(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085984
(43)【公開日】2023-06-21
(54)【発明の名称】鋼板およびめっき鋼板
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230614BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20230614BHJP
C22C 18/00 20060101ALI20230614BHJP
C23C 2/06 20060101ALI20230614BHJP
C23C 2/28 20060101ALI20230614BHJP
C23C 2/40 20060101ALI20230614BHJP
C21D 9/46 20060101ALN20230614BHJP
【FI】
C22C38/00 301T
C22C38/60
C22C18/00
C23C2/06
C23C2/28
C23C2/40
C21D9/46 H
C21D9/46 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200337
(22)【出願日】2021-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】松田 敬太郎
(72)【発明者】
【氏名】竹林 浩史
【テーマコード(参考)】
4K027
4K037
【Fターム(参考)】
4K027AA02
4K027AA05
4K027AA23
4K027AB05
4K027AB28
4K027AB44
4K027AC73
4K027AE23
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA06
4K037EA09
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4K037EA15
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA22
4K037EA23
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4K037EA27
4K037EA28
4K037EA31
4K037EA32
4K037EA33
4K037EA35
4K037EA36
4K037EB05
4K037EB08
4K037EB09
4K037FA02
4K037FA03
4K037FB07
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4K037FC04
4K037FC05
4K037FE01
4K037FE02
4K037FE06
4K037FG00
4K037FG01
4K037FH01
4K037FJ01
4K037FJ02
4K037FJ05
4K037FJ06
4K037GA00
4K037GA02
4K037GA05
4K037GA08
4K037JA06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】鋼板の板厚が薄い鋼板において、十分な強度及びめっき性または化成処理性を両立することが可能な鋼板、およびめっき鋼板を提供すること。
【解決手段】質量%で、C:0.05~0.30%、Si:0.01~2.50%、Mn:0.80~3.00%、Al:0.010~2.000%、V:0.015~0.300%等を含有し、残部がFe及び不純物からなり、Si+Al:1.50~2.50%、V/C:0.1以上である成分組成を有し、板厚が1.0~2.0mmであり、引張強度が950~1500MPaであり、内部酸化層と脱炭層を含み、前記鋼板の片面あたりの前記脱炭層の厚さ:A(μm)、前記鋼板のバルクC濃度:Cb(%)、前記鋼板の最表層のC濃度:C0(%)、及び前記鋼板の板厚:t(mm)とした場合に、0.01≦A/t≦0.10であり、Cb/2≦C0である、鋼板、及び、前記鋼板を用いためっき鋼板。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.15~0.30%、
Si:0.50~2.49%、
Mn:1.50~3.00%、
Al:0.010~2.000%、
V:0.015~0.300%、
P:0.1000%以下、
S:0.1000%以下、
N:0.0300%以下、
O:0.010%以下、
B:0~0.0100%、
Ti:0~0.100%、
Nb:0~0.100%、
Cr:0~1.00%、
Ni:0~0.10%、
Cu:0~0.10%、
Mo:0~0.50%、
W:0~0.50%、
Ca:0~0.100%、
Mg:0~0.100%、
Zr:0~0.100%、
Hf:0~0.100%、及び
REM:0~0.100%
を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
Si+Al:1.50~2.50%、V/C:0.1以上である成分組成を有し、
板厚が1.0~2.0mmである鋼板であり、
引張強度が950~1500MPaであり、
内部酸化層、及び脱炭層を含み、
前記鋼板の片面あたりの前記脱炭層の厚さ:A(μm)、前記鋼板のバルクC濃度:Cb(%)、前記鋼板の最表層のC濃度:C0(%)、及び前記鋼板の板厚:t(mm)とした場合に、
0.01≦A/t≦0.10であり、
Cb/2≦C0である、鋼板。
【請求項2】
請求項1に記載の鋼板上に亜鉛を含むめっき層を有する、めっき鋼板。
【請求項3】
前記めっき鋼板が合金化溶融亜鉛めっき鋼板であり、前記めっき層の成分組成が、Fe:5~15%、及びAl:0.01~0.5%を含み、残部がZn及び不純物からなり、前記めっき層の片面あたりの付着量が10~100g/m2である、請求項2に記載のめっき鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板およびめっき鋼板に関する。より具体的には、本発明は、めっき性または化成処理性に優れた薄手かつ高強度な鋼板およびめっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、家電製品、建材等の様々な分野で使用される鋼板について高強度化が進められている。例えば、自動車分野においては、燃費向上のために車体の軽量化を目的として、高強度鋼板の使用が増加している。このような高強度鋼板は、典型的に、鋼の強度を向上させるためにC、Si及びMn等の元素を含有する。
【0003】
このような部材は、自動車、家電製品、建材等の外装の大部分を占めることがあるため、高強度化だけでなく、優れためっき性または化成処理性を有することが要求される。
【0004】
特に屋外で使用されることが想定される、自動車用部材等に使用される場合は、高強度鋼板は、耐食性の向上等の観点から、溶融亜鉛めっき層又は合金化溶融亜鉛めっき層などのめっき層が表面上に形成される。一般的には、このようなめっき層を形成する前に、鋼板(典型的には冷延鋼板)は、鋼板の歪除去及び/又は加工性向上のために一定以上の温度で焼鈍されることが多い。
【0005】
これに関連して、鋼板成分としてC、Si及びMn等を含有し、主に自動車用部材として好適に使用される溶融亜鉛めっき鋼板又は合金化溶融亜鉛めっき鋼板並びにその製造方法が開示されている(例えば、特許文献1~4)。また、特許文献1~4には、特許文献1~4に記載の各めっき鋼板を製造するために、めっき工程の前に焼鈍工程を行う又は行ってもよいことが教示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2014/054141号
【特許文献2】特開2014-058741号公報
【特許文献3】国際公開第2013/157222号
【特許文献4】特開2010-065269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高強度鋼板に典型的に含まれる元素のうち酸素との親和性の強い元素であるSiやMnは、焼鈍工程において雰囲気中の酸素と結合し、鋼板の表面近傍に酸化物を含む層を形成することがある。このような層の形態としては、鋼板の外部(表面)にSiやMnを含む酸化物が膜として形成される形態(外部酸化)と、鋼板の内部(表層)に酸化物が形成される形態(内部酸化)とが挙げられる。
【0008】
外部酸化層が形成された鋼板の表面上に亜鉛を含むめっき層(「亜鉛系めっき層」と称することもあり、例えば溶融亜鉛めっき層又は合金化溶融亜鉛めっき層を含む)を形成する場合、酸化物が膜として鋼板の表面上に存在しているため、鋼成分(例えばFe)とめっき成分(例えばZn)との相互拡散が阻害される。その結果、鋼とめっき層との反応に悪影響を及ぼし、めっき性が不十分となる(例えば不めっき部が増加する)場合がある。そうすると、めっき鋼板の外観性状、防錆性能が悪化するおそれがある。また、これら酸化物は、めっき層を合金化する際のFe-Zn反応速度にも影響し、その結果、めっき性が不十分となる(例えば合金化ムラが発生する)場合がある。このような場合も、めっき鋼板の外観性状が悪化するおそれがある。よって、めっき性を向上させて良好な外観性状のめっき鋼板を得る観点からは、外部酸化層が形成された鋼板よりも、酸化物が内部に存在する内部酸化層が形成された鋼板の方が好ましい。
【0009】
一方、内部酸化層が形成されるような焼鈍条件では、内部酸化層が形成されるだけでなく、鋼板の表面近傍で脱炭という現象が発生する。脱炭とは、鋼板の表面近傍の炭素が焼鈍雰囲気中の酸素と結合してCO2となって系外へ放出されることをいい、炭素が不足する領域は脱炭層と称される。鋼中の炭素は当該鋼の強度に寄与する元素であるため、脱炭層が厚くなると鋼板表面近傍の強度が低下する。このような脱炭層の存在による鋼板表面の強度低下は、亜鉛系めっき鋼板の板厚が厚い場合には、その影響度は比較的小さいため特に問題とはならない。しかし、板厚が薄い亜鉛系めっき鋼板の場合、この脱炭による強度低下(典型的には、引張強度の低下や疲労特性の低下)、への影響は無視できないものとなる。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑み、鋼板の板厚が薄い鋼板において、十分な強度及びめっき性または化成処理性を両立することが可能な鋼板、およびめっき鋼板を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋼板の板厚が1.0~2.0mmの鋼板において、鋼板表面の脱炭層の厚さと鋼板の板厚との比、及び、脱炭層の特定の位置におけるC濃度と鋼板のバルクC濃度との比を厳密に制御することで、高強度化と高いめっき性または化成処理性の両方を達成することができることを見出した。
【0012】
本発明は、上記知見を基になされたものであり、その主旨は以下のとおりである。
(1)
質量%で、
C:0.15~0.30%、
Si:0.50~2.49%、
Mn:1.50~3.00%、
Al:0.010~2.000%、
V:0.015~0.300%、
P:0.1000%以下、
S:0.1000%以下、
N:0.0300%以下、
O:0.010%以下、
B:0~0.0100%、
Ti:0~0.100%、
Nb:0~0.100%、
Cr:0~1.00%、
Ni:0~0.10%、
Cu:0~0.10%、
Mo:0~0.50%、
W:0~0.50%、
Ca:0~0.100%、
Mg:0~0.100%、
Zr:0~0.100%、
Hf:0~0.100%、及び
REM:0~0.100%
を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
Si+Al:1.50~2.50%、V/C:0.1以上である成分組成を有し、
板厚が1.0~2.0mmである鋼板であり、
引張強度が950~1500MPaであり、
内部酸化層、及び脱炭層を含み、
前記鋼板の片面あたりの前記脱炭層の厚さ:A(μm)、前記鋼板のバルクC濃度:Cb(%)、前記鋼板の最表層のC濃度:C0(%)、及び前記鋼板の板厚:t(mm)とした場合に、
0.01≦A/t≦0.10であり、
Cb/2≦C0である、鋼板。
(2)(1)に記載の鋼板上に亜鉛を含むめっき層を有する、めっき鋼板。
(3)
前記めっき鋼板が合金化溶融亜鉛めっき鋼板であり、前記めっき層の成分組成が、Fe:5~15%、及びAl:0.01~0.5%を含み、残部がZn及び不純物からなり、前記めっき層の片面あたりの付着量が10~100g/m2である、(2)に記載のめっき鋼板。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、板厚が1.0~2.0mmの鋼板において、十分な強度及びめっき性または化成処理性を両立することが可能な鋼板を提供することができ、外観性状に優れた薄手かつ高強度なめっき鋼板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】V添加の有無による、脱炭層の成長挙動を模式的に説明する図である。
【
図2】V添加の有無による、鋼板の表面近傍でのCプロファイルを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、1.0~2.0mmの板厚を有する鋼板において、高強度化と高いめっき性または化成処理性の両方を達成するために様々な検討を行った結果、鋼にC、Mn、Si、Al、及びVを所定量以上添加し、さらに、鋼板表面の内部酸化層と脱炭層を有し、脱炭層の厚さと鋼板の板厚との比、及び脱炭層内のC濃度を厳密に制御することが有効であることを見出した。より具体的には、本発明者らは、鋼板の片面あたりの脱炭層の厚さ:A(μm)、鋼板のバルクC濃度:Cb(%)、鋼板の最表層のC濃度:C0(%)、及び鋼板の板厚t(μm)とした場合に、A/tを0.01~0.10の範囲にすること、及び脱炭層の最表層におけるC濃度C0をCb/2以上にすることが、めっき性または化成処理性及び強度の確保のために重要であることを見出した。
【0016】
以下、本発明に係る鋼板について詳しく説明する。
[鋼板]
(成分組成)
本発明における鋼板に含まれる成分組成について説明する。元素の含有量に関する「%」は、特に断りがない限り、「質量%」を意味する。成分組成における数値範囲において、「~」を用いて表される数値範囲は、特に指定しない限り、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0017】
(C:0.15~0.30%)
C(炭素)は、亜鉛系めっき鋼板の強度を確保する上で重要な元素である。C含有量が不足すると、十分な強度を確保することができないおそれがある。したがって、C含有量は0.15%以上、好ましくは0.17%以上、より好ましくは0.18%以上、さらに好ましくは0.20%以上である。一方、C含有量が過剰であると、強度が過剰に高くなり、溶接性や加工性が低下するおそれがある。したがって、C含有量は0.30%以下、好ましくは0.25%以下、より好ましくは0.20%以下である。
【0018】
(Si:0.01~2.49%)
Si(ケイ素)は、鋼板の強度を向上させるのに有効な元素である。また、Siは焼鈍中に酸素と結合して内部酸化物を形成する元素の1つである。その一方で、Siはめっき性、合金化速度へ影響を及ぼす元素でもある。Si含有量が不足すると、内部酸化が十分生成できないおそれがある。したがって、Si含有量は0.01%以上、好ましくは0.03%以上又は0.05%以上、より好ましくは0.10%以上又は0.30%以上である。一方、Si含有量が過剰であると、表面性状の劣化を引き起こし外観不良に繋がるおそれがある。またSi系の酸化皮膜(外部酸化層)が鋼板表面に生成されるおそれがある。したがって、Si含有量は2.49%以下、好ましくは2.00%以下、より好ましくは1.50%以下である。
【0019】
(Mn:1.50~3.00%)
Mn(マンガン)は、硬質組織を得ることで鋼板の強度を向上させるのに有効な元素である。また、Mnは焼鈍中に酸素と結合して内部酸化物を形成する元素の1つでもある。Mn含有量が不足すると、十分な強度を確保することができないおそれがある。したがって、Mn含有量は1.50%以上、好ましくは1.70%以上、より好ましくは1.90%以上である。一方、Mnを過剰に添加すると、Mn偏析によって金属組織が不均一になり、加工性が低下するおそれがある。したがって、Mn含有量は3.00%以下、好ましくは2.80%以下、より好ましくは2.50%以下である。
【0020】
(Al:0.010~2.000%)
Al(アルミニウム)は、脱酸元素として作用する元素である。Al含有量が0.010%未満であると、十分に脱酸の効果を得ることができない場合がある。したがって、Al含有量は0.010%以上、好ましくは0.100%以上、より好ましくは0.200%以上である。一方、Alを過剰に含有すると加工性の低下や表面性状の劣化を引き起こすおそれがある。したがって、Al含有量は2.000%以下、好ましくは1.500%以下、より好ましくは1.000%以下である。
【0021】
(V:0.015~0.30%)
V(バナジウム)は、V炭化物を形成して強度の向上に寄与する元素でるため、またV炭化物が脱炭層の成長を抑制すると考えられるため、本発明において重要な元素である。したがって、V含有量は0.015%以上、好ましくは0.030%以上、より好ましくは0.050%以上、さらに好ましくは0.100%以上または0.100%超である。一方、十分な靭性及び溶接性を確保する観点から、V含有量は、0.300%以下、好ましくは0.270%以下、より好ましくは0.250%以下であり、0.200%以下であってもよい。
【0022】
(Si+Al:1.50~2.50%)
本発明における鋼板の成分組成において、外部酸化層の形成をより抑制して内部酸化層の形成を促進する観点から、Si含有量とAl含有量の和(Si+Al)を2.50%以下にする。2.40%以下にすることがより好ましく、2.20%以下にすることがさらに好ましい。Si+Alは1.50%以上であり1.60%以上、1.80%以上又は2.00%以上であってもよい。Si及びAlは鋼の内部酸化層の形成に寄与する一方で、過剰に含有されると外観性状を悪化する場合がある。したがって、内部酸化物を形成する観点から、Si及びAlを所定量以上含ませることで、外観性状をより良好に保つことができる。
【0023】
(V/C:0.1以上)
高強度の鋼板を得るためには脱炭層の形成を抑制することが重要である。V炭化物は脱炭層の成長を抑制すると考えられ、脱炭層の成長を抑制する観点から、V炭化物を十分に析出することが好ましい。鋼板中のV/Cが0.1未満であると、C含有量に対して十分なV炭化物が析出されず、脱炭層の成長が抑制できないおそれがある。そのため、本発明では、C含有量に対するV含有量の比(V/C)を0.1以上とする。V/Cは、好ましくは0.3以上であり、より好ましくは0.5以上であり、さらに好ましくは1.0以上である。V/Cの上限は限定されないが、Vが過剰であるか又はCが過小であると、鋼板の強度が低下するおそれがあるので、例えば、2.0以下であってもよく、好ましくは1.8以下、より好ましくは1.6以下であってもよい。
【0024】
(P:0.1000%以下)
P(リン)は、一般に鋼に含有される不純物である。P含有量が0.1000%超では溶接性が低下するおそれがある。したがって、P含有量は0.1000%以下、好ましくは0.0800%以下、より好ましくは0.0500%以下、さらに好ましくは0.0200%以下である。P含有量の下限は特に限定されないが、製造コストの観点から、P含有量は0%超又は0.0010%以上であってもよい。
【0025】
(S:0.1000%以下)
S(硫黄)は、一般に鋼に含有される不純物である。S含有量が0.1000%超では溶接性が低下し、さらに、MnSの析出量が増加して曲げ性等の加工性が低下するおそれがある。したがって、S含有量は0.1000%以下、好ましくは0.0800%以下、より好ましくは0.0500%以下、さらに好ましくは0.0200%以下である。S含有量の下限は特に限定されないが、脱硫コストの観点から、S含有量は0%超又は0.0010%以上であってもよい。
【0026】
(N:0.0300%以下)
N(窒素)は、一般に鋼に含有される不純物である。N含有量が0.0300%超では溶接性が低下するおそれがある。したがって、N含有量は0.0300%以下、好ましくは0.0200%以下、より好ましくは0.0100%以下、さらに好ましくは0.0050%以下である。N含有量の下限は特に限定されないが、製造コストの観点からN含有量は0%超又は0.0010%以上であってもよい。
【0027】
(O:0.010%以下)
O(酸素)は、一般に鋼に含有される不純物である。O含有量が0.010%超では延性の劣化を招くおそれがある。したがって、O含有量は0.010%以下、好ましくは0.008%以下、より好ましくは0.006%以下、さらに好ましくは0.005%以下である。O含有量の下限は特に限定されないが、製造コストの観点からO含有量は0%超又は0.001%以上であってもよい。
【0028】
本発明における鋼板は上記で説明した元素の他に、以下で説明する任意元素を必要に応じて含有してもよい。
【0029】
(B:0~0.0100%)
B(ホウ素)は、焼入れ性を高めて強度の向上に寄与し、また粒界に偏析して粒界を強化して靭性を向上させる元素であるため、必要に応じて含有していてもよい。したがって、B含有量は0%以上、好ましくは0.0001%以上、より好ましくは0.0010%以上、さらに好ましくは0.0020%以上である。一方、十分な靭性及び溶接性を確保する観点から、B含有量は0.0100%以下、好ましくは0.0090%以下、より好ましくは0.0080%以下である。
【0030】
(Ti:0~0.100%)
Ti(チタン)は、TiCとして鋼の冷却中に析出し、強度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有していてもよい。したがって、Ti含有量は0%以上、好ましくは0.001%以上、より好ましくは0.010%以上、さらに好ましくは0.020%以上である。一方、過剰に含有すると粗大なTiNが生成して靭性が損なわれるおそれがあるため、Ti含有量は0.100%以下、好ましくは0.090%以下、より好ましくは0.080%以下である。
【0031】
(Nb:0~0.100%)
Nb(ニオブ)は、NbCを鋼中で形成するとともに結晶粒を微細化する効果があり強度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有していてもよい。したがって、Nb含有量は0%以上、好ましくは0.001%以上、より好ましくは0.010%以上、さらに好ましくは0.020%以上である。一方、十分な靭性及び溶接性を確保する観点から、Nb含有量は、0.100%以下、好ましくは0.090%以下、より好ましくは0.080%以下である。
【0032】
(Cr:0~1.00%)
Cr(クロム)は、鋼の強度や耐食性の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有していてもよい。したがって、Cr含有量は0%以上、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.10%以上である。一方、過剰に含有するとCr炭化物が多量に形成し、逆に焼入れ性が損なわれるおそれがあるため、Cr含有量は1.00%以下、好ましくは0.90%以下、より好ましくは0.80%以下、さらに好ましくは0.60%以下である。
【0033】
(Ni:0~0.10%)
Ni(ニッケル)は、鋼の強度や耐食性の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有していてもよい。したがって、Ni含有量は0%以上、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.02%以上である。一方、製造コスト等の観点から、Ni含有量は0.10%以下、好ましくは0.08%以下である。
【0034】
(Cu:0~0.10%)
Cu(銅)は、鋼の強度や耐食性の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有していてもよい。したがって、Cu含有量は0%以上、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.02%以上である。一方、靭性低下や鋳造後のスラブの割れや溶接性の低下を抑制する観点から、Cu含有量は0.10%以下、好ましくは0.08%以下である。
【0035】
(Mo:0~0.50%)
Mo(モリブデン)は、鋼の強度や耐食性の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有していてもよい。したがって、Mo含有量は0%以上、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.10%以上である。一方、十分な靭性及び溶接性を確保する観点から、Mo含有量は0.50%以下、好ましくは0.40%以下、より好ましくは0.30%以下である。
【0036】
(W:0~0.50%)
W(タングステン)は、鋼の強度を高めるのに有効であるため、必要に応じて含有していてもよい。したがって、W含有量は0%以上、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.10%以上である。一方、靭性と溶接性の低下を抑制する観点から、W含有量は0.50%以下、好ましくは0.40%以下、より好ましくは0.30%以下である。
【0037】
(Ca:0~0.100%)
Ca(カルシウム)は、介在物制御、特に介在物の微細分散化に寄与し、靭性を高める作用を有する元素であるため、必要に応じて含有していてもよい。したがって、Ca含有量は0%以上、好ましくは0.001%以上、より好ましくは0.005%以上、さらに好ましくは0.010%以上、さらにより好ましくは0.020%以上である。一方、過剰に含有すると表面性状の劣化が顕在化する場合があるため、Ca含有量は0.100%以下、好ましくは0.080%以下、より好ましくは0.050%以下である。
【0038】
(Mg:0~0.100%)
Mg(マグネシウム)は、介在物制御、特に介在物の微細分散化に寄与し、靭性を高める作用を有する元素であるため、必要に応じて含有していてもよい。したがって、Mg含有量は0%以上、好ましくは0.001%以上、より好ましくは0.003%以上、さらに好ましくは0.010%以上である。一方、過剰に含有すると表面性状の劣化が顕在化する場合があるため、Mg含有量は0.100%以下、好ましくは0.090%以下、より好ましくは0.080%以下である。
【0039】
(Zr:0~0.100%)
Zr(ジルコニウム)は、介在物制御、特に介在物の微細分散化に寄与し、靭性を高める作用を有する元素であるため、必要に応じて含有していてもよい。したがって、Zr含有量は0%以上、好ましくは0.001%以上、より好ましくは0.005%以上、さらに好ましくは0.010%以上である。一方、過剰に含有すると表面性状の劣化が顕在化する場合があるため、Zr含有量は0.100%以下、好ましくは0.050%以下、より好ましくは0.030%以下である。
【0040】
(Hf:0~0.100%)
Hf(ハフニウム)は、介在物制御、特に介在物の微細分散化に寄与し、靭性を高める作用を有する元素であるため、必要に応じて含有していてもよい。したがって、Hf含有量は0%以上、好ましくは0.001%以上、より好ましくは0.005%以上、さらに好ましくは0.010%以上である。一方、過剰に含有すると表面性状の劣化が顕在化する場合があるため、Hf含有量は0.100%以下、好ましくは0.050%以下、より好ましくは0.030%以下である。
【0041】
(REM:0~0.100%)
REM(希土類元素)は、介在物制御、特に介在物の微細分散化に寄与し、靭性を高める作用を有する元素であるため、必要に応じて含有していてもよい。したがって、REM含有量は0%以上、好ましくは0.001%以上、より好ましくは0.005%以上、さらに好ましくは0.010%以上である。一方、過剰に含有すると表面性状の劣化が顕在化する場合があるため、REM含有量は0.100%以下、好ましくは0.050%以下、より好ましくは0.030%以下である。なお、REMとは、Rare Earth Metalの略であり、ランタノイド系列に属する元素をいう。REMは通常ミッシュメタルとして添加される。
【0042】
本発明において、鋼板は、上記任意元素のうち、B:0.0001~0.0100%、Ti:0.001~0.100%、Nb:0.001~0.100%、Cr:0.01~1.00%、Mo:0.01~0.50%、及びW:0.01~0.50%のうちの1種又は2種以上を含有してもよい。代替的に又は追加的に、鋼板は、Ni:0.01~0.10%、Cu:0.01~0.10%、Ca:0.001~0.100%、Mg:0.001~0.100%、Zr:0.001~0.100%、Hf:0.001~0.100%、及びREM:0.001~0.100%のうちの1種又は2種以上を含有してもよい。
【0043】
本発明における鋼板において、上記成分組成以外の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、鋼板を工業的に製造する際に、鉱石やスクラップ等のような原料を始めとして、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に係る鋼板の特性に悪影響を与えない範囲で含有することが許容されるものを意味する。
【0044】
鋼板における成分組成の分析は、当業者に公知の任意の化学分析によって行えばよく、例えば、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS法)により行われる。ただし、C及びSについては燃焼-赤外線吸収法を用い、Nについては不活性ガス融解-熱伝導度法を用いて測定してもよい。これらの分析は、鋼板をJIS G0417:1999に準拠した方法で採取したサンプルで行うとよい。
【0045】
(鋼板の板厚及び板幅)
本発明は、1.0~2.0mmの板厚を有する鋼板、及びこれを用いためっき鋼板を対象とする。より具体的には、例えば、自動車のドア、ボンネット又はルーフなどの部材にも好適に使用できる、1.0~2.0mmの板厚を有する鋼板及びこれを用いためっき鋼板を対象とする。鋼板の板厚は、強度を確保する観点から、好ましくは1.0mm以上であり、より好ましくは1.2mm以上であるとよい。軽量化の意味合いからは板厚は薄い方が好ましく、好ましくは1.9mm以下、より好ましくは1.7mm以下、さらに好ましくは1.5mm以下とすることが望ましい。また、本発明に係るめっき鋼板は、特にドア、ボンネット又はルーフなどの自動車用部材にも好適に使用されるため、当該めっき鋼板(すなわち鋼板)の板幅は、典型的に1000mm以上であり、場合により1500mm以上である。鋼板の板厚は、マイクロメーター等を用いて求めればよい。めっき鋼板からめっき層を除いた鋼板の板厚を測る際は、めっき層を除去してマイクロメーター等で測定するか、又は断面観察から求めてもよい。鋼板の板幅はメジャーや巻き尺などで直接測定すればよい。
【0046】
(内部酸化層)
本発明に係る鋼板は、鋼板の表層(鋼板の内部)に酸化物を含む内部酸化層を有する。当該内部酸化層の酸化物は、酸素に加え、上述した鋼板中に含まれる元素のうち1種又は2種以上を含むものであって、典型的に、Si、O、Fe、及びMn、さらに場合によりAlを含む成分組成を有する。典型的には酸化物はMn2SiO4やSiO2、MnO等の組成を有する。本発明に係る鋼板においては、外部酸化層、すなわち鋼板の表面上に膜状に酸化物の層が形成されるのではなく、内部酸化層、すなわち鋼板の内部に酸化物が存在する層が形成されるため、めっき層を形成した場合に鋼成分(例えばFe)とめっき成分(例えばZn)との相互拡散が良好に起こり、鋼板上にめっき層(例えば亜鉛を含むめっき層(亜鉛系めっき層))が良好に形成され、不めっき部等が形成されず外観性状に優れるめっき鋼板(例えば亜鉛を含むめっき層を有するめっき鋼板(亜鉛系めっき鋼板))を得ることができる。また、合金化処理を行った場合に、合金化ムラを抑制でき、外観性状に優れるめっき鋼板(例えば亜鉛を含むめっき層を有するめっき鋼板(亜鉛系めっき鋼板))を得ることができる。同様に、本発明に係る鋼板においては、鋼板上に化成処理被膜を良好に形成することができる。なお、めっき性または化成処理性確保のためには内部酸化層は一定量が形成されればよく、むしろ、内部酸化層を厚く形成すると強度低下の要因になる脱炭層も厚くなるため、内部酸化層を過剰に形成することは好ましくない。例えば、内部酸化層の片面あたりの厚さは、鋼板の板厚の0.01~0.20倍程度であってもよい。本発明における鋼板の片面あたりの内部酸化層の厚さ:は、特に限定されないが、例えば10.0μm以上、12.0μm以上、15.0μm以上又は20.0μm以上であってもよい。内部酸化層の厚さの上限は特に限定されないが、脱炭層の過剰な形成を抑制する観点から、例えば、50.0μm以下、40.0μm以下、30.0μm以下又は20.0μm以下であってよい。
【0047】
(脱炭層)
本発明に係る鋼板は、鋼板の表面近傍に脱炭層を有する。脱炭層は、鋼板の主要部(例えば板厚中心部)の炭素濃度に比べて低い炭素濃度を有する。本発明において、脱炭層とは、鋼板の表面(めっき鋼板の場合は、鋼板と亜鉛系めっき層との界面)から鋼板の内部側に存在する領域であって、鋼板のバルク炭素濃度に比べて炭素濃度が低くなっている領域のことをいう。また、本発明に係る鋼板においては、後述するように、鋼板の板厚に対する脱炭層の厚さが制御されるため、脱炭層の存在による鋼板の強度低下を抑制でき、めっき性または化成処理性を確保しながら高強度化を達成することができる。本発明における脱炭層の厚さ:A(μm)は、より高い強度を確保するという観点からは小さい方が好ましい。しかしながら、脱炭層は内部酸化層と共に幾らか形成されるため、特に限定されないが、Aは実質的に10.0μm以上であり、例えば、15.0μm以上、20.0μm以上、25.0μm以上、30.0μm以上又は40.0μm以上であってもよい。Aの上限は、より高く、特にはより高くかつより均一な強度を確保するという観点からは、200.0μm以下が好ましく、150.0μm以下又は120.0μm以下がより好ましく、100.0μm以下又は90.0μm以下がさらに好ましい。
【0048】
(B/A:0.01~0.50)
本発明に係る鋼板において、高いめっき性または化成処理性を得るために内部酸化層の形成を促進する必要がある一方で、高強度を得るためには脱炭層の形成を抑制することが好ましい。したがって、内部酸化層の片面あたりの厚さB(μm)をある程度確保しつつ、脱炭層の片面あたりの厚さA(μm)の厚さを小さくすることが好ましい。よって、本発明において、B/Aの下限を0.01としてもよい。B/Aが0.01以上であることで、高強度化及び高いめっき性または化成処理性の両方を達成しやすくなる。B/Aが0.01未満となると、内部酸化層の形成が十分でなくめっき性または化成処理性が低下する、及び/又は、脱炭層が厚くなり強度が不十分となるおそれがある。B/Aの下限は、好ましくは0.03又は0.05、より好ましくは0.10又は0.15、さらに好ましくは0.20である。一方、通常、内部酸化が起こるような条件においては脱炭層の厚さAは内部酸化層の厚さBより厚くなるため、B/Aの上限は実質的に0.50としてもよい。B/Aの上限は0.50未満、0.45、0.40又は0.30であってもよい。なお、脱炭層は、強度確保の観点からは薄いほうが好ましいが、めっき性または化成処理性の確保のために内部酸化層を形成した際に幾らかは形成されるため、本発明において脱炭層の片面あたりの厚さAは0にはならない。なお、Bは鋼板の片面あたりの内部酸化層の厚さを意味する。
【0049】
(A/t:0.01~0.10)
さらに、本発明に係る亜鉛系めっき鋼板において、脱炭層の形成を抑制して高強度化を達成するために、鋼板の板厚t(mm)に対して脱炭層の片面あたりの厚さA(μm)を小さくすることが好ましい。特に、本発明の鋼板の板厚は1.0~2.0mm(400~2000μm)と薄いため、このような制御が極めて重要となる。よって、本発明において、A/tの上限を0.10とする。A/tが0.10以下であることで、脱炭層の存在による強度低下の影響を抑制でき、十分な強度を有する鋼板を得ることができる。A/tが0.10を超えると、鋼板の板厚に対して脱炭層が厚くなり強度が不十分となるおそれがある。A/tの上限は、0.09、0.08、0.07、0.06、または0.05であってもよい。一方、本発明においては、めっき性または化成処理性確保のために内部酸化層をある程度の厚さで形成する必要があるため、脱炭層も幾らかは形成される。よって、A/tの下限は実質的に0.01となる。A/tの下限は、0.02、0.03、0.04、0.05又は0.06であってもよい。なお、Aは鋼板の片面あたりの脱炭層の厚さを意味する。すなわちAが鋼板強度に影響するときには鋼板の両側が影響を受けることになる。
【0050】
(脱炭層の厚さ:A(μm)の測定)
脱炭層の厚さ:A(μm)の測定は以下のように行う。測定対象の鋼板を、グロー放電発光表面分析装置(GDS)で鋼板の板厚方向の組成を分析し、内部酸化層の厚さを評価する。測定対象がめっき鋼板である場合、めっき層をインヒビターを添加した塩酸等の溶液で化学的に溶解、除去した後、評価を行う。具体的には、鋼板表面から鋼板の板厚方向に向かって一定時間スパッタリングした後のスパッタ深さを粗度計、レーザー顕微鏡等の手法で計測し、時間当たりのスパッタ速度を算出する。ここで、C(炭素)が脱炭すると、Cの濃度プロファイルは鋼板の表面近傍で鋼素地のC信号強度よりも低下しており、板厚内部方向に進むと徐々に増加し鋼素地のC信号強度に到る。本発明においては、鋼素地のC信号強度に達した位置を特定し、この位置に到達したスパッタ時間をスパッタ速度より厚さに換算したものを脱炭層の厚さとする。すなわち、本発明において、脱炭層とは、鋼板の表面から、グロー放電発光表面分析装置(GDS)による測定でC濃度が鋼素地のC濃度(言い換えると、鋼板のバルクC濃度であり、Cbと称することもある)となるまでの領域をいうものである。以上の操作を3箇所で行い、各箇所で求めた内部酸化層の厚さを平均化することで、本発明における脱炭層の片面あたりの厚さA(μm)を得る。GDSは高周波タイプのものを使用することとする。
【0051】
(内部酸化層の厚さ:B(μm)の測定)
内部酸化層の厚さ:B(μm)の測定は以下のように行う。測定対象の鋼板を、グロー放電発光表面分析装置(GDS)で鋼板の板厚方向の組成を分析し、内部酸化層の厚さを評価する。測定対象がめっき鋼板である場合、めっき層をインヒビターを添加した塩酸等の溶液で化学的に溶解、除去した後、評価を行う。具体的には、鋼板表面から鋼板の板厚方向に向かって一定時間スパッタリングした後のスパッタ深さを粗度計、レーザー顕微鏡等の手法で計測し、時間当たりのスパッタ速度を算出する。ここで、Mnが内部酸化すると、Mnの濃度プロファイルは一旦鋼素地のMn信号強度よりも低下した後に徐々に増加し鋼素地のMn信号強度に到る。本発明においては、鋼素地のMn信号強度の0.9倍のMn信号強度に達した位置を内部酸化位置と定義し、この内部酸化位置に到達したスパッタ時間をスパッタ速度より厚さに換算したものを内部酸化層の厚さとする。すなわち、本発明において、内部酸化層とは、グロー放電発光表面分析装置(GDS)による測定でMn濃度が鋼素地のMn濃度の0.9倍以下となる領域をいうものである。以上の操作を3箇所以上で行い、各箇所で求めた内部酸化層の厚さを平均化することで、本発明における内部酸化層の片面あたりの厚さB(μm)を得る。GDSは高周波タイプのものを使用することとする。
【0052】
(最表層におけるC濃度C0がCb/2以上)
本発明にかかる鋼板の脱炭層は、Vを添加し、後述する鋼板の製造条件管理によって、脱炭層の成長を制御し、鋼板の高強度化を達成する。具体的には、鋼板の成分組成にVを添加し、熱延後の巻取温度を一般的な巻取温度より低温で行い、焼鈍時の昇温速度を一般的な昇温速度より高速で行うことにより、脱炭層の成長を抑制することができる。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、以下の作用機序が考えられる。一般的に、焼鈍時に、雰囲気から鋼板に酸素(O)が供給されると、鋼板表層から鋼板内部に向かって内部酸化層が形成され、また鋼板内部の炭素(C)と結合したCO
2やCOが雰囲気中に放出されて、脱炭層の成長が促進される。
図1は、V添加の有無による、脱炭層の成長挙動を模式的に説明する図である。
図1の左側では、Vを添加しておらず、通常の脱炭層の成長が見られる。一方、
図1の右側では、Vを添加しており、脱炭層の成長が抑制されている。この理由は次のように推定される。Vを添加した場合、添加したVが鋼板内部の炭素(C)と結合し、V炭化物として析出している。焼鈍中は、鋼板内部の炭素(C)が拡散移動をする。通常は、この拡散する炭素(C)が酸素(O)と結びつき、CO
2やCOとなり、雰囲気中に放出されて、脱炭層が成長するが、前述のV炭化物によって炭素(C)の拡散が阻害される。その結果、炭素(C)が酸素(O)と結びつかず、CO
2やCOを生成することがないので、脱炭層の厚みが低減され、かつ脱炭層中のC濃度が高くなり、特に鋼板最表層でも高いC濃度が実現される。さらに、後述する、製造条件の制御により、V炭化物を、微細に分散することができ、これにより、炭素(C)の拡散を阻害しやすく、脱炭層の成長がより抑制される。そのため、本発明における脱炭層では、鋼板の最表層における炭素(C)濃度C0が、鋼板のバルクのC濃度Cbの1/2以上である。
図2は、V添加の有無による、鋼板の表面近傍でのCプロファイルを模式的に示す図である。V添加の有無に拘わらず、C濃度は、鋼板の深い部分のバルクのC濃度Cbから鋼板表面に向かって低減しているが、V添加ありの場合、V添加なしの場合に比べて、脱炭層の厚さが低減しており、かつ脱炭層中でのC濃度が高く、特に鋼板最表層の炭素濃度C0がCb/2以上の高い濃度となっている。そのため、脱炭層の存在する鋼板の表面近傍での強度の低下が抑制され、鋼板全体の強度を高めることができる。なお、C濃度は、上述のグロー放電発光表面分析装置(GDS)により測定される。
【0053】
(最表層C濃度C0の測定)
最表層C濃度C0の測定は以下のように行う。測定対象の鋼板を、グロー放電発光表面分析装置(GDS)で鋼板の板厚方向の組成を分析し、鋼板の最表層C濃度C0を評価した。鋼板において、表面酸化物と地鉄の界面位置のC濃度を最表層C濃度C0と定義した。測定対象がめっき鋼板である場合、めっき層をインヒビターを添加した塩酸等の溶液で化学的に溶解、除去した後、評価を行う。以上の操作を3つの箇所で行い、各箇所で求めたC濃度を平均化することで、片面あたりの最表層C濃度C0(%)を得る。GDSは高周波タイプのものを使用することとする。
【0054】
(引張強度)
本発明に係る鋼板は、950~1500MPaの引張強度を有する。引張強度が950MPa以上であることで、強度を十分に確保でき、例えば自動車用部材に用いる場合に薄肉化による軽量化を達成することができる。引張強度は、好ましくは980MPa以上又は1000MPa以上、より好ましくは1020MPa以上、さらに好ましくは1050MPa以上、最も好ましくは1100MPa以上である。一方、引張強度が高くなると加工性が低下するおそれがあるため、引張強度は1500MPa以下とし、1400MPa以下又は1300MPa以下であってもよい。引張試験は、JIS5号引張試験片を用いたJIS-Z2241:2011に規定される方法で行い、引張試験のクロスヘッド試験速度は、30mm/分とする。
【0055】
(疲労特性)
本発明に係る鋼板は、過剰な脱炭が抑制されており、高い疲労特性も得ることができる。疲労特性は、JIS Z 2275:1978に準拠して、測定対象の鋼板を用いて、平面曲げ疲労試験を行い、疲労限度比(=疲労強度/引張強度)を求めて、疲労限度比により評価する。疲労限度比が0.40以上であることで、長期に渡って繰り返して負荷が与えられても、一定の強度が確保され、例えば自動車用部材などの長期信頼性を求められる分野に適した部材として使用することができる。
【0056】
<亜鉛を含むめっき層を有するめっき鋼板>
以下、本発明の一実施形態に係る亜鉛を含むめっき層を有するめっき鋼板(以下、「亜鉛系めっき鋼板」または単に「めっき鋼板」という場合がある)について詳しく説明する。
【0057】
本発明に係るめっき鋼板は、鋼板と、当該鋼板の少なくとも片面に形成された亜鉛を含むめっき層(以下、「亜鉛系めっき層」または単に「めっき層」という場合がある)とを有する。よって、亜鉛系めっき層は、鋼板の片面に形成されていてもよく、両面に形成されていてもよい。また、本発明においては、亜鉛系めっき層は鋼板上に形成されていればよく、鋼板と亜鉛系めっき層との間に他のめっき層が設けられていてもよい。亜鉛系めっき層とは、上述するように、亜鉛を含むめっき層のことをいい、例えば溶融亜鉛めっき層及び合金化溶融亜鉛めっき層をいう。
【0058】
[亜鉛を含むめっき層(亜鉛系めっき層)]
本発明における亜鉛系めっき層は、鋼板上の少なくとも片面に形成される。「亜鉛系めっき層」とは、典型的に主成分(すなわち50%超)がZnで構成されるめっき層のことをいうが、めっき後に熱処理(例えば合金化処理)等を行うことで鋼中の成分が拡散し、結果的にZnが50%以下になったものも包含する。亜鉛系めっき層は、種々の方法で形成することができるが、溶融亜鉛めっきを行うことが好ましい。また、溶接性及び/又は塗装性を向上させる観点から、溶融亜鉛めっき後に合金化処理することがより好ましい。よって、本発明に係る亜鉛系めっき鋼板は、溶融亜鉛めっき鋼板であることが好ましく、合金化溶融亜鉛めっき鋼板であることがより好ましい。本発明においては、鋼板の表層に外部酸化層ではなく内部酸化層が形成されているため、亜鉛系めっき層を、例えば不めっき部を抑制した状態で形成することができ、合金化処理した場合は合金化ムラを抑制した状態で形成することができる。
【0059】
(亜鉛を含むめっき層(亜鉛系めっき層)の成分組成)
本発明における亜鉛系めっき層に含まれる好ましい成分組成について説明するが、亜鉛系めっき層はZnを含むめっき層であれば、当該成分組成は特に限定されない。典型的に、亜鉛系めっき層は50質量%以上のZnを含む。以下、元素の含有量に関する「%」は、特に断りがない限り、「質量%」を意味する。成分組成における数値範囲において、「~」を用いて表される数値範囲は、特に指定しない限り、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0060】
(Fe:0~15%)
Feは、鋼板上にZnを含むめっき層を形成した後にめっき鋼板を熱処理した場合に鋼板から拡散することでめっき層中に含まれ得る。したがって、Fe含有量の下限は0%であってもよい。合金化溶融亜鉛めっき層を形成するために合金化処理を行った場合は、鋼中のFeがめっき層中に拡散するため、この場合は、Fe含有量の下限値は1%、好ましくは3%、より好ましくは5%であってもよい。一方、Fe含有量の上限値は15%であるとよく、12%であると好ましく、10%であるとより好ましい。よって、例えば、亜鉛系めっき層が合金化溶融亜鉛めっき層である場合は、めっき層中のFe含有量は5~15%であってもよい。
【0061】
(Al:0~30%)
Alは、Znと共に含まれる又は合金化することでめっき層の耐食性を向上させる元素であるため、必要に応じて含有していてもよい。したがって、例えば電気亜鉛めっきでめっき層を形成するような場合にはAl含有量は0%であってもよい。ZnとAlとを含むめっき層を形成するために、好ましくは、Al含有量は0.01%以上であるとよく、例えば、0.1%以上、又は0.5%以上であってよい。一方、30%超では耐食性を向上させる効果が飽和するため、Al含有量は、30%以下であるとよく、例えば、20%以下、10%以下、5%以下、1%以下又は0.5%以下であってよい。めっき浴にAlを含まない場合でも、合金化溶融亜鉛めっき層を形成するために合金化処理を行った場合は、鋼中のAlがめっき層中に拡散する。よって、この場合は、例えばAl含有量は0.01~0.5%であってもよい。
【0062】
亜鉛系めっき層の基本の成分組成は上記のとおりである。さらに、亜鉛系めっき層、特に合金化溶融亜鉛めっき層は、任意選択で、上述した鋼中に含まれる元素又はそれ以外の元素を含有してもよい。これらの任意元素は、特に限定されないが、めっき層を構成する基本成分の作用及び機能を十分に発揮させる観点から、合計含有量を5%以下とすることが好ましく、2%以下とすることがより好ましい。
【0063】
本実施形態における亜鉛系めっき層において、上記成分組成以外の残部は、Zn及び不純物からなる。ここで、亜鉛系めっき層における不純物とは、めっき層を製造する際に、原料を始めとして、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、めっき層に対して意図的に添加した成分ではないものを意味する。めっき層においては、不純物として、上で説明した基本成分及び任意添加成分以外の元素が、本発明の効果を妨げない範囲内で微量に含まれていてもよい。
【0064】
(片面あたりの付着量)
本実施形態における亜鉛系めっき層の付着量は特に限定されないが、例えば10~100g/m2であることができる。片面あたりのめっき付着量は耐食性に大きく影響する。付着量の下限値は、耐食性の観点から、好ましくは15g/m2、より好ましくは20g/m2、さらに好ましくは30g/m2であるとよい。一方、片面あたりの付着量の上限値は、成形性、溶接性、及び経済性の観点から、好ましくは90g/m2、より好ましくは70g/m2、さらに好ましくは60g/m2であるとよい。
【0065】
亜鉛系めっき層の成分組成及び付着量は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により行うことができる。具体的には、亜鉛系めっき層の成分組成及び付着量は、亜鉛系めっき層を有する亜鉛系めっき鋼板から当該めっき層のみを溶解し、得られた溶液をICP分析することで求めることができる。なお、本発明におけるめっき付着量は、片面あたりの量であるため、鋼板の両面に亜鉛系めっき層が形成されている場合は、両面のめっき付着量が同一であるとして算出する。
【0066】
<鋼板の製造方法>
以下において、本発明に係る鋼板の好ましい製造方法について説明する。以下の説明は、本発明に係る鋼板を製造するための特徴的な方法の例示を意図するものであって、当該鋼板を以下に説明するような製造方法によって製造されるものに限定することを意図するものではない。
【0067】
[鋼板の作製]
本発明における鋼板は、成分組成を調整した溶鋼を鋳造して鋼片を形成する鋳造工程、鋼片を熱間圧延して熱延鋼板を得る熱延工程、熱延工程で形成した表面酸化物(スケール)及び好ましくは内部酸化層を除去する酸洗工程、冷間圧延して冷延鋼板を得る冷延工程、冷延鋼板を研削する研削工程、及び冷延鋼板を焼鈍する焼鈍工程を行うことで得ることができる。
【0068】
(鋳造工程)
鋳造工程の条件は特に限定されない。例えば、高炉や電炉等による溶製に引き続き、各種の二次製錬を行い、次いで、通常の連続鋳造、インゴット法による鋳造、又は薄スラブ鋳造などの方法で鋳造すればよい。原料にはスクラップを使用することも可能であるが、スクラップの使用量は、得られる鋼板の各元素の含有量が上記の範囲を満たすように調整する。
【0069】
(熱延工程)
上記のように鋳造した鋼片を熱間圧延して熱延鋼板を得ることができる。熱延工程は、鋳造した鋼片を直接又は一旦冷却した後に再加熱して熱間圧延することにより行われる。再加熱を行う場合には、鋼片の加熱温度は、例えば1100℃~1250℃であればよい。熱延工程においては、通常、粗圧延と仕上圧延とが行われる。各圧延の温度や圧下率は、所望の金属組織や板厚に応じて適宜決定すればよく、例えば仕上圧延温度を800~1050℃、仕上圧延の圧下率を50~80%としてもよい。本発明においては、鋼板の板厚を最終的に1.0~2.0mmに薄くするため、冷延工程での負荷が大きい。このため、熱間圧延の圧下率を高めに設定して熱延時に板厚をできるだけ小さくすることが好ましく、具体的には熱延後の板厚を2.5mm以下にすることが好ましい。しかしながら、熱延において鋼板の表面近傍に生成する内部酸化層及び脱炭層の厚さはほぼ一定であるため、熱延後の板厚を薄くすると、熱延における内部酸化及び脱炭の影響は相対的に大きなものとなる。一方で、例えば、熱延工程において生成した内部酸化層及び脱炭層がその後の酸洗工程及び研削工程によっても十分に除去されずに比較的多く残存してしまうと、焼鈍工程での内部酸化層及び脱炭層が良好に生成しないか又は不均一に生成してしまうこととなり望ましくない。そこで、熱延工程での内部酸化層及び脱炭層の形成を抑制して熱延での内部酸化及び脱炭の影響を小さくするために、巻取温度を600℃以下にすることが好ましく、550℃以下とすることがより好ましい。さらに、V炭化物を微細に析出させる観点から、熱延後の巻取温度を500℃以下とすることが好ましい。熱延後の巻取り温度を通常より低温(典型的には500℃以下)で行うことにより、鋼板の金属組織を主にベイナイト及び/又はマルテンサイトからなるものとすることができる。これによって、鋼中に多量の転位が導入され、その後の冷延・焼鈍工程において析出サイトが増加することにつながる。したがって、析出するV炭化物が微細化し、より高い脱炭抑制効果を得ることができる。
【0070】
(酸洗工程)
熱延工程で熱延鋼板の表面に形成した表面スケールを除去するために酸洗工程が行われる。酸洗工程では、通常は塩酸系の溶液が用いられ、本発明においても同様の条件が適用できる。また酸洗で、熱延工程の際に生成した内部酸化層まで除去することが望ましい。
【0071】
(冷延工程)
熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を得ることができる。冷間圧延の圧下率は、所望の金属組織や板厚に応じて適宜決定すればよく、例えば30~90%であればよい。本発明においては、熱延工程の圧下率と冷延工程の圧下率とを適宜調整して最終的な所望の板厚を得ればよいが、本発明における鋼板の板厚は1.0~2.0mmと薄いため、冷延工程での破断を防止するために、例えば、熱間圧延の圧下率を冷間圧延の圧下率より大きくしておくとよい。
【0072】
(研削工程)
鋼板表面に残存する異物を除去し、さらには熱延時に鋼板の表面及び表層に形成されたスケール及び内部酸化層を除去するとともに、表面性状を均一化したり、次の焼鈍工程における内部酸化層の形成を促進させたりするために、研削工程を実施することが好ましい。より具体的には、研削工程を実施して熱延時に形成された内部酸化層を十分に除去しつつ、さらに鋼板の表面に歪を付与することで、焼鈍雰囲気中の鋼板表面から内部への酸素の拡散が促進され、また当該酸素との反応も活性化されるため、焼鈍工程における内部酸化層の形成を促進させることが可能となる。研削工程は、特に限定されないが、例えば重研削ブラシを用いて鋼板の表面を研削することにより実施することができる。重研削ブラシの本数、回転数及び材質等を適切に選択することで所望の表面粗度及び研削量を達成することができる。研削量は全ての重研削ブラシの合計で片面あたり2g/m2以上であることが好ましい。研削工程は後述する焼鈍、めっきラインの前段で付与することも可能である。
【0073】
(焼鈍工程)
次いで、得られた冷延鋼板に焼鈍を行う。焼鈍は、750℃以上の温度で行うと好ましく、780℃以上の温度で行うのがより好ましい。焼鈍温度の上限は、外部酸化層の形成を抑制する観点から、920℃以下であるとよい。焼鈍温度までの昇温速度は、一般的な条件である、例えば1~10℃/秒で行うことができる。ただし、V炭化物を微細に析出させる観点から、析出するV炭化物の粗大化を抑制するために、通常より速い昇温速度とすることが好ましい。これにより、析出するV炭化物を微細のまま維持し、脱炭層の成長をより抑制する効果が得られる。典型的には、500℃~750℃の温度範囲内の滞留時間が100秒以下になるように、昇温速度を制御することが好ましい。また、内部酸化層を十分に形成し、外部酸化層の形成を抑制する観点から、当該焼鈍温度での保持時間は5~300秒程度、好ましくは50~100秒とすればよい。焼鈍時間が長すぎると、脱炭層が内部酸化層に対して過剰に生成してA/t値が高くなり、十分な強度が得られない場合がある。焼鈍工程における雰囲気は内部酸化層と脱炭層を制御する因子の一つとなる。焼鈍の初期を高酸素ポテンシャルとして、その後、酸素ポテンシャルを小さくすることも可能であり、あるいは焼鈍全体で酸素ポテンシャルを高くすることも可能である。酸素ポテンシャルは、焼鈍炉内の水蒸気分圧PH2Oを水素分圧PH2で除した値の常用対数log(PH2O/PH2)で表すことができ、本発明における内部酸化層及び脱炭層を得るために、例えば、上記式で求められる値を-3.0~-1.0に制御することができる。酸素ポテンシャルを高くする手法としては、燃焼雰囲気を使用する、酸素を微量添加する、露点を上昇させる、あるいはこれらを複合させる方法を採ることができる。露点を制御する場合、露点は、-20℃以上であるとよく、好ましくは-10℃以上である。露点が低すぎると、鋼板の表面上に外部酸化層が形成されるおそれがある。露点の上限は特に設けないが、常温よりも高くするためには結露を抑制する工夫が必要となる。焼鈍時の雰囲気は、好ましくは還元雰囲気、より好ましくは窒素及び水素を含む還元雰囲気、例えば水素5%以下の還元雰囲気(例えば、水素5%及び窒素95%)で行うとよい。なお、焼鈍工程は、後述する亜鉛を含むめっき層(亜鉛系めっき層)の形成と連続して行うことができる。
【0074】
[亜鉛を含むめっき層(亜鉛系めっき層)の形成]
亜鉛系めっき層の形成は、電気亜鉛めっきでも溶融亜鉛めっきでも行うことができるが、好ましくは溶融亜鉛めっき処理で行う。溶融亜鉛めっき処理の場合、めっき処理の条件は、所望のめっき層の成分組成、厚さ及び付着量等を考慮して適宜設定すればよく、例えば、焼鈍後の冷却を430~500℃で停止し、冷延鋼板を溶融亜鉛のめっき浴に1~5秒間浸漬すればよい。めっき付着量は、例えば10~100g/m2であればよい。
【0075】
上記亜鉛系めっき層の形成後、溶接性及び/又は塗装性を向上させるために、合金化処理を行うことが好ましい。合金化処理条件は、通常の範囲内とすればよく、例えば450~600℃の温度で合金化処理を行えばよい。
【0076】
[化成処理]
一実施態様では、めっきに代えて、化成処理をしてもよい。本発明に係る鋼板は、内部酸化層を有していることにより、めっき性に優れるだけでなく、化成処理性にも優れる。化成処理は、一般的な手法を用いることができ、例えば、リン酸塩処理を主体として、シュウ酸塩処理、クロメート処理、黒染め処理、不導態化処理などを用いることができる。
【実施例0077】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0078】
(例A:鋼板の製造)
本例では、板厚が1.0~2.0mm(1000~2000μm)でかつ板幅が1000mmの鋼板を製造した。いくつかの鋼板に亜鉛系めっきを施した亜鉛系めっき鋼板を製造し、他のいくつかの鋼板に化成処理を施した化成処理鋼板を製造した。まず、成分組成を調整した溶鋼を鋳造して鋼片を形成し、鋼片を一旦冷却した後に再加熱して50%以上の圧下率にて熱間圧延し、得られた熱延鋼板を巻取った。全ての例において、再加熱時の鋼片の加熱温度を1200℃、仕上圧延温度950℃とした。熱延後巻取温度は表1に記載のとおりであった。その後、塩酸を用いて酸洗を行い、表面スケールが0.2μm以下になるまで除去した。酸洗後、冷間圧延を行った。各冷延鋼板からJIS G0417:1999に準拠した方法でサンプルを採取し、鋼板の成分組成を分析した。また、冷延鋼板の任意の部分5箇所についてマイクロメーターで鋼板の板厚を測定し、それらを平均して板厚tを算出した。各例の鋼板の成分組成及び板厚を表1に示す。なお、全ての例において、鋼板の成分組成は、O:0.010%以下を含んでいた。
【0079】
次いで、各冷延鋼板に対し、重研削ブラシを用いて表面を研削した後、焼鈍を行い、めっき処理または化成処理を行った。表1において、めっき種Aは「合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)」、めっき種Bは「溶融Zn-Alめっき鋼板(GI)」、めっき種Cは「溶融Zn-Al-Mgめっき鋼板」を意味する。化成処理は、リン酸亜鉛被膜を形成した。焼鈍における温度は750~920℃の範囲内、全体の昇温速度は1~10℃/秒、保持時間は5~300秒とし、露点は-20℃以上とし、500℃~750℃での滞留時間は表1に記載のとおりとした。また、焼鈍雰囲気については、水素4%及び窒素96%の還元雰囲気で、式:log(PH2O/PH2)で求まる酸素ポテンシャルを-3.0~-1.0になるように露点を制御して行った。溶融亜鉛めっきについては、焼鈍後の冷却を480℃で停止し、冷延鋼板を溶融亜鉛のめっき浴に3秒間浸漬し、めっき付着量を片面あたり50g/m2程度になるように調整した。なお、めっき層を有する全ての例において、めっき層は、Fe:5~15%及びAl:0.01~0.5%を含んでいた。
【0080】
(脱炭層の厚さAの測定)
各例の鋼板を高周波タイプGDSを用いて鋼板の板厚方向の組成を分析し、脱炭層の厚さを評価した。めっき鋼板においては、めっき層をインヒビターを添加した塩酸溶液で化学的に溶解、除去した後、脱炭層の厚さを評価した。具体的には、鋼板表面から鋼板の板厚方向に向かって一定時間スパッタリングした後のスパッタ深さをレーザー顕微鏡で計測し、時間当たりのスパッタ速度を算出した。鋼素地のC信号強度に達した位置を特定し、この位置に到達したスパッタ時間をスパッタ速度より深さに換算したものを脱炭層の厚さとした。以上の操作を3箇所で行い、各箇所で求めた厚さを平均化することで、脱炭層の厚さA(μm)(片面あたり)を得た。なお、対象元素としてMn等を用いた、同様のGDS分析手法により、全ての例において内部酸化層が存在することを確認した。また、GDS分析手法により、鋼板の表面(最表層)におけるC濃度C0も確認し、得られた結果を表1に示す。
【0081】
(最表層C濃度C0の測定)
各例の鋼板を高周波タイプGDSを用いて鋼板の板厚方向の組成を分析し、最表層C濃度C0を評価した。鋼板において、表面酸化物と地鉄の界面位置のC濃度を最表層C濃度C0と定義した。めっき鋼板においては、めっき層をインヒビターを添加した塩酸溶液で化学的に溶解、除去した後、最表層C濃度の測定を行った。以上の操作を3つの箇所で行い、各箇所で求めたC濃度を平均化することで、片面あたりの最表層C濃度C0(%)を得た。
【0082】
(引張強度の評価)
引張試験は、JIS5号引張試験片を用いたJIS-Z2241:2011に規定される方法で行った。引張試験のクロスヘッド試験速度は、30mm/分とした。得られた結果を表1に示す。
【0083】
(疲労特性の評価)
疲労特性は、JIS Z 2275:1978に準拠して平面曲げ疲労試験を行い、疲労限度比(=疲労強度/引張強度)を求めて、疲労限度比により評価した。疲労限度比が0.40以上のものをA、0.40未満のものをBとし、評価Aの場合、優れた疲労特性を有するとして合格、評価Bの場合不合格とした。得られた結果を表1に示す。
【0084】
(めっき性の評価)
めっき性の評価については、各例のめっき鋼板の外観を評価することで行った。具体的には、めっき後の外観を目視観察し、不めっき部が視認されないものをA、視認されるものをBとした。評価Aの場合を合格、評価Bの場合を不合格とした。得られた結果を表1に示す。
【0085】
(化成処理性の評価)
化成処理性の評価方法は以下の通りである。
化成処理液は、日本パーカライジング(株)製の化成処理液(パルボンドL3065(登録商標))を用い、次の方法で化成処理を施した。日本パーカライジング(株)製の脱脂液ファインクリーナ(登録商標)で脱脂したのち、水洗し、次に日本パーカライジング(株)製の表面調整液(PL-XG)で表面調整行い、化成処理液(パルボンドL3065)に120秒浸漬した後、水洗し、温風で乾燥した。
化成皮膜を走査型電子顕微鏡(SEM)で、倍率500倍で無作為に5視野を観察し、化成皮膜のスケ面積率を画像処理により測定し、スケ面積率によって以下の評価をした。A、Bが合格である。
A:0%(スケがない)
B:5%以下
C:5%超10%以下
D:10%超え
得られた結果を表1に示す。
【0086】
本例では、引張強度が950~1500MPaであり、疲労特性(疲労限度比)の評価がAであり、めっき性の評価がAまたは化成処理性の評価がA又はBである場合を、十分な強度及びめっき性又は化成処理性を有する鋼板として評価した。
【0087】
【0088】
表1を参照すると、例No.16ではC含有量が過剰であったために鋼板の強度が高くなりすぎた。例No.1ではC含有量が低かったために引張強度が低下した。例No.10ではSi含有量が低かったために引張強度が低下した。例No.11ではSi含有量が過剰であったために表面性状の劣化を引き起こし、結果としてめっき性が低下した。例No.12ではMn含有量が低かったために引張強度が低下した。例No.13ではMn含有量が過剰であったために鋼板の強度が高くなりすぎた。例No.14ではAl含有量が低かったために引張強度が低下した。例No.15ではAl含有量が過剰であったために表面性状の劣化を引き起こし、結果としてめっき性が低下した。例No.8では、V含有量が低かったため、脱炭が進み、脱炭層が板厚に対して過剰に生成してA/tが高くなり、結果として引張強度及び疲労特性(疲労限度比)が低下した。例No.9では、V含有量が過剰であったために靱性が低下し、結果として引張強度及び疲労特性(疲労限度比)が低下した。例No.17では、熱延後の巻取温度が高かったため、脱炭が進み、脱炭層が板厚に対して過剰に生成してA/tが高くなり、結果として引張強度及び疲労特性(疲労限度比)が低下した。例No.18では、焼鈍での500~750℃滞留時間が長かったため、脱炭が進み、脱炭層が板厚に対して過剰に生成してA/tが高くなり、結果として引張強度及び疲労特性(疲労限度比)が低下した。これとは対照的に、本発明に係る全ての実施例において、鋼板の成分組成、鋼板表面の内部酸化層の存在、脱炭層の厚さと鋼板の板厚との比(A/t)、及び脱炭層のC濃度を適切に制御することにより、十分な強度及びめっき性または化成処理性を達成することができた。
本発明に係る鋼板は十分なめっき性又は化成処理性及び強度を有するため、外観性状に優れた高強度の鋼板およびこれを用いためっき鋼板を提供することが可能となり、当該鋼板及びめっき鋼板は自動車、家電製品、建材等の用途、特に自動車用に好適に用いることができる。したがって、本発明は産業上の価値が極めて高い発明といえるものである。