(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086192
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】光吸収層および光吸収層を備える部材
(51)【国際特許分類】
C23C 28/00 20060101AFI20230615BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20230615BHJP
B32B 15/01 20060101ALI20230615BHJP
B32B 3/30 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
C23C28/00 C
B32B7/023
B32B15/01 D
B32B3/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200543
(22)【出願日】2021-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000230607
【氏名又は名称】日本化学産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】渡部 なぎさ
(72)【発明者】
【氏名】白井 啓一
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 彰典
【テーマコード(参考)】
4F100
4K044
【Fターム(参考)】
4F100AA24
4F100AA24A
4F100AB04
4F100AB04B
4F100AB16
4F100AB16A
4F100AB31
4F100AB31A
4F100AT00
4F100AT00B
4F100BA02
4F100BA07
4F100DD07
4F100DD07A
4F100EH71
4F100EH71A
4F100EJ52
4F100GB41
4F100JD10
4F100JK15
4F100JN06
4K044AA03
4K044BA06
4K044BA12
4K044BB03
4K044BB16
4K044CA15
4K044CA16
4K044CA18
(57)【要約】
【課題】近赤外線に対する吸収機能に優れる光吸収層およびかかる光吸収層を有する部材を提供する。
【解決手段】一方の主面10Aに複数の凹部を有し、複数の凹部の内面の少なくとも一部は酸化ニッケル化合物により構成され、一方の主面10Aに向けて2μmの近赤外線を照射したときに、正反射率と拡散反射率との合計の反射率である全反射率が2%以下である光吸収層10であって、一方の主面10Aに向けて780nmから2μmの近赤外線を照射したときに、いずれの波長においても全反射率が2%以下であることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の主面に複数の凹部を有する光吸収層であって、
前記複数の凹部の内面の少なくとも一部は酸化ニッケル化合物により構成され、
前記一方の主面に向けて2μmの近赤外線を照射したときに、正反射率と拡散反射率との合計の反射率である全反射率が2%以下であること
を特徴とする光吸収層。
【請求項2】
前記一方の主面に向けて780nmから2μmの近赤外線を照射したときに、いずれの波長においても前記全反射率が2%以下である、請求項1に記載の光吸収層。
【請求項3】
前記一方の主面に向けて780nmから2μmの近赤外線を照射したときに、いずれの波長においても、前記正反射率が0.5%以下であって前記拡散反射率が1%以下である、請求項2に記載の光吸収層。
【請求項4】
前記一方の主面に向けて400nmから2μmの光を照射したときに、いずれの波長においても前記全反射率が2%以下である、請求項1に記載の光吸収層。
【請求項5】
前記一方の主面に向けて400nmから2μmの近赤外線を照射したときに、いずれの波長においても、前記正反射率が0.5%以下であって前記拡散反射率が1%以下である、請求項4に記載の光吸収層。
【請求項6】
前記酸化ニッケル化合物は、ニッケル、ニッケル基合金およびニッケル基金属間化合物からなる群から選ばれた一種以上を有するニッケル基コーティングの改質体である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の光吸収層。
【請求項7】
前記光吸収層の断面を観察したときに、
観察視野に位置する複数の凹部の半数以上について、開口幅が1μm以上5μm以下であり、当該凹部の内面に位置する前記酸化ニッケル化合物の厚さが1μm以上である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の光吸収層。
【請求項8】
前記光吸収層の断面を観察したときに、
観察視野に位置する複数の凹部の半数以上について、当該凹部の開口縁を構成する頂部の幅が1μm以上5μm以下である、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の光吸収層。
【請求項9】
前記光吸収層の前記一方の主面を観察して得られた2次電子凹凸像から突出した上位10%の領域からなる頂端領域を求めたときに、前記頂端領域が100μm2あたり10個以上100個以下である、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の光吸収層。
【請求項10】
基材と、前記基材の面に形成された請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の光吸収層とを備える部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光吸収層および当該光吸収層を備える部材に関する。
【背景技術】
【0002】
光学部品や放熱部材の表面処理として、黒色皮膜が用いられることがある。そのような黒色皮膜の例が、特許文献1に開示されている。具体的には、酸性処理液にニッケル-リン合金皮膜を接触させる処理により黒化して黒色ニッケル皮膜を形成するために用いる上記ニッケル-リン合金皮膜を形成するための無電解ニッケル-リンめっき浴であって、ニッケル塩、リン酸塩、カルボン酸及び/又はその塩、オキシカルボン酸及び/又はその塩、並びにアンモニウムイオンを含有し、かつ上記オキシカルボン酸及び/又はその塩が上記カルボン酸及び/又はその塩に対して1(モル比)以下であることを特徴とする無電解ニッケル-リンめっき浴が、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載される黒色皮膜は可視光の吸収特性に優れるが、光通信デバイスに組み込まれる部品などでは、近年、可視光以外の領域の光についても優れた吸収特性を有することが求められる場合がある。本発明は、光のうちでも特に近赤外線に対する吸収機能に優れる光吸収層およびかかる光吸収層を有する部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために提供される本発明の一態様に係る光吸収層は、一方の主面に複数の凹部を有し、前記複数の凹部の内面の少なくとも一部は酸化ニッケル化合物により構成され、前記一方の主面に向けて2μmの近赤外線を照射したときに、正反射率と拡散反射率との合計の反射率である全反射率が2%以下であることを特徴とする。
【0006】
かかる光吸収層は、2μmの近赤外線が照射されたときに反射する光が少ないため、反射防止部材の機能層として好適である。
【0007】
上記の光吸収層において、前記一方の主面に向けて780nmから2μmの近赤外線を照射したときに、いずれの波長においても前記全反射率が2%以下であることが好ましい。この場合には、光吸収層は、いわゆる近赤外線(780nm~約2.5μm)の光のほとんどに対して反射防止層として機能することができる。
【0008】
前記一方の主面に向けて780nmから2μmの近赤外線を照射したときに、いずれの波長においても、前記正反射率が0.5%以下であって前記拡散反射率が1%以下である場合には、光吸収層は、特に優れた反射防止機能を示すことができる。
【0009】
上記の光吸収層において、前記一方の主面に向けて400nmから2μmの光を照射したときに、いずれの波長においても前記全反射率が2%以下であってもよい。この場合には、可視光に対しても反射防止機能を適切に示すことができる。
【0010】
前記一方の主面に向けて400nmから2μmの近赤外線を照射したときに、いずれの波長においても、前記正反射率が0.5%以下であって前記拡散反射率が1%以下である場合には、特に優れた反射防止機能を示すことができる。
【0011】
上記の光吸収層において、前記酸化ニッケル化合物は、ニッケル、ニッケル基合金およびニッケル基金属間化合物からなる群から選ばれた一種以上を有するニッケル基コーティングの改質体であってもよい。
【0012】
上記の光吸収層において、前記光吸収層の断面を観察したときに、観察視野に位置する複数の凹部の半数以上について、開口幅が1μm以上5μm以下であり、当該凹部の内面に位置する前記酸化ニッケル化合物の厚さが1μm以上である場合には、光吸収層は、近赤外線に対して優れた反射防止機能を有することが容易となる。
【0013】
上記の光吸収層において、前記光吸収層の断面を観察したときに、観察視野に位置する複数の凹部の半数以上について、当該凹部の開口縁を構成する頂部の幅が1μm以上5μm以下である場合には、光吸収層は、近赤外線に対して優れた反射防止機能を有しやすい。
【0014】
上記の光吸収層において、前記光吸収層の前記一方の主面を観察して得られた2次電子凹凸像から突出した上位10%の領域からなる頂端領域を求めたときに、前記頂端領域が100μm2あたり10個以上100個以下である場合には、光吸収層は、近赤外線に対して優れた反射防止機能を有しやすくなることもある。
【0015】
本発明は、他の一態様として、基材と、前記基材の面に形成された上記の光吸収層とを備える部材を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、近赤外線に対する吸収機能に優れる光吸収層が提供される。また、本発明により、かかる光吸収層を備える部材も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る部材の説明図である。
【
図2】(a)本発明の実施例1に係る部材の正反射率の測定結果を示す図、(b)本発明の実施例1に係る部材の拡散反射率の測定結果を示す図、(c)本発明の実施例1に係る部材の全反射率の測定結果を示す図である。
【
図3】(a)本発明の実施例2に係る部材の正反射率の測定結果を示す図、(b)本発明の実施例2に係る部材の拡散反射率の測定結果を示す図、(c)本発明の実施例2に係る部材の全反射率の測定結果を示す図である。
【
図4】(a)本発明の比較例1に係る部材の正反射率の測定結果を示す図、(b)本発明の比較例1に係る部材の拡散反射率の測定結果を示す図、(c)本発明の比較例1に係る部材の全反射率の測定結果を示す図である。
【
図5】(a)本発明の比較例2に係る部材の正反射率の測定結果を示す図、(b)本発明の比較例2に係る部材の拡散反射率の測定結果を示す図、(c)本発明の比較例2に係る部材の全反射率の測定結果を示す図である。
【
図6】(a)本発明の実施例1に係る部材の光吸収層の表面観察図、(b)本発明の実施例2に係る部材の光吸収層の表面観察図である。
【
図7】(a)本発明の比較例1に係る部材の光吸収層の表面観察図、(b)本発明の比較例2に係る部材の光吸収層の表面観察図である。
【
図8】(a)本発明の実施例1に係る部材の光吸収層の断面観察図、(b)(a)の説明図である。
【
図9】(a)本発明の実施例2に係る部材の光吸収層の断面観察図、(b)(a)の説明図である。
【
図10】(a)本発明の比較例1に係る部材の光吸収層の断面観察図、(b)(a)の説明図である。
【
図11】(a)本発明の比較例2に係る部材の光吸収層の断面観察図、(b)(a)の説明図である。
【
図12】(a)
図8(a)の観察視野にてNiの面分析を行った結果を示す図、(b)
図8(a)の観察視野にてOの面分析を行った結果を示す図である。
【
図13】(a)
図9(a)の観察視野にてNiの面分析を行った結果を示す図、(b)
図9(a)の観察視野にてOの面分析を行った結果を示す図である。
【
図14】(a)
図10(a)の観察視野にてNiの面分析を行った結果を示す図、(b)
図10(a)の観察視野にてOの面分析を行った結果を示す図である。
【
図15】(a)
図11(a)の観察視野にてNiの面分析を行った結果を示す図、(b)
図11(a)の観察視野にてOの面分析を行った結果を示す図である。
【
図16】(a)
図6(b)の実施例2の観察画像のネガポジ反転画像を示す図、(b)
図6(b)の実施例2の観察画像についての階調のヒストグラム図、(c)
図16(a)の画像についての階調のヒストグラム図である。
【
図17】(a)
図16(a)の画像について、0階調の存在密度が10%となるように明るさとコントラストとを調整して得られた画像を示す図、(b)
図17(a)の画像についての階調のヒストグラム図である。
【
図18】
図7(a)の比較例1の観察画像について、
図17(a)と同様に、ネガポジ反転画像における0階調の存在密度が10%となるよう調整して得られた画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本開示について説明する。なお、以下の説明では、同一の構成要素には同一の符号を付し、一度説明した構成要素については適宜その説明を省略する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係る部材の説明図である。本実施形態に係る部材100は、基材20と、基材20の面に形成された光吸収層10とを備える。光吸収層10は、一方の主面10Aに複数の凹部を有する。一具体例において、光吸収層10の複数の凹部の内面の少なくとも一部は酸化ニッケル化合物により構成される。
【0020】
酸化ニッケル化合物は、ニッケル、ニッケル基合金およびニッケル基金属間化合物からなる群から選ばれた一種以上を有するニッケル基コーティングの改質体であってもよい。この場合には、ニッケル基コーティングの具体例として、電気めっき、無電解めっきなどにより形成されたウエットコーティング、および蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、溶射などにより形成されたドライコーティングが例示される。
【0021】
改質体の形成する改質方法は限定されない。改質方法の一例として、ニッケル基コーティングを酸化性物質を含む液状体に接触させることが挙げられる。酸化性物質の具体例として、硫酸、硝酸などの酸化性酸、過酸化水素などが挙げられる。金属や硫黄含有物質を液状体に含ませることによって光吸収性を高めることができる場合もある。
【0022】
ニッケル基コーティングがめっき膜からなる場合を具体例とすると、この場合において、改質体のめっき膜の積層方向の厚さは、例えばめっき膜の半分程度、すなわち、1μm以上10μm以下とすることが挙げられる。この場合において、改質体の厚さは、例えば1μm~数μmの範囲とすることができる。
【0023】
光吸収層10は、一方の主面10Aに向けて2μmの近赤外線を照射したときに、正反射率と拡散反射率との合計の反射率である全反射率が2%以下である。かかる光吸収層10は、2μmの近赤外線が照射されたときに反射する光が少ないため、反射防止部材の機能層として好適である。したがって、部材100は反射防止部材として好適に用いることができる。また、放熱部材として用いることが可能な場合もある。
【0024】
光吸収層10の一方の主面10Aに向けて780nmから2μmの近赤外線を照射したときに、いずれの波長においても全反射率が2%以下であることが好ましい。この場合には、光吸収層10は、いわゆる近赤外線(780nm~約2.5μm)の光のほとんどに対して反射防止層として機能することができる。
【0025】
光吸収層10の一方の主面10Aに向けて780nmから2μmの近赤外線を照射したときに、いずれの波長においても、正反射率が0.5%以下であって拡散反射率が1%以下である場合には、光吸収層10は、特に優れた反射防止機能を示すことができる。
【0026】
光吸収層10の一方の主面10Aに向けて400nmから2μmの光を照射したときに、いずれの波長においても全反射率が2%以下であってもよい。この場合には、光吸収層10は、可視光に対しても反射防止機能を適切に示すことができる。この場合の具体例として、光吸収層10は、JIS Z8781-4:2013に規定されるCIE 1976 L*a*b*色空間の明度指数L*値が10以下である。
【0027】
光吸収層10一方の主面10Aに向けて400nmから2μmの近赤外線を照射したときに、いずれの波長においても、正反射率が0.5%以下であって拡散反射率が1%以下である場合には、光吸収層10は、特に優れた反射防止機能を示すことができる。
【0028】
以下、実施例を用いて本発明について具体的に説明する。
【実施例0029】
次の組成のめっき液を用いて、ステンレスSUS304製の板状の基材20に無電解めっきを行い、無電解めっき皮膜が表面に形成された部材(めっき部材)を得た。
(めっき液)
Ni 0.1mol/L
酢酸 0.2mol/L
次亜リン酸ナトリウム1水和物 0.2mol/L
硫黄化合物 微量
【0030】
めっき条件は次のとおりであった。
めっき液温 75~85℃
めっき時間 45分~55分
【0031】
次の組成の処理液にめっき部材を浸漬させて、黒化処理を行い、光吸収層10が基材20に設けられてなる部材100を得た。
(黒化処理液)
過酸化水素 約0.8mol/L
Cu 0.01mol/L
硫酸 pH調整用
【0032】
処理条件は次のとおりであった。
処理液pH 0.6~0.65
処理温度 30℃~35℃
処理時間 210秒~270秒
【0033】
黒化処理の条件を適当に調整することにより、互いに構造および特性が異なる4種類の光吸収層10を形成した。光吸収層10はいずれも黒色であり、L*値は10以下であった。
【0034】
こうして得られた4種類の部材(実施例1、実施例2、比較例1、比較例2)について、反射率(正反射率、拡散反射率)を測定した。反射率の測定装置及び条件は次のとおりである。
日本分光社製 「V-770」
入射角:5°
入射光波長:400nm~2000nm(2μm)
入射光の走査速度:200nm/分
入射光の光束サイズ:6mm×3mm
標準白色板:スペクトラロン
偏光子:なし
【0035】
入射光の波長が2μmの場合の測定結果を表1に示す。なお、表1の全反射率は、正反射率と拡散反射率との合計で定義される。
【0036】
【0037】
図2(a)は、本発明の実施例1に係る部材の正反射率の測定結果を示す図であり、
図2(b)は、本発明の実施例1に係る部材の拡散反射率の測定結果を示す図であり、
図2(c)は、本発明の実施例1に係る部材の全反射率の測定結果を示す図である。実施例1の部材は、正反射率、拡散反射率ともに、400nmから2μmの範囲で1%未満であり、全反射率も400nmから2μmの範囲で1%未満であった。したがって、本発明の実施例1に係る部材は、可視光から近赤外線の範囲で特に優れた反射防止機能を有する。
【0038】
図3(a)は、本発明の実施例2に係る部材の正反射率の測定結果を示す図であり、
図3(b)は、本発明の実施例2に係る部材の拡散反射率の測定結果を示す図であり、
図3(c)は、本発明の実施例2に係る部材の全反射率の測定結果を示す図である。実施例2の部材は、正反射率、拡散反射率ともに、400nmから2μmの範囲で1%未満であり、全反射率は、400nmから1.8μmの範囲で1%未満、1.8μmから2μmの範囲で1.2%以下であった。したがって、本発明の実施例2に係る部材は、可視光から近赤外線の範囲で優れた反射防止機能を有する。
【0039】
図4(a)は、本発明の比較例1に係る部材の正反射率の測定結果を示す図であり、
図4(b)は、本発明の比較例1に係る部材の拡散反射率の測定結果を示す図であり、
図4(c)は、本発明の比較例1に係る部材の全反射率の測定結果を示す図である。比較例1の部材の正反射率は、400nmから800nmの範囲では0.5%未満であったが、800nmから2μmの範囲では、波長が長くなるにつれて急激に高くなり、2μmでは約16%となった。比較例1の部材の拡散反射率は、400nmから800nmの範囲で1%未満であったが、800nmから2μmの範囲では、波長が長くなるにつれて高くなり、2μmでは約4%となった。このため、比較例1の部材の全反射率は、400nmから800nmの範囲では1%程度であったが、800nmより長波長では反射率が増加し、2μmでは20%となった。したがって、比較例1の部材は、可視光においては、反射防止機能を有しているといえるが、近赤外線の範囲では、反射防止機能を全く有していなかった。
【0040】
図5(a)は、本発明の比較例2に係る部材の正反射率の測定結果を示す図であり、
図5(b)は、本発明の比較例2に係る部材の拡散反射率の測定結果を示す図であり、
図5(c)は、本発明の比較例2に係る部材の全反射率の測定結果を示す図である。比較例2の部材の正反射率は、400nmから2μmの範囲では約1%以下であった。比較例2の部材の拡散反射率は、400nmから2μmの範囲で、波長が長くなるにつれて高くなり、800nmで1%を超え、2μmでは約5%となった。このため、比較例2の部材の全反射率は、400nmから2μmの範囲で、波長が長くなるにつれて増加し、800nmで1%を超え、2μmでは約6%となった。したがって、比較例2の部材は、可視光においては、ある程度反射防止機能を有しているといえるが、近赤外線の範囲では、反射防止機能を有していなかった。
【0041】
図6(a)は、実施例1に係る部材の光吸収層の表面観察図であり、
図6(b)は、実施例2に係る部材の光吸収層の表面観察図である。
図7(a)は、比較例1に係る部材の光吸収層の表面観察図であり、
図7(b)は、比較例2に係る部材の光吸収層の表面観察図である。これらの表面観察図は、走査型電子顕微鏡を用いて得られた2次電子凹凸像である。
【0042】
図6および
図7に示されるように、実施例1および実施例2ならびに比較例2の光吸収層10には、1μmを超え数μmの幅の凹部が多数形成されていた。これに対し、比較例1の光吸収層10には、1μmに達しない狭い幅の凹部が多数形成されていた。
【0043】
作製した光吸収層10の構造をより詳しく確認するため、部材100を切断して断面観察を行った。
図8(a)は、実施例1に係る部材の光吸収層の断面観察図であり、
図8(b)は、
図8(a)の説明図である。
図9(a)は、実施例2に係る部材の光吸収層の断面観察図であり、
図9(b)は、
図9(a)の説明図である。
図10(a)は、比較例1に係る部材の光吸収層の断面観察図であり、
図10(b)は、
図10(a)の説明図である。
図11(a)は、比較例2に係る部材の光吸収層の断面観察図であり、
図11(b)は、
図11(a)の説明図である。なお、観察用断面を形成の際に光吸収層10の表面構造が破壊されないように、光吸収層10の表面にタングステンをスパッタして保護層CMを形成してから、断面を形成した。
【0044】
図8(a)に示されるように、実施例1に係る光吸収層10の厚さは6μm程度であり、めっき部材に形成された無電解めっき皮膜の厚さ方向の全体が黒化処理で改質されていた。
図12は、(a)
図8(a)の観察視野にてNi(ニッケル)の面分析を行った結果を示す図であり、(b)
図8(a)の観察視野にてO(酸素)の面分析を行った結果を示す図である。
図8(a)において、光吸収層10を構成する物質のうち、より暗色で表示される領域(暗色領域11)は、
図12(a)においてNi(ニッケル)が多く検出され、
図12(b)においてO(酸素)が多く検出された領域に重なる。したがって、暗色領域11は、酸化ニッケル化合物で構成されていた。一方、
図8(a)において、光吸収層10を構成する物質のうち、より明色で表示される領域(明色領域12)は、
図12(a)においてNi(ニッケル)が検出されるが
図12(b)においてO(酸素)が検出されない領域に重なる。したがって、明色領域12は、無電解めっきで構成されていた。これらの結果から、本実施例における黒化処理は、無電解めっき皮膜を酸化させて酸化ニッケル化合物を生成させながら、光吸収層10の表面に凹部を形成していることが確認された。
【0045】
図8(b)には、光吸収層10の表面の概略形状を破線で示した。破線に示されるように、観察視野には複数の凹部131、132、133が位置していた。観察視野に位置する複数の凹部の半数以上は、開口幅が1μm以上5μm以下であり、凹部の内面に位置する酸化ニッケル化合物の厚さが1μm以上であった。また、凹部の開口縁を構成する頂部の幅が1μm以上5μm以下であった。
【0046】
具体的には、次のとおりであった。
凹部132の開口幅a12:1.1μm
凹部133の開口幅a13:1.6μm
凹部131の内面に位置する酸化ニッケル化合物の厚さt11:1.2μm
凹部132の内面に位置する酸化ニッケル化合物の厚さt12:2.1μm
凹部131、132の開口縁を構成する頂部141の幅w11:3.4μm
凹部132、133の開口縁を構成する頂部142の幅w12:1.8μm
凹部133の開口縁を構成する頂部143の幅w13:1.3μm
【0047】
このように、実施例1の光吸収層10は、1μm以上の開口幅の凹部を多く有するため、近赤外線がこの凹部の中に進入することが容易であり、しかも、凹部の内壁には光を吸収する酸化ニッケル化合物が1μm以上の厚さで存在しているため、凹部内に進入した近赤外線は、酸化ニッケル化合物によって吸収され、凹部外へと戻る(反射する)光量が少なくなると考えられる。
【0048】
図9(a)に示されるように、8.5μm程度の厚さを有する実施例2に係る光吸収層10は、実施例1に係る光吸収層10とは異なる構造を有していた。具体的には、基材20上に7μm程度の厚さを有する明色領域12からなる部分が位置し、その上に、1.5μm程度の厚さを有する暗色領域11からなる部分が位置し、凹部はその全体が暗色領域11によって構成されていた。
【0049】
図13(a)は、
図9(a)の観察視野にてNi(ニッケル)の面分析を行った結果を示す図であり、
図13(b)は、
図9(a)の観察視野にてO(酸素)の面分析を行った結果を示す図である。
図13(b)に示されるように、光吸収層10のうち、O(酸素)が確認されるのは凹部(暗色領域11)のみであり、実施例2に係る光吸収層10は、凹部の全体が無電解めっきが黒化処理により生成した酸化ニッケル化合物で構成されていることが確認された。
【0050】
図9(b)には、光吸収層10の表面の概略形状を破線で示した。破線に示されるように、観察視野には複数の凹部131、132、133、134、135、136が位置していた。観察視野に位置する複数の凹部の半数以上は、開口幅が1μm以上5μm以下であり、凹部の内面に位置する酸化ニッケル化合物の厚さが1μm以上であった。また、凹部の開口縁を構成する頂部の幅が1μm以上5μm以下であった。
【0051】
具体的には、次のとおりであった。
凹部131の開口幅a11:2.0μm
凹部132の開口幅a12:0.7μm
凹部133の開口幅a13:0.3μm
凹部134の開口幅a14:1.2μm
凹部135の開口幅a15:3.1μm
凹部136の開口幅a16:1.4μm
凹部134の内面に位置する酸化ニッケル化合物の厚さt14:1.0μm
凹部135の内面に位置する酸化ニッケル化合物の厚さt15:0.9μm
凹部131の開口縁を構成する頂部141の幅w11:0.4μm
凹部131、132の開口縁を構成する頂部142の幅w12:0.2μm
凹部132、133の開口縁を構成する頂部143の幅w13:0.8μm
凹部133、134の開口縁を構成する頂部144の幅w14:0.3μm
凹部134、135の開口縁を構成する頂部145の幅w15:0.4μm
凹部135、136の開口縁を構成する頂部146の幅w16:0.3μm
凹部136、137の開口縁を構成する頂部147の幅w17:0.3μm
【0052】
このように、実施例2の光吸収層10は、1μm以上の幅の凹部を多く有するため、近赤外線がこの凹部の内部に進入することが容易であり、しかも、凹部の内壁には光を吸収する酸化ニッケル化合物が1μm以上の厚さで存在しているため、凹部内に進入した近赤外線は、酸化ニッケル化合物によって吸収され、凹部外へと戻る(反射する)光量が少なくなると考えられる。
【0053】
なお、実施例1と実施例2とでは、光吸収層10における凹部の深さが異なっているため、一見すると断面形状は大きく異なっている。しかしながら、
図3および
図4に示されるように、反射特性は概ね共通していた。これは、実施例1と実施例2とが、光吸収層10における凹部の開口幅や凹部の内面に位置する酸化ニッケル化合物の厚さは同様であったためと考えられる。したがって、光吸収層10を形成する際には、凹部の開口幅や凹部の内面に位置する酸化ニッケル化合物の厚さを適切に管理することが重要であることが、確認された。
【0054】
図10(a)に示されるように、比較例1に係る光吸収層10の構造的特徴は、実施例2に係る光吸収層10に類似していた。すなわち、8.5μm程度の厚さの光吸収層10のうち、光吸収層10の下側(基材20に近位な側)には、6μm程度の厚さの明色領域12が存在し、この明色領域12の上に位置し1.5μm程度の厚さを有する凹部は、その全体が暗色領域11で構成されていた。
【0055】
図14(a)は、
図10(a)の観察視野にてNi(ニッケル)の面分析を行った結果を示す図であり、
図14(b)は、
図10(a)の観察視野にてO(酸素)の面分析を行った結果を示す図である。
図14(b)に示されるように、光吸収層10の凹部は、その全面にO(酸素)が確認され、比較例1では、凹部の全体が酸化ニッケル化合物で構成されていることが確認された。
【0056】
図10(b)には、光吸収層10の表面の概略形状を破線で示した。破線に示されるように、観察視野には複数の凹部が位置していた。しかしながら、観察視野に位置する複数の凹部の多くは、開口幅が1μm未満であった。また、凹部の開口縁を構成する頂部の幅も多くが1μm未満であった。
【0057】
比較例1の光吸収層10は、上記のように、凹部の開口幅が実施例よりも狭いため、近赤外線が凹部内に進入することが困難で、結果、正反射率が高くなっていると考えられる。すなわち、近赤外線にとって、比較例1の光吸収層10の面は、内部に進入して吸収される凹部が少なく、拡散反射する程度の凹凸が存在する構造となっているといえる。
【0058】
図11(a)に示されるように、比較例2に係る光吸収層10の厚さは6.5μm程度であり、実施例1のようにその全体に凹部が形成されている部分や、実施例2や比較例1のように、1.5μm程度の厚さの暗色領域11とその下方に位置し5μm程度の厚さの明色領域12とからなる部分を有していた。
【0059】
図11(b)には、光吸収層10の表面の概略形状を破線で示した。破線に示されるように、観察視野には複数の凹部が位置していた。しかしながら、観察視野に位置する複数の凹部の多くは、開口幅が1μm未満であり、凹部の開口縁を構成する頂部の幅も多くが1μm未満であった。特に、暗色領域11からその全体が構成された凹部はこれらの傾向が顕著であった。
【0060】
図15(a)は、
図11(a)の観察視野にてNi(ニッケル)の面分析を行った結果を示す図であり、
図15(b)は、
図11(a)の観察視野にてO(酸素)の面分析を行った結果を示す図である。
図15(b)に示されるように、比較例2では、実施例1のように深い凹部が形成されている部分があるが、その凹部の内面に位置する酸化ニッケル化合物の厚さt11は0.3μm程度であり、実施例1の場合よりもかなり薄いことが確認された。
【0061】
比較例2の光吸収層10は、上記のように、凹部の内面に位置する酸化ニッケル化合物の厚さが薄いため、光吸収層10に入射された近赤外線は、凹部の内部へと進入しても、凹部内で適切に吸収されず、凹部内で反射して凹部外へと出てしまう光が多く、結果的に、拡散反射率が高くなっていると考えられる。
【0062】
以下、実施例2の部材および比較例1の部材を用いて、光吸収層10の表面の凹凸について検討を行った結果を示す。
図16(a)は、
図6(b)の実施例2の観察画像のネガポジ反転画像を示す図であり、
図16(b)は、
図6(b)の実施例2の観察画像についての階調のヒストグラム図であり、
図16(c)は、
図16(a)の画像についての階調のヒストグラム図である。
図17(a)は、
図16(a)の画像について、0階調の存在密度が10%となるように明るさとコントラストとを調整して得られた画像を示す図であり、
図17(b)は、
図17(a)の画像についての階調のヒストグラム図である。
図18は、
図7(a)の比較例1の観察画像について、
図17(a)と同様に、ネガポジ反転画像における0階調の存在密度が10%となるよう調整して得られた画像である。
【0063】
光吸収層10の凸部を抽出すべく、
図16(a)に示されるように、
図6(b)の実施例2の観察画像のネガポジ反転画像を得た。
図6(b)の実施例2の観察画像の階調数は256であり、
図16(b)に示されるような階調分布を有していた。
図6(b)の実施例2の観察画像は2次電子凹凸像であるから、この階調分布がすなわち凹凸の高さ分布に相当する。反転画像のヒストグラム(
図16(c))について、階調0の存在割合が10%となるように、適当なしきい値を設定して画像の二値化を行った。
【0064】
こうして得られた
図17(a)の階調0、すなわち黒色の部分は、光吸収層10の突出した上位10%の領域である頂端領域を示している。
図17(a)において破線で示した正方形は10μm×10μmであり、この正方形の領域の内部に位置する頂端領域の数を数えると、40~50個程度であった。すなわち、実施例2の光吸収層10では、頂端領域が100μm
2あたり10個以上100個以下であった。
【0065】
これに対し、同様の方法で比較例1について頂端領域を求めてみると、
図18に示されるように、個々の頂端領域の大きさは、実施例2の場合に比べて明らかに小さくなっており、10μm×10μmの破線で囲まれた正方形の領域の内部に位置する頂端領域の数を数えると、400~500個程度であった。すなわち、比較例1の光吸収層10では、頂端領域が100μm
2あたり10個以上100個以下を満たさず、400個以上であった。
【0066】
このように、光吸収層10について頂端領域を求め、その単位面積当たりの個数を求めることで、近赤外線に対して優れた反射防止機能を有する光吸収層10を特定することが可能な場合もある。
【0067】
ここで説明した実施形態は、本開示の理解を容易にするために記載されたものであって、本開示を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本開示の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含むものとする。
【0068】
上記の実施形態では、光吸収層10の複数の凹部の内面の少なくとも一部がニッケル基コーティングの改質体からなる場合を例示したが、これに限定されない。例えば樹脂やゴムなどの有機物を含有する材料に対してエキシマレーザなどを照射してアブレーションを生じさせることによっても、光吸収層10の複数の凹部を形成することができる場合がある。