IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立GEニュークリア・エナジー株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-原子力発電プラント 図1
  • 特開-原子力発電プラント 図2
  • 特開-原子力発電プラント 図3
  • 特開-原子力発電プラント 図4
  • 特開-原子力発電プラント 図5
  • 特開-原子力発電プラント 図6
  • 特開-原子力発電プラント 図7
  • 特開-原子力発電プラント 図8
  • 特開-原子力発電プラント 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086015
(43)【公開日】2023-06-21
(54)【発明の名称】原子力発電プラント
(51)【国際特許分類】
   G21D 3/00 20060101AFI20230614BHJP
   G21D 3/12 20060101ALI20230614BHJP
   G21D 3/04 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
G21D3/00 D
G21D3/12 B
G21D3/04 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200383
(22)【出願日】2021-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池側 智彦
(57)【要約】
【課題】需要側からの負荷追従指令に対して、抽気絞り運転の出力制御幅を拡大可能な、原子力発電プラントを提供する。
【解決手段】原子炉と、タービンと、発電機と、復水器と、給水加熱器と、原子炉で発生した蒸気の一部を抽気蒸気として給水加熱器に供給する抽気ラインと、抽気ラインの流量を調整する抽気弁と、抽気弁の弁開度を制御する制御部と、を備え、発電機の出力が一定で運転される第1運転モード、発電機の出力が負荷に追従するように調整されて運転される第2運転モード、発電機の出力が一定で運転される第3運転モード、の3つの運転モードからいずれか1つが選択されて運転が実行され、第3運転モードでは、第1運転モードと比較して、少なくとも一部の抽気弁の弁開度が大きい状態とされる原子力発電プラントを構成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉と、
前記原子炉で発生した蒸気により駆動されるタービンと、
前記タービンにより駆動されて電力を発生する発電機と、
前記タービンの排気蒸気を凝縮させる復水器と、
前記復水器で凝縮された凝縮水を抽気蒸気で加熱する給水加熱器と、
前記原子炉と前記復水器との間に設置され、前記原子炉で発生した蒸気の一部を前記抽気蒸気として前記給水加熱器に供給する抽気ラインと、
前記抽気ラインの流量を調整する抽気弁と、
前記抽気弁の弁開度を制御する制御部と、
を備えた原子力発電プラントであって、
前記原子力発電プラントは、前記発電機の出力が一定で運転される第1運転モード、前記発電機の出力が負荷に追従するように調整されて運転される第2運転モード、前記発電機の出力が一定で運転される第3運転モード、の3つの運転モードを持ち、前記3つの運転モードからいずれか1つの運転モードが選択されて、運転が実行され、
前記第2運転モードでは、前記制御部の制御により、前記発電機の出力が負荷に追従するように、前記抽気弁の弁開度が調整され、
前記第3運転モードでは、前記制御部の制御により、前記第1運転モードと比較して、少なくとも一部の前記抽気弁の弁開度が大きい状態とされる
ことを特徴とする原子力発電プラント。
【請求項2】
前記制御部は、前記運転モードの状態を保持するための運転モード記録装置と、前記第1運転モード及び前記第3運転モードのいずれかで運転されているときに、前記発電機の出力及び前記抽気弁の弁開度を記録する通常運転状態記録装置と、前記第1運転モードのときに、前記発電機の出力の調整幅を変更する指令が入力された際に、前記抽気弁の弁開度を増加させると共に前記第3運転モードに変更する機能と、前記第3運転モードのときに、前記発電機の出力の調整幅を変更する指令が入力された際に、前記抽気弁の弁開度を前記第1運転モードの時の状態に戻すと共に第1運転モードに変更する機能とを有する熱バランス変更装置と、前記第2運転モードで運転されているときに、前記発電機の出力を調整する指令が入力された際に、複数の前記抽気弁の弁開度を調整するための抽気弁制御装置とを、有する請求項1に記載の原子力発電プラント。
【請求項3】
前記抽気弁制御装置が、前記発電機の出力を調整する指令に対して複数の前記抽気弁の弁開度を調整する際に、複数の前記抽気弁の弁開度を定数倍する制御を行う、請求項2に記載の原子力発電プラント。
【請求項4】
前記抽気弁は、第1抽気弁と第2抽気弁の2種類から構成され、
前記第1抽気弁は、前記第1運転モード及び前記第3運転モードにおいて同じ弁開度とされ、
前記第2抽気弁は、前記第3運転モードでは、前記第1運転モードと比較して、弁開度が大きい状態とされる請求項1に記載の原子力発電プラント。
【請求項5】
前記第1運転モード及び前記第3運転モードのときに、前記第1抽気弁は全開状態とされ、
前記第1運転モードのときに、前記第2抽気弁は全閉状態とされ、
前記制御部は、前記第1運転モードのときに、前記発電機の出力の調整幅を変更する指令が入力された際に、前記第2抽気弁を全開状態にすると共に前記第3運転モードに変更する機能と、前記第3運転モードのときに、前記発電機の出力の調整幅を変更する指令が入力された際に、前記第2抽気弁を全閉状態にすると共に前記第1運転モードに変更する機能とを有する熱バランス変更装置と、前記第2運転モードで運転されているときに、前記発電機の出力を調整する指令が入力された際に、複数の前記抽気弁の弁開度を調整するための抽気弁制御装置とを、有する請求項4に記載の原子力発電プラント。
【請求項6】
1つの前記給水加熱器に前記抽気蒸気を供給する前記抽気ラインが2本接続され、2本の前記抽気ラインのうち、供給する蒸気の温度の高い方の前記抽気ラインに前記第2抽気弁が設けられ、供給する蒸気の温度の低い方の前記抽気ラインに前記第1抽気弁が設けられている、請求項4に記載の原子力発電プラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、需要側からの負荷追従指令(出力上昇)に対して、給水加熱器を加熱するための抽気蒸気を瞬間的に減少させてタービン仕事量(発電機出力)を増加させる、抽気絞り運転(CT)を行う原子力発電プラントに関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化防止のため、発電時にCOが発生しない再生可能エネルギー(太陽光発電や風力発電等)が全発電量に占める割合が増加している。
従来、原子力発電プラントは、定格熱出力一定運転を行うことで、ほぼ一定量の電気を安定して供給する役割を担っていた。
しかし、今後、天候に大きく左右されるために発電量が不安定な、再生可能エネルギーの量の増加に伴い、電力需要や再生可能エネルギーの変動等に起因する系統からの電力要求(系統要求)に対応して、電気出力を柔軟に変化させる負荷追従運転への対応ニーズが高まることが予想される。
【0003】
原子力発電プラントは、燃料破損防止の観点から、定格熱出力(100%)を超える系統要求に対して、炉心の熱出力を増加させる対策を採れない。
このような系統要求に対しては、発電用タービンに流れ込む蒸気量を瞬間的に増加させることで、発電量を向上させる方法が必要となる。具体的には、復水器で凝縮された後の低温の給水を加温するために給水ライン上に設置される給水加熱器への抽気蒸気量を一時的に絞り、タービンへの流入蒸気量を増加させる。このような運転方法を、抽気絞り運転(CT)と呼ぶ。
【0004】
一般的な原子力発電プラントには、複数の給水加熱器及び複数の抽気ラインが備わっており、それらを制御してCTを行う方法は、公知である(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-194312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1には、従来技術として、複数の抽気ライン上に備えた複数の抽気弁の弁開度を、抽気弁制御装置で制御することで、原子力発電プラントの出力を制御する方法が記載されている(特許文献1の図11を参照)。
しかしながら、CTで制御可能な出力上昇範囲は、給水加熱器への抽気蒸気量分のみであり、これ以上の負荷変更要求に対する出力上昇手段がなかった。
【0007】
このような背景に鑑みて本発明がなされたのであり、本発明は、需要側からの負荷追従指令(出力上昇)に対して、給水加熱器を加熱するための抽気蒸気を瞬間的に減少させてタービン仕事量(発電機出力)を増加させる抽気絞り運転(CT)の出力制御幅を拡大可能な、原子力発電プラントを提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明の上記の目的及びその他の目的と本発明の新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面によって明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の原子力発電プラントは、原子炉と、原子炉で発生した蒸気により駆動されるタービンと、タービンにより駆動されて電力を発生する発電機と、タービンの排気蒸気を凝縮させる復水器と、復水器で凝縮された凝縮水を抽気蒸気で加熱する給水加熱器と、原子炉と復水器との間に設置され、原子炉で発生した蒸気の一部を抽気蒸気として給水加熱器に供給する抽気ラインと、抽気ラインの流量を調整する抽気弁と、抽気弁の弁開度を制御する制御部と、を備えた原子力発電プラントである。
そして、本発明の原子力発電プラントは、発電機の出力が一定で運転される第1運転モード、発電機の出力が負荷に追従するように調整されて運転される第2運転モード、発電機の出力が一定で運転される第3運転モード、の3つの運転モードを持ち、3つの運転モードからいずれか1つの運転モードが選択されて、運転が実行される。
また、本発明の原子力発電プラントは、第2運転モードでは、制御部の制御により、発電機の出力が負荷に追従するように、抽気弁の弁開度が調整され、第3運転モードでは、制御部の制御により、第1運転モードと比較して、少なくとも一部の抽気弁の弁開度が大きい状態とされる。
【発明の効果】
【0010】
上述の本発明の原子力発電プラントによれば、第1運転モードと比較して、少なくとも一部の抽気弁の弁開度が大きい状態とされる第3運転モードを含む3つの運転モードからいずれか1つの運転モードが選択されて、運転が実行される。
第3運転モードでは、少なくとも一部の抽気弁の弁開度が大きい状態とされるので、第3運転モードから第2運転モードに移行させれば、第1運転モードから移行させる場合と比較して、抽気弁の弁開度の制御幅を大きくできる。
これにより、需要側からの負荷追従指令(出力上昇)に対して、給水加熱器を加熱するための抽気蒸気を瞬間的に減少させてタービン仕事量(発電機出力)を増加させる抽気絞り運転(CT)の出力制御幅を拡大できる。
【0011】
なお、上述した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の原子力発電プラントの第1の実施の形態のシステム系統図である。
図2図1の原子力発電プラントの運転モード記録装置の概略構成図である。
図3図1の原子力発電プラントの通常運転状態記録装置の概略構成図である。
図4図1の原子力発電プラントの熱バランス変更装置の概略構成図である。
図5図1の原子力発電プラントの抽気弁制御装置の概略構成図である。
図6】本発明の原子力発電プラントの第2の実施の形態のシステム系統図である。
図7図6の原子力発電プラントの通常運転状態記録装置の概略構成図である。
図8図6の原子力発電プラントの熱バランス変更装置の概略構成図である。
図9図6の原子力発電プラントの抽気弁制御装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る原子力発電プラントの実施の形態について図面を参照して説明する。各実施形態において、同様の部分には同一の符号を付し重複する説明は省略する。なお、各図は本発明を十分に理解できる程度に概略的に示してあるに過ぎず、以下の内容及び図示の内容に何ら限定されず、本発明の効果を著しく損なわない範囲で任意に変形または組み合わせて実施できる。
【0014】
本発明の原子力発電プラントは、原子炉と、原子炉で発生した蒸気により駆動されるタービンと、タービンにより駆動されて電力を発生する発電機と、タービンの排気蒸気を凝縮させる復水器と、復水器で凝縮された凝縮水を抽気蒸気で加熱する給水加熱器と、原子炉と復水器との間に設置され、原子炉で発生した蒸気の一部を抽気蒸気として給水加熱器に供給する抽気ラインと、抽気ラインの流量を調整する抽気弁と、抽気弁の弁開度を制御する制御部と、を備えた原子力発電プラントである。
即ち、本発明の原子力発電プラントは、抽気ラインの流量を調整する抽気弁の弁開度を制御することにより、抽気絞り運転(CT)を実行することが可能となる構成である。
【0015】
また、本発明の原子力発電プラントは、発電機の出力が一定で運転される第1運転モード、発電機の出力が負荷に追従するように調整されて運転される第2運転モード、発電機の出力が一定で運転される第3運転モード、の3つの運転モードを持ち、3つの運転モードからいずれか1つの運転モードが選択されて、運転が実行される。
また、本発明の原子力発電プラントは、第2運転モードでは、制御部の制御により、発電機の出力が負荷に追従するように、抽気弁の弁開度が調整され、第3運転モードでは、制御部の制御により、第1運転モードと比較して、少なくとも一部の抽気弁の弁開度が大きい状態とされる。
即ち、本発明の原子力発電プラントは、従来の抽気絞り運転(CT)を実行する原子力発電プラントで実行される運転モードと同様の、第1及び第2運転モードに加えて、少なくとも一部の抽気弁の弁開度が大きい状態とされる、第3運転モードが追加されている。
【0016】
本発明の原子力発電プラントの構成によれば、第1運転モードと比較して、少なくとも一部の抽気弁の弁開度が大きい状態とされる第3運転モードを含む3つの運転モードからいずれか1つの運転モードが選択されて、運転が実行される。
第3運転モードでは、少なくとも一部の抽気弁の弁開度が大きい状態とされるので、第3運転モードから第2運転モードに移行させれば、第1運転モードから移行させる場合と比較して、抽気弁の弁開度の制御幅を大きくできる。
これにより、需要側からの負荷追従指令(出力上昇)に対して、給水加熱器を加熱するための抽気蒸気を瞬間的に減少させてタービン仕事量(発電機出力)を増加させる抽気絞り運転(CT)の出力制御幅を拡大できる。
【0017】
上記の原子力発電プラントの構成において、制御部が、運転モードの状態を保持するための運転モード記録装置と、第1運転モード及び第3運転モードのいずれかで運転されているときに、発電機の出力及び抽気弁の弁開度を記録する通常運転状態記録装置と、第1運転モードのときに、発電機の出力の調整幅を変更する指令が入力された際に、抽気弁の弁開度を増加させると共に第3運転モードに変更する機能と、第3運転モードのときに、発電機の出力の調整幅を変更する指令が入力された際に、抽気弁の弁開度を第1運転モードの時の状態に戻すと共に第1運転モードに変更する機能とを有する熱バランス変更装置と、第2運転モードで運転されているときに、発電機の出力を調整する指令が入力された際に、複数の抽気弁の弁開度を調整するための抽気弁制御装置とを、有する構成とすることができる。
即ち、この構成の場合には、熱バランス変更装置によって、発電機の出力の調整幅を変更する指令が入力された際に、抽気弁の弁開度を増減させると共に、第1運転モードと第3運転モードとの一方から他方に変更する。これにより、発電機の出力の調整幅を変更する指令が入力された際に、具体的に抽気弁の弁開度を変化させて、第1運転モードと第3との間で運転モードを切り替えることができる。
【0018】
この構成の原子力発電プラントにおいて、さらに、抽気弁制御装置が、発電機の出力を調整する指令に対して複数の抽気弁の弁開度を調整する際に、複数の抽気弁の弁開度を定数倍する制御を行う構成とすることができる。
これにより、複数の抽気弁の弁開度を定数倍する制御を行って複数の抽気弁の弁開度を調整するので、比較的簡便な構成及び方法で、抽気量を調整して発電機の出力を調整することができる。
【0019】
上記の原子力発電プラントの構成において、抽気弁が第1抽気弁と第2抽気弁の2種類から構成され、第1抽気弁は、第1運転モード及び第3運転モードにおいて同じ弁開度とされ、第2抽気弁は、第3運転モードでは、第1運転モードと比較して、弁開度が大きい状態とされる構成とすることができる。
これにより、第1運転モード及び第3運転モードにおける第1抽気弁の弁開度と、第1運転モードと第3運転モードとの間の第2抽気弁の弁開度の変化とを、合わせた量まで、抽気絞り運転(CT)の出力制御幅を拡大できる。従って、第1抽気弁のみ、もしくは、第2抽気弁のみで可能な出力制御幅よりも、出力制御幅を拡大することが可能になる。
【0020】
この構成の原子力発電プラントにおいて、さらに、第1運転モード及び第3運転モードのときに、第1抽気弁は全開状態とされ、第1運転モードのときに、第2抽気弁は全閉状態とされ、制御部は、第1運転モードのときに、発電機の出力の調整幅を変更する指令が入力された際に、第2抽気弁を全開状態にすると共に第3運転モードに変更する機能と、第3運転モードのときに、発電機の出力の調整幅を変更する指令が入力された際に、第2抽気弁を全閉状態にすると共に第1運転モードに変更する機能とを有する熱バランス変更装置と、第2運転モードで運転されているときに、発電機の出力を調整する指令が入力された際に、複数の抽気弁の弁開度を調整するための抽気弁制御装置とを、有する構成とすることができる。
即ち、この構成の場合には、熱バランス変更装置によって、発電機の出力の調整幅を変更する指令が入力された際に、第2抽気弁の弁開度を増減させると共に、第1運転モードと第3運転モードとの一方から他方に変更する。これにより、発電機の出力の調整幅を変更する指令が入力された際に、具体的に第2抽気弁の弁開度を変化させて、第1運転モードと第3運転モードとの間で運転モードを切り替えることができる。
また、この構成の場合には、第1抽気弁は、第1運転モード及び第3運転モードのときに、共に全開状態であり、第2抽気弁は、第1運転モードと第3運転モードとの間で変更するときに、全閉状態及び全開状態の一方から他方まで弁開度が変化する。
これにより、第1運転モードと第3運転モードとの間で変更する際の第1抽気弁及び第2抽気弁の弁開度の制御を簡素化することができる。
また、第2抽気弁は、全閉状態及び全開状態の一方から他方まで弁開度が変化するので、第1運転モードと第3運転モードとの間での弁開度の変化を大きくすることができることから、給水加熱器の熱交換器の設計熱交換容量を増やさずにすむ。これにより、第2抽気弁を設けない場合と比較して、給水加熱器のコストを低減することができる。
そして、第1抽気弁及び第2抽気弁の弁開度の制御を簡素化できることと、給水加熱器のコストを低減することができることとから、原子力発電プラントの設備構成を合理化することができる。
【0021】
この構成の原子力発電プラントにおいて、さらに、1つの給水加熱器に抽気蒸気を供給する抽気ラインが2本接続され、2本の抽気ラインのうち、供給する蒸気の温度の高い方の抽気ラインに第2抽気弁が設けられ、供給する蒸気の温度の低い方の抽気ラインに第1抽気弁が設けられている構成とすることができる。
これにより、第2抽気弁の開閉による抽気蒸気のエネルギーの変化量を大きくすることができるので、給水加熱器の熱交換器の設計熱交換容量をより低減することが可能になる。
【0022】
上記の原子力発電プラントの構成において、第3運転モードでは、第1運転モードと比較して、少なくとも一部の抽気弁の弁開度が大きい状態とされる。即ち、全部の抽気弁の弁開度を大きい状態とするか、あるいは、複数の抽気弁のうちの一部の抽気弁の弁開度を大きい状態とする。
第3運転モードでは、第1運転モードと比較して、少なくとも一部の抽気弁の弁開度が大きい状態とされているので、第3運転モードから第2運転モードに移行すれば、第1運転モードから移行する場合よりも、抽気弁の弁開度の調整幅を拡大できる。
【0023】
なお、実際の運転において、しばらくの間出力を変化させない場合には、第1運転モードを採用して、第1運転モードで運転される時間が最も長くなるようにすることが望ましい。
第2運転モードに移行する前に、抽気弁の弁開度の調整幅を拡大するときには、第1運転モードから第3運転モードに変更される。しかし、予定の変更等により、第2運転モードに移行する予定がしばらくなくなった場合には、第3運転モードから第1運転モードへ戻すことが望ましい。第3運転モードでは、第1運転モードと比較して、抽気弁の弁開度を大きくしているので、抽気蒸気の量が多くなり、その分タービンに向かう蒸気が減って、原子炉の出力に対する発電量の効率が下がることから、長時間の運転には適していないからである。
【0024】
続いて、本発明の原子力発電プラントの具体的な実施の形態を説明する。
【0025】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の原子力発電プラントの第1の実施の形態のシステム系統図である。
【0026】
本実施の形態の原子力発電プラントは、図1に示すように、原子炉圧力容器(RPV)1、高圧タービン4、湿分分離器5、低圧タービン6、復水器7、発電機8、複数台の給水加熱器11,12,13,14を備えている。
【0027】
原子炉圧力容器(RPV)1には、炉心2が内包されている。
また、原子炉圧力容器1は、主蒸気ライン3を介して、高圧タービン4、湿分分離器5、低圧タービン6に接続されている。
低圧タービン6の下流側には、復水器7が設置されている。復水器7は、給水ライン15によって原子炉圧力容器1に接続されている。給水ライン15上には、復水ポンプ9、複数台の給水加熱器(第1段給水加熱器11、第2段給水加熱器12、第3段給水加熱器13、第4段給水加熱器14)、給水ポンプ10が設置されている。
高圧タービン4及び低圧タービン6は、発電機8に接続される。なお、図1では、高圧タービン4と発電機8との接続の図示を省略している。
【0028】
湿分分離器5は、凝縮水排出ライン17を介して、第3段給水加熱器13の熱交換器の胴側に接続されている。
主蒸気ライン3は、高圧タービン4と湿分分離器5の間で分岐し、分岐したラインが、第4段給水加熱器への抽気ライン24及び第4段給水加熱器への抽気弁25を介して、第4段給水加熱器14の熱交換器の胴側に接続されている。
また、低圧タービン6から、3本のラインが分岐している。左から1本目のラインは、第3段給水加熱器への抽気ライン22及び第3段給水加熱器への抽気弁23を介して、第3段給水加熱器13の胴側に接続されている。左から2本目のラインは、第2段給水加熱器への抽気ライン20及び第2段給水加熱器への抽気弁21を介して、第2段給水加熱器12の胴側に接続されている。左から3本目のラインは、第1段給水加熱器への抽気ライン18及び第1段給水加熱器への抽気弁19を介して、第1段給水加熱器11の熱交換器の胴側に胴側に接続されている。そして、これらの給水加熱器13,12,11の熱交換器の胴側は、ドレンライン16を介して復水器7に接続されている。
【0029】
第1段給水加熱器への抽気弁19、第2段給水加熱器への抽気弁21、第3段給水加熱器への抽気弁23、及び第4段給水加熱器への抽気弁25の弁開度を制御するための制御装置として、抽気弁制御装置34、熱バランス変更装置35、通常運転状態記録装置36、及び運転モード記録装置38が設置されている。そして、入出力接続機構43で、4つの装置34,35,36,38の入出力が接続されている。
入出力接続機構43内に設けられた、抽気弁制御装置34、熱バランス変更装置35、通常運転状態記録装置36、及び運転モード記録装置38は、本発明の原子力発電プラントにおける、抽気弁の弁開度を制御するための前述した制御部を構成する。
【0030】
また、入出力接続機構43には、外部からの入力信号として、第1段給水加熱器11への抽気弁19、第2段給水加熱器12への抽気弁21、第3段給水加熱器13への抽気弁23、及び第4段給水加熱器14への抽気弁25の弁開度の情報、発電機出力調整指令39、発電機出力調整幅変更指令40、及び発電機出力42が接続されている。
【0031】
以下、本実施の形態の原子力発電プラントにおける、給水加熱器を加熱するために抽気蒸気を瞬間的に減少させてタービン仕事量(発電機出力)を増加させる、抽気絞り運転(CT)時の具体的な出力制御幅の拡大方法について説明する。
【0032】
炉心2で発生した蒸気は、主蒸気ライン3を介して、高圧タービン4及び低圧タービン6に送られ、タービン翼を回す仕事が発電機8を介して電力に変換され、系統側に送電される。低圧タービン6で仕事を終えた蒸気は、復水器7で海水等によって冷却されることで、低温の凝縮水となる。低温の凝縮水は、給水ライン15に送られ、複数台の給水加熱器11,12,13,14を通過する際に加熱・昇温され、復水ポンプ9及び給水ポンプ10によって加圧された後、原子炉圧力容器1に戻される。
原子炉圧力容器1に戻された給水の一部が、炉心2で蒸気となり、再度、タービン4,6に送られることで、図1に示すシステム系統図は、蒸気及び給水に係る閉ループを形成している。
【0033】
給水加熱器の熱交換器の管側を通過する給水を加熱するために、熱交換器の胴側に湿分を含んだ高温蒸気が供給される。
本実施の形態では、高圧タービン4を通過した後の蒸気を、第4段給水加熱器への抽気ライン24及び第4段給水加熱器への抽気弁25を介して第4段給水加熱器14の熱交換器の胴側に供給している。
同様に、低圧タービン6からの3本の抽気蒸気を、第3段給水加熱器への抽気ライン22及び第3段給水加熱器への抽気弁23を介して第3段給水加熱器13に、第2段給水加熱器への抽気ライン20及び第2段給水加熱器への抽気弁21を介して第2段給水加熱器12に、第1段給水加熱器への抽気ライン18及び第1段給水加熱器への抽気弁19を介して第1段給水加熱器11の熱交換器の胴側に供給している。
熱交換器で低温の給水と熱交換することで凝縮した蒸気(凝縮水)は、ドレンライン16を介して復水器7に送られ、給水の一部となる。
【0034】
原子力発電プラントの通常運転時は、タービン4,6への流入蒸気量、給水加熱器11,12,13,14への抽気蒸気量、給水加熱器11,12,13,14での給水の加熱量等が一定となるように、即ち定常状態で運転されている。
【0035】
抽気絞り運転(CT)を行う従来の原子力発電プラントでは、通常運転時の出力が一定の運転モードと、負荷に追従させるために発電機の出力を調整する運転モードとの、2つの運転モードを切り替えて運転を行っている。
これに対して、本実施の形態の原子力発電プラントでは、以下の3つの運転モードを採用し、これらの運転モードを切り替えて運転を行う。
運転モード1は、通常運転時であって、発電機の出力が一定の運転モードである。
運転モード2は、負荷に追従させるために発電機の出力を調整する運転モードである。
運転モード3は、通常運転時であって、発電機の出力が一定の運転モードであるが、運転モード1と比較して、抽気弁19,21,23,25の弁開度が大きい運転モードである。
【0036】
ここで、図1の原子力発電プラントの運転モード記録装置38の概略構成図を、図2に示す。図2では、運転モード記録装置38で行われる処理の各ステップS11~S13と、運転モード記録装置38内の運転モード記録器38Aを、ブロック図で示している。
【0037】
図2に示す運転モード記録装置38には、運転モード41が入力される。現在運転中の運転モードが設定されている場合には、設定されている運転モードを示す信号が運転モード41として入力される。運転モードが設定されていない場合には、運転モード41は入力されない。
ステップS11では、運転モード41の入力がないか判断して、入力がある場合(No)は、ステップS12に進み、入力がない場合(Yes)は、ステップS13に進む。
ステップS13では、運転モード41が存在しない場合の初期値である運転モード1にセットして、ステップS12に進む。
ステップS12では、運転モード2ではないかどうか判断して、運転モード2ではない場合(Yes)は、運転モード記録器38Aに進む。なお、運転モード2である場合(No)は、何も実行しない。
運転モード記録器38Aでは、運転モード(運転モード1あるいは運転モード3)の状態を、記録値41sとして記録して、その状態の記録値41sを運転モード記録装置38から外部に出力する。
なお、運転モード41は、詳細は後述するが、図4に示す熱バランス変更装置35、もしくは、図5に示す抽気弁制御装置34によって上書きされる。そして、運転モード41が上書きされる度に、図2に示す運転モード記録装置38によって、運転状態の記録値41sが変更される。
【0038】
次に、図1の原子力発電プラントの通常運転状態記録装置36の概略構成図を、図3に示す。図3では、通常運転状態記録装置36で行われる処理のステップS21と、通常運転状態記録装置36内の通常運転状態記録器36Aを、ブロック図で示している。
【0039】
図3に示す通常運転状態記録装置36には、発電機出力42と、図1に示す4つの抽気弁19,21,23,25の弁開度とが、入力される。
ステップS21では、運転モード2ではないかどうか判断して、運転モード2ではない場合(Yes)は、通常運転状態記録器36Aに進む。なお、運転モード2である場合(No)は、何も実行しない。
通常運転状態記録器36Aでは、4つの抽気弁19,21,23,25の弁開度及び発電機出力42を、記録値19s,21s,23s,25s,42sとして記録して、記録した記録値を通常運転状態記録装置36から外部に出力する。
【0040】
次に、図1の原子力発電プラントの熱バランス変更装置35の概略構成図を、図4に示す。図4では、熱バランス変更装置35で行われる処理のステップS31~S35を、ブロック図で示している。
【0041】
図4に示す熱バランス変更装置35には、発電機出力調整幅変更指令40と、運転モードの記録値41sとが、入力される。
ステップS31では、運転モードを判断して、運転モード1の場合はステップS32及びステップS33に進み、運転モード3の場合はステップS34及びステップS35に進む。
ステップS32では、抽気弁19,21,23,25の弁開度を、全開に変更して、変更した弁開度を熱バランス変更装置35の外部に出力する。
ステップS33では、運転モードを運転モード3に変更して、変更した運転モード41を熱バランス変更装置35の外部に出力する。
ステップS34では、抽気弁19,21,23,25の弁開度を、運転モード1(通常運転時)の弁開度に変更して、変更した弁開度を熱バランス変更装置35の外部に出力する。
ステップS35では、運転モードを運転モード1に変更して、変更した運転モード41を熱バランス変更装置35の外部に出力する。
【0042】
次に、図1の原子力発電プラントの抽気弁制御装置34の概略構成図を、図5に示す。図5では、抽気弁制御装置34で行われる処理のステップS41~S45と、減算を行う演算器や乗算を行う演算器を、ブロック図で示している。
【0043】
図5に示す抽気弁制御装置34には、発電機出力調整指令39と、発電機出力の記録値42sと、運転モードの記録値41sとが、入力される。そして、発電機出力調整指令39と発電機出力の記録値42sとの差分(39-42s)が計算される。
ステップS41では、入力された運転モードの記録値41sから、運転モードが判別され、運転モード1の場合はステップS42に進み、運転モード3の場合はステップS43に進む。
ステップS42では、先に計算された差分をグラフの横軸として、当該差分とグラフにおいて対応する抽気弁開度倍率を求める。求めた抽気弁開度倍率は、抽気弁ごとの個別の演算器において、それぞれ各抽気弁の通常運転時の弁開度の記録値19s,21s,23s,25sと乗算されて、変更後の弁開度が計算される。計算された弁開度は、それぞれ抽気弁制御装置34の外部に出力する。
ステップS43では、先に計算された差分をグラフの横軸として、当該差分とグラフにおいて対応する抽気弁開度倍率を求める。求めた抽気弁開度倍率は、抽気弁ごとの個別の演算器において、それぞれ各抽気弁の通常運転時の弁開度の記録値19s,21s,23s,25sと乗算されて、変更後の弁開度が計算される。計算された弁開度は、それぞれ抽気弁制御装置34の外部に出力する。なお、ステップS43は、ステップS42と同様の操作であるが、差分と抽気弁開度倍率の関係のグラフが異なっている。
ステップS44では、発電機出力調整指令39の入力があるか判断され、入力がある場合(Yes)にはステップS45に進む。入力がない場合(No)には何も実行しない。
ステップS45では、運転モードを運転モード2に変更して、変更した運転モード41を抽気弁制御装置34の外部に出力する。
【0044】
続いて、図1図5を参照して、本実施の形態の原子力発電プラントの動作について説明する。
まず、通常の抽気絞り運転(CT)時の動作を説明し、その後、本実施の形態の出力制御幅を拡大したCTの動作原理を説明する。
【0045】
系統要求、即ち、発電機出力調整指令39が図5に示す抽気弁制御装置34に入力されると、ステップS44において入力ありと判断されて、ステップS45において運転モードが運転モード2に変更されると共に、定常運転時の発電機出力42sとの差分(発電機出力増加幅)が計算される。
通常のCTでは、通常運転時の運転モード41s=1(運転モード1)であり、図5のステップS42に差分信号が伝播する。ステップS42では、差分信号を入力として、グラフに基づいて、抽気弁の弁開度に乗じる開度倍率を計算する。ステップS42のグラフ中のaは、通常のCTで制御可能な最大の発電機出力上昇幅を表す。
差分がaのときは、開度倍率が0になる。差分がマイナス及び0のときは、開度倍率が1.0になる。0<差分<aのときは、グラフの直線に対応した開度倍率になる。
最大の発電機出力上昇幅は、4つの抽気弁19,21,23,25を、通常運転時の弁開度19s,21s,23s,25sから全閉状態にすることで得られる、最大の発電機出力上昇幅として評価できる。差分から計算される抽気弁開度倍率を、通常運転状態記録装置36に記録されている通常運転時の抽気弁の弁開度19s,21s,23s,25sに乗じることで、抽気弁の弁開度を絞り、発電機出力調整指令39に相当する発電量増加を実現する。これにより、発電機出力を「定格出力+a」に増加できる。
【0046】
次に、本実施の形態における、出力制御幅を拡大したCTの動作原理を説明する。
CTの出力上昇幅を拡大するために、本実施形態の原子力発電プラントでは、図1及び図4に示した熱バランス変更装置35を備える。
運転モードの記録値41s=1(運転モード1)の時に、熱バランス変更装置35に発電機出力調整幅変更指令40を入力すると、図4のステップS31からステップS32及びステップS33に指令信号が伝播する。これにより、ステップS32において、運転モード1のときに必要な抽気蒸気量となるように、弁開度が制御されていた4つの抽気弁19,21,23,25の弁開度が全開状態となると共に、ステップS33において、運転モード1から運転モード3に切り替わる。
4つの抽気弁19,21,23,25が全開となることで、発電機の出力を一定で運転する運転モード(通常運転時)のときのシステムの定常状態(タービンへの流入蒸気量、給水加熱器への抽気蒸気量、給水加熱器での給水の加熱量等)が変化するが、原子力発電プラントの制御系の働きにより、原子力発電プラントが新たな定常状態(定常状態2)に整定される。
【0047】
なお、運転モード3の状態で、熱バランス変更装置35に発電機出力調整幅変更指令40が入力されると、ステップS35において、運転モード3から運転モード1に戻されると共に、ステップS34において、抽気弁の弁開度も運転モード1の状態に戻される。
即ち、熱バランス変更装置35は、発電機出力調整幅変更指令40をトリガとして、運転モード1と運転モード3を切り替える機能を有する。
【0048】
運転モード3の状態は、図2の運転モード記録装置38によって記録値41sとして記録される。また、全開状態となった4つの抽気弁の弁開度19,21,23,25及び定常状態2における発電機出力42は、図3の通常運転状態記録装置36内の運転状態記録器36Aに記録値19s,21s,23s,25s,42sとして記録される。
【0049】
この状態で、図5に示す抽気弁制御装置34に発電機出力調整指令39が入力されると、通常のCTと同様に、ステップS45において運転モードが運転モード2に切り替わると共に、ステップS43に差分信号(発電機出力増加幅信号)が伝播する。
運転モード3の状態では、4つの抽気弁19,21,23,25の弁開度が通常状態よりも大きくなっているので、抽気弁を全閉にすることで得られる最大の発電機出力上昇幅が、aからa+bに増加する。
即ち、図1のシステム系統図に示すように、4つの装置(抽気弁制御装置34、熱バランス変更装置35、通常運転状態記録装置36、及び運転モード記録装置38)を用いることで、CT時の発電機出力上昇幅を、aからa+bに増加させることが可能となる。
【0050】
本実施の形態の原子力発電プラントによれば、運転モード3において、運転モード1と比較して、抽気弁19,21,23,25の弁開度が大きい状態とされる。従って、運転モード3から運転モード2(負荷に追随させるために発電機の出力を調整する運転モード)に移行させたときに、運転モード1から移行させる場合と比較して、抽気弁19,21,23,25の弁開度の制御幅を大きくできる。
これにより、需要側からの負荷追従指令(出力上昇)に対して、抽気絞り運転(CT)の出力制御幅を拡大できる。
【0051】
(第2の実施の形態)
図6は、本発明の原子力発電プラントの第2の実施の形態のシステム系統図である。
また、図6の原子力発電プラントの通常運転状態記録装置36の概略構成図を図7に示し、図6の原子力発電プラントの抽気弁制御装置34の概略構成図を図9に示す。
【0052】
第2の実施の形態の原子力発電プラントが第1の実施の形態の原子力発電プラントと異なるところは、4つの給水加熱器11,12,13,14に抽気蒸気を供給する抽気ラインが、第1の実施の形態の4本(18,20,22,24)に加えて、更に4本(26,28,30,32)追加されている点、及び、第1の実施の形態の4つの抽気弁(ここでは第1抽気弁と記す)19,21,23,25に加えて、追加された4本の抽気ライン上に、第2抽気弁27,29,31,33が追加されている点にある。
以下、この第2の実施の形態において、第1の実施の形態と同様の抽気ライン18,20,22,24を第1抽気ラインとし、追加された抽気ライン26,28,30,32を第2抽気ラインとする。
【0053】
なお、追加された4本の第2抽気ライン26,28,30,32の、タービン4,6もしくは主蒸気ライン3からの抽気場所は、図1と共通の第1抽気ライン18,20,22,24よりも上流側(高温側)としている。
【0054】
また、4つの第2抽気弁27,29,31,33は、運転モード1のときに、全閉状態で維持する。
【0055】
ここで、図6の原子力発電プラントの通常運転状態記録装置36の概略構成図を、図7に示す。図7では、通常運転状態記録装置36で行われる処理のステップS51と、通常運転状態記録装置36内の通常運転状態記録器36Aを、ブロック図で示している。
【0056】
図7に示す通常運転状態記録装置36には、発電機出力42と、図6に示す8つの抽気弁19,21,23,25,27,29,31,33の弁開度とが、入力される。
ステップS51では、運転モード2ではないかどうか判断して、運転モード2ではない場合(Yes)は、通常運転状態記録器36Aに進む。なお、運転モード2である場合(No)は、何も実行しない。
通常運転状態記録器36Aでは、8つの抽気弁19,21,23,25,27,29,31,33の弁開度及び発電機出力42を、記録値19s,21s,23s,25s,27s,29s,31s,33s,42sとして記録して、記録した記録値を通常運転状態記録装置36から外部に出力する。
【0057】
次に、図6の原子力発電プラントの熱バランス変更装置35の概略構成図を、図8に示す。図8では、熱バランス変更装置35で行われる処理のステップS61~S65を、ブロック図で示している。
【0058】
図8に示す熱バランス変更装置35には、図4に示した第1の実施の形態の熱バランス変更装置35と同様に、発電機出力調整幅変更指令40と、運転モードの記録値41sとが、入力される。
ステップS61では、運転モードを判断して、運転モード1の場合はステップS62及びステップS63に進み、運転モード3の場合はステップS64及びステップS65に進む。
ステップS62では、第2抽気弁27,29,31,33の弁開度を、全開に変更して、変更した弁開度を熱バランス変更装置35の外部に出力する。
ステップS63では、運転モードを運転モード3に変更して、変更した運転モード41を熱バランス変更装置35の外部に出力する。
ステップS64では、第2抽気弁27,29,31,33の弁開度を、全閉に変更して、変更した弁開度を熱バランス変更装置35の外部に出力する。
ステップS65では、運転モードを運転モード1に変更して、変更した運転モード41を熱バランス変更装置35の外部に出力する。
【0059】
次に、図6の原子力発電プラントの抽気弁制御装置34の概略構成図を、図9に示す。図9では、抽気弁制御装置34で行われる処理のステップS71~S74と、減算を行う演算器や乗算を行う演算器を、ブロック図で示している。
【0060】
図9に示す抽気弁制御装置34には、発電機出力調整指令39と、発電機出力の記録値42sとが、入力される。そして、発電機出力調整指令39と発電機出力の記録値42sとの差分(39-42s)が計算される。
ステップS71では、先に計算された差分をグラフの横軸として、当該差分とグラフにおいて対応する抽気弁開度倍率を求める。求めた抽気弁開度倍率は、抽気弁ごとの個別の演算器において、それぞれ各第1抽気弁の弁開度の記録値19s,21s,23s,25sと乗算されて、変更後の弁開度が計算される。計算された弁開度は、それぞれ抽気弁制御装置34の外部に出力する。
ステップS72では、先に計算された差分をグラフの横軸として、当該差分とグラフにおいて対応する抽気弁開度倍率を求める。求めた抽気弁開度倍率は、抽気弁ごとの個別の演算器において、それぞれ各第2抽気弁の通常運転時の弁開度の記録値27s,29s,31s,33sと乗算されて、変更後の弁開度が計算される。計算された弁開度は、それぞれ抽気弁制御装置34の外部に出力する。なお、ステップS72は、ステップS71と比較して、差分と抽気弁開度倍率の関係のグラフが異なっている。
ステップS73では、発電機出力調整指令39の入力があるか判断され、入力がある場合(Yes)にはステップS74に進む。入力がない場合(No)には何も実行しない。
ステップS74では、運転モードを運転モード2に変更して、変更した運転モード41を抽気弁制御装置34の外部に出力する。
【0061】
このような構成とすることで、本実施の形態の原子力発電プラントは、第1の実施の形態の原子力発電プラントと比較して、以下の点が改善される。
【0062】
第1の実施の形態では、CT時の出力上昇幅を増加させるために、発電機出力一定運転モード(通常運転時)時の4つの第1抽気弁19,21,23,25の弁開度を全開ではない状態(中間開度状態)に維持しておき、運転モードを運転モード3に切り替える際に、4つの第1抽気弁の弁開度を全開状態に変更することで、負荷追従運転時(発電機出力調整運転モード(負荷追従時))のCTの発電機出力上昇幅を拡大する方法を採っていた。
しかしながら、この出力上昇幅拡大方法を採る場合は、4つの第1抽気弁19,21,23,25が全開状態においても、完全凝縮させた蒸気(凝縮水)は、ドレンライン16を介して復水器7に送る必要があるため、4つの給水加熱器11,12,13,14における設計熱交換容量を、4つの第1抽気弁が全開状態になる可能性を想定して大きめに設計しておく必要がある。そのため、発電機出力一定運転モード(通常運転時)時、即ち4つの第1抽気弁19,21,23,25の弁開度が中間開度状態にある時には、4つの給水加熱器11,12,13,14の熱交換量は、設計仕様(設計熱交換容量)未満となり、熱出力一定運転(定常運転)時の給水加熱器が過剰スペックとなる欠点が生じる。
【0063】
これに対して、本実施の形態では、高温蒸気を給水加熱器に導くための4本の第2抽気ライン26,28,30,32、及び4つの第2抽気弁27,29,31,33を追加することで、給水加熱器が過剰スペックとなる欠点を解消すると共に、抽気弁の制御を簡素化することができる。
【0064】
以下、上記の利点を示すために、本実施の形態における、出力制御幅を拡大したCTの動作原理を説明する。
なお、運転モード記録装置38は、第1の実施の形態に同じく、図2に示した構成の運転モード記録装置38で実現できるため、動作説明を省略する。
【0065】
運転モードの記録値41s=1(運転モード1)の時に、熱バランス変更装置35に発電機出力調整幅変更指令40を入力すると、図8のステップS61からステップS62及びステップS63に、指令信号が伝播する。これにより、ステップS62において、運転モード1のときに全閉状態にあった4つの第2抽気弁27,29,31,33の弁開度が全開状態となると共に、ステップS63において、運転モード1から運転モード3に切り替わる。
4つの第2抽気弁27,29,31,33が全開となることで、発電機の出力を一定で運転する運転モード(通常運転時)のときのシステムの定常状態(タービンへの流入蒸気量、給水加熱器への抽気蒸気量、給水加熱器での給水の加熱量等)が変化するが、第1の実施の形態と同様に、原子力発電プラントの制御系の働きにより、原子力発電プラントは新たな定常状態(定常状態2’)に移行する。
本実施の形態では、定常状態2’に移行するにあたり、第1抽気弁19,21,23,25の弁開度(蒸気流量)を調整する代わりに、第2抽気弁27,29,31,33を全閉から全開に変更することで、高温蒸気を追加している。本実施の形態では、この点が第1の実施の形態と異なっている。
【0066】
本実施の形態では、第1の実施の形態の原子力発電プラントと比較して、各給水加熱器11,12,13,14に供給される蒸気の平均温度が増加する。
一般に、熱交換器の熱交換量は、胴側の流体の温度(蒸気温度)と管側の流体の温度(給水温度)の差分に比例するため、本実施の形態では、第1の実施の形態に示すような、大きな熱交換容量の給水加熱器を用いずとも、給水加熱器における熱交換量を増加させることができる。
以上の効果により、本実施の形態では、給水加熱器の設備コストを抑制することが可能となる。
【0067】
なお、運転モード3の状態で、熱バランス変更装置35に発電機出力調整幅変更指令40が入力されると、ステップS65において、運転モード3から運転モード1に戻されると共に、ステップS64において、第2抽気弁の弁開度も運転モード1の時の状態(全閉状態)に戻される。
即ち、熱バランス変更装置35は、発電機出力調整幅変更指令40をトリガとして、運転モード1と運転モード3を切り替える機能を有する。
図4図8とを比較すると、図4では、運転モード3の分岐(ステップS34)において、4つの抽気弁を中間開度状態に制御する必要があるのに対して、図8では、4つの第2抽気弁を全閉状態に制御するだけでよい。従って、本実施の形態では、運転モード切替時の弁制御を簡素化できる利点がある。
【0068】
運転モード3の状態は、図2の運転モード記録装置38によって記録値41sとして記録される。また、全開状態となった8つの抽気弁19,21,23,25,27,29,31,33の弁開度及び定常状態2’における発電機出力42は、図7の通常運転状態記録装置36内の運転状態記録器36Aに記録値19s,21s,23s,25s,27s,29s,31s,33s,42sとして記録される。
【0069】
この状態で、図9に示す抽気弁制御装置34に発電機出力調整指令39が入力されると、通常のCTや第1の実施の形態と同様に、ステップS74において運転モード2に切り替わる。
本実施の形態では、第1の実施の形態とは異なり、抽気弁制御装置34において運転モードに係る分岐はなく、代わりに、第1抽気弁の制御(図9の上側の4つの弁制御)と第2抽気弁の制御(図9の下側の4つの弁制御)が同時に行われる。
【0070】
本実施の形態では、第1抽気弁19,21,23,25から、弁開閉制御を行う。図9において、第1抽気弁の弁開度を全開から全閉状態にすることで得られる発電機出力上昇幅をaと表記した。
そして、発電機出力調整指令39と発電機出力42sとの差分信号の値がaよりも大きい場合に限り、第1抽気弁に加えて、CT時の出力上昇幅を増加させる場合に全閉状態を全開状態に変更する第2抽気弁27,29,31,33の弁開度も制御される。図9において、第2抽気弁の弁開度を全開から全閉状態にすることで得られる発電機出力上昇幅をcと表記した。
第1抽気弁と第2抽気弁を共に、発電機出力上昇幅(差分)に応じた抽気弁開度倍率を計算し、通常運転状態記録装置36に記録された定常状態の抽気弁の弁開度19s,21s,23s,25s,27s,29s,31s,33sに乗じることで、負荷追従運転時の抽気弁開度を計算し、8つの抽気弁の弁開度を調整する。これにより、発電機出力を「定格出力+a+c」まで増加させることが可能となる。
【0071】
以上のように、本実施の形態の原子力発電プラントは、第1の実施の形態と比較すると、高温蒸気を給水加熱器に供給するための4本の第2抽気ライン26,28,30,31及び第2抽気弁27,29,31,33を追加する必要が生じるものの、給水加熱器の設計熱交換容量の増加が不要となって、給水加熱器コストを低減できると共に、第1抽気弁及び第2抽気弁の制御方法を簡素化することが可能となり、設備構成を合理化することができる。
【0072】
本実施の形態の原子力発電プラントによれば、第2抽気弁27,29,31,33の弁開度が、運転モード3では全開状態で、運転モード1では全閉状態であり、運転モード3における第2抽気弁27,29,31,33の弁開度が大きい。従って、運転モード3から運転モード2(負荷に追随させるために発電機の出力を調整する運転モード)に移行させたときに、運転モード1から移行させる場合と比較して、抽気弁全体(第1抽気弁及び第2抽気弁)の弁開度の制御幅を大きくできる。
これにより、需要側からの負荷追従指令(出力上昇)に対して、抽気絞り運転(CT)の出力制御幅を拡大できる。
【0073】
さらに、本実施の形態の原子力発電プラントによれば、上述したように、給水加熱器コストを低減できると共に、第1抽気弁及び第2抽気弁の制御方法を簡素化することが可能となり、設備構成を合理化することができる。
【0074】
(変形例)
上述した各実施の形態では、給水加熱器を4段として、それぞれの給水加熱器11,12,13,14に、第1の実施の形態では1本の抽気ラインを接続し、第2の実施の形態では2本の抽気ラインを接続していた。
本発明の原子力発電プラントでは、給水加熱器の段数や、各給水加熱器に接続される抽気ラインの本数は、各実施の形態の個数には限定されず、他の個数としてもよい。
給水加熱器が1個以上、抽気ラインが1本以上、それぞれ設けられていれば、本発明を適用して、第1運転モード~第3運転モードの3つの運転モードで運転することが可能である。
【0075】
上述した各実施の形態では、図5及び図9において、4つの抽気弁の弁開度を求めるために乗算する開度倍率は、同一の倍率としている。
これに対して、各抽気ラインの抽気蒸気の温度の違い等を考慮して、複数個の抽気弁の各抽気弁に係数を付与して重み付けをして乗算することも可能である。
また、複数個の抽気弁の弁開度を変更する際に、抽気弁を開閉するタイミングは、全ての抽気弁を一斉に開閉するようにしても、高温側あるいは低温側の抽気弁から順次開閉していくようにしても、どちらでも可能である。
【0076】
上述した第2の実施の形態では、第1抽気弁を、第1運転モード及び第3運転モードで共に全開状態として、第2抽気弁を、第1運転モードでは全閉状態として、第3運転モードでは全開状態としていた。
第1運転モードと第3運転モードとのそれぞれにおける、第1抽気弁及び第3抽気弁の弁開度の状態は、その他の構成とすることも可能である。
例えば、前述したように、第1抽気弁を、第1運転モード及び第3運転モードにおいて同じ弁開度にして、第2抽気弁を、第3運転モードでは、第1運転モードと比較して、弁開度が大きい状態とする場合が考えられる。この場合、第1運転モード及び第3運転モードにおける第1抽気弁の弁開度と、第1運転モードと第3運転モードとの間の第2抽気弁の弁開度の変化とを、合わせた量まで、抽気絞り運転(CT)の出力制御幅を拡大できる。従って、第1抽気弁のみ、もしくは、第2抽気弁のみで可能な出力制御幅よりも、出力制御幅を拡大することが可能になる。
また例えば、第1抽気弁を、第2の実施の形態と同様に、第1運転モード及び第3運転モードで共に全開状態として、第2抽気弁を、第2の実施の形態とは異なる弁開度とする場合が考えられる。この場合、第1運転モードにおいて全開状態の第1抽気弁によって抽気蒸気の量を多く確保できるので、給水加熱器の設計熱交換容量の増加が不要となって、給水加熱器コストを低減できる。
また例えば、第1抽気弁を、第1抽気弁を、第1運転モード及び第3運転モードにおいて同じ弁開度にして、第2抽気弁を、第2の実施の形態と同様の弁開度とする場合が考えられる。この場合、第1抽気弁は弁開度が同じであって、第2抽気弁は全閉状態と全開状態とで変化するので、第1抽気弁及び第2抽気弁の制御方法を簡素化することが可能となる。
【0077】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した各実施の形態及び実施例は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0078】
1:原子炉圧力容器(RPV)、2:炉心、3:主蒸気ライン、4:高圧タービン、5:湿分分離器、6:低圧タービン、7:復水器、8:発電機、9:復水ポンプ、10:給水ポンプ、11:第1段給水加熱器、12:第2段給水加熱器、13:第3段給水加熱器、14:第4段給水加熱器、15:給水ライン、16:ドレンライン、17:凝縮水排出ライン、18:第1段給水加熱器への(第1)抽気ライン、19:第1段給水加熱器への(第1)抽気弁、20:第2段給水加熱器への(第1)抽気ライン、21:第2段給水加熱器への(第1)抽気弁、22:第3段給水加熱器への(第1)抽気ライン、23:第3段給水加熱器への(第1)抽気弁、24:第4段給水加熱器への(第1)抽気ライン、25:第4段給水加熱器への(第1)抽気弁、26:第1段給水加熱器への第2抽気ライン、27:第1段給水加熱器への第2抽気弁、28:第2段給水加熱器への第2抽気ライン、29:第2段給水加熱器への第2抽気弁、30:第3段給水加熱器への第2抽気ライン、31:第3段給水加熱器への第2抽気弁、32:第4段給水加熱器への第2抽気ライン、33:第4段給水加熱器への第2抽気弁、34:抽気弁制御装置、35:熱バランス変更装置、36:通常運転状態記録装置、38:運転モード記録装置、39:発電機出力調整指令、40:発電機出力調整幅変更指令、41:運転モード、42:発電機出力、43:入出力接続機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9