(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085983
(43)【公開日】2023-06-21
(54)【発明の名称】自動車試験装置
(51)【国際特許分類】
G01M 17/007 20060101AFI20230614BHJP
【FI】
G01M17/007 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200336
(22)【出願日】2021-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000145806
【氏名又は名称】株式会社小野測器
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】越後 賢太郎
(57)【要約】
【課題】実タイヤを装着することなく、実タイヤ装着時の状態を再現可能な自動車試験装置を提供する。
【解決手段】試験対象である自動車1の車軸2と、車軸2に対して回転力を与える駆動吸収源3と、駆動吸収源3と車軸2を連結する連結機構4と、連結機構4を支持する軸受5と、軸受5を支持する軸受支持部6とを有する。軸受支持部6に設けられた昇降板9と、昇降板9の下方に所定の間隔を保って設けられた基板8と、基板8と昇降板9の間に設けられ、軸受5に対する弾力を調整する弾力調整機構10とを備えている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験対象である自動車の車軸と、
前記車軸に対して回転力を与える駆動吸収源と、
前記駆動吸収源と前記車軸を連結する連結機構と、
前記連結機構を支持する軸受と、
前記軸受を支持する軸受支持部と、
前記軸受支持部に設けられた昇降板と、
前記昇降板の下方に所定の間隔を保って設けられた基板と、
前記基板と前記昇降板の間に設けられ、前記軸受に対する弾力を調整する弾力調整機構と、
を備えていることを特徴とする自動車試験装置。
【請求項2】
前記基板と前記昇降板の間に設けられ、前記所定の間隔を調整する高さ調整機構と、
を備えていることを特徴とする請求項1に記載の自動車試験装置。
【請求項3】
前記基板と前記昇降板の間に、前記高さ調整機構が複数設けられ、それぞれの前記高さ調整機構が個別に前記基板と前記昇降板の高さを調整可能になっていることを特徴とする請求項2に記載の自動車試験装置。
【請求項4】
前記基板と前記昇降板の間に、前記弾力調整機構が複数設けられ、それぞれの前記弾力調整機構が個別に前記基板と前記昇降板の高さを調整可能になっていることを特徴とする請求項1または請求項3に記載の自動車試験装置。
【請求項5】
前記昇降板が前記軸受支持部に対して別部材で設けられ、
前記弾力調整機構は、前記昇降板と前記軸受支持部の間に設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の自動車試験装置。
【請求項6】
前記軸受支持部は、前記基板と水平に配置される水平部と、
前記水平部に対して垂直に配置され、前記軸受を支持する垂直部を有し、
前記水平部が前記昇降板を構成していることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の自動車試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路上走行時の状態を再現し、自動車の各種性能を評価する自動車試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の研究開発、設計、品質管理などには、自動車試験装置が用いられている。近年の技術進歩に伴い、自動車業界においては、自動車の高性能化、高機能化が進んでおり、これに対応するように、自動車試験装置においても計測精度の向上が要求されている。
【0003】
自動車試験装置は、その試験内容に応じて様々な種類がある。その一つとして、測定対象となる車軸に模擬車輪を実装して自動車の試験を行うことが知られている。この種の自動車試験装置は、自動車を外部のテストコースなどで実際に走行させることなく、試験室内で各種性能を評価可能であるため、試験にかかる時間や費用を抑制でき利便性が高い。
【0004】
例えば、特許文献1では、自動車の車輪のハブに、タイヤ付ホイールに代えて取り付けられる模擬車輪が開示されている。この模擬車輪の外周部には、実タイヤ、すなわち現実のタイヤが装着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許5285005号公報
【特許文献2】特開2017-110956号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、試験室内の条件によっては、実タイヤが装着された模擬車輪を試験対象となる自動車に実装することが困難な場合があり、実タイヤを装着しない状態での自動車試験装置が要求される。
【0007】
他方、特許文献2の第3実施形態には、模擬車輪から実タイヤだけを取り外した状態の中間軸受状態の自動車試験装置が開示されている。しかし、中間軸受状態の自動車試験装置では、実タイヤの支持剛性、サスペンションやステアリングから成り立つキャンバー角やトー角などからなる複合的に織りなす角度を再現することが難しく、路上走行時の状態に関する適正な試験結果を得ることができない。
【0008】
本発明は、実タイヤを装着することなく、実タイヤ装着時の状態を再現可能な自動車試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の自動車試験装置は、次のような構成を有することを特徴とする。
(1)試験対象である自動車の車軸。
(2)前記車軸に対して回転力を与える駆動吸収源。
(3)前記駆動吸収源と前記車軸を連結する連結機構。
(4)前記連結機構を支持する軸受。
(5)前記軸受を支持する軸受支持部。
(6)前記軸受支持部に設けられた昇降板。
(7)前記昇降板の下方に所定の間隔を保って設けられた基板。
(8)前記基板と前記昇降板の間に設けられ、前記軸受に対する弾力を調整する弾力調整機構。
【0010】
本発明において、下記(1)から(5)のような構成を採用できる。
(1)前記基板と前記昇降板の間に設けられ、前記所定の間隔を調整する高さ調整機構と、を備えている。
【0011】
(2)前記基板と前記昇降板の間に、前記高さ調整機構が複数設けられ、それぞれの前記高さ調整機構が個別に前記基板と前記昇降板の高さを調整可能になっている。
【0012】
(3)前記基板と前記昇降板の間に、前記弾力調整機構が複数設けられ、それぞれの前記弾力調整機構が個別に前記基板と前記昇降板の高さを調整可能になっている。
【0013】
(4)前記昇降板が前記軸受支持部に対して別部材で設けられ、前記弾力調整機構は、前記昇降板と前記軸受支持部の間に設けられている。
【0014】
(5)前記軸受支持部は、前記基板と水平に配置される水平部と、前記水平部に対して垂直に配置され、前記軸受を支持する垂直部を有し、前記水平部が前記昇降板を構成している。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、実タイヤを装着した模擬車輪を実装することなく、実タイヤを装着した模擬車輪装着時と同じような条件下を再現可能となり、実タイヤを装着した模擬車輪を実装困難な状況において、適正な試験結果を得られる。また、弾力調整機構を使用することで実タイヤ相当のバネ剛性を確保できる。さらに、実タイヤを取り換えることなく、軸受に対する弾力を適宜調整容易なため、様々な条件下における試験が実現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態の使用状態を示す全体構成図で、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【
図2】第1実施形態の使用状態を示す斜視図である。
【
図3】第1実施形態の弾力調整機構及び高さ調整機構を示す斜視図である。
【
図4】第1実施形態の弾力調整機構及び高さ調整機構を示す断面図である。
【
図5】第1実施形態の弾力調整機構及び高さ調整機構を示す分解斜視図である。
【
図6】第2実施形態の弾力調整機構及び高さ調整機構を示す断面図である。
【
図7】他の実施形態の弾力調整機構及び高さ調整機構を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
以下、第1実施形態の自動車試験装置100(以下、試験装置100という)について説明する。
図1(a)(b)に示すように、試験装置100は、試験対象である自動車1の車軸2と、車軸2に対して回転力を与える駆動吸収源3と、駆動吸収源3と車軸2を連結する連結機構4と、連結機構4を支持する軸受5と、軸受5を支持する軸受支持部6を有する。駆動吸収源3は、例えば、自動車1の外部に設けられたダイナモメータである。
図2に示すように、連結機構4は、例えば、軸受5の内部に図示しないベアリングで支持された回転軸が設けられ、軸受5から車体側に突出した回転軸の端部4aにフランジとボルトを利用して車軸2が連結され、軸受5から駆動吸収源3側に突出した回転軸の端部4bにフランジとボルトを利用して駆動吸収源3の出力軸3aが連結されたものである。軸受支持部6は、水平部61と垂直部62を有する略L字型の部材で、その垂直部62に軸受5が固定されている。
【0018】
なお、連結機構4としては、前記の構成に限定されるものではなく、車軸2と駆動吸収源3とを連結するものであれば、軸受5の端部が駆動吸収源3近くにまで延長され、その端部と駆動吸収源3とを継手などで連結するものでもよい。また、
図1(b)では、試験装置100は、自動車1の前輪に設けられているが、試験目的に応じて、全車輪に設けてもよいし、後輪のみに設けてもよい。
【0019】
(1)軸受支持部6
図2に示すように、試験装置100の設置個所の床面には架台7が配置され、架台7の上部に基板8が固定され、この基板8の上方に所定の間隔を設けて昇降板9が配置されている。昇降板9の上方には、軸受支持部6の水平部61が昇降板9と平行に配置されている。例えば、本実施形態では、
図5の分解斜視図に示すように、基板8、昇降板9及び軸受支持部6の水平部61のそれぞれに、複数の貫通穴が対向して設けられており、これらの貫通穴を利用して、弾力調整機構10及び高さ調整機構11が設けられている。
【0020】
(2)弾力調整機構10
軸受支持部6の水平部61及び昇降板9における複数の貫通穴のうち、四隅及び中心の合計5か所については、弾力調整機構10が設けられている。
図3から
図5に示すように、本実施形態において、各弾力調整機構10は、コイルスプリング101とその圧縮量を調整する調整ボルト102を有する。軸受支持部6の水平部61に設けられた貫通穴のそれぞれには上端ナット103aが固定され、これら上端ナット103aの内部に下方の昇降板9に向かって伸びる調整ボルト102の上端がねじ込まれている。昇降板9の下面に突出している調整ボルト102の外周には、コイルスプリング101が同軸に嵌め込まれている。軸受支持部6の水平部61の貫通穴の下面には、下面に凹部を有するフランジ104が固定され、このフランジ104の凹部内にコイルスプリングの上端が嵌め込まれている。
【0021】
一方、軸受支持部6の水平部61の5か所の貫通穴に対向して、昇降板9にも貫通穴が設けられ、その貫通穴の内側に昇降板9の下面に大きく突出した筒状のケーシング105が固定されている。コイルスプリング101の下部と調整ボルト102の下部は筒状のケーシング105の内部に挿入されている。
【0022】
筒状のケーシング105は上部にフランジ105aを備え、このフランジ105aが昇降板9の貫通穴の上面縁に結合することにより昇降板9に対する下方への移動が阻止されている。ケーシング105の下端にはコイルスプリング101の底部を係止する底板105bが設けられ、底板105bの中央に調整ボルト102の下端が貫通する貫通穴が設けられている。調整ボルト102の下端はケーシング105の底板105bの下面から突出し、その突出部分に下端ナット103bがねじ込まれている。
【0023】
(3)高さ調整機構11
基板8と昇降板9には、両者の間隔を調整する高さ調整機構11を設ける。高さ調整機構11としては、ねじなどを使用できる。高さ調整機構11としては、昇降板9の昇降位置が昇降板9の各部において異なるように、すなわち昇降板9が必ずしも基板8と平行ではなく前後左右斜め方向のいずれに対しても傾くことができるようなものを使用する。
【0024】
本実施形態において、昇降板9の4辺の中央に位置する複数の貫通穴のそれぞれにねじを用いた高さ調整機構11が設けられている。それぞれの高さ調整機構11は皿を伏せたような形状の支持部111と、下端が支持部111に可動的に取り付けられたアジャストボルト112を備えている。アジャストボルト112のボルト部は傾斜及び回転が可能な構造となっている。すなわち、アジャストボルト112は支持部111に対して傾斜可能及び回転可能に取り付けられている。円形をした支持部111の周囲は基板8の表面に固定されたリング状の受け部81内に嵌め込まれている。
【0025】
昇降板9の4辺の中央に位置する複数の貫通穴にはそれぞれナット113が固定されている。
図4及び
図5に示すように、各ナット113は、外周部にフランジ113aを備え、フランジ113aを昇降板9の下面に固定することにより、昇降板9に対して固定されている。各ナット113の内側に各高さ調整機構11のアジャストボルト112の上部先端がねじ込まれている。アジャストボルト112における皿状の支持部111の近傍には、スパナなどの工具によってアジャストボルト112を回転させるための係合部112aが設けられている。係合部112aをスパナ等で回転させることにより、アジャストボルト112は支持部111及びナット113に対して回転し、支持部111とナット113間の距離が調整可能になっている。
【0026】
なお、高さ調整機構11の4ヶ所の調整量を変えることでアジャストボルト112が支持部111に対して傾斜可能である。結果、基板8に対して昇降板9が傾斜した状態となった場合に、アジャストボルト112と基板8との角度が4ヶ所の高さ調整機構11において異なることを想定したものである。
【0027】
[1-2.作用]
本実施形態の試験装置100は、
図1に示したように自動車1を同じ場所に留めて行う試験である台上試験で使用される。測定対象となる自動車1の車軸2からタイヤを取り外し、車軸2を試験装置100の軸受支持部6によって支持されている連結機構4の端部4aに固定する。また、連結機構4の他端に、駆動吸収源3の出力軸3aに連結する。
【0028】
次に、弾力調整機構10の調整ボルト102の圧縮量を調整して、コイルスプリング101の弾力を実タイヤ相当に調整する。すなわち、コイルスプリング101は、その上端がフランジ104を介して水平部61の下面近傍に位置し、下端がケーシング105の底板105bを介して基板8の上面近傍に位置している。一方、調整ボルト102の上端は水平部61の上面に突出し、その突出部分には上端ナット103aが装着され、調整ボルト102の下端はケーシング105の底板105bから突出し、その突出部分に下端ナット103bが装着されている。そのため、調整ボルト102の上端ナット103a又は下端ナット103bを締め付け或いは緩めると、上端ナット103a又は下端ナット103b間の距離、すなわち、水平部61と昇降板9の距離が伸縮し、両者の間に配設されたコイルスプリング101の圧縮度合いが変化し、昇降板9から水平部61に加わるコイルスプリング101の弾性が変化する。その結果、水平部61と一体に固定された垂直部62を介して軸受5に加わる弾性が変化するので、軸受5によって支持された連結機構4を実タイヤに応じた適切な弾性によって支持できる。なお、このように上端ナット103a又は下端ナット103bの双方の締め付け或いは緩めることによりコイルスプリング101の弾性を変化させてもよいし、予め調整ボルト102の長さを調整した上で、上端ナット103a又は下端ナット103bの一方を固定させておき、他方を締め付け或いは緩めることによりコイルスプリング101の弾性を変化させてもよい。
【0029】
実タイヤ相当のキャンバー角やトー角などからなる複合的に織りなす角度を再現するには、次のように高さ調整機構11を調整し軸受支持部6の角度を変化させることで対応できる。なお、高さ調整機構11による角度の調整は、前述の弾力調整の前後いずれに行ってもよい。まず、高さ調整機構11に設けられたアジャストボルト112の係合部112aをスパナ等で回転させることにより、アジャストボルト112は支持部111及びナット113に対して回転し、支持部111とナット113間の距離、即ち、基板8と昇降板9の間隔を調整する。この場合、アジャストボルト112の下部は支持部111によって傾き可能に支持されているため、基板8と昇降板9の角度が変化しても、アジャストボルト112はナット113に対して回転可能となる。
【0030】
このように基板8に対する昇降板9及び水平部61の角度が変化すると、水平部61と一体化されている垂直部62及びそれに支持された軸受5の角度が変化する。例えば、キャンバー角をポジティブキャンバー(タイヤの上部が外側へ倒れている場合)に設定したい場合には、自動車側にあるアジャストボルト112が長くなるように、又は、対向して配置されているアジャストボルト112が短くなるように、係合部112aをスパナ等で回転させて、基板8に対する昇降板9の傾斜角度を調整する。このように、4本のアジャストボルト112の何れかについてその長さを変化させることにより、昇降板9及び水平部61の角度をいずれの方向に対しても、自在に調整可能となる。
【0031】
[1-3.効果]
前記のような構成並びに作用を有する本実施形態の効果は、次のとおりである。
【0032】
(1)弾力調整機構10を備えているため、実タイヤを装着することなく、実タイヤ装着時と同じような条件下を再現可能となり、実タイヤを装着した模擬車輪を実装困難な状況においても、適正な試験結果を得ることができる。
【0033】
(2)弾力調整機構10を調整することにより、実タイヤ相当のバネ剛性を確保できる。また、タイヤを取り換えることなく、軸受5に対する弾力を適宜調整容易となり、様々な条件下における試験が再現可能となる。
【0034】
(3)複数のアジャストボルト112を備えた高さ調整機構11により、昇降板9すなわち軸受支持部6の角度調整が可能となり、試験対象自動車の実タイヤの支持剛性やサスペンションやステアリングに対応したキャンバー角やトー角などからなる種々の角度を再現可能となる。
【0035】
(4)弾力調整機構10及び高さ調整機構11を昇降板9と軸受支持部6の間に設けるため、高さ調整、弾力調整、角度調整をそれぞれ調整でき、実タイヤを実装したときと同じような条件下をより再現可能となる。
【0036】
[2.第2実施形態]
第2実施形態は、弾力調整機構10を構成する調整ボルト102により、弾力調整だけでなく、高さ調整と実タイヤ相当のキャンバー角やトー角などからなる複合的に織りなす角度調整を実施するもので、
図6に示すように、軸受支持部6の水平部61が第1実施形態の昇降板9を兼用している、あるいは、昇降板9に対して、直接軸受支持部6の垂直部62が固定されているとも言えるものである。
【0037】
第2実施形態において、基板8に設けられた貫通穴82内には、調整ボルト102の下部がスライド自在に挿入されている。貫通穴82の内径は調整ボルト102の外径に比較して大きく、両者の間には隙間が形成されており、調整ボルト102が基板8に対して傾斜した場合であっても基板8と調整ボルト102は接触しない。調整ボルト102の下端は、基板8の下面に突出しており、その突出部分に球面座金106を挟んで下端ナット103bがねじ込まれている。球面座金106は、椀型の凹部を持つ固定側の座金と、固定側の座金の凹部内に嵌め込まれる球面状の凸部を有する回動側の座金との2部材から構成される。回動側の座金は、下端ナット103bに密着して下端ナット103b及び調整ボルト102と共に移動し、調整ボルト102及び下端ナット103bの角度が変化すると、回動側の座金が固定側の座金の中で滑りながら角度が変わるため、固定部材である基板8に対する調整ボルト102及び下端ナット103bの角度が自由に変化できる。コイルスプリング101の下端は基板8の上面に当接しており、コイルスプリング101の位置決め用として、貫通穴82の縁に凹部83が形成され、その凹部83内にコイルスプリング101の下端が嵌め込まれ、コイルスプリング101の下方及び左右方向への移動を阻止している。
【0038】
昇降板9に設けられた貫通穴91の内側には、高さ調整機構11を構成する外スリーブ114が回転可能に挿入され、外スリーブ114の内側に内スリーブ115がねじ込まれている。外スリーブ114は、その下端部に外側に広がったフランジ114aを備え、フランジ114aの上面を貫通穴91の下縁に当接させた状態で、昇降板9の下面に当接している。外スリーブ114の内面には雌ねじが設けられており、この雌ねじが内スリーブ115の外周面に設けられた雄ねじに噛み合うことで、外スリーブ114が回転しながら内スリーブ115に対して昇降する。外スリーブ114の上端には、外スリーブ114を回転させるための工具を係合させるための係合部114bが設けられている。また、外スリーブ114の上端には、内スリーブ115の外周にねじ込まれた緩み止めナット114cが設けられている。
【0039】
内スリーブ115の中心部には軸方向に伸びるスライド孔115aが設けられ、このスライド孔115a内に調整ボルト102の上部が軸方向にスライド可能に挿入されている。調整ボルト102の上端は内スリーブ115の上面よりも上方に突出しておりその突出部分に上端ナット103aがねじ込まれている。上端ナット103aの下面は内スリーブ115の上面と当接し、調整ボルト102が内スリーブ115に対して下方に移動することを阻止している。内スリーブ115の下端面は外スリーブ114の中間部分に位置し、外スリーブ114の下端と内スリーブ115の下端面との間には、外スリーブ114で囲まれた空間部が形成され、この空間部内にコイルスプリング101の上端が挿入されている。内スリーブ115の下端面の周囲115bは縁状に立ち上がっており、その内側にコイルスプリング101の上部が嵌め込まれ、コイルスプリング101の上方及び左右方向への移動を阻止している。
【0040】
このような構成を有する第2実施形態において弾力調整を行うには、内スリーブ115を外スリーブ114の内側で回転させると、内スリーブ115が外スリーブ114に対して昇降する。この時、内スリーブ115の下面によってコイルスプリング101が圧縮あるいは伸長されることにより、基板8と内スリーブ115、すなわち、内スリーブ115が固定されている昇降板9と基板8との間のコイルスプリング101の弾力が増減される。このコイルスプリング101の弾力調整は、内スリーブ115の昇降板9に対する相対移動によって行われるため、基板8と昇降板9の位置関係は変化することなく、昇降板9の昇降位置を維持したまま弾力調整のみが可能である。弾力調整を行う場合、内スリーブ115と外スリーブ114との相対位置を変化させる作業に代えて、コイルスプリング101を異なるばね定数のものに交換することも可能である。
【0041】
軸受5の高さ調整を行うため、昇降板9を昇降させるには、昇降板9の貫通穴91内で外スリーブ114を回転させることで、外スリーブ114と内スリーブ115の相対位置を変化させ、外スリーブ114の上端からの内スリーブ115の突出量を増減する。例えば、外スリーブ114を回転させて内スリーブ115の突出量を大きくすると、内スリーブ115に対して調整ボルト102を介して連結された昇降板9と、外スリーブ114にフランジ114aを介して係合している昇降板9との距離が変化し、昇降板9が基板8に近づくように傾く。この際、調整ボルト102と下端ナット103bは球面座金106によって基板8の下面と接触しているので、昇降板9と共に調整ボルト102が傾斜しても、球面座金106が滑ってその動きを吸収でき、前述したように貫通穴82の内径は調整ボルト102の外径に比較して大きく、両者の間には隙間が形成されているため、調整ボルト102の傾斜時に基板8が妨げとなることはない。このように5本の調整ボルト102を支持している外スリーブ114のいくつかを選択して締め付け或いは緩めることにより、水平に支持されている基板8に対する昇降板9の角度を変化させ、それにより、昇降板9及び垂直部62に支持されている軸受5の角度を試験対象の自動車が有するキャンバー角やトー角に合わせて調整できる。
【0042】
このように第2実施形態では、調整ボルト102が弾力調整機構10の構造を兼用するとともに、軸受支持部6の水平部61が昇降板9を兼用しているため、少ない部品数で弾力調整機構と高さ調整機構を設けることが可能となり、コストダウンを図ることが可能となる。
【0043】
[3.他の実施形態]
変形例を含めた実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。以下は、その一例である。
【0044】
(1)
図7に示すように、高さ調整機構11は第1実施形態と同じ構成とし、弾力調整機構10については、5か所のゴムマウント201を用いることができる。この場合、弾力を調整するには、ゴムマウント201として異なる弾性を有する材料のものに交換したり、ゴムマウント201の高さや太さ、断面形状、或いはゴムマウント201の本数を異ならせるとよい。また、弾力調整機構10に用いる部材はゴムに限られず、樹脂のクッション材、空気ばね、板ばねなどの各種の弾性部材を利用できる。弾性部材に代えて、エアシリンダ、ガスダンパを利用することもできる。また、高さ調整機構11も、ねじに代えて、油圧シリンダ、ラックギヤ、パンタグラフなど高さ調整の出来る機構を利用できる。また、高さ調整機構11にコイルスプリングやエアシリンダなどを用いると、弾力も加わることになる。この場合、高さ調整機構11と弾力調整機構10とを必ずしも個別に設ける必要はなく、高さ調整機構11と弾力調整機構10を組み合わせたような機構にしても良い。また、弾力調整、高さ調整、角度調整をそれぞれ別の方式で個別に調整してもよい。
【0045】
(2)コイルスプリング101、調整ボルト102、支持部111、アジャストボルト112、貫通穴の数、配置位置、形状は、本実施形態に示したものに限定されない。
【0046】
(3)軸受支持部6の形状は、略L字型ものでなくても良く、U字型、長方形、上部開口型の箱型など適宜使用可能である。
【0047】
(4)弾力調整機構10及び又は高さ調整機構11の調整の方法は、手動に限定されず、自動で調整できるようにしてもよい。
【0048】
(5)上記実施形態では、傾きと高さ方向の調整を行うようにしたが、長孔や溝などを利用して、架台7に対して基板8を水平方向(前後左右方向など)に移動可能に支持し、両者の固定位置を調整ねじなどで変更することにより、水平方向の微調整を行う構成を組み合わせることも可能である。また、水平方向や斜め方向についても、ばね定数の異なるスプリングを介在させることで、任意の方向の弾力調整も可能である。
【符号の説明】
【0049】
1…自動車
2…車軸
3…駆動吸収源
3a…出力軸
4…連結機構
5…軸受
6…軸受支持部
61…水平部
62…垂直部
7…架台
8…基板
81…受け部
82…貫通穴
83…凹部
9…昇降板
91…貫通穴
10…弾力調整機構
101…コイルスプリング
102…調整ボルト
103a…上端ナット
103b…下端ナット
104…フランジ
105…ケーシング
105a…フランジ
105b…底板
106…球面座金
11…高さ調整機構
111…支持部
112…アジャストボルト
112a…係合部
113…ナット
114…外スリーブ
114a…フランジ
114b…係合部
114c…緩み止めナット
115…内スリーブ
115a…スライド孔
115b…周囲
201…ゴムマウント
100…自動車試験装置