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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086214
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】鋼管矢板井筒基礎構築方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/30 20060101AFI20230615BHJP
   E02D 19/10 20060101ALI20230615BHJP
   E02D 27/28 20060101ALI20230615BHJP
   E02D 3/10 20060101ALI20230615BHJP
   E02D 27/32 20060101ALN20230615BHJP
【FI】
E02D27/30
E02D19/10
E02D27/28
E02D3/10 102
E02D27/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200572
(22)【出願日】2021-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】上田 琢也
(72)【発明者】
【氏名】萬家 啓太
(72)【発明者】
【氏名】玉井 達也
(72)【発明者】
【氏名】佐野 常幸
(72)【発明者】
【氏名】川崎 光洋
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】宮内 陸
【テーマコード(参考)】
2D043
2D046
【Fターム(参考)】
2D043DA01
2D046DA03
(57)【要約】
【課題】地盤の被圧地下水による揚圧力が高くなっても、掘削底面の盤ぶくれおよび井筒全体の浮き上がりを効率的にかつ低コストで防止可能な鋼管矢板井筒基礎構築方法を提供する。
【解決手段】この鋼管矢板井筒基礎構築方法は、多数の鋼管矢板11を地盤G0に打設して形成される井筒10内の底盤コンクリート21が鉄筋組立体の埋め込みで補強されかつその側面全体で鋼管矢板からコンクリート内部へ延びて固着した多数本のスタッドにより支持され、遅くとも井筒内の掘削工程の開始時期から、複数のディープウェル34の各ポンプ71により地盤内から地下水を揚水して地盤の揚圧力を低下させかつ各水位センサ72による水位検知結果に基づいて各ポンプを自動制御して各ポンプによる揚水量をディープウェル毎に自動調整する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の鋼管矢板を地盤に打設して井筒を形成する工程と、
小口径ディープウェルを設置する工程と、
前記井筒の内部を所定深さに掘削する工程と、
前記井筒の内部に水を満たした状態で、後工程で施工される底盤コンクリートの側面に対応する前記鋼管矢板の高さ位置に多数本のスタッドを前記井筒の内部側に突出するように水中スタッド溶接により取り付ける工程と、
前記井筒の底部に鉄筋組立体を設置する工程と、
前記井筒の底部にコンクリートを打設することで前記底盤コンクリートを構築し前記スタッドと固着する工程と、
前記井筒の内部の水を排水する工程と、
前記底盤コンクリートの上にコンクリートを打設し頂盤コンクリートを設置する工程と、
前記頂盤コンクリートを所定期間養生する工程と、を含み、
前記底盤コンクリートは、前記鉄筋組立体が埋め込まれることで補強されるとともに、その側面全体において前記鋼管矢板からコンクリート内部へ延びて固着した前記多数本のスタッドにより支持され、
複数の前記小口径ディープウェルを設置するための各配管を前記井筒の内周上から前記地盤内まで延びるように配置するとともに前記ディープウェル毎に地下水位を計測する水位センサと地下水の揚水のためのポンプとを設置し、
遅くとも前記掘削工程の開始時期から、前記各小口径ディープウェルの各ポンプにより前記地盤内から地下水を揚水して前記地盤の揚圧力を低下させるとともに、前記各水位センサによる水位検知結果に基づいて前記各ポンプを自動制御することで前記各ポンプによる揚水量を前記小口径ディープウェル毎に自動調整する、鋼管矢板井筒基礎構築方法。
【請求項2】
前記底盤コンクリートは水中不分離性コンクリートを用いて設置される請求項1に記載の鋼管矢板井筒基礎構築方法。
【請求項3】
前記スタッドは、頭付きスタッドである請求項1または2に記載の鋼管矢板井筒基礎構築方法。
【請求項4】
前記スタッドの本数と設置位置は、前記スタッド1本当たりの許容せん断力および負担する荷重面積に応じて設定される請求項1~3のいずれかに記載の鋼管矢板井筒基礎構築方法。
【請求項5】
前記各小口径ディープウェルによる前記揚圧力を低下させる工程を、前記掘削工程の開始から前記頂盤コンクリートの養生工程の完了まで行う請求項1~4のいずれかに記載の鋼管矢板井筒基礎構築方法。
【請求項6】
前記地盤は、不透水層と、前記不透水層の下に被圧帯水層と、を有し、
前記各小口径ディープウェルは、前記井筒内から前記被圧帯水層まで延びて設置され、
前記各小口径ディープウェル内の水位が計測される請求項1~5のいずれかに記載の鋼管矢板井筒基礎構築方法。
【請求項7】
前記複数の小口径ディープウェルを含む多数の小口径ディープウェルにより揚水試験工を行い、その揚水試験結果に基づいて前記各小口径ディープウェルの揚水により前記地盤内の地下水位が所定の水位低下位置以下になるように前記小口径ディープウェルの数および平面配置位置を決定する請求項1~6のいずれかに記載の鋼管矢板井筒基礎構築方法。
【請求項8】
前記複数の小口径ディープウェルとは別に、前記井筒内の地下水位を測定するために複数の観測用ディープウェルを設置し、前記揚水試験工において前記観測用ディープウェルに設置した水位センサにより前記地下水位を測定する請求項7に記載の鋼管矢板井筒基礎構築方法。
【請求項9】
前記複数の小口径ディープウェルとは別に、前記井筒外に前記各小口径ディープウェルよりも口径の大きい大口径ディープウェルを設置する請求項1~8のいずれかに記載の鋼管矢板井筒基礎構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤に橋脚等の基礎を構築するための鋼管矢板井筒基礎構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、橋脚の基礎工法として鋼管矢板井筒基礎工法が公知である。この鋼管矢板井筒基礎工法は、多数の鋼管矢板を井筒状に並べ水底に打設して井筒を形成し、井筒内部を所定の深さに掘削してから、その底部にコンクリートを打設し底盤コンクリートを形成し、その上に頂盤コンクリートを形成し、頂盤コンクリートの上に橋脚躯体を構築するものである。この場合、井筒基礎を構築した際に地盤内の被圧地下水による揚圧力に起因して掘削底面の浮き上がりが生じ、地盤内の難水層が破壊され鋼管矢板の安定性が失われる、所謂、盤ぶくれ対策のため井筒内部に水を満たした状態で井筒内部の掘削や底盤コンクリートの打設を行っている。
【0003】
上記盤ぶくれ対策として、特許文献1は、長尺な鋼板の長手方向一端部の一面に複数本の鉄筋が突設された定着鋼材を、長手方向の鉄筋側を鋼井筒の底部側に向け且つ鋼板の他面を鋼矢板側に向けて当該鋼井筒内の隣合う鋼矢板間に配置してから、鋼井筒内に底盤コンクリートを打設する施工方法を開示する。また、非特許文献1は、井筒内部の底部にメッシュ状の鉄筋を設置してからコンクリート打設し鉄筋補強による底盤コンクリートとすることを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-42169号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「四国横断自動車道 吉野川大橋工事」KAJIMA ダイジェスト(2021 02) https://www.kajima.co.jp/news/digest/feb_2021/site/index.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
地盤が不透水層と被圧帯水層とからなり被圧地下水の水圧が高い、鋼管矢板と地盤との摩擦力が想定より小さい、井筒内部の掘削深さが深い、などのために、鉄筋補強による底盤コンクリートでも充分な盤ぶくれ対策とならない場合が生じ、また、井筒全体の浮き上がりのおそれも生じる場合もある。また、特許文献1のような長手方向の鉄筋側を井筒の底部側に向けて定着鋼材を配置する方法を鉄筋補強による底盤コンクリートに適用すると、定着鋼材がメッシュ状鉄筋と干渉してしまい、かかる適用は不可能である。
【0007】
上述のような盤ぶくれ対策として、鋼管矢板長を長くすることは、施工前に決定する必要があり、また、地盤の支持層によっては採用できない場合がある。また、地下水位低下工法は、土質条件が試験と異なる場合には効果が期待できないことがあるため、実施工までその効果が不明の場合がある。また、地盤改良または底盤コンクリートの増厚は、鋼管矢板支保の見直しが必要で、工法自体が非常に高価となってしまう。
【0008】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、鋼管矢板井筒基礎を構築する際に、地盤の被圧地下水による揚圧力が高くなっても、盤ぶくれおよび井筒全体の浮き上がりを効率的にかつ低コストで防止可能な鋼管矢板井筒基礎構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための鋼管矢板井筒基礎構築方法は、多数の鋼管矢板を地盤に打設して井筒を形成する工程と、小口径ディープウェルを設置する工程と、前記井筒の内部を所定深さに掘削する工程と、前記井筒の内部に水を満たした状態で、後工程で施工される底盤コンクリートの側面に対応する前記鋼管矢板の高さ位置に多数本のスタッドを前記井筒の内部側に突出するように水中スタッド溶接により取り付ける工程と、前記井筒の底部に鉄筋組立体を設置する工程と、前記井筒の底部にコンクリートを打設することで前記底盤コンクリートを構築し前記スタッドと固着する工程と、前記井筒の内部の水を排水する工程と、前記底盤コンクリートの上にコンクリートを打設し頂盤コンクリートを設置する工程と、前記頂盤コンクリートを所定期間養生する工程と、を含み、
前記底盤コンクリートは、前記鉄筋組立体が埋め込まれることで補強されるとともに、その側面全体において前記鋼管矢板からコンクリート内部へ延びて固着した前記多数本のスタッドにより支持され、
複数の前記小口径ディープウェルを設置するための各配管を前記井筒の内周上から前記地盤内まで延びるように配置するとともに前記ディープウェル毎に地下水位を計測する水位センサと地下水の揚水のためのポンプとを設置し、遅くとも前記掘削工程の開始時期から、前記各小口径ディープウェルの各ポンプにより前記地盤内から地下水を揚水して前記地盤の揚圧力を低下させるとともに、前記各水位センサによる水位検知結果に基づいて前記各ポンプを自動制御することで前記各ポンプによる揚水量を前記小口径ディープウェル毎に自動調整する。
【0010】
この鋼管矢板井筒基礎構築方法によれば、井筒内の地盤揚圧力を調整しつつ井筒の内部に水を満たした状態で、鋼管矢板に多数本のスタッドを水中スタッド溶接により取り付け、井筒の底部に鉄筋組立体を設置し、井筒の底部にコンクリートを打設して底盤コンクリートを構築しスタッドと固着することで、底盤コンクリートは、鉄筋組立体が埋め込まれて曲げ応力に対し補強され、かつ、その側面全体で鋼管矢板からコンクリート内部へ延びて固着した多数本のスタッドにより支持されてせん断力に抵抗することにより、掘削底面の盤ぶくれを防止でき、また、井筒全体の浮き上がりの防止に寄与できる。
【0011】
また、複数の小口径ディープウェルを設置し、小口径ディープウェル毎に地下水位を計測する水位センサを配置し、遅くとも掘削工程の開始時期から、小口径ディープウェルの各配管を通して各ポンプにより地盤内から地下水を揚水して井筒に対する揚圧力を井筒の抵抗力以下に低下させることで、掘削底面の盤ぶくれおよび井筒全体の浮き上がりをさらに防止することができる。しかも各水位センサによる水位検知結果に基づいて各ポンプを自動制御することで各ポンプによる揚水量を小口径ディープウェル毎に自動調整し、地下水位が所定の目標水位低下位置以下になるようにするので、井筒内の地盤揚圧力を低下させることができるととともに各小口径ディープウェルによる揚水量の超過を未然に防止できる。
【0012】
上記鋼管矢板井筒基礎構築方法において、前記底盤コンクリートは水中不分離性コンクリートを用いて設置されることが好ましい。
【0013】
前記スタッドは、頭付きスタッドであることが好ましい。
【0014】
前記スタッドの本数と設置位置は、前記スタッド1本当たりの許容せん断力および負担する荷重面積に応じて設定されることが好ましい。
【0015】
前記各小口径ディープウェルによる前記揚圧力を低下させる工程を、前記掘削工程の開始から前記頂盤コンクリートの養生工程の完了まで行うことで、掘削底面の盤ぶくれおよび井筒全体の浮き上がりの防止を確実に図ることができる。
【0016】
前記地盤は、不透水層と、前記不透水層の下に被圧帯水層と、を有し、前記各小口径ディープウェルは、前記井筒内から前記被圧帯水層まで延びて設置され、前記各小口径ディープウェル内の水位が計測されることが好ましい。
【0017】
前記複数の小口径ディープウェルを含む多数の小口径ディープウェルにより揚水試験工を行い、その揚水試験結果に基づいて前記各小口径ディープウェルの揚水により前記地盤内の地下水位が所定の水位低下位置以下になるように前記小口径ディープウェルの数および平面配置位置を決定することが好ましい。かかる揚水試験によれば、実際の施工位置に設置した複数の小口径ディープウェルにより行うので、その揚水効果を確実に把握できる。
【0018】
前記複数のディープウェルとは別に、井筒内の地下水位を測定するために複数の観測用ディープウェルを設置し、前記揚水試験工において前記観測用ディープウェルに設置した水位センサにより前記地下水位を測定することが好ましい。かかる複数の観測用ディープウェルにより井筒全体における地下水位の分布状況を把握することができる。
【0019】
前記複数の小口径ディープウェルとは別に、前記井筒外に前記各小口径ディープウェルよりも口径の大きい大口径ディープウェルを設置することが好ましい。大口径ディープウェルは、井筒を含む周囲の地盤の地下水位を観測し制御するために使用される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の鋼管矢板井筒基礎構築方法によれば、鋼管矢板井筒基礎を構築する際に、地盤の被圧地下水による揚圧力が高くなっても、底盤コンクリートが鉄筋組立体により補強されかつその側面全体で鋼管矢板からコンクリート内部へ延びて固着した多数本のスタッドにより支持されるとともに、井筒内に配置した小口径ディープウェルで地下水井が所定の目標水位低下位置以下となるように揚水するので、掘削底面の盤ぶくれおよび井筒全体の浮き上がりを効率的にかつ低コストで確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態による鋼管矢板井筒基礎構築方法における地盤に打設した多数の鋼管矢板からなる井筒を示す平面図(a)およびその要部を示す平面図(b)である。
図2図1(a)の井筒および地盤をII-II線方向に切断して見た概略的な縦方向断面図である。
図3図1図2の鋼管矢板に配置された多数のスタッドを示す平面図(a)、側面図(b)および正面図(c)である。
図4図1(a)の各井筒の底部に配置された鉄筋組立体を示す平面図である。
図5図1(a)と同様の平面図であって、井筒内における複数の小口径のディープウェルおよび観測用ディープウェルの配置を示す図である。
図6】本揚水試験における時間と地下水位との関係を示すグラフである。
図7】本実施形態による鋼管矢板井筒基礎構築方法の各工程S01~S17を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。図1は本実施形態による鋼管矢板井筒基礎構築方法における地盤に打設した多数の鋼管矢板からなる井筒を示す平面図(a)およびその要部を示す平面図(b)である。図2は、図1(a)の井筒および地盤をII-II線方向に切断して見た概略的な縦方向断面図である。
【0023】
図1(a)(b)のように、多数の鋼管矢板11を平面上長円状に並べて地盤に打設し、各鋼管矢板11,11間で継ぎ手処理を行い、それぞれ継手11aを形成し鋼管矢板11同士を連結することで井筒10を構築する。なお、継手11aによって各鋼管矢板11間に凹部11b(図2)が生ずる。井筒10は、平面全体として、互いに平行な直線部12,13と両端の円弧部14,15とから長円状になっている。また、井筒10は、内部に直線状に打設された複数の鋼管矢板11による2列の隔壁16,17により仕切られており、円弧部14と隔壁16とからなる端部井筒10A,隔壁16,17間の中央井筒10B,円弧部15と隔壁17とからなる端部井筒10Cとから構成される。
【0024】
図2のように、地盤G0は、上部から順に、沖積砂質粘性土層(ASC)と沖積粘性土層(AC1)とからなる不透水層G1と、沖積砂礫層(Ag)からなる被圧帯水層G2と、洪積砂礫層(Dg1)と、洪積粘性土層(Dc2)と、を有する。被圧帯水層G2は、地下水で飽和された透水性のよい地盤であり、この被圧帯水層G2から上方へ比較的大きな水圧(揚圧力)が作用している。鋼管矢板11は、不透水層G1に打設されている。
【0025】
井筒10の内部は掘削されてから底盤コンクリート21および頂盤コンクリート25がコンクリート打設により設置されるが、これらの工程中に被圧帯水層G2からの揚水圧に起因して、掘削底面の盤ぶくれや井筒10の全体の浮き上がりのおそれがあるため、次のような対策(1)(2)を施している。
【0026】
(1)底盤コンクリート21は、平面状に複数段の鉄筋組立体を埋め込むとともに、鋼管矢板11に井筒内に多数のスタッドを水中溶接し、底盤コンクリートとスタッドとを一体化する。
(2)井筒内に複数の小口径のディープウェルを設置し、各ポンプにより地盤内から地下水を揚水して井筒に対する揚圧力を低下させるとともに、水位センサにより各ポンプを自動制御し各ポンプによる揚水量を自動調整する。
【0027】
底盤コンクリート21について図3図4を参照して説明する。図3は、図1図2の鋼管矢板に配置された多数のスタッドを示す平面図(a)、側面図(b)および正面図(c)である。図4図1(a)の各井筒の底部に配置された鉄筋組立体を示す平面図である。
【0028】
図3(a)~(c)のように、鋼管矢板11の外周面11cに複数のスタッド23を円周方向および縦方向に均等に水中スタッド溶接により取り付ける。スタッド23は、頭部が大径となった頭付きスタッドを用い、JIS B1198(頭付スタッド)の規格を満たすものである。各スタッド23は、図3(a)のように、鋼管矢板11の外周面11c上の位置にその法線方向に向くように取り付けられ、全体として井筒10の内部に向けて突出しているが、図3(b)の破線で示す後工程で設置される鉄筋組立体22A~22C(図4)の側面と干渉しない長さとなっている。また、各スタッド23は、鉄筋組立体22A~22Cの側面の鉛直方向略中央部に対応する鋼管矢板11の高さ位置に取り付けられる。
【0029】
底盤コンクリート21のスタッド23は、スタッド1本当たりの許容せん断力から必要な支点反力が得られるように必要本数を算出し、その取り付け位置は負担する荷重面積に応じて設定される。スタッド23は、井筒10A~10Cの内部に水を満たした状態で取り付けられ、水中スタッド溶接による施工となるため、「港湾鋼構造物腐食・補修マニュアル」(沿岸技術センター 2009年発行)に基づいて許容せん断力は70%に低減される。なお、ねじ付きスタットの場合、必要なせん断抵抗力を得るためにはスタッド長が長くなり、井筒内に鉄筋を配筋する際に支障となるのに対し、頭付きスタッドであればスタッド長が短くとも必要なせん断抵抗力を得られるとともに、水中溶接時の作業性が良い。
【0030】
図4のように、スタッド23は、井筒10A~10Cの交点に位置する鋼管矢板11Xにはスタッドが負担すべき荷重面積がほとんどないため取り付け不要とし、鋼管矢板11X以外の各鋼管矢板11に取り付けられ、隔壁16,17を構成する鋼管矢板11には、180度反対の両側に取り付けられる。スタッド23の取り付け後、各井筒10A~10Cの平面形状に対応した平面形状の鉄筋組立体22A~22Cが各井筒10A~10C内に設置されてから、コンクリートが打設されて底盤コンクリート21が構築される。底盤コンクリート21は、水中に多数のスタッド23と鉄筋組立体22A~22Cが設置された状態で打設されるため、充填性に優れた水中不分離性コンクリートを用いる。また、鉄筋組立体22A~22Cは、陸上の工場やヤードにおいて、縦筋と横筋とが所定間隔でメッシュ状に配置され連結されて組み立てられる。
【0031】
以上のように、井筒10A~10Cの底部に設置される底盤コンクリート21は、鉄筋組立体22A~22Cが埋め込まれることで揚圧力による曲げ応力に対して補強されるとともに、図3(b)のように底盤コンクリート21の側面全体において鋼管矢板11からコンクリート内部へ延びて底盤コンクリート21と固着した多数本のスタッド23により支持されてせん断力に抵抗し揚圧力に抵抗することで、井筒内底面の盤ぶくれを防止することができ、また、井筒10全体の浮き上がりの防止に寄与することができる。
【0032】
次に、小口径のディープウェルによる井筒・底盤コンクリートに対する揚圧力の低下制御について図2図5を参照して説明する。図5は、図1(a)と同様の平面図であって、井筒内における複数の小口径ディープウェルおよび観測用ディープウェルの配置を示す図である。
【0033】
図2の破線で示すように、小口径の配管34aを鋼管矢板11の内周上の凹部11b(図4参照)から地盤G0内へ沖積砂礫層(Ag)からなる被圧帯水層G2まで打設することで小口径ディープウェル34を設置する。配管34aは、先端近傍が有孔管70から構成され、先端近傍に深井戸ポンプ71が設置される。また、ディープウェル34内の水位を検知する水位センサ72が設置される。ディープウェル34は深井戸ポンプ71により被圧帯水層G2内の地下水を揚水するようになっている。なお、配管34aを鋼管矢板11の内周の凹部11bに設置したのは、頂盤コンクリート25の鉄筋と干渉しないようにするため、また、鋼管矢板11の打設後にでも配管34aの打設ができるからである。
【0034】
図5のように、井筒10全体で、図2の配管34aと同様の複数の配管が打設されることで複数の小口径ディープウェル31~40が設置され、図2と同様に、各深井戸ポンプにより被圧帯水層G2内の地下水を揚水し、その際の各水位センサにより各小口径ディープウェル31~40内の水位を測定する。なお、小口径ディープウェル31~40の口径は、鋼管矢板11の継手11aの凹部11bに収まる範囲の口径であればよく、本実施形態では径125mmの配管を用い、また、深井戸ポンプとしては、吐出口口径50mmのディープウェル用水中ポンプを使用する。
【0035】
また、複数の鋼管矢板11による直線部12の中央から離れた井筒外の位置に常用の大口径ディープウェル61,複数の鋼管矢板11による直線部13の中央から離れた井筒外の位置に非常用の大口径ディープウェル62がそれぞれ設置されている。常用、非常用の大口径ディープウェル61,62は井筒10を含む周囲の地盤の地下水位を観測し制御するようになっている。
【0036】
次に、図5の複数の小口径ディープウェル31~40により被圧帯水層G2から揚水し水位が低下することを確認するために行った試験工による揚水試験について説明する。
【0037】
揚水試験に先立って、図2の破線で示すように、小口径の配管55aを鋼管矢板11の内周上の凹部11b(図4参照)から地盤G0内へDc2層に達するように打設することで小口径の観測用ディープウェル55を設置する。図5のように、井筒10全体で、図2の配管55aと同様の複数の配管が周方向に間隔をあけて凹部11bに打設されることで複数の小口径の観測用ディープウェル51~55が設置され、各水位センサにより地下水位を自動計測できるようになっている。
【0038】
図5の複数の小口径ディープウェル31~40を用いて各深井戸ポンプにより被圧帯水層G2(Ag層)から揚水し、複数の観測用ディープウェル51~55で各水位センサにより地下水位を連続的に自動計測するとともに小口径ディープウェル31~40での揚水量を測定することで揚水試験を行った。図6に揚水試験結果である時間と地下水位との関係を示す。また、次の表1に各小口径ディープウェル31~40における平均揚水量(L/min)および最終ディープウェル31~40内水位を示す。
【0039】
【表1】
【0040】
図6に示す揚水試験結果から、複数の小口径ディープウェル31~40による揚水により、観測用ディープウェル51~53,55での水位が目標水位低下位置以下まで低下したことが分かる。なお、観測用ディープウェル54は、水位低下量が他の観測用ディープウェルに比べに少なく、細粒分により目詰まりを起こしているものと想定された。このため、図5の観測用ディープウェル54に隣接する小口径ディープウェル54’内の水位を手動計測した結果、揚水開始から30.5時間経過した時点で目標のTP(基準標高)-8.8mまで水位が低下し、目標水位低下位置に達していた。上述のように、複数の観測用ディープウェル51~55により井筒10の全体における地下水位の分布状況を把握することができる。
【0041】
また、各小口径ディープウェル31~40の中で、表1のように、揚水量が多く水位低下が少ない小口径ディープウェル33,35等は集水機能が高く、また、揚水量が小さく水位低下が大きい小口径ディープウェル32,38等は集水機能が小さいことを表している。このため、揚水試験の観測中は深井戸ポンプの排水管にバルブを取り付け、バルブ調整によって揚水量を調整した。揚水量については各小口径ディープウェル31~40毎に大きくばらつき、揚水量を常時コントロールするため、図2の水位センサ72と同様の水位センサを各小口径ディープウェル31~40に設置し、小口径ディープウェル内水位による自動運転とする。各小口径ディープウェル31~40による揚水量が超過することで発生する、小口径ディープウェル内水位の低下しすぎによるポンプの故障や、小口径ディープウェル内への土砂引き込による目詰まりを未然に防止するためである。
【0042】
以上の試験工の結果から、井筒10の範囲全体において複数の小口径ディープウェル31~40により被圧帯水層G2から揚水することで被圧帯水層G2の地下水位を目標水位低下位置以下まで低下させ、被圧帯水層G2の揚圧力を低下させることが可能と判断できる。また、複数の小口径ディープウェル31~40の集水機能にばらつきがあり、揚水量を各小口径ディープウェル31~40間で調整するため、各小口径ディープウェル31~40に設置した水位センサの水位検知結果に基づいて各小口径ディープウェル31~40の深井戸ポンプの稼働を自動制御する。上記揚水試験は、実際の施工位置に設置した複数の小口径ディープウェル31~40により行い、試験工と実施工との条件が一致するので、その揚水効果を確実に把握できる。
【0043】
井筒10の内部の掘削工程の開始から頂盤コンクリート25の養生工程の完了まで、上述のように、複数の小口径ディープウェル31~40の各深井戸ポンプにより被圧帯水層G2から地下水を揚水して被圧帯水層G2の揚圧力を井筒10の抵抗力以下にまで低下させることで井筒10内の盤ぶくれおよび井筒10全体の浮き上がりを防止することができる。このとき、各水位センサによる水位検知結果に基づいて各ポンプを自動制御することで各ポンプによる揚水量を小口径ディープウェル31~40毎に自動調整し、これにより、各小口径ディープウェル31~40による揚水量の超過を未然に防止できる。
【0044】
なお、図5において、図2の配管34aと同様の配管を多数設置し小口径ディープウェル31~40を含む多数の揚水用小口径ディープウェルを設置し、上述のような揚水試験を実施し、その試験結果に基づいて多数の揚水用小口径ディープウェルの中から、複数の小口径ディープウェル31~40を選定した。複数の小口径ディープウェル31~40は、井筒10の多数の鋼管矢板11に沿ってほぼ等間隔に配置されているが、若干ずれた箇所がある。
【0045】
次に、本実施形態による鋼管矢板井筒基礎構築方法の各工程S01~S17について図7のフローチャートを参照して説明する。
【0046】
鋼管矢板井筒基礎を構築する対象エリアに、まず、仮橋を設置し(S01)、 次に、図1図2のように、地盤G0に多数の鋼管矢板11を打設し(S02)、各鋼管矢板11,11間の継ぎ手処理を行い(S03)、各井筒10A~10Cを構築し、全体として平面上長円状の井筒10とする。
【0047】
次に、図2の配管34aを鋼管矢板11の内周上の継手の凹部11bから地盤G0内の被圧帯水層G2まで打設し、小口径ディープウェル34を設置するようにして、図2図5のように、複数の小口径ディープウェル31~40を設置する(S04)。各小口径ディープウェル31~40により被圧帯水層G2から揚水し被圧帯水層G2の地下水位を目標水位低下位置以下まで低下させ、被圧帯水層G2の揚圧力を低下させるとともに、各小口径ディープウェル31~40の揚水量を、各小口径ディープウェル31~40の水位センサの水位検知結果に基づいて各深井戸ポンプを自動制御することで、自動調整する。かかる揚圧力および揚水量の制御・調整を、頂盤コンクリートの打設後の養生期間経過後まで続ける。なお、図6や表1のような揚水試験は、本工程S04において行い、図5のような複数の小口径ディープウェル31~40の設置数および各位置を決める。
【0048】
次に、各井筒10A~10Cの内部を所定深さまで一次掘削し(S05)、鋼管矢板11に支保工(図示省略)を取り付ける(S06)。次に、各井筒10A~10Cの内部をさらに所定深さまで二次掘削する(S07)。なお、一次掘削工程S05の開始前から後工程の底盤コンクリート21の打設(S11)の完了まで各井筒10A~10Cの内部には、井筒10内の盤ぶくれ防止のため一定の水深を確保するように水が満たされている。
【0049】
次に、2次掘削による掘削床基面に敷砂を所定の高さまで投入し敷砂層20(図2)を形成し、その基面の均しを行う(S08)。なお、後工程で打設される底盤コンクリート21の厚さを確実に確保するため、敷砂投入時に井筒10A~10C内からレッドを突きながら敷砂の投入高さを管理し、また、敷砂層20の基面整正を行う。
【0050】
次に、図3(a)~(c)のように、多数のスタッド23を底盤コンクリート21の側面に対応する鋼管矢板11の高さ位置に水中スタッド溶接により取り付ける(S09)。なお、スタッド取り付け前に各鋼管矢板11のスタッド取り付け位置にマーキングを行う。
【0051】
次に、図4の鉄筋組立体22A~22Cをクレーンで井筒10A~10C内の水中の鉄筋設置位置まで吊り下げて据え付ける(S10)。なお、鉄筋組立体22A~22Cは、施工現場近くのヤードで組み立てる。
【0052】
次に、井筒10A~10C内の水中に水中不分離性コンクリートを打設し、底盤コンクリート21を形成する(S11)。底盤コンクリート21は、井筒10A~10Cの3箇所に分割して打設する。
【0053】
次に、井筒10A~10C内を排水し、ドライアップしてから(S12)、頂盤コンクリート25と鋼管矢板11との結合のために、次工程で施工される頂盤コンクリート25の側面に対応する鋼管矢板11の高さ位置に多数本のスタッドをスタッド溶接により取り付ける(S13)。かかるスタッド溶接は気中施工である。
【0054】
次に、井筒10A~10C内に各鉄筋組立体を据え付けてから、コンクリートを打設し、井筒10A~10C内に頂盤コンクリート25を形成する(S14)。
【0055】
次に、頂盤コンクリート25の打設後、所定期間養生し所定の強度が発現してから、工程S05で開始した小口径ディープウェル31~40による揚水圧制御・揚水量調整を停止し、小口径ディープウェル31~40を撤去する(S15)。次に、鋼管矢板11から支保工を撤去する(S16)。
【0056】
次に、種々の工程を経て頂盤コンクリート25の上に橋脚躯体を設置し(S17)、仮橋撤去等の工程を経て鋼管矢板井筒基礎構築の工程が完了する。上述のようにして、本実施形態による鋼管矢板井筒基礎構築方法を実施することができる。
【0057】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、本実施形態では、複数の小口径ディープウェル毎に設けた水位センサで地下水位を計測したが、本発明は、これに限定されず、図5の複数の観測用ディープウェルの水位センサを用いてもよく、また、これらの観測用ディープウェルの水位センサを併用してもよい。
【0058】
また、図2では原地盤が水底にあるように記載したが、本発明はこれに限定されず、陸上地盤にも適用できることはもちろんである。
【0059】
また、図7の継手処理工程(S03)と小口径ディープウェルの設置工程(S04)との間に、鋼管矢板11の先端部の補強のためにボーリングマシンによる高圧噴射攪拌工法により井筒下方の地盤改良を行うようにしてもよい。かかる地盤改良は、掘削底面の盤ぶくれ防止対策の1つとなる。
【0060】
また、本実施形態では、小口径ディープウェルは、径125mmの小口径の配管を用いたが、本発明は、これに限定されず、図5の大口径の常用ディープウェル61に用いた配管(径300~400mm)よりも小口径でかつ鋼管矢板11の継手11aの凹部11bに設置可能な口径の配管によるディープウェルであればよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、鋼管矢板井筒基礎を構築する際に、地盤の被圧地下水による揚圧力が高くなっても、掘削底面の盤ぶくれおよび井筒全体の浮き上がりを効率的にかつ低コストで確実に防止できるので、橋脚等の基礎を確実にかつ安定して構築することができる。
【符号の説明】
【0062】
10 井筒
10A 端部井筒
10B 中央井筒
10C 端部井筒
11 鋼管矢板
11a 継手
11b 凹部
11c 外周面
12,13 直線部
14,15 円弧部
16,17 隔壁
20 敷砂層
21 底盤コンクリート
22 鉄筋組立体
22A~22C 鉄筋組立体
23 スタッド
25 頂盤コンクリート
31~40 小口径ディープウェル
34a 配管
51~55 観測用ディープウェル
55a 配管
61,62 大口径ディープウェル
70 有孔管
71 深井戸ポンプ
72 水位センサ
G0 水底地盤
G1 不透水層
G2 被圧帯水層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7