(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085932
(43)【公開日】2023-06-21
(54)【発明の名称】吸音部材
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20230614BHJP
G10K 11/172 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
G10K11/16 130
G10K11/172
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200255
(22)【出願日】2021-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】517182918
【氏名又は名称】ピクシーダストテクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002815
【氏名又は名称】IPTech弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田中 豊
(72)【発明者】
【氏名】五味 蔵酒
(72)【発明者】
【氏名】平良 優大
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061AA25
5D061BB03
5D061BB07
5D061BB12
5D061BB13
(57)【要約】
【課題】広い周波数帯域の音に対して吸音効果を発揮する吸音部材を提供する。
【解決手段】本開示の一態様に係る吸音部材は、音波が入射可能な複数の穿孔が形成された穿孔板と、穿孔板と間隔をあけて対向して配置される支持板と、穿孔板および支持板に連結され、その内側に複数の吸音空間を区画する複数の隔壁を有する隔壁部材と、を備え、複数の吸音空間は、吸音特性が不均一である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音波が入射可能な複数の穿孔が形成された穿孔板と、
前記穿孔板と間隔をあけて対向して配置される支持板と、
前記穿孔板および前記支持板に連結され、その内側に複数の吸音空間を区画する複数の隔壁を有する隔壁部材と、を備え、
前記複数の吸音空間は、吸音特性が不均一である、吸音部材。
【請求項2】
前記複数の穿孔は、複数の第1穿孔により構成され前記穿孔板において第1領域を占める第1穿孔群と、複数の第2穿孔により構成され前記穿孔板において前記第1領域とは異なる第2領域を占める第2穿孔群とを含み、
前記第1穿孔群に属する前記第1穿孔と前記第2穿孔群に属する前記第2穿孔とは、穿孔の径、または穿孔同士の間隔の少なくとも1つにおいて異なる、
請求項1に記載の吸音部材。
【請求項3】
前記第1領域および前記第2領域は、前記穿孔板において前記隔壁に対応する位置を境界として隣接する、
請求項2に記載の吸音部材。
【請求項4】
前記第1領域は、前記穿孔板において、前記複数の吸音空間のうちの第1吸音空間を覆う部分に対応し、
前記第2領域は、前記穿孔板において、前記複数の吸音空間のうちの前記第1吸音空間とは異なる第2吸音空間を覆う部分に対応し、
前記複数の第1穿孔は、前記第1領域の全域に亘って均一に分布し、
前記複数の第2穿孔は、前記第2領域の全域に亘って均一に分布する、
請求項3に記載の吸音部材。
【請求項5】
前記穿孔板は、複数の第1穿孔を備える第1板部材と、複数の第2穿孔を備え、かつ前記第1板部材の面の法線方向に関して前記第1板部材と重ねて配置される第2板部材とを含み、
前記複数の第1穿孔は、互いの間隔および径が均一であり、
前記複数の第2穿孔は、互いの間隔および径が不均一である、
請求項1に記載の吸音部材。
【請求項6】
前記第2板部材は、前記複数の吸音空間の各々に対応する部分に、前記第1穿孔に比べて径の大きい前記第2穿孔が配置される、
請求項5に記載の吸音部材。
【請求項7】
前記穿孔板を挟んで、前記隔壁部材と反対側に配置され、前記穿孔板の面の法線方向において前記吸音空間と積層される複数の吸音空間を区画する第2隔壁部材と、
前記第2隔壁部材のうち、前記穿孔板の反対側に連結され、音波が入射可能な複数の穿孔が形成された第2穿孔板と、を備える、
請求項1から6のいずれか1項に記載の吸音部材。
【請求項8】
前記第2穿孔板は、穿孔の径、または穿孔同士の間隔の少なくとも1つにおいて異なる複数の穿孔によりそれぞれ構成された複数の穿孔群を備え、
前記第2隔壁部材により区画される複数の吸音空間は、吸音特性が不均一である、請求項7に記載の吸音部材。
【請求項9】
前記穿孔板において、前記隔壁部材により区画された複数の前記吸音空間を覆う部分のうち、少なくとも一つには、前記穿孔が形成されていないことを特徴とする請求項7又は8に記載の吸音部材。
【請求項10】
前記隔壁には、互いに隣り合う吸音空間を接続することで、前記穿孔とつながる吸音空間を拡張する接続孔が形成されている、
請求項1から9のいずれか1項に記載の吸音部材。
【請求項11】
複数の前記隔壁それぞれに形成された前記接続孔は、
前記隔壁ごとに、前記接続孔の径、および前記接続孔同士の間隔のうち、少なくとも一つが異なっている、請求項10に記載の吸音部材。
【請求項12】
前記複数の隔壁は、前記穿孔板の面の法線方向から見た平面視において、正六角形状に配置されたハニカム構造体を形成する、
請求項1から11のいずれか1項に記載の吸音部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、吸音により音を低減させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道、高速道路、工事現場、屋内空間などにおいて発生する騒音を抑制することは、重要な社会課題の1つである。特許文献1には、ハニカム構造体を有する板に穿孔が設けられた遮音パネルが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多様な騒音問題を解決するために、従来よりも広い周波数帯域の音に対して吸音効果を発揮する吸音部材が求められる。
【0005】
本開示の技術は、広い周波数帯域の音に対して吸音効果を発揮する吸音部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る吸音部材は、音波が入射可能な複数の穿孔が形成された穿孔板と、穿孔板と間隔をあけて対向して配置される支持板と、穿孔板および支持板に連結され、その内側に複数の吸音空間を区画する複数の隔壁を有する隔壁部材と、を備え、複数の吸音空間は、吸音特性が不均一である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態に係る吸音ユニットの斜視図および平面図である。
【
図2】
図1に示す吸音ユニットにおける隔壁部材の構造を示す図である。
【
図3】
図1に示す吸音ユニット1の使用方法を示す図である。
【
図4】
図1に示す穿孔板における孔パターンの変形例を示す図である。
【
図5】第2実施形態に係る吸音ユニットの斜視図および分解図である。
【
図6】第3実施形態に係る吸音ユニットの斜視図および分解図である。
【
図7】第4実施形態に係る吸音ユニットの斜視図および分解図である。
【
図8】本発明の隔壁部材の第1変形例および第2変形例を示す図である。
【
図9】本発明の隔壁部材のその他の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態の例について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための図面において、同一の構成要素について、その繰り返しの説明は省略する。
【0009】
(1)第1実施形態
第1実施形態に係る吸音ユニット1の構成について説明する。吸音ユニット1は、吸音部材の一例である。
(1-1)吸音ユニット1の基本構成
吸音ユニット1の基本構成について説明する。吸音ユニット1は、吸音ユニット1に向かって進む音波のエネルギーを、他のエネルギーに変換したり打ち消したりすることで反射音および透過音の音圧を低減する吸音効果を有する、特定の吸音構造を備える部材である。
図1は、第1実施形態に係る吸音ユニット1の斜視図および平面図である。このうち、
図1Aは、吸音ユニット1の斜視図である。
図1Bは、吸音ユニット1の平面図である。なお、
図1Bでは、理解を促すために、吸音ユニット1の内部の隔壁部材を実線で示す。
【0010】
以下の説明において、「D方向」は、吸音ユニット1の奥行方向である。吸音ユニット1は、主にD方向に進む音波を吸音する。「H方向」は、D方向と垂直な方向であり、吸音ユニット1の高さ方向である。「W方向」は、「D方向」および「H方向」に直交する方向であり、吸音ユニット1の幅方向である。
【0011】
図1Aおよび
図1Bに示すように、吸音ユニット1は、穿孔板12と、支持板13と、隔壁部材15と、を備えている。吸音ユニット1は、穿孔板12、支持板13、および隔壁部材15を組み合わせることで構成されている。ただし、これらの部材のうちのいずれか2つ以上が一体となって構成されてもよい。例えば、支持板13と隔壁部材15が一体となって構成されていてもよい。また、穿孔板12、支持板13、及び隔壁部材15の少なくとも何れかが、複数の部材の組み合わせにより構成されてもよい。
【0012】
すなわち、吸音ユニット1は、複数の穿孔群を有する穿孔面と、それぞれの穿孔群が占める領域にそれぞれ接する複数の吸音空間11と、を有している。各吸音空間11の内部と外部との間は、穿孔面のうち、吸音空間11に接する領域に存在する複数の穿孔10を介して、通気可能となっている。複数の吸音空間11は、H方向およびW方向に並べて配置され、穿孔板12に形成された穿孔10と組み合わされることで共振器として機能する。
【0013】
本実施形態における吸音ユニット1の吸音特性は、例えば、周波数ごとの吸音率、又は音響インピーダンスにより表される。そして、複数の穿孔10により構成される穿孔群の後述する孔パラメータを多様にすることで、各吸音空間11の周波数帯域ごとの吸音性能が互いに一致しないように、吸音ユニット1を設計することができる。なお、吸音ユニット1に含まれる複数の吸音空間11の一部が同等の吸音特性を有するように吸音ユニット1を設計してもよい。
【0014】
吸音ユニット1は、例えば、樹脂、金属、シリコン、ゴム、ポリマー、紙、段ボール、木材、又は不織布などの素材により構成される。ただし、吸音ユニット1はこれらの素材以外の素材により構成されていてもよい。また、穿孔板12、支持板13、および隔壁部材15が、互いに異なる素材により構成されていてもよい。
【0015】
(1-2)穿孔板12の構成
穿孔板12の構成について説明する。穿孔板12は、複数の穿孔10を有する板状部材である。穿孔10からは音波が入射可能となっている。
【0016】
各吸音空間11の共振特性は、当該吸音空間11の形状と、穿孔板12のうち当該吸音空間11に接する領域(以下「外板領域」という)の形状パラメータ(以下「孔パラメータ」という)に依存する。孔パラメータには、例えば、以下が含まれる。
・外板領域の面積(孔が形成される表面の面積)
・穿孔板12の厚さ(表面に直交する方向の寸法)
・孔の大きさ(例えば孔が円形である場合の直径)
・外板領域の表面に占める孔の面積の割合(以下「孔の占有率」という)
・孔の形状
・孔の数
・孔同士の間隔
【0017】
穿孔板12が有する複数の穿孔10は、一定の領域を占める穿孔群を複数構成している。
図1に示す例においては、一つの穿孔群において、複数の穿孔10の孔パラメータは同一である。ただし、一つの穿孔群において、複数の穿孔10の孔パラメータが互いに異なっていてもよい。穿孔板12に形成される複数の穿孔群の孔パラメータは互いに異なっている。例えば、一つの穿孔群の孔パラメータは、当該穿孔群が形成された外板領域に接する吸音空間11に要求される吸音特性に応じて最適化されている。そして、複数の吸音空間11の吸音特性は、不均一である。これにより、吸音ユニット1は、広い周波数帯域において高い吸音率を達成できる。
【0018】
図1Bに示すように、複数の穿孔10は、第1穿孔群21から第4穿孔群24を含んでいる。
第1穿孔群21は、複数の第1穿孔10Aにより構成されている。複数の第1穿孔10Aは、第1領域41を占めている。第2穿孔群22は、複数の第2穿孔10Bにより構成されている。複数の第2穿孔10Bは、第2領域42を占めている。
【0019】
第1穿孔10Aおよび第2穿孔10Bは、孔径および孔同士の間隔の少なくとも1つにおいて異なっている。第2穿孔10Bの孔径は、第1穿孔10Aの孔径よりも大きい。第2穿孔群22における第2穿孔10Bの孔数は、第1穿孔群21における第1穿孔10Aの孔数よりも少ない。また、第2穿孔10B同士の間隔は、第1穿孔10A同士の間隔と同等になっている。ただし、第2穿孔10B同士の間隔が、第1穿孔10A同士の間隔より大きくてもよい。
【0020】
第3穿孔群23は、複数の第3穿孔10Cにより構成されている。第3穿孔10Cの孔径は、第1穿孔10Aよりも大きく、第2穿孔10Bよりも小さい。第3穿孔10Cの孔数は、第2穿孔10Bよりも多く、第1穿孔10Aより少ない。第3穿孔10C同士の間隔は、第1穿孔10A同士の間隔よりも広くなっている。
【0021】
第4穿孔群24は、複数の第4穿孔10Dにより構成されている。第4穿孔10Dの孔径は、第2穿孔10Bの孔径よりも大きい。第4穿孔10Dの孔数は、第2穿孔10Bの孔数よりも少ない。第4穿孔10D同士の間隔は、第3穿孔10C同士の間隔と同等になっている。第4穿孔群24は、第4領域44を占めている。
【0022】
第1領域41および第2領域42は、平面視において、穿孔板12のうち、互いに隣り合う2つの吸音空間11の外板領域にそれぞれ位置し、隔壁14に対応する位置を境界として隣接している。
第3領域43および第4領域44は、平面視において、穿孔板12のうち、互いに隣り合う2つの吸音空間11の外板領域にそれぞれ位置し、隔壁14に対応する位置を境界として隣接している。
穿孔板12においては、第1領域41から第4領域44までの4つの穿孔領域を一つの組み合わせパターンとして、そのパターンがH方向およびW方向に並べて繰り返し配置されている。
【0023】
(1-2)支持板13の構成
図1Aに示すように、支持板13は、穿孔板12とD方向に間隔をあけて対向して配置されている。支持板13は、平面視で穿孔板12と同等の形状および大きさを呈する。穿孔板12と支持板13との間に隔壁部材15が配置されている。本実施形態における支持板13には穿孔10は形成されておらず、支持板13は穿孔板12と比較して通気性が低い、又は通気性を有しない。
【0024】
(1-3)隔壁部材15および吸音空間11の構成
隔壁部材15は、穿孔板12および支持板13に連結されている。隔壁部材15は、平板形状の隔壁14が複数連なった構成を有する。複数の隔壁14は、穿孔板12と支持板13との間の空間を複数の吸音空間11に区画する。
複数の隔壁14は、穿孔板12の表面の法線方向(D方向)から見た平面視において、正六角形状の構造が配列されたハニカム構造体を形成している。
【0025】
図2は、隔壁部材15の構造を示す図である。このうち、
図2Aは、隔壁部材15の斜視図である。
図2Bは、隔壁14の接続孔16を示す斜視図である。
図2Cは、接続孔16の変形例を示す図である。
図2Aおよび
図2Bに示すように、隔壁部材15を構成する複数の隔壁14のうち一部の隔壁14には、接続孔16が形成されている。接続孔16は、互いに隣り合う吸音空間11を接続する(通気可能にする)ことで、穿孔10とつながる吸音空間11を拡張している。
図2Bに示すように、接続孔16を有する隔壁14には、複数の接続孔16が形成されている。なお、
図2Cに示すように、隔壁14には、一つの開口部としての接続孔16が形成されてもよい。
【0026】
また、複数の隔壁14それぞれに形成された接続孔16は、隔壁14ごとに、孔パラメータが異なってもよい。例えば、接続孔16は、隔壁14ごとに、接続孔16の径、および接続孔16同士の間隔のうち、少なくとも一つが異なっていてもよい。これにより、拡張される吸音空間11の吸音特性を多様にすることができる。
【0027】
穿孔板12の穿孔10から入射する音波は、それぞれの吸音空間11の内部に伝達し、支持板13および隔壁14で反射する。また、隔壁14に接続孔16が形成されている場合には、音波は接続孔16を通して隣接する吸音空間11の内部に伝達し、支持板13および隔壁14で反射する。
【0028】
吸音空間11は、支持板13、隔壁部材15の複数の隔壁14、および穿孔板12により囲まれる領域に形成される。吸音空間11は、穿孔10に対して主にD方向に入射する音を吸音する。吸音空間11の吸音特性、すなわち音の周波数ごとの吸音率は、吸音空間11に接する外板領域に設けられた穿孔群の孔パラメータ、隣り合う吸音空間11を接続する接続孔16の孔パラメータ、および吸音空間11の大きさに依存する。このため、穿孔10の孔パラメータを複数の外板領域で互いに異ならせることで、複数の吸音空間11の吸音特性が不均一となる。また、接続孔16により拡張された吸音空間11の大きさを、複数の吸音空間11で互いに異ならせることで、複数の吸音空間11の吸音特性が不均一となる。また、複数の隔壁14それぞれに形成された接続孔16の孔パラメータを互いに異ならせることで、複数の吸音空間11の吸音特性が不均一となる。そして、吸音ユニット1が、低周波数帯域の吸音率が高い吸音空間11と高周波数帯域の吸音率が高い吸音空間11とを有することで、吸音ユニット1は広い周波数帯域において吸音効果を発揮することができる。
なお、吸音ユニット1の構成は
図1及び
図2に示すものに限定されない。吸音ユニット1において、穿孔10の孔パラメータと、吸音空間11の大きさと、接続孔16の孔パラメータとの、少なくとも何れかが不均一であればよい。例えば、穿孔10の孔パラメータが穿孔板12の領域ごとに異なる場合、隔壁部材15には接続孔16が存在しなくてもよい。また例えば、接続孔16の孔パラメータが隔壁14ごとに異なる場合、穿孔板12における穿孔10の孔パラメータが均一であってもよい。ただし、穿孔10の孔パラメータと接続孔16の孔パラメータとの両方を不均一にすることで、吸音特性が異なる吸音空間11のバリエーションを増やすことができ、より広い周波数帯域において吸音効果を発揮することができる。
また、
図1の例では、平面視におけるすべての六角形領域それぞれにおいて穿孔板12に穿孔10が形成されているが、これに限らず、一部の六角形領域には穿孔10が形成されていなくてもよい。例えば、複数の吸音空間11が接続孔16により接続されている場合、それらのうち何れかの吸音空間11の外板領域にのみ穿孔10が形成されていれば、その拡張された吸音空間11は吸音効果を発揮できる。
【0029】
(1-4)吸音ユニット1の使用方法
吸音ユニット1の使用方法について説明する。
図3は、実施形態に係る吸音ユニット1の使用方法を示す図である。
【0030】
図3に示すように、吸音ユニット1は、吸音すべき音を発する騒音源NSに対してD方向に離れた位置に設置される。吸音ユニット1は、騒音源NSからD方向に進行する音波のうち、当該吸音空間11の大きさと穿孔板12の孔パラメータと隔壁部材15の孔パラメータとに応じた周波数の成分を吸収する。これにより、騒音源NSから吸音ユニット1よりもD方向側の位置に到達する音波の音圧は、吸音ユニット1が設置されていない場合と比較して、大きく低減される。
【0031】
複数の吸音ユニット1をH方向に組み合わせて設置することで、騒音源NSから発される音の音圧をより低減することができる。複数の吸音ユニット1は、騒音源NSから人間HMaがいる方向へ進行する音波を遮る吸音壁100を構成するように、組み合わせて設置される。吸音壁100は遮音効果を有するため、吸音壁100を設置することにより、騒音源NSから発された音波の音圧は吸音壁100を通過する際に大きく低減され、騒音源NSから見て吸音壁100より奥に居る人間HMaが感じる騒音を小さくすることができる。
【0032】
また、吸音壁100は吸音効果を有するため、吸音壁100を設置することにより、従来の部材で構成された壁(例えばコンクリート壁)を同じ位置に設置した場合と比較して、壁で反射した音の大きさが小さくなる。そのため、騒音源NSから発された音波の音圧は、吸音壁100で反射される際に大きく低減され、騒音源NSに対して吸音壁100とは反対側にいる人間HMbが感じる騒音を小さくすることができる。
また、吸音壁100を設置した場合、従来の部材で構成された壁を同じ位置に設置した場合と比較して、回折により壁の奥に回り込む音の大きさも小さくなる。この効果により、壁の奥にいる人間HMaが感じる騒音をより小さくすることができる。
【0033】
吸音壁100の用途は限定されないが、例えば以下のような用途で吸音壁100を用いることができる。吸音壁100は、道路又は鉄道線路の周辺に配置されることで、自動車又は電車により生じる騒音を抑制することができる。吸音壁100は、工事現場に配置されることで、工事騒音を抑制することができる。吸音壁100は、建物の壁として使用されることで、建物内の騒音を抑制することができる。吸音壁100は、人の作業場所(例えば作業デスク)の周辺に配置されることで、作業者により知覚される騒音を抑制することができる。作業場所の周辺における吸音壁100の置き方としては、作業場所の四方を囲むように吸音壁100が置かれてもよいし、出入り口の方向を除いた3方向を囲むように吸音壁100が置かれてもよいし、1面のみの吸音壁100が置かれてもよい。また、四方を吸音壁100により囲まれた作業場所の天井部分を塞ぐことで、作業ブースを構成してもよい。
【0034】
(1-5)小括
以上説明したように、本実施形態では、複数の吸音空間11の吸音特性が不均一であり、吸音ユニット1に含まれる複数の吸音空間11は、互いに共振特性が異なる共振器として機能する。このため、吸音ユニット1によれば、吸音特性が均一な複数の吸音空間により構成された吸音材(例えば孔パラメータが均一な穿孔板を有する吸音材)と比較して、広い周波数帯域の音に対して吸音効果を発揮することができる。
【0035】
また、第1穿孔群21に属する第1穿孔10Aと、第2穿孔群22に属する第2穿孔10Bとが、穿孔10の径、または孔同士の間隔の少なくとも1つにおいて異なっているので、一つの吸音ユニット1において、互いに吸音特性の異なる複数の吸音空間11を確保することができる。
【0036】
また、第1領域41および第2領域42が、穿孔板12において隔壁14に対応する位置を境界として隣接している。すなわち、吸音特性が異なる複数の吸音空間11が近傍位置に配置されているので、それらの吸音特性が統合された吸音ユニット1全体の吸音特性における回折の影響が小さくなり、吸音ユニット1の吸音特性の設計を容易に行うことができる。
【0037】
また、隔壁14には、互いに隣り合う吸音空間11を接続することで、穿孔10とつながる吸音空間11を拡張する接続孔16が形成されているので、吸音空間11の容積に自由度を与え、より広範囲な周波数帯域において吸音効果を発揮することができる。
【0038】
また、隔壁14ごとに、接続孔16の径、および接続孔16同士の間隔のうち、少なくとも一つが異なっていることで、拡張された吸音空間11の吸音特性を多様にすることができる。
【0039】
また、複数の隔壁14が、穿孔板12の表面の法線方向から見た平面視において、正六角形状の構造が配列されたハニカム構造体を形成するので、吸音ユニット1の強度と製造性を確保することができる。例えば、従来のハニカム構造を有する板部材の製造過程において、隔壁14及び穿孔板12に孔を形成することで、吸音ユニット1を製造することができる。
【0040】
(1-6)穿孔板12の変形例
次に、穿孔板12の変形例について説明する。
図4は、
図1に示す穿孔板12の変形例を示す図である。このうち、
図4Aは、第1変形例に係る穿孔板12Bを示す図である。
図4Bは、第2変形例に係る穿孔板12Cを示す図である。
図4Aに示すように、第1変形例に係る穿孔板12Bでは、各穿孔群が占める領域が、穿孔板12Bのうち、隔壁14と対応する位置を境界として、吸音空間11と平面視で重なる領域(すなわち上述の外板領域)の全体に位置している。
【0041】
すなわち、第1領域41は、穿孔板12Bにおいて、第1吸音空間11Aを覆う部分に対応している。そして、複数の第1穿孔10Aは、第1領域41の全域に亘って均一に分布している。
第2領域42は、穿孔板12Bにおいて、第1吸音空間11Aとは異なる第2吸音空間11Bを覆う部分に対応している。複数の第2穿孔10Bは、第2領域42の全域に亘って均一に分布している。
【0042】
第3領域43は、穿孔板12Bにおいて、第1吸音空間11Aおよび第2吸音空間11Bとは異なる第3吸音空間11Cを覆う部分に対応している。複数の第3穿孔10Cは、第3領域43の全域に亘って均一に分布している。
第4領域44は、穿孔板12Bにおいて、第1吸音空間11Aから第3吸音空間11Cとは異なる第4吸音空間11Dを覆う部分に対応している。複数の第4穿孔10Dは、第4領域44の全域に亘って均一に分布している。
このような形状の穿孔板12を用いることで、吸音空間11の全域にわたって穿孔10が形成されていることとなり、特に高周波数帯域における吸音効果を向上させることができる。
【0043】
図4Bに示すように、第2変形例に係る穿孔板12Cでは、第1領域41から第3領域43が、穿孔板12のH方向の位置に沿って区画されている。それぞれの領域は、隔壁部材15の隔壁14に対応しない位置を境界として隣接している。このような形状の穿孔板12を用いることで、穿孔板12における穿孔10のパターンを簡易にして、製造コストを抑えることができる。
【0044】
(2)第2実施形態
第2実施形態に係る吸音ユニット2の構成について説明する。なお、第1実施形態と同一の構成について同一の符号を振り、その説明を省略する。
図5は、第2実施形態に係る吸音ユニット2の斜視図および分解図である。このうち、
図5Aは吸音ユニット2の斜視図、
図5Bは吸音ユニット2の分解図である。吸音ユニット2は、吸音部材の一例である。
【0045】
図5Aおよび
図5Bに示すように、第2実施形態に係る吸音ユニット2では、穿孔板52が2枚の板部材により構成されている。
穿孔板52は、第1板部材52Aと第2板部材52Bにより構成されている。
第1板部材52Aは、複数の第1穿孔10Eを備えている。第2板部材52Bは、複数の第2穿孔10Fを備え、第1板部材52Aの表面の法線方向(D方向)に関して、第1板部材52Aと重ねて配置されている。第2板部材52Bは、D方向において、第1板部材52Aと隔壁部材15との間に配置されている。
【0046】
第1板部材52Aにおいて、複数の第1穿孔10Eは、互いの間隔および径が均一となっている。
第2板部材52Bにおいて、複数の第2穿孔10Fは、互いの間隔および径が不均一となっている。複数の第2穿孔10Fは、径が異なる複数の孔を含み、第2板部材52Bの全域に配置されている。第2穿孔10Fのそれぞれは、第1穿孔10Eに比べて径が大きく、複数の吸音空間11の各々に対応する部分に存在する。
穿孔板52のうちD方向から見て第1穿孔10Eが存在する部分には、第2穿孔10Fと重なることで吸音空間11の内部と外部が連通する連通部と、第2穿孔10Fと重ならずに第2板部材52Bにより閉塞される(すなわち吸音空間11の内部と外部が連通しない)閉塞部と、が存在する。
【0047】
第2板部材52Bに形成された複数の第2穿孔10Fは互いに大きさが異なるため、穿孔板52において連通箇所の集まっている領域(第1実施形態における穿孔群の領域に相当する)は、穿孔板52における領域ごとに大きさが異なる。その結果、吸音ユニット2の領域ごとに吸音空間11の吸音特性が不均一となっており、吸音ユニット2は広い周波数帯域において吸音効果を発揮することができる。また、穿孔板52は、孔径が均一である複数の微細な第1穿孔10Eが形成された第1板部材52Aと、孔径が不均一である比較的大きい第2穿孔10Fが形成された第2板部材52Bとを貼り合わせることで製造することができる。そのため、
図1に示したように孔径が不均一である複数の微細な穿孔10を板部材に形成して穿孔板12を製造する場合と比較して、穿孔を形成する工程に求められる加工精度が低くなり、穿孔板の製造が容易になる。
【0048】
(3)第3実施形態
第3実施形態に係る吸音ユニット3の構成について説明する。なお、第1実施形態と同一の構成について同一の符号を振り、その説明を省略する。
図6は、第3実施形態に係る吸音ユニット3の斜視図および分解図である。このうち、
図6Aは吸音ユニット3の斜視図、
図6Bは吸音ユニット3の分解図である。吸音ユニット3は、吸音部材の一例である。
【0049】
図6Aおよび
図6Bに示すように、第3実施形態に係る吸音ユニット3では、吸音空間11及び第5吸音空間61がD方向に積層されている。
すなわち、吸音ユニット3は、穿孔板12、支持板13、および隔壁部材15の他に、第2隔壁部材65および第2穿孔板62を更に備えている。
第2隔壁部材65は、穿孔板12を挟んで、隔壁部材15と反対側に配置されている。第2隔壁部材65は、穿孔板12と第2穿孔板62との間の空間を複数の第5吸音空間61に区画している。
【0050】
第2穿孔板62は、第2隔壁部材65に対して、穿孔板12とは反対側に連結されている。第2穿孔板62には、音波が入射可能な複数の穿孔10が形成されている。
第2穿孔板62は、穿孔の径、または穿孔同士の間隔の少なくとも1つが異なる複数の穿孔群を備えている。このため、複数の第5吸音空間61は、吸音特性が不均一となっている。
【0051】
隔壁部材15および第2隔壁部材65は、平面視において穿孔10の孔パターンを除いて、同一の形状をなしている。すなわち、第2隔壁部材65の隔壁64は、第2穿孔板62の表面の法線方向から見た平面視において、正六角形状の構造が配列されたハニカム構造体を形成している。なお、隔壁部材15および第2隔壁部材65は、平面視において、異なる形状をなしていてもよい。
【0052】
積層された吸音空間11と第5吸音空間61とは、穿孔板12に形成された穿孔10により接続されることで、拡張された吸音空間を構成する。この拡張された吸音空間の吸音特性は、吸音空間の大きさと、穿孔板12における穿孔10の孔パラメータと、第2穿孔板62における穿孔10の孔パラメータとに依存する。そのため、穿孔板12における穿孔10の孔パラメータと第2穿孔板62における穿孔10の孔パラメータとの少なくとも何れかを領域ごとに異ならせることで、吸音ユニット3に含まれる複数の拡張された吸音空間の吸音特性を不均一にすることができる。また、穿孔板12における穿孔10の孔パラメータと第2穿孔板62における穿孔10の孔パラメータとの両方を領域ごとに異ならせることで、吸音特性が異なる複数の拡張された吸音空間のバリエーションをより増やすことができる。これにより、吸音ユニット3は、広い周波数帯域において吸音効果を発揮することができる。
【0053】
(4)第4実施形態
第4実施形態に係る吸音ユニット4の構成について説明する。なお、第3実施形態と同一の構成について同一の符号を振り、その説明を省略する。
図7は、第4実施形態に係る吸音ユニット4の斜視図および分解図である。このうち、
図7Aは吸音ユニット4の斜視図、
図7Bは吸音ユニット4の分解図である。吸音ユニット4は、吸音部材の一例である。
【0054】
図7Aおよび
図7Bに示すように、第4実施形態に係る吸音ユニット4では、第1穿孔板12Dおよび第2穿孔板62の孔パターンが、第3実施形態と異なっている。
【0055】
第1穿孔板12Dに形成された穿孔10Gは、第1穿孔板12Dのうち、隔壁14に対応する位置を境界とした吸音空間11を覆う部分(すなわち吸音空間11の外板領域)ごとに一つずつ形成されている。穿孔10Gは、平面視で六角形状を呈している。
第1穿孔板12Dにおいて、複数の吸音空間11のうち少なくとも一つの外板領域には、穿孔10Gが形成されていない。
隔壁部材15の隔壁14には、接続孔16が形成されている。
【0056】
第2穿孔板62の孔パターンは、
図4Aに示す第1実施形態の穿孔板12における第1変形例と同等の孔パターンとなっている。すなわち、第2穿孔板62の複数の穿孔10は、第2隔壁部材65の隔壁64と対応する位置を境界として、第5吸音空間61と平面視で重なる領域(すなわち第5吸音空間61の外板領域)の全体に配置されている。
【0057】
このように、第1穿孔板12Dにおいて、複数の吸音空間11を覆う部分のうち、少なくとも一つには、穿孔10Gが形成されていない。そのため、第2穿孔板62に形成された複数の穿孔10につながる複数の吸音空間には、第5吸音空間61のみで構成されたものと、第1穿孔板12Dの穿孔10Gを介して第5吸音空間61と吸音空間11が接続されたものとが含まれる。さらに、第5吸音空間61と接続された吸音空間11には、隔壁14に形成された接続孔16を介して拡張された吸音空間も含まれる。すなわち、吸音ユニット4は、互いに大きさが異なる複数の吸音空間を有する。その結果、吸音ユニット4において、互いに吸音特性が異なる複数の吸音空間のバリエーションを増やすことができ、吸音ユニット4は広い周波数帯域において吸音効果を発揮することができる。
なお、
図6及び
図7では、吸音ユニットが、穿孔板12又は第1穿孔板12Dにより仕切られた2層構造の吸音空間を有するものとした。ただしこれに限らず、吸音ユニットは3層以上の構造の吸音空間を有していてもよい。例えば、
図6に示す吸音ユニット3における第2穿孔板62の-D方向側に、さらに第3隔壁部材と第3穿孔板が設けられてもよい。このような構成により、互いに吸音特性が異なる複数の吸音空間のバリエーションをさらに増やすことができ、吸音ユニットは広い周波数帯域において吸音効果を発揮することができる。
【0058】
(5)隔壁部材15の変形例
隔壁部材15の変形例について説明する。
図8は、隔壁部材15の第1変形例および第2変形例を示す図である。このうち、
図8Aは、第1変形例に係る隔壁部材15Bを示す図である。
図8Aに示すように、第1変形例に係る隔壁部材15は、平面視で円形をなす隔壁14Bを有している。隔壁14は、様々な大きさの正円又は楕円を形成している。
【0059】
図8Bは、第2変形例に係る隔壁部材15Cを示す図である。
図8Bに示すように、第2変形例に係る隔壁部材15は、平面視で矩形をなす隔壁14Cを有している。隔壁14Cは、様々な大きさの長方形をなしている。なお、隔壁14Cは正方形をなしていてもよい。
【0060】
図9は、隔壁部材15のその他の変形例を示す図である。
図9Aに示す隔壁部材15Dの隔壁は、平面視で三角形状と六角形状をなしている。
図9Bに示す隔壁部材15Eの隔壁は、平面視で四角形状と六角形状と十二角形状をなしている。
【0061】
図9Cに示す隔壁部材15Fの隔壁は、平面視で三角形状と四角形状をなしている。
図9Dに示す隔壁部材15Gの隔壁は、平面視で正円形状をなしている。
【0062】
図9Eに示す隔壁部材15Hの隔壁は、平面視で三角形状と四角形状をなしている。
図9Fに示す隔壁部材15Iの隔壁は、平面視で四角形状と八角形状をなしている。
【0063】
図9Gに示す隔壁部材15Jの隔壁は、平面視で三角形状と四角形状と六角形状をなしている。
図9Hに示す隔壁部材15Kの隔壁は、平面視で三角形状と六角形状をなしている。
このように、隔壁部材15の平面視における構造は、任意の幾何形状の組み合わせとすることができる。
【0064】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の範囲は上記の実施形態に限定されない。また、上記の実施形態は、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更が可能である。また、上記の実施形態および変形例を組合せてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 :吸音ユニット
10 :穿孔
11 :吸音空間
12 :穿孔板
13 :支持板
14 :隔壁部材
15 :隔壁