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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085956
(43)【公開日】2023-06-21
(54)【発明の名称】車両用操向システムの制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20230614BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20230614BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20230614BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20230614BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20230614BHJP
   B62D 117/00 20060101ALN20230614BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
B62D117:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200288
(22)【出願日】2021-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植本 隆明
(72)【発明者】
【氏名】椿 貴弘
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC49
3D232DA03
3D232DA04
3D232DA09
3D232DA15
3D232DA20
3D232DA23
3D232DA63
3D232DA64
3D232DC01
3D232DC02
3D232DC03
3D232DC08
3D232DC09
3D232DC10
3D232DC33
3D232DC34
3D232DD01
3D232DD02
3D232DD06
3D232DD10
3D232DD17
3D232DE06
3D232EB04
3D232EB12
3D232EC23
3D232EC29
3D232EC37
3D333CB02
3D333CB31
3D333CB46
3D333CD60
3D333CE20
3D333CE24
3D333CE50
3D333CE53
(57)【要約】
【課題】操舵終端における機械的負荷や消費電力の増大を抑制することができる車両用操向システムの制御装置を提供すること。
【解決手段】ハンドルの操舵終端に回転制限機構が設けられている。車両用操向システムの制御装置は、操舵トルク目標値に基づいて第1電流指令値を生成する操舵トルク制御部400を備える。操舵トルク制御部400は、操舵終端において、電流指令値Iref_aを制限する電流補償ゲインGiを導出する電流補償ゲイン演算部440と、電流補償ゲインGiに基づき、電流指令値Iref_aを制限して反力用モータを駆動するためのモータ電流指令値Ih_refを生成する出力制限部430と、を備える。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドルの操舵終端に回転制限機構が設けられ、前記ハンドルの操舵角に応じて前記ハンドルに操舵反力を付与する反力用モータと、前記ハンドルの操舵角に応じて転舵輪を転舵する転舵用モータとを具備した車両用操向システムの制御装置であって、
前記操舵反力を得るための操舵トルクの目標値である操舵トルク目標値を生成する操舵トルク目標値生成部と、
前記操舵トルク目標値に基づいて第1電流指令値を生成する操舵トルク制御部と、
を備え、
前記操舵トルク制御部は、
前記操舵終端において、前記第1電流指令値を制限する電流補償ゲインを導出する電流補償ゲイン演算部と、
前記電流補償ゲインに基づき、前記第1電流指令値を制限して前記反力用モータを駆動するための第2電流指令値を生成する出力制限部と、
を備える、
車両用操向システムの制御装置。
【請求項2】
前記電流補償ゲイン演算部は、
前記ハンドルの実際の操舵トルクである実操舵トルクが第1トルク閾値以上となった場合に、前記操舵終端と判定し、
前記操舵終端と判定した後、前記実操舵トルクが前記第1トルク閾値よりも小さい第2トルク閾値未満となった場合に、前記操舵終端を逸したと判定する、
請求項1に記載の車両用操向システムの制御装置。
【請求項3】
前記電流補償ゲイン演算部は、
前記ハンドルの実際の操舵トルクである実操舵トルクが第1トルク閾値以上となり、所定の第1時間経過した場合に、前記操舵終端と判定し、
前記操舵終端と判定した後、前記実操舵トルクが前記第1トルク閾値よりも小さい第2トルク閾値未満となり、所定の第2時間経過した場合に、前記操舵終端を逸したと判定する、
請求項1に記載の車両用操向システムの制御装置。
【請求項4】
前記電流補償ゲイン演算部は、
前記ハンドルの実際の操舵角である実操舵角が第1操舵角閾値以上となった場合に、前記操舵終端と判定し、
前記操舵終端と判定した後、前記実操舵角が前記第1操舵角閾値よりも小さい第2操舵角閾値未満となった場合に、前記操舵終端を逸したと判定する、
請求項1に記載の車両用操向システムの制御装置。
【請求項5】
前記電流補償ゲイン演算部は、
前記ハンドルの実際の操舵角である実操舵角が第1操舵角閾値以上となり、所定の第1時間経過した場合に、前記操舵終端と判定し、
前記操舵終端と判定した後、前記実操舵角が前記第1操舵角閾値よりも小さい第2操舵角閾値未満となり、所定の第2時間経過した場合に、前記操舵終端を逸したと判定する、
請求項1に記載の車両用操向システムの制御装置。
【請求項6】
前記電流補償ゲイン演算部は、
前記ハンドルの実際の操舵トルクである実操舵トルクが第1トルク閾値以上となり、かつ、前記ハンドルの実際の操舵角である実操舵角が第1操舵角閾値以上となった場合に、前記操舵終端と判定し、
前記操舵終端と判定した後、前記実操舵トルクが前記第1トルク閾値よりも小さい第2トルク閾値未満となるか、あるいは、前記実操舵角が前記第1操舵角閾値よりも小さい第2操舵角閾値未満となった場合に、前記操舵終端を逸したと判定する、
請求項1に記載の車両用操向システムの制御装置。
【請求項7】
前記電流補償ゲイン演算部は、
前記ハンドルの実際の操舵トルクである実操舵トルクが第1トルク閾値以上となり、かつ、前記ハンドルの実際の操舵角である実操舵角が第1操舵角閾値以上となり、所定の第1時間経過した場合に、前記操舵終端と判定し、
前記操舵終端と判定した後、前記実操舵トルクが前記第1トルク閾値よりも小さい第2トルク閾値未満となるか、あるいは、前記実操舵角が前記第1操舵角閾値よりも小さい第2操舵角閾値未満となり、所定の第2時間経過した場合に、前記操舵終端を逸したと判定する、
請求項1に記載の車両用操向システムの制御装置。
【請求項8】
前記電流補償ゲイン演算部は、
前記ハンドルの実際の操舵角である実操舵角が第1操舵角閾値以上となり、かつ、前記ハンドルの実際の操舵角速度である実操舵角速度が第1操舵角速度閾値以下となった場合に、前記操舵終端と判定し、
前記操舵終端と判定した後、前記実操舵角が前記第1操舵角閾値よりも小さい第2操舵角閾値未満となるか、あるいは、前記実操舵角速度が前記第1操舵角速度閾値よりも大きい第2操舵角速度よりも大きくなった場合に、前記操舵終端を逸したと判定する、
請求項1に記載の車両用操向システムの制御装置。
【請求項9】
前記電流補償ゲイン演算部は、
前記ハンドルの実際の操舵角である実操舵角が第1操舵角閾値以上となり、かつ、前記ハンドルの実際の操舵角速度である実操舵角速度が第1操舵角速度閾値以下となり、所定の第1時間経過した場合に、前記操舵終端と判定し、
前記操舵終端と判定した後、前記実操舵角が前記第1操舵角閾値よりも小さい第2操舵角閾値未満となるか、あるいは、前記実操舵角速度が前記第1操舵角速度閾値よりも大きい第2操舵角速度よりも大きくなり、所定の第2時間経過した場合に、前記操舵終端を逸したと判定する、
請求項1に記載の車両用操向システムの制御装置。
【請求項10】
前記電流補償ゲイン演算部は、
前記操舵終端と判定した場合に、前記電流補償ゲインを第1ゲインから当該第1ゲインよりも小さい第2ゲインに遷移させ、
前記操舵終端を逸したと判定した場合に、前記電流補償ゲインを前記第2ゲインから前記第1ゲインに遷移させる、
請求項1から9の何れか一項に記載の車両用操向システムの制御装置。
【請求項11】
前記電流補償ゲイン演算部は、
前記操舵終端と判定した場合に、前記電流補償ゲインを第1ゲインから当該第1ゲインよりも小さい第2ゲインに所定の第1時間変化率で単調減少させ、
前記操舵終端を逸したと判定した場合に、前記電流補償ゲインを前記第2ゲインから前記第1ゲインに所定の第2時間変化率で単調増加させる、
請求項1から9の何れか一項に記載の車両用操向システムの制御装置。
【請求項12】
前記出力制限部は、
前記第1電流指令値に対し、前記電流補償ゲインを乗じて前記第2電流指令値を生成する、
請求項1から11の何れか一項に記載の車両用操向システムの制御装置。
【請求項13】
前記出力制限部は、
前記第2電流指令値の下限値を制限する、
請求項1から11の何れか一項に記載の車両用操向システムの制御装置。
【請求項14】
前記出力制限部は、
前記第1電流指令値に対して前記電流補償ゲインを乗じた第3電流指令値と所定の電流指令値下限値とを比較する比較部を備え、
前記比較部は、
前記第3電流指令値が前記電流指令値下限値よりも大きい場合に、前記第3電流指令値を前記第2電流指令値として出力し、
前記第3電流指令値が前記電流指令値下限値以下である場合に、前記電流指令値下限値を前記第2電流指令値として出力する、
請求項13に記載の車両用操向システムの制御装置。
【請求項15】
前記出力制限部は、
前記第2電流指令値の上限値及び下限値を制限する、
請求項1から12の何れか一項に記載の車両用操向システムの制御装置。
【請求項16】
前記出力制限部は、
前記第1電流指令値と所定の電流指令値上限値とを比較する第1比較部と、
前記第1比較部の出力値である第3電流指令値と所定の電流指令値下限値とを比較する第2比較部と、
を備え、
前記第1比較部は、
前記第1電流指令値が前記電流指令値上限値以下である場合に、前記第1電流指令値を出力し、
前記第1電流指令値が前記電流指令値下限値よりも大きい場合に、前記電流指令値上限値を出力し、
前記第2比較部は、
前記第3電流指令値が前記電流指令値下限値よりも大きい場合に、前記第3電流指令値を前記第2電流指令値として出力し、
前記第3電流指令値が前記電流指令値下限値以下である場合に、前記電流指令値下限値を前記第2電流指令値として出力する、
請求項15に記載の車両用操向システムの制御装置。
【請求項17】
前記出力制限部は、
前記電流指令値上限値を生成する電流指令値上限値生成部を備え、
前記電流指令値上限値生成部は、
前記電流補償ゲインの増加に伴い、前記電流指令値下限値から所定の電流指令値最大値まで前記電流指令値上限値を単調増加させる、
請求項16に記載の車両用操向システムの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用操向システムの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用操向システムの1つとして、運転者が操作するハンドルを有する操舵機構(FFA:Force Feedback Actuator)と、転舵輪を転舵する転舵機構(RWA:Road Wheel Actuator)とが機械的に分離されているステアバイワイヤ(SBW:Steer By Wire)システムがある。SBWシステムでは、操舵機構と転舵機構とが制御装置(ECU:Electronic Control Unit)を介して電気的に接続され、ハンドルの操作を電気信号によって転舵機構に伝えて転舵輪を転舵すると共に、運転者に適切な操舵感を与えるための操舵反力を操舵機構で生成する。操舵機構は、反力用モータを備える反力アクチュエータにより操舵反力を生成し、転舵機構は、転舵用モータを備える転舵アクチュエータにより転舵輪を転舵する。反力アクチュエータとハンドルとは、コラム軸を介して機械的に接続されており、反力アクチュエータが生成した反力(トルク)が、コラム軸とハンドルを介して運転者に伝達される(例えば、特許文献1)。
【0003】
このようなSBWシステムでは、操舵機構による操舵角が転舵機構の転舵可能領域を超えないように、運転者によるハンドル操作を制限する必要がある。例えば、操舵角が操舵角閾値以上となる場合に操舵反力を増加させ、操舵可能域を制限する技術が開示されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-175770号公報
【特許文献2】国際公開第2019/193976号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
操舵機構と転舵機構とが機械的に分離されているSBWシステムにおいて、制御装置は、操舵角に応じた操舵トルク目標値に対して実際の操舵トルクである実操舵トルクが追従するような制御を行う。また、操舵機構に機構上の操舵限界となる操舵終端にストッパを設けることがある。このような構成において、運転者が操舵終端において更なる切り増し操舵(例えば、右方向に操舵した状態において、さらに右方向に操舵)を行った場合、コラム軸の上端と下端との間に生じる捩れによって過大な実操舵トルクが生じる場合がある。このとき、ストッパが設けられるコラム軸の下端側の回転はストッパによって制限された状態となるため、コラム軸の上端側に設けられるハンドルの操舵角に基づき生成される操舵トルク目標値と実操舵トルクとの間に乖離が生じ、操舵反力とは逆方向に作用する操舵力(操舵アシスト力)が反力用モータによって付与され、ストッパを含む操舵機構に過大な機械的負荷が掛かる可能性があり、操舵機構の強度を確保するために、操舵機構が大型化する場合がある。また、回転が阻害された状態で反力用モータに過大な電流が流れ、反力用モータやECUの消費電力増加を招く可能性がある。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、操舵終端における機械的負荷や消費電力の増大を抑制することができる車両用操向システムの制御装置を提供すること、を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の一態様に係る車両用操向システムの制御装置は、ハンドルの操舵終端に回転制限機構が設けられ、前記ハンドルの操舵角に応じて前記ハンドルに操舵反力を付与する反力用モータと、前記ハンドルの操舵角に応じて転舵輪を転舵する転舵用モータとを具備した車両用操向システムの制御装置であって、前記操舵反力を得るための操舵トルクの目標値である操舵トルク目標値を生成する操舵トルク目標値生成部と、前記操舵トルク目標値に基づいて第1電流指令値を生成する操舵トルク制御部と、を備え、前記操舵トルク制御部は、前記操舵終端において、前記第1電流指令値を制限する電流補償ゲインを導出する電流補償ゲイン演算部と、前記電流補償ゲインに基づき、前記第1電流指令値を制限して前記反力用モータを駆動するための第2電流指令値を生成する出力制限部と、を備える。
【0008】
上記構成によれば、操舵終端において回転制限機構を含む操舵機構に対して掛かる機械的負荷を軽減することができる。また、操舵終端において反力用モータに流れる電流を制限することができ、反力用モータや制御装置を構成するECUの消費電力の増加を抑制することができる。
【0009】
車両用操向システムの制御装置の望ましい態様として、前記電流補償ゲイン演算部は、前記ハンドルの実際の操舵トルクである実操舵トルクが第1トルク閾値以上となった場合に、前記操舵終端と判定し、前記操舵終端と判定した後、前記実操舵トルクが前記第1トルク閾値よりも小さい第2トルク閾値未満となった場合に、前記操舵終端を逸したと判定することが好ましい。
【0010】
上記構成によれば、ハンドルの実際の操舵トルクである実操舵トルクをパラメータとして操舵終端であるか否かを判定することができる。
【0011】
車両用操向システムの制御装置の望ましい態様として、前記電流補償ゲイン演算部は、前記ハンドルの実際の操舵トルクである実操舵トルクが第1トルク閾値以上となり、所定の第1時間経過した場合に、前記操舵終端と判定し、前記操舵終端と判定した後、前記実操舵トルクが前記第1トルク閾値よりも小さい第2トルク閾値未満となり、所定の第2時間経過した場合に、前記操舵終端を逸したと判定することが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、操舵終端において切り増し操舵と切り戻し操舵とを繰り返した場合に、第2電流指令値が頻繁に切り替わることを防ぐことができる。
【0013】
車両用操向システムの制御装置の望ましい態様として、前記電流補償ゲイン演算部は、前記ハンドルの実際の操舵角である実操舵角が第1操舵角閾値以上となった場合に、前記操舵終端と判定し、前記操舵終端と判定した後、前記実操舵角が前記第1操舵角閾値よりも小さい第2操舵角閾値未満となった場合に、前記操舵終端を逸したと判定することが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、ハンドルの実際の操舵角である実操舵角をパラメータとして操舵終端であるか否かを判定することができる。
【0015】
車両用操向システムの制御装置の望ましい態様として、前記電流補償ゲイン演算部は、前記ハンドルの実際の操舵角である実操舵角が第1操舵角閾値以上となり、所定の第1時間経過した場合に、前記操舵終端と判定し、前記操舵終端と判定した後、前記実操舵角が前記第1操舵角閾値よりも小さい第2操舵角閾値未満となり、所定の第2時間経過した場合に、前記操舵終端を逸したと判定することが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、操舵終端において切り増し操舵と切り戻し操舵とを繰り返した場合に、第2電流指令値が頻繁に切り替わることを防ぐことができる。
【0017】
車両用操向システムの制御装置の望ましい態様として、前記電流補償ゲイン演算部は、前記ハンドルの実際の操舵トルクである実操舵トルクが第1トルク閾値以上となり、かつ、前記ハンドルの実際の操舵角である実操舵角が第1操舵角閾値以上となった場合に、前記操舵終端と判定し、前記操舵終端と判定した後、前記実操舵トルクが前記第1トルク閾値よりも小さい第2トルク閾値未満となるか、あるいは、前記実操舵角が前記第1操舵角閾値よりも小さい第2操舵角閾値未満となった場合に、前記操舵終端を逸したと判定することが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、ハンドルの実際の操舵トルクである実操舵トルク、及び、ハンドルの実際の操舵角である実操舵角をパラメータとして操舵終端であるか否かを判定することができる。
【0019】
車両用操向システムの制御装置の望ましい態様として、前記電流補償ゲイン演算部は、前記ハンドルの実際の操舵トルクである実操舵トルクが第1トルク閾値以上となり、かつ、前記ハンドルの実際の操舵角である実操舵角が第1操舵角閾値以上となり、所定の第1時間経過した場合に、前記操舵終端と判定し、前記操舵終端と判定した後、前記実操舵トルクが前記第1トルク閾値よりも小さい第2トルク閾値未満となるか、あるいは、前記実操舵角が前記第1操舵角閾値よりも小さい第2操舵角閾値未満となり、所定の第2時間経過した場合に、前記操舵終端を逸したと判定することが好ましい。
【0020】
上記構成によれば、操舵終端において切り増し操舵と切り戻し操舵とを繰り返した場合に、第2電流指令値が頻繁に切り替わることを防ぐことができる。
【0021】
車両用操向システムの制御装置の望ましい態様として、前記電流補償ゲイン演算部は、前記ハンドルの実際の操舵角である実操舵角が第1操舵角閾値以上となり、かつ、前記ハンドルの実際の操舵角速度である実操舵角速度が第1操舵角速度閾値以下となった場合に、前記操舵終端と判定し、前記操舵終端と判定した後、前記実操舵角が前記第1操舵角閾値よりも小さい第2操舵角閾値未満となるか、あるいは、前記実操舵角速度が前記第1操舵角速度閾値よりも大きい第2操舵角速度よりも大きくなった場合に、前記操舵終端を逸したと判定することが好ましい。
【0022】
上記構成によれば、ハンドルの実際の操舵角である実操舵角、及び、ハンドルの実際の操舵角速度である実操舵角速度をパラメータとして操舵終端であるか否かを判定することができる。
【0023】
車両用操向システムの制御装置の望ましい態様として、前記電流補償ゲイン演算部は、前記ハンドルの実際の操舵角である実操舵角が第1操舵角閾値以上となり、かつ、前記ハンドルの実際の操舵角速度である実操舵角速度が第1操舵角速度閾値以下となり、所定の第1時間経過した場合に、前記操舵終端と判定し、前記操舵終端と判定した後、前記実操舵角が前記第1操舵角閾値よりも小さい第2操舵角閾値未満となるか、あるいは、前記実操舵角速度が前記第1操舵角速度閾値よりも大きい第2操舵角速度よりも大きくなり、所定の第2時間経過した場合に、前記操舵終端を逸したと判定することが好ましい。
【0024】
上記構成によれば、操舵終端において切り増し操舵と切り戻し操舵とを繰り返した場合に、第2電流指令値が頻繁に切り替わることを防ぐことができる。
【0025】
車両用操向システムの制御装置の望ましい態様として、前記電流補償ゲイン演算部は、前記操舵終端と判定した場合に、前記電流補償ゲインを第1ゲインから当該第1ゲインよりも小さい第2ゲインに遷移させ、前記操舵終端を逸したと判定した場合に、前記電流補償ゲインを前記第2ゲインから前記第1ゲインに遷移させることが好ましい。
【0026】
上記構成によれば、操舵終端であるか否かを判定して第2電流指令値を変化させることができる。
【0027】
車両用操向システムの制御装置の望ましい態様として、前記電流補償ゲイン演算部は、前記操舵終端と判定した場合に、前記電流補償ゲインを第1ゲインから当該第1ゲインよりも小さい第2ゲインに所定の第1時間変化率で単調減少させ、前記操舵終端を逸したと判定した場合に、前記電流補償ゲインを前記第2ゲインから前記第1ゲインに所定の第2時間変化率で単調増加させることが好ましい。
【0028】
上記構成によれば、電流補償ゲインが第1ゲインと第2ゲインとの間で切り替わる際の第2電流指令値の変化を緩やかにすることができる。
【0029】
車両用操向システムの制御装置の望ましい態様として、前記出力制限部は、前記第1電流指令値に対し、前記電流補償ゲインを乗じて前記第2電流指令値を生成することが好ましい。
【0030】
上記構成によれば、第1電流指令値を電流補償ゲインによって制限した第2電流指令値を生成することができる。
【0031】
車両用操向システムの制御装置の望ましい態様として、前記出力制限部は、前記第2電流指令値の下限値を制限することが好ましい。
【0032】
上記構成によれば、操舵終端における第2電流指令値の急激な変動を抑制することができる。
【0033】
車両用操向システムの制御装置の望ましい態様として、前記出力制限部は、前記第1電流指令値に対して前記電流補償ゲインを乗じた第3電流指令値と所定の電流指令値下限値とを比較する比較部を備え、前記比較部は、前記第3電流指令値が前記電流指令値下限値よりも大きい場合に、前記第3電流指令値を前記第2電流指令値として出力し、前記第3電流指令値が前記電流指令値下限値以下である場合に、前記電流指令値下限値を前記第2電流指令値として出力することが好ましい。
【0034】
上記構成によれば、第3電流指令値が電流指令値下限値以下である場合に、第2電流指令値が電流指令値下限値に制限される。
【0035】
車両用操向システムの制御装置の望ましい態様として、前記出力制限部は、前記第2電流指令値の上限値及び下限値を制限することが好ましい。
【0036】
上記構成によれば、ノイズ等による不要な第2電流指令値の変動を抑制することができる。
【0037】
車両用操向システムの制御装置の望ましい態様として、前記出力制限部は、前記第1電流指令値と所定の電流指令値上限値とを比較する第1比較部と、前記第1比較部の出力値である第3電流指令値と所定の電流指令値下限値とを比較する第2比較部と、を備え、前記第1比較部は、前記第1電流指令値が前記電流指令値上限値以下である場合に、前記第1電流指令値を出力し、前記第1電流指令値が前記電流指令値下限値よりも大きい場合に、前記電流指令値上限値を出力し、前記第2比較部は、前記第3電流指令値が前記電流指令値下限値よりも大きい場合に、前記第3電流指令値を前記第2電流指令値として出力し、前記第3電流指令値が前記電流指令値下限値以下である場合に、前記電流指令値下限値を前記第2電流指令値として出力することが好ましい。
【0038】
上記構成によれば、第1電流指令値が電流指令値下限値よりも大きい場合に、第3電流指令値が電流指令値上限値に制限される。また、第3電流指令値が電流指令値下限値以下である場合に、第2電流指令値が電流指令値下限値に制限される。
【0039】
車両用操向システムの制御装置の望ましい態様として、前記出力制限部は、前記電流指令値上限値を生成する電流指令値上限値生成部を備え、前記電流指令値上限値生成部は、前記電流補償ゲインの増加に伴い、前記電流指令値下限値から所定の電流指令値最大値まで前記電流指令値上限値を単調増加させることが好ましい。
【0040】
上記構成によれば、電流補償ゲインに応じた電流指令値上限値を設定することができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、操舵終端における機械的負荷や消費電力の増大を抑制することができる車両用操向システムの制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1図1は、本開示に係る制御装置を備えるSBWシステムの概要の例を示す構成図である。
図2図2は、トルクセンサの構成例を示す模式図である。
図3図3は、ECUのハードウェア構成を示す模式図である。
図4図4は、本開示に係る制御装置の基本的な制御ブロック構成の一例を示す図である。
図5図5は、本開示における操舵方向を説明するための領域図である。
図6A図6Aは、図4に示す制御ブロック構成において、ハンドルをセンター位置から等速で右切り増し操舵した場合のハンドル角θ1の時間変化を示す概念図である。
図6B図6Bは、図4に示す制御ブロック構成において、ハンドルをセンター位置から等速で右切り増し操舵した場合のコラム角θ2の時間変化を示す概念図である。
図6C図6Cは、図4に示す制御ブロック構成において、ハンドルをセンター位置から等速で右切り増し操舵した場合の操舵トルク目標値Th_refの時間変化を示す概念図である。
図6D図6Dは、図4に示す制御ブロック構成において、ハンドルをセンター位置から等速で右切り増し操舵した場合の実操舵トルクTh_actの時間変化を示す概念図である。
図6E図6Eは、図4に示す制御ブロック構成において、ハンドルをセンター位置から等速で右切り増し操舵した場合の操舵トルク目標値Th_refと実操舵トルクTh_actとのトルク差分ΔThの時間変化を示す概念図である。
図6F図6Fは、図4に示す制御ブロック構成において、ハンドルをセンター位置から等速で右切り増し操舵した場合のモータ電流指令値Ih_refの時間変化を示す概念図である。
図7図7は、実施形態1に係る操舵トルク制御部の構成例を示すブロック図である。
図8図8は、実施形態1に係る電流補償ゲイン演算部の構成例を示すブロック図である。
図9図9は、実施形態1に係る電流補償ゲイン演算部の具体的な動作例を示す概念図である。
図10図10は、実施形態1に係る電流補償ゲイン演算部の具体的な動作例の第1変形例を示す概念図である。
図11図11は、実施形態1に係る電流補償ゲイン演算部の具体的な動作例の第2変形例を示す概念図である。
図12図12は、実施形態2に係る操舵トルク制御部の構成例を示すブロック図である。
図13図13は、実施形態2に係る電流補償ゲイン演算部の構成例を示すブロック図である。
図14図14は、実施形態2に係る電流補償ゲイン演算部の具体的な動作例を示す概念図である。
図15図15は、実施形態3に係る操舵トルク制御部の構成例を示すブロック図である。
図16図16は、実施形態3に係る電流補償ゲイン演算部の構成例を示すブロック図である。
図17A図17Aは、実施形態3に係る電流補償ゲイン演算部の具体的な動作例を示す概念図である。
図17B図17Bは、実施形態3に係る電流補償ゲイン演算部の具体的な動作例の第1変形例を示す概念図である。
図17C図17Cは、実施形態3に係る電流補償ゲイン演算部の具体的な動作例の第2変形例を示す概念図である。
図17D図17Dは、実施形態3に係る電流補償ゲイン演算部の具体的な動作例の第3変形例を示す概念図である。
図18図18は、実施形態4に係る操舵トルク制御部の構成例を示すブロック図である。
図19図19は、実施形態4に係る電流補償ゲイン演算部の構成例を示すブロック図である。
図20A図20Aは、実施形態4に係る電流補償ゲイン演算部の具体的な動作例を示す概念図である。
図20B図20Bは、実施形態4に係る電流補償ゲイン演算部の具体的な動作例の第1変形例を示す概念図である。
図20C図20Cは、実施形態4に係る電流補償ゲイン演算部の具体的な動作例の第2変形例を示す概念図である。
図20D図20Dは、実施形態4に係る電流補償ゲイン演算部の具体的な動作例の第3変形例を示す概念図である。
図21図21は、実施形態5に係る出力制限部の構成例を示すブロック図である。
図22図22は、実施形態6に係る出力制限部の構成例を示すブロック図である。
図23図23は、実施形態6に係る電流指令値上限値生成部の内部構成の一例を示すブロック図である。
図24図24は、実施形態6に係る電流指令値上限値生成部の入出力特性の一例を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、発明を実施するための形態(以下、実施形態という)につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の実施形態により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0044】
図1は、本開示に係る制御装置を備えるSBWシステムの概要の例を示す構成図である。運転者が操作するハンドルを有する操舵機構を構成する反力装置30、転舵輪を転舵する転舵機構を構成する転舵装置40、及び両装置の制御を行う制御装置50を備える。
【0045】
SBWシステムには、一般的な電動パワーステアリング装置が備える、コラム軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)2と機械的に結合されるインターミディエイトシャフトがなく、運転者によるハンドル1の操作を電気信号によって、具体的には、反力装置30から出力される操舵角θhを電気信号として伝える。
【0046】
反力装置30は、反力用モータ31及び反力用モータ31の回転速度を減速する減速機構32を備える。反力装置30は、転舵輪5L,5Rから伝わる車両の運動状態を操舵反力として運転者に伝達する。反力用モータ31は、減速機構32を介して、操舵反力をハンドル1に付与する。
【0047】
反力装置30は、舵角センサ33及びトルクセンサ34を更に備えている。舵角センサ33は、ハンドル1の操舵角θhを検出する。トルクセンサ34は、ハンドル1の操舵トルクThを検出する。以下、舵角センサ33によって検出される操舵角θhを、「実操舵角θh_act」とも称し、トルクセンサ34によって検出される操舵トルクThを、「実操舵トルクTh_act」とも称する。
【0048】
図2は、トルクセンサの構成例を示す模式図である。図2に示すように、トルクセンサ34は、コラム軸2に介挿されたトーションバー2Aを挟んで配設された上側角度センサ34A及び下側角度センサ34Bと、トルク演算部36とを含む。上側角度センサ34Aは、コラム軸2のハンドル1側に配設され、ハンドル角θ1を検出する。下側角度センサ34Bは、コラム軸2の減速機構32側に配設され、コラム角θ2を検出する。
【0049】
運転者がハンドル1を操舵することによってトーションバー2Aに捩れが生じ、上側角度センサ34Aよって検出されるハンドル角θ1と、下側角度センサ34Bによって検出されるコラム角θ2との間に捩れ角Δθが生じる(Δθ=θ1-θ2)。トルク演算部34Cは、捩れ角Δθに応じた実操舵トルクTh_actを算出する。トルクセンサ34の構成は、図2に示す態様に限定されない。
【0050】
また、本開示において、コラム軸2の下端側には、操舵可能な限界となる操舵終端を物理的に設定するストッパ(回転制限機構)35が設けられている。すなわち、操舵角θhの大きさ(絶対値)は、ストッパ35によって制限される。
【0051】
転舵装置40は、転舵用モータ41、転舵用モータ41の回転速度を減速する減速機構42、及び転舵用モータ41の回転運動を直線運動に変換するピニオンラック機構44を備える。転舵装置40は、操舵角θhに応じて転舵用モータ41を駆動し、その駆動力を、減速機構42を介してピニオンラック機構44に付与し、タイロッド3a,3bを経て、転舵輪5L,5Rを転舵する。ピニオンラック機構44の近傍には角度センサ43が配置されており、転舵輪5L,5Rの転舵角θtを検出する。転舵輪5L,5Rの転舵角θtに代えて、例えば、転舵用モータ41のモータ角、あるいは、ラックの位置等を検出し、当該検出値を用いる態様であっても良い。以下、角度センサ43によって検出される転舵角θtを、「実転舵角θt_act」とも称する。なお、転舵装置40は、上述した態様に限定されず、例えば、ボールねじ式や電子制御油圧方式等の構造を有する態様であっても良い。
【0052】
制御装置50は、反力装置30及び転舵装置40を協調制御するために、両装置から出力される操舵角θhや転舵角θt等の情報に加え、車速センサ10で検出される車速Vs等を基に、反力用モータ31を駆動制御するための電圧制御指令値Vref1及び転舵用モータ41を駆動制御するための電圧制御指令値Vref2を生成する。
【0053】
制御装置50には、バッテリ12から電力が供給されると共に、イグニションキー11を経てイグニションキー信号が入力される。また、制御装置50には、車両の各種情報を授受するCAN(Controller Area Network)20が接続されており、車速VsはCAN20から受信することも可能である。更に、制御装置50には、CAN20以外の通信、アナログ/ディジタル信号、電波等を授受する非CAN21も接続可能である。
【0054】
具体的に、制御装置50は、例えば、車両に搭載されるECU(Electronic Control Unit)である。ECUは、主としてCPU(MCU、MPU等も含む)で構成される。図3は、ECUのハードウェア構成を示す模式図である。反力装置30及び転舵装置40の協調制御は、主としてECUのCPU内部においてプログラムで実行される。
【0055】
図4は、本開示に係る制御装置の基本的な制御ブロック構成の一例を示す図である。図4において、反力装置30は、反力用モータ31及び上述した構成に加え、PWM(パルス幅変調)制御部37、インバータ38、及びモータ電流検出器39を含む。また、転舵装置40は、転舵用モータ41及び上述した構成に加え、PWM制御部47、インバータ48、及びモータ電流検出器49を含む。制御装置50は、反力装置30の制御を行う反力制御系60、及び、転舵装置40の制御を行う転舵制御系70の各制御ブロックを実現する。反力制御系60と転舵制御系70とが協調して、反力装置30及び転舵装置40を制御する。
【0056】
なお、制御装置50の構成要素の一部又は全部をハードウェアで実現しても良い。制御装置50は、データやプログラム等を格納するために、例えば、図3に示すように、RAM(ランダムアクセスメモリ)やROM(リードオンリーメモリ)等を含む態様であっても良い。また、制御装置50がPWM制御部37、インバータ38、モータ電流検出器39、PWM制御部47、インバータ48、及びモータ電流検出器49を具備した態様であっても良い。
【0057】
図4に示すように、制御装置50は、各制御ブロックとして、操舵トルク目標値生成部200、操舵トルク制御部400、電流制御部500、転舵角目標値生成部600、転舵角制御部700、及び電流制御部800を備えている。操舵トルク目標値生成部200、操舵トルク制御部400、及び電流制御部500は、反力制御系60を構成する制御ブロックである。転舵角目標値生成部600、転舵角制御部700、及び電流制御部800は、転舵制御系70を構成する制御ブロックである。
【0058】
反力制御系60は、トルクセンサ34によって検出される実操舵トルクTh_actが反力装置30の操舵トルクの目標値である操舵トルク目標値Th_refに追従するような制御を行う。
【0059】
操舵トルク目標値生成部200は、操舵トルク目標値Th_refを生成する。
【0060】
操舵トルク制御部400は、反力用モータ31に供給する電流の制御目標値であるモータ電流指令値Ih_refを生成する。本開示において、操舵トルク制御部400では、操舵トルク目標値Th_refと実操舵トルクTh_actとの偏差Th_errがゼロに近づくようなモータ電流指令値Ih_refを演算する。あるいは、操舵トルク制御部400は、トーションバー2Aの捩れ角Δθが入力され、当該捩れ角Δθがゼロに近づくようなモータ電流指令値Ih_refを演算する態様であっても良い。
【0061】
電流制御部500は、反力用モータ31の電流制御を行う。電流制御部500は、操舵トルク制御部400から出力されるモータ電流指令値Ih_refとモータ電流検出器39で検出される反力用モータ31の実電流値(モータ電流値)Ih_actとの偏差Ih_errがゼロに近づくような電圧制御指令値Vh_refを演算する。
【0062】
反力装置30では、電圧制御指令値Vh_refに基づいて、PWM制御部37及びインバータ38を介して反力用モータ31が駆動制御される。
【0063】
転舵制御系70は、角度センサ43によって検出される実転舵角θt_actが転舵角目標値θt_refに追従するような制御を行う。
【0064】
転舵角目標値生成部600は、操舵角θhに基づき転舵角目標値θt_refを生成する。
【0065】
転舵角制御部700は、転舵用モータ41に供給する電流の制御目標値であるモータ電流指令値It_refを生成する。転舵角制御部700では、転舵角目標値θt_refと実転舵角θt_actとの偏差θt_errがゼロに近づくようなモータ電流指令値It_refを演算する。
【0066】
電流制御部800は、転舵用モータ41の電流制御を行う。電流制御部800は、転舵角制御部700から出力されるモータ電流指令値It_refとモータ電流検出器49で検出される転舵用モータ41の実電流値(モータ電流値)It_actとの偏差It_errがゼロに近づくような電圧制御指令値Vt_refを演算する。
【0067】
転舵装置40では、電圧制御指令値Vt_refに基づいて、PWM制御部47及びインバータ48を介して転舵用モータ41が駆動制御される。
【0068】
本実施形態において、操舵トルク制御部400、電流制御部500、転舵角目標値生成部600、転舵角制御部700、及び電流制御部800は、それぞれ反力制御系60又は転舵制御系70における各制御を実現可能な構成であれば良く、これら各制御ブロックの構成により限定されない。
【0069】
ここで、本開示における操舵方向について説明する。図5は、本開示における操舵方向を説明するための領域図である。図5において、横軸は操舵角を示し、縦軸は舵角速度を示している。
【0070】
図5に示す領域A((θh,ωh)=(+,+))では、ハンドル1が右方向に切られた状態で(θh>0)、さらに右方向に切り増されている(ωh>0)ことを示している(以下、「右切り増し操舵」とも称する)。図5に示す領域B((θh,ωh)=(+,-))では、ハンドル1が右方向に切られた状態で(θh>0)、左方向に切り戻されている(ωh<0)ことを示している(以下、「左切り戻し操舵」とも称する)。図5に示す領域C((θh,ωh)=(-,-))では、ハンドル1が左方向に切られた状態で(θh<0)、さらに左方向に切り増されている(ωh<0)ことを示している(以下、「左切り増し操舵」とも称する)。図5に示す領域D((θh,ωh)=(-,+))では、ハンドル1が左方向に切られた状態で(θh<0)、右方向に切り戻されている(ωh>0)ことを示している(以下、「右切り戻し操舵」とも称する)。また、図5において、操舵角θh軸上(ωh=0)では、ハンドル1が切り増しも切り戻しも行われていない((θh,ωh)=(θh,0))ことを示し、舵角速度ωh軸上(θh=0)では、ハンドル1がセンター位置にある((θh,ωh)=(0,ωh))ことを示している。
【0071】
図6Aから図6Fは、図4に示す制御ブロック構成において、ハンドルをセンター位置から等速で右切り増し操舵した場合の各パラメータの時間変化を示す概念図である。図6Aは、ハンドル角θ1の時間変化を示している。図6Bは、コラム角θ2の時間変化を示している。図6Cは、操舵トルク目標値Th_refの時間変化を示している。図6Dは、実操舵トルクTh_actの時間変化を示している。図6Eは、操舵トルク目標値Th_refと実操舵トルクTh_actとのトルク差分ΔThの時間変化を示している。図6Fは、モータ電流指令値Ih_refの時間変化を示している。図6Aから図6Fでは、ハンドル1をセンター位置から等速で右切り増し操舵し、時刻t_stにおいて操舵がストッパ35によって制限された例を示している。ここでは、図6Bに示すように、コラム角θ2が制限されたθ2_endが操舵終端位置とされる。
【0072】
時刻t_stまでの期間では、操舵トルク目標値Th_refに対して実操舵トルクTh_actが略一定のトルク差分ΔTで追従する(図6E参照)。このとき、トルク差分ΔT(=Th_ref-Th_act)は正値となる。また、モータ電流指令値Ih_refは正値であり、このとき、ハンドル1には、コラム軸2を介して右切り増し操舵に抗する操舵反力が生成される。
【0073】
時刻t_stにおいてコラム角θ2が操舵終端位置θ2_endに到達してさらにハンドル1が操舵された場合、トーションバー2Aの捩れ角Δθ(=θ1-θ2_end)が増大し、トルクセンサ34から出力される実操舵トルクTh_actが増大する(図6D参照)。その結果として、操舵トルク目標値Th_refに対して実操舵トルクTh_actが乖離し、操舵トルク目標値Th_refと実操舵トルクTh_actとのトルク差分ΔThが正値から負値となる(図6E参照)。
【0074】
このとき、モータ電流指令値Ih_refの時間変化量(ΔIh_ref)が負値に転じ(図6F参照)、時刻t_re以降においてモータ電流指令値Ih_refが負値となると、右切り増し操舵に抗する操舵反力が失われ、逆に、右切り増し操舵を補助する操舵力(操舵アシスト力)が反力用モータ31によって付与されることとなる。
【0075】
このように、図4に示す制御ブロック構成では、操舵終端において切り増し操舵を継続した場合、切り増し操舵を補助する操舵力(操舵アシスト力)が反力用モータ31によって付与される。これにより、操舵終端に設けられたストッパ35を含む操舵機構に対して過大な機械的負荷が掛かる可能性がある。また、ストッパ35によってコラム軸2の下端側の回転(コラム角θ2)が阻害された状態で、反力用モータ31に過大な電流が流れ、反力用モータ31や制御装置50を構成するECUの消費電力の増加を招く可能性がある。
【0076】
以下、操舵終端における機械的負荷や消費電力の増大を抑制するための具体的な構成及び動作について説明する。
【0077】
(実施形態1)
図7は、実施形態1に係る操舵トルク制御部の構成例を示すブロック図である。図7に示すように、本実施形態に係る操舵トルク制御部400は、減算部410、PID制御部420、出力制限部430、及び電流補償ゲイン演算部440を備える。
【0078】
操舵トルク制御部400には、操舵トルク目標値生成部200から出力される操舵トルク目標値Th_ref、及びトルクセンサ34によって検出される実操舵トルクTh_actが入力される。
【0079】
減算部410は、操舵トルク目標値Th_refと実操舵トルクTh_actとの偏差Th_errを算出する。PID制御部420は、減算部410の演算結果である操舵トルク目標値Th_refと実操舵トルクTh_actとの偏差Th_errがゼロに近づくようにPID制御を行い、電流指令値Iref_aを出力する。本開示において、電流指令値Iref_aは「第1電流指令値」に対応する。
【0080】
電流補償ゲイン演算部440には、実操舵トルクTh_actが入力される。電流補償ゲイン演算部440は、実操舵トルクTh_actに基づき、操舵終端における機械的負荷や消費電力の増大を抑制するための電流補償ゲインGiを導出する。
【0081】
出力制限部430は、電流補償ゲイン演算部440によって導出された電流補償ゲインGiに基づき、PID制御部420から出力された電流指令値Iref_aの出力制限を行う構成部である。本実施形態において、出力制限部430は、例えば乗算器である。出力制限部430は、PID制御部420から出力された電流指令値Iref_aに対し、電流補償ゲイン演算部440によって導出された電流補償ゲインGiを乗じてモータ電流指令値Ih_refを算出する。これにより、操舵終端における機械的負荷や消費電力の増大が抑制されたモータ電流指令値Ih_refが得られる。本開示において、モータ電流指令値Ih_refは「第2電流指令値」に対応する。
【0082】
図8は、実施形態1に係る電流補償ゲイン演算部の構成例を示すブロック図である。電流補償ゲイン演算部440は、第1判定部450、第2判定部460、及びゲイン制御部470を含む。
【0083】
第1判定部450は、実操舵トルクTh_actに基づき、第1操舵終端判定フラグ値Fr1を導出する。
【0084】
具体的に、本実施形態において、第1判定部450には、実操舵トルクTh_actの絶対値|Th_act|(以下、単に「実操舵トルク|Th_act|」とも称する)に対する第1トルク閾値Tth1が設定されている。第1トルク閾値Tth1は、例えば、制御装置50を構成するECUのROMに記憶されている。
【0085】
第1判定部450は、実操舵トルク|Th_act|が第1トルク閾値Tth1未満(|Th_act|<Tth1)であるとき、第1操舵終端判定フラグ値Fr1を「0」(Fr1=0)とし、実操舵トルク|Th_act|が第1トルク閾値Tth1以上(Tth1≦|Th_act|)であるとき、第1操舵終端判定フラグ値Fr1を「1」(Fr1=0)とする。第1トルク閾値Tth1は、例えば、7~10[Nm]に設定することができる。
【0086】
第2判定部460は、実操舵トルクTh_actに基づき、第2操舵終端判定フラグ値Fr2を導出する。
【0087】
具体的に、本実施形態において、第2判定部460には、実操舵トルク|Th_act|に対する第2トルク閾値Tth2が設定されている。第2トルク閾値Tth2は、第1判定部450に設定された第1トルク閾値Tth1よりも小さい値に設定される。第2トルク閾値Tth2は、例えば、制御装置50を構成するECUのROMに記憶されている。
【0088】
第2判定部460は、実操舵トルク|Th_act|が第2トルク閾値Tth2未満(|Th_act|<Tth2)であるとき、第2操舵終端判定フラグ値Fr2を「1」(Fr2=1)とし、実操舵トルク|Th_act|が第2トルク閾値Tth2以上(Tth2≦|Th_act|)であるとき、第2操舵終端判定フラグ値Fr2を「0」(Fr2=0)とする。第2トルク閾値Tth2は、例えば、4~5[Nm]に設定することができる。
【0089】
ゲイン制御部470は、第1判定部450によって導出された第1操舵終端判定フラグ値Fr1及び第2判定部460によって導出された第2操舵終端判定フラグ値Fr2に基づき、電流補償ゲインGiを導出する。
【0090】
具体的に、ゲイン制御部470は、第1判定部450によって導出された第1操舵終端判定フラグ値Fr1が「0」から「1」に変化したとき、操舵終端であるものと判定し、電流補償ゲインGiを第1ゲイン(ここでは、「1」)から第1ゲインよりも小さい第2ゲイン(ここでは、「0」)に遷移させる。また、ゲイン制御部470は、第2判定部460によって導出された第2操舵終端判定フラグ値Fr2が「0」から「1」に変化したとき、操舵終端を逸したと判定し、電流補償ゲインGiを第2ゲイン(ここでは、「0」)から第1ゲイン(ここでは、「1」)に遷移させる。
【0091】
以下、実施形態1に係る電流補償ゲイン演算部440の具体的な動作例について、図9を参照して詳細に説明する。図9は、実施形態1に係る電流補償ゲイン演算部の具体的な動作例を示す概念図である。
【0092】
図9では、操舵終端において切り増し操舵から切り戻し操舵に遷移した場合の実操舵トルク|Th_act|、第1操舵終端判定フラグ値Fr1、第2操舵終端判定フラグ値Fr2、及び電流補償ゲインGiの時間変化を例示している。
【0093】
切り増し操舵を行っている時刻t1において実操舵トルク|Th_act|が第2トルク閾値Tth2以上(Tth2≦|Th_act|<Tth1)となると、第2操舵終端判定フラグ値Fr2が「1」から「0」に変化する。
【0094】
続く時刻t2において実操舵トルク|Th_act|が第1トルク閾値Tth1以上(Tth1≦|Th_act|)となると、第1操舵終端判定フラグ値Fr1が「0」から「1」に変化する。このとき、ゲイン制御部470は、ハンドル位置が操舵終端であるものと判定し、電流補償ゲインGiを「1」から「0」に遷移させる。これにより、後段の出力制限部430(図7参照)において、PID制御部420から出力された電流指令値Iref_aに対し、電流補償ゲイン演算部440によって導出された電流補償ゲインGi「0」が乗じられ、モータ電流指令値Ih_refが「0」となる。
【0095】
時刻t2の後、操舵状態が切り増し操舵から切り戻し操舵に遷移する。切り戻し操舵を行っている時刻t3において実操舵トルク|Th_act|が第1トルク閾値Tth1未満(Tth2≦|Th_act|<Tth1)となると、第1操舵終端判定フラグ値Fr1が「1」から「0」に変化する。
【0096】
続く時刻t4において実操舵トルク|Th_act|が第2トルク閾値Tth2未満(|Th_act|<Tth2)となると、第2操舵終端判定フラグ値Fr2が「0」から「1」に変化する。このとき、ゲイン制御部470は、操舵終端を逸したと判定し、電流補償ゲインGiを「0」から「1」に遷移させる。これにより、後段の出力制限部430(図7参照)において、PID制御部420から出力された電流指令値Iref_aに対し、電流補償ゲイン演算部440によって導出された電流補償ゲインGi「1」が乗じられ、モータ電流指令値Ih_refとして電流指令値Iref_aが出力される。
【0097】
すなわち、本実施形態では、実操舵トルクTh_actをパラメータとして、切り増し操舵時において、実操舵トルク|Th_act|が第1トルク閾値Tth1以上(Tth1≦|Th_act|)となってから、切り戻し操舵に遷移した後、実操舵トルク|Th_act|が第1トルク閾値Tth1よりも小さい第2トルク閾値Tth2未満(|Th_act|<Tth2)となるまで、ハンドル位置が操舵終端であるものとして、モータ電流指令値Ih_refを0[A]に制限する。これにより、操舵終端においてストッパ35を含む操舵機構に対して掛かる機械的負荷を軽減することができる。また、操舵終端において反力用モータ31に流れる電流を制限することができ、反力用モータ31や制御装置50を構成するECUの消費電力の増加を抑制することができる。
【0098】
ここで、比較例として、実操舵トルク|Th_act|に対するトルク閾値が1つである場合、実操舵トルク|Th_act|がトルク閾値付近であるとき、モータ電流指令値Ih_refが0[A]と電流指令値Iref_aとの間で発振する場合がある。本実施形態では、切り増し操舵において実操舵トルク|Th_act|が第1トルク閾値Tth1以上(Tth1≦|Th_act|)となってから、切り戻し操舵に遷移した後、実操舵トルク|Th_act|が第1トルク閾値Tth1よりも小さい第2トルク閾値Tth2未満(|Th_act|<Tth2)となるまで、ハンドル位置が操舵終端であるものとして、モータ電流指令値Ih_refを制限する。これにより、操舵終端においてモータ電流指令値Ih_refが発振することを防ぐことができる。
【0099】
図10は、実施形態1に係る電流補償ゲイン演算部の具体的な動作例の第1変形例を示す概念図である。
【0100】
図10に示す第1変形例では、操舵終端において切り増し操舵と切り戻し操舵とを繰り返した場合の実操舵トルク|Th_act|、第1操舵終端判定フラグ値Fr1、第2操舵終端判定フラグ値Fr2、及び電流補償ゲインGiの時間変化を例示している。
【0101】
図10に示す第1変形例において、ゲイン制御部470は、実操舵トルク|Th_act|が第1トルク閾値Tth1以上(Tth1≦|Th_act|)となり、第1操舵終端判定フラグ値Fr1が「1」を維持している期間が第1時間閾値tth1以上となった場合に、ハンドル位置が操舵終端であるものと判定し、電流補償ゲインGiを「1」から「0」に遷移させる。
【0102】
具体的には、図10に示すように、時刻t6において第1操舵終端判定フラグ値Fr1が「1」となり、第1時間閾値tth1経過後の時刻t7において、電流補償ゲインGiを「1」から「0」に遷移させる。第1時間閾値tth1は、例えば、0.5~1.0[sec]に設定することができる。
【0103】
また、図10に示す第1変形例において、ゲイン制御部470は、実操舵トルク|Th_act|が第2トルク閾値Tth2未満(|Th_act|<Tth2)となり、第2操舵終端判定フラグ値Fr2が「1」を維持している期間が第2時間閾値tth2以上となった場合に、操舵終端を逸したと判定し、電流補償ゲインGiを「0」から「1」に遷移させる。
【0104】
具体的には、図10に示すように、時刻t11において第2操舵終端判定フラグ値Fr2が「1」となり、第2時間閾値tth2経過後の時刻t12において、電流補償ゲインGiを「0」から「1」に遷移させる。第2時間閾値tth2は、例えば、0.1~0.2[sec]に設定することができる。
【0105】
これにより、操舵終端において切り増し操舵と切り戻し操舵とを繰り返した場合に、モータ電流指令値Ih_refが電流指令値Iref_aと0[A]との間で頻繁に切り替わることを防ぐことができる。
【0106】
なお、第1時間閾値tth1及び第2時間閾値tth2は、同一の値であっても良いし、それぞれ異なる値であっても良い。
【0107】
図11は、実施形態1に係る電流補償ゲイン演算部の具体的な動作例の第2変形例を示す概念図である。
【0108】
図11に示す第2変形例では、上述した第1変形例と同様に、操舵終端において切り増し操舵と切り戻し操舵とを繰り返した場合の実操舵トルク|Th_act|、第1操舵終端判定フラグ値Fr1、第2操舵終端判定フラグ値Fr2、及び電流補償ゲインGiの時間変化を例示している。
【0109】
図11に示す第2変形例において、ゲイン制御部470は、実操舵トルク|Th_act|が第1トルク閾値Tth1以上(Tth1≦|Th_act|)となり、第1操舵終端判定フラグ値Fr1が「1」を維持している期間が第1時間閾値tth1以上となった場合に、ハンドル位置が操舵終端であるものと判定し、所定の第1時間変化率で電流補償ゲインGiを「1」から「0」に単調減少させる。
【0110】
具体的には、図11に示すように、時刻t6において第1操舵終端判定フラグ値Fr1が「1」となり、第1時間閾値tth1経過後の時刻t7から所定の期間tl1が経過するまで、電流補償ゲインGiを「1」から「0」に単調減少させる。
【0111】
また、図11に示す第1変形例において、ゲイン制御部470は、実操舵トルク|Th_act|が第2トルク閾値Tth2未満(|Th_act|<Tth2)となり、第2操舵終端判定フラグ値Fr2が「1」を維持している期間が第2時間閾値tth2以上となった場合に、操舵終端を逸したと判定し、所定の第2時間変化率で電流補償ゲインGiを「0」から「1」に単調増加させる。
【0112】
具体的には、図11に示すように、時刻t11において第2操舵終端判定フラグ値Fr2が「1」となり、第2時間閾値tth2経過後の時刻t12から所定の期間tl2が経過するまで、電流補償ゲインGiを「0」から「1」に遷移させる。
【0113】
これにより、電流補償ゲインGiが第1ゲイン(ここでは、「1」)と第2ゲイン(ここでは、「0」)との間で切り替わる際のモータ電流指令値Ih_refの変化を緩やかにすることができる。
【0114】
なお、第1時間変化率及び第2時間変化率は、符号のみが反転した同一の値であっても良いし、それぞれ異なる値であっても良い。また、第1時間変化率及び第2時間変化率は、固定値であっても良いし、電流補償ゲインGiを単調減少あるいは単調増加させる間に変化する値であっても良い。
【0115】
(実施形態2)
図12は、実施形態2に係る操舵トルク制御部の構成例を示すブロック図である。図13は、実施形態2に係る電流補償ゲイン演算部の構成例を示すブロック図である。なお、上述した実施形態1と同一の機能を有する構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0116】
実施形態1では、ハンドル位置が操舵終端であることを判定するパラメータを実操舵トルクTh_actとしたが、本実施形態では、実操舵角θh_actをパラメータとして、操舵終端の判定を行う構成について説明する。
【0117】
操舵トルク制御部400aには、操舵トルク目標値生成部200から出力される操舵トルク目標値Th_ref、トルクセンサ34によって検出される実操舵トルクTh_actに加え、舵角センサ33によって検出される実操舵角θh_actが入力される。
【0118】
電流補償ゲイン演算部440aには、実操舵角θh_actが入力される。電流補償ゲイン演算部440aは、実操舵角θh_actに基づき、操舵終端における機械的負荷や消費電力の増大を抑制するための電流補償ゲインGiを導出する。
【0119】
第1判定部450aは、実操舵角θh_actに基づき、第1操舵終端判定フラグ値Fr1を導出する。
【0120】
具体的に、本実施形態において、第1判定部450aには、実操舵角θh_actの絶対値|θh_act|(以下、単に「実操舵角|θh_act|」とも称する)に対する第1操舵角閾値θth1が設定されている。第1操舵角閾値θth1は、例えば、制御装置50を構成するECUのROMに記憶されている。
【0121】
第1判定部450aは、実操舵角|θh_act|が第1操舵角閾値θth1未満(|θh_act|<θth1)であるとき、第1操舵終端判定フラグ値Fr1を「0」(Fr1=0)とし、実操舵角|θh_act|が第1操舵角閾値θth1以上(θth1≦|θh_act|)であるとき、第1操舵終端判定フラグ値Fr1を「1」(Fr1=0)とする。
【0122】
第2判定部460aは、実操舵角θh_actに基づき、第2操舵終端判定フラグ値Fr2を導出する。
【0123】
具体的に、本実施形態において、第2判定部460aには、実操舵角|θh_act|に対する第2操舵角閾値θth2が設定されている。第2操舵角閾値θth2は、第1判定部450aに設定された第1操舵角閾値θth1よりも小さい値に設定される。第2操舵角閾値θth2は、例えば、制御装置50を構成するECUのROMに記憶されている。
【0124】
第2判定部460aは、実操舵角|θh_act|が第2操舵角閾値θth2未満(|θh_act|<θth2)であるとき、第2操舵終端判定フラグ値Fr2を「1」(Fr2=1)とし、実操舵角|θh_act|が第2操舵角閾値θth2以上(θth2≦|θh_act|)であるとき、第2操舵終端判定フラグ値Fr2を「0」(Fr2=0)とする。
【0125】
以下、実施形態2に係る電流補償ゲイン演算部440aの具体的な動作例について、図14を参照して詳細に説明する。図14は、実施形態2に係る電流補償ゲイン演算部の具体的な動作例を示す概念図である。
【0126】
図14では、操舵終端において切り増し操舵から切り戻し操舵に遷移した場合の実操舵角|θh_act|、第1操舵終端判定フラグ値Fr1、第2操舵終端判定フラグ値Fr2、及び電流補償ゲインGiの時間変化を例示している。
【0127】
切り増し操舵を行っている時刻t1において実操舵角|θh_act|が第2操舵角閾値θth2以上(θth2≦|θh_act|<θth1)となると、第2操舵終端判定フラグ値Fr2が「1」から「0」に変化する。
【0128】
続く時刻t2において実操舵角|θh_act|が第1操舵角閾値θth1以上(θth1≦|θh_act|)となると、第1操舵終端判定フラグ値Fr1が「0」から「1」に変化する。このとき、ゲイン制御部470は、ハンドル位置が操舵終端であるものと判定し、電流補償ゲインGiを「1」から「0」に遷移させる。これにより、後段の出力制限部430(図12参照)において、PID制御部420から出力された電流指令値Iref_aに対し、電流補償ゲイン演算部440aによって導出された電流補償ゲインGi「0」が乗じられ、モータ電流指令値Ih_refが「0」となる。
【0129】
時刻t2の後、操舵状態が切り増し操舵から切り戻し操舵に遷移する。切り戻し操舵を行っている時刻t3において実操舵角|θh_act|が第1操舵角閾値θth1未満(θth2≦|θh_act|<θth1)となると、第1操舵終端判定フラグ値Fr1が「1」から「0」に変化する。
【0130】
続く時刻t4において実操舵角|θh_act|が第2操舵角閾値θth2未満(|θh_act|<θth2)となると、第2操舵終端判定フラグ値Fr2が「0」から「1」に変化する。このとき、ゲイン制御部470は、操舵終端を逸したと判定し、電流補償ゲインGiを「0」から「1」に遷移させる。これにより、後段の出力制限部430(図12参照)において、PID制御部420から出力された電流指令値Iref_aに対し、電流補償ゲイン演算部440aによって導出された電流補償ゲインGi「1」が乗じられ、モータ電流指令値Ih_refとして電流指令値Iref_aが出力される。
【0131】
すなわち、本実施形態では、実操舵角θh_actをパラメータとして、切り増し操舵時において、実操舵角|θh_act|が第1操舵角閾値θth1以上(θth1≦|θh_act|)となってから、切り戻し操舵に遷移した後、実操舵角|θh_act|が第1操舵角閾値θth1よりも小さい第2操舵角閾値θth2未満(|θh_act|<θth2)となるまで、ハンドル位置が操舵終端であるものとして、モータ電流指令値Ih_refを0[A]に制限する。これにより、操舵終端においてストッパ35を含む操舵機構に対して掛かる機械的負荷を軽減することができる。また、操舵終端において反力用モータ31に流れる電流を制限することができ、反力用モータ31や制御装置50を構成するECUの消費電力の増加を抑制することができる。
【0132】
なお、本実施形態では省略するが、実施形態2に係る電流補償ゲイン演算部の具体的な動作例として、実施形態1の第1変形例、又は、実施形態1の第2変形例と同様の態様としても良い。
【0133】
すなわち、例えば、ゲイン制御部470は、実操舵角|θh_act|が第1操舵角閾値θth1以上(θth1≦|θh_act|)となり、第1操舵終端判定フラグ値Fr1が「1」を維持している期間が第1時間閾値tth1以上となった場合に、ハンドル位置が操舵終端であるものと判定して電流補償ゲインGiを「1」から「0」に遷移させ、実操舵角|θh_act|が第2操舵角閾値θth2未満(|θh_act|<θth2)となり、第2操舵終端判定フラグ値Fr2が「1」を維持している期間が第2時間閾値tth2以上となった場合に、操舵終端を逸したと判定して電流補償ゲインGiを「0」から「1」に遷移させる態様であっても良い。
【0134】
また、例えば、ゲイン制御部470は、実操舵角|θh_act|が第1操舵角閾値θth1以上(θth1≦|θh_act|)となり、第1操舵終端判定フラグ値Fr1が「1」を維持している期間が第1時間閾値tth1以上となった場合に、ハンドル位置が操舵終端であるものと判定して所定の第1時間変化率で電流補償ゲインGiを「1」から「0」に単調減少させ、実操舵角|θh_act|が第2操舵角閾値θth2未満(|θh_act|<θth2)となり、第2操舵終端判定フラグ値Fr2が「1」を維持している期間が第2時間閾値tth2以上となった場合に、操舵終端を逸したと判定して所定の第2時間変化率で電流補償ゲインGiを「0」から「1」に単調増加させる態様であっても良い。
【0135】
(実施形態3)
図15は、実施形態3に係る操舵トルク制御部の構成例を示すブロック図である。図16は、実施形態3に係る電流補償ゲイン演算部の構成例を示すブロック図である。なお、上述した各実施形態と同一の機能を有する構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0136】
実施形態3では、ハンドル位置が操舵終端であることを判定するパラメータとして、実操舵トルクTh_act及び実操舵角θh_actを用いる構成について説明する。
【0137】
操舵トルク制御部400bには、実施形態2と同様に、操舵トルク目標値生成部200から出力される操舵トルク目標値Th_ref、トルクセンサ34によって検出される実操舵トルクTh_act、及び舵角センサ33によって検出される実操舵角θh_actが入力される。
【0138】
電流補償ゲイン演算部440bには、実操舵トルクTh_act及び実操舵角θh_actが入力される。電流補償ゲイン演算部440bは、実操舵トルクTh_act及び実操舵角θh_actに基づき、操舵終端における機械的負荷や消費電力の増大を抑制するための電流補償ゲインGiを導出する。
【0139】
第1判定部450bは、実操舵トルクTh_act及び実操舵角θh_actに基づき、第1操舵終端判定フラグ値Fr1を導出する。
【0140】
具体的に、本実施形態において、第1判定部450bには、実操舵トルク|Th_act|に対する第1トルク閾値Tth1、及び、実操舵角|θh_act|に対する第1操舵角閾値θth1が設定されている。第1トルク閾値Tth1及び第1操舵角閾値θth1は、例えば、制御装置50を構成するECUのROMに記憶されている。
【0141】
第1判定部450bは、実操舵トルク|Th_act|が第1トルク閾値Tth1未満(|Th_act|<Tth1)であるか、又は、実操舵角|θh_act|が第1操舵角閾値θth1未満(|θh_act|<θth1)であるとき、第1操舵終端判定フラグ値Fr1を「0」(Fr1=0)とし、実操舵トルク|Th_act|が第1トルク閾値Tth1以上(Tth1≦|Th_act|)であり、かつ、実操舵角|θh_act|が第1操舵角閾値θth1以上(θth1≦|θh_act|)であるとき、第1操舵終端判定フラグ値Fr1を「1」(Fr1=0)とする。
【0142】
第2判定部460bは、実操舵トルクTh_act及び実操舵角θh_actに基づき、第2操舵終端判定フラグ値Fr2を導出する。
【0143】
具体的に、本実施形態において、第2判定部460bには、実操舵トルク|Th_act|に対する第2トルク閾値Tth2、及び、実操舵角|θh_act|に対する第2操舵角閾値θth2が設定されている。第2トルク閾値Tth2は、第1判定部450bに設定された第1トルク閾値Tth1よりも小さい値に設定される。第2操舵角閾値θth2は、第1判定部450bに設定された第1操舵角閾値θth1よりも小さい値に設定される。第2トルク閾値Tth2及び第2操舵角閾値θth2は、例えば、制御装置50を構成するECUのROMに記憶されている。
【0144】
第2判定部460bは、実操舵トルク|Th_act|が第2トルク閾値Tth2未満(|Th_act|<Tth2)であるか、又は、実操舵角|θh_act|が第2操舵角閾値θth2未満(|θh_act|<θth2)であるとき、第2操舵終端判定フラグ値Fr2を「1」(Fr2=1)とし、実操舵トルク|Th_act|が第2トルク閾値Tth2以上であり、かつ、実操舵角|θh_act|が第2操舵角閾値θth2以上(θth2≦|θh_act|)であるとき、第2操舵終端判定フラグ値Fr2を「0」(Fr2=0)とする。
【0145】
以下、実施形態3に係る電流補償ゲイン演算部440bの具体的な動作例について、図17A図17B図17C図17Dを参照して詳細に説明する。図17Aは、実施形態3に係る電流補償ゲイン演算部の具体的な動作例を示す概念図である。図17Bは、実施形態3に係る電流補償ゲイン演算部の具体的な動作例の第1変形例を示す概念図である。図17Cは、実施形態3に係る電流補償ゲイン演算部の具体的な動作例の第2変形例を示す概念図である。図17Dは、実施形態3に係る電流補償ゲイン演算部の具体的な動作例の第3変形例を示す概念図である。
【0146】
図17A図17B図17C図17Dでは、操舵終端において切り増し操舵から切り戻し操舵に遷移した場合の実操舵トルク|Th_act|、実操舵角|θh_act|、第1操舵終端判定フラグ値Fr1、第2操舵終端判定フラグ値Fr2、及び電流補償ゲインGiの時間変化を例示している。
【0147】
切り増し操舵を行っている時刻t2において、実操舵トルク|Th_act|が第1トルク閾値Tth1以上(Tth1≦|Th_act|)となり、かつ、実操舵角|θh_act|が第1操舵角閾値θth1以上(θth1≦|θh_act|)となると、第1操舵終端判定フラグ値Fr1が「0」から「1」に変化する。このとき、ゲイン制御部470は、ハンドル位置が操舵終端であるものと判定し、電流補償ゲインGiを「1」から「0」に遷移させる。これにより、後段の出力制限部430(図15参照)において、PID制御部420から出力された電流指令値Iref_aに対し、電流補償ゲイン演算部440bによって導出された電流補償ゲインGi「0」が乗じられ、モータ電流指令値Ih_refが「0」となる。
【0148】
時刻t2の後、操舵状態が切り増し操舵から切り戻し操舵に遷移し、切り戻し操舵を行っている時刻t4において、実操舵トルク|Th_act|が第2トルク閾値Tth2未満(|Th_act|<Tth2)となるか、あるいは、実操舵角|θh_act|が第2操舵角閾値θth2未満(|θh_act|<θth2)となると、第2操舵終端判定フラグ値Fr2が「0」から「1」に変化する。このとき、ゲイン制御部470は、操舵終端を逸したと判定し、電流補償ゲインGiを「0」から「1」に遷移させる。これにより、後段の出力制限部430(図15参照)において、PID制御部420から出力された電流指令値Iref_aに対し、電流補償ゲイン演算部440bによって導出された電流補償ゲインGi「1」が乗じられ、モータ電流指令値Ih_refとして電流指令値Iref_aが出力される。
【0149】
すなわち、本実施形態では、実操舵トルクTh_act及び実操舵角θh_actをパラメータとして、切り増し操舵時において、実操舵トルク|Th_act|が第1トルク閾値Tth1以上(Tth1≦|Th_act|)となり、かつ、実操舵角|θh_act|が第1操舵角閾値θth1以上(θth1≦|θh_act|)となってから、切り戻し操舵に遷移した後、実操舵トルク|Th_act|が第2トルク閾値Tth2未満(|Th_act|<Tth2)となるか、あるいは、実操舵角|θh_act|が第1操舵角閾値θth1よりも小さい第2操舵角閾値θth2未満(|θh_act|<θth2)となるまで、ハンドル位置が操舵終端であるものとして、モータ電流指令値Ih_refを0[A]に制限する。これにより、操舵終端においてストッパ35を含む操舵機構に対して掛かる機械的負荷を軽減することができる。また、操舵終端において反力用モータ31に流れる電流を制限することができ、反力用モータ31や制御装置50を構成するECUの消費電力の増加を抑制することができる。
【0150】
なお、本実施形態では省略するが、実施形態3に係る電流補償ゲイン演算部の具体的な動作例として、実施形態1の第1変形例、又は、実施形態1の第2変形例と同様の態様としても良い。
【0151】
すなわち、例えば、ゲイン制御部470は、実操舵トルク|Th_act|が第1トルク閾値Tth1以上(Tth1≦|Th_act|)となり、かつ、実操舵角|θh_act|が第1操舵角閾値θth1以上(θth1≦|θh_act|)となり、第1操舵終端判定フラグ値Fr1が「1」を維持している期間が第1時間閾値tth1以上となった場合に、ハンドル位置が操舵終端であるものと判定して電流補償ゲインGiを「1」から「0」に遷移させ、実操舵トルク|Th_act|が第2トルク閾値Tth2未満(|Th_act|<Tth2)となるか、あるいは、実操舵角|θh_act|が第2操舵角閾値θth2未満(|θh_act|<θth2)となり、第2操舵終端判定フラグ値Fr2が「1」を維持している期間が第2時間閾値tth2以上となった場合に、操舵終端を逸したと判定して電流補償ゲインGiを「0」から「1」に遷移させる態様であっても良い。
【0152】
また、例えば、ゲイン制御部470は、実操舵トルク|Th_act|が第1トルク閾値Tth1以上(Tth1≦|Th_act|)となり、かつ、実操舵角|θh_act|が第1操舵角閾値θth1以上(θth1≦|θh_act|)となり、第1操舵終端判定フラグ値Fr1が「1」を維持している期間が第1時間閾値tth1以上となった場合に、ハンドル位置が操舵終端であるものと判定して所定の第1時間変化率で電流補償ゲインGiを「1」から「0」に単調減少させ、実操舵トルク|Th_act|が第2トルク閾値Tth2未満(|Th_act|<Tth2)となるか、あるいは、実操舵角|θh_act|が第2操舵角閾値θth2未満(|θh_act|<θth2)となり、第2操舵終端判定フラグ値Fr2が「1」を維持している期間が第2時間閾値tth2以上となった場合に、操舵終端を逸したと判定して所定の第2時間変化率で電流補償ゲインGiを「0」から「1」に単調増加させる態様であっても良い。
【0153】
(実施形態4)
図18は、実施形態4に係る操舵トルク制御部の構成例を示すブロック図である。図19は、実施形態4に係る電流補償ゲイン演算部の構成例を示すブロック図である。なお、上述した各実施形態と同一の機能を有する構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0154】
実施形態4では、ハンドル位置が操舵終端であることを判定するパラメータとして、実操舵角θh_act及び実操舵角速度ωh_actを用いる構成について説明する。
【0155】
操舵トルク制御部400cには、実施形態2及び実施形態3と同様に、操舵トルク目標値生成部200から出力される操舵トルク目標値Th_ref、トルクセンサ34によって検出される実操舵トルクTh_act、及び舵角センサ33によって検出される実操舵角θh_actが入力される。
【0156】
電流補償ゲイン演算部440cには、実操舵角θh_actが入力される。実操舵角θh_actは、電流補償ゲイン演算部440cの微分部480によって微分されて実操舵角速度ωh_actが導出される。電流補償ゲイン演算部440cは、実操舵角θh_act及び実操舵角速度ωh_actに基づき、操舵終端における機械的負荷や消費電力の増大を抑制するための電流補償ゲインGiを導出する。なお、実操舵角速度ωh_actは、実操舵角θh_actを微分して導出される態様に限定されない。
【0157】
第1判定部450cは、実操舵角θh_act及び実操舵角速度ωh_actに基づき、第1操舵終端判定フラグ値Fr1を導出する。
【0158】
具体的に、本実施形態において、第1判定部450cには、実操舵角|θh_act|に対する第1操舵角閾値θth1、及び、実操舵角速度ωh_actの絶対値|ωh_act|(以下、単に「実操舵角速度|ωh_act|」とも称する)に対する第1操舵角速度閾値ωth1が設定されている。第1操舵角閾値θth1及び第1操舵角速度閾値ωth1は、例えば、制御装置50を構成するECUのROMに記憶されている。
【0159】
第1判定部450cは、実操舵角|θh_act|が第1操舵角閾値θth1未満(|θh_act|<θth1)であるか、又は、実操舵角速度|ωh_act|が第1操舵角速度閾値ωth1よりも大きい(ωth<|ωh_act|)とき、第1操舵終端判定フラグ値Fr1を「0」(Fr1=0)とし、実操舵角|θh_act|が第1操舵角閾値θth1以上(θth1≦|θh_act|)であり、かつ、実操舵角速度|ωh_act|が第1操舵角速度閾値ωth1以下(|ωh_act|≦ωth1)であるとき、第1操舵終端判定フラグ値Fr1を「1」(Fr1=0)とする。
【0160】
第2判定部460cは、実操舵角θh_act及び実操舵角速度ωh_actに基づき、第2操舵終端判定フラグ値Fr2を導出する。
【0161】
具体的に、本実施形態において、第2判定部460cには、実操舵角|θh_act|に対する第2操舵角閾値θth2、及び、実操舵角速度|ωh_act|に対する第2操舵角速度閾値ωth2が設定されている。第2操舵角閾値θth2は、第1判定部450bに設定された第1操舵角閾値θth1よりも小さい値に設定される。第2操舵角速度閾値ωth2は、第1判定部450cに設定された第1操舵角速度閾値ωth1よりも大きい値に設定される。第2操舵角閾値θth2及び第2操舵角閾値θth2は、例えば、制御装置50を構成するECUのROMに記憶されている。
【0162】
第2判定部460cは、実操舵角|θh_act|が第2操舵角閾値θth2未満(|θh_act|<θth2)であるか、又は、実操舵角速度|ωh_act|が第2操舵角速度閾値ωth2よりも大きい(ωth2<|ωh_act|)とき、第2操舵終端判定フラグ値Fr2を「1」(Fr2=1)とし、実操舵角|θh_act|が第2操舵角閾値θth2以上(θth2≦|θh_act|)であり、かつ、実操舵角速度|ωh_act|が第2操舵角速度閾値ωth2以下(|ωh_act|≦ωth2)であるとき、第2操舵終端判定フラグ値Fr2を「0」(Fr2=0)とする。
【0163】
以下、実施形態4に係る電流補償ゲイン演算部440cの具体的な動作例について、図20A図20B図20C図20Dを参照して詳細に説明する。図20Aは、実施形態4に係る電流補償ゲイン演算部の具体的な動作例を示す概念図である。図20Bは、実施形態4に係る電流補償ゲイン演算部の具体的な動作例の第1変形例を示す概念図である。図20Cは、実施形態4に係る電流補償ゲイン演算部の具体的な動作例の第2変形例を示す概念図である。図20Dは、実施形態4に係る電流補償ゲイン演算部の具体的な動作例の第3変形例を示す概念図である。
【0164】
図20A図20B図20C図20Dでは、操舵終端において切り増し操舵から切り戻し操舵に遷移した場合の実操舵角|θh_act|、実操舵角速度|ωh_act|、第1操舵終端判定フラグ値Fr1、第2操舵終端判定フラグ値Fr2、及び電流補償ゲインGiの時間変化を例示している。
【0165】
切り増し操舵を行っている時刻t2において、実操舵角|θh_act|が第1操舵角閾値θth1以上(θth1≦|θh_act|)となり、かつ、実操舵角速度|ωh_act|が第1操舵角速度閾値ωth1以下(|ωh_act|≦ωth1)となると、第1操舵終端判定フラグ値Fr1が「0」から「1」に変化する。このとき、ゲイン制御部470は、ハンドル位置が操舵終端であるものと判定し、電流補償ゲインGiを「1」から「0」に遷移させる。これにより、後段の出力制限部430(図18参照)において、PID制御部420から出力された電流指令値Iref_aに対し、電流補償ゲイン演算部440cによって導出された電流補償ゲインGi「0」が乗じられ、モータ電流指令値Ih_refが「0」となる。
【0166】
時刻t2の後、操舵状態が切り増し操舵から切り戻し操舵に遷移し、切り戻し操舵を行っている時刻t4において、実操舵角|θh_act|が第2操舵角閾値θth2未満(|θh_act|<θth2)となるか、あるいは、実操舵角速度|ωh_act|が第2操舵角速度閾値ωth2よりも大きく(ωth2<|ωh_act|)なると、第2操舵終端判定フラグ値Fr2が「0」から「1」に変化する。このとき、ゲイン制御部470は、操舵終端を逸したと判定し、電流補償ゲインGiを「0」から「1」に遷移させる。これにより、後段の出力制限部430(図18参照)において、PID制御部420から出力された電流指令値Iref_aに対し、電流補償ゲイン演算部440cによって導出された電流補償ゲインGi「1」が乗じられ、モータ電流指令値Ih_refとして電流指令値Iref_aが出力される。
【0167】
すなわち、本実施形態では、実操舵角θh_act及び実操舵角速度ωh_actをパラメータとして、切り増し操舵時において、実操舵角|θh_act|が第1操舵角閾値θth1以上(θth1≦|θh_act|)となり、かつ、実操舵角速度|ωh_act|が第1操舵角速度閾値ωth1以下(|ωh_act|≦ωth1)となってから、切り戻し操舵に遷移した後、実操舵角|θh_act|が第1操舵角閾値θth1よりも小さい第2操舵角閾値θth2未満(|θh_act|<θth2)となるか、あるいは、実操舵角速度|ωh_act|が第2操舵角速度閾値ωth2よりも大きく(ωth2<|ωh_act|)なるまで、ハンドル位置が操舵終端であるものとして、モータ電流指令値Ih_refを0[A]に制限する。これにより、操舵終端においてストッパ35を含む操舵機構に対して掛かる機械的負荷を軽減することができる。また、操舵終端において反力用モータ31に流れる電流を制限することができ、反力用モータ31や制御装置50を構成するECUの消費電力の増加を抑制することができる。
【0168】
なお、本実施形態では省略するが、実施形態4に係る電流補償ゲイン演算部の具体的な動作例として、実施形態1の第1変形例、又は、実施形態1の第2変形例と同様の態様としても良い。
【0169】
すなわち、ゲイン制御部470は、実操舵角|θh_act|が第1操舵角閾値θth1以上(θth1≦|θh_act|)となり、かつ、実操舵角速度|ωh_act|が第1操舵角速度閾値ωth1以下(|ωh_act|≦ωth1)となり、第1操舵終端判定フラグ値Fr1が「1」を維持している期間が第1時間閾値tth1以上となった場合に、ハンドル位置が操舵終端であるものと判定して電流補償ゲインGiを「1」から「0」に遷移させ、実操舵角|θh_act|が第2操舵角閾値θth2未満(|θh_act|<θth2)となるか、あるいは、実操舵角速度|ωh_act|が第2操舵角速度閾値ωth2よりも大きく(ωth2<|ωh_act|)なり、第2操舵終端判定フラグ値Fr2が「1」を維持している期間が第2時間閾値tth2以上となった場合に、操舵終端を逸したと判定して電流補償ゲインGiを「0」から「1」に遷移させる態様であっても良い。
【0170】
また、例えば、ゲイン制御部470は、実操舵角|θh_act|が第1操舵角閾値θth1以上(θth1≦|θh_act|)となり、かつ、実操舵角速度|ωh_act|が第1操舵角速度閾値ωth1以下(|ωh_act|≦ωth1)となり、第1操舵終端判定フラグ値Fr1が「1」を維持している期間が第1時間閾値tth1以上となった場合に、ハンドル位置が操舵終端であるものと判定して所定の第1時間変化率で電流補償ゲインGiを「1」から「0」に単調減少させ、実操舵角|θh_act|が第2操舵角閾値θth2未満(|θh_act|<θth2)となるか、あるいは、実操舵角速度|ωh_act|が第2操舵角速度閾値ωth2よりも大きく(ωth2<|ωh_act|)なり、第2操舵終端判定フラグ値Fr2が「1」を維持している期間が第2時間閾値tth2以上となった場合に、操舵終端を逸したと判定して所定の第2時間変化率で電流補償ゲインGiを「0」から「1」に単調増加させる態様であっても良い。
【0171】
(実施形態5)
図21は、実施形態5に係る出力制限部の構成例を示すブロック図である。上述した各実施形態では、出力制限部430が乗算器である例について説明したが、図21に示す態様の構成とすることで、操舵終端におけるモータ電流指令値Ih_refの急激な変動を抑制することができる。
【0172】
具体的に、実施形態5に係る出力制限部430aは、符号抽出部431、絶対値演算部432、乗算部433、電流指令値下限値設定部434、比較部435、及び乗算部436を含む。
【0173】
符号抽出部431は、PID制御部420から出力された電流指令値Iref_aの符号を抽出する。具体的には、例えば、電流指令値Iref_aの値を、電流指令値Iref_aの絶対値で除算する。これにより、符号抽出部431は、電流指令値Iref_aの符号が「+」の場合には「1」を出力し、電流指令値Iref_aの符号が「-」の場合には「-1」を出力する。具体的に、符号抽出部431は、例えば電流指令値Iref_aの符号関数Sgn(Iref_a)を生成する。
【0174】
絶対値演算部432は、電流指令値Iref_aの絶対値処理を行う。乗算部433には、絶対値演算部432において絶対値処理された電流指令値|Iref_a|が入力される。乗算部433は、電流指令値|Iref_a|に対して電流補償ゲインGiを乗じた電流指令値|Iref_a|×Giを出力する。本開示において、電流指令値|Iref_a|×Giは「第3電流指令値」に対応する。
【0175】
電流指令値下限値設定部434には、電流指令値|Iref_a|に対する下限値Iref_lower_limが設定されている。電流指令値下限値Iref_lower_limは、例えば、制御装置50を構成するECUのROMに記憶されている。
【0176】
比較部435は、電流指令値|Iref_a|×Giと電流指令値下限値Iref_lower_limとの比較演算処理を行う。具体的に、比較部435は、下記(1)式を満たすとき、電流指令値|Iref_a|×Giを出力し、下記(2)式を満たすとき、電流指令値下限値Iref_lower_limを出力する。
【0177】
|Iref_a|×Gi>Iref_lower_lim・・・(1)
【0178】
|Iref_a|×Gi≦Iref_lower_lim・・・(2)
【0179】
乗算部436は、比較部435の出力値に対して電流指令値Iref_aの符号関数Sgn(Iref_a)を乗じて、モータ電流指令値Ih_refとして出力する。
【0180】
上述した実施形態5に係る出力制限部430aの構成により、電流補償ゲインGiに依らず、モータ電流指令値|Ih_ref|の下限値が電流指令値下限値Iref_lower_limに制限される。これにより、操舵終端におけるモータ電流指令値Ih_refの急激な変動を抑制することができる。
【0181】
(実施形態6)
図22は、実施形態6に係る出力制限部の構成例を示すブロック図である。なお、上述した実施形態5と同一の機能を有する構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0182】
実施形態5では、モータ電流指令値|Ih_ref|の下限値を電流指令値下限値Iref_lower_limに制限する態様につて説明したが、本実施形態では、さらに、電流補償ゲインGiに応じてモータ電流指令値|Ih_ref|の上限値を制限する態様について説明する。
【0183】
具体的に、実施形態6に係る出力制限部430bは、符号抽出部431、絶対値演算部432、電流指令値下限値設定部434、乗算部436、電流指令値上限値生成部437、第1比較部438、及び第2比較部439を含む。
【0184】
電流指令値上限値生成部437には、電流補償ゲインGi及び電流指令値下限値Iref_lower_limが入力される。図23は、実施形態6に係る電流指令値上限値生成部の内部構成の一例を示すブロック図である。
【0185】
また、電流指令値上限値生成部437には、電流指令値|Iref_a|に対する最大値Iref_lim_maxが設定されている。電流指令値最大値Iref_lim_maxは、例えば、制御装置50を構成するECUのROMに記憶されている。本開示において、電流指令値下限値Iref_lower_limは、例えば、電流指令値最大値Iref_lim_maxの10[%]程度とされる。
【0186】
電流指令値上限値生成部437は、電流補償ゲインGiに応じた電流指令値上限値Iref_upper_limを生成する。電流指令値上限値生成部437は、図23に示す構成において、電流指令値上限値Iref_upper_limは、下記(3)式で示される。
【0187】
Iref_upper_lim=(Iref_lim_max-Iref_lower_lim)×Gi+Iref_lower_lim・・・(3)
【0188】
電流指令値上限値生成部437は、上記(3)式を用いて、電流指令値上限値Iref_upper_limを算出する態様であっても良いし、上記(3)式によって得られる入出力特性をマップとして保持し、当該マップに基づき電流指令値上限値Iref_upper_limを導出する態様であっても良い。図24は、実施形態6に係る電流指令値上限値生成部の入出力特性の一例を示す線図である。
【0189】
第1比較部438は、電流指令値|Iref_a|と電流指令値上限値Iref_upper_limとの比較演算処理を行う。具体的に、第1比較部438は、下記(4)式を満たすとき、電流指令値|Iref_a|を出力し、下記(5)式を満たすとき、電流指令値上限値Iref_upper_limを出力する。
【0190】
|Iref_a|≦Iref_upper_lim・・・(4)
【0191】
|Iref_a|>Iref_upper_lim・・・(5)
【0192】
第2比較部439は、第1比較部438の出力値Comp_aと電流指令値下限値Iref_lower_limとの比較演算処理を行う。具体的に、比較部435は、下記(6)式を満たすとき、第1比較部438の出力値Comp_aを出力し、下記(7)式を満たすとき、電流指令値下限値Iref_lower_limを出力する。本開示において、第1比較部438の出力値Comp_aは「第3電流指令値」に対応する。
【0193】
Comp_a>Iref_lower_lim・・・(6)
【0194】
Comp_a≦Iref_lower_lim・・・(7)
【0195】
乗算部436は、第2比較部439の出力値に対して電流指令値Iref_aの符号関数符号関数Sgn(Iref_a)を乗じて、モータ電流指令値Ih_refとして出力する。
【0196】
上述した実施形態6に係る出力制限部430bの構成により、モータ電流指令値|Ih_ref|の上限値が電流補償ゲインGiに応じた電流指令値上限値Iref_upper_limに制限される。これにより、ノイズ等による不要なモータ電流指令値Ih_refの変動を抑制することができる。
【0197】
なお、上述した実施形態で使用した図は、本開示に関して定性的な説明を行うための概念図であり、これらに限定されるものではない。また、上述の実施形態は本開示の好適な実施の一例ではあるが、これに限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0198】
1 ハンドル
2 コラム軸
3a,3b タイロッド
5L,5R 転舵輪
10 車速センサ
11 イグニションキー
12 バッテリ
30 反力装置
31 反力用モータ
32 減速機構
33 舵角センサ
34 トルクセンサ
35 ストッパ(回転制限機構)
40 転舵装置
41 転舵用モータ
42 減速機構
43 角度センサ
44 ピニオンラック機構
50 制御装置
60 反力制御系
70 転舵制御系
200 操舵トルク目標値生成部
400,400a,400b,400c 操舵トルク制御部
410 減算部
420 PID制御部
430,430a,430b 出力制限部
431 符号抽出部
432 絶対値演算部
433 乗算部
434 電流指令値下限値設定部
435 比較部
436 乗算部
437 電流指令値上限値生成部
438 第1比較部
439 第2比較部
440,440a,440b,440c 電流補償ゲイン演算部
450,450a,450b,450c 第1判定部
460,460a,460b,460c 第2判定部
470 ゲイン制御部
500 電流制御部
600 転舵角目標値生成部
700 転舵角制御部
800 電流制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17A
図17B
図17C
図17D
図18
図19
図20A
図20B
図20C
図20D
図21
図22
図23
図24