(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085997
(43)【公開日】2023-06-21
(54)【発明の名称】中性子遮蔽材および放射性物質の収納容器
(51)【国際特許分類】
G21F 3/00 20060101AFI20230614BHJP
G21F 1/10 20060101ALI20230614BHJP
G21F 9/36 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
G21F3/00 N
G21F1/10
G21F9/36 501A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200353
(22)【出願日】2021-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】下条 純
(72)【発明者】
【氏名】萬谷 健一
(57)【要約】
【課題】中性子遮蔽性能や自己消化性などの性能が高い中性子遮蔽材を提供する。
【解決手段】中性子遮蔽材は、放射性物質の収納容器100に使用される。中性子遮蔽材の主材は、オレフィン系共重合ゴムである。オレフィン系共重合ゴムは架橋剤として有機過酸化物を用いて成形されている。中性子遮蔽材に臭素系難燃剤が配合されている。オレフィン系共重合ゴム100重量部に対する臭素系難燃剤の配合部数が45重量部以上55重量部以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性物質の収納容器に使用される中性子遮蔽材であって、
前記中性子遮蔽材の主材がオレフィン系共重合ゴムであり、
前記オレフィン系共重合ゴムは架橋剤として有機過酸化物を用いて成形され、
前記中性子遮蔽材は臭素系難燃剤を含有し、
前記オレフィン系共重合ゴム100重量部に対する臭素系難燃剤の配合部数が45重量部以上55重量部以下であることを特徴とする中性子遮蔽材。
【請求項2】
請求項1に記載の中性子遮蔽材において、
前記オレフィン系共重合ゴムは、エチレン-プロピレン-ジエンゴム又はエチレン-プロピレンゴムであることを特徴とする中性子遮蔽材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の中性子遮蔽材において、
ほう素系化合物をさらに含有し、
中性子遮蔽材100wt%に対しほう素系化合物が5wt%以下であることを特徴とする中性子遮蔽材。
【請求項4】
請求項3に記載の中性子遮蔽材において、
中性子遮蔽材100wt%に対しほう素系化合物が1wt%以上2wt%以下であることを特徴とする中性子遮蔽材。
【請求項5】
放射性物質の収納容器であって、
前記収納容器の側部、蓋部および底部の少なくとも一つに請求項1~4のいずれか1項に記載の中性子遮蔽材が設置された放射性物質の収納容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子遮蔽材および放射性物質の収納容器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1および特許文献2に、原子力施設などで使用される中性子遮蔽材や、分析機器または医療機器などに使用される中性子遮蔽材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭57-173795号公報
【特許文献2】特開平9-33691号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
中性子遮蔽材の中性子遮蔽性能や自己消化性などの性能を高めることが要求されている。
【0005】
本発明の目的は、従来の中性子遮蔽材より中性子遮蔽性能や自己消化性などの性能が高い中性子遮蔽材を提供することである。また、本発明の目的は、従来より中性子遮蔽性能などの性能が高い放射性物質の収納容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書で開示される中性子遮蔽材は、放射性物質の収納容器に使用される中性子遮蔽材であって、前記中性子遮蔽材の主材がオレフィン系共重合ゴムであり、前記オレフィン系共重合ゴムは架橋剤として有機過酸化物を用いて成形され、前記中性子遮蔽材は臭素系難燃剤を含有し、前記オレフィン系共重合ゴム100重量部に対する臭素系難燃剤の配合部数が45重量部以上55重量部以下である。
【0007】
本明細書で開示される放射性物質の収納容器は、前記収納容器の側部、蓋部および底部の少なくとも一つに上述した中性子遮蔽材が設置された放射性物質の収納容器である。
【発明の効果】
【0008】
従来の中性子遮蔽材より中性子遮蔽性能や自己消化性などの性能が高い中性子遮蔽材を提供することができる。従来より中性子遮蔽性能などの性能が高い放射性物質の収納容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】放射性物質の収納容器の構成を示す模式図である。
【
図2】炭化ホウ素(B
4C)含有率と線量当量率の関係を示す図である。
【
図3】炭化ホウ素(B
4C)含有率と線量当量率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0011】
本実施形態に係る中性子遮蔽材は、放射性物質の収納容器に使用される中性子遮蔽材である。本実施形態に係る中性子遮蔽材は、主材がオレフィン系共重合ゴムである中性子遮蔽材である。オレフィン系共重合ゴムは、架橋剤として有機過酸化物を用いて成形されている。中性子遮蔽材に、臭素系難燃剤が含有されている。
【0012】
オレフィン系共重合ゴムは、エチレンおよびエチレン以外のオレフィンのうち2種以上の共重合ゴムである。オレフィン系共重合ゴムは、2つの異なる構成単位を含む二元共重合体でもよく、3つの異なる構成単位を含む三元共重合体でもよく、4つ以上の異なる構成単位を含む共重合体でもよい。オレフィンとして、例えば、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、ジエン(ジオレフィン)などが挙げられる。中性子遮蔽材の主材がオレフィン系共重合ゴムであるとは、例えば、中性子遮蔽材100重量%に対し、オレフィン系共重合ゴムの含有量が50重量%以上であることを示す。
【0013】
オレフィン系共重合ゴムは水素を含む。中性子は水素と弾性散乱することにより、減速し、遮蔽される。オレフィン系共重合ゴムは中性子を減速させる水素を多く含むため、オレフィン系共重合ゴムを主材とすることにより、中性子の遮蔽効果が高まる。
【0014】
オレフィン系共重合ゴムは特に限定されないが、例えば、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)が挙げられる。エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)およびエチレン-プロピレンゴム(EPM)の密度は0.86~0.87g/cm3であり、他のゴム(天然ゴム、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ポリウレタンゴム、シリコーンゴムなど)に比べ密度が小さい。そのため、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)またはエチレン-プロピレンゴム(EPM)を主材とすることにより、中性子遮蔽材の軽量化を図ることができる。また、エチレン-プロピレンゴム(EPM)は、ゴムに占める水素が多いため、中性子遮蔽性の効果をより期待できる。
【0015】
本実施形態では、オレフィン系共重合ゴムに、架橋剤として有機過酸化物が使用されている。架橋剤として硫黄が使用されることがあるが、硫黄が使用されている場合、架橋反応に寄与していない未反応の硫黄がゴム中に残留することがある。残留した硫黄が二酸化硫黄などの腐食性ガスとして生じることがある。このようなガスは、中性子遮蔽材から僅かに発生する水分と結合することにより亜硫酸イオン(SO3
-)となり、更に酸化されて硫酸イオン(SO4
2-)が生成し、周囲の金属材料を腐食させるおそれがある。本実施形態では、架橋剤として、硫黄でなく、有機過酸化物が使用されているため、二酸化硫黄などの腐食性ガスが生成することがない。そのため、周囲の金属材料の腐食を抑制することができる。
【0016】
架橋剤として使用される有機過酸化物は、特に限定されない。有機過酸化物として、例えば、1,1-ジ(t-ヘキシルペロキシ)サイクロヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルペロキシ)サイクロヘキサン、n-ブチル4,4ジ(t-ブチルペロキシ)ヴェイルレイト(n-butyl 4,4-di(butylperoxy)valerate)、ジクミル・ペロキサイド、α,α’-ジ(t-ブチル-ペロキシ)ジイソプロピルベンゼン、t-ブチル・クミル・ペロキサイド、2,5-ジメチル2,5-ジ(t-ブチル-ペロキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチル-ペロキシ)ヘキサン等を使用してもよい。
【0017】
中性子遮蔽材は、オレフィン系共重合体に加え、臭素系難燃剤を含有する。臭素系難燃剤とは、臭素原子を含む難燃剤である。オレフィン系共重合ゴム100重量部に対し、臭素系難燃剤の配合部数が45重量部以上55重量部以下である。
【0018】
臭素系難燃剤が上記配合部数で含有されていることにより、中性子遮蔽材が燃焼しても、燃焼し続けることがない。また、中性子遮蔽材において主材であるオレフィン系共重合ゴムの比率が低下しにくいため、中性子遮蔽材中の水素の比率があまり低下しない。これにより、中性子遮蔽性を維持しつつ、自己消化性を有する中性子遮蔽材を提供することができる。
【0019】
臭素系難燃剤は、特に限定されない。臭素系難燃剤として、例えば、1,2-ビス(2,3,4,5,6-ペンタブロモフェニル)エタン、1,2-ビス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)エタン、2,4,6-トリス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジブロモフェノール、2,6-ジブロモフェノール、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモフタルイミド、ジブロモプロピルエーテルが挙げられる。
【0020】
中性子遮蔽材に、1種類または複数種類の臭素系難燃剤が含まれていてもよい。中性子遮蔽材に複数種類の臭素系難燃剤が含まれている場合、複数種類の臭素系難燃剤の合計の配合部数が45重量部以上55重量部以下である。
【0021】
中性子遮蔽材に、臭素系難燃剤と共に他の難燃剤が含まれていてもよい。例えば、中性子遮蔽材に、臭素系難燃剤と三酸化アンチモンが含まれていてもよい。
【0022】
中性子遮蔽材に、ほう素系化合物がさらに含有されていてもよい。ほう素系化合物とは、ほう素(B)を含む化合物である。中性子は水素により減速し、減速した(エネルギーが低下した)熱中性子が中性子遮蔽材中で(n,γ)反応することにより、二次ガンマ線が発生する。中性子遮蔽材にほう素系化合物が添加されている場合、減速した熱中性子がほう素(10B)に吸収されることにより、二次ガンマ線の発生を低減させることができる。
【0023】
中性子遮蔽材にほう素系化合物が添加されている場合、中性子遮蔽材100wt%に対しほう素系化合物の含有率が5wt%以下であることが好ましい。ほう素系化合物の含有率は、1wt%以上であることがより好ましく、1wt%以上2wt%以下であることがさらに好ましい。
【0024】
ほう素系化合物は、特に限定されない。ほう素系化合物として、例えば、炭化ホウ素、窒化ホウ素、酸化ホウ素が挙げられる。この中でも炭化ホウ素(B4C)が好ましい。炭化ホウ素は、化合物中のほう素の比率が高いため、少量の添加で、熱中性子を吸収でき、二次ガンマ線の発生を抑制できる効果が得られる。また、炭化ホウ素の添加量が少量でよいため、相対的に主材であるオレフィン系共重合ゴムの比率が低下しにくい。そのため、中性子遮蔽材中の水素の比率があまり低下しない。これにより中性子遮蔽効果を維持しつつ、二次ガンマ線の発生を抑制できる。また、炭化ホウ素は、熱的に安定な物質(融点が2000℃以上)であるため、高温環境下でも二次ガンマ線の発生を抑制できる効果が得られる。
【0025】
中性子遮蔽材に、複数種類のほう素系化合物が含まれていてもよい。中性子遮蔽材に複数種類のほう素系化合物が含まれている場合、複数種類のほう素系化合物の合計の含有率が上記範囲内であることが好ましい。
【0026】
中性子遮蔽材に、上記以外の添加剤が添加されていてもよい。例えば、老化防止剤、架橋助剤、安定剤などの添加剤がさらに添加されていてもよい。
【0027】
中性子遮蔽材は、例えば、オレフィン系共重合ゴム、臭素系難燃剤およびほう素系化合物や添加剤などを混合および/または混錬し、その後、成形することによって得られる。オレフィン系共重合ゴム、臭素系難燃剤、ほう素系化合物および添加剤の全てを一度に混合してもよく、これらのうち一部を先に混合した後、他のものを添加し、混合してもよい。成形方法は特に限定されない。
【0028】
以上のように、本実施形態によると、従来の中性子遮蔽材より中性子遮蔽性および自己消化性などの性能が高い中性子遮蔽材を提供することができる。また、中性子遮蔽材がほう素系化合物をさらに含有する場合、二次ガンマ線の発生を低減させる効果がさらに得られる。
【0029】
次に、本実施形態に係る中性子遮蔽材を放射性物質収納容器へ使用した例を、
図1を参照しつつ説明する。なお、
図1は主に中性子遮蔽材の設置個所を説明するための図であり、断面を示すハッチングを省略している。
【0030】
図1に示す放射性物質収納容器100は、使用済燃料や放射性廃棄物などの放射性物質を収納して、輸送、貯蔵するために用いられるものである。放射性物質収納容器100は、
図1に示すように、有底筒状の容器本体1と、容器本体1の一端部に配置される一次蓋2、二次蓋3および三次蓋4とを備えている。容器本体1、一次蓋2、二次蓋3、および三次蓋4は、例えば炭素鋼からなる。
【0031】
容器本体1には、放射性物質が収納される空間Sが形成されている。容器本体1は、有底筒状の内筒11と、内筒11の外側に間隔をあけて配置される筒状の外筒12とを有する。内筒11と外筒12との間に、本実施形態に係る中性子遮蔽材21が配置されている。容器本体1の底部に、本実施形態に係る中性子遮蔽材22が設置されている。
【0032】
一次蓋2、二次蓋3および三次蓋4は、放射性物質収納容器100の内側から順に配置されている。一次蓋2は、容器本体1の開口を密封する蓋である。一次蓋2の外側の二次蓋3は、一次蓋2との間の空間の圧力を一次蓋2および容器本体1の内筒11とともに保持する蓋である。二次蓋3に、本実施形態に係る中性子遮蔽材23が設置されている。二次蓋3の外側の三次蓋4は、放射性物質収納容器100を輸送する際に取り付けられる蓋である。三次蓋4は、放射性物質収納容器100を所定の貯蔵場所へ輸送した後は特別な場合を除いて外される。
【0033】
上記のように、本実施形態に係る中性子遮蔽材は、例えば、放射性物質収納容器100の側部、底部および蓋部に設置される。なお、上記では、本実施形態に係る中性子遮蔽材が放射性物質収納容器100の側部、底部および蓋部に設置された例を説明したが、放射性物質収納容器100の側部、底部および蓋部の1以上の個所に本実施形態に係る中性子遮蔽材が設置されていてもよい。
【0034】
放射性物質の収納容器100に本実施例形態に係る中性子遮蔽材が設置されている場合、以下の効果が得られる。
【0035】
放射性物質収納容器100の空間Sに、放射性物質が収納される。収納された放射性物質は、崩壊熱により発熱する。この熱は、容器本体1の内筒11の内面に伝えられ、外面から中性子遮蔽材21の間に設置された図示しない伝熱フィンにより外筒12に伝えられ、外筒12の表面から主に放射と対流により放熱される。放射性物質収納容器100を運用している間、空間Sに収納された放射性物質の発熱により放射性物質収納容器100を構成する部材の温度は上昇し、中性子遮蔽材(21、22、23)の最高温度は、設計上例えば100~150℃程度になることがある。上述の最高温度ではないものの、室温よりも高い温度が、放射性物質収納容器100の設計貯蔵期間(例えば、60年間)に亘り、継続する。また、中性子遮蔽材は、密閉された空間で使用される上に、放射性物質収納容器100の運用中、交換されることがない。さらに、放射性物質収納容器100を構成する容器本体1、一次蓋2、二次蓋3、および三次蓋4は、防錆に優れた材質でなく、ガンマ線遮蔽機能や構造強度を考慮した炭素鋼などからなる。
上記より、放射性物質収納容器100に使用される中性子遮蔽材(21、22、23)は、通常のゴム製品などと異なり、特殊な使用環境および使用条件で使用される。
【0036】
中性子遮蔽材(21、22、23)の主材は一般的にゴムであるため、上述した特殊な使用環境では、熱によりガスが発生しやすい。中性子遮蔽材の構成材料によっては、腐食性ガスが発生する可能性がある。腐食性ガスとして、ギ酸、酢酸などを含む有機酸系のガスや、硫黄を含むガス(二酸化硫黄)などが想定される。例えば、ゴムの架橋剤に硫黄が使用されている場合、硫黄を含むガスが発生する。腐食性ガスにより、容器本体1、一次蓋2、二次蓋3、および三次蓋4を含む周囲の金属材料が腐食するおそれがある。しかし、本実施形態では、オレフィン系共重合体の架橋剤として、硫黄ではなく、有機過酸化物が使用されている。そのため、硫黄を含むガスが生成しない。また、後述の実施例で説明するように、ゴムの架橋剤に硫黄を使用した場合に比べ、ギ酸、酢酸などを含む有機酸系のガスの発生量が少ないことがわかった。したがって、上述した特殊な使用環境でも、周囲の金属材料が腐食することを抑止できる。
【0037】
また、中性子遮蔽材(21、22、23)の主材が、水素を多く含むオレフィン系共重合ゴムである。そのため、放射性物質収納容器100の中性子遮蔽効果が高い。
【0038】
さらに、中性子遮蔽材(21、22、23)の主材として、密度が小さいオレフィン系共重合ゴム、例えば、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)やエチレン-プロピレンゴム(EPM)を使用することにより、放射性物質収納容器100の軽量化を図ることができる。これにより、放射性物質収納容器100の設計重量制限内で、放射性物質の収納量を多くすることができるため、放射性物質の収納効率が高まる。
【0039】
さらに、中性子遮蔽材(21、22、23)に臭素系難燃剤が含まれていることにより、仮に中性子遮蔽材(21、22、23)が燃焼しても、中性子遮蔽材は燃焼し続けない。後述の実験でも説明するが、本実施形態の中性子遮蔽材は、放射性物質収納容器の設計要件として必要な耐火試験(800℃の温度で30分間放置する試験)で燃焼し続けないことがわかった。また、臭素系難燃剤の配合部数が所定の範囲内であり、主材であるオレフィン系共重合ゴムの比率が低下しにくい。つまり、中性子遮蔽材中の水素の比率があまり低下しない。そのため、中性子遮蔽性を維持しつつ、自己消化性を発揮する。
【0040】
また、中性子遮蔽材(21、22、23)にほう素系化合物がさらに含有されている場合、二次ガンマ線の発生が低減される。特に、ほう素系化合物として炭化ホウ素が含有されている場合、炭化ホウ素は熱的に安定な物質(融点は2000℃以上)であるため、上述した高温環境下でも、二次ガンマ線の発生を低減させる効果が確実に得られる。
【0041】
上記のように、放射性物質収納容器が使用される特殊な使用環境および使用条件でも、中性子遮蔽性能などの性能が高い放射性物質収納容器を提供することができる。
【実施例0042】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。但し、下記実施例は本発明を制限するものではなく、本明細書の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは全て本発明の技術的範囲に包含される。
【0043】
表1に示す配合で原材料を混合および/または混錬した後、成形した。得られた成形体(中性子遮蔽材)の物性を評価した。
【0044】
【0045】
本実験では、難燃剤(臭素系)として1,2-ビス(2,3,4,5,6-ペンタブロモフェニル)エタンを使用し、架橋剤(有機過酸化物)として2,5-ジメチル2,5-ジ(t-ブチル-ペロキシ)ヘキサンを使用し、架橋助剤としてトリアリルイソシアネレートを使用した。表1では、原材料をオレフィン系共重合ゴム100重量部に対する配合部数で示している。
表1に示す水素含有量とほう素含有量は、ノミナル密度(公称密度)(1.16g/cm3)を基に算出した。
【0046】
本発明者らのこれまでの経験から、放射性物質の収納容器に使用される中性子遮蔽材の各仕様値は、以下のように設定される。
・酸素指数:24
酸素指数が24以上である場合、自己消火性がある。ここでの自己消化性を有するとは、放射性物質の収納容器の設計要件である火災を想定した800℃×30分の耐火試験の後、中性子遮蔽材が延焼し続けないことである。
・水素含有量:0.1g/cm3(原子個数密度に換算すると5.97×1022 atoms/cm3)
水素含有量が0.1g/cm3以上(原子個数密度に換算すると5.97×1022 atoms/cm3以上)である場合、中性子遮蔽性能が高い。
【0047】
[腐食性ガスの評価]
表1に示す配合Sの成形体は、オレフィン系共重合ゴムの架橋剤として硫黄を用いた中性子遮蔽材である。架橋剤として硫黄を用いた場合、加熱した際、未反応の硫黄により腐食性ガスが生成する可能性がある。これを確認するため、以下の試験を実施した。
【0048】
配合Sのサンプル(直径Φ20mm、長さ70mm)をガラス瓶に密封し、150℃で10日間加熱した。この際に発生した腐食性ガスに含まれる成分(酢酸イオン、ギ酸イオン、硫酸イオン)をイオンクロマトグラフィ法により分析した。
【0049】
比較として、配合Eのサンプル(直径Φ20mm、長さ70mm)をガラス瓶に密封し、150℃で30日間加熱し、発生した腐食性ガスに含まれる成分(酢酸イオン、ギ酸イオン、硫酸イオン)をイオンクロマトグラフィ法により分析した。配合Eでは、架橋剤として有機過酸化物を使用している。
【0050】
表2に結果を示している。
【0051】
【0052】
表2に示す結果から、架橋剤として硫黄を使用した配合Sでは、硫酸イオンが検出された。一方、架橋剤として有機過酸化物を使用した配合Eでは、硫酸イオンは定量限界未満であった。
このことから、架橋剤として硫黄を使用した配合Sでは硫黄を含む腐食性ガスが発生したが、架橋剤として有機過酸化物を使用した配合Eでは硫黄を含む腐食性ガスの発生を抑制できたことがわかった。
【0053】
また、配合Sではギ酸イオンが検出されたが、配合Eではギ酸イオンが定量限界未満であった。
なお、配合Sの酢酸イオンの量は、配合Eの酢酸イオンの量の1/2程度であるが、配合Sの加熱期間(10日間)は配合Eの加熱期間(30日間)の1/3である。配合Eの酢酸イオンの量は、配合Sの酢酸イオンの量よりも多いが、加熱期間の差を考慮すれば、同等又はそれ以下であると考えられる。
【0054】
上記試験では、比較として配合Eを用いたが、表1に示す配合A~Dでも、配合Eと同様に架橋剤として有機過酸化物を使用していることから、配合Eと同様な結果が得られると考えられる。
【0055】
[自己消化性]
難燃剤の配合部数を変えて酸素指数を評価した。表1に酸素指数(実測値)を示している。
【0056】
表1の配合A~Cおよび配合Eの酸素指数は、仕様値の24を超えている。配合A~Cおよび配合Eは自己消化性を有する。配合A~Cおよび配合Eの難燃剤(臭素系)の配合部数は、45重量部以上60重量部以下である。
【0057】
なお、表1には配合Dの酸素指数を示していない。しかし、配合A~Cおよび配合Eから、難燃剤(臭素系)の配合部数が45重量部以上であるとき酸素指数が仕様値の24を超え、難燃剤(臭素系)の配合部数が増えるにつれて酸素指数が大きくなっている。このことから、難燃剤(臭素系)の配合部数が55重量部の配合Dでも酸素指数が仕様値の24を超えると考えられる。
【0058】
ここで、表1の水素含有量(原子個数密度[atoms/cm3])をみると、配合A、配合B、配合D、および配合Eの水素含有量は仕様値(5.97×1022 atoms/cm3)を超えるが、配合Cの水素含有量は仕様値(5.97×1022 atoms/cm3)を下回った。配合Cの難燃剤(臭素系)の配合部数は60重量部であるが、難燃剤(臭素系)の配合部数が55重量部以下の配合A、配合B、配合D、および配合Eでは水素含有量が仕様値を超える。配合Cでは、難燃剤(臭素系)の配合部数を60重量部としたことで、中性子遮蔽材に占めるオレフィン系共重合ゴムの割合が少なくなったことにより、水素含有量が仕様値を下回ったと考えられる。
【0059】
上記より、オレフィン系共重合ゴム100重量部に対し難燃剤(臭素系)の配合部数を45重量部以上55重量部以下とすることにより、中性子遮蔽性を維持しつつ、自己消化性を有する中性子遮蔽材が得られることがわかった。
【0060】
また、本試験では、中性子遮蔽材の主材として、密度が比較的小さいエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)を使用したことにより、1.14~1.18g/cm3の低密度の中性子遮蔽材が得られた。
【0061】
[遮蔽性能(ほう素系化合物の含有量)]
炭化ホウ素(B4C)の添加量を変えて遮蔽性能などを評価した。
【0062】
炭化ホウ素(B
4C)の含有率をパラメータとし、放射性物質収納容器の側部に中性子遮蔽材を配置した場合を想定し、表3に示す遮蔽解析条件で、放射性物質収納容器の側部の長手方向中央部の外表面における中性子と二次ガンマ線の線量当量率を計算した。中性子遮蔽材は、表1に示す配合Eの配合であるとし、炭化ホウ素(B
4C)の添加量を変えた。なお、線量当量率の計算には、中性子遮蔽材の含有率(中性子遮蔽材100wt%に対する含有率(単位:wt%))から計算される原子個数密度を用いるため、以下では、炭化ホウ素(B
4C)の添加率を中性子遮蔽材100wt%に対する添加率(単位:wt%)で示している。また、本遮蔽解析では、保守的に中性子遮蔽材の最低密度をベースに入力データを作成した。
図2および
図3に、解析結果を示している。
【0063】
【0064】
図2から、以下のことがわかった。
二次ガンマ線について、炭化ホウ素(B
4C)の含有率が多いほど二次ガンマ線が低減するが、炭化ホウ素(B
4C)の含有率が20wt%以上ではその効果が小さいことがわかった。
一方、中性子について、炭化ホウ素(B
4C)の含有量が5wt%以上になると、中性子が著しく増加し、中性子と二次ガンマ線の合計線量当量率が大きく増加に転ずることが分かる。これは、炭化ホウ素(B
4C)含有率が増加することにより相対的に主材のオレフィン系共重合ゴムの含有率が減少したことで水素の原子個数密度が小さくなったことにより、中性子の遮蔽効果が低下したためである。
【0065】
上記より、炭化ホウ素(B
4C)の含有率は最大5wt%程度でよいと考えられる。炭化ホウ素(B
4C)の含有率が5wt%以下の範囲について、
図3に示す拡大図を基にさらに検討したところ、以下のことがわかった。
【0066】
炭化ホウ素(B4C)の含有率が1wt%以上2wt%以下の範囲で、中性子と二次ガンマ線の線量当量率の大小関係が入れ替わっている。ここで評価した中性子遮蔽材によると、炭化ホウ素(B4C)の含有率が1wt%以上2wt%以下の範囲では、中性子と二次ガンマ線の合計線量当量率が殆ど同じであることから、炭化ホウ素(B4C)の含有率の違いによる中性子と二次ガンマ線の合計線量当量率の差は殆ど認められなかったが、炭化ホウ素(B4C)の含有率による遮蔽効果は放射性物質収納容器に収納される収納物の線源条件(エネルギースペクトルの分布や線源強度)によっても異なるものであり、中性子と二次ガンマ線の両者の線量当量率のバランスを考慮した場合、1wt%以上2wt%以下程度の添加量が好ましいと言える。
【0067】
以上のことから、中性子と二次ガンマ線の遮蔽効果を総合的に考慮すると、炭化ホウ素(B4C)含有率は1wt%以上2wt%以下であることが望ましい。また、炭化ホウ素(B4C)の価格は高いため、同程度の遮蔽効果であれば、できるだけ添加量を少なくすることによりコスト低減を図ることができる。コスト面を考慮しても、上記含有率は好ましいと言える。
また、本発明者らの経験から、ほう素含有量の原子個数密度が5.00×1020 atoms/cm3以上である場合、二次ガンマ線の抑制効果がより高いことがわかっている。炭化ホウ素(B4C)含有率が1wt%以上2wt%以下である場合、ほう素含有量が5.00×1020 atoms/cm3以上であることがわかった。
【0068】
なお、上記実施例では、ほう素系化合物として炭化ホウ素を使用したが、炭化ホウ素以外のほう素系化合物でも、化合物に含まれるほう素により上記評価結果と同様に中性子遮蔽性能を維持しつつ二次ガンマ線の発生を低減させることができる。
【0069】
以上、本発明の実施形態について実施例に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。