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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086132
(43)【公開日】2023-06-21
(54)【発明の名称】アミロイドベータに対する抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230614BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230614BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230614BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230614BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230614BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230614BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20230614BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230614BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230614BHJP
   G01N 33/531 20060101ALI20230614BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230614BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20230614BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230614BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K16/18
A61K39/395 N
A61P25/28
G01N33/531 A
G01N33/53 D
C07K16/46
C12P21/08
C12N15/62 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039300
(22)【出願日】2023-03-14
(62)【分割の表示】P 2020502655の分割
【原出願日】2018-07-18
(31)【優先権主張番号】PCT/CA2017/050866
(32)【優先日】2017-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CA
(31)【優先権主張番号】62/622,126
(32)【優先日】2018-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】15/808,842
(32)【優先日】2017-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】300066874
【氏名又は名称】ザ・ユニバーシティ・オブ・ブリティッシュ・コロンビア
(71)【出願人】
【識別番号】514316411
【氏名又は名称】プロミス、ニューロサイエンシズ、インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】PROMIS NEUROSCIENCES INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】キャッシュマン,ニール アール.
(72)【発明者】
【氏名】プロトキン,スティーブン エス.
(72)【発明者】
【氏名】カプラン,ヨハンネ
(72)【発明者】
【氏名】シルバーマン,ジュディス マックスウェル
(72)【発明者】
【氏名】ギブス,エブリマ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】アミロイドベータオリゴマーと結合する抗体ならびに前記抗体を作製および使用する方法を提供する。
【解決手段】キメラ抗体またはヒト化抗体を含む、アミロイドベータオリゴマーと結合する抗体の作製方法、アルツハイマー病(AD)を有する対象のアミロイドベータのレベルを測定する方法、必要とする対象に投与して、アミロイドベータの凝集および/またはオリゴマー伝播を阻害する方法を含む前記抗体を使用する方法、ならびに前記抗体を含むキットを提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本出願の明細書または図面に記載される発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本PCT出願は、2017年7月18日に出願された国際出願PCT/CA2017/050866号および2018年1月25日に出願された米国仮特許出願第62/622,126号に対する優先権の利益を主張するものであり、上記出願はそれぞれ、その全体に組み込まれる。
【0002】
(分野)
本開示は、アミロイドベータ(AベータまたはAβ)オリゴマーに対して選択的なヒト化抗体ならびにその組成物および使用に関する。
【0003】
配列表
EFS-WEBから提出され、2018年7月18日に作成されたコンピュータ可読形式の配列表「P50442PC02SL_asfiled.txt」(82,028バイト)が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
36~43アミノ酸ペプチドとして存在するアミロイドベータ(Aベータ)は、酵素であるβセクレターゼおよびγセクレターゼによってアミロイド前駆体タンパク質(APP)から解離する生産物である。AD患者では、Aベータは可溶性モノマー、不溶性線維および可溶性オリゴマーの形で存在し得る。モノマー型のAベータは、主として構造化されていないポリペプチド鎖として存在する。線維型のAベータは、株と呼ばれることの多い異なる形態に凝集し得る。これらの構造のうち固体NMRにより明らかにされているものがいくつかある。
【0005】
例えば、原子分解三次元構造データに関する結晶データベースであるタンパク質データバンク(PDB)では、3回対称性Aβ構造(PDBエントリー、2M4J);Aβ-40モノマーの2回対称性構造(PDBエントリー2LMN)およびAβ-42モノマーの一本鎖平行in-register構造(PDBエントリー2MXU)を含めた、いくつかの線維株の構造が入手可能である。
【0006】
2M4Jの構造はLuら[8]に報告されており、2MXUの構造はXiaoら[9]に報告されている。2LMNの構造はPetkovaら[10]に報告されている。
【0007】
Aベータオリゴマーは、培養した細胞系およびニューロンを死滅させ、スライス培養物および動物生体では記憶を促進し、長期増強(LTP)と呼ばれる極めて重要なシナプス活性を遮断することが示されている。
【0008】
これまでにオリゴマーの構造は決定されていない。さらに、NMRおよびその他の証拠から、オリゴマーが単一の明確に定められた構造ではなく、規則性に乏しく立体配座的に可塑性で順応性のある構造アンサンブルの形で存在することがわかっている。さらに、毒性オリゴマー種の濃度はモノマーまたは線維の濃度よりはるかに低い(推定値には幅があるが、約1000分の1またはそれ以下である)ため、この標的は捉えどころのないものとなっている。
【0009】
Aベータと結合する抗体が記載されている。
【0010】
「USE OF ANTI-AMYLOID ANTIBODY IN OCULAR DISEASES」と題する国際公開第2009048538(A2)号は、Aベータ上の1つまたは複数の結合部位を認識し、眼疾患の治療に有用なキメラ抗体を開示している。
【0011】
「COMPOUNDS FOR THE TREATMENT OF DISEASES ASSOCIATED WITH AMYLOID OR AMYLOID-LIKE PROTEINS」と題する米国特許第9221812(B2)号は、アミノ酸残基12~24の間のエピトープを含むAベータと結合するアミロイド関連疾患治療のための医薬組成物および不連続な抗体について記載している。
【0012】
「ANTI-AMYLOID BETA ANTIBODIES AND THEIR USE」と題する国際公開第2003070760(A2)号は、Aベータの不連続エピトープを認識し、第一の領域がアミノ酸配列AEFRHDSGYまたはそのフラグメントを含み、第二の領域がアミノ酸配列VHHQKLVFFAEDVGまたはそのフラグメントを含む抗体を開示している。
【0013】
「COMPOUNDS TREATING AMYLOIDOSES」と題する米国特許第20110171243(A1)号は、HQKLVFおよび/またはHQKLVFFAEDと結合する抗体のin vivoでの形成を誘導することが可能なペプチドミモトープおよびその使用を開示している。
【0014】
国際公開第2008088983(A1)号および国際公開第2001062801(A2)号は、Aベータのアミノ酸13~28と結合するペグ化抗体フラグメントおよびAベータ関連疾患治療へのその使用を開示している。ソラネズマブおよびクレネズマブはAベータ上のアミノ酸16~26と結合する。クレネズマブはモノマー、オリゴマーおよび線維と相互作用する。ソラネズマブ(ピコモル濃度の親和性)およびクレネズマブ(ナノモル濃度の親和性)を含めたMidregion抗体は、単量体Aベータと優先的に結合するものと思われる[13]。
【0015】
「COMPOUNDS FOR TREATING SYMPTOMS ASSOCIATED WITH PARKINSON’S DISEASE」と題する国際公開第2009149487(A2)号は、EVHHQKL、HQKLVFおよびHQKLVFFAEDなどのAベータエピトープに特異的な抗体に対する結合能を有するペプチドを含む化合物について記載している。
【0016】
HHQK(配列番号7)ドメインは、Giulian Dら[11]およびWinklerら[12]に記載されているように、ヒトミクログリアでの斑による神経毒性の誘導に関与するとされている。HHQK(配列番号7)と結合するタンパク質フォールディング疾患の治療のための非抗体治療剤が開示されている(米国特許第20150105344(A1)号、国際公開第2006125324(A1)号)。
【0017】
米国特許第5,766,846号;同第5,837,672号;および同第5,593,846号(参照により本明細書に組み込まれる)は、Aβペプチドの中央ドメインに対するマウスモノクローナル抗体の作製について記載している。国際公開第01/62801号は、Aベータのアミノ酸13~28と結合する抗体について記載している。国際公開第2004071408号はヒト化抗体を開示している。
【0018】
「TREATMENT AND PROPHYLAXIS OF AMYLOIDOSIS」と題する国際公開第2009086539(A2)号は、アミロイドタンパク質A(AA)のC末端領域由来のAAフラグメントなどのネオエピトープを含むペプチドおよび凝集アミロイドタンパク質のネオエピトープに特異的な抗体、例えばAA線維のC末端領域に特異的な抗体を投与することによる、アミロイドーシスおよびアミロイド軽鎖アミロイドーシスに関するものである。
【0019】
「ANTI-AMYLOID BETA ANTIBODIES AND THEIR USE」と題する国際公開第2003070760号は、R-A4ペプチドの2つの領域であって、第一の領域がアミノ酸配列AEFRHDSGYまたはそのフラグメントを含み、第二の領域がアミノ酸配列VHHAEDVFFAEDVGまたはそのフラグメントを含む領域を特異的に認識することが可能な抗体分子に関するものである。
【0020】
「HUMANIZED AMYLOID BETA ANTIBODIES FOR USE IN IMPROVING COGNITION」と題する国際公開第2006066089号は、ベータアミロイドによる疾患の治療のための改善された薬剤および方法、特に、Aβペプチドと特異的に結合し、アミロイド原性障害(例えば、AD)による斑の量を減少させる効果のある、モノクローナル抗体12A11の同定および特徴付けに関するものである。
【0021】
「ANTIBODIES AGAINST AMYLOID BETA 4 WITH GLYCOSYLATED IN THE VARIABLE REGION」と題する国際公開第2007068429号は、少なくとも1つの抗原結合部位が重鎖(V)の可変領域にグリコシル化アスパラギン(Asn)を含むことを特徴とする精製抗体分子調製物に関するものである。
【0022】
国際公開第03/016466号は、重鎖のCDR2内のNグリコシル化部位を欠くよう設計された266のバリアント抗体、その医薬組成物ならびにそのバリアント抗体を発現させるのに有用なポリヌクレオチド配列、ベクターおよび形質転換細胞に関するものである。このバリアントは、ヒト体液由来の可溶性Aベータペプチドを捕捉し、アミロイドベータペプチドの13~28位内に含まれるエピトープと特異的に結合すると記載されている。
【0023】
Yuらは、PADREまたは毒素由来担体タンパク質と融合した六価の折畳み型Aβ1-15(6Aβ15)について記載している。Wangら(2016)は、この抗体の末梢投与により老年性アルツハイマー病のトランスジェニック動物モデルのアルツハイマー病様病態および認知低下が軽減されることを報告している[14]、[15]。
【0024】
モノマーもしくは線維またはモノマーと線維の両方よりもAベータオリゴマーと優先的または選択的に結合する抗体が望ましい。
【発明の概要】
【0025】
一態様は、配列番号74~79または配列番号1~6または配列番号1、2、80および4~6または配列番号1、2、80~83を含むか、これよりなるCDRを有し、表4Aまたは4Bの配列から選択される配列を有するか、少なくとも表4Aまたは4Bの配列から選択される配列と50%の配列同一性を有する、重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域を有し、CDRアミノ酸配列が、そこに示されるものであるか、配列番号74~79または配列番号1~6または配列番号1、2、80および4~6または配列番号1、2、80~83から選択されるものである、単離ヒト化抗体を含む。
【0026】
一実施形態では、ヒト化抗体は、配列番号12の直鎖状ペプチドより同じ配列を有する環状ペプチドと選択的または特異的に結合するか、あるいはAベータモノマーおよび/またはAベータ線維よりオリゴマーAベータと選択的または特異的に結合する。
【0027】
別の実施形態では、抗体は、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、dsFv、ds-scFv、二量体、ナノボディ、ミニボディ、ダイアボディおよびその多量体から選択される、本明細書に記載される抗体の抗体結合フラグメントである。
【0028】
一態様は、本明細書に記載されるヒト化抗体と、検出可能な標識または細胞毒性物質とを含む、イムノコンジュゲートを含む。
【0029】
一実施形態では、検出可能な標識は、任意選択でPET撮像などの対象の撮像に使用する、陽電子放出放射性核種を含む。
【0030】
一態様は、本明細書に記載される抗体または本明細書に記載されるイムノコンジュゲートを任意選択で希釈剤とともに含む、組成物を含む。
【0031】
一態様は、本明細書に記載される化合物もしくは免疫原のタンパク質性部分、本明細書に記載される抗体または本明細書に記載されるタンパク質性イムノコンジュゲートをコードする、核酸分子を含む。
【0032】
一態様は、本明細書に記載される核酸を含む、ベクターを含む。
【0033】
一態様は、本明細書に記載される抗体を発現する細胞を含み、任意選択で、細胞は、本明細書に記載されるベクターを含む、ハイブリドーマである。
【0034】
一態様は、本明細書に記載される抗体、本明細書に記載されるイムノコンジュゲート、本明細書に記載される組成物、本明細書に記載される核酸分子、本明細書に記載されるベクターまたは本明細書に記載される細胞を含む、キットを含む。
【0035】
一態様は、生体試料がAベータを含むかどうかを判定する方法であって、
a.生体試料と、本明細書に記載されるヒト化抗体または本明細書に記載されるイムノコンジュゲートとを接触させること;および
b.何らかの抗体複合体の存在を検出すること
を含む、方法を含む。
【0036】
一実施形態では、生体試料はAベータオリゴマーを含有し、方法は、
a.抗体:Aベータオリゴマー複合体の形成が可能な条件下で、試料と、Aベータオリゴマーに特異的かつ/または選択的な本明細書に記載されるヒト化抗体または本明細書に記載されるイムノコンジュゲートとを接触させること;および
b.何らかの複合体の存在を検出すること
を含み、
検出可能な複合体の存在により、試料がAベータオリゴマーを含有し得ることが示される。
【0037】
別の実施形態では、複合体の量を測定する。
【0038】
別の実施形態では、試料は、脳組織もしくはその抽出物、全血、血漿、血清および/またはCSFを含む。
【0039】
別の実施形態では、試料はヒト試料である。
【0040】
別の実施形態では、試料を対照、任意選択で以前の試料と比較する。
【0041】
別の実施形態では、特に限定されないが、SPR、Kinexa、Mesoscale、ELISA、Singulex、LuminexおよびSimoaを含めた分析アッセイによりAベータのレベルを検出する。
【0042】
一態様は、対象のAベータのレベルを測定する方法であって、ADを有するリスクもしくは疑いがある、またはADを有する対象に、本明細書に記載されるヒト化抗体を含み、ヒト化抗体が検出可能な標識とコンジュゲートされているイムノコンジュゲートを投与すること;および標識を検出すること、任意選択で標識を定量的に検出することを含む、方法を含む。
【0043】
一実施形態では、標識は陽電子放出放射性核種である。
【0044】
一態様は、Aベータオリゴマー伝播を阻害する方法であって、有効量の本明細書に記載されるAベータオリゴマーに特異的または選択的な抗体またはイムノコンジュゲートを、Aベータを発現する細胞もしくは組織と接触させて、または必要とする対象に投与して、Aベータの凝集および/またはオリゴマー伝播を阻害することを含む、方法を含む。
【0045】
一態様は、ADおよび/またはその他のAベータアミロイド関連疾患を治療する方法であって、必要とする対象に1)有効量の本明細書に記載されるキメラ抗体、ヒト化抗体もしくはイムノコンジュゲートまたは前記抗体を含む医薬組成物を投与すること;2)必要とする対象に1の抗体をコードする核酸または1の抗体をコードする核酸を含むベクターを投与することを含む、方法を含む。
【0046】
一実施形態では、本明細書に記載される抗体を用いて、治療する対象由来の生体試料をAベータの有無またはレベルに関して評価する。
【0047】
別の実施形態では、抗体、イムノコンジュゲート、組成物または核酸もしくはベクターを脳またはCNSの他の部分に直接投与する。
【0048】
以下の詳細な説明から本開示のその他の特徴と利点が明らかになるであろう。ただし、この詳細な説明から本開示の趣旨および範囲内に含まれる様々な変更および改変が当業者に明らかになることから、詳細な説明および具体例は、本開示の好ましい実施形態を示すと同時に、単に説明を目的として記載されるものであることが理解されるべきである。
【0049】
これより本開示の実施形態を図面と関連させて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】in vitroでのAベータオリゴマーの伝播に対する抗体の効果を報告するグラフである。
図2】ヒト化抗体の方がAD抽出物の毒性オリゴマー高含有LMW画分に対して有意に優れた結合を示すことを示すグラフである。
図3図3A図3F。様々なAベータ抗体および対照抗体で染色した一連の脳切片を示す図である。
図4-1】図4A。分離したAD可溶性脳抽出物のトレースを示す図である。
図4-2】図4B図4D。LMW画分およびHMW画分で検出されたAベータのレベルを示すグラフである。
図5-1】図5A。抗Aベータ抗体の注入から24時間後に脳および血漿で検出可能なヒトIgGのレベルを示すグラフである。
図5-2】図5B。抗Aベータ抗体のCNSへの浸透のレベルを示すグラフである。
図5-3】図5C図5D。抗Aベータ抗体の注入から1~21日後に脳および血漿または非トランスジェニックマウスおよびApp/PS1マウスで検出されたIgGのレベルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
(本開示の詳細な説明)
本明細書には、表2に示す配列を有するCDRを含み、かつ/あるいは表4Aおよび4Bのいずれかに記載される可変領域配列を有する、キメラ抗体およびヒト化抗体、その免疫療法組成物ならびにその使用方法が提供される。前記抗体は、アルツハイマー病(AD)に関連するオリゴマー種を含めた、Aベータの毒性オリゴマー種内で優先的に接触可能なエピトープを標的とし得る。
【0052】
実施例で示すように、HHQK(配列番号7)を含む環状ペプチドを用いて生じさせた抗体は、オリゴマーAベータと優先的に結合し、かつ/または同じ配列(例えば、対応する直鎖状配列)の直鎖状ペプチドと比較して環状ペプチドと選択的に結合する。実験結果が記載されており、合成モノマーと比較して合成オリゴマーと選択的に結合し、対照CSFよりもAD患者のCSFと優先的に結合し、かつ/または対照の可溶性脳抽出物よりもAD患者の可溶性脳抽出物と優先的に結合する、エピトープ特異的かつ立体配座選択的な抗体が特定される。さらに、AD脳組織の染色では、斑との結合を全くまたはほとんど示さない抗体が特定され、in vitro試験では、抗体がAβオリゴマーの伝播および凝集を阻害することがわかった。
【0053】
実施例でさらに示すように、ヒト化抗体301-17には、マウスモノクローナル抗体と比較して特性の改善、例えばオリゴマーAベータとの結合の改善などがみられた。ヒト化抗体には、親モノクローナルと比較しても特異性の改善がみられた。
【0054】
したがって、いくつかの実施形態では、ヒト化抗体には、マウスモノクローナル抗体と比較して、オリゴマーAベータ、任意選択で、脳エキス抽出物またはその他の生体試料などの試料の低分子量画分中に存在するオリゴマーAベータに対して、例えば50%の増大または最大200%の増大(またはその間の任意の数)などの結合の増大がみられる。
【0055】
I.定義
本明細書で使用される「Aベータ」という用語は、代替的に「アミロイドベータ」、「アミロイドβ」、Aベータ、Aベータまたは「Aβ」と呼ばれ得る。アミロイドベータは、36~43個のアミノ酸よりなるペプチドであり、あらゆる種のあらゆる野生型および変異型、特にヒトAベータを包含する。Aベータ40は40アミノ酸型を指し、Aベータ42は42アミノ酸型を指すなど。ヒト野生型Aベータ42のアミノ酸配列は配列番号73で示されるものである。
【0056】
本明細書で使用される「Aベータモノマー」という用語は、Aベータ(例えば、1~40、1~42、1~43)ペプチドの個々のサブユニット型のいずれかを指す。
【0057】
本明細書で使用される「Aベータオリゴマー」という用語は、本明細書では、複数(例えば、少なくとも2つ)のAベータモノマーが非共有結合によって、約100個未満またはより通常には約50個未満のモノマーからなり、立体配座に柔軟性があり、部分的に規則的である三次元の小球に凝集したAベータサブユニットのいずれか複数のものを指す。例えば、オリゴマーは、3個、4個、5個またはそれ以上のモノマーを含み得る。本明細書で使用される「Aベータオリゴマー」という用語は、合成Aベータオリゴマーおよび/または天然Aベータオリゴマーの両方を包含する。「天然Aベータオリゴマー」は、in vivoで、例えばADを有する対象の脳およびCSF内で形成されるAベータオリゴマーを指す。
【0058】
本明細書で使用される「Aベータ線維」という用語は、電子顕微鏡下で線維構造を示す個々のAベータペプチドが非共有結合により会合した集合体を含む分子構造を指す。線維構造は通常、「クロスベータ」構造であり、理論上、多量体の大きさに上限はなく、線維は数千個または何千個ものモノマーを含み得る。線維は数千個単位で凝集し、ADに特徴的な主な病理学的形態の1つである老人斑を形成し得る。
【0059】
「HHQK」という用語は、配列番号7で示されるヒスチジン、ヒスチジン、グルタミン、リジンというアミノ酸配列を意味する。アミノ酸配列に言及する場合、それは文脈に応じて、Aベータまたは単離ペプチドの配列、例えば環状化合物のアミノ酸配列などを指し得る。
【0060】
「アミノ酸」という用語は、天然のアミノ酸および修飾されたL-アミノ酸をすべて包含する。アミノ酸の原子は様々な同位体を含み得る。例えば、アミノ酸は、水素に代わるジュウテリウム、窒素14に代わる窒素15および炭素12に代わる炭素13ならびにその他の同様の変化を含み得る。
【0061】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、一本鎖抗体、ベニヤ化(veneered)抗体、ヒト化抗体およびその他のキメラ抗体ならびに例えば一本鎖Fabフラグメント、Fab’2フラグメントまたは一本鎖Fvフラグメントを含めた上記の結合フラグメントを包含するものとする。抗体は、組換え供給源由来のものおよび/またはウサギ、ラマ、サメなどの動物で産生されたものであり得る。また、トランスジェニック動物で産生され得る、もしくは生化学技術を用いて作製され得る、またはファージライブラリーなどのライブラリーから単離され得るヒト抗体も包含される。ヒト化抗体またはその他のキメラ抗体は、1種類または2種類以上のアイソタイプもしくはクラスまたは種由来の配列を含み得る。
【0062】
「単離抗体」という語句は、in vivoまたはin vitroで産生され、抗体を産生した供給源、例えば、動物、ハイブリドーマまたはその他の細胞系(抗体を産生する組換え昆虫、酵母または細菌細胞など)から取り出された抗体を指す。単離抗体は任意選択で「精製」されており、これは少なくとも80%、85%、90%、95%、98%または99%の純度であることを意味する。
【0063】
本明細書で使用される「結合フラグメント」という用語は、抗体または抗体鎖の一部または一部分であって、インタクトの抗体もしくは抗体鎖または完全な抗体もしくは抗体鎖より少ないアミノ酸残基を含み、抗原と結合する、またはインタクトの抗体と競合するものを指す。例示的結合フラグメントとしては、特に限定されないが、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、dsFv、ds-scFv、二量体、ナノボディ、ミニボディ、ダイアボディおよびその多量体が挙げられる。フラグメントは、インタクトの抗体もしくは抗体鎖または完全な抗体もしくは抗体鎖の化学処理または酵素処理によって得ることができる。フラグメントは、組換え手段によっても得ることができる。例えば、抗体をペプシンで処理することによりF(ab’)2フラグメントを作製することができる。得られたF(ab’)2フラグメントにジスルフィド架橋を還元する処理を実施して、Fab’フラグメントを作製することができる。パパイン消化によりFabフラグメントの形成を引き起こすことができる。また、組換え発現技術によりFab、Fab’およびF(ab’)2、scFv、dsFv、ds-scFv、二量体、ミニボディ、ダイアボディ、二重特異性抗体フラグメントならびにその他のフラグメントを構築することもできる。
【0064】
当該技術分野で認められている「IMGT番号付け」または「ImMunoGeneTicsデータベース番号付け」という用語は、抗体またはその抗原結合部分の重鎖可変領域および軽鎖可変領域の他のアミノ酸残基より可変性のある(すなわち、超可変性の)アミノ酸残基を番号付けするシステムを指す。
【0065】
本明細書で使用される「立体配座エピトープ」という用語は、エピトープアミノ酸配列が特定の三次元構造を有し、その三次元構造の少なくとも一面が別の形態、例えば対応する直鎖状ペプチドまたはAベータモノマー中に存在しないか、または存在する可能性が低く、コグネイト抗体によって特異的かつ/または選択的に認識されるエピトープを指す。立体配座特異的エピトープと特異的に結合する抗体は、その立体配座特異的エピトープの1つまたは複数のアミノ酸の空間的配置を認識する。例えば、HHQK(配列番号7)立体配座エピトープは、抗体によって選択的に、例えば直鎖状HHQK(配列番号7)を用いて生じさせた抗体の少なくとも2倍、3倍、5倍、10倍、50倍、100倍、250倍、500倍もしくは1000倍またはそれ以上選択的に認識される、HHQK(配列番号7)のエピトープを指す。ある抗体がエピトープ、例えばHHQK(配列番号7)などの立体配座エピトープなどと選択的に結合すると言う場合、それは、抗体が、特定の残基またはその一部を含む1つまたは複数の特定の立体配座と、別の立体配座の前記残基と結合する場合より高い親和性で優先的に結合することを意味する。例えば、ある抗体が、HHQKまたは関連エピトープを含むシクロペプチドと、対応する直鎖状ペプチドより選択的に結合すると言う場合、その抗体は、直鎖状ペプチドと結合する場合の少なくとも2倍の親和性でシクロペプチドと結合する。同様に、ある抗体がオリゴマーAベータと選択的に結合すると言う場合、その抗体は、Aベータモノマーおよび/または斑線維と結合する場合の少なくとも2倍の親和性でオリゴマー種と結合する。
【0066】
本明細書で抗体に関して使用される「斑との結合が全くまたはほとんどみられない」または「斑と結合しない、またはほとんど結合しない」という用語は、抗体が(例えば、任意選択でAベータ抗体6E10でみられる斑染色と比較した、in situの)免疫組織化学法で典型的な斑の染色形態を示さず、染色のレベルが、IgG陰性の(例えば、無関係な)アイソタイプ対照でみられるレベルと同等である、またはその2倍以下であることを意味する。
【0067】
「単離ペプチド」という用語は、例えば組換え技術または合成技術によって作製され、ペプチドを作製した組換え細胞または残存ペプチド合成反応物などの供給源から取り出されたペプチドを指す。単離ペプチドは、任意選択で「精製」されており、これは少なくとも80%、85%、90%、95%、98%または99%の純度および任意選択で医薬品等級の純度であることを意味する。
【0068】
本明細書で使用される「検出可能な標識」という用語は、本明細書に記載されるペプチドまたは化合物内に付加または導入することができるペプチド配列(mycタグ、HAタグ、V5タグまたはNEタグなど)、蛍光タンパク質などの部分であって、直接的または間接的に検出可能なシグナルを発生することが可能な部分を指す。例えば、標識は、(例えば、PET撮像に使用する)放射線不透性の陽電子放出放射性核種もしくは放射性同位元素、例えばH、13N、14C、18F、32P、35S、123I、125I、131Iなど;蛍光化合物(フルオロフォア)もしくは化学発光化合物(発色団)、例えばフルオレセインイソチオシアナート、ローダミンもしくはルシフェリンなど;酵素、例えばアルカリホスファターゼ、β‐ガラクトシダーゼもしくは西洋ワサビペルオキシダーゼなど;造影剤;または金属イオンであり得る。検出可能な標識はまた、例えば二次抗体を用いて間接的に検出可能なものであり得る。
【0069】
通常使用される「エピトープ」という用語は、抗体によって特異的に認識される抗原の抗体結合部位、通常、ポリペプチドセグメントを意味する。本明細書で使用される「エピトープ」はまた、記載される集団座標法を用いてAベータ上で特定され得るアミノ酸配列またはその一部を指すこともある。例えば、特定された標的領域HHQK(配列番号7)を含む環状化合物に対応する単離ペプチドに対して作製した抗体は、前記エピトープ配列の一部または全部を認識する。エピトープが抗体による結合に接触可能な場合、それは本明細書において「接触可能な」ものである。
【0070】
本明細書で使用される「より高い親和性」という用語は、抗体Xが標的Zより強く(Kon)かつ/または小さい解離定数(Koff)で標的Yと結合する場合の相対的抗体結合度を指し、この文脈では、抗体Xは標的Yに対して標的Zより高い親和性を有する。これと同様に、本明細書の「より低い親和性」は、抗体Xが標的Zより弱くかつ/または大きい解離定数で標的Yと結合する場合の抗体結合度を指し、この文脈では、抗体Xは標的Yに対して標的Zより低い親和性を有する。抗体とその標的抗原との間の結合の親和性はK=1/Kで表すことができ、式中、K=kon/koffである。konおよびkoffの値は、表面プラズモン共鳴技術を用いて、例えばMolecular Affinity Screening System(MASS-1)(Sierra Sensors社、ハンブルク、ドイツ)を用いて測定することができる。環状化合物、例えば任意選択の環状ペプチド中に提示される立体配座に選択的な抗体は、環状化合物(例えば、環状ペプチド)に対する親和性が直鎖状形態の対応する配列(例えば、非環化配列)より大きい。
【0071】
環状化合物に関する「対応する直鎖状化合物」という用語は、環状化合物と同じ配列もしくは化学的部分を含む、またはこれよりなるが、直鎖状(すなわち、非環状)形態であり、例えば直鎖状ペプチドの溶液中でみられ得る特性を有する、化合物、任意選択でペプチドを指す。例えば、対応する直鎖状化合物は、環化されていない合成ペプチドであり得る。
【0072】
ある抗体に関して本明細書で使用される「特異的に結合する」は、その抗体がエピトープ配列を認識し、最小限の親和性でその標的抗原と結合することを意味する。例えば、多価抗体は、その標的と少なくとも1e-6、少なくとも1e-7、少なくとも1e-8、少なくとも1e-9または少なくとも1e-10のKで結合する。少なくとも1e-8より高い親和性が好ましいものであり得る。例えば、Kはナノモルの範囲またはピコモルの範囲内であり得る。可変ドメインを1つ含むFabフラグメントなどの抗原結合フラグメントは、非フラグメント化抗体との多価相互作用の10倍または100倍低い親和性でその標的と結合する。
【0073】
ある形態のAベータ(例えば、線維、モノマーまたはオリゴマー)または環状化合物と選択的に結合する抗体に関して本明細書で使用される「選択的に結合する」という用語は、その抗体が上記の形態と少なくとも2倍、少なくとも3倍または少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも100倍、少なくとも250倍、少なくとも500倍もしくは少なくとも1000倍またはそれ以上の親和性で結合することを意味する。したがって、特定の立体配座(例えば、オリゴマー)に対してより選択的な抗体は、別の形態のペプチドおよび/または直鎖状ペプチドの少なくとも2倍などの親和性で特定の形態のAベータと優先的に結合する。
【0074】
本明細書で使用される「動物」または「対象」という用語は、任意選択でヒトを包含または除外した哺乳動物を含めた動物界のあらゆるメンバーを包含する。
【0075】
本明細書で使用される「保存的アミノ酸置換」とは、タンパク質の所望の特性を打ち消すことなく、あるアミノ酸残基が別のアミノ酸残基に置き換わるアミノ酸置換のことである。適切な保存的アミノ酸置換は、疎水性、極性およびR鎖長が互いに類似したアミノ酸同士を置き換えることにより実施することができる。保存的アミノ酸置換の例としては以下のものが挙げられる:
【表1】
【0076】
本明細書で使用される「配列同一性」という用語は、2つのポリペプチド配列または2つの核酸配列の間の配列同一性のパーセンテージを指す。2つのアミノ酸配列または2つの核酸配列のパーセント同一性を決定するには、配列を最適な比較目的で整列させる(例えば、第二のアミノ酸配列または核酸配列との最適アライメントのために第一のアミノ酸配列または核酸配列の配列内にギャップを導入することができる)。次いで、対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置のアミノ酸残基またはヌクレオチドを比較する。第一の配列内のある位置が第二の配列内の対応する位置と同じアミノ酸残基またはヌクレオチドで占められている場合、その分子は上記の位置において同一である。2つの配列間のパーセント同一性は、その配列が共有する同一位置の数の関数である(すなわち、%同一性=同一の重複位置の数/位置の総数×100%)。一実施形態では、2つの配列は同じ長さである。2つの配列間のパーセント同一性の決定はまた、数学的アルゴリズムを用いて実施することができる。2つの配列の比較に用いられる数学的アルゴリズムの好ましい非限定的な例には、KarlinおよびAltschul,1993,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:5873-5877で改変されたKarlinおよびAltschul,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.87:2264-2268のアルゴリズムがある。Altschulら,1990,J.Mol.Biol.215:403のNBLASTプログラムおよびXBLASTプログラムにはそのようなアルゴリズムが組み込まれている。NBLASTヌクレオチドプログラムパラメータを例えばスコア=100、ワード長=12に設定してBLASTヌクレオチド検索を実施し、本願の核酸分子と相同なヌクレオチド配列を得ることができる。XBLASTプログラムパラメータを例えばスコア-50、ワード長=3に設定してBLASTタンパク質検索を実施し、本明細書に記載されるタンパク質分子と相同なアミノ酸配列を得ることができる。比較目的でギャップ付きアライメントを得るには、Altschulら,1997,Nucleic Acids Res.25:3389-3402に記載されているGapped BLASTを用いることができる。あるいは、PSI-BLASTを用いて、分子間の距離関係を検出する反復検索を実施することができる(同文献)。BLASTプログラム、Gapped BLASTプログラムおよびPSI-Blastプログラムを用いる場合、それぞれのプログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)の初期パラメータを用いることができる(例えば、NCBIのウェブサイトを参照されたい)。配列の比較に用いられる数学的アルゴリズムの別の好ましい非限定的な例には、MyersおよびMiller,1988,CABIOS 4:11-17のアルゴリズムがある。GCG配列アライメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(バージョン2.0)には、そのようなアルゴリズムが組み込まれている。アミノ酸配列の比較にALIGNプログラムを用いる場合、PAM120加重残基表、ギャップ長ペナルティ12およびギャップペナルティ4を用いることができる。ギャップを許容するかしないかを問わず、上記のものと類似した技術を用いて2つの配列間のパーセント同一性を決定することができる。パーセント同一性を算出する際には通常、完全一致のみをカウントする。
【0077】
抗体に関しては、抗体配列をIMGTまたはその他のもの(例えば、Kabat番号付けの慣例)により最大限に整列させたとき、パーセンテージ配列同一性を決定することができる。アライメント後、対象抗体領域(例えば、重鎖または軽鎖の全成熟可変領域)を参照抗体の同じ領域と比較している場合、対象抗体領域と参照抗体領域の間のパーセンテージ配列同一性は、ギャップをカウントせず、対象抗体領域および参照抗体領域の両方で同じアミノ酸によって占められている位置の数を、整列させた2つの領域の位置の総数で除したものに100を乗じてパーセンテージに変換したものとする。
【0078】
本明細書で使用される「核酸配列」という用語は、天然の塩基、糖および糖間(主鎖)結合よりなるヌクレオシドモノマーまたはヌクレオチドモノマーの配列を指す。この用語はまた、非天然のモノマーまたはその一部分を含む修飾または置換された配列を包含する。本願の核酸配列は、デオキシリボ核酸配列(DNA)またはリボ核酸配列(RNA)であり得、アデニン、グアニン、シトシン、チミジンおよびウラシルを含めた天然の塩基を含み得る。配列はまた、修飾塩基を含み得る。このような修飾塩基の例としては、アザおよびデアザアデニン、グアニン、シトシン、ミジンおよびウラシル;ならびにキサンチンおよびヒポキサンチンが挙げられる。核酸は二本鎖または一本鎖であり得、センス鎖またはアンチセンス鎖を表す。さらに、「核酸」という用語は、相補的核酸配列およびコドン最適化等価物または同義コドン等価物を包含する。本明細書で使用される「単離核酸配列」という用語は、組換えDNA技術により作製した場合は実質的に細胞物質も培地も含まない核酸、あるいは化学的に合成した場合は実質的に化学的前駆体もその他の化学物質も含まない核酸を指す。単離核酸はまた、その核酸が由来する核酸に天然の状態で隣接する配列(すなわち、核酸の5’側および3’側に位置する配列)を実質的に含まない。
【0079】
「作動可能に連結されている」は、核酸の発現が可能なようにその核酸が制御配列と連結されていることを意味するものとする。適切な制御配列は、細菌、真菌、ウイルス、哺乳動物または昆虫の遺伝子を含めた様々な供給源に由来するものであり得る。適切な制御配列の選択は、選択する宿主細胞によって決まり、当業者により容易に達成され得る。このような制御配列の例としては、転写プロモーターおよび転写エンハンサーまたはRNAポリメラーゼ結合配列、翻訳開始シグナルを含めたリボソーム結合配列が挙げられる。さらに、選択する宿主細胞および用いるベクターに応じてその他の配列、例えば複製起点、追加のDNA制限部位、エンハンサーおよび転写の誘導性を付与する配列などを発現ベクター内に組み込み得る。
【0080】
本明細書で使用される「ベクター」という用語は、核酸分子を例えば、原核細胞および/または真核細胞内に導入し、かつ/あるいはゲノム内に組み込むことを可能にする前記核酸分子の任意の中間運搬体を含み、プラスミド、ファージミド、バクテリオファージまたはウイルスベクター、例えばレトロウイルス系ベクター、アデノ関連ウイルスベクターなどがこれに包含される。本明細書で使用される「プラスミド」という用語は一般に、通常は環状DNA二本鎖であり、染色体DNAとは独立して複製することができる、染色体外遺伝物質の構築物を指す。
【0081】
「少なくとも中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」は、溶液中の2つの相補的核酸分子の間の選択的ハイブリダイゼーションを促進する条件を選択することを意味する。ハイブリダイゼーションは核酸配列分子の全部または一部に起こり得る。ハイブリダイズする部分は通常、少なくとも15(例えば、20、25、30、40または50)ヌクレオチドの長さである。当業者には、核酸の二本鎖またはハイブリッドの安定性が、ナトリウム含有緩衝液中でのナトリウムイオン濃度と温度の関数であるTm(Tm=81.5℃-16.6(Log10[Na+])+0.41(%(G+C)-600/l)またはこれと類似した方程式)によって決まることが認識されよう。したがって、ハイブリッドの安定性を決定する洗浄条件のパラメータはナトリウムイオン濃度および温度である。既知の核酸分子に類似しているが同一ではない分子を特定するには、1%のミスマッチによりTmが約1℃低下するものと考えられ、例えば、同一性が95%を上回る核酸分子を探索するのであれば、最終洗浄温度は約5℃低下することになる。当業者は、これらの考慮事項に基づき、適切なハイブリダイゼーション条件を容易に選択することが可能であろう。好ましい実施形態では、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件を選択する。例として、以下の条件を用いてストリンジェントなハイブリダイゼーションを実施し得る:上の方程式に基づき、Tmを-5℃とし、5×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)/5×デンハルト溶液/1.0%SDSで、ハイブリダイゼーションを実施し、次いで、60℃にて0.2×SSC/0.1%SDSで洗浄する。中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件には、42℃、3×SSCでの洗浄段階が含まれる。ただし、上のものに代わる緩衝液、塩および温度を用いても同等のストリンジェンシーが達成され得ることが理解される。ハイブリダイゼーション条件に関するさらなる指針については、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,N.Y.,2002およびSambrook et al.,Molecular Cloning:a Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,2001にみることができる。
【0082】
本明細書で使用され、当該技術分野で十分に理解されている「治療すること」または「治療」という用語は、臨床結果を含めた有益な結果または所望の結果を得る方法を意味する。有益な臨床結果または所望の臨床結果としては、特に限定されないが、検出可能なものであるか検出不可能なものであるかを問わず、1つまたは複数の症状または病態の軽減または改善、疾患の程度の減少、疾患の状態の安定化(すなわち、悪化しないこと)、疾患の拡散の予防、疾患進行の遅延または緩徐化、病状の改善または緩和、疾患再発の減少および寛解(部分寛解または完全寛解を問わない)が挙げられる。「治療すること」および「治療」はまた、治療を受けない場合に予想される生存期間と比較して生存期間が長くなることを意味し得る。本明細書で使用される「治療すること」および「治療」はまた、予防的治療を包含する。例えば、初期段階のADを有する対象を本明細書に記載される化合物、抗体、免疫原、核酸または組成物で治療して進行を予防することができる。
【0083】
本明細書で使用される「投与される」という用語は、細胞または対象への治療有効量の開示の化合物または組成物の投与を意味する。
【0084】
本明細書で使用される「有効量」という語句は、所望の結果を得るのに必要な投与回数および期間で効果が得られる量を意味する。対象に投与する場合、有効量は対象の病状、年齢、性別、体重などの因子によって異なり得る。最適な治療反応を得るために投与レジメンを調整し得る。
【0085】
「薬学的に許容される」という用語は、担体、希釈剤または補形剤が、製剤の他の成分と適合性があり、その被投与者に対して実質的に有害でないことを意味する。
【0086】
1つまたは複数の記載される要素を「含む(comprisingまたはincluding)」組成物または方法は、具体的に記載されていない他の要素を含み得る。例えば、抗体を「含む(compriseまたはinclude)」組成物は、抗体を単独で、または他の成分とともに含有し得る。
【0087】
本開示の範囲を理解するにあたって、本明細書で使用される「~よりなる」という用語およびその派生語は、記載される特徴、要素、成分、グループ、整数および/または段階の存在を明記し、また他の記載されていない特徴、要素、成分、グループ、整数および/または段階の存在を排除する、制限的用語であるものとする。
【0088】
本明細書で端点により数値範囲が記載されている場合、その範囲内に含まれる数および端数がいずれも含まれる(例えば、1~5には、1、1.5、2、2.75、3、3.90、4および5が含まれる)。また、数およびその端数はすべて「約」という用語によって修飾されることが考えられることを理解するべきである。さらに、「a」、「an」および「the」は、内容からそうでないことが明らかでない限り、複数形の指示対象を包含することを理解するべきである。「約」という用語は、言及されている数のプラスまたはマイナス0.1~50%、5~50%または10~40%、好ましくは10~20%、より好ましくは10%または15%を意味する。
【0089】
さらに、当業者であれば理解するように、特定のセクションに記載される定義および実施形態は、本明細書に記載される他の実施形態のうちそれらが適しているものに適用可能であるものとする。例えば、以下の節では、本発明の様々な態様がさらに詳細に定義される。そのように定義された各態様は、そうでないことが明記されない限り、1つまたは複数の他の任意の態様と組み合わせ得る。特に、好ましいまたは有利であると示されている任意の特徴と、好ましいまたは有利であると示されている1つまたは複数の他の任意の特徴とを組み合わせ得る。
【0090】
冠詞の単数形である「a」、「an」および「the」は、文脈上そうでないことが明らかでない限り、複数の指示物を包含する。例えば、「化合物(a compound)」または「少なくとも1つの化合物」という用語は、複数の化合物をその混合物も含め包含し得る。
【0091】
II.抗体および核酸
本明細書に特定の抗体およびその使用を開示する。
【0092】
実施例で示すように、シクロ(CGHHQKG)(配列番号12)を用いて生じさせた抗体は配列が決定され、対応する直鎖状ペプチドより環状化合物と選択的に結合し、モノマーよりAベータオリゴマーと選択的に結合し、かつ/またはAD組織で認識できる斑染色はみられなかった。さらに、前記抗体はAベータ凝集の伝播をin vitroで阻害することができた。
【0093】
したがって、一態様は、任意選択で融合している軽鎖可変領域と重鎖可変領域とを含み、重鎖可変領域が相補性決定領域CDR-H1、CDR-H2およびCDR-H3を含み、軽鎖可変領域が相補性決定領域CDR-L1、CDR-L2およびCDR-L3を含み、前記CDRのアミノ酸配列が配列番号1~3および4~6の配列を含む、抗体を含む。
【0094】
一実施形態では、抗体は、i)配列番号9で示されるアミノ酸配列;ii)配列番号9と少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%もしくは少なくとも90%の配列同一性を有し、CDR配列が配列番号1、2および3で示される、アミノ酸配列、またはiii)CDR配列が配列番号1、2および3で示される保存的に置換されたアミノ酸配列i)を含む、重鎖可変領域を含む。
【0095】
別の実施形態では、抗体は、i)配列番号11で示されるアミノ酸配列、ii)配列番号11と少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%もしくは少なくとも90%の配列同一性を有し、CDR配列が配列番号4、5および6で示される、アミノ酸配列、またはiii)CDR配列が配列番号4、5および6で示される、保存的に置換されたi)のアミノ酸配列を含む、軽鎖可変領域を含む。
【0096】
別の実施形態では、重鎖可変領域のアミノ酸配列が、配列番号8で示されるヌクレオチド配列またはそのコドン縮重型もしくはコドン最適化型によってコードされ;かつ/あるいは抗体が、配列番号10で示されるヌクレオチド配列またはそのコドン縮重型もしくはコドン最適化型によってコードされる軽鎖可変領域のアミノ酸配列を含む。
【0097】
別の実施形態では、重鎖可変領域が、配列番号9で示されるアミノ酸配列を含むか、これよりなり、かつ/または軽鎖可変領域が、配列番号11で示されるアミノ酸配列を含むか、これよりなる。
【0098】
別の実施形態では、抗体は、配列番号12の配列を有する環状ペプチドおよび/またはヒトAベータオリゴマーとの結合に関して、本明細書に配列番号1~6で記載されるCDR配列を含む抗体と競合する、抗体である。
【0099】
別の実施形態では、抗体は、配列番号12の配列を有する環状ペプチドならびに/あるいは配列番号9の重鎖可変鎖配列および/または配列番号11の軽鎖可変領域配列を含む抗体を有するヒトAベータオリゴマー。
【0100】
別の態様は、任意選択で融合している軽鎖可変領域と重鎖可変領域とを含み、重鎖可変領域が相補性決定領域CDR-H1、CDR-H2およびCDR-H3を含み、軽鎖可変領域が相補性決定領域CDR-L1、CDR-L2およびCDR-L3を含み、前記CDRのアミノ酸配列が配列番号1、2、80および4~6の配列を含む、立体配座に特異的かつ/または選択的な単離抗体を含む。
【0101】
一実施形態では、抗体は、i)配列番号85で示されるアミノ酸配列;ii)配列番号85と少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%もしくは少なくとも90%の配列同一性を有し、CDR配列が配列番号1、2および80で示される、アミノ酸配列、またはiii)CDR配列が配列番号1、2および80で示される、保存的に置換されたアミノ酸配列i)を含む、重鎖可変領域を含む。
【0102】
別の実施形態では、抗体は、i)配列番号87で示されるアミノ酸配列、ii)配列番号89と少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%もしくは少なくとも90%の配列同一性を有し、CDR配列が配列番号4、5および6で示される、アミノ酸配列、またはiii)CDR配列が配列番号4、5および6で示される、保存的に置換されたi)のアミノ酸配列を含む、軽鎖可変領域を含む。
【0103】
別の実施形態では、重鎖可変領域のアミノ酸配列が、配列番号84で示されるヌクレオチド配列またはそのコドン縮重型もしくはコドン最適化型によってコードされ;かつ/あるいは抗体が、配列番号86で示されるヌクレオチド配列またはそのコドン縮重型もしくはコドン最適化型によってコードされる軽鎖可変領域のアミノ酸配列を含む。
【0104】
別の実施形態では、重鎖可変領域が、配列番号85で示されるアミノ酸配列を含むか、これよりなり、かつ/または軽鎖可変領域が、配列番号87で示されるアミノ酸配列を含むか、これよりなる。
【0105】
別の実施形態では、抗体は、配列番号12の配列を有する環状ペプチドおよび/またはヒトAベータオリゴマーとの結合に関して、本明細書に配列番号1、2、80、4~6で記載されるCDR配列を含む抗体と競合する、抗体である。
【0106】
別の実施形態では、抗体は、配列番号85の重鎖可変鎖配列および/または配列番号87の軽鎖可変領域配列を含む抗体とともに、配列番号12の配列を有する環状ペプチドおよび/またはヒトAベータオリゴマーと結合する、抗体である。
【0107】
別の態様は、任意選択で融合している軽鎖可変領域と重鎖可変領域とを含み、重鎖可変領域が相補性決定領域CDR-H1、CDR-H2およびCDR-H3を含み、軽鎖可変領域が相補性決定領域CDR-L1、CDR-L2およびCDR-L3を含み、前記CDRのアミノ酸配列が配列番号1、2、80および81~83の配列を含む、立体配座に特異的かつ/または選択的な単離抗体を含む。
【0108】
一実施形態では、抗体は、i)配列番号85で示されるアミノ酸配列;ii)配列番号85と少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%もしくは少なくとも90%の配列同一性を有し、CDR配列が配列番号1、2および80で示される、アミノ酸配列、またはiii)CDR配列が配列番号1、2および80で示される保存的に置換されたアミノ酸配列i)を含む、重鎖可変領域を含む。
【0109】
別の実施形態では、抗体は、i)配列番号89で示されるアミノ酸配列、ii)配列番号89と少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%もしくは少なくとも90%の配列同一性を有し、CDR配列が配列番号81、82および83で示される、アミノ酸配列、またはiii)CDR配列が配列番号81、82および83で示される保存的に置換されたi)のアミノ酸配列を含む、軽鎖可変領域を含む。
【0110】
別の実施形態では、重鎖可変領域のアミノ酸配列が、配列番号84で示されるヌクレオチド配列またはそのコドン縮重型もしくはコドン最適化型によってコードされ;かつ/あるいは抗体が、配列番号88で示されるヌクレオチド配列またはそのコドン縮重型もしくはコドン最適化型によってコードされる軽鎖可変領域のアミノ酸配列を含む。
【0111】
別の実施形態では、重鎖可変領域が、配列番号85で示されるアミノ酸配列を含むか、これよりなり、かつ/または軽鎖可変領域が、配列番号89で示されるアミノ酸配列を含むか、これよりなる。
【0112】
別の実施形態では、抗体は、配列番号12の配列を有する環状ペプチドおよび/またはヒトAベータオリゴマーとの結合に関して、本明細書に配列番号1、2、80~3で記載されるCDR配列を含む抗体と競合する、抗体である。
【0113】
別の実施形態では、抗体は、配列番号85の重鎖可変鎖配列および/または配列番号89の軽鎖可変領域配列を含む抗体とともに、配列番号12の配列を有する環状ペプチドおよび/またはヒトAベータオリゴマーと結合する、抗体である。
【0114】
一実施形態では、抗体は、任意選択で実施例に記載する条件下で、配列HHQK(配列番号7)を含む直鎖状ペプチドと結合することはなく、任意選択で、直鎖状ペプチドの配列は、抗体を生じさせるのに使用する環状配列の直鎖型である。
【0115】
一実施形態では、抗体は、in vivoで存在するAベータ上のエピトープと特異的に結合し、エピトープは、HHQK(配列番号7)またはその一部を含むか、これよりなる。
【0116】
一実施形態では、抗体は、HHQK(配列番号7)からなる直鎖状ペプチドと特異的に結合することはなく、かつ/またはこれに対して選択的ではない。本明細書に記載されるように、選択的結合はELISAまたは表面プラズモン共鳴測定を用いて測定することができる。
【0117】
一実施形態では、抗体は、任意選択でシクロ(CGHHQKG)(配列番号12)とHHQK(配列番号7)を含む直鎖状ペプチドとを、任意選択で直鎖状CGHHQKG(配列番号12)との関連で比較して、HHQK(配列番号7)またはその一部を含む環状化合物と選択的に結合する。例えば、一実施形態では、抗体は、環状立体配座のHHQK(配列番号7)と選択的に結合し、例えば任意選択で本明細書に記載される方法を用いるELISAまたは表面プラズモン共鳴による測定で、環状立体配座のHHQK(配列番号7)に対し、対応する直鎖状化合物などの直鎖状化合物のHHQK(配列番号7)の少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、少なくとも1000倍の選択性を示す。
【0118】
一実施形態では、抗体は、エピトープ配列を含む環状化合物と直鎖状ペプチドより選択的に、またはAベータオリゴマーなどのAベータ種とモノマーより選択的に結合する。一実施形態では、環状化合物および/またはAベータオリゴマーに対する選択性は、Aベータモノマーおよび/またはAベータ線維から選択されるAベータ種ならびに/あるいは直鎖状HHQK(配列番号7)、任意選択で直鎖状CGHHQKG(配列番号12)の少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、少なくとも1000倍選択的である。
【0119】
一実施形態では、抗体はモノクローナル抗体である。モノクローナルの作製については実施例に記載する。
【0120】
モノクローナル抗体を作製するには、本明細書に記載される免疫原で免疫感作した対象から抗体産生細胞(リンパ球)を回収し、標準的な体細胞融合法によりミエローマ細胞と融合し、それにより上記の細胞を不死化してハイブリドーマ細胞を得ることができる。このような技術は当該技術分野で周知である(例えば、KohlerおよびMilsteinにより最初に開発されたハイブリドーマ技術(Nature 256:495-497(1975))ならびにその他の技術、例えばヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozborら,Immunol.Today 4:72(1983))、ヒトモノクローナル抗体を作製するEBVハイブリドーマ技術(Coleら,Methods Enzymol,121:140-67(1986))およびコンビナトリアル抗体ライブラリーのスクリーニング(Huseら,Science 246:1275(1989)など)。所望のエピトープと特異的に反応する抗体の産生に関してハイブリドーマ細胞を免疫学的にスクリーニングし、モノクローナル抗体を単離することができる。
【0121】
特定の抗原または分子に対して反応性の特異的抗体または抗体フラグメントはまた、細胞表面成分とともに細菌内で発現する免疫グロブリン遺伝子またはその一部をコードする発現ライブラリーをスクリーニングすることにより作製し得る。例えば、ファージ発現ライブラリーを用いて、完全Fabフラグメント、VH領域およびFV領域を細菌内で発現させることができる(例えば、Ward et al.,Nature 41:544-546(1989);Huse et al.,Science 246:1275-1281(1989);およびMcCafferty et al.,Nature 348:552-554(1990)を参照されたい)。
【0122】
一実施形態では、抗体は、任意選択で表2のCDRと、任意選択で配列番号42の重鎖可変領域、配列番号42と少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%または少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、IgG4フレームワークとを含み、CDR配列が、配列番号74~76または配列番号42の保存的に置換されたアミノ酸配列であり、CDR配列が配列番号74~76の配列である、キメラ抗体である。
【0123】
一実施形態では、抗体は、任意選択で表2のCDRと、任意選択で配列番号56の軽鎖可変領域、配列番号56と少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%または少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、IgG4フレームワークとを含み、CDR配列が、配列番号77~79または配列番号56の保存的に置換されたアミノ酸配列であり、CDR配列が配列番号77~79の配列である、キメラ抗体である。
【0124】
一実施形態では、抗体はヒト化抗体である。実施例で示すように、特異的ヒト化抗体が記載されている。
【0125】
非ヒト種からの抗体のヒト化については文献に記載されている。例えば、欧州特許第0239400号(B1)ならびにCarterおよびMerchant 1997(全体が参照により本明細書に組み込まれるCurr Opin Biotechnol 8,449-454,1997)を参照されたい。ヒト化抗体はまた、商業的に容易に入手できる(例えば、イギリス、ミドルセックス、トゥイッケナム、ホーリーロード2番のScotgen Limited社)。
【0126】
ヒト化型のげっ歯類抗体は、CDR移植(Riechmann et al.,Nature,332:323-327,1988)によって作製することができる。この方法では、げっ歯類モノクローナル抗体の抗原結合部位を含む6つのCDRループと、対応するヒトフレームワーク領域とを結合させる。CDR移植では、フレームワーク領域のアミノ酸が抗原認識に影響を及ぼし得ることから、親和性が低下した抗体が得られることが多い(FooteおよびWinter.J Mol Biol,224:487-499,1992)。抗体の親和性を維持するには多くの場合、部位特異的変異誘発またはその他の組換え技術により特定のフレームワーク残基を置き換える必要があり、コンピュータによる抗原結合部位のモデル化を援用することもある(Co et al.,J Immunol,152:2968-2976,1994)。
【0127】
実施例に記載される方法を用いることもできる。
【0128】
例えば、可変領域をヒトフレームワーク内に移植することができ、例えば、CDRの外部にある可変領域内に特異的変異の導入を実施することができる。
【0129】
ヒト化型の抗体は任意選択で、リサーフィシング(resurfacing)(Pedersen et al.,J Mol Biol,235:959-973,1994)によって得られる。この方法では、げっ歯類抗体の表面残基のみをヒト化する。
【0130】
一実施形態では、ヒト化抗体は、表2に示されるCDRを含む。
【0131】
具体的なヒト化配列を表4Aおよび4Bに記載する。
【0132】
一態様は、表4Aもしくは4Bに記載される配列を含むか、または表4Aもしくは4Bに示される配列と少なくとも50%の配列同一性を有し、CDRアミノ酸配列がそこに示される通りのものである配列を有する、ヒト化抗体を含む。
【0133】
一実施形態では、ヒト化抗体は、i)配列番号16、18、20、22、24および26のいずれか1つで示されるアミノ酸配列;ii)配列番号16、18、20、22、24および26のいずれか1つと少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%もしくは少なくとも90%の配列同一性を有し、CDR配列が配列番号1、2および3で示される、アミノ酸配列、またはiii)CDR配列が配列番号1、2および3で示される保存的に置換されたアミノ酸配列i)を含む、重鎖可変領域を含む。
【0134】
別の実施形態では、抗体は、i)配列番号30、32、34、36、38および40のいずれか1つで示されるアミノ酸配列、ii)配列番号30、32、34、36、38および40のいずれか1つと少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%もしくは少なくとも90%の配列同一性を有し、CDR配列が配列番号4、5および6で示される、アミノ酸配列、またはiii)CDR配列が配列番号4、5および6で示される、保存的に置換されたi)のアミノ酸配列を含む、軽鎖可変領域を含む。
【0135】
別の実施形態では、重鎖可変領域のアミノ酸配列が、配列番号15、17、19、21、23および25のいずれか1つで示されるヌクレオチド配列またはそのコドン縮重型もしくはコドン最適化型によってコードされ;かつ/あるいは抗体が、配列番号29、31、33、35、37および39のいずれか1つで示されるヌクレオチド配列またはそのコドン縮重型もしくはコドン最適化型によってコードされる軽鎖可変領域のアミノ酸配列を含む。
【0136】
別の実施形態では、重鎖可変領域が、配列番号16、18、20、22、24および26のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含むか、これよりなり、かつ/または軽鎖可変領域が、配列番号30、32、34、36、38および40のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含むか、これよりなる。
【0137】
別の実施形態では、抗体は、配列番号12の配列を有する環状ペプチドおよび/またはヒトAベータ、任意選択でヒトAベータオリゴマーとの結合に関して、表4Aに示される重鎖配列を含み、任意選択で表4Aに示される軽鎖配列を含む抗体と競合する、抗体である。
【0138】
別の実施形態では、抗体は、配列番号12の配列を有する環状ペプチドおよび/またはヒトAベータ、任意選択でヒトAベータオリゴマーとの結合に関して、配列番号16、18、20、22、24および26のいずれか1つの重鎖可変鎖配列および/または配列番号30、32、34、36、38および40のいずれか1つで示される軽鎖可変領域配列を含む抗体と競合する、抗体である。
【0139】
一実施形態では、抗体は、配列番号16と30;配列番号18と32;配列番号20と34;配列番号22と36;配列番号24と38;もしくは配列番号36と40またはそれと少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%もしくは少なくとも90%の配列同一性を有する配列を有し、CDRが表2に示される通りに維持されている配列を含む。
【0140】
別の実施形態では、ヒト化抗体は、表4Bに示される配列を含む。
【0141】
一実施形態では、ヒト化抗体は、i)配列番号44、46、48、50、52および54のいずれか1つで示されるアミノ酸配列;ii)配列番号44、46、48、50、52および54のいずれか1つと少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%もしくは少なくとも90%の配列同一性を有し、CDR配列がそこの下線部分で(配列番号74~76でも)示される配列である、アミノ酸配列、またはiii)CDR配列がそこの下線部分(例えば、配列番号74~76)で示される配列である、保存的に置換されたi)のアミノ酸配列を含む、重鎖可変領域を含む。
【0142】
別の実施形態では、抗体は、i)配列番号58、60、62、64、66および68のいずれか1つで示されるアミノ酸配列、ii)配列番号58、60、62、64、66および68のいずれか1つと少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%もしくは少なくとも90%の配列同一性を有し、CDR配列がそこの下線部分で(配列番号77~79でも)示される配列である、アミノ酸配列、またはiii)CDR配列がそこの下線部分で(配列番号77~79でも)示される配列である、保存的に置換されたi)のアミノ酸配列を含む、軽鎖可変領域を含む。
【0143】
別の実施形態では、重鎖可変領域のアミノ酸配列が、配列番号43、45、47、49、51および53のいずれか1つで示されるヌクレオチド配列;またはそのコドン縮重型もしくはコドン最適化型によってコードされ;かつ/あるいは抗体が、配列番号57、59、61、63、65および67のいずれか1つで示されるヌクレオチド配列またはそのコドン縮重型もしくはコドン最適化型によってコードされる軽鎖可変領域のアミノ酸配列を含む。
【0144】
別の実施形態では、重鎖可変領域が、配列番号44、46、48、50、52および54のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含むか、これよりなり、かつ/あるいは軽鎖可変領域が、配列番号58、60、62、64、66および68のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含むか、これよりなる。
【0145】
別の実施形態では、抗体は、配列番号12の配列を有する環状ペプチドおよび/またはヒトAベータオリゴマーとの結合に関して、表4Bに示される重鎖配列を含み、任意選択で表4Bに示される軽鎖配列をさらに含む抗体と競合する、抗体である。
【0146】
別の実施形態では、抗体は、配列番号12の配列を有する環状ペプチドおよび/またはヒトAベータオリゴマーとの結合に関して、配列番号44、46、48、50、52および54のいずれか1つの重鎖可変鎖配列ならびに/あるいは配列番号58、60、62、64、66および68のいずれか1つの軽鎖可変領域配列を含む抗体と競合する、抗体である。
【0147】
一実施形態では、抗体は、配列番号44と58;配列番号46と60;配列番号48と62;配列番号50と64;配列番号52と66;もしくは配列番号54と68またはそれと少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%もしくは少なくとも90%の配列同一性を有する配列を有し、CDRがそこの下線部分で(配列番号74~79でも)示される通りに維持されている配列を含む。
【0148】
一実施形態では、本明細書に記載される抗体は、i)配列番号70および/または72で示されるアミノ酸配列;ii)配列番号70および/または72のいずれか1つと少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%または少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列;あるいはiii)保存的に置換されたアミノ酸配列i)を有する、定常領域を含む。
【0149】
別の実施形態では、重鎖定常領域のアミノ酸配列が、配列番号69で示されるヌクレオチド配列;またはそのコドン縮重型もしくはコドン最適化型によってコードされ;かつ/あるいは抗体が、配列番号71で示されるヌクレオチド配列またはそのコドン縮重型もしくはコドン最適化型によってコードされる軽鎖定常領域のアミノ酸配列を含む。
【0150】
一実施形態では、ヒト化抗体はVH2Vk5の配列を含む。
【0151】
一実施形態では、ヒト化抗体はFabフラグメントである。
【0152】
一実施形態では、Fabフラグメントは、表4Aおよび4Bのいずれかの可変領域を含む。一実施形態では、Fabフラグメントは、VH2Vk5を含む。
【0153】
さらなる実施形態では、抗体は、表5のIgG4のCH1部分および/またはCL部分、その保存的バリアントあるいはそれと少なくとも50%、60%、70%、89%、90%または95%の配列同一性を有する配列を含む。さらなる実施形態では、抗体は、表5の配列、その保存的バリアントまたはそれと少なくとも50%、60%、70%、89%、90%もしくは95%の配列同一性を有する配列を含む。
【0154】
一実施形態では、抗体は、配列番号12の配列の環状ペプチドに対するKDが、少なくとも、もしくは約1×10-10、少なくとも、もしくは約8×10-11、少なくとも、もしくは約6×10-11、少なくとも、もしくは約4×10-11、または少なくとも、もしくは約2×10-11である。
【0155】
特定の抗原に特異的なヒト抗体は、ファージディスプレイ戦略(Jespers et al.,Bio/Technology,12:899-903,1994)によって特定され得る。1つの方法では、特異的抗原に対するげっ歯類抗体の重鎖をクローン化し、ヒト軽鎖のレパートリーと対にして、繊維状ファージ上にFabフラグメントとして提示させる。抗原との結合によりファージを選択する。次いで、選択されたヒト軽鎖をヒト重鎖のレパートリーと対にしてファージ上に提示させ、再び抗原との結合によりファージを選択する。その結果は、特定の抗原に特異的なヒト抗体Fabフラグメントとなる。別の方法では、メンバーがその外表面に様々なヒト抗体フラグメント(FabまたはFv)を提示するファージのライブラリーを作製する(Dower et al.,国際公開第91/17271号およびMcCafferty et al.,国際公開第92/01047号)。特異的抗原に対するアフィニティー濃縮により、所望の特異性を有する抗体を提示するファージを選択する。いずれかの方法で特定されたヒトFabフラグメントまたはヒトFvフラグメントを再クローン化して、哺乳動物細胞でヒト抗体として発現させ得る。
【0156】
任意選択で、ヒト抗体をトランスジェニック動物から得る(米国特許第6,150,584号;同第6,114,598号;および同第5,770,429号)。この方法では、キメラマウスまたは生殖系列変異体マウスの重鎖連結領域(JH)遺伝子を欠失させる。次いで、そのような変異体マウスにヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子アレイを導入する。次いで、得られたトランスジェニックマウスは抗原曝露時にヒト抗体の全レパートリーを作製することが可能になる。
【0157】
ヒト化抗体は通常、Fab、Fab’F(ab’)2、Fd、Fvおよび単一ドメイン抗体フラグメントなどの抗原結合フラグメントまたは重鎖と軽鎖がスペーサーにより連結された一本鎖抗体として作製される。また、ヒト抗体またはヒト化抗体はモノマー型またはポリマー型で存在し得る。ヒト化抗体は任意選択で、1本の非ヒト鎖と1本のヒト化鎖(すなわち、1本のヒト化重鎖または軽鎖)とを含む。
【0158】
ヒト化抗体またはヒト抗体を含めた抗体は、IgM、IgG、IgD、IgAまたはIgEを含めた任意のクラスの免疫グロブリン;ならびにIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4を含めた任意のアイソタイプから選択される。ヒト化抗体またはヒト抗体は、1つまたは2つ以上のアイソタイプまたはクラスに由来する配列を含み得る。
【0159】
配列番号74~79で示されるCDRを有する抗体をコドン最適化し、IgG1またはIgG2aアイソタイプにした。配列を表8に示す。
【0160】
一実施形態では、抗体は、表8に記載される配列またはその一部分を有し、その一部分は少なくともCDR、任意選択で重鎖CDRおよび/または軽鎖CDRを含む。一実施形態では、一部分は、表8の配列から選択される配列の可変鎖部分である。
【0161】
表8に示される定常領域(例えば、本明細書に記載される配列番号42および56などの他の配列と比較することにより決定可能である)を、配列番号1~6または1、2、80、4~6または1、2、80~83を有するCDRを有する抗体の可変配列と組み合わせることもできる。
【0162】
さらに、本明細書に記載されるエピトープに特異的な抗体は、抗体ファージディスプレイライブラリーをスクリーニングすることにより容易に単離される。例えば、任意選択で、本発明の疾患特異的エピトープを用いることにより抗体ファージライブラリーをスクリーニングして、その疾患特異的エピトープに特異的な抗体フラグメントを特定する。任意選択で、特定した抗体フラグメントを用いて、本発明の様々な実施形態に有用な様々な組換え抗体を作製する。抗体ファージディスプレイライブラリーは、例えばXoma社(バークレー、カリフォルニア州)から市販されている。抗体ファージライブラリーをスクリーニングする方法は当該技術分野で周知である。
【0163】
一実施形態では、抗体はモノクローナル抗体である。一実施形態では、抗体はキメラ抗体、例えば表2に記載されるCDR配列を含むヒト化抗体などである。
【0164】
別の実施形態では、表2に挙げるCDR、軽鎖可変領域および重鎖可変領域を、任意選択で一本鎖抗体の形で含む、抗体が提供される。
【0165】
本明細書の抗体は一本鎖抗体であり得る。記載されるヒト化抗体はまた、一実施形態では一本鎖抗体である。
【0166】
記載したように、配列番号12の配列を有する環状ペプチドおよび/またはヒトAベータオリゴマーとの結合に関して、表2に記載されるCDR配列を含むか、または表3、4A、4Bおよび8のいずれか1つに記載される配列を含む抗体と競合する、抗体も含まれる。
【0167】
抗体間の競合は、例えば、被験抗体が参照抗体と共通の抗原との特異的結合を阻害する能力を評価するアッセイを用いて判定することができる。競合結合アッセイによる測定で、過剰の被験抗体(例えば、少なくとも2倍、5倍、10倍または20倍)が参照抗体の結合を少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも95%阻害する場合、被験抗体は参照抗体と競合することになる。
【0168】
一実施形態では、抗体は単離されている。一実施形態では、抗体は外来抗体である。
【0169】
一実施形態では、抗体は、例えば実施例に記載する条件下で、単量体Aベータと結合することはない。一実施形態では、抗体は、例えば実施例に記載する条件下で、例えばAD脳組織においてin situで、老人斑のAベータと結合することはない。
【0170】
別の実施形態では、抗体は、天然または合成のオリゴマーAベータと比較して単量体Aベータと選択的に結合することはない。
【0171】
一実施形態では、Aベータオリゴマーは、Aベータの1~42サブユニットを含む。
【0172】
一実施形態では、抗体は、例えば免疫組織化学による測定で、Aベータ線維斑(老人斑とも呼ばれる)染色を示さない。斑染色がみられないことは、Aベータ特異的抗体である6E10および4G8(Biolegend社、サンディエゴ、カリフォルニア州)または2C8(Enzo Life Sciences社、ファーミングデール、ニューヨーク州)などの陽性対照ならびにアイソタイプ対照と比較することにより評価することができる。本明細書に記載される抗体は、その抗体が典型的な斑形態染色を示さず、染色のレベルがIgG陰性アイソタイプ対照でみられるレベルの2倍と同等またはそれ以下である場合、Aベータ線維斑染色を示さない、またはほとんど示さないことになる。尺度は、例えば、アイソタイプ対照での染色レベルを1に設定し、6E10での染色レベルを10に設定することができる。抗体は、そのような尺度で染色レベルが2以下である場合、Aベータ線維斑染色を示さないことになる。実施形態では、抗体は、例えば上記の尺度で、最小限のAベータ線維斑染色を示し、そのレベルのスコアは少なくとも3程度または3未満である。
【0173】
さらなる態様は、治療剤、検出可能な標識または細胞毒性物質とコンジュゲートした抗体である。一実施形態では、検出可能な標識は陽電子放出放射性核種である。陽電子放出放射性核種は、例えばPET撮像で使用され得る。
【0174】
さらなる態様は、本明細書に記載される抗体および/またはその結合フラグメントとオリゴマーAベータとを含む、抗体複合体に関する。
【0175】
さらなる態様は、本明細書に記載される抗体またはその一部をコードする、単離核酸である。
【0176】
重鎖もしくは軽鎖またはその一部をコードする核酸、例えば、本明細書に記載されるCDR-H1、CDR-H2および/またはCDR-H3領域を含む重鎖をコードする、または本明細書に記載されるCDR-L1、CDR-L2および/またはCDR-L3領域を含む軽鎖、本明細書に記載される可変鎖をコードする核酸ならびにそのコドン最適化型およびコドン縮重型も提供される。
【0177】
本開示はまた、本明細書に開示される抗体および/またはその結合フラグメントをコードする核酸配列のバリアントを提供する。例えば、バリアントとしては、本明細書に開示される抗体および/またはその結合フラグメントをコードする核酸配列と少なくとも中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列またはコドン縮重配列もしくはコドン最適化配列が挙げられる。別の実施形態では、バリアント核酸配列は、表2、3、4A、4Bおよび8に示されるいずれかのアミノ酸配列をコードする核酸配列と少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、最も好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%、さらに最も好ましくは少なくとも95%の配列同一性を有する。
【0178】
さらなる態様は、本明細書に記載される抗体をコードする単離核酸、例えば、表2、3、4A、4Bおよび8のいずれかに示される核酸である。
【0179】
別の態様は、本明細書に開示される核酸を含む発現カセットまたはベクターである。一実施形態では、ベクターは単離ベクターである。
【0180】
ベクターは、抗体および/またはその結合フラグメントの作製あるいは本明細書に記載されるペプチド配列の発現に適したベクターを含めた任意のベクターであり得る。
【0181】
核酸分子を既知の方法で、タンパク質を確実に発現させる適切な発現ベクター内に組み込み得る。考え得る発現ベクターとしては、特に限定されないが、コスミド、プラスミドまたは改変ウイルス(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)が挙げられる。ベクターは使用する宿主細胞と適合性のあるものであるべきである。発現ベクターは「宿主細胞の形質転換に適した」ものであり、これは、その発現ベクターが、本明細書に記載されるエピトープまたは抗体に対応するペプチドをコードする核酸分子を含んでいることを意味する。
【0182】
一実施形態では、ベクターは、遺伝子治療により例えば一本鎖抗体を発現させるのに適したものである。ベクターは、例えば神経特異的プロモーターなどを用いて、神経組織での特異的発現に適合させることができる。一実施形態では、ベクターは、IRESを含み、軽鎖可変領域および重鎖可変領域の発現を可能にする。このようなベクターは、in vivoで抗体を送達するのに用いることができる。
【0183】
適切な制御配列は、細菌、真菌、ウイルス、哺乳動物または昆虫の遺伝子を含めた様々な供給源に由来するものであり得る。
【0184】
このような制御配列の例としては、転写プロモーターおよび転写エンハンサーまたはRNAポリメラーゼ結合配列、翻訳開始シグナルを含めたリボソーム結合配列が挙げられる。さらに、選択する宿主細胞および用いるベクターに応じてその他の配列、例えば複製起点、追加のDNA制限部位、エンハンサーおよび転写の誘導性を付与する配列などを発現ベクター内に組み込み得る。
【0185】
一実施形態では、制御配列は、神経組織および/または細胞での発現を指令する、または増大させる。
【0186】
一実施形態では、ベクターはウイルスベクターである。
【0187】
組換え発現ベクターはまた、本明細書に記載される抗体またはエピトープペプチドを発現させるためにベクターにより形質転換、感染または形質移入した宿主細胞の選択を容易にするマーカー遺伝子を含み得る。
【0188】
組換え発現ベクターはまた、組換えペプチドの発現または安定性を増大させる;組換えペプチドの溶解度を増大させる;ならびに例えば本明細書に記載されるタグおよび標識を含めたアフィニティー精製のリガンドとして作用することにより標的組換えペプチドの精製を補助する融合部分(すなわち、「融合タンパク質」)をコードする、発現カセットを含み得る。さらに、標的組換えタンパク質にタンパク質分解切断部位を付加して、融合タンパク質精製後に融合部分から組換えタンパク質を分離させ得る。典型的な融合発現ベクターとしては、pGEX(Amrad社、メルボルン、オーストラリア)、pMAL(New England Biolabs社、ビバリー、マサチューセッツ州)およびpRIT5(Pharmacia社、ピスカタウェイ、ニュージャージー州)が挙げられ、これらは組換えタンパク質にそれぞれグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合タンパク質またはプロテインAを融合させるものである。
【0189】
例えばニューロンおよび神経組織内にin vitroおよびin vivoの両方で遺伝子を導入するシステムとしては、ウイルス、中でもとりわけ単純ヘルペスウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)およびレンチウイルスを含めたレトロウイルスに基づくベクターが挙げられる。これに代わる遺伝子送達の方法としては、裸のプラスミドDNAおよびリポソーム-DNA複合体の使用が挙げられる。また別の方法として、DNAをポリカチオン濃縮して脂質に封入し、脳内遺伝子送達により脳内に導入する、AAVプラスミドの使用(Leoneら,米国特許出願公開第2002076394号)がある。
【0190】
したがって、別の態様では、本明細書に記載される化合物、免疫原、核酸、ベクターおよび抗体をリポソーム、ナノ粒子およびウイルスタンパク質粒子などの小胞に製剤化し、例えば、本明細書に記載される抗体、化合物、免疫原および核酸を送達し得る。特に、ポリマーソームを含めた合成ポリマー小胞を用いて抗体を投与することができる。
【0191】
別の態様では、本明細書に記載される抗体を発現する、または本明細書に開示されるベクターを含む細胞、任意選択で単離細胞および/または組換え細胞も提供される。
【0192】
組換え細胞は、ポリペプチドの産生に適した、例えば抗体および/またはその結合フラグメントの産生に適した任意の細胞を用いて作製することができる。例えば、核酸(例えば、ベクター)を細胞内に導入するには、用いるベクターに応じて、細胞に形質移入し得る、細胞を形質転換し得る、または細胞に感染させ得る。
【0193】
適切な宿主細胞としては、多種多様な原核宿主細胞および真核宿主細胞が挙げられる。例えば、本明細書に記載されるタンパク質を大腸菌(E.coli)などの細菌細胞、昆虫細胞(バキュロウイルスを用いる)、酵母細胞または哺乳動物細胞で発現させ得る。
【0194】
一実施形態では、細胞は、酵母細胞、植物細胞、蠕虫細胞、昆虫細胞、鳥類細胞、魚類細胞、爬虫類細胞および哺乳動物細胞から選択される真核細胞である。
【0195】
別の実施形態では、哺乳動物細胞は、ミエローマ細胞、脾臓細胞またはハイブリドーマ細胞である。
【0196】
一実施形態では、細胞は神経細胞である。
【0197】
抗体またはペプチドを発現させるのに適した酵母宿主細胞および真菌宿主細胞としては、特に限定されないが、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)、ピキア(Pichia)属またはクリベロミセス(Kluyveromyces)属およびアスペルギルス(Aspergillus)属の様々な種が挙げられる。酵母(S.cerivisiae)で発現させるためのベクターの例としては、pYepSec1、pMFa、pJRY88およびpYES2(Invitrogen社、サンディエゴ、カリフォルニア州)が挙げられる。酵母および真菌を形質転換させるプロトコルは当業者に周知である。
【0198】
適切であり得る哺乳動物細胞としては、特にCOS(例えば、ATCC番号CRL1650または1651)、BHK(例えば、ATCC番号CRL6281)、CHO(ATCC番号CCL61)、HeLa(例えば、ATCC番号CCL2)、293(ATCC番号1573)およびNS-1細胞が挙げられる。哺乳動物細胞での発現を指令するのに適した発現ベクターは一般に、プロモーター(例えば、ポリオーマ、アデノウイルス2、サイトメガロウイルスおよびサルウイルス40などのウイルス材料由来のもの)ならびにその他の転写制御配列および翻訳制御配列を含む。哺乳動物発現ベクターの例としては、pCDM8およびpMT2PCが挙げられる。
【0199】
一実施形態では、細胞はハイブリドーマ細胞などの融合細胞であり、ハイブリドーマ細胞は、例えばAベータモノマーよりAベータオリゴマーと選択的に結合する、直鎖状化合物より環状化合物中に存在するエピトープ配列と選択的に結合する、または斑と結合しない、もしくはほとんど結合しない抗体を含めた、本明細書に記載されるエピトープまたはエピトープ配列に特異的かつおよび/または選択的な抗体を産生する。
【0200】
さらなる態様は、本明細書に記載されるCDRのセットを含む抗体を産生する、ハイブリドーマ細胞系である。
【0201】
III.組成物
さらなる態様は、本明細書に記載される核酸、ベクターまたは抗体を含む組成物である。
【0202】
一実施形態では、組成物は希釈剤を含む。
【0203】
核酸に適した希釈剤としては、特に限定されないが、水、生理食塩水およびエタノールが挙げられる。
【0204】
抗体もしくはそのフラグメントを含めたポリペプチドおよび/または細胞に適した希釈剤としては、特に限定されないが、生理食塩水、pH緩衝溶液およびグリセロール溶液あるいはポリペプチドおよび/または細胞を凍結させるのに適した他の溶液が挙げられる。
【0205】
一実施形態では、組成物は、本明細書に開示される抗体、核酸またはベクターのいずれかを含み、任意選択で薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物である。
【0206】
本明細書に記載される組成物は、対象に投与することができる薬学的に許容される組成物を調製する既知の方法それ自体により、任意選択でワクチンとして、有効量の活性物質が薬学的に許容される溶媒との混合物の形で組み合わさるように調製することができる。
【0207】
医薬組成物としては、特に限定されないが、凍結乾燥粉末剤または水性もしくは非水性の無菌注射用液剤もしくは無菌注射用懸濁剤が挙げられ、これらは、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤および組成物を目的とする被投与者の組織または血液に実質的に適合させる溶質をさらに含有し得る。このような組成物中に存在し得るその他の成分としては、例えば水、界面活性剤(Tweenなど)、アルコール、ポリオール、グリセリンおよび植物油が挙げられる。無菌粉末剤、顆粒剤、錠剤または濃縮した液剤もしくは懸濁剤から即時注射液剤および即時注射懸濁剤を調製し得る。組成物は、例えば、特に限定されないが、患者に投与する前に滅菌水または生理食塩水で再構築する凍結乾燥粉末として供給され得る。
【0208】
医薬組成物は薬学的に許容される担体を含み得る。適切な薬学的に許容される担体は、実質的に化学的に不活性かつ無毒性であり医薬組成物の生物活性の効果に干渉しない組成物を含む。適切な医薬担体の例としては、特に限定されないが、水、生理食塩水、グリセロール溶液、エタノール、N-(1(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル)N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、ジオレシルホスファチジル-エタノールアミン(diolesylphosphotidyl-ethanolamine)(DOPE)およびリポソームが挙げられる。このような組成物は、患者に直接投与する形態になるように、治療有効量の化合物を適量の担体とともに含有するべきである。
【0209】
組成物は薬学的に許容される塩の形態であり得、このような塩としては、特に限定されないが、遊離アミノ基を用いて形成される塩、例えば塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来する塩などおよび遊離カルボキシル基とともに形成される塩、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアルニノエタノール(2-ethylarnino ethanol)に由来する塩などが挙げられる。
【0210】
一実施形態では、組成物は、本明細書に記載される抗体を含む。別の実施形態では、組成物は、本明細書に記載される抗体と希釈剤とを含む。一実施形態では、組成物は無菌組成物である。
【0211】
さらなる態様は、本明細書に記載される抗体とAベータ、任意選択でAベータオリゴマーとを含む、抗体複合体を含む。複合体は、任意選択でin vitroで、溶液中のもの、または組織中に含まれるものであり得る。
【0212】
IV.キット
さらなる態様は、無菌バイアルなどのバイアルあるいはその他の筐体に入ったi)抗体および/またはその結合フラグメント、ii)前記抗体またはその一部の核酸、iii)本明細書に記載される抗体、核酸または細胞を含む組成物あるいはiv)本明細書に記載される組換え細胞と、任意選択で参照物質および/またはキットの使用のための説明書とを含む、キットに関する。
【0213】
一実施形態では、キットは、収集バイアル、標準緩衝液および検出試薬のうちの1つまたは複数のものをさらに含む。
【0214】
別の実施形態では、キットは、アルツハイマー病またはオリゴマーAベータが関与する病態の診断またはモニタリングのためのものである。
【0215】
V.方法
本明細書に記載される抗体を作製する方法が含まれる。
【0216】
具体的には、本明細書に記載される抗体を用いてHHQK(配列番号7)の立体配座エピトープに選択的な本明細書に記載される抗体を作製する方法であって、対象、任意選択で非ヒト対象に本明細書に記載されるエピトープ配列を含む環状化合物を投与することと、抗体産生細胞または本明細書に記載されるCDRを含む抗体を単離することとを含む、方法が提供される。
【0217】
一実施形態では、この方法は、例えば本明細書に記載される方法を用いて、モノクローナル抗体を作製するためのものである。
【0218】
別の実施形態では、キメラ抗体またはその結合フラグメントを作製する方法が提供され、この方法は、組換え技術を用いて、本明細書に記載される抗体(重鎖および/または軽鎖)の可変領域をコードする核酸を任意選択でFc部分を有するか有さないヒト抗体定常ドメイン(例えば、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4)をコードする核酸を含むベクターにサブクローニングし、キメラ抗体ベクターを作製することと;キメラ抗体ベクターを細胞内で発現させることと;抗体を単離することとを含む。一実施形態では、キメラはマウスヒトキメラである。
【0219】
一実施形態では、この方法は、例えば本明細書に記載される方法を用いて、ヒト化抗体を作製するためのものである。一実施形態では、この方法は、キメラ中間体を作製することを含む。キメラ中間体の可変領域に例えば変異を誘発して、CDR領域外部の1つまたは複数のアミノ酸変化を導入する。別の実施形態では、本明細書に記載される1つまたは複数のCDRコード配列をヒト抗体スキャフォールドに挿入する。
【0220】
環状化合物を用いて作製した抗体を本明細書および実施例に記載される通りに選択する。一実施形態では、この方法は、任意選択で本明細書に記載される方法を用いて、直鎖状ペプチドより環状ペプチドと特異的または選択的に結合し、エピトープ配列に特異的であり、オリゴマーと特異的に結合し、かつ/あるいはin situの斑および/または対応する直鎖状ペプチドと結合しない、またはほとんど結合しない抗体を単離することを含む。
【0221】
さらなる態様では、生体試料がAベータを含むかどうかを検出する方法であって、生体試料と本明細書に記載される抗体とを接触させること、および/または何らかの抗体複合体の存在を検出することを含む、方法が提供される。一実施形態では、この方法は、生体試料がオリゴマーAベータを含むかどうかを検出するためのものである。
【0222】
一実施形態では、この方法は、
a.抗体:Aベータオリゴマー複合体の生成が可能な条件下で、生体試料と、本明細書のAベータオリゴマーに特異的かつ/または選択的な本明細書に記載される抗体とを接触させること;および
b.何らかの複合体の存在を検出すること
を含み、
検出可能な複合体の存在により、試料がAベータオリゴマーを含有し得ることが示される。
【0223】
一実施形態では、形成された複合体のレベルを、適切なIg対照または無関係な抗体などの被験抗体と比較する。
【0224】
一実施形態では、検出を定量化し、生成した複合体の量を測定する。測定は、例えば標準物質に対して相対的なものであり得る。
【0225】
一実施形態では、測定された量を対照と比較する。
【0226】
別の実施形態では、この方法は、
(a)抗体-抗原複合体の生成が可能な条件下で、前記対象の被験試料と本明細書に記載される抗体とを接触させることと;
(b)被験試料中の抗体-抗原複合体の量を測定することと;
(c)被験試料中の抗体-抗原複合体の量を対照と比較することと
を含み、
対照と比較して被験試料中に抗体-抗原複合体が検出されることにより、試料がAベータを含むことが示される。
【0227】
対照は、試料対照(例えば、ADを有さない対象または軽度、中等度もしくは進行型といった特定の型のADを有する対象に由来するもの)または対象のAベータオリゴマーレベルの変化をモニターするための同じ対象由来の以前の試料であり得る。あるいは、対照は、ADの有無を問わない複数の患者から得た値であり得る。
【0228】
一実施形態では、抗体は、本明細書に記載されるCDR配列を有する抗体である。一実施形態では、抗体はヒト化抗体である。一実施形態では、抗体はキメラ抗体である。
【0229】
一実施形態では、試料は生体試料である。一実施形態では、試料は、脳組織もしくはその抽出物および/またはCSFを含む。一実施形態では、試料は、全血、血漿または血清を含む。一実施形態では、試料はヒト対象から採取されるものである。一実施形態では、対象は、ADが疑われる、ADのリスクがある、またはADを有する。
【0230】
本明細書に記載される抗体を用いてAベータ:抗体複合体を検出し、それにより試料中にAベータオリゴマーが存在するかどうかを判定するには、フローサイトメトリー、ウエスタンブロット、ELISA、SPRおよび免疫沈降とそれに続くSDS-PAGE免疫細胞化学などの免疫測定法を含めたいくつかの方法を用いることができる。
【0231】
実施例に記載するように、表面プラズモン共鳴技術を用いて立体配座特異的結合を評価することができる。抗体を標識する、または複合体の抗体に特異的で検出可能に標識した二次抗体を用いる場合、その標識を検出することができる。一般に用いられる試薬としては、蛍光発光抗体およびHRP標識抗体が挙げられる。定量的方法では、発生したシグナルの量を標準物質または対照との比較により測定することができる。測定はまた、相対的なものであり得る。
【0232】
さらなる態様は、対象または組織中のAベータのレベルを測定する、またはそのようなAベータを撮像する方法であって、任意選択で、測定または撮像するAベータがオリゴマーAベータである、方法を含む。一実施形態では、この方法は、ADを有するリスクがある、ADを有することが疑われる、またはADを有する対象に検出可能な標識とコンジュゲートした本明細書に記載の抗体を投与することと;標識を検出すること、任意選択で標識を定量的に検出することとを含む。標識は、一実施形態では、例えばPET撮像に使用することができる陽電子放出放射性核種である。
【0233】
この方法を他のADまたは認知障害の検査法と組み合わせてもよい。例えば、CSF中のSNAP-25またはシナプス小胞糖タンパク質2a(SVG2a)などのシナプスタンパク質(Sci Transl Med.2016 Jul 20;8(348):348ra96.doi:10.1126/scitranslmed.aaf6667)のレベルを測定することができる。例えば、フロウロデオキシグルコース(flourodeoxyglucose)PET(FDG-PET)をシナプス代謝の間接的測定に用いる。
【0234】
本明細書に記載される抗体を使用するAベータレベル検出を単独で、または治療に対する反応をモニターする他の方法と組み合わせて用いることができる。
【0235】
本明細書では、シクロ(CGHHQKG)(配列番号12)に対して生じさせた、本明細書に記載されるCDRのセットを含む抗体が、Aベータオリゴマーと特異的かつ/または選択的に結合することが可能であることを示す。オリゴマーAベータ種は、ADにおいて毒性のある伝播性の種であると考えられる。さらに、図1に示し実施例に記載するように、これらの抗体は、オリゴマーに特異的であり、Aベータの凝集およびAベータオリゴマーの伝播を阻害した。したがって、Aベータオリゴマーの伝播を阻害する方法であって、有効量の本明細書に記載のAベータオリゴマーに特異的または選択的な抗体を、Aベータを発現する細胞もしくは組織と接触させて、または必要とする対象に投与して、Aベータの凝集および/またはオリゴマーの伝播を阻害することを含む、方法も提供される。実施例に記載するように、in vitroでアッセイをモニターすることができる。
【0236】
抗体はまた、ADおよび/またはその他のAベータアミロイド関連疾患の治療に有用であり得る。例えば、レビー小体型認知症のバリアントおよび封入体筋炎(筋肉疾患の1つ)では、ADと類似した斑がみられ、Aベータが脳アミロイド血管症に関与する凝集体を形成することもある。記載されるように、CDRのセットを含み、本明細書に記載されるヒト化抗体の配列中にある抗体は、in vitroでADの毒素原性のAベータ種であると考えられるオリゴマーAベータと結合し、毒素原性Aベータオリゴマーの形成を阻害する。
【0237】
したがって、さらなる態様は、ADおよび/またはその他のAベータアミロイド関連疾患を治療する方法であって、必要とする対象に有効量の本明細書に記載のCDRのセットを含む本明細書に記載の抗体、任意選択で表4Aもしくは4Bに記載される、または選択的なヒト化抗体を、あるいは必要とする対象に前記抗体を含む医薬組成物を投与することを含む、方法である。他の実施形態では、任意選択で対象に核酸を送達するのに適したベクターを用いて、本明細書に記載される抗体をコードする核酸を対象に投与することもできる。
【0238】
一実施形態では、本明細書に記載される抗体を用いて、治療する対象由来の生体試料のAベータの存在またはレベルを評価する。一実施形態では、検出可能なAベータレベル(例えば、in vitroで測定される、または撮像により測定されるAベータ抗体複合体)を有する対象を抗体で治療する。
【0239】
抗体、ペプチドおよび核酸を例えば、本明細書に記載される医薬組成物に含ませ、例えば小胞に製剤化して送達を改善することができる。
【0240】
HHQK(配列番号7)を標的とする1つまたは複数の抗体を組み合わせて投与することができる。さらに、本明細書に開示される抗体をベータセクレターゼ阻害剤またはコリンエステラーゼ阻害剤などの1つまたは複数の他の治療剤とともに投与することができる。
【0241】
また、ADまたはAベータアミロイド関連疾患の治療への組成物、抗体、単離ペプチドおよび核酸の使用が提供される。
【0242】
本明細書に記載される組成物、抗体、単離ペプチドおよび核酸、ベクターなどを、例えば、非経口投与、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、頭蓋内投与、脳室内投与、髄腔内投与、眼窩内投与、点眼、脊髄内投与、槽内投与、腹腔内投与、鼻腔内投与、エアロゾール投与または経口投与により投与することができる。
【0243】
ある特定の実施形態では、医薬組成物を全身投与する。
【0244】
他の実施形態では、医薬組成物を脳またはCNSの他の部分に直接投与する。例えば、このような方法は、埋込み型カテーテルおよびポンプの使用を含み、これらはカテーテルを通して注入部位に所定用量を放出するものである。当業者にはさらに、カテーテルは、それを可視化して脳内の所望の投与部位または注入部位に隣接する位置に配置することが可能な外科技術により埋め込まれ得ることが理解されよう。このような技術は、参照により本明細書に組み込まれる、Elsberryらの米国特許第5,814,014号「Techniques of Treating Neurodegenerative Disorders by Brain Infusion」に記載されている。また、米国特許出願公開第20060129126号(KaplittおよびDuring,「Infusion device and method for infusing material into the brain of a patient」)に記載されているものなどの方法が企図される。脳およびCNSの他の部分に薬物を送達する装置が市販されている(例えば、SynchroMed(登録商標)EL Infusion System;Medtronic社、ミネアポリス、ミネソタ州)。
【0245】
別の実施形態では、血液脳関門を通過する受容体介在型輸送が可能になるよう投与する化合物を修飾するなどの方法を用いて、医薬組成物を脳に投与する。
【0246】
他の実施形態では、本明細書に記載される組成物、抗体、単離ペプチドおよび核酸と、血液脳関門を通過する輸送を促進することが知られている生物学的に活性な分子との共投与が企図される。
【0247】
また、ある特定の実施形態では、本明細書に記載される組成物、抗体、単離ペプチドおよび核酸を、血液脳関門を通過させて投与する方法、例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7012061号「Method for increasing the permeability of the blood brain barrier」に記載されている、血液脳関門の透過性を一時的に増大させることを目的とする方法などが企図される。
【0248】
上の開示は本願を全体的に説明するものである。以下の具体例を参照することにより、さらに十全に理解することができる。これらの例は単に説明を目的として記載されるものであって、本願の範囲を限定することを意図するものではない。状況によって好都合であることが示唆される、または好都合である場合、形態の変更および均等物による置換が企図される。本明細書では特定の用語が使用されているが、このような用語は説明的な意味で意図されるものであって、限定を目的とするものではない。
【0249】
以下の非限定的な例は本開示を例示するものである。
【0250】
(実施例)
実施例1
抗体作製
方法および材料
免疫原
シクロ(CGHHQKG)(配列番号12)ペプチド(環状および直鎖状の両方)をCPC Scientific社(サニーベール、カリフォルニア州、米国)で作製し、トリフルオロ酢酸塩対イオンプロトコルを用いてKLH(免疫感作用)およびBSA(スクリーニング用)とコンジュゲートした。同じ配列CGHHQKG(配列番号12)の直鎖状ペプチドも作製した。
【0251】
抗体
キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)と結合したシクロ(CGHHQKG)(配列番号12)に対するハイブリドーマおよびモノクローナル抗体を作製した。
【0252】
融合/ハイブリドーマの発育
リンパ球を単離し、ポリエチレングリコール(PEG1500)の存在下でマウスSP2/0ミエローマ細胞と融合させた。HAT選択を用いて融合細胞を培養した。
【0253】
ハイブリドーマの解析
ハイブリドーマの組織培養上清を間接ELISAによりスクリーニング抗原(環状ペプチド-BSA)(一次スクリーニング)で試験し、ヤギ抗IgG/IgM(H&L)-HRP二次抗体を用いてIgG抗体およびIgM抗体の両方について探索し、TMB基質で発色させた。陽性培養物をスクリーニング抗原で再試験して分泌を確認し、無関係の抗原(ヒトトランスフェリン)で再試験して非特異的mAbを除去し、偽陽性を除外した。選択されたクローンについて抗体捕捉ELISAによりアイソタイピングを実施して、それらがIgGアイソタイプであるのか、またはIgMアイソタイプであるのかを判定した。また、選択されたクローンを間接ELISAにより他の環状ペプチド-BSAコンジュゲートおよび直鎖状ペプチド-BSAコンジュゲートで試験して、交差反応性およびリンカー反応性を評価した。抗体をSPR解析でもスクリーニングした。
【0254】
ELISA抗体スクリーニング
ELISAプレートを1)4℃の炭酸塩コーティング緩衝液(pH9.6)O/N中0.1ug/ウェルのシクロペプチドコンジュゲートBSA 100uL/ウェル;2)4℃の炭酸塩コーティング緩衝液(pH9.6)O/N中0.1ug/ウェルの直鎖状ペプチドコンジュゲートBSA 100uL/ウェル;または3)4℃の炭酸塩コーティング緩衝液(pH9.6)O/N中0.1ug/ウェルの陰性ペプチド 100uL/ウェルでコートした。37℃で振盪しながら1時間インキュベートした100uL/ウェルの一次抗体:ハイブリドーマ上清。二次抗体:37℃で1時間振盪したPBS-Tween中1:10,000の100uL/ウェルのヤギ抗マウスIgG/IgM(H+L)-HRP。全洗浄段階をPBS-Tweenで30分間実施した。基質TMBを50uL/ウェルで加え、暗所で発色させ、等体積の1M HClで停止させた。
【0255】
SPR結合アッセイ
抗体と環状ペプチド、Aベータモノマーおよびオリゴマーとの結合に関するSPR解析
Aベータモノマーおよびオリゴマーの調製:氷冷ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)にAベータ40およびAベータ42ペプチド(California Peptide社、ソルトレイクシティ、ユタ州、米国)を溶かした。一晩蒸発させることによりHFIPを除去し、SpeedVac遠心機で乾燥させた。モノマーの調製には、ペプチド薄膜をDMSOで戻して5mMとし、dH2Oでさらに100μMに希釈し、直ちに使用した。5mMのDMSOペプチド溶液を無フェノールレッドF12培地(Life Technologies社、バーリントン、オンタリオ州、カナダ)で希釈して最終濃度100μMにすることによりオリゴマーを調製し、4℃で24時間~7日間インキュベートした。
【0256】
環状ペプチド、Aベータモノマーおよびオリゴマー結合のSPR解析:高強度レーザー光および高速光学式走査を用いて結合相互作用をリアルタイムでモニターする分析用バイオセンサーであるMolecular Affinity Screening System(MASS-1)(Sierra Sensors社、ハンブルク、ドイツ)を用いて、全SPR測定を実施した。SPR直接結合アッセイを用いて組織培養上清の一次スクリーニングを実施し、このアッセイでは、High Amine Capacity(HAC)センサーチップ(Sierra Sensors社、ハンブルク、ドイツ)の個々のフローセル上にBSAコンジュゲートペプチド、Aベータ42モノマーおよびAベータ42オリゴマーを共有結合で固定化し、表面に抗体を流した。各試料を希釈し、固定化したペプチドおよびBSA参照の表面に二重反復で注入し、次いで、解離相にのみランニング緩衝液を注入した。解析サイクル毎に、センサーチップ表面を再生した。BSA参照表面およびブランクランニング緩衝液注入から結合を減算することによりセンサグラムを二重参照し、解離相の結合応答報告点を収集した。
【0257】
プロテインGで精製したmAbを、SPR間接(捕捉)結合アッセイを用いて二次スクリーニングで解析し、このアッセイでは、プロテインA誘導体化センサーチップ(XanTec Bioanalytics社、デュッセルドルフ、ドイツ)上に抗体を固定化し、表面にAベータ40モノマー、Aベータ42オリゴマー、プールした可溶性脳抽出物を流した。SPR直接結合アッセイで、HACセンサーチップの個々のフローセル上にAベータ42モノマーおよびAベータ42オリゴマーを共有結合で固定化し、表面に精製mAbを流すことにより抗体の特異性を検証した。
【0258】
抗体のシーケンシング
重鎖および軽鎖のCDRおよび可変領域のシーケンシングを実施した。標準的なRT-PCRを用いて、ハイブリドーマが発現した免疫グロブリン遺伝子転写物をハイブリドーマ細胞から得たcDNAから増幅し、標準的なダイターミネーターキャピラリーシーケンシング法を用いてシーケンシングを実施した。
【0259】
ヒト化抗体
301-17のヒト化IgG4抗体構築物を調製し、シーケンシングを実施した(Abzena社、ケンブリッジ、イギリス)。
【0260】
簡潔に述べれば、RNeasy Mini Kit(Qiagen社、ヒルデン、ドイツ)を用いて、ハイブリドーマ301-17細胞ペレットからRNAを抽出した。マウス抗体シグナル配列の縮重プライマープールをIgGおよびIgκそれぞれの定常領域プライマーとともに用いて、V領域をRT-PCRにより増幅した。VHシグナル配列に特異的な6つの縮重プライマープール(A~F)からなるセットをIgG特異的定常領域プライマーとともに用いて、重鎖V領域mRNAを増幅した。7つがカッパクラスター(Igκ-A~Igκ-G)、1つがラムダクラスター(Igλ)に対するものである8つのシグナル配列特異的縮重プライマープールをκまたはλ定常領域プライマーとともに用いて、軽鎖V領域mRNAを増幅した。得られたPCR産物を精製し、「TA」クローニングベクター(pGEM-T Easy、Promega社、マディソン、米国)にクローン化し、大腸菌(E.coli)に形質転換し、個々のコロニーについてシーケンシングを実施した。
【0261】
可変領域を用いてハイブリドーマからキメラ構築物(V0H0およびV0k0)を調製し、それをヒトIgG4フレームワーク内にクローン化した。次いで、キメラ構築物をヒト化して6つのヒト化重鎖(VH1~6)および6つの軽鎖(Vk1~6)を作製した。VH1~6構築物およびVk4~6構築物を混合して、様々なヒト化抗体、例えばVH2Vk4を作製した。
【0262】
S241Pヒンジバリアントは、重鎖定常ドメイン1(C1)のN末端にあるCys(Kabat位置127)のSerへの変異およびC1のC末端の様々な位置(位置227~230)へのCysの導入により、IgG4分子のジスルフィド結合の配置が変化している。LC-C1間ジスルフィド結合が形成される[17]。
【0263】
Composite Human Antibody(商標)技術を用いて完全ヒト化抗体を調製した。ヒトIgG4(S241Pヒンジバリアント)重鎖定常ドメインとヒトカッパ軽鎖定常ドメインとをコードするベクターにヒト化可変領域遺伝子をクローン化した。CHO細胞にキメラ抗体およびヒト化抗体を一過性に発現させ、プロテインAを精製し、試験した。いずれの301-17ヒト化抗体も、BSAとコンジュゲートした環状ペプチドと選択的に結合し、結合親和性が、参照キメラ抗体の2倍以内であり、参照モノクローナル抗体の10倍および約20倍を上回るものであった。環状ペプチドに対して、キメラ抗体およびヒト化抗体はKD(M)が約2×10-11であったのに対し、モノクローナル抗体のKDは4×10-10であった。このことは、図2に示されるように、オリゴマーAベータに対する親和性が改善されたと解釈される。
【0264】
単一サイクルBiacore解析を用いて結合を明らかにした。抗体を2つの別個の実験で解析した。
【0265】
ヒト化抗体配列を表4Bに示す(301-17)。各抗体配列のCDR配列を太字および下線で示す。301-11または本明細書に記載される任意の他の抗体のCDRを、例えば表4Aに示されるヒト化構築物のCDRの代わりに用いることができる。
【0266】
結果
ELISA試験では、ハイブリドーマクローンが直鎖状ペプチドよりシクロペプチドと優先的に結合することがわかった。シクロ(CGHHQKG)に対して生じさせたクローン301-3、301-11および301-17をさらなる解析に選択した。
【0267】
アイソタイピングでは、301-3、301-11および301-17がIgG3サブタイプであることがわかった。
【0268】
抗体が上記の通りに調製した環状ペプチド、直鎖状ペプチド、Aベータ1~42モノマーおよびAベータ1~42オリゴマーと結合する能力を1つまたは複数のアッセイで試験した。
【0269】
ELISAおよびSPRアッセイにより、上記のクローンが直鎖状ペプチドよりシクロペプチドと優先的に結合し(かつ無関係な環状ペプチドとの交差反応を示さず)かつ/またはモノマーよりAβオリゴマーと優先的に結合することが確認された。ハイブリドーマ培養上清にSPRを用いた結合解析の結果を表1Aに示す。
【0270】
ハイブリドーマ上清から精製した抗体を固定化し、そのAベータオリゴマーとの結合能をSPRによりアッセイした。その結果を表1Bに示す。
【0271】
【表2】
【0272】
【表3】
【0273】
抗体の配列
クローン301-3、301-11および301-17抗体のシーケンシングを実施した。301-3および301-11のCDR配列を表2に記載する。301-17のCDRを配列番号74~79に記載する。抗体の重鎖および軽鎖の可変部分のコンセンサスDNA配列およびポリペプチド配列を表3に記載する。
【0274】
表2に示されるように、301-3と301-11の重鎖CDRはCDR1およびCDR2が一致しており、CDR3が1つの位置で異なっていた。
【0275】
2つの軽鎖のシーケンシングを実施した。1つの軽鎖は301-11の軽鎖とほぼ一致していた。
【0276】
301-17のヒト化抗体を調製しシーケンシングを実施した(Abzena社、ケンブリッジ、イギリス)。ヒト化抗体の配列を表4A(301-11)および4B(301-17)に記載する。各抗体の配列のCDR配列を太字および下線で示す。
【0277】
【表4】
【0278】
【表5】
【0279】
【表6】
【0280】
【表7】
【0281】
【表8】
【0282】
実施例2
免疫組織化学
固定も抗原回復も実施していない凍結ヒト脳切片に免疫組織化学を実施した。加湿チャンバ内で無血清タンパク質ブロッキング試薬(Dako Canada社、ミシサガ、オンタリオ州、カナダ)と1時間インキュベートすることにより非特異的染色をブロックした。免疫染色には以下の一次抗体を使用した:マウスモノクローナルアイソタイプ対照IgG1、IgG2aおよびIgG2bならびに抗アミロイドβ6E10(以上、Biolegend社から購入)ならびに精製抗体301-11および301-17。いずれの抗体も1μg/mLで使用した。切片を室温で1時間インキュベートし、TBS-Tで3×5分間洗浄した。西洋ワサビペルオキシダーゼとコンジュゲートした抗マウスIgG(1:1000)を切片に添加し、45分間インキュベートし、次いでTBS-Tで3×5分間洗浄した。DAB発色試薬(Vector Laboratories社、バーリントン、オンタリオ州、カナダ)を加え、バックグランド染色に対して所望の標的レベルに達したとき、切片を蒸留水でリンスした。切片をマイヤーのヘマトキシリンで対比染色し、脱水し、カバーガラスをかけた。スライドを光学顕微鏡(Zeiss Axiovert 200M、Carl Zeiss Canada社、トロント、オンタリオ州、カナダ)下で検査し、Leica社のDC300デジタルカメラおよびソフトウェア(Leica Microsystems Canada社、リッチモンドヒル、オンタリオ州)を用いて代表的な画像を20倍および40倍の倍率でキャプチャーした。Adobe PhotoshopでLevels Auto Correctionを用いて画像を最適化した。
【0283】
脳抽出物:UBCのClinical Research Ethics Board(C04-0595)から承認を受け、メリーランド大学のBrain and Tissue Bankからヒト脳組織を入手した。ADの可能性があるという臨床診断はNINCDS-ADRDA基準[5]に基づくものとした。
【0284】
ホモジナイゼーション:ヒト脳組織試料の重量を測定し、次いで、脳組織の最終濃度が20%(w/v)になるよう一定量の新鮮な氷冷TBSおよび無EDTAプロテアーゼインヒビターカクテル(Roche Diagnostics社、ラヴァル、ケベック州、カナダ)に浸漬した。この緩衝液中で機械的プローブホモジナイザーを用いて組織をホノジナイズ(間に30秒の停止を挟んで3×30秒のパルス、いずれも氷上で実施)した。次いで、TBS中でホモジナイズした試料を超遠心分離にかた(70,000×gで90分)。上清を収集し、等分し、-80℃で保管した。BCAタンパク質アッセイ(Pierce Biotechnology社、ロックフォード、イリノイ州、米国)を用いてTBSホモジネートのタンパク質濃度を求めた。
【0285】
抗体6E10を用いて脳抽出物での陽性結合を確認した。
SPR解析:AD患者の脳抽出物4例および同年齢対照の脳抽出物4例をプールし解析した。TBS中でホモジナイズした脳試料には前頭皮質のブロードマン第9野が含まれていた。いずれの実験も、高強度レーザー光および高速光学式走査を用いて結合相互作用をリアルタイムでモニターする分析用バイオセンサーであるMolecular Affinity Screening System(MASS-1)(Sierra Sensors社、ハンブルク、ドイツ)を用いて実施した。本明細書に記載されるシクロペプチドに対して作製した精製抗体をプロテインA誘導体化センサーチップの別個のフローセル上に捕捉し、表面に希釈試料を180秒間注入し、次いで、緩衝液で120秒間解離を実施し、表面を再生した。マウス対照IgG参照の表面結合およびアッセイ緩衝液の減算により結合応答を二重参照し、異なる試料のグループを比較した。
【0286】
結果
脳抽出物、CSFおよび免疫組織化学
死体健常対照およびADの脳の可溶性脳抽出物、CSFおよび組織試料中での抗体のAベータとの結合能を試験し、結果を表6に示す。表6の陽性強度は正符号の数で示されている。
【0287】
抗体301-11および301-17はそれぞれ、対照患者と比較してAD患者の脳ホモジネートおよびCSFで陽性の結合を示した。
【0288】
表6に示されるように、精製抗体は、可溶性脳抽出物およびCSF中で非ADよりADとの優先的な結合を示し、IHCによる斑線維とはあまり結合しなかった。
【0289】
【表9】
【0290】
実施例3
Aベータ合成オリゴマーとの結合
Aベータ42オリゴマー結合をさらに検証および確認するため、精製抗体をセンサーチップに共有結合で固定化し、次いで、市販の調製済みの安定なAベータ42オリゴマー(1microM)(SynAging社、ヴァンドゥーヴル=レ=ナンシー、フランス)の表面に注入した。
【0291】
抗体301-3、301-11および307-17は安定なAベータ42オリゴマー(1microM)と結合し、結合応答単位(BRU)の平均値はそれぞれ14.5(301-3)、19.3(301-11)および30(301-17)であった。比較すると、陰性対照IgG1はオリゴマーと有意に結合することはなく(結合の平均値はBRU2.5)、汎Aβ陽性対照抗体6E10は平均BRU90で結合した。
【0292】
実施例4
ホルマリン固定組織での免疫組織化学
抗体301-11、301-17を用いてヒトAD脳組織切片を評価した。患者はそれまでに、(i)老人斑および神経原線維濃縮体を示すビルショウスキー銀法、(ii)アミロイドを示すコンゴーレッドならびに(iii)濃縮体を示し老人斑が「神経突起性」であることを確認するタウ免疫組織化学法の3部よりなる方法でアルツハイマー病であることが特徴付けられ診断されていた。この組織を用いて、選択したモノクローナル抗体クローンの斑反応性を試験した。脳組織を10%緩衝ホルマリンで数日間固定し、Sakura VIP組織処理装置でパラフィン処理した。組織切片にマイクロ波による抗原回復(AR)を実施するか、または実施せずに、1μg/mlの抗体で探索した。陽性対照として汎アミロイドベータ反応性抗体6E10を選択した抗体クローンとともに含めた。抗体を抗体希釈剤(Ventana社)で希釈し、OptiView DAB(Ventana社)で発色させた。Ventana Benchmark XT IHC染色装置で染色を実施した。Olympus BX45顕微鏡で画像を取得した。神経病理学の専門知識を有する専門の病理学者が画像を盲検的に解析した。
【0293】
下の表7に示されるように、固定組織を用いると、被験抗体は老人斑アミロイドの特異的染色が陰性であった。陽性対照として用いた6E10抗体は強い斑染色を示した。
【0294】
【表10】
【0295】
実施例5
組換えIgG1抗体およびIgG2a抗体
ハイブリドーマ由来301-17のCDRをマウスIgG1またはIgG2aの主鎖に移植することにより組換えIgG1およびIgG2a 301-17構築物を作製した(WuXi Biologics社)。その配列を表8に記載する。
【0296】
【表11】
【0297】
以下に記載するように、組換え301-17 IgG1抗体およびIgG2a抗体の結合特性を試験し、親ハイブリドーマ精製IgG3抗体と比較した。
【0298】
301-17 IgG2aのAbOとのProteOn Biosensor(BioRad社)結合:組換え301-17 IgG2aおよびハイブリドーマ精製301-17 IgG3を抗マウスIgGまたはアミンカップリングによりProteon GLM Sensorチップ上で捕捉し、AbO結合(SynAging AbO)を試験した。AbO 3倍希釈物:1uM、0.33uM、0.11uM、37nM、12.3nMを使用した。アッセイ緩衝液はPBS-E+Tween20+2mg/ml BSAとした。
【0299】
結果:
およその動態値は次の通りであった:
ハイブリドーマ:KD=26.9nM
IgG2a-301-17抗体:KD=16.2~19.5nM
対照マウスIgGでは結合は検出されなかった。
【0300】
301-17 IgG2aの環状ペプチドエピトープとのProteOn Biosensor(BioRad社)結合:組換え301-17 IgG2aをProteon GLHバイオセンサーチップにアミンカップリングさせ、BSAとカップリングした配列番号2のシクロペプチドとの結合を試験した。シクロ-BSAの9nM~111pMの3倍希釈物を使用した。アッセイ緩衝液をPBS-E+0.05%Tween+10mg/ml BSAとした。抗体301-17 IgG2aはBSAとコンジュゲートした環状ペプチド(配列番号12)と結合し、KDは約17pM(3回の試験の平均値)であることがわかった。試験した他の市販のAベータ抗体(汎Aベータ6E10、Biolegend社)およびウサギ抗Aベータ抗体(D54D2、Cell Signaling社;ab201060、(abcam社;NBP1-78007、Novus社)では結合が全くまたはほとんど検出されなかった。
【0301】
301-17 IgG1のAbOとのMAAS-2結合:組換え301-17 IgG1およびハイブリドーマ精製301-17 IgG3をMAAS-2センサーチップ上に固定化し、1uMのAbO(SynAging社)との結合を試験した。試験条件下では、2回の試験で組換えIgG1 301-17抗体の方がハイブリドーマ精製抗体より大きいシグナルが発生した(それぞれ40~55BRU対15~25BRU)。対照マウスIgGでは結合がほとんどまたは全く検出されなかった。
【0302】
301-17 IgG1の環状ペプチドエピトープとのMAAS-2結合:組換え301-17 IgG1をMAAS-2センサーチップ上に固定化し、BSAとカップリングした配列番号12のシクロペプチドとの結合をpH6.5、7.5または8.0で試験した。301-17 IgG1では、3種類のいずれのpH条件下でも等しく高いレベルの結合がみられた(約400BRU)。対照マウスIgG、汎Aベータ6E10抗体(Biolegend社)ともに、いずれのpH条件下でも結合がほとんどまたは全く検出されなかった。
【0303】
実施例6
オリゴマー伝播の阻害
チオフラビンT(ThT)結合アッセイを用いてアミロイドベータ(Aβ)凝集に対する抗体の効果を検討することにより、その生物学的機能をin vitroで試験した。Aβ凝集は、予め形成された小さいAβオリゴマーの核によって誘導され、この核を介して伝播し、単量体Aβから可溶性オリゴマー、次いで不溶性線維への全過程には、同時に増大するベータシート形成が伴う。このことはベンゾチアゾール塩のThTによってモニターすることができ、ThTがベータシートに富む構造に結合すると、その励起および発光の最大値がそれぞれ385nmから450nmおよび445nmから482nmに遷移し、それにより蛍光が増大する。簡潔に述べれば、Aβ1~42(Bachem Americas社、トーランス、カリフォルニア州)を可溶化し、超音波処理し、トリス-EDTA緩衝液(pH7.4)で希釈し、黒色の96ウェルマイクロタイタープレート(Greiner Bio-One社、モンロー、ノースカロライナ州)のウェルに加え、これに等体積のシクロペプチドに対する抗体または無関係のマウスIgG抗体アイソタイプ対照を加え、Aβ1~42ペプチドと抗体のモル比を1:5とした。ThTを加え、プレートを室温で24時間インキュベートし、1時間毎にWallac Victor3v 1420 Multilabel Counter(PerkinElmer社、ウォルサム、マサチューセッツ州)を用いてThT蛍光の測定値(440nmで励起、486nmで発光)を記録した。全ウェルからバックグラウンド緩衝液の蛍光読取り値を減算し、さらに、対応するウェルから抗体単独のウェルの読取り値を減算した。
【0304】
ThT蛍光によりモニターしたAβ42凝集は、蛍光が最小である最初の遅滞期、蛍光が急激に増大する対数期および最後にAβ分子種が平衡状態にあり蛍光の増大がみられないプラトー期を特徴とするS字形を示した。Aβ42と無関係のマウス抗体との共インキュベーションでは、凝集過程に対する有意な効果が全くみられなかった。これとは対照的に、Aβ42と被験抗体との共インキュベーションでは、凝集過程のいずれの期も完全に阻害された。抗体301-11で得られた結果を図1に示す。
【0305】
301-17および301-3でもほぼ同じ結果が得られた。
【0306】
ThT凝集アッセイは、ADの病理発生に極めて重要なAβ伝播ならびにモノマー、オリゴマー、前原線維および線維からのAβ凝集のin vivoの生物物理学的/生化学的段階を模倣するものであることから、これらの抗体はこの過程を完全に打ち消す可能性を秘めている。マウスIgG対照抗体を用いて実施したアイソタイプ対照では阻害がみられなかった。
【0307】
実施例7
毒性阻害アッセイ
抗体によるAベータ42オリゴマーの毒性阻害をラット一次皮質ニューロンアッセイで試験することができる。
【0308】
抗体および対照IgGをそれぞれ2mg/mLなどの濃度に調節する。様々なモル比のAベータオリゴマーと抗体を溶媒対照、Aベータオリゴマー単独および神経保護ペプチドのヒューマニンHNGなどの陽性対照とともに試験する。
【0309】
例示的設定を表9に示す。
【0310】
室温で10分間プレインキュベートした後、培地で体積を840マイクロリットルに調節する。この溶液を37℃で5分間インキュベートする。次いで、溶液を一次皮質ニューロンに直接添加し、細胞を24時間インキュベートする。MTTアッセイを用いて細胞生存率を求めることができる。
【0311】
【表12】
【0312】
Aベータオリゴマーの不在下では、301-17抗体は単独で神経細胞の生存率に何ら影響を及ぼすことはなかった。Aベータオリゴマーの存在下でインキュベートしたところ、抗体は、試験したいずれのモル濃度比でもAベータオリゴマー誘導性神経細胞死を阻害した。
【0313】
実施例8
in vivo毒性阻害アッセイ
抗体によるAベータ42オリゴマーの毒性阻害をマウス行動試験でin vivoで試験することができる。
【0314】
新奇物体認識(NOR)
新奇物体認識(NOR)モデルでは、新奇な物体を既知の物体より有意に長い時間をかけて調べるというげっ歯類の正常な行動を利用する。この試験は、諸項目について認識記憶を評価するものであり、そのヒトに相当するものが視覚的対比較(VPC)である。げっ歯類、霊長類およびヒトでは、物体の認識は嗅周皮質を介するものである。AD病態は最初、海馬より先に嗅周皮質および嗅内皮質に発現する。VPCの作業課題は軽度認知障害(MCI)の記憶欠損を検出するものであり、この作業課題によってMCIからADへの転換が予測される(16)。
【0315】
結果:
試験はSynAging社(ヴァンドゥーヴル=レ=ナンシー、フランス)で実施した。第0日、1グループ当たり12匹のC57BL6Jマウス(11~12週齢)に溶媒(Aβオリゴマー化に使用した緩衝液)またはAβO(50ピコモル)を溶媒(PBS)または抗体301-17の存在下でICV注射した。第+7日および第+8日に実施した新奇物体認識(NOR)試験により全マウスの認知能力を求めた。
【0316】
操作者に対して盲検で実施したこの試験には、1実験グループ当たりマウス12匹の4つの実験グループに分けたマウス計48匹を含めた。全個体に抗体の不在下または存在下で総体積5μLの溶媒またはAβOを単回(かつ片側に)ICV注射した。実験グループは以下のように定めた:
・グループA(溶媒対照):溶媒のICV注射(n=12)
・グループB(AβO対照):AβOのICV注射(n=12)
・グループC(抗体対照):AβO+抗体のICV注射(n=12)
・グループD(治療):AβO+抗体のICV注射(n=12)
【0317】
ICV注射の前、4μL(すなわち、112ピコモル)の抗体1を1μLの溶媒(すなわち、Aβオリゴマー化のための緩衝液)または抗体/AβOモル比2.24に相当する1μLのAβO(50ピコモル)と室温で30分間インキュベートした。
【0318】
第0日、マウスに溶媒または抗体の存在下で溶媒またはAβOの5μL単回ICV注射を実施した。
【0319】
第+7日および第+8日、マウス計48匹を用いてNOR試験を1回の試行で実施した。認知試験の1日前(すなわち、第+7日)、マウスを何もないオープンフィールドに置いて10分間の試行に慣れさせる。認知試験当日(すなわち、第+8日)、同じオープンフィールドに置き、5分間の試行(獲得試行)で2つの同じ物体を自由に探索させる。次いで、マウスを5分間の試行間時間の間、ホームケージに戻す。保持試行では、マウスに異なる2つの物体、すなわち、なじみのある同じ物体と1つの新奇物体を探索させる。この間、治療に対して盲検の実験者が、マウスが能動的に各物体を探索する時間を記録する。いずれの試行もビデオで記録する(Smart v3.0ソフトウェア、Bioseb社)。次いで、弁別指数(DI)を:(DI)=(新奇物体の探索時間-なじみのある物体の探索時間)/総探索時間で求める。総探索時間が5秒以下であれば、マウスを弁別指数の算出および統計解析から除外する。
【0320】
溶媒対照群(グループA)のマウスは正常な行動を示し、平均弁別指数が0.443±0.053であった。この結果は、これまでのSynAging社の同様の対照群の観察結果と一致している。予想された通り、AβOの単回ICV注射(グループB)では、溶媒対照マウスに比して認知能力の有意な低下が認められ(p<0.0001)、平均弁別指数は-0.062±0.048であった。AβOを注射したマウスは新奇物体となじみのある物体を弁別することができなかった。
【0321】
溶媒の存在下で抗体を投与したマウス(グループC)は正常な認知能力を示し、平均弁別指数が0.439±0.049であることがわかった。これらのマウスには、溶媒対照マウスとは有意差が認められず(p=0.9163)、AβOを注射したマウスとは有意差が認められた(p<0.0001)。
【0322】
抗体をAβOとともに注射した場合、NOR試験でAβO誘導性認知障害が完全に予防された。実際、グループDのマウスは平均弁別指数が0.481±0.055であり、対照マウスとの差はみられなかった(p=0.6126)が、AβOを注射したマウスとの差がみられた(p=0.0002)。以上のデータを考え合わせると、抗体301-17がAβO誘導性認知障害からの保護作用を示したことが示唆される。
【0323】
シナプスマーカー
行動試験に加え、脳組織を収集し、シナプスマーカー(PSD95、SNAP25、シナプトフィジン)および炎症マーカー(IL-1ベータおよびTNFアルファ)のレベルを解析することができる。オリゴマーのICV注射から約14日後にマウスを屠殺し、生理食塩水を灌流する。海馬を収集し、急速凍結し、解析まで-80℃で保管する。ホモジナイズした試料のタンパク質濃度をBCAにより求める。ELISAキット(Cloud-Clone社、米国)を用いてシナプスマーカーの濃度を求める。通常、Aベータオリゴマーを注射したマウスではシナプスマーカーが25~30%減少し、ヒューマニン陽性対照により90~100%に回復する。Aベータオリゴマーを注射したマウスではIL-1ベータ炎症性マーカーの濃度が約3倍になり、この増大はヒューマニンによって大幅に抑えられる。
【0324】
行動試験を実施したマウスから脳を収集する。
【0325】
海馬(記憶形成に重要な構造)を切り出し、抗プロテアーゼカクテルを含有するRIPA緩衝液中でホモジナイズする。液体窒素および37℃の水浴中で凍結融解を3サイクル実施することにより組織を溶解させ、遠心分離後に上清を回収する。
【0326】
ライセートのTNFアルファのレベル(炎症があると上昇する)およびシナプスマーカーPSD-95およびSNAP-25のレベル(シナプス損傷があると低下する)を解析することができる。
【0327】
抗体は行動試験で完全な保護作用を示した。脳でもSNAP25およびPSD-95両方のレベルの改善ならびに脳内のTNFアルファレベルの低下がみられることが予想される。
【0328】
実施例9
in vivo伝播阻害アッセイ
Aベータ毒性オリゴマーのin vivoの伝播およびそれに関連する病態を様々なアルツハイマー病(AD)げっ歯類モデルで研究することができる。例えば、ヒトAPPのトランスジェニックマウス(例えば、APP23マウス)またはヒトAPPとPSEN1のトランスジェニックマウス(APPPS1マウス)は高レベルのAベータを発現し、加齢とともに炎症および神経損傷を伴うアミロイド沈着が徐々にみられるようになる。オリゴマー含有脳抽出物の脳内接種によりこの過程を大幅に加速させることができる(13、14)。これらのモデルは、脳内または全身に投与した被験抗体によるAベータオリゴマー伝播の阻害を研究するためのシステムとなる。
【0329】
表10.Aベータの配列および化合物
1)
HHQK(配列番号7)
CGHHQKG、シクロ(CGHHQKG)(配列番号12)
【0330】
表11
ヒトAベータ1~42
DAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVVIA(配列番号73)
【0331】
実施例12
組換え抗体(HHQK)
ハイブリドーマ由来301-17の可変領域をマウスIgG1またはIgG2aの主鎖に移植することにより組換えIgG1およびIgG2a 301-17構築物を作製した(WuXi、Biologics社)。
【0332】
以下に記載するように、301-17 IgG1抗体およびIgG2a抗体の結合特性を試験し、親ハイブリドーマ精製IgG3抗体と比較した。
【0333】
301-17 IgG2aのAbOとのProteOn Biosensor(BioRad社)結合:組換え301-17 IgG2aおよびハイブリドーマ精製301-17 IgG3を抗マウスIgGまたはアミンカップリングによりProteon GLM Sensorチップ上で捕捉し、AbO結合(SynAging AbO)を試験した。AbO 3倍希釈物:1uM、0.33uM、0.11uM、37nM、12.3nMを使用した。アッセイ緩衝液はPBS-E+Tween20+2mg/ml BSAとした。
【0334】
結果:
およその動態値は次の通りであった:
ハイブリドーマ:KD=26.9nM
IgG2a-301-17抗体:KD=16.2~19.5nM
対照マウスIgGでは結合は検出されなかった。
組換え301-17 IgG1はIgG2a組換えと同程度のKDであった。
【0335】
301-17 IgG2aの環状ペプチドエピトープとのProteOn Biosensor(BioRad社)結合:組換え301-17 IgG2aをProteon GLHバイオセンサーチップにアミンカップリングさせ、BSAとカップリングした配列番号2のシクロペプチドとの結合を試験した。シクロ-BSAの9nM~111pMの3倍希釈物を使用した。アッセイ緩衝液をPBS-E+0.05%Tween+10mg/ml BSAとした。抗体301-17 IgG2aはBSAとコンジュゲートした環状ペプチド(配列番号2)と結合し、およそのKDは17pM(3回の試験の平均値)であることがわかった。試験した他の市販のAベータ抗体(汎Aベータ6E10、Biolegend社)およびウサギ抗Aベータ抗体(D54D2、Cell Signaling社;ab201060、(abcam社;NBP1-78007、Novus社)では結合が全くまたはほとんど検出されなかった。
【0336】
301-17 IgG1 MAAS-2のAbOとの結合:組換え301-17 IgG1およびハイブリドーマ精製301-17 IgG3をMAAS-2センサーチップ上に固定化し、1uMのAbO(SynAging社)との結合を試験した。試験条件下では、2回の試験で組換えIgG1 301-17抗体の方がハイブリドーマ精製抗体より大きいシグナルが発生した(それぞれ40~55BRU対15~25BRU)。対照マウスIgGでは結合がほとんどまたは全く検出されなかった。
【0337】
301-17 IgG1 MAAS-2の環状ペプチドエピトープとの結合:組換え301-17 IgG1をMAAS-2センサーチップ上に固定化し、BSAとカップリングした配列番号2のシクロペプチドとの結合をpH6.5、7.5または8.0で試験した。301-17 IgG1では、3種類のいずれのpH条件下でも等しく高いレベルの結合がみられた(約400BRU)。対照マウスIgG、汎Aベータ6E10抗体(Biolegend社)ともに、いずれのpH条件下でも結合がほとんどまたは全く検出されなかった。
【0338】
実施例13
可溶性脳抽出物中でのヒト化抗体の結合
方法
可溶性脳抽出物のプールをSuperdex 75(10/300)HPLCカラムの中に0.5ml/分で50分間注入し、0.25mlの画分を収集した。
【0339】
可溶性ヒトAD脳抽出物をサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によりLMW(<70kDa)画分と高分子(HMW;>70kDa)画分とに分けた。抗体のSEC画分との結合を表面プラズモン共鳴(SPR)により評価した。
【0340】
具体的には、プールした画分を濃縮し、BCAアッセイにより総タンパク質濃度を求めた。プールした画分を100ug/mlに希釈し、MASS2のセンサーチップ上に固定化された抗体の上に注入した。
【0341】
結果
可溶性ヒトAD脳抽出物のSEC分画により、毒性のあることが報告されている二量体、四量体および十二量体の存在と一致するLMWピークがあり、再現性のあるパターンが得られた。301-17のヒト化抗体(VH2Vk5)(配列番号45、46および配列番号65、66)をマウスモノクローナル型(301-17;表3)およびその他のAベータ抗体と比較した。
【0342】
図2に示されるように、マウスモノクローナル301-17とアデュカヌマブでは、可溶性ヒトAD脳抽出物の毒性オリゴマー高含有LMW画分に対して同程度の結合がみられる。
【0343】
SPR解析では、ヒト化301-17がアデュカヌマブおよびバピネオズマブよりも優先的に毒性オリゴマー高含有LMW画分と結合することがわかった。ヒト301-17のLMW画分に対する結合応答は、アデュカヌマブで得られた応答の約1.5~2倍であった。
【0344】
実施例14
方法:凍結ヒトAD脳切片をヒト化301-17およびその他のAベータに対する抗体で染色して、実質のAベータ斑および血管のAベータ沈着物との結合の程度を評価した。
【0345】
結果:アデュカヌマブおよびバピネオズマブでは、AD脳の実質および血管のAベータとの明白な結合が観察され、臨床でのこれらの抗体によるARIAの出現と一致していた。これと比較して、ヒト化301-17(VH2Vk5)ではAベータ沈着物の免疫反応性は観察されなかった。
【0346】
結論:AD患者材料で得られた結果(実施例13および14)から、ヒト化301-17は、1)可溶性毒性LMWオリゴマーに対する選択的標的化、および2)より高用量の抗体の安全な投与を可能にするARIAリスクの低下により、他のAに対する抗体よりも高い治療効力をもたらす可能性が示唆される。このデータを図3に示す。
【0347】
実施例15
Aβのモノマーおよびオリゴマー
組換えAβ42ペプチド(California Peptide社、ソルトレイクシティ、ユタ州、米国)を氷冷ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶かした。一晩蒸発させることによりHFIPを除去し、SpeedVac遠心機で乾燥させた。モノマーを調製するため、ペプチド膜をDMSOで戻し5mMとし、さらに蒸留水(dH2O)で100μMに希釈し、直ちに使用した。5mMのDMSOペプチド溶液を無フェノールレッドF12培地(Life Technologies社、バーリントン、オンタリオ州、カナダ)で最終濃度100μMに希釈することによりオリゴマーを調製し、4℃で24時間インキュベートした後、直ちに使用するか、-80℃で保管した。
【0348】
脳抽出物
メリーランド大学のBrain and Tissue Bankおよびケース・ウェスタン・リザーブ大学(クリーブランド、オハイオ州、米国)のJiri Safar博士から11例の異なるヒトAD患者の脳組織を入手した。ADの臨床診断はNINCDS-ADRDA基準に基づくものであった。前頭皮質の試料の重量を量り、次いで、脳組織の最終濃度が20%(w/v)になる体積の新鮮な氷冷TBS緩衝液およびロシュ・ダイアグノスティックス社(ラバル、ケベック州、カナダ)のEDTAフリープロテアーゼ阻害剤カクテルに浸漬した。機械的プローブホモジナイザーを用いて、組織をこの緩衝液中でホモジナイズした(間に30秒の休止を挟んだ3×30秒のパルス、いずれも氷上で実施)。次いで、TBSホモジナイズ試料を超遠心分離に90分間供した。上清(可溶性抽出物)を収集し、一定分量ずつに分け、-80℃で保管した。ビシンコニン酸(BCA)タンパク質アッセイを用いてタンパク質濃度を求めた。各解析に3~8例の患者の脳抽出物のプールを使用した。
【0349】
サイズ排除クロマトグラフィー
プールした可溶性脳抽出物をSuperdex 75(10/300)HPLCカラムの中に0.5ml/分で50分間注入し、0.25mlの画分を収集した。分子量(MW)マーカーを別個に流した。O.D.280nmでの吸光度によりタンパク質ピークをモニターした。約8kDa~約70kDaのMWに対応する画分を低分子量(LMW)画分にプールした。Aβモノマー(MW約4.5kDa)をLMW画分から排除した。70kDa超~約700kDaのMWに対応する画分を高分子量(HMW)画分にプールした。LMW画分およびHMW画分を濃縮し、BCAアッセイで総タンパク質濃度を求めた。次いで、表面プラズモン共鳴(SPR)解析用に画分をPBS-EP、BSA(2mg/ml)緩衝液で100μg/mlに希釈した。
【0350】
脳抽出物中の総Aβおよび凝集Aβの測定
プールしたヒトAD可溶性脳抽出物(3例の脳からのプール)のLMW画分およびHMW画分中の凝集Aβおよび総Aβ(モノマーおよび凝集体)の量をQPS(グランバッハ、オーストラリア)で測定した。市販の免疫吸着アッセイ(MSD社、ロックビル、メリーランド州、米国)にペプチド標準品を用いてAβ38、Aβ40およびAβ42の総量を求めた。Amorfix Aggregated Aβ Assay(A4)を用いて凝集Aβのレベルを測定した。簡潔に述べれば、Amorfix Disaggregation Plateのマトリックスで凝集AβをモノマーAβから分離した。マトリックスにはオリゴマーが付着し、フロースルー中にはモノマーがみられる。2回の洗浄段階の後、付着したAβ凝集体をモノマー化し、HFIPで溶出させた。HFIPが完全に蒸発するまでHFIP溶出液中のモノマー化Aβをドラフト下で乾燥させ、アッセイ緩衝液に再懸濁させた。分解されたモノマー化Aβ凝集体について、MSDアッセイでAβ38、Aβ40およびAβ42の測定を実施した。LMW脳画分およびHMW脳画分中の総タンパク質濃度をBCAにより測定し、その結果を総タンパク質1mg当たりのAβ種のpgとして表す。
【0351】
表面プラズモン共鳴解析
Molecular Affinity Screening System(Sierra Sensors社、ハンブルク、ドイツ)を用いて表面プラズモン共鳴を実施した。精製抗体をセンサーチップ上に固定化した。Aβペプチドモノマー、合成Aβオリゴマーまたはプールした可溶性ヒトAD脳抽出物の調製物(100μg/ml)を表面に注入した後、解離相に移った。センサグラムを二重参照で減算した。示されるSPRの結果は、2~8回の独立した試験で反復したものである。
【0352】
免疫組織化学
新鮮な凍結AD脳切片を抗原回復クエン酸緩衝液(Target Retrieval Solution、Dako社、サンタクララ、カリフォルニア州、米国)に20分間曝露し、加湿チャンバ内で無血清タンパク質ブロッキング試薬(Dako社)と1時間インキュベートして非特異的染色をブロックした。切片を1μg/mlの一次抗体(mu301-17、hu301-17、アデュカヌマブ、バピネオズマブ、アイソタイプ対照)と4℃で一晩インキュベートし、0.1%TritonX-100(TBS-T)緩衝液を含有するトリス-緩衝生理食塩水で5分間、3回洗浄した。切片に二次HRPコンジュゲートウサギ抗ヒトIgG(0.4μg/ml;Abcam社、サンフランシスコ、カリフォルニア州、米国)またはヒツジ抗マウスIgG(1:1000希釈;GE Healthcare社、シカゴ、イリノイ州、米国)抗体を加え、1時間インキュベートした後、TBS-T緩衝液で3回洗浄した。陰性対照として、一次抗体に曝露していない切片にも二次抗体を加えた。次いで、切片にHRP酵素基質、ビアミノベジジン(biaminobezidine)(DAB)発色原試薬(Vector Laboratories社、バーリンゲーム、カリフォルニア州、米国)を加えた後、蒸留水ですすいだ。切片をヘマトキシリンQS(Vector Laboratories社、バーリンゲーム、カリフォルニア州、米国)で対比染色した。スライドを光学顕微鏡(Zeiss Axiovert 200M、Carl Zeiss Toronto社、トロント、オンタリオ州、カナダ)下で観察し、Leica DC300デジタルカメラおよびソフトウェア(Leica Microsystems Canada社、ヴォーン、オンタリオ州、カナダ)を用いて代表的な画像を取得した。示される画像は、3例の異なるAD脳で得られた結果の代表的なものである。
【0353】
中枢神経系の曝露
老齢APP/PS1(APPswe/PSEN1dE9)マウスおよび野生型(WT)の同腹子(54~71週齢)に30mg/kgのhu301-17、アデュカヌマブまたは陰性対照の溶媒(PBS)を腹腔内(i.p.)注射した。治療前ならびに第1日、第7日、第14日および第21日、ヒトIgGの循環血中レベルを評価するため血漿を採取した。血漿採取およびPBS灌流直後にマウスを屠殺した。次いで、脳を採取し、急速冷凍した。脳および血漿を使用まで-80℃で保管した。Omni組織ホモジナイザー(Omni International社、ケネソー、ジョージア州、米国)を半分の電力で30秒間、3回用いて、脳ホモジネート(10%w/v)をRIPA緩衝液で作製した。次いで、ホモジネートを半分の電力で15秒間超音波処理した後、遠心分離(2,000×g)により残屑を除去した。Human IgG Immunotek ELISA(Zeptomatrix社、バッファロー、ニューヨーク州、米国)を製造業者の指示通りに用いて、個々のマウスの血漿(1:10,000希釈)および脳ホモジネート(1:5希釈)中のヒトIgGレベルを測定した。結果を平均μg/ml(血漿)またはng/g(脳)±SEMで表す。
【0354】
結果
ヒト化301-17と他のAβに対する抗体の結合プロファイルの比較
IgG4アイソタイプ(S241Pヒンジ変異)ヒト化抗体VH2Vκ5と他の抗体とを比較した。ヒト化抗体には、SPRによる評価で合成AβO対Aβモノマーの選択的結合が保持されていたほか、凍結AD脳切片での免疫組織化学により斑との結合もみられなかった。図3に示されるように、Aβに対する抗体であり、線維に結合することがわかっているバピネオズマブおよびアデュカヌマブでは、実質のAβ斑および血管沈着物に対して強い染色が見られたが、親モノクローナル(mu301-17)およびヒト化301-17ではバックグラウンドを上回る染色は一切見られなかった。老齢トランスジェニックAPP/PS1トランスジェニックマウスの脳切片でも同じような結果が得られた。ADに関する臨床試験では、斑および血管沈着物との結合により、浮腫(ARIA-E)および微小出血(ARIA-H)によるアミロイド関連画像異常が誘発されることがわかっている。
【0355】
hu301-17の低分子量毒性Aβオリゴマー高含有可溶性AD脳抽出物との結合
AD脳抽出物中の可溶性Aβ種が複数の研究者によって検討されたことにより、神経毒性活性は主としてAβO(二量体、三量体、四量体、十二量体)の低分子量(LMW)画分中に存在し、高分子量(HMW)凝集体はLMW種に解離し得ることが報告されているものの、ほとんどが不活性であることがわかっている。このため、AD脳からプールした可溶性抽出物のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を実施した。可溶性AD脳抽出物のSEC分画により、LMW AβOを含有することが予想されるMW領域にタンパク質ピークのある再現性の高いパターンが得られた(図4a)。約8~70kDaに対応する画分を、二量体~十二量体の範囲内にあり、モノマーを含まないAβOを含有すると予想されるLMW画分にプールした。70-700kDa超に対応する画分をHMW画分にプールした。総Aβ38、Aβ40、Aβ42の測定(MSDアッセイ)により、3種ともLMW画分およびHMW画分の両方に存在し、Aβ42が主要な凝集Aβ種である(A4アッセイ)ことがわかった。
【0356】
固定化したhu301-17および他のAβに対する抗体と可溶性AD脳抽出物のLMW画分およびHMW画分との結合をSPRにより評価した。複数のAD脳に由来する異なるプール抽出物を用いた複数の別個のアッセイから得た代表的な結果を図4bに示す。hu301-17抗体は一貫して、LMW画分に対し高く優先的な結合を示した。これと比較して、アデュカヌマブおよびバピネオズマブはLMW画分対HMW画分の結合が低く無差別なものであった。
【0357】
LMW画分中にはAβタンパク質およびAβ凝集体が存在することが明らかになったが、hu301-17がこの画分に同じく存在する他のタンパク質(1つまたは複数)と結合したのではないかという可能性を排除するため、サンドイッチSPRアッセイを実施し、このアッセイでは、固定化したhu301-17によって捕捉された物質を次いで検出抗体に曝露した。アデュカヌマブは、Aβに特異的であることがわかっており、固定化したアデュカヌマブによって捕捉される物質に結合し/これを検出し、それにより陽性対照としての役割を果たすことが予想されたため、アデュカヌマブを検出抗体として選択した。図4cに示されるように、サンドイッチアッセイを用いたアデュカヌマブ検出では、hu301-17またはアデュカヌマブによって捕捉された物質に対するシグナルが得られ、それにより、hu301-17がLMW画分中のAβOと結合することが確認された。このアッセイで対照ヒトIgGによる捕捉後に観察される弱いシグナルが発生した物質は、アデュカヌマブによって検出されず、非特異的バックグラウンド結合の程度が低いことと一致していた。
【0358】
hu301-17結合の具体的な性質がSPRアッセイでさらに明らかになり、このアッセイでは、固定化したhu301-17をそのコグネイト環状ペプチドエピトープに事前に曝露することにより、のちにLMW画分と全く結合させないようにできることがわかった(図4d)。これと比較して、アデュカヌマブは異なるAβエピトープを認識するため、固定化したアデュカヌマブを環状ペプチドエピトープに事前に曝露しても、それがのちにLMW画分と結合する能力に対して何ら感知できる影響を及ぼすことはなかった。以上の結果を考え合わせると、hu301-17は、AβO対モノマーおよび斑に選択的であることに加えて、AD脳抽出物のLMW毒性オリゴマー高含有画分に対する標的化が他のAβに対する抗体より優れていることも示唆される。
【0359】
全身送達したhu301-17に対するCNS曝露
老齢野生型マウス(15~17か月齢)を用いて、hu301-17が末梢から血液脳関門(BBB)を通過して中枢神経系(CNS)に入る能力を評価し、アデュカヌマブのものと比較した。マウスに30mg/kg抗体の単回腹腔内(i.p.)注射を実施し、24時間後、血漿および灌流脳中に存在するヒトIgGのレベルをELISAにより測定した。図5に示されるように、血漿と脳で等しい量のhu301-17およびアデュカヌマブが検出され(図5a)、これまでにアデュカヌマブで報告されている[18]ように、CNSへの浸透度が約0.3%の範囲で同程度である(図5b)ことが明らかになった。予想された通り、陰性対照としてPBS単独を注射したマウスではヒトIgGが検出されなかった(図5a)。
【0360】
老齢(13~17か月齢)トランスジェニックAPP/PS1マウスおよび野生型の同腹子を用いて、hu301-17に関して動態評価をさらに実施した。30mg/kgのi.p.投与後第1日、第7日、第14日および第21日、ヒトIgGの血漿および脳中のレベルを測定した。第21日に向かって、血漿中レベルが経時的に低下しているにもかかわらず、脳では検出可能なレベルのhu301-17が依然として測定可能であった(図6a、6b)。興味深いことに、APP/PS1マウスには、経時的にhu301-17のCNSでの相対保持量が血漿よりも高くなる傾向がみられ、このことは、トランスジェニックマウスでは野生型の同腹子とは異なり、脳中に存在する標的AβOとの連動がみられることと一致していた(図6c)。以上の結果は、hu301-17のCNSへの浸透度および薬物動態特性がAβ標的に対する他のモノクローナル抗体のものに匹敵するものであることを示している。
【0361】
ここまで、現時点で好ましい例であると考えるものに関して本願を記載してきたが、本願は本開示の例に限定されないことを理解するべきである。これとは逆に、本願は、添付の請求項の趣旨および範囲に含まれる様々な改変および同等の構成を包含するものとする。
【0362】
刊行物、特許および特許出願はいずれも、個々の刊行物、特許または特許出願が具体的かつ個別にその全体が参照により組み込まれることが明記された場合と同じように、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。特に、例えば表またはその他の箇所に記載されるアクセッション番号および/またはバイオマーカー配列(例えば、タンパク質および/または核酸)を含めた本明細書に記載される各アクセッション番号に関連する配列は、その全体が参照により組み込まれる。
【0363】
請求項の範囲は、好ましい実施形態および実施例によって限定されるべきではなく、記載全体と一致する最も広い解釈がなされるべきである。
【0364】
(本明細書で参照される参考文献の列記)
【表13】
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図5-1】
図5-2】
図5-3】
【配列表】
2023086132000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-03-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】
2023086132000001.xml