(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085878
(43)【公開日】2023-06-21
(54)【発明の名称】浮体構造物製作ヤードおよび浮体構造物の築造方法
(51)【国際特許分類】
E02D 23/02 20060101AFI20230614BHJP
【FI】
E02D23/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200179
(22)【出願日】2021-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】織田 幸伸
(72)【発明者】
【氏名】沼宮内 宏明
(72)【発明者】
【氏名】橋本 敦史
(57)【要約】
【課題】陸上の施工ヤードを必要最小限に抑え、かつ、大規模な浮体構造物であっても効率的に構築することができる浮体構造物製作ヤードおよびこれを利用した浮体構造物の築造方法を提案する。
【解決手段】複数のドック2,2,2が陸側から沖側に向かって連続して形成された浮体構造物製作ヤード1である。ドック2の底面20は、沖側に隣接する他のドック2の底面20よりも高い。また、最も陸側に形成されたドック2である第一ドック21と、第一ドック21の沖側に隣接するドック2である第二ドック22との境界には止水扉3が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のドックが陸側から沖側に向かって連続して形成された浮体構造物製作ヤードであって、
前記ドックの底面は、沖側に隣接する他の前記ドックの底面よりも高いことを特徴とする、浮体構造物製作ヤード。
【請求項2】
最も陸側に形成された前記ドックである第一ドックと、前記第一ドックの沖側に隣接する前記ドックである第二ドックとの境界に止水扉が形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の浮体構造物製作ヤード。
【請求項3】
複数の前記ドックの両脇に沿って敷設された一対のレールと、
前記ドック上に横架されて、一対の前記レール上を走行するクレーンと、をさらに備えていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の浮体構造物製作ヤード。
【請求項4】
陸地を掘ることにより形成された溝に前記ドックが形成されていることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の浮体構造物製作ヤード。
【請求項5】
水上に形成された桟橋に前記レールが形成されていることを特徴とする、請求項3に記載の浮体構造物製作ヤード。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の浮体構造物製作ヤードを利用して浮体構造物を構築する浮体構造物の築造方法であって、
最も陸側に形成された前記ドックである第一ドック内において、前記浮体構造物の底部躯体を構築する底部製作工程と、
前記浮体構造物を前記第一ドックの沖側に隣接する前記ドックである第二ドックに移動させる移動工程と、
前記第二ドック内において、前記浮体構造物の前記底部躯体上に上部躯体を増築する上部製作工程と、を備えることを特徴とする、浮体構造物の築造方法。
【請求項7】
請求項2に記載の浮体構造物製作ヤードを利用して浮体構造物を構築する浮体構造物の築造方法であって、
前記止水扉を閉じた状態で、前記第一ドック内において、前記浮体構造物の底部躯体を構築する底部製作工程と、
前記止水扉を開いて、前記第一ドック内に水を取り込む取水工程と、
前記第一ドック内において水に浮かせた前記浮体構造物を前記第二ドックに移動させる移動工程と、
前記第二ドック内において、前記浮体構造物の前記底部躯体上に上部躯体を増築する上部製作工程と、を備えることを特徴とする、浮体構造物の築造方法。
【請求項8】
ドック内において前記浮体構造物の上部躯体を増築する上部製作工程と、
前記ドックの沖側に隣接する他のドックへの前記浮体構造物を移動させる移動工程と、を繰り返すことを特徴とする、請求項6または請求項7に記載の浮体構造物の築造方法。
【請求項9】
前記底部製作工程および前記上部製作工程では、前記各ドック内における前記浮体構造物の高さが、沖側に隣接する他のドックの水深よりも高くなるように、当該浮体構造物を構築することを特徴とする、請求項6乃至請求項8のいずれか1項に記載の浮体構造物の築造方法。
【請求項10】
前記移動工程後に、前記浮体構造物内に注水して前記浮体構造物を着底させる注水工程を備えており、
前記上部製作工程後に、前記浮体構造物内の水の少なくとも一部を排水して前記浮体構造物を水に浮かせる排水工程をさらに備えていることを特徴とする、請求項6乃至請求項9のいずれか1項に記載の浮体構造物の築造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮体構造物製作ヤードおよびこれを利用した浮体構造物の築造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海上等に浮体構造物を構築する方法として、陸上で製作した浮体構造物を半潜水式台船、フローティングドック、ドライドック、斜路、クレーン等を用いて進水させる方法や、水上の半潜水式台船上やフローティングドック上で浮体構造物を構築する方法等がある。
例えば、特許文献1には、水域に通じるドライドック内においてケーソンを形成した後、ドライドックに注水して、ケーソンを水域に引き出す方法が開示されている。
また、特許文献2には、進水機能を有する作業台船上において浮体構造物を組み立てた後、作業台船により所定の位置に輸送し、作業台船を沈めることで浮体構造物を水に浮かせる方法が開示されている。
ところが、特許文献1に記載のドライドックを利用して複数の浮体構造物を同時に築造する場合には、水域に通じるドライドックを複数形成する必要がある。複数のドライドックを形成するためは、広い施工ヤードを確保する必要があり、また、掘削土量も多くなるため、手間と費用が掛かる。
また、特許文献2に記載の作業台船やいわゆるフローティングドックを利用して構造物を築造する方法では、大型の構造物を築造することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2-178419号公報
【特許文献2】特開平6-193391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、陸上の施工ヤードを必要最小限に抑え、かつ、大規模な浮体構造物であっても効率的に構築することができる浮体構造物製作ヤードおよびこれを利用した浮体構造物の築造方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための本発明の浮体構造物製作ヤードには、複数のドックが陸側から沖側に向かって連続して形成されており、前記ドックの底面は、沖側に隣接する他のドックの底面よりも高い。
この浮体構造物製作ヤードを利用した浮体構造物の築造方法は、最も陸側に形成された前記ドックである第一ドック内において前記浮体構造物の底部躯体を構築する底部製作工程と、前記浮体構造物を前記第一ドックの沖側に隣接する前記ドックである前記第二ドックに移動させる移動工程と、前記第二ドック内において前記浮体構造物の前記底部躯体上に上部躯体を増築する上部製作工程とを備えている。なお、当該浮体構造物の築造方法では、ドック内において前記浮体構造物の上部躯体を増築する上部製作工程と、前記ドックの沖側に隣接する他のドックへ前記浮体構造物を移動させる移動工程とを繰り返すことにより、所望の大きさの浮体構造物を構築すればよい。
また、第一ドックと、第二ドックとの境界に止水扉が形成されている場合には、底部製作工程を前記止水扉を閉じた状態で行い、移動工程の前に前記止水扉を開いて前記第一ドック内に水を取り込み、移動工程では前記第一ドック内において水に浮かせた浮体構造物を第二ドックに移動させればよい。
【0006】
かかる浮体構造物製作ヤードおよび浮体構造物の築造方法によれば、水域の沖側に向けて連続して構築された複数のドックを利用して、浮体構造物を段階毎に築造するため、必要最小限の用地により所望の形状の浮体構造物を形成できる。また、浮体構造物の移動を水に浮かせた状態で行うことで、比較的簡易に移動させることができ、大掛かりなジャッキシステム、台車、台船やフローティングドックなどを省略できる。また、複数のドックを利用することで、複数の浮体構造物を連続的に構築できる。
【0007】
前記浮体構造物製作ヤードに、複数の前記ドックの両脇に沿って敷設された一対のレールと、前記ドック上に横架されて一対の前記レール上を走行するクレーンとを備えておけば、浮体構造物のドック間の移動を簡易に行うことができる。
なお、陸地を掘ることにより形成された溝に前記ドックを形成してもよい。また、水域にドックを形成するとともに水上に形成された桟橋に前記レールを敷設してもよい。
また、前記底部製作工程および前記上部製作工程では、前記各ドック内における前記浮体構造物の高さが、沖側に隣接する他のドックの水深よりも高くなるように、当該浮体構造物を構築するのが望ましい。
そして、前記移動工程後に前記浮体構造物内に注水して前記浮体構造物を着底させる注水工程を備えており、前記上部製作工程後に前記浮体構造物内の水の少なくとも一部を排水して前記浮体構造物を水に浮かせる排水工程をさらに備えているのが望ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の浮体構造物製作ヤードおよびこれを利用した浮体構造物の築造方法によれば、陸上の施工ヤードを必要最小限に抑え、かつ、大規模な浮体構造物であっても効率的に構築することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る浮体構造物製作ヤードを示す斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る浮体構造物の築造方法を示すフローチャートである。
【
図4】浮体構造物の築造方法の施工状況を示す断面図であって、(a)は底部製作工程、(b)は取水工程、(c)は移動工程である。
【
図5】浮体構造物の築造方法の施工状況を示す断面図であって、(a)は注水工程、(b)は上部製作工程、(c)は浮体構造物完成後の搬出状況である。
【
図6】他の形態に係る浮体構造物製作ヤードを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態では、洋上風力発電施設(水上施設)の基礎を構成する浮体構造物を築造する場合について説明する。浮体構造物は、浮体構造物製作ヤード1において製造する。
図1に本実施形態の浮体構造物製作ヤード1の概要を示す。
図1に示すように、浮体構造物製作ヤード1には、複数(本実施形態では3つ)のドック2,2,2が陸側から沖側に向かって連続して形成されている。ドック2は、陸地を掘ることにより形成された溝11に形成されている。
図2に浮体構造物製作ヤード1(溝11)の断面図を示す。
図2に示すように、各ドック2の底面20は、平らで、かつ、沖側に隣接する他のドック2の底面よりも高い。すなわち、複数のドック2,2,2は、階段状に段差を有して形成されている。なお、最も沖側に形成されたドック2である第三ドック23は水域に面している。各ドック2の底面20は、水面WLよりも低く、水域からの水が流入可能に構成されている。
【0011】
図1に示すように、最も陸側に形成されたドック2である第一ドック21と、第一ドック21の沖側に隣接するドック2である第二ドック22との境界付近には止水扉3が形成されている。
また、溝11の両脇の陸地部分12,12には、一対のレール4,4が敷設されている。レール4,4は、複数のドック2,2,2に沿って、陸側から沖側に向かって延設されている。
また、浮体構造物製作ヤード1には、クレーン5が配設されている。本実施形態のクレーン5は、いわゆる門型クレーンであって、溝11上(ドック2,2,2上)に横架されている。クレーン5の支持部材51の下端には、レール4上を走行する車輪52が設けられている。クレーン5は、車輪52を介してレール4を走行することで、溝11に沿って移動可能である。
【0012】
図3に本実施形態の浮体構造物の築造方法を示す。
図3に示すように、浮体構造物の築造方法は、底部製作工程S1と、取水工程S2と、移動工程S3と、注水工程S4と、上部製作工程S5と、排水工程S6とを備えている。
図4および
図5に浮体構造物の築造方法の施工状況を示す。
【0013】
底部製作工程S1は、第一ドック21内において浮体構造物6の底部躯体61を構築する工程である。
図4(a)に示すように、底部製作工程では、止水扉3を閉じるとともに、第一ドック21内の水を排水して、第一ドック21内に水が無い状態で作業を行う。本実施形態では、底部躯体61の構築に伴い、底部躯体61の上面に側壁(上部躯体62)の一部を形成する。底部躯体61および上部躯体62によって形成された箱形の空間は水密に形成されている。底部製作工程S1では、浮体構造物6の高さ(底部躯体61の下面から上部躯体62の上端までの高さ)が、第二ドック22の水深よりも高くなるようにする。
【0014】
取水工程S2は、
図4(b)に示すように、止水扉3を開いて、第一ドック21内に水を取り込む工程である。第一ドック21に水を取り込むと、浮体構造物6に浮力が働き、浮体構造物6(底部躯体61)が水に浮いた状態となる。このとき、浮体構造物は、吊具53を介してクレーン5により吊持する。浮体構造物6は、底部躯体61の下面が底面20から離れる程度に浮いていればよい。
移動工程S3は、
図4(c)に示すように、浮体構造物6を第一ドック21から第二ドック22に移動させる工程である。浮体構造物6は、クレーン5を利用して移動させる。このとき、浮体構造物6は、水に浮いた状態であるため、移動させやすい。クレーン5をレール4に沿って沖側に移動させることで、浮体構造物6を第二ドック22に横移動させる。
【0015】
注水工程S4は、
図5(a)に示すように、浮体構造物6内に注水して、浮体構造物6を第二ドック22の底面20に着底させる工程である。浮体構造物6に注水する水の量は適宜決定する。
上部製作工程S5は、
図5(b)に示すように、第二ドック22内において、浮体構造物6(底部躯体61上)に上部躯体62(側壁)を増築する工程である。上部製作工程S5では、浮体構造物6の高さが、第三ドック23(沖側に隣接するドック2)の水深よりも高くなるように構築する。
排水工程S6は、浮体構造物6が水に浮く程度に、浮体構造物6内から水を排水する工程である。排水工程S6では、吊具53を介してクレーン5により浮体構造物6を吊持した状態で、排水を行う。なお、浮体構造物6内の水を全て排水してもよいし、一部のみを排水してもよい。
【0016】
浮体構造物6から水を排水して、浮体構造物6を水に浮かせたら、浮体構造物6を第三ドック23に移動させる(移動工程S3)。浮体構造物6は、クレーン5とともに移動させる。
第三ドック23では、浮体構造物6内に注水し、浮体構造物6を着底させる(注水工程S4)。
そして、浮体構造物6に上部躯体62を増築し、所定の形状の浮体構造物6を完成させる(上部製作工程S5)。
浮体構造物6が完成したら、浮体構造物6内から水を排水し、浮体構造物6を水に浮かせる(排水工程S6)。
完成した浮体構造物6は、
図5(c)に示すように、曳舟等により、所定の位置に移動させる。
【0017】
以上、本実施形態の浮体構造物製作ヤード1およびこの浮体構造物製作ヤード1を利用した浮体構造物の築造方法によれば、水域の沖側に向けて連続して構築された複数のドック2,2,2を利用して、浮体構造物6を段階毎に築造するため、必要最小限の用地により所望の形状の浮体構造物6を形成できる。そのため、ドック2の掘削の手間を低減し、かつ、掘削により生じる残土処分の量を低減できる。
また、浮体構造物6の移動を水に浮かせた状態で行うため、比較的簡易に移動させることができ、大掛かりなジャッキシステム、台車、台船やフローティングドックなどを省略できる。
浮体構造物6は、各ドック2の底面20に着底させた状態で構築するため、安定した状態で作業を行うことができる。
複数のドック2,2,2の両脇に沿って敷設された一対のレール4,4を走行するクレーン5を利用することで、浮体構造物6のドック2間の移動を簡易に行うことができる。
【0018】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
例えば、浮体構造物製作ヤード1において構築する浮体構造物6は、風力発電施設に限定されるものではない。
また、前記実施形態では、ドック2が3つの場合について説明したが、ドック2の数は、2つ以上であれば限定されるものではない。なお、ドック2が3つ以上ある場合には、移動工程S3、注水工程S4、上部製作工程S5および排水工程S6を繰り返すことにより、所望の形状の浮体構造物6を構築する。
【0019】
また、複数の浮体構造物6を各ドック2において同時に製造してもよい。すなわち、陸側のドック2(例えば、第一ドック21)から沖側のドック2(例えば、第二ドック22)に浮体構造物6を移動させて、当該浮体構造物6の増築を行うのに伴って、陸側のドック2内において別の浮体構造物6の築造を実施してもよい。こうすることで、複数の浮体構造物6を連続的に構築することができ、全体的な工期短縮化を図ることが可能となる。
また、前記実施形態では、陸地を掘ることにより複数のドック2,2,2を形成する場合について説明したが、ドック2は、水域に張り出した状態で形成してもよい。すなわち
図6に示すように、陸地の近傍において、水底を掘削あるいは、水底に底盤を形成することにより、段差を有した複数のドック2,2,2を形成してもよい。このとき、ドック2の側部に沿って矢板等を設置することで、側壁71を形成する。
【0020】
また、複数のドック2,2,2は、一部(例えば、第一ドック21)を陸地を掘ることにより形成し、残り(例えば、第二ドック22および第三ドック23)を水域に張り出して形成してもよい。
ドック2を水域に張り出して形成する場合には、
図6に示すように、水上に形成された桟橋7にレール4を敷設すればよい。
前記実施形態では、第一ドック21と第二ドック22との間に止水扉3が形成されている場合について説明したが、止水扉3を必要に応じて形成すればよい。例えば、第一ドック21で構築する浮体構造物6(底部躯体61等)の少なくとも一部を、第一ドック21の水深よりも高さが大きいプレキャスト部材とし、当該プレキャスト部材を第一ドック21に吊り込んで、残りの部分を水中で組みたてる場合には、止水扉3を省略してもよい。
【符号の説明】
【0021】
1 浮体構造物製作ヤード
11 溝
12 陸地部分
2 ドック
20 底面
21 第一ドック
22 第二ドック
23 第三ドック
3 止水扉
4 レール
5 クレーン
52 車輪
53 吊具
6 浮体構造物
61 底部躯体
62 上部躯体
7 桟橋