(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086417
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】電極体及び蓄電素子
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20230615BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230615BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230615BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200924
(22)【出願日】2021-12-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(71)【出願人】
【識別番号】000104995
【氏名又は名称】クローダジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 明法
(72)【発明者】
【氏名】井上 三十郎
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM11
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA09
5H050DA11
5H050HA02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】活物質層の電荷移動抵抗が比較的低い電極体、及び、該電極体を備える蓄電素子を提供する。
【解決手段】電極帯は、活物質と固体電解質とを含む活物質層を備え、前記活物質層が、添加剤をさらに含み、前記添加剤は、炭化水素基とエーテル結合とが交互に繰り返された第1構造単位と、炭化水素基とエステル結合とが交互に繰り返された第2構造単位とを含有する。蓄電素子は、上記の電極体を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質と固体電解質とを含む活物質層を備え、
前記活物質層が、添加剤をさらに含み、
前記添加剤は、炭化水素基とエーテル結合とが交互に繰り返された第1構造単位と、炭化水素基とエステル結合とが交互に繰り返された第2構造単位とを含有する、電極体。
【請求項2】
前記添加剤は、前記第1構造単位と前記第2構造単位とを分子中に有するコポリマーを含有し、
前記コポリマーは、前記第1構造単位と前記第2構造単位とが主鎖に沿って配列されているブロックコポリマーである、請求項1に記載の電極体。
【請求項3】
前記コポリマーの数平均分子量が、2,000以上20,000以下である、請求項2に記載の電極体。
【請求項4】
前記コポリマーが、下記一般式(1)で表される、請求項2又は3に記載の電極体(ただし、一般式(1)において、R1は、炭素数1以上4以下の飽和炭化水素基であり、R2’及びR2”は、それぞれ独立して炭素数4以上20以下の飽和炭化水素基であり、A及びBは、それぞれ独立して、アルキル基、水素、又はその他の1価の特性基であり、m、n1及びn2は、それぞれ独立して、正の整数であり、n1及びn2の合計に対するmの比は、0.8以上8.0以下である)。
【化1】
【請求項5】
前記コポリマーは、前記第1構造単位と前記第2構造単位とを分子中に有するノニオン性のコポリマーである、請求項2乃至4のいずれか1項に記載の電極体。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電極体を備える、蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極体、及び、該電極体を備える蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、正極活物質層と負極活物質層と固体電解質層とを具備し、前記正極活物質層、負極活物質層及び固体電解質層の少なくとも1つの層が、固体電解質組成物で形成した層である全固体二次電池であって、前記固体電解質組成物が、周期律表第1族又は第2族に属する金属元素のイオンの伝導性を有する無機固体電解質と、高分子バインダーとを有し、前記高分子バインダーが、ポリマー分子の末端に3つ以上の、ポリマー分子の重合開始剤残基を有する分岐状ポリマーを含有する全固体二次電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一の目的は、活物質層の電荷移動抵抗が比較的低い電極体、及び、該電極体を備える蓄電素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面に係る電極体は、活物質と固体電解質とを含む活物質層を備え、前記活物質層が、添加剤をさらに含み、前記添加剤は、炭化水素基とエーテル結合とが交互に繰り返された第1構造単位と、炭化水素基とエステル結合とが交互に繰り返された第2構造単位とを含有する。
【0006】
本発明の他の一側面に係る蓄電素子は、上記の電極体を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一側面に係る電極体においては、活物質層の電荷移動抵抗が比較的低い。
本発明の他の一側面に係る蓄電素子においては、活物質層の電荷移動抵抗が比較的低い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る蓄電素子の斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1の蓄電素子に収容される構成単位の斜視図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る蓄電素子を構成する電極体の模式断面図である。
【
図4】
図4は、正極活物質層の作製における様子の一例を表す模式図である。
【
図5】
図5は、固体電解質層の作製における様子の一例を表す模式図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る蓄電素子を複数備えた蓄電装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書によって開示される電極体2、及び、蓄電素子1の概要について説明する。
【0010】
本発明の一側面に係る電極体は、活物質と固体電解質とを含む活物質層を備え、前記活物質層が、添加剤をさらに含み、前記添加剤は、炭化水素基とエーテル結合とが交互に繰り返された第1構造単位と、炭化水素基とエステル結合とが交互に繰り返された第2構造単位とを含有する。
【0011】
上記した本発明の一側面によれば、活物質層の電荷移動抵抗を比較的低くすることができる。
【0012】
ここで、前記添加剤は、前記第1構造単位と前記第2構造単位とを分子中に有するコポリマーを含有し、前記コポリマーは、前記第1構造単位と前記第2構造単位とが主鎖に沿って配列されているブロックコポリマーであってもよい。
【0013】
この電極体では、活物質層の電荷移動抵抗をより低くすることができる。
【0014】
また、前記コポリマーの数平均分子量が、2,000以上20,000以下であってもよい。
【0015】
この電極体では、活物質層の電荷移動抵抗をより低くすることができる。
【0016】
また、前記コポリマーが、下記一般式(1)で表されるものであってもよい。ただし、一般式(1)において、R1は、炭素数1以上4以下の飽和炭化水素基であり、R2’及びR2”は、それぞれ独立して炭素数4以上20以下の飽和炭化水素基であり、A及びBは、それぞれ独立して、アルキル基、水素、又はその他の1価の特性基であり、m、n1及びn2は、それぞれ独立して、正の整数であり、n1及びn2の合計に対するmの比は、0.8以上8.0以下である。
【化1】
【0017】
この電極体では、活物質層の電荷移動抵抗をより低くすることができる。
【0018】
また、前記コポリマーは、前記第1構造単位と前記第2構造単位とを分子中に有するノニオン性のコポリマーであってもよい。
【0019】
この電極体では、活物質層の電荷移動抵抗をより低くすることができる。
【0020】
本発明の他の一側面に係る蓄電素子は、上記の電極体を備える。そのため、本発明の他の一側面に係る蓄電素子では、活物質層の電荷移動抵抗を比較的低くすることができる。
【0021】
本発明の一実施形態に係る電極体2の構成、蓄電素子1の構成、蓄電装置100の構成、並びにその他の実施形態について詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0022】
<蓄電素子の構成>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子1は、
図1から
図3に示すように、正極40、負極50、及び固体電解質層60を有する電極体2と、上記電極体2を収容する容器3と、を備える。本実施形態に係る蓄電素子1は、電解液を実質的に含まないため、以下、「全固体型蓄電素子」と称される場合がある。本実施形態において、電極体2は、正極40と負極50と固体電解質層60とが積層された積層型電極体である。容器3は、2枚のシート状物で電極体2を両側から挟み込むように、電極体2を内部に収容している。換言すると、容器3は、扁平形状のいわゆるパウチ容器である。正極40は、固体電解質と正極活物質とを含む正極活物質層42を有し、負極50は、固体電解質と負極活物質とを含む負極活物質層52を有する。固体電解質層60は、正極40と負極50との間に配置され、主に固体電解質を含む。全固体型蓄電素子の一例として、全固体型リチウムイオン二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)について説明する。
【0023】
詳しくは、本実施形態の蓄電素子1は、
図1から
図3に示すように、正極40と負極50とが固体電解質層60を介して積層された積層型の電極体2と、電極体2を収容する上記の容器3と、2つの外部端子(正極端子4及び負極端子5)とを備える。正極端子4は、正極40の正極基材41(後述)の一部が外方へ延びたタブ部によって構成されている。同様に、負極端子5は、負極50の負極基材51(後述)の一部が外方へ延びたタブ部によって構成されている。
蓄電素子1は、電極体2と任意の外部機器との間において、正極端子4及び負極端子5を介して充放電時に電気が流れるように構成されている。本実施形態の蓄電素子1では、1つの電極体2が容器3内に収容され、電極体2が充放電反応するように構成される。
また、容器3は、厚さ方向において、外方から内部へ向けて圧縮力を受けた状態であることが好ましい。これにより、正極40及び負極50と、固体電解質層60との間における界面抵抗をより下げることができる。なお、容器3に収容される電極体2は、1つであっても複数であってもよい。
【0024】
電極体2は、矩形シート状の正極40と、矩形シート状の負極50とが固体電解質層60を介して重ねられて積層されている。
図3に示すように、固体電解質層60は、正極40及び負極50を電気的に絶縁するように配置されている。固体電解質層60は、正極活物質及び負極活物質のいずれも含まない。本実施形態では、電極体2及び容器3は、いずれも扁平形状を有する。電極体2における電極の積層方向と、容器3の厚さ方向とが同じ方向になるように、電極体2が容器3内に配置されている。
【0025】
本実施形態の電極体2において、正極40の正極活物質層42、負極50の負極活物質層52、及び固体電解質層60のうち少なくともいずれかが、固体電解質を含む。詳しくは、本実施形態において、正極活物質層42、負極活物質層52、及び固体電解質層60のうち少なくともいずれかが、固体電解質の粒子を含む。また、正極活物質層42及び負極活物質層52のうち少なくとも一方が、後に詳述する添加剤を含む。
【0026】
(正極)
正極40は、正極基材41と、当該正極基材41に直接又は所定の層などを介して重なる正極活物質層42とを有する。本実施形態では、正極40において正極基材41と正極活物質層42とが直接重なり合っている。また、本実施形態では、正極基材41の一方の面(片面)に正極活物質層42が重ねられている。正極活物質層42と負極活物質層52とは、互いの間で充放電反応を起こす。
【0027】
正極基材41は、導電性を有する。「導電性」を有するか否かは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が107Ω・cmを閾値として判定する。正極基材41の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材41としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材41としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)に規定されるA1085、A3003等が例示できる。
【0028】
正極基材41の平均厚さは、1μm以上50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましく、15μm以下がさらに好ましい。正極基材41の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材41の強度を高めつつ、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0029】
本実施形態において、正極活物質層42は、正極活物質と、固体電解質(後に詳述)と、後に詳述する添加剤とを含む。正極活物質層42は、バインダーを含むことが好ましい。正極活物質層42は、必要に応じて、導電剤、増粘剤等の任意成分を含む。
【0030】
正極活物質としては、公知の正極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LixNi(1-x)]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγCo(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixCo(1-x)]O2(0≦x<0.5)、Li[LiNiMn(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)、Li[LixNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LixMn2O4、LixNiγMn(2-γ)O4等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4,Li3V2(PO4)3、Li2MnSiO4、Li2CoPO4F等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、硫化鉄、硫化コバルト、硫化銅、硫化ニッケル、銅シェブレル等が挙げられる。なお、硫黄、酸化ビスマス、鉛酸ビスマス、酸化銅、酸化バナジウム等を正極活物質として用いることもできる。
これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。正極活物質層42においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
正極活物質として、リチウムイオン伝導性酸化物等の材料を含有するコート層によって被覆された状態のものを選択することが好ましい。リチウムイオン伝導性酸化物として、LiNbO3、Li2WO4、Li4Ti5O12、Li3PO4等が挙げられる。この中でも、LiNbO3を選択することが好ましい。コート層は、正極活物質の表面全体を被覆していてもよく、又は、表面を部分的に被覆していてもよい。
【0031】
正極活物質は、通常、粒子状である。正極活物質の平均粒子径は、例えば、0.1μm以上20μm以下であることが好ましい。正極活物質の平均粒子径が上記の下限以上であることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒子径が上記の上限以下であることで、正極活物質層42の電子伝導性が向上する。なお、正極活物質と他の材料との複合体を用いる場合(例えば、正極活物質の表面をコート層によって被覆している場合)、該複合体の平均粒子径を正極活物質の平均粒子径とする。「平均粒子径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザー回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0032】
正極活物質の粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶媒を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0033】
正極活物質層42における正極活物質の含有量は、好ましくは10質量%以上95質量%以下であり、より好ましくは20質量%以上90質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以上80質量%以下である。正極活物質の含有量が上記の範囲であることで、正極活物質層42の高エネルギー密度化と、正極活物質層42の比較的簡便な製造とを両立できる。
【0034】
正極活物質層42は、後に詳述する固体電解質を含む。固体電解質は、例えば、不定形の塊状であってもよく、特定形状の粒子状であってもよい。固体電解質は、後に詳述する固体電解質層60の説明において例示される固体電解質の中から適宜選択される。正極活物質層42に含まれる固体電解質は、固体電解質層60に含まれる固体電解質と同じ種類のものであってもよく、異なる種類のものであってもよい。正極活物質層42における固体電解質の含有量は、好ましくは5質量%以上90質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上80質量%以下であり、さらに好ましくは15質量%以上70質量%以下である。正極活物質層42における固体電解質の含有量が上記範囲であることによって、当該蓄電素子が比較的大きい電気容量を有することができる。なお、正極活物質層42は、異なる複数種の固体電解質を含んでもよい。
【0035】
本実施形態の正極活物質層42は、添加剤を含む。斯かる添加剤は、炭化水素基とエーテル結合とが交互に繰り返された第1構造単位と、炭化水素基とエステル結合とが交互に繰り返された第2構造単位とを含有する。なお、斯かる添加剤は、正極活物質層42及び負極活物質層52(後に詳述)のうち少なくとも一方に含まれている。
【0036】
添加剤は、例えば、上記の第1構造単位及び上記の第2構造単位の両方を分子中に有するコポリマーを含んでもよく、上記の第1構造単位を分子中に有するポリマーと上記の第2構造単位を分子中に有するポリマーとの混合物であるポリマーブレンドを含んでもよい。また、添加剤は、例えば、上記の第1構造単位を分子中に有するポリマーと上記の第2構造単位を分子中に有するポリマーとが各々の分子間に相互侵入して三次元網目(Interpenetrating Polymer Network;IPN)構造を形成しているポリマーブレンドを含んでもよい。
【0037】
上記の第1構造単位は、各炭化水素基が2つのエーテル結合の間に配置された分子構造を有する。換言すると、上記の第1構造単位は、1つのエーテル結合に2つの炭化水素基が結合している分子構造を有する。上記の第1構造単位中の炭化水素基は、飽和炭化水素基であってもよく、不飽和炭化水素基であってもよい。また、斯かる炭化水素基は、直鎖状炭化水素基であってもよく、分岐鎖状炭化水素基であってもよく、又は、芳香族若しくは脂環族の環状炭化水素基であってもよい。また、斯かる各炭化水素基の炭素数は、1以上4以下であってもよい。
上記の第1構造単位中の各炭化水素基は、炭素数2又は3の飽和鎖状炭化水素基であることが好ましい。上記の第1構造単位中の飽和鎖状炭化水素基は、飽和直鎖状炭化水素基であってもよく、飽和分岐鎖状炭化水素基であってもよいが、飽和直鎖状炭化水素基であることが好ましい。
【0038】
上記の第2構造単位では、各炭化水素基が2つのエステル結合の間に配置された分子構造を有する。換言すると、上記の第2構造単位は、1つのエステル結合に2つの炭化水素基が結合している分子構造を有する。上記の第2構造単位中の炭化水素基は、飽和炭化水素基であってもよく、不飽和炭化水素基であってもよい。また、斯かる炭化水素基は、直鎖状炭化水素基であってもよく、分岐鎖状炭化水素基であってもよく、又は、芳香族若しくは脂環族の環状炭化水素基であってもよい。
【0039】
本実施形態では、上記の第2構造単位中の各炭化水素基の炭素数は、上記の第1構造単位中の各炭化水素基の炭素数よりも多い。また、上記の第2構造単位中の各炭化水素基の炭素数は、4以上であってもよく、5以上であってもよく、6以上であってもよく、7以上であってもよく、8以上であってもよい。なお、斯かる各炭化水素基の炭素数は、20以下であってもよく、18以下であってもよい。
上記の第2構造単位中の各炭化水素基は、炭素数1以上20以下の飽和鎖状炭化水素基であることが好ましく、炭素数8以上20以下の飽和鎖状炭化水素基であることがより好ましい。上記の第2構造単位中の飽和鎖状炭化水素基は、飽和直鎖状炭化水素基であってもよく、飽和分岐鎖状炭化水素基であってもよいが、飽和分岐鎖状炭化水素基であることが好ましい。
【0040】
添加剤は、上記の第1構造単位と上記の第2構造単位とを分子中に有するコポリマーを含有することが好ましい。この種のコポリマーとしては、第1構造単位が主鎖に沿って配列され且つ側鎖に第2構造単位が配置されたコポリマー、第2構造単位が主鎖に沿って配列され且つ側鎖に第1構造単位が配置されたコポリマー、又は、第1構造単位と第2構造単位とが主鎖に沿って配列されたブロックコポリマーなどが挙げられる。
【0041】
上記のコポリマーの主鎖は、エステル結合及びエーテル結合のうち少なくとも一方と炭化水素基とが交互に繰り返される構造単位を含有する分子鎖である。上記のコポリマーの主鎖において、エステル結合とエステル結合との間に炭化水素基が配置されていてもよく、エーテル結合とエーテル結合との間に炭化水素基が配置されていてもよい。
原則として、エステル結合及び炭化水素基が交互に繰り返される共有結合の連続、又は、エーテル結合及び炭化水素基が交互に繰り返される共有結合の連続を上記コポリマーの主鎖と設定する。ただし、主鎖となり得る共有結合の連続がコポリマーの分子中で互いに離れて少なくとも2ヶ所に存在する場合、さらには、上記のごとく設定した主鎖が側鎖を介して別の主鎖と架橋している場合など、主鎖が必ずしも1つに決められない場合は、モノマー等からコポリマーを合成するときに生じた共有結合の連続を主鎖と設定する。
【0042】
添加剤は、第1構造単位と第2構造単位とが分子中で主鎖に沿って配列されているブロックコポリマーを含有することが好ましい。この種のブロックコポリマーは、分子中における第1構造単位と第2構造単位との結合回数が2のトリブロックコポリマーであってもよく、分子中における第1構造単位と第2構造単位との結合回数が3のテトラブロックコポリマーであってもよい。
添加剤が上記のごときブロックコポリマーを含有することによって、正極活物質層42の電荷移動抵抗をより低くすることができる。
【0043】
上記のブロックコポリマーは、主鎖に沿って、第1構造単位の両側にそれぞれ第2構造単位が配列されているトリブロックコポリマーであってもよく、第2構造単位の両側にそれぞれ第1構造単位が配列されているトリブロックコポリマーであってもよい。
【0044】
添加剤に含有されるポリマーは、下記一般式(1)で表されるコポリマーであることが好ましい。詳しくは、添加剤に含有されるポリマーは、下記一般式(1)で表されるように、主鎖に沿って、第1構造単位の両側にそれぞれ第2構造単位が配列されているトリブロックコポリマーであることが好ましい。ただし、一般式(1)において、R1は、炭素数1以上4以下の飽和炭化水素基であり、R2’及びR2”は、それぞれ独立して炭素数1以上20以下の飽和炭化水素基であり、A及びBは、それぞれ独立して、アルキル基、水素、又はその他の1価の特性基であり、m、n1及びn2は、それぞれ独立して、正の整数であり、n1及びn2の合計に対するmの比は、0.8以上8.0以下である。本実施形態では、R2’及びR2”の各炭素数は、R1の炭素数よりも多いことが好ましい。
【化2】
【0045】
上記の一般式(1)において、R1は、好ましくは炭素数2又は3の飽和炭化水素基である。R2’及びR2”は、それぞれ独立して、好ましくは炭素数4以上20以下の飽和分岐鎖状炭化水素基、より好ましくは炭素数5以上20以下の飽和分岐鎖状炭化水素基、さらに好ましくは炭素数6以上20以下の飽和分岐鎖状炭化水素基、よりさらに好ましくは炭素数7以上20以下の飽和分岐鎖状炭化水素基、特に好ましくは炭素数8以上20以下の飽和分岐鎖状炭化水素基である。A及びBは、好ましくは、それぞれ独立して、アルキル基、又は水素である。n1及びn2の合計に対するmの比は、好ましくは、1.0以上5.0以下である。
これにより、正極活物質層42の電荷移動抵抗をより低くすることができる。
【0046】
上記の一般式(1)などで表されるブロックコポリマーは、例えば、ポリオキシアルキレングリコールと、モノヒドロキシ脂肪酸とのエステル化反応によって合成される。
【0047】
上記の一般式(1)で表されるトリブロックコポリマーは、下記一般式(2)で表されるトリブロックコポリマーであることが好ましい。一般式(2)において、A及びB、並びに、n1及びn2の合計に対するmの比は、それぞれ上述した通りである。
【化3】
【0048】
添加剤は、前記第1構造単位と前記第2構造単位とを分子中に有するノニオン性のコポリマーを含有することが好ましい。例えば、上記の一般式(1)又は一般式(2)において、A及びBがそれぞれ独立してアルキル基又は水素である場合、上記の一般式(1)又は一般式(2)で表されるコポリマーは、ノニオン性となる。
添加剤に含まれる上記のコポリマーは、ノニオン性であることにより、有機溶媒に溶解しやすくなる。ここで、正極活物質層42は、正極活物質、上記の添加剤、任意成分及び分散溶媒を含む正極合剤ペーストの塗布物が乾燥処理されたものであってもよい。有機溶媒は、正極活物質層42を作製するための上記の正極合剤ペーストに配合され得る。有機溶媒を含む正極合剤ペーストでは、ノニオン性のコポリマーが溶解しやすいため、このような正極合剤ペーストから作製された正極活物質層42では、含まれるコポリマーの不均一な分布がより抑制される。なお、後に詳述する固体電解質は、水によって劣化し得ることから、有機溶媒中に分散させる場合がある。そのため、固体電解質を含む正極活物質層42の作製時に、有機溶媒を含む正極合剤ペーストにノニオン性のコポリマーが配合されることで、含まれるノニオン性のコポリマーの分布が均一に近い正極活物質層42を作製することができる。
【0049】
上記のコポリマー(上記のブロックコポリマーを含む)の数平均分子量(Mn)は、2,000以上20,000以下であることが好ましく、3,000以上であることがより好ましい。また、10,000以下であることがより好ましく、7,000以下であることがより好ましい。上記のコポリマーの数平均分子量が2,000以上20,000以下であることによって、正極活物質層42の電荷移動抵抗をより低くすることができる。
【0050】
上記の数平均分子量(Mn)は、下記の測定条件でゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法によって測定される。
検出器: 示差屈折率(RI)
カラム温度:40℃
流速:0.8mL/min.
カラム: 30×300mmのPLgel 100A、1000A、及び10,000Aを直列に連結
検量線:標準ポリスチレン(150-450,000 Da)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)(ただし1質量%濃度のトリエチルアミン(TEA)含有)
【0051】
正極活物質層42は、添加剤(上記のブロックコポリマーを含む)を、正極活物質100質量部に対して0.01質量部以上含むことが好ましく、0.05質量部以上含むことがより好ましい。上記の添加剤の含有量が上記の量であることによって、正極活物質層42の電荷移動抵抗をより低くすることができる。
正極活物質層42は、添加剤(上記のブロックコポリマーを含む)を、正極活物質100質量部に対して10質量部以下含むことが好ましく、5質量部以下含むことがより好ましい。上記の添加剤の含有量が上記の量であることによって、正極活物質層42の電荷移動抵抗をより低くすることができる。
【0052】
本実施形態の正極活物質層42に含まれるバインダーとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー(ゴム系バインダー);多糖類高分子等が挙げられる。正極活物質層42では、バインダーを介して、少なくとも正極活物質及び固体電解質の粒子(塊)が互いに結着している。
【0053】
正極活物質層42におけるバインダーの含有量は、好ましくは0.01質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上7.0質量%以下である。バインダーの含有量が上記の範囲であることで、正極活物質及び固体電解質を安定して保持することができる。
【0054】
正極活物質層42は、上記の添加剤とバインダーとを含むことが好ましい。これにより、正極活物質層42において正極活物質及び固体電解質を安定して保持しつつ、正極活物質層42の電荷移動抵抗を低くすることができる。なお、上記の添加剤を含む正極活物質層42は、バインダーを含まない場合よりもバインダーを含む場合の方が、上記の添加剤の含有による電荷移動抵抗の低下効果がより確実に発揮される。
【0055】
本実施形態の正極活物質層42に含まれ得る導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛、非黒鉛質炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、カーボンファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状は、粒状又は繊維状等であってもよい。導電剤のうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、上記の材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。
【0056】
正極活物質層42が導電剤を含む場合、正極活物質層42における導電剤の含有量は、好ましくは1質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは3質量%以上9質量%以下である。導電剤の含有量が上記の範囲であることで、二次電池のエネルギー密度を高めることができる。
【0057】
正極活物質層42が増粘剤を含む場合、増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0058】
(負極)
負極50は、負極基材51と、当該負極基材51に直接又は所定の層などを介して重なる負極活物質層52とを有する。本実施形態では、負極50において負極基材51と負極活物質層52とが直接重なり合っている。また、本実施形態では、負極基材51の片面(一方の面)に負極活物質層52が重ねられている。
【0059】
負極基材51は、導電性を有する。負極基材51の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でもステンレス鋼、ニッケル若しくはニッケル合金又は銅若しくは銅合金が好ましい。負極基材51としては、金属箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの観点から金属箔が好ましい。負極基材51としては、例えば、ステンレス箔、ニッケル箔若しくはニッケル合金箔、又は、銅箔若しくは銅合金箔が挙げられる。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0060】
負極基材51の平均厚さは、1μm以上50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましく、15μm以下がさらに好ましい。負極基材51の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材51の強度を高めつつ、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0061】
負極活物質層52は、負極活物質と、固体電解質(後に詳述)とを含む。本実施形態において、負極活物質層52は、上記の添加剤をさらに含む。負極活物質層52は、バインダーをさらに含むことが好ましい。負極活物質層52は、必要に応じて導電剤、増粘剤等の任意成分を含む。バインダー及び添加剤は、それぞれ、上記正極40で例示された材料から選択できる。導電剤、増粘剤等の任意成分は、上記正極40で例示された材料から選択できる。バインダーを含む負極活物質層52では、バインダーを介して、少なくとも負極活物質及び固体電解質の粒子(塊)が互いに結着している。
【0062】
負極活物質層52は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba、等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を負極活物質、固体電解質、添加剤、導電剤、バインダー、増粘剤以外の成分として含有してもよい。
【0063】
負極活物質としては、公知の負極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。負極活物質としては、例えば、金属Li;Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;Li4Ti5O12、LiTiO2、TiNb2O7等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。これらの材料の中でも、黒鉛及び非黒鉛質炭素が好ましい。負極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0064】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、X線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。安定した物性の材料を入手できるという観点で、人造黒鉛が好ましい。
【0065】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電状態においてX線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチまたは石油ピッチ由来の材料、石油コークスまたは石油コークス由来の材料、植物由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。
【0066】
ここで、「放電状態」とは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されるように放電された状態を意味する。例えば、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属Liを対極として用いた単極電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態である。
【0067】
「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。
【0068】
「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。
【0069】
負極活物質は、通常、粒子(粉体)である。負極活物質の平均粒子径は、例えば、1nm以上100μm以下とすることができる。負極活物質が炭素材料、チタン含有酸化物又はポリリン酸化合物である場合、その平均粒子径は、1μm以上100μm以下であってもよい。負極活物質が、Si、Sn、Si酸化物、又は、Sn酸化物等である場合、その平均粒子径は、1nm以上1μm以下であってもよい。負極活物質の平均粒子径を上記下限以上とすることで、負極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。負極活物質の平均粒子径を上記上限以下とすることで、活物質層の電子伝導性が向上する。粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法及び粉級方法は、例えば、上記正極で例示した方法から選択できる。負極活物質が金属Li等の金属である場合、負極活物質は、箔状であってもよい。この場合、負極活物質層52は負極活物質のみからなっていてもよい。
【0070】
負極活物質層52における負極活物質の含有量は、好ましくは10質量%以上95質量%以下であり、より好ましくは20質量%以上90質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以上80質量%以下である。負極活物質の含有量が上記の範囲であることで、負極活物質層52の高エネルギー密度化と、負極活物質層52の比較的簡便な製造とを両立できる。なお、負極活物質が金属Li等の金属である場合、負極活物質層52における負極活物質の含有量は、100質量%であってもよい。
【0071】
負極活物質層52が含む固体電解質は、後に詳述する固体電解質層60の説明において例示される固体電解質の中から適宜選択できる。固体電解質は、例えば、不定形の塊状であってもよく、特定形状の粒子状であってもよい。負極活物質層52に含まれる固体電解質は、固体電解質層60に含まれる固体電解質と同じ種類のものであってもよく、異なる種類のものであってもよい。負極活物質層52における固体電解質の含有量は、好ましくは5質量%以上90質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上80質量%以下であり、さらに好ましくは15質量%以上70質量%以下である。負極活物質層52における固体電解質の含有量が上記範囲であることによって、当該蓄電素子が比較的大きい電気容量を有することができる。なお、負極活物質層52は、異なる複数種の固体電解質を含んでもよい。
【0072】
負極活物質層52は、添加剤(上記のブロックコポリマーを含む)を、負極活物質100質量部に対して0.01質量部以上含むことが好ましく、0.05質量部以上含むことがより好ましい。上記の添加剤の含有量が上記の量であることによって、負極活物質層52の電荷移動抵抗をより低くすることができる。
負極活物質層52は、添加剤(上記のブロックコポリマーを含む)を、負極活物質100質量部に対して10質量部以下含むことが好ましく、5質量部以下含むことがより好ましい。上記のポリマーの配合量が上記の量であることによって、負極活物質層52の電荷移動抵抗をより低くすることができる。
【0073】
上述した正極活物質層42と同様に、負極活物質層52は、負極活物質、上記の添加剤、任意成分、及び有機溶媒を含む負極合剤ペーストの塗布物が乾燥処理されたものであってもよい。
【0074】
本実施形態の電極体2では、固体電解質層60を介して正極活物質層42及び負極活物質層52が向き合っている。電極体2を積層方向(厚さ方向)の一方から見たときに、負極活物質層52の面積が、正極活物質層42の面積よりも大きくてもよい。換言すると、負極活物質層52の周縁部の少なくとも一部は、厚さ方向において正極活物質層42と対向していなくてもよい。なお、電極体2における正極40及び負極50の活物質層のうちの少なくとも一方が上記の添加剤を含んでいればよい。
【0075】
(固体電解質層)
本実施形態の電極体2において、固体電解質を含み且つ活物質を含まない固体電解質層60が、正極40と負極50との間に配置されている。固体電解質層60の厚さは、5μm以上200μm以下であってもよく、10μm以上100μm以下であってもよい。
【0076】
固体電解質層60は、特定形状の粒子状、又は、不定形状の塊状の固体電解質を含み、上記正極40で例示されたバインダーをさらに含んでもよい。
【0077】
上記の固体電解質は、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等のイオンを伝導するイオン伝導性材料であり、且つ、1気圧25℃の窒素雰囲気下においても固体状を保つ化合物である。上記の固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、硫化物固体電解質以外の他の固体電解質などが挙げられる。
【0078】
固体電解質層60に含まれる固体電解質としては、硫化物固体電解質が好ましい。また、固体電解質層60に含まれる固体電解質と、正極活物質層42及び負極活物質層52に含まれる固体電解質とは、同じであってもよく、それぞれ異なっていてもよいが、好ましくは、いずれも硫化物固体電解質である。固体電解質が硫化物固体電解質であることによって、固体電解質層のリチウム等のイオンの伝導度をより高くできるという利点がある。また、硫化物固体電解質の粒子は、より変形しやすいことから、固体電解質の粒子同士及び固体電解質と活物質との接触面積が、より大きくなり得る。よって、固体電解質と活物質との間における界面抵抗をより低くすることができるという利点がある。
【0079】
硫化物固体電解質は、硫黄元素を必須成分として含み、1気圧25℃の窒素雰囲気下においても固体状を保つ化合物である。硫化物固体電解質としては、リチウムイオン二次電池で用いられる場合、例えば、Li2S-P2S5、Li2S-GeS2、LiI-Li2S-P2S5、Li10Ge-P2S12、Li6PS5X(X=Cl、Br、I)等が挙げられる。ここで、Li10Ge-P2S12は、LGPS型と称され、Li6PS5Xは、アルジロダイト型と称される。
【0080】
固体電解質層60などに含まれ得る他の固体電解質としては、酸化物固体電解質、又は、酸窒化物固体電解質などが挙げられる。なお、固体電解質層60などは、上記の硫化物固体電解質又は酸化物固体電解質といった無機固体電解質を含み、さらにポリマー固体電解質を含んでもよい。
【0081】
酸化物固体電解質は、酸素を必須成分として含み、1気圧25℃の窒素雰囲気下においても固体状を保つ化合物である。酸化物固体電解質としては、例えば、ペロブスカイト型酸化物、NASICON型酸化物、LISICON型酸化物、ガーネット型酸化物等が挙げられる。
ペロブスカイト型酸化物としては、例えば、LixLa1-xTiO3等で表される酸化物(Li-La-Ti-O系ペロブスカイト型酸化物)等が挙げられる。斯かる酸化物としては、例えば、Li0.29La0.57TiO3、Li0.35La0.55TiO3等が挙げられる。
NASICON型酸化物としては、例えば、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3等が挙げられる。
LISICON型酸化物としては、例えば、Li4SiO4-Li3PO4、Li3BO3-Li3PO4等が挙げられる。
ガーネット型酸化物としては、例えば、Li7La3Zr2O12等のLi-La-Zr-O系酸化物等が挙げられる。
【0082】
酸窒化物固体電解質としては、例えば、Li3N等が挙げられる。
【0083】
ポリマー固体電解質としては、イオン伝導性ポリマーが挙げられる。斯かるイオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリアミン系、又は、ポリスルフィド系の各ポリマーの化学修飾体及び架橋体などが挙げられる。
【0084】
電極体2の正極活物質層42、負極活物質層52、固体電解質層60において、固体電解質のうち硫化物固体電解質が占める割合は、95質量%以上であってもよい。
【0085】
なお、固体電解質層60は、溶媒と固体電解質の粒子とを含む固体電解質層用ペーストの塗布物(活物質は含まない)が乾燥処理されたものであってもよい。
【0086】
<全固体型蓄電素子の製造方法>
本実施形態の蓄電素子の製造方法は、例えば、電極体を作製すること(工程)と、電極体を容器3に収容して蓄電素子を組み立てること(工程)と、を備える。
【0087】
電極体を作製すること(工程)は、例えば、正極合剤ペースト、負極合剤ペースト、及び固体電解質層用ペーストをそれぞれ調製することと、正極合剤ペーストの塗布物から正極活物質層を作製することと、負極合剤ペーストの塗布物から負極活物質層を作製することと、固体電解質層用ペーストの塗布物から固体電解質層を作製することと、を備える。
【0088】
(各ペーストの調製)
正極合剤ペーストは、正極活物質の粒子と固体電解質の粒子と溶媒とを少なくとも含み、負極合剤ペーストは、負極活物質の粒子と固体電解質の粒子と溶媒とを少なくとも含み、固体電解質層用ペーストは、固体電解質の粒子と溶媒とを少なくとも含む。
正極合剤ペースト及び負極合剤ペーストのうち少なくとも一方は、上記の添加剤をさらに含む。さらに、正極合剤ペースト及び負極合剤ペーストのうち少なくとも一方は、好ましくはバインダーを含む。
【0089】
上記の溶媒は、特に限定されず、例えば、有機溶媒であってもよく、水であってもよい。上記の溶媒としては、例えば、採用する固体電解質を劣化させない溶媒を適宜選択できる。固体電解質は、水によって劣化し得ることから、上記の溶媒は、有機溶媒であってもよい。
【0090】
(正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層の作製)
前記正極活物質層を作製すること(工程)において、正極合剤ペーストの塗布物から溶媒を揮発させる乾燥処理を前記塗布物に施し、さらにプレス処理を施す。
前記負極活物質層を作製すること(工程)、及び、固体電解質層を作製すること(工程)も、同様にして実施できる。
【0091】
・正極活物質層の作製
正極基材41として、例えば上述したような金属箔又は合金箔を用意する。
図4に示すように、下記の操作を実施して正極活物質層42を作製できる。
(I)正極基材41の金属箔又は合金箔に、正極合剤ペースト(PTと表示)を塗布する。これにより、正極基材41に塗布物が重ねられる。塗布方法(塗工方法)としては、従来の一般的な方法を採用できる。
(II)塗布された正極合剤ペーストに含まれる溶媒を揮発させる乾燥処理を塗布物に施す。例えば、加熱処理によって塗布物から溶媒を揮発させて除去する。加熱処理時の設定温度は、例えば40℃以上150℃以下であってもよい。加熱処理は、減圧下で実施してもよい。
(III)溶媒が揮発した後の塗布物(正極活物質層42)にプレス処理を施す(破線矢印で表示)。必要に応じて、加熱しつつプレス処理を実施する。
(IV)プレス処理された正極活物質層42が形成される。
【0092】
・固体電解質層の作製
図5に示すように、下記の操作を実施して固体電解質層60を作製できる。
(i)正極活物質層42に、固体電解質層用ペースト(PT’と表示)を塗布する。これにより、正極活物質層42に塗布物が重ねられる。塗布方法(塗工方法)としては、従来の一般的な方法を採用できる。
(ii)塗布された固体電解質層用ペーストに含まれる溶媒を揮発させる乾燥処理を塗布物に施す。例えば、加熱処理によって塗布物から溶媒を揮発させて除去する。加熱処理時の設定温度は、例えば正極活物質層42の作製時に採用される温度範囲であってもよい。
(iii)溶媒が揮発した後の塗布物(固体電解質層60)にプレス処理を施す(破線矢印で表示)。必要に応じて、加熱しつつプレス処理を実施する。
(iv)プレス処理された固体電解質層60が形成される。
【0093】
・負極活物質層の作製
図示しないが、上述した正極活物質層の作製、又は、固体電解質層の作製と同様の方法によって、負極活物質層52を作製できる。
【0094】
電極体を作製する工程では、上記のごとき正極活物質層42、固体電解質層60、及び負極活物質層52の積層体を作製した後に、さらに負極基材51を重ね、厚さ方向の両側からプレス処理を施すことによって、電極体2を作製できる。
なお、電極体を作製する工程では、正極基材41に正極活物質層42を重ねた正極40を作製することと、負極基材51に負極活物質層52を重ねた負極50と固体電解質層60との積層体を作製することとをそれぞれ実施した後、この積層体と正極40とを重ね合わせ、さらに、厚さ方向の両側からプレス処理を施すことによって、電極体2を作製してもよい。
【0095】
(蓄電素子を組み立てる工程)
斯かる工程では、作製した電極体2を容器3に収容し、電極体2の正極40及び負極50と、蓄電素子1の外部端子とが電気的にそれぞれ接続されるように蓄電素子1を組み立てる。蓄電素子を組み立てる方法としては、一般的な方法を採用できる。
【0096】
以上のようにして、本実施形態の蓄電素子1を製造することができる。
【0097】
<蓄電装置の構成>
本実施形態の蓄電素子1は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の蓄電素子1を集合して構成した蓄電装置100(バッテリーモジュール)として搭載することができる。この場合、蓄電装置100に含まれる少なくとも一つの蓄電素子1に対して、本発明の技術が適用されていればよい。
図6に、電気的に接続された二以上の蓄電素子1が集合した蓄電ユニット10をさらに集合した蓄電装置100の一例を示す。蓄電装置100は、二以上の蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット10を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット10又は蓄電装置100は、一以上の蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0098】
<その他の実施形態>
尚、本発明の蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0099】
上記実施形態では、蓄電素子1が充放電可能な全固体型二次電池(例えば全固体型リチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、蓄電素子の種類、形状、寸法、容量等は任意である。
【0100】
上記実施形態では、正極基材41の片面に正極活物質層42が重ねられた正極40、及び、負極基材51の片面に負極活物質層52が重ねられた負極50について説明したが、正極では、正極基材41の両面に正極活物質層がそれぞれ重ねられてもよく、また、負極では、負極基材の両面に負極活物質層がそれぞれ重ねられてもよい。
【0101】
上記実施形態の蓄電素子1では、電極体2における正極活物質層42又は負極活物質層52に含まれる添加剤が、上述したように炭化水素基とエーテル結合とが交互に繰り返された第1構造単位と、炭化水素基とエステル結合とが交互に繰り返された第2構造単位とを含有する。第1構造単位中のエーテル結合は、酸素原子の孤立電子対が極性を有することから、極性材料である活物質又は固体電解質に吸着しやすい性質を有する。また、特に第2構造単位中の炭化水素基は、比較的炭素数の多い疎水性の炭化水素鎖を有することから、疎水性材料であるバインダーに吸着しやすい性質を有する。
上記の第1構造単位及び第2構造単位を分子中に有するコポリマーは、第1構造単位中のエーテル結合の部分で、活物質又は固体電解質に吸着すると考えられる。活物質又は固体電解質に吸着したコポリマーは、立体障害効果によって、活物質又は固体電解質にバインダーが吸着することを妨げると考えられる。これにより、活物質又は固体電解質の粒子の表面がバインダーで過剰に覆われることが抑制される。よって、活物質と固体電解質とがバインダーを介さずに接触する界面が増えると考えられる。このような現象によって、活物質層の電荷移動抵抗が低くなると考えられる。
なお、上記の第1構造単位及び第2構造単位を分子中に有するコポリマーは、ブロックコポリマーであることが好ましい。ランダムコポリマーは、ランダムコイル構造になりやすいが、ブロックコポリマーは、立体配座がある程度制御されている。よって、上記ブロックコポリマーにおいて、エーテル構造が繰り返される第1構造単位と、第1構造単位の炭化水素基よりも炭素数の多い炭化水素基を含む第2構造単位とは、それぞれ十分な繰り返し数を伴ったものとなり得る。従って、上記第1構造単位と上記第2構造単位とが、互いに十分に離れるように配置され得る。これにより、上記の第1構造単位による作用と、上記の第2構造単位による作用とが、それぞれ互いに独立して発揮されやすく、一方の作用が他方の作用を妨害しにくい。詳しくは、上記の第1構造単位のエーテル結合の部分が活物質又は固体電解質に吸着するという作用と、上記の第2構造単位の炭化水素基の部分によって活物質又は固体電解質へのバインダーの吸着を妨げるという作用とが、それぞれ効果的に発揮されやすくなる。上記ブロックコポリマーによって、このような効果をより確実に発揮できることから、上記のごとく活物質層の電荷移動抵抗をより低くできる。
【0102】
上記実施形態の蓄電素子1は、全固体型蓄電素子であることが好ましい。すなわち、上記実施形態の蓄電素子1は、正極活物質層42、負極活物質層52、及び固体電解質層60に、電解液を含まないことが好ましい。
【0103】
なお、上記実施形態では、蓄電素子のうち全固体型蓄電素子について詳しく説明したが、本発明の蓄電素子は、全固体型蓄電素子に限定されない。本発明の蓄電素子を構成する正極活物質層、負極活物質層、及び固体電解質層は、電解液を実質的に含まないことが好ましいが、電解液を含んでいてもよい。電解液としては、公知の電解液の中から適宜選択できる。本発明の蓄電素子がリチウムイオン二次電池である場合、例えば、電解液としては、環状カーボネート及び鎖状カーボネートを混合した溶媒にLiPF6を電解質塩として溶解させたものを用いることができる。
【実施例0104】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0105】
まず、以下のようにして、添加剤用の各ブロックコポリマーを合成した。これらブロックコポリマーは、いずれも上記の一般式(2)の分子構造を有する。
【0106】
(合成例1:添加剤用のブロックコポリマー1の合成)
蒸留器と混合撹拌機とを備えたフラスコに73gのポリエチレングリコール600(PEG600)を充填した。窒素雰囲気下で撹拌しながら85~90℃に加熱した。450gの12-ヒドロキシステアリン酸をフラスコ内に添加し、さらに、1.4gのオルトチタン酸テトラブチル(TBT)を触媒として添加した。酸価の値を確認しながらフラスコ内の温度が222℃となるように加熱した。酸価の値が10mgOH/g以下となった時点で加熱を終了し、ブロックコポリマー1を合成した。得られたブロックコポリマー1の数平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。数平均分子量は3,400であった。なお、GPCの測定条件は、上述した通りである(以下、同様)。
【0107】
(合成例2:添加剤用のブロックコポリマー2の合成)
ポリエチレングリコール600に代えて、219gのポリエチレングリコール1500(PEG1500)を使用したこと以外、実施例1と同様にしてブロックコポリマー2を合成した。得られたブロックコポリマー2の数平均分子量は4,900であった。
【0108】
(合成例3:添加剤用のブロックコポリマー3の合成)
ポリエチレングリコール600に代えて、91gのポリエチレングリコール1500(PEG1500)及び202gのポリエチレングリコール4000(PEG4000)を使用したこと以外、実施例1と同様にしてブロックコポリマー3を合成した。得られたブロックコポリマー3の数平均分子量は6,400であった。
【0109】
また、参考化合物として、以下の分子構造をそれぞれ有する市販品の参考化合物1~3を購入した。
・参考化合物1:Tween20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)
・参考化合物2:Span20(ソルビタンモノラウレート)
・参考化合物3:モノステアリン酸ポリエチレングリコール(オキシレン付加モル数9から13)
【0110】
次に、上記のごとく合成した各ブロックコポリマー又は上記の各参考化合物を添加剤として用いて、蓄電素子(全固体型リチウムイオン二次電池のハーフセル)を製造した。製造した蓄電素子を全固体型二次電池とも称する。
【0111】
(実施例1)
<正極合剤ペーストの調製>
粒子状の正極活物質(α―NaFeO2型結晶構造を有し、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2で表されるリチウム遷移金属複合酸化物)と、粒子状の硫化物固体電解質(アルジロダイト型構造を有し、リチウム、リン、硫黄、塩素の各元素を含む)と、導電剤(カーボンファイバー)と、ゴム系バインダーと、セルロース系増粘剤と、有機溶媒(テトラリンとアニソールの混合溶媒)と、添加剤(合成例1のブロックコポリマー1)とを混合することによって、正極合剤ペーストを調製した。なお、正極活物質100質量部に対して添加剤(合成例1のブロックコポリマー1)が0.5質量部の量となるように、添加剤(合成例1のブロックコポリマー1)を混合した。
【0112】
<正極の作製>
正極基材(片面側にあらかじめカーボンコート層を設けた厚さ20μmのアルミニウム箔)の上記カーボンコート層側に、上記の正極合剤ペーストを塗布し、さらに乾燥処理を施すことで、正極合剤ペーストから有機溶媒を揮発させて除去した。このようにして、正極基材上に厚さ60μmの正極活物質層が形成された正極を作製した。
【0113】
<全固体二次電池の作製>
上記の厚さ60μmの正極活物質層と、厚さ20μmのアルミニウム正極基材とを備える正極を所定のサイズに厚さ方向に打ち抜いた。
マコール管の一方側から固体電解質を内部に投入し、ステンレス鋼製治具を用いて100MPaでプレスして、厚さ800μmの固体電解質層を形成した。その後、上記の正極を、マコール管に挿入し、580MPaでプレスした。これにより、正極の正極活物質層と固体電解質層とを、マコール管の内部で接合させた。
続いて、リチウム-インジウム対極をマコール管の他方側から挿入した。これにより、挿入したリチウム-インジウム対極と、マコール管内部の上記の正極とを、上記の固体電解質層を介して対向させた。そして、マコール管の内部において、上記の正極と上記の固体電解質層と上記の対極とをステンレス鋼製治具によって挟み込んだ。その後、両側のステンレス鋼製治具をボルトで締結し、両側のステンレス鋼製治具に外部端子としてリードを接続し、実施例1の蓄電素子(全固体型二次電池)を製造した。
【0114】
(実施例2、3)
合成例1のブロックコポリマー1に代えて、それぞれ合成例2又は合成例3のブロックコポリマー2又は3を添加剤としてそれぞれ正極合剤ペーストに混合した点以外は、実施例1と同様にして、実施例2及び3の各蓄電素子(全固体型二次電池)を製造した。
【0115】
(比較例1)
添加剤を正極合剤ペーストに混合しなかった点以外は、実施例1と同様にして比較例1の蓄電素子(全固体型二次電池)を製造した。
【0116】
(比較例2)
合成例1のブロックコポリマー1に代えて、添加剤として上記の参考化合物1を正極合剤ペーストに混合した点以外は、実施例1と同様にして比較例2の蓄電素子(全固体型二次電池)を製造した。
【0117】
(比較例3)
合成例1のブロックコポリマー1に代えて、添加剤として上記の参考化合物2を正極合剤ペーストに混合した点以外は、実施例1と同様にして比較例3の蓄電素子(全固体型二次電池)を製造した。
【0118】
(比較例4)
合成例1のブロックコポリマーに代えて、添加剤として上記の参考化合物3を正極合剤ペーストに混合した点以外は、実施例1と同様にして比較例4の蓄電素子(全固体型二次電池)を製造した。
【0119】
<性能評価>
(正極活物質層の電荷移動抵抗)
上記の各蓄電素子について、3サイクルの充放電を行った。ここで、充電は、充電電流0.1C、充電終止電圧3.63Vの定電流充電とし、放電は、放電電流0.1C、放電終止電圧2.38Vの定電流放電とした。充電と放電の間及び放電と充電の間には、それぞれ10分間の休止過程を設けた。次いで、上記と同じ条件で定電流充電を行うことにより、SOC100%とした。25℃におけるACインピーダンス測定(電流振幅10mV、周波数範囲1MHz-0.1mHz)によって得られたCole-Coleプロットから、電荷移動反応に相当する円弧の実軸抵抗Re(Z’)の値を読み取り、正極活物質層の電荷移動抵抗(Ω)として記録した。そして、比較例1の正極活物質層の電荷移動抵抗を100として、各実施例及び各比較例の正極活物質層の電荷移動抵抗の相対値を求めた。その結果を表1に示す。
【0120】
【0121】
表1から把握されるように、実施例1から3の蓄電素子では、正極活物質層の電荷移動抵抗が低かった。一方、比較例1から4の蓄電素子では、正極活物質層の電荷移動抵抗が必ずしも低くなかった。
【0122】
(実施例4)
<負極合剤ペーストの調製>
粒子状の負極活物質(黒鉛)と、粒子状の硫化物固体電解質(アルジロダイト型構造を有し、リチウム、リン、硫黄、塩素の各元素を含む)と、導電剤(カーボンファイバー)と、ゴム系バインダーと、セルロース系増粘剤と、有機溶媒(テトラリンとアニソールの混合溶媒)と、添加剤(合成例1のブロックコポリマー1)とを混合することによって、負極合剤ペーストを調製した。なお、負極活物質100質量部に対して添加剤(合成例1のブロックコポリマー1)が0.5質量部の量となるように、添加剤(合成例1のブロックコポリマー1)を混合した。
【0123】
<負極の作製>
負極基材(片面側にあらかじめカーボンコート層を設けた厚さ20μmのステンレス鋼製箔)の上記カーボンコート層側に、上記の負極合剤ペーストを塗布し、さらに乾燥処理を施すことで、負極合剤ペーストから有機溶媒を揮発させて除去した。このようにして、負極基材上に厚さ60μmの負極活物質層が形成された負極を作製した。
【0124】
<全固体二次電池の作製>
上記負極を所定のサイズに打ち抜いた。
マコール管の一方側から固体電解質を内部に投入し、ステンレス鋼製治具を用いて100MPaでプレスして、厚さ800μmの固体電解質層を形成した。その後、上記の負極を、マコール管に挿入し、580MPaでプレスした。これにより、負極の負極活物質層と固体電解質層とを、マコール管の内部で接合させた。
続いて、リチウム-インジウム対極をマコール管の他方側から挿入した。これにより、挿入したリチウム-インジウム対極と、マコール管内部の上記の負極とを、上記の固体電解質層を介して対向させた。そして、マコール管の内部において、上記の負極と上記の固体電解質層と上記の対極とをステンレス鋼製治具によって挟み込んだ。その後、両側のステンレス鋼製治具をボルトで締結し、両側のステンレス鋼製治具に外部端子としてリードを接続し、実施例4の蓄電素子(全固体型二次電池)を製造した。
【0125】
(実施例5、6)
合成例1のブロックコポリマー1に代えて、それぞれ合成例2又は合成例3のブロックコポリマー2又は3を添加剤としてそれぞれ負極合剤ペーストに混合した点以外は、実施例4と同様にして、実施例5及び6の各蓄電素子(全固体型二次電池)を製造した。
【0126】
(比較例5)
添加剤を負極合剤ペーストに混合しなかった点以外は、実施例4と同様にして比較例5の蓄電素子(全固体型二次電池)を製造した。
【0127】
(比較例6から8)
合成例1のブロックコポリマー1に代えて、上記の参考化合物1から3を添加剤としてそれぞれ負極合剤ペーストに混合した点以外は、実施例4と同様にして比較例6から8の蓄電素子(全固体型二次電池)を製造した。
【0128】
<性能評価>
(負極活物質層の電荷移動抵抗)
上記の各蓄電素子について、3サイクルの充放電を行った。ここでは、負極が電気化学的に酸化される方向の通電を「放電」といい、負極が電気化学的に還元される方向の通電を「充電」という。ここで、充電は、充電電流0.1C、充電終止電圧-0.57Vの定電流充電とし、放電は、放電電流0.1C、放電終止電圧0.88Vの定電流放電とした。充電と放電の間及び放電と充電の間にはそれぞれ10分間の休止過程を設けた。次いで、3サイクル目の放電容量の50%に相当する電気量を充電電流0.1Cで充電し、SOC50%とした。25℃におけるACインピーダンス測定(電流振幅10mV、周波数範囲1MHz-0.1mHz)によって得られたCole-Coleプロットから、電荷移動反応に相当する円弧の実軸抵抗Re(Z’)の値を読み取り、負極活物質層の電荷移動抵抗(Ω)として記録した。そして、比較例5の負極活物質層の電荷移動抵抗を100として、各実施例及び各比較例の負極活物質層の電荷移動抵抗の相対値を求めた。その結果を表2に示す。
【0129】
【0130】
表2から把握されるように、実施例4から6の蓄電素子では、負極活物質層の電荷移動抵抗が低かった。一方、比較例5から8の蓄電素子では、負極活物質層の電荷移動抵抗が必ずしも低くなかった。