(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086343
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】生体情報測定装置および生体情報測定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/02 20060101AFI20230615BHJP
A61B 5/022 20060101ALI20230615BHJP
A61B 5/33 20210101ALI20230615BHJP
【FI】
A61B5/02 B
A61B5/02 350
A61B5/02 310V
A61B5/02 310K
A61B5/022 400H
A61B5/33 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200786
(22)【出願日】2021-12-10
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)フクダ電子株式会社の関連会社 販売日 令和3年2月5日 フクダ電子北海道販売(株) 令和3年2月17日 フクダ電子北東北販売(株) 令和3年2月6日 フクダ電子南東北販売(株) (その他20社) (2)フクダ電子の関連会社がアクセス可能なウェブサイト(非公開) 掲載日 令和3年1月15日 (3)フクダ電子の関連会社のためのウェブ勉強会(非公開) 開催日 令和2年12月16日 令和2年12月17日
(71)【出願人】
【識別番号】000112602
【氏名又は名称】フクダ電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 智幸
(72)【発明者】
【氏名】権田 絢香
(72)【発明者】
【氏名】吉野 健作
【テーマコード(参考)】
4C017
4C127
【Fターム(参考)】
4C017AA04
4C017AA08
4C017AA09
4C017AA19
4C017AB10
4C017AC03
4C017AC16
4C017AC35
4C017BD01
4C017BD04
4C017BD05
4C017CC02
4C017DD14
4C017DD17
4C017EE15
4C017FF05
4C127AA02
4C127BB05
4C127GG13
(57)【要約】
【課題】心臓の不規則な拍動による影響の少ない生体情報を短時間で測定することができる、生体情報測定装置および生体情報測定方法を提供すること。
【解決手段】生体情報測定装置は、被検者の長期間の心拍情報の統計的代表値を取得する長期間心拍代表値取得部と、測定時間方向に移動する検出窓を設定する検出窓設定部と、前記検出窓内の心拍情報と、前記長期間心拍代表値取得部に取得された前記統計的代表値との差が所定閾値以内となったか否かを判定する判定部と、前記判定部によって前記差が所定閾値以内である判定結果が得られた場合に、当該検出窓内の生体情報を有効生体情報として抽出する抽出部と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定時間方向に移動する検出窓を設定する検出窓設定部と、
前記検出窓の窓幅よりも長い期間の被験者の心拍情報の統計的代表値を取得する長期間心拍代表値取得部と、
前記検出窓内の心拍情報と、前記長期間心拍代表値取得部によって取得された前記統計的代表値との差が所定閾値以内となったか否かを判定する判定部と、
前記判定部によって前記差が所定閾値以内である判定結果が得られた場合に、当該検出窓内の生体情報を有効生体情報として抽出する抽出部と、
を備える生体情報測定装置。
【請求項2】
前記長期間心拍代表値取得部により取得される前記統計的代表値は、被検者に装着された心電電極を介して得られる心電図を用いて、当該心電図を計測可能になった時点から取得された心拍情報の統計的代表値である、
請求項1に記載の生体情報測定装置。
【請求項3】
前記心拍情報は、RR間隔またはハートレートである、
請求項1または2に記載の生体情報測定装置。
【請求項4】
前記生体情報は、脈波、血圧またはSpO2を含む、
請求項1から3のいずれか一項に記載の生体情報測定装置。
【請求項5】
測定時間方向に移動する検出窓を設定するステップと、
前記検出窓の窓幅よりも長い期間の被験者の心拍情報の統計的代表値を取得するステップと、
前記検出窓内の心拍情報と、前記統計的代表値との差が所定閾値以内となったか否かを判定するステップと、
前記差が所定閾値以内である判定結果が得られた場合に、当該検出窓内の生体情報を有効生体情報として抽出するステップと、
を含む生体情報測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓の拍動による影響を受ける生体情報、例えば脈波、血圧、SpO2などの生体情報を測定する生体情報測定装置および生体情報測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動脈硬化や血管の詰まり等の血管疾患の指標として、下肢と上肢で計測した血圧の比(下肢上肢血圧比)や、脈波伝播速度または脈波速度(Pulse Wave Velocity:PWV)が一般的に用いられている。下肢上肢血圧比としては、例えば上腕と足首で計測した収縮期血圧の比(ABI)や上腕と足趾で計測した収縮期血圧の比(TBI)などが知られており、下肢の動脈狭窄の有無を表す指標として用いられる。
【0003】
一方、PWVは心臓から大動脈に血液を送り出す際に発生した波動が動脈の血管壁を伝わる速さであり、速くなるほど血管が硬くなっていることを意味する。PWVは血管上の2点の脈波およびその伝播時間(PWT)を計測し、この2点間の距離を伝播時間で除すことにより求められる。
【0004】
PWVを計測可能な血圧脈波測定装置が例えば特許文献1に記載されている。PWVに加えて、CAVI(Cardio Ankle Vascular Index)を計測可能な血圧脈波測定装置が例えば特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-164301号公報
【特許文献2】特開2006-110155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、心房細動時に脈波などの生体情報を測定すると、測定される生体情報が乱れてしまうので、所望の生体情報を測定するのが困難である。
【0007】
これを、具体的に説明する。
【0008】
心房細動は1拍ごとに拍-拍間の時間が一定期間以上ランダムに変わる病態である。心臓で1拍を送り出す際のメカニズムは、拡張期に、右房から右室および左房から左室に血液が送りこまれることである。その後収縮期となり、右室および左室の収縮により、肺動脈および大動脈に血液が駆出される。
【0009】
CAVIやPWVなどに影響を及ぼす血管のスティフネスは内圧によって変化するため、この1拍ごとの血圧の変動によって毎拍バラバラな値になってしまう問題がある。
【0010】
この問題を解決する一つの方法として、被検者の代表的な血圧およびスティフネスを出すために、何十拍もの血圧および脈波を計測し、それを平均化する方法がとられているが、この方法では、血圧および脈波を計測する時間が長くなる欠点がある。カフを用いて脈波を計測する場合には、被検者に長い期間カフ圧をかけ続けることとなり、被検者に長い期間の負荷がかかることを考えると、長い時間の計測は好ましくない。また、カテーテルを使用して心内圧を計測する方法も考えられるが、この場合心内にカテーテルを留置する時間が長くなるため現実的ではない。
【0011】
本発明は、以上の点を考慮してなされたものであり、心臓の不規則な拍動による影響の少ない生体情報を短時間で測定することができる、生体情報測定装置および生体情報測定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の生体情報測定装置の一つの態様は、
測定時間方向に移動する検出窓を設定する検出窓設定部と、
前記検出窓の窓幅よりも長い期間の被検者の心拍情報の統計的代表値を取得する長期間心拍代表値取得部と、
前記検出窓内の心拍情報と、前記長期間心拍代表値取得部によって取得された前記統計的代表値との差が所定閾値以内となったか否かを判定する判定部と、
前記判定部によって前記差が所定閾値以内である判定結果が得られた場合に、当該検出窓内の生体情報を有効生体情報として抽出する抽出部と、
を備える。
【0013】
本発明の生体情報測定方法の一つの態様は、
測定時間方向に移動する検出窓を設定するステップと、
前記検出窓の窓幅よりも長い期間の被検者の心拍情報の統計的代表値を取得するステップと、
前記検出窓内の心拍情報と、前記統計的代表値との差が所定閾値以内となったか否かを判定するステップと、
前記差が所定閾値以内である判定結果が得られた場合に、当該検出窓内の生体情報を有効生体情報として抽出するステップと、
を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、心臓の不規則な拍動による影響の少ない生体情報を短時間で測定することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態に係る血圧脈波検査装置の全体構成を示すブロック図
【
図2】実施の形態による生体情報測定装置及び方法を実現するための要部構成を示すブロック図
【
図3】実施の形態の生体情報の抽出動作の説明に供する図であり、
図3Aは1拍ごとのRR間隔の経時的変化と検出窓とを示した図、
図3BはRR間隔の平均値の経時的変化を示した図
【
図4】血圧脈波測定装置における血圧脈波計測に関する動作の流れを示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
<1>血圧脈波検査装置の全体構成
図1は、本発明の実施の形態に係る血圧脈波検査装置の全体構成を示すブロック図である。
【0018】
図1において、血圧脈波検査装置1の本体1aには、演算処理部10、入力部70、表示部80、表示制御部81、印字部91、記憶部92、音声出力部93、血圧脈波計測部30、心音計測部40、心電図計測部50および脈波計測部60が設けられている。
【0019】
血圧脈波計測部30は、上腕用計測制御部31および下肢用計測制御部32を有する。上腕用計測制御部31には、右上腕用カフ21Rおよび左上腕用カフ21Lがそれぞれホース21hを介して接続され、下肢用計測制御部32には、右足首用カフ22Rおよび左足首用カフ22Lがそれぞれホース22hを介して接続されている。
【0020】
血圧脈波計測部30は、オシロメトリック式の血圧計測機能と空気袋式の脈波計測機能とを有する。
【0021】
上肢用計測制御部31は、圧力センサ33と、圧力センサ33による検出信号に対して増幅などの所定の信号処理を施す信号処理回路と、カフ21R、カフ21Lに対する給排気を行うポンプおよび排気弁と、この給排気動作を制御するCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、各種インターフェース等を有するコンピュータと、を有する。上肢用計測制御部31は、ホース21hを介してカフ21R、カフ21Lのゴム嚢に空気を導入することでカフ21R、21Lの内圧(以下、カフの内圧を「カフ圧」という)を加圧するとともに、ゴム嚢から空気を排出することでカフ21R、21Lのカフ圧を減圧する。カフ21Rは被検者の右上腕に装着され、カフ21Lは被検者の左上腕に装着される。加圧後のカフ圧の目標値は、脈波計測の場合と血圧計測の場合とで異なり、それぞれ個別に設定可能である。
【0022】
脈波計測の場合、上肢用計測制御部31は、加圧後のカフ21R、21Lのカフ圧の変動を脈波信号として圧力センサ33で検出し、検出された脈波信号を演算処理部10に出力する。脈波計測は、演算処理部10からの要求に応じて行われる。なお、脈波計測には、2つのカフ21R、21Lのうち片方のみが使用されてもよいし、両方が使用されても良い。
【0023】
血圧計測の場合、上肢用計測制御部31は、減圧中にカフ21R、21Lのカフ圧の振動を圧力センサ33により検出しながら、振幅の増大が最も顕著なカフ圧を収縮期血圧として検出するとともに、振動の減少が最も顕著なカフ圧を拡張期血圧として検出する。そして、上肢用計測制御部31は、検出された収縮期血圧および拡張期血圧をそれぞれ示す血圧信号を演算処理部10に出力する。血圧計測は、演算処理部10からの要求に応じて行われる。なお、演算処理部10からの要求があった場合、通常は、カフ21Rのみを用いた右側血圧計測とカフ21Lのみを用いた左側血圧計測とが順次行われるが、これらの血圧計測は並行して行われてもよい。
【0024】
下肢用計測制御部32は、圧力センサ34と、圧力センサ34による検出信号に対して増幅などの所定の信号処理を施す信号処理回路と、カフ22R、カフ22Lに対する給排気を行うポンプおよび排気弁と、この給排気動作を制御するCPU、ROM、RAM、各種インターフェース等を有するコンピュータと、を有する。下肢用計測制御部32は、ホース22hを介してカフ22R、カフ22Lのゴム嚢に空気を導入することでカフ22R、22Lのカフ圧を加圧するとともに、ゴム嚢から空気を排出することでカフ22R、22Lのカフ圧を減圧する。カフ22Rは被検者の右足首に装着され、カフ22Lは被検者の左足首に装着される。加圧後のカフ圧の目標値は、脈波計測の場合と血圧計測の場合とで異なり、それぞれ個別に設定可能である。脈波計測時および血圧計測時の下肢用計測制御部32の動作については、上肢用計測制御部31と同様であるため、ここではその詳細な説明を省略する。
【0025】
上肢用計測制御部101および下肢用計測制御部32のコンピュータは、ROMに記憶された制御プログラムをCPUで実行することにより、以下に説明する血圧脈波計測のための演算処理などを行う。
【0026】
なお、血圧脈波計測部30は、本実施の形態では、上肢用計測制御部31と下肢用計測制御部32とを独立に設けてなるものであるが、上肢用計測制御部31と下肢用計測制御部32とが一体化してなるものであってもよい。
【0027】
心音計測部40には心音マイク23が接続されている。心電図計測部50には、四肢用心電電極部24aおよび胸部用心電電極部24bが接続されている。脈波計測部60には、アモルファス式脈波センサ25a、25bが接続されている。
【0028】
演算処理部10は、CPU、ROM、RAM、各種インターフェース等を有するコンピュータである。演算制御部10は、ROMに記憶された制御プログラムをCPUで実行する。
【0029】
演算処理部10は、血圧脈波計測部30、心音計測部40、心電図計測部50および脈波計測部60(以下これらを「各生体情報計測部」という)を制御する。
【0030】
また、演算処理部10は、各生体情報計測部から供給された生体情報を受信する。そして、受信した生体情報を、画面に表示する必要があるときには表示用データに編集または変換した上で表示部80に、レポート用の用紙に印字する必要があるときには印字用データに編集または変換した上で印字部91に、出力する。また、演算処理部10は適宜、受信した生体情報を記憶部92に記憶したり、記憶された生体情報を読み出したりする。
【0031】
また、演算処理部10は、各生体情報計測部から受信した生体情報の波形分析等を行う。波形分析では、波形における特徴部(区分点)の検出等を行う。特徴部としては、例えば、心II音の開始部、上腕での脈波の立上り部、足首での脈波の立上り部、脈波のノッチ、上腕での脈波の切痕部、等が挙げられる。
【0032】
演算処理部10は、この分析結果と、受信した生体情報により示された数値(例えば血圧)とに基づいて、動脈硬化度の算出を行う。
【0033】
具体的に説明する。演算処理部10は、脈波伝播速度として上腕-足首間脈波伝播速度baPWV(brachial-ankle Pulse Wave Velocity)および心臓-足関節間動脈脈波伝播速度haPWV(heart-ankle Pulse Wave Velocity)を求めるとともに、下肢上肢血圧比として足関節上腕血圧比ABI(Ankle Brachial Pressure Index)を求める。すなわち、演算処理部10は、血圧脈波計測部30により検出された脈波を用いて足関節上腕血圧比(ABI)および脈波伝播速度(PWV)を算出する。また、演算制御部10は、血圧脈波計測部30により検出された脈波を用いて被検者の血圧値を算出する。さらに、演算制御部10は、心臓-足関節間動脈脈波伝播速度haPWVに基づいて算出されるCAVI(Cardio Ankle Vascular Index)などの指標も算出する。ここで、演算制御部10は、心臓-足関節間動脈脈波伝播速度haPWVを対数脈波で補正することによりCAVIを算出する。知られているように、上腕-足首間脈波伝播速度baPWVおよび心臓-足関節間動脈脈波伝播速度haPWVは血管の硬さを示す指標であり、また、足関節上腕血圧比ABIは血管の詰まりを示す指標である。
【0034】
また、演算処理部10は、ユーザの操作による入力や指示の内容を入力部70から受信し、受信内容に従って、各生体情報計測部や表示部80、印字部91、記憶部92および音声出力部93の機能に関連する設定を行ったり、それぞれの動作の開始や停止を制御したりする。
【0035】
表示部80は、例えばLCD(Liquid Crystal Display)等の表示画面を有する表示装置であり、演算処理部10から表示用データとして入力された生体情報、分析結果および動脈硬化度等を画面に表示する。
【0036】
印字部91は、給紙機構や印字用ヘッド等を主要構成として有し、演算処理部10から印字用データとして入力された生体情報、分析結果および動脈硬化度を用紙に印字する。
【0037】
記憶部92は、ハードディスクドライブや書き込み可能な光ディスクドライブ、不揮発性メモリ等により構成され、演算処理部10からの情報の記憶が可能である。また、記憶部92には、各生体情報計測部によって計測された生体情報、つまり心電図、脈波および心音が記録される。
【0038】
音声出力部93は、スピーカ等を主要構成として有し、演算処理部10から入力されたガイダンス用データまたは報知音出力指示信号に従って、ガイダンス音声または報知音等を出力する。
【0039】
入力部70は、キーボードやマウス、ボタン、タッチパネル等から構成され、ユーザの操作による入力や指示を受け付けて、演算処理部10に送る。
【0040】
脈波計測部60は、被検者に適切に装着されたアモルファス式脈波センサ25a、25bにより検出された被検者の脈波信号を演算処理部10に供給する。これにより、脈波の計測および解析が行われる。なお、アモルファス式脈波センサ25a、25bの一方は例えば被検者の頸動脈部に装着され、他方は例えば被検者の大腿動脈部または膝部に装着される。
【0041】
心電図計測部50は、被検者に装着された四肢用心電電極部24aおよび胸部用心電電極部24bにより検出された心電図信号を演算処理部10に供給する。これにより、心電図の計測および解析が行われる。四肢用心電電極部24aは、典型的には、右手首、左手首、右足首および左足首にそれぞれ装着される4つの心電電極からなる。両足首用の心電電極に関しては、両足首への装着が右足首用カフ22Rおよび左足首用カフ22Lにより妨げられないように形成されていることが好ましい。また、胸部用心電電極部25bは、典型的には、胸部の6箇所にそれぞれ装着される6つの心電電極からなる。
【0042】
心音計測部40は、被検者に装着された心音マイク23により検出された心音信号を演算処理部10に供給する。これにより、心音の計測および解析が行われる。
【0043】
<2>本実施の形態による生体情報の取得処理
図2は、本実施の形態による生体情報測定装置及び方法を実現するための要部構成を示すブロック図である。本実施の形態の場合、
図2の構成は、演算処理部10に設けられる。上述したように、演算処理部10は、CPU、ROM、RAM、各種インターフェース等を有するコンピュータである。演算制御部10は、
図2に示した各機能を、ROMに記憶された制御プログラムをCPUで実行することで実現する。
【0044】
長期間心拍代表値取得部101は、被検者の長期間の心拍情報の統計的代表値を取得する。本実施の形態の場合、長期間心拍代表値取得部101は、心電図計測部50により得られた心電図を入力し、統計的代表値として心電図のRR間隔の平均値を算出する。長期間心拍代表値取得部101により得られた統計的代表値は、判定部103に出力される。
【0045】
検出窓設定部102は、測定時間方向に移動する検出窓を設定する。検出窓設定部102により設定された検出窓の情報は、判定部103に出力される。
【0046】
判定部103は、心電図、統計的代表値および設定窓の情報を入力し、検出窓内の心拍情報と、統計的代表値との差が所定閾値以内となったか否かを判定する。
【0047】
抽出部104は、血圧脈波計測部30により得られた脈波、検出窓の情報、および、判定部103の判定結果情報を入力し、統計的代表値との差が所定閾値以内となった判定結果が得られた検出窓内の脈波を有効脈波として抽出する。
【0048】
次に、
図3を用いて、本実施の形態の生体情報の抽出動作について説明する。
図3Aは、一拍毎のRR間隔値の経時的変化と、検出窓と、を示した図である。
図3Bは、RR間隔の平均値の経時的変化を示した図である。一拍毎のRR間隔値およびRR間隔の平均値は、検査時間が経過するにつれて更新されていく。
【0049】
RR間隔の平均値は、長期間心拍代表値取得部101によって算出される値であり、例えば、心電図を計測可能になった時点からのRR間隔の平均値である。また、RR間隔の平均値は、例えば30拍のRR間隔の平均値であってもよい。長期間心拍代表値取得部101は、少なくとも検出窓の窓幅よりも長い期間のRR間隔の平均値を算出する。つまり「長期間」とは検出窓の窓幅よりも長い期間という意味である。
【0050】
検出窓の窓幅は、例えば5秒、8秒または16秒などである。本実施の形態の例では、窓幅は5秒であるとする。
【0051】
図3において、判定部103は、検出窓1内のRR間隔の平均値と、長期間心拍代表値取得部101により得られたRR間隔の平均値とを比較する。検出窓1内のRR間隔の平均値とは、時点t1からt2の間でのRR間隔の平均値である。一方、長期間心拍代表値取得部101により得られたRR間隔の平均値とは、例えば心電図の計測可能となった時点から時点t2までのRR間隔の平均値(統計的代表値)である。
【0052】
判定部103は、検出窓1内のRR間隔の平均値と、検出窓の窓幅よりも長期間でのRR間隔の平均値との差が所定閾値よりも大きい場合には、当該検出窓1内の脈波は採用しないことを示す判定結果を抽出部104に出力する。
【0053】
検出窓1内の脈波が採用されなかった場合、検査(測定)時間の経過に従って、検出窓が検査(測定)時間方向に移動するように設定される。
【0054】
判定部103は、検出窓Xにおいて、当該検出窓X内のRR間隔の平均値(時点tx1からtx2の間でのRR間隔の平均値)と、長期間心拍代表値取得部101により得られたRR間隔の平均値(心電図の計測可能となった時点から時点tx2までのRR間隔の平均値)とを比較し、その差が所定閾値以内であると判定した場合には、当該検出窓X内の脈波を採用することを示す判定結果を抽出部104に出力する。
【0055】
すると、抽出部104は、検出窓X内の脈波を抽出して出力する。この脈波は、演算処理部10がPWVやCAVIなどを算出するために用いられる。
【0056】
図4は、血圧脈波検査装置1における血圧脈波計測に関する動作の流れを示す図である。
【0057】
まずステップF11で患者に心電電極が装着される。この時点から心電図、つまりRR間隔が取得可能となる。ステップF12でユーザによりスタートボタンが押下されると、これと同時にカフ21R、21L、22R、22Lへの加圧が開始される(ステップF13)。ステップF14においてカフ加圧が終了し圧力が維持される。
【0058】
ステップF15において、脈波が安定するのを待って脈波の計測が開始される。ここでの脈波の安定とは、例えば脈波の基線動揺が所定値以下になることを言う。
【0059】
ステップF16-1~F16-3において、上述した検出窓を用いて適切な脈波の検索が行われる。やがて、ステップF17において適切な脈波計測範囲がくると(つまり判定部103により検出窓が適切であると判定されると)、ステップF18においてその計測範囲(検出窓)の脈波を抽出して記憶し、カフ排気を開始する。ステップF19でカフ排気が終了すると、血圧脈波計測が終了する。
【0060】
<3>まとめ
以上説明したように、本実施の形態によれば、被検者の長期間の心拍情報の統計的代表値を取得する長期間心拍代表値取得部101と、測定時間方向に移動する検出窓を設定する検出窓設定部102と、検出窓内の心拍情報と、長期間心拍代表値取得部101に取得された統計的代表値との差が所定閾値以内となったか否かを判定する判定部103と、判定部103によって前記差が所定閾値以内である判定結果が得られた場合に、当該検出窓内の生体情報を有効生体情報として抽出する抽出部104と、を設けたことにより、心臓の不規則な拍動による影響の少ない生体情報を短時間で測定することができる、生体情報測定装置を実現できる。
【0061】
例えば慢性心房細動の患者の場合、RR間隔および血圧値が1拍ごとに変動する。そのため従来の測定方法では、検査ごとにCAVIの値が上下するなどの影響があり、再現性の良いCAVIの値を得ることが困難であった。本実施の形態によれば、慢性心房細動の患者でも、長時間に亘るRR間隔の平均値を用いて、現時点の心拍の信頼性を判定した上で代表脈波を抽出するので、代表脈波のバラつきを抑え、安定したCAVI計測を行うことができるようになる。
【0062】
また、心拍情報は、被検者に心電電極が装着された時点から計測可能であり、抽出しようとする生体情報(例えば脈波)の計測を開始する時点よりも前の時点から取得可能なので、長時間の統計的代表値(平均値)を得るのに適している。そして、本発明では、抽出しようとする生体情報を平均化するのではなく、抽出しようとする生体情報よりも前の時点から取得可能である心拍情報を基準にして、生体情報の抽出を行うようにしているので、心房細動の患者の場合でも、心臓の不規則な拍動による影響の少ない生体情報を、短時間の測定で抽出することができるようになる。
【0063】
上述の実施の形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0064】
上述の実施の形態では、心拍情報としてRR間隔を用いた場合について述べたが、心拍情報はこれに限らず、例えばハートレートを用いてもよい。また、統計的代表値として平均値を用いた場合について述べたが、例えば中央値や最頻値を用いてもよい。
【0065】
また、上述の実施の形態では、長期間心拍代表値取得部101は、心電図に基づいて統計的代表値を算出する場合について述べたが、これに限らず、例えば脈波や心音に基づいてハートレートなどの統計的代表値を算出してもよい。
【0066】
また、上述の実施の形態では、抽出対象の生体情報が脈波である場合について述べたが、これに限らず、抽出対象の生体情報は、例えば血圧や、SpO2でもよく、要は、心臓の拍動による影響を大きく受ける生体情報の中から拍動によるバラツキの小さい生体情報を抽出する装置および方法として有効である。特に、心臓カテーテル検査装置による心内血圧の測定では、心房細動が生じると非常に乱れた心内血圧が計測されてしまうので、そのような装置に適用すると非常に効果的である。
【0067】
さらに、上述の実施の形態では、本発明の生体情報測定装置および生体情報測定方法を、血圧脈波検査装置1により具現化した場合について述べたが、本発明の生体情報測定装置および生体情報測定方法はこれに限らず、血圧脈波検査装置1とは別体の装置(例えばパソコンなど)によって具現化してもよい。
【0068】
要は、本発明の生体情報測定装置は、被検者の長期間の心拍情報の統計的代表値を取得する長期間心拍代表値取得部と、測定時間方向に移動する検出窓を設定する検出窓設定部と、前記検出窓内の心拍情報と、前記長期間心拍代表値取得部に取得された前記統計的代表値との差が所定閾値以内となったか否かを判定する判定部と、前記判定部によって前記差が所定閾値以内である判定結果が得られた場合に、当該検出窓内の生体情報を有効生体情報として抽出する抽出部と、を備えていればよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、心臓の拍動による影響を受ける生体情報を測定する生体情報測定装置および生体情報測定方法に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 血圧脈波検査装置
10 演算処理部
21R、21L、22R、22L カフ
30 血圧脈波計測部
50 心電図計測部
101 長期間心拍代表値取得部
102 検出窓設定部
103 判定部
104 抽出部