(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086357
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】水素ガス製造方法および水素ガス製造装置
(51)【国際特許分類】
C01B 3/04 20060101AFI20230615BHJP
B01J 19/12 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
C01B3/04 R
B01J19/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200814
(22)【出願日】2021-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】桑原 彬
(72)【発明者】
【氏名】水嶋 祐基
(72)【発明者】
【氏名】松井 信
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 暢之
【テーマコード(参考)】
4G075
【Fターム(参考)】
4G075AA05
4G075BA08
4G075CA36
4G075DA02
4G075EB34
4G075FB06
4G075FC04
(57)【要約】
【課題】水素ガスの生成効率を向上させる。
【解決手段】水素ガス製造方法は、塩分を含む水に、1ピコ秒以下のパルス幅を有するパルスレーザ20を照射し、水から水素ガスを生成する。水素ガス製造方法は、1ピコ秒以下のパルス幅を有するパルスレーザ20に対して透明な材料で構成される円筒容器内に水を収容し、円筒容器外から円筒容器内の水に向けてパルスレーザ20を照射し、水から水素ガスを生成してもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩分を含む水に、1ピコ秒以下のパルス幅を有するパルスレーザを照射し、前記水から水素ガスを生成する、水素ガス製造方法。
【請求項2】
前記水は、海水を含む、請求項1に記載の水素ガス製造方法。
【請求項3】
前記水の塩分濃度は、0.1重量%以上8重量%以下である、請求項1または2に記載の水素ガス製造方法。
【請求項4】
前記水の塩分濃度は、0.3重量%以上4重量%以下である、請求項1または2に記載の水素ガス製造方法。
【請求項5】
前記水は、前記パルスレーザに対して透明な材料で構成される円筒容器内に収容され、
前記パルスレーザは、前記円筒容器外から前記円筒容器内の前記水に向けて照射される、請求項1から4のいずれかに記載の水素ガス製造方法。
【請求項6】
1ピコ秒以下のパルス幅を有するパルスレーザに対して透明な材料で構成される円筒容器内に水を収容し、前記円筒容器外から前記円筒容器内の水に向けて前記パルスレーザを照射し、前記水から水素ガスを生成する、水素ガス製造方法。
【請求項7】
前記円筒容器の直径は、1mm以上100mm以下である、請求項5または6に記載の水素ガス製造方法。
【請求項8】
前記パルスレーザは、0.28以上0.42以下の開口数を有するレンズにより、前記水に向けて集光される、請求項1から7のいずれか一項に記載の水素ガス製造方法。
【請求項9】
前記パルスレーザは、前記水から生成される気泡の浮力によって流れが生じている前記水に向けて照射される、請求項1から8のいずれか一項に記載の水素ガス製造方法。
【請求項10】
前記パルスレーザは、前記水に向けて集光位置を時間的に変動させながら照射される、請求項1から9のいずれか一項に記載の水素ガス製造方法。
【請求項11】
1ピコ秒以下のパルス幅を有するパルスレーザを生成するレーザ光源と、
前記パルスレーザに対して透明な材料で構成される円筒容器と、
前記円筒容器内に収容される水に向けて、前記パルスレーザを集光させるレンズと、を備える水素ガス製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水素ガス製造方法および水素ガス製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素などの温室ガスを排出しないエネルギー源として水素が注目されている。特に、製造工程において二酸化炭素を排出させずに生成された水素は、「グリーン水素」といわれ、環境負荷の低いエネルギー源として注目されている。グリーン水素は、例えば、太陽光や風力などの自然エネルギーを利用して発電した電力を用いて水を電気分解することにより生成される。水素を生成する方法として、水にフェムト秒レーザを照射し、水分子を多光子イオン化させることによって水素ガスを生成する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】H. K. Pawlak et. al, "Hydrogen Production in Liquid Water by Femtosecond Laser-Induced Plasma", Appl. Energy 2019, 247, 24-31.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水素ガスの生成効率を高めることが求められている。
【0005】
本開示はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的の一つは、水素ガスの生成効率を高める技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある態様の水素ガス製造方法は、塩分を含む水に、1ピコ秒以下のパルス幅を有するパルスレーザを照射し、水から水素ガスを生成する。
【0007】
本開示の別の態様の水素ガス製造方法は、1ピコ秒以下のパルス幅を有するパルスレーザに対して透明な材料で構成される円筒容器内に水を収容し、円筒容器外から円筒容器内の水に向けてパルスレーザを照射し、水から水素ガスを生成する。
【0008】
本開示のさらに別の態様の水素ガス製造装置は、1ピコ秒以下のパルス幅を有するパルスレーザを生成するレーザ光源と、パルスレーザに対して透明な材料で構成される円筒容器と、円筒容器内に収容される水に向けて、パルスレーザを集光させるレンズと、を備える。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本開示の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、水素ガスの生成効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1(a),(b)は、第1実施形態に係る水素ガス製造装置の構成を概略的に示す図である。
【
図2】原料水の塩分濃度と水素ガス生成量の関係を示すグラフである。
【
図3】
図3(a)~(e)は、パルスレーザが照射された原料水から生成されるガスの気泡を撮像した画像である。
【
図4】パルスレーザの照射時間と水素ガス生成量の関係を示すグラフである。
【
図5】レンズ開口数と水素ガス生成量の関係を示すグラフである。
【
図6】第2実施形態に係る水素ガス製造装置の構成を概略的に示す図である。
【
図7】第3実施形態に係る水素ガス製造装置の構成を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示を詳述する前に概要を説明する。本開示は、1ピコ(10-12)秒以下のパルス幅を有するパルスレーザを水に照射し、水から水素ガスを生成する技術に関する。1ピコ秒以下のパルス幅を有するパルスレーザは、一般的にフェムト秒レーザとも呼ばれる。フェムト秒レーザを水分子に照射することにより、水分子の多光子イオン化によって水素ガスを生成できる。
【0013】
本開示では、水素ガスを生成する原料となる水として、塩分を含む水を使用する。塩分を含む水の一例は、海水である。海水にフェムト秒レーザを照射することにより、不純物を含まない超純水にフェムト秒レーザを照射する場合に比べて、水素ガスの生成量を向上できる。ここで「超純水」とは、純度が極めて高い水であり、比抵抗値が18.2MΩ・cm以上のものを指す。
【0014】
本開示では、フェムト秒レーザに対して透明な材料で構成される円筒容器内に水を収容し、円筒容器外から円筒容器内の水に向けてフェムト秒レーザを照射する。フェムト秒レーザは、円筒容器外のレンズによって集光され、円筒容器の表面における屈折によってさらに集光されて円筒容器内の水に集光される。円筒容器を用いてフェムト秒レーザを集光することにより、レーザの入射面が平坦な容器を用いる場合に比べて、水素ガスの生成量を向上できる。
【0015】
以下、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態について詳細に説明する。なお、説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、説明の理解を助けるため、各図面における各構成要素の寸法比は、必ずしも実際の寸法比と一致しない。
【0016】
(第1実施形態)
図1(a),(b)は、第1実施形態に係る水素ガス製造装置10の構成を概略的に示す図である。
図1(a)は側面図であり、
図1(a)は上面図である。水素ガス製造装置10は、レーザ光源12と、反応容器14と、レンズ16とを備える。
【0017】
図1(a),(b)において、パルスレーザ20の照射方向をx方向とし、反応容器14の延在方向をz方向とし、x方向およびz方向に直交する方向をy方向としている。
【0018】
レーザ光源12は、1ピコ秒以下のパルス幅を有するパルスレーザ20を生成する。パルスレーザ20は、例えば、10フェムト秒以上500フェムト秒以下のパルス幅を有するフェムト秒レーザである。パルスレーザ20の中心波長は、特に問わないが、例えば、200nm以上2000nm以下である。パルスレーザ20の繰り返し周波数は、例えば、10Hz以上1MHz以下であり、例えば、100Hz以上10kH以下である。パルスレーザ20のパルスエネルギーは、例えば、0.1mJ以上10mJ以下である。
【0019】
レーザ光源12は、例えば、チタンがドープされたサファイア結晶をレーザ媒質とするフェムト秒レーザ光源である。レーザ光源12は、フェムト秒レーザを生成する発振器と、発振器から出力されるフェムト秒レーザを増幅する再生増幅器とを備える。レーザ光源12が生成するパルスレーザ20は、一例として、810nmの中心波長、1kHzの繰り返し周波数、130フェムト秒のパルス幅、および、0.1mJ以上1mJ以下のパルスエネルギーを有する。
【0020】
反応容器14は、原料水18を収容する容器である。反応容器14は、パルスレーザ20に対して透明な材料で構成され、例えば、ホウケイ酸ガラスや溶融石英などのガラス材料で構成される。反応容器14は、パルスレーザ20を透過する一部のみが透明な材料で構成されてもよいし、全体が透明な材料で構成されてもよい。反応容器14は、円筒形状である円筒容器であることが好ましく、パルスレーザ20の入射面が円筒面または凸曲面であることが好ましい。円筒容器の外径は、1mm以上100mm以下であり、例えば、5mm以上50mm以下である。
【0021】
レンズ16は、レーザ光源12から出力されるパルスレーザ20を集光させる。レンズ16は、反応容器14の外側に配置され、レンズ16の焦点が反応容器14の内側に位置するように配置される。レンズ16は、例えば、対物レンズであり、0.28以上0.42以下の開口数(NA)を有することが好ましい。
【0022】
原料水18は、水素ガスを生成する原料となる水である。原料水18は、不純物を含まない超純水であってもよいが、海水などの塩分を含む水であることが好ましい。原料水18の塩分濃度は、例えば、0.1重量%以上8重量%以下であり、0.3重量%以上4重量%以下であることが好ましい。原料水18の塩分濃度は、一般的な海水の塩分濃度(3.4重量%)と同等であってもよい。
【0023】
原料水18は、塩分として、ナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)、リチウム(Li)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)といった金属の塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫酸塩、炭酸水素塩、ホウ酸塩などを含む。原料水18は、塩分として、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化マグネシウム(MgCl2)、塩化カルシウム(CaCl2)、硫酸ナトリウム(Na2SO4)、塩化カリウム(KCl)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、臭化カリウム(KBr)、ホウ酸ナトリウム(Na2B4O7)、塩化ストロンチウム(SrCl2)、フッ化ナトリウム(NaF)、塩化リチウム(LiCl)、ヨウ化カリウム(KI)などを含む。原料水18に含まれる塩分は、これらのいずれか一つであってもよいし、これらの任意の二以上の組み合わせであってもよい。原料水18は、海水と同じ塩分組成を有してもよく、海水そのものであってもよい。
【0024】
パルスレーザ20をレンズ16で集光して、反応容器14内の原料水18に照射すると、焦点付近においてビーム照射方向(x方向)に延びるフィラメント22が生成される。焦点付近では、非常に高いレーザ光強度(例えば1013W/cm2以上)に起因する非線形光学効果(Kerr効果)によってビームが自己収束し、スポット径が拡がらずに一定のままビーム照射方向に延びるフィラメント22が生成される。フィラメント22のビーム照射方向の長さは、例えば300μm~500μm程度である。
【0025】
フィラメント22では、非常に高いレーザ光強度に起因する多光子イオン化やトンネルイオン化によって水分子の結合が切断されて水素ラジカル(H*)が生じ、水素ラジカル同士が結合することにより水素ガス(H2)が生じる。また、ヒドロキシラジカル(OH*)の生成に起因して酸素ガス(O2)も生じる。フィラメント22の近傍では、水素ガスや酸素ガスを含む気泡24が生成される。
【0026】
原料水18に塩分が含まれている場合、塩の金属成分に起因する非線形光学効果によって、水素ガスの生成量が増加する。ただし、塩分濃度が高すぎる場合、イオン化ポテンシャルの低い金属(Na,Mg,Caなど)に起因するイオンサプレッション効果によって水素ガスの生成量の減少が見られる。原料水18に塩分が含まれる場合、極微量の塩化水素ガス(HCl)が検出されるが、塩素ガス(Cl2)や次亜塩素酸(HClO)といった有害ガスは検出されない。塩化水素ガスの生成量は、水素ガスや酸素ガスの生成量に比べて5桁程度小さい。
【0027】
図2は、原料水18の塩分濃度と水素ガス生成量の関係を示すグラフである。(a)は、塩分を含まない超純水を用いた場合であり、(b)~(e)は、塩分を含む水を用いた場合である。(d)は、人工海水であり、海水と同等の3.4重量%の塩分濃度を含み、海水と同等の塩分組成を有する。(b)は、(d)の人工海水を1/10の塩分濃度に希釈したものであり、0.34重量%の塩分濃度を含む。(c)は、(d)の人工海水を1/5の塩分濃度に希釈したものであり、0.68重量%の塩分濃度を含む。(e)は、(d)の人工海水を2.5倍の塩分濃度に濃縮したものであり、8.5重量%の塩分濃度を含む。
【0028】
図2に示されるように、(b)~(d)の塩分を含む水を用いることにより、(a)の超純水を用いる場合に比べて、水素ガスの生成量が増加する。(b)~(d)の塩分濃度では、塩分濃度が高くなるほど、水素ガスの生成量が増加する。一方、(e)の濃縮した海水を用いる場合、(a)の超純水を用いる場合に比べて、水素ガスの生成量が低下する。したがって、原料水18として塩分を含む水を用いる場合、(e)よりも低い塩分濃度とすることが好ましく、原料水18の塩分濃度を0.1重量%以上8重量%以下とすることが好ましい。また、(b)~(d)の結果から原料水18の塩分濃度を0.3重量%以上4重量%以下とすることが好ましく、特に、海水と同等の3重量%以上4重量%以下の塩分濃度とすることが好ましい。
【0029】
図3(a)~(e)は、パルスレーザ20が照射された原料水18から生成されるガスの気泡を撮像した画像であり、毎秒1,000フレームの高速度カメラを用いて撮像した画像である。
図3(a)~(e)は、原料水18に含まれる塩分濃度が異なっており、それぞれ、
図2のグラフの(a)~(e)に対応する。つまり、
図3(a)は、塩分を含まない超純水であり、
図3(b)は、1/10希釈した海水であり、
図3(c)は、1/5希釈した海水であり、
図3(d)は、希釈および濃縮していない海水であり、
図3(e)は、2.5倍濃縮した海水である。
【0030】
図3(b)~(d)の低濃度の塩分を含む水の場合、比較的大きな気泡が密集して存在している。この理由として、塩の金属成分に起因する非線形光学効果によってパルスレーザ20がより強く集光されることにより、フィラメント22において気泡がより密集して発生するメカニズムが考えられる。多数の気泡の核が密集して発生することにより、多数の気泡の核が合体して大きな気泡に成長することが可能となり、最終的に取り出し可能な水素ガスの生成量の増加につながると考えられる。
【0031】
図3(a)の超純水の場合、小さな気泡が広い範囲に分散している。超純水の場合、塩の金属成分に起因する非線形光学効果の寄与がないため、気泡の核が密集して発生しにくく、大きな気泡に成長しにくいことが原因と考えられる。
【0032】
図3(e)の高濃度の塩分を含む水の場合、小さな気泡が密集して存在している。高濃度の塩分を含む場合、フィラメント22において気泡がより密集して発生する一方で、イオンサプレッション効果によって気泡の核の生成量が少なくなることが原因と考えられる。
【0033】
図4は、パルスレーザ20の照射時間と水素ガス生成量の関係を示すグラフである。直線Aは、反応容器14として外径が10mmの円筒容器を使用し、原料水18として海水を使用した場合を示す。直線Bは、反応容器14として外径が10mmの円筒容器を使用し、原料水18として超純水を使用した場合を示す。直線Cは、反応容器14としてパルスレーザ20の入射面が平坦である矩形容器を使用し、原料水18として超純水を使用した場合を示す。
【0034】
図4のグラフに示される通り、直線Cの比較例に比べて、直線Bの実施例では水素ガスの生成量が2.5倍に増えている。このことから、反応容器14として円筒容器を用いることにより、水素ガスの生成量を向上できる。また、直線Bの実施例に比べて、直線Aの実施例では水素ガスの生成量が1.3倍に増えている。このことから、原料水18として塩分を含む水を用いることにより、水素ガスの生成量を向上できる。また、パルスレーザ20の照射時間に応じて水素ガスの生成量が増えていくことから、パルスレーザ20を継続照射することで、水素ガスを連続的に生成できる。
【0035】
図5は、レンズ16の開口数と水素ガス生成量の関係を示すグラフである。
図5は、反応容器14として外径が10mmの円筒容器を使用し、原料水18として超純水を使用した場合を示す。
図5に示されるように、レンズ16の開口数を0.28以上0.42以下にすることで、水素ガスの生成量を向上できる。レンズ16の開口数を適切に設定することにより、フィラメント22の形状およびサイズを最適化し、水素ガスの生成量を向上できる。
【0036】
本実施の形態によれば、原料水18として塩分を含む水を用いることにより、水素ガスの生成量を向上できる。原料水18として塩分が含まれている場合であっても、Cl2やHClOといった有害ガスが生成されないため、地球上に無尽蔵にある海水を原料とする場合に、脱塩処理なしで水素ガスを生成できる。これは、海水の電気分解においてCl2が生じることと対照的である。
【0037】
本実施の形態によれば、原料水18を収容する反応容器14として円筒容器を用いることにより、矩形容器を用いる場合に比べて水素ガスの生成量を向上できる。また、原料水18にパルスレーザ20を集光させるレンズ16の開口数を0.28以上0.42以下とすることにより、水素ガスの生成量を向上できる。
【0038】
図6は、第2実施形態に係る水素ガス製造装置10Aの構成を概略的に示す図である。水素ガス製造装置10Aは、レーザ光源12と、反応容器14と、レンズ16と、タンク30と、帰還流路32と、ガス回収装置34とを備える。レーザ光源12、反応容器14およびレンズ16は、第1実施形態と同様に構成される。以下、第2実施形態について、第1実施形態の相違点を中心に説明し、第1実施形態との共通点については適宜説明を省略する。
【0039】
タンク30は、原料水18を貯留し、反応容器14に原料水18を供給する。反応容器14は、タンク30の鉛直方向(重力方向、z方向)の上側に設けられ、鉛直方向に延びる。帰還流路32は、反応容器14の上部からタンク30の下部に向けて延びており、反応容器14を通過した原料水18をタンク30に戻すように構成される。
【0040】
ガス回収装置34は、反応容器14にて生じる気泡24を回収する。ガス回収装置34は、反応容器14の上部に開口するガス回収口36を通じてガスを回収する。ガス回収装置34は、回収したガスから水素ガスを分離するガス分離装置を備えてもよい。
【0041】
反応容器14では、気泡24の浮力によって原料水18に鉛直上向きの流れが生じる。反応容器14にて鉛直上向きの流れが生じることにより、矢印F1で示されるように、タンク30から反応容器14に原料水18が供給される。また、反応容器14の上部に位置する原料水18は、矢印F2で示されるように帰還流路32を流れ、矢印F3で示されるようにタンク30に戻る。タンク30に貯留される原料水18は、気泡24の浮力によって循環するため、反応容器14に新鮮な原料水18を継続的に供給できる。パルスレーザ20は、原料水18から生成される気泡24の浮力によって流れが生じている原料水18に向けて照射される。
【0042】
本実施の形態によれば、ポンプ等の動力源を用いることなく、気泡24の浮力によって原料水18を循環させることができ、水素ガスの生成に必要なエネルギーを削減できる。また、反応容器14に新鮮な原料水18を継続的に供給することにより、水素ガスを効率的かつ連続的に生成できる。
【0043】
図7は、第3実施形態に係る水素ガス製造装置10Bの構成を概略的に示す図である。水素ガス製造装置10Bは、レーザ光源12と、反応容器14と、レンズ16と、空間光変調器40とを備える。第3実施形態は、空間光変調器40をさらに備える点で、第1実施形態と相違する。以下、第3実施形態について、第1実施形態の相違点を中心に説明し、第1実施形態との共通点については適宜説明を省略する。
【0044】
空間光変調器40は、レーザ光源12とレンズ16の間に配置される。空間光変調器40は、レーザ光源12から出力されるパルスレーザ20のビームプロファイルを変調するよう構成される。空間光変調器40によってビームプロファイルが調整されたパルスレーザ20は、レンズ16によって原料水18に向けて集光される。
【0045】
空間光変調器40は、例えば、レンズ16から原料水18に向けて複数のビーム42が集光するように、パルスレーザ20のビームプロファイルを変調する。この場合、反応容器14内の複数の集光位置にフィラメント22が形成される。複数の集光位置にフィラメント22を形成することにより、水素ガスの発生源を複数にすることができ、水素ガスの生成量を向上できる。
【0046】
空間光変調器40は、反応容器14内の集光位置が時間的に変動するように、パルスレーザ20のビームプロファイルを変調してもよい。この場合、パルスレーザ20の照射によって気泡24が発生している場所とは別の場所に次のパルスレーザ20を照射することが可能となる。これにより、気泡24にパルスレーザ20が照射されることによる水素ガスの生成量の低下を抑制できる。
【0047】
第3実施形態の変形例として、パルスレーザ20をミラーやレンズなどの光学素子を用いて走査することにより、反応容器14内の集光位置が時間的に変動するようにしてもよい。例えば、パルスレーザ20を走査するガルバノミラーまたはポリゴンミラーと、走査されたパルスレーザ20を反応容器14に向けて集光させるfθレンズとを用いてもよい。
【0048】
以上、本開示を実施の形態にもとづいて説明した。本開示は上記実施の形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0049】
10…水素ガス製造装置、12…レーザ光源、14…反応容器、16…レンズ、18…原料水、20…パルスレーザ、22…フィラメント、24…気泡、30…タンク、32…帰還流路、34…ガス回収装置、36…ガス回収口、40…空間光変調器。