(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085881
(43)【公開日】2023-06-21
(54)【発明の名称】キレート材およびその製造方法、ならびにキレート材を備える水浄化装置
(51)【国際特許分類】
B01J 20/26 20060101AFI20230614BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20230614BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20230614BHJP
【FI】
B01J20/26 E
B01J20/30
C02F1/28 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200183
(22)【出願日】2021-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】豊田 慶
【テーマコード(参考)】
4D624
4G066
【Fターム(参考)】
4D624AA04
4D624AB14
4D624BA18
4D624BB01
4D624BB08
4D624BC01
4D624CA01
4G066AC12C
4G066AC22C
4G066AC28C
4G066BA09
4G066BA11
4G066BA20
4G066CA11
4G066DA08
4G066EA13
4G066FA03
4G066FA07
4G066FA21
4G066FA38
(57)【要約】
【課題】優れたイオン除去性および回収性を有しつつ、優れた耐久性を示す水浄化装置に用いるキレート材を提供する。
【解決手段】粒子と、該粒子の表面を被覆するキレート樹脂とを含んで成り、
前記キレート樹脂は、クラウンエーテル構造を有するキレート官能基を含み、式(a):
-CR1R2-CR3X-O-・・・(a)
[式(a)中、Xは、末端にアルコキシシリル基を有する有機基であり、R1~R3は、水素原子または炭化水素基である]
で表される繰り返し単位に由来し、
前記粒子は、シリカ粒子および/または樹脂粒子であり、前記アルコキシシリル基で表面修飾され、
前記粒子の平均粒径は、50nm~500μmであり、
前記繰り返し単位における前記アルコキシシリル基に由来する部分によって形成されるシロキサン結合および/またはC-O-Si結合により、前記キレート樹脂が前記粒子の表面と結合している、キレート材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子と、該粒子の表面を被覆するキレート樹脂とを含んで成り、
前記キレート樹脂は、クラウンエーテル構造を有するキレート官能基を含み、かつ一般式(a):
-CR1R2-CR3X-O-・・・(a)
[前記一般式(a)中、Xは、末端にアルコキシシリル基を有する有機基であり、R1、R2およびR3は、各々独立に、水素原子または炭化水素基であり、R1またはR2とXとは互いに結合していてもよい]
で表される繰り返し単位に由来し、
前記粒子は、シリカ粒子および樹脂粒子からなる群より選択される少なくとも1つであり、前記アルコキシシリル基で表面修飾されており、
前記粒子の平均粒径は、50nm以上500μm以下であり、
前記繰り返し単位における前記アルコキシシリル基に由来する部分によって形成されるシロキサン結合および/またはC-O-Si結合により、前記キレート樹脂が前記粒子の表面と結合している、キレート材。
【請求項2】
前記キレート官能基は、サイズの異なる前記クラウンエーテル構造を有する、請求項1に記載のキレート材。
【請求項3】
前記クラウンエーテル構造は、3~15の前記繰り返し単位が環状に結合する構造からなる群より選択される少なくとも1種の構造である、請求項1または2に記載のキレート材。
【請求項4】
前記一般式(a)中、R1、R2およびR3が水素原子であり、かつXが一般式(b):
-CH2O-Y ・・・(b)
[前記一般式(b)中、Yは、末端に前記アルコキシシリル基を有する一価の有機基である]
で表される、請求項1~3のいずれかに記載のキレート材。
【請求項5】
前記粒子が前記樹脂粒子を少なくとも含み、
前記樹脂粒子を構成する樹脂の主鎖骨格が水酸基を有する、請求項1~4のいずれかに記載のキレート材。
【請求項6】
前記樹脂粒子を構成する前記樹脂がポリビニルアルコールである、請求項5に記載のキレート材。
【請求項7】
前記粒子が前記シリカ粒子を少なくとも含み、
前記シリカ粒子が、溶融球状シリカ粒子、破砕シリカ粒子および結晶性シリカ粒子からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1~4のいずれかに記載のキレート材。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載のキレート材と、水の出入口を有する容器とを備え、
前記容器は、その容器内に前記キレート材を保持し、
前記キレート材に含まれる前記粒子の体積比率が前記キレート材の体積に対して10体積%以上80体積%以下である、水浄化装置。
【請求項9】
エポキシ基と末端にアルコキシシリル基とを有する化合物を含む液体に、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の少なくとも一方を溶解させてなる溶解液を用意する工程と、
前記溶解液を静置または加熱する工程と、
静置または加熱した前記溶解液をアルコールと混合して表面修飾液を用意する工程と、
前記表面修飾液と、平均粒径50nm以上500μm以下の樹脂粒子および/またはシリカ粒子とを接触させる工程と、
前記表面修飾液から前記アルコールを揮発させる工程と
を含んで成る、キレート材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キレート材およびその製造方法、ならびにキレート材を備える水浄化装置、特に液中に溶存するイオンの除去に用いるキレート材およびその製造方法ならびにキレート材を備える水浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業排水や生活排水の処理において、特に有価金属の回収除去にはキレート樹脂を含むキレート材を使用する精製過程が用いられる。キレート樹脂とは、樹脂中に特定の金属、または複数の金属を選択的に配位させることでこれらの金属を捕捉する官能基(すなわち金属キレート能を有する官能基:以下、キレート官能基とも称する)を有する樹脂である。様々な溶存有価金属種類にキレート樹脂を適用させる観点から、キレート官能基としては、例えば、ポリアミン基、イソチオニウム基、ジチオカルバミン酸基、イミノ二酢酸基、グルカミン基およびアミノリン酸基が挙げられる。カルシウムおよびストロンチウム等を効率良く除去することができるキレート樹脂にはアミノリン酸型キレート樹脂があり、電解法苛性ソーダ用原料に使用される塩水の脱イオンに使用される。さらに、アミノリン酸型キレート樹脂は金属の脱着やpH変動に伴う体積変化が小さく、キレート樹脂として広く使用されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
また、特許文献3では、アミノリン酸型キレート樹脂において、ハロゲンを10~20重量%含有する重合体の製造方法として芳香環にハロメチル基を結合した重合体のハロメチル基をアミノ化したのちにリン酸化することによりアミノリン酸型キレート樹脂を製造する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭51-35684号公報
【特許文献2】特開昭52-50391号公報
【特許文献3】特開平5-320233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような先行技術では、本発明者らが鋭意検討した結果、いずれも母体を有機系高分子骨格とし、金属キレート能を有する官能基もまた炭素-炭素結合で有機系高分子に結合しているため、特に寿命という観点では必ずしも満足のいくものが得られていないことが分かった。
【0006】
本発明はかかる課題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、従来のキレート材に要求される性質(優れた回収性およびイオン除去性)を保持しつつ、耐久性に優れるキレート材の提供を主たる目的とする。また、本発明は、そのようなキレート材の製造方法ならびにキレート材を備える水浄化装置の提供も主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様1は、
粒子と、該粒子の表面を被覆するキレート樹脂とを含んで成り、
前記キレート樹脂は、クラウンエーテル構造を有するキレート官能基を含み、かつ一般式(a):
-CR1R2-CR3X-O-・・・(a)
[前記一般式(a)中、Xは、末端にアルコキシシリル基を有する有機基であり、R1、R2およびR3は、各々独立に、水素原子または炭化水素基であり、R1またはR2とXとは互いに結合していてもよい]
で表される繰り返し単位に由来し、
前記粒子は、シリカ粒子および樹脂粒子からなる群より選択される少なくとも1つであり、前記アルコキシシリル基で表面修飾されており、
前記粒子の平均粒径は、50nm以上500μm以下であり、
前記繰り返し単位における前記アルコキシシリル基に由来する部分によって形成されるシロキサン結合および/またはC-O-Si結合により、前記キレート樹脂が前記粒子の表面と結合している、キレート材である。
【0008】
本発明の態様2は、
前記キレート官能基は、サイズの異なる前記クラウンエーテル構造を有する、態様1に記載のキレート材である。
【0009】
本発明の態様3は、
前記クラウンエーテル構造は、3~15の前記繰り返し単位が環状に結合する構造からなる群より選択される少なくとも1種の構造である、態様1または2に記載のキレート材である。
【0010】
本発明の態様4は、
前記一般式(a)中、R1、R2およびR3が水素原子であり、かつXが一般式(b):
-CH2O-Y ・・・(b)
[前記一般式(b)中、Yは、末端に前記アルコキシシリル基を有する一価の有機基である]
で表される、態様1~3のいずれかに記載のキレート材である。
【0011】
本発明の態様5は、
前記粒子が前記樹脂粒子を少なくとも含み、
前記樹脂粒子を構成する樹脂の主鎖骨格が水酸基を有する、態様1~4のいずれかに記載のキレート材である。
【0012】
本発明の態様6は、
前記樹脂粒子を構成する前記樹脂がポリビニルアルコールである、態様5に記載のキレート材である。
【0013】
本発明の態様7は、
前記粒子が前記シリカ粒子を少なくとも含み、
前記シリカ粒子が、溶融球状シリカ粒子、破砕シリカ粒子および結晶性シリカ粒子からなる群より選択される少なくとも1種を含む、態様1~4のいずれかに記載のキレート材である。
【0014】
本発明の態様8は、
態様1~7のいずれかに記載のキレート材と、水の出入口を有する容器とを備え、
前記容器は、その容器内に前記キレート材を保持し、
前記キレート材に含まれる前記粒子の体積比率が前記キレート材の体積に対して10体積%以上80体積%以下である、水浄化装置である。
【0015】
本発明の態様9は、
エポキシ基と末端にアルコキシシリル基とを有する化合物を含む液体に、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の少なくとも一方を溶解させてなる溶解液を用意する工程と、
前記溶解液を静置または加熱する工程と、
静置または加熱した前記溶解液をアルコールと混合して表面修飾液を用意する工程と、
前記表面修飾液と、平均粒径50nm以上500μm以下の樹脂粒子および/またはシリカ粒子とを接触させる工程と、
前記表面修飾液から前記アルコールを揮発させる工程と
を含んで成る、キレート材の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、優れた回収性およびイオン除去性を保持しつつ、耐久性に優れるキレート材を提供することができる。また、本発明は、そのようなキレート材の製造方法およびそのようなキレート材を備える水浄化装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、および実施例1における溶解液の全反射フーリエ変換赤外吸収(FTIR)スペクトルを示す。
【
図2】
図2は、実施例1において、溶解液をガラス製スクリュー管瓶内において温度60℃および湿度60%RHの環境において24時間で静置させて得た褐色高粘度の溶解液のマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析(MALDI-TOFMS)スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態であるキレート材およびその製造方法、ならびにキレート材を備える水浄化装置について詳細に説明する。
【0019】
本明細書で言及する数値範囲は、「未満」、「より大きい」および「より小さい」のような特段の用語が付されない限り、数値範囲の臨界値(下限値および上限値)そのものも含むことを意図している。例えば、1~10といった数値範囲を例にとれば、特段の用語が付されない限り、その数値範囲は下限値「1」および上限値「10」を含むものとして解釈される。
また、下限値のみで記載されている複数の数値範囲(例えば、1以上、10以上)から選択される1つの数値範囲(例えば、1以上)と、上限値のみで記載されている複数の数値範囲(例えば、300以下、100以下)から選択される1つの数値範囲(例えば、100以下)とを組み合わせてもよい(例えば、1以上100以下)。
【0020】
以下、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数1~3のアルキル基、炭素原子数1~3のアルコキシ基、炭素原子数1~9のアルコキシシリル基、炭素原子数1~3のアルキレン基、炭素原子数5~7のシクロアルキル基およびシクロアルカン環は、何ら規定していなければ、それぞれ次の意味である。
【0021】
炭素原子数1~6のアルキル基は、直鎖状または分岐鎖状で非置換である。炭素原子数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基およびヘキシル基が挙げられる。
【0022】
炭素原子数1~3のアルキル基は、直鎖状または分岐鎖状で非置換である。炭素原子数1~3のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基およびイソプロピル基が挙げられる。
【0023】
炭素原子数1~3のアルコキシ基は、直鎖状または分岐鎖状で非置換である。炭素原子数1~3のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基およびイソプロポキシ基が挙げられる。
【0024】
炭素原子数1~9のアルコキシシリル基は、分岐鎖状で非置換の基であって、ケイ素原子Siに1つ~3つの炭素原子数1~3のアルコキシ基が結合した基である。炭素原子数1~9のアルコキシシリル基としては、例えば、トリメトキシシリル基、ジメトキシシリル基、メトキシシリル基、トリエトキシシリル基、ジエトキシシリル基、エトキシシリル基、トリn-プロポキシシリル基、ジn-プロポキシシリル基、n-プロポキシシリル基、トリイソプロポキシシリル基、ジイソプロポキシシリル基およびイソプロポキシシリル基が挙げられる。ケイ素原子に1つまたは2つのアルコキシ基が結合したアルコキシシリル基は、さらにケイ素原子に結合した他の基(より具体的には、水酸基および炭素原子数1~3のアルキル基からなる群より選択される1つまたは2つの基等)を有してもよい。
【0025】
炭素原子数1~3のアルキレン基は、直鎖状または分岐鎖状で非置換の2価の基である。炭素原子数1~3のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基およびイソプロピレン基が挙げられる。
【0026】
炭素原子数5~7のシクロアルキル基は、環状で非置換である。炭素原子数5~7のシクロアルカン基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基およびシクロへプチル基が挙げられる。
【0027】
シクロアルカン環としては、例えば、炭素原子数5~7のシクロアルカン環(より具体的には、シクロペンタン環、シクロヘキサン環およびシクロへプタン環)が挙げられる。
【0028】
<第1実施形態:キレート材>
本発明の第1実施形態に係るキレート材は、
粒子と、該粒子の表面を被覆するキレート樹脂とを含んで成り、
前記キレート樹脂は、クラウンエーテル構造を有するキレート官能基を含み、かつ一般式(a):
-CR1R2-CR3X-O-・・・(a)
[前記一般式(a)中、Xは、末端にアルコキシシリル基を有する有機基であり、R1、R2およびR3は、各々独立に、水素原子または炭化水素基であり、R1またはR2とXとは互いに結合していてもよい]
で表される繰り返し単位に由来し、
前記粒子は、シリカ粒子および樹脂粒子からなる群より選択される少なくとも1つであり、前記アルコキシシリル基で表面修飾されており、
前記粒子の平均粒径は、50nm以上500μm以下であり、
前記繰り返し単位における前記アルコキシシリル基に由来する部分によって形成されるシロキサン結合および/またはC-O-Si結合により、前記キレート樹脂が前記粒子の表面と結合している。
【0029】
第1実施形態に係るキレート材では、キレート樹脂はクラウンエーテル構造を有するキレート官能基を含む。また、キレート樹脂によって被覆される粒子の平均粒径が50nm~500μmであるため、繰り返し単位におけるアルコキシシリル基により粒子表面を均一に表面修飾処理することができ、かつ粒子表面の比表面積が適度に大きいため、より多くのキレート樹脂によって粒子表面を被覆できる。キレート材は、金属イオンとキレートを形成して金属イオンを捕捉するキレート能に優れる。このため、第1実施形態に係るキレート材は優れた回収性およびイオン除去性を有する。
さらに、繰り返し単位におけるアルコキシシリル基によって形成されるシロキサン結合および/またはC-O-Si結合によりキレート樹脂が粒子の表面と結合している。このようにキレート樹脂が粒子表面に強固に固定されているため、優れた耐久性を有する。
以上から、第1実施形態に係るキレート材は、優れた回収性およびイオン除去性を保持しつつ、耐久性に優れる。
【0030】
第1実施形態に係るキレート材は、粒子と、該粒子の表面を被覆するキレート樹脂とを含んで成る。
【0031】
(キレート樹脂)
キレート樹脂は、キレート官能基を含む。キレート官能基は、2つの炭素原子と1つの酸素原子とがこの順で繰り返し環状に結合している環状ポリエーテル構造(より具体的には、クラウンエーテル構造)を有する。クラウンエーテル構造は、後述の一般式(a)で表される繰り返し単位が複数環状に結合することで構成され得る。このようにキレート官能基はクラウンエーテル構造を有するため、金属イオンとキレートを形成して金属イオンを捕捉するキレート能を有する。
【0032】
なお、キレート樹脂の製造方法は、後述のキレート材の製造方法(第2実施形態)にて詳述するが、簡潔に説明すると、例えば、エポキシ基と末端にアルコキシ基とを有する化合物を開環重合して、クラウンエーテル構造を有するアルコキシシラン(以下、キレート能含有アルコキシシランまたはイオン感応物質とも称する)を調製する。次いで、キレート能含有アルコキシシランを粒子表面と反応させて、シロキサン結合および/またはSi-O-C結合を介して粒子表面と結合させる。このようにしてキレート樹脂を製造する。
【0033】
キレート樹脂は、一般式(a):
-CR1R2-CR3X-O-・・・(a)
[一般式(a)中、Xは、末端にアルコキシシリル基を有する有機基であり、R1、R2およびR3は、各々独立に、水素または炭化水素基であり、R1またはR2とXとは互いに結合していてもよい]
で表される繰り返し単位に由来する。
【0034】
一般式(a)で表される繰り返し単位の数は、例えば、4以上の整数である。繰り返し単位数が4以上の整数である場合、キレート能含有アルコキシシランが有する末端のアルコキシ基を多く(少なくとも4つ以上)確保することができ、キレート樹脂と粒子表面との結合の数を増加させることができる。よって、粒子の表面へのキレート樹脂の固定をより強固のものとすることができる。これにより、例えば、粒子の表面からのキレート樹脂の脱落を抑制できる。
また、前記繰り返し単位の数は、例えば、15以下の整数であり、好ましくは12以下の整数であり、より好ましくは10以下の整数であり、さらに好ましくは6以下の整数である。前記繰り返し単位の数が15以下の整数である場合、キレート官能基の有するクラウンエーテル構造のサイズが、例えば、海水や自然環境に存在する水中の主要なカチオン(より具体的には、ナトリウムイオン、カリウムイオンおよびカルシウムイオン等)を捕捉するのに好適なサイズとすることができる。特に前記繰り返し単位の数が6以下の整数である場合は、より重要なカチオン(より具体的には、カリウムイオンおよびナトリウムイオン等)の捕捉に適している。
【0035】
また、キレート樹脂は、多種のカチオンを捕捉することができる観点から、異なるサイズのクラウンエーテル構造を有することが好ましい。一方、キレート樹脂は、特定のカチオンを捕捉するイオン選択性を高める観点から、略均一なサイズのクラウンエーテル構造を有することが好ましい。
【0036】
クラウンエーテル構造は、3~15(または、3~12、4~12もしくは4~10)の一般式(a)で表される繰り返し単位が環状に結合する構造からなる群より選択される少なくとも1種の構造であってもよい。
【0037】
一般式(a)中、R1、R2およびR3が示す炭化水素基としては、例えば、炭素原子数1~6のアルキル基であり、好ましくは炭素原子数1~3のアルキル基である。R1、R2およびR3は、好ましくは水素原子である。R1またはR2とXとは互いに結合していてもよく、互いに結合してシクロアルカン環を形成してもよい。例えば、R2およびR3が水素原子であり、一般式(a)で表される繰り返し単位の主鎖を構成する2つのC(炭素原子)と、R1およびXとが互いに結合して共にシクロヘキサン環を形成してもよい。
【0038】
一般式(a)中、Xが示す「末端にアルコキシシリル基を有する有機基」は、例えば、炭化水素基(より具体的には、炭素原子数1~3のアルキレン基等)の末端にアルコキシシリル基が結合した「アルコキシシリルアルキレン基」である。Xが示す有機基が有するアルコキシリル基は、ケイ素原子に結合する1つ~3つのアルコキシ基を有する。Xが示す有機基が有するアルコキシリル基としては、例えば、炭素原子数1~9のアルコキシリル基が挙げられ、反応性を向上させる観点から、好ましくはトリメトキシシリル基、ジメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、およびジエトキシシリル基であり、より好ましくはトリメトキシシリル基およびジメトキシシリル基である。
【0039】
一般式(a)中、Xが示す「末端にアルコキシシリル基を有する有機基」としては、例えば、一般式(b):
-CH2O-Y ・・・(b)
[一般式(b)中、Yは、末端に前記アルコキシシリル基(すなわち、一般式(a)中のXが有するアルコキシシリル基)を有する一価の有機基である]
で表される。
一般式(a)中、Xが一般式(b)で表され、かつR1、R2およびR3が水素原子である場合、キレート材の製造において、エポキシ基と末端にアルコキシシリル基を有する化合物を開環重合させて環状構造(より具体的には、クラウンエーテル構造)が安定して形成されやすい。
【0040】
一般式(b)中、Yが示す「末端にアルコキシシリル基を有する一価の有機基」は、1もしくは複数の二重結合および/または1もしくは複数の三重結合を有してもよい2価の炭化水素基の末端にアルコキシシリル基が結合した基であってもよい。すなわち、Yは、一般式(c):
-CnH2n-2m-4fSiR5
3-g(OR6)g・・・(c)
[一般式(c)中、nは0~8の整数であり、mは-CnH2n-2m-4fで表される炭化水素中の二重結合の数および環構造の数の合計であり、fは当該炭化水素中の三重結合の数であり、gは1~3の整数であり、
R5は、炭素原子数1~6のアルキル基、フェニル基および炭素原子数5~7のシクロアルキル基からなる群より選択される1つの基であり、gが2である場合、2つのR5は互いに同一であっても異なっていてもよく、1もしくは複数のR6のうちの少なくとも1つのR6は炭素原子数1~6のアルキル基であり、gが2または3である場合、残りのR6はフェニル基および炭素原子数5~7のシクロアルキル基からなる群より選択される1つの基であり得、R5およびR6は、互いに同一であっても異なっていてもよい]
であってもよい。
【0041】
一般式(c)中、nが8以下の整数である場合、シリカ粒子および/または樹脂粒子の表面を修飾しやすい観点から好ましい。nは、好ましくは3以上の整数である。nが3以上の整数である場合、キレート材の製造において、エポキシ樹脂同士が開環重合する際に、Si(シリコン)原子との所定の距離を確保することで、Si原子に結合しているOR6基(例えば、アルコキシル基)による立体障害を抑制しやすい。
【0042】
一般式(c)中、gは1~3の整数であるが、gが小さいほど、キレート材の製造においてキレート能含有アルコキシシラン同士の重合および凝集をさらに抑制することができる。また、gが大きいほど、キレート樹脂の粒子表面への結合力を高めることができる。キレート能含有アルコキシシラン同士の重合および凝集、ならびにキレート樹脂の粒子表面への高い結合力を両立できる観点から、gは2であることが好ましい。
【0043】
一般式(c)中、mおよびfが0である場合、当該炭化水素基-CnH2n-2m-4f-はアルキレン基となる。このようなアルキレン基としては、例えば、炭素原子数1~3のアルキレン基が挙げられ、好ましくは直鎖状の炭素原子数1~3のアルキレン基であり、より好ましくはn-プロピレン基である。
【0044】
また、一般式(c)中、mおよびfが0である場合、一般式(b)中のYは、アルコキシシリルアルキレン基となる。このようなアルコキシシリルアルキレン基としては、例えば、炭素原子数1~3のアルキレン基の末端に炭素原子数1~9のアルコキシリル基が結合した基である。Yは、好ましくは、トリメトキシシリル基、ジメトキシシリル基、メトキシシリル基、トリエトキシシリル基、ジエトキシシリル基およびエトキシシリル基からなる群より選択された1つのアルコキシシリル基と、直鎖状の炭素原子数1~3のアルキレン基とが結合した基であり、より好ましくはトリメトキシシリル基、ジメトキシシリル基またはメトキシシリル基と、n-プロピレン基とが結合した基(すなわち、トリメトキシシリルn-プロピレン基、ジメトキシシリルn-プロピレン基およびメトキシシリルn-プロピレン基)である。
【0045】
一般式(c)中、R5およびR6は、キレート材の製造において一般式(a)で表される繰り返し単位中のアルコキシシリル基が加水分解し易く、粒子表面とシロキサン結合を形成しやすい点で、メチル基およびエチル基を好適に使用できる。
【0046】
(粒子)
粒子は、シリカ粒子または樹脂粒子からなる群より選択される少なくとも1つである。
表面修飾される樹脂粒子を構成する樹脂の種類としては、例えば、その構造中に水酸基を有する樹脂およびその誘導体(より具体的には、エステル)が挙げられる。このような水酸基を有する樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂(より具体的には、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、ポリエチルアクリル酸およびポリプロピルアクリル酸等)、ポリ-N-メチロールアクリルアミド、ポリ―4-ε-メチルカプロラクトン、ポリエチレングリコールデシルエーテル、ポリエチレングリコールエチルエーテル、ポリエチレングリコールメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノベンジルエーテル、ポリエチレングリコール、ならびにポリテトラヒドロフランが挙げられる。これらの水酸基を有する樹脂の中でも、例えば、ポリビニルアルコールのように、その主鎖骨格が水酸基を有する樹脂が好ましい。
【0047】
シリカ粒子の種類としては、例えば、溶融球状シリカ粒子、破砕シリカ粒子および結晶性シリカ粒子からなる群より選択される少なくとも1種を含む。これらは単独であってもよく、またはこれらを複数組み合わせてもよい。これらシリカ粒子の中でも、形状が安定しており、品質管理が行いやすいという観点から、好ましくは溶融球状シリカである。
【0048】
樹脂粒子およびシリカ粒子の平均粒径は、50nm以上であり、好ましくは1μm以上である。一方当該平均粒径は500μm以下であり、好ましくは、20μm以下である。
当該平均粒径が50nm以上である場合、粒子同士の凝集力が過度に強くなることを抑制し、その表面をキレート能含有アルコキシシランで均一に処理することができる。一方、当該平均粒径が500μm以下である場合、粒子の比表面積を大きくして、粒子表面に表面修飾するキレート能含有アルコキシシランの量を増加させ、キレート材の金属イオンを捕捉する能力を向上させることができる。500μmより大きくなると、比表面積が十分でなく、イオン除去の処理能力が低下する。このように粒子の平均粒径により粒子の表面積を増加させることで、粒子の単位体積および単位重量当たりの、粒子表面に結合するクラウンエーテル構造の数を増加させている。その結果、キレート剤のキレート能(より具体的には、精製能力等)を向上させている。
【0049】
本明細書における「平均粒径」とは、体積標準で算出されたメジアン径(体積中位径D50)のことをいう。体積中位径D50は、下記の方法により測定が可能である。詳しくは、樹脂粒子またはシリカ粒子を水に分散させ、動的光散乱粒度分布計でその粒度分布を測定する。得られた粒度分布に基づいて積算%の分布曲線を作成したとき、50%の横軸と交差するポイントの粒子径として体積中位径を算出することができる。
なお、本実施形態に係るキレート材は、樹脂粒子および/またはシリカ粒子に、キレート樹脂を単一分子層(より具体的には、キレート樹脂の分子鎖1つ分の厚みを有する層)で被覆したものとすることができる。キレート樹脂の被覆膜は母体粒子の平均粒径に比べ非常に小さいため、キレート材の平均粒径は母体となる樹脂粒子またはシリカ粒子の平均粒径に近似することができる。
【0050】
粒子は、その表面をキレート樹脂により被覆されており、繰り返し単位中のアルコキシシリル基で表面修飾されている。粒子の表面は、繰り返し単位における前記アルコキシシリル基に由来する部分によって形成されるシロキサン結合および/またはC-O-Si結合により、キレート樹脂と結合している。このようにキレート樹脂は、シロキサン結合および/またはC-O-Si結合を介して、粒子表面と結合している。このため、キレート樹脂は、粒子表面に化学的に安定して固定されるため、キレート材は耐久性に優れる。例えば、キレート樹脂の前駆体である「キレート能含有アルコキシシラン」では、クラウンエーテル構造から延在する側鎖として側鎖の末端にアルコキシシリル基を有する有機基が複数存在してもよい。キレート能含有アルコキシシランの前記アルコキシシリル基の少なくとも一部が反応して樹脂粒子および/またはシリカ粒子の表面に結合する。より具体的には、キレート能含有アルコキシシランでは、末端のアルコキシシリル基の一部のアルコキシ基が加水分解してシラノール基を有することがある。一方、粒子がシリカ粒子である場合、シリカ粒子の表面にはシラノール基が存在するため、キレート能含有アルコキシシランのシラノール基がシリカ粒子表面のシラノール基と脱水縮合反応して、シロキサン結合が形成される。また、樹脂粒子を構成する樹脂が水酸基を有する場合、キレート能含有アルコキシシランのシラノール基がシリカ粒子表面の水酸基と脱水縮合反応して、C-O-Si結合が形成される。このように、前駆体のキレート能含有アルコキシシランが粒子の表面と特定の結合を形成し、キレート樹脂が粒子表面に強固に固定される。よって、キレート樹脂は粒子表面から脱離しにくく、キレート材としての表面修飾粒子がキレート能を維持することができる。このように前記表面修飾粒子は、表面に結合されたキレート官能基によって金属イオンとキレート形成能を示すため、キレート材として使用できる。
【0051】
<第2実施形態:キレート材の製造方法>
本発明の第2実施形態に係るキレート樹脂の製造方法は、
(A)エポキシ基と末端にアルコキシシリル基とを有する化合物を含む液体に、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の少なくとも一方を溶解させてなる溶解液を用意する工程(以下、(A)溶解液用意工程または工程(A)とも称する)と、
(B)前記溶解液を静置または加熱する工程((B)加熱/静置工程または工程(B)とも称する)と、
(C)静置または加熱した前記溶解液をアルコールと混合して表面修飾液を用意する工程(以下、(C)表面修飾液用意工程または工程(C)とも称する)と、
(D)前記表面修飾液と、平均粒径50nm以上500μm以下の樹脂粒子および/またはシリカ粒子とを接触させる工程(以下、(D)接触工程または工程(D)とも称する)と、
(E)前記表面修飾液から前記アルコールを揮発させて、キレート材を生成する工程((E)揮発工程または工程(E))と
を含んで成る。
【0052】
以下各工程について説明する。
[(A)溶解液用意工程]
(A)溶解液用意工程では、エポキシ基と、末端にアルコキシシリル基とを有する化合物を含む液体に、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を溶解させてなる溶解液を用意する。
【0053】
エポキシ基と末端にアルコキシシリル基とを有する化合物は、例えば、一般式(d):
G-Y・・・(d)
[一般式(d)中、Gはエポキシ基を有する官能基であり、Yは、一般式(c):
CnH2n-2m-4fSiR5
3-g(OR6)g・・・(c)
[一般式(c)中、nは0~8の整数であり、mは-CnH2n-2m-4fで表される炭化水素中の二重結合の数及び環構造の数の合計であり、fは前記炭化水素中の三重結合の数であり、gは1~3の整数であり、
R5は、炭素原子数1~6のアルキル基、フェニル基および炭素原子数5~7のシクロアルキル基からなる群より選択される1つの基であり、gが2である場合、2つのR5は互いに同一であっても異なっていてもよく、1もしくは複数のR6のうちの少なくとも1つのR6は炭素原子数1~6のアルキル基であり、gが2または3である場合、残りのR6はフェニル基および炭素原子数5~7のシクロアルキル基からなる群より選択される1つの基であり得、R5およびR6は、互いに同一であっても異なっていてもよい]
である]
で表される。
【0054】
一般式(d)中、Gが示すエポキシ基を有する官能基としては、例えば、グリシドキシ基およびエポキシシクロヘキシル基が挙げられる。これらの中でもGは、開環重合した際に環状構造を得やすいという観点から、好ましくはグリシドキシ基である。
【0055】
一般式(c)は、第1実施形態における一般式(c)と同義である。
gは、1以上3以下の整数である。gが小さいほど、後述する工程(B)で生成されるキレート能含有アルコキシシラン同士の重合および凝集を抑制できる。一方、gが大きい程、後述する工程(C)で生成されるキレート能含有アルコキシシランのシリカ粒子表面への結合力を高めることができる。キレート能含有アルコキシシラン同士の重合・凝集の抑制およびシリカ粒子表面への結合性を両立できるという観点から、gは2であることが好ましい。
【0056】
エポキシ基と末端にアルコキシシリル基とを有する化合物としては、例えば、3―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3―グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3―グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3―グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3―グリシドキシオクチルトリメトキシシラン、3―グリシドキシオクチルメチルジメトキシシラン、3―グリシドキシオクチルトリエトキシシラン、3―グリシドキシオクチルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)トリエトキシシラン、および2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルジエトキシシランが挙げられる。エポキシ基と末端にアルコキシシリル基とを有する化合物は、これらの化合物の1種を単独で使用してもよく、または2種以上を組み合わせて混合物として使用してもよい。
【0057】
アルカリ金属塩(第1族元素の塩)またはアルカリ土類金属塩(第2族元素の塩)は、特に限定されないが、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の陽イオンと、陰イオンとの組み合わせからなる。アルカリ金属の陽イオンとしては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンが挙げられ、アルカリ土類金属の陽イオンとしては、例えば、マグネシウムイオン、カルシウムイオンおよびストロンチウムイオンが挙げられる。陰イオンとしては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、ヘキサフルオロヒ酸イオン(AsF6
-)およびヘキサフルオロリン酸イオン(PF6
-)が挙げられる。これらアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の中でも、電子吸引性が高く、エポキシ基の開環重合を誘起し易いという観点から、好ましくはリチウム塩、ナトリウム塩およびカリウム塩である。さらにエポキシ基と末端にアルコキシシリル基とを有する化合物への溶解性が高いという観点から、より好ましくは過塩素酸リチウム、トリフルオロ酢酸ナトリウムおよびよう化カリウムである。
【0058】
アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の添加量は、エポキシ基と末端にアルコキシシリル基とを有する化合物のモル量に対するアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩のモル量の比を0.165以上とすることが好ましい。これにより、エポキシ基と、末端にアルコキシシリル基とを有する化合物の、エポキシ基の開環を十分促進することができる。
【0059】
[(B)静置/加熱工程]
(B)静置/加熱工程では、溶解液を静置または加熱する。詳しくは、アルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩の陽イオンにより、エポキシ基と末端にアルコキシシリル基とを有する化合物のエポキシ基が開環して環状に重合し、クラウンエーテル構造が形成される。その結果、クラウンエーテル構造を有するアルコキシシラン(すなわち、キレート能含有アルコキシシラン)が生成される。クラウンエーテル構造中の酸素原子からの配位結合によりキレートが形成され、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンが捕捉され得る。
【0060】
工程(B)の静置または加熱する時間としては、20分以上とするのが好ましい。より好ましくは30分以上、1時間以上、24時間以上、100時間以上である。これにより、エポキシ基の開環重合反応が進行するため、キレート能含有アルコキシシランをより多く得ることができる。また、後述する工程(D)の前に末端のアルコキシシリル基の加水分解および脱水縮合反応が進まないようにするために、好ましくは500時間以下であり、より好ましくは200時間以下である。
【0061】
工程(B)の静置または加熱する温度は、20℃以上とするのが好ましい。また、高温とすることでエポキシ基の開環重合反応をより短時間で進行させることができ、より好ましくは23℃以上、40℃以上、60℃以上である。一方で、後述する工程(E)の前に末端のアルコキシシリル基の加水分解および脱水縮合反応の進行を抑制するために、90℃以下とすることが好ましい。工程(B)の湿度は特に限定されず、例えば大気下であってもよい。本工程により、溶解液は粘度の高い液体となる。
【0062】
キレート能含有アルコキシシランとしては、例えば、工程(A)で述べたエポキシ基と末端にアルコキシシリル基とを有する化合物が開環重合して得られる生成物であり、より具体的には[化1]および[化2]で表される化合物が挙げられる。なお、キレート能含有アルコキシシランは、前記生成物のアルコキシシリル基の一部が加水分解してシラノール基を有してもよい。
【0063】
【0064】
【0065】
[(C)表面修飾液用意工程]
(C)表面修飾液用意工程では、工程(B)で静置または加熱した溶解液をアルコールと混合して表面修飾液を用意する。工程(B)では、エポキシ基が環状に重合したクラウンエーテル構造を有する化合物の他、エポキシ基が直鎖状に重合した分子量の大きい化合物も形成され得る。このため、表面修飾液の粘度が高く、作業性が低下し、後の工程で扱いにくくなることがある。かかる場合、工程(B)では、得られた表面修飾液に所定量のアルコールを添加して、粘度を調整してもよい。これにより、表面修飾液の粘度を低下させて、作業性を向上させることができ、以降の工程で扱いやすい表面修飾液となる。
【0066】
具体的には溶解液に所定量のアルコールを添加すると、アルコールが上層、溶解液が下層に分離する。この状態で静置すると、粘度の高い液体はアルコールと混合していき、表面修飾液となる。
【0067】
溶解液にアルコールを添加した後の静置時間としては、例えば、24時間以上36時間以下とすることが好ましい。静置時間を24時間以上とすることで、希釈を十分に行うことができる。また、静置時間を36時間以下とすることで、粘度の高い液体が十分に希釈され、生産性を向上させることができる。アルコールとしては、例えば、炭素原子数1~5のモノアルコール(より具体的には、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、およびシクロヘキサノール等)のような一価のアルコール、ならびにエチレングリコールおよびグリセロールのような多価のアルコールが挙げられる。
【0068】
溶解液にアルコールを添加した後の静置する温度としては、特に限定されないが、キレート能含有アルコキシシランのアルコキシシリル基の加水分解および脱水縮合反応の進行を抑制する観点から、80℃以下とすることが好ましく、またアルコールの揮発を抑制するため、静置する期間中、密閉することが好ましい。
【0069】
上記表面修飾液には、後述する樹脂粒子やシリカ粒子への表面修飾を促進する目的で、静置後に酸や塩基を所定量添加することもできる。
【0070】
[(D)接触工程]
(D)接触工程では、前記表面修飾液と、平均粒径50nm以上500μm以下の樹脂粒子および/樹脂粒子および/またはシリカ粒子とを接触させる。接触方法としては、特に限定されないが、シランカップリング剤により粒子を表面修飾する公知の方法と同様とすることができる。例として、樹脂粒子およびシリカ粒子の表面に対して、表面修飾液をスプレーなどで噴霧する方法、または表面修飾液中に樹脂粒子およびシリカ粒子を浸漬して攪拌する方法が挙げられる。この際、キレート能含有アルコキシシランの分子が有するアルコキシ基が、粒子がシリカ粒子である場合にはシリカ粒子表面のシラノール基と、また粒子が樹脂粒子である場合にはヒドロキシ基と反応して、シロキサン結合またはC-O-Si結合が形成される。これにより、キレート樹脂が粒子表面に固定されることとなる。
【0071】
[(E)揮発工程]
(E)揮発工程では、表面修飾液からアルコールを揮発させて、キレート材を生成する。工程(D)で得た表面修飾液から工程(C)で添加したアルコールを揮発させることで本発明の第1実施形態に係るキレート材を得ることができる。揮発方法としては、特に限定されないが、例えば、室温(例えば、20℃)で放置する方法、および室温~100℃程度の恒温槽内で加熱乾燥させる方法が挙げられる。
【0072】
<第3実施形態:水浄化装置>
本発明の第3実施形態に係る水浄化装置は、
第1実施形態に係るキレート材と、水の出入口を有する容器とを備え、
前記容器は、その容器内に前記キレート材を保持し、
前記キレート材に含まれる前記粒子の体積比率が前記キレート材の体積に対して10体積%以上80体積%以下である。
【0073】
第3実施形態に係る水浄化装置は、キレート能を有するキレート樹脂を容器内に保持する。このため、水の出入口を介して容器内へ洗浄する水が投入されると、その水中に含まれる金属イオンがキレート材によるキレート能で補足され、十分に除去される。その結果、水の出入口を介して回収された処理水には、金属イオンの濃度が大幅に低下し、水が浄化される。第3実施形態に係る水浄化装置では、キレート樹脂が樹脂粒子および/またはシリカ粒子の表面に、シロキサン結合および/またはS-O-C結合により強固に固定され、且つ、キレート樹脂はより多くのシロキサン結合および/またはS-O-C結合によって樹脂粒子および/またはシリカ粒子の表面に結合されている。このため、キレート樹脂は粒子表面から脱落しにくく、繰り返し水の浄化を行っても水の浄化能を維持することができ、十分な耐久性をもった水浄化装置とすることができる。
【0074】
第3実施形態に係る水浄化装置は、第1実施形態に係るキレート材と、水の出入口を有する容器とを備える。容器の材質は、耐水性を有していれば特に限定されず、例えば、樹脂製、ガラス製、および金属製が挙げられる。
容器は、その容器内にキレート材を保持する。容器は水の出入口を有する。水の出入口は、水の出口と入口とが兼用であっても、それぞれ専用であってもよい。この水の出入り口を介して、水浄化対象の水を容器へ投入し、水浄化処理後の水を回収する。容器は、水の出入口とは別の出入り口を有してもよい。例えば、別の出入り口を介してキレート材を容器内に投入できる。
【0075】
別の出入口は、好ましくは蓋を設置できる構造を有する。例えば、別の出入り口を介してキレート材を容器内に投入した後に、蓋を別の出入り口に設置することができる。
【0076】
キレート材に含まれる粒子の体積比率Vrがキレート材の体積に対して10体積%以上80体積%以下である。体積比率が10体積%未満である場合、浄化する水と接触するキレート材の表面積が小さく十分な浄化ができない。一方、体積比率が80体積%より大きいと、浄化する水の出入りが行いにくく、浄化効率が低下する。水浄化装置の浄化能および浄化効率を両立する観点から、体積比率は好ましくは50体積%以上74体積%以下である。
【0077】
体積比率Vr(単位:体積%)は、数式1:
【数1】
[数式1中、Vはキレート樹脂が容器内で占める体積であり、sはキレート樹脂の樹脂粒子またはシリカ粒子の真比重であり、Wはキレート樹脂の重量である]
で表される。
【0078】
(水浄化装置の製造方法)
第3実施形態に係る水浄化装置の製造方法は、例えば、
(F)水の出入口を有する容器に、キレート材を投入する工程(以下、(F)投入工程または工程(F)とも称する)と、
(G)水の出入口にキレート材の漏洩防止用のフィルターを設置する工程(以下、(G)設置工程または工程(G)とも称する)と
を含んで成る。
【0079】
[(F)投入工程]
(F)投入工程では、第1実施形態に係るキレート材を、水の出入口を有する容器に投入する。キレート材を水の出入口を介して投入してもよいし、または水浄化装置が別途キレート材を投入するための、水の出入口とは別の出入口を有する場合には、キレート材を別の出入口を介して投入してもよい。
【0080】
キレート材の投入量は、[数式1]で表される体積比率Vrによって決定することができる。すなわち、キレート材が乾燥している状態で容器を静置し、キレート材の粒子群(粉体)が容器内において重力方向と反対方向に積みあがった状態とした際、キレート樹脂の粒子群が積みあがっている領域内において、キレート材の粒子の体積比率が10体積%以上80体積%以下となるように、キレート材の投入量を調整することができる。
キレート樹脂を構成する粒子が単一な粒径のものではなく、分布を持った大小の粒径が混在したものであるため、単一粒径の場合の理論上の体積比率74体積%より大きくすることが可能となる。かかる場合、粒子同士が接触してできる隙間に粒径の比較的小さい粒子を充填して粒子表面を増加できるため、より多くのイオンを除去できる。
【0081】
[(G)設置工程]
(G)設置工程では、水の出入口にキレート材の漏洩防止用のフィルターを設置する。水浄化装置における水の出入口に、キレート樹脂の容器からの漏洩を防止するため、樹脂粒子径よりも網目の細かい網目をもったフィルターを設置する。フィルターを構成する材質としては、例えば、耐水性を有する材質であれば限定されるものではなく、樹脂、ガラスおよび金属が挙げられる。
【0082】
本発明の実施形態の目的が達成される範囲内で、本発明の実施形態に係るキレート樹脂の製造方法または本発明の実施形態に係る水浄化装置の製造方法には他の工程が含まれていてもよい。
【0083】
本発明の実施形態の目的が達成される範囲内で、本発明の実施形態に係るキレート樹脂および水浄化装置には他の成分および構成が含まれていてもよい。
【実施例0084】
以下、実施例を挙げて本発明の実施形態をより具体的に説明する。本発明の実施形態は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前述および後述する趣旨に合致し得る範囲で、適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の実施形態の技術的範囲に包含される。
【0085】
<実施例1>
エポキシ基と、末端にアルコキシシリル基とを有する化合物として3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学工業株式会社製「KBM402」、液体)22.03質量部をガラス製スクリュー管瓶(底面の内径35mm、高さ78mm)中に入れた。さらにアルカリ金属塩として過塩素酸リチウム(関東化学株式会社製、鹿1級)2.66質量部を、ガラス製スクリュー管瓶へ投入し、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランに溶解させた。これにより、溶解液を用意した。上記溶解液を、温度60℃および湿度60%RHの環境において24時間で静置させた。24時間後、スクリュー管瓶中の溶解液は褐色高粘度液体となった。
【0086】
実施例1の24時間静置後の溶解液およびその原材料である3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランの構造を解析するために、フーリエ変換赤外分光光度計(株式会社島津製作所製「IRPrestige-21」)を用いて、全反射フーリエ変換赤外吸収(FTIR)スペクトルを測定した。
図1にその結果を示す。
図1は、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、および実施例1における溶解液の全反射FTIRスペクトルを示す。
【0087】
グリシドキシ基に特徴的な908.5cm-1のピークは、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランのIRスペクトルでは確認され、実施例1の溶解液のIRスペクトルでは確認されなかった。また、メトキシ基に特徴的な1190.1cm-1のピークは、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランのIRスペクトルで確認され、ならびに実施例1の溶解液のIRスペクトルでも確認された。さらにエーテル基に特徴的な1000~1150cm-1近辺のピークが3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランのIRスペクトル、ならびに実施例1の溶解液のIRスペクトルにおいて確認された。1000~1150cm-1近辺のピーク強度は、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランのIRスペクトルに比べ実施例1の溶解液のIRスペクトルの方が大きかった。この結果は、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランのグリシドキシ基の開環重合により生成するポリエーテル構造(より具体的には、ポリエチレンオキサイド構造)の増加に対応するものと結論付けた。
以上より、実施例1の24時間静置後溶解液中において、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランのグリシドキシ基が開環重合してポリエチレンオキサイド構造を形成するが、メトキシ基の多くは未反応のまま残存していることを確認した。
【0088】
マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析計(日本電子(JEOL)株式会社製「JMS-S3000」)を用いて、実施例1の溶解液についてマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析(以下、MALDI-TOFMSとも称する)スペクトルを測定した。結果を
図2に示す。
図2は、実施例1において、溶解液をガラス製スクリュー管瓶内において温度60℃および湿度60%RHの環境において24時間で静置させて得た褐色高粘度の溶解液のマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析(MALDI-TOFMS)スペクトルを示す。
【0089】
図2のMALDI-TOFMSにおいて、220の倍数に23を加えたm/z値に多くのピークが検出された。この結果は、分子量220のモノマーユニットが複数個環状に重合し、それぞれにナトリウムイオン(Na
+)が会合された化合物の存在を示す。すなわち、例えば、環状に重合する際の繰り返し数が5であれば、m/zは1123(=220×5+23)であり、[化1]で示されるイオン感応物質の生成が示されている。
【0090】
キレート樹脂表面では、上記[化1]に示したように3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランのエポキシ基が開環重合しており、[化1]に代表されるクラウンエーテル構造が様々なカチオンを捕捉するのに適した構造として、複数種類存在していることになる。つまり、環員原子数の異なるクラウンエーテル構造が複数存在することで、イオン半径の異なる複数種の金属カチオンを配位させること(捕捉すること)が容易となる。
また、m/z値が1123であるピークを例に挙げると、1123よりも小さいm/z値でのピークも複数存在している。これらは、m/z値1123に相当する分子量よりも小さい分子量を有する化学種の存在を示している。詳しくは、これらは、例えば、[化1]で示されるイオン感応物質におけるメトキシ基のうち少なくとも1個のメトキシ基が加水分解されて、[化2]で示されるイオン感応物質におけるヒドロキシル基に変換したものと考えられる。より具体的には、[化2]で示されるイオン感応物質は、[化1]で示されるイオン感応物質が有する3つのメトキシ基が加水分解されて、3つのヒドロキシル基に変換した物質である。すなわち、
図2のMALDI-TOFMSスペクトルを示す状態の溶解液中には、末端のアルコキシシリル基の一部が加水分解されたキレート能含有アルコキシシランが含まれていることがわかる。
【0091】
(表面修飾液の調製)
次に、得られた24時間静置後の溶解液(褐色高粘度液体)にエタノール20質量部を添加し、さらに24時間静置した。これにより、エタノール中にキレート能含有アルコキシシランが溶解した表面修飾液が作製された。
【0092】
[キレート材の作製]
無機粒子として平均粒径5.0μmの溶融球状シリカフィラー(比重2.21)をシャーレ底面に略均一に広げた。略均一に広げたシリカフィラーに上記表面修飾液を(無機粒子10gに対し5mLの割合で)スプレー噴霧した。続いて室温で24時間放置することで乾燥させ、キレート材を作製した。得られたキレート材は、キレート樹脂で被覆された複数の粒子から構成されていた。
【0093】
[水浄化装置の作製]
上記キレート材を、バイアル瓶(内径35mm、高さ78mm)に投入し、バイアル瓶の口部分に公知の金網(網目1.0μm)を被せる形で設置した。バイアル瓶の口部分の領域からはみ出た金網部分をバイアル瓶の淵部分にナイロン糸で縛りつける形で金網を固定し、実施例1における水浄化装置とした。なお、実施例1の水浄化装置における水の出入口部分はバイアル瓶の口部分であり、かつキレート樹脂の投入口もまたバイアル瓶の口部分ということになる。なお、上記数式(1)による体積比率Vrは、73%であった。
【0094】
[実施例2~8および比較例1~3]
実施例2~8および比較例1~3では、表1に示すように、出発物質(エポキシ基と末端にアルコキシシリル基とを有する化合物およびアルカリ金属塩)の添加量、の種類および添加量、粒子の平均粒径および材質、ならびに体積比率のうちの少なくとも1つを変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~8および比較例1~3のキレート材および水浄化装置をそれぞれ作製した。
実施例2~8のFTIRスペクトルでは、メトキシ基、グリシドキシ基およびポリエチレンオキサイド構造に帰属するピークにおいて、それぞれ実施例1の
図1に示すFTIRスペクトルと同様の傾向が確認された。また、実施例2~8のMALDI-TOFMSスペクトルでは、ポリエチレンオキサイド構造を有する化学種に相当するフラグメントおよびその加水分解した化学種のフラグメントに帰属するピークにおいて、それぞれ実施例1の
図2に示すMALDI-TOFMSスペクトルと同様の傾向が確認された。
なお、ポリビニルアルコールの比重は1.22であった。比較例3については、アミノリン酸基が結合したスチレン系樹脂をキレート樹脂として使用した。
【0095】
<評価方法>
各実施例および各比較例により得られた水洗浄装置のナトリウムイオンおよびカルシウムイオンの除去率、投入した塩化ナトリウム水溶液を90%回収するのに必要な時間(以下、「回収時間」と称する)、ならびに繰り返し使用に対する耐久性(以下、「維持率」と称する)を評価した。
【0096】
[ナトリウムイオン除去率およびカルシウムイオン除去率の測定:イオン除去性の評価]
濃度3重量%の塩化ナトリウム水溶液、および濃度3重量%の塩化カルシウム水溶液を用意した。実施例1~8および比較例1~3の水浄化装置に、それぞれの水溶液25mLを投入した。水浄化装置から水溶液が飛び出ない程度に1分間軽く振とうさせ、3分間静置した。その後に水溶液を回収した。得られた水溶液を測定試料とした。イオン濃度計(株式会社堀場製作所製「LAQUA Twin」)を用いて、イオン濃度を計測した。測定条件は、温度25℃であった。計測された濃度から、除去されたナトリウムイオンおよびカルシウムイオンそれぞれの割合を百分率で表したものを除去率とした。得られた除去率から以下の評価基準に基づいて、ナトリウムイオン除去性およびカルシウムイオン除去性をそれぞれ評価した。算出した除去率およびイオン除去性の判定結果を表1に示す。
【0097】
(イオン除去性の判定基準)
◎(非常に良い): 除去率が90%以上である
○(良い) : 除去率が80%以上90%未満である
×(悪い) : 除去率が80%未満である
【0098】
[回収時間の測定:回収性の評価]
上記除去性評価における水溶液の回収では、メスシリンダーを用いた。詳しくは、メスシリンダーに漏斗を設置し、水浄化装置であるバイアル瓶を逆さとなるように傾けることで漏斗を介して水溶液をメスシリンダーに回収した。メスシリンダーに最初の水溶液が投入された瞬間から、回収した水溶液の体積が水浄化装置に投入する前の水溶液の体積25mLの90%(すなわち22.5mL)回収できるまでの時間を計測し、計測時間を回収時間とした。
なお、実施例3については、設置した網目はキレート材の粒径よりも大きいが、水溶液の表面張力により粒子同士が凝集し、網目を通過してキレート材が漏洩することは阻止されていた。
得られた回収時間から以下の評価基準に基づいて、回収性をそれぞれ評価した。測定した回収時間および回収性の判定結果を表1に示す。
【0099】
(回収性の評価基準)
◎(非常に良い):回収時間が10秒以内である
○(良い) :回収時間が10秒を超え1分以内である
×(悪い) :回収時間が1分を超える
【0100】
[維持率の測定:耐久性(キレート能維持性)の評価]
除去率を計測した実施例1~6および比較例1~3の上記水浄化装置を、それぞれ脱イオン水25mLで5回洗浄した。その後、加速試験を行った。詳しくは、水の乾燥と劣化加速を兼ねて150℃の恒温槽中に168時間放置した。次いで、上記「除去率の測定」と同様の方法で除去率を再度測定した。上記「除去率の測定」で得られた1回目の除去率に対する、計測された2回目の除去率の比を維持率(%)(={(2回目の除去率)/(1回目の除去率)}×100)とした。得られた維持率を用いて下記の評価基準に基づいて、耐久性を判定した。算出した維持率および耐久性の判定結果を表1に示す。
【0101】
(耐久性の評価基準)
◎(非常に良い):維持率が95%以上である
○(良い) :維持率が90%以上95%未満である
×(悪い) :維持率が90%未満である
【0102】
[総合判定]
上記イオン除去性、回収性および耐久性の評価結果から下記評価基準に基づいて総合判定を行った。総合評価の判定結果を表1に示す。
【0103】
(総合評価の評価基準)
◎(非常に良い):イオン除去性、回収性および耐久性の評価結果がすべて◎である
○(良い) :イオン除去性、回収性および耐久性の評価結果がすべて◎でなく、それらのうち少なくとも1つが×ではない
×(悪い) :イオン除去性、回収性および耐久性の評価結果のうち少なくとの1つが×である
【0104】
【0105】
[結果および考察]
(実施例1~8)
実施例1~8のキレート材は、平均粒径50nm以上500μm以下のシリカ粒子または樹脂粒子と、これらの粒子のいずれかの表面を被覆するキレート樹脂を含んで成っていた。また、前記キレート樹脂は、-CH2-CHX-(ここで、Xは、-CH2O(CH2)3Si(OCH3)2CH3である)で表される繰り返し単位に由来するキレート官能基を含んでいた。前記粒子のいずれも前記繰り返し単位におけるメトキシシリル基に由来する部分によって形成されるシロキサン結合および/またはC-O-Si結合により、前記キレート樹脂が前記粒子の表面と結合していた。よって、実施例1~8のキレート材は、請求項1に係る発明の範囲に包含されるキレート材であった。
【0106】
実施例1~8の水浄化装置は、請求項1に係る発明の範囲に包含されるキレート材を備え、かつ粒子の体積比率が10~80体積%の範囲内であった。よって、実施例1~8の水浄化装置は、請求項8の範囲に包含される水浄化装置であった。
【0107】
実施例1~8のキレート材の総合評価は◎(非常に良い)または○(良い)であった。
【0108】
(比較例1~3)
比較例1~3のキレート材は、請求項1に係る発明の範囲外のキレート材であった。より具体的には、比較例1~2のキレート材では、粒子の平均粒径が50nm以上500μm以下の範囲外であった。比較例3のキレート材では、キレート樹脂はアミノリン酸基が結合したスチレン系樹脂であり、粒子はシリカであり、平均粒径は550μmであった。
比較例1~3の水浄化装置は、請求項1に係る発明の範囲に包含されるキレート材を備えていなかった。さらに、比較例1~2では粒子の体積比率が10~80体積%の範囲外であった。よって、比較例1~3の水浄化装置は、請求項8の範囲外の水浄化装置であった。
また、比較例1~3のキレート材の総合評価は×(悪い)であった。
【0109】
以上から、本願の請求項1および8に係る発明の範囲に包含される実施例1~8は、前記発明の範囲外の比較例1~3に比べ、優れた回収性およびイオン除去性を有しつつ、優れた耐久性を有することが明らかである。
本発明に係るキレート材およびそれを備える水浄化装置は、金属イオン除去性、耐久性および回収性に優れるため、例えば、金属イオンを含む排水から金属イオンを効率的に除去する処理に用いることができ、あるいは自然環境(例えば、海水)から天然資源として金属イオンを効率的に取り出す処理に用いることができる。よって、その産業上の利用価値は高い。