(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086176
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】鋼管杭切断装置および鋼管杭切断方法
(51)【国際特許分類】
E02D 9/02 20060101AFI20230615BHJP
【FI】
E02D9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200520
(22)【出願日】2021-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 敦史
(72)【発明者】
【氏名】中村 広規
【テーマコード(参考)】
2D050
【Fターム(参考)】
2D050AA06
2D050DB01
2D050DB08
2D050EE01
(57)【要約】
【課題】内径が変化する鋼管杭を所定に深さ位置において切断することを可能とする鋼管杭切断装置および鋼管杭切断方法を提案する。
【解決手段】杭2の内部に挿入される主軸4と、主軸4の下部に設けられて杭2の直径方向に伸縮可能な固定用アーム5と、主軸4の下部に設けられた切断機用アーム6と、切断機用アーム6の先端部に設けられた切断機7とを備える鋼管杭切断装置3により杭2を切断する。切断機用アーム6は、杭2の直径方向に伸縮可能であるとともに主軸4を中心に回転可能である。また、切断機7は、杭2の内面に向けて高圧水を噴射可能である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底地盤に設置された鋼管杭を切断するための鋼管杭切断装置であって、
前記鋼管杭の内部に挿入される主軸と、
前記主軸の下部に設けられて前記鋼管杭の直径方向に伸縮可能な固定用アームと、
前記主軸の下部に設けられた切断機用アームと、
前記切断機用アームの先端部に設けられた切断機と、を備えており、
前記切断機用アームは、前記鋼管杭の直径方向に伸縮可能であるとともに、前記主軸を中心に回転可能であり、
前記切断機は、前記鋼管杭の内面に向けて高圧水を噴射可能であることを特徴とする、鋼管杭切断装置。
【請求項2】
前記固定用アームの先端に、前記鋼管杭の内面に沿って上下方向に転動する上下動誘導ローラーが設けられており、
前記切断機用アームの先端に、前記鋼管杭の内面に沿って前記鋼管杭の周方向に転動する回転誘導ローラーが設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の鋼管杭切断装置。
【請求項3】
前記鋼管杭の頭部外面に固定された杭外周固定手段と、
前記水底地盤から支持力を確保して、前記杭外周固定手段を支持する複数の支持部材と、を備えており、
前記支持部材は、ジャッキにより伸縮可能であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の鋼管杭切断装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載された鋼管杭切断装置を利用して、水底地盤に設置された鋼管杭を切断する鋼管杭切断方法であって、
前記鋼管杭内を掘削するとともに、前記鋼管杭の外周を水底地盤面から1m以上掘削する掘削工程と、
前記鋼管杭の上端から前記主軸を下降させて、前記切断機を前記鋼管杭内に挿入するとともに、前記固定用アームを伸張させて当該固定用アームを前記鋼管杭の内面に当接させる切断機挿入工程と、
前記鋼管杭内において、前記切断機を回転させながら前記切断機から高圧水を噴射することで、前記鋼管杭を切断する切断工程と、
前記鋼管杭の外周を埋め戻す埋戻し工程と、を備えていることを特徴とする、鋼管杭切断方法。
【請求項5】
前記鋼管杭の頭部外面に杭外周固定手段を固定するとともに、前記水底地盤から支持力を確保した複数の支持部材を前記鋼管杭の周囲に配設する支持工程を前記切断工程の前に備えており、
前記支持部材は、ジャッキにより伸縮可能であり、
前記切断工程では、前記ジャッキのジャッキ圧により前記鋼管杭の切断状況を確認することを特徴とする、請求項4に記載の鋼管杭切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水底地盤に設けられた鋼管杭を撤去するための鋼管杭切断装置および鋼管杭切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
温室効果ガスの排出量削減を目的として、再生可能エネルギーの需要が高まっている。再生可能エネルギーには、例えば、太陽光発電、風力発電、水力発電、地熱発電、バイオマス発電等がある。風力発電施設は、風車による騒音や振動が生活環境に影響を及ぼす場合があり、居住空間等への影響を十分に考慮する必要があることから、居住区域から離れた山間部などに設置されることが多い。しかしながら、大型の風車を設置する用地を山間部に確保することは難しく、また、風力発電施設までの交通路の確保や、送電線等の設置等も困難であった。そのため、風力発電施設を海上(水上)に設置することが検討されている。水上風力発電施設の着床式基礎構造として、例えば、水底に打ち込まれた一本の鋼管杭により支持するものがある。水上風力発電施設の鋼管杭は、一般的に大口径の鋼管であり、鋼管杭の上端部の杭径は、風車を支持するタワーの基部と同程度となっている。
【0003】
洋上風力発電施設は、所定期間(例えば、設置20年後)を経過した後に撤去する必要がある。洋上風力発電施設の着床式基礎を撤去する際には、水底地盤面-1.0mの深さ位置において、鋼管杭を切断・撤去する必要がある(「一般海域における占用公募制度の運用指針」令和元年6月、経済産業省資源エネルギー庁、国土交通省港湾局)。
特許文献1には、水底地盤に設けられた杭基礎の撤去方法として、鋼管杭内に挿入されるケーシングを、ケーシングの外周部に設けられた保持手段を鋼管杭の周壁内面に圧接させた状態で、ケーシングに設けられたターンテーブル上のプラズマトーチにより鋼管を切断する方法が開示されている。
また、特許文献2には、水上構造物の鋼管杭の撤去方法として、鋼管杭の内外を連通する複数の小孔を形成し、鋼管杭の頭部に閉塞用のキャップを取り付けた状態で、鋼管杭の内部に圧縮空気を供給することで、小孔から圧縮空気を噴出させつつ鋼管杭を引き抜く方法が開示されている。
特許文献1の鋼管杭の撤去方法は、杭頭部において縮径された鋼管杭の内部にケーシングを挿入する必要があるため、切断箇所における鋼管杭の内壁面とケーシングとの隙間が大きく、ケーシングを所望の位置に固定できない。そのため、鋼管杭を安定的に切断できない。
また、特許文献2の鋼管杭の撤去方法は、鋼管杭を引き抜く方法であるため、長尺の鋼管杭を所定長引き上げて切断する作業を複数回繰り返す必要があり、作業に手間がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平03-228917号公報
【特許文献2】特開2016-199874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、内径が変化する鋼管杭を所定に深さ位置において切断することを可能とする鋼管杭切断装置および鋼管杭切断方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための本発明の鋼管杭切断装置は、前記鋼管杭の内部に挿入される主軸と、前記主軸の下部に設けられて前記鋼管杭の直径方向に伸縮可能な固定用アームと、前記主軸の下部に設けられた切断機用アームと、前記切断機用アームの先端部に設けられた切断機とを備えている。前記切断機用アームは前記鋼管杭の直径方向に伸縮可能であるとともに前記主軸を中心に回転可能であり、前記切断機は前記鋼管杭の内面に向けて高圧水を噴射可能である。
また、前記鋼管杭切断装置を利用して水底地盤に設置された鋼管杭を切断する本発明の鋼管杭切断方法は、前記鋼管杭内を掘削するとともに前記鋼管杭の頭部の外周を水底地盤面から掘削する掘削工程と、前記鋼管杭の上端から前記主軸を下降させて前記切断機を前記鋼管杭内に挿入するとともに前記固定用アームを伸張させて当該固定用アームを前記鋼管杭の内面に当接させる切断機挿入工程と、前記鋼管杭内において、前記切断機を回転させながら前記切断機から高圧水を噴射することで前記鋼管杭を切断する切断工程と、前記鋼管杭の外周を埋め戻す埋戻し工程とを備えている。
【0007】
かかる鋼管杭切断装置および鋼管杭切断方法によれば、固定用アームを伸縮させることで、内径が変化する鋼管杭内においても、主軸を安定させることができ、ひいては、切断機用アームの所望の位置において安定的に回転させることができる。そのため、切断機による鋼管杭の切断を安定的かつ効率的に行うことが可能となる。
【0008】
なお、前記固定用アームの先端に、前記鋼管杭の内面に沿って上下方向に転動する上下動誘導ローラーが設けられていれば、主軸とともに切断機を鋼管杭内で下降させる際に、主軸のぶれを抑制し、鋼管杭の中心に主軸を配置できる。また、前記切断機用アームの先端に、前記鋼管杭の内面に沿って前記鋼管杭の周方向に転動する回転誘導ローラーが設けられていれば、切断機用アームの回転が安定してブレが抑制されるため、切断機による鋼管杭の切断を効率的に実施できる。
また、前記鋼管杭の頭部外面に固定された杭外周固定手段と、前記水底地盤から支持力を確保して、前記杭外周固定手段を支持するとともにジャッキにより伸縮可能な複数の支持部材とをさらに備えているのが望ましい。この場合には、前記切断工程において、前記ジャッキのジャッキ圧により前記鋼管杭の切断状況を確認することできる。すなわち、鋼管杭の周囲に配設された複数の支持部材の支持部材毎のジャッキ圧の変化を検知することで、切断の進行状況を確認できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の鋼管杭切断装置および鋼管杭切断方法によれば、内径が変化する鋼管杭を所定に深さ位置において切断することが可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る水上施設を示す正面図である。
【
図3】鋼管杭切断装置の下部を示す図であって、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【
図4】固定用アームを示す図であって、(a)はアウトリガー収縮時、(b)はアウトリガー伸張時である。
【
図5】本実施形態の鋼管杭の切断方法を示すフローチャートである。
【
図6】鋼管杭の切断方法の各工程を示す正面図であって、(a)は準備工程、(b)は掘削工程、(c)は(b)に続く掘削工程、(d)は支持工程、切断機挿入工程および切断工程(e)は撤去工程、(f)は埋戻し工程である。
【
図7】支持手段を示す図であって、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【
図9】他の形態に係る切断状況の確認方法を示す図であって、(a)は全体図、(b)は拡大断面図である。
【
図10】他の形態に係る切断状況の確認方法を示す側面図である。
【
図11】他の形態に係る切断状況の確認方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態では、洋上風力発電施設(水上施設)1の基礎構造13(杭2)を撤去する場合について説明する。
図1は、洋上風力発電施設1の正面図である。
図1に示すように、洋上風力発電施設1は、風車11と、風車11を支持する支柱12と、支柱12を支持する基礎構造13を有している。風車11および支柱12は、基礎構造13によって、水面WLよりも高い位置に設けられている。風車11は、支柱12の上端部に回転可能に設けられている。支柱12は、基礎構造13上に立設されている。
基礎構造13は、水底地盤Gから立設された1本の鋼管杭(杭2)からなる、いわゆるモノパイル基礎である。杭2は、洋上風力発電施設1の支柱12の直下に鉛直に設けられている。杭2は、水底地盤Gに、十分な根入れを確保した状態で立設されている。本実施形態の杭2は、鋼管により構成されている。杭2の中心軸は洋上風力発電施設1の支柱12の中心軸の延長線と一致している。杭2は、支柱12よりも大きな直径を有しており、杭2の上端部は、支柱12の下端の直径に合わせて縮径されている。すなわち、杭2の上端部は、上に行くに従って縮径するように、内径が変化している。
【0012】
基礎構造13(杭2)の撤去は、風車11と支柱12を撤去した後、水底地盤面から1.0m低い深さ位置において、杭2を切断することにより行う。杭2の切断には、鋼管杭切断装置3を使用する。
図2に鋼管杭切断装置3を示す。
鋼管杭切断装置3は、
図2に示すように、主軸4、固定用アーム5、切断機用アーム6および切断機7を備えている。
主軸4は、杭2の内部に挿入される棒状部材である。主軸4は、クレーン船等の揚重機により吊下された状態で、杭2の内部に挿入される。主軸4は、台座41の中心部に挿通され、台座41によって支持されていることで、横方向のブレが抑制される。
【0013】
図3(a)および(b)に鋼管杭切断装置3の下端部を示す。
図3(a)に示すように、固定用アーム5は、主軸4の下端(下部)に設けられている。本実施形態では、
図3(b)に示すように、本実施形態では、3本の固定用アーム5,5,5が、周方向に等間隔に設けられている。
固定用アーム5は、杭2の内径の変化に応じて、杭2の直径方向に伸縮可能である。本実施形態の固定用アーム5は、1.5m程度伸縮する。各固定用アーム5は、同期して伸縮する。すなわち、3本の固定用アーム5,5,5の長さは常に同じ長さになるように構成されている。
【0014】
図3(a)および(b)に示すように、固定用アーム5の先端には、杭2の内面に沿って上下方向に転動する上下動誘導ローラー51と、固定用アーム5の先端から進出可能に設けられたアウトリガー52が設けられている。
図4(a)および(b)に固定用アーム5の先端部を示す。
図4(a)および(b)に示すように、各固定用アーム5の先端の両側面には、一対の上下動誘導ローラー51,51が横軸を中心に回転可能に設けられている。すなわち、上下動誘導ローラー51は、主軸4を杭2の内部において上下動させる際に、杭2の内面を走行するように設けられている。各上下動誘導ローラー51を杭2の内面を走行させることで、主軸4の位置が杭2の中心からブレることを抑制する。
アウトリガー52は、一対の上下動誘導ローラー51,51の間から、杭2の内面に向けて突出するように、固定用アーム5の先端に設けられている。アウトリガー52は、主軸4を移動させる際は、固定用アーム5に収納しておき、主軸4が所定の位置に配置された段階で、固定用アーム5の先端から杭2の内面に向けて進出させ、杭2の内面に当接させることで、固定用アーム5(主軸4)を固定する。各固定用アーム5に設けられたアウトリガー52は同期して伸縮し、同じ長さだけ伸張するように構成されている。
【0015】
切断機用アーム6は、切断機7を支持する部材であって、
図3(a)に示すように、主軸4の下部において、固定用アーム5の上に設けられている。切断機用アーム6は、杭2の内径の変化に応じて、杭2の直径方向に伸縮可能であるとともに、主軸4を中心に回転可能である。本実施形態の切断機用アーム6は、1.5m程度伸縮する。
図3(b)に示すように、本実施形態では、一対の切断機用アーム6,6が、主軸4を挟んで一直線上に並ぶように設けられている。一対の切断機用アーム6,6は、同期して伸縮する。すなわち、両切断機用アーム6,6の長さが常に同じ長さになるように構成されている。
図3(a)に示すように、本実施形態の切断機用アーム6は、主軸4に外装された筒体61の下端から側方に張り出すように設けられている。筒体61は、主軸4の外径よりも大きな内径を有している。筒体61の上端部は、主軸4に固定された回転モーター62に支持されている。回転モーター62を作動させると、筒体61が主軸4を中心に回転し、この筒体61の回転に伴って切断機用アーム6が回転する。なお、本実施形態では、切断機用アーム6と筒体61との角部に補強材(斜材)63が配設されていて、切断機用アーム6と筒体61との接合部の剛性が高められている。
【0016】
図3(a)に示すように、本実施形態では、固定用アーム5と切断機用アーム6との間にスライディングプレート64を介設している。スライディングプレート64は、低摩擦性の板材からなり、切断機用アーム6との摩擦力を低減する。固定用アーム5と切断機用アーム6との間にスライディングプレート64を介設することで、切断機用アーム34の回転時の抵抗を低減させる。
図3(b)に示すように、切断機用アーム6の先端には、杭2の内面に沿って杭2の周方向に転動する回転誘導ローラー65が設けられている。回転誘導ローラー65は、切断機用アーム6を回転させる際に、杭2の内面を走行することで、切断機用アーム6(切断機7)のブレを抑える。
【0017】
図3(a)および(b)に示すように、切断機7は、切断機用アーム6の先端部に設けられている(上載されている)。切断機7は、杭2の内面に向けて研磨材を含んだ高圧水を噴射するノズル71を備えている。鋼管杭切断装置3は、切断機用アーム6の回転に伴って、切断機7(ノズル71)から高圧水を噴射することで、杭2を切断する。
【0018】
以下、鋼管杭切断装置3を利用した鋼管杭の切断方法について説明する。
図5に本実施形態の鋼管杭の切断方法の手順を示す。また、
図6(a)~(f)に各工程の作業状況を示す。
図5に示すように、本実施形態の杭の切断方法は、準備工程S1と、掘削工程S2と、支持工程S3と、切断機挿入工程S4と、切断工程S5と、撤去工程S6と、埋戻し工程S7とからなる。
準備工程S1では、基礎構造13(杭2)を残して洋上風力発電施設1(風車11および支柱12)を撤去する。
図6(a)に風車11および支柱12を撤去した後の基礎構造13(杭2)を示す。杭2の上端は、水面WLよりも上に突出させておく。
【0019】
掘削工程S2では、杭2の外周を水底地盤面GLから1m以上掘削する。まず、
図6(b)に示すように、杭2の外周の水底地盤面GL上設けられた洗堀防止工14を撤去する。次に、
図6(c)に示すように、杭2の外周を1m以上掘削して、杭2の周囲に凹部21を形成するとともに、杭2の内部に溜まった土砂を掘削する。
【0020】
支持工程S3では、
図6(d)に示すように、杭2の頭部を支持手段8により支持する。支持手段8は、水底地盤Gから支持力を確保した複数の支持部材(支柱)81,81と、杭2の頭部外面に固定された杭外周固定手段82とを備えている。
図7(a)および(b)に支持手段8を示す。
複数の支持部材81,81は、
図7(a)および(b)に示すように、杭2の周囲に配設する。支持部材81の上端は、ジャッキ83を介して杭外周固定手段82に連結する。支持部材81は、ジャッキ83により伸縮可能である。ジャッキ83は、ジャッキ圧を測定可能に構成されている。本実施形態では、6本の支持部材81,81,…(ジャッキ83,83,…)を等間隔に配設している。杭外周固定手段82は、鋼材からなり、杭2の頭部に固定されているとともに、支持部材81により下から支持されている。また、支持部材81の下端には、
図6(d)に示すように、水底地盤面GLから十分な支持力を確保可能な面積を有した基礎体(直接基礎)84が形成されている。支持手段8は、ジャッキ83に圧力をかけることによって、支持部材81に荷重を加え、水底地盤Gから支持力を事前に確保(地盤の沈下を事前に吸収)しておく。
【0021】
切断機挿入工程S4では、杭2の内部に切断機7を挿入する。
図8に、切断機7の挿入状況を示す。切断機7は、揚重機により吊下された主軸4を杭2の上端から下降させることにより、杭2の内部に挿入する。主軸4(固定用アーム5)を杭2に挿入する際には、
図8に示すように、固定用アーム5および切断機用アーム6を収縮させておく。主軸4を下降させて、固定用アーム5および切断機用アーム6が杭2の頭部を通過して、杭2の一般部(内径が拡径した部分)に到達したら、杭2の内径に応じて固定用アーム5を伸張させる。そして、固定用アーム5先端に設けられた上下動誘導ローラー51を杭2の内面に沿って回転させながら主軸4をさらに下降させる。こうすることで、主軸4を杭2の中心に配置した状態を維持できる。主軸4の下端部は、固定用アーム5によって、杭2の中心に配置される。また、杭2の上端部において、台座41により主軸4を支持することによって、杭2の中心軸に沿って主軸4が配置される。なお、台座41は、切断機用アーム6および切断機7が杭2の内部に収納されてから、杭2の上端に設置する。
切断機7(主軸4)を所定の位置(ノズル71が水底地盤面GLから1m低い位置)まで下降させたら、固定用アーム5のアウトリガー52を伸張させて、杭2の内面に当接させる。
【0022】
切断工程S5では、水底地盤面-1mの位置において杭2を切断する。具体的には、まず、回転誘導ローラー65が杭2の内面に当接するまで切断機用アーム6を伸張させて、切断機7を杭2の内面に近づける。次に、切断機7のノズル71から研磨材を含む高圧水を噴射させながら、切断機7(切断機用アーム6)を180度回転させることにより杭2の切断を全周にわたって行う。
本実施形態では、支持部材81のジャッキ83のジャッキ圧により杭2の切断状況を確認する。すなわち、全てのジャッキ83のジャッキ圧が、切断開始前に比べて小さくなったことを確認することで、杭2が全周にわたって切断されたことが確認できる。なお、複数のジャッキ83にジャッキ圧にばらつきがある場合は、杭2の切断が未完成と判断し、ジャッキ圧が大きいジャッキ83側に切断機7を向けて、高圧水を噴射する。
【0023】
撤去工程S6では、
図6(e)に示すように、杭2の切断部分、支持手段8および切断機7を回収する。すなわち、杭2が全周にわたって切断されたことを確認出来たら、高圧水の噴射を終了し、杭2から支持手段8を取り外して支持手段8を撤去するとともに、揚重機等を利用して杭2の切断部分を水中から引き上げる。また、切断機7の回収は、アウトリガー52を収縮させてから、主軸4を引き上げることにより行う。
埋戻し工程S7では、
図6(f)に示すように、杭2の外周(凹部21)を埋め戻す。
【0024】
本実施形態の鋼管杭切断装置3および鋼管杭切断方法によれば、固定用アーム5を伸縮させることで、内径が変化する杭2の内部において、主軸4を安定させることができ、ひいては、切断機用アーム6の所望の位置において安定的に回転させることができる。そのため、切断機7による杭2の切断を安定的かつ効率的に行うことが可能となる。
また、固定用アーム5の先端に、杭2の内面に沿って上下方向に転動する上下動誘導ローラー51が設けられているため、主軸4とともに切断機7を下降させる際に、主軸4のブレを抑制し、杭2の中心に主軸4を配置できる。
また、切断機用アーム6の先端に、回転誘導ローラー65が設けられているため、切断機用アーム6の回転が安定してブレが抑制される。そのため、切断機7の回転のブレも抑制されて、杭2の切断を効率的に実施できる。
また、ジャッキ83のジャッキ圧により杭2の切断の進行状況を確認できるため、作業の効率化を図ることができる。
【0025】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
例えば、杭2により支持する水上施設は洋上風力発電施設に限定されるものではない。
また、上下動誘導ローラー51や回転誘導ローラー65は必要に応じて設ければよい。
また、杭2の上端に設ける台座も必要に応じて設ければよく、省略してもよい。
杭2の支持手段8の構成は限定されるものではない。
前記実施形態では、固定用アーム5の上に切断機用アーム6を設ける場合について説明したが、切断機用アーム6は、固定用アーム5の下に設けてもよい。
また、回転モーター62の設置個所は限定されるものではなく、例えば、杭2の上方に設けてもよい。
主軸4を回転させることで、切断機用アーム6を回転させてもよい。
【0026】
また、杭2の切断状況の確認方法は、前記実施形態で示したものに限定されるものではない。例えば、
図9(a)および(b)に示すように、杭2を揚重機によって吊持した状態で、杭2内を照明91により照らし、杭2の外周から光の漏れを確認することで、未切断箇所を探し出してもよい。杭2の外周から光の漏れを確認する方法としては、例えば、水中カメラ92により撮影すればよい。
この他の切断状況の確認方法として、
図10に示すように、杭2の切断箇所周囲に短冊状の通電センサ93,93,…を周設しておき、杭2の切断後に、通電センサ93によって通電が確認されている部分は、杭2の未切断箇所として、再度切断を行い、通電センサ93の通電が確認できない部分では切断が完了しているものと判断する。
さらに、他の切断状況の確認方法として、
図11に示すように、切断機7に隣接してレーザセンサ94または超音波センサを配置しておき、ノズル71による噴射位置をレーザセンサ94により測定することで、当該位置における切断の完了を確認してもよい。
【符号の説明】
【0027】
1 洋上風力発電施設(水上施設)
2 杭(鋼管杭)
3 鋼管杭切断装置
4 主軸
5 固定用アーム
51 上下動誘導ローラー
52 アウトリガー
6 切断機用アーム
65 回転誘導ローラー
7 切断機
8 支持手段
81 支持部材
82 杭外周固定手段
83 ジャッキ