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特開2023-8622蓄電池用可飽和リアクトル装置、蓄電池装置、無停電電源装置、及び蓄電池の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008622
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】蓄電池用可飽和リアクトル装置、蓄電池装置、無停電電源装置、及び蓄電池の制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 1/02 20060101AFI20230112BHJP
   H02J 11/00 20060101ALI20230112BHJP
   H02J 9/00 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
H02J1/02
H02J11/00
H02J9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112324
(22)【出願日】2021-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】520320446
【氏名又は名称】中部電力パワーグリッド株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124420
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 清隆
(72)【発明者】
【氏名】杉本 敏文
(72)【発明者】
【氏名】平野 正義
【テーマコード(参考)】
5G015
5G165
【Fターム(参考)】
5G015FA06
5G015GB01
5G015JA10
5G015JA51
5G015KA05
5G165AA05
5G165CA01
5G165DA06
5G165EA06
(57)【要約】
【課題】浮動充電電流のゼロクロスが抑制され、蓄電池の寿命が延伸化される蓄電池用可飽和リアクトル装置、蓄電池装置、無停電電源装置、及び蓄電池の制御方法を提供する。
【解決手段】蓄電池用の可飽和リアクトル装置12は、所定値を超える電流に対して飽和するリアクトルである第1リアクトル24及び第2リアクトル26と、第1リアクトル24及び第2リアクトル26の何れかに接続され、整流器10に対して接続される整流器側の端子T2,T3と、第1リアクトル24及び第2リアクトル26の何れかに接続され、蓄電池14に対して接続される蓄電池側の端子T4~T6と、を備えている。蓄電池装置1は、上記の可飽和リアクトル装置12と、蓄電池14と、を備えている。無停電電源装置は、上記の蓄電池装置1を備えている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定値を超える電流に対して飽和するリアクトルである可飽和リアクトルと、
前記可飽和リアクトルに接続され、整流器に対して接続される整流器側端子と、
前記可飽和リアクトルに接続され、蓄電池に対して接続される蓄電池側端子と、
を備えている
ことを特徴とする蓄電池用可飽和リアクトル装置。
【請求項2】
前記所定値は1A以上に設定される
ことを特徴とする請求項1に記載の蓄電池用可飽和リアクトル装置。
【請求項3】
前記可飽和リアクトルにおける飽和前のリアクトルは、1mH以上に設定される
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の蓄電池用可飽和リアクトル装置。
【請求項4】
前記可飽和リアクトルにおける飽和前のリアクトルが、複数、一部を選択である状態で設定される
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れかに記載の蓄電池用可飽和リアクトル装置。
【請求項5】
前記整流器側端子及び前記蓄電池側端子の少なくとも一方が複数設けられ、接続する端子を選択することで前記可飽和リアクトルにおける飽和前のリアクトルが設定される
ことを特徴とする請求項4に記載の蓄電池用可飽和リアクトル装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5の何れかに記載の蓄電池用可飽和リアクトル装置と、
前記蓄電池と、
を備えている
ことを特徴とする蓄電池装置。
【請求項7】
請求項6に記載の蓄電池装置
を備えている
ことを特徴とする無停電電源装置。
【請求項8】
蓄電池の浮動充電時の直流電流以上に設定される所定値を超える電流に対して飽和するリアクトルである可飽和リアクトルを、前記リアクトルの大きさが前記浮動充電に重畳する交流電圧のピークピーク値を前記浮動充電時の直流電圧より小さく抑制するものに設定された状態で、整流器と蓄電池との間において直列に接続する
ことを特徴とする蓄電池の制御方法。
【請求項9】
前記可飽和リアクトルは、それぞれ端子を介して、前記整流器と前記蓄電池とに接続される
ことを特徴とする請求項8に記載の蓄電池の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池用可飽和リアクトル装置、蓄電池装置、無停電電源装置、及び蓄電池の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータ装置として、特開平1-274627号公報(特許文献1)に記載されたものが知られている。
この装置は、整流器(コンバータ)の直流電圧出力側に並列に接続された蓄電池と、この蓄電池に直列に接続され、整流器の直流出力による蓄電池の充電時には充電電流に含まれるリップル成分を抑制し、蓄電池の放電時には所定値以上の放電電流で飽和するリアクトルを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1-274627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の装置では、充電電流に含まれるリップル成分が抑制されるものの、浮動充電電流のゼロクロス(交番電流)は抑制されない。
図10は、従来の蓄電池の充電回路の説明図である。交流電源AEに整流器CNが接続され、整流器CNに、平滑リアクトルFR及び平滑コンデンサFCを介して、蓄電池SBが接続される。この充電回路により、蓄電池SBが浮動充電される。
交流電源AEがプラスである場合、実線矢印の方向に電流が流れ、半波のプラス電圧が蓄電池SB側に発生する。他方、交流電源AEがマイナスである場合、一点鎖線矢印の方向に電流が流れ、次の半波のプラス電圧が蓄電池SB側に発生する。
図11(A)に示されるように、半波のプラス電圧(実線SL)は、平滑リアクトルFR及び平滑コンデンサFCで平滑化され(太線TH)、連続的な直流電圧に近づけられるものの、一部隆起のある波形形状が残存する(太線THの部分BP)。
この電圧は、蓄電池SBに対し、元から存在する充電電圧(図11(B)の横軸線上の実線SM)との差分として印加される。すると、図11(C)に示されるように、蓄電池SB側の電流はゼロ点近傍の波形となり(太線TI)、半波のプラス電圧における隆起波形に基づいて交流重畳が現れて、蓄電池SB側の浮動充電用の電流に、正負交番即ちゼロクロスが生じる(点ZC1~ZC5)。
そして、本願の発明者の研究により、浮動充電電流のゼロクロスが蓄電池SBの寿命を短縮させる原因となることが今回分かった。
【0005】
そこで、本発明の主な目的は、浮動充電電流のゼロクロスが抑制され、蓄電池の寿命が延伸化される蓄電池用可飽和リアクトル装置、蓄電池装置、無停電電源装置、及び蓄電池の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、蓄電池用可飽和リアクトル装置において、所定値を超える電流に対して飽和するリアクトルである可飽和リアクトルと、前記可飽和リアクトルに接続され、整流器に対して接続される整流器側端子と、前記可飽和リアクトルに接続され、蓄電池に対して接続される蓄電池側端子と、を備えていることを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、上記発明において、前記所定値は1A以上に設定されることを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、上記発明において、前記可飽和リアクトルにおける飽和前のリアクトルは、1mH以上に設定されることを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、上記発明において、前記可飽和リアクトルにおける飽和前のリアクトルが、複数、一部を選択である状態で設定されることを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明は、上記発明において、前記整流器側端子及び前記蓄電池側端子の少なくとも一方が複数設けられ、接続する端子を選択することで前記可飽和リアクトルにおける飽和前のリアクトルが設定されることを特徴とするものである。
【0007】
請求項6に記載の発明は、蓄電池装置において、上記蓄電池用可飽和リアクトル装置と、前記蓄電池と、を備えていることを特徴とするものである。
請求項7に記載の発明は、無停電電源装置において、上記蓄電池装置を備えていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項8に記載の発明は、蓄電池の制御方法において、蓄電池の浮動充電時の直流電流以上に設定される所定値を超える電流に対して飽和するリアクトルである可飽和リアクトルを、前記リアクトルの大きさが前記浮動充電に重畳する交流電圧のピークピーク値を前記浮動充電時の直流電圧より小さく抑制するものに設定された状態で、整流器と蓄電池との間において直列に接続することを特徴とするものである。
請求項9に記載の発明は、上記発明において、前記可飽和リアクトルは、それぞれ端子を介して、前記整流器と前記蓄電池とに接続されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の主な効果は、浮動充電電流のゼロクロスが抑制され、蓄電池の寿命が延伸化される蓄電池用可飽和リアクトル装置、蓄電池装置、無停電電源装置、及び蓄電池の制御方法が提供されることである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る蓄電池装置のブロック図である。
図2図1における可飽和リアクトル装置の正面図である。
図3図1における可飽和リアクトル装置の上面図である。
図4図1における可飽和リアクトル装置の側面図である。
図5図1における可飽和リアクトル装置並びに整流器、蓄電池及びDC負荷の回路図である。
図6図5における第1リアクトル及び第2リアクトルに係るインダクタンスを示すグラフである。
図7】可飽和リアクトル装置による蓄電池の制御に関するフローチャートである。
図8】可飽和リアクトル装置を接続する前における蓄電池装置の回路についてのシミュレーションに係る図である。
図9】可飽和リアクトル装置を接続した後における蓄電池装置の回路についてのシミュレーションに係る図である。
図10】従来の蓄電池の充電回路の説明図である。
図11図10における(A)交流側の電圧,(B)元の浮動充電電圧,(C)直流側の電流の各時間変化を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施の形態の例が、その変更例と共に、適宜図面に基づいて説明される。
尚、当該形態は、下記の例及び変更例に限定されない。
【0012】
≪構成等≫
図1は、本発明に係る蓄電池装置1のブロック図である。
蓄電池装置1は、無停電電源装置に含まれる。蓄電池装置1は、変電所に設置される。尚、蓄電池装置1は、無停電電源装置に含まれなくても良く、又変電所以外に設置されても良い。
【0013】
蓄電池装置1は、入力端子2と、出力端子4と、ノード6と、整流器10と、蓄電池用の可飽和リアクトル装置12と、蓄電池14と、を備えている。
【0014】
入力端子2には、200V(ボルト)のAC電源(交流電源)が接続される。AC電源は、変電所の6.6kV(キロボルト)線に由来している。尚、AC電源は、200Vでなくても良いし、6.6kV線に由来していなくても良い。
出力端子4には、DC負荷D(直流負荷)が接続されている。DC負荷Dは、制御盤、通信装置、配電盤等である。尚、DC負荷Dは、これらに限られない。又、DC負荷Dは、単独の装置であっても良い。
入力端子2は、出力端子4に接続されている。ノード6は、入力端子2と出力端子4との間に介装されている。
【0015】
整流器10は、入力端子2とノード6との間に配置されている。整流器10は、入力端子2に入力された交流を直流に変換する。
可飽和リアクトル装置12は、ノード6に接続されている。可飽和リアクトル装置12は、所定値を超える電流に対して飽和するリアクトルを含む装置である。
蓄電池14は、充電可能な電池である。蓄電池14は、可飽和リアクトル装置12に接続されている。蓄電池14は、複数の鉛蓄電池である。尚、蓄電池14は、単数であっても良いし、鉛蓄電池以外であっても良い。
可飽和リアクトル装置12は、後付けされている。即ち、可飽和リアクトル装置12がなく、ノード6に蓄電池14が直接接続された蓄電池装置に対し、ノード6と蓄電池14との間に可飽和リアクトル装置12が取り付けられて、蓄電池装置1が形成される。
【0016】
図2は、可飽和リアクトル装置12の正面図である。図3は、可飽和リアクトル装置12の上面図である。図4は、可飽和リアクトル装置12の側面図である。図5は、可飽和リアクトル装置12並びに整流器10、蓄電池14及びDC負荷Dの回路図である。
可飽和リアクトル装置12は、ハウジング20と、端子台22と、可飽和リアクトルとしての第1リアクトル24と、可飽和リアクトルとしての第2リアクトル26と、を有している。
尚、可飽和リアクトルは、1つ設けられても良いし、3つ以上設けられても良い。
【0017】
ハウジング20は、金属製である。
端子台22は、6つの端子T1~T6を有している。端子台22は、ハウジング20の正面上部に取り付けられている。端子T1は、リード線Zによりハウジング20に接続され、接地されている。
【0018】
図6は、第1リアクトル24及び第2リアクトル26に係るインダクタンスを示すグラフである。
【0019】
第1リアクトル24は、可変インダクタンスであり、可飽和リアクトルである。第1リアクトル24は、スリット付き鉄心に巻かれたコイルである。第1リアクトル24のインダクタンスは、1.0mH(ミリヘンリー)と2.0mHとで切替可能である。第1リアクトル24のインダクタンスが1.0mHである場合、第1リアクトル24は4A(アンペア)の定格電流で飽和し、4Aを超える電流に対して第1リアクトル24のインダクタンスがほぼ0になる。第1リアクトル24のインダクタンスが2.0mHである場合、第1リアクトル24は2Aの定格電流で飽和し、2Aを超える電流に対して第1リアクトル24のインダクタンスがほぼ0になる。尚、第1リアクトル24は、3種以上のインダクタンスに変更可能であっても良いし、可変インダクタンスでなくても良い。又、第1リアクトル24は、スリット付き鉄心に巻かれたコイル以外のものであっても良い。
第1リアクトル24は、3つのリード線E1~E3を有しており、リード線E1は端子台22の端子T2に接続され、リード線E2は端子T4に接続され、リード線E3は端子T5に接続されている。端子T2は、整流器側端子である。端子T4,T5は、蓄電池側端子である。
【0020】
第2リアクトル26は、可飽和リアクトルである。第2リアクトル26は、スリット付き鉄心に巻かれたコイルである。第2リアクトル26のインダクタンスは、4A以下の電流において4.0mHである。第2リアクトル26は4Aを超える電流において飽和し、第2リアクトル26のインダクタンスがほぼ0になる。尚、第2リアクトル26は、可変インダクタンスであっても良い。又、第2リアクトル26は、スリット付き鉄心に巻かれたコイル以外のものであっても良い。
第2リアクトル26は、2つのリード線F1,F2を有しており、リード線F1は端子台22の端子T3に接続され、リード線F2は端子T6に接続されている。端子T3は、整流器側端子である。端子T6は、蓄電池側端子である。
【0021】
≪制御等≫
図7は、可飽和リアクトル装置12による蓄電池14の制御に関するフローチャートである。
上述の通り、可飽和リアクトル装置12における第1リアクトル24及び第2リアクトル26の各飽和開始電流値は、2A又は4Aであり、浮動充電時の直流電流値(1A)以上に設定されている(ステップS1)。
【0022】
又、可飽和リアクトル装置12が蓄電池装置1の回路において直列に接続される際、端子T2~T6の選択により、飽和前のリアクトルの大きさが設定される(ステップS2)。
即ち、可飽和リアクトル装置12において、1.0mHのインダクタンスを得る場合、端子台22の端子T2に整流器10からの配線が接続され、端子T4に蓄電池14への配線が接続される。
又、可飽和リアクトル装置12において、2.0mHのインダクタンスを得る場合、端子台22の端子T2に整流器10からの配線が接続され、端子T5に蓄電池14への配線が接続される。
更に、可飽和リアクトル装置12において、4.0mHのインダクタンスを得る場合、端子台22の端子T3に整流器10からの配線が接続され、端子T6に蓄電池14への配線が接続される。
飽和前のリアクトルの大きさは、蓄電池14の浮動充電に重畳する交流電圧のピークピーク値を浮動充電時の直流電圧より小さく抑制するものに設定される。
【0023】
そして、可飽和リアクトル装置12が、選択された端子T2~T6において、整流器10と蓄電池14の間で直列に接続される(ステップS3)。
【0024】
図8は、可飽和リアクトル装置12を接続する前における蓄電池装置1の回路についてのシミュレーションに係る図である。
当該シミュレーションにおいて、整流器10と蓄電池14との間における配線は、片道5m(メートル;往復10m)とされる。かような配線の長さは、変電所における平均的なものである。そして、この配線によるインダクタンスL2が、1[μH/m(マイクロヘンリー毎メートル)]×10[m]=10[μH]とされ、この配線による抵抗R4が、183[mΩ/km(ミリオーム毎キロメートル)]×0.01[km]=1.83[mΩ]とされる。
又、蓄電池14を浮動充電するための整流器10における直流の出力電圧V1は、2.15[V/セル]×52[セル]=111.8[V]とされ、浮動充電電流は1[A]とされる。即ち、蓄電池14は、鉛蓄電池で、52セルを有するものと設定され、又浮動充電における一般的な電流値が設定されている。かような蓄電池14のセル数は、変電所においてよく見られるものである。
加えて、蓄電池14の内部抵抗R1が、実態に基づき、0.45[mΩ/セル]×52[セル]=23.4[mΩ]とされる。又、蓄電池14は、シミュレーション上、コンデンサC1として設定され、その静電容量は1[F(ファラド)]とされる。
【0025】
更に、この直流の出力電圧V1に重畳するリップル電圧e1は、整流器10において1V(ピークピーク値)とされ、リップル電圧e1の周波数は360Hzとされている。重畳するリップル電圧e1(交流成分)は、実際には、整流器10で生じるものの他、デジタル保護制御盤電源装置等のインバータ回路からの流入によるものがある。
リップルは電圧として現れ、電流は電源側電圧と蓄電池電圧との差分で生じることから、蓄電池14に対する電流は、ゼロクロスになり易い。リップル電圧e1の大きさは、浮動充電時に重畳して実際に現れたもの(測定値)を参考に設定されている。
ゼロクロス電流は、蓄電池14の陽極(鉛部)の剥離の原因となり、蓄電池14の寿命を短縮させる原因となる。ゼロクロス電流により、蓄電池14において短時間で充放電が繰り返されることとなり、陽極(鉛部)の体積の膨張及び収縮が短時間内に生じ、陽極剥離の進展に影響する。
他方、リップル電圧e1の周波数は、変電所用の蓄電池充電器において多用される3相全波整流(3相順ブリッジ,6相整流回路)に由来する。即ち、3相全波整流では、基本周波数(商用電源周波数が60Hzである地域では60Hz)の6倍の周波数に係る交流がリップル電圧e1として重畳することが分かっている。
尚、整流方式が単相混合ブリッジ、単相順ブリッジ、単相ブリッジである場合、基本周波数の2倍(120Hz)の交流が重畳する。又、3相混合ブリッジの場合、基本周波数の3倍(180Hz)の交流が重畳する。又、二重3相ブリッジの場合、基本周波数の12倍(720Hz)の交流が重畳する。
【0026】
かような図8に係るシミュレーションの結果、蓄電池14に対して、直流電圧に重畳する700mVのリップル電圧(ピークピーク値)が発生し、30Aのリップル電流(ピークピーク値)が発生する。
1Aの浮動充電電流に対し、30Aのリップル電流(ピークピーク値)が発生するため、蓄電池14に対する電流は、ゼロクロスする。
【0027】
図9は、可飽和リアクトル装置12を接続した後における蓄電池装置1の回路についてのシミュレーションに係る図である。
即ち、図8の回路に対し、可飽和リアクトル装置12に対応する、2mHの追加リアクトルL1と、10mΩの内部抵抗R3が追加されている。
【0028】
かような図9に係るシミュレーションの結果、蓄電池14に対して、直流電圧に重畳する5.2mVのリップル電圧(ピークピーク値)が発生し、0.22Aのリップル電流(ピークピーク値)が発生する。即ち、可飽和リアクトル装置12の取付により、リップル電流(ピークピーク値)が、30Aから0.22Aに低減する。
1Aの浮動充電電流に対し、0.22Aのリップル電流(ピークピーク値)が発生するため、蓄電池14に対する電流のゼロクロスは抑制される。
【0029】
即ち、図8に対応する状況の変電所において、可飽和リアクトル装置12が端子T2,T5を用いて取り付けられれば、蓄電池14に対する電流のゼロクロスは抑制され、蓄電池14の陽極剥離が抑制され、蓄電池14の寿命が延伸化される。
更に、停電時における、DC負荷Dのための蓄電池14からの電流は、浮動充電電流と比べて大きな電流(例えば10A以上)であり、可飽和リアクトル装置12(第1リアクトル24)の飽和による可飽和リアクトル装置12の導体化を生ずる。よって、可飽和リアクトル装置12による、停電時における蓄電池14の動作への影響は、抑制される。
又、可飽和リアクトル装置12では、状況に応じ、端子台22への接続態様を変えることで、追加されるリアクトルを1mHあるいは4mHに変えることができる。例えば、図8に対応する状況の変電所において、4mHの追加リアクトルが施されれば、2mH(図9)の場合の2倍の低減率において、リップル電流が低減される。
【0030】
≪作用効果等≫
以上の蓄電池装置1等は、次のような作用効果を奏する。
即ち、蓄電池用の可飽和リアクトル装置12は、所定値を超える電流に対して飽和するリアクトルである第1リアクトル24及び第2リアクトル26と、第1リアクトル24及び第2リアクトル26の何れかに接続され、整流器10に対して接続される整流器側の端子T2,T3と、第1リアクトル24及び第2リアクトル26の何れかに接続され、蓄電池14に対して接続される蓄電池側の端子T4~T6と、を備えている。
よって、可飽和リアクトル装置12が整流器10と蓄電池14とに対して接続されれば、浮動充電電流のゼロクロスが抑制され、蓄電池14の寿命が延伸化される。又、可飽和リアクトル装置12が独立した装置であるから、ゼロクロス抑制のための装置の導入が容易であり、既存の蓄電池装置に容易に導入可能である。更に、第1リアクトル24及び第2リアクトル26の飽和により、蓄電池14の放電動作への影響が抑制される。
【0031】
更に、第1リアクトル24及び第2リアクトル26が飽和する電流値は、何れも1A以上に設定される。又、可飽和リアクトルにおける飽和前のリアクトルは、1mH以上に設定される。
よって、可飽和リアクトル装置12は、普及した整流器10及び蓄電池14に対してより適合するものとなっている。
【0032】
加えて、第1リアクトル24及び第2リアクトル26における飽和前のリアクトルが、複数、一部を選択である状態で設定される。又、整流器側の端子T2,T3及び蓄電池側の端子T4~T6がそれぞれ複数設けられ、接続する端子T2~T6を選択することで飽和前のリアクトルが設定される。即ち、端子T2,T4の選択により飽和前のリアクトルが1mHに設定され、端子T2,T5の選択により飽和前のリアクトルが2mHに設定され、端子T3,T6の選択により飽和前のリアクトルが4mHに設定される。
よって、整流器10及び蓄電池14の少なくとも何れかの状態等に応じ、飽和前のリアクトルを調整することができる。
【0033】
一方、蓄電池装置1は、上記の可飽和リアクトル装置12と、蓄電池14と、を備えている。よって、蓄電池14の寿命が延伸化された蓄電池装置1が提供される。
他方、無停電電源装置は、上記の蓄電池装置1を備えている。よって、蓄電池14の寿命が延伸化された無停電電源装置が提供される。
【0034】
又、蓄電池14の制御方法では、蓄電池14の浮動充電時の直流電流以上に設定される所定値を超える電流に対して飽和するリアクトルである第1リアクトル24及び第2リアクトル26を、そのリアクトルの大きさが浮動充電に重畳する交流電圧のピークピーク値を浮動充電時の直流電圧より小さく抑制するものに設定された状態で、整流器10と蓄電池14との間において直列に接続する。よって、浮動充電電流のゼロクロスが抑制されて寿命が延伸化されるように蓄電池14が制御される。又、蓄電池14は、第1リアクトル24及び第2リアクトル26の飽和により、放電動作への影響が抑制されるように制御される。
更に、第1リアクトル24及び第2リアクトル26は、それぞれ端子T2~T6を介して、整流器10と蓄電池14とに接続される。よって、ゼロクロス抑制のための制御の導入が容易であり、既存の蓄電池装置に容易に導入可能である。
【符号の説明】
【0035】
1・・蓄電池装置(無停電電源装置)、10・・整流器、12・・(蓄電池用)可飽和リアクトル装置、14・・蓄電池、24・・第1リアクトル(可飽和リアクトル)、26・・第2リアクトル(可飽和リアクトル)、T2,T3・・整流器側端子、T4,T5,T6・・蓄電池側端子。
図1
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