(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085838
(43)【公開日】2023-06-21
(54)【発明の名称】インナー容器の製造装置、及びインナー容器の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 41/04 20060101AFI20230614BHJP
B29C 41/34 20060101ALI20230614BHJP
F17C 1/16 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
B29C41/04
B29C41/34
F17C1/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200115
(22)【出願日】2021-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000150512
【氏名又は名称】株式会社仲田コーティング
(74)【代理人】
【識別番号】100106404
【弁理士】
【氏名又は名称】江森 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100112977
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 有子
(72)【発明者】
【氏名】松野 竹己
【テーマコード(参考)】
3E172
4F205
【Fターム(参考)】
3E172AA06
3E172AB01
3E172BA01
3E172BB05
3E172BD03
3E172CA22
3E172DA36
4F205AA03
4F205AA13
4F205AA15
4F205AA18
4F205AA19
4F205AA21
4F205AA24
4F205AA29
4F205AG07
4F205AH55
4F205GA01
4F205GB01
4F205GC04
4F205GN01
4F205GN29
4F205GN30
(57)【要約】
【課題】大型、複雑形状のインナーであっても効率的に冷却して、短時間で製造できるインナー容器の製造装置及びインナー容器の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも円筒形金型を、回転装置を用いて回転させながら、形成樹脂に由来してなるインナー容器を製造するための、液体水素容器に用いられるインナー容器の製造装置等であって、少なくとも金型加熱部と、インナー成形部と、冷却部と、を備えており、インナー成形部に、円筒形金型を回転させた状態で、左右方向に揺動させるための揺動装置が設けてあることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形金型を、回転装置を用いて回転させながら、形成樹脂に由来したインナー容器を製造する、液体水素容器に用いられるインナー容器の製造装置であって、
少なくとも金型加熱部と、インナー成形部と、冷却部と、を備えており、
前記インナー成形部に、前記円筒形金型を、前記回転装置により回転させた状態で、左右方向に揺動させるための揺動装置が設けてあることを特徴とするインナー容器の製造装置。
【請求項2】
前記インナー成形部において、前記円筒形金型に前記形成樹脂を注入するための樹脂注入装置を、少なくとも一つ設けてあることを特徴とする請求項1に記載のインナー容器の製造装置。
【請求項3】
前記回転装置が、前記円筒形金型の表面に設けてある溝部に車輪を挿入し、当該車輪を回転させることにより、前記円筒形金型を回転させる回転機構を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載のインナー容器の製造装置。
【請求項4】
少なくとも前記金型加熱部と、前記インナー成形部と、前記冷却部と、において、それぞれ前記円筒形金型を前方に移送させるための金型追出部材を備えていることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のインナー容器の製造装置。
【請求項5】
前記冷却部において、前記円筒形金型の表面に設けてある溝部に車輪を挿入し、当該車輪を回転させることにより、前記円筒形金型を回転させながら冷却する金型冷却装置を、少なくとも一つ備えていることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のインナー容器の製造装置。
【請求項6】
前記金型加熱部が、予備加熱部と、本加熱部と、から構成されていることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のインナー容器の製造装置。
【請求項7】
少なくとも金型加熱部と、インナー成形部と、冷却部と、を備えるインナー容器の製造装置を用いた、液体水素容器に用いられるインナー容器の製造方法であって、下記工程(1)~(3)を有することを特徴とするインナー容器の製造方法。
(1)前記金型加熱部において、円筒形金型を加熱し、回転装置によって、回転させながら、所定温度とする工程
(2)前記インナー成形部において、前記円筒形金型を回転させるとともに、左右方向に揺動させながら、定量注入された形成樹脂に由来したインナー容器を成形する工程
(3)前記冷却部において、前記円筒形金型を回転させながら、冷却させる工程
【請求項8】
前記インナー成形部に、樹脂注入装置が、少なくとも一つ以上設けてあり、当該樹脂注入装置を用いて、前記形成樹脂を定量注入することを特徴とする請求項7に記載のインナー容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体水素容器に用いられるインナー容器の製造装置、及びインナー容器の製造方法に関する。
特に、水素エンジン燃料用の液体水素を充填するための、液体水素容器に好適に用いられるインナー容器の製造装置、及び、そのようなインナー容器の製造装置を用いたインナー容器の効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池自動車用の水素燃料タンクが各種提案されており、軽量化、高強度化のために、繊維強化プラスチック(FRP)が使用されるようになっている。
すなわち、このような繊維強化プラスチックを用いた水素燃料タンクとして、金属製インナー又はプラスチック製インナーの外側を、それぞれアラミド繊維強化樹脂層で補強した水素燃料タンクが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
より具体的には、かかるアラミド繊維強化樹脂層は、アラミド繊維が、フープ巻きされたフープ巻き層と、アラミド繊維がヘリカル巻きされたヘリカル巻き層、及び/又はインプレーン巻きされたインプレーン巻き層と、から構成されている。
そして、フープ巻き層の厚さが、通常、繊維強化樹脂層全体の厚さの50~75%とされ、これにより、周方向応力に対する十分な強度と、軸方向応力に対する十分な強度とを発揮することが期待される。
【0003】
又、継ぎ目がなく均等な回転体構造とすることで、ガスに対する不透過性が改善され、機械的強度が大きく、耐光性や耐溶剤性に優れる水素等のガスタンク用の多層熱可塑性樹脂構造体が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
より具体的には、少なくとも、所定厚みを有するとともに、所定密度やメルトフローインデックスを有するエチレン-ビニルアルコールコポリマー含有層と、それ以外の熱可塑性樹脂からなる層とを含む多層樹脂層を、カッシア(CACCIA(登録商標))型の2軸回転成形機等を用いて形成することが提案されている。
【特許文献1】特開2002-340291号公報(特許請求の範囲、
図1等)
【特許文献2】特許第5121110号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の液体水素容器(水素燃料タンク)の製造において、内側に配置するインナー(インナー容器)の効率的な製造方法については、何ら考慮も、言及もされていないという問題が見られた。
すなわち、インナー容器の周囲に形成するアラミド繊維強化樹脂層や、設計繊維強化樹脂層群の態様についてのみ言及しており、各種自動車等の種類に応じて、大型化、かつ、複雑形状等の液体水素容器に用いられるインナー容器の効率的製造等については、何ら考慮されていないという問題があった。
【0005】
事実、インナー容器を、二割にし、それぞれに射出成形し、それらを組み合わせて、一つのインナー容器とすることも考慮されているが、二割にしたインナー容器の結合部を、密封性や耐圧性に乏しいという問題が見られた。
更には、二割にしたインナー容器を、それぞれ射出成形して結合させた場合、所定のより精度が高い寸法安定性が要求されるため、長い冷却時間をかける必要があった。そのため、例えば、小型乗用車に搭載する液体水素容器の場合であっても、そのインナー容器の冷却時間に関し、インナー容器1個あたり、8時間以上もかかるという状況であった。
【0006】
又、特許文献2の回転体の熱可塑性樹脂構造体は、複数種の所定樹脂を用いるとともに、所定容器を作成するにあたり、具体的に、カッシア(CACCIA(登録商標))型の2軸回転成形機が用いられていた。
そのため、所定金型を装着してから、脱型するまで、連続的に製造することができず、ひいては、インナー容器を短時間に形成することが困難であった。
更に、2軸回転成形機の場合、所定容器を作成するにあたり、金型加熱装置の中で2軸方向に回転させる必要があった。
従って、金型加熱装置が大型化するとともに、金型加熱装置自体を、金型に近づける特殊な搬送装置等が必要になったりして、金型加熱部の構造が、相当複雑化するという問題も見られた。
【0007】
そこで、本発明の発明者は、かかる課題を解決するために鋭意努力した結果、円筒形金型を、回転装置を用いて回転させながら、形成樹脂に由来してなるインナー容器を製造することによって、大型、かつ、複雑形状等の液体水素容器に用いられるインナー容器であっても、極めて簡易かつ短時間に形成できることを見出し、本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明によれば、液体水素容器に用いられるインナー容器を、極めて迅速かつ安定的に製造することができるインナー容器の製造装置、及びそのようなインナー容器の製造装置を用いたインナー容器の効率的な製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、円筒形金型を、回転装置を用いて回転させながら、形成樹脂に由来したインナー容器を製造する、液体水素容器に用いられるインナー容器の製造装置であって、少なくとも金型加熱部と、インナー成形部と、冷却部と、を備えており、インナー成形部に、円筒形金型を、所定の回転装置により回転させた状態で、左右方向に揺動させるための揺動装置が設けてあることを特徴とするインナー容器の製造装置が提供され、上述した問題点を解決することができる。
すなわち、円筒形金型を、回転装置を用いて回転させながら、形成樹脂に由来してなるインナー容器を製造するように装置構成することによって、大型(例えば、最大長さ5m程度、最大直径5m程度、肉厚5~100mm程度の大型円筒形)、かつ、複雑形状(例えば、前後に、液体水素の入口や出口を備えた容器形状)等の液体水素容器に用いられるインナー容器であっても、極めて簡易かつ短時間に形成することができる。
【0009】
又、本発明のインナー容器の製造装置を構成するにあたり、インナー成形部において、円筒形金型に形成樹脂を注入するための樹脂注入装置を、少なくとも一つ設けてあることが好ましい。
このように樹脂注入装置が設けてあることによって、インナー容器の成形に必要な量の形成樹脂を精度良く、回転状態、又は、非回転状態である金型内に注入することができる。
【0010】
又、本発明のインナー容器の製造装置を構成するにあたり、回転装置が、円筒形金型の表面に設けてある溝部に車輪を挿入し、当該車輪を回転させることにより、円筒形金型を回転させる回転機構を備えていることが好ましい。
このように、所定の回転装置を備えていることによって、簡易構成であっても、円筒形金型を、所定回転数でもって、精度良く回転することができる。
【0011】
又、本発明のインナー容器の製造装置を構成するにあたり、少なくとも金型加熱部と、インナー成形部と、冷却部と、において、それぞれ円筒形金型を前方に移送させるための金型追出部材を備えていることが好ましい。
このように、所定の金型追出部材を備えていることによって、円筒形金型を、所定回転数でもって、精度良く回転させながら、前方に移送することができる。
【0012】
又、本発明のインナー容器の製造装置を構成するにあたり、冷却部において、円筒形金型の表面に設けてある溝部に車輪を挿入し、当該車輪を回転させることにより、円筒形金型を回転させながら冷却する金型冷却装置を、少なくとも一つ備えていることが好ましい。
このように、所定の金型冷却装置を備えていることによって、簡易構成によっても、円筒形金型を、効率的に冷却することができる。
【0013】
又、本発明のインナー容器の製造装置を構成するにあたり、金型加熱部が、予備加熱部と、本加熱部と、から構成されていることが好ましい。
このように、所定構成の金型加熱部とすることによって、予備加熱部において、所定温度に近い温度まで予め加熱しておき、本加熱部において、回転する所定金型をより均一に、かつ、迅速に、所定温度まで加熱することができる。
【0014】
又、本発明の別の態様は、少なくとも金型加熱部と、インナー成形部と、冷却部と、を備えているインナー容器の製造装置を用いた、液体水素容器に用いられるインナー容器の製造方法であって、下記工程(1)~(3)を有することを特徴とするインナー容器の製造方法である。
(1)金型加熱部において、円筒形金型を加熱し、回転装置によって、回転させながら、所定温度とする工程
(2)インナー成形部において、円筒形金型を回転させるとともに、左右方向に揺動させながら、定量注入された形成樹脂に由来したインナー容器を成形する工程
(3)冷却部において、円筒形金型を回転させながら、冷却させる工程
すなわち、このように円筒形金型を、回転装置を用いて回転させながら、形成樹脂に由来してなるインナー容器を製造するようことによって、大型、かつ、複雑形状等の液体水素容器に用いられるインナー容器であっても、極めて簡易かつ短時間に形成することができる。
【0015】
又、本発明のインナー容器の製造方法を実施するに際して、インナー成形部に、樹脂注入装置が、少なくとも一つ以上設けてあり、当該樹脂注入装置を用いて、形成樹脂を定量注入することが好ましい。
このように形成樹脂を定量注入することによって、インナー容器の成形に必要な量の形成樹脂を精度良く、金型内に注入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、第1の実施形態におけるインナー容器の製造装置の概略を説明するために供する図である。
【
図2】
図2(a)~(b)は、それぞれ第1の実施形態における金型加熱部を説明するために供する図である。
【
図3】
図3(a)~(b)は、それぞれ金型加熱部における金型加熱装置を説明するために供する図である。
【
図4】
図4(a)~(c)は、それぞれ第1の実施形態における搬送装置及びその動作を説明するために供する図である。
【
図5】
図5(a)~(b)は、それぞれ第1の実施形態におけるインナー成形部を説明するために供する図である。
【
図6】
図6(a)~(b)は、それぞれインナー成形部における樹脂注入装置を説明するために供する図である。
【
図7】
図7(a)~(d)は、それぞれ円筒形金型及び液体水素容器を説明するために供する図である。
【
図8】
図8は、第2の実施形態におけるインナー容器の製造方法におけるフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1の実施形態]
第1の実施形態である、液体水素容器に用いられるインナー容器の製造装置は、円筒形金型を、回転装置を用いて回転させながら、形成樹脂に由来したインナー容器を製造するインナー容器の製造装置であり、金型加熱部と、インナー成形部と、冷却部と、を備えており、インナー成形部に、金型を回転させた状態で、左右方向に揺動させるための揺動装置が設けてあることを特徴とするインナー容器の製造装置である。
以下、インナー容器の製造装置を構成する各部について、適宜図面を参照しながら、具体的に説明する。
【0018】
1.金型加熱部
(1)全体構成
1)主構成部品
金型加熱部は、
図1に示すように、インナー容器の製造装置1のA部で示される部位であって、円筒形金型14を、所定温度に加熱するための部位である。
すなわち、金型加熱部は、
図2(a)~(b)に示すように、金型加熱装置2として、少なくとも、下側フレーム21a及び上側フレーム21bからなる所定フレーム21と、回転装置27と、加熱機器25と、搬送装置23と、を含んで構成してあることが好ましい。
【0019】
2)具体的には、各種装置を保持する所定フレームと、円筒形金型を上方に載置して回転させる回転装置と、熱源を円筒形金型に近接させて円筒形金型を加熱する加熱機器と、円筒形金型に当接して金型を後述のインナー成形部に押し出す搬送装置等と、を備えていることが好ましい。
この理由は、このように構成してあることにより、所定の円筒形金型を、回転状態、或いは、非回転状態であっても、加熱することができ、金型の温度の低下を抑えながら、次の装置に搬送することがより容易になるためである。
【0020】
3)又、金型加熱部が、予備加熱部と、本加熱部と、から構成されていることが好ましい。
この理由は、金型加熱部が、本加熱部のみならず、所定の予備加熱部を含んで構成してあることによって、形成樹脂が投入されていない、所定の円筒形金型を、所定温度(例えば、100~180℃未満)に、回転状態、或いは、非回転状態であっても、予め加熱することができるためである。
従って、本加熱部によって、回転する所定の円筒形金型をより均一かつ迅速に、予備加熱温度よりも高い所定温度(例えば、180~250℃)まで、加熱することができ、ひいては、円筒形金型の熱損傷を防ぎ、耐久性を著しく向上することができる。
【0021】
(2)具体的構成
1)回転装置
又、金型加熱部は、
図2(b)に示すように、回転装置27として、円筒形金型14に設けてある溝部14aに、車輪27aを挿入して、円筒形金型14を回転させる少なくとも1つの回転機構を備えていることが好ましい。
この理由は、このように構成することで、円筒形金型14を加熱しながら、精度良く回転させ、ひいては、円筒形金型14を所定温度に、より均一に加熱することができるためである。
【0022】
又、回転機構の数は、適宜変更可能であるが、円筒形金型を安定的に回転させるべく、
図2(a)~(b)に示すように、当該円筒形金型14の進行方向D1(以降、単に進行方向D1と称する場合がある。)に向かって、手前側の左右方向(水平方向)に二つと、奥側の左右方向(水平方向)に二つと、を設けることがより好ましい。
そして、回転機構の配置場所は、円筒形金型14の平行性を保持しやすいことから、円筒形金型14の両端部に、それぞれ近い位置とすることが好ましく、より具体的には、例えば、円筒形金型14の両端部から10~30cmの範囲内の位置とすることが好ましい。
【0023】
又、回転装置による、円筒形金型の回転数は、インナー容器の大きさや、その肉厚、或いは、形成樹脂の種類等に対応して、適宜選択すべきであるが、通常、1~100rpmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、円筒形金型の回転数が1rpm以下であっても、100rpmを超えても、それぞれ不均一な加熱になったり、回転機構の制御が困難となったりする場合があるためである。
従って、円筒形金型の回転数を5~60rpmの範囲内の値とすることがより好ましく、10~40rpmの範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0024】
更に、後述する
図7(b)に示すように、円筒形金型に設けてある溝部14aは、円筒形金型の直径W1よりも大きい直径W2を有するフランジ15を二枚組み合わせ、それらを平行配置した場合の間隙として、形成することが好ましい。
従って、円筒形金型の直径W1を20~500cmの範囲内の値とすることが好ましく、フランジ15の直径W2を21~530cmの範囲内の値とすることが好ましい。
又、間隙の深さW3を0.5~15cmの範囲内にすることが好ましく、間隙の大きさ、すなわち、溝部の幅W4を0.5~20cmの範囲内にすることが好ましい。
【0025】
但し、フランジを二枚組み合わせた場合に、完全に平行配置する必要はなく、車輪の挿入が容易なように、円筒形金型の側方視した場合に、二枚のフランジの端部をそれぞれ変形させて、間隙形状が、逆ハの字(逆テーパ状)となるように構成することも好ましい。
より具体的には、間隙の中央において想定される中心線に対して、左右方向に5~30°の角度を有するように二枚のフランジの端部をそれぞれ変形させた上で、配置することも好ましい。
【0026】
2)加熱機器
円筒形金型の加熱機器の種類は、当該円筒形金型を所定温度に加熱できる態様であれば、特に制限されるものではないが、通常、火炎バーナー(ラインバーナー)、電気ヒーター、誘導加熱機器等の少なくとも一つを含んで構成されることが好ましい。
この理由は、このような加熱機器を用いることで、円筒形金型における加熱ムラの発生を効果的に防止できるためである。
【0027】
従って、特に、
図3(a)に示すように、可燃性ガスや可燃性オイル等の燃料を空気と混合し着火させることで、安定した火炎を放射する火炎バーナー25a(ラインバーナーと称する場合がある。)を備えることが好ましい。
この理由は、空気の供給量や燃料の流速等の調整によって、比較的短時間で、かつ、広範囲の円筒形金型を所定温度に加熱することができるためである。
すなわち、火炎バーナー25aとして、ガスバーナー、オイルバーナー、ガス・オイル混焼バーナー等、の少なくとも一つを備えることがより好ましい。
【0028】
又、加熱機器の別態様として、電気を使用して、ジュール熱や遠赤外線を発する電気ヒーターを備えることが好ましい。
この理由は、配置場所に対する制約が少なくなって、小型化、軽量化が容易になるばかりか、二酸化炭素の排出量も制限することができることから、環境的に優しいためである。
【0029】
又、電気ヒーター25bとして、セラミックヒーター、リボンヒーター、シーズヒーター等、の少なくとも一つを備えることが好ましい。
例えば、
図3(b)に示すように、電気ヒーター25bとしてのセラミックヒーターは、後方から、送風機253、ホース254、ホース接続口251a、整流板部材255、通気孔が設けてある排出調整部材258、遠赤外線放射発熱体259、及び、筐体251とから、構成されていることが好ましい。
この理由は、このような遠赤外線放射発熱体259であれば、薄い帯状の通電材料を基板として、その表面にセラミックス材料が溶射被覆されており、基板に通電することにより、発熱し、セラミックス材料表面から、前方に向かって遠赤外線260を放射して、所定の加熱温度とすることができるためである。
よって、セラミックヒーターとしては、1個あたり、照射面積が250×250mm2の矩形状であって、3相、200V、30Aの定格電源を用いて、1~6kW/個の発熱条件を発揮する態様とすることが好ましい。
【0030】
又、加熱機器の配置としては、円筒形金型を所定温度に加熱でき、搬送において干渉しない態様であれば、特に制限されるものではないが、通常、円筒形金型の下方、又は、側方に、長尺方向に沿って複数配置することが好ましい。
この理由は、このような配置とすることで、金型の長尺方向に沿って均一に加熱することができ、加熱ムラの発生をより効果的に防止することができるためである。
【0031】
すなわち、例えば、
図2(a)~(b)に示すように、金型加熱装置2の下方において、進行方向D1(
図1参照)に、加熱機器を1~8列の範囲で配置することが好ましく、2~6列の範囲で配置することがより好ましく、3~5列の範囲で配置することが更に好ましい。
ここで、第1の実施形態においては、円筒形金型の長尺方向に沿って、スリット状に火炎の放射孔が空いた、ガスを燃料とするラインバーナーを、進行方向D1に3列、配置している。
【0032】
3)搬送装置
又、金型加熱部は、円筒形金型を回転装置から上方に持ち上げて、進行方向D1に沿って、前方に移送するための搬送装置を備えることが好ましい。
ここで、円筒形金型の搬送装置の態様についても、特に制限されるものではないが、例えば、
図4(a)~(c)に示すように、搬送装置23として、所定の金型追出部材を設けることが好ましい。
この理由は、このように、所定の金型追出部材を備えていることによって、円筒形金型を、回転状態、あるいは、非回転状態であっても、前方に、迅速かつ安定的に、移送できるためである。
【0033】
より具体的には、
図4(a)に示すように、金型追出部材は、シリンダ23aにより記号D2方向に上昇するとともに、円筒形金型14の下方位置に設けられ、天面を、進行方向D1に向かって下り傾斜させたリフター23bから構成することが好ましい。
従って、このように構成することにより、リフター23bの上下のみで、円筒形金型14を車輪27aから持ち上げることができるとともに、傾斜に沿って転がすことで、進行方向D1に向かって移送することができる。
よって、このように簡易な構成であっても、円筒形金型を、迅速、かつ、安定的に移送することができる。
【0034】
又、
図4(b)に示すように、金型追出部材は、シリンダ23aにより上下する、円筒形金型14の下方位置のリフター23bと、当該リフター23bによって円筒形金型14を記号D3方向に押圧する押圧機構23cと、から構成することが好ましい。
この理由は、このような構成とすることにより、持ち上げるタイミングと、記号D3方向に押圧するタイミングをずらすことができ、持ち上げた状態で円筒形金型を待機させておく等、より迅速に移送することができるためである。
【0035】
又、
図4(c)に示すように、金型追出部材は、円筒形金型14の上方位置で円筒形金型14を左右から挟んで吊り上げるとともに、記号D4方向に移動するための吊り上げ機構23dから構成することが好ましい。
この理由は、このように構成することにより、円筒形金型14を転がすことなく、所定高さに吊り下げたまま移送することができ、より安定的に移送することができるためである。
【0036】
又、
図2(a)に示すように、金型加熱部には、円筒形金型14の移送時には、移送経路から退避しており、加熱時には、周囲を隔壁で覆って、隔壁内外への熱の出入りを少なくするシャッター機構29を備えていることが好ましい。
すなわち、シャッター機構29として、少なくとも円筒形金型14の側面又は上面を覆う断熱壁29bと、当該断熱壁29bを、上側フレーム21bに沿って上下させるシャッター駆動部29aと、を設けてあることが好ましい。
この理由は、円筒形金型14の移送の妨げとなることを防止するとともに、円筒形金型14の加熱時に、周囲の加熱空気の温度低下を効果的に防止でき、ひいては、インナー成形部におけるインナー容器16の成形を、より迅速に行うことができるためである。
【0037】
2.インナー成形部
(1)全体構成
インナー成形部は、
図1に示すように、インナー容器の製造装置1のB部で示される部位であって、全体構成として、円筒形金型14を、回転させた状態で、左右方向に揺動させながら、インナー容器16を成形する部位である。
そして、インナー成形部は、少なくとも、インナー成形装置4と、円筒形金型14の内部に、形成樹脂を定量的に注入するための樹脂注入装置6と、を含んで構成してあることが好ましい。
この理由は、このような構成のインナー成形部とすることで、所望のインナー容器を迅速かつ安定的に成形することができるためである。
よって、インナー成形装置4は、少なくとも、下側フレーム41a及び上側フレーム41bからなる所定フレーム41と、揺動装置42と、インナー容器が成形された段階で、円筒形金型14を次工程に搬送する搬送装置43と、回転装置47と、を備えていることが好ましい。
【0038】
更に、インナー成形装置4は、円筒形金型14を回転、及び、揺動させた状態で加熱するための加熱機器(図示せず)を備えていることが好ましい。
この理由は、インナー成形部においても、加熱機器を備えることで、金型加熱部によって加熱した円筒形金型14の温度を維持した状態とすることができ、インナー容器16の成形を、より迅速に行うことができるためである。
従って、金型加熱部が、予備加熱部と、本加熱部と、から構成してある場合、インナー成形部を、本加熱部の一部、又は、本加熱部自体として構成することも好ましい。
【0039】
(2)具体的構成
1)樹脂注入装置
インナー成形部が、円筒形金型に対して、形成樹脂を定量的に注入する樹脂注入装置を、少なくとも一つ備えていることが好ましい。
この理由は、このように樹脂注入装置を備えていることによって、インナー容器の成形に必要な量の形成樹脂を、精度良く、かつ、定量的に、回転する金型内に注入することができるためである。
具体的な、樹脂注入装置としては、形成樹脂を定量的に供給できる装置であれば良いが、スクリューフィーダー、ロータリーフィーダー、テーブルフィーダー等とすることが好ましい。
この理由は、より精度良く、かつ、迅速に形成樹脂の注入量を調整できるためである。
【0040】
従って、一例であるが、スクリューフィーダーを使用する場合、
図6(a)に示すように、樹脂注入装置6は、形成樹脂60を投入するためのホッパー62と、スクリュー64を回転させることで、形成樹脂60を所定方向に搬送するスクリュー64と、壁面66と、スクリュー64を回転させるモーター68と、から構成してあることが好ましい。
又、樹脂注入装置6は、形成樹脂60の供給口と、円筒形金型14の樹脂注入口14e(
図7(a)参照)と、を連結するように、記号D6方向(
図6(b)参照)に移動させるスライド機構61aを有していることが好ましい。
【0041】
又、
図6(b)に示すように、樹脂注入装置6を、少なくとも二つ以上備えていれば、二色成形からなるインナー容器や、三色成形からなるインナー容器等についても、順次又は交互に、異なる樹脂を注入することによって、容易に得ることができる。
すなわち、このような構成の場合、注入する形成樹脂60の種類を変更するために、樹脂注入装置6を、記号D7方向に移動させるスライド機構61bを有することが好ましい。
この理由は、このように構成することで、例えば、
図7(c)に示すように、インナー容器16の層構成を、第1樹脂層16aと、第2樹脂層16bと、第3樹脂層16cとの3層から構成される多層インナー容器とすることが容易になるためである。
なお、第1樹脂層16aと、第2樹脂層16bと、第3樹脂層16cと、は、内側に行くに従い、低い融点(非結晶性樹脂の場合には軟化点を示す。)となるように、後述の形成樹脂を用いて形成されることが好ましい。
【0042】
又、形成樹脂の種類としては、インナー容器の大きさや、その肉厚、使用環境等に合わせて選択されることが好ましいが、通常、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリエステル、ポリアミド、ポリブテン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリアクリル、ポリ塩化ビニル、ABS、SBS、SIS等の少なくとも一つの樹脂(これらの部分的架橋物も含む。)を用いることが好ましい。
この理由は、このような熱可塑性樹脂や部分的架橋物を用いることにより、厚さムラが少なく、耐圧性や耐機械的特性等が優れたインナー容器を安定的に成形できるためである。
【0043】
なお、インナー容器を多層構造とする場合には、融点や軟化点が異なる、複数の形成樹脂を用いることが好ましい。
すなわち、例えば、融点や軟化点が異なる3つの形成樹脂(M1>M2>M3)を準備し、それらの値が最も大きい形成樹脂(M1)に由来した樹脂層を最初に形成し、次いで、それらの値が中程度の形成樹脂(M2)に由来した樹脂層を形成し、最後に、それらの値が最も低い形成樹脂(M3)に由来した樹脂層を形成することにより、均一な厚さの3層構造からなるインナー容器とすることができる。
【0044】
2)回転装置
インナー成形部における回転装置47は、円筒形金型14を精度良く回転させられる、所定の回転機構を備えていれば、特に制限されるものではない。
但し、好適例として、
図5(a)~(b)に示すように、円筒形金型14に設けてある溝部14aに、車輪47aを挿入して、円筒形金型14を回転させる回転機構を備えていることが好ましい。
この理由は、このような回転機構を備えることで、簡易構成によっても、円筒形金型14を、所定回転数でもって、精度良く回転することができるためである。
更に、回転装置における車輪47aが、円筒形金型14の溝部14aに嵌合することにより、円筒形金型14を、左右方向に揺動させた場合であっても、位置がずれにくく、所定位置に保持できるためである。
【0045】
又、回転装置の内容については、金型加熱部における回転装置で既に説明したものと、基本的に同様の内容とすることが好ましいが、例えば、インナー成形部における回転数については、金型加熱部における回転数と、異ならせることも好ましい。
より具体的には、回転装置による円筒形金型の回転数を、金型加熱部における回転数よりも遅くし、所定厚さのインナーをより確実に成形することも好ましい。
従って、例えば、インナー成形部における回転装置による円筒形金型の回転数を、0.5~100rpmの範囲内とすることが好ましく、3~60rpmの範囲内とすることがより好ましく、5~40rpmの範囲内とすることが更に好ましい。
【0046】
3)加熱機器
加熱機器の種類は、円筒形金型を所定温度に加熱できる態様であれば、特に制限されるものではないが、通常、火炎バーナー(ラインバーナー)、電気ヒーター、誘導加熱機器等、の少なくとも一つを含んで構成されることが好ましい。
又、加熱機器は、円筒形金型の揺動に合わせて動作するように、後述の揺動フレームに固定されていることが好ましい。
この理由は、このように構成することで、円筒形金型と、加熱機器と、の動きを同期することができ、加熱ムラの発生をより効果的に防止できるためである。
なお、加熱機器の内容については、金型加熱部における加熱機器で既に説明したものと、基本的に同様の内容することが好ましいが、各種インナー容器の態様に対応させて、異ならせることも好ましい。
【0047】
4)揺動装置
揺動装置は、円筒形金型を回転させながら、繰り返し、左右方向に揺動させる装置であって、形成樹脂の凝集や偏りを防止しながら、均一な厚さを有する、液体水素容器に用いられるインナー容器とするための装置である。
ここで、左右方向とは、進行方向D1(
図1参照)に向かって見た場合に、水平方向に対して所定角度の傾斜となるように、円筒形金型を傾ける方向としている。
【0048】
従って、
図5(a)に示すように、揺動装置42の好適例は、進行方向D1に沿って、下側フレーム41aに配置された回転シャフト42aと、当該回転シャフト42aを支点としてシーソー式に揺動する揺動フレーム42bと、当該揺動フレーム42bを揺動させる揺動部材を備えることが好ましい。
この理由は、このような揺動部材を備えることによって、円筒形金型をスムーズに揺動することができ、ひいては、インナー容器の成形において、厚さムラ等の発生を効果的に防止することができるためである。
【0049】
又、揺動部材は、進行方向D1に対して、左右に揺動できる部材であれば特に限定されないが、揺動モーター等を回転軸に直接的又は間接的に接続して揺動する構成や、アクチュエータの回転運動又は直線運動をリンク等によって揺動動作に変換する構成等を含むことが好ましい。
このように構成することにより、簡易な構成であっても、より安定的に揺動することができるためである。
【0050】
すなわち、揺動部材は、一例として、
図5(a)に示すように、回転シャフト42aを支持する固定フレーム42cと、回転シャフト42aから揺動フレーム42bの下方に向かって広がる扇状ガイド42dと、扇状ガイド42dの円弧部分に、下方位置で当接する揺動ローラー42eと、から構成されていることが好ましい。
この理由は、揺動ローラー42eの回転角度や回転速度を設定することにより、後述の揺動速度や揺動角度θをより容易に調整することができるためである。
【0051】
又、揺動時間は、形成樹脂の種類、インナー容器の厚さ、円筒形金型の加熱温度、円筒形金型の回転数等を考慮して定めることが好ましいが、通常、30~600秒の範囲とすることが好ましい。
この理由は、このような揺動時間とすることで、インナー容器の成形において、厚さムラ等の発生をより効果的に防止することができるためである。
従って、かかる揺動時間を45~300秒の範囲とすることがより好ましく、60~120秒の範囲とすることが更に好ましい。
なお、かかる揺動装置における円筒形金型に対する揺動動作は、連続的に行っても、所定時間の間隔をあけて、非連続に行っても良い。
【0052】
又、揺動速度は、形成樹脂の種類、インナー容器の厚さ、円筒形金型の加熱温度、円筒形金型の回転数等を考慮して定めることが好ましいが、通常、60秒あたり2~12回の範囲内とすることが好ましく、3~10回の範囲内とすることがより好ましく、4~8回の範囲内とすることが更に好ましい。
この理由は、このような揺動速度とすることで、インナー容器の成形において、厚さムラ等の発生をより効果的に防止することができるためである。
【0053】
又、
図5(b)に示すように、揺動角度θは、形成樹脂が均一に分散される程度であれば、特に制限されるものではないが、通常、鉛直方向に対する、揺動フレームの水平状態からの傾斜角度を揺動角度θとした場合に、当該揺動角度θを5~60°の範囲とすることが好ましい。
この理由は、このような角度とすることで、インナー容器の成形において、厚さムラ等の発生をより効果的に防止することができるためである。
従って、かかる揺動角度θを10~45°の範囲とすることがより好ましく、15~30°の範囲とすることが更に好ましい。
【0054】
又、揺動角度θ(
図5(b)参照)は、常に一定であっても良いが、揺動ごとに異なる角度とすることも好ましい。
すなわち、形成樹脂を注入した段階では比較的大きく揺動し、段階的に揺動角度θを小さくすることも好ましい。
この理由は、インナー容器の成形にあたり、厚さムラが発生することをより効果的に防止することができるためである。
従って、揺動角度θを変更する段階を、2~10段階とすることが好ましく、3~8段階とすることがより好ましく、4~6段階とすることが更に好ましい。
【0055】
5)搬送装置
又、
図5(a)~(b)に示すように、インナー成形部にも、金型加熱部と同様の搬送装置43を備えていることが好ましい。
すなわち、搬送装置43として、
図4(a)~(c)に示されるように、所定の金型追出部材を設けることが好ましい。
この理由は、このように所定の金型追出部材を設けることによって、円筒形金型を、所定回転数でもって、精度良く回転させながら、前方に移送することができるためである。
なお、搬送装置の内容については、金型加熱部における搬送装置で既に説明したものと、基本的に同様の内容であっても良いが、異なる態様であっても良い。
【0056】
又、
図5(a)に示すように、インナー成形部にも、金型加熱部と同様に、シャッター機構49を備えていることが好ましい。
すなわち、シャッター機構49として、少なくとも円筒形金型14の側面又は上面を覆う断熱壁49bと、当該断熱壁49bを、上側フレーム41bに沿って上下させるシャッター駆動部49aと、を設けてあることが好ましい。
この理由は、円筒形金型14の移送の妨げとなることを防止するとともに、加熱時に、周囲の加熱空気の温度低下を効果的に防止でき、ひいては、インナー成形部におけるインナー容器16の成形を、より迅速に行うことができるためである。
なお、シャッター機構49の内容については、金型加熱部におけるシャッター機構で既に説明したものと、基本的に同様の内容であっても良いが、異なる態様であっても良い。
【0057】
3.冷却部
(1)全体構成
又、冷却部は、
図1に示すように、インナー容器の製造装置1のC部で示される部位であって、インナー成形部を経て、インナー容器16が成形された状態の円筒形金型14を回転させながら所定温度まで冷却し、インナー容器16を十分に固化させる部位である。
すなわち、冷却部において、円筒形金型14の表面に設けてある溝部に車輪を挿入し、当該車輪を回転させることにより、円筒形金型14を回転させながら冷却する金型冷却装置8を少なくとも一つ備えていることが好ましい。
【0058】
具体的には、金型冷却装置は、少なくとも、各種装置を保持する所定フレームと、円筒形金型を回転させる回転装置と、冷却機器と、円筒形金型を次工程に搬送する搬送装置と、を含んで構成してあることが好ましい。
この理由は、インナー成形部で成形されたインナー容器を、迅速かつ安定的に冷却でき、インナー容器を、容易に、外部に取り出せる状態にすることができるためである。
従って、冷却部は、当該冷却部を複数区画に分割し、区画ごとに、金型冷却装置を設けることがより好ましい。
この理由は、円筒形金型を段階的に冷却できるとともに、インナー成形部における成形時間よりも、冷却部における冷却時間が長い場合に生じる、円筒形金型の滞留を効果的に防ぐことができるためである。
【0059】
(2)具体的構成
又、円筒形金型の冷却機器は、
図1に示すように、基本的に、回転に伴う空冷機器とすることが好ましい。
この理由は、過度のスピードで、円筒形金型の温度を低下しようとすると、インナー容器において、いわゆるヒケが生じやすくなったり、内部歪みが発生しやすくなったりして、寸法安定性が著しく低下する場合があるためである。
しかも、回転に伴う空冷段階を複数設けて、その間を、搬送装置によって移送することによって、インナー容器が成形されるまでの所要時間を適宜調整することが容易になる。
【0060】
但し、各種冷却機器(吹付、浸漬、ミスト等)を取り付けて、円筒形金型の温度を、任意の温度プロフィールとなるように、段階的に冷却することも好ましい。
すなわち、図示しないものの、冷却部を密封し、ファン等によって空冷するための気流を流したり、あるいは、水やアルコール等を吹き付けたり、それらに浸漬したり、更には、それらのミスト等の存在下に、回転させながら、載置することも好ましい。
そして、次工程に搬送する搬送装置と、を備えることによって、所望のインナー容器を迅速かつ安定的に成形し、外部に取り出すことができる。
【0061】
又、冷却部における回転装置としては、金型加熱部における回転装置で既に説明したものと、基本的に同様の内容が好ましいが、異なる態様とすることも好ましい。
例えば、回転数を、金型加熱部における回転装置の回転数に対し、5~80%の回転数とすることが好ましい。
この理由は、冷却部でのインナー容器の固化状態に基づいて、回転数を調整し、厚さムラ等の発生を、より効果的に防ぐことができるためである。
従って、回転数を、金型加熱部における回転装置の回転数に対し、10~60%の回転数とすることがより好ましく、20~40%の回転数とすることが更に好ましい。
【0062】
4.金型装着部
又、
図1にA´部で示される金型装着部は、円筒形金型14を、製造装置の始動準備に先立つ、フレームの所定場所に、装着するための部位であって、金型加熱部(A部)の一部とみることができる。
又、液体水素容器のインナー容器の成形に用いる円筒形金型の種類は、特に制限されるものではなく、鉄、銅、鉄合金、鋳造品等からなる公知材料から構成された円筒形金型であれば、いずれも好適に使用することができる。
そして、所定場所に装着する円筒形金型については、各種態様とすることができるが、例えば、
図7(a)に示す構成の、蝶番14dで開閉可能に取り付けられたハッチ14cを端部に備える円筒形金型14であることが好ましい。
【0063】
5.脱型部
又、
図1にC´部で示される脱型部は、円筒形金型14の内部に成形したインナー容器16を脱型し、外部に取り出すための部位であって、冷却部(C部)の一部とみることができる。
すなわち、
図7(a)に示す構成の円筒形金型14が示すように、端部に設けてあるハッチ14cを開けて、インナー容器16を、円筒形金型14から脱型して、それを外部に取り出すことができる。
【0064】
その際、次工程に移送しやすいように、
図1に示す所定架台12の上側に、円筒形金型14を載置して、インナー容器16を取り出すことが好ましい。
この理由は、車輪のついた所定架台12の上側に、空の円筒形金型14を載置することで、
図1にA´部で示される金型装着部に台車として移送し、金型装着部における所定架台10として使用して、迅速に円筒形金型14を供給することができるためである。
【0065】
6.繊維強化樹脂層の形成部
(1)内容
インナー容器に対する繊維強化樹脂層の形成部は、インナー容器の製造装置に続く次工程であるが、インナー容器の製造装置に含めることができる。
すなわち、エポキシ樹脂やフェノール樹脂等の樹脂材料と、少なくともガラス繊維又は炭素繊維等のいずれか一方の繊維を混合して成形した繊維強化樹脂層をインナー容器の外側に形成する、繊維強化樹脂層の形成部を含むことも好ましい。
【0066】
又、繊維強化樹脂層としては、細かく切断した繊維を樹脂と混ぜ込んで硬化させた構成、又は、同方向に並べた繊維に対して樹脂を含浸させて硬化させた構成等とすることが好ましい。
この理由は、このような構成とすることで、より強度の高いインナー容器とすることができるためである。
更に、
図7(d)に示すように、成形されたインナー容器16の外側に繊維強化樹脂層17aを形成でき、例えば、内側に凸部16dを有するような複雑な内壁を有する液体水素容器17を製造することがより容易になるためである。
【0067】
(2)厚さ
又、繊維強化樹脂層の厚さは、インナー容器の大きさや形状、或いは、充填する液化水素の圧力等を考慮して定めることが好ましいが、通常、1~50mmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、過度に重量を増やすことなく、インナー容器としての強度をより向上することができるためである。
従って、繊維強化樹脂層の厚さを5~40mmの範囲内の値とすることがより好ましく、10~30mmの範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0068】
(3)巻き方
又、繊維強化樹脂層を形成するにあたり、カーボン繊維を席巻することになるが、その巻き方を、通常、フープ巻き、ヘリカル巻き、インプレーン巻き等のいずれか一つ、又は、これらの組み合わせとすることが好ましい。
この理由は、過度に重量を増やすことなく、インナー容器としての強度をより効果的に向上することができるためである。
【0069】
7.動作
このような構成からなる液体水素容器に用いられるインナー容器を形成する際の、製造装置の動作については、後述するように、第2の実施形態において、
図8のフローチャートを参照しつつ、詳細に説明する。
但し、第1の実施形態におけるインナー容器(単層構造)の製造装置によれば、製造工程における製造動作が連続的であって、かつ、金型加熱部、インナー成形部、及び冷却部等における所要時間及びその関係等を考慮してあることから、従来のインナー容器の製造装置と比較して、1個当たりの製造時間を1/8~1/10程度に著しく短縮化できるようになった。
しかも、第1の実施形態における多層構造のインナー容器の製造方法によれば、インナー成形に余分に時間が掛かるものの、それでも、従来の多層構造のインナー容器の製造方法と比較して、1個当たりの製造時間を1/10~1/20程度に著しく短縮化できるようになった。
【0070】
8.検査部
検査部を設け、インナー容器を内部から取り出した後、インナー容器の外観性、寸法、内容積、耐圧等を検査することが好ましい。
すなわち、インナー容器の外観を目視検査し、均一性が保持されているか否かを、評価し、確認することが好ましい。
又、インナー容器の各寸法や内容積を実測し、それぞれ所定範囲内の値であるか、否かを評価し、確認することが好ましい。
更に又、インナー容器の耐圧を、50~60℃の範囲内の液温とし、20~40MPaの範囲内のゲージ圧に調整して注水する試験機等を用いて、漏れがないことを前提とし、スペック基準内であるか、否かを評価し、確認することが好ましい。
【0071】
[第2の実施形態]
第2の実施形態である、少なくとも金型加熱部と、インナー成形部と、冷却部と、を備えるインナー容器の製造装置を用いた、インナー容器の製造装置を用いた、液体水素容器に用いられるインナー容器の製造方法であって、下記工程(1)~(3)を有することを特徴とするインナー容器の製造方法である。
(1)金型加熱部において、円筒形金型を加熱し、回転装置によって、回転させながら、所定温度とする工程
(2)インナー成形部において、円筒形金型を回転させるとともに、左右方向に揺動させながら、樹脂注入装置によって、定量注入された形成樹脂に由来したインナー容器を成形する工程
(3)冷却部において、円筒形金型を回転させながら、冷却させる工程
以下、インナー容器の製造方法を構成する各工程について、適宜図面を参照しながら、具体的に説明する。
【0072】
1.金型準備工程
金型準備工程は、
図8中のステップS1に示すように、工程(1)を実施する前に、所定の円筒形金型を準備する工程である。
そして、
図1中、A´部で示される金型装着部において、所定の円筒形金型14を、所定架台10の上部に、所定治具を用いて、装着することが好ましい。
より具体的には、所定治具として、クレーン、チェーンブロック、エアホイスト、ジャッキ、ロボット等を用いることが好ましい。
この理由は、円筒形金型14を迅速、かつ、容易に所定架台10の上部に載置することができるためである。
【0073】
2.工程(1)(円筒形金型の加熱工程)
工程(1)は、
図8中のステップS2に示すように、金型加熱部において、円筒形金型を加熱し、かつ、所定の回転装置によって、円筒形金型を回転させながら、所定温度とする加熱工程(予備加熱工程も含む場合がある)である。
すなわち、所定の加熱機器25としての火炎バーナー(ラインバーナー)や電気ヒーター等を用い、形成樹脂の種類や融点等にもよるが、円筒形金型の内面温度を180~250℃の範囲に加熱することが好ましく、190~245℃の範囲に加熱することがより好ましく、200~240℃の範囲に加熱することが好ましい。
【0074】
又、金型加熱部が、本加熱部と、予備加熱部と、を併用して構成されている場合には、本加熱する際の円筒形金型の内面温度を、180~250℃の範囲に調整することが好ましい。
一方、本加熱の前に、予備加熱部による予備加熱工程を実施する場合には、その時点の円筒形金型の内面温度を、100~180℃未満の範囲に調整することが好ましく、120~160℃の範囲に調整することがより好ましく、130~150℃の範囲に調整することが更に好ましい。
【0075】
3.工程(2)(インナー成形工程)
工程(2)は、
図8中のステップS3~S4に示すように、インナー成形部において、円筒形金型を回転させるとともに、左右方向となるように、すなわち、水平方向に対して所定角度となるように、端部を上下に傾ける動作を繰り返し、いわゆる揺動させながら、形成樹脂に由来したインナー容器を成形する工程である。
従って、インナー成形部において、所定の回転装置によって、円筒形金型を回転させながら、工程(2)の形成樹脂に由来したインナー容器の成形を同時実施することが特徴であると言える。
この時、円筒形金型を回転させながら、加熱機器によって、円筒形金型を加熱することで、表面温度を所定温度とした状態で、インナー容器を成形することが好ましい。
更に、複数の樹脂注入装置を用いて、複数の形成樹脂を順次供給し、多層構造のインナー成形をすることも可能である。
そして、インナー容器の成形にあたり、トータルとしての効率的態様として、工程(2)の時間を、所定時間とし、後述する工程(3)の冷却時間のトータル時間と、ほぼ同時間とすべきことが好ましい。
【0076】
4.工程(3)(冷却工程)
工程(3)は、
図8中のステップS5に示すように、冷却部において、円筒形金型を回転させながら、所定温度まで冷却させる工程である。
すなわち、例えば、インナー成形部において、所定の回転装置によって、円筒形金型を回転させながら、工程(3)を実施して、空冷することが好ましい。
そして、インナー容器の形成にあたり、トータルとしての効率的態様として、工程(3)の時間を、所定時間とし、上述した工程(2)の冷却時間のトータル時間と、ほぼ同時間とすべきことが好ましい。
又、冷却部を、進行方向D1(
図1参照)に沿って複数区画に分割した場合に、分割した区画数で所定時間を割った時間で、次の区画に進む構成とすることが好ましい。
よって、例えば、
図1に示すように、冷却部を5区画に分割した場合には、冷却部において1区画分進む時間を、所定時間の1/5の時間とすることが好ましい。
この理由は、冷却時間が所定時間よりも長く必要な場合であっても、前工程から搬送されてきた円筒形金型を、滞留させることなく受け入れることができるようになり、一つのインナー容器を製造する時間が長くなるのを効果的に防ぐことができるためである。
【0077】
5.工程(4)(インナー容器の取出し工程)
工程(4)は、
図8中のステップS6で示すように、脱型部において、所定温度まで冷却させた円筒形金型の内部から、インナー容器を脱型して、外部に取出す工程である。
すなわち、円筒形金型のハッチを開けて、インナー容器を脱型し、外部に取出すとともに、通常、それを取り扱いやすいように、所定架台に搭載することが好ましい。
【0078】
6.他の工程1(繊維強化樹脂層の形成工程)
又、工程(1)~(4)を実施後に、後工程として、繊維強化樹脂層の形成工程につなげることが好ましい。
すなわち、
図8中のステップS7で示すように、他の工程1として、繊維強化樹脂層を、インナー容器の外側に形成する工程を実施することが好ましい。
【0079】
例えば、インナー容器に対して、フィラメントワインディング成形法(FW法)にて、エポキシ樹脂を含浸させながら、ヘリカル巻きと、フープ巻きと、を組み合わせたパターンで炭素繊維を巻き、未硬化の炭素繊維プラスチック層を形成する。
次いで、炭素繊維プラスチック層を形成したインナー容器に熱処理を行い、炭素繊維プラスチック層を硬化させることで、繊維強化樹脂層を形成することが好ましい。
この理由は、このように実施することで、軽量で、より耐久性の高いインナー容器とすることができるためである。
【0080】
7.他の工程2(再利用工程)
又、
図8中のステップS8で示すように、インナー容器を内部から取り出した後、使用済の円筒形金型を、繰り返し再利用するために、脱型部における所定架台12に乗せたまま、金型装着部に移送して、金型準備工程に移ることが好ましい。
すなわち、インナー容器を脱型し、円筒形金型の内部から取り出した後、使用済の円筒形金型については、少なくとも2~10回程度は、繰り返し再利用することが好ましい。
従って、途中で、洗浄工程や修理工程、更には、円筒形金型の内部に対する離型剤処理を施す工程を、繰り返すことが好ましい。
【0081】
8.他の工程3(検査工程)
次いで、特に図示しないものの、他の工程3を実施し、インナー容器を内部から取り出した後、インナー容器の外観性、寸法、内容積、耐圧等を検査することが好ましい。
すなわち、インナー容器が所定スペックに合致しているか、否かを検査することを、全数検査又は抜き打ち検査して、選別することが好ましい。
又、第2の実施形態のインナー容器の製造方法によれば、円筒形金型を、回転装置を用いて回転させながら、形成樹脂に由来してなるインナー容器を製造することによって、大型、かつ、複雑形状等の液体水素容器に用いられるインナー容器であっても、極めて簡易かつ短時間(約30~60分/個)に成形できることが判明している。
【0082】
よって、第2の実施形態のインナー容器(単層構造)の製造方法によれば、従来のインナー容器の製造方法と比較して、1個当たりの製造時間を1/8~1/10程度に著しく短縮化できるようになった。
しかも、第2の実施形態のインナー容器の製造方法によれば、多層構造のインナー容器の場合には、インナー成形に余分に時間が、かかるものの、従来の多層構造のインナー容器の製造方法と比較しても、1個当たりの製造時間を1/10~1/20程度に、更に短縮化できるようになった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の液体水素容器に用いられるインナー容器の製造装置、及び、そのようなインナー容器の製造方法によれば、円筒形金型を、回転装置を用いて回転かつ、定期的又は不定期に揺動させながら、定量供給された形成樹脂に由来してなるインナー容器を製造することによって、大型、かつ、複雑形状等の液体水素容器に用いられるインナー容器であっても、極めて簡易かつ短時間に形成することができるようになった。
【0084】
しかも、定量供給された形成樹脂の種類を適宜増やすことによって、多層化されたインナー容器であっても、極めて簡易かつ短時間に形成することができるようになった。
すなわち、本発明のインナー容器であれば、各種自動車(乗用車のみならず、トラックやバス等も含む。)に搭載する大型化かつ複雑化された液体水素容器に対しても適合し、しかも、迅速かつ精度良く製造することができるようになった。
【0085】
更に言えば、本発明のインナー容器であれば、液体水素容器以外であっても、各種液体貯蔵タンク等の大型貯蔵タンク、箱状の収納容器、ボートやカヤック等の船体の各種用途に用いることが期待される。
【符号の説明】
【0086】
1:インナー容器の製造装置
2:金型加熱装置
4:インナー成形装置
6:樹脂注入装置
8:金型冷却装置
10:所定架台
12:所定架台
14:円筒形金型
16:インナー容器
17:液体水素容器
21、41:所定フレーム
23、43:搬送装置
25:加熱機器
27、47:回転装置
42:揺動装置
A部:金型加熱部
A´部:金型装着部
B部:インナー成形部
C部:冷却部
C´部:脱型部
D1:円筒形金型の進行方向
θ:揺動角度