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  • 特開-イオン源 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008611
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】イオン源
(51)【国際特許分類】
   H01J 27/02 20060101AFI20230112BHJP
   H01J 37/08 20060101ALI20230112BHJP
   H05H 1/24 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
H01J27/02
H01J37/08
H05H1/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112301
(22)【出願日】2021-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111121
【弁理士】
【氏名又は名称】原 拓実
(74)【代理人】
【識別番号】100118474
【弁理士】
【氏名又は名称】寺脇 秀▲徳▼
(74)【代理人】
【識別番号】100141911
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 譲
(72)【発明者】
【氏名】大崎 一哉
(72)【発明者】
【氏名】松田 晋弥
(72)【発明者】
【氏名】高山 茂貴
(72)【発明者】
【氏名】佐古 貴行
【テーマコード(参考)】
2G084
5C101
【Fターム(参考)】
2G084AA12
2G084BB25
2G084BB30
2G084CC27
2G084CC32
2G084DD39
2G084FF27
5C101DD03
5C101DD25
(57)【要約】
【課題】カソード電極表面に放電痕が付いた場合でも、短期間の交換作業で修復すること
ができるイオン源を得ることにある。
【解決手段】プラズマを生成してイオンビームを取り出すイオン源において、
前記イオンビームを活用する装置に導くカソード電極にこのカソード電極の外表面を保
護するカソード電極表面状態調整機構を配置することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを生成してイオンビームを取り出すイオン源において、
前記イオンビームを活用する装置に導くカソード電極に、このカソード電極の外表面を
保護するカソード電極表面状態調整機構を配置することを特徴とするイオン源。
【請求項2】
前記カソード電極表面状態調整機構は、前記カソード電極外表面に着脱自在に配置され
、その設置位置が任意に調整可能なことを特徴とする請求項1に記載のイオン源。
【請求項3】
前記カソード電極表面状態調整機構が、カソード電極中心軸と垂直の面において前記プ
ラズマの生成を行う部分であるプラズマチャンバの前記カソード電極表面状態調整機構側
の端部から少なくとも所定の範囲の前記カソード電極の外表面を覆っていることを特徴と
する請求項1または2に記載のイオン源。
【請求項4】
前記カソード電極表面状態調整機構が、多層の膜で形成されていることを特徴とする請
求項1から請求項3の何れか1項に記載のイオン源。
【請求項5】
前記カソード電極表面状態調整機構の最外膜を巻取るカソード電極表面膜巻取り機構を
有することを特徴とする請求項4に記載のイオン源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、プラズマを生成してイオンビームを取り出すイオン源に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンビームを活用する装置の一つである粒子加速装置の最上流部である入射器部分で
は、ビーム生成を行うイオン源が用いられる。イオン源はプラズマ生成を行うプラズマチ
ャンバ、プラズマ生成に必要な永久磁石、生成したプラズマを引き出す、高電圧部に設置
されるアノード電極とグラウンド部に設置されるカソード電極、高電圧部とグラウンド部
を絶縁する絶縁筒から構成されている。
【0003】
ビーム引出のため高電圧部とグラウンド部間には数十kV程度の電位差を設けるが、そ
の際に最近接となるプラズマチャンバとカソード電極間で放電が起き、ビーム引出を実施
できない場合がある。またこの放電によりカソード電極外表面に放電痕が付くこと、もし
くはビーム引出しによるカソード外表面に付着する煤等の汚れにより電圧を印加できない
場合には、カソード電極外表面を滑らかにするためイオン源を分解して研磨加工、もしく
は新品のカソード電極と交換する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-179632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
イオン源は生成したプラズマをビームとして引き出すために、プラズマ生成部分とビー
ム引出し部に電位差を設けることが一般的である。通常電位差は数十kV程度と高電圧で
あるため、高電圧部とグラウンド部間の放電が懸念される。特に高電圧部とグラウンド部
間の最近接部分となるビーム引出し電極(カソード電極)付近は放電が起こりやすく、長
期間のイオン源運転によりカソード電極外表面に放電痕がつき、この放電痕による凹凸に
よって慢性的な放電が発生し、安定したビーム引出しが実施できない可能性があることが
懸念されている。
【0006】
その場合、カソード電極表面における放電痕による凹凸を削除して滑らかにするため、
イオン源を分解し、カソード電極の研磨加工、もしくは新品のカソード電極との交換が必
要となりカソード電極の研磨または交換作業等作業が煩雑となる恐れがあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記実施形態に係るイオン源は、プラズマを生成してイオンビームを取り出すイオン源
において、前記イオンビームを活用する装置に導くカソード電極にこのカソード電極の外
表面を保護するカソード電極表面状態調整機構を配置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態は、上述した課題を解決するためになされたものであり、カソード電
極外表面に放電痕が付いた場合でも、短期間の交換作業で修復することができるイオン源
を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本説明の実施例1,2を説明するイオン源の概略構成図。
図2】本説明の実施例3を説明するイオン源の概略構成図。
図3】本説明の実施例4,5を説明するイオン源の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るイオン源の実施例について、図面を参照して説明する。
【0011】
(実施例1)
まず、本発明の実施例1を、図1を参照して説明する。図1は本説明の実施例1を説明
するイオン源20の概略構成図である。
【0012】
本実施例1において、図1に示されるように例えば真空中でレーザ等をターゲット(図
示せず)に照射してプラズマ生成を行う部分であるプラズマチャンバ4にはモリブデン等
で形成されたアノード電極2が固定され、プラズマチャンバ4の外周にはプラズマ生成に
必要な磁場を生成する磁石3が配置されている。
【0013】
プラズマチャンバ4内で生成されたプラズマ1は磁石3によって引き出されイオンビー
ム9として円筒状のモリブデン等で形成されたカソード電極5に導かれる。このカソード
電極5に導入されたイオンビーム9は線形加速器等のイオンビーム9を活用する装置10
に導かれる。そして、この装置10と磁石3は絶縁筒6によって電気的に絶縁されて接続
されている。また絶縁筒6の材質には、セラミック、テフロン(登録商標)等の絶縁材が使用されてい
る。
【0014】
カソード電極5にはその外筒表面、特に放電が発生しやすい部分である先端部近傍にカ
ソード電極表面状態調整機構7が設置されている。このカソード電極表面状態調整機構7
の外表面状態は放電を発生させないように滑らかで、表面粗さの目安は放電の発生を抑制
するようにRa1.6a以下と設定されている。
【0015】
このカソード電極表面状態調整機構7をカソード電極5の少なくとも外表面先端部に設
置することで、放電が発生した場合においてもカソード電極5を保護し、放電痕はカソー
ド電極表面状態調整機構7の外表面のみに形成されるので、カソード電極5の放電痕の生
成を抑制することができる。
【0016】
カソード電極表面状態調整機構7に放電痕が生成されることで、高価で長納期なカソー
ド電極5ではなく、安価で短納期なカソード電極表面状態調整機構7を取り換えることで
、カソード電極表面状態調整機構7を含むカソード電極外表面の状態を簡単にかつ短期間
で修復することができる。
【0017】
(実施例2)
次に、本発明の実施例2を、図1を用いて説明する。なお実施例1と同一の構成には同
一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0018】
実施例2においてカソード電極表面状態調整機構7はカソード電極5に固定されている
が、着脱自在な構造である。またカソード電極表面状態調整機構7とカソード電極5の位
置関係は、軸方向に任意に調整可能である。固定方法としては、はめ合い、ねじ止め等と
することができる。
【0019】
カソード電極表面状態調整機構7をカソード電極5から着脱可能に配置することで、カ
ソード電極表面状態調整機構7のみの交換が可能となる。またカソード電極表面状態調整
機構7とカソード電極5の位置関係は、任意に調整可能であることでカソード電極の放電
痕が付く位置にカソード電極表面状態調整機構7を設置することによってカソード電極表
面状態調整機構7を必要最小限の大きさで設置することができる。
【0020】
カソード電極表面状態調整機構7を着脱可能に設置することで、放電によって外表面に
放電痕が形成された場合においても、高価でかつ大規模な交換作業となるカソード電極5
ではなく、安価で簡単に交換作業ができるカソード電極表面状態調整機構7の交換によっ
て、カソード電極表面状態調整機構7を含むカソード電極外表面の状態を簡単にかつ短期
間で修復することができる。
【0021】
(実施例3)
次に、本発明の実施例3を、図2を用いて説明する。なお図1と同一の構成には同一の
符号を付し、重複する説明は省略する。
【0022】
図2においてイオン源21を構成するカソード電極表面状態調整機構7はカソード電極
中心軸と垂直の面においてプラズマチャンバの図中左側端部(カソード電極表面状態調整
機構側の端部)Aの位置から所定の範囲、少なくとも±25mmの範囲Bのカソード電極
5の外表面を覆う構造である。
【0023】
カソード電極表面状態調整機構7がプラズマチャンバの左側端部から所定の範囲B、少
なくとも±25mmの範囲のカソード電極5の外表面を覆う構造であることで、カソード
電極5で最も放電痕の着きやすい範囲を保護することができる。
【0024】
カソード電極5で最も放電痕の着きやすい範囲を保護することで、放電によりカソード
電極本体が直接傷つくことを効率良く防止することができる。
【0025】
(実施例4)
次に、本発明の実施例4を、図3を用いて説明する。なお実施例1、2、3と同一の構
成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0026】
図3においてイオン源22を構成するカソード電極表面状態調整機構11は多層の膜と
なっており、各膜の表面状態が同一である。カソード電極表面状態調整機構11の多層の
膜は、手動、または自動で、一枚ずつ最外膜を取り外すことが可能である。またカソード
電極表面状態調整機構7の材質には、セラミック、テフロン(登録商標)、カプトン、アルミニウム、
ステンレス、銅、真鍮等で形成されている。
【0027】
このカソード電極表面状態調整機構11が多層の膜で各膜の表面状態が同一であること
で、放電痕が付いた際に最外膜を取り外すことによって、カソード電極表面状態調整機構
11を含むカソード電極外表面の状態を簡単にかつ短期間で修復することができる。
【0028】
(実施例5)
次に、本発明の実施例5を、図3を用いて説明する。なお図1と同一の構成には同一の
符号を付し、重複する説明は省略する。
【0029】
本実施例5に係るイオン源22は、実施例4に記載されたカソード電極表面状態調整機
構11の最外膜を取り外すカソード表面膜巻取り機構8を新たにカソード電極5に設けた
ものである。カソード表面膜巻取り機構8は外部から有線、または無線で電気的に回転動
作してカソード電極表面状態調整機構11の最外膜を巻き取って取り外す構成としている
【0030】
カソード表面膜巻取り機構8があり、外部から電気的に動作させることで、真空状態を
保持したままカソード電極表面状態調整機構11の最外膜を取り外すことが可能となる。
【0031】
真空状態を保持したままカソード電極表面状態調整機構11の最外膜を取り外せる構成
としたことで、放電が発生し、カソード電極表面状態調整機構11の外表面に放電傷が形
成されても、イオン源22の運転を中断させることなくカソード電極表面状態調整機構1
1を含むカソード外表面状態を簡単にかつ短期間で修復することができる。
【0032】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したも
のであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
【0033】
これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を
逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。
【0034】
これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲
に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0035】
1…プラズマ
2…アノード電極
3…磁石
4…プラズマチャンバ
5…カソード電極
6…絶縁筒
7、11…カソード電極表面状態調整機構
8…カソード電極表面膜巻取り機構
9…イオンビーム
10…装置
20、21、22…イオン源
図1
図2
図3