IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ インフィニューム インターナショナル リミテッドの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086128
(43)【公開日】2023-06-21
(54)【発明の名称】ホウ酸化洗浄剤、及びその潤滑用途
(51)【国際特許分類】
   C10M 159/22 20060101AFI20230614BHJP
   C10M 139/00 20060101ALN20230614BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20230614BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20230614BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20230614BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20230614BHJP
【FI】
C10M159/22
C10M139/00 A
C10N10:04
C10N40:04
C10N40:08
C10N40:25
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022196810
(22)【出願日】2022-12-09
(31)【優先権主張番号】21213439.9
(32)【優先日】2021-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】500010875
【氏名又は名称】インフィニューム インターナショナル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100202603
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 智史
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー コクソン
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー デラモア
(72)【発明者】
【氏名】マーカス ポポヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】マリカ ラナ
(72)【発明者】
【氏名】アラ サモンテ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ウィルキンソン
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104BJ05C
4H104CA04A
4H104DA02A
4H104DB06C
4H104EB05
4H104EB07
4H104EB08
4H104EB09
4H104EB10
4H104EB13
4H104EB15
4H104FA02
4H104PA03
4H104PA05
4H104PA42
4H104PA45
(57)【要約】
【課題】ホウ素含有洗浄剤を提供する。
【解決手段】炭酸塩部分とホウ酸塩部分との両方を含み、以下の特徴:少なくとも3.8の塩基度指数;質量%でホウ素に対する石鹸含有量の比が55mmol/kg超;少なくとも330mmol/kgの石鹸含有量;ASTM D2896に従って測定した少なくとも220mgKOH/gのTBN;及び0.75~6.0の炭酸塩に対するホウ酸塩の質量比:を示す過塩基性アルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤を本明細書に開示する。前記アルカリ土類金属はカルシウム及び/又はマグネシウムを含み、前記ヒドロカルビル置換基の炭素原子数は9~30個である。また、具体的にパッケージ安定性を示すホウ素含有サリチル酸塩洗浄剤を製造する方法も開示し、更にパッケージ安定性を示す潤滑剤添加剤パッケージ濃縮物、及びそれを含有する潤滑油組成物も開示する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸塩部分とホウ酸塩部分との両方を含み、以下の特徴:
少なくとも3.8の塩基度指数;
質量%でホウ素に対する石鹸含有量の比が55mmol/kg超;
少なくとも330mmol/kgの石鹸含有量;
ASTM D2896に従って測定した少なくとも220mgKOH/gのTBN;及び
0.75~6.0の炭酸塩に対するホウ酸塩の質量比
を示す過塩基性アルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤であって、
前記アルカリ土類金属はカルシウム及び/又はマグネシウムを含み、前記ヒドロカルビル置換基の炭素原子数は9~30個である、過塩基性アルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤。
【請求項2】
以下の特徴:
前記塩基度指数は9.0以下である;
前記質量%でホウ素に対する石鹸含有量の比は300mmol/kg未満である;
前記ASTM D2896に従って測定したTBNは多くとも500mgKOH/gである;
前記石鹸含有量は多くとも550mmol/kgである;並びに
前記ヒドロカルビル置換基はC14‐C24アルキル又はアルケニル部分を含む:
のうちの少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は5つ全てが満たされる、請求項1に記載の過塩基性サリチル酸カルシウム洗浄剤。
【請求項3】
ASTM D4951に従ったホウ素含有量は少なくとも3.2質量%である、請求項1又は2に記載の過塩基性サリチル酸カルシウム洗浄剤。
【請求項4】
前記炭酸塩に対するホウ酸塩の質量比は1.0~5.0である、請求項1~3のいずれか1項に記載の過塩基性サリチル酸カルシウム洗浄剤。
【請求項5】
ASTM D4951に従ったアルカリ土類金属含有量は少なくとも7.0質量%である、請求項1~4のいずれか1項に記載の過塩基性サリチル酸カルシウム洗浄剤。
【請求項6】
ホウ素に対するアルカリ土類金属の質量比は1.5~5.5である、請求項1~5のいずれか1項に記載の過塩基性サリチル酸カルシウム洗浄剤。
【請求項7】
前記塩基度指数は5.0~8.3であり;
前記質量%でホウ素に対する石鹸含有量の比は70~275mmol/kgであり;
前記ASTM D2896に従って測定したTBNは265~350mgKOH/gであり;
ASTM D4951に従ったカルシウムとマグネシウムとを合わせた含有量は7.0~12.5質量%であり;
ASTM D4951に従ったホウ素含有量は3.5~6.8質量%であり;
前記石鹸含有量は350~520mmol/kgであり;
ホウ素に対するアルカリ土類金属の質量比は1.7~4.5であり;
前記炭酸塩部分に対するホウ酸塩の質量比は1.6~3.0であり;
前記ヒドロカルビル置換基はC14‐C19アルキル又はアルケニル部分を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の過塩基性サリチル酸カルシウム洗浄剤。
【請求項8】
炭酸塩部分とホウ酸塩部分との両方を含む、実質的にパッケージ安定性を示す過塩基性アルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤を製造する方法であって、以下の工程:
酸の鉱物油溶液と、アルカリ土類金属炭酸塩又は重炭酸塩を含む化学量論的過剰量の中和剤とを、任意に促進剤の存在下、60~200℃の温度で、過塩基性ではあるがホウ酸化されていないアルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤を形成するに十分な時間、反応させることで製造した油溶性又は油分散性の、過塩基性ではあるがホウ酸化されていないアルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤を提供する工程であって、前記洗浄剤は、少なくとも3.5の塩基度指数、少なくとも330mmol/kgの石鹸含有量、ASTM D4951に従って測定した少なくとも7.0質量%のアルカリ土類金属含有量、及びASTM D2896に従った少なくとも240mgKOH/gのTBNを示し、前記アルカリ土類金属はカルシウム及び/又はマグネシウムを含み、前記過塩基性ではあるがホウ酸化されていないアルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤は炭酸塩部分を含み、ヒドロカルビル置換基の炭素原子数は9~30個である、工程;
非プロトン性炭化水素溶媒及びC1‐C4第一級アルコールを含むが意図的に添加された水を含まない有機希釈媒体中、前記過塩基性ではあるがホウ酸化されていないアルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤を、100℃未満の温度でホウ素源と共に混和させ、反応混合物を形成する工程;
前記反応混合物を、ホウ酸化過程において3℃/分未満の加熱速度で105℃~225℃の温度に加熱し、ホウ酸化洗浄剤粗生成物を形成する工程;
任意で更に非プロトン性炭化水素溶媒を添加し、それにより、再度ホウ酸化洗浄剤粗生成物を形成する工程;並びに
前記希釈媒体、及び前記ホウ酸化過程中に形成された水の大部分を除去して、請求項1~7のいずれか1項に記載の過塩基性アルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤を形成する工程
を含む、方法。
【請求項9】
前記非プロトン性炭化水素溶媒はベンゼン、キシレン、トルエン、メシチレン、ナフタレン、シクロヘキサン、シクロオクタン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、もしくはこれらの組み合わせを含み;
前記ホウ素源は、オルトホウ酸、メタホウ酸、テトラホウ酸、ホウ酸モノアンモニウム、ホウ酸ジアンモニウム、ホウ酸トリアンモニウム、ホウ酸二水素C1‐C4アルキル、ホウ酸水素ジ‐C1‐C4アルキル、ホウ酸トリ‐C1‐C4アルキル、もしくはこれらの組合せを含む
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
以下を含む潤滑剤添加剤パッケージ濃縮物であって:
40質量%未満のグループI、グループII、及び/又はグループIII潤滑油ベースストック;
請求項1~7のいずれか1項に記載の、及び/又は請求項8又は9の方法に従って製造した少なくとも0.5質量%のホウ素含有過塩基性サリチル酸カルシウム洗浄剤;
少なくとも1種の無灰分散剤;
少なくとも1種の抗酸化剤;
少なくとも1種の摩擦調整剤;並びに
任意に、追加の洗浄剤、腐食防止剤、耐摩耗剤、シール膨潤剤、消泡剤、極圧剤、粘度調整剤、及び流動点降下剤のうち1種以上
を含む、潤滑剤添加剤パッケージ濃縮物。
【請求項11】
前記少なくとも1種の摩擦調整剤は、硫黄を実質的に含まない無灰有機摩擦調整剤を含む、請求項10に記載の潤滑剤添加剤パッケージ濃縮物。
【請求項12】
前記少なくとも1種の摩擦調整剤は、窒素を実質的に含まず硫黄を実質的に含まない無灰有機摩擦調整剤を含む、請求項10に記載の潤滑剤添加剤パッケージ濃縮物。
【請求項13】
約60℃で少なくとも12週間、パッケージ安定性を示す請求項10~12のいずれか1項に記載の潤滑剤添加剤パッケージ濃縮物。
【請求項14】
潤滑油組成物であって:
グループI、グループII、グループIII、及び/又はグループIVのベースストックのうち1種以上を含む少なくとも70質量%の潤滑油ベースストック;並びに
請求項10~13のいずれか1項に記載の少なくとも5質量%の潤滑剤添加剤パッケージ濃縮物
を含む、潤滑油組成物。
【請求項15】
潤滑油組成物であって:
グループI、グループII、グループIII、及び/又はグループIVのベースストックのうち1種以上を含む少なくとも85質量%の潤滑油ベースストック;
請求項1~7のいずれか1項に記載の、及び/又は請求項8又は9の方法に従って製造した少なくとも0.05質量%のホウ素含有過塩基性サリチル酸カルシウム洗浄剤;
少なくとも1種の無灰分散剤;
少なくとも1種の抗酸化剤;
少なくとも1種の摩擦調整剤;並びに
任意に、追加の洗浄剤、腐食防止剤、耐摩耗剤、シール膨潤剤、粘着剤、解乳化剤、消泡剤、極圧剤、粘度調整剤、及び流動点降下剤のうち1種以上
を含む、潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ホウ素含有洗浄剤、一般に、具体的にはホウ酸化及び炭酸化過塩基性サリチル酸塩洗浄剤に関する。本開示はまた、好ましくはパッケージ安定性を示すホウ素含有洗浄剤、並びにパッケージ安定性を示す潤滑剤添加剤パッケージ濃縮物、及びそのようなホウ素含有洗浄剤を含有する潤滑油組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホウ素は、洗浄剤と混合して、又は独立分子として様々な方法で潤滑剤調合物に導入できるが、ホウ素をより多く導入するためのそれら形態のほとんどは、添加剤パッケージの配合及び/又は調合物の作製において不安定である。
従来から、これらの困難はホウ素含有分散剤を使用することで軽減されている。しかし、ホウ素量を比較的少なくする以外では、ホウ素含有分散剤の使用は、添加剤パッケージ又は調合物への分散剤の負荷が大きくなることを意味し、このことは特に調合物が低粘度に移行すると、ベースストック/油剤に粘性の負の影響を及ぼすことがある。分散剤に大量のホウ素を更に添加し、ホウ素が運転中に解離して潤滑表面に移動できる能力を維持し、トライボフィルムの形成を促進できるようにすることは非常に困難である。
【0003】
ホウ素含有洗浄剤は存在するが、ホウ素含有分散剤よりもまだ、ホウ素含有洗浄剤は不安定であり、含有するホウ素が実際には利用困難/不活性である傾向がある。
驚くべきことに、ある種の洗浄剤を注意深くホウ酸化することで、既知の不安定な状況(例えば、サリチル酸塩洗浄剤と特定の有機摩擦調整剤との相互作用により生じる不安定さ)でも、非常に利用しやすいホウ素を比較的多く添加できるようになり、かつパッケージ/調合物の相対的な安定性を維持できるようになることが見出された。
ホウ酸化の過程のみならず洗浄剤自体の特定の側面を制御することにより、安定かつ有用なホウ素含有洗浄剤は同様に、比較的安定で利用しやすいホウ素を含み、顕著な粘度の欠点を伴わない添加剤パッケージ濃縮物及び調合物を向上させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4,873,009号明細書
【特許文献2】米国特許第3,254,025号明細書
【特許文献3】米国特許第3,502,677号明細書
【特許文献4】米国特許第4,857,214号明細書
【特許文献5】米国特許第4,798,684号明細書
【特許文献6】米国特許第5,084,197号明細書
【特許文献7】米国特許第8,048,833号明細書
【特許文献8】米国特許第10,731,101号明細書
【特許文献9】米国特許第2,719,125号明細書
【特許文献10】米国特許第2,719,126号明細書
【特許文献11】米国特許第3,087,937号明細書
【特許文献12】米国特許第2,760,933号明細書
【特許文献13】米国特許第2,836,564号明細書
【特許文献14】米国特許第3,663,561号明細書
【特許文献15】米国特許第4,702,850号明細書
【特許文献16】米国特許第5,840,663号明細書
【特許文献17】米国特許出願公開第2009/0005277号明細書
【特許文献18】米国特許第4,263,152号明細書
【特許文献19】米国特許第4,285,822号明細書
【特許文献20】米国特許第4,283,295号明細書
【特許文献21】米国特許第4,272,387号明細書
【特許文献22】米国特許第4,265,773号明細書
【特許文献23】米国特許第4,261,843号明細書
【特許文献24】米国特許第4,259,195号明細書
【特許文献25】米国特許第4,259,194号明細書
【特許文献26】国際公開第94/06897
【特許文献27】米国特許第1,815,022号明細書
【特許文献28】米国特許第2,015,748号明細書
【特許文献29】米国特許第2,191,498号明細書
【特許文献30】米国特許第2,387,501号明細書
【特許文献31】米国特許第2,655,479号明細書
【特許文献32】米国特許第2,666,746号明細書
【特許文献33】米国特許第2,721,877号明細書
【特許文献34】米国特許第2,721,878号明細書
【特許文献35】米国特許第3,250,715号明細書
【特許文献36】米国特許第10,584,300号明細書
【特許文献37】米国特許第5,380,508号明細書
【特許文献38】米国特許出願公開第2015/0005208号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】米国石油協会(API)刊行物「Engine Oil Licensing and Certification System」、産業サービス部門、第14版、1996年12月、付録1、1998年12月
【非特許文献2】Klamann「Lubricants and Related Products」、Wiley VCH社、1984年
【非特許文献3】M.Belzer著、Journal of Tribology、1992年、第114巻、pp.675‐682
【非特許文献4】M.Belzer及びS.Jahanmir著、Lubrication Science、1988年、第1巻、pp.3‐26
【非特許文献5】C.V.Smallheer及びR.Kennedy Smith著「Lubricant Additives」、1967年、pp.1‐11
【発明の概要】
【0006】
従って、本開示は、炭酸塩部分及びホウ酸塩部分の両方を含む過塩基性アルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤に関する。過塩基性アルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤は有利には、以下の特徴を示す:塩基度指数は少なくとも3.8である;質量%でホウ素に対する石鹸含有量の比は55mmol/kgを超える;石鹸含有量は少なくとも330mmol/kgである;ASTM規格(ASTM)D2896に従って測定した総塩基価(TBN)は少なくとも220mgKOH/gである;炭酸塩に対するホウ酸塩の質量比は0.75~6.0である。ここで、前記アルカリ土類金属はカルシウム及び/又はマグネシウムを含み、ヒドロカルビル置換基の炭素原子数は9~30個である。追加的に、又は代替的に、過塩基性アルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤はまた、以下の特徴の少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は5つ全てを示す:塩基度指数は9.0以下である;質量%でホウ素に対する石鹸含有量の比は300mmol/kg未満である;ASTM D2896に従って測定したTBNは多くとも500mgKOH/gである;石鹸含有量は多くとも550mmol/kgである;ヒドロカルビル置換基はC14‐C24アルキル又はアルケニル部分を含む。更に追加的に、又は代替的に、過塩基性アルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤は、以下の特徴の1つ以上を示してもよい:ASTM D4951に従ったホウ素含有量は少なくとも3.2質量%である;炭酸塩に対するホウ酸塩の質量比は1.0~5.0である;ASTM D4951に従ったアルカリ土類金属含有量は少なくとも7.0質量%である;ホウ素に対するアルカリ土類金属の質量比は1.5~5.5である。特定の実施形態では、過塩基性サリチル酸カルシウム洗浄剤は以下の特徴全てを示す:塩基度指数は5.0~8.3である;質量%でホウ素に対する石鹸含有量の比は70~275mmol/kgである;ASTM D2896に従って測定したTBNは265~350mgKOH/gである;ASTM D4951に従ったカルシウムとマグネシウムとを合わせた含有量は7.0~12.5質量%である;ASTM D4951に従ったホウ素含有量は3.5~6.8質量%である;石鹸含有量は350~520mmol/kgである;ホウ素に対するアルカリ土類金属の質量比は1.7~4.5である;炭酸部分に対するホウ酸塩の質量比は1.6~3.0である;ヒドロカルビル置換基はC14‐C19アルキル又はアルケニル部分を含む。
【0007】
本開示はまた、炭酸塩部分とホウ酸塩部分の両方を含む、実質的にパッケージ安定性を示す過塩基性アルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤を製造する方法に関する。この方法は、以下の工程:油溶性又は油分散性の、過塩基性ではあるがホウ酸化されていないアルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤を提供する工程を含み、前記洗浄剤は、酸の鉱物油溶液と、アルカリ土類金属炭酸塩又は重炭酸塩を含む化学量論的過剰量の中和剤とを、任意に促進剤の存在下、高温(例えば、60~200℃)で、過塩基性ではあるがホウ酸化されていないアルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤を形成するに十分な時間、反応させることで製造した。前記洗浄剤は、塩基度指数が少なくとも3.5であり、石鹸含有量が少なくとも330mmol/kgであり、ASTM D4951に従って測定したアルカリ土類金属含有量が少なくとも7.0質量%であり、ASTM D2896に従ったTBNが少なくとも240mgKOH/gである。前記アルカリ土類金属はカルシウム及び/又はマグネシウムを含む。この過塩基性ではあるがホウ酸化されていないアルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤は炭酸塩部分を含み、ヒドロカルビル置換基の炭素原子数は9~30個である。非プロトン性炭化水素溶媒及びC1‐C4第一級アルコールを含み、任意で、しかし好ましくは意図的に添加された水を含まない有機希釈媒体中、この過塩基性ではあるがホウ酸化されていないアルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤生成物を、100℃未満の温度でホウ素源と共に混和させ、反応混合物を形成する。この反応混合物を、ホウ酸化工程において3℃/分未満の加熱速度で100℃を超える(例えば105℃~225℃)温度に加熱し、ホウ酸化洗浄剤粗生成物を形成する。任意で追加の非プロトン性炭化水素溶媒を更に添加してもよく、それにより、再度ホウ酸化洗浄剤粗生成物が形成される。希釈媒体、並びにホウ酸化過程中に形成された水の大部分を除去して、本開示に従った過塩基性アルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤を形成することが可能である。いくつかの実施形態では、非プロトン性炭化水素溶媒は、ベンゼン、キシレン、トルエン、メシチレン、ナフタレン、シクロヘキサン、シクロオクタン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、又はこれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、ホウ素源は、オルトホウ酸、メタホウ酸、テトラホウ酸、ホウ酸モノアンモニウム、ホウ酸ジアンモニウム、ホウ酸トリアンモニウム、ホウ酸二水素C1‐C4アルキル、ホウ酸水素ジ‐C1‐C4アルキル、ホウ酸トリ‐C1‐C4アルキル、又はこれらの組合せが挙げられる。
【0008】
本開示はまた、以下を含む潤滑剤添加剤パッケージ濃縮物に関する:40質量%未満のグループI、グループII、及び/又はグループIII潤滑油ベースストック;本開示に従った、及び/又は本開示の方法に従って製造した少なくとも0.5質量%のホウ素含有過塩基性サリチル酸カルシウム洗浄剤;少なくとも1種の無灰分散剤;少なくとも1種の抗酸化剤;少なくとも1種の摩擦調整剤;並びに任意に、追加の洗浄剤、腐食防止剤、耐摩耗剤、シール膨潤剤、消泡剤、極圧剤、粘度調整剤、及び流動点降下剤のうち1種以上。潤滑剤添加剤パッケージ濃縮物中の少なくとも1種の摩擦調整剤は、硫黄を実質的に含まない無灰有機摩擦調整剤、及び/又は窒素を実質的に含まず硫黄を実質的に含まない無灰有機摩擦調整剤を含むことが可能である。有利にも、潤滑剤添加剤パッケージ濃縮物は約60℃で少なくとも12週間、パッケージ安定性を示すことが可能である。
本開示はまた、以下を含む潤滑油組成物に関する:グループI、グループII、グループIII、及び/又はグループIVのベースストックのうち1種以上を含む少なくとも70質量%の潤滑油ベースストック;並びに本開示に従った少なくとも5質量%の潤滑剤添加剤パッケージ濃縮物。
【0009】
本開示はまた、以下を含む潤滑油組成物に関する:グループI、グループII、グループIII、及び/又はグループIVのベースストックのうち1種以上を含む少なくとも85質量%の潤滑油ベースストック;本開示に従った、及び/又は本開示の方法に従って製造した少なくとも0.05質量%のホウ素含有過塩基性サリチル酸カルシウム洗浄剤;少なくとも1種の無灰分散剤;少なくとも1種の抗酸化剤;少なくとも1種の摩擦調整剤;並びに任意に、追加の洗浄剤、腐食防止剤、耐摩耗剤、シール膨潤剤、粘着剤、解乳化剤、消泡剤、極圧剤、粘度調整剤、及び流動点降下剤のうち1種以上。
本明細書に記載の洗浄剤、添加剤パッケージ濃縮物、及び潤滑油組成物は、具体的に乗用車用モーターオイル(PCMO)及び高荷重ディーゼル(HDD)エンジン用といったエンジン潤滑剤用途に有用であるとして開示しているが、これらは追加的に又は代替的に、他の用途、例えば、それらの自動車のパワートレイン(トランスミッションなど)、ハイブリッド電気駆動又は完全電気駆動パワートレインの電気又は電子部品の少なくとも一部の冷却液、2ストローク及び/又は4ストローク船舶エンジン潤滑剤、車両又は定置式エンジンの燃料添加剤/アドパック(addpacks)/組成物としての小型(例えば、オートバイ、造園車)エンジン潤滑剤、機能性(例えば、油圧)液用途等における潤滑剤として有用性を見出せる可能がある。
【発明を実施するための形態】
【0010】
用語「を含む(comprising)」又は任意の同義語は、記載の特徴、工程、整数、又は成分の存在を指定するが、1つ以上の他の特徴、工程、整数、成分、又はそれらの群の存在又は追加を排除するものではなく、それは基本的に用語「を含む(including)」の同義語である。表現「から成る」もしくは「から基本的になる」、又は同義語は、「を含む」又は同義語に包含されてもよく、ここで「から基本的になる」は半排他的であり、それが適用される組成物の特徴に大幅に影響を与えない物質を含むことを許容する。
用語「主量」とは、組成物の質量を基準として、組成物の50質量%超、例えば60質量%超、70質量%超、80~99質量%、又は80~99.9質量%を意味する。
用語「少量」とは、組成物の質量を基準として、組成物の50質量%以下;例えば、40質量%以下、30質量%以下、20~0.1質量%、又は20~0.001質量%を意味する。
用語「質量%」及び「質量基準%」はそれぞれ、別段の指示がない限り、組成物の質量(通常、グラムで測定)に対する成分の質量パーセントを意味し、あるいは、重量パーセント(「重量%」、「wt%」、「重量基準%」又は「%w/w」)と称する。
【0011】
例えば添加剤成分中の「活性成分」(「a.i.」又は「A.I.」とも称する)という用語は、希釈剤でも溶媒/溶離剤でもない材料を指す。
本明細書で使用する用語「油溶性」及び「油分散性」、又は同義語は、化合物又は添加剤が全ての割合で油性媒体中に可溶、溶解可能、混和可能、又は懸濁可能であることを必ずしも示すものではない。しかし、これらの用語は、例えば、媒体を使用する環境において、化合物又は添加剤が例えば、意図した効果を発揮するに十分な程度に、油媒体中に比較的可溶性又は安定的に分散性であることを意味する。更に、他の成分/添加剤を追加的に組み込んで、必要に応じて特定の成分/添加剤の組み込みレベルを高めてもよい。
【0012】
用語「基」、「部分」、及び「ラジカル」、並びに同義語は、本明細書において交換可能に使用される。
用語「炭化水素」とは、水素原子と炭素原子との化合物を意味する。「ヘテロ原子」は、炭素又は水素以外の原子である。「炭化水素」、特に「精製炭化水素」と称する場合、炭化水素はまた、1つ以上のヘテロ原子又はヘテロ原子含有基(ハロ、特にクロロ及び/又はフルオロ、アミノ、アミド、アルコキシル、カルボニル、カルボキシル、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトリル、ニトロ、ニトロソ、スルホキシ、スルホニル等)を少量で含有してもよい(例えばここでは、ヘテロ原子(単数又は複数)は炭化水素の炭化水素特性を実質的に変化させない)。
用語「ヒドロカルビル」とは、水素原子及び炭素原子を含む基を意味する。好ましくは、この基は、別段に指定しない限り、水素原子及び炭素原子から基本的に成り、より好ましくは、水素原子及び炭素原子のみから成る。本明細書で使用する場合、用語「ヒドロカルビル」は、特に「アルキル」、「アルケニル」、「アルキニル」、「アリール」、「アルカリル」、及び「アラルキル」を包含する。ヒドロカルビル基は、基の基本的なヒドロカルビル性に影響を与えないのであれば炭素及び水素以外の1種以上のヘテロ原子を含有してもよい。当業者は、好適な基(例えば、ハロ、特にクロロ及び/又はフルオロ、アミノ、アミド、アルコキシル、カルボニル、カルボキシル、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトリル、ニトロ、ニトロソ、スルホキシ、スルホニル等)を認識しているものとする。
用語「アルキル」とは、炭素及び水素のラジカル(例えば、C1‐C30)を意味する。化合物中のアルキル基は通常、共有結合を介して化合物に直接結合している。別段に指定しない限り、アルキル基は直鎖状(非分枝状)、分枝状、環状、非環状、又は部分環状/非環状であってもよい。脂肪族(飽和)アルキル基の代表例としては、メチル、エチル、n‐プロピル、イソ‐プロピル、n‐ブチル、sec‐ブチル、イソ‐ブチル、tert‐ブチル、n‐ペンチル、イソ‐ペンチル、ネオ‐ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ジメチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコシル、ドコシル、トリアコンチル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
用語「アルケニル」とは、少なくとも1つの二重結合を有する炭素及び水素のラジカル(例えばC2‐C30)を意味する。化合物中のアルケニル基は通常、共有結合を介して化合物に直接結合している。別段に指定しない限り、アルケニル基は、直鎖状(非分枝状)、分枝状、環状、非環状、又は部分環状/非環状であってもよい。
用語「アルキレン」とは、二価の炭化水素ラジカルを意味し、直鎖状(非分枝状)、分枝状、環状、非環状、又は部分環状/非環状であってもよく、通常、ラジカル内(又はその「末端」)で異なる二つの位置で共有結合することにより二価性を示す。アルキレンの代表例としては、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン、ノニレン、デシレン、1‐メチルエチレン、1‐エチルエチレン、1‐エチル‐2‐メチルエチレン、1,1‐ジメチルエチレン、1‐エチルプロピレン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
用語「アルキニル」とは、少なくとも1つの炭素‐炭素三重結合を有する炭素及び水素のラジカル(例えば、C2‐C30)を意味する。
用語「アリール」とは、シクロペンタジエン、フェニル、ナフチル、アントラセニル等の少なくとも1つの芳香環を含む基を意味する。アリール基は、全ての炭化水素(例えば、C5‐C40)となり得るが、アリール基は場合により窒素などのヘテロ原子も含むことが公知である(例えば、ピリジン)。アリール基は、1つ以上のヒドロカルビル基置換基(ヒドロカルビル基が「アルキル」の場合、ヒドロカルビル基置換基は本明細書では「アラルキル」基と考えられる)、ヘテロ原子、又はヘテロ原子含有基を含んでもよい。明確化のため、アリール置換基を有するアルキル基を本明細書では「アルカリル」基と呼び、アルキル置換基を有するアリール基を本明細書では「アラルキル」基と呼ぶ。
【0014】
用語「置換された」は、原子(本明細書では通常、水素原子)が別の部分、例えばヒドロカルビル基、ヘテロ原子、又はヘテロ原子含有基で置換されたことを意味する。
用語「ハロゲン」又は「ハロ」は、元素周期表の17族の原子、又は17族のラジカル、例えばフルオロ、クロロ、ブロモ、及び/又はヨードを意味する。
添加剤に関連する用語「無灰」とは、添加剤が金属原子を含まないことを意味する。この文脈では、ホウ素は金属原子と見なさない。
組成物の添加剤又は他の機能的成分に関する用語「有効量」は、例えば潤滑油組成物において、所望の機能的/技術的効果を提供するために十分な、このような添加剤/機能的成分の量を意味する。
用語「ppm」は、全質量に対する質量基準での100万分の1を意味する。用語「wppm」又は「質量ppm」は互いに互換性があると見なす。
【0015】
「TBN」とも称する用語「総塩基価」は、例えば、添加剤成分又は潤滑油組成物に関する用語「塩基価」と互換性がある。別段に指定しない限り、TBNはASTM D2896に従って測定し、mgKOH/gの単位で表す。
添加剤成分又は潤滑油組成物などにも関する、「TAN」とも称する用語「総酸価」は、例えば、全酸価を意味し、ASTM D664に従って測定する。
「リン含有量」は通常、質量%又はppmで示し、別段に記述のない限りASTM D5185に従って測定する。
「硫黄含有量」は通常、質量%又はppmで示し、別段に記述のない限りASTM D2622に従って測定する。
【0016】
添加剤パッケージ及び/又は添加剤成分の組み合わせを含む調合物(例えば、添加剤パッケージの希釈物由来)に関して本明細書で使用する「パッケージ安定性」は、約12週間の期間に渡って評価する。試料は、ASTM D4057に規定したガイドラインに従って採取する。測定は毎週、例えば、容量100mLの目盛り付き遠心管に入れた試料を調査することにより行う。この遠心管は、最初の目盛りが容量の0.05%を超えないものである。測定では例えば、特にヘイズ、相分離、凝集/懸濁、ゲル化、「フィッシュアイ」、沈殿、蝋形成などの視覚的評価を行う。別段に注記しない限り、0週目の測定は周囲温度(例えば、約15℃~30℃)で行い、他の週の測定は全て、約60℃±5℃のオーブン内で行う(試料は目視評価のために一時的にオーブンから取り出し、その後、12週目の最終測定までオーブンに戻す)。特定の状況下(常に注記する)では、初期の読み取り異常(例えば、0週目)は約24時間後に更新してもよい(更新は通常、アスタリスク及びコメントで示す)。視覚的評価は一般的に、正確な評価を確保するため、自然光及び比較的高輝度光の両方で行う。必要に応じて、鮮明な視界を確保するために、容器の外側に適切な溶媒及び/又は適切な布製のワイプを適用してもよい。許容可能なパッケージ安定性は、特定の状況において主観的に判断してもよいが、通常、パッケージ安定性を示す組成物は、視覚的指標として鮮明かつ明澄(「CB」)又は若干のヘイズ(「SH」)のいずれかのみ、及び微量沈殿物(「tsed」)、少量沈殿物(「MTS」)、又は沈殿物が見られないことを指標として評価してもよい。添加剤(及び希釈剤)の混合物の中には、添加剤パッケージ濃度では安定的でないものもあるが、それにも関わらず、調合物中で十分に希釈されると安定的になる、即ち「調合物安定性」を示す場合もある。パッケージ安定性を示さない調合物安定性組成物は通常、希釈剤の量を増加させると添加剤成分を何種か配合する必要性を伴う傾向があるため、あまり好ましくなく、パッケージ不安定性を示す成分の配合は、場合により、一貫性のない調合物安定性及び/又は調合物保存安定性の問題を引き起こす可能性がある。
【0017】
必須かつ最適で慣用的な、使用の様々な添加剤成分は調合、配合、保存、及び/又は使用の条件下で反応し得ること、並びに本開示は、そのような反応(単数又は複数)のいずれか又は全ての結果として取得可能な、又は取得する生成物も包含することは理解すべきである。
また、本明細書に記述する量、範囲、及び/又は比率の任意の上限及び下限は、独立して組み合わせてもよいことも理解すべきである。
本開示の各態様の開示した要素及び/又は好ましい特徴は、本開示の他のあらゆる態様の開示した要素及び/又は好ましい特徴(場合により)としてみなしてもよいことは更に理解すべきである。従って、本開示の1態様の開示した要素及び/又は好ましい(及び/又は有利な)特徴は、本開示の同じ態様又は異なる態様の他の開示した要素及び/又は好ましい(及び/又は有利な)特徴と独立して組み合わせてもよい。
【0018】
ホウ素含有過塩基性アルカリ土類金属洗浄剤の製造方法
ホウ素含有過塩基性アルカリ土類金属洗浄剤を製造する様々な異なる方法があるが、炭酸塩部分及びホウ酸塩部分の両方を含む、実質的にパッケージ安定性を示す過塩基性アルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤を製造するための、本明細書で記述した本発明の方法は、得られた洗浄剤を他の添加剤と混和して潤滑剤添加剤パッケージにしたときに、パッケージ安定性を有利に促進することが分かった。
初めに、油溶性又は油分散性の、過塩基性ではあるがホウ酸化されていないアルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤を提供できる。ホウ酸化されていない洗浄剤は有利には、塩基度指数最小値(及び/又は任意に最大値)、石鹸含有量最小値(及び/又は任意に最大値)、カルシウム含有量最小値(及び/又は任意に最大値)、TBN最小値(及び/又は任意に最大値)等を示すことが可能であり、例えば:塩基度指数は少なくとも3.5であり;石鹸含有量は少なくとも330mmol/kgであり;ASTM D4951に従って測定したアルカリ土類金属含有量は少なくとも7.0質量%であり;ASTM D2896に従ったTBNは少なくとも240mgKOH/gである。ホウ酸化されていない洗浄剤中のアルカリ土類金属は有利には、カルシウム及び/又はマグネシウムを含むことが可能である。ホウ酸化されていない洗浄剤は有利には、(理論に囚われることなく)洗浄剤中のアルカリ土類金属の過塩基化を促進できる炭酸塩部分を含むことが可能である。ホウ酸化されていない洗浄剤におけるヒドロカルビル置換基は9~30個の炭素原子を含むことが可能である。
【0019】
ホウ酸化されていない洗浄剤は、市販のホウ酸化されていない洗浄剤成分であってもよく、又は単に別の方法により予め作製したものであってもよい。このように、上記で指定したホウ酸化されていない洗浄剤のTBNは、活性成分を100%未満とすることが可能な(例えば、約25~60質量%の希釈剤及び/又は非洗浄剤化合物を有する)洗浄剤成分を基準としてもよく、又はTBNは洗浄剤の活性成分部分のみ(洗浄剤成分中に組み込んだ任意の希釈剤及び/又は非洗浄剤化合物を無視する)について計算してもよい。本明細書におけるTBN値は通常、別段に指定しない限り、洗浄剤成分基準(例えば、希釈剤を含む)で求める。
洗浄剤成分における「塩基度指数」は厳密には洗浄剤中の塩基性化合物と酸性化合物との比率として定義するが、塩基度指数は有機酸化合物の合計に対する総アルカリ土類金属化合物の当量比として計算することが有効であり、これは、予め調合した(任意に希釈した)洗浄剤においては、高頻度に、総石鹸に対する総アルカリ土類金属のモル(濃度)比と同等であることは当業者は理解している。従って、このような洗浄剤における「塩基度指数」は互換的に「金属比」と称することが可能である。
【0020】
過塩基性であるがホウ酸化されていないアルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤は、任意の適切な方法ではあるが、好ましくは炭酸塩部分を含む洗浄剤をもたらす方法により製造可能となる。このような例示的な方法の1つでは、酸の鉱物油溶液と、好ましくはアルカリ土類金属炭酸塩又は重炭酸塩を含む化学量論的過剰量の中和剤とを、任意に促進剤の存在下で、約60℃~約200℃の温度で、過塩基性ではあるがホウ酸化されていないアルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤を形成するに十分な時間、反応させることが可能である。形成した生成物は濾過してもよい。中和工程で利用する場合、かなり過剰な量の塩/塩基の組み込みを「促進剤」により補助してもよい。促進剤として有用な化合物の例としては、フェノール、ナフトール、アルキルフェノール、チオフェノール、硫化アルキルフェノール、及びホルムアルデヒドとフェノール物質との縮合生成物などのフェノール物質;メタノール、2‐プロパノール、オクタノール、Cellosolve(商標)アルコール、Carbitol(商標)アルコール、エチレングリコール、ステアリルアルコール、及びシクロヘキシルアルコールなどのアルコール類;アニリン、フェニレンジアミン、フェノチアジン、フェニル‐β‐ナフチルアミン、及びドデシルアミンなどのアミン類;並びにこれらの組み合わせが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
その後、前記の過塩基性ではあるがホウ酸化されていないアルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤を、ホウ素源と共に有機希釈媒体中に、100℃未満といった適切な温度で混和し、反応混合物を形成できる。有機希釈媒体は、非プロトン性炭化水素溶媒及びC1‐C4第一級アルコールを含むことが可能であるが、有利には、意図的に水をほとんど添加しないか、又は全く添加しないことが可能である。「意図的に水を添加しない」とは、溶媒もしくは第一級アルコール希釈剤、又は過塩基性洗浄剤に捕捉してもよい水(例えば、湿潤環境から吸収された不純物として、又は炭酸塩及び/もしくはアルカリ土類金属イオン/双極子などの部分に中程度に/強力に結合した不純物として)、並びに例えば、ホウ酸分解、炭酸塩結合、及び/又は過塩基性(しかしホウ酸化されていない)洗浄剤形成の他の要素からの処理水と見なし得る水を除外することであると理解すべきである。
【0021】
非プロトン性炭化水素溶媒は有利には、ベンゼン、キシレン、トルエン、メシチレン、ナフタレン、シクロヘキサン、シクロオクタン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、又はこれらの組み合わせ(特に、キシレン、トルエン、ヘプタン、又はこれらの組み合わせ)を含んでもよい。ホウ素源は有利には、オルトホウ酸、メタホウ酸、テトラホウ酸、ホウ酸モノアンモニウム、ホウ酸ジアンモニウム、ホウ酸トリアンモニウム、ホウ酸二水素C1‐C4アルキル、ホウ酸水素ジ‐C1‐C4アルキル、ホウ酸トリ‐C1‐C4アルキル、又はこれらの組み合わせ(特に、オルトホウ酸、メタホウ酸、ホウ酸二水素C1‐C4アルキル、ホウ酸水素ジ‐C1‐C4アルキル、ホウ酸トリ‐C1‐C4アルキル、又はこれらの組み合わせ)を含んでもよい。ホウ素源はそのように添加しても、又はその場で形成してもよい(例えば、ホウ酸二水素C1‐C4アルキル、ホウ酸水素ジ‐C1‐C4アルキル、及びホウ酸トリ‐C1‐C4アルキルの場合、媒体中のC1‐C4第一級アルコールを、例えばオルトホウ酸及び/又はメタホウ酸と少なくとも部分的に反応させ、その場で反応ホウ素源を提供してもよい)。
その後、ホウ素及び洗浄剤含有反応混合物を、ホウ酸化法において、十分に穏やかな加熱速度、例えば、5℃/分未満、3℃/分未満、又は2℃/分未満で、十分に高い温度、例えば、100℃超~275℃、又は105℃~225℃まで加熱し、ホウ酸化洗浄剤粗生成物を形成してもよい。任意に、いくつかの実施形態では、例えば、上昇した反応温度により蒸発した可能性のある、初めに添加した非プロトン性炭化水素溶媒を補うために、追加の非プロトン性炭化水素溶媒を添加してもよい。追加の溶媒を添加しても、その混合物は依然としてホウ酸化洗浄剤粗生成物を形成するものとして扱う。
【0022】
その後、希釈媒体並びにホウ酸化過程中に形成される水を高割合で、例えば、揮発物の高温/減圧蒸発、生成物相分離/結晶化、及び洗浄等の公知の精製技術により除去し、本開示に従った過塩基性かつホウ酸化したアルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤を形成することが可能である。
理論に囚われることなく、炭酸塩部分を洗浄剤に導入し、それにより洗浄剤中のアルカリ土類金属の過塩基化を可能にする反応が同一工程で起こる可能性があるが、本開示では、炭酸化/アルカリ土類金属過塩基化工程は、ホウ素を導入する工程(例えば、ホウ酸化)とは別の工程であり、その工程の前に行う工程であると規定する。中性又はアルカリ土類金属を事前に添加した洗浄剤を作製する工程、及び次に追加の炭酸化/アルカリ土類金属包接を経て意図的に増加させるアルカリ土類金属分に同時にホウ素を導入する工程でさえ依然として、アルカリ土類金属による第1の炭酸化/添加及び第2のホウ酸化(第1工程の既に過塩基化した生成物に、ホウ素含有種を導入)の別々に順序付けた工程とは異なる工程である。本開示によれば、アルカリ土類金属装填工程及びホウ素導入工程が別個であり、かつ連続的に順序付けること、例えば、特にアルカリ土類金属保持、ホウ素保持、洗浄剤/成分安定性、添加剤洗浄剤性、ダウンザライン(down‐the‐line)洗浄剤含有添加剤パッケージ安定性、更なるダウンザライン洗浄剤含有調合物安定性、添加時洗浄剤含有調合物性能、及び/又は経時的洗浄剤含有調合物性能における1つ以上の(予想外の)望ましい結果(単数又は複数)を達成することは有利であると考える。
【0023】
ホウ酸含有過塩基性アルカリ土類金属洗浄剤
本開示に従ったホウ素含有過塩基性アルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤は、アルカリ土類金属過塩基化からの炭酸塩部分とホウ酸塩部分との両方を含む。それらはまた、本開示に記載の方法に従って製造してもよい。本開示に従ったホウ素含有過塩基性アルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤は、以下の特徴の1つ以上、2つ以上、3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上、7つ以上、8つ以上、又は9つ全て示すことが有利である。
【0024】
塩基度指数(金属比)。本発明に従ったホウ素含有過塩基性サリチル酸塩洗浄剤の塩基度指数は少なくとも3.5、例えば、少なくとも3.6、少なくとも3.8;少なくとも4.0、少なくとも4.3、少なくとも4.7、少なくとも5.0、少なくとも5.3、もしくは少なくとも5.7、及び/又は12以下、例えば、10以下、9.5以下、9.0以下、8.8以下、8.5以下、8.3以下、もしくは8.0以下とすることが可能である。従って、塩基度指数は、3.5~12、3.5~10、3.5~9.5、3.5~9.0、3.5~8.8、3.5~8.5、3.5~8.3、3.5~8.0、3.6~12、3.6~10、3.6~9.5、3.6~9.0、3.6~8.8、3.6~8.5、3.6~8.3、3.6~8.0、3.8~12、3.8~10、3.8~9.5、3.8~9.0、3.8~8.8、3.8~8.5、3.8~8.3、3.8~8.0、4.0~12、4.0~10、4.0~9.5、4.0~9.0、4.0~8.8、4.0~8.5、4.0~8.3、4.0~8.0、4.3~12、4.3~10、4.3~9.5、4.3~9.0、4.3~8.8、4.3~8.5、4.3~8.3、4.3~8.0、4.7~12、4.7~10、4.7~9.5、4.7~9.0、4.7~8.8、4.7~8.5、4.7~8.3、4.7~8.0、5.0~12、5.0~10、5.0~9.5、5.0~9.0、5.0~8.8、5.0~8.5、5.0~8.3、5.0~8.0、5.3~12、5.3~10、5.3~9.5、5.3~9.0、5.3~8.8、5.3~8.5、5.3~8.3、5.3~8.0、5.7~12、5.7~10、5.7~9.5、5.7~9.0、5.7~8.8、5.7~8.5、5.7~8.3、又は5.7~8.0(特に、塩基度指数は少なくとも3.8、少なくとも5.0、9.0以下、3.8~9.0、又は5.0~8.3)とすることが可能である。
【0025】
石鹸含有量。本発明に従ったホウ素含有過塩基性サリチル酸塩洗浄剤の石鹸含有量は、少なくとも300mmol/kg、例えば、少なくとも320mmol/kg、少なくとも330mmol/kg、少なくとも350mmol/kg、少なくとも370mmol/kg、少なくとも390mmol/kg、少なくとも400mmol/kg、もしくは少なくとも420mmol/kg、及び/又は石鹸含有量は多くとも600mmol/kg、例えば、多くとも570mmol/kg、多くとも550mmol/kg、多くとも530mmol/kg、多くとも520mmol/kg、多くとも500mmol/kg、もしくは多くとも480mmol/kgとすることが可能である。従って、石鹸含有量は、300mmol/kg~600mmol/kg、300mmol/kg~570mmol/kg、300mmol/kg~550mmol/kg、300mmol/kg~530mmol/kg、300mmol/kg~520mmol/kg、300mmol/kg~500mmol/kg、300mmol/kg~480mmol/kg、320mmol/kg~600mmol/kg、320mmol/kg~570mmol/kg、320mmol/kg~550mmol/kg、320mmol/kg~530mmol/kg、320mmol/kg~520mmol/kg、320mmol/kg~500mmol/kg、320mmol/kg~480mmol/kg、330mmol/kg~600mmol/kg、330mmol/kg~570mmol/kg、330mmol/kg~550mmol/kg、330mmol/kg~530mmol/kg、330mmol/kg~520mmol/kg、330mmol/kg~500mmol/kg、330mmol/kg~480mmol/kg、350mmol/kg~600mmol/kg、350mmol/kg~570mmol/kg、350mmol/kg~550mmol/kg、350mmol/kg~530mmol/kg、350mmol/kg~520mmol/kg、350mmol/kg~500mmol/kg、350mmol/kg~480mmol/kg、370mmol/kg~600mmol/kg、370mmol/kg~570mmol/kg、370mmol/kg~550mmol/kg、370mmol/kg~530mmol/kg、370mmol/kg~520mmol/kg、370mmol/kg~500mmol/kg、370mmol/kg~480mmol/kg、390mmol/kg~600mmol/kg、390mmol/kg~570mmol/kg、390mmol/kg~550mmol/kg、390mmol/kg~530mmol/kg、390mmol/kg~520mmol/kg、390mmol/kg~500mmol/kg、390mmol/kg~480mmol/kg、400mmol/kg~600mmol/kg、400mmol/kg~570mmol/kg、400mmol/kg~550mmol/kg、400mmol/kg~530mmol/kg、400mmol/kg~520mmol/kg、400mmol/kg~500mmol/kg、400mmol/kg~480mmol/kg、420mmol/kg~600mmol/kg、420mmol/kg~570mmol/kg、420mmol/kg~550mmol/kg、420mmol/kg~530mmol/kg、420mmol/kg~520mmol/kg、420mmol/kg~500mmol/kg、又は420mmol/kg~480mmol/kgとすることが可能である(特に、石鹸含有量は、少なくとも330mmol/kg、少なくとも370mmol/kg、多くとも550mmol/kg、350mmol/kg~520mmol/kg、又は370mmol/kg~500mmol/kgとすることが可能である)。
【0026】
ホウ素の質量%に対する石鹸含有量の比率。本発明に従ったホウ素含有過塩基性サリチル酸塩洗浄剤におけるホウ素の質量%に対する石鹸含有量の比率は、50mmol/kg超、例えば、55mmol/kg超、58mmol/kg超、61mmol/kg超、64mmol/kg超、67mmol/kg超、もしくは70mmol/kg超、及び/又はホウ素の質量%に対する石鹸含有量の比率は、300mmol/kg未満、例えば275mmol/kg未満、250mmol/kg未満、225mmol/kg未満、200mmol/kg未満、175mmol/kg未満、もしくは150mmol/kg未満とすることが可能である。従って、ホウ素の質量%に対する石鹸含有量の比率は、50mmol/kg~300mmol/kg、50mmol/kg~275mmol/kg、50mmol/kg~250mmol/kg、50mmol/kg~225mmol/kg、50mmol/kg~200mmol/kg、50mmol/kg~175mmol/kg、50mmol/kg~150mmol/kg、55mmol/kg~300mmol/kg、55mmol/kg~275mmol/kg、55mmol/kg~250mmol/kg、55mmol/kg~225mmol/kg、55mmol/kg~200mmol/kg、55mmol/kg~175mmol/kg、55mmol/kg~150mmol/kg、58mmol/kg~300mmol/kg、58mmol/kg~275mmol/kg、58mmol/kg~250mmol/kg、58mmol/kg~225mmol/kg、58mmol/kg~200mmol/kg、58mmol/kg~175mmol/kg、58mmol/kg~150mmol/kg、61mmol/kg~300mmol/kg、61mmol/kg~275mmol/kg、61mmol/kg~250mmol/kg、61mmol/kg~225mmol/kg、61mmol/kg~200mmol/kg、61mmol/kg~175mmol/kg、61mmol/kg~150mmol/kg、64mmol/kg~300mmol/kg、64mmol/kg~275mmol/kg、64mmol/kg~250mmol/kg、64mmol/kg~225mmol/kg、64mmol/kg~200mmol/kg、64mmol/kg~175mmol/kg、64mmol/kg~150mmol/kg、67mmol/kg~300mmol/kg、67mmol/kg~275mmol/kg、67mmol/kg~250mmol/kg、67mmol/kg~225mmol/kg、67mmol/kg~200mmol/kg、67mmol/kg~175mmol/kg、67mmol/kg~150mmol/kg、70mmol/kg~300mmol/kg、70mmol/kg~275mmol/kg、70mmol/kg~250mmol/kg、70mmol/kg~225mmol/kg、70mmol/kg~200mmol/kg、70mmol/kg~175mmol/kg、又は70mmol/kg~150mmol/kgとすることが可能である(特に、ホウ素の質量%に対する石鹸含有量の比率は、55mmol/kg超、300mmol/kg未満、55mmol/kg~300mmol/kg、70~275mmol/kg、又は55mmol/kg~200mmol/kgとすることが可能である)。
【0027】
ASTM D2896に従って測定した総塩基価(TBN)。本発明に従ったホウ素含有過塩基性サリチル酸塩洗浄剤のTBNは、少なくとも220mgKOH/g、例えば、少なくとも235mgKOH/g、少なくとも250mgKOH/g、少なくとも265mgKOH/g、もしくは少なくとも280mgKOH/g、及び/又はTBNは、多くとも500mgKOH/g、例えば、多くとも470mgKOH/g、多くとも440mgKOH/g、多くとも410mgKOH/g、多くとも380mgKOH/g、多くとも350mgKOH/g、もしくは多くとも320mgKOH/gとすることが可能である。従って、TBNは、220mgKOH/g~500mgKOH/g、220mgKOH/g~470mgKOH/g、220mgKOH/g~440mgKOH/g、220mgKOH/g~410mgKOH/g、220mgKOH/g~380mgKOH/g、220mgKOH/g~350mgKOH/g、220mgKOH/g~320mgKOH/g、235mgKOH/g~500mgKOH/g、235mgKOH/g~470mgKOH/g、235mgKOH/g~440mgKOH/g、235mgKOH/g~410mgKOH/g、235mgKOH/g~380mgKOH/g、235mgKOH/g~350mgKOH/g、235mgKOH/g~320mgKOH/g、250mgKOH/g~500mgKOH/g、250mgKOH/g~470mgKOH/g、250mgKOH/g~440mgKOH/g、250mgKOH/g~410mgKOH/g、250mgKOH/g~380mgKOH/g、250mgKOH/g~350mgKOH/g、250mgKOH/g~320mgKOH/g、265mgKOH/g~500mgKOH/g、265mgKOH/g~470mgKOH/g、265mgKOH/g~440mgKOH/g、265mgKOH/g~410mgKOH/g、265mgKOH/g~380mgKOH/g、265mgKOH/g~350mgKOH/g、265mgKOH/g~320mgKOH/g、280mgKOH/g~500mgKOH/g、280mgKOH/g~470mgKOH/g、280mgKOH/g~440mgKOH/g、280mgKOH/g~410mgKOH/g、280mgKOH/g~380mgKOH/g、280mgKOH/g~350mgKOH/g、又は280mgKOH/g~320mgKOH/gとすることが可能である(特に、TBNは少なくとも220mgKOH/g、多くとも500mgKOH/g、235mgKOH/g~440mgKOH/g、又は265mgKOH/g~350mgKOH/gとすることが可能である)。
【0028】
ASTM D4951に従ったホウ素含有量。本発明に従ったホウ素含有過塩基性サリチル酸塩洗浄剤のホウ素含有量は、少なくとも3.0質量%、例えば、少なくとも3.2質量%、少なくとも3.4質量%、少なくとも3.5質量%、少なくとも3.6質量%、もしくは少なくとも3.7質量%、及び/又はホウ素含有量は、多くとも7.0質量%、多くとも6.8質量%、多くとも6.6質量%、多くとも6.4質量%、多くとも6.2質量%、もしくは多くとも6.0質量%とすることが可能である。従って、ホウ素含有量は、3.0質量%~7.0質量%、3.0質量%~6.8質量%、3.0質量%~6.6質量%、3.0質量%~6.4質量%、3.0質量%~6.2質量%、3.0質量%~6.0質量%、3.2質量%~7.0質量%、3.2質量%~6.8質量%、3.2質量%~6.6質量%、3.2質量%~6.4質量%、3.2質量%~6.2質量%、3.2質量%~6.0質量%、3.4質量%~7.0質量%、3.4質量%~6.8質量%、3.4質量%~6.6質量%、3.4質量%~6.4質量%、3.4質量%~6.2質量%、3.4質量%~6.0質量%、3.5質量%~7.0質量%、3.5質量%~6.8質量%、3.5質量%~6.6質量%、3.5質量%~6.4質量%、3.5質量%~6.2質量%、3.5質量%~6.0質量%、3.6質量%~7.0質量%、3.6質量%~6.8質量%、3.6質量%~6.6質量%、3.6質量%~6.4質量%、3.6質量%~6.2質量%、3.6質量%~6.0質量%、3.7質量%~7.0質量%、3.7質量%~6.8質量%、3.7質量%~6.6質量%、3.7質量%~6.4質量%、3.7質量%~6.2質量%、又は3.7質量%~6.0質量%とすることが可能である(特に、ホウ素含有量は少なくとも3.2質量%、3.2質量%~6.0質量%、又は3.5質量%~6.8質量%とすることが可能である)。
【0029】
本発明のホウ素含有洗浄剤の炭酸塩に対するホウ酸塩の質量比により、異なる出発材料及び合成法を用いて調製した過塩基性洗浄剤の特性を比較できる。使用するホウ素源及び反応条件に応じて、多数の金属ホウ酸塩を形成できる。例えば、当技術分野で公知のように、用語「ホウ酸カルシウム」は、メタホウ酸カルシウム(CaB24)、灰硼石(CaB34(OH)3・H2O)、四ホウ酸カルシウム(CaB47)及びこれらの混合物などの化合物を包含する。カルシウムに対するホウ素の当量はこれらの形態の間で変化するため、洗浄剤組成物中のこれらの塩の含有量を特徴付ける実用的な方法は、総塩基価(TBN)に対するこれら形態の相対的な寄与を定量化することである。当業者は、従来の滴定法を用いて、洗浄剤の総塩基価(TBN)、このTBNに対する塩基性石鹸の寄与、及びTBNに対する金属炭酸塩の寄与を日常的に推量してもよい。従って、塩基性ホウ酸塩含有量は、次のように容易に推量できる:ホウ酸塩(mgKOH/g)=総塩基価(mgKOH/g)-塩基性石鹸含有量(mgKOH/g)-金属炭酸塩(mgKOH/g)。この式から、ホウ酸塩:炭酸塩の質量比は単純にホウ酸塩含有量と炭酸塩の含有量との比である。
【0030】
当業者は、ホウ酸塩:炭酸塩の比を推量するための滴定法に精通している。例えば、既知量の過塩基性洗浄剤を過剰量の過塩素酸で消化し、次いで水酸化カリウムで滴定すると、1つ又は2つの変曲点が得られることが予想される。このような方法は逆滴定として公知である。最初の変曲点に到達するために必要な水酸化カリウムの量は、試料の塩基寄与に相当し、この水酸化カリウム量を用いて総TBN値を計算することが可能となる。過塩基性洗浄剤を形成するために使用する石鹸もまた、試料の総塩基価に寄与するため、第2の変曲点から、塩基性石鹸を過塩素酸で消化した後の混合物中の酸の存在が分かる。この値は、洗浄剤の総TBNに対する塩基性石鹸の寄与について使用できる。最後に、金属炭酸塩含有量は一般に、既知量の過塩基性洗浄剤を酸で消化して二酸化炭素を遊離させることにより測定する。遊離気体は溶液中に捕捉される。次いで炭酸化した溶液を滴定し、遊離したCO2の量、ひいては洗浄剤試料の金属炭酸塩含有量を測定できる。このような方法により、洗浄剤試料の総塩基価(TBN)、塩基性石鹸含有量、及び金属炭酸塩含有量の値を測定できる。以上のように、単純な計算でホウ酸塩含有量を求められるため、ホウ酸塩と炭酸塩との質量比を計算できる。これらの測定方法は、実施例A4に関して以下で説明する。
【0031】
炭酸塩に対するホウ酸塩の質量比(通常、塩として計算する).本発明に従ったホウ素含有過塩基性サリチル酸塩洗浄剤における、炭酸塩に対するホウ酸塩の質量比は、0.75~6.0、0.75~5.5、0.75~5.0、0.75~4.5、0.75~4.0、0.75~3.5、0.75~3.0、1.0~6.0、1.0~5.5、1.0~5.0、1.0~4.5、1.0~4.0、1.0~3.5、1.0~3.0、1.3~6.0、1.3~5.5、1.3~5.0、1.3~4.5、1.3~4.0、1.3~3.5、1.3~3.0、1.6~6.0、1.6~5.5、1.6~5.0、1.6~4.5、1.6~4.0、1.6~3.5、又は1.6~3.0とすることが可能である(特に、炭酸塩に対するホウ酸塩の質量比は、0.75~6.0、1.0~5.0、又は1.6~3.0とすることが可能である)。
【0032】
アルカリ土類金属。本発明に従ったホウ素含有過塩基性サリチル酸塩洗浄剤は、アルカリ土類金属(単数又は複数)としてカルシウム及び/又はマグネシウムを含むことが可能である。本発明に従ったホウ素含有過塩基性サリチル酸塩洗浄剤における、ASTM D4951に従ったアルカリ土類金属含有量は、少なくとも6.0質量%、少なくとも6.5質量%、少なくとも7.0質量%、少なくとも7.5質量%、もしくは少なくとも8.0質量%、及び/又はアルカリ土類金属含有量は、多くとも13質量%、多くとも12.7質量%、多くとも12.4質量%、多くとも12.1質量%、多くとも11.8質量%、又は多くとも11.5質量%とすることが可能である。従って、アルカリ土類金属(例えば、カルシウムとマグネシウムとの組み合わせ)含有量は、6.0質量%~13質量%、6.0質量%~12.7質量%、6.0質量%~12.4質量%、6.0質量%~12.1質量%、6.0質量%~11.8質量%、6.0質量%~11.5質量%、6.5質量%~13質量%、6.5質量%~12.7質量%、6.5質量%~12.4質量%、6.5質量%~12.1質量%、6.5質量%~11.8質量%、6.5質量%~11.5質量%、7.0質量%~13質量%、7.0質量%~12.7質量%、7.0質量%~12.4質量%、7.0質量%~12.1質量%、7.0質量%~11.8質量%、7.0質量%~11.5質量%、7.5質量%~13質量%、7.5質量%~12.7質量%、7.5質量%~12.4質量%、7.5質量%~12.1質量%、7.5質量%~11.8質量%、7.5質量%~11.5質量%、8.0質量%~13質量%、8.0質量%~12.7質量%、8.0質量%~12.4質量%、8.0質量%~12.1質量%、8.0質量%~11.8質量%、又は8.0質量%~11.5質量%とすることが可能である(特に、アルカリ土類金属含有量及び/又はカルシウムとマグネシウムとの合計含有量は、少なくとも7.0質量%、7.0質量%~12.5質量%、又は6.5質量%~11.8質量%とすることが可能である)。
【0033】
ヒドロカルビル置換。特に、本発明に従ったホウ素含有過塩基性サリチル酸塩洗浄剤は、炭素原子数が9~30個であり、C14‐C24アルキルもしくはアルケニル部分を含み、又はC14‐C19アルキルもしくはアルケニル部分を含むヒドロカルビル置換基を有することが可能である。
【0034】
ホウ素に対するアルカリ土類金属の質量比。本発明に従ったホウ素含有過塩基性サリチル酸塩洗浄剤における、ホウ素に対するアルカリ土類金属の質量比は、1.3~5.8、1.3~5.5、1.3~5.2、1.3~4.9、1.3~4.7、1.3~4.5、1.3~4.2、1.3~3.9、1.3~3.6、1.3~3.3、1.5~5.8、1.5~5.5、1.5~5.2、1.5~4.9、1.5~4.7、1.5~4.5、1.5~4.2、1.5~3.9、1.5~3.6、1.5~3.3、1.6~5.8、1.6~5.5、1.6~5.2、1.6~4.9、1.6~4.7、1.6~4.5、1.6~4.2、1.6~3.9、1.6~3.6、1.6~3.3、1.7~5.8、1.7~5.5、1.7~5.2、1.7~4.9、1.7~4.7、1.7~4.5、1.7~4.2、1.7~3.9、1.7~3.6、又は1.7~3.3とすることが可能である(特に、1.3~5.8、1.5~5.5、1.7~4.5、又は1.6~3.6)。
【0035】
本明細書に記載の組成物及び方法は、様々なパラメータに関する様々な仕様の複数の過塩基性アルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤を使用するが、ホウ酸化は、過塩基性、中性、アンダーベース(undervased)に関わらず、又はアルカリ土類金属であるかないかに関わらず、例えばアルカリ金属、13族金属、又は無灰イオン(例えばアンモニウムイオン等)をベースとする任意の価のイオンを用いて、任意の洗浄剤において実施することが可能であり、また、スルホン酸塩、フェネート、又はカルボン酸塩などの任意の洗浄剤類において実行することも可能である。
中性洗浄剤は一般的に、洗浄剤中に存在する(ルイス)酸性部分の量に対して化学量論的に等量の(アルカリ土類金属)イオン成分を含有する洗浄剤である。アンダーベースの洗浄剤は、一般に、洗浄剤中に存在する(ルイス)酸性部分の量に対して化学量論的に少量の(アルカリ土類金属)イオン成分を含む洗浄剤である。従って、一般に、中性及びアンダーベースの洗浄剤は通常、それらの過塩基性対応物と比較すると、塩基性は比較的低くなる可能性がある。例えば洗浄剤に関連する用語「過塩基性」は、(アルカリ土類金属)イオン成分が、対応する(ルイス)酸成分よりも化学量論的に多い量で存在することを示すために使用する。
【0036】
特に、本発明に従ったホウ素含有過塩基性サリチル酸塩洗浄剤は、潤滑剤の用途に応じた量、例えば組成物の全質量に対して0.03~6.0質量%、0.05~0.7質量%、0.07~2.0質量%、又は0.10~4.0質量%の量で、様々な潤滑油組成物に含まれてもよい。追加的又は代替的に、ホウ素含有過塩基性サリチル酸塩洗浄剤は、組成物に、組成物の質量に対して30~2000質量百万分率(ppm)、特に45~750ppm、100~1400ppm、又は500~1800ppmのカルシウムを付与するために十分な量で潤滑油組成物中に含まれてもよい。更に追加的又は代替的に、ホウ素含有過塩基性サリチル酸塩洗浄剤は、組成物に、組成物の質量に対して20~500ppm、特に30~200ppm、60~350ppm、又は100~450ppmを付与するために十分な量で潤滑油組成物中に含まれてもよい。ホウ素及び/又はカルシウムの含有量は、ASTM D4951に従って測定できる。
【0037】
非サリチル酸カルシウム洗浄剤
いくつかの実施形態では、添加剤パッケージ及び/又は潤滑油組成物は更に、本開示に従った1種以上のホウ素含有過塩基性アルカリ土類金属サリチル酸塩以外の洗浄剤を含んでもよい。他の実施形態では、添加剤パッケージ及び/又は潤滑油組成物は更に、本開示に従ったホウ素含有過塩基性アルカリ土類金属サリチル酸塩以外に、他の洗浄剤を実質的に含まなくてもよい。
潤滑油組成物が追加の洗浄剤を含む場合、洗浄剤はホウ酸化していないアルカリ土類金属洗浄剤、例えばホウ酸化していないが過塩基性のアルカリ土類金属洗浄剤であってもよい。これらの洗浄剤は通常、油剤中に溶解又は分散したままであるように十分に油溶性又は油分散性であり、その油剤により意図する作用部位に移動できる。その他の非ホウ酸化洗浄剤も当技術分野で公知であり、スルホン酸、カルボン酸、アルキルフェノール、硫化アルキルフェノール、及びこれらの混合物などの酸性物質を含む中性及び過塩基性アルカリ土類金属(例えば、カルシウム及び/又はマグネシウム)塩が挙げられる。追加的に又は代替的に、追加の非ホウ酸化洗浄剤が存在する場合、追加の非ホウ酸化洗浄剤は、中性又は過塩基性非ホウ酸化アルカリ土類金属サリチル酸塩を含むか、又はそのサリチル酸塩とすることが可能である。
【0038】
本開示の潤滑剤添加剤パッケージ濃縮物及び/又は潤滑油組成物中のホウ素含有過塩基性アルカリ土類金属サリチル酸塩と共に有用な追加の非ホウ酸化洗浄剤の例としては、アルカリ土類金属フェネートなどの物質の中性及び/又は過塩基性塩;硫化アルカリ土類金属フェネート(例えば、各芳香族基が、炭化水素溶解性を付与するために1つ以上の脂肪族基を有する);アルカリ土類金属スルホン酸塩(例えば、各スルホン酸部分は芳香族核に結合し、次いで、この芳香族核は通常、炭化水素溶解性を付与するために1つ以上の脂肪族置換基を含有する);加水分解したホスホ硫化(phosphosulfurized)オレフィン(例えば、10~2000個の炭素原子を有する)の、並びに/又は加水分解ホスホ硫化アルコール及び/もしくは脂肪族置換フェノール化合物(例えば、炭素原子数10~2000個)のアルカリ土類金属塩;脂肪族カルボン酸及び/又は脂肪族置換シクロ脂肪族カルボン酸のアルカリ土類金属塩;非ホウ酸化アルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩(例えば、炭素原子数10~1000個);更にこれらの組み合わせ及び/又は反応生成物;並びに油溶性有機酸の多くの他の類似のアルカリ土類金属塩が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。必要に応じて、2種以上の異なる非サリチル酸の中性及び/又は過塩基性塩の混合物を使用できる(例えば、1種以上の過塩基性カルシウムフェネートと1種以上の過塩基性スルホン酸カルシウム)。任意に、ホウ素含有中性又は過塩基性非サリチル酸塩洗浄剤は任意の追加の非ホウ酸化洗浄剤の代わりに、又はそれに加えて、添加剤パッケージ及び/又は潤滑油組成物中に含まれてもよい。
【0039】
油溶性中性及び過塩基性非ホウ酸化アルカリ土類金属洗浄剤の製造方法は当業者に周知であり、特許文献に広範に報告されている。
ホウ素含有アルカリ土類金属サリチル酸塩と追加の洗浄剤との組み合わせが存在する場合、それらはまとまって、潤滑油組成物に、組成物の質量に対して30~2000質量百万分率(ppm)、特に45~750ppm、100~1400ppm、又は500~1800ppmのカルシウムを付与してもよい。更に追加的又は代替的に、ホウ素含有過塩基性サリチル酸塩洗浄剤は、組成物に、組成物の質量に対して20~500ppm、特に30~200ppm、60~350ppm、又は100~450ppmを付与するために十分な量で潤滑油組成物中に含まれてもよい。ホウ素及び/又はカルシウムの含有量は、ASTM D5185に従って測定できる。
【0040】
潤滑油ベースストック/希釈剤
ホウ素含有洗浄剤成分、ホウ素含有洗浄剤含有潤滑剤添加剤パッケージ濃縮物、及び/又はホウ素含有洗浄剤含有潤滑油組成物中の、潤滑油ベースストック/希釈剤は当該技術分野で公知の任意の好適な潤滑油ベースストックであってもよい。天然及び合成潤滑油ベースストックは両方とも好適なベースストックとなり得る。天然潤滑油は、動物油、植物油(例えば、ヒマシ油及びラード油)、石油、鉱物油、石炭又は頁岩由来油、及びこれらの組合せが挙げられる。1種の特定の天然潤滑油は、鉱物油を含むか、又は鉱物油である。
好適な鉱物油は、化学構造においてナフテン系又はパラフィン系である油剤を含む全ての一般的な鉱物油ベースストックを含んでもよい。好適な油剤は酸、アルカリ、及び粘土、もしくは塩化アルミニウムなどの他の薬剤を用いた従来の方法論により精製してもよく、又は油剤は、例えば、フェノール、二酸化硫黄、フルフラール、ジクロロジエチルエーテル等の溶媒、又はこれらの組み合わせを用いた溶媒抽出により生成される抽出油であってもよい。油剤は、水素化処理又は水素化精製、冷却もしくは触媒脱脂法による脱脂、水素化分解、又はこれらのいくつかを組み合わせに供してもよい。好適な鉱物油は天然の原油源から製造してもよいし、又は異性化ワックス材料もしくは他の精製過程の残渣から構成してもよい。
【0041】
合成潤滑油ベースストックとしては、オリゴマー化、重合化、及びインターポリマー化したオレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン、イソブチレン共重合体、塩素化ポリラクトン(polylactene)、ポリ(1‐ヘキセン)、ポリ(1‐オクテン)、ポリ‐(1‐デセン)等、及びこれらの混合物)などの炭化水素油及びハロ置換炭化水素油;アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ(2‐エチルヘキシル)ベンゼン等);ポリフェニル(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェニル等);アルキル化ジフェニルエーテル、アルキル化ジフェニルスルフィド、並びにこれらの誘導体、類似体、及び同族体等;これらの組み合わせ及び/又は反応生成物が挙げられる。
いくつかの実施形態では、このクラスの合成油ベースストック由来の油剤は、例えばフリーラジカル法、チーグラー(Ziegler)触媒、又はカチオン触媒により製造されるα‐オレフィンの水素化オリゴマー、特に1‐デセンのオリゴマーを含むポリアルファオレフィン(PAO)を含むか、又はそのポリアルファオレフィンであってよい。それらは例えば、炭素原子数2~16個の分岐又は直鎖α‐オレフィンのオリゴマーであってもよく、特定の非限定的な例としては、ポリプロペン、ポリイソブテン、ポリ‐1‐ブテン、ポリ‐1‐ヘキセン、ポリ‐1‐オクテン、ポリ‐1‐デセン、ポリ‐1‐ドデセン、並びにこれらの混合物、及び/又はインターポリマー/共重合体が挙げられる。
【0042】
合成潤滑油ベースストックは、追加的又は代替的に、任意の(ほとんどの)末端水酸基がエステル化、エーテル化等により修飾された、酸化アルキレン重合体、インターポリマー、共重合体、及びこれらの誘導体を含んでもよい。このクラスの合成油の例としては:酸化エチレン又は酸化プロピレンの重合により調製したポリオキシアルキレン重合体;これらのポリオキシアルキレン重合体のアルキル及びアリールエーテル(例えば、数平均分子量(Mn)が約1000ダルトンのメチル‐ポリイソプロピレングリコールエーテル、平均Mnが約1000~約1500ダルトンのポリプロピレングリコールのジフェニルエーテル);並びにこれらのモノ‐及びポリ‐カルボン酸エステル(例えば、テトラエチレングリコールの、酢酸エステル(単数又は複数)、混合C3‐C8脂肪酸エステル、C12オキソ酸ジエステル(単数又は複数)等、又はこれらの組み合わせ)が挙げられる。
合成潤滑油ベースストックの別の好適なクラスには、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸等)と種々のアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2‐エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール等)とのエステル類が含まれる。これらのエステルの具体例としては、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2‐エチルヘキシル)、フマル酸ジ‐n‐ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸二量体の2‐エチルヘキシルジエステル、1モルのセバシン酸と2モルのテトラエチレングリコール及び2モルの2‐エチル‐ヘキサン酸とを反応させて形成した複合エステル等、及びこれらの組み合わせが挙げられる。このクラスの合成油由来の好ましいタイプの油剤はC4‐C12アルコールのアジピン酸塩を含んでもよい。
合成潤滑油ベースストックとして有用なエステルとしては、追加的又は代替的に、C5‐C12モノカルボン酸、ポリオール、及び/又はポリオールエーテル、例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパンペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等、並びにこれらの組み合わせから形成されるエステルが挙げられる。
【0043】
潤滑油ベースストックは、未精製油、精製油、再精製油、又はこれらの混合物由来であってもよい。未精製油は、精製又は処理を追加せずに、天然源又は合成源(例えば、石炭、頁岩、又はタールサンド瀝青)から直接得る。未精製油の例としては、レトルト処理から直接得る頁岩油、蒸留から直接得る石油、又はエステル化法から直接得るエステル油が挙げられ、これらの各々又は組み合わせは、その後に追加の処理をせずに使用してもよい。精製油は、精製油が通常、化学構造を変えるため及び/又は1つ以上の特性を改善するために1つ以上の精製工程で処理されることを除けば、未精製油と同様である。好適な精製技術としては、蒸留、水素化処理、脱脂、溶媒抽出、酸又は塩基抽出、濾過、及びパーコレーションが挙げられ、これらは全て当業者に公知である。再精製油は、使用済み油及び/又は精製油を、最初に精製油を得るために使用した方法と同様の方法で処理することにより得てもよい。このような再精製油は、再生油又は再処理油として知られている場合もあり、多くの場合、使用済み添加剤及び油分解物を除去するための技術により更に処理してもよい。
好適な潤滑油ベースストックの別の追加的又は代替的クラスには、天然ガス原料油のオリゴマー化又はワックスの異性化から製造したベースストックが含まれてもよい。これらのベースストックは多くの方法で参照できるが、一般に、ガス‐トゥ‐リキッド(GTL)ベースストック又はフィッシャー・トロプシュ(Fischer‐Tropsch)ベースストックとして公知である。
本開示に従った潤滑油ベースストックは、類似のタイプであっても異なるタイプであっても、本明細書に記載の油剤/ベースストックの1種以上の配合物であってもよく、本開示では、天然及び合成潤滑油の配合(即ち、部分合成)を明確に企図している。
【0044】
潤滑油は、米国石油協会(API)刊行物「Engine Oil Licensing and Certification System」、産業サービス部門、第14版、1996年12月、付録1、1998年12月にある記載のように分類することが可能であり、この文献中、油剤は以下のように分類する:
a)グループIベースストックは90%未満の飽和分(saturates)及び/又は0.03%を超える硫黄を含有し、粘度指数は80以上120未満である;
b)グループIIベースストックは90%以上の飽和分及び0.03%以下の硫黄を含有し、粘度指数は80以上120未満である;
c)グループIIIベースストックは90%以上の飽和分及び0.03%以下の硫黄を含有し、粘度指数は120以上である;
d)グループIVベースストックはポリアルファオレフィン(PAO)である;並びに
e)グループVベースストックは、グループI、II、III、又はIVに含まれない他の全てのベースストック油を含む。
【0045】
本開示の実施形態では、潤滑油ベースストックは、鉱物油又は鉱物油の混合物、特に(API分類の)グループII及び/又はグループIIIの鉱物油を含むか、又はそれらの鉱物油であってよい。追加的又は代替的に、潤滑油ベースストックは、任意のグループのフィッシャー・トロプシュ/GTL由来の油剤、ポリアルファオレフィン(グループIV)、及び/又はグループVの油剤などの合成油を含むか、又はそれらの油剤であってよい。所望の調合物の粘度が非常に低い(例えば、4.0cSt未満又は3.5cSt未満)実施形態では、有利には潤滑油ベースストックは、グループIV(ポリアルファオレフィン)ベースストック又はグループIVベースストックの混合物であるか、又は少なくとも40質量%(例えば、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%)の1種以上のグループIVベースストックから構成してもよい。
【0046】
いくつかの実施形態では、潤滑油ベースストック(単数又は複数)は個々に又はまとまって、ASTM D445により測定する100℃における動粘度(KV100)が1.0cSt~40cSt(例えば、1.0cSt~30cSt、1.0cSt~20cSt、1.0cSt~15cSt、1.0cSt~10cSt、1.0cSt~8.5cSt、1.0cSt~7.5cSt、1.0cSt~6.5cSt、1.0cSt~5.5cSt、1.0cSt~5.0cSt、1.0cSt~4.5cSt、1.0cSt~4.0cSt、1.0cSt~3.5cSt、1.0cSt~3.0cSt、1.0cSt~2.5cSt、1.0cSt~2.0cSt、1.5cSt~30cSt、1.5cSt~20cSt、1.5cSt~15cSt、1.5cSt~10cSt、1.5cSt~8.5cSt、1.5cSt~7.5cSt、1.5cSt~6.5cSt、1.5cSt~5.5cSt、1.5cSt~5.0cSt、1.5cSt~4.5cSt、1.5cSt~4.0cSt、1.5cSt~3.5cSt、1.5cSt~3.0cSt、1.5cSt~2.5cSt、2.0cSt~30cSt、2.0cSt~20cSt、2.0cSt~15cSt、2.0cSt~10cSt、2.0cSt~8.5cSt、2.0cSt~7.5cSt、2.0cSt~6.5cSt、2.0cSt~5.5cSt、2.0cSt~5.0cSt、2.0cST~4.5cST、2.0cSt~4.0cST、2.0cSt~3.5cST、2.0cSt~3.0cST、2.5cSt~30cST、2.5cSt~20cSt、2.5cSt~15cSt、2.5cSt~10cSt、2.5cSt~8.5cSt、2.5cSt~7.5cSt、2.5cSt~6.5cSt、2.5cSt~5.5cSt、2.5cSt~5.0cSt、2.5cSt~4.5cSt、2.5cSt~4.0cSt、2.5cSt~3.5cSt、3.0cSt~30cSt、3.0cSt~20cSt、3.0cSt~15cSt、3.0cSt~10cSt、3.0cSt~8.5cSt、3.0cSt~7.5cSt、3.0cSt~6.5cSt、3.0cSt~5.5cSt、3.0cSt~5.0cSt、3.0cSt~4.5cSt、3.0cSt~4.0cSt、4.0cSt~30cSt、4.0cSt~20cSt、4.0cSt~15cSt、4.0cSt~10cSt、4.0cSt~8.5cSt、4.0cSt~7.5cSt、4.0cSt~6.5cSt、4.0cSt~5.5cSt、又は4cSt~5.0cSt)であり、特に1.5cSt~40cSt、2.0cSt~20cSt、2.5cSt~10cSt、又は4.0cSt~40cStであってもよい。
【0047】
非洗浄剤共添加剤
一般に潤滑油中に見られる共添加剤は任意に、本開示に従った添加剤パッケージ及び/又は潤滑油組成物中に含まれてもよい。好適な共添加剤は当業者に公知である。いくつかの例を本明細書に記載する。
【0048】
無灰分散剤
いくつかの実施形態では、添加剤パッケージ濃縮物及び/又は潤滑油組成物は更に、1種以上の塩基性窒素含有無灰分散剤を含んでもよい。実際、このような窒素含有無灰分散剤(単数又は複数)が存在する場合、窒素含有無灰分散剤は有利には以下の構造(I)であってよい:
【化1】
式中、R1及びR2はそれぞれ独立してヒドロカルビル基(例えば、直鎖ポリスチレン標準を基準としてゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により決定した、特に500~5000ダルトン又は750~2500ダルトンの数平均分子量(Mn)を有するポリイソブテニル部分、及び/又は1‐ブテン、1‐ペンテン、1‐ヘキセン、1‐ヘプテン、1‐オクテン、1‐ノネン、1‐デセン、1‐ウンデセン、1‐ドデセン、1‐テトラデセン、1‐オクタデセン、又はこれらの混合物、特に1‐オクテン、1‐デセン、1‐ドデセン、及びこれらの混合物から成るα‐オレフィン原料油のメタロセン触媒重合により作成した炭化水素基、別名、メタロセン触媒ポリ(α‐オレフィン)又はmPAOであり、これらの、線状ポリスチレン標準を基準としてGPCにより決定したMnは300~20000ダルトン、例えば400~15000ダルトン、450~10000ダルトン、500~8000ダルトン、650~6500ダルトン、800~5000ダルトン、又は900~3000ダルトン;特に300~20000ダルトン、500~8000ダルトン、又は800~5000ダルトンである)であり;各R3は独立して、水素、アセチル部分、又はエチレンカーボネートと>N‐R3との間の反応により形成された部分(特に、水素又はアセチル部分)であり;yは1~10(特に、3~10)であって、構造(I)の全ての分子について同一であるか、又は構造(I)の分子の混合物中の構造(I)の全分子の平均値である。
【0049】
このような無灰分散剤の例としては、ポリイソブテニルコハク酸イミド、mPAOベースのコハク酸イミド、ポリイソブテニルコハク酸アミド、mPAOベースのコハク酸アミド、ポリイソブテニル置換コハク酸の混合エステル/アミド、mPAO置換コハク酸(mPAOSA)の混合エステル/アミド、ポリイソブテニル置換コハク酸のヒドロキシエステル、mPAO置換コハク酸のヒドロキシエステル、ヒドロカルビル置換フェノール、ホルムアルデヒド、及びポリアミンのマンニッヒ(Mannich)縮合生成物、並びにこれらの反応生成物及び混合物が挙げられる。
このような塩基性窒素含有無灰分散剤は潤滑油添加剤として使用してもよく、その調製方法は特許文献に広範に記載されている。構造(I)の無灰分散剤の例としては、ポリイソブテニル並びに/又はmPAOコハク酸イミド及びコハク酸アミドが挙げられ、ここではポリイソブテニル及び/又はmPAO置換基(単数又は複数)は炭素原子数が36個超、例えば40個超の長い炭化水素性鎖である。これらのポリイソブテニル(PIB)ベースの材料は、ポリイソブテニル置換ジカルボン酸材料とアミン官能性を有する分子とを反応させることにより容易に製造できる。これらのmPAOベースの材料は、ジカルボン酸で官能化したmPAO又は無水物(例えば反応したマレイン酸)で官能化したmPAOと、アミン官能性を有する分子とを反応させることにより容易に製造できる。これらの製造例のいずれか又は両方における好適なアミンの例としては、ポリアルキレンポリアミン、ヒドロキシ置換ポリアミン、ポリオキシアルキレンポリアミン、及びこれらの組み合わせなどのポリアミンが挙げられる。アミン官能性は、テトラエチレンペンタミン及びペンタエチレンヘキサミンなどのポリアルキレンポリアミンにより付与してもよい。ポリアミン分子1つ当たりの平均窒素原子数が7を超える混合物も利用可能である。これらは一般に重鎖ポリアミン又はH‐PAMと称し、DowChemical社製のHPA(商標)及びHPA‐X(商標)、Huntsman Chemical社製のE‐100(商標)等の商品名で市販されているものもある。ヒドロキシ置換ポリアミンの例としては、例えば米国特許第4,873,009号明細書に記載されているタイプのN‐(2‐ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N‐(2‐ヒドロキシエチル)ピペラジン、及び/又はN‐ヒドロキシアルキル化アルキレンジアミンなどのN‐ヒドロキシアルキル‐アルキレンポリアミンが挙げられる。ポリオキシアルキレンポリアミンの例としては、平均Mnが約200~約2500ダルトンのポリオキシエチレン並びにポリオキシプロピレンジアミン及びトリアミンが挙げられる。このタイプの製品はJeffamine(商標)という商品名で市販されているものもある。
【0050】
当技術分野で公知のように、アミンとポリイソブテニル置換及び/又はmPAO官能化ジカルボン酸材料(好適にはアルケニルコハク酸無水物又はマレイン酸無水物)との反応は、それら反応物を一緒に、例えば油溶液中で加熱することにより利便性をもって行える。通常、反応温度は約100℃~約250℃、反応時間は約1時間~約10時間であってもよい。反応比はかなり変化し得るが、一般的に、アミン含有反応物の反応当量当たり、約0.1~約1.0当量のジカルボン酸単位含有量を使用してもよい。
特に、無灰分散剤が存在する場合、無灰分散剤としては、ポリイソブテニルコハク酸無水物及びテトラエチレンペンタミンなどのポリアルキレンポリアミンもしくはH‐PAMから形成されるポリイソブテニルコハク酸イミド、無水コハク酸官能化mPAO及びテトラエチレンペンタミンなどのポリアルキレンポリアミンもしくはH‐PAMから形成されるmPAOベースのコハク酸イミド、又はこれらの組み合わせもしくは反応生成物が挙げられる。これらの分散剤は、当技術分野で公知の他の分散剤と同様に、(例えば、無水酢酸及び/又はカルボン酸エチレンなどの二次窒素キャッピング剤で、ホウ酸化/ホウ素化剤で、及び/又はリンの無機酸で)更に処理してもよい。好適な例には、例えば、米国特許第3,254,025号明細書、同第3,502,677号明細書、及び同第4,857,214号明細書に見られるものもある。
【0051】
使用する場合、構造(I)に従った無灰分散剤は、添加剤パッケージ濃縮物及び/又は潤滑油組成物の総質量に対して0.1~30質量%、例えば0.5~25質量%、又は1.0~20質量%の量で含まれてもよい。
分散剤のホウ酸化は公知であり望ましいこともあるが、特定の実施形態では、構造(I)の分散剤(単数又は複数)は個々に(まとまって)、また実際には本開示に従った添加剤パッケージ濃縮物及び/又は潤滑油組成物の全ての成分(全体として)は、組成物の質量に対して20~500ppm、特に30~200ppm、60~350ppm、又は100~450ppmを含んでもよい。ホウ素含有量は、ASTM D5185に従って測定できる。
【0052】
抗酸化剤
抗酸化剤は、酸化防止剤と称することもあり、潤滑油組成物の酸化に対する抵抗力を高める(又は感受性を低下させる)場合もある。抗酸化剤は、過酸化物やその他のフリーラジカル形成化合物などの酸化剤と結合し、修飾して無害化することにより、例えば酸化剤を分解することにより、又は酸化の触媒又は促進剤を不活化することにより、作用する。酸化劣化は、使用量の増加に伴う流体中のスラッジ、金属表面へのワニス状の沈着、時には粘度上昇により起こり得る。
【0053】
潤滑油組成物において有用である多様な酸化防止剤.例えば、Klamann「Lubricants and Related Products」、Wiley VCH社、1984年;米国特許第4,798,684号明細書;及び米国特許第5,084,197号明細書を参照されたい。
好適な抗酸化剤の例としては、銅含有抗酸化剤、硫黄含有抗酸化剤、芳香族アミン含有及び/又はアミド含有抗酸化剤、(ヒンダード)フェノール抗酸化剤、ジチオリン酸塩及び誘導体等、並びにこれらの組み合わせ及び特定の反応生成物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。一部の抗酸化剤は無灰であってもよい(即ち、痕跡や汚染物質ではない金属原子を、あるとしても、ほとんど含まなくてよい)。好ましい実施形態では、1つ以上の抗酸化剤は、本開示に従った添加剤パッケージ濃縮物及び/又は潤滑油組成物中に含ませることが可能である。特に、本開示の潤滑油組成物は、アミン抗酸化剤、(ヒンダード)フェノール抗酸化剤、又はこれらの組合せを含んでもよい。
【0054】
フェノール抗酸化剤は、無灰(金属を含まない)フェノール化合物、又は特定のフェノール化合物の中性もしくは塩基性金属塩であってもよい。典型的なフェノール抗酸化剤は、立体障害型水酸基を含むヒンダードフェノールであり、ヒンダードフェノールには、水酸基が互いにo‐又はp‐位にあるジヒドロキシアリール化合物のその誘導体が含まれる。代表的なフェノール抗酸化剤としては、C6+アルキル基で置換したヒンダードフェノール類、及びこれらのヒンダードフェノール類のアルキレン結合誘導体が挙げられる。このタイプのフェノール材料の例としては、2‐t‐ブチル‐4‐ヘプチルフェノール;2‐t‐ブチル‐4‐オクチルフェノール;2‐t‐ブチル‐4‐ドデシルフェノール;2,6‐ジ‐t‐ブチル‐4‐ヘプチルフェノール;2,6‐ジ‐t‐ブチル‐4‐ドデシルフェノール;2‐メチル‐6‐t‐ブチル‐4‐ヘプチルフェノール;2‐メチル‐6‐t‐ブチル‐4‐ドデシルフェノール、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。他の有用なヒンダードモノフェノール抗酸化剤としては、例えば、ヒンダード2,6‐ジアルキル‐フェノールプロピオン酸エステル誘導体が挙げられる。また、ビスフェノール抗酸化剤も使用してよい。オルト結合フェノール類の例としては、2,2’‐ビス(4‐ヘプチル‐6‐t‐ブチル‐フェノール);2,2’‐ビス(4‐オクチル‐6‐t‐ブチル‐フェノール);2,2’‐ビス(4‐ドデシル‐6‐t‐ブチル‐フェノール);及びこれらの組み合わせが挙げられる。パラ結合ビスフェノール類の例としては、4,4’‐ビス(2,6‐ジ‐t‐ブチルフェノール)及び/又は4,4’‐メチレン‐ビス(2,6‐ジ‐t‐ブチルフェノール)が挙げられる。
【0055】
有効量の1種以上の触媒抗酸化剤を追加的又は代替的に使用してもよい。触媒抗酸化剤は、a)1種以上の油溶性多金属有機化合物;及びb)1種以上の置換N,N’‐ジアリール‐o‐フェニレンジアミン化合物、又はc)1種以上のヒンダードフェノール化合物、又はb)及びc)の両方の組み合わせを含むことが可能である。触媒抗酸化剤は、米国特許第8,048,833号明細書に開示されている。
非フェノール酸化防止剤としては、(芳香族)アミン抗酸化剤が挙げられ、そのまま、又はフェノールと組み合わせて使用してもよい。非フェノール抗酸化剤の代表的な例としては、式R456Nの芳香族モノアミンなどのアルキル化及び非アルキル化芳香族アミンが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。式中、R4は脂肪族、芳香族、又は置換芳香族基であり、R5は芳香族又は置換芳香族基であり、R6はH、アルキル、アリール、又はR7S(O)x8であり、式中、R7はアルキレン、アルケニレン、又はアラルキレン基であり、R8はアルキル基、又はアルケニル基、アリール基、又はアルカリル基であり、xは0、1又は2である。脂肪族基R4は1~20個の炭素原子(例えば、6~12個の炭素原子)を含んでもよい。脂肪族基は通常、飽和脂肪族基とすることが可能である。いくつかの実施形態では、R4及びR5はいずれも、芳香族基又は置換芳香族基であり、芳香族基は、ナフチルなどの縮合環芳香族基であってもよい。芳香族基R4及びR5は、Sなどの他の基と一緒になっていてもよい。
【0056】
典型的な芳香族アミン抗酸化剤は、炭素原子数が少なくとも約6個のアルキル置換基を有することが可能である。脂肪族基の例としては、特に、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、及びこれらの組合せが挙げられる。一般に、脂肪族基の炭素原子数は約14個以下とすることが可能である。潤滑剤添加剤として有用なアミン抗酸化剤の一般的なタイプとしては、ジフェニルアミン、フェニルナフチルアミン、フェノチアジン、イミドジベンジル、ジフェニルフェニレンジアミン等、及びこれらの組み合わせを挙げることができる。また、2種以上のアミンの混合物も有用である。高分子アミン抗酸化剤も有用である。芳香族アミン抗酸化剤の例としては、p,p’‐ジオクチルジフェニルアミン;t‐オクチルフェニル‐α‐ナフチルアミン;フェニル‐α‐ナフチルアミン;p‐オクチルフェニル‐α‐ナフチルアミン;ビス(ノニルフェニル)アミン;N‐フェニル‐ベンゼンアミド;等;並びにこれらの組合せを挙げることができる。
硫黄含有抗酸化剤は油溶性及び/又は油分散性とすることが可能であり、硫化アルキルフェノール及び/又はそのアルカリ/アルカリ土類金属塩が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。非限定的な例としては、硫化C4‐C25オレフィン(単数又は複数)、硫化脂肪族(C7‐C29)ヒドロカルビル脂肪酸エステル(単数又は複数)、無灰硫化フェノール抗酸化剤(単数又は複数)、硫黄含有有機モリブデン化合物(単数又は複数)、及びこれらの組合せを挙げることができる。更なる情報として、抗酸化剤として有用な硫化物質については、米国特許第10,731,101号明細書(例えば、15~22項)を参照されたい。
【0057】
特に、抗酸化剤が存在する場合、抗酸化剤は、ヒンダードフェノール及び/又は任意にアルキル化したジアリールアミンを含むことが可能である。存在する場合、1種以上の抗酸化剤は、0.01~10質量%、例えば、0.05~5質量%、0.1~3質量%、又は0.5~10質量%の集合的量で使用してもよい。
【0058】
腐食防止剤
腐食防止剤は、金属の腐食を低減するために使用してもよく、代替的に金属不活性化剤又は金属不動態化剤と呼ばれることがよくある。代替的に抗酸化剤として特徴付けられる腐食防止剤もある。
好適な腐食防止剤としては、窒素及び/又は硫黄含有複素環式化合物、例えばトリアゾール(例えばベンゾトリアゾール)、置換チアジアゾール、イミダゾール、チアゾール、テトラゾール、ヒドロキシキノリン、オキサゾリン、イミダゾリン、チオフェン、インドール、インダゾール、キノリン、ベンゾオキサジン、ジチオール、オキサゾール、オキサトリアゾール、ピリジン、ピペラジン、トリアジン、及びこれらのいずれか1種以上の誘導体が挙げられる。特定の腐食防止剤は、以下の構造で表されるベンゾトリアゾールである:
【化2】
式中、R10は存在しないか、又は直鎖状又は分枝状、飽和又は不飽和であってもよいC1‐C20ヒドロカルビル基又は置換ヒドロカルビル基である。R10は本質的にアルキル又は芳香族である環構造、及び/又はN、O、又はSなどのヘテロ原子を含んでもよい。好適な化合物の例としては、ベンゾトリアゾール、アルキル置換ベンゾトリアゾール(例えば、トリルトリアゾール、エチルベンゾトリアゾール、ヘキシルベンゾトリアゾール、オクチルベンゾトリアゾール等)、アリール置換ベンゾトリアゾール、アルキルアリール置換又はアリールアルキル置換ベンゾトリアゾール等、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。例えば、トリアゾールは、アルキル基の炭素原子数が1~約20個又は1~約8個であるベンゾトリアゾール及び/又はアルキルベンゾトリアゾールを含むか、又はそれらであってもよい。いくつかの実施形態では、腐食防止剤は、ベンゾトリアゾール及び/又はトリルトリアゾールを含むか、又はそれらであってもよい。
【0059】
追加的に又は代替的に、腐食防止剤は、以下の構造で表される置換チアジアゾールを含んでもよい:
【化3】
式中、R11及びR12は独立して、水素又は炭化水素基であり、この基は環状、脂環式、アラルキル、アリール、及びアルカリルを含む脂肪族又は芳香族であってもよい。これらの置換チアジアゾールは、2,5‐ジメルカプト‐1,3,4‐チアジアゾール(DMTD)分子から誘導する。DMTDの多くの誘導体が当技術分野で報告されており、任意のこのような化合物は、本開示で使用する潤滑油組成物に含めることが可能である。例えば、米国特許第2,719,125号明細書、同第2,719,126号明細書、及び同第3,087,937号明細書は、様々な2,5‐ビス‐(炭化水素ジチオ)‐1,3,4‐チアジアゾールの調製を記載している。
更に追加的又は代替的に、腐食防止剤は、R11及びR12がカルボニル基を介して硫化物の硫黄原子に結合してもよいカルボン酸エステルなどのDMTDの1種以上の他の誘導体を含んでもよい。これらのチオエステル含有DMTD誘導体の調製については、例えば米国特許第2,760,933号明細書に記載されている。DMTDと炭素原子数が少なくとも10個のα‐ハロゲン化脂肪族モノカルボン酸のカルボン酸との縮合により生成されるDMTD誘導体は、例えば米国特許第2,836,564号明細書に記載されている。この方法により、R11及びR12がHOOC‐CH(R13)‐であり、R13がヒドロカルビル基であるDMTD誘導体が生成される。これらの末端カルボン酸基のアミド化又はエステル化により更に生成したDMTD誘導体もまた有用となる可能性がある。
2‐ヒドロカルビルジチオ‐5‐メルカプト‐1,3,4‐チアジアゾールの調製は、例えば、米国特許第3,663,561号明細書に記載されている。
【0060】
DMTD誘導体の特定のクラスは、2‐ヒドロカルビルジチオ‐5‐メルカプト‐1,3,4‐チアジアゾールと2,5‐ビス‐ヒドロカルビルジチオ‐1,3,4‐チアジアゾールとの混合物を含んでもよい。このような混合物は、HiTEC(登録商標)4313という商品名で販売されているものもあり、Afton Chemical社から市販されている。
特に、本開示に従った添加剤パッケージ濃縮物及び/又は潤滑油組成物が存在する場合、それらは置換チアジアゾール、置換ベンゾトリアゾール、又はこれらの組合せを含んでもよい。
必要に応じて、腐食防止剤は任意の有効量で使用できるが、使用する場合は通常、濃縮物/組成物の質量に対して約0.001~5.0質量%、例えば、0.01~3.0質量%、又は0.03~1.0質量%の量で使用してもよい。
【0061】
摩擦調整剤
有機摩擦調整剤(OFM;別名無灰FM)は、本開示に従った添加剤パッケージ濃縮物及び/又は潤滑油組成物中に存在してもよく、一般的に公知である。例えば、OFMは、カルボン酸及び/又は無水物とアルカノール及び/又はアミン系FMとを反応させることにより形成したエステルを含んでもよい。他の有用な摩擦調整剤は一般に、親油性炭化水素鎖に共有結合した極性末端基(例えば、カルボキシル又はヒドロキシル)を含んでもよい。カルボン酸及び無水物とアルカノールとのエステルは、米国特許第4,702,850号明細書に記載されている。他の従来のOFMの例は、M.Belzer著、Journal of Tribology、1992年、第114巻、pp.675‐682、並びにM.Belzer及びS.Jahanmir著、Lubrication Science、1988年、第1巻、pp.3‐26において見られる。通常、本開示に従った潤滑油組成物中の有機/無灰摩擦調整剤の総量は、組成物の総質量に対して5質量%以下、例えば、2質量%以下、又は0.5質量%以下であり;任意に、OFMは、組成物の総質量に対して少なくとも0.05質量%、例えば少なくとも0.1質量%又は少なくとも0.2質量%の量で含まれてもよい。
【0062】
本明細書に記載の潤滑組成物において有用である可能性がある例示的な摩擦調整剤は例えば、アルコキシル化脂肪酸エステル、アルカノールアミド、ポリオール脂肪酸エステル、ホウ酸化グリセロール脂肪酸エステル、脂肪アルコールエーテル、及びこれらの組合せが挙げられる。
例示的なアルコキシル化脂肪酸エステルとしては例えば、ステアリン酸ポリオキシエチレン、脂肪酸ポリグリコールエステル等が挙げられる。これらは、ステアリン酸ポリオキシプロピレン、ステアリン酸ポリオキシブチレン、イソステアリン酸ポリオキシエチレン、イソステアリン酸ポリオキシプロピレン、パルミチン酸ポリオキシエチレン等、及びこれらの組合せが挙げられる。
例示的なアルカノールアミドとしては、例えば、ラウリン酸ジエチルアルカノールアミド、パルミチン酸ジエチルアルカノールアミド等が挙げられる。これらには、オレイン酸ジエチルアルカノールアミド(diethyalkanolamide)、ステアリン酸ジエチルアルカノールアミド、オレイン酸ジエチルアルカノールアミド、ポリエトキシル化ヒドロカルビルアミド、ポリプロポキシル化ヒドロカルビルアミド等、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
例示的なポリオール脂肪酸エステルとしては例えば、モノオレイン酸グリセロール、飽和モノ‐、ジ‐、及びトリ‐グリセリドエステル、モノステアリン酸グリセロール、ヒドロキシル含有ポリオールエステル等、及びこれらの組合せが挙げられる。
【0063】
例示的なホウ酸化グリセロール脂肪酸エステルとしては例えば、ホウ酸化モノオレイン酸グリセロール、ホウ酸化飽和モノ‐、ジ‐、及びトリ‐グリセリドエステル、ホウ酸化モノステアリン酸グリセロール等、及びこれらの組合せが挙げられる。グリセロールポリオールに加えて、又はその代わりに、これらのエステルにはトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタン等が含まれ得る。これらのエステルは、ポリオールモノカルボン酸エステル、ポリオールジカルボン酸エステル、及び/又は、場合によりポリオールトリカルボン酸エステルとすることが可能である。特に、OFMには、モノオレイン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロール、トリオレイン酸グリセロール、モノステアリン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、及びトリステアリン酸グリセロール、並びに対応するモノパルミチン酸グリセロール、ジパルミチン酸グリセロール、トリパルミチン酸グリセロール、それぞれのイソステアリン酸塩、リノール酸塩等、並びにこれらの組合せが挙げられる。特にグリセロールを基剤ポリオールとして使用するポリオールのエトキシル化、プロポキシル化、ブトキシル化脂肪酸エステルは、OFMとして有用となる可能性がある。
例示的な脂肪アルコールエーテルとしては例えば、ステアリルエーテル、ミリスチルエーテル等、及びこれらの組み合わせが挙げられる。C3‐C50の炭素数を有するものを含むアルコールはエトキシル化、プロポキシル化、又はブトキシル化して、対応する脂肪アルキルエーテルを形成することが可能である。基剤アルコール部分はステアリル、ミリスチル、パルミチル、C11‐C13炭化水素、オレイル、イソステアリル等を含むか、又はそれらであってもよい。
他の無灰摩擦調整剤としては、ポリアルキレンポリアミン及び/又はエトキシル化長鎖アミンの誘導体が挙げられる。ポリアルキレンポリアミンの誘導体としては有利には、規定した構造のコハク酸イミドが挙げられ、又は単純なアミドであってもよい。ポリアルキレン部分の炭素原子数は有利には2~4個であってもよい。
【0064】
ポリエチレンポリアミンから誘導した好適なコハク酸イミドとしては、以下の構造のコハク酸イミドが挙げられる:
【化4】
式中、x+yは8~15であってよく、zは0又は1~5の整数であってよく、特に、x+yは11~15(例えば13)であってよく、zは1~3であってよい。より広義には、このような摩擦調整剤は以下の一般構造により表すことが可能である:
【化5】
式中、R14及びR15の各々は独立して、下記式で表す:
【化6】
式中、x+yは8~15(特に、11~15、例えば13)であり、zは0又は1~5の整数(特に、1~5の整数又は1~3の整数)であり;各R16は独立して水素、アセチル部分、又は炭酸エチレンと>N‐R16(特に、水素又はアセチル部分)との反応により形成される部分である。
このような摩擦調整剤の調製は、例えば米国特許第5,840,663号明細書に記載されている。
【0065】
上記のコハク酸イミドを無水酢酸と後反応させ、摩擦調整剤を形成してもよく、この摩擦調整剤では、以下の構造(式中、z=1)により例示されるように、各R16はそれぞれ独立してアセチル基である:
【化7】
この摩擦調整剤の調製は例えば、米国特許出願公開第2009/0005277号明細書に見られる。他の試薬、例えばホウ酸化剤との後反応も当該技術分野で公知である。このようなコハク酸イミド摩擦調整剤が存在する場合、その摩擦調整剤は任意の有効量で使用してもよい。
【0066】
代替的な単純アミド摩擦調整剤の例としては、以下の構造を有してもよい:
【化8】
式中、R17及びR18は、同じ又は異なるアルキル基であってよい。例えば、、R17及びR18はC14~C20アルキル基であってもよく、このアルキル基は直鎖状又は分枝状であってもよく、mは1~5の整数とすることが可能である。特に、R17及びR18はいずれもイソステアリン酸から誘導してもよく、mは4であってもよい。このような単純アミドが存在する場合、その単純アミドは任意の有効量で使用してもよい。
【0067】
好適なエトキシル化アミン摩擦調整剤は、第一級アミン及び/又はジアミンと酸化エチレンとの反応生成物を含むか、又はその反応生成物であってよい。酸化エチレンとの反応は好適には、ほぼ全ての第一級及び第二級アミンが第三級アミンに変換され得るような化学量論性を利用して実施してもよい。このようなアミンは、例示的な以下の構造を有してもよい:
【化9】
式中、R19及びR20はアルキル基、又は硫黄もしくは酸素結合を含んで炭素原子数が約10~20個であるアルキル基であってもよい。エトキシル化アミン摩擦調整剤の例としては、R19及び/又はR20の炭素原子数が16~20個、例えば16~18個であってもよい材料が挙げられる。このタイプの材料は市販品であってよく、Akzo Nobel社製Ethomeen(登録商標)及びEthoduomeen(登録商標)の商標名で販売されているものでもよい。Akzo Nobel社製の好適な材料としては、特にEthomeen(登録商標)T/12及びEthoduomeen(登録商標)T/13が挙げられる。このようなエトキシル化アミンが存在する場合、そのエトキシル化アミンは任意の有効量で使用してもよい。
【0068】
特に、摩擦調整剤(単数又は複数)が存在する場合、その摩擦調整剤はモノオレイン酸グリセロール、トリエタノールアミン(TEEMA)のエステル(例えば、獣脂エステル)、R14ヒドロカルビル置換基を有する無水コハク酸のエステル(例えば獣脂エステル)、R14/R15官能化ポリエチレンポリアミンコハク酸イミド、R19及び/又はR20の炭素原子数が16~20個であるエトキシル化アミン、又はこれらの組み合わせを含むか、又はそれらとすることが可能である。
存在する場合、摩擦調整剤の有用な濃度は、0.01~8質量%、例えば、0.05~6.5質量%、又は0.1~約5質量%の範囲であってもよい。有機モリブデン化合物は摩擦調整剤に分類される場合もあるが、本明細書では、耐摩耗剤に分類され、従って計算上、添加剤パッケージ及び/又は潤滑油組成物中の摩擦調整剤成分を反映する割合から除外される。あらゆる種類の摩擦調整剤は単独で、又は本開示の材料と混合して使用してもよい。追加的又は代替的に、2種以上の摩擦調整剤の混合物、又は摩擦調整剤と代替的な表面活性材料(単数又は複数)との混合物が望ましい場合もある。
【0069】
耐摩耗剤
モリブデン含有化合物
いくつかの実施形態では、添加剤パッケージ及び/又は潤滑油組成物は更に、油溶性又は油分散性の有機モリブデン化合物などの、1種以上の油溶性又は油分散性のモリブデン含有化合物を含んでもよい。他の実施形態では、添加剤パッケージ及び/又は潤滑油組成物は更に、油溶性又は油分散性のモリブデン含有化合物を実質的に含まなくてもよい。
そのような油溶性又は油分散性の有機モリブデン化合物の非限定的な例としては、ジチオカルバミド酸モリブデン、ジチオリン酸モリブデン、ジチオホスフィン酸モリブデン、キサントゲン酸モリブデン、チオキサントゲン酸モリブデン、硫化モリブデン等、及びそれらの混合物、特にジアルキルジチオカルバミド酸モリブデン、ジアルキルジチオリン酸モリブデン、アルキルキサントゲン酸モリブデン、及びアルキルキサントゲン酸モリブデンのうちの1種以上が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。代表的なアルキルキサントゲン酸モリブデン及びアルキルチオキサントゲン酸モリブデン化合物は、それぞれMo(R21OCS24及びMo(R21SCS24の式を用いて表してもよく、式中、各R21はそれぞれ独立して、一般に炭素原子数が1~30個、又は炭素原子数が2~12個のアルキル、アリール、アラルキル、及びアルコキシアルキルから成る群より選択される有機基、特に炭素原子数が2~12個のアルキル基であってもよい。
【0070】
いくつかの実施形態では、油溶性又は油分散性の有機モリブデン化合物は、ジチオカルバミド酸モリブデン、例えばジアルキルジチオカルバミド酸モリブデンを含んでもよく、及び/又はジチオリン酸モリブデン、特にジアルキルジチオリン酸モリブデンを実質的に含まなくてもよい。いくつかの実施形態では、任意の油溶性又は油分散性のモリブデン化合物は、組成物中のモリブデン原子の唯一の供給源(単数又は複数)として、ジアルキルジチオカルバミド酸モリブデンなどのジチオカルバミド酸モリブデン、及び/又はジアルキルジチオリン酸モリブデンなどのジチオリン酸モリブデンから構成してもよい。この2組の実施形態のいずれでは、油溶性又は油分散性のモリブデン化合物が存在する場合、そのモリブデン化合物は基本的に、潤滑油組成物中のモリブデン原子の唯一の供給源としてのジチオカルバミド酸モリブデン、例えばジアルキルジチオカルバミド酸モリブデンから構成してもよい。
【0071】
モリブデン化合物が存在する場合、モリブデン化合物は単核、二核、三核、又は四核であってもよく、特に二核及び/又は三核のモリブデン化合物を含むか、又はそれらであってもよい。
好適な二核又は二量体ジアルキルジチオカルバミド酸モリブデンは、例えば下記式で表すことが可能である:
【化10】
式中、R22~R25はそれぞれ独立して、炭素原子数が1~24個の直鎖状、分枝状、又は芳香族ヒドロカルビル基を表してもよく、X1~X4はそれぞれ独立して、酸素原子又は硫黄原子を表してもよい。4つのヒドロカルビル基R22~R25は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0072】
好適な三核有機モリブデン化合物としては、式:Mo3knz、及びその混合物を有するものが挙げられる。このような三核の式において、3つのモリブデン原子は複数の硫黄原子(S)に連結してもよく、kは4~7で変化する。また、各Lはそれぞれ独立して、化合物を油溶性又は油分散性にするために十分な数の炭素原子数n1~4個を有する、選択された有機リガンドであってもよい。更に、zが0でない場合、Qは、水、アミン、アルコール、ホスフィン、及び/又はエーテルなどの中性電子供与化合物の群から選択してもよく、ここでzは0~5の範囲であり、非化学量論的(非整数)値を含む。
このような三核式では、少なくとも21個の総炭素原子(例えば、少なくとも25個、少なくとも30個、又は少なくとも35個)は通常、全てのリガンド(Ln)の組み合わせの中に存在してもよい。しかし、リガンドの有機基が有利にも、化合物を油溶性又は油分散性にするために十分な炭素原子数をまとまって示し得ることは重要である。例えば、各リガンドL内の炭素原子数は一般的に1~100、例えば1~30又は4~20の範囲であってよい。
式Mo3knzを有する三核モリブデン化合物は有利には、以下の構造の一方又は両方で表すような、アニオンリガンドに囲まれたカチオン性コアを示してもよい:
【化11】
このようなカチオン性コアはそれぞれ、+4の正味電荷を有してもよい(例えば、Mo原子の酸化状態がそれぞれ+4であることに起因する)。従って、これらのコアを可溶化するためには、全てのリガンドの総電荷が一致する必要があり、この場合、-4である。4つのモノアニオンリガンドは、コアの中和に有利に働く場合がある。いかなる理論にも囚われる意図なく、2つ以上の三核コアは1つ以上のリガンドにより結合又は相互接続してもよく、リガンドは多座配位であってもよいと考えられる。これは、多座配位リガンドが単一コアに対して複数の接続部を有する場合を含む。酸素及び/又はセレンはいずれかのコアの硫黄原子の一部と置換してもよい。
【0073】
上述の三核コアのリガンドの非限定的な例としては、ジアルキルジチオリン酸塩などのジチオリン酸塩、アルキルキサントゲン酸塩及び/又はアルキルチオキサントゲン酸塩などのキサントゲン酸塩、並びに特に各々がジアルキルジチオカルバミド酸塩を含むか又はジアルキルジチオカルバミド酸塩であるジアルキルジチオカルバミド酸塩などのジチオカルバミド酸塩、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。追加的又は代替的に、三核モリブデン含有コアのリガンドは独立して、下記式の1つ以上であってもよい:
【化12】
式中、X5、X6、X7、及びYはそれぞれ独立して酸素又は硫黄であり、Zは窒素又はホウ素であり、R26、R27、R28、R29、R30、R31、及びR32はそれぞれ独立して水素、又はヒドロカルビル基などの有機(炭素含有)部分であり、これらは互いに同一であっても異なっていてもよく、特に同一であってもよい。例示的な有機部分は、アルキル(例えば、リガンドの残部に結合した炭素原子が第一級又は第二級である)、アリール、置換アリール、アルカリル、置換アルカリル、アラルキル、置換アラルキル、エーテル、チオエーテル、又はこれらの組み合わせもしくは反応生成物、特にアルキルを含むか又はそれらであってよい。
【0074】
油溶性又は油分散性の三核モリブデン化合物は、適切な液体(単数又は複数)/溶媒(単数又は複数)中で(NH42Mo313・n(H2O)などのモリブデン源を、二硫化テトラアルキルチウラム(tetralkylthiuram)などの適切なリガンド源と反応させることにより調製可能である。式中、nは非化学量論(非整数)値を含む0~2の間で変化する。他の油溶性又は分散性の三核モリブデン化合物は、適切な溶媒(単数又は複数)中、(NH42Mo313・n(H2O)などのモリブデン源、二硫化テトラアルキルチウラム、ジアルキルジチオカルバミド酸塩、又はジアルキルジチオリン酸塩などのリガンド源、及びシアン化物イオン、亜硫酸イオン、又は置換ホスフィンなどの硫黄抽出剤の反応中に形成できる。あるいは、M’が対イオンであり、AがCl、Br、又はIなどのハロゲンである[M’]2[Mo376]などの三核モリブデン‐硫黄ハライド塩は、ジアルキルジチオカルバミド酸塩又はジアルキルジチオリン酸塩などのリガンド源と、適切な液体/溶媒(系)中で反応させ、油溶性又は油分散性三核モリブデン化合物を形成してもよい。適切な液体/溶媒(系)は、例えば水性又は有機系であってよい。
他のモリブデン前駆体としては、酸性のモリブデン化合物が挙げられる。このような化合物は、ASTM D‐664又はD‐2896滴定手順により測定する場合、塩基性窒素化合物と反応してもよく、典型的には6価であってもよい。例としては、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、及び他のアルカリ金属モリブデン酸塩及び他のモリブデン塩、例えばモリブデン酸水素ナトリウム、MoOCl4、MoO2Br2、Mo23Cl6、三酸化モリブデン、もしくは同様の酸性モリブデン化合物、又はこれらの組合せが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。従って、追加的又は代替的に、本開示の濃縮物及び/又は組成物には、必要に応じて、例えば、米国特許第4,263,152号明細書、同第4,285,822号明細書、同第4,283,295号明細書、同第4,272,387号明細書、同第4,265,773号明細書、同第4,261,843号明細書、同第4,259,195号明細書、同第4,259,194号明細書、及び/又は国際公開第94/06897に記載されているような塩基性窒素化合物のモリブデン/硫黄複合体により、モリブデンを付与することが可能である。
【0075】
モリブデン含有化合物が存在する場合、モリブデン含有化合物は組成物の総質量に対して0.1~2.0質量%、0.1~1.5質量%、0.2~1.2質量%、又は0.2~0.8質量%の量で潤滑油組成物に含まれてもよい。追加的又は代替的に、モリブデン含有化合物が存在する場合、モリブデン含有化合物は、潤滑油組成物に、組成物の総質量に対して50~1500質量百万分率、例えば75~800ppm、100~500ppm、又は300~1200ppmのモリブデンを付与してもよい。モリブデン含有量はASTM D5185に準拠して測定できる。
モリブデン含有化合物は、他の機能を有していてもよく、あるいは、例えば、抗酸化剤及び/又は摩擦調整剤として分類してもよいが、本明細書ではモリブデン含有化合物は耐摩耗剤として分類する。従って、耐摩耗剤を実質的に含まないことを特徴とする組成物は、その他の潜在的な機能性添加剤特性があるにも関わらず、モリブデン含有化合物を実質的に含まないものと理解すべきである。同様に、摩擦調整剤を実質的に含まないものとして特徴付けられる組成物は、摩擦調整剤を実質的に含まないにも関わらず、これらのモリブデン含有化合物は含んでもよい。それにも関わらず、モリブデン含有化合物を含有する添加剤パッケージ及び/又は潤滑油組成物は、依然として他の摩耗防止剤を実質的に含まなくてもよい。
【0076】
亜鉛をベースとするリン含有化合物
いくつかの実施形態では、添加剤パッケージ及び/又は潤滑油組成物は更に、1種以上の亜鉛系リン含有化合物、例えば1種以上のジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛化合物を含んでもよい。このような化合物は当技術分野で公知であり、ZDDPと称することが多い。他の実施形態では、添加剤パッケージ及び/又は潤滑油組成物は更に、亜鉛をベースとするリン含有化合物を実質的に含まなくてもよい。
ZDDP化合物は、公知の技術に従って、例えば、通常1種以上のアルコール又はフェノールとP25との反応により初めにジヒドロカルビルジチオリン酸(DDPA)を形成し、次に、形成したDDPAを亜鉛化合物で中和することにより調製してもよい。例えば、第一級アルコールと第二級アルコールとの混合物を反応させることによりジチオリン酸を製造してもよい。あるいは、ヒドロカルビル基が全て第二級であるか、又はヒドロカルビル基が全て第一級であることを特徴とするジチオリン酸を調製できる。亜鉛塩の製造には、任意の塩基性又は中性亜鉛化合物を使用してもよいが、通常、酸化物、水酸化物、及び炭酸塩を使用する。市販添加剤を使用する場合、市販添加剤は中和反応に塩基性亜鉛化合物を過剰に使用するため、亜鉛を過剰に含むことが多い。
【0077】
有利なジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛は、下記式で表されるようなジヒドロカルビルジチオリン酸の油溶性又は油分散性塩を含むか、又は油溶性又は油分散性塩であってよい:
【化13】
式中、R33及びR34は炭素原子数が1~18個(例えば、2~12個又は2~8個)の同一又は異なるヒドロカルビルラジカルであってもよく、そのヒドロカルビルラジカルの例としては、アルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキル、アルカリル、及びシクロ脂肪族ラジカルのうち1種以上が挙げられる。例示的なヒドロカルビルラジカルは、エチル、n‐プロピル、i‐プロピル、n‐ブチル、i‐ブチル、sec‐ブチル、アミル、n‐ヘキシル、i‐ヘキシル、n‐オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、2‐エチルヘキシル、フェニル、ベンジル、ブチルフェニル、シクロヘキシル、メチルシクロペンチル、プロペニル、ブテニル、及びこれらの組み合わせを含むか、又はそれらであってもよいが、必ずしもこれらに限定されるものではない。十分な油溶性を取得及び/又は維持するために、各ジヒドロカルビルジチオリン酸リガンド(即ち、単一のR33とR34との対)上の炭素原子の総数は、一般的に少なくとも3、又は少なくとも5であってよい。従って、特に、ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛はジアルキルジチオリン酸亜鉛を含むことが可能である。しかし、アリール、アラルキル、及び/又はアルカリルヒドロカルビル基は部分的に又は完全に、上記に収載したアルキル/アルケニル基で置換してもよい。
酸素に結合したヒドロカルビルラジカル上の炭素原子は全てが第一級炭素であっても、全てが第二級炭素であっても、又は第一級炭素と第二級炭素との混合物であってもよく;通常、このような炭素原子の少なくとも一部は第二級炭素である。第二級ZDDP化合物は市販品、例えば、特に、Lubrizol社製の商品名「LZ677A」、「LZ1095」、及び「LZ1371」、Chevron Oronite社製の商品名「OLOA262」、並びにAfton Chemical社製の商品名「HITEC(商標)7169」である。
【0078】
必要に応じて、1種以上のZDDP化合物は、組成物の総質量に対して0.4~5.0質量%、例えば0.6~3.5質量%、1.0~3.0質量%、又は1.2~2.5質量%の量で潤滑油組成物に含まれてもよい。追加的又は代替的に、ZDDP化合物が存在する場合、ZDDP化合物は個々に、潤滑油組成物に、組成物の総質量に対して300~4000質量百万分率、例えば、500~2500ppm、750~2000ppm、又は800~1600ppmのリンを付与してもよい。更に追加的又は代替的に、ZDDP化合物が存在する場合、ZDDP化合物は、潤滑油組成物に、組成物の総質量に対して400~4500質量百万分率、例えば500~3000ppm、800~2600ppm、又は1000~2200ppmの亜鉛を付与してもよい。亜鉛及びリンの含有量はそれぞれ、ASTM D5185に従って測定できる。
追加的又は代替的に、ジヒドロカルビルジチオカルバミン酸亜鉛、アルカン酸亜鉛(例えば、ステアリン酸亜鉛、イソステアリン酸亜鉛、パルミチン酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、カプリン酸亜鉛、2‐エチルヘキサン酸亜鉛等)、アルケン酸亜鉛(例えば、オレイン酸亜鉛及び/又はウンデシレン酸亜鉛)、亜鉛アリール、アラルキル、及び/又はアルカリル化合物(例えば安息香酸亜鉛、石炭酸亜鉛、及び/又はナフテン酸亜鉛)を耐摩耗剤として使用できる。
【0079】
無灰リン含有化合物
無灰耐摩耗剤は個々の化合物又は化合物の混合物であってもよい。化合物の無灰耐摩耗性混合物を含む1実施形態では、無灰耐摩耗性混合物は成分(i)及び成分(ii)を含むことが可能である。成分(i)は有利には、有意な耐摩耗性を有してもよく、成分(ii)は耐摩耗性を有しても有していなくてもよい。
無灰摩耗防止成分(i)は有利には、構造(I):(II)の2種以上の化合物の混合物を含んでもよく;
【化14】
式中、基R35、R36、及びR37はそれぞれ独立して、炭素原子数が1~18個のヒドロカルビル基、及び/又はアルキル鎖がチオエーテル結合により中断されている、炭素原子数が1~18個のヒドロカルビル基を含むか、又はそれらであってもよい。但し、R35、R36、及びR37をまとまって表す一式の全ての基のうち少なくとも一部は、アルキル鎖がチオエーテル結合により中断されている炭素原子数が1~18個のヒドロカルビル基を含むか、又はそのヒドロカルビル基であってもよい。前記混合物は、3つ以上、4つ以上、又は5つ以上の、構造(II)の化合物を含んでもよい。
いくつかの実施形態では、基R35、R36、及びR37はそれぞれ独立して、炭素原子数が4~10個のヒドロカルビル(特にアルキル)基、及び/又はアルキル鎖がチオエーテル結合により中断されている炭素原子数が4~10個のヒドロカルビル(特にアルキル)基を含むか、又はそれらであってもよい。但し、一式の全てのR35、R36、及びR37のうちの少なくとも一部の基はまとまって、ヒドロカルビル(特にアルキル)鎖がチオエーテル結合により中断されている炭素原子数が4~10個のヒドロカルビル(特にアルキル)基を含むか、又はそのヒドロカルビル基であってもよい。
基R35、R36、及びR37がアルキル基(アルキル鎖がチオエーテル結合により中断されていない)を含む場合、その例としては、メチル、エチル、プロピル、及びブチルが挙げられ、特にブチルを含むか、又はブチルである。
【0080】
基R35、R36、及びR37が、ヒドロカルビル(特にアルキル)鎖がチオエーテル結合により中断されているヒドロカルビル(特にアルキル)基を含む場合、その例としては、R’が‐(CH2)n‐であってもよい構造‐R’‐S‐R’’の基が挙げられる。式中、nは2~4の整数であってもよく、R’’は‐(CH2m‐CH3であってもよく、mは1~15、例えば1~7の整数であってもよい。
特に、成分(i)を含む構造(I)の化合物の混合物において、混合物の少なくとも10質量%(例えば、少なくとも20%、少なくとも30%、又は少なくとも40%)は、R1、R2、及びR3の少なくとも1つがアルキル基を含むかアルキル基である構造(I)の化合物を含み、ここではアルキル鎖がチオエーテル結合により中断されており、構造(I)は特に、R’が‐(CH2n‐である構造‐R’‐S‐R’’を有する。式中、nは2~4の整数であってもよく、R’’は‐(CH2m‐CH3であってもよく、mは1~15、例えば1~7の整数であってもよい。
【0081】
無灰色耐摩耗性成分(ii)は有利には、以下の構造(III)の1種以上の化合物を含んでもよい。
【化15】
式中、基R38及びR41はそれぞれ独立して、炭素原子数が1~12個のアルキル基を含むか、又はそのアルキル基であってもよく、R39及びR40はそれぞれ独立して、炭素原子数が2~12個のアルキル結合を含むか、又はそのアルキル結合であってもよい。特に、R38及びR41はそれぞれ独立して、‐(CH2m‐CH3を含むか、又はそれであってもよく、式中、mは1~15、例えば1~7の整数であり、R39及びR40(存在する場合)はそれぞれ独立して、‐(CH2n‐を含むか、又はそれであってもよく、式中、nは2~4の整数である。混合物は構造(III)の2種以上又は3種以上の化合物を含んでもよい。
【0082】
特に、構造(II)の化合物(成分(i))及び構造(III)の化合物(成分(ii))が存在する場合、それら化合物はそれぞれ、組成物の総質量に対して0.04~1.0質量%、例えば0.05~0.8質量%、0.05~0.5質量%、又は0.07~0.4質量%の量で潤滑油組成物中に存在してもよい。追加的又は代替的に、特に、構造(II)の化合物(成分(i))及び構造(III)の化合物(成分(ii))はまとまって、潤滑油組成物に、組成物の総質量に対して80~800質量百万分率、例えば、100~700ppm、150~600ppm、又は200~500ppmのリンを付与してもよい。リン含有量は、ASTM D5185に従って測定できる。更に追加的又は代替的に、特に、構造(II)の化合物(成分(i))と構造(III)の化合物(成分(ii))が存在する場合、それらの質量比は、2:1~1:2、5:3~3:5、3:2~2:3、又は4:3~3:4であってもよい。
成分(ii)の構造(III)が存在しない場合でさえ、無灰摩耗剤の代替混合物が上記の構造(II)の2種以上の化合物を簡単に含むことができるように、無灰耐摩耗剤の個々の例は、上記の構造(II)の1種以上の化合物を含むことができる。耐摩耗剤は、追加的又は代替的に、1種以上の無灰耐摩耗剤と1種以上の金属含有耐摩耗剤との混合物を含んでもよい。
【0083】
発泡防止剤
発泡防止剤(消泡剤)は有利には、例えば、安定した泡の形成を遅らせるために、必要に応じて、本開示に従った添加剤パッケージ/濃縮物及び/又は潤滑油組成物に添加してもよい。シリコーン及び特定の有機重合体は典型的な消泡剤である。例えば、シリコンオイル(例えば、ポリジメチルシロキサン)などのポリシロキサンは、適切な割合で消泡特性を提供する可能性がある。消泡剤は市販されており、存在する場合、1質量%未満、しばしば0.1質量%未満といった少量で使用してもよい。
【0084】
粘度調整剤
粘度調整剤(粘度指数向上剤/VII又は粘度向上剤とも称する)は、本明細書に記載の潤滑組成物に含まれてもよい。粘度調整剤は、潤滑剤に高温及び低温操作性を付与する。これらの添加剤は、高温でのせん断安定性及び低温での許容可能な粘度を付与する可能性がある。好適な粘度調整剤としては、高分子量炭化水素、ポリエステル、並びに粘度調整剤と分散剤の両方として機能できる粘度調整剤分散剤が挙げられる。これらの重合体の典型的な分子量は、約10~1500キロダルトン(kD)、例えば約20~1200kD、又は約50~1000kDとすることが可能である。
【0085】
好適な粘度調整剤の例としては、メタクリレート、ブタジエン、オレフィン、及び/又は任意にアルキル化スチレンの線状又は星状重合体及び共重合体が挙げられる。ポリイソブチレンは一般に使用される粘度調整剤である。別の好適な粘度調整剤のクラスは、ポリ(メタ)アクリレート(例えば、種々の鎖長のアルキル(メタ)アクリレートの共重合体)であり、そのうちいくつかの調合物はまた/代替的に流動点降下剤(下記)として機能してもよい。他の好適な粘度調整剤としては、エチレンとプロピレンとの共重合体、エチレンと高炭素数の共単量体との共重合体、並びに/又はスチレンとブタジエン及び/もしくはイソプレンなどのジエンとの水素化ブロック共重合体が挙げられる。具体的な例としては、分子量50~200kDの、スチレン‐イソプレン又はスチレン‐ブタジエンをベースとする重合体が挙げられる。粘度調整剤として有用な共重合体としては、Chevron Oronite社製PARATONE(商標)(例えばPARATONE(商標)8921、PARATONE(商標)68231、及びPARATONE(商標)8941)の商品名;Afton Chemical社製HiTEC(商標)(例えばHiTEC(商標)5850B)の商品名;並びにLubrizol社製Lubrizol(商標)7067Cの商品名で市販されているものが挙げられる。本明細書において粘度調整剤として有用な水素化ポリイソプレン星形重合体(スチレン及びイソプレンブロックを含むジブロック/マルチブロックアームを含む)としては、Infineum International Limited社製の、例えば、SV200(商標)及びSV600(商標)の商品名で市販されているものが挙げられる。本明細書における粘度調整剤として有用な水素化ジエン‐スチレンブロック共重合体は、Infineum International Limited社製の、例えばSV50(商標)の商品名で市販されている。
本明細書における粘度調整剤として有用な重合体としては、Evonik Industries社製のViscoplex(商標)(例えば、Viscoplex(商標)6‐954)の商品名で入手できるような直鎖状ポリ(メタ)アクリレート重合体などのポリメタクリレート又はポリアクリレート重合体、又はLubrizol社製のAsteric(商標)(例えば、Lubrizol(商標)87708及びLubrizol(商標)87725)の商品名で入手できるような星形重合体が挙げられる。
【0086】
本明細書における粘度調整剤として有用なビニル芳香族含有重合体は、スチレン単量体、例えばスチレンなどのビニル芳香族炭化水素モノマーから誘導してもよい。本明細書で有用な例示的なビニル芳香族含有共重合体は、一般式A‐Bで表してもよく、式中、Aはビニル芳香族炭化水素単量体(例えばスチレン)から主に誘導した重合体ブロックであり、Bは共役ジエン単量体(例えばブタジエン及び/又はイソプレン)から主に誘導した重合体ブロックである。
使用する場合/必要な場合、粘度調整剤は、組成物/調合物の総質量に対して約0.01~約10質量%、例えば約0.1~約7質量%、約0.1~約4質量%、約0.2~約2質量%、約0.2~約1質量%、又は約0.2~約0.5質量%の量で潤滑油組成物(調合物)に組み込んでもよい。粘度調整剤は添加剤パッケージ濃縮物に添加してもよいし、希釈中/後に潤滑剤調合物に混合してもよいが、上記の量は、最終潤滑剤調合物に存在する量を反映しており、粘度調整剤(VM)が添加剤パッケージ濃縮物に添加される場合に存在し得る対応量は、例えば、濃縮物が最終調合物の約5質量%~約20質量%を占めると仮定すれば容易に逆算できる。
【0087】
粘度調整剤成分は通常、添加剤パッケージ濃縮物及び/又は潤滑油組成物/調合物中のものと通常は同様のベースストック/希釈剤油中に、濃縮物として含まれる。「輸送時の」粘度調整剤は通常、ポリメタクリレート又はポリアクリレート重合体については20質量%~75質量%の活性重合体、又はオレフィン共重合体、水素化ポリイソプレン星形重合体、又は水素化ジエン‐スチレンブロック共重合体については8質量%~25質量%の活性重合体を、「輸送時の」成分/濃縮物の形態で含有することが可能である。
【0088】
流動点降下剤
従来の流動点降下剤(PPD、別名:潤滑油流動性向上剤又はLOFI)は、必要に応じて、例えば、流体が流動する又は注ぐことができる最低温度を下げるために、本開示に従った添加剤パッケージ/濃縮物及び/又は潤滑油組成物に添加してもよい。好適な流動点降下剤の例としては、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアリルアミド、ハロパラフィン系ワックスと芳香族化合物との縮合生成物、カルボン酸ビニル重合体、並びにフマル酸ジアルキル、脂肪酸のビニルエステル、及びアリルビニルエーテルのターポリマーが挙げられる。米国特許第1,815,022号明細書、同第2,015,748号明細書、同第2,191,498号明細書、同第2,387,501号明細書、同第2,655,479号明細書、同第2,666,746号明細書、同第2,721,877号明細書、同第2,721,878号明細書、及び同第3,250,715号明細書に、流動点降下剤及び/又はその調製が記載されている。本開示に従った添加剤パッケージ/濃縮物及び/又は潤滑油組成物中に存在する場合、このような添加剤は、約0.01~5質量%、例えば約0.01~1.5質量%の量で使用してもよい。
【0089】
他の添加剤
本開示に従った添加剤パッケージ/濃縮物及び/又は潤滑油組成物には、当該技術分野で公知の他の添加剤、例えば、他の摩擦調整剤、他の耐摩耗剤、解乳化剤、発泡防止剤、粘着剤(例えば、ヒドロカルビル/オリゴマー/重合体の無水コハク酸)、極圧剤、シール相溶(膨潤)剤等を任意に添加してもよい。様々な添加剤カテゴリー(属)及び添加剤化合物(種)は、例えば、C.V.Smallheer及びR.Kennedy Smith著「Lubricant Additives」、1967年、pp.1‐11に開示されている。
【0090】
更なる実施形態
追加的又は代替的に、本開示は、以下の実施形態のうちの1つ以上を含んでもよい。
実施形態1。炭酸塩部分とホウ酸塩部分との両方を含み、以下の特徴:少なくとも3.8の塩基度指数;質量%でホウ素に対する石鹸含有量の比が55mmol/kg超;少なくとも330mmol/kgの石鹸含有量;ASTM D2896に従って測定した少なくとも220mgKOH/gのTBN;0.75~6.0の炭酸塩に対するホウ酸塩の質量比:を示す過塩基性アルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤であって、前記アルカリ土類金属はカルシウム及び/又はマグネシウムを含み、ヒドロカルビル置換基の炭素原子数は9~30個である、洗浄剤。
実施形態2。以下の特徴:塩基度指数は9.0以下である;質量%でホウ素に対する石鹸含有量の比は300mmol/kg未満である;ASTM D2896に従って測定したTBNは多くとも500mgKOH/gである;石鹸含有量は多くとも550mmol/kgである;ヒドロカルビル置換基はC14‐C24アルキル又はアルケニル部分を含む:のうちの少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は5つ全てが満たされる、実施形態1に記載の過塩基性サリチル酸カルシウム洗浄剤。
実施形態3。ASTM D4951に従ったホウ素含有量は少なくとも3.2質量%である、実施形態1又は実施形態2に記載の過塩基性サリチル酸カルシウム洗浄剤。
【0091】
実施形態4。炭酸塩に対するホウ酸塩の質量比は1.0~5.0である、実施形態1~3のいずれか1つに記載の過塩基性サリチル酸カルシウム洗浄剤。
実施形態5。ASTM D4951に従ったアルカリ土類金属含有量は少なくとも7.0質量%である、実施形態1~4のいずれか1つに記載の過塩基性サリチル酸カルシウム洗浄剤。
実施形態6。ホウ素に対するアルカリ土類金属の質量比は1.5~5.5である、実施形態1~5のいずれか1つに記載の過塩基性サリチル酸カルシウム洗浄剤。
実施形態7。塩基度指数は5.0~8.3であり;質量%でホウ素に対する石鹸含有量の比は70~275mmol/kgであり;ASTM D2896に従って測定したTBNは265~350mgKOH/gであり;ASTM D4951に従ったカルシウムとマグネシウムとを合わせた含有量は7.0~12.5質量%であり;ASTM D4951に従ったホウ素含有量は3.5~6.8質量%であり;石鹸含有量は350~520mmol/kgであり;ホウ素に対するアルカリ土類金属の質量比は1.7~4.5であり;炭酸塩部分に対するホウ酸塩の質量比は1.6~3.0であり;ヒドロカルビル置換基はC14‐C19アルキル又はアルケニル部分を含む、実施形態1~6のいずれか1つに記載の過塩基性サリチル酸カルシウム洗浄剤。
【0092】
実施形態8。炭酸塩部分とホウ酸塩部分の両方を含む、実質的にパッケージ安定性を示す過塩基性アルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤を製造する方法であって、以下の工程:酸の鉱物油溶液と、アルカリ土類金属炭酸塩又は重炭酸塩を含む化学量論的過剰量の中和剤とを、任意に促進剤の存在下、60~200℃の温度で、過塩基性ではあるがホウ酸化されていないアルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤を形成するに十分な時間、反応させることで製造した油溶性又は油分散性の、過塩基性ではあるがホウ酸化されていないアルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤を提供する工程であって、前記洗浄剤は、少なくとも3.5の塩基度指数、少なくとも330mmol/kgの石鹸含有量、ASTM D4951に従って測定した少なくとも7.0質量%のアルカリ土類金属含有量、及びASTM D2896に従った少なくとも240mgKOH/gのTBNを示し、前記アルカリ土類金属はカルシウム及び/又はマグネシウムを含み、この過塩基性ではあるがホウ酸化されていないアルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤は炭酸塩部分を含み、ヒドロカルビル置換基の炭素原子数は9~30個である、工程;非プロトン性炭化水素溶媒及びC1‐C4第一級アルコールを含むが意図的に添加された水を含まない有機希釈媒体中、前記過塩基性ではあるがホウ酸化されていないアルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤を、100℃未満の温度でホウ素源と共に混和させ、反応混合物を形成する工程;この反応混合物を、ホウ酸化過程において3℃/分未満の加熱速度で105℃~225℃の温度に加熱し、ホウ酸化洗浄剤粗生成物を形成する工程;任意で更に非プロトン性炭化水素溶媒を添加し、それにより、再度ホウ酸化洗浄剤粗生成物を形成する工程;希釈媒体、並びにホウ酸化過程中に形成された水の大部分を除去して、実施形態1~7のいずれか1つに記載の過塩基性アルカリ土類金属ヒドロカルビル置換サリチル酸塩洗浄剤を形成する工程
を含む方法。
【0093】
実施形態9。前記非プロトン性炭化水素溶媒はベンゼン、キシレン、トルエン、メシチレン、ナフタレン、シクロヘキサン、シクロオクタン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、もしくはこれらの組み合わせを含み;前記ホウ素源は、オルトホウ酸、メタホウ酸、テトラホウ酸、ホウ酸モノアンモニウム、ホウ酸ジアンモニウム、ホウ酸トリアンモニウム、ホウ酸二水素C1‐C4アルキル、ホウ酸水素ジ‐C1‐C4アルキル、ホウ酸トリ‐C1‐C4アルキル、もしくはこれらの組合せを含み;又はこの両方である、実施形態8に記載の方法。
実施形態10。以下を含む潤滑剤添加剤パッケージ濃縮物であって:40質量%未満のグループI、グループII、及び/又はグループIII潤滑油ベースストック;実施形態1~7のいずれか1つに記載の、及び/又は実施形態8又は9の方法に従って製造した少なくとも0.5質量%のホウ素含有過塩基性サリチル酸カルシウム洗浄剤;少なくとも1種の無灰分散剤;少なくとも1種の抗酸化剤;少なくとも1種の摩擦調整剤;並びに任意に、追加の洗浄剤、腐食防止剤、耐摩耗剤、シール膨潤剤、消泡剤、極圧剤、粘度調整剤、及び流動点降下剤のうち1種以上、を含む潤滑剤添加剤パッケージ濃縮物。
実施形態11。少なくとも1種の摩擦調整剤は、硫黄を実質的に含まない無灰有機摩擦調整剤を含む、実施形態10に記載の潤滑剤添加剤パッケージ濃縮物。
実施形態12。少なくとも1種の摩擦調整剤は、窒素を実質的に含まず硫黄を実質的に含まない無灰有機摩擦調整剤を含む、実施形態10に記載の潤滑剤添加剤パッケージ濃縮物。
【0094】
実施形態13。約60℃で少なくとも12週間、パッケージ安定性を示す実施形態10~12のいずれか1つに記載の潤滑剤添加剤パッケージ濃縮物。
実施形態14。グループI、グループII、グループIII、及び/又はグループIVのベースストックのうち1種以上を含む少なくとも70質量%の潤滑油ベースストック;並びに、実施形態10~13のいずれか1つに記載の少なくとも5質量%の潤滑剤添加剤パッケージ濃縮物を含む潤滑油組成物。
実施形態15。グループI、グループII、グループIII、及び/又はグループIVのベースストックのうち1種以上を含む少なくとも85質量%の潤滑油ベースストック;実施形態1~7のいずれか1つに記載の、及び/又は実施形態8又は9の方法に従って製造した少なくとも0.05質量%のホウ素含有過塩基性サリチル酸カルシウム洗浄剤;少なくとも1種の無灰分散剤;少なくとも1種の抗酸化剤;少なくとも1種の摩擦調整剤;並びに任意に、追加の洗浄剤、腐食防止剤、耐摩耗剤、シール膨潤剤、粘着剤、解乳化剤、消泡剤、極圧剤、粘度調整剤、及び流動点降下剤のうち1種以上を含む潤滑油組成物。
次に、本発明を非限定的な例のみにより説明する。
【実施例0095】
ホウ酸化洗浄剤合成
比較例A1は、米国特許第10,584,300号明細書の第22項にあるホウ酸化洗浄剤合成例である。この例を本明細書において再現する。ディーン・スタークトラップ(Dean‐Stark trap)を備えた反応フラスコに、225mgKOH/gのTBNを有する1kgの過塩基性サリチル酸カルシウム及び1kgのキシレンを装填した。撹拌しながら、窒素下で、ホウ酸124gを室温でゆっくりと添加した。次いで、2時間かけて115℃まで昇温し、その後1時間115℃に保持した。その後、反応混合物を90分かけて140℃まで加熱し、次いで140℃に40分間保持した。その後、反応混合物を冷却し、混合物を遠心分離した後、ロータリーエバポレーター上で真空濃縮し、約1kgのホウ酸化サリチル酸カルシウム生成物を得た。誘導結合プラズマ(ICP)分析(ASTM D4951に従って測定)から、生成物は質量比で3.09%のホウ素及び6.77%のカルシウムを有することが示された。この生成物のTBN(ASTM D2896に従って測定)は186mgKOH/gであった。この比較例の塩基度指数(金属比)を計算したところ、約3という値が得られた。この生成物は、質量%でのホウ素に対する石鹸含有量の比が約182mmol/kgであり、石鹸含有量が約563mmol/kgであると推定した。生成物のヒドロカルビル置換基は、炭素原子数が14~18個のヒドロカルビル置換基の混合物を含んでいた。
【0096】
比較例A2は、米国特許第5,380,508号明細書(「508号特許」)の発明例1である。この例を本明細書において再現する。潤滑油画分で有効濃度50質量%程度まで希釈した2百(200)グラムの中性アルキルサリチル酸カルシウム(カルシウム含有量;2.0質量%)(A)、26gの水酸化カルシウム(B)、43.4g(水酸化カルシウム1モル当たり2.0モル)のオルトホウ酸(C)、及び400gのキシレン(F)を凝縮器付き1000ml四つ首フラスコに入れ、攪拌しながら60℃に加熱した。この混合物に、120gのメタノール(D)及び20gの水(E)を添加し、得られた混合物を攪拌下、還流温度(66℃)まで加熱し、4時間反応させた。反応混合物を更に1.5時間かけて140℃まで加熱し、メタノール、水、及びキシレンを留去した。最後に反応生成物をヘキサンで2倍に希釈し、濾過し、存在する残留固形物を除去し、ヘキサンを留去して目的のホウ酸カルシウム過塩基性アルキルサリチル酸塩を得た。この比較例では、出発物質として中性カルシウム洗浄剤を使用し、カルシウム過塩基化及びホウ酸化工程を同時に達成したことに留意されたい。この生成物のTBNは205mgKOH/g;ホウ素含有量は3.1質量%;カルシウム含有量は7.0質量%であり、ヒドロカルビル置換基は、炭素原子数が16及び18個のヒドロカルビル置換基の混合物を含んでいた。
【0097】
508号特許によれば、このようにして得られたホウ酸カルシウム過塩基性アルキルサリチル酸塩を透過型電子顕微鏡で観察した結果から、過塩基性成分であるホウ酸カルシウムの粒子径は50オングストローム以下であることが判明した。更に、このホウ酸カルシウム過塩基性アルキルサリチル酸塩に5質量%の水及び1質量%のメタノールを添加して混合物を得た。この混合物を、ASTM D2619で規定された装置を用いて93.5℃で24時間撹拌し、過塩基性成分であるホウ酸カルシウムを沈殿させ、混合物に分散させた後、遠心分離し、沈殿したホウ酸カルシウムを回収した。このようにして回収したホウ酸カルシウムをX線分析装置で測定した結果、そのホウ酸カルシウムはメタホウ酸カルシウムであることが判明した。
508号特許の表Aには、この洗浄剤について、塩基価の計算値が200(ASTM D664に従って測定すると205)、カルシウム含有量が7.0質量%、ホウ素含有量が3.1質量%、B/Caモル比の計算値が1.6であることも示されている(2.1のB/Caモル比分析値は、洗浄剤からホウ酸カルシウムを剥離し単離しようと過剰量のメタノール及び水を添加したことに基づいており、無機含有量の標準的な測定では通常、洗浄剤成分の(半)有機部分から無機部分を単離することをせずに、反応生成物全体が測定対象である)。
【0098】
比較例A3は、米国特許第5,380,508号(「508号特許」)の比較例2である。この例を本明細書において再現する。比較例A1で用いたものと同じ中性アルキルサリチル酸カルシウム(A)を2百(200)グラム、26gの水酸化カルシウム(B)、43.4g(水酸化カルシウム1モル当たり2.0モル)のオルトホウ酸(C)、及び400gのキシレン(F)を凝縮器付き1000ml四つ首フラスコに入れ、攪拌しながら60℃に加熱した。この混合物に、120gのメタノールを添加し、得られた混合物を攪拌下、還流温度(66℃)まで加熱し、4時間反応させ、反応生成物を得た。反応生成物を更に1.5時間かけて140℃まで加熱し、メタノール、反応水、及びキシレンを留去した。最後に反応生成物をヘキサンで2倍に希釈し、濾過し、存在する残留固形物を除去し、ヘキサンを留去してホウ酸カルシウム過塩基性アルキルサリチル酸塩を得た。しかし、このようにして得られたホウ酸カルシウム過塩基性アルキルサリチル酸塩はゲル化し、石油製品用の添加剤として一般的に使用できないことが判明した。生成物のヒドロカルビル置換基は、炭素原子数が16及び18個のヒドロカルビル置換基の混合物を含んでいた。
【0099】
実施例A4では、反応フラスコに、TBNが約350mgKOH/gであり、石鹸含有量が500mmol/kgを超え、塩基度指数が約6である約395gの過塩基性(炭酸化)サリチル酸カルシウム、約395gのキシレン、及び約156gのメタノールを装填した。この混合物を攪拌しながら約40℃に加熱し、窒素下、約178gのホウ酸を約1時間かけて添加した。その後、更に約135分かけて約140℃まで昇温した。次いで反応混合物を約100℃未満まで冷却した後、更に約262gのキシレンで希釈し、その後、冷却を継続した。冷却後、混合物を遠心分離し、ロータリーエバポレーターにおいて約140℃で約2時間かけて真空濃縮し(希釈剤、反応水、及び他の揮発性成分を除去するため)、ホウ酸化した過塩基性サリチル酸カルシウム生成物を得た。ICP分析(ASTM D4951に従って測定)から、生成物は約5.14質量%のホウ素及び約10.51質量%のカルシウムを有することが示された。このホウ酸化生成物のTBN(ASTM D2896に従って測定)は約298mgKOH/gであり、塩基度指数(金属比率)は約5.84であった。この生成物は、質量%でのホウ素に対する石鹸含有量の比が87mmol/kgであり、石鹸含有量が443mmol/kgであり、炭酸塩に対するホウ酸塩の質量比が1.6であった。生成物のヒドロカルビル置換基は、炭素原子14~18個のヒドロカルビル置換基の混合物を含んでいた。
【0100】
実施例A4における炭酸塩に対するホウ酸塩の質量比1.6は、以下のようにして測定した。初めに、洗浄剤試料の総塩基価(TBN)を測定したところ、291mgKOH/gであった。当技術分野で公知のように、ASTM D2896は好適な方法である。次に、TBNに対する塩基性石鹸の寄与分を滴定により測定した。既知量の洗浄剤を、70:28:2(体積基準)のシクロヘキサン/イソプロピルアルコール(IPA)/水の混合溶媒で希釈し、0.5Mエタノール過塩素酸で消化した。得られた溶液を0.1M KOH溶液で滴定したところ、滴定曲線上に2つの変曲点EP1及びEP2が得られた。代替的に、点EP1を用いて、次式からTBNを求めることも可能である。
【数1】
第二変曲点EP2は、過塩素酸での消化により生成された酸の中和に関する。次いで、塩基性石鹸の含有量を次式から計算する。
【数2】
2回の滴定の平均値から、実施例A4の塩基性石鹸含有量の値は50mgKOH/gとした。
次に、洗浄剤試料中の炭酸塩の量を測定した。チモールブルー指示薬、モノエタノールアミン、脱イオン水、及びジメチルホルムアミドから成る吸収溶液を調製した。次いで、既知量の洗浄剤試料を2M HCl/トルエン混合物で消化し、遊離二酸化炭素を吸収溶液に通した。水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAOH)での滴定から、指示薬の色の変化によりエンドポイントが確認された。洗浄剤試料中の炭酸塩の割合は以下のように計算した:
【数3】
式中、MwCO3は炭酸イオンの分子量である。次いで、炭酸塩に起因するTBNへの寄与分を次式から計算する:
【数4】
例A4では、炭酸塩に起因するTBNへの寄与分は91mgKOH/gであった。
次に単純計算により、ホウ酸塩に起因するTBNへの寄与分を次式から求める:

ホウ酸塩(mgKOH/g)=TBN(mgKOH/g)-塩基性石鹸(mgKOH/g)-炭酸塩(mgKOH/g)

従って、実施例A4のホウ酸塩(mgKOH/g)は:291-50-91=150mgKOH/gであった。
ホウ酸塩:炭酸塩の質量比は150/91=1.6であった。
他の全ての実施例について、同じ従来の実験室手技を用いてホウ酸塩:炭酸塩の質量比を求めた。
【0101】
実施例A5は、ホウ素含有量を増加させる目的以外は、実施例A4と同様であった。従って、実施例A5では、反応フラスコに、同様にTBNが約350mgKOH/gであり、石鹸含有量が500mmol/kgを超え、塩基度指数が約6である約395gの過塩基性(炭酸化)サリチル酸カルシウム、約395gのキシレン、及び約204gのメタノールを装填した。この混合物を攪拌しながら約40℃に加熱し、窒素下、約241gのホウ酸を約1時間かけて添加した。その後、更に約135分かけて約140℃まで昇温した。次いで反応混合物を約100℃未満まで冷却した後、更に約262gのキシレンで希釈し、その後、冷却を継続した。冷却後、混合物を遠心分離し、ロータリーエバポレーターにおいて約140℃で約2時間かけて真空濃縮し(希釈剤、反応水、及び他の揮発性成分を除去するため)、ホウ酸化した過塩基性サリチル酸カルシウム生成物を得た。ICP分析(ASTM D4951に従って測定)から、生成物は約5.7質量%のホウ素及び約10.2質量%のカルシウムを有することが示された。このホウ酸化生成物のTBN(ASTM D2896に従って測定)は約285mgKOH/gであり、塩基度指数(金属比率)は約5.89であった。この生成物は、質量%でのホウ素に対する石鹸含有量の比が75mmol/kgであり;石鹸含有量が429mmol/kgであり;炭酸塩に対するホウ酸塩の質量比が3.0であり;ホウ素含有量は5.7質量%で、カルシウム含有量は10.2質量%であった。生成物のヒドロカルビル置換基は、炭素原子数が14~18個のヒドロカルビル置換基の混合物を含んでいた。
【0102】
実施例A6は、ホウ素含有量をわずかに減少させる目的以外は、実施例A4及びA5と同様であった。従って、実施例A6では、反応フラスコに、同様にTBNが約350mgKOH/gであり、石鹸含有量が500mmol/kgを超え、塩基度指数が約6である約500gの過塩基性(炭酸化)サリチル酸カルシウム、約395gのキシレン、及び約105gのメタノールを装填した。この混合物を攪拌しながら約40℃に加熱し、窒素下、約113gのホウ酸を約1時間かけて添加した。その後、更に約135分かけて約140℃まで昇温した。次いで反応混合物を約100℃未満まで冷却した後、更に約151gのキシレンで希釈し、その後、冷却を継続した。冷却後、混合物を遠心分離し、ロータリーエバポレーターにおいて約140℃で約2時間かけて真空濃縮し(希釈剤、反応水、及び他の揮発性成分を除去するため)、ホウ酸化した過塩基性サリチル酸カルシウム生成物を得た。ICP分析(ASTM D4951に従って測定)から、生成物は約3.8質量%のホウ素及び約11.6質量%のカルシウムを有することが示された。このホウ酸化生成物のTBN(ASTM D2896に従って測定)は約314mgKOH/gであり、塩基度指数(金属比率)は約5.72であった。この生成物は、質量%でのホウ素に対する石鹸含有量の比が123mmol/kgであり;石鹸含有量が469mmol/kgであり;炭酸塩に対するホウ酸塩の質量比が0.8であった。生成物のヒドロカルビル置換基は、炭素原子数が14~18個のヒドロカルビル置換基の混合物を含んでいた。
【0103】
実施例A7は、ホウ素含有量を更に減少させる目的以外は、実施例A6と同様であった。従って、実施例A7では、反応フラスコに、同様にTBNが約350mgKOH/gであり、石鹸含有量が500mmol/kgを超え、塩基度指数が約6である約1.5kgの過塩基性(炭酸化)サリチル酸カルシウム、約1185gのキシレン、及び約316gのメタノールを装填した。この混合物を攪拌しながら約40℃に加熱し、窒素下、約340gのホウ酸を約1時間かけて添加した。その後、更に約135分かけて約140℃まで昇温した。次いで反応混合物を約100℃未満まで冷却した後、更に約452gのキシレンで希釈し、その後、冷却を継続した。冷却後、混合物を遠心分離し、ロータリーエバポレーターにおいて約140℃で約2時間かけて真空濃縮し(希釈剤、反応水、及び他の揮発性成分を除去するため)、ホウ酸化した過塩基性サリチル酸カルシウム生成物を得た。ICP分析(ASTM D4951に従って測定)から、生成物は約3.6質量%のホウ素及び約11.8質量%のカルシウムを有することが示された。このホウ酸化生成物のTBN(ASTM D2896に従って測定)は約312mgKOH/gであり、塩基度指数(金属比率)は約5.81であった。この生成物は、質量%でのホウ素に対する石鹸含有量の比が133mmol/kgであり;石鹸含有量が480mmol/kgであった。生成物のヒドロカルビル置換基は、炭素原子数が14~18個のヒドロカルビル置換基の混合物を含んでいた。
【0104】
実施例A8は実施例A4、A5、A6、及びA7と同様であったが、但し、TBNは同様に約350mgKOH/gであるが石鹸含有量は異なって400mmol/kg未満であり、塩基度指数も異なって約8である約900gの異なる過塩基性(炭酸化)サリチル酸カルシウムを、約711gのキシレン及び約195gのメタノールと共に反応フラスコに装填した。この混合物を攪拌しながら約40℃に加熱し、窒素下、約217gのホウ酸を約1時間かけて添加した。その後、更に約135分かけて約140℃まで昇温した。次いで反応混合物を約100℃未満まで冷却した後、更に約273gのキシレンで希釈し、その後、冷却を継続した。冷却後、混合物を遠心分離し、ロータリーエバポレーターにおいて約140℃で約2時間かけて真空濃縮し(希釈剤、反応水、及び他の揮発性成分を除去するため)、ホウ酸化した過塩基性サリチル酸カルシウム生成物を得た。ICP分析(ASTM D4951に従って測定)から、生成物は約3.9質量%のホウ素及び約11.9質量%のカルシウムを有することが示された。このホウ酸化生成物のTBN(ASTM D2896に従って測定)は約310mgKOH/gであり、塩基度指数(金属比率)は約7.95であった。この生成物は、質量%でのホウ素に対する石鹸含有量の比が89mmol/kgであり;石鹸含有量が348mmol/kgであり;炭酸塩に対するホウ酸塩の質量比が0.8であった。生成物のヒドロカルビル置換基は、炭素原子数が14~18個のヒドロカルビル置換基の混合物を含んでいた。
【0105】
比較例A9は実施例A8と同様であったが、但し、TBNが約225mgKOH/gであり、石鹸含有量が600mmol/kgを超え、塩基度指数が約3である約901gの異なる過塩基性(炭酸化)サリチル酸カルシウムを、約711gのキシレン及び約111gのメタノールと共に反応フラスコに装填した。この混合物を攪拌しながら約40℃に加熱し、窒素下、約106gのホウ酸を約1時間かけて添加した。その後、更に約135分かけて約140℃まで昇温した。次いで反応混合物を約100℃未満まで冷却した後、更に約257gのキシレンで希釈し、その後、冷却を継続した。冷却後、混合物を遠心分離し、ロータリーエバポレーターにおいて約140℃で約2時間かけて真空濃縮し(希釈剤、反応水、及び他の揮発性成分を除去するため)、ホウ酸化した過塩基性サリチル酸カルシウム生成物を得た。ICP分析(ASTM D4951に従って測定)から、生成物は約1.7質量%のホウ素及び約7.1質量%のカルシウムを有することが示された。このホウ酸化生成物のTBN(ASTM D2896に従って測定)は約212mgKOH/gであり、塩基度指数(金属比率)は約3.56であった。この生成物は、質量%でのホウ素に対する石鹸含有量の比が359mmol/kgであり;石鹸含有量が611mmol/kgであり;炭酸塩に対するホウ酸塩の質量比が1.3であった。生成物のヒドロカルビル置換基は、炭素原子数が14~18個のヒドロカルビル置換基の混合物を含んでいた。
【0106】
比較例A10は実施例A9と同様であったが、但し、TBNが約225mgKOH/gであり、石鹸含有量が600mmol/kgを超え、塩基度指数が約3である約1kgの同じ過塩基性(炭酸化)サリチル酸カルシウムを、約790gのキシレン及び約188gのメタノールと共に反応フラスコに装填した。この混合物を攪拌しながら約40℃に加熱し、窒素下、約185gのホウ酸を約1時間かけて添加した。その後、更に約135分かけて約140℃まで昇温した。次いで反応混合物を約100℃未満まで冷却した後、更に約337gのキシレンで希釈し、その後、冷却を継続した。冷却後、混合物を遠心分離し、ロータリーエバポレーターにおいて約140℃で約2時間かけて真空濃縮し(希釈剤、反応水、及び他の揮発性成分を除去するため)、ホウ酸化した過塩基性サリチル酸カルシウム生成物を得た。ICP分析(ASTM D4951に従って測定)から、生成物は約2.9質量%のホウ素及び約7.5質量%のカルシウムを有することが示された。このホウ酸化生成物のTBN(ASTM D2896に従って測定)は約202mgKOH/gであり、塩基度指数(金属比率)は約3.01であった。この生成物は、質量%でのホウ素に対する石鹸含有量の比が206mmol/kgであり;石鹸含有量が597mmol/kgであり;炭酸塩に対するホウ酸塩の質量比が2.1であった。生成物のヒドロカルビル置換基は、炭素原子数が14~18個のヒドロカルビル置換基の混合物を含んでいた。
【0107】
比較例A11では、反応フラスコに、TBNが約64mgKOH/gであり、石鹸含有量が500mmol/kgを超え、塩基度指数が約6である約606gのほぼ中性サリチル酸カルシウム、約500gのキシレン、約130gのメタノール、及び約23gの水を装填した。この混合物を攪拌しながら約40℃に加熱し、窒素下、約178gのホウ酸を約1時間かけて添加した。その後、更に約135分かけて約140℃まで昇温した。温度上昇中、温度が約60℃に達したとき、KV100が約5cStのグループI潤滑油ベースストックを約284g添加した。次いで反応混合物を冷却した後、遠心分離し、ロータリーエバポレーターにおいて約140℃で約2時間かけて真空濃縮し(希釈剤、反応水、及び他の揮発性成分を除去するため)、ホウ酸化サリチル酸カルシウム生成物を得た。ICP分析(ASTM D4951に従って測定)から、生成物は約1.8質量%のホウ素及び約2.3質量%のカルシウムを有することが示された。このホウ酸化生成物のTBN(ASTM D2896に従って測定)は約60mgKOH/gであり、塩基度指数(金属比率)は約1.21であった。この生成物は、質量%でのホウ素に対する石鹸含有量の比が234mmol/kgであり;石鹸含有量が421mmol/kgであった。生成物のヒドロカルビル置換基は、炭素原子数が14~18個のヒドロカルビル置換基の混合物を含んでいた。
【0108】
実施例A12では、反応フラスコに、TBNが約340mgKOH/gであり、石鹸含有量が400mmol/kgを超え、塩基度指数が約7.5である約1000gの過塩基性(炭酸化)サリチル酸マグネシウム、約790gのキシレン、及び約233gのメタノールを装填した。この混合物を攪拌しながら約40℃に加熱し、窒素下、約183gのホウ酸を約1時間かけて添加した。その後、更に約135分かけて約140℃まで昇温した。次いで反応混合物を約100℃未満まで冷却した後、更に約337gのキシレンで希釈し、その後、冷却を継続した。冷却後、混合物を遠心分離し、ロータリーエバポレーターにおいて約140℃で約2時間かけて真空濃縮し(希釈剤、反応水、及び他の揮発性成分を除去するため)、ホウ酸化した過塩基性サリチル酸マグネシウム生成物を得た。ICP分析(ASTM D4951に従って測定)から、生成物は約1.7質量%のホウ素及び約7.2質量%のマグネシウムを有することが示された。このホウ酸化生成物のTBN(ASTM D2896に従って測定)は約301mgKOH/gであり、塩基度指数(金属比率)は約6.71であった。この生成物は、質量%でのホウ素に対する石鹸含有量の比が240mmol/kgであり;石鹸含有量が408mmol/kgであり;炭酸塩に対するホウ酸塩の質量比が1.3であった。生成物のヒドロカルビル置換基は、炭素原子数が14~18個のヒドロカルビル置換基の混合物を含んでいた。
【0109】
実施例A13では、反応フラスコに、同様にTBNが約350mgKOH/gであり、石鹸含有量が500mmol/kgを超え、塩基度指数が約6である約800gの過塩基性(炭酸化)サリチル酸カルシウム、及び約458gのキシレンを装填した。この混合物を攪拌しながら約80℃に加熱し、窒素下、約191gのホウ酸を含む約1104gのメタノールの混合物を約1時間かけて添加した。添加の間、溶媒の蒸留が若干観察された。その後、更に約45分かけて約140℃まで昇温した。次いで反応混合物を約100℃未満まで冷却した後、更に約668gのキシレンで希釈し、その後、冷却を継続した。冷却後、混合物を遠心分離し、ロータリーエバポレーターにおいて約140℃で約2時間かけて真空濃縮し(希釈剤、反応水、及び他の揮発性成分を除去するため)、ホウ酸化した過塩基性サリチル酸カルシウム生成物を得た。ICP分析(ASTM D4951に従って測定)から、生成物は約3.0質量%のホウ素及び約11.3質量%のカルシウムを有することが示された。このホウ酸化生成物のTBN(ASTM D2896に従って測定)は約308mgKOH/gであり、塩基度指数(金属比率)は約5.8であった。この生成物は、質量%でのホウ素に対する石鹸含有量の比が164mmol/kgであり;石鹸含有量が487mmol/kgであった。生成物のヒドロカルビル置換基は、炭素原子数が14~18個のヒドロカルビル置換基の混合物を含んでいた。
【0110】
添加剤パッケージ安定性 ― ホウ酸化洗浄剤と非ホウ酸化洗浄剤との比較
パッケージ安定性に対する洗浄剤ホウ酸化の影響を試験するために、乗用車用モーター油(PCMO)アドパックの複数の変形例を作製した。また、サリチル酸塩ベースの洗浄剤と特定の有機成分(簡素化のため、無灰有機摩擦調整剤と大まかに分類する)との間のアドパック不安定化相互作用が周知であることから、洗浄剤ホウ酸化の効果を調べるために、サリチル酸塩ベースの洗浄剤と前記無灰有機摩擦調整剤との通常不安定な組み合わせも試験した。
試料をオーブン内で約60℃の空気に少なくとも12週間曝露することにより、本明細書で定義したようにパッケージ安定性を試験した。以下の表に示すデータは、0週目(初期)、4週目、7週目、及び12週目の観察を含む。0週目の初期試験は室温(約20~25℃)で行ったが、その他のデータ時点は全て、必要な週数が経過した後に60℃のオーブン内で試験した。以下の表では、「CB」は透明かつ明澄、「SH」は若干のヘイズ、「H」はヘイズ、「VH」は顕著なヘイズ、「F」は凝集を意味し、通常は百分率で表し(百分率が大きいほど、凝集が広範である)、「PS」は相分離を意味し、通常は百分率で表し(百分率が大きいほど、相分離が広範である)、「G」はゲルを意味し、通常は百分率で表し(百分率でが大きいほど、ゲル化が広範である)、「tsed」は微量沈降物を意味し、「MTS」は少量沈降物を意味する。
実施例及び比較例B1~B12では、塩基添加剤パッケージは、過塩基性(非ホウ酸化)サリチル酸マグネシウムと過塩基性(非ホウ酸化)サリチル酸カルシウム洗浄剤成分との混合物、ホウ酸化したポリイソブテニル無水コハク酸‐ポリアミン(PIBSA‐PAM)と非ホウ酸化PIBSA‐PAM分散剤成分との混合物、亜鉛含有耐摩耗剤成分、芳香族アミンとヒンダードフェノール抗酸化剤成分との組み合わせ、ベンゾトリアゾール腐食防止剤成分、粘着剤成分、消泡剤成分、及び希釈剤/ベースストックを含有していた。添加剤パッケージ成分は基本的に純粋(希釈剤をほとんど含まないか、又は全く含まない)であるか、希釈形態で活性成分をカプセル封入していてもよく、60%もの希釈剤/不活性成分を含有することもある。
【0111】
安定性の問題を調べるために、塩基添加剤パッケージを様々な方法で修飾し、最も顕著には、過塩基性の、又はホウ酸化した過塩基性のサリチル酸カルシウム成分(単数又は複数)を添加及び/もしくは置換すること、無灰有機摩擦調整剤を添加すること、又はその両方を行った。この一連の例では、複数の洗浄剤を添加する場合、それら洗浄剤を互いに置換して、アルカリ土類金属のモル量をほぼ等しくするか(例えば、サリチル酸カルシウムをサリチル酸マグネシウムで置換した)、又は特定のアルカリ土類金属のモル量をほぼ等しくした(例えば、カルシウム含有量をほぼ等しくするために、ホウ酸化サリチル酸カルシウムをより大量の非ホウ酸化サリチル酸カルシウムで置換した)。無灰有機摩擦調整剤は、塩基添加剤パッケージにもともとは存在しないため、単に添加しただけであって、他の成分(希釈剤成分であっても)と置換することはない。この一連の例では、未修飾の添加剤パッケージ成分の量は同一に維持したが、置換/付加の結果生じたアドパック量の差を考慮して処理速度を調整した。そうすることで添加剤パッケージを追加の希釈剤/ベースストック(及び任意に他の成分)で希釈して製造した完全調合潤滑油組成物らが同様の内容(また、無灰有機摩擦調整剤を除いて)の金属、リン、硫黄(ただし、ホウ酸化洗浄剤に追加的に存在するホウ素ではなく、また無灰有機摩擦調整剤に存在する酸素及び任意に窒素でもない)、洗浄剤(単数又は複数)、分散剤(単数又は複数)、耐摩耗剤、抗酸化剤(単数又は複数数)、腐食防止剤、粘着剤、及び消泡剤を含有する。
【0112】
【表1】

上記表1では、比較例B1は、石鹸含有量が比較的高い上記実施例A4~A7の反応物として用いた過塩基性(炭酸化しているがホウ酸化していない)サリチル酸カルシウム洗浄剤を利用しており、比較例B2は、石鹸含有量が低い上記実施例A8の反応物として用いた過塩基性(炭酸化しているがホウ酸化していない)サリチル酸カルシウム洗浄剤を利用している。両洗浄剤成分のTBNはほぼ同じである。実施例B3及びB4はそれぞれ比較例B1及びB2と同一であるが、但し、前者は更にモノオレイン酸グリセロール摩擦調整剤成分(これは約1.5当量のオレイン酸と約1当量のグリセロールとの反応生成物を含むことが可能である)を含有する。
表1のパッケージ安定性の結果から分かるように、比較例B1及びB2のサリチル酸カルシウム洗浄剤は、添加剤パッケージにおいて同等の安定性を示すが、実施例B3及びB4の無灰有機摩擦調整剤の添加は、どちらの場合でもパッケージ不安定性を示すように見える(ゲル化又はヘイズとして)。
【0113】
【表2】

*パッケージは、入手時(室温)にはヘイズが顕著であったが、約60℃に昇温するとすぐに鮮明になった。

上記表2では、実施例B5及びB6は、それぞれ比較例B1及びB2の過塩基性サリチル酸カルシウム洗浄剤のホウ酸化変形例(実施例A7及びA8のホウ酸化生成物)を利用している。表1の実施例B3及びB4と同様に、表2の実施例B7及びB8は実施例B5及びB6と同一であるが、但し、前者は更にモノオレイン酸グリセロール摩擦調整剤成分(これは約1.5当量のオレイン酸と約1当量のグリセロールとの反応生成物を含む)を含有する。
パッケージ安定性の結果から分かるように、実施例B5及びB6のホウ酸化サリチル酸洗浄剤は、表2の添加剤パッケージにおいて互いにほぼ同等の安定性、並びに表1における比較例B1及びB2の非ホウ酸化類似体と同等の安定性を示す。しかし、表1とは異なり、表2は、無灰有機摩擦調整剤をホウ酸化サリチル酸塩洗浄剤に添加した場合に異なる結果を示している。実施例B8の石鹸含有量の低いサリチル酸塩のホウ酸化類似体は実際、実施例B4の非ホウ酸化対応物より劣って見えた(全体的な高凝集量、及び短い/長い時間間隔での顕著なヘイズに基づく)。しかし、驚くべきことに、実施例B7の比較的高い石鹸含有量のサリチル酸塩洗浄剤におけるホウ酸化類似体は、実施例B3の非ホウ酸化対応物に比べてパッケージ安定性がかなり向上しており、おそらくサリチル酸塩洗浄剤を無灰有機摩擦調整剤と組み合わせていない実施例B5の対応物の安定性とさえ同等であるだろう。サリチル酸塩洗浄剤及び特定の無灰有機摩擦調整剤の不安定性は周知であるので、サリチル酸塩洗浄剤と無灰有機摩擦調整剤とを組み合わせる際の安定性の欠点を(ほとんど)完全に克服しないとしても少なくとも部分的に克服することが可能なパッケージ安定性の信頼性は、ホウ酸化処理により予想外に追加されるものと考えられる。
【0114】
【表3】

表3では、実施例B3及びB7はそれぞれ、表1及び表2と同一であり、石鹸含有量が比較的高いサリチル酸カルシウム洗浄剤成分の非ホウ酸化及びホウ酸化変形例と、モノオレイン酸グリセロール摩擦調整剤とを反映している。実施例B9及びB10はそれぞれ、石鹸含有量が比較的高い非ホウ酸化サリチル酸カルシウムと、他の無灰/有機摩擦調整剤、具体的にはトリエタノールアミン獣脂エステル(TEEMA)及びオクタデセニル無水コハク酸(ODSA)とを反映している。実施例B11及びB12はそれぞれ、サリチル酸塩洗浄剤のホウ酸化類似体と、実施例B9及びB10と同じ無灰有機摩擦調整剤とを反映している。
表3のパッケージ安定性の結果から分かるように、実施例B7及びB11では、ホウ酸化サリチル酸塩と無灰有機摩擦調整剤との組み合わせを含むパッケージは、それぞれ実施例B3及びB9の非ホウ酸化サリチル酸塩との組み合わせと比較して、高温で経時的により安定的であった。非ホウ酸化サリチル酸塩とTEEMAとの組み合わせ(実施例B10)が顕著なパッケージ不安定性を示さなかったことから、ホウ酸化類似体とTEEMAとの組み合わせ(実施例B12)では改善が見られなかったことは当然である。しかし、開始時にさほど不安定ではなかった添加剤パッケージにおいて、ホウ酸化洗浄剤にパッケージ安定信頼性が無くなる可能性があることに留意されたい。実際、ホウ酸化洗浄剤の組み合わせにおけるパッケージ安定性は、非ホウ酸化の組み合わせより明らかに劣っているわけではなかった。このことから、無灰有機摩擦調整剤‐サリチル酸塩洗浄剤パッケージの不安定性が必ずしも固有のものではないこと、及びホウ酸化洗浄剤の添加剤パッケージが、いくつかの異なるタイプの無灰有機摩擦調整剤で普遍的にパッケージ安定性を示すかもしれないことの両方が示されている。
【0115】
実施例及び比較例B13~B25では、塩基添加剤パッケージは、過塩基性(非ホウ酸化)サリチル酸カルシウム洗浄剤成分、非ホウ酸化PIBSA‐PAM分散剤成分、亜鉛含有耐摩耗剤成分、モリブデン含有耐摩耗剤成分、芳香族アミンとヒンダードフェノール抗酸化剤成分との組み合わせ、ベンゾトリアゾール腐食防止成分、粘着剤成分、消泡剤成分、及び希釈剤/ベースストックを含有していた。添加剤パッケージ成分は、基本的に純粋(希釈剤をほぼ含まないか又は全く含まない)であるか、又は希釈形態で活性成分をカプセル封入して、60%もの希釈剤/不活性成分を含む場合もある。
安定性の問題を調査するため、ベース添加剤パッケージを修飾して、過塩基性又はホウ酸化した洗浄剤成分(単数又は複数)及び過塩基性洗浄剤成分(単数又は複数)を付加及び/又は置換した。この一連の例では、複数の洗浄剤を添加する場合、それら洗浄剤を互いに置換して(例えば、サリチル酸カルシウムを別のサリチル酸カルシウムで置換するか、スルホン酸カルシウムをサリチル酸カルシウムで置換するか、又はホウ酸化サリチル酸カルシウムを非ホウ酸化サリチル酸カルシウムで置換した)、アルカリ土類金属を含まない基準で洗浄剤の質量をほぼ等しくした。この一連の例では,未修飾の添加剤パッケージ成分量は同一に維持したが、処理速度は、置換/付加に起因するアドパック量の差を考慮に入れて調整した。
【0116】
【表4】

上記表4では、比較例B13は、石鹸含有量が低い(中程度の)上記実施例A8の反応物として用いた過塩基性(炭酸化しているがホウ酸化していない)サリチル酸カルシウム洗浄剤を利用しており、比較例B14は、石鹸含有量が比較的高い上記実施例A4~A7の反応物として用いた過塩基性(炭酸化しているがホウ酸化していない)サリチル酸カルシウム洗浄剤を利用している。両非ホウ酸化洗浄剤成分のTBNはほぼ同じである。実施例B15、B16、及びB17は比較例B14と同一であるが、但し、実施例A4~A6の過塩基性ホウ酸化洗浄剤生成物はそれぞれ非ホウ酸化洗浄剤で置換している。実施例B18は、上記実施例A8のホウ酸化過塩基性サリチル酸カルシウム洗浄剤生成物(比較例B13で再現した非ホウ酸化対応物の類似体)を利用している。
表4のパッケージ安定性の結果から分かるように、無灰OFM(比較例B14)の非存在下でさえ、モリブデン含有耐摩耗剤を含む添加剤パッケージにおいて、非ホウ酸化過塩基性サリチル酸カルシウム洗浄剤は安定性の問題を少し示す場合がある。しかし、実施例B15~B17のホウ酸化サリチル酸カルシウム洗浄剤は、比較例B13と比較して、そして比較例B14のそれらの非ホウ酸化洗浄剤類似体と対照的に、同等かつ許容可能な添加剤パッケージ安定性を示す。実施例B18のホウ酸化サリチル酸カルシウム洗浄剤
【0117】
【表5】

上記表5では、比較例B19は、上記比較例A9及びA10で反応物として用いた、石鹸含有量が非常に高い過塩基性(炭酸化しているがホウ酸化していない)サリチル酸カルシウム洗浄剤を利用しており、比較例B20及びB21はそれぞれ比較例A9及びA10における類似のホウ酸化過塩基性サリチル酸カルシウム洗浄剤生成物を利用している。
表5のパッケージ安定性の結果から分かるように、ホウ酸化は状況によりパッケージ不安定性を改善することに役立つが、ホウ酸化は普遍的にパッケージ安定性を改善するわけでない。比較的不安定な非ホウ酸化洗浄剤(比較例B19)は、特定の条件下で(比較例B20の場合)、しかし全ての条件下ではなく(比較例B21の場合)、石鹸含有量が非常に高い状況であっても、ホウ酸化によりその安定性を多少改善できるが、完全には改善できない。比較例B19~B21の非ホウ酸化及びホウ酸化洗浄剤の塩基度指数は、2.9~3.0である。表4に記載の通り、比較例B13及び実施例B18(それぞれ、非ホウ酸化及びホウ酸化)における比較的低い石鹸含有量及び比較的高い塩基度指数のサリチル酸カルシウム洗浄剤は両方とも同等かつ許容可能なパッケージ安定性を示すが、表5の比較例B19~B21における比較的高い石鹸含有量及び低い塩基度指数のサリチル酸カルシウム洗浄剤のパッケージ安定性は普遍的に劣っている。理論に囚われることなく、驚くべきことに、少なくとも洗浄剤のホウ酸化を介して行う場合、パッケージ安定性に関する問題に対処する上で、塩基度指数は石鹸含有量よりも重要性が相対的に高いように思われる。
【0118】
【表6】

上記表6では、比較例B22は、上記実施例A12で反応物として用いた過塩基性(炭酸化しているがホウ酸化していない)サリチル酸マグネシウム洗浄剤を利用しており、実施例B23は、上記実施例A12における類似のホウ酸化過塩基性サリチル酸マグネシウム洗浄剤生成物を利用している。比較例B24及びB25は、それぞれ過塩基性(炭酸化しているがホウ酸化していない)スルホン酸カルシウム洗浄剤(約300mgKOH/gのTBN、250mmol未満の石鹸含有量、及び約14の塩基度指数)及びそのホウ酸化類似体を利用している。このスルホン酸カルシウム洗浄剤のホウ酸化方法は本明細書に具体的に記載しなかったが、本明細書においてサリチル酸塩洗浄剤(本発明及び比較例の両方)について詳述したものと同様の手順を用い、同様の条件下で行った。
表6では、比較例B22及び実施例B23は、比較例B13及び実施例B14と同様の挙動を示す。どちらの過塩基性サリチル酸塩洗浄剤も、パッケージ安定性の重大な問題を引き起こすことはなく、ホウ酸化はパッケージ安定性の問題を発生させなかった。しかし、スルホン酸カルシウムの場合は異なる。非ホウ酸化過塩基性スルホン酸カルシウムのパッケージ安定性が比較的高い状況(比較例B24)でさえ、ホウ酸化した例は、最初の添加剤パッケージの配合時(0週目)でも、著しいゲル化を示した(比較例B25)。他の未発表のデータでは、本明細書に記載の方法に従ったホウ酸化は過塩基性アルカリ土類金属スルホン酸塩に実際にパッケージ不安定性をもたらすようであり、ホウ酸化がなければパッケージ不安定性は存在しないことが示されている。洗浄剤のホウ酸化以外にパッケージ安定性を得るために当業者が利用できる他の多くの潜在的作用があるが、スルホン酸塩洗浄剤で繰り返される否定的な結果は、ホウ酸化では、スルホン酸塩洗浄剤のパッケージ安定性の維持に関してより根本的な難しさがあることを示している可能性がある。
【0119】
ホウ酸化サリチル酸塩を含む調合添加剤パッケージの性能
比較例C1~C4は、JX Nipponの米国特許出願公開第2015/0005208号明細書(’208号公報)の表1に記載の発明例1~4に対応する。’208号公報の段落[0147]~[0149]には、油温約100℃、回転数約350rpmで摩擦トルクを測定する「駆動弁システム監視摩擦試験」について記載されている。’208号公報では比較例B2に対して正規化が行われているが、その発明例1~4は約3.0~9.5%の範囲の摩擦トルク改善率を示したのに対し、その比較例1の無ホウ素サリチル酸塩洗浄剤含有組成物は約6.9%のトルク改善率を示したことに注目されたい。代わりに、その無ホウ素比較例1に対する’208号公報の摩擦トルク改善率を測定したとすると、その高いホウ素含有量の調合物(発明例3及び4)は摩擦トルクを悪化させ、その低いホウ素含有量の調合物(発明例1及び2)はほんのわずかな改善を示すことになる。ホウ素含有量の増加は摩擦トルクを向上させると考えられているので、これは非常に紛らわしい結果のように思われる。理論に囚われることなく、’208号公報における高いホウ素含有量の洗浄剤は、利用困難/利用不可能なホウ素種、又は摩擦トライボフィルム表面に十分には寄与できない化学形態であるホウ素種を含有するという仮説が立てられる。
【0120】
注目すべきは、’208号公報の段落[0075]~[0076]には、洗浄剤金属比が3.3を超える潤滑剤組成物は摩擦トルク挙動を低下させる傾向があるため望ましくないだけでなく、1.9以下の洗浄剤金属比(調合潤滑性及びエンジン「始動性」を考慮して下限は1.01)が最も好ましいということが教示されている。その発明例1のみがその最も好ましい金属比を満たしていること、また、同じ組成物が、正規化された最も高い摩擦トルク測定値を有することは、’208号公報の読者は理解すべきである。
直接比較ではないが、実施例C5は、本開示に従ったホウ酸化過塩基性サリチル酸カルシウムを含んだ(実施例A13に従って作製した)実施例B5と同様の成分を含有する添加剤パッケージ組成物を利用した。摩擦トルクを評価するために、’208号公報と同様に、比較例C6は、ホウ酸化されていないが過塩基性のサリチル酸カルシウムを有する以外は、実施例C5と類似の添加剤パッケージ組成物を利用した。相対的な調合物測定値を以下の表4に示す。「洗浄剤ホウ素含有量」は、ホウ酸化洗浄剤成分のみに起因する最終調合物中のホウ素の量を指すと理解すべきである。
【0121】
【表7】

比較例C6及び実施例C5では、約80℃、約650rpmのエンジン回転数で摩擦トルク低下を測定した。表7のトルク低下は、比較例C6調合物により正規化した。’208号公報で使用した条件とは異なるが、低いホウ素含有量及び試験温度の両方(その2組の状態において、全ての集合的な測定値に包含されている)により典型的に(通常は劇的に)トルク低下の絶対値が低下したことは理解すべきである。このように、等しい条件かつ同一の調合空間における定量的評価は利用できないが、比較例C6のその別の同一非ホウ酸化サリチル酸カルシウム含有調合物と比較して、実施例C5のホウ酸化サリチル酸カルシウム含有調合物が示す相対的に大きいトルク低下は驚くべきものであり、かつ予想外であると考える。
【0122】
本明細書に記載した全ての文献は参照により本明細書に援用されており、本文書と矛盾しない範囲で、あらゆる優先権の文献及び/又は試験手順を包含している。前述の全体的な説明及び具体的な実施形態から明らかなように、本開示の形態を図示及び説明してきたが、本発明の開示の主旨及び範囲から逸脱することなく様々な変更を行うことが可能である。従って、本発明をその変更により限定することは必ずしも意図していない。
【外国語明細書】