(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086148
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】ワーク変形矯正装置及び工作機械
(51)【国際特許分類】
B23B 11/00 20060101AFI20230615BHJP
B23P 23/04 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
B23B11/00
B23P23/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200467
(22)【出願日】2021-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】000133593
【氏名又は名称】株式会社ツガミ
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100195648
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 悠太
(74)【代理人】
【識別番号】100175019
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 健朗
(74)【代理人】
【識別番号】100104329
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 卓治
(74)【代理人】
【識別番号】100194179
【弁理士】
【氏名又は名称】中澤 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】高安 祐平
【テーマコード(参考)】
3C045
【Fターム(参考)】
3C045BA37
(57)【要約】
【課題】ワークの変形を矯正することができるワーク変形矯正装置及び工作機械を提供する。
【解決手段】ワーク変形矯正装置は、工作機械に備えられる。工作機械は、ワークWを保持する第1主軸、第1主軸に保持されたワークWを加工するエンドミル46d1を保持するB軸旋回工具保持部45B、及びB軸旋回工具保持部45BをワークWに対して移動させる第1工具移動機構を備える。ワーク変形矯正装置は、第1主軸に保持されたワークWを押すことによりワークWの変形を矯正するプッシャ48を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを保持する主軸、前記主軸に保持された前記ワークを加工する工具を保持する工具保持部、及び前記工具保持部を前記ワークに対して移動させる移動機構を備える工作機械に備えられるワーク変形矯正装置であって、
前記主軸に保持された前記ワークを押すことにより前記ワークの変形を矯正するプッシャを備える、
ワーク変形矯正装置。
【請求項2】
前記工作機械は、前記工具保持部を支持し、前記移動機構により前記工具保持部とともに移動させられる支持台を備え、
前記プッシャは、前記支持台とともに移動可能に設けられている、
請求項1に記載のワーク変形矯正装置。
【請求項3】
前記プッシャは、前記工具保持部に保持され、
前記ワーク変形矯正装置は、
前記工具による前記ワークの加工後に、前記移動機構を介して前記プッシャを移動させ、前記プッシャにて前記ワークを予め設定された押し量だけ押すことにより加工に伴う前記ワークの変形を矯正する矯正処理を行う矯正処理部を備える、
請求項1又は2に記載のワーク変形矯正装置。
【請求項4】
前記移動機構は、前記ワークの軸方向に沿って設定される複数の範囲それぞれについて順番に加工を行い、
前記矯正処理部は、前記各加工が行われた後に、直近に加工された前記範囲を前記プッシャにて押す前記矯正処理を行う、
請求項3に記載のワーク変形矯正装置。
【請求項5】
前記移動機構は、前記主軸に保持された前記ワークに対して前記工具によりスリ割り加工を行い、
前記矯正処理部は、前記スリ割り加工の後に、前記スリ割り加工により反った状態の前記ワークを矯正する前記矯正処理を行う、
請求項3又は4に記載のワーク変形矯正装置。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1項に記載のワーク変形矯正装置と、
前記主軸と、
前記工具保持部と、
前記移動機構と、を備える、
工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワーク変形矯正装置及び工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載の工作機械は、主軸により保持されたワークを各種の工具により加工する。
また、例えば、特許文献2には、円筒状のコレットチャック本体部にスリ割りを入れることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-062705号公報
【特許文献2】特許第2887657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の構成において、主軸により保持されるワークは、種々の原因により、塑性変形が生じる。この種々の原因としては、ワークの材料自体が有する内部歪み、加工時にワークに生じる加工歪み、加工時に工具との摩擦によりワークに生じる加工熱等が挙げられる。一例としては、特許文献2に記載されるように、円筒状のワークにスリ割り加工が行われると、ワークが径方向外側に向けて反り返るように塑性変形する。このようなワークの塑性変形により、例えば、加工後のワークの形状精度が低下したり、2つの主軸間でのワークの授受が困難となったりする等の不具合が生じていた。
【0005】
本発明は、上記実状を鑑みてなされたものであり、ワークの変形を矯正することができるワーク変形矯正装置及び工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係るワーク変形矯正装置は、ワークを保持する主軸、前記主軸に保持された前記ワークを加工する工具を保持する工具保持部、及び前記工具保持部を前記ワークに対して移動させる移動機構を備える工作機械に備えられるワーク変形矯正装置であって、前記主軸に保持された前記ワークを押すことにより前記ワークの変形を矯正するプッシャを備える。
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の第2の観点に係る工作機械は、前記ワーク変形矯正装置と、前記主軸と、前記工具保持部と、前記移動機構と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ワークの変形を矯正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る工作機械の正面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る工作機械の平面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る工作機械の側面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る工作機械を部分的に拡大した平面図である。
【
図5】(a)~(f)は、本発明の一実施形態に係るワーク加工時の動作を示す概略図である。
【
図6】(a)~(f)は、本発明の一実施形態に係るワーク加工時の動作を示す概略図である。
【
図7】本発明の変形例に係る工作機械を部分的に拡大した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態に係るワーク変形矯正装置及び工作機械について、図面を参照して説明する。
図1及び
図2に示すように、旋盤である工作機械1は、工作機械1の台であるベッドSと、第1主軸11を有する第1主軸ユニット10と、第2主軸21を有する第2主軸ユニット20と、第1主軸移動機構13Zと、第2主軸移動機構25X,25Zと、第1工具移動機構42X,42Yと、第2工具移動機構27Yと、第1工具ユニット45と、第2工具ユニット26と、ガイドブッシュ18と、制御部300と、を備える。
以下では、第1主軸11及び第2主軸21の回転軸に沿う軸線方向をZ軸方向と規定し、Z軸方向に直交する高さ方向をY軸方向と規定し、Y軸方向及びZ軸方向に直交する奥行き方向をX軸方向と規定する。
【0011】
図1に示すように、第1主軸ユニット10は、ワークWを保持しつつ回転させる。具体的には、第1主軸ユニット10は、第1主軸11と、第1主軸11を回転可能に支持する第1主軸台12と、を備える。第1主軸11は、ワークWの一端を把持する。第1主軸台12には、第1主軸11を回転させるワーク回転用モータ(図示せず)が内蔵されている。
ガイドブッシュ18は、第1主軸11にZ軸方向に対向する位置に設けられ、第1主軸11により保持されたワークWを周囲から回転可能に支持する。ガイドブッシュ18は、ベッドSに固定的に設けられている。第1主軸11により保持されたワークWのうちガイドブッシュ18から第2主軸21側へ突出した部分が第1工具ユニット45により加工される。
【0012】
図2に示すように、第2主軸ユニット20は、Z軸方向においてガイドブッシュ18を介して第1主軸ユニット10と対向可能な位置に設けられ、第1主軸ユニット10から受け取ったワークWを保持しつつ回転させる。第2主軸ユニット20は、ワークWの他端を把持する第2主軸21と、第2主軸21を回転可能に支持する第2主軸台22と、ドリル保持部28と、を備える。第2主軸台22には、第2主軸21を回転させるワーク回転用モータ(図示せず)が内蔵されている。
【0013】
図4に示すように、ドリル保持部28は、複数の工具29a,29bを保持し、第2主軸台22とともに移動可能に第2主軸台22に取り付けられている。ドリル保持部28は、複数の工具29a,29bを第2主軸21のX軸方向の側方(第2工具ユニット26から遠い側方)に保持する。ドリル保持部28は、複数の工具29a,29bを、Z軸方向に沿って延び、X軸方向に並ぶように保持する。工具29aは、深穴形成用のドリルであり、第1主軸11に保持されるワークWに深穴を形成するために利用される。工具29bは、工具29aにより形成された穴を整える仕上げ用のリーマである。
【0014】
図1に示すように、第1主軸移動機構13Zは、第1主軸ユニット10をZ軸方向に移動させる。第2主軸移動機構25Zは、第2主軸ユニット20をZ軸方向に移動させる。第1工具移動機構42Yは、第1工具ユニット45をY軸方向に移動させる。
図2に示すように、第2主軸移動機構25Xは、第2主軸ユニット20を、X軸方向に移動させて、ガイドブッシュ18及び第2工具ユニット26それぞれに対向可能とする。第1工具移動機構42Xは、第1工具ユニット45をX軸方向に移動させる。第2工具移動機構27Yは、第2工具ユニット26をY軸方向に移動させる。
第1主軸移動機構13Z、第2主軸移動機構25X,25Z、第1工具移動機構42X,42Y及び第2工具移動機構27Yは、それぞれ、モータ、ボールねじ及びナット等を有する。
【0015】
図3に示すように、第1工具ユニット45は、ゲート部材45gと、工具保持部45L,45Rと、B軸旋回工具保持部45Bと、クロスドリル保持部45Cと、複数の工具46a,46b,46c,46d,46eと、プッシャ48と、を備える。
ゲート部材45gは、第1主軸11により保持されたワークWの外周を囲む枠状で形成されている。ゲート部材45gは、第1工具移動機構42X,42YによりX軸方向及びY軸方向に移動可能に構成されている。ゲート部材45gには、工具保持部45L,45R、B軸旋回工具保持部45B及びクロスドリル保持部45Cが固定されている。
【0016】
工具保持部45L,45Rは、ガイドブッシュ18により保持されたワークWをX軸方向から挟み込むように配置されている。工具保持部45Lは、X軸方向において、工具保持部45Rよりも第2工具ユニット26に近い側に位置する。
【0017】
工具保持部45Lは、複数の工具46a及びプッシャ48を保持する。各工具46aは、切削バイト等の固定工具である。プッシャ48は、ワークWの変形を矯正するために利用される。工具保持部45Lは、くし刃刃物台であり、複数の工具46a及びプッシャ48をX軸方向に沿って延び、Y軸方向に並ぶように保持する。プッシャ48は、樹脂、例えば、ナイロン、特に、MC(モノマーキャスト)ナイロンにより形成されている。プッシャ48は、例えば、工具46aと同様に角柱状で形成されている。
図4に示すように、プッシャ48は、ワークWを押す押圧面48aを有する。押圧面48aのZ軸方向の両角部は湾曲して形成されている。これにより、プッシャ48がワークWを傷つけることが抑制される。
【0018】
工具保持部45Rは、複数の工具46bを保持する。各工具46bは、切削バイト等の固定工具である。工具保持部45Rは、くし刃刃物台であり、複数の工具46aをX軸方向に沿って延び、Y軸方向に並ぶように保持する。
【0019】
クロスドリル保持部45Cは、工具保持部45Lの上方に位置し、B軸旋回工具保持部45Bに対してX軸方向に対向して位置する。クロスドリル保持部45Cは、複数の工具46cを保持する。複数の工具46cは、ドリル又はエンドミル等の工具である。クロスドリル保持部45Cは、複数の工具46cを、X軸方向に沿って延び、Y軸方向に並ぶように保持する。クロスドリル保持部45Cは、モータ等の駆動部45C1を備え、駆動部45C1の駆動力により、取り付けられた工具46cを回転させる。
【0020】
B軸旋回工具保持部45Bは、工具保持部45Rの上方に位置する。B軸旋回工具保持部45Bは、複数の工具46d,46eを保持する旋回刃物台45B1と、旋回刃物台45B1を回転軸Bを中心に旋回させるモータ等の駆動部45B2と、を備える。工具46d,46eは、ドリル又はエンドミル等の工具である。回転軸Bは、Y軸方向に沿って延びる。旋回刃物台45B1は、複数の工具46d,46eを、回転軸Bに直交する方向に延び、Y軸方向に並ぶように保持する。複数の工具46dと複数の工具46eは、互いに刃先が反対側を向くように旋回刃物台45B1に保持される。
図3に示すように、旋回刃物台45B1の旋回角度が90°であるときには、複数の工具46dの刃先はX軸方向を向く。このとき、工具46dをX軸方向からワークWに接触させて加工することができる。
また、
図1に示すように、旋回刃物台45B1の旋回角度が0°であるときには、複数の工具46d,46eの刃先はZ軸方向を向く。このとき、工具46dをZ軸方向から第1主軸11に保持されるワークWに接触させて加工することができる。また、このとき、工具46eをZ軸方向から第2主軸21に保持されるワークWに接触させて加工することができる。
図4に示すように、複数の工具46dの何れかは、後述するスリ割り加工を行うエンドミル46d1である。
【0021】
図2及び
図3に示すように、第2工具ユニット26は、第2主軸21により把持されたワークWを加工し、第2工具移動機構27YによりY軸方向に移動可能に構成される。
第2工具ユニット26は、複数の工具26aと、複数の工具26aを保持する工具保持部26bと、を備える。複数の工具26aはZ軸方向に沿って延び、X軸方向及びY軸方向に並べられている。工具26aの刃先は、Z軸方向において、第1主軸11から離れる方向を向く。第2工具ユニット26がY軸方向に移動することにより、Y軸方向に並ぶ複数の工具26aの何れかを選択的に加工に用いることができる。また、第2主軸21がX軸方向に移動することにより、X軸方向に並ぶ複数の工具26aの何れかを選択的に加工に用いることができる。
【0022】
図1及び
図2に示すように、制御部300は、第1主軸ユニット10、第2主軸ユニット20、第1主軸移動機構13Z、第2主軸移動機構25X,25Z、第1工具移動機構42X,42Y及び第2工具移動機構27Yを制御する。制御部300は、例えば、図示しないCPU(Central Processing Unit)等の処理部と、処理部による処理の手順を定義したプログラムを記憶するROM(Read Only Memory)等のメモリと、を備える。制御部300は、第1主軸11により保持されたワークWの変形を矯正する矯正処理を行う矯正処理部301を備える。プッシャ48及び矯正処理部301により、ワーク変形矯正装置が構成されている。
【0023】
次に、制御部300により実行される加工処理について説明する。制御部300は、事前に作成されたNC(Numerical Control)プログラムに従って、この加工処理を実行する。矯正処理部301による矯正処理は、NCプログラムの一部として実行される。このNCプログラムでは、ワークWを薄肉の円筒状に加工し、さらに、周方向に複数のスリ割り(スリット)を入れるように加工する。ワークWは、例えば、チタン系の材料からなり、医療製品に用いられる。
【0024】
制御部300は、外部から供給される円柱状のワークWを第1主軸11により保持し、第1主軸11とともにワークWをガイドブッシュ18により支持された状態で軸回転させる。そして、第1主軸11により保持されたワークWの端面を工具保持部45Rにより保持された工具46bである切削バイトにより加工することで、ワークWの端面のフェーシングを行う。
次に、制御部300は、旋回刃物台45B1の旋回角度を0°(
図1参照)とした状態で、第1工具移動機構42X,42Yを介して旋回刃物台45B1を移動させて、複数の工具46dの何れかのセンタ穴形成用工具にてワークWの端面にセンタ穴を形成した後、複数の工具46dの何れかの下穴形成用工具にてワークWの端面に下穴を形成する。
【0025】
そして、制御部300は、第2主軸移動機構25X,25Zを介して、
図4の矢印J1に示すように、第2主軸ユニット20とともにドリル保持部28を移動させ、ドリル保持部28に保持された工具29aの刃先をワークWの端面に対向させる。その後、制御部300は、第2主軸移動機構25Zを介して、工具29aをZ軸方向にワークW側に移動させ、ワークWに深穴を形成する。これにより、ワークWは円筒状に加工される。次に、これと同様に、制御部300は、第2主軸移動機構25X,25Zを介してドリル保持部28を移動させ、ドリル保持部28に保持された工具29bにより深穴の仕上げ加工を行う。
【0026】
そして、制御部300は、第1主軸11の回転を停止し、ワークWを保持する第1主軸11の回転角度を0°に設定する。また、旋回刃物台45B1の旋回角度を90°(
図3参照)とし、第1工具移動機構42X,42Yを介して旋回刃物台45B1を移動させ、
図5(a)に示すように、エンドミル46d1の先端をX軸方向においてワークWに向ける。
そして、本例では、制御部300は、
図5(a)~(f)及び
図6(a)~(f)に示すように、ワークWの軸方向に沿って設定される複数(本例では4つ)の加工範囲H1,H2,H3,H4それぞれについて順番にスリ割り加工を行い、矯正処理部301は、各加工範囲H1,H2,H3,H4にスリ割り加工が行われた後に、直近に加工された範囲H1,H2,H3,H4をプッシャ48にて押す矯正処理を行う。
まず、加工範囲H1への加工及び矯正について説明する。
図5(b)に示すように、エンドミル46d1を回転させつつ、ワークWをZ軸方向にエンドミル46d1に向けて送ることにより、ワークWの加工範囲H1に対してスリ割り加工を行う。このスリ割り加工により、ワークWの周方向の一箇所にスリットが入る。加工範囲H1は、ワークWの軸方向に設定される領域であり、ワークWの端面側(
図5(b)の右側)に設定される。
【0027】
次に、制御部300は、第1主軸11を180°回転させて、上記同様に、
図5(c)に示すように、ワークWの加工範囲H1に対してスリ割り加工を行う。このスリ割り加工が完了すると、
図5(d)に示すように、第1主軸11を90°回転させる。このスリ割り加工により、ワークWの周方向の180°離れた位置の二箇所にスリットが入り、ワークWが加工範囲H1において周方向に2つの部位P1,P2に分断される。この際、ワークWの加工範囲H1に塑性変形である反りが発生する。すなわち、ワークWの2つの部位P1,P2それぞれがワークWの端面に向かうにつれてワークWの中心軸から離れるように反り返っている。
【0028】
次に、矯正処理部301は、プッシャ48にてワークWの加工範囲H1を押すことによりワークWの反りを矯正する矯正処理を行う。
詳しくは、矯正処理部301は、第1工具移動機構42X,42Yを介して工具保持部45Lを移動させ、
図5(e)に示すように、プッシャ48にてワークWの部位P2をワークWの中心軸に向けて押し量だけ押す。この押し量は、反りがないワークWの外周面の位置に基づき設定される。プッシャ48がワークWを押す前に、ワークWがプッシャ48に対してZ軸方向に送られることにより、ワークWに対するプッシャ48の位置調整が行われる。本例では、プッシャ48の押圧面48aは、加工範囲H1のガイドブッシュ18側(
図5(e)の左側)の端部を押す。これにより、プッシャ48の押し量が少なくて済む。以上で、ワークWの部位P2の矯正が完了する。次に、矯正処理部301は、ワークWの部位P1を矯正するにあたって、まず、第1主軸11を180°回転させて、プッシャ48をワークWの部位P1に対向させる。そして、上述したワークWの部位P2の矯正と同様に、
図5(f)に示すように、プッシャ48にてワークWの部位P1を矯正する。以上で、加工範囲H1についての矯正処理が終了となる。
【0029】
加工範囲H1の加工及び矯正が行われた後、加工範囲H1と同様に、加工範囲H2,H3,H4について順番に加工及び矯正が行われる。具体的には、加工範囲H2の加工を行うために、
図6(a)に示すように、まず、加工範囲H2がガイドブッシュ18から突出するようにワークWがZ軸方向に送られる。そして、ワークWの加工範囲H1の一方のスリットをZ軸方向に深くするように、ワークWの加工範囲H2に対してスリ割り加工を行い、このスリ割り加工が完了すると、第1主軸11を180°回転させる。加工範囲H2は、加工範囲H1に隣接する範囲に設定されている。そして、
図6(b)に示すように、同様に、ワークWの加工範囲H1の他方のスリットを深くするように、ワークWの加工範囲H2に対してスリ割り加工を行う。これにより、加工範囲H2のスリ割り加工によってワークWが反る。そこで、
図6(c)に示すように、ワークWの部位P2をプッシャ48にて押すことにより部位P2の反りを矯正し、
図6(d)に示すように、ワークWの部位P1をプッシャ48にて押すことにより部位P1の反りを矯正する。
次に、加工範囲H1,H2と同様に、加工範囲H3に対してスリ割り加工が行われる。具体的には、加工範囲H3の加工を行うために、
図6(e)に示すように、加工範囲H3がガイドブッシュ18から突出するようにワークWがZ軸方向に送られる。そして、ワークWの加工範囲H3の両側に対して順番にスリ割り加工を行った後、ワークWの部位P2,P1の両方を順番にプッシャ48にて押すことによりワークWの反りが矯正される。
そして、加工範囲H1,H2,H3と同様に、加工範囲H4に対してスリ割り加工が行われる。具体的には、加工範囲H4の加工を行うために、
図6(f)に示すように、加工範囲H4がガイドブッシュ18から突出するようにワークWがZ軸方向に送られる。そして、ワークWの加工範囲H4の両側に対して順番にスリ割り加工を行った後、ワークWの部位P2,P1の両方を順番にプッシャ48にて押すことによりワークWの反りが矯正される。
以上で、加工範囲H1,H2,H3,H4の加工及び矯正が完了する。
【0030】
加工範囲H1,H2,H3,H4の加工及び矯正が完了すると、制御部300は、第2主軸21が第1主軸11に対向するように、第2主軸移動機構25X,25Zを介して第2主軸ユニット20をX軸方向及びZ軸方向に移動させる。そして、制御部300は、ワークWを第1主軸11から第2主軸21に受け渡す。この際、ワークWが矯正されているため、確実にワークWの受け渡しが可能となる。具体的には、制御部300は、ワークWが第1主軸11と第2主軸21により保持されつつ回転させられた状態で、工具保持部45Lの工具46aである突切りバイトによりワークWを切断する。これにより、第2主軸21が切り落とされた2つのスリットが入った円筒状のワークWを保持可能となる。
【0031】
次に、制御部300は、第2主軸21により保持されたワークWを、第2工具ユニット26又は旋回刃物台45B1に保持された工具46eを利用しつつ加工を行う。この加工が完了すると、制御部300は、ワークWを第2主軸21から図示しないワークセパレータに排出する。
以上で、加工処理が終了する。この加工処理は、ワークWの加工毎に行われる。
【0032】
(効果)
以上、説明した一実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)ワーク変形矯正装置は、工作機械1に備えられる。工作機械1は、ワークWを保持する主軸の一例である第1主軸11、第1主軸11に保持されたワークWを加工する工具の一例であるエンドミル46d1を保持する工具保持部の一例であるB軸旋回工具保持部45B、及びB軸旋回工具保持部45BをワークWに対して移動させる移動機構の一例である第1工具移動機構42X,42Yを備える。ワーク変形矯正装置は、エンドミル46d1によるワークWの加工後に、第1主軸11に保持されたワークWを押すことによりワークWの変形を矯正するプッシャ48を備える。
この構成によれば、プッシャ48により、上述した種々の原因により生じるワークWの変形を矯正できる。これにより、ワークWの形状精度を高めことができる。また、第1主軸11と第2主軸21の間でのワークWの授受がスムーズとなる。特に、第1主軸11と第2主軸21の間でワークWを保持した状態での突切り加工を確実に行うことができる。
【0033】
(2)工作機械1は、B軸旋回工具保持部45Bを支持し、第1工具移動機構42X,42YによりB軸旋回工具保持部45Bとともに移動させられる支持台の一例であるゲート部材45gを備える。プッシャ48は、ゲート部材45gとともに移動可能に設けられている。
この構成によれば、プッシャ48の移動は、第1工具移動機構42X,42Yが利用されるため、プッシャ48独自の移動機構が不要であり、簡易な構成を実現できる。また、コストも低減することができる。
【0034】
(3)プッシャ48は、工具保持部45Lに保持される。ワーク変形矯正装置は、エンドミル46d1によるワークWの加工後に、第1工具移動機構42X,42Yを介してプッシャ48を移動させ、プッシャ48にてワークWを予め設定された押し量だけ押すことにより加工に伴うワークWの変形を矯正する矯正処理を行う矯正処理部301を備える。
この構成によれば、機械的な構成としては、プッシャ48を工具保持部45Lに取り付けるだけでよいため、設置作業が簡単で、既存の工作機械にワーク変形矯正装置を後付けすることが容易である。
また、上記同様に、プッシャ48独自の移動機構が不要であり、簡易な構成とコストの低減を実現できる。
さらに、プッシャ48の押し量の設定も、第1工具移動機構42X,42Yでの移動量を設定することで、簡単、かつ自由に行うことができる。
【0035】
(4)第1工具移動機構42X,42Yは、ワークWの軸方向に沿って設定される複数の加工範囲H1,H2,H3,H4それぞれについて順番に加工(例えば、スリ割り加工)を行う。矯正処理部301は、各回の加工が行われた後に、直近に加工された範囲H1,H2,H3,H4をプッシャ48にて押す矯正処理を行う。
この構成によれば、ワークWの加工を行う範囲が長い場合でも、より精度の高いワークWの加工及び矯正が可能となる。
【0036】
(5)第1工具移動機構42X,42Yは、第1主軸11に保持されたワークWに対してエンドミル46d1によりスリ割り加工を行う。矯正処理部301は、スリ割り加工の後に、スリ割り加工により反った状態のワークWを矯正する矯正処理を行う。
この構成によれば、ワークWが矯正されるため、ワークWが大きく変形しやすいワークWへのスリ割り加工を加工工程に含ませることが可能となる。
【0037】
(6)工作機械1は、ワーク変形矯正装置と、第1主軸11と、B軸旋回工具保持部45Bと、第1工具移動機構42X,42Yと、を備える。
この構成によれば、工作機械1での加工工程に、ワーク変形矯正装置によるワークWの矯正処理を入れることが可能となる。よって、工作機械1単体で、ワークWの全加工工程を行うことができる。
【0038】
なお、本開示は以上の実施形態及び図面によって限定されるものではない。本開示の要旨を変更しない範囲で、適宜、変更(構成要素の削除も含む)を加えることが可能である。以下に、変形の一例を説明する。
【0039】
(変形例)
上記実施形態においては、ワークWの4つの加工範囲H1,H2,H3,H4について順番に加工及び矯正が行われていたが、加工範囲の数は4つに限らず、3つ以下又は5つ以上であってもよい。例えば、ワークWが長くなるほど、加工範囲の数は多く設定されることが好ましい。また、加工によりワークWが変形しやすい材質又は形状である場合には、加工範囲の長さは短く設定されることが好ましい。
また、上記実施形態においては、各加工範囲H1,H2,H3,H4の長さは、互いに同一に設定されていたが、これに限らず、互いに異なるように設定されていてもよい。
【0040】
上記実施形態においては、プッシャ48は、樹脂により形成されていたが、樹脂以外の金属、ゴム等により形成されていてもよい。また、プッシャ48の本体部が金属で形成され、押圧面48aを含む部位のみ樹脂又はゴム等により形成されていてもよい。
上記実施形態においては、ワークWの周方向の180°離れた位置の二箇所にスリットが入れられていたが、スリットの数及び位置は適宜変更可能である。
【0041】
上記実施形態においては、B軸旋回工具保持部45Bは、旋回刃物台45B1を回転軸Bを中心に旋回可能に構成されていたが、これに限らず、旋回不能にゲート部材45gに固定されていてもよい。
【0042】
上記実施形態においては、プッシャ48は、工具保持部45Lに保持されていたが、ゲート部材45gとともに移動可能であれば、これに限らず、B軸旋回工具保持部45B、クロスドリル保持部45C又は工具保持部45Rに保持されていてもよい。また、プッシャ48は、ゲート部材45gに取り付けられていてもよい。
また、上記実施形態においては、プッシャ48及びエンドミル46d1は、X軸方向において第1主軸11を中心に互いに反対側に配置されていたが、配置位置はこれに限らない。例えば、プッシャ48及びエンドミル46d1の何れも、X軸方向において第1主軸11の片側に配置されていてもよい。
【0043】
上記実施形態におけるプッシャ48の形状は適宜変更可能である。例えば、プッシャ48は、円柱状、円錐状又は角錐状等で形成されてもよい。また、プッシャ48の押圧面48aは、ワークWの外周面に沿った湾曲凹状に形成されてもよい。
【0044】
上記実施形態の矯正処理において、プッシャ48がワークWを押す位置は、適宜変更可能である。例えば、ワークWの加工範囲H1におけるガイドブッシュ18から遠い側をプッシャ48が押してもよいし、Z軸方向における加工範囲H1の中央部をプッシャ48が押してもよい。
【0045】
上記実施形態においては、円筒状のワークWにスリ割り加工が行われることで、ワークWが反るように変形していたが、ワークWの変形は、これに限らず、その他の要因により生じるものであってもよい。例えば、第1主軸11により保持された棒状のワークへの加工圧、加工熱又は内部歪みによりワークWが変形し、この変形が矯正されてもよい。
【0046】
上記実施形態においては、工具保持部45L,45R、B軸旋回工具保持部45B及びクロスドリル保持部45Cは、第1工具移動機構42X,42Yにより一体的に移動可能に構成されていたが、X軸方向の一方側(
図3の左側)に位置する工具保持部45L及びクロスドリル保持部45CとX軸方向の他方側(
図3の右側)に位置する工具保持部45R及びB軸旋回工具保持部45Bは、互いに独立してX軸方向及びY軸方向に移動可能に構成されてもよい。この変形例において、エンドミル46d1とプッシャ48を互いに直交する向き、例えば、
図7に示すように、プッシャ48をX軸方向に向けて、エンドミル46d1をY軸方向に向けてもよい。これにより、ワークWのスリ割り加工の後、第1主軸11を回転させることなく、プッシャ48にてワークWを押すことができる。また、スリ割り加工とワークWの矯正を同時に行うことが可能となる。まとめると、上記実施形態においてはスリ割り加工、第1主軸11の回転及びプッシャ48によるワークWの押圧からなる3つの工程を、この変形例では1工程として実行することができる。
さらに、工具保持部45L,45R、B軸旋回工具保持部45B及びクロスドリル保持部45Cは、Z軸方向に移動可能に構成されてもよい。この場合、第1主軸ユニット10がZ軸方向に移動不能に構成されてもよい。
【0047】
上記実施形態においては、プッシャ48は、工具保持部45Lに保持されており、第1工具移動機構42X,42Yにより工具46a,46b,46c,46d,46eとともに移動可能であったが、独立した移動機構により移動可能に構成されてもよい。これにより、スリ割り加工とワークWの矯正を同時に行うことが可能となる。
【0048】
上記実施形態におけるプッシャ48にてワークWを押すタイミングは適宜変更可能である。例えば、スリ割り加工により、ワークWの周方向の一箇所にスリットを入れた後に、第1主軸11を90°回転させた後、プッシャ48にてワークWが押されてもよい。また、ワークWの加工前に、プッシャ48にてワークWが押されてもよい。
また、プッシャ48がワークWの反り部分に当たるように、ワークWをZ軸方向に移動させてからプッシャ48にてワークWを押してもよい。
さらに、上記実施形態におけるガイドブッシュ18は省略可能である。
また、工具保持部45L,45R、B軸旋回工具保持部45B及びクロスドリル保持部45Cのうちプッシャ48又はエンドミル46d1が取り付けられていない構成は省略してもよい。すなわち、上記実施形態では、工具保持部45R及びクロスドリル保持部45Cは省略可能である。
また、上記実施形態における第2主軸ユニット20、第2工具移動機構27Y及び第2工具ユニット26は省略してもよい。
【符号の説明】
【0049】
1…工作機械、10…第1主軸ユニット、11…第1主軸、12…第1主軸台、13Z…第1主軸移動機構、18…ガイドブッシュ、20…第2主軸ユニット、21…第2主軸、22…第2主軸台、25X,25Z…第2主軸移動機構、26…第2工具ユニット、26a,29a,29b,46a,46b,46c,46d,46e…工具、26b,45L,45R…工具保持部、27Y…第2工具移動機構、28…ドリル保持部、42X,42Y…第1工具移動機構、45…第1工具ユニット、45B…B軸旋回工具保持部、45C…クロスドリル保持部、45B1…旋回刃物台、45C1,45B2…駆動部、45g…ゲート部材、46d1…エンドミル、48…プッシャ、48a…押圧面、300…制御部、301…矯正処理部、B…回転軸、H1,H2,H3,H4…加工範囲、P1,P2…部位、S…ベッド、W…ワーク