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特開2023-86414嫌気性代謝閾値予測システム及び嫌気性代謝閾値予測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086414
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】嫌気性代謝閾値予測システム及び嫌気性代謝閾値予測方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/083 20060101AFI20230615BHJP
   A61B 5/1455 20060101ALI20230615BHJP
   A61B 5/0245 20060101ALI20230615BHJP
   A61B 5/022 20060101ALI20230615BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20230615BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20230615BHJP
   G16H 50/30 20180101ALI20230615BHJP
【FI】
A61B5/083
A61B5/1455
A61B5/0245 200
A61B5/022 400A
A61B10/00 F
G06N20/00 130
G16H50/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200919
(22)【出願日】2021-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】516365208
【氏名又は名称】有限会社総合医学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊東 秀崇
(72)【発明者】
【氏名】伊東 春樹
【テーマコード(参考)】
4C017
4C038
5L099
【Fターム(参考)】
4C017AA08
4C017AA10
4C017AA12
4C017AA14
4C017BC11
4C017BD01
4C017BD04
4C017CC02
4C017EE15
4C017FF05
4C038SS08
4C038SU18
4C038SU19
5L099AA22
(57)【要約】
【課題】主観性を排除し、簡便かつ精度高くATを予測する。
【解決手段】嫌気性代謝閾値予測システムは、心肺運動負荷試験により得られた教師データの群を第1の学習モデルに入力し、第1の学習モデルを実行することにより、ATを予測するための他の経時的データ及び非経時的データに関する少なくとも1個の第6のクライテリアを決定し、少なくとも1個の第6のクライテリアは第1乃至第5のクライテリアと異なり、第1乃至第6のクライテリアに基づきATを予測する第1のAT予測モデルを生成する、第1のAT予測モデル生成部と、教師データに含まれる各経時的データ及び非経時的データと同種の各経時的データ及び非経時的データを含む対象データを第1のAT予測モデルに入力し、第1のAT予測モデルを実行することにより、対象データの第1乃至第6のクライテリアに基づき、対象データのATを予測する、第1のAT予測部と、を具備する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
O2(分時酸素摂取量)の経時的データと、
CO2(分時二酸化炭素排出量)の経時的データと、
R(ガス交換比:VCO2/VO2)の経時的データと、
(分時換気量)の経時的データと、
/VO2の経時的データと、
/VCO2の経時的データと、
F(P)ETCO2(呼気終末二酸化炭素分画濃度(分圧))の経時的データと、
F(P)ETO2(呼気終末酸素分画濃度(分圧))の経時的データと、
各前記経時的データと異なる他の経時的データ及び非経時的データと、
Rの増加率がVO2の増加率より高くなる点である第1のクライテリアと、
CO2の増加率がVO2の増加率より高くなる点である第2のクライテリアと、
/VCO2が増加せずにV/VO2が増加する点である第3のクライテリアと、
F(P)ETCO2が変化せずにF(P)ETO2が増加する点である第4のクライテリアと、
の増加率がVO2の増加率より高くなる点である第5のクライテリアと
に基づき決定されたAT(嫌気性代謝閾値)と、
を含む、心肺運動負荷試験により得られた教師データの群を第1の学習モデルに入力し、前記第1の学習モデルを実行することにより、ATを予測するための前記他の経時的データ及び前記非経時的データに関する少なくとも1個の第6のクライテリアを決定し、前記少なくとも1個の第6のクライテリアは前記第1乃至第5のクライテリアと異なり、前記第1乃至第6のクライテリアに基づきATを予測する第1のAT予測モデルを生成する、第1のAT予測モデル生成部と、
前記教師データに含まれる各前記経時的データ及び前記非経時的データと同種の各経時的データ及び非経時的データを含む対象データを前記第1のAT予測モデルに入力し、前記第1のAT予測モデルを実行することにより、前記対象データの前記第1乃至第6のクライテリアに基づき、前記対象データのATを予測する、第1のAT予測部と、
を具備する嫌気性代謝閾値予測システム。
【請求項2】
請求項1に記載の嫌気性代謝閾値予測システムであって、
前記教師データの群を前記第1の学習モデルと異なる第2の学習モデルに入力し、前記第2の学習モデルを実行することにより、ATを予測するための前記他の経時的データ及び前記非経時的データに関する少なくとも1個の第7のクライテリアを決定し、前記少なくとも1個の第7のクライテリアは前記第1乃至第5のクライテリアと異なり、前記第1乃至第5及び第7のクライテリアに基づきATを予測する前記第1のAT予測モデルと異なる第2のAT予測モデルを生成する、第2のAT予測モデル生成部と、
前記対象データを前記第2のAT予測モデルに入力し、前記第2のAT予測モデルを実行することにより、前記対象データの前記第1乃至第5及び第7のクライテリアに基づき、前記対象データのATを予測する、第2のAT予測部と、
をさらに具備する嫌気性代謝閾値予測システム。
【請求項3】
請求項2に記載の嫌気性代謝閾値予測システムであって、
共通の前記対象データから前記第1のAT予測部が予測した前記AT及び前記第2のAT予測部が予測した前記ATを比較して前記第1のAT予測部又は前記第2のAT予測部の何れが高精度かを判断し、高精度と判断した前記第1のAT予測部又は前記第2のAT予測部が予測した前記ATを出力する、最適解出力AI予測部
をさらに具備する嫌気性代謝閾値予測システム。
【請求項4】
請求項2に記載の嫌気性代謝閾値予測システムであって、
共通の前記対象データから前記第1のAT予測部が予測した前記AT及び前記第2のAT予測部が予測した前記ATの両方を出力する、最適解出力AI予測部
をさらに具備する嫌気性代謝閾値予測システム。
【請求項5】
請求項2乃至4の何れか一項に記載の嫌気性代謝閾値予測システムであって、
前記第1の学習モデルと、前記第1の学習モデルと異なる前記第2の学習モデルは、それぞれ、各前記時系列データの数値又はグラフ画像を解析するロジスティック回帰モデル、Lasso回帰モデル、決定木モデル、XGブーストモデル、深層学習モデルまたは今後利用可能な新しいモデルである
嫌気性代謝閾値予測システム。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の嫌気性代謝閾値予測システムであって、
予測された前記ATに基づき運動処方箋を作成する運動処方作成部
をさらに具備する嫌気性代謝閾値予測システム。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項に記載の嫌気性代謝閾値予測システムであって、
前記他の経時的データはTV(一回換気量)の経時的データであり、前記第6のクライテリアはTVの増加率が低くなる点であり、
前記他の経時的データはRR(呼吸数)の経時的データであり、前記第6のクライテリアはRRの増加率が高くなる点であり、
前記他の経時的データはHR(心拍数)の経時的データであり、前記第6のクライテリアはHRの増加率が高くなる点であり、
前記他の経時的データはHRの経時的データであり、前記第6のクライテリアは心拍変動の高い周波数成分が消失する点であり、
前記他の経時的データはBPs(収縮期血圧)の経時的データであり、前記第6のクライテリアはBPsの増加率が高くなる点であり、
前記他の経時的データはBPsとHRの積であるDP(二重積)の経時的データであり、前記第6のクライテリアはDPの増加率が高くなる点であり、
前記心肺運動負荷試験はエルゴメータを使用し、前記他の経時的データは前記エルゴメータの回転数の経時的データであり、前記第6のクライテリアは回転数が一時的に増加する点であり、
前記第6のクライテリアは、V/VCO2の増加率が低くなる点であり、及び/又は
前記第6のクライテリアは、TV/RRの増加率が低くなる点である
嫌気性代謝閾値予測システム。
【請求項8】
請求項2乃至5の何れか一項に記載の嫌気性代謝閾値予測システムであって、
前記他の経時的データはTV(一回換気量)の経時的データであり、前記第7のクライテリアはTVの増加率が低くTVの増加率が低くなる点であり、
前記他の経時的データはRR(呼吸数)の経時的データであり、前記第7のクライテリアはRRの増加率が高くなる点であり、
前記他の経時的データはHR(心拍数)の経時的データであり、前記第7のクライテリアはHRの増加率が高くなる点であり、
前記他の経時的データはHRの経時的データであり、前記第7のクライテリアは心拍変動の高い周波数成分が消失する点であり、
前記他の経時的データはBPs(収縮期血圧)の経時的データであり、前記第7のクライテリアはBPsの増加率が高くなる点であり、
前記他の経時的データはBPsとHRの積であるDP(二重積)の経時的データであり、前記第7のクライテリアはDPの増加率が高くなる点であり、
前記心肺運動負荷試験はエルゴメータを使用し、前記他の経時的データは前記エルゴメータの回転数の経時的データであり、前記第7のクライテリアは回転数が一時的に増加する点であり、
前記第7のクライテリアは、V/VCO2の増加率が低くなる点であり、及び/又は
前記第7のクライテリアは、TV/RRの増加率が低くなる点である
嫌気性代謝閾値予測システム。
【請求項9】
請求項6に記載の嫌気性代謝閾値予測システムであって、
前記運動処方作成部は、前記予測されたATに基づき決定されたATならびに運動中の心電図変化(特にST偏位)や不整脈の有無と種類、血圧、酸素飽和度などから、ATを基準とした運動処方箋を作成する
嫌気性代謝閾値予測システム。
【請求項10】
請求項2乃至5の何れか一項に記載の嫌気性代謝閾値予測システムであって、
前記教師データの群を前記第1の学習モデル及び前記第2の学習モデルと異なる第nの学習モデルに入力し、前記第nの学習モデルを実行することにより、ATを予測するための前記他の経時的データ及び前記非経時的データに関する少なくとも1個の第nのクライテリアを決定し、前記少なくとも1個の第nのクライテリアは前記第1乃至第5のクライテリアと異なり、前記第1乃至第5及び第nのクライテリアに基づきATを予測する前記第1のAT予測モデル及び前記第2のAT予測モデルと異なる第nのAT予測モデルを生成する、第nのAT予測モデル生成部と、
前記対象データを前記第nのAT予測モデルに入力し、前記第nのAT予測モデルを実行することにより、前記対象データの前記第1乃至第5及び第nのクライテリアに基づき、前記対象データのATを予測する、第nのAT予測部と、
をさらに具備し、
nは3以上の整数である
嫌気性代謝閾値予測システム。
【請求項11】
O2(分時酸素摂取量)の経時的データと、
CO2(分時二酸化炭素排出量)の経時的データと、
R(ガス交換比:VCO2/VO2)の経時的データと、
(分時換気量)の経時的データと、
/VO2の経時的データと、
/VCO2の経時的データと、
F(P)ETCO2(呼気終末二酸化炭素分画濃度(分圧))の経時的データと、
F(P)ETO2(呼気終末酸素分画濃度(分圧))の経時的データと、
各前記経時的データと異なる他の経時的データ及び非経時的データと、
Rの増加率がVO2の増加率より高くなる点である第1のクライテリアと、
CO2の増加率がVO2の増加率より高くなる点である第2のクライテリアと、
/VCO2が増加せずにV/VO2が増加する点である第3のクライテリアと、
F(P)ETCO2が変化せずにF(P)ETO2が増加する点である第4のクライテリアと、
の増加率がVO2の増加率より高くなる点である第5のクライテリアと
に基づき決定されたAT(嫌気性代謝閾値)と、
を含む、心肺運動負荷試験により得られた教師データの群を第1の学習モデルに入力し、前記第1の学習モデルを実行することにより、ATを予測するための前記他の経時的データ及び前記非経時的データに関する少なくとも1個の第6のクライテリアを決定し、前記少なくとも1個の第6のクライテリアは前記第1乃至第5のクライテリアと異なり、前記第1乃至第6のクライテリアに基づきATを予測する第1のAT予測モデルを生成し、
前記教師データに含まれる各前記経時的データ及び前記非経時的データと同種の各経時的データ及び非経時的データを含む対象データを前記第1のAT予測モデルに入力し、前記第1のAT予測モデルを実行することにより、前記対象データの前記第1乃至第6のクライテリアに基づき、前記対象データの第1のATを予測する
嫌気性代謝閾値予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、心肺運動負荷試験における嫌気性代謝閾値(AT:Anaerobic Threshold)を予測するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人類の死亡原因の第1位は心疾患であり、日本においても悪性新生物に続き第2位に位置する。さらに心血管疾患としては第3位の脳血管疾患と併せ、国民の生命を脅かす重要な疾患群である。しかし、WHOによれば適切な運動、食事と禁煙により心疾患と2型糖尿病の8割、がんの4割が予防できるとされ、生活習慣の改善は重篤な非感染性疾患予防のために必須の対策である。一方、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患、すべての心疾患の終末像である心不全に対する運動療法(特に、心臓リハビリテーション)は、強いエビデンスを有する治療法であり、平成30年成立の循環器病対策基本法においても急性期から回復期、生活期への良質な心臓リハビリテーションの迅速かつ適切な提供が求められている。適切な運動療法・心臓リハビリテーションは、心筋梗塞では死亡率の20%以上の減少、心不全では30%程度の再入院を減らすとされる。
【0003】
良質かつ適切な心臓リハビリテーションを担保するためには、心疾患患者に対して心肺運動負荷試験を行い、安全で効果的な連動内容(運動の種類・強度・頻度など)を運動処方として発行し、通動処方に基づいて運動することが必要である。これにより、心疾患患者に対しての過度の連動による合併症を防ぎ、かつ治療として最大の効果を安全に得ることが可能となる。この運動処方を発行するうえで最も重要になる指標が、運動負荷試験で導かれる嫌気性代謝閾値(AT:Anaerobic Threshold)である。ATは、臨床上も強い予後予測として、最大酸素摂取量(Peak VO2)とともに、重症度評価、治療効果判定などに用いられる。
【0004】
運動時に、徐々に運動の強さ(運動強度)を増していくと、運動に必要なエネルギー(ATP:アデノシン三リン酸)が増加する。ATPを産生するエネルギー代謝を行うためには、通常酸素を使った有気的代謝が行われるが、有気的代謝では不十分になると、酸素を使わない無気的代謝が有気的代謝を補う。この無気的代謝が加わる直前の運動の強さがATである。AT以下の運動は有酸素運動であり、ATを超えて無酸素運動が加わると、乳酸の蓄積や血液の酸性化(アシドージス)、それらに起因する換気や肺でのガス交換の変化がおこる。要するに、ATは、有気的代謝に無気的代謝が加わり、それに関連したガス交換の変化が生じる直前の運動強度又は酸素摂取量で、外呼吸(換気・ガス交換)、循環、内呼吸(代謝)の総合的な運動能指標であり、酸素輸送能と酸素利用能に規定されているため、運動療法における運動強度決定のための重要な指標である。
【0005】
AT以下では、酸素を使って効率良くエネルギーを作り(有気的代謝)、乳酸がたまらず長時間の運動が可能である。一方、ATを超えると、酸素を使わずにエネルギーを作り(無気的代謝)、乳酸が溜まり疲労し、運動を長時間継続出来ない。言い換えれば、ATは、持久力の指標であり、日常活動レベルの指標である。さらには、ATは、健常者や各種疾患患者の生命予後を表す指標、具体的には、重症度の評価の指標、手術の可否を決める指標、各種の治療の効果判定指標にもなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-046477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
実際の運動負荷試験では、複数のクライテリアを参考に、検査を担当する技師や医師が主観的な判断によってATを決定する。ATを主観的に決定するには、運動生理学的知識、運動心臓病学的知識、呼吸機能や心機能の知識、運動負荷試験の経験などが必要である。熟練者と非熟練者の間で、解析結果が異なる等、解析者の主観によってATが大きく変動するおそれがある。また、生体データ自体に揺らぎがあることからも、正確なATが判断できない場合がある。
【0008】
ATを正確に判断することの難しさから、ATに基づく運動処方を出し、この運動処方に則った心臓リハビリテーションを行う医療施設は少数である。一方、将来的に、心不全パンデミック(心不全患者の大幅な増加)の発生が予想されるとするように、今後の循環器疾患の予防や治療において、心臓リハビリテーションの重要性はますます高まる。
【0009】
特許文献1によれば、所望の呼吸代謝データの解析結果(AT)を得るのに必要な操作を適切な順番に表示し、個々の操作の意味又は具体的な操作方法を記載した操作説明を表示し、検者はそれを見て操作を順番に実行すると、所望の呼吸代謝データの解析結果(AT)を得る(要約書)。具体的には、検者は、実行ボタン6を押し、ATポイントと思われる点を画面3で判断し、その前後のV-Slope曲線を見て、解析区間を設定する(0034段落)。実行ボタン6を押すと、設定された解析区間で、画面3のV-Slope曲線(VCO2とVO2のグラフ)に、2本の回帰直線が自動的に作成される(特許文献1の0036段落及び図3)。ここでV-Slope曲線と2本の回帰直線をみて、検者は2本の回帰直線の交点近傍で、妥当と判断する点をATポイントと判断し、そこにカーソルを合わせてATポイント設定する(特許文献1の0037段落)。
【0010】
特許文献1では、必要な操作を適切な順番に表示して操作説明を表示することで、ATポイントを判断するに至るまでの適切な道筋を検者に提示することが出来ると考えられるが、最終的にATの判断は、個々の検者の主観的な目視判断に拠る。このため、検者によりATが変動するおそれがあり、結果的に、ATに基づく適切な運動処方を出すことができないおそれがある。
【0011】
以上のような事情に鑑み、本開示の目的は、主観性を排除し、簡便かつ精度高くATを予測することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の一形態に係る嫌気性代謝閾値予測システムは、呼気ガス分析器が直接測定している一次指標すなわちTV(一回換気量)、RR(呼吸数)、呼気酸素濃度(FEO2)、呼気二酸化炭素濃度(FECO2)、及び同時に測定している心電図波形(ST偏位など)、HR(心拍数)、BP(血圧)、動脈血酸素飽和度(SPO2)、及びそれらから算出される下記の2次指標、すなわち、
O2(分時酸素摂取量)の経時的データと、
CO2(分時二酸化炭素排出量)の経時的データと、
R(ガス交換比:VCO2/VO2)の経時的データと、
(分時換気量)の経時的データと、
/VO2の経時的データと、
/VCO2の経時的データと、
F(P)ETCO2(呼気終末二酸化炭素分画濃度(分圧))の経時的データと、
F(P)ETO2(呼気終末酸素分画濃度(分圧))の経時的データと、
各前記経時的データと異なる他の経時的データ及び非経時的データと、
Rの増加率がVO2の増加率より高くなる点である第1のクライテリアと、
CO2の増加率がVO2の増加率より高くなる点である第2のクライテリアと、
/VCO2が増加せずにV/VO2が増加する点である第3のクライテリアと、
F(P)ETCO2が変化せずにF(P)ETO2が増加する点である第4のクライテリアと、
の増加率がVO2の増加率より高くなる点である第5のクライテリアと
に基づき決定されたAT(嫌気性代謝閾値)と、
を含む、心肺運動負荷試験により得られた教師データの群を第1の学習モデルに入力し、前記第1の学習モデルを実行することにより、ATを予測するための前記他の経時的データ及び前記非経時的データに関する少なくとも1個の第6のクライテリアを決定し、前記少なくとも1個の第6のクライテリアは前記第1乃至第5のクライテリアと異なり、前記第1乃至第6のクライテリアに基づきATを予測する第1のAT予測モデルを生成する、第1のAT予測モデル生成部と、
前記教師データに含まれる各前記経時的データ及び前記非経時的データと同種の各経時的データ及び非経時的データを含む対象データを前記第1のAT予測モデルに入力し、前記第1のAT予測モデルを実行することにより、前記対象データの前記第1乃至第6のクライテリアに基づき、前記対象データのATを予測する、第1のAT予測部と、
を具備する。
【0013】
本実施形態によれば、第1のAT予測モデルが、検者がATを主観的な判断に基づき決定するのに典型的に用いられる第1乃至第5のクライテリアと異なる新指標(即ち、人間が知り得なかった新指標)である第6のクライテリアを加えて、対象データのATを予測することにより、主観性や経験の有無を排除し、簡便かつ精度高くATを予測することができる。
【0014】
前記教師データの群を前記第1の学習モデルと異なる第2の学習モデルに入力し、前記第2の学習モデルを実行することにより、ATを予測するための前記他の経時的データ及び前記非経時的データに関する少なくとも1個の第7のクライテリアを決定し、前記少なくとも1個の第7のクライテリアは前記第1乃至第5のクライテリアと異なり、前記第1乃至第5及び第7のクライテリアに基づきATを予測する前記第1のAT予測モデルと異なる第2のAT予測モデルを生成する、第2のAT予測モデル生成部と、
前記対象データを前記第2のAT予測モデルに入力し、前記第2のAT予測モデルを実行することにより、前記対象データの前記第1乃至第5及び第7のクライテリアに基づき、前記対象データのATを予測する、第2のAT予測部と、
をさらに具備してもよい。
【0015】
本実施形態によれば、第1の学習モデルと異なる第2の学習モデルにより第7のクライテリアを決定し、第2のAT予測モデルを生成することにより、第1のAT予測モデルが予測するATとは別の選択肢としてのATを予測することができる。また、このATも、第2のAT予測モデルが、検者がATを主観的な判断に基づき決定するのに典型的に用いられる第1乃至第5のクライテリアと異なる新指標(即ち、人間が知り得なかった新指標)である第7のクライテリアに基づき予測されるため、主観性や経験の有無を排除し、簡便かつ精度高くATを予測することができる。
【0016】
共通の前記対象データから前記第1のAT予測部が予測した前記AT及び前記第2のAT予測部が予測した前記ATを比較して前記第1のAT予測部又は前記第2のAT予測部の何れが高精度かを判断し、高精度と判断した前記第1のAT予測部又は前記第2のAT予測部が予測した前記ATを出力する、最適解出力AI予測部
をさらに具備してもよい。
【0017】
本実施形態によれば、2個の選択肢である2種類のATのうち、より高精度のATを出力することができる。
【0018】
共通の前記対象データから前記第1のAT予測部が予測した前記AT及び前記第2のAT予測部が予測した前記ATの両方を出力する、最適解出力AI予測部
をさらに具備してもよい。
【0019】
本実施形態によれば、2個の選択肢である2種類のATの両方を検者に提供することができる。
【0020】
前記第1の学習モデルと、前記第1の学習モデルと異なる前記第2の学習モデルは、それぞれ、各前記時系列データの数値又はグラフ画像を解析するロジスティック回帰モデル、Lasso回帰モデル、決定木モデル、XGブーストモデル、深層学習モデル、または今後利用可能となる新しいモデルでもよい。
【0021】
本実施形態によれば、タイプの異なる第1の学習モデルと第2の学習モデルとからそれぞれ第1のAT予測モデルと第2のAT予測モデルを作成するため、第1のAT予測モデルと第2のAT予測モデルも異なったものとなる。異なる第1のAT予測モデルと第2のAT予測モデルからそれぞれ2種類のATを作成し、比較することが出来るため、2種類のATそれぞれの信頼性を確認しやすい。例えば、2種類のATが同じ又は極めて近似する値であれば、第1のAT予測モデルと第2のAT予測モデルの両方とも信頼性が高いと考えられる。一方、2種類のATが近似しない値であれば、第1のAT予測モデルと第2のAT予測モデルのうち少なくともいずれか一方の信頼性が低いことがわかり、再度、教師データの群を準備して、信頼性が低い方の第1のAT予測モデル又は第2のAT予測モデルを作成し直すことが出来る。
【0022】
予測された前記ATに基づき運動処方箋を作成する運動処方作成部
をさらに具備してもよい。
【0023】
本実施形態によれば、主観性を排除して簡便かつ精度高く予測したATに基づき、主観性を排除して簡便かつ精度高く運動処方箋を作成することができる。
【0024】
前記他の経時的データはTV(一回換気量)の経時的データであり、前記第6のクライテリアはTVの増加率が低くなる点であり、
前記他の経時的データはRR(呼吸数)の経時的データであり、前記第6のクライテリアはRRの増加率が高くなる点であり、
前記他の経時的データはHR(心拍数)の経時的データであり、前記第6のクライテリアはHRの増加率が高くなる点であり、
前記他の経時的データはHRの経時的データであり、前記第6のクライテリアは心拍変動の高い周波数成分が消失する点であり、
前記他の経時的データはBPs(収縮期血圧)の経時的データであり、前記第6のクライテリアはBPsの増加率が高くなる点であり、
前記他の経時的データはBPsとHRの積であるDP(二重積)の経時的データであり、前記第6のクライテリアはDPの増加率が高くなる点であり、
前記心肺運動負荷試験はエルゴメータを使用し、前記他の経時的データは前記エルゴメータの回転数の経時的データであり、前記第6のクライテリアは回転数が一時的に増加する点であり、
前記第6のクライテリアは、V/VCO2の増加率が低くなる点であり、及び/又は
前記第6のクライテリアは、TV/RRの増加率が低くなる点でもよい。
前記第6のクライテリアは、今後利用可能となる新しい学習モデルから導出されてもよい。
【0025】
前記他の経時的データはTV(一回換気量)の経時的データであり、前記第7のクライテリアはTVの増加率が低くなる点であり、
前記他の経時的データはRR(呼吸数)の経時的データであり、前記第7のクライテリアはRRの増加率が高くなる点であり、
前記他の経時的データはHR(心拍数)の経時的データであり、前記第7のクライテリアはHRの増加率が高くなる点であり、
前記他の経時的データはHRの経時的データであり、前記第7のクライテリアは心拍変動の高い周波数成分が消失する点であり、
前記他の経時的データはBPs(収縮期血圧)の経時的データであり、前記第7のクライテリアはBPsの増加率が高くなる点であり、
前記他の経時的データはBPsとHRの積であるDP(二重積)の経時的データであり、前記第7のクライテリアはDPの増加率が高くなる点であり、
前記心肺運動負荷試験はエルゴメータを使用し、前記他の経時的データは前記エルゴメータの回転数の経時的データであり、前記第7のクライテリアは回転数が一時的に増加する点であり、
前記第7のクライテリアは、V/VCO2の増加率が低くなる点であり、及び/又は
前記第7のクライテリアは、TV/RRの増加率が低くなる点でもよい。
前記第7のクライテリアは、今後利用可能となる新しい学習モデルから導出されてもよい。
【0026】
嫌気性代謝閾値予測システムは、
前記教師データの群を前記第1の学習モデル及び前記第2の学習モデルと異なる第nの学習モデルに入力し、前記第nの学習モデルを実行することにより、ATを予測するための前記他の経時的データ及び前記非経時的データに関する少なくとも1個の第nのクライテリアを決定し、前記少なくとも1個の第nのクライテリアは前記第1乃至第5のクライテリアと異なり、前記第1乃至第5及び第nのクライテリアに基づきATを予測する前記第1のAT予測モデル及び前記第2のAT予測モデルと異なる第nのAT予測モデルを生成する、第nのAT予測モデル生成部と、
前記対象データを前記第nのAT予測モデルに入力し、前記第nのAT予測モデルを実行することにより、前記対象データの前記第1乃至第5及び第nのクライテリアに基づき、前記対象データのATを予測する、第nのAT予測部と、
をさらに具備し、
nは3以上の整数でもよい。
【0027】
本開示の一形態に係る嫌気性代謝閾値予測方法は、
O2(分時酸素摂取量)の経時的データと、
CO2(分時二酸化炭素排出量)の経時的データと、
R(ガス交換比:VCO2/VO2)の経時的データと、
(分時換気量)の経時的データと、
/VO2の経時的データと、
/VCO2の経時的データと、
F(P)ETCO2(呼気終末二酸化炭素分画濃度(分圧))の経時的データと、
F(P)ETO2(呼気終末酸素分画濃度(分圧))の経時的データと、
各前記経時的データと異なる他の経時的データ及び非経時的データと、
Rの増加率がVO2の増加率より高くなる点である第1のクライテリアと、
CO2の増加率がVO2の増加率より高くなる点である第2のクライテリアと、
/VCO2が増加せずにV/VO2が増加する点である第3のクライテリアと、
F(P)ETCO2が変化せずにF(P)ETO2が増加する点である第4のクライテリアと、
の増加率がVO2の増加率より高くなる点である第5のクライテリアと
に基づき決定されたAT(嫌気性代謝閾値)と、
を含む、心肺運動負荷試験により得られた教師データの群を第1の学習モデルに入力し、前記第1の学習モデルを実行することにより、ATを予測するための前記他の経時的データ及び前記非経時的データに関する少なくとも1個の第6のクライテリアを決定し、前記少なくとも1個の第6のクライテリアは前記第1乃至第5のクライテリアと異なり、前記第1乃至第6のクライテリアに基づきATを予測する第1のAT予測モデルを生成し、
前記教師データに含まれる各前記経時的データ及び前記非経時的データと同種の各経時的データ及び非経時的データを含む対象データを前記第1のAT予測モデルに入力し、前記第1のAT予測モデルを実行することにより、前記対象データの前記第1乃至第6のクライテリアに基づき、前記対象データの第1のATを予測する。
【発明の効果】
【0028】
本開示によれば、主観性を排除し、簡便かつ精度高くATを予測することを図れる。
【0029】
なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本開示の一実施形態に係る嫌気性代謝閾値予測システムの構成を示す。
図2】教師データの一例を示す。
図3】嫌気性代謝閾値予測システムによる嫌気性代謝閾値予測方法の動作フローを示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。
【0032】
1.嫌気性代謝閾値予測システムの構成
【0033】
図1は、本開示の一実施形態に係る嫌気性代謝閾値予測システムの構成を示す。
【0034】
嫌気性代謝閾値予測システム100は、第1のAT予測モデル生成部110、第2のAT予測モデル生成部120、第1のAT予測部130、第2のAT予測部140、最適解出力AI予測部170、AT出力部150及び運動処方作成部160を有する。
【0035】
典型的には、第1のAT予測部130、第2のAT予測部140、最適解出力AI予測部170、AT出力部150及び運動処方作成部160は、同一の情報処理装置10においてハードウェア資源及びソフトウェア資源が協働することにより実現される。第1のAT予測モデル生成部110及び第2のAT予測モデル生成部120は、情報処理装置10とは異なる情報処理装置においてハードウェア資源及びソフトウェア資源が協働することにより実現され、情報処理装置10とネットワークを介して通信可能でもよい。あるいは、第1のAT予測モデル生成部110及び第2のAT予測モデル生成部120は、情報処理装置10により実現されてもよい。情報処理装置は、CPUがROMに記録された情報処理プログラムをRAMにロードして実行する制御回路を有するコンピュータを意味する。
【0036】
第1のAT予測モデル生成部110は、教師データ200の群を第1の学習モデル111に入力し、第1の学習モデル111を実行することにより、第1のAT予測モデル131を生成する。
【0037】
第2のAT予測モデル生成部120は、教師データ200の群を第2の学習モデル121に入力し、第2の学習モデル121を実行することにより、第2のAT予測モデル141を生成する。
【0038】
第1の学習モデル111と、第2の学習モデル121とは、異なる。例えば、第1の学習モデル111と、第2の学習モデル121とは、それぞれ、各時系列データの数値又はグラフ画像を解析するロジスティック回帰モデル、Lasso回帰モデル、決定木モデル、XGブーストモデル、深層学習モデル、又は今後利用可能となる新しいモデルでよい。例えば、第1の学習モデル111は機械学習モデルであり、第2の学習モデル121は深層学習モデルである。
【0039】
第1の学習モデル111は、例えば、XGブーストによる各種データからの予測、XGブーストによる時系列データからの予測、画像解析の機械学習又は深層学習による解析、時系列データ解析から機械学習又は深層学習による解析でよい。
【0040】
第2の学習モデル121は、深層学習、例えば、ニューラルネットワーク等のアルゴリズムを使用する。第2の学習モデル121は、例えば、画像(グラフ)を学習や表(数値の時系列データ)を学習するモデルでよい。
【0041】
第1のAT予測部130は、対象データ300を、第1のAT予測モデル生成部110が生成した第1のAT予測モデル131に入力し、第1のAT予測モデル131を実行することにより、AT132を予測する。対象データ300は、AT決定に供されるデータであり、呼気ガス分析器から出力される全ての呼気ガスデータと血圧、心拍数等を含む。
【0042】
第2のAT予測部140は、対象データ300を、第2のAT予測モデル生成部120が生成した第2のAT予測モデル141に入力し、第2のAT予測モデル141を実行することにより、AT142を予測する。
【0043】
最適解出力AI予測部170は、何パターンか作成したAIモデルのうちもっともらしい最適解を出力するモデルを一つあるいは、複数個のプログラムを入れることで、第1のAT予測部130が予測したAT132及び第2のAT予測部140が予測したAT142のうち最適なAT142を1個又は複数個推測する。最適解出力AI予測部170は、推測した1個又は複数個の最適なAT142を、AT出力部150に出力する。
【0044】
AT出力部150は、最適解出力AI予測部170が推測した第1のAT予測部130が予測したAT132及び第2のAT予測部140が予測した1個又は複数個のAT142を出力(例えば、ディスプレイに表示)する。
【0045】
運動処方作成部160は、第1のAT予測部130が予測したAT132及び第2のAT予測部140が予測したAT142の両方又は一方、および運動中に測定された血圧、心拍数、二重積(収縮期血圧×心拍数)、不整脈の有無、心電図波形、酸素飽和度(対象データ301)に基づき、運動処方箋161を作成し、出力する。運動処方作成部160は、予測されたATに基づき医師により決定されたATならびに運動中の心電図変化(特にST偏位)や不整脈の有無と種類、血圧、酸素飽和度などから、ATを基準とした運動処方箋161を作成してもよい。
【0046】
2.教師データ
【0047】
図2は、教師データの一例を示す。
【0048】
教師データ200の群は、複数の教師データ200を含む。以下、1個の教師データ200を説明する。1個の教師データ200は、1人の被験者の心肺運動負荷試験により得られたデータである。被験者は、呼吸測定用マスク、血圧計端子、心電計端子、酸素飽和度計による脈拍数等を装着し、エルゴメータ(サイクルエルゴメータ、トレッドミルエルゴメータ等)で運動を行う。呼気ガス分析器、自動血圧計及び負荷心電計を用いて、運動中に経時的に、被験者の呼気ガスを分析し、血圧、心電図、心拍数、不整脈、脈拍数等を測定する。
【0049】
サイクルエルゴメータを使用する心肺運動負荷試験の一例を説明する。安静(Rest)期において、被験者は、サイクルエルゴメータに座ったままペダルを漕がず、普段通りの呼吸を維持する。次に、ウォームアップ(W-up)期において、被験者は、0-20W程度の軽い負荷で、ペダルの回転数が50-60rpmの範囲でペダルを漕ぐ。ウォームアップ期で心電図や血圧に異常な兆候が見られなければ、Ramp負荷(直線的漸増負荷)期に入る。Ramp負荷期において、自動的に次第にペダルを重くし(仕事率を漸増し)、メトロノーム等を用いて回転数を被験者に指示するとともに、回転数をモニターする。Ramp負荷期において、被験者は、限界(Peak)と感じるまでペダルを漕ぎ続ける。負荷終了後の回復(Recovery)期において、被験者は、サイクルエルゴメータに座ったままペダルを漕がず、安静にする。負荷装置としてトレッドミルを使用した場合には、立位安静後、ウォームアップは時速2kmから4kmとし、仕事率増加の代わりにベルトの速度と傾斜を漸増する。検者(医師、臨床検査技師等。以下同じ)は、運動中に経時的に得られた、呼気ガスの分析値、血圧、心電図、心拍数等の経時的データを参照し、ATを判断する。
【0050】
図2の(A)はTime Trend法でATを決定するために用いるデータであり、図2の(B)はV slope法でATを決定するために用いるデータである。Time Trend法は、呼気ガスのクライテリアを時間軸で表し、複数のクライテリアの変曲点からATを決定する方法である。V slope法は、VCO2の増加率がVO2の増加率より急峻に高くなる点からATを決定する方法である。1個の教師データ200は、両方のデータを含む。
【0051】
教師データ200は、VO2(分時酸素摂取量)の経時的データ201と、VCO2(分時二酸化炭素排出量)の経時的データ202と、R(ガス交換比:VCO2/VO2)の経時的データ203と、V(分時換気量)の経時的データ204と、V/VO2の経時的データ205と、V/VCO2の経時的データ206と、F(P)ETCO2(呼気終末二酸化炭素分画濃度(分圧))の経時的データ207と、F(P)ETO2(呼気終末酸素分画濃度(分圧))の経時的データ208とを含む。これらのデータは、呼気ガス分析器が直接測定している一次指標すなわちTV(一回換気量)、RR(呼吸数)、呼気酸素濃度(FEO2)、呼気二酸化炭素濃度(FECO2)、及び同時に測定している心電図波形(ST偏位など)、HR(心拍数)、BP(血圧)、動脈血酸素飽和度(SPO2)、及びそれらから算出される下記の2次指標である。
【0052】
なお、図2に示す様に、各経時的データ201乃至206の「V」の上には本来、「分時(/min)」を意味するドット「・」が記載される。即ち、ドット「・」が記載された「V」は、一定時間内の量を意味する。ただし、本明細書ではドット「・」の記載を省略する。
【0053】
検者は、Rの増加率がVO2の増加率より高くなる点である第1のクライテリア(図2(A)参照)と、VCO2の増加率がVO2の増加率より高くなる点である第2のクライテリア(図2(B)参照)と、V/VCO2が増加せずにV/VO2が増加する点である第3のクライテリア(図2(A)参照)と、F(P)ETCO2が変化せずにF(P)ETO2が増加する点である第4のクライテリア(図2(A)参照)と、Vの増加率がVO2の増加率より高くなる点である第5のクライテリア(図2(A)参照)とに基づき、主観的な判断によりAT209を決定する。教師データ200は、この第1乃至第5のクライテリアに基づき決定されたAT209をさらに含む。AT209は、心肺運動負荷試験を10,000件以上施行経験のある検者及び複数の検者が決定したAT等、信頼性の高いと想定されるデータであることが望ましい。
【0054】
教師データ200は、さらに、上記の各経時的データと異なる他の経時的データを含む。他の経時的データは、例えば、TV(一回換気量)の経時的データ、RR(呼吸数)の経時的データ、HR(心拍数)の経時的データ210(図2(A)参照)、BPs(収縮期血圧)の経時的データ、BPsとHRの積であるDP(二重積)の経時的データ及びエルゴメータの回転数と仕事率、トレッドミルに於いては速度と傾斜の経時的データ等を含む。
【0055】
教師データ200は、さらに、非経時的データを含む。非経時的データは、例えば、年齢、性別などの個人情報;直近の体調、病歴、薬歴及び検査結果履歴;過去の運動時間、心拍数、心電図、心拍数トレンドグラフ、脈拍数、経皮酸素飽和度、の履歴;健診データ;及び各種カルテからのデータ等を含む。
【0056】
要するに、1個の教師データ200は、1人の被験者の心肺運動負荷試験により得られた、各経時的データ201-208と、各経時的データ201-208に基づく第1乃至第5のクライテリアに基づき決定されたAT209と、上記の各経時的データと異なる他の経時的データと、非経時的データと、を含む。
【0057】
なお、教師データ200の群は、k-分割交差検証により生成したデータでもよい。k-分割交差検証は、サンプル数が少ない場合等に有効である。k-分割交差検証によれば、全体のデータをn個(k1,k2,k3・・・Kn)のグループに分割し、そのうち1個のグループ(例えばk1)のデータを検証用データ、残りのグループのデータを学習用データとして用いる。その後、k2を検証用とした場合、k3を検証用とした場合等、計n回繰り返して、解析を行いその結果を統合する方法である。
【0058】
3.嫌気性代謝閾値予測システムによる嫌気性代謝閾値予測方法
【0059】
図3は、嫌気性代謝閾値予測システムによる嫌気性代謝閾値予測方法の動作フローを示す。
【0060】
第1のAT予測モデル生成部110は、教師データ200の群を第1の学習モデル111に入力する(ステップS101)。第1のAT予測モデル生成部110は、第1の学習モデル111を実行することにより、少なくとも1個の第6のクライテリアを決定する(ステップS102)。「少なくとも1個の第6のクライテリア」とは、1以上の異なるクライテリアであり、その数は1個以上であれば何個でもよく、複数の異なる種類の第6のクライテリアが組み合わせて使用されることを意味する。
【0061】
第6のクライテリアは、第1乃至第5のクライテリアと異なり、上記他の経時的データ及び非経時的データに基づいてATを予測するためのクライテリアである。言い換えれば、第6のクライテリアは、検者がATを主観的な判断に基づき決定するのに典型的には用いない新指標である。上述の様に、他の経時的データは、例えば、TVの経時的データ、RRの経時的データ、HRの経時的データ、BPsの経時的データ、DPの経時的データ及び回転数の経時的データ等を含む。例えば、第6のクライテリアは、TVの増加率が低くなる点、RRの増加率が高くなる点、HRの増加率が高くなる点、心拍変動の高い周波数成分が消失する点、BPsの増加率が高くなる点、DPの増加率が高くなる点、回転数が一時的に増加する点、V/VCO2の増加率が低くなる点であり、及び/又はTV/RRの増加率が低くなる点等が考えられるが、飽くまでも本発明者等の知見に基づく予想にすぎず、これらに限定されないし、これらが全く含まれない可能性もある。第6のクライテリアは、上記他の経時的データに加えて、非経時的データを加味した変動的な第6のクライテリアを決定してもよい。第6のクライテリアは、今後利用可能となる新しい学習モデルから導出されてもよい。
【0062】
第1のAT予測モデル生成部110は、第1のAT予測モデル131を生成する(ステップS103)。第1のAT予測モデル131は、決定された少なくとも1個の第6のクライテリアに少なくとも基づき、ATを予測するモデルである。第1のAT予測モデル131は、第1乃至第6のクライテリアに基づき、ATを予測してもよい。
【0063】
第1のAT予測部130は、対象データ300を第1のAT予測モデル131に入力する(ステップS104)。
【0064】
対象データ300は、ATを決定すべき1人の患者の心肺運動負荷試験により得られたデータである。対象データ300は、教師データ200に含まれる各経時的データ及び非経時的データと同種の、各経時的データ及び非経時的データを含む。即ち、対象データ300は、図2に示す様に、VO2の経時的データ201と、VCO2の経時的データ202と、Rの経時的データ203と、Vの経時的データ204と、V/VO2の経時的データ205と、V/VCO2の経時的データ206と、F(P)ETCO2の経時的データ207と、F(P)ETO2の経時的データ208と、他の経時的データ(例えば、TVの経時的データ、RRの経時的データ、HRの経時的データ、BPsの経時的データ、DPの経時的データ及び回転数の経時的データ等)と、非経時的データと同種の各データを含む。ただし、対象データ300は、第1乃至第5のクライテリアに基づき決定されたAT209を含まない。
【0065】
第1のAT予測部130は、第1のAT予測モデル生成部110が生成した第1のAT予測モデル131を実行することにより、対象データ300の第6のクライテリアに少なくとも基づき、典型的には第1乃至第6のクライテリアに基づき、対象データ300のAT132を予測する(ステップS105)。
【0066】
一方、第2のAT予測モデル生成部120は、教師データ200の群を第2の学習モデル121に入力する(ステップS111)。第1のAT予測モデル生成部110に入力される教師データ200の群と、第2のAT予測モデル生成部120に入力される教師データ200の群とは、同一でもよいし、異なってもよい。第2のAT予測モデル生成部120は、第2の学習モデル121を実行することにより、少なくとも1個の第7のクライテリアを決定する(ステップS112)。「少なくとも1個の第7のクライテリア」とは、1以上の異なるクライテリアであり、その数は1個以上であれば何個でもよく、複数の異なる種類の第7のクライテリアが組み合わせて使用されることを意味する。
【0067】
第7のクライテリアは、第1乃至第5のクライテリアと異なり、上記他の経時的データ及び非経時的データに基づいてATを予測するためのクライテリアである。言い換えれば、第7のクライテリアは、検者がATを主観的な判断に基づき決定するのに典型的には用いない新指標である。上述の様に、他の経時的データは、例えば、TVの経時的データ、RRの経時的データ、HRの経時的データ、BPsの経時的データ、DPの経時的データ及び回転数の経時的データ等を含む。例えば、第7のクライテリアは、TVの増加率が低くなる点、RRの増加率が高くなる点、HRの増加率が高くなる点、心拍変動の高い周波数成分が消失する点、BPsの増加率が高くなる点、DPの増加率が高くなる点、回転数が一時的に増加する点、V/VCO2の増加率が低くなる点であり、及び/又はTV/RRの増加率が低くなる点等が考えられるが、飽くまでも本発明者等の知見に基づく予想にすぎず、これらに限定されないし、これらが全く含まれない可能性もある。第7のクライテリアは、上記他の経時的データに加えて、非経時的データを加味した変動的な第7のクライテリアを決定してもよい。第7のクライテリアは、今後利用可能となる新しい学習モデルから導出されてもよい。第7のクライテリアと第6のクライテリアとは、典型的には異なるが、同じである可能性もある。典型的には、複数の第6のクライテリアの組み合わせと、複数の第7のクライテリアの組み合わせとは異なる。
【0068】
第2のAT予測モデル生成部120は、第2のAT予測モデル141を生成する(ステップS113)。第2のAT予測モデル141は、決定された少なくとも1個の第7のクライテリアに少なくとも基づき、ATを予測するモデルである。第2のAT予測モデル141は、第1乃至第5及び第7のクライテリアに基づき、ATを予測してもよい。
【0069】
第2のAT予測部140は、対象データ300を第2のAT予測モデル141に入力する(ステップS114)。第2のAT予測モデル141に入力される対象データ300は、第1のAT予測モデル131に入力される対象データ300と共通である。言い換えれば、1人の患者の心肺運動負荷試験により得られたデータである対象データ300が、第1のAT予測モデル131に入力され(ステップS104)、第2のAT予測モデル141に入力される(ステップS114)。
【0070】
第2のAT予測部140は、第2のAT予測モデル生成部120が生成した第2のAT予測モデル141を実行することにより、対象データ300の第7のクライテリアに少なくとも基づき、典型的には第1乃至第5及び第7のクライテリアに基づき、対象データ300のAT142を予測する(ステップS115)。
【0071】
最適解出力AI予測部170は、第1のAT予測部130が予測したAT132及び第2のAT予測部140が予測したAT142の両方又は一方を出力(例えば、ディスプレイに表示)する(ステップS106)。例えば、最適解出力AI予測部170は、共通の対象データ300から第1のAT予測部130が予測したAT132及び第2のAT予測部140が予測したAT142を比較して第1のAT予測部130又は第2のAT予測部140の何れが高精度かを判断し、高精度と判断した第1のAT予測部130が予測したAT132又は第2のAT予測部140が予測したAT142を出力してもよい。あるいは、最適解出力AI予測部170は、第1のAT予測部130が予測したAT132及び第2のAT予測部140が予測したAT142の両方を、単に出力してもよいし、精度の高い順に出力してもよい。精度の高い順に出力する場合、それぞれの精度(的中確率)を表示してもよい。医師は、第1のAT予測部130が予測したAT132及び/又は第2のAT予測部140が予測したAT142を参照し、診断することが出来る。
【0072】
運動処方作成部160は、第1のAT予測部130が予測したAT132及び第2のAT予測部140が予測したAT142の両方又は一方、および運動中に測定された血圧、心拍数、二重積(収縮期血圧×心拍数)、不整脈の有無、心電図波形、酸素飽和度(対象データ301)に基づき、運動処方箋161を作成し、出力する(ステップS107)。運動処方は、ユーザ毎に異なり、エルゴメータを用いて運動する際に目標とする各種数値を含む。運動処方は、ユーザの生体データ(血圧、経皮酸素飽和度、心拍数又は脈拍等)の目標値を含む。運動処方は、さらに、エルゴメータの仕事率の目標値、トルク(Nm:ニュートンメータ)、回転数)と、運動継続時間とを含んでもよい。
【0073】
なお、本例では、第1のAT予測モデル生成部110が少なくとも1個の第6のクライテリアを決定して第1のAT予測モデル131を生成し、第1のAT予測部130が第1のAT予測モデル131を実行してAT132を予測し、さらに、第2のAT予測モデル生成部120が少なくとも1個の第7のクライテリアを決定して第2のAT予測モデル141を生成し、第2のAT予測部140が第2のAT予測モデル141を実行してAT142を予測する。これに加えて、第nのAT予測モデル生成部が少なくとも1個の第nのクライテリアを決定して第nのAT予測モデルを生成し、第nのAT予測部が第nのAT予測モデルを実行してATを予測してもよい(nは3以上の整数)。
【0074】
この場合、最適解出力AI予測部170は、第1のAT予測部130が予測したAT132、第2のAT予測部140が予測したAT142及び第nのAT予測部が予測したATの全て又は一方を出力(例えば、ディスプレイに表示)する(ステップS106)。例えば、最適解出力AI予測部170は、共通の対象データ300から第1のAT予測部130が予測したAT132、第2のAT予測部140が予測したAT142及び第nのAT予測部が予測したATを比較して第1のAT予測部130、第2のAT予測部140又は第nのAT予測部の何れが高精度かを判断し、高精度と判断した第1のAT予測部130が予測したAT132、第2のAT予測部140が予測したAT142又は第nのAT予測部が予測したATを出力してもよい。あるいは、最適解出力AI予測部170は、第1のAT予測部130が予測したAT132、第2のAT予測部140が予測したAT142及び第nのAT予測部が予測したATの全てを、単に出力してもよいし、精度の高い順に出力してもよい。精度の高い順に出力する場合、それぞれの精度(的中確率)を表示してもよい。医師は、第1のAT予測部130が予測したAT132、第2のAT予測部140が予測したAT142及び/又は第nのAT予測部が予測したATを参照し、診断することが出来る。
【0075】
運動処方作成部160は、第1のAT予測部130が予測したAT132、第2のAT予測部140が予測したAT142及び第nのAT予測部が予測したATの全て又は一方、および運動中に測定された血圧、心拍数、二重積(収縮期血圧×心拍数)、不整脈の有無、心電図波形、酸素飽和度(対象データ301)に基づき、運動処方箋161を作成し、出力する(ステップS107)。
【0076】
運動処方作成部160が運動処方箋161を作成する際に、以下のATの生理学的特徴(1)乃至(6)は、運動の強さ(運動強度)を決定する目安となる。(1)ATに至るまでの心拍数増加は副交感神経の活性低下が主因であり、ストレスホルモンの分泌が少ない。(2)ATを超えると、交感神経活性(ストレスホルモン分泌)が高まり、血圧が上がり、不整脈が出やすくなる。このため、高血圧や糖尿病の運動療法にはATレベル(即ち、有酸素運動に無酸素運動が加わる直前のレベル)の運動が推奨される。(3)ATを超えると、健常例でも1回拍出量は増えなくなる。心疾患では1回拍出量は減少し、左室駆出率が下がる(心機能が悪くなる)。このため、心疾患や心不全のリハビリテーションにはATレベルの運動が推奨される。(4)ATを超えると、換気が亢進する。このため、COPD(慢性閉塞性肺疾患:Chronic Obstructive Pulmonary Disease)の運動療法にはATレベルの運動が推奨される。(5)ATを超えると、血中乳酸濃度が増える。このため、慢性腎臓病や血液透析患者の運動療法にはATレベルの運動が推奨される。(6)脂肪より糖がエネルギー源として使われる。このため、脂質代謝改善にはATレベルの運動が推奨される。
【0077】
4.結語
【0078】
本実施形態によれば、第1のAT予測モデル生成部110は、第1の学習モデル111を実行することにより第6のクライテリアを決定し(ステップS102)、第6のクライテリアに少なくとも基づきATを予測する第1のAT予測モデル131を生成する(ステップS103)。第1のAT予測部130は、第1のAT予測モデル131を実行することにより、第6のクライテリア等に少なくとも基づき、典型的には第1乃至第6のクライテリアに基づき、対象データ300のAT132を予測する(ステップS105)。本実施形態によれば、第1のAT予測モデル131が、検者がATを主観的な判断に基づき決定するのに典型的に用いられる第1乃至第5のクライテリアと異なる新指標(即ち、人間が知り得なかった新指標)である第6のクライテリアに基づき、対象データ300のAT132を予測することにより、主観性や経験の有無を排除し、簡便かつ精度高くAT132を予測することができる。
【0079】
本実施形態によれば、第2のAT予測モデル生成部120は、第1の学習モデル111と異なる第2の学習モデル121を実行することにより第7のクライテリアを決定し(ステップS112)、第7のクライテリアに少なくとも基づきATを予測する第2のAT予測モデル141を生成する(ステップS113)。第2のAT予測部140は、第2のAT予測モデル141を実行することにより、第7のクライテリアに少なくとも基づき、典型的には第1乃至第5及び第7のクライテリアに基づき、対象データ300のAT142を予測する(ステップS115)。本実施形態によれば、第1の学習モデル111と異なる第2の学習モデル121により第7のクライテリアを決定し、第2のAT予測モデル141を生成することにより、第1のAT予測モデル131が予測するAT132とは別の選択肢としてのAT142を予測することができる。また、このAT142も、第2のAT予測モデル141が、検者がATを主観的な判断に基づき決定するのに典型的に用いられる第1乃至第5のクライテリアと異なる新指標(即ち、人間が知り得なかった新指標)である第7のクライテリアに基づき予測されるため、主観性や経験の有無を排除し、簡便かつ精度高くAT142を予測することができる。
【0080】
本実施形態によれば、最適解出力AI予測部170は、共通の対象データ300から第1のAT予測部130が予測したAT132及び第2のAT予測部140が予測したAT142を比較して第1のAT予測部130又は第2のAT予測部140の何れが高精度かを判断し、高精度と判断した第1のAT予測部130が予測したAT132又は第2のAT予測部140が予測したAT142を出力してもよい(ステップS106)。本実施形態によれば、2個の選択肢であるAT132及びAT142のうち、より高精度のATを出力することができる。
【0081】
本実施形態によれば、最適解出力AI予測部170は、第1のAT予測部130が予測したAT132及び第2のAT予測部140が予測したAT142の両方を出力してもよい(ステップS106)。本実施形態によれば、2個の選択肢であるAT132及びAT142の両方を検者に提供することができる。
【0082】
本実施形態によれば、第1の学習モデル111と、第2の学習モデル121は、それぞれ、各時系列データの数値又はグラフ画像を解析するロジスティック回帰モデル、Lasso回帰モデル、決定木モデル、XGブーストモデル又は深層学習モデルである。本実施形態によれば、タイプの異なる第1の学習モデル111と第2の学習モデル121とからそれぞれ第1のAT予測モデル131と第2のAT予測モデル141を作成するため、第1のAT予測モデル131と第2のAT予測モデル141も異なったものとなる。異なる第1のAT予測モデル131と第2のAT予測モデル141からそれぞれAT132とAT142を作成し、比較することが出来るため、AT132とAT142それぞれの信頼性を確認しやすい。例えば、AT132とAT142とが同じ又は極めて近似する値であれば、第1のAT予測モデル131と第2のAT予測モデル141の両方とも信頼性が高いと考えられる。一方、AT132とAT142とが近似しない値であれば、第1のAT予測モデル131と第2のAT予測モデル141のうち少なくともいずれか一方の信頼性が低いことがわかり、再度、教師データ200の群を準備して、信頼性が低い方の第1のAT予測モデル131又は第2のAT予測モデル141を作成し直すことが出来る。
【0083】
本実施形態によれば、運動処方作成部160は、第1のAT予測部130が予測したAT132及び第2のAT予測部140が予測したAT142の両方又は一方、および運動中に測定された血圧、心拍数、二重積(収縮期血圧×心拍数)、不整脈の有無、心電図波形、酸素飽和度に基づき、運動処方箋161を作成し、出力する(ステップS107)。本実施形態によれば、主観性を排除して簡便かつ精度高く予測したAT132、142に基づき、主観性を排除して簡便かつ精度高く運動処方箋161を作成することができる。
【0084】
本技術の各実施形態及び各変形例について上に説明したが、本技術は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0085】
10 情報処理装置
100 嫌気性代謝閾値予測システム
110 第1のAT予測モデル生成部
111 第1の学習モデル
120 第2のAT予測モデル生成部
121 第2の学習モデル
130 第1のAT予測部
131 第1のAT予測モデル
132 AT
140 第2のAT予測部
141 第2のAT予測モデル
142 AT
150 AT出力部
160 運動処方作成部
161 運動処方
170 最適解出力AI予測部
200 教師データ
300 対象データ
図1
図2
図3