(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086220
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】ナックル鋳物及びナックル
(51)【国際特許分類】
B60G 7/00 20060101AFI20230615BHJP
B62D 7/18 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
B60G7/00
B62D7/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200582
(22)【出願日】2021-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】000243434
【氏名又は名称】本田金属技術株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100160004
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 憲雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120558
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 勝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100148909
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧澤 匡則
(72)【発明者】
【氏名】假屋 智一郎
【テーマコード(参考)】
3D034
3D301
【Fターム(参考)】
3D034BC26
3D301AA69
3D301AA80
3D301DB20
(57)【要約】
【課題】ナックル鋳物に剛性向上を目的とした第1補強リブと第2補強リブとを備えるにも拘わらず、鋳造性の向上が図れる技術を提供する。
【解決手段】ナックル鋳物20は、溶湯21の流れに沿って形成される方案部22と製品部23とからなる。製品部23は、中間部26と、この中間部26の一端(方案部22側)に一体的に形成される第1の締結部27と、中間部26の他端に一体的に形成される第2の締結部28と、第1の締結部27から第2の締結部28まで延びるようにして中間部26に一体的に形成される第1リブ31及び第2リブ32とを備えている。第1リブ31と第2リブ32とは、非平行であって、第2の締結部28側のリブ間隔W2に対して第1の締結部27側のリブ間隔W1が狭くなるように、V字形に配置されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械加工を施すことで、製品としてのナックルが得られるナックル鋳物であって、
このナックル鋳物は、溶湯の流れに沿って形成される方案部と製品部とからなり、前記製品部が凝固した後に前記方案部が凝固するように設計され、凝固後に前記製品部から前記方案部が切り離され、前記方案部は再溶解工程に回され、前記製品部に前記機械加工を施すようにする鋳造品であり、
前記製品部は、中間部と、この中間部の一端に一体的に形成されると共に前記方案部側に形成される第1の締結部と、前記中間部の他端に一体的に形成される第2の締結部と、前記第1の締結部から前記第2の締結部まで延びるようにして前記中間部に一体的に形成される第1リブ及び第2リブを備え、
前記第1リブと前記第2リブとは、非平行であって、前記第2の締結部側のリブ間隔に対して前記第1の締結部側のリブ間隔が狭くなるように、V字形に配置されていることを特徴とするナックル鋳物。
【請求項2】
請求項1記載のナックル鋳物であって、
前記方案部に、最も遅れて凝固する最終凝固部が含まれ、
前記第1リブの長手軸と前記第2リブの長手軸との交点は、前記最終凝固部に重なっていることを特徴とするナックル鋳物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のナックル鋳物であって、
前記第1の締結部は、車軸が締結される部位であり、
前記第2の締結部は、ダンパーが締結される部位であることを特徴とするナックル鋳物。
【請求項4】
製品中間部と、この製品中間部の一端に一体的に形成され車軸が締結される車軸締結部と、前記製品中間部の他端に一体的に形成されダンパーが締結されるダンパー締結部とを備えているナックルであって、
このナックルは、前記車軸締結部から前記ダンパー締結部まで延びるようにして前記製品中間部に一体的に形成される第1補強リブ及び第2補強リブを備え、
前記第1補強リブと前記第2補強リブとは、非平行であって、前記ダンパー締結部側のリブ間隔に対して前記車軸締結部側のリブ間隔が狭くなるように、V字形に配置されていることを特徴とするナックル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナックル鋳物及びナックルに関する。本発明では、製品としてのナックル(製品ナックル)を単に「ナックル」と呼び、ナックル鋳物と区別する。
【背景技術】
【0002】
乗用車等の車両に、車輪を保持するナックルと呼ばれる部材が付設される。
このようなナックルには、補強リブを備えたものが知られている(例えば、特許文献1(
図2)参照)。
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図9は従来のナックルの正面図及び右側面図である。
図9(a)に示すように、ナックル100は、中間部101と、この中間部101の一端に形成される第1接続部102と、中間部101の他端に形成される第2接続部103とを基本要素とする。
第1接続部102と第2接続部103に、ロアアーム、アッパーアーム、ブレーキキャリア、リンク部材などの被締結部材がボルトにより締結される(特許文献1、段落0013)。
【0004】
図9(b)に示すように、ナックル100に、第1リブ104及び第2リブ105が設けられている。
図9(a)に示すように、第1接続部102の中心と第2接続部103の中心とを通る線を中心線106としたときに、第1リブ104と第2リブ105は、中心線106に平行になるように、設けられている。
【0005】
特許文献1とは異なる形態のナックル200を、
図10に基づいて説明する。
図10に示すように、従来のナックル200は、製品中間部201と、この製品中間部201の一端に一体的に形成される車軸締結部202と、製品中間部201の他端に一体的に形成されるダンパー締結部203と、車軸締結部202から図右へ張り出し形成されるロッド締結部204と、車軸締結部202から図左へ張り出し形成されるブレーキ締結部205と、車軸締結部202から図下へ張り出し形成されるロアアーム締結部206とを備える。
【0006】
車軸締結部202には、車軸が締結される。
ダンパー締結部203には、ダンパーが締結される。
ロッド締結部204には、操舵用のタイロッドが締結される。
ブレーキ締結部205には、ブレーキキャリア(ブレーキキャリパー)が締結される。
ロアアーム締結部206には、ロアアームが締結される。
【0007】
本発明者らは、ナックル200に、特許文献1と類似したリブ(平行な一対の補強リブ)を付設してみた。
すなわち、車軸締結部202からダンパー締結部203まで延びる第1補強リブ207と第2補強リブ208を、製品中間部201に一体的に形成した。
【0008】
第1補強リブ207と第2補強リブ208とにより、剛性の向上が図れる。
反面、第1補強リブ207と第2補強リブ208を設けたことに起因して鋳造性(湯回り・凝固指向性)が犠牲になっていることが分かった。その理由は、後述の「比較例」で詳しく説明する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ナックル鋳物に剛性向上を目的とした第1補強リブと第2補強リブとを備えるにも拘わらず、鋳造性の向上が図れる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、機械加工を施すことで、製品としてのナックルが得られるナックル鋳物であって、
このナックル鋳物は、溶湯の流れに沿って形成される方案部と製品部とからなり、前記製品部が凝固した後に前記方案部が凝固するように設計され、凝固後に前記製品部から前記方案部が切り離され、前記方案部は再溶解工程に回され、前記製品部に前記機械加工を施すようにする鋳造品であり、
前記製品部は、中間部と、この中間部の一端に一体的に形成されると共に前記方案部側に形成される第1の締結部と、前記中間部の他端に一体的に形成される第2の締結部と、前記第1の締結部から前記第2の締結部まで延びるようにして前記中間部に一体的に形成される第1リブ及び第2リブを備え、
前記第1リブと前記第2リブとは、非平行であって、前記第2の締結部側のリブ間隔に対して前記第1の締結部側のリブ間隔が狭くなるように、V字形に配置されていることを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1記載のナックル鋳物であって、
前記方案部に、最も遅れて凝固する最終凝固部が含まれ、
前記第1リブの長手軸と前記第2リブの長手軸との交点は、前記最終凝固部に重なっていることを特徴とする。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2記載のナックル鋳物であって、
前記第1の締結部は、車軸が締結される部位であり、
前記第2の締結部は、ダンパーが締結される部位であることを特徴とする。
【0014】
請求項4に係る発明は、製品中間部と、この製品中間部の一端に一体的に形成され車軸が締結される車軸締結部と、前記製品中間部の他端に一体的に形成されダンパーが締結されるダンパー締結部とを備えているナックルであって、
このナックルは、前記車軸締結部から前記ダンパー締結部まで延びるようにして前記製品中間部に一体的に形成される第1補強リブ及び第2補強リブを備え、
前記第1補強リブと前記第2補強リブとは、非平行であって、前記ダンパー締結部側のリブ間隔に対して前記車軸締結部側のリブ間隔が狭くなるように、V字形に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明では、第1リブと第2リブが方案部を指向するように、第1リブと第2リブをV字形に配置した。
鋳造工程において溶湯の充填が完了した後、金型によって抜熱され、溶湯の凝固が始まる。このときに、未凝固の溶湯が第1リブと第2リブを通って方案部に向かう。本発明によれば、第1リブと第2リブは方案部を指向しているので、未凝固の溶湯が円滑に方案部へ向かう。結果、凝固指向性が大幅に改善される。凝固指向性が改善されるため、鋳造性が向上する。
すなわち、本発明によれば、ナックル鋳物に剛性向上を目的とした第1リブと第2リブとを備えるにも拘わらず、鋳造性の向上が図れる技術が提供される。
【0016】
請求項2に係る発明では、第1リブの長手軸と第2リブの長手軸との交点は、方案部中の最終凝固部に重なっている。
未凝固の溶湯が直接的に最終凝固部に向かうために、凝固指向性が更に改善される。
【0017】
請求項3に係る発明では、車軸が締結される部位とダンパーが締結される部位とに、第1リブ及び第2リブを渡した。
車軸が締結される部位とダンパーが締結される部位との間には、外力により大きな曲げが加わる。このような部位に第1リブ及び第2リブを設けて十分に剛性を高める。すなわち、中間部の肉厚を高めることなく、十分な剛性を付与できる。結果、ナックルの薄肉化及び軽量化が容易に達成できる。
【0018】
請求項4に係る発明では、ナックルに、第1補強リブと第2補強リブをV字形に配置した。
請求項1と同様に、第1補強リブと第2補強リブは方案部を指向しているので、未凝固の溶湯が円滑に方案部へ向かう。結果、凝固指向性が大幅に改善される。凝固指向性が改善されるため、鋳造性が向上する。
すなわち、本発明によれば、ナックル鋳物に剛性向上を目的とした第1補強リブと第2補強リブとを備えるにも拘わらず、鋳造性の向上が図れる技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】
図1の2矢視図(ナックルの正面図)である。
【
図3】
図1の3矢視図(ナックルの右側面図)である。
【
図6】第1補強リブの凝固時間を説明する図である。
【
図7】第2補強リブの凝固時間を説明する図である。
【
図9】従来のナックルの正面図及び右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例0021】
図1~
図3に、製品としてのナックル10を示す。このナックル10は、ナックル鋳物に機械加工等を施して得られる。
【0022】
図1に示すように、ナックル10は、製品中間部11と、この製品中間部11の一端に一体的に形成される車軸締結部12と、製品中間部11の他端に一体的に形成されるダンパー締結部13と、車軸締結部12から図右へ張り出し形成されるロッド締結部14と、車軸締結部12から図左へ張り出し形成されるブレーキ締結部15とを備える。
【0023】
車軸締結部12には、車軸が締結される。
ダンパー締結部13には、機械加工穴19が開けられており、この機械加工穴19にダンパーが締結される。
ロッド締結部14には、操舵用のタイロッドが締結される。
ブレーキ締結部15には、ブレーキキャリパーが締結される。
【0024】
そして、車軸締結部12からダンパー締結部13まで延びるように製品中間部11に、第1補強リブ16と第2補強リブ17とが一体的に形成されている。第1補強リブ16と第2補強リブ17は、非平行に配置され、ダンパー締結部側13のリブ間隔に対して車軸締結部側12のリブ間隔が狭くなるように、V字形を呈するように配置されている。
【0025】
図2に示すように、ナックル10は、下部にアーム締結部18を一体的に備える。このアーム締結部18には、ロアアームが締結される。その他は、
図1の符号を流用し、詳細な説明は省略する。
【0026】
図3に示すように、車軸締結部12からダンパー締結部13まで延びるように製品中間部11に、第1補強リブ16と第2補強リブ17とが一体的に形成されている。その他は、
図1の符号を流用し、詳細な説明は省略する。
【0027】
以上に述べたナックル10の元となるナックル鋳物を、以下に説明する。
図4に示すように、ナックル鋳物20は、溶湯21の流れに沿って形成される方案部22と製品部23とからなる。製品部23が凝固した後に方案部22が凝固する。方案部22の中心部付近が最終凝固部29となる。
【0028】
凝固が完了したら製品部23から方案部22が分離線24で切り離される。
方案部22は再溶解工程に回され、製品部23に機械加工を施されて、
図1~
図3で説明したナックル10が得られる。
【0029】
製品部23は、中間部26と、この中間部26の一端(方案部22側)に一体的に形成される第1の締結部27と、中間部26の他端に一体的に形成される第2の締結部28と、第1の締結部27から第2の締結部28まで延びるようにして中間部26に一体的に形成される第1リブ31及び第2リブ32とを備えている。
【0030】
製品部23に機械加工等を施すことで、
図2に示すナックル10が得られるため、第1の締結部27は車軸を締結する部位(
図1、車軸締結部12)に相当し、第2の締結部28はダンパーを締結する部位(
図1、ダンパー締結部13)に相当する。
【0031】
製品部23は、さらに、中間部26から図右へ張り出す部33を一体的に備えている。この張り出す部33には、ロッド締結部(
図1、符号14)が後工程で形成される。
【0032】
そして、第1リブ31と第2リブ32とは、第1の締結部27の中心と第2の締結部28の中心とを通る中心線34に対して非平行であって、第2の締結部28側のリブ間隔W2に対して第1の締結部27側のリブ間隔W1が狭くなるように、V字形に配置されている。
【0033】
なお、実施例では、中心線34に対して、第1リブ31と第2リブ32の両方を非平行としたが、一方だけを中心線34に対して非平行し、他方を中心線34に平行(略平行を含む。)にしてもよい。要は、V字形になればよい。
【0034】
V字形に配置された本発明の第1リブ31と第2リブ32の優位性を検討するために、一対のリブが平行に配置されたナックル鋳物を「比較例」とする。
図5に示すように、比較例でのナックル鋳物120は、方案部122と製品部123とからなる。
製品部123は、中間部126と、第1の締結部127と、第2の締結部128と、第1の締結部127から第2の締結部128まで延びるようにして中間部126に一体的に形成される第1リブ131及び第2リブ132と、張り出す部133とを備えている。
【0035】
そして、第1リブ131と第2リブ132とは、第1の締結部127の中心と第2の締結部128の中心とを通る中心線134に対して平行である。
【0036】
以上に述べたナックル鋳物20(実施例)とナックル鋳物120(比較例)とを比較する。この比較を、
図6及び
図7に基づいて説明する。
【0037】
図6は第1補強リブの凝固状況を説明する図である。
図6(a)はナックル鋳物120(比較例)を示し、
図6(b)は
図6(a)のb-b線断面における凝固時間を説明する図である。
図6(b)中、斜線を施したエリアにおける凝固時間t1は、10~18秒である。無数の点を施したエリアにおける凝固時間t2は、18~22秒である。
すなわち、第1リブ131を含む中間部では、凝固が左右の表層から中心へ進行(指向)する。左の凝固時間t2エリアと右の凝固時間t2エリアとの間を距離D1とする。
【0038】
図6(c)はナックル鋳物20(実施例)を示し、
図6(d)は
図6(c)のd-d線断面における凝固時間を説明する図である。
図6(d)中、斜線を施したエリアにおける凝固時間t1は、10~18秒である。無数の点を施したエリアにおける凝固時間t2は、18~22秒である。
すなわち、第1リブ31を含む中間部では、凝固が左右の表層から中心へ進行(指向)する。左の凝固時間t2エリアと右の凝固時間t2エリアとの間を距離D2とする。
【0039】
距離D2は、距離D1より格段に小さい。加えて、
図6(d)では凝固時間t2エリアの先端が「く」の字を呈し、凝固指向の分かれ目がはっきりしている。対して、
図6(b)では凝固指向の分かれ目がはっきりしてはいない。
【0040】
図6(d)では、凝固指向の分かれ目がはっきりしているため、未凝固の溶湯は第1の締結部27と第2の締結部28へ押し出される。結果、第1リブ31に巣などの鋳造欠陥が残りにくくなる。
対して、
図6(b)では、凝固指向の分かれ目がはっきりしていないため、巣などの鋳造欠陥が残りやすくなる。
【0041】
以上の傾向を、
図4においても検証する。
図4にて、鋳造工程において溶湯21の充填が完了した後、金型によって抜熱され(冷やされ)、溶湯21の凝固が始まる。溶湯21の凝固は、製品形状や金型形状によって、部分的にむらが発生する。凝固の最終部分には、一般に金属の凝固収縮により引け巣が発生しやすい。
【0042】
図6(d)に説明したように、未凝固の溶湯は第1の締結部27と第2の締結部28へ向かう。
図4にて、第1の締結部27へ向かう溶湯は最終凝固部29へ向かい、第2の締結部28へ向かう溶湯は、第2の締結部28の中央へ向かう。第2の締結部28の中央が製品側の遅れ凝固部30となる。
【0043】
引け巣は、最終凝固部29と製品側の遅れ凝固部30とに発生しやすい。凝固指向性が明確であるため、引け巣の発生部位は、最終凝固部29と製品側の遅れ凝固部30とに限定される。
最終凝固部29は分割線24で分割される方案部22に含まれるため、製品部23には影響しない。
また、製品側の遅れ凝固部30は、機械加工穴(
図1、符号19)を加工するときに、切削除去される。
【0044】
すなわち、中間部26から凝固が始まる。その結果、凝固指向性が制御されることで、中間部26を含む製品部23には、引け巣等の鋳造欠陥が発生せず、結果、内部品質の向上、強度の確保、生産性の向上が図れ、鋳造性の向上が図れる。
対して、
図6(a)、(b)で説明した比較例では、凝固指向の分かれ目がはっきりしていないため、
図6(c)、(d)で説明した実施例に比較して、引け巣が製品部にも発生するリスクが残る。
【0045】
図7は第2補強リブの凝固状況を説明する図である。
図7(a)はナックル鋳物120(比較例)を示し、
図7(b)は
図7(a)のb-b線断面における凝固時間を説明する図である。
図7(b)中、斜線を施したエリアにおける凝固時間t1は、10~16秒である。無数の点を施したエリアにおける凝固時間t3は、16~18秒である。左の凝固時間t3エリアと右の凝固時間t3エリアとの間を距離D3とする。
なお、第2リブ132は、熱容量が大きな張り出す部133の影響を受けるため、第1リブよりは凝固しにくい。
【0046】
図7(c)はナックル鋳物20(実施例)を示し、
図7(d)は
図7(c)のd-d線断面における凝固時間を説明する図である。
図7(d)中、斜線を施したエリアにおける凝固時間t1は、10~16秒である。無数の点を施したエリアにおける凝固時間t3は、16~18秒である。
左の凝固時間t3エリアと右の凝固時間t3エリアとの間を距離D4とする。
なお、第2リブ32は、熱容量が大きな張り出す部33の影響を受けるため、第1リブよりは凝固しにくい。
【0047】
距離D4は、距離D3より格段に小さい。加えて、
図7(d)では凝固時間t3エリアの先端が「く」の字を呈し、凝固指向の分かれ目がはっきりしている。対して、
図7(b)では凝固指向の分かれ目がはっきりしてはいない。
【0048】
図7(d)では、凝固指向の分かれ目がはっきりしているため、未凝固の溶湯は第1の締結部27と第2の締結部28へ押し出される。結果、第1リブ31に巣などの鋳造欠陥が残りにくくなる。
対して、
図7(b)では、凝固指向の分かれ目がはっきりしていないため、巣などの鋳造欠陥が残りやすくなる。
【0049】
すなわち、
図7(c)、(d)によれば、中間部から凝固が始まる。その結果、凝固指向性が制御されることで、中間部を含む製品部には、引け巣等の鋳造欠陥が発生せず、結果、内部品質の向上、強度の確保、生産性の向上が図れる。
対して、
図7(a)、(b)で説明した比較例では、凝固指向の分かれ目がはっきりしていないため、
図7(c)、(d)で説明した実施例に比較して、引け巣が製品部にも発生するリスクが残る。
【0050】
図6及び
図7において、比較例と実施例とで凝固指向性の点で顕著な差がでた。この差の発生理由を、推定する。
図5(比較例)において、第1リブ131と第2リブ132は平行であるため、第1リブ131の長手軸131Bは、方案部127中の最終凝固部129へ指向してはいない。同様に、第2リブ132の長手軸132Bは、方案部127中の最終凝固部129へ指向してはいない。
未凝固の溶湯の一部は、長手軸131B、132Bに沿って方案部127へ向かうが、最終凝固部129へは向かわない。そのため、
図6(b)や
図7(b)で示したように、凝固指向の分かれ目がはっきりしない。
【0051】
対して、
図4(実施例)において、第1リブ31と第2リブ32とはV字状に配置され、第1リブ31の長手軸31Bが最終凝固部29を指向し、第2リブ32の長手軸32Bが最終凝固部29を指向している。
未凝固の溶湯の一部は、長手軸31B、32Bに沿って最終凝固部29へ向かう。そのため、
図6(d)や
図7(d)で示したように、凝固指向の分かれ目がはっきりする。
【0052】
次に、
図4に示すリブ間隔W1、W2について、好ましい大きさを調べた。
リブ間隔W1を比率で「1.0」として、リブ間隔W2を比率で1.15~1.45の範囲にして、モデル1~モデル4を作成し、モデル1~モデル4について鋳造性を調べた。結果を、表1に示す。
【0053】
【0054】
モデル1では、W2を1.15とした。W1とW2との差が小さいため、V字の効果が発揮されず、鋳造性の向上は小さかった。結果は×である。
モデル2では、W2を1.28とした。十分なV字の効果が発揮され、良好な鋳造性が得られた。結果は〇である。
モデル3では、W2を1.33とした。十分なV字の効果が発揮され、良好な鋳造性が得られた。結果は〇である。
モデル4では、W2を1.45とした。V字のなす角度が大きくなり、湯流れ性に影響が出た。結果は△である。
【0055】
結果、リブ間隔W1を比率で「1.0」としたときに、リブ間隔W2を比率で1.28~1.33の範囲にすることが推奨される。
【0056】
次に、より好ましい実施例を説明する。
図8に示すように、方案部22に、最終凝固部29が含まれるようにすると共に、第1リブ31の長手軸31Bと第2リブ32の長手軸32Bとの交点が、最終凝固部29に重なるようにする。前記交点は、最終凝固部29の中心である必要はなく、最終凝固部29の中であれば、縁であっても差し支えない。
【0057】
未凝固の溶湯が長手軸31B、32Bに沿って最終凝固部29へ向かうため、凝固指向性が一層はっきりし、鋳造欠陥の発生をより確実に回避することができる。
【0058】
尚、実施例では第1の締結部27に車軸を締結したが、第1の締結部27にその他のアーム又はロッドを締結することは差し支えない。
同様に、第2の締結部28にダンパーを締結したが、第2の締結部28にその他のアーム又はロッドを締結することは差し支えない。
10…ナックル、12…車軸締結部、13…ダンパー締結部、16…第1補強リブ、17…第2補強リブ、20…ナックル鋳物、21…溶湯、22…方案部、23…製品部、24…分離線、26…中間部、27…第1の締結部、28…第2の締結部、29…最終凝固部、31…第1リブ、31B…第1リブの長手軸、32…第2リブ、32B…第2リブの長手軸、34…中心線、W1…第1の締結部側のリブ間隔、W2…第2の締結部側のリブ間隔。