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特開2023-859241,4-ジオキサン分解菌、1,4-ジオキサン分解剤、1,4-ジオキサン分解剤の製造方法、及び1,4-ジオキサンの処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085924
(43)【公開日】2023-06-21
(54)【発明の名称】1,4-ジオキサン分解菌、1,4-ジオキサン分解剤、1,4-ジオキサン分解剤の製造方法、及び1,4-ジオキサンの処理方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20230614BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12N1/00 R ZNA
C12N1/20 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200244
(22)【出願日】2021-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大島 義徳
(72)【発明者】
【氏名】西田 憲司
(72)【発明者】
【氏名】福武 健一
(72)【発明者】
【氏名】森 一星
(72)【発明者】
【氏名】福田 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】澤入 駿哉
(72)【発明者】
【氏名】野口 泰良
(72)【発明者】
【氏名】宮田 茂
(72)【発明者】
【氏名】倉根 隆一郎
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA45X
4B065BA22
4B065CA56
(57)【要約】
【課題】1,4-ジオキサン分解速度に優れた新規な1,4-ジオキサン分解菌を提供する。
【解決手段】1,4-ジオキサン分解菌は、受託番号NITE P-03327として寄託された3e株である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
受託番号NITE P-03327として寄託された3e株である1,4-ジオキサン分解菌。
【請求項2】
請求項1に記載の1,4-ジオキサン分解菌を含有する1,4-ジオキサン分解剤。
【請求項3】
請求項2に記載の1,4-ジオキサン分解剤の製造方法であって、
環状エーテル又はグリコールの存在下にて、1,4-ジオキサン分解菌の培養を行う培養工程を備えている1,4-ジオキサン分解剤の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の1,4-ジオキサン分解菌と1,4-ジオキサンとを接触させる接触工程を有する1,4-ジオキサンの処理方法。
【請求項5】
1,4-ブタンジオールの存在下にて、前記接触工程を行う請求項4に記載の1,4-ジオキサンの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,4-ジオキサン分解菌、1,4-ジオキサン分解剤、1,4-ジオキサン分解剤の製造方法、及び1,4-ジオキサンの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,4-ジオキサンは、化学工場等で、有機合成反応用の溶媒等として使用される難分解性物質である。1,4-ジオキサンは、有害性が示唆されることから環境基準値が設定されており、汚染水や汚染土壌等の浄化が求められている。1,4-ジオキサンを含む汚染水や汚染土壌等の浄化を行う方法として、促進酸化法といった化学的分解手法が知られている。特許文献1、2に記載されるように、促進酸化法とは、オゾン処理、オゾン処理と過酸化水素処理との組み合わせ、オゾン処理と紫外線処理との組み合わせ等によって生成したラジカルにより、汚染土壌や汚染水中の1,4-ジオキサンを酸化分解する手法である。
【0003】
しかし、促進酸化法で用いられる薬剤は比較的高価であり、オゾン発生装置や紫外線照射装置は運転に大量の電力を必要とする。また、汚染水や汚染土壌等には促進酸化法の反応を阻害する物質や、分解対象として競合的にラジカルを消費する物質が含まれる場合が多く、膨大な量の薬剤や電力が必要になる。そのため、コスト的には不利である。さらに、紫外線処理と組み合わせる手法は、紫外線を透過しない汚染土壌や、濁分を含む汚染水への適用が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-103401号公報
【特許文献2】特開2005-58854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、汚染水等の浄化を行う方法として、微生物分解法が知られている。1,4-ジオキサン分解活性を有する微生物と汚染水等とを接触させることで、微生物が1,4-ジオキサンを経時的に分解する。微生物にとっての好適な環境下で1,4-ジオキサンと接触させると、選択的に効率よく1,4-ジオキサンを分解するため、コスト的に有利である。
【0006】
本発明は、1,4-ジオキサン分解能に優れた新規な微生物を発見したことに基づくものであり、新規な1,4-ジオキサン分解菌、1,4-ジオキサン分解剤、1,4-ジオキサン分解剤の製造方法、及び1,4-ジオキサンの処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の1,4-ジオキサン分解菌は、受託番号NITE P-03327として寄託された3e株である。
上記の課題を解決するため、本発明の1,4-ジオキサン分解剤は、上記1,4-ジオキサン分解菌を含有する。
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明の1,4-ジオキサン分解剤の製造方法は、環状エーテル又はグリコールの存在下にて、1,4-ジオキサン分解菌の培養を行う培養工程を備えている。
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の1,4-ジオキサンの処理方法は、上記1,4-ジオキサン分解菌と1,4-ジオキサンとを接触させる接触工程を有する。
上記の構成において、1,4-ブタンジオールの存在下にて、前記接触工程を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、新規な1,4-ジオキサン分解菌により、汚染水等に含まれる1,4-ジオキセンを低コストで処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】1,4-ジオキサンを唯一の炭素源として含む培地での3e株の増殖曲線を示す図である。
図2】テトラヒドロピランを唯一の炭素源として含む培地での3e株の増殖曲線を示す図である。
図3】3e株の1,4-ジオキサン分解活性について示す図である。
図4】3e株の1,4-ジオキサン分解活性について示す図である。
図5】3e株の1,4-ジオキサン分解活性について示す図である。
図6】219株の1,4-ジオキサン分解活性について示す図である。
図7】接触工程での1,4-ジオキサン濃度の経時変化を示す図であり、(a)は、1,4-ジオキサン単独下、(b)は1,4-ブタンジオール共存下、(c)は、テトラヒドロフラン共存下での1,4-ジオキサン濃度の経時変化である。
図8】1,4-ジオキサン分解剤として用いる3e株培養時の環状エーテル、グリコールの影響について示す図であって、その後の接触工程での1,4-ジオキサン濃度の経時変化を示す図である。(a)は、富栄養培地のLB培地で培養した培養液を接触した場合、(b)は、1,4-ブタンジオールを添加したLB培地で培養した培養液を接触した場合、(c)は、テトラヒドロフランを添加したLB培地で培養した培養液を接触した場合の1,4-ジオキサン濃度の経時変化である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。
<1,4-ジオキサン分解菌3e株について>
本発明の1,4-ジオキサン分解菌は、化学工場近郊の河川水から単離した。単離した1,4-ジオキサン分解菌を、3e株と命名した。3e株は、国際寄託機関である独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に2020年11月27日付けで寄託されている。その受託番号はNITE P-03327である。
【0013】
単離した3e株を栄養平板培地で生育させて得られた菌体からゲノムDNAを抽出した。ゲノムDNAの抽出は、栄養平板培地で生育させた3e株から3つのコロニーを選択して行った。得られたゲノムDNAを鋳型として、16SrRNA遺伝子をPCRで増幅して解析した。プライマーは、バクテリア16SrRNA遺伝子のほぼ全長を増幅することのできる27F(AGAGTTTGATCMTGGCTCAG;配列番号1)及び1492R(TACGGHTACCTTGTTACGACTT;配列番号2)を使用した。3つのコロニーから、それぞれ16SrRNA遺伝子の部分塩基配列を得た。3つの部分塩基配列を、配列番号3、配列番号4、配列番号5として配列表に示した。
【0014】
3e株の16SrRNA遺伝子の部分塩基配列に対して米国国立生物工学情報センター(NCBI)16s ribosomal RNA sequencesのデータベースにおけるBLASTプログラムによる相同性検索を行った。その結果、配列番号5の塩基配列は、Rhodococcus ruberの基準株であるDSM43338株と100%(1371/1371)の相同性を示した。配列番号3、4の塩基配列は、Rhodococcus ruberの基準株であるDSM43338株と99.93%(1371/1372)の相同性を示した。3e株は、Rhodococcus ruber(以下、R.ruberという。)に属する菌であることが推定された。
【0015】
3e株は、環状炭化水素の炭素を酸素で置換した構造を持つ環状エーテルを分解する活性を有しており、環状エーテルを炭素源として生育可能である。環状エーテルとしては、1,4-ジオキサン以外にも、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等が挙げられる。また、3e株は、1,4-ブタンジオール、エチレングリコール等のグリコールを分解する活性を有しており、グリコールを炭素源としても生育可能である。
【0016】
3e株は、1,4-ブタンジオールのようなグリコールの共存下において、1,4-ジオキサン分解活性が向上する。一方、テトラヒドロフランの共存下において、1,4-ジオキサン分解活性が一時的に抑制される。
【0017】
R.ruberに属する1,4-ジオキサン分解菌として、R.ruber T1株、T5株(以下、T1株、T5株という。)が知られている。T1株、T5株については、非特許文献であるJournal of Water and Environmental Technology Vol.11,No.1,P.11-19,(2013)に記載されている。T1株、T5株はいずれも、1,4-ジオキサンを唯一の炭素源とする培地では生育することができない。T1株、T5株はいずれも、テトラヒドロフラン等の1,4-ジオキサン以外の環状エーテルや、1,4-ブタンジオール等のグリコールの共存下において、1,4-ジオキサンを分解することのできるいわゆる共代謝菌に属する。一方、3e株は、1,4-ジオキサンを唯一の炭素源として資化することができる資化性菌である。T1株、T5株とは明らかに異なる菌である。
【0018】
R.ruberに属し、1,4-ジオキサンを唯一の炭素源として資化することのできる資化性1,4-ジオキサン分解菌として、R.ruber 219株(以下、219株という。)が知られている。219株については、非特許文献であるApplied Microbiology and Biotechnology Vol.36,No.1,p120-123,(1991)に記載されている。3e株は、219株と同様にR.ruber属の資化性菌であるが、219株に比べて顕著に高い1,4-ジオキサン分解活性を有している。
【0019】
<1,4-ジオキサン分解剤について>
3e株は、1,4-ジオキサン分解剤として利用することができる。
1,4-ジオキサン分解剤の形態は、特に限定されるものではないが、保管の容易性や使いやすさの点から、液状又は粉末状であることが好ましい。具体的な形態としては、3e株の培養液、培養液を濃縮した濃縮液、培養液を遠心分離して得られた菌体、培養液を凍結保存して得られた菌体、培養液を凍結乾燥して得られた菌体、菌体を固定化した固定化担体等が挙げられる。また、粉末状の菌体を、各種多孔質物質等と混合して吸着させて製剤化してもよい。こうした1,4-ジオキサン分解剤を、河川水、地下水、工場排水、下水等の汚染水や、汚染土壌等と接触させることによって、汚染水や汚染土壌等に含まれる1,4-ジオキサンを分解処理することができる。
【0020】
<1,4-ジオキサン分解剤の製造方法について>
1,4-ジオキサン分解剤の製造方法は、3e株を培養して必要量の菌体を得る培養工程、必要に応じて、菌体を含む培養液等を後処理する後処理工程を有する。
【0021】
培養工程では、3e株を、液体培地或いは平板培地にて、15~35℃の温度範囲で半日~1週間程度培養することが好ましい。例えば、画線培養した3e株のシングルコロニーを掻きとって液体培地に懸濁し、30℃で2日程度振とう培養する。
【0022】
培養工程で使用する培地としては、例えば、R.ruberに属する微生物が生育可能な培地を適宜選択して使用することができる。具体的には、R2A培地、W培地、LB培地等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
培養工程では、これら公知の培地に、環状エーテルやグリコールを適宜添加して行うことが好ましい。環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等が挙げられる。グリコールとしては、1,4-ブタンジオール、エチレングリコール等が挙げられる。3e株の培養液中に環状エーテルやグリコールが存在していると、1,4-ジオキサン分解酵素の酵素誘導がかかり、1,4-ジオキサンを処理する際の接触工程での1,4-ジオキサン分解活性が向上する。
【0024】
培養工程での培地中の環状エーテルやグリコールの濃度は、数~数十mg/L程度に調製することが好ましい。
後処理工程では、例えば、3e株の培養液等を濃縮したり、凍結保存したり、凍結乾燥したりする。また、遠心分離等して得られた菌体を、適宜の担体に固定化してもよい。
【0025】
<1,4-ジオキサンの処理方法について>
1,4-ジオキサンを処理する方法は、3e株と1,4-ジオキサンとを接触させる接触工程を有する。
【0026】
例えば、地盤中から揚水した1,4-ジオキサン汚染地下水を処理する場合、曝気槽内に汚染地下水を供給して、上記各形態の1,4-ジオキサン分解剤を曝気槽内に適宜の割合で混入させる。これにより、3e株と1,4-ジオキサンとを接触させる。接触工程は、15~35℃の温度範囲で、1~7日程度行うことが好ましい。接触工程は、連続式で行ってもバッチ式で行ってもよい。
【0027】
汚染地下水には、おおよそ、数十mg/L程度~地下水環境基準値の1,4-ジオキサンが含まれるが、接触工程によって、1,4-ジオキサン濃度を地下水環境基準値である0.05mg/L程度にまで低下させることが可能である。接触工程によって1,4-ジオキサンが分解処理された汚染地下水は、処理水として元の地盤中に復水することが可能となる。
【0028】
接触工程では、1,4-ジオキサン分解剤とともに、環状エーテルやグリコールを適宜の割合で混入させることが好ましい。環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等が挙げられる。グリコールとしては、1,4-ブタンジオール、エチレングリコール等が挙げられる。1,4-ブタンジオールが存在していると、3e株の1,4-ジオキサン分解速度が速くなる。また、テトラヒドロフランが存在していると、1,4-ジオキサンより先にテトラヒドロフランの分解が進む傾向にあるが、テトラヒドロフラン分解後の1,4-ジオキサン分解速度は、1,4-ブタンジオールの共存下より速くなる傾向がある。
【0029】
本実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
(1)1,4-ジオキサン分解菌は、受託番号NITE P-03327として寄託された3e株である。また、1,4-ジオキサン分解剤は、1,4-ジオキサン分解菌である3e株を含有している。
【0030】
そのため、1,4-ジオキサンを唯一の炭素源として増殖可能である3e株により、1,4-ジオキサンを分解することができる。汚染土壌や汚染水に酸化剤を添加することによって、1,4-ジオキサンを分解する促進酸化法に比べて、低コストで1,4-ジオキサンを分解処理することができる。また、従来知られている219株より高い分解活性で、1,4-ジオキサンを効果的に分解することができる。
【0031】
(2)1,4-ジオキサンの処理方法は、1,4-ジオキサン分解菌である3e株と1,4-ジオキサンとを接触させる接触工程を有している。そのため、汚染水、汚染土壌中の1,4-ジオキサンを、促進酸化法より低コストで、自然環境に放出可能なレベルにまで分解して処理することができる。また、実際の1,4-ジオキサン汚染現場では比較的低濃度の汚染が散見されるが、3e株は1,4-ジオキサン濃度が比較的低濃度の状況でも高い1,4-ジオキサン分解活性を有する。そのため、実際の汚染現場への適用性が高い。
【0032】
(3)1,4-ジオキサン分解剤の製造方法は、環状エーテル又はグリコールの存在下にて、1,4-ジオキサン分解菌の培養を行う培養工程を備えている。そのため、環状エーテル又はグリコールにより1,4-ジオキサン分解酵素の酵素誘導がかかり、1,4-ジオキサン分解剤を1,4-ジオキサンと接触させる接触工程での1,4-ジオキサン分解活性が向上する。
【0033】
(4)1,4-ジオキサンの処理方法は、1,4-ブタンジオールの存在下にて接触工程を行う。そのため、3e株の1,4-ジオキサン分解速度を早くすることができて、1,4-ジオキサンを効率的に分解することができる。
【実施例0034】
(実施例1;1,4-ジオキサン分解菌の単離)
炭素源として1,4-ブタンジオールを添加したW培地10mlに、化学工場近郊で採取した河川水を加えて長期馴養を行った。1,4-ブタンジオールは、8mg/Lとなるよう添加した。馴養開始から3週間経過後、1mlの馴養液を集積培養に供試した。
【0035】
集積培養では、20mg/Lの1,4-ブタンジオールを含むW培地9mlに1mlの馴養液を添加し、30℃で3日から4日間培養して1回目の培養を行った。2回目以降は、培養液5mlを20mg/Lの1,4-ブタンジオールを含むW培地5mlに添加して30℃で3日から4日間培養することを、1週間に2回の頻度で繰り返した。10回目の培養を行ったところで集積培養を終了し、培養液を凍結保存した。
【0036】
集積培養液における1,4-ジオキサン分解菌の存在は、凍結保存した集積培養液の一部を1,4-ジオキサン存在下で培養し、1,4-ジオキサンの減少を調べて確認した。凍結保存した集積培養液を一白金耳採取し、20mg/Lの1,4-ブタンジオールを含むW培地10mlに添加して30℃で1週間培養した後、遠心分離機にて細菌細胞を回収した。回収した細菌細胞を10mg/Lの1,4-ジオキサンを含むW培地1mlに懸濁し、20ml容量のバイアルに密封して30℃で20時間培養した後、気相における1,4-ジオキサン濃度を測定した。1,4-ジオキサン濃度の測定は、以下の条件のガスクロマトグラフィーにより行った。
【0037】
使用カラム;Agilent,DB-624カラム、長さ30m×内径320μm
昇温条件;40℃、1min→5℃/min→150℃、5min
FID温度;300℃
流量;400ml/min
注入量;2.5ml
1,4-ジオキサン分解菌は、上記の1,4-ブタンジオール培養液からの画線培養により単離した。凍結保存した集積培養液を一白金耳採取し、20mg/Lの1,4-ブタンジオールを含むW培地10mlに添加して30℃で1週間培養した後、R2A培地に15g/Lの寒天を加えたR2A平板培地上に培養液を画線接種し、30℃、3~4日培養した。生じたコロニーを色や形状等から種類ごとに選んで1,4-ジオキサンの分解活性を調べた。コロニーの一部を20mg/Lの1,4-ブタンジオールを含むW培地10mlに接種し、上記の通り、1週間培養した細菌細胞を10mg/Lの1,4-ジオキサンを含むW培地1mlに懸濁して20時間培養後、気相における1,4-ジオキサン濃度を測定した。1,4-ジオキサン分解活性を示したコロニーについて更に画線培養をおこなって、1,4-ジオキサン分解菌3e株を単離した。
【0038】
単離した3e株をR2A平板培地で生育させ、得られた菌体からゲノムDNAを抽出して、16SrRNA遺伝子をPCR増幅した。ゲノムDNAの抽出は、上述のとおり、R2A平板培地で生育させた3e株から3つのコロニーを選択して行った。3つのコロニーから得られた16SrRNA遺伝子の部分塩基配列を、配列番号3、配列番号4、配列番号5として配列表に示した。
【0039】
(実施例2;3e株の基質代謝能の評価)
3e株の基質代謝能ならびに薬剤等・重金属等への耐性を、Biolog GEN III Microplate(登録商標)を使用して評価した。その結果を表1に示した。表中のウェル番号は、Biolog GEN III Microplate(登録商標)のウェル番号に対応する。評価結果は、ウェル中で3e株による当該基質の代謝や生育に伴う酸化還元反応試薬の発色が確認できたものを「+」、確認できなかったものを「-」として示している。
【0040】
【表1】
(実施例3;3e株が1,4-ジオキサン資化性菌であることの確認)
1,4-ジオキサンを唯一の炭素源としてW平板培地で生育させた3e株のシングルコロニーを掻きとって、10mg/Lの1,4-ジオキサンを唯一の炭素源として含むW培地に懸濁して菌液を調製した。菌液を30℃で1週間振とう培養して前培養液を得た。前培養液を、上記と同様のW培地に植え継いで、さらに30℃で1週間振とう培養して培養液を得た。振とう培養中の培養液の波長600nmでのODを、紫外可視分光光度計(ベックマン・コールター株式会社製、DU-800)により2日毎に測定して、3e株の増殖曲線を得た。
【0041】
1,4-ジオキサン存在下での3e株の増殖曲線を図1に示した。3e株は、1,4-ジオキサンを唯一の炭素源として生育可能な資化性菌であることが確認できた。
(実施例4;3e株が他の環状エーテルを炭素源として増殖可能であることの確認)
テトラヒドロピランを唯一の炭素源として実施例3と同様に、W平板培地で生育させた3e株のコロニーを20mg/Lのテトラヒドロピランを含むW培地に接種して前培養液を得た。前培養液を20mg/Lのテトラヒドロピランを含むW培地に接種して、30℃で1週間振とう培養した。振とう培養中の培養液の波長600nmでのODを、実施例3と同様に測定して、3e株の増殖曲線を得た。
【0042】
テトラヒドロピラン存在下での3e株の増殖曲線を図2に示した。3e株は、テトラヒドロピランを唯一の炭素源として生育可能であることが確認できた。テトラヒドロピランは、炭素5つと酸素1つの飽和六員環からなる有機化合物であり、炭素4つと酸素1つの飽和五員環であるテトラヒドロフランより、炭素4つと酸素2つの飽和六員環である1,4-ジオキサンに形状的に近い。
【0043】
しかし、実施例3での4日後のOD600が約0.015であったのに対し、実施例4での4日後のOD600は約0.004であった。1,4-ジオキサン存在下での3e株の初期の増殖速度は、テトラヒドロピラン存在下での増殖速度よりも速いことが確認できた。一方、1,4-ジオキサン存在下では、3e株の増殖はOD600=0.016で留まり、最終的な増殖量はテトラヒドロピランが1,4-ジオキサンを上回ることが予想された。
【0044】
また、図示はしていないが、テトラヒドロフランを炭素源として増殖可能であるか、又はエチレングリコールを炭素源として増殖可能であるかについても確認した。炭素源となる基質をシャーレのフタに滴下して気体として供給し、3e株をW平板培地に画線接種して30℃で培養した。基質を供給しない場合を対照として、コロニーの大きさを比較して生育能を判定した。
【0045】
テトラヒドロフラン存在下では、テトラヒドロピランより劣るものの明確な増殖が示唆された。また、エチレングリコール存在下では、テトラヒドロピラン存在下を超える増殖が示唆された。
【0046】
(実施例5;3e株の1,4-ジオキサン分解活性の評価)
画線培養した1,4-ジオキサンを唯一の炭素源として含むW平板培地からシングルコロニーを掻きとってR2A培地に懸濁し、30℃、18時間振とう培養して前培養液を得た。前培養液を遠心分離(13500rpm、5min、24℃)して上清を除いた後、生理食塩水に菌体を懸濁して菌液を得た。R2A培地の持ち込み防止のために、これを2回繰り返した。2回繰り返した後の菌液の波長680nmでのODを、紫外可視分光光度計(株式会社島津製作所製、UV-1850)により測定した。波長680nmでのODは0.034であった。
【0047】
続いて、菌液を遠心分離して上清を除いた後、菌体ペレットをBSM培地20mlに懸濁して、菌体入りBSM培地を得た。
菌体入りBSM培地を、5ml、0.5ml、0.05mlずつガラス瓶に計りとり、10g/Lの1,4-ジオキサン溶液及びBSM培地を添加して、最終液量が10mlとなるように調製して、試験液1~3を得た。また、コントロールとして、菌体入りBSM溶液が0mlのものを調製して試験液4を得た。各試験液での1,4-ジオキサンの最終濃度は10mg/Lである。
【0048】
各試験液中の菌体入りBSM培地量、10g/Lの1,4-ジオキサン溶液量、及びBSM培地量を表2に示した。
【0049】
【表2】
0、5、24、48、72時間経過後に50μlずつ各試験液を採取した。採取した各試験液に98%エタノール100μlを添加して、1,4-ジオキサン分解反応を停止させた。各試験液中の1,4-ジオキサン濃度を、GC-MS(株式会社島津製作所製、GCMS-QP2010 Ultra)により測定した。1,4-ジオキサン濃度の経時変化の結果を図3に示した。なお、1,4-ジオキサン濃度0.1mg/Lが定量下限値である。
【0050】
図3に示すように、試験液1~3では経時的に1,4-ジオキサン濃度が減少すること、試験液1~3中の菌体の濃度依存的に1,4-ジオキサン分解速度が上昇することが確認できた。
【0051】
(実施例6;3e株の1,4-ジオキサン分解剤としての評価)
河川水、地下水、土壌等、1,4-ジオキサン汚染水や汚染土壌中に含まれる1,4-ジオキサンの濃度は、おおよそ数十mg/L~地下水環境基準値である。このレベルでの3e株の培養液からなる1,4-ジオキサン分解剤の1,4-ジオキサン処理能力について評価した。
【0052】
(実施例6-1)
画線培養した3e株のシングルコロニーを掻きとってLB培地に懸濁し、30℃、2日間振とう培養して前培養液を得た。前培養液を遠心分離(13,500rpm、5min、4℃)して菌体ペレットを得た後、1,4-ジオキサンを唯一の炭素源として含有するW培地に菌体を懸濁して培養液を得た。培養開始時の培養液中の1,4-ジオキサンの濃度は10mg/Lとなるように調製した。培養開始時の培養液のODを、紫外可視分光光度計(ベックマン・コールター株式会社製、DU-800)により測定したところ、波長600nmでのODは、1.0であった。
【0053】
培養液をクリンプバイアルに1mlずつ分注し、クリンプキャップでそれぞれ密封した後、培養器内にて30℃で静置培養した。1時間ごとに3本のクリンプバイアルを培養器から取り出して、培養液中の1,4-ジオキサン濃度を、上記の条件でガスクロマトグラフィー(アジレント・テクノロジー株式会社製、7890A)により測定した。各経過時間での1,4-ジオキサン濃度は、3本のクリンプバイアルの測定値の平均とした。
【0054】
図4に、培養液中の1,4-ジオキサン濃度の経時変化を示した。
(実施例6-2)
画線培養した3e株のシングルコロニーを掻きとってLB培地に懸濁し、30℃、18時間振とう培養して前培養液を得た。前培養液を遠心分離(13,500rpm、5min、24℃)して菌体ペレットを得た後、1,4-ジオキサンを唯一の炭素源として含有するBSM培地に菌体を懸濁して培養液を得た。培養開始時の培養液中の1,4-ジオキサンの濃度は10mg/Lとなるように調製した。培養開始時の培養液のODを、紫外可視分光光度計(株式会社島津製作所製、UV-1850)により測定したところ、波長578nmでのODは2.1であった。
【0055】
培養液を30℃、100rpmで振とう培養した。1時間ごとに培養液を採取して、培養液中の1,4-ジオキサン濃度を、上記の条件でGC-MS(株式会社島津製作所製、GCMS-QP2010 Ultra)により測定した。図5に、培養液中の1,4-ジオキサン濃度の経時変化を示した。
【0056】
図4に示すように、実施例6-1の培養液中の1,4-ジオキサン濃度は、時間経過によりほぼ直線的に減少した。10mg/Lの1,4-ジオキサンが7時間後にはほぼ消失して測定不能となった。10mg/Lの1,4-ジオキサンが7時間で消失したことから、その分解速度を計算すると、約1.43mg/L・hrであった。その結果を表3に示した。
【0057】
また、図5に示すように、実施例6-2の培養液中の1,4-ジオキサン濃度は、培養開始から3時間までは、時間軸に対してほぼ直線的に減少し、培養開始から3~4時間後の間にほぼ消失して測定不能となったと推定された。培養開始から3時間までの1,4-ジオキサン分解速度を計算すると、約2.74mg/L・hrであった。その結果を表3に示した。
【0058】
なお、実施例6-1と実施例6-2では、培養開始時の培養液の測定波長が異なっているが、3e株の培養液の波長600nmにおけるODと、波長578nmにおけるODとは、ほぼ同じ値となることを確認している。
【0059】
一方、図6は、219株について記載された上記非特許文献であるApplied Microbiology and Biotechnology, Vol.36, No.1, p120-123,(1991)から転載した図である。図6は、R.ruber 219株の増殖曲線及び1,4-ジオキサン分解活性を示している。ここでは、10mM1,4-ジオキサンを含む無機培地に、R.ruber 219株を接種して、30℃、175rpmで振とう培養し、24時間毎に波長578nmでのODと、培養液中の1,4-ジオキサン濃度を測定している。
【0060】
培養開始時の培養液中の1,4-ジオキサンの濃度は、10mM(881.1mg/L)であり、培養液の578nmでのODは、約4.3である。
図6によれば、R.ruber 219株では、培養開始後72時間までは、培養液中の1,4-ジオキサン濃度は、時間軸に対してほぼ直線的に減少しているものの、培養液中の1,4-ジオキサン濃度が約0.74mM(=65.20mg/L)となった72時間経過後以降には減少速度が鈍化している。
【0061】
1,4-ジオキサン汚染水や汚染土壌等に含まれる1,4-ジオキサンの濃度は、おおよそ数十mg/L~地下水環境基準値レベルである。つまり、汚染水や汚染土壌を処理することを想定した場合、この濃度範囲では、219株の1,4-ジオキサン分解速度は非常に遅いということがわかる。図6から、96時間経過後の培養液中の1,4-ジオキサン濃度が約0.10mM(=8.81mg/L)として、72~96時間経過後の間の219株の分解速度を算出すると、2.35mg/L・hrとなる。その結果を表3に示した。
【0062】
表3の右欄には、3e株の1,4-ジオキサン分解速度、219株の1,4-ジオキサン分解速度を、それぞれ菌体濃度(OD)で割った値を示した。3e株の結果から、菌体濃度(OD)と1,4-ジオキサン分解速度は比例することがわかる。また、3e株の分解速度と219株の分解速度の比較から、3e株は、219株に比べて2.4~2.6倍の1,4-ジオキサン分解能力があることが確認できた。実際の汚染水、汚染土壌を処理するレベルでは、3e株は、219株より顕著に高い1,4-ジオキサン分解活性を有する菌である。
【0063】
【表3】
(実施例7;他の環状エーテル、グリコール共存下での1,4-ジオキサン分解剤としての評価)
(実施例7-1)
実施例6-1と同様に培養した前培養液を遠心分離(13,500rpm、5min、4℃)して菌体ペレットを得た後、1,4-ジオキサン及び1,4-ブタンジオールを含有するW培地に菌体を懸濁して培養液を得た。培養開始時の培養液中の1,4-ジオキサンの濃度は10mg/L、1,4-ブタンジオールの濃度は20mg/Lとなるように調製した。実施例6-1と同様に、培養液をクリンプバイアルに1mlずつ分注し、1時間ごとに3本の1,4-ジオキサン濃度を測定した。図7(b)に、培養液中の1,4-ジオキサン濃度の経時変化を示した。
【0064】
(実施例7-2)
実施例6-1と同様に培養した前培養液を、同様に遠心分離して菌体ペレットを得た後、1,4-ジオキサン及びテトラヒドロフランを含有するW培地に菌体を懸濁して培養液を得た。培養開始時の培養液中の1,4-ジオキサンの濃度は10mg/L、テトラヒドロフランの濃度は20mg/Lとなるように調製した。実施例6-1と同様に、培養液をクリンプバイアルに1mlずつ分注し、1時間ごとに3本の1,4-ジオキサン濃度を測定した。図7(c)に、培養液中の1,4-ジオキサン濃度の経時変化を示した。
【0065】
テトラヒドロフランや1,4-ブタンジオール非存在下での1,4-ジオキサン処理能力を示す図として、図7(a)に実施例6-1(図4)の結果を再掲した。
図7(a)に示すように、1,4-ジオキサン単独では、10mg/Lの1,4-ジオキサンの分解に7時間かかっているが、図7(b)に示した20mg/Lの1,4-ブタンジオールの共存下では、1,4-ジオキサンは4時間で消失した。1,4-ブタンジオールによって1,4-ジオキサン分解活性が増強されることが確認された。これは、共代謝菌でも知られているように、1,4-ブタンジオールの存在によって、1,4-ジオキサン分解酵素の誘導がかかることによると推測される。
【0066】
また、図7(c)に示すように、20mg/Lのテトラヒドロフランの共存下では、当初、1,4-ジオキサン濃度の減少は少なく、5時間経過後に急激に減少した。5時間経過後の1,4-ジオキサン分解速度は、図7(b)に示す1,4-ブタンジオールの共存下での1,4-ジオキサン分解速度より速かった。テトラヒドロフランの共存下では、テトラヒドロフラン分解後に1,4-ジオキサンが分解されると考えられるが、その分解速度は、1,4-ジオキサン単独の場合より速いことがわかった。テトラヒドロフランの存在によって、1,4-ジオキサン分解酵素の誘導がかかることによると推測される。
【0067】
(実施例8;他の環状エーテル、グリコール共存下で培養した1,4-ジオキサン分解剤の評価)
他の環状エーテル、グリコール非存在下で3e株を培養した場合、及び、他の環状エーテル、グリコール共存下で3e株を前培養した場合の、1,4-ジオキサン処理能力について評価した。
【0068】
(実施例8-1)
画線培養した3e株のシングルコロニーを掻きとってLB培地に懸濁し、30℃、2日間振とう培養して前培養液を得た。前培養液を遠心分離(13,500rpm、5min、4℃)して菌体ペレットを得た後、1,4-ジオキサンを唯一の炭素源として含有するW培地に菌体を懸濁して培養液を得た。培養開始時の菌懸濁液中の1,4-ジオキサンの濃度は10mg/Lとなるように調製した。
【0069】
実施例6-1と同様に、培養液をクリンプバイアルに1mlずつ分注し、1時間ごとに3本の1,4-ジオキサン濃度をガスクロマトグラフィー(アジレント・テクノロジー株式会社製、7890A)により測定した。図8(a)に、実施例8-1の培養液中の1,4-ジオキサン濃度の経時変化を示した。
【0070】
(実施例8-2)
画線培養した3e株のシングルコロニーを掻きとってLB培地に懸濁し、30℃、1日間振とう培養した後、1,4-ブタンジオールを添加して、さらに1日間振とう培養して前培養液を得た。前培養液中の1,4-ブタンジオールの濃度は、20mg/Lとなるように調製した。実施例8-1と同様の条件で、前培養液を遠心分離して菌体ペレットを得た後、1,4-ジオキサンを唯一の炭素源として含有するW培地に菌体を懸濁して培養液を得た。実施例6-1と同様に、培養液をクリンプバイアルに1mlずつ分注し、1時間ごとに3本の1,4-ジオキサン濃度を測定した。図8(b)に、実施例8-2の培養液中の1,4-ジオキサン濃度の経時変化を示した。
【0071】
(実施例8-3)
実施例8-2の1,4-ブタンジオールに代えて、テトラヒドロフランを添加した以外は実施例8-2と同様にして行った。前培養液中のテトラヒドロフランの濃度は、20mg/Lとなるように調製した。図8(c)に、実施例8-3の培養液中の1,4-ジオキサン濃度の経時変化を示した。
【0072】
図8(a)に示すように、1,4-ブタンジオール、テトラヒドロフラン非存在下で3e株を培養した培養液では、10mg/Lの1,4-ジオキサンの分解に4時間かかっていた。一方、図8(b)に示すように、20mg/Lの1,4-ブタンジオールを炭素源として3e株を培養した培養液では、1,4-ジオキサンは1時間で消失した。また、図8(c)に示すように、20mg/Lのテトラヒドロフランを炭素源として3e株を培養した培養液では、1,4-ジオキサンは1時間で急速に分解が進み、2時間で消失した。
【0073】
1,4-ブタンジオールやテトラヒドロフランの存在下で3e株を培養することにより、1,4-ジオキサン分解酵素の誘導がかかるものと推測され、1,4-ジオキサン分解剤としての処理能力が向上すると考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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