(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086161
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】ゴルフクラブヘッド
(51)【国際特許分類】
A63B 53/04 20150101AFI20230615BHJP
A63B 102/32 20150101ALN20230615BHJP
【FI】
A63B53/04 A
A63B102:32
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200497
(22)【出願日】2021-12-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】522093694
【氏名又は名称】ホンマホールディングスグループリミテッド
【氏名又は名称原語表記】HONMA HOLDINGS GROUP LIMITED
【住所又は居所原語表記】LEVEL 54, HOPEWELL CENTRE, 183 QUEEN’S ROAD EAST, HONG KONG
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 大輔
【テーマコード(参考)】
2C002
【Fターム(参考)】
2C002AA02
2C002CH02
2C002MM02
2C002MM04
2C002MM07
(57)【要約】
【課題】耐久性をもって反発係数を増大させることができるゴルフクラブヘッドの製造を容易にすること。
【解決手段】ゴルフクラブヘッド11は、中空構造を有する金属製のヘッド外殻21に各種のパーツを接合させて構成されている。ヘッド外殻21は、フェースにソール52を連続させた領域を有しており、フェースとソール52との間にリーディングエッジ55を形成している。ヘッド外殻21のソール52の部分には、フェースでボールをヒットした際に飛球線方向TDに撓む凹状のスロット81がリーディングエッジ55に沿って設けられており、スロット81内に貼り付けられた繊維強化プラスチックの補強部材82は、スロット81の撓みに対して抵抗を付与する。スロット81は、例えば0.8~1.3mm程度の肉厚で、放物線をなす断面形状を有している。補強部材82の肉厚は、スロット81の飛球線方向TDの幅の10~20%程度である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェースにソールを連続させて設けた金属製のヘッド外殻と、
リーディングエッジに沿って前記ソールに設けられ、前記フェースでボールをヒットした際に飛球線方向に撓む断面凹形状のスロットと、
前記スロット内に貼り付けられ、前記スロットの撓みに対して抵抗を付与する繊維強化プラスチックの補強部材と、
を備えるゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
前記スロットは、ヒールとトゥとを結ぶ方向に長い溝形状を有している、
請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
前記補強部材は、ヒールとトゥとを結ぶ方向に長い形状を有している、
請求項2に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
前記補強部材は、前記スロットの断面形状に沿う断面凹形状を有している、
請求項3に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
前記ソールは、前記リーディングエッジに沿って設けられて前記スロットを配置する窪みを有している、
請求項1ないし4のいずれか一に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
前記補強部材は、前記窪みにまで回り込んで設けられている、
請求項5に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項7】
前記ソールは、前記リーディングエッジに沿って設けられて前記スロットを配置する窪みを有し、
前記補強部材は、前記窪みにまで回り込んで設けられている、
請求項4に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項8】
前記スロットの肉厚は、0.8~1.3mmである、
請求項1ないし7のいずれか一に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項9】
前記スロットは、放物線をなす断面凹形状を有している、
請求項1ないし8のいずれか一に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項10】
前記補強部材の肉厚は、前記スロットの飛球線方向の幅の10~20%である、
請求項1ないし9のいずれか一に記載のゴルフクラブヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ゴルフクラブヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
スキルレベルを問わず、ゴルファーにとって飛距離アップは永遠の課題である。他の番手とは違い、特にドライバーの飛距離性能の向上は常に期待され続けている。
【0003】
飛距離性能の向上には各種の要因が絡んでいる。その代表的な要因の一つに、クラブヘッドの反発性能がある。反発性能の高さは、飛距離性能に密接に関係する。そこでより高い飛距離性能が得られるように、ボールをヒットするフェースの反発係数を高める工夫が従来からなされている。
【0004】
フェースの反発係数を高めるためによく採用されるのは、フェース周縁部の肉厚を薄くするという手法である(例えば特許文献1の段落[0004][0009]等参照)。フェース周縁部の肉厚を薄くすることによってフェースにトランポリン効果が発生し、ボールに対する反発係数が増大する。
【0005】
その一方、フェースに設けた薄肉領域の部分では強度が低下するため、限りなく薄肉化ができるわけではない。そこで部分的にかかる応力を分散させるため、フェース全体を均一に薄肉化したり、フェースを部分的に肉薄にしたりするといった工夫もなされている。しかしながらフェースの強度を低下させるという点では、特許文献1に記載されたフェースの薄肉化手法と変わるところがない。
【0006】
特許文献2には、フェースの肉厚を変えることなく反発係数を増大させる構成例が紹介されている。クラブヘッドのクラウン、ヒール、ソール及びトゥのうち少なくとも二つの部分に繊維強化プラスチック等を用いるという手法である。より詳しくは、クラウン及びソールにおけるフェースの端に沿った領域、あるいはヒール及びトゥにおけるフェースの端に沿った領域に切欠き部を設けておき、この切欠き部を繊維強化プラスチック等からなる閉塞部材で閉塞している(段落[0018]参照)。前者の領域については、明細書中の段落[0016][0017]、
図1(a)-(c)を参照のこと。後者の領域については、明細書中の段落[0022]、
図3(a)(b)を参照のこと。
【0007】
特許文献2は、繊維強化プラスチック等を設けた「部分における曲げ剛性をフェース部における曲げ剛性に比べて低下させることができ、ゴルフボールのインパクト時のフェース部の変形を大きくし、これによって、打ち出されるゴルフボールの反発係数を高めゴルフボールの飛距離を増大させることができる」と述べている(段落[0009]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10-155943号公報
【特許文献2】特開2005-137940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2に記載された構造を実施する場合、切欠き部はゴルフクラブヘッドの肉厚部を貫通する孔であるため、繊維強化プラスチック等からなる閉塞部材で完全に閉塞する必要がある。しかも外部から閉塞部材の存在をわからなくする必要から、クラブヘッドの外表部に対して閉塞部材を段差や継ぎ目なく接合し、塗装で仕上げなければならない。製造が繁雑である。
【0010】
しかもボールをヒットしたときの衝撃が伝わったとしても、クラブヘッドと閉塞部材との間の塗装にクラックが入ったりしないような耐久性も求められることから、製造上の難易度が高くなってしまう。
【0011】
耐久性をもって反発係数を増大させることができるゴルフクラブヘッドでは、製造の容易化が課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ゴルフクラブヘッドの一態様は、フェースにソールを連続させて設けた金属製のヘッド外殻と、リーディングエッジに沿って前記ソールに設けられ、前記フェースでボールをヒットした際に飛球線方向に撓む凹状のスロットと、前記スロット内に貼り付けられ、前記スロットの撓みに対して抵抗を付与する繊維強化プラスチックの補強部材と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、耐久性をもって反発係数を増大させることができるゴルフクラブヘッドにあって、製造を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の一形態を示すクラウン側から見たゴルフクラブヘッドの斜視図。
【
図2】ソール側から見たゴルフクラブヘッドの斜視図。
【
図5】ソール側から見たゴルフクラブヘッドの分割斜視図。
【
図7】外殻部材の内部側から見たスロット及び補強部材の断面図。
【
図8】外殻部材の外側から見たスロット及び補強部材の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の一形態を図面に基づいて説明する。本実施の形態は、中空構造をなす金属製のゴルフクラブヘッド11(以下、「クラブヘッド11」とも略称する)への適用例である。つぎの項目に沿って説明する。
1.構成
(1)基本構造
(2)スロットと補強部材
2.作用効果
(1)反発性能の向上
(2)SLEルールへの適合
(3)スロットの強度の向上
(4)衝撃減衰作用
(5)クラブ性能の調整機能
(6)補強部材の固定強度
3.変形例
【0016】
1.構成
(1)基本構造
図1ないし
図5に示すように、クラブヘッド11は、中空構造をなすヘッド外殻21を主体に構成されている。ヘッド外殻21は、図示しないボールの打球面であるフェース31を側面に備え、図示しないシャフトとの連結部分であるホーゼル41を上面端部に備えている。ホーゼル41に差し込まれて固定されたシャフトを握ったとき、フェース31はプレーヤーから見てヘッド外殻21の左側に位置し、飛球線方向TD(
図1、
図2参照)に対してほぼ直角をなすように配置される。飛球線方向TDとフェース31との間の角度は、設定されるフェース角によって定められる。
【0017】
ヘッド外殻21の材料としては、各種の金属を用いることができる。なかでも比強度の大きなチタン合金、アルミ合金、またはマグネシウム合金などを用いることが好ましい。
【0018】
ゴルフクラブを構えたプレーヤーから見て正面に見えるクラウン51にはクラウン部材71が設けられており(
図1参照)、クラウン51の裏面側のソール52にはソール部材72が設けられている(
図2参照)。これらのクラウン部材71及びソール部材72は、ヒール53からトゥ54にかけて設けられている。
【0019】
図3ないし
図5に示すように、本実施の形態のヘッド外殻21は、クラウン51の部分に上部開口22、ソール52の部分に下部開口23を設けている。下部開口23は、ヒール53の側とトゥ54の側とに二分割されている。これらの上部開口22及び下部開口23を介して視認できるように、ヘッド外殻21の内部空間24は中空になっている。
【0020】
図5中、上部開口22から離脱させた状態で示しているクラウン部材71は、ヘッド外殻21に固定されて上部開口22を塞ぎ、クラウン51を構成している。下部開口23から離脱させた状態で示しているソール部材72は、ヘッド外殻21に固定されて上部開口22を塞ぎ、ソール52を構成している。これらのクラウン部材71及びソール部材72は、炭素繊維強化プラスチックを含む材料によって形成されており、中空となった内部空間24を閉鎖する。
【0021】
図5中、ソール52の後方に取り付けられるのは、重心荷重用のウエイト91である。このウエイト91は、ソール52の後方に設けた装着部にボルトによって着脱することができ、重量を変えることによって重心荷重の可変を可能にする。
【0022】
図3に示すように、ヘッド外殻21は、上部開口22の周囲に段部22aを備え、ここを一段低くなった領域としている。段部22aは、クラウン部材71と嵌り合う形状を有しており、クラウン部材71が嵌まり込んだとき、その上面とヘッド外殻21とを段差を生じさせることなく連絡させる。ヘッド外殻21とクラウン部材71とは、例えば接着剤によって接着固定されている。
【0023】
図4及び
図5に示すように、ヘッド外殻21は、下部開口23の周囲にも段部23aを備え、ここを一段低くなった領域としている。段部23aは、ソール部材72と嵌り合う形状を有しており、ソール部材72が嵌まり込んだとき、その下面とヘッド外殻21とを段差を生じさせることなく連絡させる。ヘッド外殻21とソール部材72とは、例えば接着剤によって接着固定されている。
【0024】
ヘッド外殻21は、フェース31とソール52との間の領域をリーディングエッジ55としており(
図2参照)、内部には、リーディングエッジ55の近傍に位置させて、ヒール53側にシャフト用の第1ボス56を設け、トゥ54側にウエイト装着用の第2ボス57を設けている(
図3参照)。
【0025】
第1ボス56は、図示しないシャフトを挿入するためのシャフト孔58を貫通させている。シャフト孔58はソール52まで貫通し、ソール52の側からシャフトの着脱作業を支援する。
【0026】
第2ボス57は、ソール52に露出する図示しないボルト孔を設けている。このボルト孔には、トゥ54側に取り付けるトゥウエイト92がねじ込まれて固定されている。
【0027】
(2)スロットと補強部材
本実施の形態のクラブヘッド11は、ソール52に設けられた凹状のスロット81を有しており、このスロット81に補強部材82を接着剤によって固定している。
【0028】
スロット81は、リーディングエッジ55に沿って設けられており(
図2参照)、ヒール53とトゥ54とを結ぶ方向に長い溝形状を有している。ヘッド外殻21の内部では、二つのボス56,57の間を掛け渡すように配置されている(
図3及び
図4参照)。
【0029】
ヘッド外殻21のソール52には、リーディングエッジ55に沿って窪み59が形成されている。この窪み59は、ヒール53側にはシャフト孔58の貫通領域Aを提供し、トゥ54側にはトゥウエイト92を装着するため装着領域Bを提供している。スロット81が配置されているのは、ヒール53側の貫通領域Aとトゥ54側の装着領域Bとの間をつなぐ配置領域Cである。配置領域Cは、貫通領域A及び装着領域Bよりも浅く、かつ飛球線方向TD方向の幅が幅広に形成されている(
図2及び
図4参照)。配置領域Cに配置されたスロット81は、放物線をなす断面形状を有している。
【0030】
補強部材82は、中央部分がスロット81に嵌り込み、両側部分が窪み59に嵌り合う板状の部材であり、ヒール53とトゥ54とを結ぶ方向に長い形状を有している。説明の便宜上、スロット81に嵌り込む部分を屈曲部83、窪み59に嵌り合う部分を両側部84と呼ぶ。このような補強部材82は、炭素繊維樹脂や金属繊維樹脂などを材料として成形された繊維強化プラスチックである。例えば炭素繊維や金属繊維を並べたり、あるいは織り込んだりした生地に熱硬化性樹脂を含浸させ、スロット81と窪み59とに嵌り合うように形状を整えることで、補強部材82を得ることができる。
【0031】
スロット81は、ヘッド外殻21の他の部分よりも肉厚が薄く形成されている。スロット81の肉厚は、例えば0.8~1.3mmである。
【0032】
補強部材82の肉厚は、スロット81の溝幅(飛球線方向TDの溝幅)に対する比率で決定される。具体的な数値としては、スロット81の溝幅に対して10~20%程度の寸法に設定されている。例えばスロット81の溝幅が7~8mmであるとすると、補強部材82の肉厚は0.8~1.5mm程度に定められる。
【0033】
2.作用効果
このような構成において、本実施の形態のゴルフクラブヘッドは、つぎのような各種の作用効果を発揮する。
【0034】
(1)反発性能の向上
本実施の形態のクラブヘッド11は、ゴルフボールに対する反発性能を向上させ、飛距離アップに貢献する。
【0035】
反発性能の向上は、スロット81を設けたことによって得られる作用効果である。フェース31でボールをヒットした際、スロット81は飛球線方向TDに撓むため、フェース31にトランポリン効果を生じさせ、その結果反発性能を高めることに貢献する。
【0036】
反発性能の向上には、補強部材82のばね作用も貢献している。スロット81が飛球線方向TDに撓むと、補強部材82も飛球線方向TDに撓み、その復元力によってばね作用が生ずる。このばね作用が反発性能を向上させる一助となる。このような補強部材82のばね作用は、補強部材82の肉厚をスロット81の溝幅(飛球線方向TDの溝幅)の10~20%程度の寸法に設定することで、有効に発生する。
【0037】
(2)SLEルールへの適合
ゴルフクラブヘッドの反発係数(COR:Coefficient of Restitution)については、全英ゴルフ協会(R&A)及び全米ゴルフ協会(USGA)によってSLEルールが規定され、CORは0.822に許容範囲0.008を加えた0.830以内であることが求められている。
【0038】
その一方で、CORテストを行なうには指定されたボールを使用し、クラブヘッドとのインパクト前後で発生する速度比を測定しなければならず、テスト時に高い精度が求められる。すべてを精密に測定するには時間も労力もかかり、しかも100%の再現性があるわけではない。そこで生まれたのがCTテストである。CT(Characteristic time)値は、ペンデュラムをフェースの上に落とした際の接地時間で、簡単かつ正確に測定値を得ることが可能である。CT値の限度は239μsである。これに許容範囲の18μsを加えた257μsまでの製品がSLEルールの適合品となる。
【0039】
製品開発に際しては、CORと同一視できると考えられる初速を高める構造を確立し、仕上げとしてCT値を高めつつ調整していこうというプロセスの採用がオーソドックスである。本実施の形態に当てはめると、概ねではあるが、ソール52にスロット81を設けて薄肉化することが初速を高める構造の確立に相当し、スロット81の薄肉化及び肉厚調整がCT値を高めつつ調整していくプロセスに相当する。このときスロット81の肉厚を薄くすればするほどトランポリン効果が増し、初速もCT値も共に上昇する。
【0040】
もっともスロット81の肉厚を薄くしすぎると強度が低下し、破損に至ってしまう。破損に至らない肉厚の下限値が0.8mmである。これが0.8mmの臨界的意義である。
【0041】
その一方でスロット81の肉厚が1.3mmを超えると、初速の上昇作用が鈍りだす。スロット81の肉厚は、1.3mm以下であることが望ましい。これが1.3mmの臨界的意義である。
【0042】
ではスロット81は、常に肉厚0.8mmであることが望ましいのかと問われると、そうともいえない。CT値が上限目標である239μsを超えてしまう場合があるからである。
【0043】
この点本実施の形態によれば、スロット81の薄肉化は初速(COR)及びCT値を上昇させる方向に作用するのに対して、補強部材82はCT値の上昇を抑制する方向に作用する一方でCORには大きな影響を与えない。つまりスロット81に補強部材82を貼り付けたという構成は、SLEルールに適合させ得るようにCT値の上昇を抑えながら、初速(COR)を高めることを可能にしている。
【0044】
より詳しくは、スロット81を薄肉化することによって初速(COR)が上がり、CT値も上昇する。このとき補強部材82はCT値の上昇を抑制するため、補強部材82が設けられていない場合と比較してスロット81の一層の薄肉化を可能にする。これに応じて初速も高めることができる。このとき懸念されるのは、CORが目標値である0.822を超えてしまわないかということであろう。ところがその心配はない。スロット81の薄肉化によってCORも上昇するが、その上昇率はCT値ほど高くないからである。
【0045】
以上説明したように、本実施の形態のクラブヘッド11によれば、CT値の上昇を抑制してSLEルールに適合させながら初速性能を向上させ、より一層の飛距離アップを図ることができる。
【0046】
(3)スロットの強度の向上
繊維強化プラスチックの補強部材82を貼り付けることによって、スロット81の強度を補強することができる。その結果スロット81を薄肉化したとても、耐久性を維持することが可能である。
スロット81の強度の向上は、放物線をなす断面形状、つまり角のない曲面形状にスロット81を設けることによっても実現可能である。スロット81には角の部分からクラックが発生するため、角をなくすことによってクラックを発生しにくくすることができるからである。
【0047】
(4)衝撃減衰作用
繊維強化プラスチックの補強部材82をスロット81内に貼り付けることによって、衝撃減衰作用を得ることができる。これによってボールをヒットしたときのフェース31への負担が軽減されるため、この面からもフェース31の薄肉化が可能になる。
【0048】
また補強部材82による衝撃減衰作用は、クラブヘッド11の挙動を安定させるという効果をも生じさせる。フェース31面上で打点がスイートスポットを外れた場合、クラブヘッド11の挙動が不安定になるのに対して、衝撃減衰作用が働くと、不安定さの程度が緩和されるからである。その結果ボールの打ち出し性能(打ち出し角、スピン量)を安定させることができる。
【0049】
(5)クラブ性能の調整機能
ばね作用を生ずる範囲で補強部材82の厚みを変更すれば、スロット81の撓み量が変わり、クラブ性能を調整することができる。個々のプレーヤーのヘッドスピードに適合するようにクラブ性能を調整すれば、様々なヘッドスピードを持つプレーヤーに合わせて打ち出し性能(打ち出し角、スピン量)を調整することができ、個々人に最適なクラブ選択の幅を提供することが可能になる。
【0050】
(6)補強部材の固定強度
補強部材82は、窪み59にまで回り込んで接着固定されている。これによって補強部材82の固定強度を高めることが可能である。
【0051】
3.変形例
実施に際しては、各種の変形や変更が可能である。
【0052】
例えば上記実施の形態では、スロット81を窪み59内に設けた構成例を例示したが、窪み59は必ず設けなければならないわけではない。ソール52の面に直接スロット81を設けてもよい。
【0053】
あるいは窪み59が設けられていてもいなくても、補強部材82はスロット81内に貼り付けられていればよく、両側部84は必ずしも必須ではない。
【0054】
スロット81や補強部材82の肉厚等に関する上記数値は例示であり、これらの数値範囲はいかなる限定をも与えるものではない。
【0055】
その他、あらゆる変更や変形が許容される。
【符号の説明】
【0056】
11 ゴルフクラブヘッド
21 ヘッド外殻
22 上部開口
22a 段部
23 下部開口
23a 段部
24 内部空間
31 フェース
41 ホーゼル
51 クラウン
52 ソール
53 ヒール
54 トゥ
55 リーディングエッジ
56 第1ボス
57 第2ボス
58 シャフト孔
59 窪み
71 クラウン部材
72 ソール部材
81 スロット
82 補強部材
83 屈曲部
84 両側部
91 ウエイト
92 トゥウエイト
A 貫通領域
B 装着領域
C 配置領域
TD 飛球線方向
【手続補正書】
【提出日】2022-10-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0020
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0020】
図5中、上部開口22から離脱させた状態で示しているクラウン部材71は、ヘッド外殻21に固定されて上部開口22を塞ぎ、クラウン51を構成している。下部開口23から離脱させた状態で示しているソール部材72は、ヘッド外殻21に固定されて
下部開口23を塞ぎ、ソール52を構成している。これらのクラウン部材71及びソール部材72は、炭素繊維強化プラスチックを含む材料によって形成されており、中空となった内部空間24を閉鎖する。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0029
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0029】
ヘッド外殻21のソール52には、リーディングエッジ55に沿って窪み59が形成されている。この窪み59は、ヒール53側にはシャフト孔58の貫通領域Aを提供し、トゥ54側にはトゥウエイト92を装着するため装着領域Bを提供している。スロット81が配置されているのは、ヒール53側の貫通領域Aとトゥ54側の装着領域Bとの間をつなぐ配置領域Cである。配置領域Cは、貫通領域A及び装着領域Bよりも浅く、かつ飛球線方向
TDの幅が幅広に形成されている(
図2及び
図4参照)。配置領域Cに配置されたスロット81は、放物線をなす断面形状を有している。
【手続補正3】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正書】
【提出日】2023-04-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェースにソールを連続させて設けた金属製のヘッド外殻と、
リーディングエッジに沿って前記ソールに設けられ、前記フェースでボールをヒットした際に飛球線方向に撓む断面凹形状のスロットと、
前記スロット内に貼り付けられ、前記スロットの撓みに対して抵抗を付与してCT値の上昇を抑制する繊維強化プラスチックの補強部材と、
を備え、
前記スロットは、放物線をなす断面凹形状を有している、ゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
前記スロットは、ヒールとトゥとを結ぶ方向に長い溝形状を有している、
請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
前記補強部材は、ヒールとトゥとを結ぶ方向に長い形状を有している、
請求項2に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
前記補強部材は、前記スロットの断面形状に沿う断面凹形状を有している、
請求項3に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
前記ソールは、前記リーディングエッジに沿って設けられて前記スロットを配置する窪みを有している、
請求項1ないし4のいずれか一に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
前記補強部材は、前記窪みにまで回り込んで設けられている、
請求項5に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項7】
前記ソールは、前記リーディングエッジに沿って設けられて前記スロットを配置する窪みを有し、
前記補強部材は、前記窪みにまで回り込んで設けられている、
請求項4に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項8】
前記スロットの肉厚は、0.8~1.3mmである、
請求項1ないし7のいずれか一に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項9】
前記補強部材の肉厚は、前記スロットの飛球線方向の幅の10~20%である、
請求項1ないし8のいずれか一に記載のゴルフクラブヘッド。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
ゴルフクラブヘッドの一態様は、フェースにソールを連続させて設けた金属製のヘッド外殻と、リーディングエッジに沿って前記ソールに設けられ、前記フェースでボールをヒットした際に飛球線方向に撓む断面凹形状のスロットと、前記スロット内に貼り付けられ、前記スロットの撓みに対して抵抗を付与してCT値の上昇を抑制する繊維強化プラスチックの補強部材と、を備え、前記スロットは、放物線をなす断面凹形状を有している。