(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086360
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
B60L 1/00 20060101AFI20230615BHJP
B60L 7/14 20060101ALI20230615BHJP
B60L 50/75 20190101ALI20230615BHJP
B60K 1/00 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
B60L1/00 L
B60L7/14
B60L50/75
B60K1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200817
(22)【出願日】2021-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】星野 佑太
【テーマコード(参考)】
3D235
5H125
【Fターム(参考)】
3D235AA19
3D235BB45
3D235BB53
3D235CC12
3D235CC22
3D235GB16
3D235HH04
5H125AA12
5H125AC07
5H125AC12
5H125BD14
5H125CB02
5H125CD06
5H125EE01
(57)【要約】
【課題】回生電力を消費することができる作業車両を提供する。
【解決手段】作業車両は、電気モータと走行体と冷却装置を備える。走行体は、電気モータによって駆動される。冷却装置は、走行体の制動によって生じる電気モータの回生電力で駆動し、作業車両が備える機器を冷却する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業車両であって、
電気モータと、
前記電気モータによって駆動される走行体と、
前記走行体の制動によって生じる前記電気モータの回生電力で駆動し、前記作業車両が備える機器を冷却する冷却装置と
を備える作業車両。
【請求項2】
水素ガスと大気中の酸素とを反応させて電力を生成する燃料電池を備え、
前記電気モータは、前記燃料電池が生成した電力で駆動し、
前記冷却装置は、前記回生電力で駆動し、前記燃料電池を冷却する
請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
摩擦力によって前記走行体を制動するブレーキ装置を備え、
前記冷却装置は、前記ブレーキ装置を冷却するための冷媒を前記ブレーキ装置に供給する
請求項1または請求項2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記冷却装置は、
前記回生電力に関わらず駆動し、前記冷媒を圧送する冷媒ポンプと、
前記回生電力が生じているときに前記回生電力によって駆動し、前記冷媒を冷却する冷凍機と
を備える請求項3に記載の作業車両。
【請求項5】
前記冷却装置は、
前記回生電力に関わらず駆動し、前記冷媒を圧送する冷媒ポンプと、
前記回生電力が生じているときに前記回生電力によって駆動し、前記冷媒を圧送する補助ポンプと
を備える請求項3または請求項4に記載の作業車両。
【請求項6】
前記回生電力が生じているときの前記冷却装置の消費電力は、前記回生電力が生じていないときの前記冷却装置の消費電力より大きい
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の作業車両。
【請求項7】
前記冷却装置は、
前記回生電力に関わらず駆動する主冷却装置と、
前記回生電力が生じているときに前記回生電力によって駆動する補助冷却装置と、
を備える請求項1から請求項6の何れか1項に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
露天掘りの鉱山では、運搬車両を長時間連続降坂することがある。このような場合に、降坂速度を一定に保つために、降坂の間、ブレーキを作動させ続ける必要が生じる。特許文献1には、制動によって生じた回生電力を、抵抗器(リターダグリッド)によって熱エネルギーに変換する電気駆動式ダンプトラックが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回生電力をリターダグリッドによって熱に変換することで制動力を発揮させるためには、降坂で生じる大きなエネルギーを消費可能な大きなリターダグリッドが必要となる。大型ダンプトラックに搭載されるリターダグリッドは、プラットフォーム上に設置される。プラットフォームは、車体のうち前輪の上方に設けられた平板部分である。しかしながら、プラットフォームに、リターダグリッド以外の構造物を設置する場合、リターダグリッドを小型化することが好ましい。例えば、燃料電池により駆動する運搬車両のプラットフォームに水素タンクを設置するためには、プラットフォームにおけるリターダグリッドが占める割合を減らすことが好ましい。リターダグリッドの小型化のためには、リターダグリッドに消費させる電力を低減する必要がある。
【0005】
本開示の目的は、回生電力を消費することができる作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によれば、作業車両は、電気モータと、前記電気モータによって駆動される走行体と、前記走行体の制動によって生じる前記電気モータの回生電力で駆動し、前記作業車両が備える機器を冷却する冷却装置とを備える。
【発明の効果】
【0007】
上記態様によれば、作業車両は回生電力を消費することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第一の実施形態に係る運搬車両を模式的に示す斜視図である。
【
図2】第一の実施形態に係る湿式ブレーキの構成を示す図である。
【
図3】第一の実施形態に係る運搬車両が備える電気システムの構成を示す概略ブロック図である。
【
図4】第一の実施形態に係る制御装置の構成を示す概略ブロック図である。
【
図5】第一の実施形態に係る制御装置によるリターダ制御を示すフローチャートである。
【
図6】第二の実施形態に係る湿式ブレーキの構成を示す概略図である。
【
図7】第三の実施形態に係る湿式ブレーキの構成を示す概略図である。
【
図8】第三の実施形態に係る運搬車両が備える電気システムの構成を示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〈第一の実施形態〉
《運搬車両10の構成》
以下、図面を参照しながら実施形態について詳しく説明する。
第一の実施形態に係る運搬車両10は、鉱山等で採掘した砕石物等を運搬するリジッドフレーム式のダンプトラックである。運搬車両10は、水素ガスを燃料とする燃料電池41によって駆動する。運搬車両10は、作業車両の一例である。
図1は、第一の実施形態に係る運搬車両10を模式的に示す斜視図である。運搬車両10は、ダンプボディ11と、車体12と、走行装置13とを備える。
【0010】
ダンプボディ11は、積荷が積載される部材である。ダンプボディ11の少なくとも一部は、車体12よりも上方に配置される。ダンプボディ11は、ダンプ動作及び下げ動作する。ダンプ動作及び下げ動作により、ダンプボディ11は、ダンプ姿勢及び積載姿勢に調整される。ダンプ姿勢とは、ダンプボディ11が上昇している姿勢をいう。積載姿勢とは、ダンプボディ11が下降している姿勢をいう。
【0011】
ダンプ動作とは、ダンプボディ11を車体12から離隔させてダンプ方向に傾斜させる動作をいう。ダンプ方向は、車体12の後方である。実施形態において、ダンプ動作は、ダンプボディ11の前端部を上昇させて、ダンプボディ11を後方に傾斜させることを含む。ダンプ動作により、ダンプボディ11の積載面は、後方に向かって下方に傾斜する。
【0012】
下げ動作とは、ダンプボディ11を車体12に接近させる動作をいう。実施形態において、下げ動作は、ダンプボディ11の前端部を下降させることを含む。
【0013】
排土作業を実施する場合、ダンプボディ11は、積載姿勢からダンプ姿勢に変化するように、ダンプ動作する。ダンプボディ11に積荷が積載されている場合、積荷は、ダンプ動作により、ダンプボディ11の後端部から後方に排出される。積込作業が実施される場合、ダンプボディ11は、積載姿勢に調整される。
【0014】
車体12は、図示しない車体フレームを含む。車体12は、車体フレームに設けられたヒンジピンを介してダンプボディ11を回転可能に支持する。車体12は、走行装置13に支持される。車体フレームのうち走行装置13の前輪の上部に、プラットフォーム121が設けられる。プラットフォーム121は、車体フレームの上面を構成する平板である。プラットフォーム121の上には、運転室122、コントロールキャビネット123、およびリターダグリッド48が設けられる。また、車体フレーム上には、燃料電池41が設けられる。車体12の前面のうち、燃料電池41の前方部分には開口部が設けられており、開口部にグリル124が設けられている。グリル124と燃料電池41との間には、燃料電池41を冷却するためのファン125が設けられる。ファン125は、グリル124を介して外気を車体フレーム内部に引き込むことで、燃料電池41を冷却する。ファン125は、燃料電池41の冷却装置の一例である。
【0015】
コントロールキャビネット123は、電力の変換を行う。具体的には、コントロールキャビネット123は、燃料電池41と各種電気機器(バッテリ42、走行モータ47、ポンプモータ43等)とリターダグリッド48との間の電力制御を行う。
リターダグリッド48は、走行装置13の制動によって発生する回生電力を吸収するための抵抗器である。リターダグリッド48は、回生電力を熱エネルギーに変換する。
【0016】
走行装置13は、車体12を支持する。走行装置13は、運搬車両10を走行させる。走行装置13は、運搬車両10を前進又は後進させる。走行装置13の少なくとも一部は、車体12よりも下方に配置される。走行装置13は、一対の前輪と一対の後輪とを備える。前輪は操舵輪であり、後輪は駆動輪である。走行装置13の少なくとも駆動輪には、湿式ブレーキ14が設けられる。
【0017】
《湿式ブレーキ14の構成》
図2は、第一の実施形態に係る湿式ブレーキ14の構成を示す図である。
湿式ブレーキ14は、走行装置13のロータRの回転を制動する。湿式ブレーキ14は、ブレーキ筐体141と、ブレーキシリンダ142と、固定摩擦板143と、回転摩擦板144と、冷却油タンク145と、冷却油ポンプ146と、オイルクーラ147とを備える。
ブレーキ筐体141は、ロータRを軸回りに覆うように設けられる。ブレーキ筐体141はロータRに貫通される。ブレーキ筐体141の内部は冷却油で満たされ、ロータRとの取り合い部分にはオイルシールが設けられる。
固定摩擦板143は、ブレーキ筐体141内部に設けられる。固定摩擦板143は、ブレーキ筐体141によって、ロータRの軸回りの回転が制限されるとともに、ロータRの軸方向に移動可能に保持される。回転摩擦板144は、ロータRに固定され、ロータRと一体に回転する。各回転摩擦板144は、2つの固定摩擦板143の間に位置するように設けられる。ブレーキシリンダ142は、ブレーキ筐体141に支持され、ロータRの軸方向に沿って固定摩擦板143を押圧する。これにより、固定摩擦板143と回転摩擦板144とが互いに強く接触することで摩擦力が生じ、ロータRの回転を制動する。すなわち、第一の実施形態に係る湿式ブレーキ14は、ディスクブレーキである。
【0018】
冷却油タンク145とブレーキ筐体141との間には、冷却油が流れる第一流路P1と第二流路P2が設けられる。第一流路P1には、冷却油タンク145内の冷却油をブレーキ筐体141へ圧送する冷却油ポンプ146と、冷却油を冷却するオイルクーラ147とが設けられる。オイルクーラ147は、空気と冷却油との熱交換により冷却油を冷却する。冷却油は、冷却油タンク145から第一流路P1を通ってブレーキ筐体141に供給され、第二流路P2を通って冷却油タンク145に戻される。ブレーキ筐体141に供給された冷却油は、固定摩擦板143と回転摩擦板144との摩擦によって生じた熱を回収する。つまり、冷却油タンク145と、冷却油ポンプ146と、オイルクーラ147とは、湿式ブレーキ14の冷却装置を構成する。
【0019】
なお、他の実施形態に係る湿式ブレーキ14は、ディスクブレーキではなく、流体式リターダであってもよい。流体式リターダは、ブレーキ筐体141と、ブレーキ筐体141内においてロータRに固設されたプロペラとを備える。流体式リターダは、プロペラがブレーキ筐体141内の流体を攪拌することで、プロペラと流体との間に生じる摩擦力によってロータRの回転を制動する。この場合も、ブレーキ筐体141内の流体の温度が摩擦熱によって上昇するため、第一の実施形態と同様に、冷却油ポンプ146と、オイルクーラ147とによって流体を冷却する必要がある。
【0020】
《電気システム40の構成》
図3は、第一の実施形態に係る運搬車両10が備える電気システム40の構成を示す概略ブロック図である。電気システム40は、燃料電池41、バッテリ42、ポンプモータ43、第一ファンモータ44、第二ファンモータ45、空調装置46、走行モータ47、リターダグリッド48、第一DCDCコンバータ49、第二DCDCコンバータ50、第一インバータ51、第三DCDCコンバータ54、第二インバータ55、制御装置60を備える。第一DCDCコンバータ49、第二DCDCコンバータ50、第一インバータ51、第三DCDCコンバータ54、第二インバータ55および制御装置60は、コントロールキャビネット123内に設けられる。
【0021】
燃料電池41は、図示しない水素タンクから供給される水素ガスと、外気に含まれる酸素とを反応させ、電力を発生させる。第一DCDCコンバータ49は、燃料電池41が生成した直流電力を母線Bに供給する。
バッテリ42は、燃料電池41において発生した電力を蓄える。バッテリ42は、走行モータ47において発生した回生電力を蓄える。バッテリ42は、蓄えた電力を出力する。第二DCDCコンバータ50は、バッテリ42に充電された電力を母線Bに供給する。また第二DCDCコンバータ50は、母線Bに流れる直流電力の電圧を調整してバッテリ42に供給することで、バッテリ42を充電させる。つまり、第二DCDCコンバータ50は、充電装置の一例である。バッテリ42は、バッテリ42の状態を監視する図示しないBMS(Battery Management System)を備える。BMSは、バッテリ42の充電率を計測し、制御装置60に計測データを出力する。
【0022】
ポンプモータ43は、母線Bに流れる直流電力により、
図2に示す冷却油ポンプ146を駆動させる。第一の実施形態に係るポンプモータ43は、回生電力の有無によらず要求負荷に応じたの回転数で駆動する。つまり、冷却油ポンプ146は、回生電力に関わらず駆動する。
第一ファンモータ44は、母線Bに流れる直流電力により、
図1に示すファン125を駆動させる。
第二ファンモータ45は、母線Bに流れる直流電力により、バッテリ42の近傍に設けられた、バッテリ42を冷却するためのファン421を駆動させる。ファン421は、バッテリ42の冷却装置の一例である。
【0023】
空調装置46は、運転室122内の温度を調整する。具体的には、空調装置46は、圧縮器、凝縮器、膨張弁および蒸発器を備える。圧縮器は電気によって駆動し、冷媒を圧縮する。凝縮器は、圧縮器から吐出される高圧の冷媒と冷却水との熱交換により、冷媒を放熱させる。膨張弁は、凝縮器を通過した冷媒を減圧する。蒸発器は、膨張弁から流れる低圧の冷媒と運転室122内の空気とを熱交換させることで、冷媒を蒸発させる。これにより、冷却された空気が運転室122に供給される。空調装置46は、運転室122の冷却装置の一例である。
【0024】
走行モータ47は、走行装置13を駆動させる三相交流電気モータである。インバータ51は、母線Bに流れる直流電力を三相交流電力に変換して走行モータ47に供給する。また、インバータ51は、走行装置13の制動によって走行モータ47に発生する回生電力を直流電力に変換して、母線Bに供給する。走行モータ47には電圧計52が設けられる。電圧計52は、走行モータ47に係る電圧を計測する。電圧計52は、計測データを制御装置60に送信する。
【0025】
制御装置60は、バッテリ42のBMS、電圧計52およびその他電気機器の電流計や電圧計等から受信した計測データに基づいて、第一DCDCコンバータ49、第二DCDCコンバータ50、インバータ51、第一ファンモータ44、第二ファンモータ45および空調装置46を制御する。
【0026】
《制御装置60の構成》
図4は、第一の実施形態に係る制御装置60の構成を示す概略ブロック図である。
制御装置60は、プロセッサ61、メインメモリ62、ストレージ63、インタフェース64を備えるコンピュータである。
プロセッサ61は、プログラムをストレージ63から読み出してメインメモリ62に展開し、当該プログラムに従って処理を実行する。プロセッサ61の例としては、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphic Processing Unit)、マイクロプロセッサなどが挙げられる。
【0027】
プログラムは、制御装置60に発揮させる機能の一部を実現するためのものであってもよい。例えば、プログラムは、ストレージに既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせ、または他の装置に実装された他のプログラムとの組み合わせによって機能を発揮させるものであってもよい。なお、他の実施形態においては、制御装置60は、上記構成に加えて、または上記構成に代えてPLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を備えてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。この場合、プロセッサ61によって実現される機能の一部または全部が当該集積回路によって実現されてよい。このような集積回路も、プロセッサの一例に含まれる。
【0028】
ストレージ63の例としては、磁気ディスク、光磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ等が挙げられる。ストレージ63は、バスに直接接続された内部メディアであってもよいし、インタフェース64または通信回線を介して制御装置60に接続される外部メディアであってもよい。また、このプログラムが通信回線によって制御装置60に配信される場合、配信を受けた制御装置60が当該プログラムをメインメモリ62に展開し、上記処理を実行してもよい。少なくとも1つの実施形態において、ストレージ63は、一時的でない有形の記憶媒体である。
【0029】
また、当該プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、当該プログラムは、前述した機能をストレージ63に既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせで実現するもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0030】
《制御装置によるリターダ制御》
第一の実施形態に係る運搬車両10は、例えばオペレータがブレーキペダルを踏むことで、リターダ制御を開始する。リターダ制御を開始すると、運搬車両10の制御装置60は、ブレーキペダルの踏み込み量に応じた負荷で走行モータ47を発電機として機能させ、回生した電力をリターダグリッド48で消費することで、制動力を発生させる(電気ブレーキ)。運搬車両10の制御装置60は、リターダグリッド48による制動力では不足する制動力を、ブレーキシリンダ142を励磁することで湿式ブレーキ14に発揮させる(機械ブレーキ)。なお、オペレータがブレーキペダルを踏み込むことに基づいて、電気ブレーキと機械ブレーキを同時に発生させてもよい。
【0031】
図5は、第一の実施形態に係る制御装置60によるリターダ制御を示すフローチャートである。制御装置60は、一定周期ごとに
図5に示すリターダ制御を実行する。
まず、制御装置60は、ブレーキペダルの踏み込みに基づいて、回生電力が発生しているか否かを判定する(ステップS1)。制御装置60は、例えばブレーキペダルに設けられたポテンショメータの計測値により、回生電力の有無を判定する。なお、他の実施形態に係る制御装置60は、電圧計52から受信した計測データ(電圧値の符号)により、回生電力の有無を判定してもよい。回生電力が発生していない場合(ステップS1:NO)、制御装置60はリターダ制御を終了する。
【0032】
他方、回生電力が発生している場合(ステップS1:YES)、制御装置60は、バッテリ42のBMSから受信した計測データに基づいて、バッテリ42の充電率が上限値以上であるか否かを判定する(ステップS2)。バッテリ42の充電率が上限値未満である場合(ステップS2:NO)、制御装置60は、第二DCDCコンバータ50にバッテリ42の充電指示を出力する(ステップS3)。これにより、制御装置60は、回生電力をバッテリ42に吸収させ(回生ブレーキ)、リターダグリッド48で消費する電力(発電ブレーキ)を低減することができる。
【0033】
バッテリ42の充電指示を出力した場合、または、バッテリ42の充電率が上限値以上である場合(ステップS2:YES)、制御装置60は、冷却装置の駆動指示を出力する(ステップS4)。つまり、制御装置60は、第一ファンモータ44、第二ファンモータ45および空調装置46に駆動指示を出力する。これにより、第一ファンモータ44が母線Bに流れる回生電力によって駆動し、ファン125を駆動させる。また、第二ファンモータ45が母線Bに流れる回生電力によって駆動し、ファン421を駆動させる。また、空調装置46が母線Bに流れる回生電力によって稼働する。
そして、制御装置60は、リターダ制御を終了する。
【0034】
《作用・効果》
このように、第一の実施形態に係る運搬車両10の制御装置60は、走行装置13の制動によって生じる走行モータ47の回生電力によって第一ファンモータ44、第二ファンモータ45および空調装置46、すなわち冷却装置を稼働させる。これにより、運搬車両10は、冷却装置に回生電力を吸収させることができる。また、電気システム40は、燃料電池41の稼働によって温度が上昇するため、冷却装置によって温度の上昇を防ぐことができる。
【0035】
上述したように、第一の実施形態に係る運搬車両10は、冷却装置の稼働によってリターダグリッド48に消費させる回生電力を低減することができる。運搬車両10の走行ルートが予め分かる場合、リターダグリッド48の大きさを、湿式ブレーキ14の制動力、ならびにバッテリ42および冷却装置によって吸収可能な電力量に基づいて設計することができる。これにより、リターダグリッド48を小型化することができ、プラットフォーム121に他の構造物の設置スペースを確保することができる。プラットフォーム121に設ける他の構造物の例としては、燃料電池41に供給する水素ガスが充填された水素タンクなどが挙げられる。
【0036】
なお、第一ファンモータ44、第二ファンモータ45および空調装置46は、回生電力が発生していないときにも稼働していてよい。この場合、制御装置60は、回生電力が生じているときの冷却装置の消費電力が、回生電力が生じていないときの冷却装置の消費電力より大きくなるように、冷却装置を制御する。
例えば、制御装置60は、回生電力が発生していないときに、燃料電池41の温度に応じた回転数で第一ファンモータ44を回転させてよいし、回生電力が発生していないときに一定の回転数で第一ファンモータ44を回転させてもよい。ただし、制御装置60は、回生電力が発生したときの第一ファンモータ44の回転数が、回生電力が発生していないときの第一ファンモータ44の回転数より高くなるように、第一ファンモータ44を制御する。
同様に、制御装置60は、回生電力が発生していないときに、バッテリ42の温度に応じた回転数で第二ファンモータ45を回転させてよいし、回生電力が発生していないときに一定の回転数で第二ファンモータ45を回転させてもよい。ただし、制御装置60は、回生電力が発生したときの第二ファンモータ45の回転数が、回生電力が発生していないときの第二ファンモータ45の回転数より高くなるように、第二ファンモータ45を制御する。
また、制御装置60は、回生電力が発生していないときに、運転室122の温度を予め設定された設定温度に維持するように空調装置46を稼働させてよい。この場合、制御装置60は、回生電力が発生したときに空調装置46の設定温度を低下させてもよいし、設定温度によらず圧縮器を停止させないよう制御してもよい。
【0037】
第一ファンモータ44、第二ファンモータ45および空調装置46は、回生電力が発生していないときに稼働しないものであってもよい。
【0038】
〈第二の実施形態〉
湿式ブレーキ14は、冷却油によって冷却されることで、発熱による制動力の低下(例えば、フェード現象の発生)を防止する。一方で、運搬車両10を長時間降坂させると、湿式ブレーキ14の冷却が追い付かずに制動力が低下する可能性がある。これに対し、第二の実施形態に係る運搬車両10は、回生電力を利用して湿式ブレーキ14の性能低下を防ぐ。
【0039】
図6は、第二の実施形態に係る湿式ブレーキ14の構成を示す概略図である。第二の実施形態に係る湿式ブレーキ14は、第一の実施形態の構成に加え、第一流路P1に冷凍機148を備える。
【0040】
冷凍機148は、圧縮器1481、凝縮器1482、膨張弁1483および蒸発器1484を備える。圧縮器1481は母線Bに流れる直流電力により駆動し、冷媒を圧縮する。凝縮器1482は、圧縮器1481から吐出される高圧の冷媒と冷却水との熱交換により、冷媒を放熱させる。膨張弁1483は、凝縮器1482を通過した冷媒を減圧する。蒸発器1484は、膨張弁1483から流れる低圧の冷媒と第一流路P1を通る冷却油とを熱交換させることで、冷媒を蒸発させる。これにより、第一流路P1を通る冷却油を放熱させることができる。冷凍機148は、湿式ブレーキ14の冷却装置の一例である。
【0041】
制御装置60は、走行モータ47に回生電力が発生している場合に、第一ファンモータ44、第二ファンモータ45および空調装置46に加え、圧縮器1481にも駆動指示を出力する(
図5のステップS4)。これにより、圧縮器1481は、母線Bに流れる回生電力によって駆動し、冷凍機148を駆動させる。これにより、ブレーキ筐体141に供給される冷却油が冷却され、湿式ブレーキ14の制動力の低下を防ぐことができる。
【0042】
このように、第二の実施形態に係る運搬車両10によれば、回生電力によって湿式ブレーキ14の冷凍機148を稼働させることで、回生電力を吸収し、さらに湿式ブレーキ14の制動力の低下を防ぐことができる。湿式ブレーキ14の制動力の低下を防ぐことにより、走行モータ47が発生させる回生電力の大きさを低減することができる。つまり、第二の実施形態に係る運搬車両10は、リターダグリッド48に吸収させる回生電力を大きく低減させることができる。
【0043】
第二の実施形態に係るポンプモータ43は回生電力の有無によらず稼働する一方で、冷凍機148は、回生電力の発生時にのみ稼働する。つまり、ポンプモータ43とオイルクーラ147の組み合わせは主冷却装置であり、冷凍機148は、補助冷却装置である。これにより、運搬車両10の非制動時には、冷凍機148による消費電力を抑えることができる。また、運搬車両10の制動時には、冷凍機148の稼働によって湿式ブレーキ14の制動力を向上させ、さらに回生電力を吸収することができる。
【0044】
〈第三の実施形態〉
第三の実施形態に係る運搬車両10は、第二の実施形態と異なる構成で、制動時の湿式ブレーキ14の制動力を向上させる。
図7は、第三の実施形態に係る湿式ブレーキ14の構成を示す概略図である。
【0045】
第三の実施形態に係る湿式ブレーキ14は、第一流路P1のうち冷却油ポンプ146とオイルクーラ147との中間部と、冷却油タンク145とを接続する第三流路P3を備える。第三流路P3には、補助ポンプ149と逆止弁V2とが設けられる。補助ポンプ149は、運搬車両10の制動時に駆動し、冷却油タンク145に保持された冷却油を圧送する。逆止弁V2は、補助ポンプ149からオイルクーラ147へ向かう冷却油の流れを許容し、オイルクーラ147から補助ポンプ149へ向かう冷却油の流れを遮断する。
【0046】
第一流路P1のうち、第三流路P3との接続部分と冷却油ポンプ146との間に、逆止弁V1が設けられる。逆止弁V1は、冷却油ポンプ146からオイルクーラ147へ向かう冷却油の流れを許容し、オイルクーラ147から冷却油ポンプ146へ向かう冷却油の流れを遮断する。
【0047】
図8は、第三の実施形態に係る運搬車両10が備える電気システム40の構成を示す概略ブロック図である。第三の実施形態に係る電気システム40は、第一の実施形態の構成に加え、さらに、第四DCDCコンバータ56、第三インバータ57、補助モータ53を備える。補助モータ53は、補助ポンプ149を駆動させる。
【0048】
制御装置60は、走行モータ47に回生電力が発生している場合に、第一ファンモータ44、第二ファンモータ45および空調装置46に加え、補助モータ53にも駆動指示を出力する(
図5のステップS4)。これにより、補助モータ53は、母線Bに流れる回生電力によって駆動し、補助ポンプ149を駆動させる。補助ポンプ149によってブレーキ筐体141に供給される冷却油の流量を増加させることで、湿式ブレーキ14の冷却性能が向上する。これにより、補助ポンプ149は湿式ブレーキ14の制動力の低下を防ぐことができる。
【0049】
第三の実施形態に係るポンプモータ43は回生電力の有無によらず稼働する一方で、補助モータ53は、回生電力の発生時にのみ稼働する。つまり、ポンプモータ43とオイルクーラ147の組み合わせは主冷却装置であり、補助モータ53とオイルクーラ147の組み合わせは、補助冷却装置である。これにより、運搬車両10の非制動時には、冷凍機148による消費電力を抑えることができる。また、運搬車両10の制動時には、補助ポンプ149の稼働によって湿式ブレーキ14の制動力を向上させ、さらに回生電力を吸収することができる。
【0050】
〈他の実施形態〉
以上、図面を参照して一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、様々な設計変更等をすることが可能である。すなわち、他の実施形態においては、上述の処理の順序が適宜変更されてもよい。また、一部の処理が並列に実行されてもよい。
上述した実施形態に係る制御装置60は、単独のコンピュータによって構成されるものであってもよいし、制御装置60の構成を複数のコンピュータに分けて配置し、複数のコンピュータが互いに協働することで制御装置60として機能するものであってもよい。
【0051】
上述した実施形態において、燃料電池41およびバッテリ42はファンによって冷却されるが、これに限られない。例えば他の実施形態に係る運搬車両10は、燃料電池41またはバッテリ42の冷却装置として冷凍機を備えていてもよい。この場合、運搬車両10は、第一ファンモータ44および第二ファンモータ45によってファン125およびファン421を常時回転させ、回生電力が発生したときに冷凍機を動作させてもよい。つまり、運搬車両10は、冷凍機を補助冷却装置として備えていてよい。これにより、回生電力が発生していないときは常温の空気の送風によって燃料電池41およびバッテリ42を冷却し、回生電力が発生しているときは冷凍機によって冷却された空気の送風によって燃料電池41およびバッテリ42を冷却することができる。
【0052】
上述した実施形態において、燃料電池41およびバッテリ42はファンによる空冷式であるが、これに限られない。例えば他の実施形態に係る運搬車両10は、燃料電池41またはバッテリ42の冷却装置として、循環ポンプと循環流路とラジエータを備える水冷式であってもよい。この場合、燃料電池41は、冷却水を循環させる循環流路を備えている。循環流路には、冷却水を送給する循環ポンプと、冷却水の放熱を行うラジエータとが設けられる。ラジエータは、第一ファンモータ44または第二ファンモータ45によって回転されるファン125またはファン421からの空気の送風によって、ラジエータ内の冷却水を冷却する。循環ポンプにより送給される冷却水は、循環流路を循環する間に、燃料電池が発電反応によって発生した熱を受熱し、ラジエータにおいて放熱することで、燃料電池を冷却する。
【0053】
この場合、運転車両10は、回生電力が発生していないときに、燃料電池41の温度に応じた回転数で第一ファンモータ44を回転させてよいし、回生電力が発生していないときに一定の回転数で第一ファンモータ44を回転させてもよい。ただし、制御装置60は、回生電力が発生したときの第一ファンモータ44の回転数が、回生電力が発生していないときの第一ファンモータ44の回転数より高くなるように、第一ファンモータ44を制御する。
同様に、制御装置60は、回生電力が発生していないときに、バッテリ42の温度に応じた回転数で第二ファンモータ45を回転させてよいし、回生電力が発生していないときに一定の回転数で第二ファンモータ45を回転させてもよい。ただし、制御装置60は、回生電力が発生したときの第二ファンモータ45の回転数が、回生電力が発生していないときの第二ファンモータ45の回転数より高くなるように、第二ファンモータ45を制御する。
【0054】
上述した実施形態において、運搬車両10は、燃料電池41によって生成された電力およびバッテリ42に蓄えられた電力によって駆動するが、これに限られない。例えば他の実施形態に係る運搬車両10は、燃料電池41を備えなくてもよい。例えば、例えば他の実施形態に係る運搬車両10は、駆動源としてバッテリ42のみを備え、バッテリ42に蓄えられた電力のみによって駆動されてもよい。
【0055】
上述した実施形態では、作業車両の例として運搬車両10について説明したが、これに限られない。例えば、他の実施形態に係る作業車両は、油圧ショベル、ホイールローダ、モータグレーダなどの他の作業車両であってもよい。
【符号の説明】
【0056】
10…運搬車両 11…ダンプボディ 12…車体 121…プラットフォーム 122…運転室 123…コントロールキャビネット 124…グリル 125…ファン 13…走行装置 14…湿式ブレーキ 141…ブレーキ筐体 142…ブレーキシリンダ 143…固定摩擦板 144…回転摩擦板 145…冷却油タンク 146…冷却油ポンプ 147…オイルクーラ 148…冷凍機 1481…圧縮器 1482…凝縮器 1483…膨張弁 1484…蒸発器 149…補助ポンプ 40…電気システム 41…燃料電池 42…バッテリ 421…ファン 43…ポンプモータ 44…第一ファンモータ 45…第二ファンモータ 46…空調装置 47…走行モータ 48…リターダグリッド 49…第一DCDCコンバータ 50…第二DCDCコンバータ 51…第一インバータ 52…電圧計 53…補助モータ 54…第三DCDCコンバータ 55…第二インバータ 56…第四DCDCコンバータ 57…第三インバータ 60…制御装置 61…プロセッサ 62…メインメモリ 63…ストレージ 64…インタフェース B…母線 P1…第一流路 P2…第二流路 P3…第三流路 R…ロータ V1…逆止弁 V2…逆止弁