(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085888
(43)【公開日】2023-06-21
(54)【発明の名称】魚雷防御装置及び魚雷防御方法
(51)【国際特許分類】
B63G 9/04 20060101AFI20230614BHJP
F41H 11/00 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
B63G9/04
F41H11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200196
(22)【出願日】2021-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】721009461
【氏名又は名称】山本 茂
(72)【発明者】
【氏名】山本 茂
(57)【要約】
【課題】水上艦、潜水艦、航空機などから発射や投下されて水面下を航走して、水上艦又は潜水艦である防御対象船に向かって来る魚雷から、防御対象船を防御する。
【課題手段】索状体で構成された防御索12を単数本又は複数本、防御対象船1の周囲に設置又は曳航することで、防御対象船1の周囲に魚雷防御領域Ra、Rb、Rcを形成して、防御索12自体又は防御索12に分散配置された魚雷対応装置13に付与された魚雷探知機能と信管無効化機能と魚雷起爆機能の少なくとも一つの機能を用いて、防御対象船1を魚雷2から防御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水上艦又は潜水艦である防御対象船を魚雷から防御する魚雷防御装置であって、
単数又は複数の前部展開体と単数又は複数の索状体で構成される防御索とを備えて構成され、
前記前部展開体は、前記防御索の一端側又は他端側の少なくとも一方に配置されており、
前記防御索自体は、又は、前記防御索に分散配置された魚雷対応装置は、魚雷探知機能と信管無効化機能と魚雷起爆機能の少なくとも一つの機能を有して構成され、
この魚雷防御装置の展開時には、前記防御索を延伸させて、前記前部展開体が延伸している前記防御索の一端側又は他端側の少なくとも一方に配置された状態で、前記防御索が設置又は前記前部展開体により曳航されて、前記防御対象船の周囲に魚雷防御領域を形成することを特徴とする魚雷防御装置。
【請求項2】
前記防御索が、強磁性体若しくは導体を含んでいる材料で一部若しくは全部を構成されていることを特徴とする請求項1に記載の魚雷防御装置。
【請求項3】
前記魚雷対応装置が、魚雷が発生する音を探知する機器、魚雷の通過時の水圧変化を探知する機器、又は、魚雷の磁気を探知する機器のうちの少なくとも一つの魚雷探知機器を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の魚雷防御装置。
【請求項4】
前記魚雷対応装置が、自爆により魚雷の誘爆若しくは魚雷の探知センサの破損を誘う爆発機器を備えていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の魚雷防御装置。
【請求項5】
前記魚雷対応装置が、魚雷の探知センサを破損若しくは魚雷の探知センサの探知の妨害をする妨害部材を放出する妨害部材放出機器を備えていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の魚雷防御装置。
【請求項6】
前記防御索が、
魚雷の接近若しくは魚雷の通過を探知する機能を有して構成されるか、又は、魚雷の接近若しくは魚雷の通過を探知する魚雷探知機器を備えた第1種防御索と、
魚雷の信管を無効化する信管無効化機能と魚雷を起爆させる魚雷起爆機能の少なくとも一方を有して構成されるか、又は、魚雷の信管を無効化する信管無効化機器と魚雷を起爆する魚雷起爆機器の少なくとも一方の機器を有する魚雷対応装置を備えた第2種防御索とを有してなり、
前記魚雷対応装置若しくは前記前部展開体のいずれかに配置された対応制御装置が前記第1種防御索で魚雷の接近若しくは魚雷の通過を探知したときに、前記第2種防御索の信管無効化機能若しくは魚雷起爆機能の少なくとも一方の機能を発揮させるか、又は、前記第2種防御索の前記魚雷対応装置を作動させることを特徴とする請求項1又は2に記載の魚雷防御装置。
【請求項7】
前記前部展開体が、水上航走体、水中航走体、空中航走体のいずれかであることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の魚雷防御装置。
【請求項8】
前記前部展開体が、前記防御対象船、前記防御対象船とは別の船舶、航空機のいずれかに曳航されることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の魚雷防御装置。
【請求項9】
前記防御索が、この魚雷防御装置の展開時に前記防御索の水深を調整する水深調整体を備えていることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の魚雷防御装置。
【請求項10】
前記前部展開体が、前記魚雷探知機能と前記信管無効化機能と前記魚雷起爆機能の少なくとも一つの機能を制御する局所制御機器を備えていることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の魚雷防御装置。
【請求項11】
水上艦又は潜水艦である防御対象船を魚雷から防御する魚雷防御方法であって、
請求項1~10に記載の魚雷防御装置を用いて、前記防御対象船を魚雷から防御することを特徴とする魚雷防御方法。
【請求項12】
水上艦又は潜水艦である防御対象船を魚雷から防御する魚雷防御方法であって、
索状体で構成された防御索を単数本又は複数本、前記防御対象船の周囲に設置又は曳航して、前記防御対象船の周囲に魚雷防御領域を形成して、前記防御索自体又は前記防御索に分散配置された魚雷対応装置に付与された魚雷探知機能と信管無効化機能と魚雷起爆機能の少なくとも一つの機能を用いて、前記防御対象船を魚雷から防御することを特徴とする魚雷防御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚雷を捕獲網で捕獲することなく、水上艦又は潜水艦である防御対象船に向かって来る魚雷から防御対象船を防御する魚雷防御装置及び魚雷防御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水上を航行する水上艦や水中を潜航する潜水艦においては、水中を走行して、水上艦や潜水艦の艦体に衝突して爆発したり、あるいは、艦体の船底近傍の爆発で発生するバブルパルスにより艦体を破壊したりする魚雷は大きな脅威となっている。
【0003】
そのため、魚雷の索敵追跡用のセンサを混乱させるために投射型静止式若しくは自走式の「ジャマー」を使用したり、防御対象船の推進音と酷似した音響を発生して囮となる曳航式若しくは自走式の「デコイ」を使用したり、航行中に自艦の喫水線下などにある複数の穴から噴射される小気泡の群や、防御対象船の周囲に投下された気泡発生装置から発生させる小気泡の群で、防御対象船が発生する音を包み込んで、索敵追跡用のセンサへの音を吸収して、魚雷の追跡をそらす「マスカー装置」を使用したりしている。そして、これらを使用した防御のために、各種装置等が開発され、実用化されている。
【0004】
また、防御対象船を追尾してくる魚雷への対策として、防御対象船と魚雷との間に魚雷捕獲網を展張して魚雷を捕獲する方法が考えられている。その一例として、防御対象船から発射したネットを浮きとおもりで垂直状に展張して、前端縁両側部に連結したおもりに内蔵した騒音の発信器で魚雷をネットに誘い込んで捕獲し、この魚雷の捕獲で互いに引き寄せられるおもりに内蔵した爆発物を、近接信管を用いて爆発させることにより、魚雷の推進器を破壊するネット式魚雷防御システムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、水上船舶の船尾に格納した水中構造体捕獲用金網を、水上船舶の後方水面へ落下させて、浮子と錘で防御対象船の進路と直交する方向に浮子列の両端に配置された展張用自航浮子を用いて自走させることで、水中構造体捕獲用金網を展張して、この水中構造体捕獲用金網で防御対象船を追尾してくる水中航走体を捕獲して、水中航走体の進路を狂わせて水中航走体の追尾を回避する水上船艇の水中航走体防御装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
更に、船舶が航走した後に出現する航跡であるウェーキ(航跡波、航走波)に沿って航走するウェーキホーミング式の魚雷に対しては、次のような提案がなされている。このウェーキホーミング式の魚雷は、ソナーでは検出困難なウェーキ中を航走して追跡してくるため、魚雷の探知が難しいという問題がある。この魚雷に対する防護として、船舶から飛翔体を介した曳航ロープで曳航され、フロートと錘で水中に展開される捕獲網が船舶の後方から接近してくる水中航走体によって航走方向に押されたときの捕獲網の接近量を測定し、水中航走体が接近してきていると判断したときに、船舶から曳航ロープをフックしたままの飛翔体を発射して、水中航走体と捕獲網を船体から遠ざけることで船舶に対する水中航走体の攻撃を無力化する水中航走体検出装置および水中航走体無力化装置が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
しかしながら、これらの魚雷を捕獲網で捕獲する方法においては、対象とする魚雷の径が32.4cmφ~65.0cmφ程度であることから、魚雷を捕獲するためには、少なくとも網目の隙間が20cm程度の網目で魚雷に突破されない程度に丈夫な網が必要となる。例えば、一例ではあるが、日本の自衛隊の89式魚雷(長魚雷)では、直径0.533mφ、全長6.25m、重量1.76トンで、航走速度40ノット(20.58m/s)~55ノット(28.29m/s)である。従って、この魚雷の衝突に耐えて破損せずに魚雷を捕獲できるようにするには、非常に頑丈な網目が必要となる。そして、魚雷防御領域として十分な広さの面積(例えば、特許文献3では深さ9m×横幅50m等)をカバーするためには、非常に大きな曳航抵抗が発生することが予想され、水上艦で曳航したり、自走用の浮きで移動させたりすることは難しいと考えられるので、実用的ではないと思われる。
【0008】
一方、魚雷の無力化に関して、魚雷に対して対魚雷弾を、時限信管部にセットした時間で発射し、対魚雷弾を魚雷の手前で爆発させて、この対魚雷弾の衝撃波又は衝撃音で、魚雷のコントロールを不能にしたり、自艦に対するロックオンを外させたりすることで、魚雷に対魚雷弾を命中させる必要が無く、比較的簡単な装置で高い防御率を得ることができる対魚雷防御装置が提案されている(例えば、特許文献4~特許文献8参照)。また、一方で、迎撃魚雷の弱点についても論じられている(例えば、非特許文献1参照)。
【0009】
さらに、船舶に搭載した水中物体破壊システムのレーザー発振器からパルスレーザー光または連続波レーザー光を発進して、このレーザー光を探知した魚雷等の目標物体の至近に水中で集光させることで、目標物体の至近の水を沸騰させてバブルパルスの効果により水中物体を破壊したり、または、目標物体の至近にプラズマを発生させて、このプラズマの発生に伴う衝撃波によって水中物体を破壊したりする水中物体破壊方法も提案されている(例えば、特許文献9参照)。
【0010】
また、水中航走体が発する探知音に対して模擬音を出して水中航走体をおびき寄せて破壊する水中航走体防御装置において、自船から水中に投機され、自船から離れた位置に自走するように管制制御されると共に、曳航ケーブルで曳航する水中航走体から発せられる探知音を受信する受波器の情報を基に、水中航走体が起爆により破壊できる半径の範囲内でなくても、水中航走体が接近する状態から遠ざかる状態に変化するときをとらえて起爆させることで多少でも水中航走体の機能に影響を与えることができる水中航走体防御装置が提案されている(例えば、特許文献10参照)。
【0011】
これらの対魚雷弾による魚雷防御方法を考慮すると、必ずしも、魚雷自体を爆発する必要は無く、魚雷の探知能力や水中航走制御を無効化すれば良いことが分かる。しかしながら、これら対魚雷弾では、魚雷に命中させなくても、魚雷の近傍に対魚雷弾を誘導する必要があり、高度の誘導技術が必要となる上に、1対1対応の即時的な対抗手段となり、継続的な防御は難しいと考えられる。また、水中航走体側においても、頭部に位置している凹凸部で境界層の発達を抑制することで、後部の推進器での流体騒音の発生を抑制して、静粛性に優れた水中航走体が提案されてきており(例えば、特許文献11参照)、魚雷の静粛性が向上しているため、魚雷の探知が難しくなってきている。
【0012】
また、船舶の周りに六角柱にネットを張った覆いを設置して対水雷網として用いて、海を航行中の民間の船舶が機雷、魚雷により沈没、損傷するのを防いで、機雷対策とすることも提案されている(例えば、特許文献12及び特許文献13参照)。しかしながら、これらの対水雷網を防御対象船に取り付けた場合には、防御対象船の抵抗が増加し、操縦性能も悪化するので、航海性能を著しく悪化させてしまうという問題がある。
【0013】
一方、船底起爆によるバブルパルスの破壊力を利用する場合には、魚雷の信管としては、魚雷が艦体の真下を通過するときの磁場の変化を感知して起爆装置を作動させる磁気式近接信管や魚雷側から発生した音の反射から距離を測定する音響式近接信管が用いられていることが多い。
【0014】
この磁気利用の信管としては、地球の磁界が金属表面の回りで歪む現象を利用して、目標物体の近傍を通過するときに生じる磁界の変化を、コイルを用いてその誘導起電力の変化を利用して検出する磁気作動式の近接信管が用いられている。また、魚雷に搭載された近接信管側の送信コイルからの高周波磁界によって目標物体の金属部の表面に渦電流を流させて、この渦電流により発生する干渉誘導磁界を近接信管側の受信コイルで誘起電力として検出する近接信管装置がある(例えば、特許文献14~特許文献16参照)。
【0015】
また、魚雷に搭載された近接信管側の送波器からの音波が目標物体から反射されてくるのを受波器で受けて、音波の変化率を検出して、標的と海面の反射音波を区別して、音響的大きさおよび反射音の距離の変化の少なくとも一方を検出する近接信管装置がある(例えば、特許文献17及び特許文献18参照)。
【0016】
また、魚雷防御ではなく機雷対策ではあるが、磁気信管への対策として、互いに直交した配置された2つの誘導コイルを備えている磁気掃海システムで、一定数の磁気筏を一列に広げて配置し、これによって船舶の磁気の各部分を各磁気筏でシミュレートさせて、船舶の大きさ、特にその長さとは無関係に、大部分の船舶の磁気を極めて高精度にシミュレートできる磁気掃海システムが提案されている(例えば、特許文献19参照)。
【0017】
また、艦船などの残留磁気を探知して起爆する磁気検知型の機雷に対して長い電線(銅線)を海面上に延ばして曳航し、数千アンペア程度の電流を流がして、海水を帰路とする模擬磁界を作って磁気機雷を誘爆する磁気機雷掃海具や、艦船の磁束分布を模擬するために、永久磁石による模擬分布、ソレノイドコイルによる模擬分布等を使用する磁気機雷掃海具が紹介されている(例えば、特許文献20参照)。
【0018】
さらには、水中を航走可能な水中航走体を用いて、機雷に付着する磁石、機雷を包む網などの位置固定器で、機雷と水中航走体との間の距離を適切な距離に維持し、水中航走体に収納されている爆薬の爆破指向方向を機雷に向けた状態で爆発させて、機雷を爆発処理する機雷処理用水中航走体が紹介されている(例えば、特許文献21参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開平6-135382号公報
【特許文献2】特開平5-238479号公報
【特許文献3】特開2018-79791号公報
【特許文献4】実開昭63-17994号公報
【特許文献5】実開昭63-17995号公報
【特許文献6】実開昭63-36894号公報
【特許文献7】実開平1-67496号公報
【特許文献8】実開平2-122994号公報
【特許文献9】特開2018-76992号公報
【特許文献10】特開2001-183096号公報
【特許文献11】特開2018-83472号公報
【特許文献12】特開平10-100991号公報
【特許文献13】特開2007-1580号公報
【特許文献14】特開平6-11299号公報
【特許文献15】特開平5-180937号公報
【特許文献16】特公昭63-55034号公報
【特許文献17】特開昭53-110866号公報
【特許文献18】特開昭48-47087号公報
【特許文献19】特開平6-24381号公報
【特許文献20】特開2001-80576号公報
【特許文献21】特開2019-104363号公報
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】文谷数重,「魚雷で魚雷を探知・追尾・破壊すると言うが主流になれない3つの理由!「超魚雷攻撃を阻止する『迎撃魚雷』の弱点」,軍事研究、発行人横田博之,発行所株式会社ジャパン・ミリタリー・レビュー,2020年5月1日,5月号,p.230~p.241
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上記のように、魚雷を捕獲によって無効化する魚雷捕獲網に関しては、魚雷漁獲網の曳航時の抵抗が大きくなり、実用的でなくなるという問題があり、対魚雷弾に関しては、魚雷の近傍に対魚雷弾を誘導する必要があり、高度の誘導技術が必要となる上に継続的な防御は難しいという問題があると考えられる。
【0022】
一方、魚雷を艦船に到達させるためには、魚雷側に、対象艦の位置を探知するための音響探知装置を用いた探知システムと、この探知システムの探知結果を基に魚雷の走行を制御する誘導システムが必要であり、また、効率よく艦船を破壊するためには、魚雷を対象艦と間の適度な距離と適度な水深で爆発させる必要があり、魚雷側に近接信管が必要である。そして、そのため、魚雷の信管には、磁気信管や音響信管等の近接信管が多く使用されてきている。
【0023】
そのため、防御対象船を魚雷から保護するためには、魚雷に搭載された探知システムを無効化したり、誘導システムを無効化したりするだけでなく、近接信管を作動させて魚雷自体を誤爆させることも有効であると考えられる。
【0024】
本発明は上記のことを鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、水上艦、潜水艦、航空機などから発射や投下され、水面下を航走して水上艦又は潜水艦である防御対象船に向かって来る魚雷から、魚雷を捕獲網で捕獲することなく、防御対象船を防御する魚雷防御装置及び魚雷防御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記のような目的を達成するための本発明の魚雷防御装置は、水上艦又は潜水艦である防御対象船を魚雷から防御する魚雷防御装置であって、単数又は複数の前部展開体と単数又は複数の索状体で構成される防御索とを備えて構成され、前記前部展開体は、前記防御索の一端側又は他端側の少なくとも一方に配置されており、前記防御索自体は、又は、前記防御索に分散配置された魚雷対応装置は、魚雷探知機能と信管無効化機能と魚雷起爆機能の少なくとも一つの機能を有して構成され、この魚雷防御装置の展開時には、前記防御索を延伸させて、前記前部展開体が延伸している前記防御索の一端側又は他端側の少なくとも一方に配置された状態で、前記防御索が設置又は前記前部展開体により曳航されて、前記防御対象船の周囲に魚雷防御領域を形成することを特徴とする。
【0026】
この魚雷防御装置の構成によれば、防御の主体が捕獲網ではなく、索状体で構成される防御索であるので、魚雷防御装置の展開時には、捕獲網のように平面的に展開させる必要が無く、防御索を線状に展開させればよいので、容積及び重量を捕獲網に比べて著しく小さくすることができる。また、防御対象船が航走しているときには、防御索は流れ方向に延びるだけなので、捕獲網に比べて著しく曳航時の抵抗が小さくなる。その結果、防御索を容易に防御対象船と同じ速度で移動させることができるようになり、防御対象船の停止中や低速航走中のみならず、戦闘時などの高速航走中においても、防御対象船を長時間に亘って防御できるようになる。
【0027】
また、線状に展開される防御索により、魚雷防御領域を形成するので、防御対象船と並行して、複数の防御索を配置若しくは並走させることで、停止中だけでなく航走中においても防御対象船も防御できる上に、防御対象船の横方向に防御索を複数本展開させることで、防御対象船に対して複数の重層の防御層を容易に構築できる。
【0028】
さらには、防御索の両端側に航走体を配置し、防御索を防御対象船の進路と交差する方向に展開して魚雷防御領域を形成することで、防御対象船の進路の前方領域と進路の後方に対しても魚雷防御領域を構築できる。この場合は、防御索が流れを横切ることになるので、曳航時の抵抗は大きくなるが、防御対象船の前後の防御範囲(数十メートル)は、防御対象船の側方の防御範囲(2百メートル~4百メートル)に比べれば、短いものになるので、魚雷捕獲網に比べれば、著しく小さい曳航抵抗で済むことになる。
【0029】
なお、防御索の索状体の形状としては、糸状、紐状、帯状であってもよい。また、金属線を編んだワイヤーロープ的なものであっても、金属成分を織り込んだ布状体、金属成分を挟み込んだり、表面に塗布したり、貼り付けたり、縫い付けたりして形成したものであってもよい。
【0030】
防御索自体が魚雷探知機能と信管無効化機能と魚雷起爆機能の少なくとも一つの機能を有する例としては、防御索が金属などの磁気発生体で構成されている場合は、魚雷がこの防御索の近傍を通過すると、防御索に磁気変化による誘導電力が発生するので、この誘導電気を前部展開体に搭載した装置等で検知することで、魚雷の通過を検知できる。また、魚雷の通過時に防御索自体の磁気や魚雷の磁気信管に反応した防御索側の磁気変化により、磁気信管が感応して魚雷が爆発する。また、防御索が音を反射する場合は、魚雷の音響信管が感応して魚雷が爆発する。
【0031】
また、防御索自体に魚雷探知機能と信管無効化機能と魚雷起爆機能を持たせる代わりに、防御索に魚雷探知機能と信管無効化機能と魚雷起爆機能の少なくとも一つの機能を有する魚雷対応装置を分散配置させて、これらにより、防御索の近傍を通過する魚雷の探知、信管の無効化、魚雷の起爆を行うことができる。
【0032】
例えば、防御索に設けた音響センサで周囲の音の変化により魚雷の通過を探知したり、防御索に設けた圧力センサで水圧の変化により魚雷の通過を探知したりすることができる。また、掃海器具に備えたような磁気発生器や音響発生器により近接信管を作動させて魚雷を爆発させることができる。また、防御索自体の備えた機械的な器具が曳航によって発生する音や渦流や、電気的な音響発生装置により発生する音などにより、一時的に魚雷の音響装置の機能を無効にすることができる。
【0033】
さらには、魚雷の通過を検知したときに、防御索に分散配置した小爆発物を爆発させることで、爆発で発生する水圧や破片により、魚雷の探知センサを損傷させて探知システム無効化したり、あわよくば、小爆発により、魚雷の探知センサだけでなく、魚雷の誘導システムの推進器等を損傷させて誘導システムを無効にしたり、魚雷自体を誘爆したりすることも可能と考えられる。
【0034】
上記の魚雷防御装置において、前記防御索が、強磁性体若しくは導体を含んでいる材料で一部若しくは全部を構成されていると次のような効果を発揮できる。
【0035】
この防御索に強磁性体若しくは導体が有する機能が付与されている場合には、魚雷に搭載されている磁気信管を作動できる可能性があり、非常に簡単な構成で防御索に魚雷起爆機能を付与できる。この強磁性体は、常磁性体、非磁性体に対するものであり、磁石を近づけると、強い磁化を示す物質であり、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、フェライト等である。また、導体は、電気伝導率又は熱伝導率が大きな物質であり、伝導体、導電体、電気伝導体ともいう物質である。
【0036】
上記の魚雷防御装置において、前記魚雷対応装置が、魚雷が発生する音を探知する機器、魚雷の通過時の水圧変化を探知する機器、又は、魚雷の磁気を探知する機器のうちの少なくとも一つの魚雷探知機器を備えていると、魚雷が発生する音や、魚雷の通過時における水圧の変化や磁気の変化により、魚雷の接近及び通過を探知することができ、この探知結果に基づいて、効率よく、魚雷の信管の無効化又は魚雷の起爆を行うことができる。
【0037】
上記の魚雷防御装置において、前記魚雷対応装置が、自爆により魚雷の誘爆若しくは魚雷の探知センサの破損を誘う爆発機器を備えていると、魚雷の近傍での爆発機器の自爆によって発生する破片や水圧変動により、防御索の近傍を通過する魚雷の無効化、又は、魚雷の探知センサの能力を低下若しくは無能化することができる。この爆発機器は魚雷の近傍で爆発する際に、魚雷の探知センサに損傷を与えるだけでもよいので、爆発の規模が小さくて済み、小型化できる。
【0038】
上記の魚雷防御装置において、前記魚雷対応装置が、魚雷の探知センサを破損若しくは魚雷の探知センサの探知の妨害をする妨害部材を放出する妨害部材放出機器を備えていると、魚雷が接近若しくは通過する近傍のみで、妨害部材放出機器から妨害部材を局所的に放出することで、効率よく魚雷の探知能力を損なうことができる。
【0039】
上記の魚雷防御装置において、前記防御索が、魚雷の接近若しくは魚雷の通過を探知する機能を有して構成されるか、又は、魚雷の接近若しくは魚雷の通過を探知する魚雷探知機器を備えた第1種防御索と、魚雷の信管を無効化する信管無効化機能と魚雷を起爆させる魚雷起爆機能の少なくとも一方を有して構成されるか、又は、魚雷の信管を無効化する信管無効化機器と魚雷を起爆する魚雷起爆機器の少なくとも一方の機器を有する魚雷対応装置を備えた第2種防御索とを有してなり、前記魚雷対応装置若しくは前記前部展開体のいずれかに配置された対応制御装置が前記第1種防御索で魚雷の接近若しくは魚雷の通過を探知したときに、前記第2種防御索の信管無効化機能若しくは魚雷起爆機能の少なくとも一方の機能を発揮させるか、又は、前記第2種防御索の前記魚雷対応装置を作動させるように構成されると、つぎのような効果を発揮できる。
【0040】
この構成によれば、魚雷の接近若しくは魚雷の通過を探知するための第1種防御索と魚雷を無効化する第2種防御索とは別に構成しているため、魚雷の位置を正確に把握してから、ある程度時間的余裕をもって適切なタイミングで、しかも、局地的に信管無効化機能若しくは魚雷起爆機能の発揮、又は、魚雷対応装置の作動を行うことができるので、効率的に魚雷の無効化を図ることができる。特に、局地的な対応で済むので、防御対象船におけるソナーの探知能力に対する影響を小さくすることができる。また、局地的な小さな対応であるので、魚雷を発射した母船等の敵のソナーに対しての音も比較的小さくて済み、敵に魚雷防御装置が探知される危険性を小さくして、強いては防御対象船の位置を正確に探知される危険性を少なくすることができる。
【0041】
なお、この場合に、防御対象船の喫水の深さに対応して曳航時の水深が決まる第1種防御索に対して、防御対象船により近い側で、魚雷の航行深度により近づけるために第1種防御索よりも深い位置に第2種防御索を配置することが好ましい。しかし、第2種防御索が魚雷の無効化の効果を発揮できる範囲内であればよいので、第1種防御索と第2種防御索の位置関係を維持しながら曳航し易いように、第2種防御索を第1種防御索の上側又は下側等の第1種防御索の近傍に配置してもよい。また、魚雷を探知してからその魚雷を無効化のためにやや長い時間が必要な場合は、第1種防御索を曳航する前部展開体と第2種防御索を曳航する前部展開体を別にして構成して、これらの前部展開体をある程度の離間距離、例えば、数十m程度離れて配置して、その間を無線や有線で通信可能に構成し、第1種防御索の探知装置から第2防御索の魚雷対応装置へ指示を送る構成にしてもよい。
【0042】
上記の魚雷防御装置において、前記前部展開体が、水上航走体、水中航走体、空中航走体のいずれかであると、防御対象船から離れた位置で、防御対象船の操艦と関係なく、防御索の曳航が可能となり、防御索による魚雷防御領域を効果的に防御対象船の周囲に配置できる。この前部展開体は、短時間の防御作業で使用する場合は、特定の時間の間だけ、前部展開体が特定の進路と航走速度で航走できればよいので、エネルギー消費が比較的多い水中航走体や空中航走体等を使用することができる。
【0043】
そして、防御対象船が敵のレーダーで探知されることを嫌う場合は、前部展開体に水中航走体を採用することが好ましい。敵の電波で探知されないように電波ステルス性を備えた防護対象艦に随行する航走体も電波探知を回避する必要がある。そのため、前部展開体は電波探知が困難な水中航走体とすることが好ましい。特に防御対象船が潜水艦の場合は、魚雷防御の場が水中となるので必然的に水中航走体とすることが有利となる。一方、防御対象船のソナー探知能力への悪影響を嫌う場合は、水中への音響影響が少ないドローンなどの空中航走体を前部展開体に採用することが好ましい。
【0044】
また、長時間の防御作業で使用する場合は、比較的長い時間、前部展開体が防御対象船の操艦に追従して、防御対象船とほぼ同じ航走速度で航走及び変針する必要があるので、比較的大きな航走体になる。そのため、燃料を多く積載可能でしかも燃料補給が容易な水上航走体を前部展開田に採用することが好ましい。この場合は、水面下となる部分は電波反射体で構成されていてもよいが、排気管や吸気管を収納した煙突部分等の水上に露出する部分は、プラスチックなどの電波を反射しない材料で構成して、少しでも、電波探知され難くして、電波ステルス性を増しておくことが好ましい。
【0045】
しかしながら、逆に、敵のレーダー探知に関して、防御対象船の囮として使用できるように、防御対象船と同等の電波反射体となるように前部展開体を構成してもよいし、対艦ミサイルの飛来を検知したときのみ、自動車の乗員保護用のエアバックのようにガスの急激な放出で前部展開体に搭載した電波反射体を膨張させるように構成してもよい。この場合は水上航走体や空中航走体で構成される前部展開体が対艦ミサイルの防御用の囮としても使用できるようになる。
【0046】
上記の魚雷防御装置において、前記前部展開体が、前記防御対象船、前記防御対象船とは別の船舶、航空機(ヘリコプター等)のいずれかに曳航されると、前部展開体が自航能力を備える必要が無くなり、魚雷防御装置を単純化できる。また、防御対象船で曳航する場合は、防御対象船の後方に魚雷防御装置を展開する場合に使用できる。また、防御対象船とは別の船舶で曳航する場合には、防御対象船の搭載可能な有人小型船や有人ボート等を使用することができ、防御対象船の操艦に対応した魚雷防御装置の展開もきめ細かく行うことができるようになる。また、航空機で曳航する場合には、有人ヘリコプターや無人ヘリコプターで曳航することができ、魚雷に対して安全な場所から、防御対象船を防御できる。さらには、航空機を使用することで、必要な海域に魚雷防御装置を急速に展開できるようになる。
【0047】
上記の魚雷防御装置において、前記防御索が展開時に前記防御索の水深を調整する水深調整体を備えていると、曳航時の防御索の水深を維持できる。この水深調整体は、防御索を重量と浮力が釣り合う中性浮体に調整していても、波や潮流などの外乱により防御索のそれぞれの部分が目標水深から外れて浮沈する場合が有るので、防御索が展張された全長に亘ってそれぞれの部分が、魚雷防御に効果を発揮し易い水深を維持できるようにするための装置である。
【0048】
この水深調整体の例としては、次のようなものがある。防御索が曳航されずに停止して使用される場合は、水深調整体を係留索で防御索に繋がった「浮きの分散配置」で構成し、この「浮き」で防御索の所々を吊り下げればよい。一方、防御索が曳航される場合は、可動翼又はフラップの付いた上下方向に移動可能な翼形状部材を本体に備えた「翼体の分散配置」で構成し、この「翼体」で防御索の所々を所定の水深に維持することで、防御索の水深を維持すればよい。この「翼体」自身の水没深さは水圧センサなどにより検知して、この検知した水深の増加又は減少に伴い、可動翼又はフラップを作動させて「翼体」を浮上又は沈下させることで容易に防御索を予め設定された水深に維持できる。
【0049】
上記の魚雷防御装置において、前記前部展開体が、前記魚雷探知機能と前記信管無効化機能と前記魚雷起爆機能の少なくとも一つの機能を制御する局所制御機器を備えていると、より防御対象船の防御を精度よく、また、効率よく行うことができる。この場合は、防御対象船と前部展開体との距離が数百メートル以内と比較的近いので、制御用の通信電波による防御対象船の自船位置の暴露を回避するために、防御対象船と前部展開体との間の通信には、光ファイバーケーブルを使用した有線通信を採用したり、レーザー光による局所用の無線通信を採用したりすることが好ましい。
【0050】
そして、上記のような目的を達成するための本発明の魚雷防御方法は、水上艦又は潜水艦である防御対象船を魚雷から防御する魚雷防御方法であって、上記の魚雷防御装置を用いて、前記防御対象船を魚雷から防御することを特徴とする魚雷防御方法である。この方法によれば、上記の魚雷防御装置と同様の効果を発揮できる。
【0051】
また、上記のような目的を達成するための本発明の魚雷防御方法は、水上艦又は潜水艦である防御対象船を魚雷から防御する魚雷防御方法であって、索状体で構成された防御索を単数本又は複数本、前記防御対象船の周囲に設置又は曳航して、前記防御対象船の周囲に魚雷防御領域を形成して、前記防御索自体又は前記防御索に分散配置された魚雷対応装置に付与された魚雷探知機能と信管無効化機能と魚雷起爆機能の少なくとも一つの機能を用いて、前記防御対象船を魚雷から防御することを特徴とする魚雷防御方法である。
【0052】
この魚雷防御方法によれば、防御の主体が捕獲網ではなく、索状体で構成された防御索であるので、防御対象船と同じ速度で、防御索を用いた魚雷防御領域を移動させることが容易にできるようになり、防御対象船の停止中や低速航走中のみならず、高速航走中においても、防御対象船を長時間に亘って防御できるようになる。また、線状に展開される防御索により、魚雷防御領域を形成するので、防御対象船の横方向に防御索を複数本展開させることで、防御対象船に対して、複数の重層の防御層を容易に構築できる。さらには、防御索の両端側に航走体を配置し、防御索を防御対象船の進路と交差する方向に展開して魚雷防御領域を形成することで、防御対象船の進路の前方領域と進路の後方の伴流域(ウェーキ領域)に魚雷防御領域を構築できる。
【発明の効果】
【0053】
本発明の魚雷防御装置及び魚雷防御方法によれば、水上艦、潜水艦、航空機などから発射や投下され、水面下を航走して水上艦又は潜水艦である防御対象船に向かって来る魚雷から、魚雷を捕獲網で捕獲することなく、防御対象船を防御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1】
図1は本発明の第1の実施の形態の魚雷防御装置による魚雷防御のための配置の例と、本発明の第1の実施の形態の魚雷防御方法を模式的に示す平面図である。
【
図2】
図2は第1時刻の
図1の状態から所定の時間経過した後の第2時刻における防御対象船と魚雷防御装置と魚雷の位置関係を模式的に示す平面図である。
【
図3】
図3は本発明の第2の実施の形態の魚雷防御装置による魚雷防御のための配置の例と、本発明の第2の実施の形態の魚雷防御方法を模式的に示す平面図である。
【
図4】
図4は前部展開体として水上航走体を用いた場合の側方用魚雷防御装置の構成を模式的に示す図である。
【
図5】
図5は前部展開体として水中航走体を用いた場合の側方用魚雷防御装置の構成を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は前部展開体として空中航走体を用いた場合の側方用魚雷防御装置の構成を模式的に示す図である。
【
図7】
図7は前部展開体として水上航走体を用いた場合の進路用魚雷防御装置の構成を模式的に示す図である。
【
図8】
図8は前部展開体として係留を用いた場合の固定用魚雷防御装置の構成を模式的に示す図である。
【
図9】
図9は航走体として防御対象船を用いて側方用魚雷防御装置を曳航している状態を示す図である。
【
図10】
図10は航走体として防御対象船とは別の船舶を用いて側方用魚雷防御装置を曳航している状態を示す図である。
【
図11】
図11は航走体として航空機を用いて側方用魚雷防御装置を曳航している状態を示す図である。
【
図12】
図12は妨害部材放出機器として、膜状体を展開する膜状体展開用機器の構成を示す図である。
【
図13】
図13は妨害部材放出機器として、薄膜片を散布する薄膜片散布用機器の構成を示す図である。
【
図14】
図14は第1種防御索に対して、第2種防御索を魚雷の予測航走水深の近傍に配置する場合の一例を示す図である。
【
図15】
図15は第1種防御索に対して、第2種防御索を魚雷の予測航走水深よりも深い水深に配置する場合の一例を示す図である。
【
図17】
図17は
図16とは別の構成の水深調整体で、水圧ピストン装置によるフラップの操作の構成の例を示す図である。
【
図18】
図18は水中パラシュートを備えた後部展開体の構成の例を示す図である。
【
図19】
図19は水中翼部材を回転する後部展開体の構成の例を示す図である。
【
図20】
図20は抵抗板を開く後部展開体の構成の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、図面を参照して本発明に係る魚雷防御装置及び魚雷防御方法の実施の形態について説明する。
図1~
図20に示すように、本発明に係る魚雷防御装置10A、10B(10で総称する)は、魚雷2を捕獲網で捕獲することなく、水上艦又は潜水艦である防御対象船1を魚雷2から防御する装置である。
図1と
図2は、本発明に係る第1の実施の形態の魚雷防御装置及び魚雷防御方法としての移動式の魚雷防御装置10A、10Bの防御体制時の配置の一例を示し、
図3は、本発明に係る第2の実施の形態の魚雷防御装置及び魚雷防御方法としての固定式の魚雷防御装置10Cの防御体制時の配置の一例を示す。
【0056】
最初に、本発明に係る魚雷防御装置及び魚雷防御方法が使用される環境について説明する。この魚雷防御装置10で防御対象とする防御対象船1としては、一般的には、魚雷の標的となり得る水上に浮かんでいる水上航走物や水上固定物、及び、水中を航走する水中航走物や水中固定物である。より具体的には、水上航走物では、魚雷2の標的になり易い護衛艦等の艦艇が例示されるが、一般の公船(巡視船、消防船、各種取締船、練習船、観測船等)や商船(貨物船、貨客船、フェリー等)などの船舶にも適用可能であり、特に限定する必要はない。また、水中航走物では、魚雷2の標的になり易い潜水艦等が例示される。なお、
図1~
図20では、防御対象船1として、水上航走体である艦艇を例に使用しているが、この防御対象船1として、水中航走体である潜水艦に置き換えることもできる。この場合は、魚雷防御装置10の使用水深は水面上ではなく潜水艦の行動範囲の水深での水中となる。
【0057】
この防御対象とする防御対象船1のサイズの例としては、例えば、自衛隊の護衛艦のヘリコプター搭載護衛艦のいずも型では、全長248m、全幅38m、喫水7.3m、深さ23.5m、最大速力30ノットである。また、ヘリコプター搭載護衛艦のひゅうが型では、全長197m、全幅33m、喫水7m、高さ48m、深さ22m、最大速力30ノットである。また、イージス艦のあたご型では、全長165m、全幅21m、喫水6.2m、深さ12m、速力30ノットである。なお、これ以外の船舶や潜水艦等にも適用できることは言うまでもない。
【0058】
一方、魚雷2の例としては、直径が0.533mφ、全長が6.25m、重量が1.76トン、航走速度が40ノット(20.58m/s)~55ノット(28.29m/s)とされている魚雷(89式魚雷:長魚雷))がある。本発明の対象とする魚雷2のサイズの目途としては、一般的には、直径が0.324mφ~0.650mφ程度で、長さが6m~9m程度で、航走速度が28ノット(52Km/h:14.40m/s)~200ノット(370Km/h:102.9m/s)程度である。なお、これ以外の魚雷にも適用できることは言うまでもない。
【0059】
上記を考慮して、魚雷防御装置10で形成する魚雷防御領域Raについて
図1に例示するような配置を考えた場合には、防御対象船1の側方に展開する魚雷防御領域Raの長さLaは1基当たりで50m~300m程度として、この魚雷防御領域Raを必要に応じて、複数用いて前後方向にずらしながら多重配置することで、防御対象船1の側方を十分にカバーして魚雷2に対する防御を行うことができると考えられる。
【0060】
また、防御対象船1の進路の前方に展開させる魚雷防御領域Rbの幅Baに関しては、防御対象船1の船幅が40m程度であることを考えれば、船幅方向に50m程度でよいと考えられる。また、防御対象船1の進路の後方に展開させる魚雷防御領域Rbの幅Baに関しては、ウェーキ(伴流域)Wの幅が防御対象船1の推進器から幅方向に10~30m程度であることを考えれば、この点からでも船幅方向に50m~70m程度でよいと考えられる。なお、この魚雷防御領域Rbに関しても必要に応じて左右方向にずらしながら多重配置することで、防御対象船1の前後をより広い範囲で十分にカバーして魚雷に対する防御を行うことができる。
【0061】
また、魚雷防御領域Ra、Rbを形成するための防御索12の展開時の水深に関して考える。船底の破壊にバブルパルスを利用する魚雷2の場合は、航走する魚雷2の水深が防御対象船1の船底より少し深い水深であると推定されるので、防御対象船1の喫水を考慮して、魚雷防御領域Ra、Rbの水深範囲を水深5m~10mに設定することが好ましいと考えられる。なお、防御対象船1が確定されていて具体的な喫水の値が得られる場合はこの防御対象船1の喫水に合わせて魚雷防御領域Ra、Rbの水深範囲を設定する。また、防御対象船1が潜水艦の場合には、潜水艦の行動時の水深で使用する。そのため、防御索12の展開時の水深を防御対象船1の喫水や特性に合わせて調整できるように魚雷防御装置10を構成しておくことが好ましい。
【0062】
なお、防御対象船1の後方における魚雷防御領域Rbの水深範囲に関して、防御索12の展開時の水深としては、ウェーキ・ホーミング魚雷に対しては水深1m~10mまでとすればよいと考える。その理由は、水上航走体の防御対象船1の後方に発生するウェーキWの深さは場合には、水深10mより浅い場合が多いからであり、浅くて水面を漂う小浮遊体を回避するために水深1m以上としておくことが好ましいからである。
【0063】
そして、魚雷防御装置10の航走速度と曳航力に関して考えると、例えば、30ノットで航走する防御対象船1を保護する場合には、魚雷防御装置10も30ノットの航走速度が必要となり、防御索12を曳航するための曳航力は、この航走速度の2乗に比例することになる。例えば、防御時の速力が30ノットで1.5トン程度の曳航力が必要なのに対して、20ノットでは、曳航力は44%に低下して0.7トン程度でよいことになる。
【0064】
また、魚雷2に対する防御では、魚雷防御装置10の投下及び展開の場所と時間を適切に選択できれば、防御対象船1と進行してくる魚雷2との間に魚雷防御装置10の防御索12を配置して、この防御索12で魚雷2の進行方向を遮るだけで良い。そのため、この場合は、防御索12の移動速度は防御対象船1の移動速度と必ずしも同じである必要は無く、防御対象船1の移動速度よりも小さくてもよい場合もある。なお、この一時的使用の場合は、その時に進行してくる魚雷2のみに対して、そのとき限りで対応する。そのため、この魚雷防御装置10は使い捨てになるが、可能であれば、後で回収して再使用できるようすることが好ましい。
【0065】
このような使用方法の場合は、防御索12を魚雷2の通過予測位置に展開できて、魚雷2が通過するまでの短時間の間だけ、魚雷2と防御対象船1との間に防御索12を展開した状態で維持できる程度の航走力と曳航力が魚雷防御装置10にあればよいことになる。なお、魚雷2の通過予測位置を正確に予測できたり、防御索12が長く、魚雷防御装置10を停止した状態で使用できたりする場合には、魚雷防御装置10における航走力と曳航力は減少または不要となる。
【0066】
そして、本発明に係る実施の形態の魚雷防御装置10(10A、10B、10C)は、単数又は複数の前部展開体11(11A、11B、11C、11D)と単数又は複数の防御索12とを備えて構成される。この前部展開体11は、防御索12の一端側又は他端側の少なくとも一方に配置されている。さらに、防御索12自体は、又は、防御索12に分散配置された魚雷対応装置13は、魚雷探知機能と信管無効化機能と魚雷起爆機能の少なくとも一つの機能を有して構成される。そして、この魚雷防御装置10の展開時には、防御索12を延伸させて、前部展開体11が延伸している防御索12の一端側又は他端側の少なくとも一方に配置された状態で、防御索12が設置又は前部展開体11により曳航されて、防御対象船1の周囲に魚雷防御領域Ra、Rbを形成する。なお、
図1及び
図2の側方用魚雷防御装置10Aでは、一つの前部展開体11が一つの防御索12を曳航し、進路用魚雷防御装置10Bでは、二つの前部展開体11、11が一つの防御索12を曳航している。また、
図3では、固定式の魚雷防御装置10Cでは、停船している防御対象船1の周囲に魚雷防御領域Rcを形成している。
【0067】
そして、
図1、
図2、
図4~
図6では、防御対象船1の側方に展開されている側方用魚雷防御装置10Aでは、延びた防御索12の前方の一端側に前部展開体11が配置され、防御索12の後方の他端側には、魚雷防御装置10Aの曳航時に抵抗となって防御索12を延ばすための後部展開体14が必要に応じて配置される。また、防御対象船1の前方と後方に配置される進路用魚雷防御装置10Bでは、延びた防御索12の防御対象船1の右舷側の一端側と防御対象船1の左舷側の他端側の両端側に前部展開体11、11が配置され、必要に応じて後部展開体14が防御索12の中央部分に配置される。
【0068】
また、魚雷防御領域Ra、Rbを形成する防御索12が魚雷2への対応機能を備えるために、防御索12自体が、又は、防御索12に分散配置された魚雷対応装置13が、魚雷探知機能と信管無効化機能と魚雷起爆機能の少なくとも一つの機能を有して構成される。この防御索12に関しては、後で詳細に説明する。
【0069】
先ず、前部展開体11について説明する。この前部展開体11は、
図1、
図2、
図4~
図7に示すように、魚雷防御装置10を移動させるために使用する場合は、防御索12の一端(
図4~
図6:側方用魚雷防御装置10A)又は両端(
図7:進路用魚雷防御装置10B)に配置されて、自走して防御索12を曳航するように構成される。あるいは、
図9~
図11に示すように、魚雷防御装置10が既存の航走体1、4、5により曳航される場合は、前部展開体11としての被曳航体11Eは航走機能を備えることなく、防御索12を曳航するように構成される。
【0070】
そして、
図1、
図2に示すように、魚雷防御装置10を移動させている状態で使用する場合について説明する。この場合は、
図4~
図7に示すように、前部展開体11が水上航走体11A、水中航走体11B、空中航走体11Cのいずれかで構成される。これにより、防御対象船1から離れた位置で、防御対象船1の操艦と関係なく、適切な位置での防御索12を曳航することが可能となる。これにより、防御索12による魚雷防御領域Ra、Rbを、非常に効果的に防御対象船1の周囲に配置できる。
【0071】
次に、
図3に示すように、魚雷防御装置10Cを停止状態で使用する場合について説明する。この場合は、
図8に示すように、前部展開体11は係留体11Dで構成されて、防御索12とは連結索11aで連結される。この係留体11Dは、防御索12の両端に配置されて、係留体11Dを水底に係留するための係留索11bにより係留されたり、又は定点保持用の推進システムを備えて、浮いた状態で定点保持制御されたりすることで、防御索12をその場に係留又は位置保持するように構成される。なお、防御索12の延長方向への潮流が有る場合は、係留体11Dの配置は防御索12の一端側のみの配置で済む場合もある。また、この水上航走体11A又は水中航走体1Bで構成された前部展開体11で航走を停止した状態で使用したり、空中航走体11Cで構成された前部展開体11をホバリングした状態で使用したりすることで係留体11Dの代用として使用することもできる。
【0072】
魚雷防御装置10Aを、魚雷2の接近を検知する前から展開して長時間の防御で使用する場合は、比較的長い時間、防御対象船1の操艦に追従させて、防御対象船1とほぼ同じ航走速度で航走させる必要がある。そのため、前部展開体11は、燃料を多く積載可能でしかも燃料補給が容易な水上航走体11Aで構成されることが好ましい。この場合には、前部展開体11が水中音を発生すると、防御対象船1のソナー探知を妨害したり、防御対象船1の位置を暴露したりする可能性があるが、ジャマー機能を持たせることもできる。この水上航走体11Aは、小型艇で構成したり、ジェット式ポンプの駆動により水上航走している水上バイクの構造を利用したりすることで、容易に製造できる。
【0073】
前部展開体11をこの水上航走体11Aで形成する場合は、比較的大きな航走体になるので、排気管や吸気管を収納した煙突部分等の水上に露出する部分は、プラスチックなどの電波を反射しない材料で構成したり、電波吸収体材料(RAM)を使用したりして、少しでも、レーダー電波で探知され難くすることが好ましい。
【0074】
あるいは、逆に、水上航走体11Aで構成される前部展開体11を、レーダー探知に関して、防御対象船1の囮として使用する。そのため、防御対象船1と同等のRCS値(レーダー反射断面積)となるように、レーダー電波を反射する構造体を備えて構成する。また、対艦ミサイルの飛来を検知したときに、自動車の乗員保護用のエアバックのように電波反射体をガスの急激な放出などで急膨張させてRCS値を大きくするように構成してもよい。また、防御対象船1のレーダー波の送信方向を集中させて、この囮にレーダー波を反射させて、この囮からレーダー電波が送信されているように見せかける。これらのように構成すると、水上航走体11Aで構成される前部展開体11が対艦ミサイルの防御用の囮としても使用できるようになる。
【0075】
魚雷防御装置10Aを、魚雷2の接近を検知又は予測したときなどの短時間の防御のみで使用する場合は、特定の時間の間だけ、前部展開体11が特定の進路と航走速度で航走できればよいので、水中航走体11B又は空中航走体11Cで構成してもよい。特に、防御対象船1がレーダー電波によって探知されるのを嫌う場合はレーダー電波に探知されない水中航走体11Bで構成することが好ましい。つまり、防御対象船1の存在がレーダー電波で探知されないように、防御対象船1に随行する航走体となる前部展開体11もレーダー探知を回避する必要があるため、レーダー探知が困難な水中航走体11Bで構成することが好ましい。
【0076】
特に防御対象船1が潜水艦の場合は、魚雷防御の場が水中となるので水中航走体11Bで構成することが好ましい。この水中航走体11Bは、魚雷2と類似の推進システムや構成を用いて容易に製作できる。この場合にも、水上航走体11Aと同様に、水中音が発生するので、防御対象船1のソナー探知を妨害したり、防御対象船1の位置を暴露したりする可能性があるので、できるだけ静音性の高いものにすることが好ましい。また、この水中航走体11Bは、魚雷2の探知センサを妨害するジャマーとしても使用できる。
【0077】
一方、防御対象船1のソナー探知能力への悪影響を嫌う場合は、ソナーによる探知を妨害する水中音の発生を回避するために、水中での雑音が発生し難いヘリコプターやドローンなどの空中航走体11Cで構成することが好ましい。この場合は、レーダーでヘリコプターやドローンが探知され、防御対象船1の位置を暴露する可能性が生じる。そのため、空中航走体11Cをレーダー電波に対してステルス仕様にして、空中航走体11Cがレーダー電波で探知されないようにすることが好ましい。
【0078】
また、前部展開体11として空中航走体11Cを用いる場合は、前部展開体11で防御索12を格納した状態で、空中で警戒待機し、魚雷2の接近を探知したときに、その魚雷2の防御対象船1への進路を遮る場所に防御索12を投下して展開する。これにより、少ない数の魚雷防御装置10で効率よく魚雷の防御ができるようになる。
【0079】
なお、この空中航走体11Cで構成される前部展開体11を、レーダー電波探知に関して、防御対象船1の囮として使用できるように構成してもよい。例えば、レーダー電波に対する反射を多くしてRCS値を大きくしたドローンを、対艦ミサイルなどのレーダー電波に対する囮となるように構成したり、レーダー電波の拡散などの妨害を行ったりすることができるように構成する。
【0080】
図8に、前部展開体11として水上航走体11Aを用いた場合の進路用魚雷防御装置10Bの構成を示すが、水上航走体11A以外にも、側方用魚雷防御装置10Aと同様に、前部展開体11として水中航走体11Bを用いてもよく、空中航走体11Cを用いてもよい。
【0081】
また、
図9~
図11に示すように、前部展開体11としての被曳航体11Eを、防御対象船1又は防御対象船1とは別の船舶4又は航空機5等で構成される既存の航走体1、4、5で曳航する構成にしてもよい。この構成にすると、前部展開体11としての被曳航体11Eに自航能力を備える必要が無くなり、魚雷防御装置10を単純化できる。
【0082】
特に、防御対象船1で曳航する場合は、
図9に示すように、防御対象船1の後方に進路用魚雷防御装置10Bを展開し易い。また、防御対象船1とは別の船舶4で側方用魚雷防御装置10Aを曳航する場合には、
図10に示すように、防御対象船1で搭載可能な有人小型船や有人ボート等の船舶4を使用することができ、防御対象船1の操艦に対応した側方用魚雷防御装置10Aの展開と移動をきめ細かく行うことができるようになる。また、航空機5で側方用魚雷防御装置10Aを曳航する場合には、
図11に示すように、有人ヘリコプターや無人ヘリコプターで曳航することができ、魚雷2に対して安全な場所から、防御対象船1を防御できる。
【0083】
なお、図示していないが、複数の有人小型船窓の船舶4や複数の航空機5により、進路用魚雷防御装置10Bを曳航することもできる。この航空機5による場合は、航空機5の相互間における干渉や衝突を回避するために、航空機5の相互の位置関係を維持しながら航空機5を移動させる必要があるので、安全のために無人の航空機5とし、相互の航空機5の距離を自動で制御することが好ましい。
【0084】
次に、防御索12について説明する。この防御索12自体は、又は、防御索12に分散配置された魚雷対応装置13は、魚雷探知機能と信管無効化機能と魚雷起爆機能の少なくとも一つの機能を有して構成される。つまり、防御対象船1を魚雷2から防御するために、魚雷2の接近を感知するための魚雷探知機能と、魚雷2が備えている起爆用の信管を無効化するための信管無効化機能と、信管を作動させて魚雷を起爆する魚雷起爆機能の少なくとも一つの機能を備える。さらに、これらの魚雷探知機能と信管無効化機能と魚雷起爆機能の少なくとも一つの機能を制御する局所制御機器(図示しない)を前部展開体11等に備えて構成する。
【0085】
そして、魚雷対応装置13は、魚雷2が発生する音を探知する機器、魚雷2の通過時の水圧変化を探知する機器、又は、魚雷2の磁気を探知する機器のうちの少なくとも一つの魚雷探知機器を備えて構成される。あるいは、魚雷対応装置13は、自爆により魚雷の誘爆若しくは魚雷2の探知センサの破損を誘う爆発機器13dを備えて構成される。さらには、魚雷対応装置13が、魚雷2の探知センサを破損若しくは魚雷2の探知センサの探知の妨害をする妨害部材13ec、13fcを放出する妨害部材放出機器13eを備えて構成される。
【0086】
最初に、魚雷探知機能について説明する。この魚雷探知では、魚雷2が発生する音を感知したり、魚雷2の通過時の水圧の変化を感知したり、魚雷2が備えている磁気信管による磁気や誘導電流等の発生を感知したりする。これらの機能を有する魚雷探知機器13aとして、音響装置や水圧検知装置や電流検知装置等を用いることができる。そして、魚雷探知機能で、魚雷2を探知した場合には、信管無効化機能と魚雷起爆機能を作動させたり、防御対象船1に通知して、防御対象船1に搭載されている魚雷対処システムを作動させたりする。
【0087】
この音響装置は、高級なスペクトラム分析などをして音を分析して物体の種類を分別できるものであってもよいが、コストを考慮すると、単に魚雷の接近の通過を音の大きさの増減から判断することでも十分使用できるので、魚雷音を受音できる防水マイクでも良いと考える。
【0088】
また、水圧検知装置としては、圧電素子を有する圧力センサを用いることができ、魚雷2の接近と魚雷2の通過を水圧の変化から判断することができる。この場合は波による水圧変動と魚雷2の通過による水圧変動の区別は、水圧の大きさの増加の速度と減少の速度から判断することができる。また、魚雷2の接近と魚雷2の通過による防御索12の振動の変化を検知する加速度計を有する振動検知装置を用いることもできる。
【0089】
また、磁気的な装置としては、磁気信管による誘導電流の発生を検知したり、魚雷による地磁気の変化を検知したりする装置や、魚雷や機雷で使用する磁気信管を用いて魚雷の接近及び通過の探知に用いてもよい。
【0090】
次に信管無効化機能について説明する。この信管無効化機能としては、音響信管に関しては、大きな音や水圧を発生することで、魚雷2に搭載されている信管の音響センサにダメージを発生させる。例えば、魚雷探知機器13aからの信号を得て、魚雷2の通過時に、水中で小爆発を発生させ、水圧の衝撃波を信管に当てることで対応する。この小爆発は魚雷2を誘爆するほど大きな必要は無く、魚雷2の表面に露出している音響センサや光学センサにダメージを与えることができればよいので、比較的小さな爆発で良い。
【0091】
この小爆発の場合は、防御索12に巻きつけた紐状の爆発物や防御索12に所定の間隔で設けた塊状の爆発機器13dを信管無効化機器13bとして用いることができる。この爆発物は、有効な爆薬量のみが爆発するように、有効量の長さで、誘爆しない程度の間隔を開けて防御索12に巻回される。又は、爆発機器13dは、有効な爆薬量のみが爆発するように、隣接する爆発機器13dを誘爆しない程度に間隔を開けて防御索12に配置される。この爆発機器13dは信管無効化するための水圧の衝撃波を発生させることを目的とするものであり、それに適した爆発物を選定する。
【0092】
また、魚雷2の通過時に、魚雷2の進行領域に、膜状体13ecや薄膜片13fcや小磁石片等の妨害部材を散布する妨害部材放出機器13e、13fを用いることが考えられる。この場合には、魚雷2の速度は、20m/s~30m/sにもなるので、魚雷2の頭部の水流で排斥されないように、魚雷2のセンサ部分や信管や推進器を覆うことができる程度に面積の広いものや、積極的に付着していくものや、衝突により魚雷2のセンサや信管を損傷できるものや、魚雷2のプロペラに巻付いたりして、魚雷2の推進システムにダメージを与えるものであることが必要になる。
【0093】
例えば、魚雷2側の磁気信管に対しては、妨害部材放出機器13e、13fから妨害部材13ec、13fcを水中に放出して魚雷2の表面に付着させる。この磁性体等の付着は、音響センサや光学センサ(赤外線カメラ)に対しても有効である。この磁性体の膜状体13ecや薄膜片13fcとしては、電波を反射してレーダーによる探知を妨害するチャフ(電波欺瞞紙)に類似のものを用いることができる。
【0094】
この妨害部材の一つとして、磁気を帯びて魚雷に磁力等で吸着して魚雷の探知センサ(音響センサ、磁気センサ、光学センサ)を覆う膜状体13ecがあり、この膜状体展開用機器を妨害部材放出機器13eとして用いる場合は、
図12に示すように、膜状体13ecを魚雷2の進路の前方に展開し、展開した膜状体13ecに魚雷2を突入させて、この膜状体13ecで魚雷2の頭部を覆う。
【0095】
より具体的には、膜状体13ecを入れた格納容器13eaを防御索12に備えて、魚雷2の接近若しくは魚雷2の通過の信号を受けて、魚雷2の進路の前方で、膜状体13ecを入れた格納容器13eaの下部を開放して格納用軸13ebに巻回、又は、折り畳められていた膜状体13ecを下側の錘となる棒状体13edで落下させる。これにより、この膜状体13ecは防御索12の下側に暖簾のように下がり、魚雷2の進路を塞ぐ。そして、この展開で生じた膜状体13ecに魚雷2を突入させて膜状体13ecで魚雷2の頭部を覆う。
【0096】
なお、この膜状体13ecの展開は防御索12の全体で行う必要はなく、魚雷2の接近を感知した部分の近傍のみ展開すればよい。これにより、この膜状体13ecの展開に伴う防御索12の曳航抵抗の増加を最小限にすることができる。また、膜状体13ecの上側は、予め設定した時間を経過したときに上側を開放若しくは切り離しするか、魚雷2によって膜状体13ecが引っ張られたときにその引張力を検知して上側を開放若しくは切り離したり、その引張力により上側部分が破断されたりするように構成する。
【0097】
この魚雷2の頭部を膜状体13ecで覆うことにより、音響の伝達、水圧変動の伝達、光の伝達を遮断又は妨害し、魚雷2に搭載されている音響センサ、光学カメラ、磁気センサの機能を損なう。さらに、膜状体13ecに磁気を帯びさせておくことにより、磁気センサの探知能力を劣化若しくは無効にできる。
【0098】
この膜状体13ecの面積は対象とする魚雷2の横断面積の9倍から100倍程度が好ましい。小さすぎると魚雷2を覆うことができる可能性が小さくなり、また、魚雷2の頭部から外れる可能性が大きく成り、他方、大き過ぎると展開が間に合わなくなる上、嵩張るので魚雷対応装置13に装備しておくことが難しくなる。
【0099】
また、
図13に示すように、妨害部材放出機器13fとして薄膜片散布用機器を用いる場合は、薄膜片13fcを入れた格納容器13faが信管無効化のための妨害部材放出機器13fとなり、魚雷2の進路の前方で、薄膜片13fcの集合体を入れた格納容器13faの下部を開放して格納されていた薄膜片13fcを水中に流出及び拡散させて、その拡散で生じた薄膜片13fcの雲の中に突入してくる魚雷2に薄膜片13fcを付着させて、魚雷2に搭載されている音響センサ、光学カメラ、磁気センサの機能を損なう。
【0100】
なお、高速航走中の魚雷2に対しては薄膜片13fcの付着が難しいとしても、魚雷2のアクティブセンサを一時的ではあるが攪乱することができる。また、魚雷2の通過前に、比較的広範囲に薄膜片13fcをばら撒くことで、防御対象船1の船体に近い大きさの音の反響領域を発生でき、防御対象船1の音響的虚像を構築して、この音響的虚像に魚雷2を誘導することができる。
【0101】
なお、
図12、
図13では、格納容器13ea、13faを直方体で示しているが、曳航時の抵抗が少なくなるように格納容器13ea、13faの前後を流線型とし、全体の形状も流線型に近い形状に形成することが好ましい。また、膜状体13ecと薄膜片13fcの材料としては、空中散布用のチャフにプラスチックのフィルムやワイヤーにアルミを蒸着させたものが使用されているので、これに準じた材料を用いることができる。
【0102】
そして、魚雷起爆機能としては、魚雷2側のアクティブタイプの音響信管に関しては、この音響信管が発生する音に対して防御索12の構造体でその音を反射したり、防御索12又は魚雷対応装置13に備えた水中マイクと水中スピーカーとの組み合わせで、受音した音を増幅して発音して船体からの反射音を模擬したりすることで対応できる。
【0103】
また、船体による地磁気の乱れを感知する魚雷2側の磁気信管に関しては、防御索12又は魚雷対応装置13の構成材料に磁気を帯びさせるか、防御索12又は魚雷対応装置13に地磁気を乱す磁気を帯び部分を設けること等で対応できる。
【0104】
また、船体への接近により、船体を構成する金属で発生する誘導電力を感知する魚雷2側の磁気信管に関しては、誘導電力を発生する通電ループを形成できる金属部分を防御索12に備えることで対応できる。また、この魚雷2の磁気信管を誤作動させるために、防御索12を、強磁性体若しくは導体を含んでいる材料で一部若しくは全部を構成する。これにより、防御索12に強磁性体若しくは導体が有する機能が付与されている場合には、魚雷2に搭載されている磁気信管を作動できる可能性があり、非常に簡単な構成で防御索12に魚雷起爆機能を付与できる。この強磁性体としては、鉄、ニッケル、コバルト、フェライト等がある。また、導体としては、電気伝導率又は熱伝導率が大きな物質である、伝導体、導電体、電気伝導体を用いることができる。
【0105】
さらには、魚雷2の通過時に防御索12又は魚雷対応装置13に備えた爆発物による小爆発を発生させることで、魚雷2を誘爆させたり、魚雷2の探知センサの破損を誘ったりすることで魚雷2を無効化する。
【0106】
そして、魚雷2の通過を検知してから、小爆発などの対応する場合には、魚雷探知機能を持つ防御索(以下、「第1種防御索」という)12Aに魚雷対応装置13を設けた場合には、魚雷2が通過した後、あるいは、魚雷2の通過中となってしまい、魚雷2の頭部に設けられている近接信管や魚雷2の進路を防御対象船1に誘導するセンサにダメージを与えるのが難しくなると考えられる。
【0107】
そこで、魚雷防御領域Ra、Rb、Rcを、単一の防御索12で設けるのではなく、機能を分担した第1種防御索12Aと第2種防御索12Bで設けることが考えられる。この場合に、第1種防御索12Aを魚雷2の接近若しくは魚雷2の通過を探知する機能を有して構成するか、又は、魚雷2の接近若しくは魚雷2の通過を探知する魚雷探知機器13aを備えて構成する。そして、第2種防御索12Bを魚雷2の信管を無効化する信管無効化機能と魚雷2を起爆させる魚雷起爆機能の少なくとも一方を有して構成するか、又は、魚雷2の信管を無効化する信管無効化機器13bと魚雷2を起爆する魚雷起爆機器13cの少なくとも一方の機器を有する魚雷対応装置13を備えて構成する。
【0108】
この第1種防御索12Aで形成する魚雷防御領域Ra、Rb、Rcは、防御対象船1に関して第2種防御索12Bで形成する魚雷防御領域Ra、Rb、Rcより外側設ける。なお、第1種防御索12Aと第2種防御索12Bを適切に組み合わせて3組よりも多い防御索12で単数又は複数の魚雷防御領域Ra、Rb、Rcを形成してもよい。
【0109】
そして、魚雷対応装置13若しくは前部展開体11のいずれかに配置された対応制御装置(図示しない)が第1種防御索12Aで魚雷2の接近若しくは魚雷2の通過を探知したときに、第2種防御索13Bの信管無効化機能若しくは魚雷起爆機能の少なくとも一方の機能を発揮させるか、又は、第2種防御索13Bの魚雷対応装置13を作動させて、防御対象船1を防御する。
【0110】
この魚雷対応装置13は、この第1種防御索12Aよりも、防御対象船1の側に展開される第2種防御索12Bに設けるのが好ましい。この第1種防御索12Aと第2種防御索12Bは、別々の前部展開体11で曳航してもよいが、一つの前部展開体11で、第1種防御索12Aと第2種防御索12Bの相対位置関係を維持しながら曳航するのが好ましい。また、第1種防御索12Aと第2種防御索12Bとの間に距離維持索を設けて相対距離を維持すると共に、距離維持索に信号線を備えて、第1種防御索12A側で検出した魚雷2の通過を第2種防御索12B側に伝達できるように構成することが好ましい。
【0111】
図14に示すように、この第2種防御索12Bは第1種防御索12A側から防御対象船1の側に5m~10m程度の離間距離Ds離れても設けることにより、20m/s~30m/s程度の航走速度で魚雷対応装置13の真横から航走してくる魚雷2に対して、0.15s~0.5s程度の対応時間を稼ぐことができる。この離間距離Dsは、魚雷対応装置13の対応時間によって変更する。
【0112】
なお、魚雷2の通過を検知する器具と魚雷2を処理する器具とが迅速に作動して、魚雷対応装置13の作動時間に実質的に時間的な問題が無い場合には、魚雷対応装置13を第1種防御索12Aに設けてもよい。つまり、第1種防御索12Aの機能と第2種防御索12Bの機能とを同一の防御索12に備えてもよい。
【0113】
また、第1種防御索12Aの水深は防御対象船1の喫水を模擬するために、防御対象船1の喫水に近い水深S1とされるが、この第2種防御索12Bの水深S2は、魚雷2に対応するためであるので、魚雷2の予測航走水深S3に近い水深に配置すること、つまり、
図14に示すように、第1種防御索12Aの水深S1よりも見込み水深Hsだけ第2種防御索12Bを深く配置することが好ましい。
【0114】
この第2種防御索12Bでは、直接魚雷2を無効化するために、爆発物の爆発で、魚雷2を爆発させるか、魚雷2を損傷させて航走能力を奪うことを目的とするので、爆発物としては、手榴弾や小型地雷に準じた爆発物で、爆発で生じる破片が水中を進行し易い形状になるような爆発物を用いる。この爆発物を第2種防御索12Bに分散配置する。この時、指向性のある爆発物にして、隣接する爆発物への影響を少なくすることにより、一基の魚雷2への対処で第2種防御索12Bの爆発物全部が爆発することを防いで、第2種防御索12Bの他の部分における魚雷2の防御の機能を維持する。
【0115】
なお、第2種防御索12B側の爆発物の爆発で生じるバルブパルスを利用して魚雷2を破壊する場合には、精度よく魚雷2の真下で爆発させる必要があるので、魚雷2の予測航走水深S3よりも深い水深S2に第2種防御索12Bを配置する。しかしながら、魚雷2自体をバルブパルスで破壊若しくは破損させるためには魚雷2の真下での爆発が必要となり、技術的に難しいので、魚雷2自体の破壊を図るよりも、魚雷2が搭載しているセンサへのダメージや誘爆を図る方が実用的で、より好ましい。
【0116】
この魚雷防御装置10においては、防御索12が展開時に適正な水深S1、S2を維持できるように、防御索12の水深S1、S2を調整するための水深調整体17を備えて構成される。防御索12自体は水中で一定若しくは所定の水深S1、S2を維持するように曳航するために、重量と浮力が釣り合う中性浮力としておくことが好ましい。
【0117】
しかしながら、防御索12を中性浮力に調整していても、波や潮流などの外乱により目標水深から外れて浮上や沈降する場合が有るので、魚雷2の防御に効果的な水深S1、S2を維持できるようにするため、水深調整体17を防御索12に一定の間隔で設ける。この水深調整体17は、必要に応じて、防御索12の中間にも配置して、防御索12の全長に亘ってほぼ同じ若しくは個別に設定された水深である水深S1、S2を維持しながら、移動できるようにする。
【0118】
なお、水深調整体17のそれぞれの水深S1、S2を同一にすると略直線状に延びた防御索12のラインを確保でき、水深調整体17のそれぞれの水深S1、S2を交互に別の水深にすると側面視で略山形状や略波型状に延びた防御索12のラインを確保できる。
【0119】
そして、
図1、
図2、
図4~
図7に示すように、また、防御索12が曳航されて使用される魚雷防御装置10A、10Bの場合は、防御索12の所々に可動翼又はフラップ17gの付いた上下方向に移動可能な翼形状部材17fを本体に備えた水深調整体17を分散配置する。
図16に示すように、この水深調整体17では、本体17aに備えた制御装置17bでの制御によりで、水圧センサ17cや水面までの距離センサなどから水深情報を得て、この得られた水深の増加又は減少に伴い、バッテリ17dの電源を使用してモーター17eを駆動して、フラップ17g(又は可動翼)を回動させて水深調整体17を浮上又は沈下させる。
【0120】
つまり、水深が小さいとのデータを得たときには水平フラップ17g(又は可動翼)の後端側を上げて降下させ、反対に、水深が大きいとのデータを得たときにはフラップ17g(又は可動翼)の後端側を下げて上昇させる。これにより、容易に水深調整体17に連結されている防御索12を予め設定された水深S1、S2に維持できる。
【0121】
また、
図17に示すように、この水深調整体17では、水圧で伸縮する水圧ピストン装置17hを用いて、シリンダ17haの内部で水圧で伸縮するピストン17hbの水深調整バネ17hcとの釣り合う深さでフラップ17g(又は可動翼)が静水面に平行になるように調整して、水深が深くなって水圧が大きくなるとピストン17hbが押し込まれてフラップ17gを水深調整体17が浮上する方向に動かし、反対に、水深が浅くなって水圧が小さくなるとピストン17hbが水深調整バネ17hcの腐生力により戻ってフラップ17gを水深調整体17が沈降する方向に動かすように構成してもよい。
図17では2つの回転軸17jとフラップ17gに固定されて、翼形状部材17fに対して回転可能な回転軸17gaとを備えて構成されている。これにより、機械的な自動操作で容易に水深調整体17に連結されている防御索12を予め設定された水深S1、S2に維持できる。
【0122】
また、
図3、
図8に示すように、防御索12が曳航されずに停止して使用される魚雷防御装置10Cの場合は、水深調整体17として、防御索12の所々を浮き15を設けて係留索16を用いて防御索12を吊り下げる。これにより、浮き15で防御索12を吊って係留索16の長さで水深S1、S2を調整及び維持する。
【0123】
次に、
図1、
図2、
図4~
図7に示す後部展開体14について説明する。この後部展開体14は、前部展開体11により防御索12が展開されるときに、前部展開体11の移動に伴って、防御索12全体が展開せずに一塊のままで移動しないように、防御索12の後端側に配置されて、防御索12の後端側の移動を妨げて、防御索12を展開させるための装置である。この後部展開体14は、展開時には曳航抵抗が大きくなるように、一方で、展開後の移動時には曳航抵抗が小さくなるように構成される。
【0124】
この構成の例としては、
図18に示すように、後部展開体14は小型の水中パラシュート14aを備えて、魚雷防御装置10の展開時に水中パラシュート14aを開き、展開完了時における防御索12の張力の変化により水中パラシュート14aを切り放して、展開後の後部展開体14の曳航抵抗を少なくする。
【0125】
又は、
図19に示すように、後部展開体14は水中翼部材14fを備えて、魚雷防御装置10の展開時にこの水中翼部材14fを防御索12とは垂直な方向に開き、魚雷防御装置10の展開完了時における防御索12の張力の変化により、この水中翼部材14fを水平方向に回転して、展開後の後部展開体14の曳航抵抗を少なくする。
【0126】
又は、
図20に示すように、後部展開体14は上下方向に展開する抵抗板14bを備えて、魚雷防御装置10の展開時にこの抵抗板14bを開き、魚雷防御装置10の展開完了時における後部展開体14に作用する流体抵抗力の急激な増加により、この流体抵抗力を利用して抵抗板14bを折り畳んで、展開後の後部展開体14の曳航抵抗を少なくする。この後部展開体14は水深調整機能を備えていることが好ましいが、水深調整体17を近傍に設ける場合は、水深調整機能を備えていなくてもよい。なお、
図7のような、防御索12の両端に配置された前部展開体11で防御索12が曳航される場合は、必ずしも設ける必要はない。
【0127】
一方、魚雷防御装置10の展開時に防御索12を短時間で迅速に展開する場合は、前部展開体11のみならず、後部展開体14も積極的に移動方向に対して後方に移動させて、防御索12を展開進展させる。この場合は、展開時のみ自走できるように、後部展開体14に航走機能を与えるか、一時的に水上航走体11A、水中航走体11B、又は空中航走体11Cを用いて後部展開体14を移動させて防御索12の後端側を展開する。この場合は、展開完了時に水上航走体11A、水中航走体11B、又は空中航走体11Cと後部展開体14との間を切り放す。
【0128】
次に、局所制御機器(図示しない)について説明する。この局所制御機器は、魚雷探知機能と信管無効化機能と魚雷起爆機能の少なくとも一つの機能を制御する機器であり、前部展開体11等に備える。この局所制御装置は、防御対象船1又はその他の魚雷防御システムの全般を制御する全体制御装置と連携して、防御対象船1の防御をより精度よく、また、効率よく行う。この場合は、防御対象船1と前部展開体11との距離が数百メートル以内と比較的近いので、制御用の通信電波による防御対象船の自船位置の暴露を回避するために、防御対象船1と前部展開体11の局所制御機器との間の通信には、光ファイバーケーブルを使用した有線通信を採用したり、レーザー光による局所用の無線通信を採用したりすることが好ましい。
【0129】
この局所制御装置は、この局所制御装置が備えられている魚雷防御装置10の各種機能を制御するものであり、魚雷探知機能により魚雷2の接近又は通過を探知したときに、自動的に通信することで、この前部展開体11の信管無効化機能と魚雷起爆機能の少なくとも一方を作動させたり、直接又は全体制御装置を経由して、並行して配置されている隣接の魚雷防御装置10の前部展開体11の局所制御装置に指令を出して、その魚雷防御装置10の信管無効化機能と魚雷起爆機能の少なくとも一方を作動させたりして、魚雷2に対して、より広域的に防御対象船1を防御する。
【0130】
次に、本発明の実施の形態の魚雷防御方法について説明する。この魚雷防御方法は、魚雷2を捕獲網で捕獲することなく、水上艦又は潜水艦である防御対象船1を魚雷2から防御する魚雷防御方法である。そして、索状体で構成された防御索12を単数本又は複数本、防御対象船1の周囲に設置又は曳航して、防御対象船1の周囲に魚雷防御領域Ra、Rb、Rcを形成して、防御索12自体又は防御索12に分散配置された魚雷対応装置13に付与された魚雷探知機能と信管無効化機能と魚雷起爆機能の少なくとも一つの機能を用いて、防御対象船1を魚雷2から防御する方法である。
【0131】
言い換えれば、防御索12自体又は防御索12に分散配置された魚雷対応装置13に魚雷探知機能と信管無効化機能と魚雷起爆機能の少なくとも一つの機能を付与して構成し、防御索12を単数本又は複数本、防御対象船1の周囲に設置又は曳航して、防御対象船1の周囲に形成された魚雷防御領域Ra、Rb、Rcにより、防御対象船1を魚雷2から防御することを特徴とする方法である。
【0132】
そして、これらの防御索12自体又は防御索12に分散配置された魚雷対応装置13に魚雷探知機能と信管無効化機能と魚雷起爆機能の少なくとも一つの機能を付与して構成した魚雷防御装置として、上記の魚雷防御装置10を用いることができる。そのため、この魚雷防御方法は、水上艦又は潜水艦である防御対象船を魚雷から防御する魚雷防御方法であって、上記の魚雷防御装置10を用いて、防御対象船1を魚雷から防御する方法であるとも言える。
【0133】
次に防御索12の展開方法について説明する。この魚雷防御装置10の展開に関しては、事前展開と即応展開とが考えられる。この魚雷防御装置10の展開の仕方によって、前部展開体11の航走時の加速度、航走速度、航走時間などを決める航走システムの仕様が決まることになる。
【0134】
事前展開では、魚雷2の到来が予測されるような事態になっており、経常的に魚雷防御態勢の一環として、防御索12を防御対象船1の周囲に予め展開して、魚雷2の到来を待ち受ける。この事前展開の場合は、魚雷防御装置10の防御索12の展開にある程度の時間が掛ってもよいので、魚雷防御装置10を防御対象船1に対する防御位置に配置して、防御索12を展張すればよい。
【0135】
一方、即応展開では、防御対象船1やその周囲で警戒している艦船や航空機や潜水艦などからの魚雷2の到来を探知して、魚雷防御装置10で防御すると決定してから、魚雷防御装置10を防御対象船1の周囲に即時に展開して、魚雷2の到来に対応する。この即応展開の場合には、短時間で展開する必要がある。そのため、例えば、防御索12の後端に繋がっている後部展開体14を水中に投下して、この後部展開体14に作用する抵抗又は推進力により、前部展開体11の後側に折り畳み状態や巻回状態で格納した防御索12を引張り出させる。この防御索12の引張により、防御索12を格納状態から展開状態にする。
【0136】
この魚雷防御装置10を用いた魚雷防御領域Ra、Rb、Rcの形成は、魚雷2の進行方向が予測される場合は、その魚雷2の進行方向と進行速度と、防御対象船1の避航航路における位置との関係から防御ラインの位置を算出して形成する。そして、各時刻における魚雷2の予想位置と防御対象船1の避航位置とを算出し、魚雷防御装置10の展開に要する時間とから、魚雷防御装置10の投下位置と投下時刻が計算できる。
【0137】
この即応展開では、防御対象船1からロケットなどで魚雷防御装置10を魚雷防御領域Ra、Rb、Rcの設定場所に投擲してもよいが、予め、魚雷防御装置10を搭載したヘリコプターやドローンなどを防御対象船1の周囲の魚雷防御領域Ra、Rb、Rcの設定予定場所に飛ばして警戒させておき、魚雷2の接近を探知したときに魚雷防御装置10をヘリコプターやドローンから投下して展開してもよい。
【0138】
なお、魚雷防御装置10の展開に要する時間を短くするために、防御索12の後端にも前部展開体11と類似の防御索12の後端を牽引するための装置を配置し、前方と後方の両方向へ展開させる。これにより、展開時間をほぼ半分にすることができる。
【0139】
また、展開された防御索12の防御ラインとしての魚雷防御領域Ra、Rbに関しては、
図1及び
図2に示しているように直線形状に配置することが単純で形成し易い。しかしながら、水深調整体17に左右方向への移動若しくは操縦特性を持たせることで、例えば、防御索12をジグザグ形状に配置して、防御索12の密度を大きくすることで、より防御の効果を増加することができる。また、
図3に示すように魚雷防御領域Rcが固定の場合は、展開された防御索12の防御ラインの形状は防御索12の中間部分での係留の位置次第で、比較的容易に、防御索12をジグザグ形状や円弧形状等の任意の形状にすることができる。
【0140】
そして、魚雷防御態勢が終了した場合には、防御索12が自爆又は魚雷2の爆発により破断されてしまっても、前部展開体11と後部展開体14を回収することで、防御索12の未使用部分を回収できる。
【0141】
次に、この即応展開時の防御索12の展開の時間に関して試算してみると、次のようになる。つまり、11m/s(約20ノット)程度で防御索12を曳航する前部展開体11が100m移動するのに、9s程度かかり、速度ゼロから11m/sになるまで、その倍の20s程度かかるとすると、魚雷2は400m~600m程度移動することになる、そのため、防御対象船1から500m程度離れた位置に前部展開体11を投下し、防御索12を曳航して展開するには、防御索12の展開開始は魚雷2が防御対象船1から1km~2km程度離れている時点で行う必要がある。
【0142】
また、防御索12の曳航抵抗について考えると、次のようになる。直径dが0.1mφで長さLが100mの円形断面の防御索12が、
図1及び
図2に示すように、進行方向にV=16m/s(約30ノット)で曳航するときの抵抗は、次のように計算される。なお、ここでは、抵抗係数Cdとして、日本の造船協会論文集113号の「曳航ロープの張力について」(田宮真:昭和38年5月造船協会春季講演会にて講演)の「4ロープの抵抗係数」に記載されている「Cf≒0.007~0.006」を参考に、少し大きめの値で「Cf=0.008」を試用している。
【0143】
Cf=0.008として、D=Cf×(ρ×V×V/2g)×(π×L×d)/2g)で、D=ρ×0.008×16[m/s]×16[m/s]×π×0.1[m]×100[m]/(2×9.8[m/s2])=1.045m3×ρ=1.045[m3]×1000[kg・f/m3]=1045[kg・f]=1.024×103[N]となる。つまり、約1.0トンとなる。
【0144】
また、翼幅Bが0.1mで長さLが50mで翼面積Aが5m
2の翼断面形状の防御索12が、
図3に示すように、横方向にV=16m/s(約30ノット)で曳航するときの曳航抵抗は、高レイノルズ数(10
6)の円柱の抵抗係数(Cd≒0.03)を参考にして、抵抗係数Cdを仮に0.04として、D=Cd×ρ×V×V×(A/2g)、D=ρ×0.04×16m/s×16m/s×5m
2/(2×9.8m/s
2)=2.61m
3×ρ=2.61m
3×1000kg/m
3=2.61トン=2.55×10
3Nとなる。
【0145】
上記の魚雷防御装置10及び魚雷防御方法によれば、水上艦、潜水艦、航空機などから発射や投下され、水面下を航走して水上艦又は潜水艦である防御対象船1に向かって来る魚雷2から、魚雷2を捕獲網で捕獲することなく、防御対象船1を防御することができる。
【0146】
なお、近年では、無人の水上航走体、水中航走体、空中航走体の低廉化や性能の向上しており、これらの航走体に直に魚雷対応装置13を搭載して、この航走体を防御対象船1の周囲に多数点在させて配置することで、防御対象船1を防御することも考えられる。この場合は、航走体を容易に再配置することができるので、防御対象船1に向かって進行してくる魚雷2に対して、防御拠点を航走体で集中的に構成できる。しかしながら、この場合は点状の防御となるので、魚雷の多方面からの同時攻撃等に対しては、線状の防御ラインを形成できる本方法の魚雷防御方法がより効果的であると考える。
【符号の説明】
【0147】
1 防御対象船
2 魚雷
2a 本体
2b 探知センサ
2c 推進器
3 対艦ミサイル
4 小型船(防御対象船とは別の船舶)
5 ヘリコプター(航空機)
10 魚雷防御装置
10A 側方用魚雷防御装置(魚雷防御装置)
10B 進路用魚雷防御装置(魚雷防御装置)
10C 固定用魚雷防御装置(魚雷防御装置)
11 前部展開体
11A 水上航走体(前部展開体)
11B 水中航走体(前部展開体)
11C 空中航走体(前部展開体)
11D 係留体(前部展開体)
11E 被曳航体(前部展開体)
11a 連結索
11b 係留索
12 防御索
12A 第1種防御索(防御索)
12B 第2種防御索(防御索)
13 魚雷対応装置
13a 魚雷探知機器(魚雷対応装置)
13b 信管無効化機器(魚雷対応装置)
13c 魚雷起爆機器(魚雷対応装置)
13d 爆発機器(魚雷対応装置)
13e 膜状体展開用機器(妨害部材放出機器:魚雷対応装置)
13ea 格納容器
13eb 格納用軸
13ec 膜状体(妨害部材)
13ed 棒状体
13f 薄膜片散布用機器(妨害部材放出機器:魚雷対応装置)
13fa 格納容器
13fc 薄膜片(妨害部材)
14 後部展開体
14a 水中パラシュート
14b 抵抗板
14f 水中翼部材
15 浮き
16 係留索
17 水深調整体
17a 本体
17b 制御装置
17c 水圧センサ
17d バッテリ
17e モーター
17f 翼形状部材
17g フラップ
17h 水圧ピストン装置
Ra、Rb、Rc 魚雷防御領域
W ウェーキ