる。
【0010】
一方で、パルプを原料として水に分散させた高圧状態でノズルより噴出させることで、強い剪断によりナノ解繊する技術が開示され、均一なナノ繊維を得る方法が開示されている(特許文献4参照)。
【0011】
しかしながら、上記のような従来開示されてきたナノ解繊技術では、次のような問題がある。第一に、希薄濃度において触媒を用いた精密な反応処理が必要だったり、大きなエネルギーを必要とする高圧力下での機械剪断が必要だったりとスケールアップが困難であった。第二に、水に分散した状態では、ナノ化するに従い極端に粘度が増大するため低濃度で取り扱うことになり、その洗浄や分離濃縮が極めて困難になり、工業的使用に使えるような大量生産が困難であった。第三に、こうした処理によりセルロース繊維の径は、数百nm~数nmと十分に小さくなっても、樹脂中で分散状態を維持することは困難であり、セルロースナノファイバーが有する潜在能力を発現するには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第5656167号公報
【特許文献2】特許第5660513号公報
【特許文献3】国際公開第2020/138496号
【特許文献4】特許第5690303号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】バイオマクロモレキュールズ、第8巻、第8号、2485-2491頁(2007年)
【非特許文献2】コンポジット:パートA、第83巻、47-55頁(2016年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
これらの課題を解決するためには、取り扱いが難しく、また凝集しやすくなるナノサイズまでには解繊せずに、一定以上のアスペクト比を維持したまま、樹脂と混練可能なマイクロサイズまでの解繊を行う必要がある。竹粉を過熱水蒸気処理することで解繊を容易にする方法(特許文献1参照)は比較的低コストで製造できるほか、疎水性のあるリグニン由来の成分が表面に付着しているため、繊維同士の凝集は少なくできる利点がある。しかしながら、複合化効果を得るための高いアスペクト比を得るためには選別する必要があり、また繊維中に多くのリグニンを含むため、十分な補強効果を得るためには多くの量を添加する必要があった。
さらに、過熱水蒸気処理を行った竹繊維を混練加工すると竹繊維に含まれる糖類、ペクチン類、糖タンパク質類、酵素類、リグニンやヘミセルロースなどの熱変性物が熱や酸化により変質し、強い臭気が発生したり、強く着色したりすることで混練作業中の環境問題を引き起こすほか、製品としての意匠上の問題となっていた。また、そうした熱変性物が繊維と樹脂の界面に残留することで界面接合力を弱めている可能性がある。
【0015】
また、竹の繊維は解繊されやすい一方で、剪断により折れたりして繊維が短くなり、アスペクト比が下がることや、熱により一部が分解して繊維に欠陥が生じることで機械強度が低下する可能性が考えられる。繊維径については、通常のセルロースファイバーの最小単位であるエレメンタリーファイバーの径が10nmから20nmである。これに対して竹の場合は解繊で得られる一次エレメンタリーファイバーの繊維径は種類によっても異なるが10μmから50μmであり、木質原料を用いる場合の繊維に比べてはるかに大きい。このため、木質由来の繊維に比べて解繊しやすい特性を有する一方で、品質管理の点から解繊度を制御することが重要である。
剪断力は混練時に複合化する樹脂や装置、混練条件により変わるため、混合する竹繊維の解繊のされやすさを制御する必要がある。解繊しにくいと樹脂中で分散して均質な樹脂複合化物として強化性能を発揮できない。一方、解繊時に強く剪断を受けると繊維が折れてしまい、アスペクト比が低下して強度強化効果が減少する。
その一方で、混練時においてその方法や時間、温度などの条件により剪断力の掛かり方が異なることにより、混練前の竹の繊維の解繊度や解繊されやすさが混練後の樹脂複合化物の強度に大きな影響を与えることがわかった。複合化する樹脂によっては混練時に強い剪断力を与えることができない場合があり、こうした場合では複合化時には既に十分解繊されて樹脂中に分散する必要がある。
これまでは予めナノサイズまで解繊することで、セルロースナノファイバー(以下「CNF」と称する場合がある)として混練時の剪断力に依存せずに樹脂中に分散させることを目標としてきたが、その方法ではCNFが有する強い凝集性のため分散状態を維持することが難しく、実用上乾燥粉とするためには、特殊な表面処理や分散剤を用いる必要があり、コスト上の大きな課題となっていたほか、複合化する樹脂や溶剤の種類により異なる処理が必要となり、強度向上効果発現の再現性についても大きな課題となっていた。
こうした課題を解決するためには、竹のエレメンタリーファイバーが10μmから50μmであることに着目して、こうした繊維を簡便に得る方法として過熱水蒸気処理を施した竹繊維を用いることを発明者らは見出した。
しかしながら過熱水蒸気処理では、竹の繊維束が解繊されやすくなる一方で、繊維が切れたり、欠陥が生じたりすることで竹繊維自身の機械強度が低下し、アスペクト比も低下する。さらに、解繊度や用途に応じた解繊のされやすさを制御することが難しく、樹脂との複合化における強度アップの効果が十分得られないことが分かった。
【0016】
こうした課題を解決してより解繊度を高めた繊維を得るため、過熱水蒸気で処理した竹繊維を原料として、部分解繊を進めながら表面の水酸基の一部をより反応性の高い官能基に変換して樹脂との接合力を高める方法が特許文献3に示されており、より精製度が高く、またアスペクト比の高いリグノセルロースファイバーが得られる。
しかしながら、解繊を進めてリグニン分を除去すると表面水酸基の露出により、繊維同士が凝集し、水分濃度が低下すると糊状となり濾過や洗浄が難しくなる。また、さらに水分濃度が低下すると強固な凝集体を生成して、再分散させることが困難になることが分かった。これを回避するためにはリグニンの除去量を調整して解繊度を必要以上に高めないことが有効だが、過熱水蒸気処理による竹繊維は強く着色しており、着色物質の主要成分であるリグニンを一定以下に低下させる必要があり、前記の課題を回避することができなかった。
さらに、過熱水蒸気処理竹繊維はその製造に大きな熱エネルギーが必要であり、また製造プロセスが複雑になるため製造コストが高く、市場が求める低価格を実現することが困難だった。
加えて、高温の過熱水蒸気に晒されることで繊維の一部が傷つくことで、補強効果が減殺されるため、その繊維の形状を完全に破壊するまでに解繊を進めて、欠陥の少ない繊維にする必要があった。
【0017】
本発明は、樹脂と複合化することで高い機械強度を発揮でき、臭気を抑制でき、かつ着色を抑制できるリグノセルロースファイバーを製造する方法、並びに、リグノセルロースファイバーおよび複合材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記本発明の課題を解決するために、検討を行い、過熱水蒸気処理を行わない方法で樹脂との混練時に容易に解繊可能な竹繊維(以下「BCF」と称する場合がある)を製造できることを見出した。そして、この製造方法で得られたBCFは、混練時の臭気が大幅に改善され、色も原料である竹と同じ淡黄色であり、着色の問題も大きく改善することが分かった。さらに、このBCFを樹脂と複合化したところ、意外にも過熱水蒸気処理竹繊維を大きく凌駕する機械物性の補強効果を発揮することが分かった。
さらに、このBCFを原料とするマイクロサイズに解繊した竹繊維(以下「BCMF」と称する場合がある)の製造を検討した結果、過熱水蒸気による熱処理による原料の着色の問題がなくなったことで、用途に合わせた適切なリグニン濃度を設定することができるようになった。そのため、リグニン濃度と相関がある解繊度を広く制御することが可能となり、製造効率の高い低解繊度だが低コストで扱いやすいBCFから、従来技術により得られるBCMFと同等の高解繊度かつ高純度のBCMFを製造できる技術を確立した。
【0019】
本発明のBCFの製造方法によって、臭気を抑制でき、かつ着色を抑制できる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。
【0020】
まず、臭気の問題に対しては、100℃付近から発生が開始し、200℃近くの高温となる混練時まで発生するため、比較的低温で分解または揮発する物質が原因であると考えられる。過熱水蒸気処理された竹繊維では、200℃から250℃の過熱水蒸気で処理されるため、低温で分解、または揮発する物質は予め除去される。このため、混練時の200℃以下で熱分解されて臭気となるような物質はヘミセルロースやリグニン、セルロースの熱変性物と考えられる。これらの物質は、一般的に強く着色することが知られている。一方、熱処理前の竹においては、竹に含まれる糖分や精油成分、アルカロイド類、アミノ酸類、糖タンパク質類、ペクチン類、低分子量のヘミセルロース、酵素類、および無機成分等の非繊維不純物が考えられる。
これらの物質の多くは加熱により分解して強い臭気性物質となることが分かっている。例えば、竹に含まれる糖類やヘミセルロース、糖タンパク質も熱分解することで強い臭気を有するギ酸や酢酸、アンモニア等の揮発成分になり、作業環境の悪化や混練後の樹脂複合化物においても残留する臭気物質により、用途によっては使用上の大きな問題をもたらす。
また、揮発成分と考えられる油分にはいわゆる精油成分が含まれているが、その中にターピネオール類のような生理活性が強い成分が含まれている。これらは、臭気の原因となるだけでなく、目や鼻、咽頭部に刺激を与え、また血圧や脈拍数に影響を与えるなどの人体に影響があることが分かっている。このため、過熱水蒸気処理を行わない竹粉を樹脂との混練材料として取り扱う場合はこうした臭気原因物質を除去して熱による揮発、生成を抑制する必要がある。
【0021】
さらに、糖類やヘミセルロースは、一部は炭化して強く着色することで意匠性を損なう他、炭化物はセルロースファイバーの表面に付着残留して、混練後繊維と樹脂との界面に存在することで界面接合を妨げ、機械特性の向上を妨げると考えられる。
また、竹には無機成分が多く含まれていることが知られている。植物中には普遍的に微粒子状のシリカ等の無機成分が含有されていることが知られているが、これは繊維ではなく樹脂の補強に寄与しないばかりか、水や有機溶剤の中で泥状に分散することで、製造における濾過の妨げになったり、繊維と樹脂との界面に存在することで繊維と樹脂との結合を妨げたりするなどの大きな問題がある。竹ではこうした無機物は葉や竹の表面に特に多く分布しており、太陽光や酸素等から自らを守っていると考えられる。
【0022】
その他、竹は結晶性が低いアモルファスセルロースを特に節部に多く含んでおり、こうしたアモルファスセルロースは容易に粉砕されてアスペクト比の小さい細かい粒子となり、無機質と共に強度アップの妨げになっているとされている。
こうしたことは断片的には古くから知られていることではあるが、竹のマイクロサイズの繊維を樹脂複合化物のフィラーとして扱うために系統的、網羅的に検討された例はなく、WPC(wood plastic compound)として建材や日常品として用いられた例はあるが、カーボンファイバーやガラスファイバーのような構造材料を構成するための材料としての検討は極めて限定的であった。
【0023】
本発明者らは、詳細な検討を行い、必要に応じて、竹を予め一般的な紙用パルプを得るための圧砕や粗繊維の粉砕や分級を行い、さらに水熱処理を行うと、竹の基本的な構成成分であるセルロース、ヘミセルロース、およびリグニン以外の糖分や精油成分、アルカロイド類、ペクチン類、アミノ酸類、糖タンパク質類、低分子量のヘミセルロース、無機成分等の非繊維不純物の大部分を除去できることを見出した。こうした不純物を除去した竹微粉は、100℃以下の温和な条件での処理により得られるものであり、過熱水蒸気処理のように熱変性した不純物がほとんど生成しないため、竹微粉の着色がなく、混練した複合化樹脂の色の自由度も高くなった。また、樹脂と混練しても発生する臭気や刺激成分が大幅に減少することがわかった。
こうした水溶性不純物の除去については通常、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウム等のアルカリ化合物が添加されるが、洗浄に多くの水を要することや廃水処理設備が必要になることが問題だった。本発明ではアルカリ化合物を用いなくても上記不純物を十分除去できることを見出した。さらに、混練した複合樹脂の機械物性についても過熱水蒸気処理による竹微粉と比較して強度アップ効果が高く、簡易な方法でより高い強化性能を有する竹由来の精製リグノセルロースファイバーが得られることが確認できた。
【0024】
次に、発明者らは、精製リグノセルロースファイバーの解繊度を上げてよりアスペクト比を高くするため、特殊な機械的解繊を行わずに竹の粗繊維を解繊する方法を検討した結果、以下の方法により高い解繊度を有する高アスペクト比の繊維を得る方法を完成した。
本発明者らは、最初に水熱処理を行わない竹微粉を原料として、特許文献3に記載の部分解繊処理と同様に、次亜塩素酸塩または亜塩素酸塩、アルカリ化合物のうち少なくとも一つを含む水溶液(以下、「混合水溶液」とも称する場合がある)を用いて、部分解繊を試みたが、反応速度が小さく、また濾過洗浄時に微細な粒子により目詰まりなどの現象が起こることで実用上大きな問題が生じることを把握した。こうした微細な粒子を生じる原因を調査した結果、竹に含まれている無機成分が微粒子として分離することと、比較的低温で変性する物質の一部が微粒子化することを突き止めた。
これを除去するためには、前述のような水熱処理の後の濾過工程の前に微粒子が懸濁する上澄み液を除去することが有効であり、予め圧砕、粉砕、分級した竹微粉に対し、第一処理工程として水熱処理の後に不純物を除去することで、濾過洗浄速度を大幅に向上させることが可能となった。さらに得られた高精製リグノセルロースファイバーは乾燥させることなく、第二処理工程として混合水溶液を加えて一定以上の温度で軽く撹拌するだけでヘミセルロースやリグニンを効果的に分解除去しながら部分解繊を行い、所望の精製度、解繊度を有する高純度リグノセルロースファイバーを得る方法を考案した。
【0025】
上記のような方法では、原料に加熱による着色がないため、複合化した後の着色の制約なく、解繊度と共にヘミセルロース、リグニン、セルロースの各成分の比率を用途に応じて作り分けることが可能であり、多様な用途に対応した様々な樹脂との複合化に好適なフィラーを得ることができる。例えば、解繊度が低くてもよく、高アスペクト比も必要がなければ第二処理工程における混合水溶液の使用量を少なくする、または水のみの処理によることで、乾燥粉砕が容易な高純度リグノセルロースマイクロファイバーが低コストで得られる。一方、混練時に剪断をかけられない場合は解繊度を上げてアスペクト比を高めることで、混練による解繊効果に期待することなく高い機械物性アップを可能とする。
上記のような反応では、精製リグノセルロースファイバーの繊維の束はリグニンが脱離する繊維の端のほうから解繊するため、箒状の繊維となる(図1参照)。こうした形状の繊維は樹脂中で変形に対する引き抜きに対して抵抗すると考えられ、機械強度の向上に貢献する。
得られたBCFの強度向上効果を高めて、また安定した効果を実現するためには水熱処理の条件を管理する必要がある。発明者らは得られたBCFに対して水とヘキサンに対する溶出量を測定することで様々な状態の竹原料に対して安定した効果が得られる精製リグノセルロースファイバーと高純度リグノセルロースファイバーの製造方法を確立した。
【0026】
上記のようにして作製した竹由来の精製リグノセルロースファイバーと高純度リグノセルロースマイクロファイバーは、原料竹微粉の製造時以外には機械的な解繊を一切用いない簡易な製造方法にも関わらず、実用的な条件で樹脂と複合化することで従来のセルロースナノファイバーに匹敵または凌ぐほどの驚くべき機械強度の向上効果が得られることが分かった。
【0027】
本発明の一態様によれば、予め粒度調整されたバイオマス微粉に対して水熱処理を施す工程を備える、リグノセルロースファイバーの製造方法が提供される。
【0028】
本発明の一態様によれば、バイオマス微粉に対して水熱処理を行ったリグノセルロースファイバーを原料として、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、過酸化水素、またはアルカリ化合物のうち少なくとも一つを含む水溶液により脱リグニンおよび解繊を行う工程を備える、リグノセルロースファイバーの製造方法が提供される。
【0029】
本発明の一態様によれば、平均繊維径は5μmから500μm、繊維長の平均繊維長は50μmから3000μmであり、前記平均繊維径が5μm以上200μm未満の場合には、水抽出率が1質量以上5質量%以下であり、ヘキサン抽出率が0.5質量以上4質量%以下であり、前記平均繊維径が200μm以上500μm以下の場合には、水抽出率が0質量以上2質量%以下、ヘキサン抽出率が0.5質量以上1.5質量%以下であるリグノセルロースファイバーが提供される。
【0030】
本発明の一態様によれば、繊維径の平均繊維径は0.1μmから200μm、繊維長の平均は10μmから2000μmであり、TGAの重量減少曲線の微分曲線であるDTG曲線において、240℃から340℃にショルダーがあるリグノセルロースファイバーが提供される。
【0031】
本発明の一態様によれば、前記本発明の一態様に係るリグノセルロースファイバーの製造方法で得られるリグノセルロースファイバー、或いは、前記本発明の一態様に係るリグノセルロースファイバーを含有する、複合材が提供される。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、樹脂と複合化することで高い機械強度を発揮でき、臭気を抑制でき、かつ着色を抑制できるリグノセルロースファイバーの製造方法、並びに、リグノセルロースファイバーおよび複合材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】実施例1で用いた精製竹微粉を示す光学顕微鏡写真である。
図2】実施例1で得られた第一リグノセルロースファイバーを示す光学顕微鏡写真である。
図3】部分解繊処理中におけるリグノセルロースファイバーを示す光学顕微鏡写真である。
図4】実施例7で得られた第二リグノセルロースファイバーを示す光学顕微鏡写真である。
図5】実施例7で得られた第二リグノセルロースファイバーを示す光学顕微鏡写真である。
図6】試験例1における熱処理時間と水抽出率およびヘキサン抽出率との関係を示すグラフである。
図7】試験例1における熱処理温度と水抽出率およびヘキサン抽出率との関係を示すグラフである。
図8】実施例2および比較例1~2における曲げ弾性率および曲げ強度の評価結果を示すグラフである。
図9】実施例4-2で得られた複合樹脂組成物を示す電子顕微鏡写真である。
図10】実施例4-2で得られた複合樹脂組成物を示す電子顕微鏡写真である。
図11】実施例5および比較例3~4における曲げ弾性率および曲げ強度の評価結果を示すグラフである。
図12】実施例6で得られた第二リグノセルロースファイバーを示す光学顕微鏡写真である。
図13】実施例8で得られた第二リグノセルロースファイバーを示す光学顕微鏡写真である。
図14】実施例9で得られた第二リグノセルロースファイバーを示す光学顕微鏡写真である。
図15】過熱水蒸気処理による竹微粉を示す光学顕微鏡写真である。
図16】実施例10で得られた第二リグノセルロースファイバーを示す光学顕微鏡写真である。
図17】実施例11で得られた第二リグノセルロースファイバーを示す光学顕微鏡写真である。
図18】BCPの添加率に応じてポリスチレンビーズの外観を示す光学顕微鏡写真である。
図19】BCMFおよびB-BCPの添加率と複合樹脂の曲げ強度との関係を示すグラフである。
図20】実施例1で得られた第一リグノセルロースファイバー(図20(A))と過熱水蒸気処理による竹微粉(図20(B))のガスクロマトグラフィーのチャートである。
図21】実施例6で得られた第二リグノセルロースファイバーと実施例13で得られた第一リグノセルロースファイバーと比較例7で得られたリグノセルロースファイバーのTGAの重量減少曲線の微分曲線であるDTG曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
[第一実施形態]
[リグノセルロースファイバーの製造方法]
まず、本発明の第一の実施の形態(以下、「第一実施形態」または「本実施形態」という)に係るリグノセルロースファイバーの製造方法について説明する。
本実施形態のリグノセルロースファイバーの製造方法は、以下説明する水熱処理工程と、分散処理工程を備える方法である。
【0035】
(水熱処理工程)
水熱処理工程においては、まず、平均繊維長が5mm以下のバイオマス微粉を準備する。このバイオマス微粉の製造方法は、バイオマス原料を、数センチから数十センチメートルの適当なサイズに切断する方法を採用できる。特に竹の場合は中空構造であるため、圧縮等の適当な方法で構造を押しつぶす必要がある。押しつぶすのは製材所等の設備によるため、特に定めは無い。押しつぶす工程は適当なサイズに切断する前でも後でもよい。次に後の不純物を除く熱水処理の効果を高め、混練中に解繊しやすくするため、さらに適当な圧縮方法により数百から数千μmの繊維径になる程度に圧砕する。こうした処理の後、粉砕分級を行い、平均繊維径が5μm以上500μm以下であり、平均繊維長が50μm以上5000μm以下であるバイオマス微粉を得る工程を備えていてもよい。さらに、竹繊維は生の状態では貯蔵中や輸送中に雑菌により腐敗、発酵、変質することで臭気や色、強度低下などの問題が発生する場合がある。これを防止するため出荷前に過酸化水素や次亜塩素酸塩による処理を行うことがある。
【0036】
バイオマス原料としては、セルロース繊維を含む植物であれば何でも原料とすることが可能である。ただし、以下は、最も好適に用いられる原料である竹を用いた場合について説明する。
竹は、広義には、イネ目イネ科タケ亜科のうち、木のように茎が木質化する種の総称である。日本に生育する竹は600種あるといわれており、そのうちの代表的なものとして、マダケ、モウソウチク(孟宗竹)、およびハチク等が挙げられる。本実施形態において用いる竹の種類は、特に限定されない。また、本実施形態において、竹とは、稈、枝、葉、および根からなる総体的なものを意味するが、とりわけ、セルロース繊維成分が豊富な維管束鞘を大量に含む稈部が好適である。
竹は、その主要な構成成分として、セルロース、ヘミセルロースおよびリグニンからなる。ヘミセルロースはセルロースとリグニン、或いはセルロース同士を結合させる接着剤の役割を担っている。
【0037】
裁断や粉砕裁断に用いる装置としては、適宜公知の裁断機および粉砕機を使用できる。
ここで、粉砕前あるいは後にバイオマス原料を圧縮して繊維を潰してもよい。圧縮装置はロースプレスやハンマーミル、ボールミル等特に方法は特定しないが、十分繊維が解れていることが必要である。粉砕して後のバイオマス原料は分級して所定の長さになるようにする。長さは後工程である粉砕の装置に合わせた長さとすればよく特定しない。また、バイオマス原料は裁断や粉砕の前または後に乾燥させてもよい。なお、裁断前にバイオマス原料を乾燥させると、裁断しやすくなる傾向にある。
【0038】
なお、伐採された竹から葉と枝部および地上付近の幹部を除き、粉砕しやすいようにロール等により圧砕して切断や粉砕を容易にすることも有効である。さらに適当な大きさに切断した後に粉砕して竹微粉を得る。得られた竹微粉は様々な大きさの繊維や繊維以外を含むため、篩いやサイクロン等の適当な分級装置により粒度を揃える。粒度は特に制限は無いが、樹脂、コンクリート、またはモルタル等と複合化するためには平均の粒子径が20μmから500μm、粒子長は50μmから2000μmの範囲にすることが望ましいが、目的によりこうした範囲を超えても本発明の範囲を逸脱することにはならない。また、竹微粉の含水量は一般に伐採されてからの時間や貯蔵の状態によっても異なるが30質量%から70質量%まで特に制限は無い。また、竹微粉は様々な汚れや竹そのものに含まれる糖類、タンパク質類、または精油類等を含むため、貯蔵や運搬時に発生する臭気やカビ、腐敗、発酵を抑制し、貯蔵用地や容器の汚損を防止し、色品質を高め、変質による強度低下を防止するために出荷前に過酸化水素や次亜塩素酸塩による処理や水洗を行うことがある。こうした竹微粉に対する処理は後述の水洗処理あるいはアルカリや酸、酸化剤による処理として、本発明の機械強度を向上させる効果が確認できれば、竹微粉を製造する工程に組み込むことも可能である。こうして得られた竹微粉を以下「精製竹微粉」と表記する場合がある。
【0039】
水熱処理工程においては、バイオマス微粉である竹微粉に対し、水熱処理を施して、第一リグノセルロースケーキを得る。
竹微粉は、天然の竹が有する油分や糖類、アミノ酸、糖タンパク質、ペクチン類、アルカロイド、低分子量ヘミセルロースおよび無機質等の非繊維不純物を含む。これらは低温で分解、変性して臭気や着色の原因となり、また混練すると機械特性の向上を妨げる。そのため、できる限り除去する必要がある。こうした目的のため、竹粉を水または熱水に投入して、加熱すること、すなわち水熱処理により不純物を分離または抽出する。
この水熱処理における温度は常温でもよいが、処理時間を短縮するためにはより高い温度が望ましい。
常圧下では、常温から水の沸騰温度である100℃以下で処理するのが一般的であるが、圧力を上げることで100℃から150℃程度まで上げることも可能である。圧力を上げるためには、圧力容器を用いることや管型の反応装置を用いて外部から加熱したり、またマイクロ波や高周波により流体を直接加熱したりすることで圧力を上げて目的の温度を得ることができる。温度を上げることで非繊維不純物を短時間に除去できることで処理を連続化することが可能である。
【0040】
また、この水熱処理において、反応する際に水にアルカリや酸を溶解して用いることにより処理時間を短縮することが可能である。さらに、この水熱処理において、次亜塩素酸塩や亜塩素酸塩、過酸化水素のような酸化物、アルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物を使用することで、低温で分解する非繊維不純物だけでなく、ヘミセルロースやリグニンを除去することも可能である。また、これらを組み合わせることで、非繊維不純物を効果的に除去して臭気や色を改善するだけでなく、解繊度を制御して目的に応じた繊維径、繊維長、またはアスペクト比を有する竹由来の高純度リグノセルロースマイクロファイバーを製造することが可能となる。
【0041】
さらに、詳細な水熱処理の方法を示すが、この方法に限定されない。ここでは、例として常圧における水熱処理の方法を説明する。粒度を調整した原料の竹粉は、容器に水を投入して、ついで竹粉を投入する。この際にアルカリ物質を適量添加してスラリーをアルカリ性に保つことで反応を加速する事も可能であるが必須ではない。撹拌すると竹粉は沈降してスラリー状になる。このまま撹拌を続けて不純物成分の抽出を待ってもよいが、反応時間を短縮するため加熱することが望ましい。温度は常温から100℃までの何度でもよいが、望ましくは60℃から100℃、さらに望ましくは80℃から100℃まで昇温して撹拌を続ける。竹は天然物であるため、同じ竹の種類でも組成は一定ではなく、反応の終点は、スラリーの液部の溶解物の濃度を分析するか、竹粉の一部を採取して残存する溶解成分の量を分析することでも決定できる。処理時間は、温度により大きく変化するが、温度を80℃から100℃までの間とする場合、15分から120分で水熱処理を終えることが可能である。
【0042】
水熱処理を終えた後は、ハンドリングが可能な程度に温度が下がってから濾過を行い、同時に洗浄しながら竹繊維のケーキ(第一リグノセルロースケーキ)を得る。このとき、微粒子状の非繊維物質を分離することが望ましい。得られたケーキは適当な方法で乾燥、粉砕すれば、特別な解砕処理を行わなくてもパウダー状の第一リグノセルロースファイバーを得ることができる(図2参照)。
なお、水熱処理はスラリーを撹拌しながら水または熱水を連続的に装入、同量の処理水を抜き出すことで、連続的に水熱処理を行うことができる。また、管型の反応器により加圧下で水熱処理することにより、連続的かつ高速に反応を終えることができる。本水熱処理では処理中にガス状の物質が放出されることがないため密閉された反応容器を用いて連続的に反応させるプロセスを設計することが容易である。
【0043】
以上のような水熱処理により油分や糖類、アミノ酸、糖タンパク質、ペクチン類、無機質等の非繊維不純物を取り除き、精製リグノセルロースファイバーを得ることができる。
この精製リグノセルロースファイバーは臭気や着色の原因物質が低減され、また微粒子状の非繊維不純物が減少するため、加熱しても臭気の発生が少なく、着色も少ない。また、熱変性した不純物が繊維を覆うこともないため、樹脂と複合化させた際の強度アップ効果が大きいという特徴を有する。
【0044】
(分散処理工程)
分散処理工程(乾燥粒度調整処理工程)においては、前記第一リグノセルロースケーキに対し、熱風乾燥機やディスクドライヤーのような乾燥装置を用いて乾燥を行った後、軽く凝集した塊を機械的に解砕する。さらに簡単な粒度調整処理を施して、平均繊維径が5μm以上700μm以下であり、平均繊維長が50μm以上5000μm以下である分散性の高い乾燥した第一リグノセルロースファイバーが得られる。
製品の状態としては必ずしも乾燥状態が必要とは限らない。溶剤に分散させた状態で出荷することも可能である。すなわち、第一リグノセルロースケーキに、必要な溶剤を添加した後、濾過を行い、得られたケーキに再び溶剤を加えて濾過を繰り返し、溶剤置換により必要な水分濃度まで低下したスラリーを得ることができる。
【0045】
[第一リグノセルロースファイバー]
次に、本実施形態に係るリグノセルロースファイバーについて説明する。本実施形態に係るリグノセルロースファイバーは、前述の本実施形態に係るリグノセルロースファイバーの製造方法で得られる第一リグノセルロースファイバーである。
すなわち、第一リグノセルロースファイバーは、バイオマス由来のリグノセルロースファイバーであって、平均繊維径が5μm以上500μm以下であり、平均繊維長が50μm以上3000μm以下であるものである。
【0046】
第一リグノセルロースファイバーの平均繊維径および平均繊維長は、倍率を調整可能な顕微鏡観察で得られた1cm×1cm画像中の繊維について直接測定できる。長さが2000μm以下である成分の質量比率は、長さと質量が実質的に比例関係にあることに基づいて、長さの累積頻度%を測定して、これを質量%と置き換える方法により算出できる。なお、長さが2000μm以下である成分の質量比率の概略値は、篩い分け法により簡便に測定できる。
なお、例えば、第一リグノセルロースファイバーの平均繊維径および平均繊維長は、バイオマスの種類を選ぶことや原料となる微粉の大きさを調整すること、水熱処理および分散処理の処理条件を変更することにより調整できる。
【0047】
第一リグノセルロースファイバーにおいては、平均のアスペクト比が2以上100以下であることが好ましく、3以上80以下であることがより好ましい。平均のアスペクト比が前記範囲内であれば、後工程で得られるリグノセルロースファイバーの平均のアスペクト比を好ましい範囲にできる。
平均のアスペクト比は、平均繊維長の平均繊維径に対する比(平均繊維長/平均繊維径)として表わされる。アスペクト比が大きいということは、より細長い繊維状の形態であることを意味している。平均のアスペクト比は、1cm×1cm画像中の繊維について直接測定したアスペクト比の平均値を、試料の平均のアスペクト比として測定できる。
【0048】
第一リグノセルロースファイバーにおいては、臭気等の観点から、平均繊維径が5μm以上200μm未満の場合には、水抽出率が1質量以上5質量%以下であり、ヘキサン抽出率が0.5質量以上4質量%以下であることが必要である。
また、第一リグノセルロースファイバーにおいては、臭気等の観点から、平均繊維径が200μm以上500μm以下の場合には、水抽出率が0質量以上2質量%以下、ヘキサン抽出率が0.5質量以上1.5質量%以下であることが必要である。
水抽出率は、第一リグノセルロースファイバーを試料として、次のような方法により測定できる。すなわち、まず、試料約10gを秤量する。秤量は空調設備がある部屋に設置した直示式電子天秤(松浦計量器製KE3-13、以下単に秤量とする場合は本天秤を用いる)を用いて行い、試料をシャーレに均等に投入して、103℃に設定した強制送風型乾燥機(ETTAS社製OF-450S)に設定温度になっていることを確認してからシャーレごと入れて、30分間乾燥させる。30分経過後直ちに乾燥機から取り出してチャック付きのビニール袋に全量を移す。この際、均質になるように袋の外から指圧で凝集している塊を押しつぶす。
次に500mLのガラス製二つ口フラスコを用意する。ビニール袋の内容物を均質になるように少量ずつ試料を取り出して5.0gを秤量する。これをフラスコに投入して、次に市販のイオン交換水(サンワ化学製)を200mLのメスシリンダーを用いて200mL秤量し、フラスコに装入する。これを電圧調整器(東芝製SLIDAC(DA120))に接続したマントルヒーター(ASONE社製(WKXS-500))により加熱する。フラスコをヒーターに設置したら、直ちにアリーン冷却管を取り付けて、冷却水を通水し、適量が流れていることを確認する。
ヒーターに供給する電圧は、常温から還流開始まで25分になるように調整する。電圧は室内温度によっても変化するので、アリーン冷却管の下から一つ目から二つ目の玉に水蒸気が届く程度になるように定期的に設定を調節することが望ましい。還流開始後、60分経過してから加熱を停止し、40分かけて40~50℃になるまで冷却する。この際、夏期等時間がかかる場合は、水を張った容器に漬けるなどして40分で50℃以下になるように調整する。次に内容物を全量、ブフナー漏斗に、デシケーター中に保管しているADVANTEC社製直径55mmの5Aの秤量済み濾紙を敷いてから投入、アスピレーターを用いて吸引ろ過を行う。ただし、濾紙の種類は同じサンプルを用いて比較試験を行い、有意差が5%以内である場合は濾紙の種類やそのメーカーを変更しても差し支えない。濾液が落ちきったらイオン交換水(サンワ化学製)を200mLのメスシリンダーを用いて40mL秤量し、ケーキ上にふりかけて洗浄を行う。同様に濾液が落ちきるのを確認して、ケーキの全量を、予め乾燥した後、秤量した蓋つきガラス製秤量瓶(φ60mm×30mm)に移す。また、使用した濾紙は、予め秤量して乾燥した直径150mmのガラス製シャーレの中に置く。
秤量瓶は秤量瓶のふたを開けた状態で、ふたとともに、またシャーレもふたを開けた状態で、両方とも予め103℃に設定して恒温状態となった乾燥機に入れて、1.5時間乾燥させる。その後、秤量瓶を蓋とともに取り出して、ガラス製デシケーター中にふたを閉めた状態で放冷する。同様にシャーレもふたを被せた状態で放冷する。20分後に静電気を除去しながらデシケーターより取り出してふたをした状態で秤量瓶、シャーレを秤量する。
抽出率は以下の式により計算する。
(水抽出率%)=100-[(抽出後試料質量(g)+(抽出後濾紙質量(g))/((抽出前試料質量(g)+抽出前濾紙質量(g))×100]
【0049】
ヘキサン抽出率は、第一リグノセルロースファイバーを試料として、次のような方法により測定できる。すなわち、まず、試料約10gを秤量する。秤量は空調設備がある部屋に設置した直示式電子天秤(松浦計量器製KE3-13、以下単に秤量とする場合は本天秤を用いる)を用いて行い、試料をシャーレに均等に投入して、103℃に設定した強制送風型乾燥機(ETTAS社製OF-450S)に設定温度になっていることを確認してからシャーレごと入れて、30分間乾燥させる。30分経過後直ちに乾燥機から取り出してチャック付きのビニール袋に全量を移す。この際、均質になるように袋の外から指圧で凝集している塊を押しつぶす。
次に500mLのガラス製二つ口フラスコを用意する。ビニール袋の内容物を均質になるように少量ずつ試料を取り出して5.0gを秤量する。これをフラスコに投入して、次に市販のn-ヘキサン(富士フイルム和光純薬製 試薬1級)を200mLのメスシリンダーを用いて200mL秤量し、フラスコに装入する。これを電圧調整器(東芝製SLIDAC(DA120))に接続したマントルヒーター(ASONE社製(WKXS-500))により加熱する。フラスコをヒーターに設置したら、直ちにアリーン冷却管を取り付けて、冷却水を通水し、適量が流れていることを確認する。
ヒーターに供給する電圧は、常温から還流開始まで15分になるように調整する。電圧は室内温度によっても変化するので、アリーン冷却管の下から一つ目から二つ目の玉にヘキサン蒸気が届く程度になるように定期的に設定を調節することが望ましい。還流開始後、60分還流状態を維持する。その際の電圧は室内温度により異なるため、アリーン冷却管の最も下の管球部の半分くらいに蒸気が届くくらいに調節する。温度はn-ヘキサンの沸点である69℃となる。
60分還流の後加熱を停止し、15分かけて40~50℃になるまで冷却する。この際、夏期等時間がかかる場合は、水を張った容器に漬けるなどして15分で50℃以下になるように調整する。次に内容物を全量、ブフナー漏斗に、デシケーター中に保管しているADVANTEC社製直径55mmの5Aの秤量済み濾紙を敷いてから投入、アスピレーターを用いて吸引ろ過を行う。ただし、濾紙の種類は同じサンプルを用いて比較試験を行い、有意差が5%以内である場合は濾紙の種類やそのメーカーを変更しても差し支えない。濾液が落ちきったらn-ヘキサン(富士フイルム和光純薬製 試薬1級)サンワ化学製)を200mLのメスシリンダーを用いて40mL秤量し、ケーキ上にふりかけて洗浄を行う。同様に濾液が落ちきるのを確認して、ケーキの全量と使用した濾紙を、予め乾燥した後、秤量した蓋つきガラス製秤量瓶(φ60mm×30mm)に移す。
秤量瓶のふたを開けた状態で、ふたとともに予め103℃に設定して恒温状態となった乾燥機に入れて、1.5時間乾燥させる。その後、秤量瓶を蓋とともに取り出して、ガラス製デシケーター中にふたを閉めた状態で放冷する。20分後に静電気を除去しながらデシケーターより取り出して秤量瓶ごと秤量する。
抽出率は以下の式により計算する。
(ヘキサン抽出率%)=100-[(抽出後試料質量(g)+(抽出後濾紙質量(g))/((抽出前試料質量(g)+抽出前濾紙質量(g))×100]
【0050】
第一リグノセルロースファイバーにおいては、臭気等の観点から、ガスクロマトグラフ質量分析法において、マルトールに起因するピークが検出されないことが好ましい。
ガスクロマトグラフ質量分析法の詳細は、後述する実施例の通りである。
【0051】
第一リグノセルロースファイバーにおいては、TGAの重量減少曲線の微分曲線であるDTG曲線において、240℃から340℃にショルダーがあることが好ましい。
TGAの重量減少曲線の微分曲線であるDTG曲線の測定方法は、後述する第二リグノセルロースファイバーで記載する通りである。
【0052】
[複合材]
次に、本実施形態に係る複合材について説明する。
本実施形態に係る複合材は、前述の本実施形態に係るリグノセルロースファイバーの製造方法で得られるリグノセルロースファイバー、或いは、前述の本実施形態に係るリグノセルロースファイバーの少なくとも一つを含有することを特徴とするものである。
すなわち、本実施形態に係る複合材は、前述のリグノセルロースファイバーと、複合化対象物質と、を含有するものである。
【0053】
複合化対象物質は、有機物でもよく、無機物でもよい。有機物としては、樹脂、ゴムおよびアスファルト、等が挙げられる。無機物としては、金属(ニッケル粒子、コバルト粒子、鉄粒子、銀粒子、金粒子、ルテニウム粒子、パラジウム粒子および白金粒子等)、金属酸化物(セラミックス、シリカゲル、アルミナゲル、酸化鉄粒子、および磁性粒子(フェライト、希土類磁石等))、炭素材料(コークス類、黒鉛、グラフェン、活性炭等の無定形炭素およびカーボンブラック等)、粘土類、珪藻土、石膏、ゼオライト、およびコンクリート等が挙げられる。また、複合化対象として他の繊維またはウィスカー、微粒子と組み合わせて使用することが可能である。他の繊維としては本明細書記載のセルロースファイバー以外のセルロースファイバー(セルロースナノファイバーを含む)や天然繊維を含む全てのファイバーまたはウィスカーまたはフィラーとして各種微粒子と組み合わせることが可能である。好適な繊維としては、セルロースファイバー、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、アルミナファイバー、ガラスファイバー、アラミドファイバー、ボロンファイバー、炭化ケイ素ファイバー、金属ファイバー、およびポリオレフィンファイバー等が挙げられる。好適なフィラーとしては、アルミナ、シリカ、炭化ケイ素、カーボンブラック、磁性粒子(フェライト、および希土類磁石等)、ニッケル、コバルト、銀、白金、タングステン、鉛、スズ、ハンダ等の金属が挙げられる。
【0054】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二の実施の形態(以下、「第二実施形態」または「本実施形態」という)に係るリグノセルロースファイバーの製造方法について説明する。
本実施形態に係るリグノセルロースファイバーの製造方法は、バイオマス微粉に対し、水熱処理を施して、第一リグノセルロースケーキを得る工程(水熱処理工程)と、前記第一リグノセルロースケーキに対し、アルカリ化合物と、次亜塩素酸塩および亜塩素酸塩、過酸化水素水のうちの少なくとも1つとを用いた部分解繊処理および酸化処理を施して、第二リグノセルロースケーキを得る工程(部分解繊処理工程)と、前記第二リグノセルロースケーキに対し、分散処理を施して、平均繊維径が0.1μm以上200μm以下であり、平均繊維長が10μm以上2000μm以下である第二リグノセルロースファイバーを得る工程(分散処理工程)と、を備える方法である。
【0055】
第二実施形態においては、水熱処理後のリグノセルロースケーキに対し、さらに、部分解繊処理および脱リグニンまたは表面に酸化処理を施す点で、第一実施形態と異なる。
以下の説明では、第一実施形態との相違に係る部分を主に説明し、重複する説明については省略または簡略化する。
水熱処理工程については、第一実施形態と同様である。
また、複合材についても、第一実施形態と同様である。
【0056】
(部分解繊処理工程)
部分解繊処理工程においては、前記第一リグノセルロースケーキに対し、アルカリ化合物と、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩および過酸化水素水のうちの少なくとも1つとを用いた部分解繊処理および酸化処理を施して、第二リグノセルロースケーキを得る。
水熱処理工程で得られた第一リグノセルロースケーキは、乾燥させる必要はなく、水熱処理後の処理溶液中に引き続き、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩または過酸化水素水と、アルカリ化合物を投入してもよい。なお、第一リグノセルロースケーキを乾燥させた後で、新たな処理溶液中に投入してもよい。
次亜塩素酸塩または亜塩素酸塩の投入量は、リグノセルロース量100質量%に対して、20質量%以上30質量%以下であることが好ましい。また、過酸化水素の投入量は、リグノセルロース量100質量%に対して10質量%以上25質量%以下であることが好ましい。
アルカリ化合物の投入量は、2質量%以上3質量%以下であることが好ましい。
処理溶液中の次亜塩素酸塩または亜塩素酸塩濃度は、1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、3質量%以上7質量%以下であることがより好ましい。また、過酸化水素の濃度は、1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0057】
アルカリ化合物は、水溶性で強いアルカリ性を示す物質であればよく、特に限定されない。アルカリ化合物としては、アルカリ金属の炭酸塩や水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物が好適に用いられる。なお、通常、過酸化水素水を用いる処理を行う場合は同時にアルカリ化合物を用いない。
処理温度は、特に制限はないが、反応時間の短縮のためには室温から60℃の間で加熱できる。こうした溶液中で軽い撹拌を行い静置するとヘミセルロースやリグニンが分解して繊維束から抜けるとともに精製リグノセルロースファイバーは特に機械的な剪断によることなく解繊されるとともに表面の官能基が酸化される(図3参照)。
【0058】
部分解繊処理および酸化処理は、一回の反応で終えることが望ましいが、数回に分けて実施してもよい。次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩または過酸化水素が反応で消費されてなくなるとリグニンの脱離や解繊が停止する。そのため、濾過を行い得られたケーキに新しい処理溶液を加えて、新たに反応を開始すれば、リグニンの脱離や解繊をさらに進めることができる。この部分解繊処理において、2回目または3回目の反応においても、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩または過酸化水素濃度は同様でもよい。最後の処理の後、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩または過酸化水素が残留すると排水の処理が必要になったり、洗浄に負荷がかかったりするため最終の処理では濃度を下げるとよい。また、過酸化水素の分解除去にはカタラーゼのような過酸化水素分解酵素や金属酸化物などを添加してもよい。
【0059】
精製リグノセルロースファイバーの解繊度は、リグニンの濃度が低下するほど上がる。そのため、必要な解繊度を得るためには、部分解繊処理工程における処理溶液の次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩または過酸化水素の量を調節するか、同じ処理溶液の濃度でも処理回数を変更することにより目的の解繊度の高純度リグノセルロースファイバーが得られる。
反応が全て終了した後は、濾過洗浄により次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩または過酸化水素、アルカリ化合物、処理中の反応で生成する塩化ナトリウムや分解生成物を除去する。洗浄が終了したら目的に応じて表面処理剤あるいは分散剤を加える。これらはセルロースファイバーの分散に用いられる既知の分散剤を用いることが可能である。分散剤としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、およびカチオン系界面活性剤などが挙げられる。これらの中でもアニオン系界面活性剤、またはノニオン系界面活性剤が好適に用いられる。また、目的によってはフタル酸あるいはマレイン酸変性による長鎖アルキル脂肪族化合物や芳香族アルキル化合物、アニリン等のアミン基を有する化合物、または、オルガノシロキサンやシラン、ポリシラザン等のケイ素系樹脂ポリマー、マレイン酸変性オレフィンを用いることもできる。
そして、分散剤を添加した後は、濾過を行い、高純度リグノセルロースマイクロファイバーの含水ケーキ(第二リグノセルロースケーキ)を得る。
【0060】
(分散処理工程)
分散処理工程においては、前記第二リグノセルロースケーキに対し、分散処理を施して、平均繊維径が0.1μm以上200μm以下であり、平均繊維長が10μm以上2000μm以下である第二リグノセルロースファイバーを得る(図4および図5参照)。
分散処理としては、例えば、分散させた状態を得る場合、第二リグノセルロースファイバーを水以外の溶剤に分散させてもよい。すなわち、第二リグノセルロースケーキに、目的の溶剤を添加した後、濾過を行い、得られたケーキに再び溶剤を加えて濾過を繰り返し、溶剤置換により必要な水分濃度まで低下したスラリーを得ることができる。
また、乾燥した状態の繊維を得る場合は、凍結乾燥などの公知の方法を使えるほか、粉砕処理とを組み合わせることができる。第二リグノセルロースケーキを乾燥させた後で、カッターミルやジェットミルのような剪断による乾式粉砕を行った後、分級することで繊維を得ることができる。こうした剪断力を用いる粉砕方法は繊維径が小さいかアスペクト比が小さい繊維の場合に有効だが、繊維を傷つけたり変形させたりすることがある。スプレードライを用いるとアスペクト比が高い繊維でも容易にさらに高分散の乾燥繊維を得ることが可能である。
【0061】
[第二リグノセルロースファイバー]
次に、本実施形態に係るリグノセルロースファイバーについて説明する。本実施形態に係るリグノセルロースファイバーは、前述の本実施形態に係るリグノセルロースファイバーの製造方法で得られる第二リグノセルロースファイバーである。
すなわち、第二リグノセルロースファイバーは、バイオマス由来のリグノセルロースファイバーであって、平均繊維径が0.1μm以上200μm以下であり、平均繊維長が10μm以上2000μm以下であるものである。なお、平均繊維径は、1μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0062】
第二リグノセルロースファイバーにおいては、平均のアスペクト比が2以上100以下であることが好ましく、3以上80以下であることがより好ましい。
【0063】
第二リグノセルロースファイバーにおいては、TGAの重量減少曲線の微分曲線であるDTG曲線において、240℃から340℃にショルダーがあることが必要である。
【0064】
第二リグノセルロースファイバーの平均繊維径、平均繊維長、アスペクト比、水抽出率およびヘキサン抽出率は、第一リグノセルロースファイバーと同様の方法で測定できる。
【0065】
第二リグノセルロースファイバーにおいては、その組成的な特徴を熱重量示差熱分析により示すことができる。例えば、示差熱熱重量測定装置により不活性ガス雰囲気の中での重量減少率曲線を調べることで確認できる。特にその微分曲線であるDTG曲線を測定することで、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、過酸化水素のような酸化物、アルカリ化合物処理による特徴を調査できる。
【0066】
[複合樹脂組成物]
本実施形態に係る複合樹脂組成物は、前述の第一リグノセルロースファイバーと前述の第二リグノセルロースファイバーの一つ又は両方、及び樹脂とを含有するものである。以下、第一リグノセルロースファイバーと第二リグノセルロースファイバーの一つ又は両方を単にリグノセルロースファイバーとする。
樹脂としては、公知の樹脂を用いることができる。樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂、2液型反応硬化性樹脂、エマルジョン型樹脂、および発泡性樹脂等が挙げられる。
【0067】
本実施形態においては、リグノセルロースファイバーとのマトリックスを形成できる樹脂を用いることが好ましい。このような樹脂としては、親水性、疎水性に関わらず、その前駆体であるモノマー、或いはオリゴマーのようなプレポリマーが200℃以下で液体であるか、溶融成形性を有する樹脂であれば、特に制限なく用いることができる。ただし、このような樹脂としては、セルロースが有する極性官能基との親和性があること、または相溶化剤、分散剤の疎水性部位との相溶性、もしくは親和性があることが好ましい。好適に用いられる樹脂としては、ポリオレフィン類(高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、およびポリプロピレン(PP)等)、ポリスチレン類(アタックチックポリスチレン、およびシンジオタクチックポリスチレン等)、ポリアクリル類、ポリメタクリル酸エステル類(ポリメタクリル酸メチル、およびポリメタクリル酸ブチル等)、ポリアミド類、ポリイミド類、ポリシロキサン類、ポリシラザン類、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート類、ポリアセタール類(ポリオキシメチレン等)、ポリウレタン類、アミノ樹脂(ポリユリア、ポリメラニンおよびポリベンゾグアナミン等)、ポリエステル類(ポリエチレンテレフタレート等)、不飽和ポリエステル類、ポリエーテル類、エポキシ類、フェノール類、ポリビニルエステル類、ポリビニルカルボン酸類、ポリエステル類、フッ素樹脂、および生分解性プラスチック等が挙げられる。生分解性樹脂としては、リンゴ酸、コハク酸等のポリマー、ポリグリコール類(ポリ乳酸等)、脂肪族ポリエステル類(ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリカプロラクトンおよびポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)等)、芳香族変性脂肪族ポリエステル(PBAT)、ポリビニルアルコール(PVA)およびデンプンを主成分とするプラスチック類、およびこれらの共重合物または混合物等が挙げられる。これらの樹脂の中でも、ポリオレフィン類が、利用範囲と頻度が大きく、本実施形態に係る複合樹脂組成物による繊維強化の効果発現が顕著であるため、特に好ましい。これらの樹脂は、単独で使用されることが多いが、ブレンドして用いることも可能である。
【0068】
本実施形態において、相溶化剤とは、セルロースの親水性表面とポリオレフィン等の汎用ポリマーの疎水性表面とを接着させる接着剤的な役割を持つ化合物である。この相溶化剤により、リグノセルロースファイバーと樹脂の接合力を高めて補強効果を高くすることができる。
相溶化剤としては、(i)汎用ポリマーが無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、および無水クエン酸等によりグラフト変性されたポリマー類、(ii)ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、および(ビニルアセテート-エチレン)共重合体等の疎水性基と親水性基を双方分子内に有するポリマー類、(iii)ポリアクリル酸のような親水性ポリマー鎖をブロック或いはグラフト成分をセグメントして有するポリマー類、および(iv)(ビニルアルコール-エチレン)共重合体およびポリビニルアルコールのような水酸基を分子内に有するポリマー類等が挙げられる。
【0069】
この相溶化剤としてのポリマー類の融点は、リグノセルロースのミクロフィブリル化をより低温の溶融状態で実施できるという観点から、共存するマトリックスポリマーの融点より低いことが好ましく、150℃以下であることがより好ましく、100℃以下であることが特に好ましい。ただし、最終的な複合樹脂組成物の熱的性質および機械強度を低下させる可能性があるため、これらの相溶化剤としてのポリマー類の添加量は、リグノセルロースファイバーに対する質量比で、0.1倍以上3倍以下であることが好ましく、0.2倍以上2倍以下であることがより好ましく、0.5倍以上1倍以下であることが特に好ましい。
【0070】
本実施形態に係る複合樹脂組成物において、リグノセルロースファイバーの配合量は、複合樹脂組成物100質量%に対して、1質量%以上60質量%以下であることが好ましい。また、相溶化剤の配合量は、複合樹脂組成物100質量%に対して、1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。さらに、樹脂の配合量は、複合樹脂組成物100質量%に対して、40質量%以上98質量%以下であることが好ましい。
リグノセルロースファイバーの組成比を大きくすると、繊維強化の効果がより高くなるが、それに伴って、相溶化剤の添加量も増大するため、しだいに繊維強化の効果が低下する方向に転じる場合がある。
【0071】
本実施形態において、ミクロフィブリル化したリグノセルロースファイバーは、マトリックスポリマーを含めた疎水性環境中での均一分散性を高めるために、分散剤を添加することも好ましい。分散剤としては、一般的に界面活性剤とされている物質が挙げられる。界面活性剤としては、陰イオン系面活性剤、陽イオン系界面活性剤、および非イオン系界面活性剤などが挙げられる。これらは、単独で使用してもよいが、ブレンドして用いることも可能である。好適に用いられる分散剤としては、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、および塩化ベンザルコニウム等の陽イオン系界面活性剤が用いられる。
【0072】
本実施形態においては、リグノセルロースファイバーの表面に、無機物または有機物の皮膜または粒子を、全体または部分的に付着または形成させてもよい。無機物としては、金属および金属酸化物等が挙げられる。有機物としては、樹脂、長鎖アルコール類、長鎖カルボン酸化合物、長鎖アミン化合物、有機ケイ素化合物、有機フッ化物、多環芳香族化合物、金属錯体、およびリグニン等が挙げられる。このようにして、樹脂、ゴム、および溶媒等の有機物、或いは、モルタル、粘土、石膏、ゼオライト、およびセラミックス等の無機物に対する分散性を改善したり、導電性、導熱性、磁的性質(常磁性、および強磁性等)、または選択的吸着性を賦与したりすることが可能となる。
【0073】
本実施形態においては、リグノセルロースファイバーに表面処理を施してもよい。具体的には、セルロースの表面官能基(水酸基、メトキシ基、カルボキシル基)に対し、適宜、エステル化(メチル化等)、アセチル化、アルコキシル化、シリル化、エポキシ化、オキセタン化、ビニル化、エーテル化、アミド化、イミド化、フッ素化、ハロゲン化、および金属塩化等による表面修飾を加えてもよい。
【0074】
本実施形態において、リグノセルロースファイバー水分散液と相溶化剤、および樹脂との混合物を溶融混練して成形する際に、混練機を使用する。混練機としては、この水分散液中のファイバーが再凝集しないように、効率的に相溶化剤および樹脂と微細に均一混合し、かつせん断応力を付加する装置が望ましい。このような装置としては、二軸混練押出機が好適に用いられる。さらに、混練に用いるスクリュー構造がとりわけ重要であり、単純な搬送圧縮機能のフルフライト構造のスクリューエレメントでは、十分な微細均一混合が達成されない場合が多い。混練および逆行による繰り返し混練を可能とするスクリューエレメントとして、ニーディングディスク、テュースミキシングエレメント、スクリューミキシングエレメント、およびシーリングディスクエレメント等がより好適に用いられる。これらのスクリューエレメントは、各プロセスに応じて、押出機のシリンダー内の区分けされた各ゾーンに適切に配置されていることが好ましい。好適に用いられる配置としては、ホッパーサイド(ここで、水分散液および相溶化剤の添加)、搬送、圧縮、混練、逆行、シーリング、搬送(ここで、樹脂添加)、ニーディング、シーリング、搬送(ここで、揮発成分減圧除去)、圧縮、およびダイス押出である。このような、スクリュー配置を実施するには、十分なシリンダー長さ/スクリュー直径比(L/D)であることが好ましく、好適にはL/Dの値が20~80程度であるものが用いられる。
【0075】
上記、シリンダー内のスクリューエレメントの配置デザインに対応して、樹脂添加および揮発成分減圧除去のための開放口が少なくとも2か所設置されていることが望ましい。一般的な二軸押出機はベント口が設置可能であるため、このベント口を、上記開放口となるように設置することによって、本実施形態における溶融混練が好適に実施可能である。
【0076】
二軸混練押出機での処理温度としては、リグノセルロースファイバーと相溶化剤を混合するゾーンでは、相溶化剤が溶融する温度よりもわずかに高い温度で実施することが、せん断応力を効果的に発生できるため、好ましい。なお、リグノセルロースファイバーと相溶化剤は後述のように予め任意の方法で混合しても良い。つづく樹脂添加後のゾーンでは、樹脂が十分に溶融し、リグノセルロースファイバー水分散液と相溶化剤混合物を微細に均一混合するために、十分に加熱することが好ましい。なお、用いる樹脂の通常の溶融成形温度を採用することで、十分に加熱できる。ただし、250℃を超える温度では、セルロースの熱分解が開始するため、250℃を超えないように温度を制御することが好ましい。なお、リグノセルロースファイバーにおけるメトキシ基がカルボキシル基に酸化されることで、リグノセルロースファイバーの耐熱性を高めることができる。また、リグノセルロースファイバーは一般的な樹脂よりも軟化または分解する温度が高いため、樹脂と複合化することで樹脂単独よりも高温時の機械物性、特に荷重たわみ温度を顕著に向上させることができる。
【0077】
本実施形態においては、リグノセルロースファイバーを樹脂と複合化する際に、混練機による分散方法の他に、次のような方法を採用できる。例えば、樹脂モノマー、オリゴマー、溶媒、および樹脂を加熱溶解した状態、または樹脂を溶媒に溶かした状態等のように液体状にした場合において、リグノセルロースファイバー水分散液またはリグノセルロースファイバーの乾燥粉体と混合することができる。混合方法としては、公知の混合方法を適宜採用できる。混合装置としては、高圧剪断型分散装置、ビーズミル、およびホモジナイザー等が挙げられる。また、混合の際に、超音波照射を、適宜組み合わせてもよい。こうした方法により、硬化前の液体状のモノマー、プレポリマー、またはエマルジョンに分散させることで、硬化前に常温で液体状態での取り扱いが求められる含浸用樹脂、塗料、インクやプライマー、充填剤、および接着剤等に適用可能である。
【0078】
樹脂への配合にあたっては、以下の添加剤を適宜添加してもよい。添加剤としては、界面活性剤、天然たんぱく質(ゼラチン、ニカワ、タンニン、およびカゼイン等)、多糖類(でんぷん類、およびアルギン酸等)、無機化合物(タルク、ゼオライト、セラミックス、金属酸化物、および金属粉末等)、可塑剤、消泡剤、香料、蛍光剤、帯電防止剤、着色剤、顔料、流動調整剤、レベリング剤、導熱剤、導電剤、紫外線吸収剤、紫外線分散剤、消臭剤、防かび剤、難燃化剤、カーボンブラック、グラフェン類、コークス類、および無定形炭素等が挙げられる。
【0079】
本実施形態においては、リグノセルロースファイバーを樹脂と複合化する際に、他の繊維またはウィスカーと組み合わせて使用することが可能である。他の繊維としては、本明細書記載のセルロースファイバー以外のセルロースファイバー(セルロースナノファイバーを含む)や天然繊維を含む全てのファイバーまたはウィスカーと組み合わせることが可能である。好適な他の繊維としては、セルロースファイバー、カーボンファイバー、ガラスファイバー、アラミドファイバー、ボロンファイバー、炭化ケイ素ファイバー、金属ファイバー、およびポリオレフィンファイバー等が挙げられる。ファイバーは、必ずしも長繊維を表していない。例えば、ファイバーは、ミルドファイバーやチョップドファイバーのように短い繊維長であってもよい。ファイバーのアスペクト比が5以上あれば、本実施形態のリグノセルロースファイバーと組み合わせることで機械強度をそれぞれ単独で用いた場合よりも大きく向上させることができるほか、アスペクト比に関わらず導電性や導熱性、電磁波吸収、電磁バリア、特定物質の吸着または透過のような機能を発現または向上させることができる。また、組み合わせるファイバーの様態についての制約はない。カーボンファイバーやガラスファイバー等は、一方向または複数方向に編み上げたプリプレグとの組み合わせや不織布のようなマットとの組み合わせが好適に用いられる。さらに、チョップドファイバーやミルドファイバーとの組み合わせでは射出成形や3Dプリンターによる成形にも適用可能である。また、いずれの方法で成形した複合化樹脂シートもプレス成形に適用可能である。
【0080】
[実施形態の変形]
本発明は前述の実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれる。
【実施例0081】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0082】
[実施例1]
精製竹微粉は一般社団法人日本森林再生機構より入手した。精製竹微粉を100g秤量し、バンドヒーターを巻き付けた1500mLのガラス容器に投入し、ここに予め90℃に加熱した熱水を900g投入した。次に軽く撹拌しながらバンドヒーターで加熱して90℃を保持するように電圧を調節した。90℃に到達してから2時間撹拌しながら保持した。精製竹微粉の多くははじめ浮いているが、次第に沈降する。熱水は濁り、薄い茶色から次第に濃い茶色に変わった。2時間保持した後、加熱を止めて放冷し、室温になったところでブフナー型漏斗により濾紙(ADVANTEC社製No.1)を用いて自然濾過し、濾紙上に残ったケーキを得た。ケーキは全量を再び1500mLのガラス容器に投入して、室温の水を800g投入し、直ちに撹拌を行った。水はやや着色し、濁りを生じるが熱水による最初の処理に比べると色も薄く濁りも少ない。撹拌を10分間継続した後、ブフナー漏斗を用いて同様に濾過を行い、188gの湿った熱水処理後の精製竹微粉すなわち第一リグノセルロースファイバーケーキを得た。
次に、この第一リグノセルロースファイバーケーキをステンレス製のバットに3センチ程度の厚みになるように広げた。これを熱風循環式乾燥機に装入し、130℃で12時間加熱することで82gの乾燥第一リグノセルロースファイバー(以下、「M-BCP」と称する場合がある)を得た。得られたM-BCPの写真を図1に示す。M-BCPは淡黄色の粉末であり、図2に示した処理前の精製竹微粉と形状に大きな違いはない。得られたM-BCPは目開き1000μmのステンレス製の篩いを用いて粗大粒子を除去した。最終的に得られたM-BCPは78gとなった。
【0083】
[試験例1]
M-BCP製造における温度と加熱時間を調査するため、温度と時間を変えてM-BCPを製造した。実施例1で用いた精製竹微粉を100g秤量し、蓋付き加熱保温機能付きポットに予め水を900mL投入した後、所定の温度(室温:15℃、50℃、70℃、90℃、100℃)に加熱して熱水となっている状態で、秤量した精製竹微粉を投入して10秒ほど撹拌した。直ちに蓋を閉めて、熱電対温度計を隙間から差し込み温度を測定した。同時にポットの設定を所定の温度に設定して加熱を開始した。10秒から20秒程度で所定の温度に到達した後、温度範囲はプラスマイナス5℃程度で一定に保持した。所定の温度に到達後、蓋を開けて10秒ほど撹拌を行い、直ちに蓋を閉めてから、保温したまま所定の時間(18分、24分、36分、54分、78分、114分、168分、246分、366分、534分)保持した。所定の時間経過した後、直ちにポットから内容物を取り出してブフナー漏斗に濾紙(ADVANTEC社製No.1)を用いて吸引濾過を行い、液部を分離した。濾紙上のケーキは500mLのガラス容器に装入し、ついで水を900g投入してよく撹拌した。そのまま10分間静置してから、再びブフナー漏斗で濾紙を用いてケーキを得た。ケーキはステンレスバットに入れて深さ3センチ程度になるようにならした後、熱風循環式乾燥装置に入れて、80℃に設定して10時間から12時間乾燥を行った。乾燥後のM-BCPは絶乾法による水分測定では1%以下であった。得られたM-BCPを秤量してサンプルの収量を計算した。サンプルは熱処理による洗浄効果を調査するため、熱水とヘキサンそれぞれによる抽出試験を行った。各サンプル(試料番号0~14)の処理条件と収量、水抽出率、ヘキサン抽出率を表1に示す。いずれも色や粒度にはほとんど差はなく、淡黄色の粉末状であった。
【0084】
【表1】
【0085】
得られたサンプルの水とヘキサンによる抽出試験の結果を、図6および図7に示す。水と煮沸することで元々竹繊維に含まれていた糖類やタンパク質類および熱分解により生成した水溶性物質の水熱処理残存物が抽出される。また、ヘキサンと煮沸することで、元々竹繊維に含まれている精油成分や熱水処理時に生成するリグニン分解物等の油溶性生成物の水熱処理残存物が抽出される。これらの抽出試験を行うことで水熱処理が十分に行われているか、また濾過洗浄工程で十分に不純物成分が除去されているか、また副反応による分解成分について知ることができる。
図6は、試験例1で作成したサンプルの水熱処理時間と各抽出率との関係を示すグラフである。水抽出率については水熱処理により0時間、すなわち熱水処理を行わない場合に比べると水抽出率は低下するが、18分以上ではその差は小さく、時間による抽出率の変化は小さいことがわかる。次にヘキサン抽出率は水熱処理を行わない0時間サンプルよりも熱水処理により若干の大きくなるが、大きな変化はない。これにより、試験例1の条件において水熱処理時間は十分であり、濾過洗浄の程度も十分であると考えられる。
図7は、試験例1で作成したサンプルの水熱処理温度と各抽出率との関係を示すグラフである。温度によりバラツキはあるが概ね温度を上げると抽出率は低下する。グラフから60℃以上であれば抽出率の変化は少ないため、M-BCPの製造条件として温度は80℃以上、加熱時間は30分以上であれば十分だと考えられる。
【0086】
[試験例2]
未処理の精製竹微粉の種類と、水抽出率およびヘキサン抽出率との関係を調査するため、竹微粉の種類を変えて、水抽出率およびヘキサン抽出率を測定した。なお、水抽出率およびヘキサン抽出率は、試験例1と同様の方法で行った造。各サンプル(試料番号100~105)の試料名、水抽出率、およびヘキサン抽出率を表2に示す。
【0087】
【表2】
【0088】
表2で示すように、水抽出率が0質量以上5質量%以下で、かつ、ヘキサン抽出率が0質量以上4質量%以下であるという条件を満たす未処理の精製竹微粉はなかった。
【0089】
[実施例2]
実施例1で得られたM-BCPを、PP樹脂(サンアロマー(株)製のPM900A)と、樹脂組成物中のM-BCPの含有量20質量%となるように、混練して、成形して、機械物性評価用の試料を作製した。
混練機としてDSM社製の小型混練機XploreMC15Mを使用し、混練温度180℃で、最初にPP樹脂のみ12gを導入したのち、2分間樹脂を十分溶解させた後、3gのM-BCPを溶融樹脂に添加し5分混練した。混練後速やかに室温で試験片作成用射出成型機DSM社製XploreMC15Mに導入し、長さ80mm、幅20mm、厚み4mmの曲げ弾性率と曲げ強度測定用のJIS Z3139 AタイプとBタイプの2験片を得た。
【0090】
[比較例1]
M-BCPに代えて、実施例1で用いた精製竹微粉(樹脂組成物中の含有量20質量%)を使用した以外は実施例2と同様にして、機械物性評価用の試料を作製した。
【0091】
[比較例2]
M-BCPを添加せずに、PP樹脂だけを用いた以外は実施例2と同様にして、機械物性評価用の試料を作製した。
【0092】
[曲げ弾性率および曲げ強度の評価]
実施例2および比較例1~2について、曲げ弾性率と曲げ強度を島津社製の万能試験機オートグラフを用いて測定を行った。測定の条件として支点間間距離64mm試験速度5mm/分とした。この測定で得られた応力―歪からJIS K7171に基づき曲げ弾性率と曲げ強度を算出した。得られた結果を表3および図8に示す。この結果から単に水洗しただけの竹繊維(精製竹微粉)に比べて、水熱処理により曲げ弾性率で2.4倍、曲げ強度でも1.3倍の高い強度が得られた。
【0093】
【表3】
【0094】
[実施例3]
M-BCPの製造と樹脂複合化を実機レベルのスケールで行い、機械物性の強化効果を評価した。まず精製竹微粉を製造会社2社(A社:実施例3-1、B社:実施例3-2)から購入し、各3kg準備してそれぞれM-BCPを製造した。最初に、A社の精製竹微粉3kgを60リットルのステンレス製容器に装入した。さらに予め90℃に加熱した熱水を27kg装入して直ちに撹拌を行った。ヒーターにより保温しながら撹拌を2時間行った。加熱中は竹由来の臭気があったが特に問題にはならなかった。2時間経過後、保温を停止して撹拌を続けながら冷却した。40℃以下になってから内部のスラリーをステンレス製ワイヤーメッシュによる濾過を行い、竹微粉のケーキを得た。これをステンレス製の平型バットに分割して装入し、熱風乾燥機により130℃、8時間乾燥させた。これを振動型篩い装置により凝集した塊を軽く押しつぶしながら粗粒を分離した。篩いの下の粉末はさらに目開き64μmのステンレスワイヤー篩いにより微粒子を除去した。以上により2.7kgのマイクロサイズの第一リグノセルロースファイバー(M-BCP)を得た。
同様にB社の精製竹微粉を用いて、その他はほぼ同じ条件でM-BCPを製造した。その結果、同様に2.7kgのM-BCPを得た。
【0095】
[実施例4]
実施例3で作製した、製造会社が異なる精製竹微粉から製造したリグノセルロースマイクロファイバー(M-BCP)各2kgに対し、それぞれ同条件でペレット状の複合樹脂組成物(A社:実施例4-1、B社:実施例4-2)を製造した。
製造方法は、まず、M-BCP2kgに、三洋化成工業株式会社製の無水マレイン変性ポリプロピレンユーメックス1010を200gと、PP樹脂(サンアロマー(株)製のPM900A)を18kgとを高速混合器で均一混合した。この混合物を芝浦機械(株)製のTEM-26DS二軸混練押出機の供給口から装入した。この二軸混練押出機の混練部温度は180℃、スクリュー回転速度200rpmで混練した。混練後、ダイスより複合樹脂組成物をストランド状に押出成形した。さらにこのストランドは、ペレタイザを用いて切断し、ペレット状の複合樹脂組成物とした。
得られた複合樹脂組成物の形状は、B社の精製竹微粉から得られたペレットについて走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、観察した。観察されたSEM画像を図9および図10に示す。図9のSEM画像は、ペレットを軸(長手)方向に切断した断面を観察したものである。図10のSEM画像は、ペレットを周(短手)方向に切断した断面を観察したものである。図9および図10のSEM画像では、複合樹脂組成物中におけるリグノセルロースマイクロファイバー(M-BCP)が観察できる。なお、図9および図10のSEM画像中のエポキシ樹脂(Epoxy resin)は、観察サンプルを作成する際に用いたものである。
【0096】
[実施例5]
実施例4で作製したペレット樹脂を射出成型機(東芝機械(株)製のEC-SX50)を用い、シリンダー温度180℃から190℃、型温度60℃でJIS K7138タイプB準拠の試験片(A社:実施例5-1、B社:実施例5-2)を得た。
【0097】
[比較例3]
M-BCPの代わりにバンブーテクノ社製の過熱水蒸気処理竹微粉(以下、「SHS竹微粉」と称する場合がある)を用いたこと以外は実施例4と同様に樹脂ペレットを作成し、それを射出成型して試験片を得た。
【0098】
[比較例4]
M-BCPを添加せずに、PP樹脂だけを用いた以外は実施例4と同様に樹脂ペレットを作成し、それを射出成型して試験片を得た。
【0099】
[曲げ弾性率、曲げ強度および荷重たわみ温度の評価]
この試験片の曲げ弾性率と曲げ強度を、上述の方法と同様に算出した。また、荷重たわみ温度を、JIS K7191の方法で測定した。得られた結果を、表4および図11に示す。M-BCPを添加した場合、竹微粉を添加しないベース樹脂の曲げ弾性率に対していずれも3倍以上の高い値となったほか、曲げ強度についても1.4倍以上の高い値となった。これは市販されている高度に精製されたセルロースナノファイバーによる機械物性の向上効果をも凌駕する値であり、M-BCPの高い機械強度の向上効果を示すものである。
さらに、過熱水蒸気処理竹微粉を同比率で添加したものに対しても有意に高い曲げ弾性率と高い曲げ強度が得られた。このことから、同じ竹由来の繊維でも本発明による第一リグノセルロースマイクロファイバー(M-BCP)混合による繊維強化性能が優れていることが分かった。
【0100】
【表4】
【0101】
[実施例6]
第二リグノセルロースファイバーの製造方法を示す。すなわち、原料となる精製竹微粉は実施例1と同様に一般社団法人日本森林再生機構より入手した。そして、蓋付き加熱保温機能付きポットに予め水を903mL投入した後、90℃に加熱して熱水となっている状態で、秤量した精製竹微粉101gを投入して10秒ほど撹拌した。ポットの設定を90℃に設定して加熱を開始した。10秒から20秒程度で所定の温度に到達した後、プラスマイナス5℃程度の温度範囲で一定に保持した。所定の温度に到達後、蓋を開けて10秒ほど撹拌を行い、直ちに蓋を閉めてから、保温したまま78分保持した。所定の時間が経過した後、直ちにポットから内容物を取り出してブフナー漏斗に濾紙(ADVANTEC社製No.1)を用いて吸引濾過を行い、液部を分離した。濾紙上のケーキは500mLのガラス容器に装入し、ついで水を500g投入してよく撹拌した。そのまま10分間静置してから、再びブフナー漏斗で濾紙を用いてケーキを得た。これをさらに2回繰り返し、洗浄を行った。得られた淡黄色のケーキの量は173gであり含水率50%とすると収量は86gとなった。
次に、このケーキを乾燥させることなく、よく混合してから87gを秤量して500mLの耐熱性ガラス製容器に投入した。次に次亜塩素酸ナトリウム5%、水酸化ナトリウム0.5%の混合水溶液(以下単に混合水溶液)を350g投入してプラスチック製の撹拌棒で撹拌して均質にした後、シリコンゴムの置き蓋をしてから60℃に設定したホットプレート上にpHを測定しながら容器を6時間静置した。4時間後の液温は棒温度計で測定すると45℃となっていた。内容物の繊維は特に変化はなかったが液部は褐色になり濁っていた。6時間経過後pHは8になっていたため、反応を終了し、内容物をブフナー漏斗にあけて濾紙(ADVANTEC社製No.1)を用いて吸引濾過を行い、液部を分離した。得られたケーキは、再び500mLのガラス容器に全量投入して、93gの混合水溶液を投入してよく撹拌した。そのまま容器をホットプレート上に2時間20分静置してから、同様にブフナー漏斗で濾過して淡黄色のケーキを得た。
濾液は一回目と同様の褐色となっていた。得られたケーキは全量を500mLのガラス容器に投入して、混合水溶液を351g投入して同様にホットプレート上で4時間50分静置して反応させた。同様に濾過してケーキを得た。ケーキの色は淡黄色だが濾液の色はやや薄くなっている。ケーキを全量500mLのガラス容器に投入してから300gの混合水溶液を加えて撹拌した。これを同様にホットプレート上に置いて8時間静置した。
8時間経過後、溶液の色がほぼわずかな淡黄色は残るもののほぼ無色になっていることを確認して部分解繊、脱リグニンを終了した。内容物をブフナー漏斗と濾紙(ADVANTEC社製No.1)を用いて濾過を行い、その後、500mLの水に再分散させてから同様に濾過を行う、これを最初の濾過を含めて3回実施することで洗浄を行い第二リグノセルロースファイバー(M-BCMF)のケーキを得た。得られたM-BCMFの顕微鏡写真を図12に示す。繊維径は5~20μm、繊維長は400~2000μmの単繊維が得られている。得られたM-BCMFについて、水分含有量が、ファイバー全量基準で、1%以下に乾燥させた際の繊維の色調を調べた。結果、JIS K 0071-2 : 1998に定めるガードナー色数において、4番であった。
【0102】
[実施例7]
実施例6の第二リグノセルロースファイバーから分散性の高い乾燥繊維を得る方法を行った。すなわち、実施例6の製造方法を繰り返すことで、M-BCMFケーキを2kg(固形分として約1kg)用意した。これらを10Lの容器に投入して、さらに4kgの水を投入して、柄杓を用いてよく撹拌した。次に分散剤として陽イオン界面活性剤としてエステル型ジアルキルアンモニウム塩化物を50g投入した。また、比較のため、実施例4で得られた第二リグノセルロースファイバーを同量用意した。
これらをスプレードライにより噴霧乾燥させた。乾燥粉はサイクロンにより捕集して各850gの乾燥した第二リグノセルロースファイバーを得た。得られた繊維の顕微鏡写真を、図4および図5に示す。図4および図5は、界面活性剤を添加したものだが、添加していないものもほぼ同様の分散性の高い粉末状の第二リグノセルロースファイバーを得た。
【0103】
[実施例8]
実施例6の第二リグノセルロースファイバーから分散性の高い乾燥繊維を得る方法を示す。実施例6の製造方法を繰り返すことで、M-BCMFケーキを104g(固形分として約52g)用意した。次にこれらを500mLの容器に投入して、さらに200gの水を投入して、よく撹拌した。ここに界面活性剤としてカチオンS(三洋化成工業株式会社製)を2.5g秤量して、これを予め20mLの2-プロパノールに溶解させたものを全量投入して30分間撹拌を行った。その後、ブフナー漏斗を用いて吸引濾過を行い、含水ケーキを得た。含水ケーキ100gを500mL容器に取った上でメタノール200gを投入してからよく撹拌して30分間静置した後で、同様に濾過を行った。これを3回繰り返して水からメタノールに溶媒置換を行った。得られたケーキは約60gあった。これをステンレスバットに広げて80℃に設定した熱風乾燥機により12時間かけて乾燥を行った。
乾燥したケーキは軽く凝集していたが、カッターミルで短時間粉砕して粉末状のM-BCMFを得た。顕微鏡写真を図13に示す。凝集程度は小さく良い分散状態の粉末を得ることができた。
【0104】
[実施例9]
本法では第一リグノセルロースファイバーの部分解繊および脱リグニンの程度を変えることで解繊度を変えると同時に分散性が高く容易に乾燥して粉末とすることが可能な状態の第二リグノセルロースファイバーを得ることができる。
実施例1と同様の条件で製造した第一リグノセルロースファイバーケーキを100g(固形分量は約50g)秤量して500mLの耐熱ガラス製容器に投入した。次に次亜塩素酸ナトリウム5%、水酸化ナトリウム0.5%の混合水溶液(以下単に混合水溶液)を350g投入してプラスチック製の撹拌棒で撹拌して均質にした後、シリコンゴムの置き蓋をしてから60℃に設定したホットプレート上に容器を2時間静置した。
2時間経過後、内容物の液部は褐色になっていた。pHが8以下になっていることを万能pH試験紙により確認して反応を終了した。この内容物の全てを濾紙(ADVANTEC社製No.1)を敷いたブフナー漏斗に全量投入して吸引濾過を行った。次にこのケーキを500mLの耐熱ガラス製容器に全て投入してから混合水溶液を285g投入した。直ちに十分撹拌してから60℃に設定したホットプレート上に容器を2時間静置した。液部は1回目とほぼ同じ褐色だった。内容物を全てブフナー漏斗にあけてから吸引濾過を行った。濾過速度はリグニン比率が5~10%程度の通常のBCMFに比べて高く、液部は約10倍の速度で吸引瓶内に滴下した。その後、ブフナー漏斗上で500mLの水を投入してケーキを撹拌してから吸引濾過することを2回繰り返して計3回ケーキを洗浄した。3回目の濾過洗浄の後の吸引濾過時も液部は迅速に分離して吸引瓶内に落ちた。本法では実施例4に比べて固形分に対する混合水溶液の量は50%でありリグニンも半分近く残存していると考えられる。このため、セルロースファイバーの疎水性も高くゲル化しないため、実施例4に比べて濾過速度が大きかったと考えられる。また、本法では微粒子の割合が高いアモルファスセルロースは溶解して除去されることも濾過性が高い理由である。得られた中程度の脱リグニンリグノセルロースファイバーは固形分として約20gであった。白色度は原料の精製竹微粉よりも高く、M-BCPと比べてもさらに白色度が高かった。このケーキを2gとり100gのメタノールで希釈して脱水を行った。濾過分離した繊維を乾燥させて光学顕微鏡で観察したものを図14に示す。実施例6で得られたM-BCMFに比べると解繊度は低く全体に繊維径が大きく、アスペクト比が低い繊維の塊も観察されるが、繊維の多くはより繊維径が小さくなり、部分的に解繊しており、次亜塩素酸塩による処理の効果が観察される。
特許文献1に記載の過熱水蒸気処理による竹微粉(SHS竹微粉:図15参照)で同様に中程度の脱リグニン反応を行っても同様の繊維を得ることができるが強く褐色に着色しており、意匠状の問題や製造時や使用時における臭気の問題があると考えられる。
【0105】
[実施例10]
実施例6では竹微粉から第一リグノセルロースファイバーを経て第二リグノセルロースファイバーを得ることができたが、この方法では一旦M-BCPを製造してから、改めて脱リグニン、部分解繊を行うため、製造工程が長くなることで生産性やコストの点で改良の余地がある。そこで竹微粉から直接第二セルロースファイバーを得る方法を検討した。ただし、通常竹微粉は前述したように糖類やアミノ酸類、糖タンパク質類、ペクチン類等や精油等の多くの不純物を含むことで次亜塩素酸塩や亜塩素酸塩、過酸化水素の有する酸化作用を阻害する。また、特許文献1に記載されているように、竹微粉を過熱水蒸気処理する際に高温下で生成するキノン類等の触媒物質が反応を促進して、脱リグニンと共に部分解繊を促し、カルボキシル基の生成を促進することで、再凝集を抑制している。
竹微粉あるいは第一リグノセルロースを出発物質とした場合、温度を高めることや反応時間を長くすることで最終的には同様の第二リグノセルロースファイバーが得られるが、より生産性を高めるため、触媒物質を含有する過熱水蒸気処理を行った竹微粉を少量加えることで反応性を高めて、より高い生産性を得ることがわかった。以下にその方法を示す。
実施例1と同じ方法により乾燥したM-BCPを86g製造した。次にその全量を過熱水蒸気処理竹微粉(株式会社バンブーテクノ製)5gとともに500mLの耐熱ガラス容器に投入した。次に、次亜塩素酸ナトリウム5%、水酸化ナトリウム0.5%の混合水溶液(以下単に混合水溶液)を350g投入してプラスチック製の撹拌棒で均質に撹拌した。撹拌直後から細かい発泡が始まり、温度が上昇した。温度は棒温度計で計測すると最高46℃まで上昇した後、発泡も徐々に収まり温度も低下した。その後、シリコンゴムの置き蓋をしてから容器を2時間静置した。
反応後、液部は褐色となりpHは8程度になっていたため、内容物を濾過して、濾紙上のケーキを約300mLの水道水で洗浄した。2回目の反応は、ケーキを取り出して再び500mLの耐熱ガラス製容器に投入して、混合水溶液を108g加えて撹拌した。その後、60℃に設定したホットプレート上に容器を2時間10分静置した。pHが下がり8程度になっていることを確認して、一回目と同様に濾過洗浄を行った。3回目の反応は、洗浄したケーキを500mLの耐熱ガラス製容器に投入して混合水溶液を350mL合わせて投入した。2回目と同様の条件で4時間30分反応させた後、再び濾過洗浄を行った。さらに得られたケーキと混合水溶液302gをガラス容器に投入して撹拌してから60℃に設定したホットプレート上に静置して4時間反応させた。本反応で使用した混合水溶液は合計1110gであった。
反応終了後、液部は淡い澄んだ黄色になり繊維と分離した。内容物を同様に、濾過洗浄を行った。ケーキの洗浄は約300mLの水道水を用いて3回行い、最後はブフナー漏斗上で吸引濾過を行い、脱水ケーキを得た。得られた第二リグノセルロースファイバーの光学顕微鏡写真を図16に示す。後述の実施例11で得られた過熱水蒸気処理竹微粉を用いないで得られた第二リグノセルロースファイバーを図17に示した。
過熱水蒸気処理竹微粉を加えて脱リグニン、部分解繊した繊維は、加えない場合の繊維に比べて繊維径が小さく、未解繊の粗大粒子が少なく、より均質な繊維になっており、解繊が進んでいることが分かった。
実施例10により得られた繊維は見た目や、脱リグニン及び部分解繊終了と判断したまでに使用した混合水溶液の量は特に差はなかったが、一回目の反応においては実施例6の反応とは異なっており、混合水溶液の投入直後から発熱が始まり、著しい反応加速が観察された。これは少量添加した過熱水蒸気処理竹微粉が触媒の役目を果たしたからと考えられ、この時に解繊度の違いが生じたと考えられる。2回目以降は特に反応に差は見られなかったが、一回目の反応で触媒成分が消失したとからと考えられる。過熱水蒸気処理を行わない竹微粉を原料とする場合、一回目の反応が始まるまでに時間がかかるため、短時間で反応を終えるためには加熱が必須である。少量の過熱水蒸気処理竹微粉を用いることで最初の反応を速やかに終えることが可能となれば、通常の反応でも生産性の向上が期待されるが、特に反応の連続化の際には装置設計が容易になると予想される。今回、触媒として容易に入手できて製品にも影響がない過熱水蒸気処理竹微粉を使用したが、同竹微粉が入手できない場合や、より高い解繊度と高い反応性を要求される場合は、単物質としてナフトキノンやアントラキノン、ベンゾキノン等のキノン類やフタルイミド等のイミド類、フェノールやクレゾール、ポリフェノール等の酸化物の添加も触媒物質としての効果を発現すると考えられる。
【0106】
[実施例11]
実施例1と同様に一般社団法人日本森林再生機構製の精製竹微粉87gを秤量して、過熱水蒸気処理竹微粉は添加せずに、500mLの耐熱ガラス製容器に装入し、直ちに次亜塩素酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの混合水溶液を350g装入して撹拌した。反応開始後、液部は濁り、わずかな気泡が観察されたが、特に温度上昇は観察されず、そのまま2時間放置した。2時間後、液部の色は淡黄色になっていたが大きな変化はない。pHを測定したがpHは12程度であり、反応が進行していないことがわかったため、60℃に設定したホットプレート上で加熱しながら反応を継続した。液温は棒温度計による計測で45℃から50℃で反応を進めた。温度上昇後、少しずつ泡の発生が認められた。3時間経過後、pHは8程度になり、液部の色も濃くなっていたため、反応終了として、内容物を全て濾過して、濾紙上のケーキを約300mLの水道水で洗浄した。
2回目の反応は、ケーキを取り出して再び500mLの耐熱ガラス製容器に装入して、混合水溶液を93g加えて撹拌した。その後、60℃に設定したホットプレート上に容器を2時間20分静置した。その後は実施例10と同様に反応を行い、第二リグノセルロースファイバーの脱水ケーキを得た。本反応で使用した混合水溶液は合計1144gであった。得られたケーキは見た目では実施例10で得られたケーキと差は観察されなかったが、洗浄時の濾過性が高く、解繊度が低いことが予想される。得られたケーキはそのまま光学顕微鏡による撮影を行い、観察した。
【0107】
[実施例12]
実施例6により製造した第二リグノセルロースファイバーをフェノール樹脂と複合化した。さらに樹脂複合化物の半硬化物を発泡用スチレンビーズにコーティングしてから常法により発泡させてスチレン樹脂発泡物を得た。得られた樹脂発泡物を成形して機械強度を測定したところ、第二リグノセルロースファイバーの複合化により飛躍的に弾性率が高くなったことがわかった。
実施例9により製造したM-BCMFの水分散ゲルは絶乾法で測定すると固形分濃度は10質量%だった。フェノール樹脂中に分散させるためには水を除去する必要がある。そこで、水分散ゲルを750g用意して、2000mLのポリプロピレン製の容器に装入して、さらに市販の無水メタノールを400g装入して、よく撹拌を行った。10分間静置した後、ブフナー漏斗に濾紙(ADVANTEC社製No.1)をセットして、混合ゲルを吸引濾過してケーキを得た。ケーキは再びポリプロピレン製容器に装入して、さらに500gの無水メタノールを添加してよく撹拌してから10分間静置した。得られた混合ゲルを同様に吸引濾過によりケーキを得た。この操作を添加するメタノール量を適宜調整しながら6回繰り返して水を含まないM-BCMF分散メタノールケーキ116gを得た。絶乾法により固形分濃度は約60質量%だった。
次に、市販の脱水フェノールを用意して、500gを秤量して1000mLのガラス製セパラブルフラスコに装入した。次に樹脂量に対して固形分が2質量%相当量になる量のM-BCMF分散ケーキを装入、直ちに無機フィラーを所定量装入してからミキサーを用いてよく撹拌した後整置して、巻き込んだ空気を取り除いた。次に市販の硬化剤を添加してよく撹拌したあと、容器をマントルヒーターにより加熱した。粘度を測定して所定の粘度になったことを確認してから、60倍発泡用のポリスチレンビーズを所定量装入して空気を巻き込まないようによく撹拌した後、M-BCMFと複合化したフェノール樹脂をコーティングした。得られたコーティング済みポリスチレンビーズを型に充填して加熱し、発泡硬化した。これを30mm×150mm×10mmの大きさに切り出して機械強度測定用の試験体(ボード)を作成した。M-BCMFの比率は2質量%(実施例12-1)、5質量%(実施例12-2)の2水準とし、1水準につき試験体を3枚ずつ作成した。
【0108】
[比較例5]
実施例12でM-BCMFを添加しなかった他は同様の条件でフェノール樹脂コーティングポリエチレンビーズを製作して、型に充填してから加熱発泡硬化させた。これを実施例12と同じサイズに試験体を6枚切り出した。
【0109】
[比較例6]
実施例12でM-BCMFの代わりに先行文献における過熱水蒸気処理竹微粉(SHS竹微粉:バンブーテクノ社製標準品)を用いた他は全て同様の方法、条件で試験体を製造した。ただし、過熱水蒸気処理竹微粉は予め溶媒に分散することなく、粉末のまま使用した。また、添加割合は2質量%(比較例6-1)、5質量%(比較例6-2)に加えて10質量%(比較例6-3)についても試験体を3枚ずつ作成した。
【0110】
[ビーズの外観観察、曲げ強度の評価]
この試験体の作製に用いたビーズ(60倍発泡用のポリスチレンビーズに、SHS竹微粉と複合化したフェノール樹脂をコーティングしたもの(添加率:0質量%、2質量%、5質量%および10質量%))を観察した。得られた結果を図18に示す。
また、この試験体の曲げ強度を測定した。曲げ強度測定は支点間距離を100mmとして荷重をかける速度は20mm/分として測定を行った。得られた結果を、表5および表6、並びに図19に示す。
M-BCMFとSHS竹微粉(B-BCPと称する場合もある)を添加するといずれも無添加に加えて強度が増加しているが、M-BCMFはその効果が著しく高く、またわずか2質量%の添加で約1.6倍の強度向上を示している。本実施例のように混練を用いないような樹脂との複合化においてもM-BCMF添加による高い強度向上効果が得られることが分かった。
【0111】
【表5】
【0112】
【表6】
【0113】
[ガスクロマトグラフ質量分析]
実施例1で得られたM-BCPと過熱水蒸気処理による竹微粉について、ガスクロマトグラフ質量分析法による分析を行った。なお、分析における測定条件は、以下の通りである。得られたガスクロマトグラフィーのチャートを図20に示す。図20(B)に示すチャートでは、保持時間36分30秒付近に、マルトールのピークが観察された。これに対し、図20(A)では、保持時間36分30秒付近にピークは観察されなかった。
(測定条件)
ガスクロのカラム:GC-TOFMS LECOジャパン合同会社製
種類、太さ、長さ:InertCap Pure-WAX、内径0.25mm、60cm
温度プロファイル:40℃(1分)昇温5℃/分、100℃から昇温10℃/分、250℃5分保持
キャリアガス、流量:He、2mL/分
注入量:0.5mL
ガスクロのメーカー、機種:日本電子製、JMS-Q1050GC
ディテクターの機種:TIC
【0114】
[比較例7]
実施例6でM-BCPの代わりに、先行文献における過熱水蒸気処理竹微粉(SHS竹微粉:バンブーテクノ社製標準品)を用いた以外は、実施例6と同様にして、リグノセルロースファイバーのケーキを得た。
【0115】
[実施例13]
精製竹微粉から、過酸化水素を用いて、第一リグノセルロースファイバー(M-BCP)の製造を行った。実施例1と同様に一般社団法人日本森林再生機構製の精製竹微粉7.0gを秤量して、500mLの耐熱ガラス製容器に投入した。次に3質量%過酸化水素水を70g装入して、直ちに撹拌、混合した。混合後、わずかに泡が観察された。これを液温が90℃になるように設定したホットプレート上に置いて、撹拌しながら9時間反応を行った。液温の上昇と共に泡の発生はやや増えたが、時間経過と共に泡の量は減少した。液の色は濁っているものの着色は観察されなかった。
反応終了後、容器をホットプレートから降ろして室温まで冷却してから、ブフナー漏斗に濾紙(ADVANTEC社製No.1)をセットして、反応後のスラリーを吸引濾過してケーキを得た。これを再び500mLの耐熱ガラス製容器に戻してから、さらに300mLの水道水を加えてよく撹拌してから、再度濾過を行った。これを2回繰り返し、ケーキを洗浄した。この後、ケーキをステンレスバットに広げて80℃に設定した熱風乾燥機により12時間かけて乾燥を行い、最終的に5.6gのM-BCPを得た。M-BCPは光学顕微鏡観察を行った。観察の結果、原料とした精製竹微粉よりも解繊が進んでいることが確認できた。
【0116】
[熱重量分析]
実施例6で得られたM-BCMFと実施例13で得られたM-BCPと比較例7で得られた過熱水蒸気処理による竹微粉を原料とするリグノセルロースファイバーについて、熱重量分析を行った。なお、分析における測定条件は、以下の通りである。得られたTGAの重量減少曲線の微分曲線であるDTG曲線を図21に示す。実施例6で得られたM-BCMFのDTG曲線においては、240℃から340℃にショルダーがあることが確認された。実施例13で得られたM-BCPのDTG曲線においては、300℃から340℃にショルダーがあることが確認された。
(測定条件)
装置:NETZCH STA449F3
温度:40℃~700℃
昇温速度:10℃/min
容器:アルミナ
雰囲気:窒素
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
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図18
図19
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図21