(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085843
(43)【公開日】2023-06-21
(54)【発明の名称】高分子材料中の無機添加物測定システムおよび高分子材料中の無機添加物測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/59 20060101AFI20230614BHJP
G01N 33/44 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
G01N21/59 Z
G01N33/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200125
(22)【出願日】2021-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】本棒 享子
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】増子 諒汰
(72)【発明者】
【氏名】安田 修
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059DD20
2G059EE01
2G059EE13
2G059FF08
2G059KK04
2G059MM12
(57)【要約】
【課題】高分子製品の原料である液状樹脂・ゴム組成物中の無機添加物の含有量を、無機添加物の種類によらず、従来よりも短時間で精度よく測定可能な高分子材料中の無機添加物測定システムおよび高分子材料中の無機添加物測定方法を提供する。
【解決手段】
本発明の高分子材料中の無機添加物測定システムは、分析対象物である無機添加物を含有する高分子材料を収容する容器3と、分析対象物を撮影する撮影機16と、容器3と撮影機16との間に設置されるグレースケール5と、撮影機16で撮影された画像を解析する解析装置19と、を有し、あらかじめ、無機添加物の含有量が既知である標準サンプルを容器3に収容して撮影機19で撮影した際の画像から、標準サンプルの光学濃度を求めて検量線を作成し、分析対象物を撮影した際の画像の光学濃度から、検量線によって分析対象物に含まれる無機添加物の含有量を求めることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象物である無機添加物を含有する高分子材料を収容する容器と、
前記分析対象物を撮影する撮影機と、
前記容器と前記撮影機との間に設置されるグレースケールと、
前記撮影機で撮影された画像を解析する解析装置と、を有し、
あらかじめ、前記無機添加物の含有量が既知である標準サンプルを前記容器に収容して前記撮影機で撮影した際の画像から、前記標準サンプルの光学濃度を求めて検量線を作成し、
前記分析対象物を撮影した際の画像の光学濃度から、前記検量線によって前記分析対象物に含まれる前記無機添加物の含有量を求めることを特徴とする高分子材料中の無機添加物測定システム。
【請求項2】
前記検量線は、前記標準サンプルを撮影した画像から求めたグレースケールのRGB値と光学濃度との関係図であることを特徴とする請求項1に記載の高分子材料中の無機添加物測定システム。
【請求項3】
無機添加物濃度が既知の高分子材料である標準サンプルを準備する標準サンプル準備工程と、
前記標準サンプルを容器に収容し、グレースケールを介して撮影機によって撮影する標準サンプル撮影工程と、
前記標準サンプル撮影工程で得た撮影画像から、前記標準サンプルの光学濃度を求める標準サンプル解析工程と、
前記標準サンプルの検量線を作成する検量線作成工程と、
無機添加物濃度が未知の高分子材料である分析対象物を準備する分析対象物準備工程と、
前記分析対象物を容器に収容し、グレースケールを介して撮影機によって撮影する分析対象物撮影工程と、
前記分析対象物撮影工程で得た撮影画像から、前記分析対象物の光学濃度を求める分析対象物解析工程と、
前記検量線と前記前記分析対象物の光学濃度とから、前記分析対象物の前記無機添加物の含有量を求める工程と、を有することを特徴とする高分子材料中の無機添加物測定方法。
【請求項4】
前記検量線は、前記標準サンプルを撮影した画像から求めたグレースケールのRGB値と光学濃度との関係図であることを特徴とする請求項3に記載の高分子材料中の無機添加物測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子材料中の無機添加物測定システムおよび高分子材料中の無機添加物測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、高分子材料製品は、の高分子材料(樹脂・ゴム・ゴムマトリックス等)中に種々の無機材料(無機添加物)が配合されて形成されている。無機添加物によって、高分子材料製品の耐燃焼性、耐衝撃性、耐候性、耐放射線性、耐オゾン性、耐熱性および耐寒性の向上が期待できる。これらの性能は、高分子材料中に分布する無機材料の密度または質量パーセントに左右される。そのため、高分子材料中の無機添加物が、その性能を発揮できる範囲の量を含有しているか否かを分析することが、製品の性能を確保する上で重要なことである。無機添加物には、高分子材料を構成する樹脂・ゴム・ゴム性能を向上させるため、比較的粒径の小さい無機微粒子が使用される。粒径の小さい無機材料は軽いため、樹脂・ゴムの混錬中に浮遊する懸念があるが、遮蔽性能に関わることから、高分子材料製品の製造中に配合量の減損が全くないことを確認する必要があった。
【0003】
従来、高分子材料中の無機添加物の測定は、樹脂・ゴム組成物溶液に無機添加物を配合した液状混合物を硬化させてから、硬化物の密度を測定し、無機添加物の含有量を定量分析する方法が取られていた。この方法は、硬化物を分析することから、硬化させるための時間がかかる。また、定量分析の際には硬化物をアルカリや酸で溶解させるための時間が必要になる。さらに、別途、硬化物の密度測定が必要となる。このように、従来の手法では、無機材料の密度または質量パーセントを得るまでに複数の作業工数と多大な時間を要していた。これを回避するため、樹脂・ゴム組成物溶液に無機材料を添加した液状樹脂・ゴム組成物の状態で無機材料の密度または質量パーセントを直接測定できる簡易な分析手法が必要であった。
【0004】
高分子材料中の無機添加物の測定方法として、例えば特許文献1には、赤外線の吸光度に基づきポリオレフィン系樹脂・ゴム中の添加剤濃度を測定する方法が開示されている。具体的には、ポリオレフィン系樹脂・ゴム中に添加剤を添加した組成物を造粒機の押出機から出た溶融樹脂・ゴム流れを分岐する。分岐した溶融樹脂・ゴムをセル中に流し、光ファイバーを通して近赤外線を照射し、吸光度を測定する。そして、吸光度から添加剤濃度を検量線を用いて求める方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載される方法では、高分子材料を硬化させることなく、吸光度から無機添加物の含有量を求めることができる。しかし、近赤外分光分析で精度よく検出できる無機材料は、二酸化ケイ素などの特定の酸化物に限定され、無機材料全般を検出することは困難であった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、高分子製品の原料である液状樹脂・ゴム組成物中の無機添加物の含有量を、無機添加物の種類によらず、従来よりも短時間で精度よく測定可能な高分子材料中の無機添加物測定システムおよび高分子材料中の無機添加物測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の高分子材料中の無機添加物測定システムの一態様は、分析対象物である無機添加物を含有する高分子材料を収容する容器と、分析対象物を撮影する撮影機と、容器と撮影機との間に設置されるグレースケールと、撮影機で撮影された画像を解析する解析装置と、を有し、あらかじめ、無機添加物の含有量が既知である標準サンプルを容器に収容して撮影機で撮影した際の画像から、標準サンプルの光学濃度を求めて検量線を作成し、分析対象物を撮影した際の画像の光学濃度から、検量線によって分析対象物に含まれる無機添加物の含有量を求めることを特徴とする。
【0009】
また、上記目的を達成するための本発明の高分子材料中の無機添加物測方法の一態様は、無機添加物濃度が既知の高分子材料である標準サンプルを準備する標準サンプル準備工程と、標準サンプルを容器に収容し、グレースケールを介して撮影機によって撮影する標準サンプル撮影工程と、標準サンプル撮影工程で得た撮影画像から、標準サンプルの光学濃度を求める標準サンプル解析工程と、標準サンプルの検量線を作成する検量線作成工程と、無機添加物濃度が未知の高分子材料である分析対象物を準備する分析対象物準備工程と、分析対象物を容器に収容し、グレースケールを介して撮影機によって撮影する分析対象物撮影工程と、分析対象物撮影工程で得た撮影画像から、分析対象物の光学濃度を求める分析対象物解析工程と、検量線と分析対象物の光学濃度とから、分析対象物の無機添加物の含有量を求める工程と、を有することを特徴とする高分子材料中の無機添加物測定方法である。
【0010】
本発明のより具体的な構成は、特許請求の範囲に記載される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高分子製品の原料中の無機添加物の含有量を、無機添加物の種類によらず、従来よりも短時間で精度よく測定可能な高分子材料中の無機添加物測システムおよび高分子材料中の無機添加物測方法を提供することができる。
【0012】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の高分子材料中の無機添加物測定システムの第1の例を示す模式図
【
図2】本発明の高分子材料中の無機添加物測定システムの第2の例を示す模式図
【
図3】本発明の高分子材料中の無機添加物測定方法の一例を示すフロー図
【
図4B】グレースケールの各セルの測定値と光学濃度の関係を示す表
【
図5】水酸化アルミニウムの含有量(質量%)と光学濃度の関係を示すグラフ
【
図6】タルクの含有量(質量%)と光学濃度の関係を示すグラフ
【
図7】シリカの含有量(質量%)と光学濃度の関係を示すグラフ
【
図8】カーボンブラックの含有量(質量%)と光学濃度の関係を示すグラフ
【
図9】炭化ホウ素の密度(g/cm
3)と光学濃度の関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る測定装置および測定方法について、図を参照しながら説明する。
【0015】
[高分子材料中の無機添加物測定システム]
図1は本発明の高分子材料中の無機添加物測定システムの第1の例を示す模式図であり、
図2は本発明の高分子材料中の無機添加物測定システムの第2の例を示す模式図である。
図1および
図2に示すように、本発明の高分子材料中の無機添加物測定システム(以下、単に「測定システム」とも称する。)100a,100bは、分析対象サンプル2を収容する容器3と、対象サンプル2をグレースケール5を介して撮影する撮影機16と、撮影機16で撮影した画像を解析する解析装置19を備えている。
【0016】
撮影は、撮影17内で行われる。撮影機16には、脚立25や照明18を適宜設け、撮影位置や照度の調整を行うようにしても良い。また、測定システム100bのように、必要に応じて容器3の背面(撮影機16の反対側)に反射板26を設けていても良い。
【0017】
[高分子材料中の無機添加物測定方法]
図3は本発明の高分子材料中の無機添加物測定方法の一例を示すフロー図である。以下に、上述した測定システムを用いた本発明の高分子材料中の無機添加物測定方法(以下、単に「測定方法」とも称する。)について説明する。
【0018】
本発明は、上述したように、グレースケール5を用いて分析対象サンプルを撮影する。
図4Aはグレースケールの一例を示す模式図であり、
図4Bはグレースケールの各セルの測定値と光学濃度の関係を示す表であり、
図4Cは
図4Bの値をプロットしたグラフである。本発明は、上述したように、グレースケール5を用いて分析対象サンプルを撮影する。グレースケール5は、
図4Aに示すように、白黒の濃淡が段階的に配列されたセル41を有する。
図4Aに示すグレースケール40では、No.1~10のセル41を有している。
図4Bは、撮影した標準サンプルの画像の各セルのRGB値と光学濃度(透過度)との関係を求めることで、検量線を作成できる。
【0019】
以下、このグレースケール5を用いた測定方法について、
図3のフローに沿って詳述する。
【0020】
<標準サンプル準備工程(S1)>
(1)無機材料の含有量(密度または質量パーセント)が既知な高分子製品の原料である液状樹脂・ゴム組成物の標準サンプルを準備する。準備する無機材料の含有量は、3基準以上とする。これを透明な容器3に入れる。
【0021】
<標準サンプル撮影工程(S2)>
(2)容器3を本発明のシステムの所定の位置に設置する。
【0022】
(3)各色の基準となる光学濃度4が既知のグレースケール5を準備する。これを容器3の表面に貼り付けて、容器3と一緒に撮影する。
【0023】
<標準サンプル解析工程(S3)>
(4)解析装置19が有する画像処理ソフト6により、撮影した画像の色をカラーからグレーに変換する。
【0024】
(5)グレースケール5の各色の解析位置および面積を予め決めておく。撮影した画像から、グレースケール5の各色のRGB値7を、画像処理ソフト6を用いて求める。
【0025】
<検量線作成工程(S4)>
(6)グレースケール5の各色の基準となる光学濃度4に対して撮影したRGB値7をプロットする。これより、任意のRGB値から標準の光学濃度8を求めるための光学濃度の検量線9を作成できる。
【0026】
(7)無機添加物の含有量が既知な標準サンプルを充填した透明な容器3の解析位置および面積を予め決めておく。画像処理ソフト6を用いて無機材料の密度または重量パーセント1が既知な液状樹脂・ゴム組成物の標準品2のRGB値10を容器越しに求める。
【0027】
(8)上記の方法で3基準以上の無機添加物の含有量が既知な標準サンプルのRGB値をそれぞれ求める。
【0028】
(9)3基準以上の標準サンプルのRGB値から、グレースケール5で作成した光学濃度の検量線を用いて光学濃度を算出する。
【0029】
(10)3基準以上の標準サンプルの光学濃度と、無機添加物濃度の関係をプロットする。これより、任意の光学濃度から無機材料の密度または重量パーセント1を求めるための無機材料密度の検量線12を作成する。
【0030】
<分析対象サンプル準備工程(S5)>
(11)無機添加物の濃度が未知の高分子製品の原料である液状樹脂・ゴム組成物を透明な容器3に入れる。
【0031】
<分析対象サンプル撮影工程(S6)>
(12)容器3を本発明の装置内の所定の位置に設置する。
【0032】
(13)グレースケール5を容器3に貼り付けて容器3と一緒に撮影する。
【0033】
<分析対象サンプル解析工程(S7)>
(14)画像処理ソフト6により、撮影した画像の色をカラーからグレーに変換する。
【0034】
(15)撮影した画像からグレースケール5の各色のRGB値を、画像処理ソフト6を用いて求める。
【0035】
(16)グレースケール5の各色の基準となる光学濃度に対して撮影したRGB値をプロットする。これより、任意のRGB値から標準の光学濃度を求めるための光学濃度の検量線を作成する。
【0036】
(17)画像処理ソフト6を用いて無機添加物の濃度が未知の高分子製品の原料である液状樹脂・ゴム組成物のRGB値を容器越しに求める。
【0037】
(18)無機添加物の濃度が未知の高分子製品の原料である液状樹脂・ゴム組成物のRGB値から、(16)で作成した光学濃度の検量線9を用いて光学濃度15を算出する。
【0038】
(19)無機添加物の濃度が未知の高分子製品の原料である液状樹脂・ゴム組成物13の光学濃度から(10)で作成した無機材料密度の検量線12を用いて無機添加物の濃度を算出する。
【0039】
次に、上述した本発明の測定システムの各構成について詳述する。
【0040】
<撮影機16>
画像は、再現性の高い撮影機16を用いて取得することが好ましい。撮影機16は、デジタル一眼レフカメラ、ミラーレス一眼カメラ、コンパクトデジタルカメラおよび携帯電話用カメラ等を用いることができる。さらに、撮影時にカメラの内部で画像処理を行わない撮影機16を使用することが望ましい。撮影時の画像処理は、解析データのばらつきの原因となるため、好ましくない。 <撮影室17>
撮影は、卓上暗室もしくは卓上暗幕、あるいは、外部の光を完全に遮断するために黒い幕で覆ったケース等の撮影室17内で実施することが好ましい。外部の光、具体的には太陽光や照明の明るさのばらつきがあるため、正確なRGB値を取得できない。外部からの光を完全に遮断するため、撮影にはリモコン、あるいはカメラの撮影をパソコンで制御する制御ソフトを用いることが好ましい。
【0041】
<撮影用照明18>
撮影で必要な照明はドーム照明、もしくはカメラの内蔵フラッシュ、カメラの外付けフラッシュを用いることができる。但し、ドーム照明の位置がずれる可能性がある場合は、内蔵フラッシュを用いることにより位置ずれによる影響を回避できる。
【0042】
<撮影用容器3>
容器3は写真撮影用であり、透明度が高く、撮影面が平滑で、容器の角の反射が解析面に影響しない大きさのものが好ましい。さらに、蓋で密閉できるポリスチレン製、もしくはポリカーボネート製の透明容器が望ましい。着色しているものや、透明度が低い場合には、測定ばらつきが大きくなる。
【0043】
容器3の大きさは縦と横の長さが50mm以上300mm以下であることが好ましい。50mmよりも小さい場合、容器3の角の反射が解析面に影響して結果にばらつきが生じる可能性がある。300mmよりも大きい場合、標準サンプルまたは分析対象サンプルを容器3に入れた後の静置時間の経過とともに添加した無機材料が沈降して無機材料の薄い部分と濃い部分ができるため、結果にばらつきが生じる可能性がある。また、厚みは10mm以上500mm以下が好ましい。10mmよりも薄い場合、容器3の後ろが透けて見えることにより、結果にばらつきが生じる可能性がある。50mmよりも厚い場合、標準サンプルまたは分析対象サンプルを容器3に入れた後の静置時間の経過とともに添加した無機材料が沈降して無機材料の薄い部分と濃い部分ができるため、結果にばらつきが生じる可能性がある。
【0044】
容器3は撮影面が容器3の側面になるよう直立の状態で設置することが好ましい。また、斜め上方に傾けて設置してもよい。これにより、撮影機16の容器3への映り込みを防ぐことができる。撮影面を上面になるように配置する、あるいは、容器3を通さずに標準サンプルまたは分析対象サンプルを直接撮影しようとすると、無機材料中に存在する粒径の小さいミクロな微粒子が上面に浮き上がり易いため、測定結果のばらつきが大きくなる可能性がある。
【0045】
<撮影機器16と容器3の距離>
撮影機16と標準サンプルまたは分析対象サンプルを入れた容器3間の距離は100mm以上900mm以下とすることが好ましい。距離が100mm未満の場合には、グレースケール5が収まりきらず、光学濃度の検量線9が作成できなくなる可能性がある。撮影機16と液状樹脂・ゴム組成物の距離が900mmを超える場合には、容器3の撮影サイズが小さなり過ぎるため、分析感度の低下を引き起こす可能性がある。
【0046】
<解析面の大きさ>
解析面積の幅はグレースケール5の長手方向の長さの1/5以上1以下が好ましい。1/5未満の場合、光学濃度の検量線9の作成に使用できる色の種類が4種類以下となるため、十分な測定精度が得られない可能性がある。1を超える場合、撮影用照明18の明るさが中心と両脇で一定になり難く、正確な解析結果を得ることができない可能性がある。
【0047】
<解析位置>
解析位置はグレースケール5の上部でかつ5mm以上20mm以下の範囲であることが好ましい。5mm未満の場合、グレースケールの影が解析部分に映って暗くなるため正確な解析結果を得ることができない可能性がある。20mmを超える場合、撮影用照明18の明るさがグレースケール5と解析位置で異なるため、正確な解析結果を得ることができない可能性がある。
【0048】
<撮影機器16の位置>
撮影機器16は容器3に対して平行よりもやや下方に傾けて設置することが好ましい。平行に設置すると、撮影機器16が容器3に写り込むため、正確な光学濃度を求められない可能性がある。平行よりもやや上方に傾けて設置すると、撮影機器16の重みで少しずつ下方にずれ易いことから、測定結果に影響を及ぼす可能性がある。
【0049】
<グレースケール5>
グレースケール5は、一般に市販されているコダック社製のグレースケール5を使用することが好ましい。コダック社製のグレースケール5は、20種類の色で構成されており、それぞれ標準の光学濃度8がメーカで規定されている。
【0050】
<画像解析装置19>
本発明では撮影機16で撮影したグレースケール5の各色のRGB値を、画像解析装置19に組み込まれた画像処理ソフト6を用いて求める。求めたRGB値7とメーカで規定されている光学濃度8をプロットした検量線9を作成し、これを基に標準サンプルのRGB値10から補正された光学濃度11を求める。これらの作業は画像解析装置19に組み込まれた画像処理ソフト6を用いて実施することができる。さらに、検量線を作成して、無機材料の添加物の濃度がわかっていない様々な高分子製品の原料である液状樹脂・ゴム組成物13のRGB値14から補正された光学濃度15を求める。これらの作業もまた画像解析装置19に組み込まれた画像処理ソフト6を用いて実施することができる。
【0051】
<データベース20>
本発明では、あらかじめ、無機添加物の含有量が既知の液状樹脂・ゴム組成物の標準品2を準備しておく。これを撮影機16で撮影して、グレースケール5の各色のRGB値を、画像解析装置19に組み込まれた画像処理ソフト6を用いて求める。求めたRGB値7とメーカで規定されている光学濃度8をプロットした検量線9を作成し、これを基に標準サンプルのRGB値10から補正された光学濃度11を求める。これらの光学濃度11と無機添加物の含有量の関係図、および関係式をデータベース20として作成しておくことが好ましい。データベース20は画像解析装置19に格納しておくことが望ましい。無機添加物の含有量が未知のサンプルを撮影機16で撮影して、画像解析装置19でRGB値14から補正された光学濃度15を求めた後に、データベース20から光学濃度11と無機添加物の含有量の関係図、および関係式を検索することにより、該当する高分子製品の原料である液状樹脂・ゴム組成物の無機添加物の密度または重量パーセント1を、光学濃度15を用いて変換することができる。
【0052】
データベース20の作成には、無機添加物の濃度が既知の標準サンプルがない場合には、一旦、硬化して、従来の方法で硬化物の密度と無機材料の質量パーセントを測定することにより、無機材料の密度または質量パーセントを求めてもよい。また、無機材料の密度または質量パーセントの他に、無機材料の質量パーセント21だけでも良い。硬化後、従来の方法で求めた無機材料の密度または質量パーセント1と本発明で計測した光学濃度15の関係をプロットした関係図および関係式をデータベース20として新たに画像解析装置19に格納することができる。これを用いることにより、標準サンプルがない場合でも、無機添加物の濃度を求めることができる。これらの作業は画像処理ソフト6を用いて実施することができる。
【0053】
<撮影時間23>
本発明では撮影時間を規定することが好ましい。撮影時間とは、すべての配合作業を終了し、液状樹脂・ゴム組成物の混合処理後、もしくは脱泡処理後の時間を起点として、ここからの経過時間とすることが好ましい。撮影時間を規定する理由は、混合処理後、もしくは脱泡処理後の時間の経過とともに、光学濃度に変化が生じる可能性があるためである。そのため、本発明では、あらかじめ、撮影時間に対する光学濃度の変化のデータを取得しておき、データベース20として画像解析装置19に格納しておいてもよい。このデータベース20を用いれば、異なる撮影時間で撮影した無機添加物の含有量を求めることができる。
【0054】
<分析対象の高分子製品>
本実施形態に係る様々な高分子製品は、樹脂・ゴムマトリックス中に無機材料が任意に配合され、適宜の形状に成形されて用いられる。この様々な高分子製品は、ガスケット、Oリング、電線ケーブルの被覆材、配管のライニング材、タンクの塗装、樹脂製配管、金属キャスク用中性子遮蔽材等の各種用途に用いられる。
【0055】
液状樹脂組成物の樹脂材料は、架橋ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂などが使用される。液状ゴム組成物のゴム材料は、ネオプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、アクリロニトリルゴム、シリコンゴムなどが使用される。
【0056】
耐燃焼性、耐衝撃性、耐候性、耐放射線性、耐オゾン性、耐熱性、耐寒性の向上が期待できる無機材料として、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、シリカ、酸化チタン、酸化カルシウム、アルミナ、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、タルク、カーボン、炭化ホウ素、窒化ホウ素などが使用される。
【0057】
無機材料は、様々な高分子製品に対して、それぞれ適切な配合量とすることが好ましい。配合量が少ない場合、耐燃焼性、耐衝撃性、耐候性、耐放射線性、耐オゾン性、耐熱性、耐寒性の向上が不十分となる。配合量が多い場合、樹脂・ゴムが持つ特性である延性が十分に得られず、製品の割れが生じ易くなる。
【0058】
<高分子製品の製造方法>
様々な高分子製品は、樹脂・ゴムマトリックス中に無機材料を指定の配合比となるように秤量して添加した後に架橋反応で硬化させて得ることができる。架橋反応は、様々な高分子製品の用途、使用条件、使用環境等に応じて、適宜の温度で行うことができる。硬化温度としては、例えば、5℃以上50℃未満の低温域、50℃以上80℃未満の中温域、80℃以上200℃以下の高温域等、いずれを用いることも可能である。
<無機添加物の含有量の測定方法>
高分子製品中に含まれる無機材料の密度または重量パーセントの測定は、樹脂・ゴム組成物を塗布、成形する前に行うことが好ましい。これにより、塗布、成形する前に配合組成のばらつきの有無を確認でき、再製にかかるコストを最小限に留めることができる。
【実施例0059】
様々な高分子製品中の無機添加物の含有量を下記実験によって求めた。
【0060】
<測定装置>
実験には、
図2に示すシステムを用いた。液状樹脂・ゴム組成物はネジ口の蓋がついたポリスチレン製の細胞培養用透明フラスコ容器3に注入した。測定装置は一眼レフカメラ16と一眼レフカメラの制御ソフト24及び画像処理ソフト6を搭載した画像解析装置19を備える。暗室17の中に液状樹脂・ゴム組成物13を注入した容器3を、所定の位置に設置した。撮影面を一眼レフカメラ16側に向けて立てた状態で設置した。なお、一眼レフカメラ16は三脚25に固定してもよい。また、暗室17の撮影背面には透過率18%の反射板26を用いてもよい。容器3の表面には色見本としてコダック社製グレースケール5を張り合わせている。撮影用照明には、内蔵フラッシュ18のみを使用した。
撮影した画像は画像解析ソフト6を用いて解析した。まず初めに、容器3に張り合わせたコダック社製グレースケール5の色見本から10色分を抽出してRGB値を求めた。求めたRGB値とコダック社製グレースケール5のメーカが開示している標準の光学濃度で検量線を作成した。次に、液状樹脂・ゴム組成物13を注入した容器のRGB値を求めた。先に取得した検量線の近似式から、液状樹脂・ゴム組成物13の光学濃度を得た。
【0061】
<様々な高分子製品>
(1)ガスケット
ガスケットの主たる材質としてクロロプレンゴムを使用した。まず初めに、クロロプレンの生ゴムにオイルと加硫剤と酸化防止剤を加えてニーダーで練り込んだ後、難燃性の向上が期待できる無機材料として水酸化アルミニウムを50重量パーセント添加して練り工程を実施した。この生地をポリスチレン製の透明容器に充填し、
図3に示す本発明の無機材料密度または重量パーセントの測定方法により光学濃度を求めた。生地は金型に仕込み、熱と圧力を加えて製品形状に加工した。規定時間経過した後に型から取り出して成形を完了した。
【0062】
別途、水酸化アルミニウムの重量パーセントが異なる3種類のクロロプレンゴム生地の標準品を作製した。水酸化アルミニウムの重量パーセントは40、50、60重量パーセントの3種類である。
図5は水酸化アルミニウムの含有量(質量%)と光学濃度の関係を示すグラフである。
図5から光学濃度を入力して、水酸化アルミニウムの含有量を求めた。これより、水酸化アルミニウムの含有量は45質量パーセントであることが確認できた。これは、後日、分析した結果と一致した。
【0063】
(2)電線ケーブルの被覆材
電線ケーブルの被覆材の主たる材質としてエチレンプロピレンゴムを使用した。エチレンプロピレンジエン共重合体にオイルと有機過酸化物と酸化防止剤を加えてニーダーで練り込んだ後、耐摩耗性の向上が期待できる無機材料としてタルクを30質量パーセント添加して練り工程を実施した。この生地をポリスチレン製の透明容器に充填し、前述した方法により光学濃度を求めた。生地は押出機に供給し、加圧水蒸気内で導体上に直接、もしくは他の被覆材を介して押出被覆して製品形状に成形した。
【0064】
別途、タルクの質量パーセントが異なる3種類のエチレンプロピレンゴム生地を作製した。タルクの質量パーセントは、20、30、40重量パーセントの3種類である。
図6はタルクの含有量(質量%)と光学濃度の関係を示すグラフである。
図6から光学濃度を入力して、タルクの質量パーセントを求めた。これより、タルクの含有量は27質量パーセントであることが確認できた。これは、後日、分析した結果と一致した。
【0065】
(3)タンクの塗装
タンクの塗装の材質としてエポキシ系塗料を使用した。ビスフェノールA型エポキシ樹脂にアミン系硬化剤を加えてスリーワンモータで撹拌した。これに耐衝撃性の向上が期待できる無機材料としてシリカを添加して撹拌し、真空装置で脱泡してエポキシ系塗料を作製した。この硬化前の塗料をポリスチレン製の透明容器に充填し、光学濃度を求めた。エポキシ系塗料は、エアレススプレー塗装により、タンクの表面に塗装した。
【0066】
別途、シリカの重量パーセントが異なる3種類のエポキシ系塗料を作製した。シリカの重量パーセントは、5、10、15重量パーセントの3種類である。これらエポキシ系塗料は硬化後にICP分析によりシリカの重量パーセントを求めた。
図7はシリカの含有量(質量%)と光学濃度の関係を示すグラフである。これらをデータベースとして画像解析装置に格納した。
図7に光学濃度を入力して、シリカの重量パーセントを求めた。これより、シリカの含有量は9質量パーセントであることが確認できた。これは、後日、分析した結果と一致した。
【0067】
(4)樹脂製配管
(樹脂製配管の主たる材質として高密度ポリエチレンを使用した。高密度ポリエチレンの樹脂ペレットに酸化防止剤を加えてニーダーで練り込んだ後、耐候性の向上が期待できる無機材料としてカーボンブラックを20質量パーセント添加して溶融しながら練り工程を実施し、マスターペレット用生地を作製した。このマスターペレット用生地をポリスチレン製の透明容器に充填し、前述した方法により光学濃度を求めた。マスターペレット用生地はペレット状に裁断し、樹脂ペレットと共にパイプ製造装置の押出機に供給し、加熱溶融しながら配管形状に成形した。
【0068】
別途、カーボンブラックの重量パーセントが異なる3種類の高密度ポリエチレンのマスターペレット用生地を作製した。カーボンブラックの質量パーセントは、10、20、30重量パーセントの3種類であるこれらマスターペレット用生地は、示唆熱天秤分析によりカーボンブラックの質量パーセントを求めた。これらをデータベースとして画像解析装置に格納した。
図8はカーボンブラックの含有量(質量%)と光学濃度の関係を示すグラフである。
図10の関係図および関係式に
図9で求めた光学濃度を入力して、カーボンブラックの重量パーセントを求めた。結果を
図11に示す。これより、カーボンブラックの重量パーセントは18重量パーセントであることが確認できた。
【0069】
(5)中性子遮蔽材
中性子遮蔽材の材質としてエポキシレジンを使用した。ビフェニル型エポキシ樹脂にアミン系硬化促進剤を加えてプラネタリミキサを用いて混練した。これに、中性子吸収性の向上が期待できる無機材料として炭化ホウ素の密度が0.03g/cm3となるように添加して撹拌し、真空装置で脱泡してエポキシレジンを作製した。この硬化前のレジンをポリスチレン製の透明容器に充填し、脱泡処理終了後からの経過時間を変化させて、前述した方法により光学濃度を求めた。
【0070】
別途、炭化ホウ素の密度が異なる3種類のエポキシレジンを作製した。炭化ホウ素の密度は、0.02、0.03、0.04g/cm
3の3種類である。これらも脱泡処理終了後からの経過時間を変化させて、前述した方法により光学濃度を求めた。これらエポキシレジンは硬化後にICP分析により炭化ホウ素の質量パーセントを求めた。密度は、ピクノメータ法を用いて測定した。密度と炭化ホウ素の重量パーセントを掛けて炭化ホウ素の密度を求めた。
図9は炭化ホウ素の密度と光学濃度の関係を示すグラフである。これらをデータベースとして画像解析装置に格納した。
図9に光学濃度を入力して、炭化ホウ素の密度を求めた。脱泡処理終了後からの経過時間が同じ値を用いて、炭化ホウ素の密度を求めた結果、0.030g/cm
3であることが確認できた。これは、後日、分析した結果と一致した。
【0071】
以上、説明したように、本発明によれば、高分子製品の原料である液状樹脂・ゴム組成物中の無機添加物の含有量を、無機添加物の種類によらず、従来よりも短時間で精度よく測定可能な高分子材料中の無機添加物測定システムおよび高分子材料中の無機添加物測定方法を提供できることが示された。
【0072】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
3…容器、5…グレースケール、6…画像処理ソフト、6…撮影機器、17…撮影室、18…撮影用照明、19…画像解析装置、25…三脚、26…反射板、100a,100b…無機添加物測定システムおよび。