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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085861
(43)【公開日】2023-06-21
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 53/00 20060101AFI20230614BHJP
   C08L 25/02 20060101ALI20230614BHJP
   C08L 91/00 20060101ALI20230614BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
C08L53/00
C08L25/02
C08L91/00
C08L23/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200147
(22)【出願日】2021-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000104906
【氏名又は名称】クラレプラスチックス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】米田 祥和
(72)【発明者】
【氏名】大島 啓志
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AE05Z
4J002BB055
4J002BB115
4J002BC04Y
4J002BC09Y
4J002BP01W
4J002BP03X
4J002FD02Z
4J002GB01
4J002GC00
4J002GJ02
4J002GL00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】柔軟性、透明性、ポリカーボネート等の極性樹脂に対する接着性に優れ、かつ、耐オレイン酸性等の耐薬品性に優れる熱可塑性エラストマー組成物およびそれを用いた成形体の提供。
【解決手段】特定の芳香族系ブロック共重合体(A)、アクリル酸エステル由来の構造単位を含有する重合体ブロック(b1)を1個以上及びメタクリル酸エステル由来の構造単位を含有する重合体ブロック(b2)を1個以上有し、アクリル酸エステル由来の構造単位として一般式CH2=CH-COOR1(1)(式(1)中、R1は炭素数1~3の有機基を表す)で示されるアクリル酸エステル(b1-1)由来の構造単位を含有する特定のアクリル系ブロック共重合体(B)、芳香族系重合体(C)および軟化剤(D)を所定の重量比で配合して得られる熱可塑性エラストマー組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロック共重合体(A)100質量部、アクリル系ブロック共重合体(B)60~600質量部、芳香族系重合体(C)3~150質量部及び軟化剤(D)20~450質量部を含有する熱可塑性エラストマー組成物であり、
前記ブロック共重合体(A)は、芳香族ビニル化合物由来の構造単位を含有する重合体ブロック(a1)を2個以上、及び共役ジエン由来の構造単位を含有する重合体ブロックが水素添加された構造を有する重合体ブロック(a2)を1個以上含み、前記重合体ブロック(a1)の含有量が10質量%以上かつ60質量%未満であり、
前記アクリル系ブロック共重合体(B)は、アクリル酸エステル由来の構造単位を含有する重合体ブロック(b1)を1個以上及びメタクリル酸エステル由来の構造単位を含有する重合体ブロック(b2)を1個以上含み、
前記重合体ブロック(b1)は、一般式CH2=CH-COOR1(1)(式(1)中、R1は炭素数1~3の有機基を表す)で示されるアクリル酸エステル(b1-1)由来の構造単位を含有し、該アクリル酸エステル(b1-1)由来の構造単位の含有量は、重合体ブロック(b1)中1質量%以上100質量%以下の範囲である、熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記ブロック共重合体(A)の重量平均分子量は20,000以上140,000未満の範囲である、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記アクリル系ブロック共重合体(B)の重量平均分子量は30,000以上300,000以下の範囲である、請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
芳香族系重合体(C)が、スチレン、α-メチルスチレン、及び4-メチルスチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む単量体に由来する構造単位を有する請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
アクリル系ブロック共重合体(B)の分子量分布が1.0~1.4の範囲であり、かつ重合体ブロック(b1)の両端に重合体ブロック(b2)が2個結合したトリブロック共重合体である請求項1~4のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
厚さ2mmのサンプルでJIS K 7361-1に準じて測定した全光線透過率の値が65%以上である請求項1~5のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
前記アクリル系ブロック共重合体(B)に対する前記軟化剤(D)の質量比((D)/(B))が、5.0以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項8】
さらに、オレフィン系樹脂(E)を3~250質量部含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項9】
前記オレフィン系樹脂(E)の示差走査熱量計により測定される融点が、160℃以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項10】
前記請求項1~9のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体。
【請求項11】
厚さ5mm以下のシートフィルムである、請求項10に記載の成形体。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなる構造体と、該熱可塑性エラストマー組成物以外の他の材料からなる構造体とを備える複合成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物およびそれを用いた成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ゴム的な軟質材料であって、加硫工程を要せず、熱可塑性樹脂と同様な成形加工性を有する樹脂組成物が、自動車部品、工業製品、医療、食品用機器部品、雑貨等の分野で注目されている。
例えばグリップ等の滑り止め用途には熱可塑性を有し、射出インサート成形法が可能なポリスチレン系エラストマーから成る樹脂組成物、ウレタン系エラストマーから成る樹脂組成物、ポリエステル系エラストマーから成る樹脂組成物、若しくはアクリル系エラストマーから成る樹脂組成物が使用されている。射出インサート成形法とは射出成形工程にてエラストマーなどの樹脂を基材にインサートするのみで、該樹脂が基材に融着し一体化する成形方法であり、従来の別個の樹脂と基材とをそれぞれ組み立てる製造法に比べて、製造工程を簡略化及び低コスト化できるとともに、製品の強靭性、密閉性を付与できる製造方法である。射出インサート成形法に適用するためには、インサートする樹脂に基材樹脂との優れた接着性が求められる。
【0003】
このような分野に用いられる樹脂組成物として、特許文献1には、スチレン系エラストマー及びアクリル系エラストマー等を含有する、柔軟性、ゴム弾性、耐水性、耐候性および成形加工性に優れ、かつポリカーボネートなどの極性材料に対する熱融着性や、ウレタン系塗料、アクリル系塗料等に対する被塗装性に優れ、優れた引張強度を付与する熱可塑性樹脂組成物およびその複合成形体が報告されている。特許文献2には、制御分布型スチレン系ブロック共重合体及びアクリル系ブロック共重合体を併用することにより、極性樹脂に対して熱融着性を有し、ポリアセタールに対して良好な熱融着性及び成形性を有する組成物が報告されている。また、非特許文献1には、スチレン系エラストマー及びアクリル系ブロック共重合体等を含有する、柔軟性、引張特性、透明性に優れ、極性材料に対する優れた接着性を有する組成物が報告されている。
【0004】
一方、グリップ用途には滑り止め性を発現する場合に、柔軟性、皮脂の主成分のオレイン酸に対する耐油性が求められることがある。特許文献3では、オレイン酸による汚染を抑制でき、柔軟性に優れる樹脂組成物として、特定の二種のアクリル系ブロック共重合体を含有する樹脂組成物が報告されている。更に近年では視認性や意匠性の点から透明性の高い組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2007/023932号
【特許文献2】特開2019-178239号公報
【特許文献3】特開2021-120452号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】公開技法2020-500992号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1および2あるいは非特許文献1においては、耐オレイン酸性などの耐薬品性に関する課題については認識されていなかった。一方、特許文献3においては、極性樹脂への接着性が十分なものではなかった。
【0008】
上記問題点に鑑み、本発明の目的は、柔軟性、透明性、ポリカーボネート等の極性樹脂に対する接着性に優れ、かつ、耐オレイン酸性等の耐薬品性に優れる熱可塑性エラストマー組成物およびそれを用いた成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、特定の芳香族系ブロック共重合体(A)、アクリル酸エステル由来の構造単位を含有する重合体ブロック(b1)を1個以上及びメタクリル酸エステル由来の構造単位を含有する重合体ブロック(b2)を1個以上有し、アクリル酸エステル由来の構造単位として一般式CH2=CH-COOR1(1)(式(1)中、R1は炭素数1~3の有機基を表す)で示されるアクリル酸エステル(b1-1)由来の構造単位を含有し、該アクリル酸エステル(b1-1)由来の構造単位の含有量は、重合体ブロック(b1)中1質量%以上100質量%以下の範囲である特定のアクリル系ブロック共重合体(B)、芳香族系重合体(C)および軟化剤(D)を所定の重量比で配合して得られる熱可塑性エラストマー組成物により上記課題が解決されることを見出した。
【0010】
本発明によれば、上記目的は、
[1]ブロック共重合体(A)100質量部、アクリル系ブロック共重合体(B)60~600質量部、芳香族系重合体(C)3~150質量部及び軟化剤(D)20~450質量部を含有する熱可塑性エラストマー組成物であり、
前記ブロック共重合体(A)は、芳香族ビニル化合物由来の構造単位を含有する重合体ブロック(a1)を2個以上、及び共役ジエン由来の構造単位を含有する重合体ブロックが水素添加された構造を有する重合体ブロック(a2)を1個以上含み、前記重合体ブロック(a1)の含有量が10質量%以上かつ60質量%未満であり、
前記アクリル系ブロック共重合体(B)は、アクリル酸エステル由来の構造単位を含有する重合体ブロック(b1)を1個以上及びメタクリル酸エステル由来の構造単位を含有する重合体ブロック(b2)を1個以上含み、
前記重合体ブロック(b1)は、一般式CH2=CH-COOR1(1)(式(1)中、R1は炭素数1~3の有機基を表す)で示されるアクリル酸エステル(b1-1)由来の構造単位を含有し、該アクリル酸エステル(b1-1)由来の構造単位の含有量は、重合体ブロック(b1)中1質量%以上100質量%以下の範囲である、熱可塑性エラストマー組成物;
[2]前記ブロック共重合体(A)の重量平均分子量は20,000以上140,000未満の範囲である、[1]の熱可塑性エラストマー組成物;
[3]前記アクリル系ブロック共重合体(B)の重量平均分子量は30,000以上300,000以下の範囲である、[1]または[2]の熱可塑性エラストマー組成物;
[4]芳香族系重合体(C)が、スチレン、α-メチルスチレン、及び4-メチルスチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む単量体に由来する構造単位を有する[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物;
[5]アクリル系ブロック共重合体(B)の分子量分布が1.0~1.4の範囲であり、かつ重合体ブロック(b1)の両端に重合体ブロック(b2)が2個結合したトリブロック共重合体である[1]~[4]のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物;
[6]厚さ2mmのサンプルでJIS K 7361-1に準じて測定した全光線透過率の値が65%以上である[1]~[5]のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物;
[7]前記アクリル系ブロック共重合体(B)に対する前記軟化剤(D)の質量比((D)/(B))が、5.0以下である、[1]~[6]のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物;
[8]さらに、オレフィン系樹脂(E)を3~250質量部含む、[1]~[7]のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物;
[9]前記オレフィン系樹脂(E)の示差走査熱量計により測定される融点が、160℃以下である、[1]~[8]のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物;
[10]前記[1]~[9]のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体;
[11]厚さ5mm以下のシートフィルムである、[10]に記載の成形体;
[12][1]~[11]のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなる構造体と、該熱可塑性エラストマー組成物以外の他の材料からなる構造体とを備える複合成形体、
を提供することにより達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、柔軟性、透明性、ポリカーボネート等の極性樹脂に対する接着性に優れ、かつ、耐オレイン酸性等の耐薬品性に優れる熱可塑性エラストマー組成物及びそれを用いた成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「(メタ)アクリル酸エステル」は、「メタクリル酸エステル」又は「アクリル酸エステル」を意味し、「(メタ)アクリル」は、「メタクリル」又は「アクリル」を意味し、「(メタ)アクリロイル」とは、「アクリロイル」又は「メタクリロイル」を意味する。
【0013】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、芳香族ビニル化合物由来の構造単位を含有する重合体ブロック(a1)を2個以上、及び共役ジエン由来の構造単位を含有する重合体ブロックが水素添加された構造を有する重合体ブロック(a2)を1個以上有し、前記重合体ブロック(a1)の含有量が10質量%以上60質量%未満の範囲であるブロック共重合体(A)、アクリル酸エステル由来の構造単位を含有する重合体ブロック(b1)を1個以上及びメタクリル酸エステル由来の構造単位を含有する重合体ブロック(b2)を1個以上含み、前記重合体ブロック(b1)は、一般式CH2=CH-COOR1(1)(式(1)中、R1は炭素数1~3の有機基を表す)で示されるアクリル酸エステル(b1-1)由来の構造単位を含有し、該アクリル酸エステル(b1-1)由来の構造単位の含有量は、重合体ブロック(b1)中1質量%以上100質量%以下の範囲であるアクリル系ブロック共重合体(B)、芳香族系重合体(C)、軟化剤(D)を特定の質量比で含有することを特徴とする。
【0014】
本発明に用いられるブロック共重合体(A)とは、分子中に芳香族ビニル化合物からなる重合体ブロック(a1)を2個以上含み、かつ、共役ジエン化合物からなる重合体ブロックが水素添加された構造を有する重合体ブロック(a2)を1個以上含み、前記重合体ブロック(a1)の含有量が10質量%以上かつ60質量%未満であるブロック共重合体であるものをいう。
【0015】
重合体ブロック(a1)は、芳香族ビニル化合物由来の構造単位を含有する。かかる芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-t-ブチルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N,N-ジエチル-4-アミノエチルスチレン、ビニルピリジン、4-メトキシスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン及びジビニルベンゼン等が挙げられる。これらの芳香族ビニル化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、スチレン、α-メチルスチレン、4-メチルスチレンが好ましく、スチレンがより好ましい。
【0016】
重合体ブロック(a1)は、芳香族ビニル化合物以外の単量体、例えば、後述する重合体ブロック(a2)を構成する単量体等のその他の単量体に由来する構造単位を含有してもよい。ただし、重合体ブロック(a1)中の芳香族ビニル化合物由来の構造単位の含有量は、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましく、90質量%以上がより更に好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0017】
重合体ブロック(a2)は、共役ジエン由来の構造単位を含有する。かかる共役ジエンとしては、例えば、ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-ブタジエン、2-フェニル-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-オクタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、2-メチル-1,3-オクタジエン、1,3,7-オクタトリエン、ミルセン、ファルネセン、及びクロロプレン等が挙げられる。これら共役ジエンは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ブタジエン、イソプレン、及びファルネセンが好ましい。
【0018】
なお上記ファルネセンとしては、α-ファルネセン、又は下記式(1)で表されるβ-ファルネセンのいずれでもよいが、ブロック共重合体(P)の製造容易性の観点から、β-ファルネセンが好ましい。なお、α-ファルネセンとβ-ファルネセンとは組み合わせて用いてもよい。
【0019】
【化1】
【0020】
重合体ブロック(a2)は、共役ジエン以外の単量体、例えば、前述の重合体ブロック(a1)を構成する単量体等のその他の単量体に由来する構造単位を含有してもよい。ただし、重合体ブロック(a2)中の共役ジエン由来の構造単位の含有量は、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましく、90質量%以上がより更に好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0021】
重合体ブロック(a2)は、共役ジエンからなる重合体ブロックが水素添加された構造を有する重合体ブロックである。その水素添加率は80%以上であることが好ましく90%以上であることがより好ましい。水素添加反応は、ブロック共重合体(A)が水素添加される前のブロック共重合体(P)に対して施され、通常、共役ジエンからなる重合体ブロック部分のみが水素添加される。重合体ブロック(a2)中の炭素-炭素二重結合の水素添加率は、耐熱性、耐候性の観点から、50~100モル%が好ましく、70~100モル%がより好ましく、75~100モル%が更に好ましく、80~100モル%がより更に好ましく、85~100モル%が特に好ましく、90~100モル%がより特に好ましい。
なお、水素添加率は、ブロック共重合体(P)及び水素添加後のブロック共重合体(A)のH-NMRを測定することにより算出できる。
【0022】
ブロック共重合体(A)は、重合体ブロック(a1)2個以上と、重合体ブロック(a2)を1個以上含む。
重合体ブロック(a1)及び重合体ブロック(a2)の結合形態は特に制限されず、直鎖状、分岐状、放射状、又はそれらの2つ以上の組み合わせであってもよい。これらの中でも、各ブロックが直鎖状に結合した形態が好ましい。
【0023】
前記結合形態としては、柔軟性、成形加工性及び取り扱い性等の観点から、重合体ブロック(a1)、重合体ブロック(a2)、重合体ブロック(a1)の順にブロックを含む(重合体ブロック(a2)の両端に重合体ブロック(a1)が2個結合している)ことが好ましく、水添ブロック共重合体(A)はa1-a2-a1で表されるトリブロック共重合体の水素添加物が好ましい。
【0024】
また、2個以上ある重合体ブロック(a1)は、同じ構造単位からなる重合体ブロックであっても、異なる構造単位からなる重合体ブロックであってもよい。同様に、重合体ブロック(a2)を2個以上有する場合には、それぞれの重合体ブロックは、同じ構造単位からなる重合体ブロックであっても、異なる構造単位からなる重合体ブロックであってもよい。例えば、a1-a2-a1で表されるトリブロック共重合体における2個の重合体ブロック(a1)において、それぞれの芳香族ビニル化合物は、その種類が同じであっても異なっていてもよい。
【0025】
また、重合体ブロック(a1)及び重合体ブロック(a2)から成る制御分布構造を有するブロック単位を含んでいてもよい。制御分布構造を有するブロック単位を含むブロック共重合体(A)について、例えば、2003年2月6日出願の米国特許出願第10/359,981号、表題「新規なブロックコポリマーおよびその作製方法」(「NOVEL BLOCK COPOLYMERS AND METHOD FOR MAKING SAME」)を参照のこと。上記981号出願の全内容を、参照により本明細書に組み込む。芳香族ビニル化合物がジエン中間ブロックに制御されて組み込まれることで、独特の特徴を有する新規な中間ブロック構造が作り出され、類似のジエン中間ブロックと比較した場合に、より高いガラス転移温度、より低い秩序-無秩序転移温度、より低いからみ合いをもつ分子量などをもたらす。
【0026】
ブロック共重合体(A)中の重合体ブロック(a1)の含有量は10質量%以上60質量%未満である。当該範囲内であると、柔軟性、成形加工性に優れる熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。当該観点から、重合体ブロック(a1)の含有量は、12質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。また、重合体ブロック(a1)の含有量は、58質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、45質量%以下がさらに好ましく、35質量%以下が特に好ましい。
【0027】
ブロック共重合体(A)中の重合体ブロック(a2)の含有量は、通常40質量%以上かつ90質量%以下であり、42質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、55質量%以上がさらに好ましく、65質量%以上がよりさらに好ましい。また、88質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましい。
【0028】
ここで、本発明においては、同種の重合体ブロックが2価のカップリング剤等を介して直鎖状に結合している場合、結合している重合体ブロック全体は一つの重合体ブロックとして取り扱われる。これに従い、本来厳密にはa1-X-a1(Xはカップリング剤残基を表す)と表記されるべき重合体ブロックは、全体としてa1と表示される。本発明においては、カップリング剤残基を含むこの種の重合体ブロックを上記のように取り扱うので、例えば、カップリング剤残基を含み、厳密にはa1-a2-X-a2-a1と表記されるべきブロック共重合体は、a1-a2-a1と表記され、トリブロック共重合体の一例として取り扱われる。
【0029】
ブロック共重合体(A)中における、重合体ブロック(a1)及び重合体ブロック(a2)の合計含有量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましく、100質量%がより更に好ましい。
【0030】
ブロック共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、透明性向上の観点から20,000以上が好ましく、30,000以上が好ましく、40,000以上がより好ましい。また、500,000以下が好ましく、450,000以下がより好ましく、400,000以下がさらに好ましく、300,000以下がよりさらに好ましく、200,000以下がことさらに好ましく、160,000以下が特に好ましく、140,000未満が格別に好ましい。また、130,000以下、120,000以下、110,000以下も好適な一態様である。
【0031】
ブロック共重合体(A)の分子量分布(Mw/Mn)は1~6が好ましく、1~4がより好ましく、1~3が更に好ましく、1~2がより更に好ましい。分子量分布が前記範囲内であると、水添ブロック共重合体(A)の粘度のばらつきが小さく、取り扱いが容易である。なお、水添ブロック共重合体(A)に関する重量平均分子量(Mw)、及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより標準ポリスチレン換算で求めた値であり、分子量分布(Mw/Mn)は上記Mw及びMnの値から算出された値である。
【0032】
ブロック共重合体(A)は、重合体ブロック(a1)及び重合体ブロック(a2)のほか、本発明の効果を阻害しない限り、他の単量体で構成される重合体ブロックを含有していてもよい。かかる他の単量体としては、例えばプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン等の不飽和炭化水素化合物;アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、2-アクリロイルエタンスルホン酸、2-メタクリロイルエタンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、酢酸ビニル、メチルビニルエーテル等の官能基含有不飽和化合物;等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ブロック共重合体(A)が他の重合体ブロックを有する場合、その含有量は20質量%以下が好ましく、10質量%以下が更に好ましく、5質量%がより更に好ましい。
【0033】
ブロック共重合体(A)は、市販品を使用してもよい。ブロック共重合体(A)の市販品として、(株)クラレ社製セプトン4033、8004、8007,8104、2002、2004、2007、2104、ハイブラー7125やクレイトン社製G1650、G1652が挙げられ、これら市販品の1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
アクリル系ブロック共重合体(B)は、アクリル酸エステル由来の構造単位を含有する重合体ブロック(b1)を1個以上及びメタクリル酸エステル由来の構造単位を含有する重合体ブロック(b2)を1個以上含み、前記重合体ブロック(b1)は、一般式CH2=CH-COOR1(1)(式(1)中、R1は炭素数1~3の有機基を表す)で示されるアクリル酸エステル(b1-1)由来の構造単位を含有し、該アクリル酸エステル(b1-1)由来の構造単位の含有量は、重合体ブロック(b1)中1質量%以上100質量%以下の範囲である。
【0035】
本発明の熱可塑性エラストマーに含まれるアクリル系ブロック共重合体(B)は、上記特性を単体でいずれも満たすブロック共重合体(B-I)のみからなるものであってもよいし、重合体ブロック(b1)の代わりに、アクリル酸エステル(b1-1)由来の構造単位の含有量が1重量%未満である重合体ブロック(b1’)を含有するアクリル系ブロック共重合体(B-II)を含有していてもよい。この場合、アクリル系ブロック共重合体(B)は、アクリル系ブロック共重合体(B-I)とアクリル系ブロック共重合体(B-II)の混合後の状態として、重合体ブロック(b1)中のアクリル酸エステル(b1-1)由来の構造単位の含有量(ここでは、重合体ブロック(b1)と重合体ブロック(b1’)の平均値)が1質量%以上かつ100質量%以下であり、そのほか上記各種特性を満たしているものであればよい。
【0036】
混合されるアクリル系ブロック共重合体(B-II)の市販品として、クラレ社製クラリティLA2140、LA2330、LA3320、LA2250、LA2270、LA4285、LA1892などが挙げられ、これら市販品の1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用しても良い。
【0037】
アクリル酸エステル(b1-1)としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-プロピルなどの官能基を有さないアクリル酸エステル;アクリル酸2-メトキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-アミノエチル、アクリル酸グリシジルなどの官能基を有するアクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0038】
これらの中でも、得られる熱可塑性エラストマー組成物のオレイン酸などの皮脂に含まれる物質に対する耐汚染性が高まる観点から、官能基を有さないアクリル酸エステルが好ましく、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルがより好ましく、アクリル酸メチルがさらに好ましい。
これらアクリル酸エステル(b1-1)は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
重合体ブロック(b1)を構成するアクリル酸エステル単位は、前記アクリル酸エステル(b1-1)単位に加えて、一般式CH2=CH-COOR2(2)(式中、R2は炭素数4~12の有機基を表す)で示されるアクリル酸エステル(b1-2)(以下、単にアクリル酸エステル(b1-2)と称する)単位を含有してもよい。
【0040】
アクリル酸エステル(b1-2)としては、例えば、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸tert-ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸デシル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジルなどの官能基を有さないアクリル酸エステル;アクリル酸2-エトキシエチル、アクリル酸2-(ジエチルアミノ)エチル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸2-フェノキシエチルなどの官能基を有するアクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0041】
これらの中でも、重合体ブロック(A1)と重合体ブロック(B1)との相分離がより明瞭となる点から、官能基を有さないアクリル酸エステルが好ましく、炭素数4~12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルがより好ましく、アクリル酸n-ブチル及びアクリル酸2-エチルヘキシルがさらに好ましい。また、得られる熱可塑性エラストマー組成物のオレイン酸などの皮脂に含まれる物質に対する耐汚染性が高まる点から、また得られる熱可塑性エラストマー組成物の低温(-40~10℃)での柔軟性、粘接着特性(タック、接着力等)が優れ、耐久性にも優れる点から、アクリル酸n-ブチルがさらに好ましい。これらアクリル酸エステル(b1-2)は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
上記重合体ブロック(b1)中のアクリル酸エステル(b1-1)由来の構造単位の含有量は、1質量%以上かつ100質量%以下である。該含有量は、3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましく、15質量%以上であることが特に好ましい。また、該含有量は、90質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましい。該含有量は、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下であることも好ましい態様である。
【0043】
重合体ブロック(b1)中のアクリル酸エステル(b1-2)由来の構造単位の含有量は、0質量%以上であることが好ましく(0質量%であってもよい)、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることが好ましい。該含有量は、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、30質量%以上も好ましい態様である。また、該含有量は、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることがさらに好ましい。アクリル酸エステル(b1-1)由来の構造単位の含有量及び/又はアクリル酸エステル(b1-2)由来の構造単位の含有量が上記範囲内であると、耐オレイン酸性と、柔軟性のバランスに優れる。ブロック共重合体(B)は、重合体ブロック(b1)の代わりに、アクリル酸メチルの含有量が5重量%未満である重合体ブロック(b1’)を含有するアクリル系ブロック共重合体(B-II)を含有していてもよい。この際、ブロック共重合体(B)全体で、上記含有量の規定を満たしていればよい。即ち、重合体ブロック(b1)及び重合体ブロック(b1’)の合計質量に対するアクリル酸エステル(b1-1)由来の構造単位の含有量が、上記範囲を満たしていればよい。なお、ここでアクリル酸エステル(b1’)は、アクリル酸エステル(b1-2)由来の構造単位の含有量が90質量%以上であるものが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることがさらに好ましい。なお、アクリル酸エステル(b1-1)由来の構造単位の含有量及びアクリル酸エステル(b1-2)由来の構造単位のアクリル酸エステル重合体ブロック(b1)中の含有量は1H-NMR測定により求めることができる。
【0044】
重合体ブロック(b1)中に含まれるアクリル酸エステル単位は、アクリル酸エステル(b1-1)単位とアクリル酸エステル(b1-2)単位のみからなることが好ましい一形態である。
【0045】
重合体ブロック(b1)中のアクリル酸エステル単位の割合は、重合体ブロック(b1)中60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましい。また、重合体ブロック(b1)はアクリル酸エステル単位100質量%で構成されるもの、すなわちアクリル酸エステル単位のみからなるものが好ましい一形態である。
【0046】
上記重合体ブロック(B1)には、本発明の効果を損なわない範囲で、アクリル酸エステル単位以外の他の単量体単位を含有していてもよい。かかる単位を構成する他の単量体としては、例えばメタクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸等のカルボキシル基を有するビニル系単量体;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等の、官能基を有するビニル系単量体;スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン系単量体;エチレン、プロピレン、イソブテン、オクテン等のオレフィン系単量体;ε-カプロラクトン、バレロラクトン等のラクトン系単量体等が挙げられる。これら他の単量体から構成される単量体単位は、重合体ブロック(B1)の全単量体単位に対し、通常少量であり、重合体ブロック(B1)中に含まれる他の単量体単位の割合は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。
【0047】
また、上記アクリル系ブロック共重合体(B)には、重合体ブロック(B1)が2つ以上含まれてもよいが、その場合、それら重合体ブロック(b1)を構成するアクリル酸エステル単位の組み合わせは、同一であっても異なっていてもよい。
【0048】
上記重合体ブロック(b1)が、アクリル酸エステル(b1-1)単位およびアクリル酸エステル(b1-2)単位の両方を含む共重合体である場合には、アクリル酸エステル(b1-1)およびアクリル酸エステル(b1-2)のランダム共重合体からなるものでもよいし、ブロック共重合体からなるものでもよいし、グラジェント共重合体からなるものでもよいが、通常ランダム共重合体からなるものが望ましい。上記アクリル系ブロック共重合体(B)に、重合体ブロック(b1)が2つ以上含まれる場合には、それら重合体ブロック(b1)の構造は、同一であっても異なっていてもよい。
【0049】
重合体ブロック(b1)の重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、1,000~200,000の範囲にあることが好ましく、2,000~150,000の範囲にあることがより好ましい。重合体ブロック(b1)のMwが前記下限値以上の場合には、得られるアクリル系ブロック共重合体(B)の強度を向上させやすい。また、重合体ブロック(b1)のMwが前記上限値以下の場合には、得られるアクリル系ブロック共重合体(B)の溶融粘度が適切な範囲としやすく、熱可塑性エラストマー組成物を製造する際の生産性に優れる傾向にある。
【0050】
上記重合体ブロック(b1)のガラス転移温度は-100~30℃であることが好ましく、-80~10℃であることがより好ましく、-70~0℃であることが更に好ましく、-60~-10℃であることが特に好ましい。ガラス転移温度がこの範囲にあると、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、常温での優れた接着性を有することができる。
【0051】
重合体ブロック(b2)は、メタクリル酸エステル由来の構造単位を含有する。かかるメタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec-ブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジルなどの官能基を有さないメタクリル酸エステル;メタクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸エトキシエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-アミノエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル等の官能基を有するメタクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0052】
これらの中でも、得られる熱可塑性エラストマー組成物の耐熱性、耐久性を向上させる観点から、官能基を有さないメタクリル酸エステルが好ましく、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジルがより好ましく、重合体ブロック(b1)と重合体ブロック(b2)との相分離がより明瞭となり、熱可塑性エラストマー組成物の機械物性が良好になる点からメタクリル酸メチルが更に好ましい。重合体ブロック(b2)は、これらメタクリル酸エステルの1種から構成されていても、2種以上から構成されていてもよい。また、上記アクリル系ブロック共重合体(B)は、重合体ブロック(b2)を2つ以上含む有することが粘着耐久性を高める観点から好ましい。その場合、それら重合体ブロック(b2)は、同一であっても異なっていてもよい。
【0053】
重合体ブロック(b2)の重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、1,000~50,000の範囲にあることが好ましく、2,000~30,000の範囲にあることがより好ましい。重合体ブロック(b2)のMwが前記下限以上の場合には、得られるアクリル系ブロック共重合体(B)の凝集力が十分なものとなる傾向にある。また、重合体ブロック(b2)のMwが前記上限以下の場合には、得られるアクリル系ブロック共重合体(B)の溶融粘度が適切な範囲となり、熱可塑性エラストマー組成物を製造する際の生産性に優れる傾向にある。重合体ブロック(b2)中のメタクリル酸エステル由来の構造単位の含有量は、60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましく、100質量%であることは好ましい一態様である。
【0054】
上記重合体ブロック(b2)のガラス転移温度は80~140℃であることが好ましく、90~130℃であることがより好ましく、100~120℃であることが更に好ましい。ガラス転移温度がこの範囲にあると、熱可塑性エラストマー組成物の通常の使用温度においてこの重合体ブロック(b2)は物理的な疑似架橋点として作用し、接着性、耐久性、耐熱性に優れる。
【0055】
上記重合体ブロック(b1)には、本発明の効果を損なわない範囲で、メタクリル酸エステル由来の構造単位が含有されていてもよく、重合体ブロック(b2)には、本発明の効果を損なわない範囲で、アクリル酸エステル由来の構造単位が含有されていてもよい。また、重合体ブロック(b1)及び/又は重合体ブロック(b2)は、必要に応じて(メタ)アクリル酸エステル以外の単量体由来の構造単位を含有してもよい。かかる他の単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボキシル基を有するビニル系単量体;スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン系単量体;エチレン、プロピレン、イソブテン、オクテン等のオレフィン系単量体;ε-カプロラクトン、バレロラクトン等のラクトン系単量体;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、無水マレイン酸、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどが挙げられる。これら単量体を用いる場合は、各重合体ブロックに使用する単量体の全質量に対して、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下の量で使用される。
【0056】
本発明に用いるアクリル系ブロック共重合体(B)は、上記重合体ブロック(b1)および重合体ブロック(b2)の他に、必要に応じて他の重合体ブロックを有していてもよい。かかる他の重合体ブロックとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エチレン、プロピレン、イソブテン、ブタジエン、イソプレン、オクテン、酢酸ビニル、無水マレイン酸、塩化ビニル、塩化ビニリデン等の単量体由来の構造単位を含有する重合体ブロックまたは共重合体ブロック;ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリウレタン、ポリジメチルシロキサンからなる重合体ブロックなどが挙げられる。また、上記重合体ブロックには、ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエン化合物由来の構造単位を含有する重合体ブロックの水素添加物も含まれる。
【0057】
上記アクリル系ブロック共重合体(B)は、重合体ブロック(b1)をb1、重合体ブロック(b1)とは異なる構造の重合体ブロック(b1)をb1’、重合体ブロック(b2)をb2で表したときに、一般式:
(b2-b1)n
(b2-b1)n-b2
b1-(b2-b1)n
(b2-b1)n-b1’
(b2-b1)n-Z
(b1-b2)n-Z
<式中、nは1~30の整数、Zはカップリング部位(カップリング剤が重合体末端と反応して化学結合を形成した後のカップリング部位、-は各重合体ブロックの結合手を示す。)を表す。なお、式中複数のb1、b2が含まれる場合には、それらは同一構造の重合体ブロックであってもよいし、異なる構造の重合体ブロックであってもよい。ここで、「異なる構造」とは、重合体ブロックを構成するモノマー単位、分子量、分子量分布、立体規則性、および複数のモノマー単位を有する場合には各モノマー単位の比率および共重合の形態(ランダム、グラジェント、ブロック)のうち少なくとも1つが異なる構造を意味する。>
であることが好ましい。また上記nの値は、1~15であることが好ましく、1~8であることがより好ましく、1~4であることが更に好ましい。上記の構造の中でも、熱可塑性エラストマー組成物の耐久性に優れる観点から、(b2-b1)n、(b2-b1)n-b2、b1-(b2-b1)n、(b2-b1)n-b1’で表される直鎖状のブロック共重合体が好ましく、b2-b1で表されるジブロック共重合体、式:b2-b1-b1’で表されるトリブロック共重合体、および重合体ブロック(b2)、前記重合体ブロック(b1)、前記重合体ブロック(b2)の順にブロックを有する(重合体ブロック(b1)の両端に重合体ブロック(b2)が2個結合した)式:b2-b1-b2で表されるトリブロック共重合体がより好ましく、式:b2-b1-b2で表されるトリブロック共重合体が更に好ましい。また、ブロック共重合体(B)は、本発明の態様を満たす限り、上記重合体ブロック(b1)に代わって、重合体ブロック(b1’)を含むブロック共重合体(B-II)を含むものであってもよい。
【0058】
上記アクリル系ブロック共重合体(B)の重量平均分子量(Mw)は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の透明性と成形性に優れる点から、30,000以上300,000以下である。上記Mwは50,000以上が好ましく、60,000がより好ましく、65,000以上が更に好ましく、また、250,000以下が好ましく、200,000以下がより好ましく、165,000以下が更に好ましい。
【0059】
上記アクリル系ブロック共重合体(B)の分子量分布(Mw/Mn)は1.0~1.4であることが好ましい。さらに熱可塑性エラストマー組成物とした際に成形加工性に優れる点から、Mw/Mnは、1.0~1.35であることがより好ましく、1.0~1.3であることが更に好ましく、1.0~1.25であることが特に好ましい。
なお、アクリル系ブロック共重合体(B)に関する数平均分子量(Mn)、及び重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより標準ポリスチレン換算で求めた値であり、分子量分布(Mw/Mn)は上記Mw及びMnの値から算出された値である。
【0060】
上記アクリル系ブロック共重合体(B)中の重合体ブロック(b2)の含有量は10~55質量%であることが好ましく、熱可塑性エラストマー組成物とした場合に常温での透明性と柔軟性に優れる点から、10~55質量%であることが好ましく、重合体ブロック(b2)の含有量は10~45質量%であることがより好ましく、10~40質量%であることが更に好ましく、12~37質量%であることがより更に好ましく、15~35質量%であることが特に好ましい。
【0061】
また、本発明に用いる上記アクリル系ブロック共重合体(B)中の重合体ブロック(b1)の含有量は45~90質量%であることが好ましく、上記と同様の観点から、45~90質量%であることが好ましく、55~90質量%であることがより好ましく、60~90質量%であることが更に好ましく、63~88質量%であることがより更に好ましく、65~85質量%であることが特に好ましい。
【0062】
アクリル系ブロック共重合体(B)は、JISK6253-3のタイプAデュロメータ法による測定時間15秒の硬度(以下、「A硬度(15秒値)」ともいう)が、5~95であることが好ましく、7~80であることがより好ましく、10~70であることが更に好ましい。アクリル系ブロック共重合体(B)のタイプA硬度(15秒値)が上記範囲にあることにより、柔軟性が優れる。
【0063】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、アクリル系ブロック共重合体(B)の含有量は、水添ブロック共重合体(A)100質量部に対して、60~600質量部である。アクリル系ブロック共重合体(B)の含有量が20質量部未満であると、本発明の熱可塑性エラストマー組成物と極性樹脂基材に対する接着力が低下することがある。一方、アクリル系ブロック共重合体(B)の含有量が600質量部超であると、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の耐油性が低下することがある。熱可塑性エラストマー組成物の透明性、ポリカーボネートなどの極性樹脂に対する接着力とオレイン酸などに対する耐油性(耐オレイン酸性)が優れる点から、熱可塑性エラストマー組成物中のアクリル系ブロック共重合体(B)の含有量は、ブロック共重合体(A)100質量部に対して、70質量部以上であることが好ましく、80質量部以上であることがより好ましく、90質量部以上であることがさらに好ましい。また、熱可塑性エラストマー組成物中のアクリル系ブロック共重合体(B)の含有量は、ブロック共重合体(A)100質量部に対して、480質量部以下であることが好ましく、450質量部以下であることがより好ましく、400質量部以下であることがさらに好ましく、350質量部以下であることが特に好ましく、300質量部以下であることがことさらに好ましい。
さらなる耐オレイン酸性及び透明性を向上させる観点からは、100質量部以上、120質量部以上、150質量部以上、180質量部以上、190質量部以上であってもよい。
【0064】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、アクリル系ブロック共重合体(B)及びブロック共重合体(A)の合計含有量は、熱可塑性エラストマー組成物の総量中、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、45質量%以上が更に好ましく、安定して良好な接着性を得る観点からは、99質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、80質量%以下が更に好ましい。
【0065】
本発明に用いる芳香族系重合体(C)は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を少なくとも1種含有する重合体である。
【0066】
かかる芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-t-ブチルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N,N-ジエチル-4-アミノエチルスチレン、ビニルピリジン、4-メトキシスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン及びジビニルベンゼン等が挙げられる。これらの芳香族ビニル化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、スチレン、α-メチルスチレン、4-メチルスチレンが好ましく、α-メチルスチレンがより好ましい。
【0067】
また、前記芳香族系重合体(C)は、芳香族ビニル化合物以外の単量体に由来する構造単位をさらに含有してもよい。かかる他の単量体としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸誘導体、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド誘導体、(メタ)アクリロニトリル、イソプレン、1,3-ブタジエン、エチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、N-ビニルインドール、N-ビニルフタルイミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカルバゾール、N-ビニルカプロラクタムなどが挙げられる。
【0068】
芳香族系重合体(C)中の芳香族ビニル化合物由来の構造単位の含有量は、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましく、80質量%以上がより更に好ましく、95質量%であることが特に好ましい。
【0069】
芳香族系重合体(C)の重量平均分子量(Mw)は、300以上であることが好ましく、500以上であることがより好ましく、1,000以上であることが更に好ましく、また、12,000以下であることが好ましく、8,000以下であることがより好ましく、6,000以下であることが更に好ましい。Mwが上記範囲内であることにより、得られる熱可塑性エラストマー組成物の透明性がより優れる傾向にある。なお、芳香族系重合体(C)に関する重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより標準ポリスチレン換算で求めた値である。
【0070】
芳香族系重合体(C)の軟化点は特に限定されないが、例えば、5℃以上であることが好ましく、より好ましくは30℃以上、さらに好ましくは60℃以上である。芳香族系重合体(C)の軟化点が上記範囲であることで、より透明性に優れる熱可塑性エラストマー組成物が得られる。
【0071】
芳香族系重合体(C)としては、例えば、ポリスチレン、ポリα-メチルスチレン、ポリ4-メチルスチレン、スチレン/α-メチルスチレン共重合体、スチレン/4-メチルスチレン共重合体、α-メチルスチレン/4メチルスチレン共重合体、及びスチレン/α-メチルスチレン/4-メチルスチレン共重合体が挙げられる。なお、芳香族系重合体(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0072】
芳香族系重合体(C)は、市販品を使用してもよい。芳香族系重合体(C)の市販品としては、例えば、ピコラスチックA5(ポリスチレン、軟化点5℃、Mw350)、ピコラスチックA-75(ポリスチレン、軟化点74℃、Mw1300)、ピコテックス75(α-メチルスチレン/4-メチルスチレン共重合体、軟化点75℃、Mw1100)、ピコテックスLC(α-メチルスチレン/4-メチルスチレン共重合体、軟化点91℃、Mw1350)、クリスタレックス3070(スチレン/α-メチルスチレン共重合体、軟化点70℃、Mw950)、クリスタレックス3085(スチレン/α-メチルスチレン共重合体、軟化点85℃、Mw1150)、クリスタレックス3100(スチレン/α-メチルスチレン共重合体、軟化点100℃、Mw1500)、クリスタレックス5140(スチレン/α-メチルスチレン共重合体、軟化点139℃、Mw4900)、エンデックス155(ポリα-メチルスチレン、軟化点153℃、Mw6900)、及びエンデックス160(ポリα-メチルスチレン、軟化点158℃、Mw9200)等のEASTMAN社製の芳香族系重合体、ハイマーST-95(ポリスチレン、軟化点95℃、Mw4000;三洋化成工業製)、YSレジンSX-100(ポリスチレン、軟化点100℃、Mw2500;ヤスハラケミカル社製)、のFMR-0150(スチレン/芳香族炭化水素共重合体、軟化点145℃、Mw2040;三井化学社製)、FTR-6100(スチレン/脂肪族炭化水素系共重合体、軟化点95℃、Mw1210;三井化学社製)、FTR-6110(スチレン/脂肪族炭化水素系共重合体、軟化点110℃、Mw1570;三井化学社製)、FTR-6125(スチレン/脂肪族炭化水素系共重合体、軟化点125℃、Mw1950;三井化学社製)、FTR-7100(スチレン/α-メチルスチレン/脂肪族炭化水素系共重合体、軟化点100℃、Mw1440;三井化学社製)、FTR-0100(ポリα-メチルスチレン、軟化点100℃、Mw1960;三井化学社製)、FTR-2120(スチレン/α-メチルスチレン共重合体、軟化点120℃、Mw2630;三井化学社製)、FTR-2140(スチレン/α-メチルスチレン共重合体、軟化点137℃、Mw3230;三井化学社製)などが挙げられる。
【0073】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、芳香族系重合体(C)の含有量は、ブロック共重合体(A)100質量部に対して、3~150質量部である。芳香族系重合体(C)の含有量が前記範囲内であると、透明性および柔軟性に優れる熱可塑性エラストマー組成物が得られる。透明性と柔軟性に優れる点から、芳香族系重合体(C)の含有量は、ブロック共重合体(A)100質量部に対して、5質量部以上が好ましく、8質量部以上がより好ましく、10質量部以上がさらに好ましく、15質量部以上が特に好ましい。また、100質量部以下が好ましく、90質量部以下がより好ましく、80質量部以下がさらに好ましく、70質量部以下がよりさらに好ましく、65質量部以下がことさらに好ましく60質量部以下が特に好ましく、50質量部以下であってもよい。
【0074】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、さらに軟化剤(D)を含有することにより、より透明性と柔軟性に優れた熱可塑性エラストマー組成物が得られる。軟化剤(D)としては、例えばパラフィン系、ナフテン系、芳香族系のプロセスオイル;ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート等のフタル酸誘導体;ホワイトオイル;ミネラルオイル;エチレンとα-オレフィンとの液状コオリゴマー;流動パラフィン;ポリブテン;低分子量ポリイソブチレン;液状ポリブタジエン、液状ポリイソプレン、液状ポリイソプレン-ブタジエン共重合体、液状スチレン-ブタジエン共重合体、液状スチレン-イソプレン共重合体等の液状ポリジエン及びその水素添加物等が挙げられる。これらの中でも、ブロック共重合体(A)との相容性の観点から、パラフィン系プロセスオイル;エチレンとα-オレフィンとの液状コオリゴマー;流動パラフィン;低分子量ポリイソブチレン及びその水素添加物が好ましく、パラフィン系プロセスオイルの水素添加物がより好ましい。なお、軟化剤(D)は、通常、25℃以上にガラス転移点、及び又は融点を有さない物質である。
軟化剤(D)は、植物由来の原材料を高い比率で使用したものを使用してもよく、軟化剤(D)中の植物由来成分の含有量(バイオ比率)は70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましい。これらは1種または2種以上を用いてもよい。
【0075】
軟化剤(D)の40℃での動粘度は、特に限定されるものではないが、30~500mm/sの範囲が好ましい。
好ましくは40~400mm/sの範囲であると、熱可塑性エラストマー組成物を成形体とした場合に、グリップ性に優れたものとなる傾向にある。
また、好ましくは80mm/s以上の高い動粘度の軟化剤を用いた場合、耐ブリード性に優れ極性基材への接着性に優れる傾向がある。一方で、30~80mm/sの範囲の動粘度の軟化剤を用いた場合、流動性が高くなり透明性に優れる傾向がある。軟化剤の動粘度に関しては、求められる物性に対して選択することができる。
【0076】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、軟化剤(D)の含有量は、ブロック共重合体(A)100質量部に対して、20~450質量部である。軟化剤(D)の含有量が前記範囲内であると、透明性および柔軟性に優れる熱可塑性エラストマー組成物が得られる。透明性と柔軟性に優れる点から、軟化剤(D)の含有量は、ブロック共重合体(A)100質量部に対して、50質量部以上が好ましく、60質量部以上がより好ましく、70質量部以上がさらに好ましい。該含有量は、80質量部以上であってもよく、100質量部以上であってもよく、120質量部以上であってもよく、200質量部以上であってもよい。また、該含有量は、400質量部以下が好ましく、300質量部以下がより好ましく、260質量部以下がさらに好ましい。該含有量は、200質量部以下であってもよく、180質量部以下であってもよく、150質量部以下であってもよい。
【0077】
軟化剤(D)は、市販品を使用してもよく、例えば、出光興産社製PW-380(40℃動粘度=382mm2/s)、PW-90(40℃動粘度=95mm2/s)、PW-32(40℃動粘度=30mm2/s)が挙げられる。
【0078】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、オレフィン系樹脂(E)を含有することにより、耐薬品性が向上するため好適である。オレフィン系樹脂(E)は、分子中に1個または2個以上の炭素-炭素間不飽和結合を有する炭化水素モノマーを重合させて得られる重合体をいい、オレフィン化合物の重合体、およびオレフィン化合物以外の不飽和炭化水素モノマーからなる重合体を変性し結果的に炭化水素単位が重合体中に含まれる重合体の両方を包含する。したがって、本発明で用いるオレフィン系樹脂(E)の具体例を挙げると、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチルペンテン、イソブチレン、1-オクテン、1-ノネン、ノルボルネンなどのオレフィン化合物の単独重合体または共重合体;1,3-ブタジエン、イソプレン、ミルセン、1,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,4-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-シクロヘキサジエンなどの共役ジエン系炭化水素化合物の単独重合体、共重合体およびそれらの水素添加物;1,7-オクタジエン、1,4-シクロオクタジエンなどの非共役ジエン系炭化水素化合物の単独重合体、共重合体およびそれらの水素添加物などを挙げることができる。これらは1種または2種以上を用いてもよい。それらのうちではプロピレン系樹脂、エチレンと1-ブテン及び又は1-オクテンの共重合体が透明性、極性基材に対する接着性、耐薬品性の点から好適である。プロピレン系樹脂においては、ポリプロピレンまたはプロピレンを主体とする共重合体が挙げられ、ホモタイプのポリプロピレン、プロピレンと他の少量のα-オレフィンとのブロックタイプ、ランダムタイプのいずれかの共重合体から選ばれる1種または2種以上が好適に用いられる。中でも透明性の点からランダムタイプのポリプロピレンが好適である。
また、オレフィン系樹脂(E)は通常、25℃以上にガラス転移点及び/又は融点を有する。
また、オレフィン系樹脂(E)は親水性官能基を有さないものが好ましく、後述する相溶化剤とは区別される。
【0079】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、オレフィン系樹脂(E)の含有量は、ブロック共重合体(A)100質量部に対して、3~250質量部であることが好ましい。オレフィン系樹脂(E)の含有量が前記範囲内であると、耐薬品性、透明性および柔軟性に優れる熱可塑性エラストマー組成物が得られる。透明性と柔軟性に優れる点から、オレフィン系樹脂(E)の含有量は、ブロック共重合体(A)100質量部に対して、10質量部以上であることがより好ましく、20質量部以上であることがさらに好ましく、30質量部以上であることが特に好ましい。また、200質量部以下であることがより好ましく、180質量部以下であることがさらに好ましく、150質量部以下であることがよりさらに好ましく、120質量部以下であることがことさらに好ましく、100質量部以下であることが特に好ましく、80質量部以下であることが最も好ましい。
【0080】
また、オレフィン系樹脂(E)の融点や融解エンタルピーは、特に限定されるものではないが、透明性の点から融点は160℃以下が好ましく、155℃以下がより好ましく、150℃以下が特に好ましい。また、得られる組成物の耐熱性や取り扱い性の観点から、該融点は、90℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。また、融点は、本発明の熱可塑性エラストマーに求められる特性によって、135℃以下であってもよく、120℃以下であってもよく、一方、110℃以上であってもよく、120℃以上であってもよく、130℃以上であってもよく、140℃以上であってもよい。。オレフィン系樹脂(E)の融解エンタルピーは、特に限定されるものではないが、また同様に透明性の点から、融解エンタルピーは95J/g以下が好ましく、70J/g以下がより好ましく、60J/g以下がさらに好ましく、55J/g以下が特に好ましい。また、得られる組成物の取り扱い性の観点から、融解エンタルピーは、10J/g以上が好ましく、20J/g以上がより好ましく、30J/g以上がさらに好ましく、35J/g以上が特に好ましい。尚、融点や融解エンタルピーは示差走査熱量計を使用して測定できる。
【0081】
本発明において、NETZSCH株式会社製DSC214Polyma示差走査熱量計を使用して、230℃で5分間保持し、10℃/分で-10℃まで冷却し、-10℃で5分間保持し、10℃/分で230℃まで昇温するプログラムで測定されるセカンド融解曲線(最後の昇温過程で測定される融解曲線)において、最も高い温度側のピークトップ融点を融点とした。また、同様に、NETZSCH株式会社製DSC214Polyma示差走査熱量計を使用して、230℃で5分間保持し、10℃/分で-10℃まで冷却し、-10℃で5分間保持し、10℃/分で230℃まで昇温するプログラムで測定されるセカンド融解曲線(最後の昇温過程で測定される融解曲線)から算出される融解エンタルピーを示差走査熱量計により測定される融解エンタルピーとした。
【0082】
透明性を向上させる観点から、本発明の熱可塑性エラストマー組成物中のアクリル系ブロック共重合体(B)に対する前記軟化剤(D)の質量比((D)/(B))は、5.0以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましく、3.5以下であることがより好ましく、2.5以下であることがさらに好ましく、2.0以下であることがよりさらに好ましく、1.5以下であることが特に好ましい。また、0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましい。(D)/(B)が上記範囲内であると、透明性と柔軟性に優れた熱可塑性エラストマー組成物が得られる傾向にある。
【0083】
更に本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、無機充填材、酸化防止剤、他の熱可塑性重合体、相溶化剤、滑剤、粘着付与樹脂、光安定剤、加工助剤、顔料や色素等の着色剤、難燃剤、帯電防止剤、艶消し剤、結晶核剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、発泡剤、抗菌剤、防カビ剤、着色剤、香料などを含有してもよい。
【0084】
無機充填材は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の耐候性等の物性の改良、硬度調整、増量剤としての経済性の改善などを目的として含有させることができる。
無機充填材としては、例えば、炭酸カルシウム、タルク、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、マイカ、クレー、天然ケイ酸、合成ケイ酸、酸化チタン、カーボンブラック、硫酸バリウム、ガラスバルーン、ガラス繊維等が挙げられる。前記無機充填材は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。無機充填材を含有させる場合、その含有量は、熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性、透明性が損なわれない範囲であることが好ましく、ブロック共重合体(A)100質量部に対して、好ましくは200質量部以下、より好ましくは150質量部以下、更に好ましくは100質量部以下、特に好ましくは50質量部以下である。
【0085】
酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系、リン系、ラクトン系、ヒドロキシル系の酸化防止剤等が挙げられる。これらの中でも、色調安定性の点からヒンダードフェノール系、及び/又はリン系酸化防止剤が好ましい。これらは、1種単独でも、2種以上併用してもよい。酸化防止剤を含有させる場合、その含有量は、熱可塑性エラストマー組成物を溶融混練する際に着色しない範囲であることが好ましく、(A)~(E)の合計100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上であり、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは1質量部以下である。なお、当該好適な含有量は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物に他の熱可塑性重合体、相溶化剤、粘着付与樹脂等が含まれる場合、これらの合計質量と上記(A)~(E)の合計質量との合計100質量部を基準とすることが好ましい。
【0086】
他の熱可塑性重合体としては、例えばアクリル系樹脂、スチレン系重合体、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエチレングリコール、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等が挙げられる。その内、本発明の熱可塑性エラストマー組成物にポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマーを含有させると、その耐油性や極性基材に対する接着性が向上する。また、アクリル系樹脂(例えばメタクリル酸メチル由来の構造単位を60質量%以上含有する重合体等)を含有させると、透明性がより向上する傾向にある。前記他の熱可塑性重合体を含有させる場合、その含有量は、アクリル系ブロック共重合体(B)100質量部に対し、300質量部以下であるのが好ましく、250質量部以下であるのがより好ましく、150質量部以下であるのがさらに好ましい。また、100質量部以下であるのが好ましい一態様であり、60質量部以下であってもよく、30質量部以下であってもよい。他の熱可塑性重合体を含有させる場合は、その含有量は、5質量部以上であることも好ましい一態様であり、10質量部以上であってもよい。また、アクリル系樹脂を含む場合には、その含有量は、20質量部以上であることが好ましく、50質量部以上であることがより好ましく、70質量部以上であることがさらに好ましい。
【0087】
相溶化剤としては、分子中に、親水性のセグメントと疎水性のセグメントを有する物質が挙げられ、例えば、親水性官能基を有する重合体ブロックを有するブロック共重合体等の親水官能基を1個以上有する重合体が挙げられる。親水性官能基としては、水酸基、カルボキシル基、ウレタン結合、アクリロイル基、アミノ基、加水分解可能な酸無水物基、ポリアルキレンオキシド基等が挙げられ、親水性官能基としてこれらが1種のみ含まれていても2種以上が含まれていてもよい。具体的には、酸変性水添熱可塑性芳香族ビニル系エラストマー、アミン変性水添熱可塑性芳香族ビニル系エラストマー、酸変性オレフィン系エラストマー、芳香族ビニル系エラストマーとウレタン系エラストマーのブロックコポリマー、オレフィン系重合体ブロックと親水性重合体のブロックとが共重合した構造を有するブロック共重合体などを挙げることができる。親水性基含有ブロック共重合体の主鎖を構成するブロック共重合体としては、例えば、(a)成分のスチレン系ブロック共重合体、オレフィン系重合体ブロック等の低極性重合体ブロックと親水性基含有重合体ブロックとのブロック共重合体等を挙げることができる。前記相溶化剤を含有させる場合、その含有量は、ブロック共重合体(A)100質量部に対して、好ましくは200質量部以下、より好ましくは150質量部以下、更に好ましくは100質量部以下、特に好ましくは50質量部以下である。また、相溶化剤を含有する場合、その含有量は、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましい。相溶化剤として適用できる市販品としては、三洋化成工業(株)社製ペレスタット300、ペレスタット230、ペレスタットNC6321、ペレスタット6500、ペレスタット6200、ペレクトロンPVL、ペレクトロンAS、ペレクトロンHS、三洋化成工業(株)社製ユーメックス1001、ユーメックス1010、ユーメックス5200、デュポン(株)社製フサボンドP613、P353、N525、E528、C250、バイネル4125、50E739、三井化学(株)社製アドマーQF500,NF528、デュポン(株)社製フサボンドN493、三井化学(株)社製タフマーMA8510、MH7010、MH7020、MH5020、MH5040、(株)クラレ社製のクラミロンTUポリマー、旭化成(株)社製タフテックM1943、M1913、M1911、MP10などが挙げられる。
【0088】
滑剤としては、例えばシリコーンオイル、変性シリコーンオイル、パラフィンワックス等の炭化水素系滑剤、ステアリン酸、ステアリルアルコール等の脂肪酸系、脂肪族アルコール系滑剤、エルカ酸アミド、オレイン酸アミド等の脂肪族アミド系滑剤、ステアリン酸カルシウム等の金属石鹸系滑剤、ステアリン酸モノグリセリド等のエステル系滑剤が挙げられる。成形時の離型性や使用時の滑り止め性の点からシリコーンオイルやアミド系滑剤が好ましい。前記滑剤を含有させる場合、その含有量は、上記の成分(A)~(E)の合計100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、更に好ましくは1質量部以下、特に好ましくは0.5質量部以下である。また、滑剤を含有させる場合、その含有量は、0.001質量部以上であることが好ましく、0.005質量部以上であることがより好ましく、0.01質量部以上であることがさらに好ましい。滑剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、滑剤の好適な含有量は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物に他の熱可塑性重合体、相溶化剤、粘着付与樹脂等が含まれる場合、これらの合計質量と上記(A)~(E)の合計質量との合計100質量部を基準とすることが好ましい。
【0089】
また、用途に応じて熱可塑性エラストマー組成物をパーオキシドおよび架橋助剤の存在下で架橋してもよい。当該架橋では、一般にスチレン系ブロック共重合体が架橋される。パーオキシドとしては、例えば有機パーオキシドが好適であり、低臭気性、低着色性、スコーチ安全性の観点から、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3等の有機パーオキシドが特に好ましい。パーオキシド、特に有機パーオキシドの配合量は、上記の本発明の各成分の配合割合、特に得られる熱可塑性エラストマー組成物の品質を考慮して決定されるが、上記の成分(A)~(E)の合計100質量部に対して、0.05~3.0質量部が好適である。架橋助剤は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造法において、上記有機パーオキシドによる架橋処理に際して配合することができ、これにより均一かつ効率的な架橋反応を行うことができる。架橋助剤としては、例えばトリエチレングリコールジメタクリレート等の多官能ビニルモノマーを配合することができる。上記の架橋助剤は、パーオキシド可溶化作用を有し、パーオキシドの分散助剤として働くため、熱処理による架橋が均一かつ効果的になされる。該架橋助剤の配合量も、上記の本発明の各成分の配合割合、特に得られる熱可塑性エラストマー組成物の品質を考慮して決定されるが、上記の成分(A)~(E)の合計100質量部に対して、0.05~10質量部が好適である。なお、パーオキシド及び架橋助剤の好適な含有量は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物に他の熱可塑性重合体、相溶化剤、粘着付与樹脂等が含まれる場合、これらの合計質量と上記(A)~(E)の合計質量との合計100質量部を基準とすることが好ましい。
【0090】
粘着付与樹脂としては、例えばロジン系樹脂、テルペンフェノール樹脂、テルペン樹脂、芳香族炭化水素変性テルペン樹脂、脂肪族系石油樹脂、脂環式系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、クマロン-インデン樹脂、フェノール系樹脂、キシレン樹脂等が挙げられる。
前記粘着付与樹脂の軟化点は、成形加工性の観点から、85~160℃が好ましく、100~150℃がより好ましく、105~145℃が更に好ましい。
前記粘着付与樹脂を含有させる場合、その含有量は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の力学特性が損なわれない範囲であることが好ましく、ブロック共重合体(A)100質量部に対して、好ましくは100質量部以下、より好ましくは70質量部以下、更に好ましくは30質量部以下、特に好ましくは10質量部以下である。
【0091】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法に特に制限はなく、ブロック共重合体(A)、アクリル系ブロック共重合体(B)、芳香族系重合体(C)、軟化剤(D)、及び必要に応じてオレフィン系樹脂(E)、相溶化剤、無機充填材、酸化防止剤等のその他の成分を均一に混合し得る方法であれば製造方法は特に制限されない。例えば、溶媒に溶解させたのち、得られた溶液をキャストして乾燥させる方法、溶融混練する方法などが挙げられるが、構成する各成分の分散性を高める観点から溶融混練法が好ましく用いられる。溶融混練は、例えば、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バッチミキサー、ローラー、バンバリーミキサー等の溶融混練装置を用いて行うことができ、好ましくは150~270℃、スクリュー回転数50~500rpmの条件下で溶融混練することにより、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。
【0092】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、JISK6253-3のタイプAデュロメータ法による測定時間3秒の硬度(以下、「A硬度」ともいう)が、好ましくは90以下、より好ましくは85以下、更に好ましくは80以下、より更に好ましくは75以下である。A硬度が高くなりすぎると、良好な柔軟性、弾性、力学特性が得られにくくなる傾向にある。
【0093】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、例えば、押出成形、射出成形、中空成形、圧縮成形、カレンダー成形、真空成型などの成形方法により、成形体に加工できる。
【0094】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、例えばシート、フィルム状に成形し、あるいは他のシート、フィルムと複層成形して、日用雑貨の包装、工業資材の包装、食品の包装シート、フィルム用途に使用される。また、ホース、チューブ、ベルト等の用途;スポーツシューズ、ファッションサンダル等の履物用途;テレビ、オーディオ、掃除機、冷蔵庫用ドアシール、リモコンスイッチ、携帯電話等の家電用品用途;OA事務機器用途;バンパー部品、ラック&ピニオンブーツ、サスペンションブーツ、等速ジョイントブーツ、ボディパネル等の自動車用内外装部品用途等の自動車用途;土木シート、防水シート、窓枠シーリング材、建築物用シーリング材、各種ホース、ノブ等などの土木建築用途;医療用シリンジのガスケット、カテーテルチューブ、輸液バッグ等の医療用品;はさみ、ドライバー、歯ブラシ、スキーストックなどにおける各種のグリップ類;ペングリップなどの文房具;水中眼鏡、スノーケルなどのスポーツ用品;密閉性、防水性、防音性、防振性等を目的とした各種パッキン用途、レジャー用品、鞄の表皮、靴底、衣料用品、テキスタイル、玩具、工業用品などの各種成形体として広く適用することができる。が、該成形品において、形状、構造、用途等は特に制限されない。本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性、透明性、引張特性に優れ、極性の高い材料に対しても、優れた接着力を有するため、本発明の熱可塑性エラストマー組成物で形成された構造体(主には層の構造)、及び該熱可塑性エラストマー組成物以外の他の材料で形成された構造体(主には層の構造)を備える複合成形体(主には積層構造体)として用いることができる。
【0095】
被着体となる熱可塑性エラストマー組成物以外の他の材料としては、合成樹脂、セラミックス、金属、布帛等が挙げられる。これらの中でも優れた接着力という本発明の効果をより発揮させる観点から、合成樹脂、金属がより好ましい。
前記複合成形体(主には積層構造体)に用いる合成樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂(例えば、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂)、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリメタクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、(メタ)アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、(メタ)アクリロニトリル-スチレン樹脂、(メタ)アクリル酸エステル-ブタジエン-スチレン樹脂、(メタ)アクリル酸エステル-スチレン樹脂、(メタ)アクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリスチレン樹脂、ゴム強化ポリスチレン樹脂、シンジオタクティックポリスチレン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等が挙げられる。これらの合成樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、本明細書において「(メタ)アクリロニトリル」とは、「アクリロニトリル又はメタクリロニトリル」を意味する。
【0096】
また、他の合成樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリヘキセン-1、ポリ-3-メチル-ブテン-1、ポリ-4-メチル-ペンテン-1、エチレンと炭素数3~20のα-オレフィン(例えばプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、6-メチル-1-ヘプテン、イソオクテン、イソオクタジエン、デカジエン等)の1種又は2種以上との共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体等のポリオレフィン樹脂が好ましく用いられる。
【0097】
前記合成樹脂で形成された層には、本発明の目的を損なわない範囲内で、必要に応じて添加剤、例えば熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、撥水剤、防水剤、親水性付与剤、導電性付与剤、熱伝導性付与剤、電磁波シールド性付与剤、透光性調整剤、蛍光剤、摺動性付与剤、透明性付与剤、アンチブロッキング剤、金属不活性化剤、防菌剤等をさらに添加してもよい。
【0098】
前記複合成形体(主には積層構造体)に用いるセラミックスは、非金属系の無機材料を意味し、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物等が挙げられる。例えば、ガラス、セメント類、アルミナ、ジルコニア、酸化亜鉛系セラミックス、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、炭化ケイ素、窒化ケイ素、フェライト類等が挙げられる。
前記本発明の積層構造体に用いる金属は、例えば、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、クロム、亜鉛、及びそれらを成分とする合金が挙げられる。また、金属で形成された層として、銅メッキ、ニッケルメッキ、クロムメッキ、錫メッキ、亜鉛メッキ、白金メッキ、金メッキ、銀メッキ等のメッキによって形成された表面を有する層を用いてもよい。
【0099】
前記複合成形体(主には積層構造体)に用いる布帛の生地の種類に特に制限はないが、例えば、織物、編物、フェルト、不織布等が挙げられる。また、布帛の素材としては、天然繊維であってもよいし、合成繊維であってもよいし、天然繊維と合成繊維とからなるものであってもよい。特に制限されるものではないが、天然繊維としては、綿、絹(シルク)、麻及び毛からなる群から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0100】
また、合成繊維としては、ポリエステル繊維、アクリル繊維(ポリアクリロニトリル繊維)、ポリウレタン繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維及びビニロン繊維から選択される少なくとも1種であることが好ましい。ポリアミド繊維としては、ナイロン6、ナイロン66等が挙げられる。ポリオレフィン繊維としては、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等が挙げられる。
【0101】
前記複合成形体(主には積層構造体)の製造方法は特に制限されないが、本発明の熱可塑性エラストマー組成物で形成された層を、前記他の材料で形成された層に対して、積層成形することにより製造することが好ましい。積層成形の方法としては、例えば、射出インサート成形法、二色成形法、押出ラミネーション法、共押出成形法、カレンダー成形法、スラッシュ成形法、プレス成形法、溶融注型法等の成形法が挙げられる。尚、本発明の熱可塑性エラストマー組成物のシートフィルムを成形する場合、折り曲げ時の柔軟性や透明性の点から厚みは、10mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましく、3mm以下が更に好ましく、1mm以下がより更に好ましく、0.5mm以下が特に好ましく、0.1mm以下が殊更に好ましい。
【0102】
前記複合成形体(主には積層構造体)は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物が、該熱可塑性エラストマー組成物以外の他の材料からなる構造体と一体成形されてなることが好ましい。例えば、射出インサート成形法により積層構造体を製造する場合には、あらかじめ所定の形状及び寸法に形成しておいた被着体(本発明の熱可塑性エラストマー組成物以外の他の材料で形成された構造体としての層)を金型内に配置し、そこに本発明の熱可塑性エラストマー組成物を射出成形して積層構造体を製造できる。また、二色成形法により射出筒が2台搭載された射出成型機及びまたは2台の射出成型機を用いて射出成形して、異なる2材料が1つの金型内で熱融着することによって積層構造体を製造できる。また、押出ラミネーション法により積層構造体を製造する場合には、あらかじめ所定の形状及び寸法に形成しておいた被着体の表面、又はその縁に対して、押出機に取り付けられた所定の形状を有するダイスから押出した溶融状態の本発明の熱可塑性エラストマー組成物を直接押出して積層構造体を製造できる。共押出成形法により積層構造体を製造する場合には、2台の押出機を使って、同時に溶かした本発明の熱可塑性エラストマー組成物と該熱可塑性エラストマー組成物以外の他の合成樹脂を押し出して、積層構造体を製造できる。カレンダー成形法により積層構造体を製造する場合には、加熱ロールで溶融、圧延し、数本のロールを通して溶融状態にした本発明の熱可塑性エラストマー組成物と、あらかじめ所定の形状及び寸法に形成しておいた被着体の表面とを熱融着することにより積層構造体を製造できる。プレス成形法により積層構造体を製造する場合には、射出成形法や押出成形法により、予め本発明の熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体を成形しておき、その成形体を、あらかじめ所定の形状及び寸法に形成しておいた被着体に、プレス成形機等を用いて、加熱及び加圧して、積層構造体を製造できる。プレス成形法は、被着体がセラミックス、金属である場合に特に適している。
【0103】
溶融積層成形による成形法としては、射出インサート成形法が好ましい。
射出インサート成形法における射出成形温度は特に制限されないが、十分な接着性を得る観点から、150℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましく、230℃以上が更に好ましい。
【0104】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物、これから得られる成形体及び複合成形体(主には積層構造体)は、様々な用途に広く適用することができる。例えば、電子・電気機器、OA機器、家電機器、電動工具、自動車用部材等のハウジング材に、合成樹脂、ガラス繊維を含有する合成樹脂、アルミニウム、マグネシウム合金といった軽金属が用いられているが、これらの材料ハウジング材に本発明の熱可塑性エラストマー組成物が接着された積層構造体をハウジング材として用いることができる。より具体的には、大型ディスプレイ、ノート型パソコン、携帯用電話機、PHS、PDA(電子手帳等の携帯情報端末)、電子辞書、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯用オーディオ機器、インバーター等のハウジングに本発明の熱可塑性エラストマー組成物が接着されてなる積層構造体を、衝撃緩和材、滑り止め防止機能を持った被覆材、防水材、意匠材等としての用途に用いることが好ましい。
【0105】
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、自動車や建築物のウィンドウモールやガスケット、ガラスのシーリング材、防腐蝕材等、ガラスと接着された成形体や構造体を形成するための材料として、様々な広い範囲の用途に有用である。また、自動車や建築物の窓におけるガラスとアルミニウムサッシや金属開口部等との接合部、太陽電池モジュール等におけるガラスと金属製枠体との接続部等のシーラントとしても、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を好適に使用できる。さらに、ノート型パソコン、携帯電話、ビデオカメラ等の各種情報端末機器や、ハイブリッド自動車、燃料電池自動車等に用いられる二次電池のセパレーターなどとしても本発明の熱可塑性エラストマー組成物を好適に使用できる。
【実施例0106】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例の各種物性は以下の方法により測定又は評価した。
【0107】
実施例及び比較例に使用される各成分は次のとおりである。
<ブロック共重合体(A)>
成分A-1
製品名:セプトン4033、製造会社名:(株)クラレ、種類:水添トリブロック共重合体(スチレン-イソプレン-スチレントリブロック共重合体の水素添加物)、スチレン単位の含有量:33質量%、共役ジエン(イソプレン)単位の含有量:67質量%、重量平均分子量9.5万、水素添加率:95モル%以上
成分A-2
製品名:TIPLOL6153、製造会社名:TSRC CORPORATION、種類:水添トリブロック共重合体(スチレン-ブタジエン-スチレントリブロック共重合体の水素添加物)、スチレン単位の含有量:29質量%、共役ジエン(ブタジエン)単位の含有量:71質量%、重量平均分子量 10万、水素添加率:95モル%以上
成分A-3
製品名:TAIPOL6154、製造会社名:TSRC CORPORATION、種類:水添トリブロック共重合体(スチレン-ブタジエン-スチレントリブロック共重合体の水素添加物)、スチレン単位の含有量:32質量%、共役ジエン(ブタジエン)単位の含有量:68質量%、重量平均分子量:14万、水素添加率:95モル%以上
<アクリル系ブロック共重合体(B)>
成分B-1
製品名:アクリル系ブロック共重合体(B-1)種類:アクリル系トリブロック共重合体(ポリメタクリル酸メチル(PMMA)ブロック-アクリル酸メチル及びアクリル酸n-ブチルの重合体ブロック-PMMAブロック:b2-b1-b2構造)、重量平均分子量:8.2万、分子量分布:1.1、PMMA含有量=29質量%、アクリル酸メチル及びアクリル酸n-ブチルからなるアクリル酸エステル単位の含有量=71質量%、重合体ブロック(b1)中のアクリル酸メチル(アクリル酸エステル(b1-1))の含有量=18質量%、A硬度(15秒値):A46
アクリル系ブロック共重合体(B-1)は下記方法にて合成した。
(1)2Lの三口フラスコに三方コックを付け内部を窒素で置換した後、室温で攪拌しながらトルエン1154gと1,2―ジメトキシエタン24.9gを加え、続いて、イソブチルビス(2,6-ジ-ブチル-4-メチルフェノキシ)アルミニウム19.0mmolを含有するトルエン溶液37.8gを加え、さらにsec-ブチルリチウム3.22mmolを含有するsec-ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液1.89gを加えた。
(2)続いて、これにメタクリル酸メチル22.9gを加えた。反応液は当初、黄色に着色していたが、室温にて60分間攪拌後には無色となった。
(3)引き続き、重合液の内部温度を-30℃に冷却し、アクリル酸メチル/アクリル酸n-ブチルの混合物(質量比20/80)150gを2時間かけて滴下し、滴下終了後-30℃にて5分間攪拌した。
(4)さらに、これにメタクリル酸メチル38.2gを加え、一晩室温にて攪拌した。
(5)メタノール12.2gを添加して重合反応を停止した後、得られた反応液15kgのメタノール中に注ぎ、白色沈殿物を析出させた。その後、白色沈殿物を回収し、乾燥させることによりアクリル系ブロック共重合体(B-1)200gを得た。
成分B-2
製品名:クラリティ2250、製造会社:(株)クラレ、種類:アクリル系トリブロック共重合体(PMMAブロック-ポリアクリル酸n-ブチル(PnBA)ブロック-PMMAブロック)、重量平均分子量:6.7万、分子量分布:1.1、PMMA含有量=31質量%、アクリル酸n-ブチル単位の含有量=69質量%、A硬度(15秒値):A65
成分B-3
製品名:クラリティ4285、製造会社:(株)クラレ、種類:アクリル系トリブロック共重合体(PMMAブロック-PnBAブロック-PMMAブロック)、重量平均分子量:6.7万、分子量分布:1.1、PMMA含有量=50質量%、アクリル酸n-ブチル単位の含有量=50質量%、A硬度(15秒値):A95
<芳香族系重合体(C)>
成分C-1
製品名:クリスタレックス5140、製造会社:EASTMAN社、種類:ポリα-メチルスチレン/スチレン共重合体(芳香族ビニル化合物(α-メチルスチレン/スチレン)由来の構造単位90%以上、軟化点139℃、Mw4900)
<軟化剤(D)>
成分D-1
製品名:YUBASE8、製造会社:SKルブリカンツジャパン(株)、種類:パラフィン系オイル、40℃動粘度:47mm/s
成分D-2
製品名:PW-90、製造会社:出光興産(株)、種類:パラフィン系オイル、40℃動粘度:95mm/s
<オレフィン系樹脂(E)>
成分E-1
製品名:ENGAGE8480、製造会社:Dow社、種類:エチレンーオクテン共重合体、融点:103℃、融解エンタルピー:40.7J/g
成分E-2
製品名:BC06C、製造会社:日本ポリプロ(株)、種類:ブロックポリプロピレン、融点:166℃、融解エンタルピー:91.5J/g
成分E-3
製品名:MG05ES、製造会社:日本ポリプロ(株)、種類:ランダムポリプロピレン、融点:149℃、融解エンタルピー:42.4J/g
<その他の成分>
相溶化剤-1
製品名:ペレスタット300、製造会社:三洋化成工業(株)、種類:PEG共重合体(ポリプロピレンを主体としたポリオレフィンと無水マレイン酸とを反応させて得られる変性ポリオレフィンとポリエチレングリコールを主体としたポリアルキレングリコールとを触媒存在下でエステル化することによって得られるブロック共重合体)
<その他添加剤>
成分F-1
製品名:イルガノックス1010、製造会社:BASFジャパン株式会社、フェノール系酸化防止剤
成分F-2
製品名:PEP-36、製造会社:株式会社ADEKA、リン系酸化防止剤
成分F-3
製品名:ダイヤミッドL200、製造会社:三菱ケミカル株式会社、エルカ酸アミド(滑剤)
成分F-4
製品名:スリパックスO、製造会社:三菱ケミカル株式会社、エチレンビスオレイン酸アミド(滑剤)
成分F-5
製品名:シリコーンオイルKF96-30CS、製造会社:信越化学工業株式会社、ジメチルポリシロキサン(滑剤)
【0108】
また、使用する各成分の各種物性の測定方法詳細は次の通りである。
<重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)等の測定>
ブロック共重合体(A)及びアクリル系ブロック共重合体(B)の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により標準ポリスチレン換算分子量で求めた。測定装置及び条件は、以下のとおりである。
・装置 :LC Solution (SHIMADZU製)
・分離カラム :TSKgelG4000Hxlを2本直列(TOSOH製)
・ガードカラム:TSKguardcolumnHxl-L(TOSOH製)
・検出器 :示差屈折率計 RID-10A(SHIMADZU製)
・溶媒 :テトラヒドロフラン
・流量 :1.0ml/分
・サンプル濃度:2.0mg/ml
・カラム温度 :40℃
<アクリル系ブロック共重合体(B)中のアクリル酸エステル由来の構造単位の全体質量に対するメチルアクリレート含有量の分析>
アクリル系ブロック共重合体(B)におけるアクリル酸エステル由来の構造単位の全体質量に対するメチルアクリレートの含有量は、1H-NMR測定によって求めた。1H-NMR測定で用いた測定装置及び条件は次のとおりである。
・装置:日本電子株式会社製核磁気共鳴装置「JNM-ECX400」
・重溶媒:クロロホルム、1H-NMRスペクトルにおいて、アクリル酸エステルのエステル基由来のシグナルの積分値の比から、アクリル酸メチル由来の構造単位のモル比を求め、これをアクリル酸メチル由来の構造単位の分子量をもとに質量比に換算することによって、アクリル酸エステル由来の構造単位に含まれるメチルアクリレート含有量を求めた。
<オレフィン系樹脂(E)の融点及び融解エンタルピー>
測定対象のオレフィン系樹脂(E)を、NETZSCH株式会社製DSC214Polyma示差走査熱量計を使用して、230℃で5分間保持し、10℃/分で-10℃まで冷却し、-10℃で5分間保持し、10℃/分で230℃まで昇温するプログラムで測定されるセカンド融解曲線(最後の昇温過程で測定される融解曲線)において、最も高い温度側のピークトップ融点を融点とした。また、同様に、NETZSCH株式会社製DSC214Polyma示差走査熱量計を使用して、230℃で5分間保持し、10℃/分で-10℃まで冷却し、-10℃で5分間保持し、10℃/分で230℃まで昇温するプログラムで測定されるセカンド融解曲線(最後の昇温過程で測定される融解曲線)から算出される融解エンタルピーを示差走査熱量計により測定される融解エンタルピーとした。
【0109】
〔実施例1~7、比較例1~4〕
表1に記載の各成分を表1に示す割合にて予備混合した組成物を二軸押出機(東芝機械(株)社製「TEM-26SS-12/1V」)を用いて190℃及びスクリュー回転数200rpmの条件下で溶融混練し、熱可塑性エラストマー組成物を得た。得られた熱可塑性エラストマー組成物について、下記の物性を測定した。結果を表1に示す。
【0110】
<柔軟性>
各実施例及び比較例で得られた熱可塑性エラストマー組成物を射出成形機(日精樹脂工業株式会社製FE120S18A)で、シリンダー温度230℃及び金型温度40℃の条件下で射出成形し、厚み2mmで120φの円盤形状サンプルを得た。更に、そのサンプルから3号ダンベル試験片を刃で打ち抜くことによって得た。打ち抜いたサンプルを3枚重ねて、測定時間3秒の値をJIS K 6253-3に準拠して測定した。柔軟性はデュロメータA硬度が低いほど好ましく、A90以下が好ましく、A80以下がより好ましい、A70以下が特に好ましい。
<耐オレイン酸性>
耐油性:JIS K 6258に準拠して測定した。
各実施例及び比較例で得られた熱可塑性エラストマー組成物を射出成形機(日精樹脂工業株式会社製FE120S18A)で、シリンダー温度230℃及び金型温度40℃の条件下で射出成形し、厚み2mmで120φの円盤形状サンプルを得た。更に、そのサンプルから幅2cm×長さ5cm×厚み2mmの試験片を刃で打ち抜くことによって得た。その試験片を23℃の環境下でオレイン酸に1週間浸漬後、重量変化率を評価した。重量変化率が70%以下を必要性能とした。
<接着性>
下記の極性材料を射出成形機(日精樹脂工業株式会社製FE120S18A)で、シリンダー温度230℃及び金型温度40℃の条件下で射出成形し、縦×横×厚み=15cm×2.5cm×0.4cmの被着板を作製。それに射出インサート法により、得られた熱可塑性エラストマー組成物で縦×横×厚み=20cm×2.5cm×0.3cmの接着層を、シリンダー温度230℃及び金型温度40℃の条件下で射出成形して接着サンプルを得た。
・使用した極性材料1:アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS樹脂) UMG ABS株式会社 EX190
・使用した極性材料2:ポリカーボネート(PC)樹脂 テイジン社製パンライトL-1225L
上記で作製した接着サンプルを株式会社島津製作所製オートグラフAGX-Vを用いて、JIS K 6256-1に準じて剥離角度180°、引張速度50mm/minの条件で極性材料と熱可塑性エラストマー組成物の剥離接着強度を測定した。PCに対する剥離接着強度は、20N/25mm以上が好ましく、30N/25mm以上がより好ましく、40N/25mm以上が更に好ましく、50N/25mm以上が特に好ましく、60N/25mm以上がことさらに好ましい。
<透明性>
上記で得られた厚み2mmの120φの円盤形状射出サンプルについてJIS K 7361-1に準じて、全光線透過率を測定した。全光線透過率は65%以上を必要性能とした。
【0111】
表1に実施例および比較例の結果をまとめて記載した。本発明の規定を満たさない比較例に比べ、実施例1~7は柔軟性、PCに対する接着強度、耐オレイン酸性、透明性について、バランスに優れ、良好な結果であった。
【0112】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明で得られる熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性、極性基材への接着性、透明性、オレイン酸性等に対する耐油性に優れており、二色成形法などにより硬質樹脂成形体にエラストマー層を一体化することによって、組立工程を簡略化して、気密性、衝撃緩和、滑り止め効果を与えることができ、しかも透明性に優れることで、視認性、意匠性に優れた組成物、成形体、複合成形体を与えることができる。そのため、シート、フィルム状に成形し、あるいは他のシート、フィルムと複層成形して、日用雑貨の包装、工業資材の包装、食品の包装シート、フィルム用途。また、ホース、チューブ、ベルト等の用途;スポーツシューズ、ファッションサンダル等の履物用途;テレビ、オーディオ、掃除機、冷蔵庫用ドアシール、リモコンスイッチ、携帯電話等の家電用品用途;OA事務機器用途;バンパー部品、ラック&ピニオンブーツ、カバンの表皮、靴底、衣料用品、テキスタイル、遊具、サスペンションブーツ、等速ジョイントブーツ、ボディパネル等の自動車用内外装部品用途等の自動車用途;土木シート、防水シート、窓枠シーリング材、建築物用シーリング材、各種ホース、ノブ等などの土木建築用途;医療用シリンジのガスケット、カテーテルチューブ、輸液バッグ等の医療用品;はさみ、ドライバー、歯ブラシ、スキーストックなどにおける各種のグリップ類;ペングリップなどの文房具;水中眼鏡、スノーケルなどのスポーツ用品;密閉性、防水性、防音性、防振性等を目的とした各種パッキン用途、レジャー用品、玩具、工業用品などの各種成形品として様々な用途に用いることができる。