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特開2023-86317ポリヒドロキシアルカン酸粒子およびその製造方法
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  • 特開-ポリヒドロキシアルカン酸粒子およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086317
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】ポリヒドロキシアルカン酸粒子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/16 20060101AFI20230615BHJP
【FI】
C08J3/16 CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200744
(22)【出願日】2021-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】平野 優
(72)【発明者】
【氏名】井上 英明
(72)【発明者】
【氏名】中渕 翼
(72)【発明者】
【氏名】沢 みさき
(72)【発明者】
【氏名】長光 学
【テーマコード(参考)】
4F070
【Fターム(参考)】
4F070AA47
4F070AC12
4F070AC13
4F070AC20
4F070AC84
4F070AE14
4F070DA33
4F070DC07
4F070DC08
(57)【要約】
【課題】微粉の発生を抑制したPHA粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】(a)pHが7以下であって、10 1/sのせん断速度を与えたときの粘度が1~5Pa・sであるPHA水性懸濁液を調製する工程、(b)前記工程(a)で得られたPHA水性懸濁液から、液滴径2~10mm、かつ、高さが1~5mmのPHA液滴を形成する工程、および(c)前記工程(b)で形成したPHA液滴の水を揮発させる工程、を含む、PHA粒子の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)pHが7以下であって、10 1/sのせん断速度を与えたときの粘度が1~5Pa・sであるポリヒドロキシアルカン酸水性懸濁液を調製する工程、
(b)前記工程(a)で得られたポリヒドロキシアルカン酸水性懸濁液から、液滴径2~10mm、かつ、高さが1~5mmのポリヒドロキシアルカン酸液滴を形成する工程、および
(c)前記工程(b)で形成したポリヒドロキシアルカン酸液滴の水を揮発させる工程、を含む、ポリヒドロキシアルカン酸粒子の製造方法。
【請求項2】
前記工程(b)が、造粒装置を用いて行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程(c)が、ポリヒドロキシアルカン酸液滴の水を加熱により揮発させる加熱工程である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記加熱工程における加熱温度が、60~160℃である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記工程(b)におけるポリヒドロキシアルカン酸液滴密度が、0.7~1.5g/mLである、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
粒子密度が0.3~0.5g/mLであり、粒子径2~10mm、かつ、高さが1~5mmであるポリヒドロキシアルカン酸粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリヒドロキシアルカン酸粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリヒドロキシアルカン酸(以後、「PHA」と称する場合がある。)は、生分解性を有することが知られている。
【0003】
微生物が生成するPHAは、微生物の菌体内に蓄積されるため、PHAをプラスチックとして利用するためには、微生物の菌体内からPHAを分離・精製する工程が必要となる。PHAを分離・精製する工程では、PHA含有微生物の菌体を破砕もしくはPHA以外の生物由来成分を可溶化した後、得られた水性懸濁液からPHAを取り出す。このとき、例えば、遠心分離、ろ過、乾燥等の分離操作を行う。乾燥操作には、噴霧乾燥機、流動層乾燥機、ドラムドライヤー等が用いられるが、操作が簡便であることから、好ましくは噴霧乾燥機が用いられる。
【0004】
これまで、本発明者は、pH7以下の水性懸濁液中でのPHAの凝集を防止するために、水性懸濁液のpHを7以下に調整する前にポリビニルアルコール(PVA)を分散剤として添加し、その後、得られたpH7以下の水性懸濁液を噴霧乾燥する技術を開発している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2018/070492号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した技術はいずれも優れたものであるが、さらなる改善の余地もある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、微粉の発生を抑制したPHA粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、PHAの製造工程において、特定の粘度のPHA水性懸濁液を調製し、当該PHA水性懸濁液から特定の粒子径、かつ、特定の高さを有するPHA液滴(造粒体)を形成させることにより、微粉の発生を抑制し得るとの新規知見を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
したがって、本発明の一態様は、(a)pHが7以下であって、10 1/sのせん断速度を与えたときの粘度が1~5Pa・sであるPHA水性懸濁液を調製する工程、(b)前記工程(a)で得られたPHA水性懸濁液から、液滴径2~10mm、かつ、高さが1~5mmのPHA液滴を形成する工程、および(c)前記工程(b)で形成したPHA液滴の水を揮発させる工程、を含む、PHA粒子の製造方法(以下、「本製造方法」と称する。)である。
【0010】
また、本発明の一態様は、粒子密度が0.3~0.5g/mLであり、粒子径2~10mm、かつ、高さが1~5mmであるPHA粒子(以下、「本PHA粒子」と称する。)である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、微粉の発生を抑制したPHA粒子の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る、造粒装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の一形態について、以下に詳細に説明する。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。
【0014】
〔1.本発明の概要〕
上述した特許文献1に記載されているように、噴霧乾燥によるPHAの造粒はよく知られている。本発明者らは、PHAの噴霧乾燥について詳細な検討を行う中で、微粉発生が生じる場合があり、その場合は、ハンドリング性に問題が生じるとの課題を見出した。そこで、本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、PHAの製造工程において、特定の粘度のPHA水性懸濁液を調製し、当該PHA水性懸濁液から特定の粒子径、かつ、特定の高さを有するPHA液滴を形成させることにより、微粉の発生を抑制し得ることを初めて見出した。
【0015】
本製造方法によれば、微粉の発生が抑制できるため、ハンドリング性に優れた、PHA粒子を得ることができる。したがって、本製造方法は、PHA粒子の製造において極めて有利である。
【0016】
また、上述したような構成によれば、プラスチックゴミの発生量を低減でき、これにより、例えば、目標12「持続可能な消費生産形態を確保する」や目標14「持続可能な開発のために、海・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」等の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献できる。特に、本製造方法の工程(c)において加熱工程を含まない場合は、エネルギー効率の面で好ましい。以下、本発明について詳説する。
【0017】
〔2.PHAの製造方法〕
本製造方法は、下記の工程(a)~(c)を含む方法であり、PHA粒子を製造する。
・工程(a):pHが7以下であって、10 1/sのせん断速度を与えたときの粘度が1~5Pa・sであるPHA水性懸濁液を調製する工程
・工程(b):前記工程(a)で得られたPHA水性懸濁液から、液滴径2~10mm、かつ、高さが1~5mmのPHA液滴を形成する工程
・工程(c):前記工程(b)で形成したPHA液滴の水を揮発させる工程
なお、本明細書において、「PHA粒子」とは、PHA液滴から水分を揮発させた後のPHAの凝集体を意図する。また、本明細書において、「微粉の発生を抑制する」とは、粒子径10μm以下のPHA粒子が2%以下であることを意図する。
【0018】
(工程(a))
本製造方法における工程(a)では、pHが7以下であって、10 1/sのせん断速度を与えたときの粘度が1~5Pa・sであるPHA水性懸濁液を調製する。当該水性懸濁液において、PHAは水性媒体中に分散した状態で存在している。本明細書では、少なくともPHAを含む水性懸濁液を、「PHA水性懸濁液」と略して表記する場合がある。
【0019】
<PHA>
本明細書において、「PHA」とは、ヒドロキシアルカン酸をモノマーユニットとする重合体の総称である。PHAを構成するヒドロキシアルカン酸としては、特に限定されないが、例えば、3-ヒドロキシブタン酸、4-ヒドロキシブタン酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、3-ヒドロキシペンタン酸、3-ヒドロキシヘキサン酸、3-ヒドロキシヘプタン酸、3-ヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。これらの重合体は、単独重合体でも、2種以上のモノマーユニットを含む共重合体でもよい。
【0020】
より詳しくは、PHAとしては、例えば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)(P3HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)(P3HB3HV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(P3HB4HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)(P3HB3HO)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタデカノエート)(P3HB3HOD)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシデカノエート)(P3HB3HD)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HV3HH)等が挙げられる。中でも、工業的に生産が容易であることから、P3HB、P3HB3HH、P3HB3HV、P3HB4HBが好ましい。
【0021】
また、繰り返し単位の組成比を変えることで、融点、結晶化度を変化させ、結果として、ヤング率、耐熱性等の物性を変化させることができ、かつ、ポリプロピレンとポリエチレンとの間の物性を付与することが可能であること、および上記したように工業的に生産が容易であり、物性的に有用なプラスチックであるという観点から、3-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシヘキサン酸の共重合体であるP3HB3HHがより好ましい。
【0022】
本発明の一実施形態において、P3HB3HHの繰り返し単位の組成比は、柔軟性および強度のバランスの観点から、3-ヒドロキシブチレート単位/3-ヒドロキシヘキサノエート単位の組成比が、80/20~99/1(mol/mol)であることが好ましく、83/17~97/3(mo1/mo1)であることがより好ましい。3-ヒドロキシブチレート単位/3-ヒドロキシヘキサノエート単位の組成比が、99/1(mol/mol)以下であると、十分な柔軟性が得られ、80/20(mol/mol)以上であると、十分な硬度が得られる。前記P3HB3HHにおける3HB単位の含有量が多くなる場合、得られるPHA(PHAシート)の溶融温度が高くなり、その結果、耐熱性が向上する。また、前記P3HB3HHにおける3HB単位の含有量が多くなる場合、得られるPHA(PHAシート)の結晶化速度が速くなり、その結果、加工性が向上する。前記PHA(PHAシート)の耐熱性および加工性を向上させるとの観点からは、前記P3HB3HHの3HB単位/3HH単位の組成比が100/0、すなわち、P3HBであることが特に好ましい。
【0023】
工程(a)において、出発原料として用いるPHA水性懸濁液は、特に限定されないが、例えば、細胞内にPHAを生成する能力を有する微生物を培養する培養工程、および当該培養工程の後、PHA以外の物質を分解および/または除去する精製工程、を含む方法により得ることができる。
【0024】
本製造方法は、工程(a)の前に、PHA水性懸濁液を得る工程(例えば、上述の培養工程および精製工程を含む工程)を含んでいてもよい。当該工程において用いられる微生物は、細胞内にPHAを生成し得る微生物である限り、特に限定されない。例えば、天然から単離された微生物や菌株の寄託機関(例えば、IFO、ATCC等)に寄託されている微生物、またはそれらから調製し得る変異体や形質転換体等を使用できる。より詳しくは、例えば、カプリアビダス(Cupriavidus)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、ラルストニア(Ralstonia)属、シュウドモナス(Pseudomonas)属、バチルス(Bacillus)属、アゾトバクター(Azotobacter)属、ノカルディア(Nocardia)属、アエロモナス(Aeromonas)属の菌等が挙げられる。中でも、アエロモナス属、アルカリゲネス属、ラルストニア属、またはカプリアビダス属に属する微生物が好ましい。特に、アルカリゲネス・リポリティカ(A.lipolytica)、アルカリゲネス・ラトゥス(A.latus)、アエロモナス・キャビエ(A.caviae)、アエロモナス・ハイドロフィラ(A.hydrophila)、カプリアビダス・ネカトール(C.necator)等の菌株がより好ましく、カプリアビダス・ネカトールが最も好ましい。
【0025】
また、微生物が、本来PHAの生産能力を有しないものである場合、またはPHAの生産量が低いものである場合には、当該微生物に目的とするPHAの合成酵素遺伝子および/またはその変異体を導入して得られる形質転換体を用いることもできる。このような形質転換体の作製に用いるPHAの合成酵素遺伝子としては特に限定されないが、アエロモナス・キャビエ由来のPHA合成酵素の遺伝子が好ましい。これらの微生物を適切な条件で培養することで、菌体内にPHAを蓄積した微生物菌体を得ることができる。当該微生物菌体の培養方法は特に限定されないが、例えば、特開平05-93049号公報等に記載された方法が用いられる。
【0026】
上記の微生物を培養することにより作製されたPHA含有微生物には、不純物である菌体由来成分が多量に含まれているため、通常、PHA以外の不純物を分解および/または除去するための精製工程を実施され得る。この精製工程においては、特に限定されず、当業者が考え得る物理学的処理、化学的処理、生物学的処理等を適用することができ、例えば、国際公開第2010/067543号に記載の精製方法が好ましく適用できる。
【0027】
上記の精製工程により、最終製品に残留する不純物量が概ね決定されるため、これらの不純物は、できる限り低減させた方が好ましい。当然に、用途によっては、最終製品の物性を損なわない限り不純物が混入しても構わないが、医療用用途等、高純度のPHAが必要とされる場合は、できる限り不純物を低減させることが好ましい。その際の精製度の指標としては、例えば、PHA水性懸濁液中のタンパク質量が挙げられる。当該タンパク質量は、好ましくは、PHA重量当たり30000ppm以下、より好ましくは、15000ppm以下、さらに好ましくは、10000ppm以下、最も好ましくは、7500ppm以下である。精製手段は、特に限定されず、例えば、上記した公知の方法を適用可能である。
【0028】
なお、本製造方法におけるPHA水性懸濁液を構成する溶媒(「溶媒」は、「水性媒体」とも称する。)は、水、または水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。また、当該混合溶媒において、水と相溶性のある有機溶媒の濃度としては、使用する有機溶媒の水への溶解度以下であれば特に限定されない。また、水と相溶性のある有機溶媒としては特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、iso-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;ジメチルホルムアミド、アセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド、ピリジン、ピペリジン等が挙げられる。中でも、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、iso-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、プロピオニトリル等が、除去しやすい点から好ましい。また、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、アセトン等が、入手容易であることからより好ましい。さらに、メタノール、エタノール、アセトンが、特に好ましい。なお、PHA水性懸濁液を構成する水性媒体は、本発明の本質を損なわない限り、他の溶媒、菌体由来の成分、精製時に発生する化合物等を含んでいても構わない。
【0029】
本製造方法におけるPHA水性懸濁液を構成する水性媒体には、水が含まれていることが好ましい。水性媒体中の水の含有量は、5重量%以上が好ましく、より好ましくは、10重量%以上であり、さらに好ましくは、30重量%以上であり、特に好ましくは、50重量%以上である。
【0030】
<PHA水性懸濁液の粘度>
本発明の一実施形態において、本製造方法の工程(a)により得られるPHA水性懸濁液の粘度は、10 1/sのせん断速度を与えたときの粘度が1~5Pa・sであり、1.2~4.8Pa・sが好ましく、1.4~4.6Pa・sがより好ましく、1.6~4.4Pa・sがさらに好ましい。PHA水性懸濁液の粘度が上記範囲であると、工程(b)において、適度なPHA液滴を形成することが可能となる。なお、PHA水性懸濁液の粘度は、実施例に記載の方法で測定される。
【0031】
<pHの調整>
本製造方法の工程(a)において、出発原料として用いるPHA水性懸濁液は、通常、上記の精製工程を経ることにより、7を超えるpHを有する。そこで、本製造方法の工程(a)により、上記PHA水性懸濁液のpHを7以下に調整する。その調整方法は、特に限定されず、例えば、酸を添加する方法等が挙げられる。酸は、特に限定されず、有機酸、無機酸のいずれでもよく、揮発性の有無は問わない。より具体的には、酸としては、例えば、硫酸、塩酸、リン酸、酢酸等が使用できる。
【0032】
上記調整工程において調整するPHA水性懸濁液のpHの上限については、PHAを加熱溶融した時の着色を低減したり、加熱時および/または乾燥時の分子量の安定性を確保する観点から、7以下であり、好ましくは、5以下であり、より好ましくは、4以下である。また、pHの下限については、容器の耐酸性の観点より、好ましくは、1以上であり、より好ましくは、2以上であり、さらに好ましくは、3以上である。PHA水性懸濁液のpHを7以下とすることによって、加熱溶融時の着色が低減され、加熱時および/または乾燥時の分子量低下が抑制されたPHAが得られる。
【0033】
本発明の一実施形態において、工程(a)において、PHA水性懸濁液に分散剤を添加してもよい。これにより、PHA水性懸濁液のpHを7以下に調整する際に、PHAの凝集を防ぐことができる。
【0034】
<粘度の調整>
PHA水性懸濁液の粘度を所定の値に調整する方法は、特に限定されず、種々の方法を利用できる。例えば、本製造方法の工程(a)において、所定の粘度とするために分散剤を添加する方法のほか、出発原料として用いるPHA水性懸濁液のPHA濃度(固形分濃度)を調整する方法等が挙げられる。
【0035】
分散剤としては、特に限定されないが、例えば、例えば、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、水溶性セルロース誘導体(例えば、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のメチルセルロース)、アルギン酸、水溶性アルギン酸誘導体(例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム)、寒天、ゼラチン、カラギーナン、ポリアクリル酸誘導体(例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸ブチル、ポリアクリル酸エステル)、アルキレンオキサイド系分散剤(例えば、国際公開第2021/085534号公報に記載のもの)等が挙げられる。
【0036】
本製造方法の工程(a)により得られるPHA水性懸濁液におけるPHAの濃度(固形分濃度)は、乾燥ユーティリティーの面から経済的に有利であり、生産性が向上するため、例えば、20重量%以上であり、好ましくは、22.5重量%以上であり、より好ましくは、25重量%以上であり、さらに好ましくは、27.5重量%以上であり、特に好ましくは、30重量%以上であり、とりわけ好ましくは、32.5重量%以上であり、ことさら好ましくは、35重量%以上であり、よりことさら好ましくは、37.5重量%以上である。また、PHAの濃度の上限は、最密充填となり、十分な流動性が確保できない可能性があるため、例えば、70重量%以下であり、好ましくは、65重量%以下であり、より好ましくは、60重量%以下である。PHAの濃度を調整する方法は、特に限定されず、水性媒体を添加したり、水性媒体の一部を除去する(例えば、遠心分離した後、上清を取り除く等による)等の方法が挙げられる。PHAの濃度の調整は、工程(a)のいずれの段階で実施してもよいし、工程(a)の前の段階で実施してもよい。
【0037】
(工程(b))
本製造方法における工程(b)では、前記工程(a)で得られたPHA水性懸濁液から、液滴径2~10mm、かつ、高さが1~5mmのPHA液滴を形成する。工程(b)において、上記特定の液滴径および高さを有するPHA液滴を形成することにより、微粉の発生を抑制することができる。
【0038】
工程(b)におけるPHA液滴の形成は、例えば、造粒装置を用いて行われる。造粒装置の一例として、図1を用いて、工程(b)を説明する。
【0039】
工程(a)で得られたPHA水性懸濁液1を、PHA水性懸濁液供給ポンプ2により、穴あき容器4まで送液する。穴あき容器4は、その底部に複数の穴を有する。PHA水性懸濁液1を、穴あき容器4の一定の高さとなるように、連続的に投入する。それと同時に、加振機3で穴あき容器4を振動させ、コンベヤー5上に、特定の液滴径および高さを有するPHA液滴6を形成させる。PHA液滴6は、コンベヤー5上を搬送される過程で熱風7に曝されることにより(工程(c))、水分が蒸発し、特定の直径および高さを有するPHA粒子が得られる。
【0040】
工程(b)における造粒装置は、図1の造粒装置に限定されず、PHA水性懸濁液からPHA液滴を形成できるものであれば特に限定されない。工程(b)における造粒装置として、図1の造粒装置の他に、例えば、特表2017-535640号公報に記載された造粒装置(特に、図1、4、5に記載されたもの)、Pastillation system(例えば、ROTOFORMER)等が挙げられる。均一な造粒径作製の観点から、造粒装置は、好ましくは、Pastillation system(例えば、ROTOFORMER)である。
【0041】
PHA液滴の液滴径は、2~10mmであり、2.2~9mmであることが好ましく、2.5~8mmであることがより好ましく、2.8~7mmであることがさらに好ましい。工程(b)におけるPHA液滴の液滴径が上記範囲であると、微粉の発生を効率的に抑制することができる。なお、PHA液滴の液滴径は、実施例に記載の方法により測定される。
【0042】
PHA液滴の高さは、1~5mmであり、1.2~4.5mmであることが好ましく、1.5~4mmであることがより好ましく、1.8~3.5mmであることがさらに好ましい。工程(b)におけるPHA液滴の高さが上記範囲であると、微粉の発生を効率的に抑制することができる。なお、PHA液滴の高さは、実施例に記載の方法により測定される。
【0043】
PHA液滴密度は、0.7~1.5g/mLであることが好ましく、0.7~1.3g/mLであることがより好ましく、0.7~1.1g/mLであることがさらに好ましい。工程(b)におけるPHA液滴密度が上記範囲であると、高い造粒速度が得られるとの効果を奏する。なお、PHA液滴密度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0044】
(工程(c))
本製造方法における工程(c)では、前記工程(b)で形成したPHA液滴の水を揮発させる。工程(c)において、PHA液滴中でPHAの細かい粒子同士が一部熱融着する(特に、PHA液滴の表面のPHA同士が熱融着する)ことにより、微粉の発生を抑制することができる。
【0045】
工程(c)において、PHA液滴の水を揮発させる方法は特に限定されないが、例えば、加熱、真空乾燥、常温乾燥等が挙げられる。例えば、乾燥機内でPHA液滴と熱風とを接触させながら加熱・乾燥することにより、PHA液滴の水を揮発させ得る。乾燥機内におけるPHA液滴と熱風との接触方式は、特に限定されず、並流式、向流式、これらを併用する方式等が挙げられる。工程(c)において、PHA液滴の水を揮発させる方法は、適度な熱融着の観点から、好ましくは、加熱により行われる。
【0046】
工程(c)が加熱により行われる場合、加熱温度は、50~160℃が好ましく、55~155℃がより好ましく、60~150℃がさらに好ましい。工程(c)における加熱温度が上記範囲であると、PHA液滴中での熱融着が適度に行われ、微粉の発生抑制効果が高まる。また、加熱方法は特に限定されることなく、例えば、熱風加熱、マイクロ波加熱、赤外線加熱等により加熱される。なお、使用するPHAの3HH比率が高い場合、当該PHAの融点が低くなるため、上記加熱温度の範囲内でより低い温度で乾燥が可能である。一方、使用するPHAの3HH比率が低い場合、当該PHAの融点が高くなるため、上記加熱温度の範囲内でより高い温度での乾燥が必要となり得る。
【0047】
工程(c)が真空乾燥または常温乾燥により行われる場合、当業者により適宜条件を設定して行われ得る。例えば、乾燥機を用いる場合、熱風の風量は、当該乾燥機のサイズ等に応じて適宜設定できる。また、常温乾燥を行う場合は、エネルギー効率の点で有利である。
【0048】
本発明の一実施形態において、本製造方法は、工程(c)の後に、得られたPHA粒子をさらに乾燥させる工程(例えば、減圧乾燥に付す工程等)を含んでいてもよい。また、本製造方法は、工程(c)の後に、得られたPHA粒子を輸送する工程を含んでいてもよい。工程(c)で得られたPHA粒子は均一な粒子径を有するため、輸送の際の取扱い性に優れる。
【0049】
〔3.PHA粒子〕
本PHA粒子は、粒子密度が0.3~0.5g/mLであり、粒子径2~10mm、かつ、高さが1~5mmであるPHA粒子である。
【0050】
本PHA粒子の粒子密度は、0.3~0.5g/mLであり、好ましくは、0.31~0.49g/mLであり、より好ましくは、0.32~0.48g/mLであり、さらに好ましくは、0.33~0.47g/mLである。本PHA粒子の粒子密度が上記範囲であると、輸送の際の取扱い性に優れる。なお、本PHA粒子の粒子密度は、実施例に記載の方法で測定される。
【0051】
本PHA粒子の粒子径は、2~10mmであり、2.2~9mmであることが好ましく、2.5~8mmであることがより好ましく、2.8~7mmであることがさらに好ましい。本PHA粒子の粒子径が上記範囲であると、輸送の際の取扱い性に優れる。なお、PHA粒子の粒子径は、実施例に記載の方法により測定される。
【0052】
本PHA粒子の高さは、1~5mmであり、1.2~4.5mmであることが好ましく、1.3~4mmであることがより好ましく、1.4~3.5mmであることがさらに好ましい。本PHA粒子の高さが上記範囲であると、輸送の際の取扱い性に優れる。なお、PHA粒子の高さは、実施例に記載の方法により測定される。
【0053】
本発明の一実施形態において、本PHA粒子は、本製造方法により製造される。
【0054】
また、本PHA粒子は、本発明の効果を奏する限り、本製造方法の過程で生じた、または除去されなかった種々の成分を含んでいてもよい。
【0055】
本PHA粒子は、紙、フィルム、シート、チューブ、板、棒、容器(例えば、ボトル容器等)、袋、部品等、種々の用途に利用できる。
【0056】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0057】
すなわち、本発明の一実施形態は、以下である。
<1>(a)pHが7以下であって、10 1/sのせん断速度を与えたときの粘度が1~5Pa・sであるPHA水性懸濁液を調製する工程、
(b)前記工程(a)で得られたPHA水性懸濁液から、液滴径2~10mm、かつ、高さが1~5mmのPHA液滴を形成する工程、および
(c)前記工程(b)で形成したPHA液滴の水を揮発させる工程、を含む、PHA粒子の製造方法。
<2>前記工程(b)が、造粒装置を用いて行われる、<1>に記載の製造方法。
<3>前記工程(c)が、PHA液滴の水を加熱により揮発させる加熱工程である、<1>または<2>に記載の製造方法。
<4>前記加熱工程における加熱温度が、60~160℃である、<3>に記載の製造方法。
<5>前記工程(b)におけるPHA液滴密度が、0.7~1.5g/mLである、<1>~<4>のいずれかに記載の製造方法。
<6>(粒子密度が0.3~0.5g/mLであり、粒子径2~10mm、かつ、高さが1~5mmであるPHA粒子。
【実施例0058】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0059】
〔測定および評価方法〕
実施例および比較例における測定および評価を、以下の方法で行った。
【0060】
(PHA水性懸濁液の粘度)
PHA水性懸濁液の粘度は、以下の方法により測定した。具体的には、Anton Paar社製のMCR302を用いて、同軸2重円筒にて粘度を測定した。PHA水性懸濁液を20mL円筒に投入し、液温度は25℃に調整した。目的せん断速度到達後、トルクの時間変化が1%未満になった際の粘度を測定した。
【0061】
(PHA液滴の液滴径と高さ)
PHA液滴の液滴径と高さは、定規を用いて測定した。
【0062】
(PHA液滴密度)
PHA液滴密度は、メスシリンダーを用いて測定されたPHA水性懸濁液重量により算出したPHA水性懸濁液密度とした。PHA液滴密度は、下記式(1)により規定される。
PHA液滴密度(g/ml)=PHA水性懸濁液重量/PHA水性懸濁液体積・・・(1)
(PHA粒子密度)
PHA粒子密度は、ノギスを用いて測定されたPHA粒子体積を用いて算出した。PHA粒子密度は、下記式(2)により規定される。
PHA粒子密度(g/ml)=PHA粒子重量(g)/PHA粒子体積(ml)・・・(2)
〔実施例1〕
(菌体培養液の調製)
国際公開第2010/067543号に記載に記載の方法で培養し、PHAを含有する菌体を含む菌体培養液を得た。なお、ラルストニア・ユートロファは、現在では、カプリアビダス・ネカトールに分類されている。
【0063】
(滅菌処理)
上記で得られた菌体培養液を内温60~80℃で20分間加熱・攪拌処理し、滅菌処理を行った。
【0064】
(高圧破砕処理)
上記で得られた滅菌済みの菌体培養液に、0.2重量%のドデシル硫酸ナトリウムを添加した。さらに、pHが11.0になるように水酸化ナトリウム水溶液を添加した後、50℃で1時間保温した。その後、高圧破砕機(ニロソアビ社製高圧ホモジナイザーモデルPA2K型)を用いて、450~550kgf/cmの圧力で高圧破砕を行った。
【0065】
(精製処理)
上記で得られた高圧破砕後の破砕液に対して、等量の蒸留水を添加した。これを遠心分離した後、上清を除去して2倍濃縮した。この濃縮したPHAの水性懸濁液に、除去した上清と同量の水酸化ナトリウム水溶液(pH11)を添加して遠心分離し、上清を除去した。そこに再度水を添加して懸濁させ、0.2重量%のドデシル硫酸ナトリウムと、PHAの1/100重量のプロテアーゼ(ノボザイム社製、エスペラーゼ)を添加し、pH10で50℃に保持したまま、2時間攪拌した。その後、遠心分離により上清を除去して4倍濃縮した。さらに水を添加して、PHA濃度が40.0重量%になるように調整した。
【0066】
上記で得られたPHA水性懸濁液に硫酸を添加し、pHを3.5に調整した。10 1/sのせん断速度を与えた場合のPHA水性懸濁液の25℃における粘度は、2379mPa・s(約2.4Pa・s)であった。得られたPHA水性懸濁液をROTOFORMER(IPCO社製)に供給し、直径3.3mm、高さ2mmのPHA液滴を得た。前記PHA液滴密度は、0.8g/mlであった。前記PHA液滴を150℃の熱風を照射することで乾燥し、PHA粒子を得た。前記PHA粒子の粒子径および高さは、それぞれ3.1mmおよび1.5mmであった。また、粒子の破砕が起こらず、微粉の発生も抑制されていた。また、PHA粒子密度は、0.39g/mLであった。
【0067】
〔比較例1〕
精製処理にてPHA濃度が30.0重量%になるように調整した以外は、実施例1と同様の条件でPHA水性懸濁液を得た。10 1/sのせん断速度を与えた場合のPHA水性懸濁液の粘度は、720mPa・s(約0.7Pa・s)であった。得られたPHA水性懸濁液をROTOFORMERに供給したところ、排出された液滴が広がり、粒形状を保つことができなかった。
【0068】
〔比較例2〕
精製処理にてPHA濃度が50.0重量%になるように調整した以外は、実施例1と同様の条件でPHA水性懸濁液を得た。10 1/sのせん断速度を与えた場合のPHA水性懸濁液の粘度は、9097mPa・s(約9.1Pa・s)であった。得られたPHA水性懸濁液をROTOFORMERに供給したところ、排出された液滴は球形状とならなかった。前記PHA液滴密度は、1.0g/mlであった。液滴を150℃の熱風を照射することで乾燥し、PHA粒子を得たが粒子は乾燥過程で破砕してしまい、10μm以下の微粉が発生していた。
【0069】
〔実施例2〕
精製処理にてPHA濃度が50.0重量%になるように調整した以外は、実施例1と同様の条件で精製し、PHA水性懸濁液を得た。得られたPHA水性懸濁液に分散剤であるエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体非イオン性分散剤(ポリエチレンオキサイド分子量8000、ポリプロピレンオキサイド分子量2000、商品名プロノン208)を0.375phr(水性懸濁液中に存在するPHA100重量部に対して0.375重量部)添加し、pHを2.8に調整した。10 1/sのせん断速度を与えた場合のPHA水性懸濁液の25℃における粘度は、2095mPa・sだった。得られたPHA水性懸濁液を図1の造粒装置にて、液滴形成、熱風乾燥を実施し、PHA粒子を得た。加振機3としては、OLI社製振動機(Type:OT36、空気供給圧0.4MPaG)を用いた。得られたPHA液滴の大きさは、直径6mm、高さ3mmだった。前記PHA液滴密度は、1.0g/mlであった。前記PHA液滴を130℃の熱風7を照射することでPHA粒子を得た。前記PHA粒子の粒子径および高さは、それぞれ、5mmおよび2mmであった。また、粒子の破砕が起こらず、微粉の発生も抑制されていた。また、PHA粒子密度は、0.45g/mLであった。
【0070】
<結果>
実施例1、2および比較例1、2より、PHAの製造工程において、特定の粘度のPHA水性懸濁液を調製することにより、特定の粒子径、かつ、特定の高さを有するPHA液滴を形成することができた。その結果、微粉の発生を抑制できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本製造方法によれば、ハンドリング性のよいPHA粒子を製造することができることから、PHAを使用する種々の分野において、好適に利用できる。
【符号の説明】
【0072】
1 PHA水性懸濁液
2 PHA水性懸濁液供給ポンプ
3 加振機
4 穴あき容器
5 コンベヤー
6 PHA液滴
7 熱風
図1